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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20241011BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20241011BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20241011BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/02
C08L1/02
C08L23/26
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019195662
(22)【出願日】2019-10-28
(65)【公開番号】P2020076082
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-06-06
(31)【優先権主張番号】P 2018210046
(32)【優先日】2018-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 直弥
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓造
(72)【発明者】
【氏名】野末 章浩
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-033441(JP,A)
【文献】国際公開第2020/095512(WO,A1)
【文献】特開2016-216605(JP,A)
【文献】特開2007-056176(JP,A)
【文献】特開2018-154671(JP,A)
【文献】特開2016-094540(JP,A)
【文献】特開2010-265357(JP,A)
【文献】特開2012-236906(JP,A)
【文献】特開2019-183022(JP,A)
【文献】特開2019-151692(JP,A)
【文献】サンワックス 151-P,https://www.sanyo-chemical.co.jp/products/184/
【文献】サンワックス 161-P,https://www.sanyo-chemical.co.jp/products/185/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1熱可塑性樹脂と、第2熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、を含有する樹脂組成物であって、
前記第1熱可塑性樹脂の含有量は、前記樹脂組成物の全質量に対して、30質量%以上95質量%以下の範囲内であり、
前記第2熱可塑性樹脂の含有量は、前記樹脂組成物の全質量に対して、0.1質量%以上30質量%以下の範囲内であり、
前記セルロース繊維の含有量は、前記樹脂組成物の全質量に対して、1質量%以上40質量%以下の範囲内であり、
前記第1熱可塑性樹脂の重量平均分子量よりも、前記第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量が小さく、
前記第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量が10000以上30000以下の範囲内であり、
前記第1熱可塑性樹脂及び前記第2熱可塑性樹脂がポリオレフィンであり、
前記セルロース繊維の平均繊維長が0.001mm以上0.1mm以下の範囲内である、
樹脂組成物。
【請求項2】
分散剤を更に含有する、
請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記分散剤が、無水マレイン酸変性ポリオレフィンである、
請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が45000以下である、
請求項3に記載の樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、一般に樹脂組成物に関し、より詳細にはセルロース繊維を含有する樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、複合樹脂成型体を開示する。この複合樹脂成型体は、主剤樹脂、有機繊維状フィラー及び分散剤を含有する溶融混練物からなる。ここで、有機繊維状フィラーは、セルロースが含まれたセルロース類である。そして、複合樹脂成型体中には炭化した有機繊維状フィラーが特定の割合で存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-210595号公報(段落[0012]及び[0040])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の複合樹脂成型体では、分散剤として、無水マレイン酸変性ポリオレフィン又は不飽和炭化水素系シランカップリング剤などが使用されている。このような分散剤が使用された複合樹脂成型体では、剛性及び外観については更なる改良の余地がある。
【0005】
