(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】コンデンサ
(51)【国際特許分類】
H01G 4/228 20060101AFI20241011BHJP
H01G 4/32 20060101ALI20241011BHJP
H01G 4/38 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
H01G4/228 Q
H01G4/32 531
H01G4/38 A
H01G4/38 B
H01G4/228 E
(21)【出願番号】P 2021554298
(86)(22)【出願日】2020-10-12
(86)【国際出願番号】 JP2020038545
(87)【国際公開番号】W WO2021085107
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2019195952
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【氏名又は名称】芝野 正雅
(74)【代理人】
【識別番号】100170922
【氏名又は名称】大橋 誠
(72)【発明者】
【氏名】松井 宏将
(72)【発明者】
【氏名】金谷 英里子
【審査官】田中 晃洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-251400(JP,A)
【文献】国際公開第2017/081853(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/198527(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/101260(WO,A1)
【文献】特開2005-085880(JP,A)
【文献】国際公開第2016/027462(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/107128(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/228
H01G 4/32
H01G 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンデンサ素子と、
前記コンデンサ素子の両端の電極にそれぞれ接続される第1バスバーおよび第2バスバーと、
前記コンデンサ素子が収容されるケースと、
前記ケース内に充填される充填樹脂と、を備え、
前記第1バスバーおよび前記第2バスバーは、それぞれ、第1重なり部および第2重なり部を有し、
前記第1重なり部と前記第2重なり部は、絶縁
部材を挟んで互いに重ね合され、
前記第1重なり部、前記第2重なり部および前記絶縁
部材は、前記充填樹脂に覆われる被覆部と前記充填樹脂から露出する露出部とを含み、前記第1重なり部、前記第2重なり部および前記絶縁
部材が重なる重なり方向に貫通する貫通孔を有し、
前記貫通孔は、前記被覆部と前記露出部との境界に跨るように形成される、
ことを特徴とするコンデンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のコンデンサにおいて、
前記第1重なり部、前記第2重なり部および前記絶縁
部材には、それぞれ、第1孔、第2孔および第3孔が形成され、
前記第1孔、前記第2孔および前記第3孔が重なることにより、前記貫通孔が形成される、
ことを特徴とするコンデンサ。
【請求項3】
請求項2に記載のコンデンサにおいて、
前記第3孔は、前記第1孔および前記第2孔より小さく、前記第1孔および前記第2孔の開口領域内に収まる、
ことを特徴とするコンデンサ。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載のコンデンサにおいて、
前記ケースには、前記コンデンサ素子を含む複数のコンデンサ素子が所定方向に並べられて収容され、
前記第1重なり部、前記第2重なり部および前記絶縁
部材は、前記所定方向に長尺であり、
前記貫通孔を含む複数の貫通孔が、前記所定方向に並ぶように設けられる、
ことを特徴とするコンデンサ。
【請求項5】
請求項
2または3に記載のコンデンサにおいて、
前記絶縁
部材には、前記第3孔の縁部から前記重なり方向と垂直な方向に延びる係合部が設けられ、
前記第1バスバーには、前記係合部と係合する被係合部が設けられる、
ことを特徴とするコンデンサ。
【請求項6】
請求項1に記載のコンデンサにおいて、
前記第1バスバーは、前記第1重なり部から折り曲げて設けられた第1本体部を有し、
前記第1バスバーには、前記貫通孔の一部を構成する第1孔が形成され、
前記第1孔は、前記第1重なり部および前記第1本体部に亘って設けられる、
ことを特徴とするコンデンサ。
【請求項7】
