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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】滑り止め分散剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20241011BHJP
   A63B 1/00 20060101ALI20241011BHJP
   A63B 71/00 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
C09K3/14 540D
C09K3/14 540C
C09K3/14 540H
A63B1/00 Z
A63B71/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024068214
(22)【出願日】2024-04-19
【審査請求日】2024-04-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524152506
【氏名又は名称】新谷 昴
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【弁理士】
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】新谷 昴
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-2494397(KR,B1)
【文献】特開2019-026545(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
A63B 1/00
A63B 71/00
CAplus/REGISTRY (STN)
JSTPlus/JST5874/JST7580/JSTChina (JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸湿性粉体と、糖類と、有機酸と、を含み、
前記吸湿性粉体は、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、及び溶融シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記糖類は、ショ糖及び/又はその加水分解物を含み、
前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、及び乳酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、液状又はペースト状の手指用滑り止め分散剤組成物。
【請求項2】
吸湿性粉体と、糖類と、有機酸と、を含み、
前記吸湿性粉体は、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、及び溶融シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記糖類は、ショ糖及び/又はその加水分解物を含み、
前記有機酸は、クエン酸、リンゴ酸、及び乳酸からなる群から選ばれる少なくとも1種を含む、液状又はペースト状のスポーツ用滑り止め分散剤組成物。
【請求項3】
前記吸湿性粉体100質量部に対し、前記糖類を1質量部以上400質量部以下含有する、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
有機分散媒を更に含み、
前記有機分散媒が、エタノール、及びイソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記糖類100質量部に対し、前記有機分散媒を1質量部以上200質量部以下含有する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
吸湿性液体を更に含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り止め分散剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
体操、野球の投球、ボルダリング等においては、手指に滑り止めチョークを付着させて競技に臨むことが一般的である。この滑り止めチョークの主成分としては、炭酸マグネシウムが広く使用されている。炭酸マグネシウムは、吸水性に優れるため、手のひらの汗を吸収し、汗による手の滑りを防止するものとされている。
【0003】
また、滑り止めチョークは、筋力トレーニングに使用されることもある。滑り止めチョークを手指に付着させることにより、例えば、バーベルやダンベル等に対する摩擦力が向上し、筋力トレーニングのパフォーマンスや集中力が向上することもある。
【0004】
一般に、滑り止めチョークとしては、主に、粉末タイプ、固形タイプ、液体タイプの3種類の滑り止めチョークが使用されている。粉末タイプの滑り止めチョークは、コストパフォーマンスに優れる利点がある。また、固形タイプの滑り止めチョークは、携行がしやすい、という利点がある。さらに、粉末タイプの滑り止めチョークも、固形タイプの滑り止めチョークも、手に付着させた後、すぐにトレーニングができる、という利点がある。
