(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】メラニン生成促進剤、白髪予防又は治療剤、色素異常症予防又は治療剤、組成物、及びメラニン生成促進方法
(51)【国際特許分類】
A61K 8/42 20060101AFI20241011BHJP
A61Q 19/04 20060101ALI20241011BHJP
A61Q 5/00 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
A61K8/42
A61Q19/04
A61Q5/00 ZNA
(21)【出願番号】P 2020010372
(22)【出願日】2020-01-24
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】593171592
【氏名又は名称】学校法人玉川学園
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100154748
【氏名又は名称】菅沼 和弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一臣
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-291044(JP,A)
【文献】特開2002-275060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サリチルアミドを含み、小眼球症関連転写因子遺伝子の発現促進剤ではなく、チロシナーゼ遺伝子発現促進剤及びチロシナーゼ酵素活性促進剤よりなる群から選択される少なくともいずれかを兼ねるメラニン生成促進剤。
【請求項2】
請求項1に記載の剤を含む
頭皮投与用の白髪予防又は治療剤
であって、液剤である白髪予防又は治療剤。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の剤を含む
メラニン生成促進組成物。
【請求項4】
チロシナーゼ遺伝子発現促進組成物及びチロシナーゼ酵素活性促進組成物よりなる群から選択される少なくともいずれかを兼ねる請求項3に記載のメラニン生成促進組成物。
【請求項5】
サリチルアミドを対象に投与すること、及びチロシナーゼ遺伝子発現及びチロシナーゼ酵素活性よりなる群から選択される少なくともいずれかを促進することを含み、眼球症関連転写因子遺伝子発現を促進することを含まない、メラニン生成促進方法
であって、
前記対象が細胞又は動物(ただし、ヒトを除く。)であり、
前記対象が前記動物であるとき、前記投与が前記サリチルアミドを含む液剤の頭皮投与である、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メラニン生成促進剤、白髪予防又は治療剤、色素異常症予防又は治療剤、上記剤のいずれかを含む組成物、及びメラニン生成促進方法に関する。
【背景技術】
【0002】
美白効果等を目的として、メラニン生合成を阻害する物質については多くの報告例、実用例がある。
例えば、非特許文献1~3には、アセチルサリチル酸(アスピリン)、メフェナム酸、ジクロフェナク、ニメスリド等の各種非ステロイド性抗炎症薬がメラニン生合成(メラノジェネシス)を阻害することが開示されている。
非特許文献1~3には、メラニン生合成は細胞内シグナル伝達系によって行われ、中でもチロシナーゼの作用が重要である旨が記載されている。
また、小眼球症関連転写因子(Mitf:Microphthalmia-associated transcription factor)が、メラニン生合成に関与する遺伝子群(特に、チロシナーゼ遺伝子)の転写制御を担う転写制御因子であり、上記遺伝子群(特に、チロシナーゼ遺伝子)のプロモーターにMitfが結合することにより、上記遺伝子群(特に、チロシナーゼ遺伝子)の発現が促進される旨が記載されている。
【0003】
また、非特許文献1~3には、アセチルサリチル酸、メフェナム酸、ジクロフェナク、ニメスリド等の各種非ステロイド性抗炎症薬は、Mitf遺伝子の発現を阻害ないし抑制することにより、メラニン生合成に関与する遺伝子群(特に、チロシナーゼ遺伝子)の発現を抑制し、メラニン生合成を阻害ないし抑制する旨が記載されている。すなわち、非ステロイド性抗炎症薬は、メラニン生成阻害剤として機能すると考えられてきた。
