(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】積層金属箔のレーザー溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/21 20140101AFI20241011BHJP
B23K 26/32 20140101ALI20241011BHJP
B23K 26/70 20140101ALI20241011BHJP
B23K 26/28 20140101ALI20241011BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/32
B23K26/70
B23K26/28
(21)【出願番号】P 2023001233
(22)【出願日】2023-01-06
【審査請求日】2024-08-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100138771
【氏名又は名称】吉田 将明
(72)【発明者】
【氏名】堤 太志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直也
(72)【発明者】
【氏名】大口 恒之
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-5768(JP,A)
【文献】特開2014-136242(JP,A)
【文献】国際公開第2021/132682(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/245053(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の銅系箔が積層された積層金属箔のレーザー溶接方法であって、
前記複数の銅系箔を上下に積層するステップと、
前記積層金属箔を青色レーザー溶接システム内の治具上に配置するステップと、
前記積層金属箔に青色レーザービームを方向決めして照射するステップと、
を有し、
前記青色レーザービームの照射後、前記積層金属箔の前記銅系箔の積層方向に沿う断面において、前記積層金属箔に生じた溶融領域付近の各々の前記積層方向に沿って隣接する前記銅系箔間の間隔は前記銅系箔の厚さよりも短い、
積層金属箔のレーザー溶接方法。
【請求項2】
前記治具は、前記複数の銅系箔が配置される扁平天頂面と、前記扁平天頂面から左右それぞれに略重力方向に傾斜する一対のテーパー面と、を有する、
請求項1に記載の積層金属箔のレーザー溶接方法。
【請求項3】
前記複数の銅系箔は、前記扁平天頂面および前記一対のテーパー面にわたって配置されるとともに、前記一対のテーパー面のそれぞれと対向配置されるクランプ部により固定される、
請求項2に記載の積層金属箔のレーザー溶接方法。
【請求項4】
前記青色レーザービームの照射後、前記断面において、前記積層金属箔を構成する前記複数の銅系箔間の間隔は略一定である、
請求項1に記載の積層金属箔のレーザー溶接方法。
【請求項5】
前記断面において、前記扁平天頂面の幅長と前記治具の底面の幅長との比率が3:5以上である、
請求項2に記載の積層金属箔のレーザー溶接方法。
【請求項6】
前記青色レーザービームの照射において、ウォブリングまたはウィービングを使用する、
請求項1に記載の積層金属箔のレーザー溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層金属箔のレーザー溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一対の金属板に挟持された積層金属箔を一対の金属板に溶接する積層金属箔の溶接方法が開示されている。具体的には、この溶接方法は、一対の金属板に挟持された積層金属箔を、溶接予定箇所において局所的に積層方向に押圧して加締める工程と、加締められた一対の金属板と積層金属箔とを、溶接予定箇所において溶接する工程と、を含む。特に、溶接する工程では、溶接予定箇所にレーザービームを照射して溶接し、レーザービームを照射することによって形成された溶融池から放出される熱放射光の強度に基づいて、レーザービームの照射条件をフィードバック制御し、熱放射光の強度に基づいて、一対の金属板および積層金属箔が載置された台座に溶融池が接触したことを検出し、台座に溶融池が接触したことを検出した場合、溶融池へのレーザービームの照射を終了する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示は、レーザー光の照射位置のずれおよび金属箔のばらつきに拘わらず、積層金属箔の表面に近い積層方向上端側から積層方向下端側までにわたって積層方向において隣接する各金属箔間の間隔を略一定にする積層金属箔のレーザー溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、複数の銅系箔が積層された積層金属箔のレーザー溶接方法であって、前記複数の銅系箔を上下に積層するステップと、前記積層金属箔を青色レーザー溶接システム内の治具上に配置するステップと、前記積層金属箔に青色レーザービームを方向決めして照射するステップと、を有し、前記青色レーザービームの照射後、前記積層金属箔の前記銅系箔の積層方向に沿う断面において、前記積層金属箔に生じた溶融領域付近の各々の前記積層方向に隣接する前記銅系箔間の間隔は前記銅系箔の厚さよりも短い、積層金属箔のレーザー溶接方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、レーザー光の照射位置のずれおよび金属箔のばらつきに拘わらず、積層金属箔の表面に近い積層方向上端側から積層方向下端側までにわたって積層方向において隣接する各金属箔間の間隔を略一定にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本実施の形態に係るレーザー溶接システムの構成例を示す概略図