本開示の目的は、剛性及び良好な外観を兼備する成形品を得ることができる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様に係る樹脂組成物は、第1熱可塑性樹脂と、第2熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、を含有する。前記第1熱可塑性樹脂の重量平均分子量よりも、前記第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量が小さい。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、剛性及び良好な外観を兼備する成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(1)概要
本実施形態に係る樹脂組成物は、第1熱可塑性樹脂と、第2熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、を含有する。第1熱可塑性樹脂の重量平均分子量よりも、第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量が小さい。この樹脂組成物を成形材料として、射出成形等の成形方法を使用することにより成形品が得られる。この成形品は、剛性及び良好な外観を兼備する。すなわち、低分子量の第2熱可塑性樹脂によって、高分子量の第1熱可塑性樹脂中におけるセルロース繊維を均一に分散させることができる。セルロース繊維が均一に分散することで、成形品に剛性及び良好な外観を付与することができる。
【0009】
このように、本実施形態に係る樹脂組成物によれば、剛性及び良好な外観を兼備する成形品を得ることができる。
【0010】
(2)詳細
(2.0)樹脂組成物
本実施形態に係る樹脂組成物は、セルロース繊維複合樹脂である。すなわち、樹脂組成物は、第1熱可塑性樹脂と、第2熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、を含有する。第1熱可塑性樹脂及び第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量(Mw)には大小関係がある。具体的には、第1熱可塑性樹脂の重量平均分子量よりも、第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量が小さい。第1熱可塑性樹脂及び第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)により得られるポリスチレン換算の相対値である。樹脂組成物は、分散剤を更に含有してもよい。樹脂組成物は、エラストマーを更に含有してもよい。樹脂組成物の常温での形態は、例えば、球形、円柱形又は角柱形のペレットである。以下、第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂、セルロース繊維、分散剤及びエラストマーについて順に説明する。
【0011】
(2.1)第1熱可塑性樹脂
第1熱可塑性樹脂は、樹脂組成物における母材(主要材料)となり得る。第1熱可塑性樹脂は特に限定されない。第1熱可塑性樹脂の具体例として、ポリオレフィン(環状ポリオレフィンも含む)、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリカーボネート及びポリサルフォンが挙げられる。
【0012】
上記に列挙した中でも、特にポリオレフィンが低比重である点で好ましい。すなわち、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)などのポリオレフィンは比重が小さいため、セルロース繊維との複合化で、軽量かつ高剛性の成形品を成形可能な樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0013】
なお、ポリプロピレン(PP)の概念には、ホモポリマー、ランダムコポリマー及びブロックコポリマーが含まれる。ホモポリマーは、プロピレンの単独重合体である。ランダムコポリマー及びブロックコポリマーは、プロピレンと、エチレンなどのモノマーとの共重合体である。
【0014】
第1熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは45000以上1000000以下の範囲内であり、より好ましくは45000以上300000以下の範囲内である。第1熱可塑性樹脂の重量平均分子量が45000以上であることで、成形品の剛性の低下を抑制することができる。第1熱可塑性樹脂の重量平均分子量が1000000以下であることで、成形時における流動性が高くなり過ぎず、成形品が得られやすくなる。
【0015】
好ましくは、第1熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して30質量%以上95質量%以下の範囲内である。第1熱可塑性樹脂の含有量が30質量%以上であることで、成形品の軽量化を実現し得る。この場合、第1熱可塑性樹脂は、低比重素材であるポリオレフィンを含むことがより好ましい。第1熱可塑性樹脂の含有量が95質量%以下であることで、成形品の剛性の低下を抑制することができる。なお、剛性は、例えば曲げ剛性を意味する。
【0016】
(2.2)第2熱可塑性樹脂
第2熱可塑性樹脂は、分散剤と同様の機能を有し得る。このように、第2熱可塑性樹脂は、分散剤の代替物となり得る。したがって、第2熱可塑性樹脂を使用すれば、分散剤を使用する必要性は特にない。ただし、第2熱可塑性樹脂と分散剤との併用を排除する趣旨ではない。
【0017】