【0005】
一方、両者とも、微粉末が飛散して、周囲の環境を悪化させるおそれもある(例えば、特許文献1参照)。なお、これらの滑り止めチョークと併せて、松脂やはちみつ等を利用することがあるが、これらは各種機材の汚れにつながるため、スポーツ施設によっては使用が禁止される場合もある。
【0006】
ところで、近年、液体タイプの滑り止めチョークの使用が広がっている。液体タイプの滑り止めチョークは、上述の炭酸マグネシウム等をアルコール等の有機分散媒に分散させたものである。液体タイプの滑り止めチョークは、手のシワの奥まで炭酸マグネシウムがなじみつつ、アルコール等の有機分散媒が手の脂分を除去する効果を有する。また、有機分散媒の種類に応じ、蒸発の際の吸熱作用により、手のひらの熱を吸収することもあるため、長時間にわたって、摩擦力を発揮することもできる。
【0007】
液体タイプの滑り止めチョークは、微粉末の飛散が少なく、各種機材への粉移りが少ないため、スポーツジム内の環境を清浄に維持しやすいという利点もある。
【0008】
液体タイプの滑り止めチョークの例として、炭酸マグネシウムが100.0重量部に対して成分(A)として水、又は沸点が100℃以下の水溶性液体と水の混合液が130.0重量部から400.0重量部、成分(B)として沸点が170℃以上の水溶性液体が2.0重量部から30.0重量部、成分(C)として水溶性高分子化合物が0.0重量部から3.0重量部からなる液状滑り止め組成物が提案されている(特許文献1参照)。この組成物によると、器具等に施す際に炭酸マグネシウムが粉体として飛散しない効果がある。また競技中或いは運動中にも粉体とならないため飛散を防止する効果がある。さらに、食とするものを材料とせずに摩擦性と滑り性の調整を可能とし、その状態を維持可能とする効果がある。さらに、水により簡単に洗い流すことができるほか、副次的効果として粉体状よりも容積を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-026545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ここで、スポーツ用の滑り止めチョークを使用したり、これにはちみつ等を配合する場合、スポーツのパフォーマンス自体は向上するものの、各種機材に汚れを付着させたり、施設の環境を悪化させたりすることがある。このため、各種動作のパフォーマンスを向上させつつも、事後的に容易に清浄化できる等、各種機材の汚れを引き起こしにくい滑り止めチョークが求められている。
【0011】
その点、特許文献1に記載の組成物が提案されているものの、特許文献1に記載の組成物であっても、ユーザーにとっての機能性(使用感、吸水性、粘着性、簡易性、グリップ感)について、さらなる改善の余地がある。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、吸湿性と粘着性を両立しつつ、各種施設において各種機材の汚れを引き起こしにくい、滑り止め分散剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、吸湿性粉体と、糖類とを含む、液状又はペースト状の滑り止め分散剤組成物によれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0014】
本発明の第1の特徴に係る発明は、吸湿性粉体と、糖類と、を含む、液状又はペースト状の滑り止め分散剤組成物である。
【0015】
本発明の第2の特徴に係る発明は、第1の特徴に係る発明であって、前記糖類がショ糖及び/又はその加水分解物である組成物である。
【0016】
本発明の第3の特徴に係る発明は、第1又は第2の特徴に係る発明であって、前記吸湿性粉体が、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、及び溶融シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種である組成物である。
【0017】
本発明の第4の特徴に係る発明は、第1から第3の特徴に係る発明であって、前記吸湿性粉体100質量部に対し、前記糖類を0.01質量部以上400質量部以下含有する組成物である。
【0018】
本発明の第5の特徴に係る発明は、第1から第4のいずれかの特徴に係る発明であって、有機酸と、有機分散媒と、を更に含む組成物である。
【0019】
本発明の第6の特徴に係る発明は、第5の特徴に係る発明であって、前記有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、及び乳酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である組成物である。
【0020】
本発明の第7の特徴に係る発明は、第5又は第6の特徴に係る発明であって、前記有機分散媒が、エタノール、及びイソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1種である組成物である。
【0021】