請求項6に記載のコンデンサにおいて、
前記第2バスバーは、前記第2重なり部から折り曲げて設けられた第2本体部を有し、
前記第2バスバーには、前記貫通孔の一部を構成する第2孔が形成され、
前記第2孔は、前記第2重なり部および前記第2本体部に亘って設けられる、
ことを特徴とするコンデンサ。
【請求項8】
請求項7に記載のコンデンサにおいて、
前記絶縁部材は、第1絶縁部と、第2絶縁部とを有し、
前記第1絶縁部は、前記第1重なり部と前記第2重なり部に挟まれ、かつ、前記貫通孔の一部を構成する第3孔を有し、
前記第2絶縁部は、前記重なり方向に延び、かつ、前記第1本体部および前記第2本体部と前記コンデンサ素子との間の少なくとも一部に配置される、
ことを特徴とするコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
前バスバーおよび後バスバーが接続されたコンデンサ素子がケース内に収容され、当該ケース内に充填樹脂が充填されたフィルムコンデンサであって、前バスバーおよび後バスバーのそれぞれが、絶縁モジュールを挟んで互いに重なり合う第3プレート部を含むことにより、ELS(等価直列インダクタンス)の低減が図られるようにしたものが特許文献1に記載されている。各第3プレート部は、ケース内の充填樹脂に覆われた第2プレート部から立ち上がり、充填樹脂に覆われた被覆部と充填樹脂から露出する露出部とを有する。各第3プレート部の上端部には、外部機器の端子が接続される複数の接続端子部が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のフィルムコンデンサは、その用途により、様々な環境下で使用され得る。たとえば、フィルムコンデンサが、温度変化の大きな環境下で使用された場合、金属製である前バスバーおよび後バスバーの各第3プレート部と充填樹脂との間の線膨張係数(熱膨張係数)の違いにより、各第3プレートの被覆部の露出部との境界部分において、互に密着している第3プレート部と充填樹脂とを引き離そうとする応力が生じ、これらの間に亀裂や剥離が生じやすくなる。これにより、充填樹脂の防湿性が低下すると、充填樹脂で覆われたコンデンサ素子に水分が接触することで、コンデンサ素子に容量低下や絶縁劣化などの不具合が生じる虞がある。
【0005】
かかる課題に鑑み、本発明は、第1バスバーおよび第2バスバーのそれぞれが、絶縁板を挟んで重なり合う第1重なり部および第2重なり部を有し、これら重なり部において充填樹脂から露出するような構成とされた場合に、これら重なり部と充填樹脂との間に亀裂や剥離が生じにくく、充填樹脂による防湿性の低下を抑制できるコンデンサを提供する目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の主たる態様に係るコンデンサは、コンデンサ素子と、前記コンデンサ素子の両端の電極にそれぞれ接続される第1バスバーおよび第2バスバーと、前記コンデンサ素子が収容されるケースと、前記ケース内に充填される充填樹脂と、を備える。ここで、前記第1バスバーおよび前記第2バスバーは、それぞれ、第1重なり部および第2重なり部を有し、前記第1重なり部と前記第2重なり部は、絶縁部材を挟んで互いに重ね合される。前記第1重なり部、前記第2重なり部および前記絶縁部材は、前記充填樹脂に覆われる被覆部と前記充填樹脂から露出する露出部とを含み、前記第1重なり部、前記第2重なり部および前記絶縁部材が重なる重なり方向に貫通する貫通孔を有する。さらに、前記貫通孔は、前記被覆部と前記露出部との境界に跨るように形成される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1バスバーおよび第2バスバーのそれぞれが、絶縁板を挟んで重なり合う第1重なり部および第2重なり部を有し、これら重なり部において充填樹脂から露出するような構成とされた場合に、これら重なり部と充填樹脂との間に亀裂や剥離が生じにくく、充填樹脂による防湿性の低下を抑制できるコンデンサを提供できる。
【0008】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態に記載されたものに何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る、フィルムコンデンサの斜視図である。
【
図2】
図2(a)は、実施の形態に係る、前方から見たコンデンサ素子ユニットの斜視図であり、
図2(b)は、実施の形態に係る、後方から見たコンデンサ素子ユニットの斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、実施の形態に係る、第1バスバーの斜視図であり、
図3(b)は、実施の形態に係る、第2バスバーの斜視図である。
【
図4】
図4(a)は、実施の形態に係る、前方から見た絶縁板の斜視図であり、