【
図3】治具に積層金属箔をクランプする様子を示す図
【
図4】青色レーザービームによる積層金属箔へのレーザー溶接時の積層方向におけるかかる力のベクトル分解例を模式的に示す図
【
図5】積層金属箔のレーザー溶接の時系列の動作手順を模式的に示すプロセス図
【
図6】第1回目のレーザー溶接による溶融領域付近の中央断面を示す図
【
図7】第2回目のレーザー溶接による溶融領域付近の中央断面を示す図
【
図9】治具の形状に応じたレーザー溶接の結果例を対照的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
(本開示に至る経緯)
一般的に、銅を主成分とする銅系材料は高い反射率、高い熱伝導性および高い熱容量を有するため、銅系材料のレーザー溶接は非常に難しいことが知られている。銅系材料のレーザー溶接として、IR(Infrared)帯の波長を有する光を用いたIRレーザー溶接、超音波溶接等の溶接方法が開発されてきた。しかしながら、これらの溶接方法を用いたとしても銅系材料に対してタクトタイムを短縮化しながら高品質にレーザー溶接を行うことは依然として困難であると言われている。銅系材料を積層してレーザー溶接した結果物は、例えば電子機器もしくは自動運転車に搭載される二次電池(バッテリ)の電極として使用される。したがって、銅系材料に対して高品質に溶接する技術は、バッテリの生産を考慮すると必然と注目される。つまり、タクトタイムを短縮化しかつ優れた溶接品質を得るレーザー溶接技術が求められている。
【0009】
特許文献1の構成では、積層金属箔を構成する複数枚の金属箔のそれぞれの箔間の隙間を極小化するために加締め工程を行うことが避けられない。また、複数枚の金属箔が上下に積層された積層金属箔の上側から下側までを一対の金属板で挟持するため、金属箔のみを対象としてレーザー溶接することができないという課題があった。一方で、例えば金属箔を加締めて中空で(つまり、一対の金属板で挟持しない状態で)レーザー溶接しようとする場合、各金属箔間の溶着間隔にばらつきが生じ易くなる傾向がある。これは、加締める工程を経ることによって、加締める時の金属箔の積層のばらつきに起因して生じるためで、回避することが困難であった。金属箔の溶着間隔にばらつきが生じると、金属箔の集積率が悪化することによって、レーザー溶接によって形成された積層金属箔を収容する筐体が大型化し、その筐体への実装時に積層金属箔を基板等に固定する力の偏りが発生し、破断等の障害の可能性があった。
【0010】
以上の理由から、積層金属箔のレーザー溶接では、電気伝導度を良くするという観点では各金属箔間の溶着間隔にばらつきが生じずに略一定に収まることが望ましい。ところが、実際の生産現場(工程)では、レーザーの照射位置のズレが生じることがあったりワーク(積層金属箔)自体がばらついたりすることがある。レーザーの照射位置のズレが生じたりワーク(積層金属箔)自体がばらついたりすると、レーザーエネルギーの照射位置への伝送効率が悪化する。このため、レーザーの照射によって、各金属箔間の溶着間隔が一定に収束せずにばらつき易くなりがちである。このため、ワーク(積層金属箔)を構成する各金属箔の溶着間隔を一定に収めるようにレーザー溶接が可能となれば、銅系材料を対象として尤度の高い(言い換えると、高品質な)レーザー溶接を実現することが可能になり、上述した電気伝導度の観点においても理想的な溶融部の断面構造が得られる。
【0011】
そこで、以下の実施の形態では、レーザー光の照射位置のずれおよび金属箔のばらつきに拘わらず、積層金属箔の表面に近い積層方向上端側から積層方向下端側までにわたって積層方向において隣接する各金属箔間の間隔を略一定にする積層金属箔のレーザー溶接方法の例を説明する。
【0012】
以下、適宜図面を参照しながら、本開示に係る積層金属箔のレーザー溶接方法を具体的に開示した実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるものであり、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することは意図されていない。
【0013】
[用語の定義]
以下の説明において、「レーザー溶接」という用語は、別途明示的に説明しない限り、可能な限り広範な意味を有するものであり、溶接、はんだ付け、溶融精錬、接合、焼なまし、軟化、粘着付与、リサーフェシング、ピーニング、熱処理、融合、封止、積付けを含むとする。
【0014】
以下の説明において、「銅系材料」という用語は、別途明示的に説明しない限り、可能な限り広範な意味を有するものであり、銅、銅材料、銅金属、銅で電気めっきされている材料、少なくとも約10重量%から100重量%の銅を含有する金属材料、少なくとも約10重量%から100重量%の銅を含有する金属および合金、少なくとも約20重量%から100重量%の銅を含有する金属および合金、少なくとも約50重量%から100重量%の銅を含有する金属および合金、少なくとも約70重量%から100重量%の銅を含有する金属および合金、少なくとも約90重量%から100重量%の銅を含有する金属および合金、のいずれも含むとする。
【0015】