本発明の第8の特徴に係る発明は、第4から第7のいずれかの特徴に係る発明であって、前記糖類100質量部に対し、前記有機分散媒を1質量部以上200質量部以下含有する組成物である。
【0022】
本発明の第9の特徴に係る発明は、第4から第8のいずれかの特徴に係る発明であって、吸湿性液体を更に含む組成物である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の滑り止め分散剤組成物は、吸湿性と粘着性とが両立され、各種施設において各種機材の汚れを引き起こしにくい。このため、長時間にわたり、摩擦力を発揮するとともに、周囲の環境を悪化させることが少ない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例に係る滑り止め分散剤組成物の性能試験の結果のうち、使用感を示す箱ひげ図である。
図2】実施例に係る滑り止め分散剤組成物の性能試験の結果のうち、吸水性を示す箱ひげ図である。
図3】実施例に係る滑り止め分散剤組成物の性能試験の結果のうち、粘着性を示す箱ひげ図である。
図4】実施例に係る滑り止め分散剤組成物の性能試験の結果のうち、簡易性を示す箱ひげ図である。
図5】実施例に係る滑り止め分散剤組成物の性能試験の結果のうち、グリップ感を示す箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず初めに、以下の開示、図表、及び/又は請求項等が、単独であるか、又は1つ以上の他の側面との組み合わせとして記述されていると説明されているものの、即時開示の主題はそのように限定されることを意図していない。つまり、即時開示、図表、及び請求項は、ここで記載されている様々な側面を、それぞれ単独であるか、又はお互いと1つ以上の組み合わせで包含することを意図する。例えば、即時開示が第1実施形態、第2実施形態、及び第3実施形態を、第1実施形態が特に第2実施形態に関連して記述及び図示されるか、第2実施形態が第3実施形態に関連してのみ記述及び図示されるような方法で記述及び図示する場合でも、即時開示と図示はそのように限定されるものではなく、第1実施形態のみ、第2実施形態のみ、第3実施形態のみ、又は第1、第2及び/又は第3実施形態の1つ以上の組み合わせ、例えば第1実施形態と第2実施形態、第1実施形態と第3実施形態、第2実施形態と第3実施形態、又は第1、第2、及び第3実施形態が含まれることがある。
【0026】
本文中でのフレーズ「又は」の使用は、明示的に指定されていない限り、「排他的ではない」取り決めを意味するものとする。例えば、「項目xがA又はBである」と言う場合、次のいずれかを意味するものとする:(1)項目xがA又はBのどちらか一方のみである、(2)項目xがAとBの両方である。言い換えれば、単語「又は」は、「排他的」な取り決めを定義するために使用されない。例えば、「アイテムxがA又はBである」という文に対する「排他的『又は』」の取り決めでは、xがAとBのうちのどちらか1つであることを要する。
【0027】
また、本文中で用いられるフレーズ「少なくとも1つを含む」や「以下の少なくとも1つを含む」は、システム又は要素と組み合わせて使用される場合、そのシステム又は要素がフレーズの後に列挙された要素の1つ以上を含むことを意味する。例えば、要素が第1要素から第3要素の3種類である場合、フレーズ「少なくとも1つを含む」や「以下の少なくとも1つを含む」は、次のような構造的配置のいずれかとして解釈する:第1要素を含むデバイス、第2要素を含むデバイス、第3要素を含むデバイス、第1要素と第2要素を含むデバイス、第1要素と第3要素を含むデバイス、第2要素と第3要素を含むデバイス、又は第1要素、第2要素、第3要素を含むデバイス。
【0028】
本文中で「以下の少なくとも1つで使用されている」というフレーズが使用される場合も同様の解釈が意図されている。さらに、本文中で使用される「及び/又は」は、言語的な接続詞として用いられ、記載された要素や条件の1つ以上が含まれるか発生することを示すために使用されている。例えば、第1要素、第2要素、及び/又は第3要素を含むデバイスは、次の構造的配置のいずれかとして解釈される:第1要素を含むデバイス、第2要素を含むデバイス、第3要素を含むデバイス、第1要素と第2要素を含むデバイス、第1要素と第3要素を含むデバイス、第2要素と第3要素を含むデバイス、又は第1要素、第2要素、第3要素を含むデバイス。
【0029】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0030】
<滑り止め分散剤組成物>
本実施形態に係る滑り止め分散剤組成物(以下、「滑り止め剤組成物」ともいう。)は、液状又はペースト状のものであって、吸湿性粉体と、糖類と、を含むものである。本実施形態に係る分散剤組成物は、吸湿性粉体及び糖類を含む液状又はペースト状のものとして一体化された組成物である。このため、手指から各種機材に吸湿性粉体や糖類が移行する可能性が低く、各種機材を汚しにくい。
【0031】
〔吸湿性粉体〕