図4(b)は、実施の形態に係る、後方から見た絶縁板の斜視図である。
【
図5】
図5(a)および(b)は、それぞれ、実施の形態に係る、ケースの斜視図および平面図である。
【
図6】
図6は、実施の形態に係る、左から2つ目の貫通孔の位置で切断された、フィルムコンデンサの側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のコンデンサの一実施形態であるフィルムコンデンサ1について図を参照して説明する。便宜上、各図には、適宜、前後、左右および上下の方向が付記されている。なお、図示の方向は、あくまでフィルムコンデンサ1の相対的な方向を示すものであり、絶対的な方向を示すものではない。
【0011】
本実施の形態において、フィルムコンデンサ1が、特許請求の範囲に記載の「コンデンサ」に対応する。また、第1電極410および第2電極420が、特許請求の範囲に記載の「電極」に対応する。さらに、突出片515が、特許請求の範囲に記載の「被係合部」に対応する。さらに、爪片718が、特許請求の範囲に記載の「係合部」に対応する。
【0012】
ただし、上記記載は、あくまで、特許請求の範囲の構成と実施形態の構成とを対応付けることを目的とするものであって、上記対応付けによって特許請求の範囲に記載の発明が実施形態の構成に何ら限定されるものではない。
【0013】
【0014】
フィルムコンデンサ1は、コンデンサ素子ユニット100と、ケース200と、充填樹脂300とを備える。コンデンサ素子ユニット100がケース200内に収容され、ケース200内に充填樹脂300が充填される。充填樹脂300は、熱硬化性樹脂、たとえば、エポキシ樹脂である。コンデンサ素子ユニット100の充填樹脂300に埋没した大部分が、ケース200および充填樹脂300によって湿気や衝撃から保護される。
【0015】
図2(a)は、前方から見たコンデンサ素子ユニット100の斜視図であり、
図2(b)は、後方から見たコンデンサ素子ユニット100の斜視図である。
図3(a)は、第1バスバー500の斜視図であり、
図3(b)は、第2バスバー600の斜視図である。
図4(a)は、前方から見た絶縁板700の斜視図であり、
図4(b)は、後方から見た絶縁板700の斜視図である。
【0016】
コンデンサ素子ユニット100は、6個のコンデンサ素子400と、第1バスバー500と、第2バスバー600と、絶縁板700と、含む。
【0017】
コンデンサ素子400は、誘電体フィルム上にアルミニウムを蒸着させた2枚の金属化フィルムを重ね、重ねた金属化フィルムを巻回または積層し、扁平状に押圧することにより形成される。コンデンサ素子400には、一方の端面に、亜鉛等の金属の吹付けにより第1電極410が形成され、他方の端面に、同じく亜鉛等の金属の吹付けにより第2電極420が形成される。6個のコンデンサ素子400は、両端面が前後方向を向く状態で左右方向に配列される。
【0018】
第1バスバー500は、導電性材料、たとえば、銅板を適宜切り抜き、折り曲げることによって形成され、第1本体部510と、第1重なり部520と、3つの第1接続端子部530とが一体となった構成を有する。
【0019】
第1本体部510は、左右方向に長尺であり、6個のコンデンサ素子400の周面の大部分を覆う上面部510aと6個のコンデンサ素子400の第1電極410の一部を覆う前面部510bにより構成される。前面部510bの下端における各第1電極410に対応する位置に、ピン状を有する一対の第1電極端子511が形成される。上面部510aには、6つの長円形の流通孔512と、5つの円形の流通孔513とが、左右方向に交互に並ぶように形成される。また、上面部510aには、6つの流通孔512の前方に6つの方形状の流通孔514が形成される。各流通孔514は、前側が前面部510bにまで亘る。
【0020】
第1重なり部520は、第1本体部510の上面部510aの後端から上方(コンデンサ素子400から離れる方向)に立ち上がる。第1重なり部520は、左右方向に長尺(上下方向よりも左右方向に長い)であり、左側部520aが中央部520bより上方に延び、中央部520bが右側部520cよりも上方に延びる。第1重なり部520には、左側部520aの左右の端部と中央部520bの右端部に、それぞれ切欠部521、522、523が形成される。
【0021】
第1重なり部520には、下端部に、長尺な方向である左右方向に並ぶように、5つの方形状の第1孔524が形成される。右端の第1孔524は、他の第1孔524よりも上下の寸法が小さくされる。各第1孔524は、下側が第1本体部510の上面部510aにまで亘る。上面部510aには、左から1つ目と4つ目の第1孔524の下側の縁部に、後方へ突出する方形状の突出片515が形成される。
【0022】
