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特許7570035生コンクリート圧送用先行剤及び生コンクリート圧送方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】生コンクリート圧送用先行剤及び生コンクリート圧送方法
(51)【国際特許分類】
   B28C 7/16 20060101AFI20241011BHJP
【FI】
B28C7/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021210722
(22)【出願日】2021-12-24
(65)【公開番号】P2022104602
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2020219363
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520110250
【氏名又は名称】PUMP MAN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】小澤 辰矢
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-034461(JP,A)
【文献】特開2019-123793(JP,A)
【文献】特開2007-290905(JP,A)
【文献】特開2007-314725(JP,A)
【文献】特開2004-175989(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107012471(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28C 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアクリル酸ナトリウム及び塩を有効成分として含有し、
前記塩が、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムのいずれか又は複数である生コンクリート圧送用先行剤。
【請求項2】
前記ポリアクリル酸ナトリウム及び前記塩の形態が、混合粉体、若しくはその水溶液である請求項1記載の生コンクリート圧送用先行剤。
【請求項3】
ポリアクリル酸ナトリウム及び塩を有効成分として含有し、
前記塩が、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムのいずれか又は複数である溶液を、生コンクリートに先立って送液する工程を含む生コンクリート圧送方法。
【請求項4】
前記溶液中における前記ポリアクリル酸ナトリウム及び塩の含有濃度がそれぞれ0.5~50g/Lである請求項3記載の生コンクリート圧送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアクリル酸ナトリウム及び塩を有効成分として含有し、その塩が、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムのいずれか又は複数である生コンクリート圧送用先行剤、それを含有する溶液を生コンクリートに先立って圧送する工程を含む生コンクリート圧送方法などに関連する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートは、砂利・砂・水などをセメントで固めた材料であり、強度・施工の容易さなどから、建築物・ダム・橋・港湾設備など、建築・土木工事の構造材料などとして幅広く用いられている。
【0003】
コンクリート構造物の施工は、多くの場合、バッチャープラント(生コン工場)で、セメント・骨材・水などを配合し練り混ぜて生コンクリートを製造し、それをアジテータトラック(ミキサー車)で混ぜながら施工現場に輸送し、その生コンクリートをコンクリートポンプ車で型枠内に流し込み(打込み)、一定時間養生して固化させた後、型枠を撤去することで行われている。
【0004】
コンクリートポンプ車は、施工現場において生コンクリートを型枠内に流し込む際に用いる車両であり、生コンクリートを圧送するための構成として、主に、ホッパー、圧送ポンプ、配管を備える。アジテータトラックからコンクリートポンプ車などのホッパーに供給された生コンクリートは、ポンプ圧送により、長尺の配管内を流通し、型枠内に流し込まれる。
【0005】