滑り止め剤組成物において、吸湿性粉体は、手指に生じる汗を吸収することにより、手指の表面に摩擦力を発揮させるためのものである。吸湿性粉体としては、手指に生じる汗を吸収可能なものである限り、特に限定されない。吸湿性粉体としては、例えば、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、タルク、及び溶融シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。これらの中でも、原価が低く、入手のしやすい、炭酸マグネシウム及び/又は水酸化アルミニウムを使用することが好ましい。
【0032】
〔糖類〕
また、滑り止め剤組成物において、糖類は、各種機材の表面と、手指との間で粘着性を発揮させる役割を有する。しかしながら、糖類として、従来用いられていたはちみつ等を利用する場合、各種機材に付着した後に除去することが困難になる場合がある。このため、本発明においては、はちみつ等ではなく、糖類が用いられる。本実施形態に係る滑り止め剤組成物において用いられる糖類としては、ショ糖及び/又はその加水分解物(グルコース、フルクトース)、ガラクトース、マルトース、マルチトール、リボース、キシリトール、ソルビトール、トレハロース、パラチノース、パラチニット、ラクトース、セロビオース、グリコーゲン、セルロース、でんぷん、シクロデキストリン、ムコ多糖類、セルロース類、ペクチン、アラビアゴム、寒天、アルギン酸、デキストラン等を用いることが好ましい。これらの中でも、ショ糖及び/又はその加水分解物を用いることがより好ましく、ショ糖とその加水分解物とを併用することが更に好ましい。
【0033】
滑り止め剤組成物にショ糖及び/又はその加水分解物を用いた場合、これらの成分の水への溶解性が高いため、使用後に水を含む布帛(ふはく)等で拭うことにより、容易に除去することも可能である。特に、ショ糖の加水分解物のうちフルクトースは、水への溶解性に特に優れるため、各種機材に付着しても、容易に除去可能である。
【0034】
なお、本明細書において、「及び/又は」との表現は、JISの「規格票の様式及び作成方法 JIS Z 8301」にならい、「並列する二つの語句を併合したもの及びいずれか一方の3通りを一括して示す」ことを意味するものとする。例えば、「A及び/又はB」の表現は、Aだけ、Bだけ、及びAとBとの両方、の全てを包含することを意味するものとする。
【0035】
滑り止め剤組成物における糖類の配合量は、吸湿性粉体100質量部に対し、糖類を0.1質量部以上400質量部以下とすることが好ましい。各種機材への手指の粘着性をより高める、という観点から、糖類の配合量の下限は、20質量部以上であることがより好ましく、100質量部以上であることが更に好ましい。また、滑り止め剤組成物の製造に要する原価を一定以下に抑え、各種機材の利用後に滑り止め剤組成物の除去を容易にする観点から、糖類の配合量の上限は、350質量部以下であることがより好ましく、300質量部以下であることが更に好ましい。
【0036】
なお、滑り止め剤組成物において、糖類が発揮する粘着性は、滑り止め剤組成物における糖類の濃度にも依存する。このため、滑り止め剤組成物においては、糖類100質量部に対し、後述する有機分散媒を1質量部以上200質量部以下含有することが好ましい。滑り止め剤組成物の流動性を高め、手指への塗布を容易にする観点からは、有機分散媒の下限値は、10質量部以上であることがより好ましく、40質量部以上であることが更に好ましい。また、各種機材と手指との間の粘着性をより高めるという観点からは、有機分散媒の上限値は、80質量部以下であることがより好ましく、70質量部以下であることが更に好ましい。
【0037】
[有機酸]
後述するように、ショ糖及び/又はその加水分解物を得るためには、ショ糖を含む水溶液中に有機酸を配合し、水溶液を加熱することによりショ糖を加水分解することが好ましい。ここで、この加水分解に用いられる有機酸としては、手指の皮膚を侵食せず、安全性の高い有機酸を用いることができる。より具体的には、有機酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のモノカルボン酸;クエン酸、リンゴ酸、乳酸等のヒドロキシカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フマル酸、マレイン酸等のジカルボン酸を挙げることができる。これらの有機酸の中でもクエン酸、リンゴ酸、及び乳酸等からなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。これらの有機酸は、いずれも食品添加物として用いられるものでもあるため、安全性が高い。よって、滑り止め剤組成物に配合して手指に塗布した場合においても、手指の皮膚を侵食せず、肌荒れ等を引き起こさない。
【0038】
有機酸の配合量は、糖類の配合量に応じて決定すればよい。例えば、使用する糖類100質量部に対して、有機酸を0.05質量部以上30質量部以下用いることが好ましい。加水分解反応を効率的に生起するためには、有機酸の下限値は、1質量部以上であることがより好ましく、3質量部以上であることが更に好ましい。また、手指の皮膚への刺激性を抑える、という観点からは、有機酸の上限値は、25質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることが更に好ましい。