3つの第1接続端子部530は、方形状を有し、第1重なり部520の左側部520aの上端に、左右方向に所定の間隔を置いて並ぶように設けられる。各第1接続端子部530には、円形の取付孔531が形成される。
【0023】
第2バスバー600は、導電性材料、たとえば、銅板を適宜切り抜き、折り曲げることによって形成され、第2本体部610と、第2重なり部620と、第2接続端子部630とが一体となった構成を有する。
【0024】
第2本体部610は、左右方向に長尺であり、6個のコンデンサ素子400の周面の一部を覆う上面部610aと6個のコンデンサ素子400の第2電極420の一部を覆う後面部610bにより構成される。後面部610bの下端における各第2電極420に対応する位置に、ピン状を有する一対の第2電極端子611が形成される。また、後面部610bには、左右の端部に方形状の係合孔612が形成される。
【0025】
第2重なり部620は、第2本体部610の上面部610aの前端から上方(コンデンサ素子400から離れる方向)に立ち上がる。第2重なり部620は、左右方向に長尺(上下方向よりも左右方向に長い)であり、左側部620aが中央部620bより上方に延び、中央部620bが右側部620cよりも上方に延びる。第2重なり部620には、左側部620aの左右の端部と中央部620bの右端部に、それぞれ切欠部621、622、623が形成される。
【0026】
第2重なり部620には、下端部に、長尺な方向である左右方向に並ぶように、5つの方形状の第2孔624が形成される。右端の第2孔624は、他の第2孔624よりも上下の寸法が小さくされる。各第2孔624は、下側が第2本体部610の後面部610bにまで亘る。
【0027】
3つの第2接続端子部630は、方形状を有し、第2重なり部620の左側部620aの上端に、左右方向に所定の間隔を置いて並ぶように設けられる。各第2接続端子部630には、円形の取付孔631が形成される。
【0028】
絶縁板700は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の樹脂により形成され、絶縁性を有する。絶縁板700は、第1絶縁部710と第2絶縁部720とにより構成される。
【0029】
第1絶縁部710は、左右方向に長尺(上下方向よりも左右方向に長い)であり、第1バスバー500の第1重なり部520および第2バスバー600の第2重なり部620の左側部520a、620a、中央部520b、620bおよび右側部520c、620cにそれぞれ対応する左側部710a、中央部710bおよび右側部710cを含む。
【0030】
第1絶縁部710の前面側には、左側部710aの左右の端部と中央部710bの右端部に、それぞれ鈎状の係合片711、712、713が形成される。係合片711の下にリブ711aが繋がり、係合片713の上にリブ713aが繋がる。
【0031】
第1絶縁部710の後面側には、左側部710aの左右の端部と中央部710bの右端部に、それぞれ鈎状の係合片714、715、716が形成される。係合片714の下にリブ714aが繋がり、係合片715の下にリブ715aが繋がり、係合片716の上にリブ716aが繋がる。
【0032】
第1絶縁部710には、下端部に、長尺な方向である左右方向に並ぶように、5つの方形状の第3孔717が形成される。右端の第3孔717は、他の第3孔717よりも上下の寸法が小さくされる。各第3孔717は、各第1孔524および各第2孔624に対応する位置に形成される。
【0033】
第1絶縁部710には、左から1つ目と4つ目の第3孔717の上側の縁部に、下方に延びる爪片718が形成される。爪片718の先端部には、爪718aが設けられる。
【0034】
第2絶縁部720は、第1絶縁部710の下端に形成され、前後方向に延び、前側に大きく張り出し、後側に僅かに張り出す。第2絶縁部720には、後側の左右の端部に、下方に延びる爪片721が形成される。爪片721の先端部には、爪721aが設けられる。
【0035】
コンデンサ素子ユニット100を組み立てる際には、まず、第1バスバー500が絶縁板700の前側に装着される。装着の際、第1バスバー500の第1重なり部520が、3つの切欠部521、522、523にそれらに対応する係合片711、712、713を通すようにして、絶縁板700の第1絶縁部710の前面に押し当てられ、その後に押し下げられる。第1バスバー500の第1本体部510の突出片515が、第1絶縁部710の爪片718を後方に弾性変形させながら爪片718の下まで移動し、上下方向に爪片718と係合する。また、第1絶縁部710の左側部710aの左右の係合片711、712が、第1重なり部520の左側部520aの左右の端部と係合し、第1絶縁部710の中央部710bの係合片713が、第1重なり部520の中央部520bの右端部と係合する。これにより、第1バスバー500が絶縁板700に対して、前後左右および上下方向に動かないよう位置決め固定される。