コンクリートポンプ車などで生コンクリートを圧送する際、何の前処理も行わずに生コンクリートの圧送を開始すると、配管内全体に生コンクリートが充填される前に、配管の手前側からセメントなどのみが内壁面に先に付着していくため、配管の出口側にはコンクリート成分のうちの砂利などだけが到達するようになり、その結果、配管が砂利などで閉塞して生コンクリートが圧送できなくなる事故が生じやすい。そのため、一般的には、前処理として、生コンクリート圧送前に、予め、セメントペーストやモルタルを配管内に送っておき、配管の内壁面をセメントペーストやモルタルで被覆させておいた上で、生コンクリートを連続的に圧送することで、配管の閉塞を防止している(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかし、セメントペーストやモルタルで前処理を行う場合、配管の内壁面をそれらで被覆させるためには、比較的多量のセメントペーストなどを使用する必要があり、コストが高く作業も煩雑である。また、セメントペーストやモルタルは生コンクリートの構成成分でもあるため、それらで前処理を行うと、前処理から生コンクリート圧送までの間にも硬化反応が進行するため、打込んだ後のコンクリートの品質を厳密に予想して制御することが難しい。
【0007】
そこで、セメントペーストやモルタルでの前処理の代替となりうる手段が種々提案されている。例えば、特許文献2には、吸水性樹脂を含むコンクリートポンプ用圧送開始剤が、特許文献3には、炭酸カルシウム粉末と混合してコンクリートポンプ圧送用先行剤を製造するために用いられ微細繊維状変性セルローズなどを含む組成物が、特許文献4には、炭酸ナトリウム、メラミン、クエン酸、ポリアクリルアミド、及びメチルセルロースから構成されたコンクリートポンプ剤が、それぞれ記載されている。
【文献】特開平8-1643号公報
【文献】特開2000-34461号公報
【文献】特開2020-1586931号公報
【文献】特開2008-74086号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
コンクリートポンプ車などでの生コンクリート圧送時における前処理において、セメントペーストやモルタルなどの代替物として、増粘剤などを先行剤として用いる場合、セメントペーストやモルタルなどを用いる場合と比較して、作業を簡略化でき、コストも抑えることができる可能性があるものの、配管などの閉塞を充分に抑制できるとまではいえなかった。
【0009】
そこで、本発明は、コンクリートポンプ車などでの生コンクリート圧送時における配管などの閉塞を、簡易、低廉かつ有効に抑制しうる手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、コンクリートポンプ車などでの生コンクリート圧送の先行剤として増粘剤などを用いても、充分に配管などの閉塞を抑制できない原因が、生コンクリートの圧送を開始すると、生コンクリートと接触することで増粘剤の粘性が失われ、先行剤の流通によって一旦配管の内壁に形成されていた被覆層が消失するためであることを新規に見い出すとともに、ポリアクリル酸ナトリウムに所定の塩を混合することで、生コンクリートの圧送を開始した後、配管内全体に生コンクリートが充填されるまで、溶液の粘性を維持できること、即ち、生コンクリートを圧送した後、配管内全体に生コンクリートが充填されるまで、配管の内壁に形成された被覆層を維持でき、生コンクリート圧送の際の前処理としての配管閉塞抑制効果を向上できることを新規に見い出した。
【0011】
そこで、本発明では、ポリアクリル酸ナトリウム及び塩を有効成分として含有し、前記塩が、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムのいずれか又は複数である生コンクリート圧送用先行剤、それらを用いた生コンクリート圧送方法などを提供する。
【0012】
コンクリートポンプ車などでの生コンクリート圧送に先立ち、先行剤として、ポリアクリル酸ナトリウム及び所定の塩を有効成分として含有した溶液を配管内に流通させることにより、予め、その粘性を有した溶液で配管の内壁が被覆されて被覆層が形成され、かつ生コンクリートの圧送を開始した後も、配管内全体に生コンクリートが充填されるまで、その溶液の粘性が維持され被覆層が保持される。そのため、本技術を生コンクリート圧送の際の前処理として採用することにより、配管などの閉塞を簡易、低廉かつ有効に抑制できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明を用いた前処理により、コンクリートポンプ車などでの生コンクリート圧送時における配管などの閉塞を、簡易、低廉かつ有効に抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<本発明に係る生コンクリート圧送用先行剤について>
本発明は、少なくとも、ポリアクリル酸ナトリウム及び所定の塩を有効成分として含有した生コンクリート圧送用先行剤を広く包含する。