【0039】
〔有機分散媒〕
本実施形態に係る滑り止め剤組成物は、液状又はペースト状のものである。滑り止め剤組成物の手指への塗布性を高めるためには、滑り止め剤組成物が有機分散媒を含有していることが好ましい。滑り止め剤組成物が有機分散媒を含有していることにより、分散状態にある吸湿性粉体や、糖類を、手指の皮膚に略均一に分布させることができる。
【0040】
前記有機分散媒としては、手指への刺激の少ないアルコール類を用いることが好ましい。より具体的には、このアルコール類としては、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、イソブタノール等の1価アルコールを挙げることができる。これらの中でも、エタノール、及びイソプロピルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることが好ましい。これらの有機分散媒を用いることにより、吸湿性粉体が手指のシワの奥まで均一に塗布可能となる。また、これらの有機分散媒は、手指表面の脂分を洗い流す役割もあるので、手指と各種機材との間の摩擦力を向上させることができる。さらに、これらの有機分散媒が蒸発する際に蒸発熱を吸収することにより、手指の表面温度が低下するので、動作中の手指表面からの発汗も抑えられる。
【0041】
有機分散媒の使用量は、吸湿性粉体100質量部に対して、1質量部以上100量部以下であることが好ましい。十分な吸湿性粉体を少ない塗布回数で手指に付着させるためには、上記上限値は50質量部以下であることがより好ましく、35質量部以下であることが更に好ましい。また、滑り止め剤組成物の取り扱い性を高める観点からは、上記の下限値は、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることが更に好ましい。
【0042】
〔吸湿性液体〕
本実施形態に係る滑り止め剤組成物は、吸湿性液体を含むものであってもよい。滑り止め剤組成物が吸湿性液体を含むことにより、滑り止め剤組成物が手指の水分を吸収し、汗による手指と各種機材の間の摩擦力の低下が防止される。吸湿性液体としては、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセリン、ソルビトール等の多価アルコールを挙げることができる。なお、上記の吸湿性液体は、有機分散媒としての機能をも兼ね備えるものである。
【0043】
吸湿性液体の使用量は、吸湿性粉体100質量部に対して、1質量部以上100量部以下であることが好ましい。十分な吸湿性粉体を少ない塗布回数で手指に付着させるためには、上記上限値は50質量部以下であることがより好ましく、35質量部以下であることが更に好ましい。また、滑り止め剤組成物の取り扱い性を高める観点からは、上記の下限値は、10質量部以上であることがより好ましく、20質量部以上であることが更に好ましい。
【0044】
〔その他の成分〕
その他、本実施形態に係る滑り止め剤組成物には、増粘安定剤を配合することもできる。増粘安定剤を配合することにより、有機分散媒中での吸湿性粉体の分散状態を安定化できる。増粘安定剤としては、ペクチン、グァーガム、キサンタンガム、タマリンドガム、カラギーナン、カルボキシメチルセルロース等を挙げることができる。これらの中でも、キサンタンガムを用いることが特に好ましい。
【0045】
〔その他の成分〕
本実施形態に係る滑り止め剤組成物には、その使用目的に応じ、更に、その他の添加剤を配合することもできる。具体的には、防腐剤(パラベン、フェノキシエタノール、安息香酸等)、着色料、香料、安定剤、分散剤を挙げることができる。これらの添加剤の配合量は、身体に適用される各種組成物の分野において慣用される配合量とすればよい。
【0046】
〔滑り止め剤組成物の用途〕
本実施形態に係る滑り止め剤組成物は、体操、陸上の投擲種目、ボルダリング、ハンドボール、筋力トレーニング等の各種スポーツのほか、e-sports、肉体労働現場、楽器演奏、教職員のプリント配布の場等において、多面的に利用される。そのような意味において、本実施形態に係る滑り止め剤組成物は、手指の摩擦力が重要とされるどのような用途においても用いられるものである。
【0047】
<滑り止め分散剤組成物の製造方法>
本実施形態に係る滑り止め剤組成物は、少なくとも、ショ糖水溶液に吸湿性粉体を添加して混合物を得る工程(混合工程)と、前記混合物を分散させる工程(分散工程)と、を含む。より好ましくは、滑り止め剤組成物は、ショ糖水溶液に有機酸を添加して加熱することにより、ショ糖を少なくとも部分的に加水分解する工程(加水分解工程)と、少なくとも部分的に加水分解されたショ糖水溶液に、吸湿性粉体、及び有機分散媒を添加して、吸湿性粉体、有機酸、ショ糖及び/又はその加水分解物、並びに有機分散媒を含む混合物を得る工程(混合工程)と、前記混合物を、分散させる工程(分散工程)と、を含む。以下では、後者の手法によって滑り止め剤組成物を得る場合について説明する。
【0048】
〔加熱工程〕