以下の説明において、「青色レーザービーム」、「青色レーザー」という用語は、別途明示的に説明しない限り、可能な限り広範な意味を有するものであり、概して、レーザービームを提供するシステム、レーザービーム、レーザー源(例えばダイオードレーザー)であって、約400nmから約500nmの波長を有するレーザービームまたは光を提供するもの、伝搬させるものをいう。
【0016】
[システム構成]
まず、
図1および
図2を参照して、本実施の形態に係る青色レーザー溶接システム100の構成例について説明する。
図1は、本実施の形態に係る青色レーザー溶接システム100の構成例を示す概略図である。
図2は、
図1のA-A線での断面を示す模式図である。以降の説明において、XYZ軸は
図1および
図2に示した方向と定義する。即ち、
図2における青色レーザービーム70が部分透過ミラー13に向かう方向をY方向、部分透過ミラー13から伝送ファイバ40に向かう方向をZ方向、Y方向およびZ方向と直交する方向をX方向と定義する。なお、Z方向は、集光レンズユニット20から出射される青色レーザービーム70の光軸方向に、青色レーザー溶接システム100の光学系の組立公差の範囲で一致している。
【0017】
図1に示すように、青色レーザー溶接システム100は、レーザー発振器10と、集光レンズユニット20と、レーザービーム出射ヘッド30と、伝送ファイバ40と、制御部50と、を備える。レーザー発振器10と、集光レンズユニット20と、伝送ファイバ40のレーザービーム入射部44(
図2参照)とは筐体60内に収容されている。ここで、本実施の形態では、積層金属箔をレーザー溶接する際に、青色(つまり、400nmから500nm)の波長を有するレーザー光(青色レーザービーム70)を使用している。これは、青色の波長を有する光は銅に対して高い吸収率(最大65%程度)を有する特性を持っているためである。
【0018】
レーザー発振器10は、複数のレーザーモジュール11と、ビーム合成器12と、を有している。なお、
図1ではレーザーモジュール11が4つ図示されているが、4つに限定されず、1つでもよい。1つのレーザーモジュール11で構成されている場合、ビーム合成器12の構成が簡略化可能である。レーザー発振器10は、複数のレーザーモジュール11のそれぞれから出射された異なる波長(400nm~500nmの範囲内で、例えば400nm、420nm、440nm、480nm等の異なる波長)のレーザービームをビーム合成器12で一つの青色レーザービーム70に波長合成する。レーザー発振器10を、DDL(Direct Diode Laser)発振器と称してもよい。また、レーザーモジュール11自体が複数のレーザダイオードからなっており、例えば、半導体レーザアレイで構成されている。
【0019】
図2に示すように、ビーム合成器12で波長合成された青色レーザービーム70は、集光レンズユニット20に配設された集光レンズ21で集光され、伝送ファイバ40に入射する。レーザー発振器10をこのような構成とすることで、レーザービーム出力が数kWを超える高出力の青色レーザー溶接システム100を得ることができる。また、ビーム合成器12は、その内部に、部分透過ミラー13と、出力光モニタ14と、を有している。
【0020】
部分透過ミラー13は、ビーム合成器12内で波長合成された青色レーザービーム70を集光レンズユニット20に向けて偏向する一方、青色レーザービーム70の一部(例えば、0.1%)を透過するように構成されている。
【0021】
出力光モニタ14は、部分透過ミラー13を透過した青色レーザービーム70を受光し、受光された青色レーザービーム70の光量に対応する検出信号を生成するようにビーム合成器12内に配設されている。また、レーザー発振器10は、図示しない電源装置から電力が供給されてレーザー発振を行う。
【0022】
集光レンズユニット20は、その内部に、集光レンズ21と、スライダ22と、反射光モニタ23と、を有している。集光レンズ21は、伝送ファイバ40の入射端面46において、伝送ファイバ40のコア41の径よりも小さいスポット径となるように青色レーザービーム70を集光する。スライダ22は、制御部50からの制御信号に応じて集光レンズ21をZ方向に自動で移動可能に保持している。スライダ22は、例えば、モータ(図示略)で駆動されるボールねじ(図示略)に連結され、ボールねじの回転に伴い、Z方向に移動する。なお、スライダ22は、光学系の初期位置調整時に、主にXY方向に移動し、焦点位置のシフト補償時にはZ方向に沿って移動する。XY方向へスライダ22が移動する際は手動でもよいし自動で移動してもよい。自動で移動する場合は、上述したボールねじ(図示略)等がスライダ22に連結される。反射光モニタ23は、伝送ファイバ40のレーザービーム入射部44で反射または散乱された青色レーザービーム70を受光して、受光された青色レーザービーム70の光量に対応する検出信号を生成する。また、集光レンズユニット20は、コネクタ24をさらに有する。コネクタ24には、伝送ファイバ40のレーザービーム入射部44が接続されている。また、コネクタ24は、伝送ファイバ40の入射端面46に接して設けられた石英ブロック25を保持している。石英ブロック25は、入射端面46を保護する機能を有している。
【0023】
伝送ファイバ40は、レーザー発振器10および集光レンズ21に光学的に結合され、集光レンズ21を介してレーザー発振器10から受け取った青色レーザービーム70をレーザービーム出射ヘッド30に伝送する。また、伝送ファイバ40は、青色レーザービーム70を伝送するコア41と、そのコア41の周囲に設けられて青色レーザービーム70をコア41内に閉じ込める機能を有するクラッド42と、クラッド42の表面を覆う被膜43と、を有している。また、伝送ファイバ40のレーザービーム入射部44にはモードストリッパ(図示略)が設けられている。なお、図示しないが、モードストリッパは、伝送ファイバ40のレーザービーム出射部にも設けられている。