【0036】
同様にして、第2バスバー600が絶縁板700の後側に装着される。装着の際、第2バスバー600の第2重なり部620が、3つの切欠部621、622、623にそれらに対応する係合片714、715、716を通すようにして、絶縁板700の第1絶縁部710の後面に押し当てられ、その後に押し下げられる。第2バスバー600の第2本体部610の後面部610bが、第2絶縁部720の爪片721を前方に弾性変形させながら下方へ移動し、後面部610bの係合孔612と爪片721とが上下方向に係合する。また、第1絶縁部710の左側部710aの左右の係合片714、715が、第2重なり部620の左側部620aの左右の端部と係合し、第1絶縁部710の中央部710bの係合片716が、第2重なり部620の中央部620bの右端部と係合する。これにより、第2バスバー600が絶縁板700に対して、前後左右および上下方向に動かないよう位置決め固定される。
【0037】
第1重なり部520の第1孔524と、第2重なり部620の第2孔624と、第1絶縁部710の第3孔717とが前後方向に重なることにより、第1重なり部520、第2重なり部620および第1絶縁部710を、これらが重なる前後方向に貫通する貫通孔110が形成される。また、第1バスバー500の3つの第1接続端子部530と第2バスバー600の第2接続端子部630とが、左右方向に交互に並ぶ。
【0038】
次に、6つのコンデンサ素子400に、第1バスバー500および第2バスバー600が接続される。即ち、第1バスバー500の第1本体部510の各第1電極端子511が各コンデンサ素子400の第1電極410に半田付け等の接合方法で接合される。これにより、第1バスバー500が6つのコンデンサ素子400の各第1電極410に電気的に接続される。同様に、第2バスバー600の第2本体部610の各第2電極端子611が各コンデンサ素子400の第2電極420に半田付け等の接合方法で接合される。これにより、第2バスバー600が6つのコンデンサ素子400の各第2電極420に電気的に接続される。こうして、
図2(a)および(b)に示すように、コンデンサ素子ユニット100が完成する。
【0039】
第1バスバー500の第1重なり部520と第2バスバー600の第2重なり部620とが絶縁板700の第1絶縁部710を挟んで前後に重なり合う。これにより、第1バスバー500と第2バスバー600とが有するESL(等価直列インダクタンス)を低減させることができる。また、第1絶縁部710により、第1重なり部520と第2重なり部620との間の絶縁性が確保される。特に、第3孔717は、第1孔524および第2孔624より小さくされ、第1孔524および第2孔624の開口領域内に収まるようにされているので、第1重なり部520と第2重なり部620との間の沿面距離を長くでき、十分に絶縁性を確保できる。さらに、第2絶縁部720により、第1重なり部520と6つのコンデンサ素子400の第2電極420との間の絶縁性が確保される。
【0040】
図5(a)および(b)は、それぞれ、ケース200の斜視図および平面図である。
【0041】
ケース200は、樹脂製であり、たとえば、熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド(PPS)により形成される。ケース200は、左右方向に長いほぼ直方体の箱状に形成され、上面が開口する。ケース200の4つの角部には、内側の上部に収容凹部210が形成される。また、ケース200の底面部、左側面部および右側面部には、外面に、取付タブ220が設けられる。各取付タブ220には、挿通孔221が形成される。挿通孔221には、孔の強度を上げるために金属製のカラー222が嵌め込まれる。また、左右の取付タブ220には、前面に、前方へ突出する位置決めピン223が形成される。フィルムコンデンサ1が外部装置の設置部に設置される際、位置決めピン223による位置決めがなされた後に、取付タブ220がネジ等によって設置部に固定される。
【0042】
コンデンサ素子ユニット100は、開口部201を通じてケース200内に収容される。第1バスバー500の第1本体部510の前面部510bの左右の端部が、前側の左右の収容凹部210に収容され、第2バスバー600の第2本体部610の後面部610bの左右の端部が、後側の左右の収容凹部210に収容される。これにより、コンデンサ素子ユニット100がケース200に対して位置決めされる。
【0043】
コンデンサ素子ユニット100が収容されたケース200内に充填樹脂300が液相状態で注入される。この際、液相状態の充填樹脂300が第1バスバー500に設けられた流通孔512、513、514を通過する。また、液相状態の充填樹脂300が貫通孔110を通過する。これにより、ケース200内に円滑に充填樹脂300が充填される。充填樹脂300は、ケース200の開口部201の近傍位置まで満たされる。その後、ケース200内が加熱されると充填樹脂300が硬化する。こうして、