第2熱可塑性樹脂は特に限定されない。第2熱可塑性樹脂の具体例として、ポリオレフィン(環状ポリオレフィンも含む)、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、ナイロン、ポリビニルエーテル、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリカーボネート及びポリサルフォンが挙げられる。
【0018】
上記に列挙した中でも、特にポリオレフィンが低比重である点で好ましい。すなわち、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)などのポリオレフィンは比重が小さいため、セルロース繊維との複合化で、軽量かつ高剛性の成形品を成形可能な樹脂組成物を容易に得ることができる。
【0019】
第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、第1熱可塑性樹脂の重量平均分子量よりも小さい。低分子量の第2熱可塑性樹脂によって、高分子量の第1熱可塑性樹脂中におけるセルロース繊維を均一に分散させることができる。これにより、成形品に剛性及び良好な外観を付与することができる。
【0020】
より詳細には、成形品の剛性が向上する理由の1つは、低分子量の第2熱可塑性樹脂によって、樹脂組成物の結晶性が高くなるためである、と推測される。また成形品の外観が良好になる理由の1つは、低分子量の第2熱可塑性樹脂によって、セルロース繊維の解繊度が向上し、光の乱反射が起こりにくくなるためである、と推測される。なお、良好な外観とは、成形品を見たときにセルロース繊維を目視で認識しにくいことを意味する。より具体的には「実施例」の項に記載の外観評価の基準で、S評価及びA評価を意味する。
【0021】
第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、好ましくは80000以下であり、より好ましくは60000以下であり、さらに好ましくは43000以下であり、さらにより好ましくは30000以下であり、特に好ましくは20000以下であり、最も好ましくは13000以下である。このような分子サイズの第2熱可塑性樹脂であれば、セルロース繊維の分散性を更に向上させることができる。なお、第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量の下限値は特に限定されないが、例えば3000以上である。
【0022】
第2熱可塑性樹脂の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下の範囲内であり、より好ましくは1質量%以上30質量%以下の範囲内である。第2熱可塑性樹脂の含有量が0.1質量%以上であることで、成形品の軽量化を実現し得る。この場合、第2熱可塑性樹脂は、低比重素材であるポリオレフィンを含むことがより好ましい。第2熱可塑性樹脂の含有量が1質量%以上であることで、成形品の外観がより良好になる。第2熱可塑性樹脂の含有量が30質量%以下であることで、成形品の剛性の低下を抑制することができる。
【0023】
好ましくは、第1熱可塑性樹脂と第2熱可塑性樹脂とは同種の樹脂である。一般に熱可塑性樹脂の分子は、基本単位であるモノマーが多数連結した鎖状の構造を有している。したがって、第1熱可塑性樹脂と第2熱可塑性樹脂とが同種の樹脂であるとは、基本単位のモノマーの種類(化学構造)が同じであることを意味する。例えば、第1熱可塑性樹脂がポリプロピレンであれば、第2熱可塑性樹脂もポリプロピレンであることが好ましい。このように、第1熱可塑性樹脂と第2熱可塑性樹脂とが同種の樹脂であることで、相分離を抑制することができる。
【0024】
好ましくは、第1熱可塑性樹脂及び第2熱可塑性樹脂の両方がポリオレフィンである。両者が同種の樹脂であることで、相分離を抑制することができる。さらには同種の樹脂がポリオレフィンであることで、第1熱可塑性樹脂又は第2熱可塑性樹脂のいずれかのみがポリオレフィンである場合に比べて、成形品の更なる軽量化を実現することができる。
【0025】
(2.3)セルロース繊維
セルロース繊維は、成形品に剛性を付与し得る。セルロース繊維は、木材及び植物等から得られる。より具体的には、セルロース繊維は、木材類、パルプ類、紙類、植物茎・葉類及び植物殻類から選ばれる1種又は2種以上のセルロース含有原料を粉砕機で処理して得ることができる。具体的には、セルロース含有原料を、必要により、シュレッダー等の裁断機を利用して粗粉砕を行ってから、衝撃式の粉砕機又は押出機による処理を行ったり、乾燥処理を行ったりする。その後、媒体式の粉砕機を用いて攪拌することで、微細化されたセルロース繊維を得ることができる。
【0026】
好ましくは、セルロース繊維の平均繊維長は、0.001mm以上0.1mm以下の範囲内である。平均繊維長が0.001mm以上であることで、成形品の剛性を向上させることができる。平均繊維長が0.1mm以下であることで、セルロース繊維の分散性の低下を抑制することができる。なお、セルロース繊維の平均繊維長は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径(50%累積粒径:d50)を意味する。
【0027】
好ましくは、セルロース繊維の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上40質量%以下の範囲内である。セルロース繊維の含有量が1質量%以上であることで、成形品の剛性を向上させることができる。セルロース繊維の含有量が40質量%以下であることで、成形品の耐衝撃性の低下を抑制することができる。
【0028】
(2.4)分散剤