【0024】
レーザービーム出射ヘッド30は、伝送ファイバ40で伝送された青色レーザービーム70を外部(例えば後述する積層金属箔)に向けて照射する。レーザービーム出射ヘッド30は、光学部品として、例えばコリメーションレンズと反射ミラーと集光レンズとレーザー光スキャナと、を有している。レーザービーム出射ヘッド30の筐体内に、これらの光学部品が所定の位置関係を保って収容されている(例えば特開2022-60808号公報の
図1および
図2参照)。
【0025】
コリメーションレンズは、伝送ファイバ40から出射された青色レーザービーム70を受け取って、平行光に変換して反射ミラーに入射させる。コリメーションレンズは、駆動部(図示略)に連結されており、制御部50からの制御信号に応じて、Y方向に変位可能に構成されている。コリメーションレンズをY方向に変位させることで、青色レーザービーム70の焦点位置を変化させ、ワーク(例えば積層金属箔)の形状に応じて適切に青色レーザービーム70を照射させることができる。つまり、コリメーションレンズは、駆動部(図示略)との組み合わせにより、青色レーザービーム70の焦点位置調整機構としても機能している。なお、集光レンズを駆動部(図示略)により変位させて、青色レーザービーム70の焦点位置を変化させるようにしてもよい。
【0026】
反射ミラーは、コリメーションレンズを透過した青色レーザービーム70を反射して、レーザー光スキャナに入射させる。反射ミラーの表面は、コリメーションレンズを透過した青色レーザービーム70の光軸と約45度をなすように設けられている。
【0027】
集光レンズは、反射ミラーで反射され、レーザー光スキャナで走査された青色レーザービーム70をワーク(例えば積層金属箔)の表面に集光させる。
【0028】
レーザー光スキャナは、第1のガルバノミラーと第2のガルバノミラーとを有する公知のガルバノスキャナである。第1のガルバノミラーは、第1のミラーと第1の回転軸と第1の駆動部とを有する。第2のガルバノミラーは、第2のミラーと第2の回転軸と第2の駆動部とを有している。集光レンズを透過した青色レーザービーム70は、第1のミラーで反射され、さらに第2のミラーで反射されて、ワーク(例えば積層金属箔)の表面に照射される。
【0029】
例えば、第1の駆動部および第2の駆動部は、ガルバノモータであり、第1の回転軸および第2の回転軸は、モータの出力軸である。図示していないが、第1の駆動部が、制御部50からの制御信号に応じて動作するドライバによって回転駆動することで、第1の回転軸に取り付けられた第1のミラーが第1の回転軸の軸線回りに回転する。同様に、第2の駆動部が、制御部50からの制御信号に応じて動作するドライバによって回転駆動することで、第2の回転軸に取り付けられた第2のミラーが第2の回転軸の軸線回りに回転する。
【0030】
第1のミラーが第1の回転軸の軸線回りに所定の角度まで回転動作をすることで、青色レーザービーム70がX方向に走査される。また、第2のミラーが第2の回転軸の軸線回りに所定の角度まで回転動作をすることで、青色レーザービーム70がZ方向に走査される。つまり、レーザー光スキャナは、青色レーザービーム70をXZ平面内で二次元的に走査してワーク(例えば積層金属箔)に向けて照射するように構成されている。
【0031】
レーザービーム出射ヘッド30は、光学部品として、例えばコリメーションレンズと反射ミラーと集光レンズとレーザー光スキャナと、を有している。レーザービーム出射ヘッド30の筐体内に、これらの光学部品が所定の位置関係を保って収容されている(例えば特開2022-60808号公報の
図1および
図2参照)。
【0032】
コリメーションレンズは、伝送ファイバ40から出射された青色レーザービーム70を受け取って、平行光に変換して反射ミラーに入射させる。コリメーションレンズは、駆動部(図示略)に連結されており、制御部50からの制御信号に応じて、Y方向に変位可能に構成されている。コリメーションレンズをY方向に変位させることで、青色レーザービーム70の焦点位置を変化させ、ワーク(例えば積層金属箔)の形状に応じて適切に青色レーザービーム70を照射させることができる。つまり、コリメーションレンズは、駆動部(図示略)との組み合わせにより、青色レーザービーム70の焦点位置調整機構としても機能している。なお、集光レンズを駆動部(図示略)により変位させて、青色レーザービーム70の焦点位置を変化させるようにしてもよい。
【0033】
反射ミラーは、コリメーションレンズを透過した青色レーザービーム70を反射して、レーザー光スキャナに入射させる。反射ミラーの表面は、コリメーションレンズを透過した青色レーザービーム70の光軸と約45度をなすように設けられている。
【0034】
集光レンズは、反射ミラーで反射され、レーザー光スキャナで走査された青色レーザービーム70をワーク(例えば積層金属箔)の表面に集光させる。
【0035】
レーザー光スキャナは、第1のガルバノミラーと第2のガルバノミラーとを有する公知のガルバノスキャナである。第1のガルバノミラーは、第1のミラーと第1の回転軸と第1の駆動部とを有する。第2のガルバノミラーは、第2のミラーと第2の回転軸と第2の駆動部とを有している。集光レンズを透過した青色レーザービーム70は、第1のミラーで反射され、さらに第2のミラーで反射されて、ワーク(例えば積層金属箔)の表面に照射される。
【0036】