図1に示すように、フィルムコンデンサ1が完成する。
【0044】
フィルムコンデンサ1が外部装置に搭載されると、第1バスバー500の3つの第1接続端子部530が、取付孔531を用いたネジ止めにより、それらに対応する外部装置の外部端子に接続され、第2バスバー600の第2接続端子部630が、取付孔631を用いたネジ止めにより、それらに対応する外部装置の外部端子に接続される。
【0045】
図6は、左から2つ目の貫通孔110の位置で切断された、フィルムコンデンサ1の側面断面図である。なお、
図6では、便宜上、充填樹脂300は、その注型面(外部に露出する表面)の部分のみが、破線で示されている。
【0046】
図6に示すように、コンデンサ素子ユニット100において、第1バスバー500の第1重なり部520、第2バスバー600の第2重なり部620および絶縁板700の第1絶縁部710は、充填樹脂300に覆われる被覆部と充填樹脂300から露出する露出部とを含み、貫通孔110は、被覆部と露出部との境界BLに跨るように形成されている。
【0047】
フィルムコンデンサ1が、温度変化の大きな環境下で使用された場合、第1重なり部520と充填樹脂300との間および第2重なり部620と充填樹脂300との間の線膨張係数(熱膨張係数)の違いにより、境界BLの部分において、互に密着している第1重なり部520と充填樹脂300および第2重なり部620と充填樹脂300とを引き離そうとする応力が生じやすい。
【0048】
本実施の形態では、境界BLの部分において、第1重なり部520と充填樹脂300とが密着している部分および第2重なり部620と充填樹脂300とが密着している部分が、複数(5つ)の貫通孔110が存在する分だけ少なくなっているため、全体として、第1重なり部520と充填樹脂300との間および第2重なり部620と充填樹脂300との間を引き離そうとする応力が小さくなる。また、第1重なり部520と接する充填樹脂300と第2重なり部620と接する充填樹脂300とが各貫通孔110を通じて繋がっているので、充填樹脂300が絶縁板700の第1絶縁部710によって途切れるような構成とされる場合に比べて、上記の応力に対する抵抗力が強くなり、第1重なり部520と充填樹脂300および第2重なり部620と充填樹脂300とが引き離されにくくなる。これにより、第1重なり部520と充填樹脂300との間および第2重なり部620と充填樹脂300との間に亀裂や剥離が生じにくくなるので、それらの間から充填樹脂300の内部に水分が侵入しにくくなる。
【0049】
<実施の形態の効果>
以上、本実施の形態によれば、以下の効果が奏される。
【0050】
フィルムコンデンサ1は、第1バスバー500および第2バスバー600が、それぞれ、絶縁板700を挟んで互いに重ね合される第1重なり部520および第2重なり部620を有する。そして、第1重なり部520、第2重なり部620および絶縁板700が、充填樹脂300に覆われる被覆部と充填樹脂300から露出する露出部とを含み、第1重なり部520、第2重なり部620および絶縁板700が重なる重なり方向(前後方向)に貫通する貫通孔110を有する。さらに、貫通孔110は、被覆部と露出部との境界BLに跨るように形成される。
【0051】
この構成によれば、フィルムコンデンサ1が、ELSの低減を図るために、第1バスバー500と第2バスバー600のそれぞれが、絶縁板700を挟んで重なり合う第1重なり部520および第2重なり部620を有し、これら重なり部520、620において充填樹脂300から露出するような構成とされた場合に、温度変化の大きな環境下で使用されても、これら重なり部520、620と充填樹脂300との間に亀裂や剥離が生じにくくなるので、それらの間から充填樹脂300の内部に水分が侵入しにくくなり、充填樹脂300による防湿性の低下が抑制される。
【0052】
また、第1重なり部520、第2重なり部620および絶縁板700には、それぞれ、第1孔524、第2孔624および第3孔717形成され、これらの孔524、624、717が重なることにより貫通孔110が形成される。第3孔717は、第1孔524および第2孔624より小さく、第1孔524および第2孔624の開口領域内に収まる。
【0053】
この構成によれば、貫通孔110の部分において、第1重なり部520と第2重なり部620との間の沿面距離を長くできるので、これらの間の絶縁性を確保しやすい。
【0054】
さらに、ケース200には、複数(6つ)のコンデンサ素子400が所定方向(左右方向)に並べられて収容される。そして、第1重なり部520、第2重なり部620および絶縁板700は、所定方向に長尺となるように形成され、貫通孔110は、所定方向に並ぶように複数(5つ)設けられる。
【0055】