【0004】
一方、白髪、脱色素症(例えば、色素沈着低下症(hypopigmentation disorders))等の予防又は治療の観点から、メラニン生成を促進する物質が求められているものの、メラニン生成を促進する物質については報告例が少ないことが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kazuomi SATO et al.,Biol.Pharm.Bull.31(1)33-37(2008)
【文献】Kazuomi SATO et al.,Arch Dermatol Res.303:171-180(2011)
【文献】Takashi Nishio et al.,Mol Cell Biochem.412:101-110(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
サリチルアミドは下記式で表され、非ステロイド性抗炎症薬として用いられており、安全性については確立されている。また、上述した非特許文献1~3における知見のように、サリチルアミドはメラニン生成阻害剤として機能すると推測されていた。
【化1】
【0007】
本発明の目的は、メラニン生成促進剤、白髪予防又は治療剤、色素異常症予防又は治療剤、上記剤のいずれかを含む組成物、及びメラニン生成促進方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記従来技術の課題を解決するために鋭意検討した結果、上述のような非ステロイド性抗炎症薬はメラニン生成阻害剤として機能するとの推測に反して、サリチルアミドが細胞のメラニン生成を促進することを見出した。
また、そのメカニズムとして、サリチルアミドがメラニン生成に直接関与するチロシナーゼ遺伝子の転写を促進すること、及び、チロシナーゼの酵素としての活性を直接促進することにより結果的にメラニン生成を促進することも見出した。
さらに、非ステロイド性抗炎症薬は、メラニン生合成に関与する遺伝子群(特に、チロシナーゼ遺伝子)の発現制御の作用点が、Mitf遺伝子発現制御にある旨の上記非特許文献1~3の知見とは異なり、サリチルアミドの場合には、チロシナーゼ遺伝子発現促進及びチロシナーゼ酵素活性促進、並びにメラニン生成促進の作用点は、Mitf遺伝子発現制御にはないことを見出し、かつそれよりも、メラニン生合成シグナル伝達系の下流に存在し得ることを見出した。
本発明は以上の知見により完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)サリチルアミドを含むメラニン生成促進剤。
(2)チロシナーゼ遺伝子発現促進剤及びチロシナーゼ酵素活性促進剤よりなる群から選択される少なくともいずれかである、上記(1)に記載の剤。
(3)Mitf遺伝子の発現促進剤ではない、上記(1)又は(2)に記載の剤。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の剤を含む白髪予防又は治療剤。
(5)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の剤を含む色素異常症予防又は治療剤。
(6)上記(1)~(5)のいずれか1項に記載の剤を含む組成物。
(7)サリチルアミドを対象に投与することを含むメラニン生成促進方法。
(8)チロシナーゼ遺伝子発現及びチロシナーゼ酵素活性よりなる群から選択される少なくともいずれかを促進することを含む、(7)に記載の方法。
(9)Mitf遺伝子発現を促進することを含まない、(8)に記載の方法。
(10)上記対象が細胞又は動物である、(7)~(9)のいずれか1項に記載の方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メラニン生成促進剤、白髪予防又は治療剤、皮膚の一部の色素が抜ける白斑等の色素異常症予防又は治療剤、上記剤のいずれかを含む組成物、メラニン生成促進方法、及びそれらの用途(例えば、医薬部外品、化粧品、医薬品、飲食品等)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】サリチルアミドのDMSO溶液(0~1000μM)のメラニン合成促進効果試験結果を示す図である。