【0015】
ここで、ポリアクリル酸ナトリウムは、アクリル酸の重合体であるポリアクリル酸のナトリウム塩であり、公知のものを広く用いることができる。
【0016】
また、本発明に係る塩は、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムのいずれか又は複数(それらの二以上の混合物)であり、公知のものを広く用いることができる。なお、本発明は、それらのうちの少なくとも一つを含有しているものを広く包含する。
【0017】
本発明に係る先行剤では、例えば、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末と塩の粉末とを略均一になるまで混合した混合粉体の形態であってもよいし、例えば、それらの粉体を水で溶解した水溶液の形態であってもよい。
【0018】
また、それらの粉体を水溶性有機溶媒に溶解したもの、又は、それをさらに水で希釈したものも本発明に係る先行剤に広く包含される。
【0019】
水溶性有機溶媒は、公知のものを広く採用することができ、狭く限定されない。
【0020】
水溶性有機溶媒として、例えば、非プロトン性有機溶媒である、1,4-ジオキサン、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルリンサントリアミド、リン酸トリエチル、スクシノニトリル、ベンゾニトリル、ピリジン、ニトロメタン、モルホリン、エチレンジアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、炭酸プロピレン、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテルなどを、また、プロトン性有機溶媒である、エタノール、メタノール、ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、フェノール、ベンジルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルなどを用いてもよい。
【0021】
その他、本発明に係る先行剤には、粉体の溶解性の向上、溶液の品質維持・安定化など、目的・用途に応じ、適宜、他の公知の化合物などが添加されたものについても広く包含される。
【0022】
ポリアクリル酸ナトリウムと塩の配合比については、生コンクリート圧送用先行剤として有効な範囲において、狭く限定されない。例えば、重量比で、ポリアクリル酸ナトリウム1に対し少なくとも塩0.6以上で配合すれば、コンクリートポンプ車などでの生コンクリート圧送時における配管などの閉塞を有効に抑制できる。塩の配合比の上限については、塩の原料価格などを考慮して適宜定めればよく、特に限定されない。例えば、重量比で、ポリアクリル酸ナトリウム1に対し塩10以下で、好適には7.0以下で、より好適には5.0以下で配合するようにしてもよい。但し、塩がリン酸二水素ナトリウムの場合は、ポリアクリル酸ナトリウム1に対しリン酸二水素ナトリウム3.0以下の範囲が好適である。
【0023】
<本発明に係る生コンクリート圧送方法について>
本発明は、ポリアクリル酸ナトリウム及び塩を有効成分として含有し、前記塩が、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸三ナトリウムのいずれか又は複数である溶液を、生コンクリートに先立って送液する工程を少なくとも含む生コンクリート圧送方法をすべて包含し、例えば、それ以外の工程を含むことなどによっては狭く限定されない。なお、ここでの「ポリアクリル酸ナトリウム及び塩を含有する溶液」には、例えば、上述のものが広く包含される。
【0024】
生コンクリート圧送は、例えば、(1)コンクリートポンプ車などに先行剤を投入し、ポンプ・配管内などに先行剤を送液する工程、(2)先行剤による前処理後、生コンクリートを圧送し、配管内に生コンクリートを充填する工程、(3)先行剤の混入によって、打込むコンクリートの厳密な成分組成を変化させないように、初期に圧送された生コンクリートを回収する工程、(4)実際に型枠内に生コンクリートを流し込む工程、を含む。
【0025】
このうち、先行剤を投入・送液する工程において、少なくとも、ポリアクリル酸ナトリウム及び所定の塩を有効成分として含有する溶液を、コンクリートポンプ車のポンプ・配管などに流通させることができればよく、公知の手段を広く採用でき、狭く限定されない。
【0026】
例えば、コンクリートポンプ車のホッパーに、ポリアクリル酸ナトリウム及び所定の塩を有効成分として含有する溶液を投入し、圧送ポンプを起動することにより、ポンプ・配管内にこの溶液を流通させることができる。
【0027】