この構成によれば、ELSが低減しやすいように、第1重なり部520と第2重なり部620が複数のコンデンサ素子400が並ぶ方向に長尺となるように形成されても、長尺な方向に複数の貫通孔110が並べられることにより、第1重なり部520および第2重なり部620と充填樹脂300との間に亀裂や剥離が生じやすくならないようにでき、充填樹脂300による防湿性の低下を抑制できる。
【0056】
さらに、絶縁板700には、第3孔717の縁部から第1重なり部520、第2重なり部620および絶縁板700が重なる方向と垂直な方向(下方向)に延びる爪片718が設けられ、第1バスバー500には、爪片718と係合する突出片515が設けられる。
【0057】
この構成によれば、貫通孔110を構成するために絶縁板700に形成された第3孔717を利用して、第1バスバー500の絶縁板700に対する位置決めを行うことができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、また、本発明の適用例も、上記実施の形態の他に、種々の変更が可能である。
【0059】
たとえば、上記実施の形態では、第1バスバー500の第1重なり部520、第2バスバー600の第2重なり部620および絶縁板700の第1絶縁部710が、コンデンサ素子400の並び方向(左右方向)に長尺となるように形成され、その長尺な方向に並ぶように、貫通孔110が複数設けられた。しかしながら、第1重なり部520、第2重なり部620および第1絶縁部710は、コンデンサ素子400の並び方向に長尺でなくともよく、この場合に、貫通孔110が一つだけ設けられるようにされてもよい。
【0060】
さらに、上記実施の形態では、絶縁板700の第2絶縁部720に設けられた爪片721と第2バスバー600に設けられた係合孔612と係合により、第2バスバー600の絶縁板700に対する上下方向の位置決めが行われた。しかしながら、絶縁板700の第1絶縁部710における、第1バスバー500のための爪片718が設けられていない第3孔717に、第2バスバー600のための爪片が設けられる一方、第2バスバー600の第2本体部610の上面部610aに突出片が設けられ、これら爪片と突出片との係合により、第2バスバー600の絶縁板700に対する上下方向の位置決めが行われるようにしてもよい。
【0061】
さらに、上記実施の形態では、コンデンサ素子ユニット100に6個のコンデンサ素子400が含まれる。しかしながら、コンデンサ素子400の個数は、1個である場合も含めて、適宜、変更することができる。
【0062】
さらに、上記実施の形態では、コンデンサ素子400は、誘電体フィルム上にアルミニウムを蒸着させた金属化フィルムにより形成されたが、これ以外にも、亜鉛、マグネシウム等の他の金属を蒸着させた金属化フィルムにより形成されてもよい。あるいは、コンデンサ素子400は、これらの金属のうち、複数の金属を蒸着させた金属化フィルムにより形成されてもよいし、これらの金属どうしの合金を蒸着させた金属化フィルムにより形成されてもよい。また、上記実施の形態では、コンデンサ素子400は、誘電体フィルム上にアルミニウムを蒸着させた2枚の金属化フィルムを重ね、重ねた金属化フィルムを巻回または積層することで形成されたものであるが、これ以外にも、誘電体フィルムの両面にアルミニウムを蒸着させた金属化フィルムと絶縁フィルムとを重ね、これを巻回または積層することにより、これらコンデンサ素子400が形成されてもよい。
【0063】
さらに、上記実施の形態では、本発明のコンデンサの一例として、フィルムコンデンサ1が挙げられた。しかしながら、本発明は、フィルムコンデンサ1以外のコンデンサに適用することもできる。
【0064】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【0065】
なお、上記実施の形態の説明において「上方」「下方」等の方向を示す用語は、構成部材の相対的な位置関係にのみ依存する相対的な方向を示すものであり、鉛直方向、水平方向等の絶対的な方向を示すものではない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、各種電子機器、電気機器、産業機器、車両の電装等に使用されるコンデンサに有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 フィルムコンデンサ(コンデンサ)
100 コンデンサ素子ユニット
110 貫通孔
200 ケース
300 充填樹脂
400 コンデンサ素子
410 第1電極(電極)
420 第2電極(電極)
500 第1バスバー
515 突出片(被係合部)
520 第1重なり部
524 第1孔
600 第2バスバー
620 第2重なり部
624 第2孔
700 絶縁板
717 第3孔
718 爪片(係合部)
BL 境界