【
図2】サリチルアミドのDMSO溶液(0~1000μM)のメラニン生成関連遺伝子(チロシナーゼ遺伝子)転写促進効果試験結果を示す図である。
【
図3】サリチルアミドのDMSO溶液(0~2mM)のチロシナーゼ酵素活性促進試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
<メラニン生成促進剤>
本発明の第1の態様は、サリチルアミドを有効成分(薬理成分ないし薬理活性成分)として含むメラニン生成促進剤である。
第1の態様の剤は、コントロール(サリチルアミドの投与前又は非投与の対象)に対して、対象中の1細胞当りのメラニン含有量を増加させることができる。
上記対象としては、任意の細胞又は任意の動物が挙げられ、メラノーマ細胞等のがん細胞であってもよい。
上記増加の程度としては特に制限はないが、コントロールに比べて1.5倍以上、2倍以上、4倍以上、8倍以上又は10倍以上であってよい。
上記増加の上限値としては特に制限はないが、コントロールに対し、例えば、40倍以下、30倍以下が挙げられる。
【0014】
第1の態様の剤は、チロシナーゼ遺伝子発現促進剤及びチロシナーゼ酵素活性促進剤よりなる群から選択される少なくともいずれかを兼ねることが好ましく、チロシナーゼ遺伝子発現促進剤及びチロシナーゼ酵素活性促進剤の両方を兼ねることがより好ましい。
この場合、第1の態様の剤は、コントロールに対して、対象中の1細胞当りのチロシナーゼ遺伝子発現量を増加させることができる。
上記増加の程度としては特に制限はないが、コントロールに比べて1.5倍以上、2倍以上、4倍以上、8倍以上又は10倍以上であってよい。
上記増加の上限値としては特に制限はないが、コントロールに対し、例えば、40倍以下、30倍以下が挙げられる。
また、第1の態様の剤は、コントロールに対して、チロシナーゼの酵素としての活性を増加させることができる。
上記増加の程度としては特に制限はないが、コントロールに比べて1.2倍以上、1.3倍以上又は1.4倍以上であってよい。
上記増加の上限値としては特に制限はないが、コントロールに対し、例えば、15倍以下、10倍以下、5倍以下が挙げられる。
【0015】
第1の態様の剤は、サリチルアミドの作用点がMitf遺伝子発現制御にはないことから、Mitf遺伝子の発現促進剤ではないことが好ましい。
第1の態様の剤は、サリチルアミドの作用点がメラニン生合成シグナル伝達系におけるMitf遺伝子及びそれよりも上流の遺伝子(例えば、マスター遺伝子)の制御にあるとすると、メラニン生成促進のみならず、不要な作用(例えば、意図しない細胞分裂制御)を発揮して副作用を生じるリスクがあることから、上記不要な作用を排除してメラニン生成促進の選択性を向上させる観点から、メラニン生合成シグナル伝達系におけるMitf遺伝子発現よりも下流においてサリチルアミドの作用によりチロシナーゼ遺伝子の発現を促進する剤、又は、チロシナーゼの活性を(例えば、直接的に)促進する剤であることがより好ましい。
【0016】
第1の態様の剤は、目的とする作用を損なわない範囲において、他の成分を含有していてもよい。他の成分として、例えば、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤(例えば、水、ジメチルスルホキシド(DMSO))、安定剤等が挙げられる。
第1の態様の剤は、医薬部外品、化粧品、医薬品、飲食品等として使用することができ、医薬部外品、化粧品、医薬品、飲食品として使用する場合の投与方法は特に限定されるものではない。
具体的な投与方法としては、例えば、経皮投与、服用(経口摂取)による投与、血管内投与、経腸投与、腹腔内投与が挙げられ、経皮投与が好ましい。
中でも、頭皮に塗布されることにより経皮的に吸収されて毛根部位に達し、メラノサイト中のメラニン生成を促進する観点から、頭皮投与がより好ましい。