上述のように、樹脂組成物は、分散剤を更に含有してもよい。分散剤は、疎水性の第1熱可塑性樹脂と、親水性のセルロース繊維とを均一に分散させる機能を有する。このような機能を有するものであれば、分散剤は、特に限定されない。樹脂組成物が分散剤を更に含有することで、セルロース繊維の分散性を更に向上させることができる。
【0029】
好ましくは、分散剤は、無水マレイン酸変性ポリオレフィンである。無水マレイン酸変性ポリオレフィンの好適例として、三洋化成工業株式会社製「ユーメックスシリーズ」及びBYK社製「PRIEXシリーズ」及び「SCONAシリーズ」が挙げられる。
【0030】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンは、疎水性のポリオレフィンセグメントと、親水性の無水マレイン酸セグメントとを有する。ポリオレフィンセグメントは、第1熱可塑性樹脂(特にポリオレフィン)との親和性があり、無水マレイン酸セグメントは、セルロース繊維との親和性がある。したがって、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを第1熱可塑性樹脂に添加することによって、セルロース繊維の分散性を向上させることができる。このように、第1熱可塑性樹脂中におけるセルロース繊維同士の相互作用による凝集が、無水マレイン酸変性ポリオレフィンによって抑制されることで、成形品の剛性が向上する。さらに無水マレイン酸変性ポリオレフィンによって、第1熱可塑性樹脂とセルロース繊維との密着性も向上すると考えられる。そして、この密着性の向上が、成形品の剛性向上に寄与していると推測される。
【0031】
無水マレイン酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、好ましくは45000以下、より好ましくは20000以下である。このことにより、セルロース繊維の分散性を更に向上させることができる。無水マレイン酸変性ポリオレフィンは低分子量であるほど、セルロース繊維の分散性を向上させることができる。その理由は、高分子量の無水マレイン酸変性ポリオレフィンと比較して、低分子量の無水マレイン酸変性ポリオレフィンは、分子サイズが小さく、流動性が高いことにより、効率的にセルロース繊維の極性基(ヒドロキシ基など)と反応するからである、と推定される。無水マレイン酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量の下限値は、特に限定されないが、5000である。なお、無水マレイン酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ分析(GPC)により得られるポリスチレン換算の相対値である。
【0032】
好ましくは、分散剤の含有量は、樹脂組成物の全質量に対して1質量%以上10質量%以下の範囲内である。分散剤の含有量が1質量%以上であることで、第1熱可塑性樹脂とセルロース繊維との相容性を向上させることができ、成形品の剛性を向上させることができる。分散剤の含有量が10質量%以下であることで、成形品の剛性の低下を抑制することができる。
【0033】
(2.5)エラストマー
エラストマーは、成形品に耐衝撃性を付与し得る。エラストマーは、熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーとに大別されるが、好ましくは熱可塑性エラストマーである。
【0034】
熱可塑性エラストマーは、加熱すると軟化して流動性を示し、冷却するとゴム状に戻る性質を持つエラストマーである。熱可塑性エラストマーの具体例として、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPC)、アミド系熱可塑性エラストマー(TPA)及びブタジエン系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0035】
熱可塑性エラストマーの中でも、低温物性に優れている点で、スチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン成分及びブタジエン成分を有するブロックコポリマーである。このスチレン系熱可塑性エラストマーは、第1熱可塑性樹脂との相容性に優れているので、成形品の耐衝撃性の改良に効果がある。
【0036】
さらにスチレン系熱可塑性エラストマーの中でも、水添スチレン系熱可塑性エラストマーがより好ましい。水添スチレン系熱可塑性エラストマーは、スチレン及びブタジエンからなるブロックコポリマーを水素添加したポリマーである。この水添スチレン系熱可塑性エラストマーの好適例として、旭化成株式会社製「タフテックHシリーズ」及び「タフテックPシリーズ」が挙げられる。これらのエラストマーは、幅広い温度領域でゴム弾性を示す。したがって、このエラストマーが樹脂組成物に含有されていると、仮に第1熱可塑性樹脂が低温で脆いものであったとしても、その第1熱可塑性樹脂の脆化温度を低下させることで、成形品の耐衝撃性の低下を抑制することができる。特にポリプロピレンの改質に有効である。
【0037】
好ましくは、エラストマーの含有量は、樹脂組成物の全質量に対して3質量%以上15質量%以下の範囲内である。エラストマーの含有量が3質量%以上であることで、成形品の耐衝撃性を向上させることができる。エラストマーの含有量が15質量%以下であることで、成形品の剛性の低下を抑制することができる。
【0038】
(2.6)樹脂組成物の製造方法