この溶液におけるポリアクリル酸ナトリウム及び塩の含有濃度は、前処理により配管などの閉塞を有効に抑制し得る範囲において、狭く限定されない。例えば、上述の配合比で、かつ前記溶液中における前記ポリアクリル酸ナトリウム及び塩の含有濃度がそれぞれ0.5~50g/Lである場合、より好適には0.8~20g/Lである場合、最も好適には、1.0~10g/Lである場合、コンクリートポンプ車などでの生コンクリート圧送時における配管などの閉塞を有効に抑制できる。
【0028】
この溶液の投入量についても、コンクリートポンプ車の配管の口径・全長などによって適宜設定すればよく、前処理により配管などの閉塞を有効に抑制し得る範囲において、狭く限定されない。コンクリートポンプ車の配管の外径5 inch(約12.7cm)、全長11m~40m程度の場合、先行剤による前処理として、例えば、前記含有濃度の溶液を、1~500L、より好適には5~100L、最も好適には8~50L送液することにより、コンクリートポンプ車の配管などの閉塞を有効に抑制できる。
【実施例1】
【0029】
実施例1では、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを溶解した水溶液にセメントを投入した場合に、水溶液に粘性が維持されるかを検討した。
【0030】
ビーカーに、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末1g、及び、リン酸二水素ナトリウムの粉末1gを入れ、均一になるように混合した後、水100gを加え、よく撹拌し、粉末を溶解した。また、対照として、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末1gのみに水100gを加え、溶解したものも調製した。その結果、両水溶液とも、ほぼ同等に強い粘性を示した。
【0031】
次に、両水溶液にセメント(粉末)40gを添加し、よく撹拌した。そして、セメント添加後も粘性が維持されているかを、目視によって評価した。
【0032】
結果を表1に示す。表中、「No.1」は、ポリアクリル酸ナトリウムのみを水に溶解したサンプルについて、粘性が維持されているか評価した結果(対照)を表し、「No.2」は、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを水に溶解したサンプルについて、粘性が維持されているか評価した結果を表している。また、粘性評価は4段階で行い、セメントを添加したことにより粘性が失われほぼ水様の状態に戻った場合を「×」、若干の粘性が残っているが概ね水様の状態に戻った場合を「△」、一定の粘性が維持された場合を「〇」、セメント添加前と比較してほぼ同等の粘性が保持された場合を「◎」、と評価した。
【表1】
【0033】
表1に示す通り、ポリアクリル酸ナトリウムのみを溶解した水溶液の場合、セメントを添加したことにより粘性が失われほぼ水様の状態に戻ったのに対し、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを溶解した水溶液では、セメントを添加した後も、セメント添加前とほぼ同等の粘性が保持された。
【0034】
この結果は、生コンクリート圧送用先行剤にポリアクリル酸ナトリウムの溶液を用いても充分に配管閉塞を抑制できなかった原因が、生コンクリートを圧送するとポリアクリル酸ナトリウム溶液の粘性が失われることで、配管の内壁に形成されていた被覆が消失するためであることを示唆するとともに、ポリアクリル酸ナトリウムにリン酸二水素ナトリウムを混合することで、生コンクリートを圧送した後も溶液の粘性を維持できること、即ち、生コンクリートを圧送した後、配管内全体に生コンクリートが充填されるまで、配管の内壁に形成されていた被覆を維持でき、それによって生コンクリート圧送の際の前処理としての配管閉塞抑制効果を向上できることを示唆する。
【実施例2】
【0035】
実施例2では、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウム以外の塩を溶解した水溶液にセメントを投入した場合に、水溶液に粘性が維持されるかを検討した。
【0036】
リン酸二水素ナトリウム以外の塩として、クエン酸二ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、リン酸二水素カリウムを準備し、実施例1と同様、各ビーカーに、それぞれ、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末1g、及び、各塩の粉末1gを入れ、均一になるように混合した後、水100gを加え、よく撹拌し、粉末を溶解した。その結果、いずれの水溶液でも、強い粘性を示した。