例えば、第1の駆動部および第2の駆動部は、ガルバノモータであり、第1の回転軸および第2の回転軸は、モータの出力軸である。図示していないが、第1の駆動部が、制御部50からの制御信号に応じて動作するドライバによって回転駆動することで、第1の回転軸に取り付けられた第1のミラーが第1の回転軸の軸線回りに回転する。同様に、第2の駆動部が、制御部50からの制御信号に応じて動作するドライバによって回転駆動することで、第2の回転軸に取り付けられた第2のミラーが第2の回転軸の軸線回りに回転する。
【0037】
第1のミラーが第1の回転軸の軸線回りに所定の角度まで回転動作をすることで、青色レーザービーム70がX方向に走査される。また、第2のミラーが第2の回転軸の軸線回りに所定の角度まで回転動作をすることで、青色レーザービーム70がZ方向に走査される。つまり、レーザー光スキャナは、青色レーザービーム70をXZ平面内で二次元的に走査してワーク(例えば積層金属箔)に向けて照射するように構成されている。
【0038】
例えば、この青色レーザー溶接システム100を複数枚の銅系材料箔(以下、単に「銅箔」と略記)の溶接(例えば接合)に用いる場合、所定位置(例えば後述する治具JG1)の扁平天頂面TOP1を挟むように積層配置された複数枚の銅箔(積層金属箔の一例)に向けて青色レーザービーム70を出射する。
【0039】
制御部50は、レーザー発振器10のレーザー発振を制御する。具体的には、制御部50は、レーザー発振器10に接続された電源装置(図示略)に、出力およびオン時間等を制御することによりレーザー発振の制御を行う。また、制御部50は、レンズ移動制御部(図示略)を有してもよい。このレンズ移動制御部(図示略)は、反射光モニタ23および出力光モニタ14の検出信号を受けて、スライダ22を移動させ集光レンズ21が所期の位置に来るように調整する。なお、この青色レーザー溶接システム100を上述した複数枚の銅箔の溶接(例えば接合)に用いる場合、制御部50は、レーザービーム出射ヘッド30が取り付けられたマニピュレータ(図示略)の動作を制御してもよい。
【0040】
[積層金属箔の配置]
次に、
図3および
図4を参照して、本実施の形態に係る青色レーザー溶接システム100内の治具JG1上への積層金属箔LF50の配置について説明する。
図3は、治具JG1に積層金属箔LF50をクランプする様子を示す図である。
図4は、青色レーザービーム70による積層金属箔LF50へのレーザー溶接時の積層方向におけるかかる力のベクトル分解例を模式的に示す図である。本実施の形態では、一例として、積層金属箔LF50は、50枚の銅箔(厚さ10μm)が上下に積層して構成される。但し、積層金属箔LF50を構成する銅箔の枚数は50に限定されないし、銅箔の厚さも10μmに限定されないことは言うまでもない。
【0041】
積層金属箔LF50は、積層方向(上下方向もしくはY方向)に50枚の銅箔が積層された状態で治具JG1上に配置される。治具JG1は、一対のクランプ部CLL、CLRとともに、青色レーザービーム70の照射中に積層金属箔LF50を安定して支持および固定する役割を有する。治具JG1は、一対の平面部PLT1と、一対の平面部PLT1のそれぞれからY方向に突出した突出部PJ1と、が一体的に形成されている。突出部PJ1は、台形柱状に形成されており、台形柱の上面に相当する扁平天頂面TOP1と、扁平天頂面TOP1の両端から左右それぞれに略重力方向(つまり-Y方向)に傾斜する一対のテーパー面LTP1、RTP1とを有する。突出部PJ1の台形柱の下面は一対の平面部PLT1と面一に形成されている。なお、治具JG1の形状は、
図3に示す形状に限定されなくてよいが、
図3に示す形状以外の形状であっても、扁平天頂面TOP1と扁平天頂面TOP1の両端から傾斜する一対のテーパー面LTP、RTP1との両方が形成されることが必要となる。
【0042】
図3の例では、積層金属箔LF50は、テーパー面LTP1と扁平天頂面TOP1とテーパー面RTP1とにわたって治具JG1に固定(クランプ)されている様子が示されている。具体的には、積層金属箔LF50の一方(例えば左側)がクランプ部CLLによって時間的に先行して把持(固定)され、積層金属箔LF50の他方(例えば右側)がクランプ部CLRによって時間的に後に把持(固定)されている。このため、
図3に示すように、テーパー面LTP1への積層金属箔LF50の方がテーパー面RTP1への積層金属箔LF50よりも当接していることが分かる。なお、テーパー面RTP1への積層金属箔LF50の方がテーパー面LTP1への積層金属箔LF50よりも当接していても構わない。いずれにしても、積層金属箔LF50の最下層と扁平天頂面TOP1との間には若干の間隙が形成されている。
【0043】
図4では、
図3に示す積層金属箔LF50のうち、Z方向において扁平天頂面TOP1の幅長l1と同等の長さを有する部分のみを抜粋するように図示されている。治具JG1の突出部PJ1の扁平天頂面TOP1の幅長l1と治具JG1の突出部PJ1の底面の幅長l2との比率は3対5以上であって1対1未満であることが好ましい(
図9参照)。このようなテーパー面LTP1、RTP1を有する突出部PJ1に対して積層金属箔LF50が把持(固定)された状態で、青色レーザービーム70が積層金属箔LF50の上側(
図4参照)から下側(
図4参照)に向けて照射される。
【0044】
ここで、テーパー面LTP1、RTP1が突出部PJ1に設けられない直方体状の突出部に積層金属箔LF50が配置される場合を比較例として想定する(
図9参照)。この場合、積層金属箔LF50を直方体状の突出部に押し付ける各々の銅箔の引っ張り力は垂直方向(つまり-Y方向もしくは積層方向下向き)にしか発生しないと考えられる。
【0045】
ところが、本実施の形態では、テーパー面LTP1、RTP1が突出部PJ1に設けられる。このため、例えば