樹脂組成物(ペレット)は、次のように乾式法により製造することができる。すなわち、第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を2軸混練押出機等の混練押出機内に投入する。投入前にセルロース繊維は、変性処理(疎水化処理)されていなくてもよい。必要に応じて分散剤及びエラストマーも混練押出機内に投入する。混練押出機内で第1熱可塑性樹脂及び第2熱可塑性樹脂が溶融し、低分子量の第2熱可塑性樹脂によって、高分子量の第1熱可塑性樹脂内にセルロース繊維が分散する。さらに混練押出機内でセルロース繊維が剪断作用を受けて凝集塊の解繊が促進され、セルロース繊維が第1熱可塑性樹脂中に更に均一に分散される。混練押出機から押し出された溶融混練物は、例えば水冷され、ペレットとなる。ペレットの寸法は特に限定されない。
【0039】
(2.7)成形品の製造方法
樹脂組成物(ペレット)を成形材料として、射出成形、押出成形及び注型成形等の公知の成形方法を使用することにより、各種の成形品を製造することができる。樹脂組成物は、第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を含有しているので、得られた成形品は、剛性及び良好な外観を兼備している。したがって、成形品は、例えば家電構造材への適用が可能である。すなわち、成形品は、ハンディタイプの家電製品の部品(例えば掃除機本体)などとして好適である。
【0040】
(3)まとめ
上記実施形態から明らかなように、本開示は、下記の態様を含む。
【0041】
第1の態様に係る樹脂組成物は、第1熱可塑性樹脂と、第2熱可塑性樹脂と、セルロース繊維と、を含有する。前記第1熱可塑性樹脂の重量平均分子量よりも、前記第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量が小さい。
【0042】
この態様によれば、剛性及び良好な外観を兼備する成形品を得ることができる。
【0043】
第2の態様に係る樹脂組成物は、第1の態様において、前記第2熱可塑性樹脂の重量平均分子量が80000以下である。
【0044】
この態様によれば、セルロース繊維の分散性を更に向上させることができる。
【0045】
第3の態様に係る樹脂組成物は、第1又は2の態様において、前記第1熱可塑性樹脂と前記第2熱可塑性樹脂とは同種の樹脂である。
【0046】
この態様によれば、第1熱可塑性樹脂と第2熱可塑性樹脂との相分離を抑制することができる。
【0047】
第4の態様に係る樹脂組成物は、第1~3のいずれかの態様において、前記第1熱可塑性樹脂及び前記第2熱可塑性樹脂がポリオレフィンである。
【0048】
この態様によれば、両者が同種の樹脂であることで、相分離を抑制することができる。さらには同種の樹脂がポリオレフィンであることで、成形品の更なる軽量化を実現することができる。
【0049】
第5の態様に係る樹脂組成物は、第1~4のいずれかの態様において、前記セルロース繊維の平均繊維長が、0.001mm以上0.1mm以下の範囲内である。
【0050】
この態様によれば、成形品の剛性を向上させることができる。さらにセルロース繊維の分散性の低下を抑制することができる。
【0051】
第6の態様に係る樹脂組成物は、第1~5のいずれかの態様において、分散剤を更に含有する。
【0052】
この態様によれば、セルロース繊維の分散性を更に向上させることができる。
【0053】
第7の態様に係る樹脂組成物は、第6の態様において、前記分散剤が、無水マレイン酸変性ポリオレフィンである。
【0054】
この態様によれば、セルロース繊維の分散性を更に向上させることができる。
【0055】
第8の態様に係る樹脂組成物は、第7の態様において、前記無水マレイン酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が、45000以下である。
【0056】
この態様によれば、セルロース繊維の分散性を更に向上させることができる。
【実施例
【0057】
以下、本開示を実施例によって具体的に説明するが、本開示は、以下の実施例に限定されない。
【0058】
(実施例1~10)
以下に示す第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を原料として用いてペレットを製造した。具体的には、上記の原料を表1に示す比率(質量%)となるように秤量し、ドライブレンドした。次に、2軸混練押出機(株式会社テクノベル製、型式:KZW15TW)にて、混練温度を200℃、排出量を2kg/時間として溶融混練分散した後、水冷して、ペレットを製造した。
【0059】
第1熱可塑性樹脂:BC03B(日本ポリプロ株式会社製、ポリプロピレン、重量平均分子量200000)
第2熱可塑性樹脂:ビスコール660-P(三洋化成工業株式会社、ポリプロピレン、重量平均分子量10000)
セルロース繊維:NBKP Celgar(三菱製紙株式会社製、綿状針葉樹パルプ、平均繊維長0.05mm)。
【0060】
(実施例11)
以下に示す第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を原料として用いるようにした以外は、実施例1~10と同様にしてペレットを製造した。
【0061】
第1熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
第2熱可塑性樹脂:ビスコール550-P(三洋化成工業株式会社、ポリプロピレン、重量平均分子量13500)
セルロース繊維:実施例1~10と同じ。
【0062】
(実施例12)