【0037】
次に、各水溶液にセメント(粉末)40gを添加し、よく撹拌した。そして、セメント添加後も粘性が維持されているかを、目視によって評価した。
【0038】
結果を表2に示す。表中、「No.3」は、ポリアクリル酸ナトリウム及びクエン酸二ナトリウムを水に溶解したサンプルについて、粘性が維持されているか評価した結果を、「No.4」は、ポリアクリル酸ナトリウム及びコハク酸二ナトリウムを水に溶解したサンプルについて、粘性が維持されているか評価した結果を、「No.5」は、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素カリウムを水に溶解したサンプルについて、粘性が維持されているか評価した結果を、表している。粘性評価の基準は実施例1と同様である。
【表2】
【0039】
表2に示す通り、ポリアクリル酸ナトリウムと、クエン酸二ナトリウム又はコハク酸二ナトリウムを溶解した水溶液では、セメントを添加したことにより粘性がほぼ失われ、水溶液とセメントとが分離するか、若しくは水様の状態に戻ったのに対し、ポリアクリル酸ナトリウムとリン酸二水素カリウムとを溶解した水溶液では、セメントを添加した後も、セメント添加前とほぼ同等の粘性が保持された。
【実施例3】
【0040】
実施例3では、セメント添加後も粘性が保持される、ポリアクリル酸ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムとの配合割合を検討した。
【0041】
各ビーカーに、それぞれ、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末1gと、リン酸二水素ナトリウムの粉末0.5、0.8、1.0、1.13、2.0、3.3gを入れ、均一になるように混合した後、水100gを加え、よく撹拌し、粉末を溶解した。リン酸二水素ナトリウムの粉末を0.5、0.8、若しくは1.0g入れたサンプルでは、ポリアクリル酸ナトリウムをエタノール10gで溶解してからリン酸二水素カリウムを加えて撹拌し、さらに水を加えて撹拌・溶解した。
【0042】
次に、実施例1などと同様、両水溶液にセメント(粉末)40gを添加し、よく撹拌した。そして、セメント添加後も粘性が維持されているかを、目視によって評価した。
【0043】
結果を表3に示す。表中、「No.6」は、リン酸二水素ナトリウム0.5gを溶解したサンプルについて、粘性が維持されているか評価した結果を、「No.7」は、同じくリン酸二水素ナトリウム0.8gを水に溶解したサンプルについての結果を、「No.8」は、同じくリン酸二水素ナトリウム1.0gを水に溶解したサンプルについての結果を、「No.9」は、同じくリン酸二水素ナトリウム1.13gを水に溶解したサンプルについての結果を、「No.10」は、同じくリン酸二水素ナトリウム2.0gを水に溶解したサンプルについての結果を、「No.11」は、同じくリン酸二水素ナトリウム3.3gを水に溶解したサンプルについての結果を、それぞれ表している。粘性評価の基準は実施例1などと同様である。
【表3】
【0044】
表3に示す通り、ポリアクリル酸ナトリウム1gに対し、リン酸二水素ナトリウムを0.8~2.0gの範囲で加えたサンプルでは、セメントを添加した後も、セメント添加前とほぼ同等の粘性が保持された。この結果より、セメント添加後も粘性が保持される、ポリアクリル酸ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムとの好適な配合割合は、重量比で、ポリアクリル酸ナトリウム1に対しリン酸二水素ナトリウム0.6以上、また、上限は、リン酸二水素ナトリウムの場合、ポリアクリル酸ナトリウム1に対しリン酸二水素ナトリウム3.0以下の範囲が好適であることが示唆された。
【実施例4】
【0045】
実施例4では、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを溶解した溶液によって、実際に、コンクリートポンプ車の配管の閉塞を抑制できるか、検証した。
【0046】
ポリアクリル酸ナトリウムの粉末50g、及び、リン酸二水素ナトリウムの粉末50gを、均一になるように混合した後、エタノール100gにその混合粉体を入れ、よく撹拌して均一な分散体を得た。この分散体を水15Lに入れ、よく撹拌して均一な溶液とした。
【0047】
コンクリートポンプ車(配管の外径5 inch(約12.7cm)、配管の全長26m)のホッパー内に、この溶液15Lを投入し、圧送ポンプを起動し、ポンプ・配管内にこの溶液を送液した。この送液は、送液状態が不安定になることなく、スムーズに行うことができた。
【0048】