また、医薬部外品、化粧品、医薬品として使用する場合の剤形は特に限定されるものではないが、皮膚(特に、頭皮)に適用(例えば、塗布)して用いられることが好ましい。具体的な剤形としては、例えば、散剤、粉剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、坐剤、液剤、注射剤が挙げられる。
【0017】
第1の態様の剤が液剤である場合、サリチルアミドの濃度としては本発明の効果を達成し得る限り特に制限はないが、例えば、50μM以上が挙げられ、100μM以上が好ましく、150μM以上がより好ましく、200μM以上が更に好ましく、400μM以上が更により好ましく、500μM以上が特に好ましく、700μM以上がとりわけ好ましく、1000μM以上が最も好ましい。
上限値としては特に制限はないが、例えば、30mM以下、20mM以下、10mM以下、8000μM以下、5000μM以下等が挙げられる。
第1の態様の剤の投与量及び投与期間は、特に限定されず、被投与対象(例えば、被投与者)の身体機能の状態、年齢、性別、及びその他の条件を考慮し、適宜、決定される。
【0018】
<白髪予防又は治療剤>
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る剤を含む白髪予防又は治療剤である。
第2の態様の剤は、医薬部外品、化粧品、医薬品、飲食品等として使用することができ、皮膚外用品、頭髪料等の医薬部外品ないし化粧品として使用することが好ましい。
医薬部外品、化粧品、医薬品、飲食品として使用する場合の投与方法は特に限定されるものではない。
具体的な投与方法としては、例えば、経皮投与、服用(経口摂取)による投与、血管内投与、経腸投与、腹腔内投与が挙げられ、経皮投与が好ましい。
中でも、頭皮に塗布されることにより経皮的に吸収されて毛根部位に達し、メラノサイト中のメラニン生成を促進する観点から、頭皮投与がより好ましい。
第2の態様の剤は、皮膚(特に、頭皮)に適用(例えば、塗布)して用いられることが好ましく、スカルプケア剤等の皮膚外用品、シャンプー、トリートメント剤等の頭髪料に配合して用いることもできる。
上記皮膚外用品及び頭髪料は、例えば、液状、ミスト状、霧状、乳液状、クリーム状、ジェル状、ワックス状、フォーム状等の各種剤形に調製して使用できる。また、本発明の所望の効果の発現が阻害されない範囲であれば、例えば、低級アルコール、多価アルコール、糖アルコール、紫外線吸収剤、香料、防腐剤、キレート剤、抗菌剤、酸化防止剤、保湿剤、清涼剤、ビタミン類、カチオン性ポリマー、ノニオン性ポリマー、両性ポリマー、アニオン性ポリマー、植物抽出液、噴射剤、pH調整剤、アミノ酸、抗炎症剤、収斂剤、色素、増粘剤等のその他の添加剤を含んでいてもよい。
【0019】
第2の態様の剤が液剤である場合、サリチルアミドの濃度としては本発明の効果を達成し得る限り特に制限はないが、例えば、50μM以上が挙げられ、100μM以上が好ましく、150μM以上がより好ましく、200μM以上が更に好ましく、400μM以上が更により好ましく、500μM以上が特に好ましく、700μM以上がとりわけ好ましく、1000μM以上が最も好ましい。
上限値としては特に制限はないが、例えば、30mM以下、20mM以下、10mM以下、8000μM以下、5000μM以下等が挙げられる。
第2の態様の剤の投与期間としては特に制限はないが、1日以上投与することが好ましく、2日以上継続投与することがより好ましく、毎日1週間以上継続投与することが更に好ましく、毎日2週間以上継続投与することが特に好ましい。
継続投与日数の上限値としては特に制限はないが、例えば、1年以内が挙げられ、好ましくは6か月以内、より好ましくは3か月以内である。
【0020】
<色素異常症予防又は治療剤>
本発明の第3の態様は、第1の態様の剤を含む色素異常症予防又は治療剤である。
本明細書において、色素異常症としては、脱色素症(例えば、色素沈着低下症)、皮膚の一部の色素が抜ける白斑等が挙げられる。
第3の態様の剤は、目的とする作用を損なわない範囲において、通常、医薬品、医薬部外品、化粧品等に用いられる成分、例えば、水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色素などを適宜必要に応じて配合することができる。そのような配合の方法は、日局製剤総則に記載の方法に従って行うことができる。