以下に示す第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を原料として用いるようにした以外は、実施例1~10と同様にしてペレットを製造した。
【0063】
第1熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
第2熱可塑性樹脂:ビスコール440-P(三洋化成工業株式会社、ポリプロピレン、重量平均分子量25200)
セルロース繊維:実施例1~10と同じ。
【0064】
(実施例13)
以下に示す第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を原料として用いるようにした以外は、実施例1~10と同様にしてペレットを製造した。
【0065】
第1熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
第2熱可塑性樹脂:ビスコール330-P(三洋化成工業株式会社、ポリプロピレン、重量平均分子量40000)
セルロース繊維:実施例1~10と同じ。
【0066】
(実施例14~15)
以下に示す第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂、セルロース繊維及び分散剤を原料として用いるようにした以外は、実施例1~10と同様にしてペレットを製造した。
【0067】
第1熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
第2熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
セルロース繊維:実施例1~10と同じ
分散剤:ユーメックス1001(三洋化成工業株式会社製、重量平均分子量45000)。
【0068】
(実施例16)
以下に示す第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を原料として用いるようにした以外は、実施例1~10と同様にしてペレットを製造した。
【0069】
第1熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
第2熱可塑性樹脂:エルモーデュS400(出光興産株式会社、ポリプロピレン、重量平均分子量45000)
セルロース繊維:実施例1~10と同じ。
【0070】
(実施例17)
以下に示す第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を原料として用いるようにした以外は、実施例1~10と同様にしてペレットを製造した。
【0071】
第1熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
第2熱可塑性樹脂:エルモーデュS600(出光興産株式会社、ポリプロピレン、重量平均分子量75000)
セルロース繊維:実施例1~10と同じ。
【0072】
(実施例18)
以下に示す第1熱可塑性樹脂、第2熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を原料として用いるようにした以外は、実施例1~10と同様にしてペレットを製造した。
【0073】
第1熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
第2熱可塑性樹脂:エルモーデュS901(出光興産株式会社、ポリプロピレン、重量平均分子量130000)
セルロース繊維:実施例1~10と同じ。
【0074】
(比較例1)
以下に示す第1熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を原料として用いるようにした以外は、実施例1~10と同様にしてペレットを製造した。
【0075】
第1熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
セルロース繊維:実施例1~10と同じ。
【0076】
(比較例2)
以下に示す第1熱可塑性樹脂、セルロース繊維及び分散剤を原料として用いるようにした以外は、実施例1~10と同様にしてペレットを製造した。
【0077】
第1熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
セルロース繊維:実施例1~10と同じ
分散剤:実施例14~15と同じ。
【0078】
(比較例3)
以下に示す第1熱可塑性樹脂及びセルロース繊維を原料として用いるようにした以外は、実施例1~10と同様にしてペレットを製造した。
【0079】
第1熱可塑性樹脂:実施例1~10と同じ
セルロース繊維:実施例1~10と同じ。
【0080】
(曲げ弾性率)
各実施例及び比較例のペレットを用いてISO178に規定の試験片を作製した。各試験片について、JIS K 7171に規定の曲げ試験を行った。曲げ弾性率の測定結果を表1に示す。
【0081】
(外観)
各実施例及び比較例のペレットを1gずつ秤量し、熱プレス機を用いて、直径150mm、厚さ約0.1mmの円形の試験片を作製した。各試験片について、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX-6000)を用いて、長径300μm以上のセルロース繊維の凝集体の個数を数え、以下の基準で外観の良否を評価した。外観の評価結果を表1に示す。
【0082】
S:凝集体が10個以下
A:凝集体が10個超15個以下
B:凝集体が15個超20個以下
C:凝集体が20個超。
【0083】
【表1】