次に、ホッパー内に生コンクリート5m3を投入し、圧送ポンプを起動し、生コンクリートを連続的に圧送し、生コンクリートを配管内に流通させた。その結果、配管全体に生コンクリートが充填された。
【0049】
本実施例における生コンクリートの圧送は、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを溶解した溶液を予め配管内などに送液したことにより、送液状態が不安定になることなく、スムーズに行うことができた。また、この生コンクリート圧送では、配管内などの閉塞は全く発生せず、その兆候も全く見当たらなかった。生コンクリート圧送後の配管の分解・清掃時において、配管内を確認した際においても、同様であった。
【0050】
この結果より、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムがそれぞれ3.33g/L付近の濃度(例えば、0.5~50g/L)の溶液を生コンクリート圧送用の先行剤として用いることにより、コンクリートポンプ車の配管などの閉塞を有効に抑制できることが示唆された。
【実施例5】
【0051】
実施例5では、実施例2で用いたもの以外の塩について、さらに実施例2と同様の検討を行った。
【0052】
塩を加えないもの(対照)のほかに、塩として、(1)リン酸二水素ナトリウム粉末(比較例)、(2)炭酸水素ナトリウム粉末、(3)クエン酸三ナトリウム粉末、(4)リン酸二水素ナトリウム粉末とクエン酸三ナトリウム粉末の混合粉末(重量比1:1)、(5)同じくリン酸二水素ナトリウム粉末とクエン酸三ナトリウム粉末の混合粉末(重量比3:2)、(6)同じくリン酸二水素ナトリウム粉末とクエン酸三ナトリウム粉末の混合粉末(重量比4:1)、をそれぞれ準備し、ビーカーに、それぞれ、ポリアクリル酸ナトリウムの粉末2g、及び、各塩の粉末5gを入れ、均一になるように混合した後、水200gを加え、よく撹拌し、粉末を溶解した。その結果、いずれの水溶液でも、強い粘性を示した。
【0053】
次に、各水溶液にセメント(粉末)80gを添加し、よく撹拌した。そして、セメント添加後も粘性が維持されているかを、目視によって評価した。
【0054】
結果を表4に示す。表中、「対照」は、ポリアクリル酸ナトリウムのみを水に溶解したサンプルについて粘性が維持されているか評価した結果を、「No.12」は、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムを水に溶解したサンプルについて粘性が維持されているか評価した結果を、「No.13」は、ポリアクリル酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムを水に溶解したサンプルについて粘性が維持されているか評価した結果を、「No.14」は、ポリアクリル酸ナトリウム及びクエン酸三ナトリウムを水に溶解したサンプルについて粘性が維持されているか評価した結果を、「No.15」は、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムとクエン酸三ナトリウムとの重量比1:1の混合物を水に溶解したサンプルについて粘性が維持されているか評価した結果を、「No.16」は、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムとクエン酸三ナトリウムとの重量比3:2の混合物を水に溶解したサンプルについて粘性が維持されているか評価した結果を、「No.17」は、ポリアクリル酸ナトリウム及びリン酸二水素ナトリウムとクエン酸三ナトリウムとの重量比4:1の混合物を水に溶解したサンプルについて粘性が維持されているか評価した結果を、それぞれ表している。粘性評価の基準は実施例1などと同様である。
【表4】
【0055】
表4に示す通り、ポリアクリル酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムとを溶解した水溶液(No.13)では、セメント添加後も、特に良好に粘性が保持され、かつ時間が経過した後も塊が形成されずに滑らかなまま粘性が保持された。また、ポリアクリル酸ナトリウムとクエン酸三ナトリウムとを溶解した水溶液(No.14)、及び、ポリアクリル酸ナトリウムと、リン酸二水素ナトリウムとクエン酸三ナトリウムとの混合粉末とを溶解した水溶液(No.15~17)では、いずれも、セメントを添加した後も、セメント添加前とほぼ同等の粘性が保持された。なお、ポリアクリル酸ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムとを溶解した水溶液(No.12)に関し、本実施例では、ポリアクリル酸ナトリウムとリン酸二水素ナトリウムを重量比1:2.5の割合で混合しており、その粘性評価は、実施例3(表3)と概ね対応している。