図4に示すテーパー面RTP1の位置で生じる積層金属箔LF50を台形柱状の突出部PJ1に押し付ける各々の銅箔の引っ張り力P1は垂直方向(例えば-Y方向のベクトルP1v)と水平方向(例えばZ方向のベクトルP1h)とに分散される。この水平方向の引っ張り力の作用により、各々の銅箔間の隙間がより一層低減あるいは除去されて一定値内に収束すると考えられる。ここでいう一定値とは、例えば銅箔の厚さ(例えば上述した10μm)未満の値であるが、銅箔の厚さの1/2未満の値でも構わない。つまり、本実施の形態では、青色レーザービーム70の照射により、積層金属箔LF50に形成される溶融領域(
図6から
図8参照)付近の銅箔間の隙間が、銅箔の厚さよりも小さい一定値(上述参照)に収束し、かつ、略等間隔となる。このように、テーパー面LTP1、RTP1が突出部PJ1に設けられた治具JG1に積層金属箔LF50が配置された状態で、青色レーザービーム70が積層金属箔LF50の上側(
図4参照)から下側(
図4参照)に向けて照射される。
【0046】
青色レーザービーム70の照射により、積層金属箔LF50の各々の銅箔が徐々に溶融され始め、溶融の結果として形成される溶融領域の上部側(つまり、テーパー面LTP1、RTP1から遠い側)から下部側(つまり、テーパー面LTP1、RTP1に近い側)に向かう程溶融領域(溶融容積)を左右方向(水平方向)に広げるように力が強く働く。つまり、青色レーザービーム70の照射に基づいて形成される溶融領域に生じる熱収縮の発生方向(具体的には、溶融領域の外周端部から中心部に向かう方向)とは相対的に逆方向の力F1、F2(
図6および
図7参照)が働くことによって、青色レーザービーム70の照射中における銅箔の浮動が抑制され、積層金属箔LF50の上部側(上述参照)から下部側(上述参照)にわたって溶融領域付近の銅箔間の隙間が短くなる。
【0047】
[積層金属箔のレーザー溶接]
次に、
図5から
図8を参照して、青色レーザービーム70による積層金属箔LF50のレーザー溶接の時系列の動作手順について説明する。
図5は、積層金属箔のレーザー溶接の時系列の動作手順を模式的に示すプロセス図である。
図6は、第1回目のレーザー溶接による溶融領域付近の中央断面を示す図である。
図7は、第2回目のレーザー溶接による溶融領域付近の中央断面を示す図である。
図8は、
図7の溶融領域付近の拡大図である。
図5に示す時系列の動作手順は、青色レーザー溶接システム100を用いた積層金属箔LF50のレーザー溶接方法を示す。
【0048】
図5において、治具JG1の突出部PJ1の扁平天頂面TOP1上に複数枚(例えば50枚)の銅箔が積層されるように配置される(ステップSt1)。なお、
図5では図示が省略されているが、複数枚(例えば50枚)の銅箔が扁平天頂面TOP1上に配置された後、クランプ部CLL、CLR(
図3参照)によってテーパー面LTP1、扁平天頂面TOP1、テーパー面RTP1に沿うように把持(固定)される。このステップSt1の後、青色レーザー溶接システム100のレーザービーム出射ヘッド30から、青色レーザービーム70(青色レーザー光)の照射方向を積層金属箔LF50の上側に対して垂直に向くように方向決めし、その後、青色レーザービーム70(青色レーザー光)が積層金属箔LF50の上側から下側に向けて照射される(ステップSt2)。これにより、積層金属箔LF50を構成する各々の銅箔において、青色レーザービーム70が照射された部分が徐々に溶融していく。
【0049】
青色レーザービーム70の照射終了後、積層金属箔LF50の銅箔の溶融が収束して凝固が開始する(ステップSt3)。青色レーザービーム70の照射によって、積層金属箔LF50の各々の銅箔間の隙間(特に積層金属箔LF50のテーパー面LTP1、RTP1に近い側)が照射前の積層金属箔LF50の各々の銅箔間の隙間(特に積層金属箔LF50のテーパー面LTP1、RTP1に近い側)と比べて狭くなっている。つまり、
図4を参照して説明したように、扁平天頂面TOP1から一対のテーパー面LTP1、RTP1へとわたって配置された各々の銅箔が溶融する際に水平方向(
図4参照)への引っ張り力によって、青色レーザービーム70の照射中における銅箔の浮動が抑制され、銅箔間の隙間が狭く(短く)なっている。さらに、積層金属箔LF50の溶融領域MLT1(
図6参照)の全体において青色レーザービーム70の照射による熱収縮に抗う(言い換えると、熱収縮の発生方向(溶融領域の中心側に向かう方向)の逆向きに生じる)力F1、F2が発生し始めている。
【0050】
積層金属箔LF50の銅箔の凝固が収束すると、積層金属箔LF50へのレーザー溶接は終了する(ステップSt4)。このステップSt4の時点(つまり凝固収束時)では、ステップSt3の時点(溶融中~凝固開始時)に比べて、積層金属箔LF50の各々の銅箔間の隙間(特に積層金属箔LF50のテーパー面LTP1、RTP1に近い側)が照射前の積層金属箔LF50の各々の銅箔間の隙間(特に積層金属箔LF50のテーパー面LTP1、RTP1に近い側)と比べてさらに狭くなっている。さらに、ステップSt3の時点よりも、積層金属箔LF50の溶融領域MLT1(
図6参照)の全体において青色レーザービーム70の照射による熱収縮に抗う(言い換えると、熱収縮の発生方向(上述参照)の逆方向に生じる)力F1、F2によって、積層金属箔LF50の上部側(つまり、テーパー面LTP1、RTP1から遠い側)から下部側(つまり、テーパー面LTP1、RTP1に近い側)にわたって溶融領域MLT1(
図6参照)付近の隣接する銅箔間の隙間が短くなる構造が得られる。つまり、積層金属箔LF50の銅箔の積層方向に沿う断面において、溶融領域MLT1(