加熱工程においては、ショ糖水溶液に有機酸を添加して加熱することにより、ショ糖を少なくとも部分的に加水分解する。その際、加熱温度の下限は、例えば、40℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、55℃以上であることが更に好ましい。加熱温度の上限は、例えば、100℃以下であることが好ましく、80℃以下であることがより好ましく、70℃以下であることが更に好ましい。
【0049】
〔混合工程〕
混合工程においては、少なくとも部分的に加水分解されたショ糖水溶液に、吸湿性粉体、及び有機分散媒を添加して、吸湿性粉体、有機酸、ショ糖及び/又はその加水分解物、並びに有機分散媒を含む混合物を得る。これらの成分については、一度に投入してもよいし、各成分を順々に投入してもよい。また、滑り止め分散剤組成物中での凝集物の発生を防ぎ、均一な組成物とするため、各成分をそれぞれ少量ずつに分割して、段階的に投入してもよい。
【0050】
〔分散工程〕
分散工程においては、上記の混合工程で得られた混合物を分散させる。分散工程の実施に当たっては、各種のミキサーやミル等を使用して、効率よく高分散状態の滑り止め分散剤組成物を得ることもできる。
【実施例
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
<滑り止め剤組成物の性能試験>
〔滑り止め剤組成物の調製〕
[実施例1]
100%のショ糖水溶液5mLに、吸湿性粉体として炭酸マグネシウム6.6g(草葉化学社製)を添加し、1分間ミキサーで均一に混合・分散させた。これにより、実施例1に係る滑り止め剤組成物を得た。この滑り止め剤組成物は、液状であった。
【0053】
[実施例2]
100%のショ糖水溶液を105℃に加熱し、ショ糖加水分解物(グルコース及びフルクトース)を含有するシロップにした。シロップは、粘着性を有していた。このシロップ5mLに、吸湿性粉体として炭酸マグネシウム6.6g(草葉化学社製)を添加し、1分間ミキサーで均一に混合・分散させた。これにより、実施例2に係る滑り止め剤組成物を得た。この滑り止め剤組成物は、液状であった。
【0054】
[実施例3]
有機酸としてクエン酸を2.5%含有する100%のショ糖水溶液を煮詰め、ショ糖加水分解物(グルコース及びフルクトース)を含有するシロップにした。シロップは、粘着性を有していた。このシロップ30mLに、吸湿性粉体として炭酸マグネシウム30g(草葉化学社製)、水酸化アルミニウム30g(草葉化学社製)及び溶融シリカ5g(草葉化学社製)と、有機分散媒として67%エタノール12mL(セッツ株式会社製)、グリセリン2.5mL(マルゴコーポレーション社製)、プロピレングリコール2.5mL(マルゴコーポレーション社製)と、増粘安定剤としてキサンタンガム0.3g(マルゴコーポレーション社製)とを添加し、1分間ミキサーで均一に混合・分散させた。これにより、実施例3に係る滑り止め剤組成物を得た。この滑り止め剤組成物は、ペースト状であった。
【0055】
〔比較試験〕
トランポリン競技選手10名を対象とし、各実施例に係る滑り止め剤組成物を0.5g、又は以下に示す比較サンプル2点を以下に示す量で、それぞれ手のひらに塗布した。1分後及び10分後の時点で、身体を丸める姿勢をとってもらい、手のひらで足の脛の部分をつかんだときの機能性(使用感、吸水性、粘着性、簡易性、グリップ感)について、以下の基準にしたがい、10段階で評価させた。
【0056】
[比較サンプル]
比較サンプル1:粉体の炭酸マグネシウム0.5gを手指に塗布した後に、50%ショ糖水溶液0.5gを手指に塗る。
比較サンプル2:25%炭酸マグネシウムを含むエタノール溶液を0.5g手指に塗る。
【0057】
[判定基準]
10:きわめて優れた性能を発揮する。
9:非常に優れた性能を発揮する
8:とても優れた性能を発揮する
7:優れた性能を発揮する
6:良い性能を発揮する
5:少し良い性能を発揮する
4:性能を発揮する
3:劣っている
2:少し劣っている
1:性能において完全に劣っている。
【0058】
[結果・評価]
以上の結果を図1に示す。図1から明らかなように、実施例1~3に係る滑り止め剤組成物は、比較サンプル1及び2と比較して、使用感、吸水性、粘着性、簡易性、グリップ感のいずれの項目においても高い評価を得た。そして、実施例2に係る滑り止め剤組成物は、実施例1に係る滑り止め剤組成物に比べてより高い評価であり、実施例3に係る滑り止め剤組成物は、実施例2に係る滑り止め剤組成物に比べて更に高い評価であった。このような評価は、手指への塗布の1分後においても認められたものの、手指への塗布の10分後においても持続した。これらの結果は、本発明の組成物が滑り止めチョークとして極めて有用であることを示すものである。

【要約】
【課題】吸湿性と粘着性を両立しつつ、各種施設において各種機材の汚れを引き起こしにくい、滑り止め分散剤組成物を提供すること。
【解決手段】吸湿性粉体と、糖類と、を含む、液状又はペースト状の滑り止め分散剤組成物によれば、吸湿性と粘着性とが両立され、各種施設において各種機材の汚れを引き起こしにくい。このため、長時間にわたり、摩擦力を発揮するとともに、周囲の環境を悪化させることが少ない。ここで、糖類がショ糖及び/又はその加水分解物であることが好ましい。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5