「剤型」としては、皮膚に適用できる剤型であることが好ましく、例えば、ゲル剤、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ローション剤などの塗布剤、パップ剤、テープ剤、パッチ剤などの貼付剤等が挙げられる。
【0021】
第3の態様の剤が塗布剤の場合、その使用方法としては、適量(例えば、0.1~5g等、好ましくは0.5g~3g;例えば、1~500μl、好ましくは10~300μl)を手等に取り、1日1回~数回(例えば、2回又は3回)皮膚に塗布することができる。
第3の態様の剤が液剤である場合、サリチルアミドの濃度としては本発明の効果を達成し得る限り特に制限はないが、例えば、50μM以上が挙げられ、100μM以上が好ましく、150μM以上がより好ましく、200μM以上が更に好ましく、400μM以上が更により好ましく、500μM以上が特に好ましく、700μM以上がとりわけ好ましく、1000μM以上が最も好ましい。
上限値としては特に制限はないが、例えば、30mM以下、20mM以下、10mM以下、8000μM以下、5000μM以下等が挙げられる。
第3の態様の剤の投与期間としては特に制限はないが、1日以上投与することが好ましく、2日以上継続投与することがより好ましく、毎日1週間以上継続投与することが更に好ましく、毎日2週間以上継続投与することが特に好ましい。
継続投与日数の上限値としては特に制限はないが、例えば、1年以内が挙げられ、好ましくは6か月以内、より好ましくは3か月以内である。
【0022】
<組成物>
本発明の第4の態様は、第1~3のいずれかの態様の剤を含む組成物である。
第4の態様は、メラニン生成促進組成物、チロシナーゼ遺伝子発現促進組成物、チロシナーゼ酵素活性促進組成物、白髪予防又は治療組成物、及び色素異常症予防又は治療組成物よりなる群から選択される少なくともいずれかの組成物であることが好ましい。
第4の態様の組成物は、目的とする作用を損なわない範囲において、他の成分を含有していてもよい。他の成分として、例えば、賦形剤、基剤、乳化剤、溶剤(例えば、水、DMSO)、安定剤等が挙げられる。
第4の態様の組成物が液剤である場合、サリチルアミドの濃度としては本発明の効果を達成し得る限り特に制限はないが、例えば、50μM以上が挙げられ、100μM以上が好ましく、150μM以上がより好ましく、200μM以上が更に好ましく、400μM以上が更により好ましく、500μM以上が特に好ましく、700μM以上がとりわけ好ましく、1000μM以上が最も好ましい。
上限値としては特に制限はないが、例えば、30mM以下、20mM以下、10mM以下、8000μM以下、5000μM以下等が挙げられる。
また、サリチルアミドの投与量としては、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~100mg程度の範囲である。
【0023】
第4の態様に係る組成物は、医薬部外品、化粧品、医薬品、飲食品等の各分野に適用することができる。
第4の態様に係る組成物の医薬部外品、化粧品、医薬品等への適用例としては、第1~3のいずれかの態様の剤の医薬部外品、化粧品、医薬品等への適用例、適用方法、適用期間として上述した適用例、適用方法、適用期間と同様のものが挙げられる。
飲食品としては、例えば、各種飲料類(果汁又は野菜汁入り飲料、清涼飲料、ミネラル飲料、スポーツドリンク、茶類飲料、コーヒー、炭酸飲料、牛乳やヨーグルト等の乳製品等)、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)、カプセル(ソフトカプセル、ハードカプセル)、各種菓子類が挙げられる。飲食品には、ペクチンやカラギーナンなどのゲル化剤、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖、ステビア、アスパルテーム、糖アルコール等の糖類・甘味料、香料等の食品添加剤、植物性油脂及び動物性油脂等の油脂等を適宜含有させることができる。また、飲食品の用途としては、特に限定されず、いわゆる一般食品、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品として適用することができる。