図6参照)の形状が立体的に寸胴状となるような断面形状が得られる。なお、溶融領域の幅が積層方向にわたって全体的に狭いと実装時にかかる外力で銅箔が破断する可能性があるが、積層金属箔LF50の溶融領域MLT1(
図6参照)の中央部分は、電子機器あるいは電気自動車等に搭載されるバッテリの生産(製造)の実装時に外力が加わり難いため、積層金属箔LF50の上部や下部と比べて狭くても構わない。
【0051】
例えば
図6に示すように、第1回目の青色レーザービーム70によるレーザー溶接の結果として、積層金属箔LF50の銅箔の積層方向に沿う断面において、積層金属箔LF50の溶融領域MLT1(
図6参照)付近の上部側UPP1から下部側BTM1に向かって隣接する銅箔間の間隔は銅箔の厚さよりも短くなっている。これは、青色レーザービーム70の照射による熱収縮の際に、テーパー面LTP1、RTP1に近い側の銅箔ほど銅箔を水平方向に引っ張る力が相対的に強く働き、熱収縮による内向きの力を相殺して銅箔の間隔が崩れる(広がる)ことが抑制されることによると考えられる。したがって、積層金属箔LF50の銅箔の積層方向に沿う断面において、積層金属箔LF50の溶融領域MLT1(
図6参照)付近の上部側UPP1から下部側BTM1に向かって隣接する銅箔間の間隔は略一定に収束している(言い換えると、略等間隔になっている)。
【0052】
例えば
図7に示すように、再現性を確認するための第2回目の青色レーザービーム70によるレーザー溶接の結果として、積層金属箔LF50の銅箔の積層方向に沿う断面において、積層金属箔LF50の溶融領域MLT1(
図7参照)付近の上部側UPP1から下部側BTM1に向かって隣接する銅箔間の間隔は第1回目のレーザー溶接と同様に銅箔の厚さよりも短くなっている。これも、第1回目のレーザー溶接時と同様に青色レーザービーム70の照射による熱収縮の際に、テーパー面LTP1、RTP1に近い側の銅箔ほど銅箔を水平方向に引っ張る力が相対的に強く働き、熱収縮による内向きの力を相殺して銅箔の間隔が崩れる(広がる)ことが抑制されることによると考えられる。したがって、積層金属箔LF50の銅箔の積層方向に沿う断面において、積層金属箔LF50の溶融領域MLT1(
図6参照)付近の上部側UPP1から下部側BTM1に向かって隣接する銅箔間の間隔は略一定に収束している(言い換えると、略等間隔になっている)。
【0053】
図8には、
図7に示すレーザー溶接の結果として形成された溶融領域MLT1が拡大して図示されている。溶融領域MLT1には、積層方向に積層された銅箔が溶融して一体的に接合した溶融部分の外周縁に相当する溶融境界部MLTL1が形成されている。この溶融境界部MLTL1の付近の積層方向に隣接する銅箔LFL1、LFL2、LFL3、…、LFL41、LFL42、LFL43、…間の間隔(長さ)は、各々の銅箔の厚さ(例えば10μm)よりも短い。つまり、銅箔LFL1、LFL2、LFL3、…、LFL41、LFL42、LFL43、…間の間隔(長さ)は、略一定に収束している(言い換えると、略等間隔になっている)。ここでいう略等間隔とは、等間隔を含む概念であり、以下の説明においても同様である。
【0054】
また、溶融領域MLT1には、積層方向に積層された銅箔が溶融して一体的に接合した溶融部分の外周縁に相当する溶融境界部MLTR1が形成されている。この溶融境界部MLTR1の付近の積層方向に隣接する銅箔LFR1、LFR2、LFR3、…、LFR41、LFR42、LFR43、…間の間隔(長さ)は、各々の銅箔の厚さ(例えば10μm)よりも短い。つまり、銅箔LFR1、LFR2、LFR3、…、LFR41、LFR42、LFR43、…間の間隔(長さ)は、略一定に収束している(言い換えると、略等間隔になっている)。
【0055】
次に、
図9を参照して、治具JG1の形状(特にテーパー面)の形状に応じたレーザー溶接の結果例について対照的に説明する。
図9は、治具の形状に応じたレーザー溶接の結果例を対照的に示す図である。
図9では、例えば3種類の形状を選択してレーザー溶接の実験を行った結果が表に纏められて示されている。
【0056】
例えばサンプル#1では、ベース形状(つまり治具の形状)が直方体状であってテーパー面が存在していない場合にウォブリング(例えば幅600μmであって周波数300Hz)によるレーザー溶接が行われた結果、溶融領域の表面(つまり積層金属箔LF50の上側)に穴あきが生じたことが分かった。ここで、ウォブリングとは、溶接する部位に対して円、楕円といったウォブリングパターンを高速で描く溶接手法である。このウォブリングにより、溶融状態を安定させ、溶接品質を向上させることが可能である。その一方で、ウォブリング手法を用いたとしても、ワークが直方体状の形状を有する場合には穴あきが発生することもある。このため、治具の形状が直方体状であれば、複数枚の銅箔を積層した積層金属箔に対して高品質なレーザー溶接を行うことは困難である。
【0057】
例えばサンプル#2では、ベース形状(つまり治具の突出部の形状)が直方体状でなく台形柱状であってテーパー面が存在する場合にレーザー溶接が行われた結果、溶融領域の表面(つまり積層金属箔LF50の上側)に穴あきが生じずに適切にレーザー溶接を行うことができたことが分かった。例えばサンプル#2の突出部の上辺と下辺との幅長の比率は4:5である。このため、治具の突出部に上辺と下辺との幅長の比率が「3:5から1:1」を満たすテーパー面が形成されていれば、複数枚の銅箔を積層した積層金属箔に対して高品質なレーザー溶接を行うことが可能である。
【0058】