また、第4の態様の組成物は、ヒトを対象として適用することができるのみならず、家畜等の飼養動物に対する飼料、薬剤等に適用してもよい。
【0024】
<メラニン生成促進方法>
本発明の第5の態様は、サリチルアミドを対象に投与することを含むメラニン生成促進方法である。
第5の態様は、チロシナーゼ遺伝子発現及びチロシナーゼ酵素活性よりなる群から選択される少なくともいずれかを促進することを含むことが好ましく、チロシナーゼ遺伝子発現及びチロシナーゼ酵素活性の両方を促進することを含むことがより好ましい。
第5の態様は、サリチルアミドの作用点がMitf遺伝子発現制御にはないことから、Mitf遺伝子発現を促進することを含まないことが好ましい。
第5の態様は、サリチルアミドの作用点がメラニン生合成シグナル伝達系におけるMitf遺伝子及びそれよりも上流の遺伝子(例えば、マスター遺伝子)の制御にあるとするとメラニン生成促進のみならず、不要な作用(例えば、意図しない細胞分裂制御)を発揮して副作用を生じるリスクがあることから、上記不要な作用を排除してメラニン生成促進の選択性を向上させる観点から、メラニン生合成シグナル伝達系におけるMitf遺伝子発現よりも下流においてサリチルアミドの作用によりチロシナーゼ遺伝子の発現を促進すること、又は、チロシナーゼの活性を(例えば、直接的に)促進することがより好ましい。
【0025】
上記対象としては、任意の細胞又は任意の動物が挙げられる。
上記動物としては、哺乳類、鳥類、爬虫類、魚類等が挙げられ、哺乳類又は鳥類が好ましく、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ等の哺乳類がより好ましい。
上記細胞としては、動物細胞、細菌、酵母、昆虫細胞等が挙げられ、動物細胞が好ましく、哺乳類の動物細胞がより好ましく、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ由来の動物細胞が更に好ましい。メラノーマ細胞等のがん細胞であってもよい。
【0026】
上記投与の方法としては、例えば、経皮投与、服用(経口摂取)による投与、血管内投与、経腸投与、腹腔内投与が挙げられ、経皮投与が好ましい。
中でも、頭皮に塗布されることにより経皮的に吸収されて毛根部位に達し、メラノサイト中のメラニン生成を促進する観点から、頭皮投与がより好ましい。
サリチルアミドの投与量としては、一般的には一回につき体重1kgあたり0.1μg~100mg程度の範囲である。
【0027】
また、上記投与の方法としては接触であってもよく、例えば、上記対象が細胞である場合、サリチルアミドを培地に添加して接触させることであってもよい。
上記培地としては、任意の基本培地が挙げられ、細胞の維持増殖に必要な各種栄養源、その他の成分を含んでいてもいなくてもよい。
サリチルアミドを培地に添加する場合のサリチルアミドの濃度としては本発明の効果を達成し得る限り特に制限はないが、例えば、50μM以上が挙げられ、100μM以上が好ましく、150μM以上がより好ましく、200μM以上が更に好ましく、400μM以上が更により好ましく、500μM以上が特に好ましく、700μM以上がとりわけ好ましく、1000μM以上が最も好ましい。
上限値としては特に制限はないが、例えば、30mM以下、20mM以下、10mM以下、8000μM以下、5000μM以下等が挙げられる。
【0028】
投与期間としては特に制限はないが、1日以上投与することが好ましく、2日以上継続投与することがより好ましく、毎日1週間以上継続投与することが更に好ましく、毎日2週間以上継続投与することが特に好ましい。
継続投与日数の上限値としては特に制限はないが、例えば、1年以内が挙げられ、好ましくは6か月以内、より好ましくは3か月以内である。
【0029】
(白髪予防又は治療方法、色素異常症予防又は治療方法)
本発明は、第5の態様に係る方法を含む、白髪予防又は治療方法であってもなくてもよい。
また、本発明は、第5の態様に係る方法を含む、色素異常症予防又は治療方法であってもなくてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