例えばサンプル#3では、ベース形状(つまり治具の突出部の形状)が直方体状でなく台形柱状であってテーパー面が存在する場合にレーザー溶接が行われた結果、溶融領域の表面(つまり積層金属箔LF50の上側)に穴あきが生じずに適切にレーザー溶接を行うことができたことが分かった。例えばサンプル#2の突出部の上辺と下辺との幅長の比率は3:5である。このため、治具の突出部に上辺と下辺との幅長の比率が「3:5から1:1」を満たすテーパー面が形成されていれば、複数枚の銅箔を積層した積層金属箔に対して高品質なレーザー溶接を行うことが可能である。
【0059】
以上により、本実施の形態に係る積層金属箔のレーザー溶接方法は、複数の銅系箔を上下に積層するステップと、積層金属箔LF50を青色レーザー溶接システム100内の治具JG1上に配置するステップと、積層金属箔LF50に青色レーザービームを方向決めして照射するステップと、を有する。青色レーザービームの照射後、積層金属箔LF50の銅系箔の積層方向に沿う断面において、積層金属箔LF50に生じた溶融領域MLT1付近の各々の積層方向に沿って隣接する銅箔間の間隔は銅箔の厚さよりも短い。これにより、積層金属箔のレーザー溶接方法によれば、青色レーザー光(青色レーザービーム70)の照射位置のずれおよび金属箔のばらつきの有無に拘わらず、積層金属箔LF50の表面に近い積層方向上端側から積層方向下端側までにわたって積層方向において隣接する各銅箔(金属箔)間の間隔を略一定(一定も概念的に含む)にすることができる。したがって、従来レーザー溶接が困難と言われてきた銅系材料に対して高品質なレーザー溶接をタクトタイムの短縮を行いながら実現することが可能となる。
【0060】
また、治具(治具JG1)の突出部PJ1は、複数の銅系箔が配置される扁平天頂面TOP1と、扁平天頂面TOP1から左右それぞれに略重力方向に傾斜する一対のテーパー面LTP1、RTP1と、を有する。これにより、積層金属箔のレーザー溶接方法によれば、積層金属箔LF50を構成する各々の銅箔間の隙間(特にテーパー面LTP1、RTP1に近い側))がより一層低減あるいは除去可能となる。
【0061】
また、複数の銅系箔は、扁平天頂面TOP1および一対のテーパー面LTP1、RTP1にわたって配置されるとともに、一対のテーパー面LTP1、RTP1のそれぞれと対向配置されるクランプ部CLL、CLRにより固定される。これにより、積層金属箔のレーザー溶接方法によれば、青色レーザービーム70が積層金属箔LF50に照射される間、積層金属箔LF50が安定して把持されることにより、溶接品質の劣化(例えば穴あき、溶接ビードの欠損等の外観乱れの発生)をすることなく溶融領域が適切に形成される。
【0062】
また、青色レーザービーム70の照射後、断面(積層金属箔LF50の銅系箔の積層方向に沿う断面)において、積層金属箔LF50を構成する複数の銅箔間の間隔は略一定(一定も概念的に含む)である。これにより、積層金属箔のレーザー溶接方法によれば、積層金属箔LF50の銅箔の積層方向に沿う断面において、溶融領域MLT1を中心として溶融(熱収縮)かつ凝固した後の積層金属箔LF50の形状が立体的に寸胴状となるような断面形状が得られ、集積率の低下が抑えられるだけでなく、電気伝導度の劣化が生じ難い構造が得られ、高品質なレーザー溶接成果物を得ることができる。
【0063】
また、断面(積層金属箔LF50の銅系箔の積層方向に沿う断面)において、扁平天頂面TOP1の幅長(幅長l1)と治具JG1の突出部PJ1の底面の幅長(幅長l2)との比率が3:5以上である。これにより、積層金属箔のレーザー溶接方法によれば、青色レーザービーム70が照射されて形成される溶融領域に穴あき等の溶接不良が生じなく、高品質なレーザー溶接を行うことができる。
【0064】
また、青色レーザービームの照射において、ウォブリングまたはウィービングを使用する。ここで、ウィービングとは、青色レーザービーム70を溶接線に対して左右に揺動させながらレーザー溶接を進める溶接手法である。これにより、ウォブリングを使用した場合には、青色レーザービーム70が照射されたことで形成される溶融領域MLT1の溶融状態を安定させることができ、溶接品質を向上させることが可能である。また、ウィービングを使用した場合には、少ないパス回数(言い換えると、溶接回数)でレーザー溶接を行うことができ、レーザー溶接全体のタクトタイムの低減を行うことができる。
【0065】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本開示はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例、修正例、置換例、付加例、削除例、均等例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述した各種の実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示は、レーザー光の照射位置のずれおよび金属箔のばらつきに拘わらず、積層金属箔の表面に近い積層方向上端側から積層方向下端側までにわたって積層方向において隣接する各金属箔間の間隔を略一定にする積層金属箔のレーザー溶接方法として有用である。
【符号の説明】
【0067】
10 レーザー発振器
11 レーザーモジュール
12 ビーム合成器
13 部分透過ミラー
20 集光レンズユニット
40 伝送ファイバ
41 コア
42 クラッド
43 被膜
44 レーザービーム入射部
50 制御部
70 レーザービーム
100 青色レーザー溶接システム
CLL、CLR クランプ部
LF50 積層金属箔
LTP1、RTP1 テーパー面
MLT1 溶融領域
TOP1 扁平天頂面