<1.メラニン合成促進効果試験>
対応する通常のメラノーマ細胞よりも通常時のメラニン生成能が低いB16F1メラノーマ細胞(マウス由来メラノーマ培養細胞)をサリチルアミドにより6日間処理しメラニン含有量の測定を行なった。
(メラニン含有量測定)
B16F1メラノーマ細胞(理化学研究所バイオリソース研究センター提供)を2.0×104cells/ウェルとなるように6ウェルプレートに播種し、細胞をシャーレに付着させるため、24時間CO2インキュベーター内で培養を行った。培地交換後、サリチルアミドのDMSO溶液を最終濃度0~1000μMとなるように添加した。コントロールにはジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した。6日間の処理後、培地を除去し、トリプシン/エチレンジアミン四酢酸(EDTA)で細胞を処理し、細胞を回収した。次に、細胞懸濁液を採取しFuchs-Rosenthal細胞計算盤で細胞数を計測した。
【0032】
さらに、細胞を1000rpmで5分遠心し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で再懸濁後、さらに1000rpmで5分遠心し、細胞を洗浄した。1×10
6cells当り100μLとなるように2M NaOHを細胞ペレットに注ぎこみ、湯浴上(100℃)で20分間の処理を行った。メラニンが完全に溶解したことを確認し、405nmにおける吸光度を測定してメラニン含有量とした。結果を
図1に示す。
【0033】
図1に示した結果から明らかなように、濃度依存的なメラニン合成量の増加が確認され、サリチルアミドがメラニン合成促進効果を有することが分かる。
【0034】
<2.メラニン生成関連遺伝子(チロシナーゼ遺伝子)転写促進効果試験>
サリチルアミドによりB16F1メラノーマ細胞を3日間処理後、リアルタイムPCRを実施し、チロシナーゼ遺伝子の転写量を測定した。
(リアルタイムPCR分析)
B16F1メラノーマ細胞を1×105cells/60mmφdishとなるように播種し、細胞をシャーレに付着させるため、24時間CO2インキュベーター内で培養を行った。
培地交換後、サリチルアミドのDMSO溶液を最終濃度0~1000μMとなるように添加した。コントロールにはDMSOを添加した。3日間の処理後、培地を除去し、RNA抽出試薬(ニッポンジーン社製ISOGEN2)で細胞を溶解し、全RNAの抽出を実施した。抽出方法は製造者のマニュアルの通りに行った。
さらに、RT-PCR用キット(タカラバイオ社製RNA PCR kit(AMV)Ver.3.0)を用いてcDNAの作成を実施した。
得られたcDNAからリアルタイムPCRを実施した。得られたcDNA、下記プライマー、PCR試薬(LifeTechnologies社製PowerUP SYBR Green Master Mix)を混合し、続いてリアルタイムPCR反応を行った。
【0035】
なお、リアルタイムPCR反応には、リアルタイムPCRシステム(AppliedBiosystems社製7500 fast real-time PCR system)を用いた。リアルタイムPCR反応の反応条件は95℃で10秒、60℃で30秒を1サイクルとして、計40サイクル行った。
GAPDH遺伝子(mRNA)を内部標準として用いて2
-△△Ct法によってチロシナーゼ遺伝子(mRNA)発現量を測定した。結果を
図2に示す。
図2において、GAPDHmRNA発現量によりノーマライズしたチロシナーゼmRNA発現量を示した。
また、使用したPCRプライマーの配列を以下に示す。
【0036】
[チロシナーゼ]
Upstream:5’-TTGCCACTTCATGTCATCATAGAATATT-3’(配列番号1)
Downstream:5’-TTTATCAAAGGTGTGACTGCTATACAAAT-3’(配列番号2)
[GAPDH]
Upstream:5’-CGTCCCGTAGACAAAATGGT-3’ (配列番号3)
Downstream:5’-TTGATGGCAACAATCTCCAC-3’(配列番号4)
【0037】
図2に示した結果から明らかなように、チロシナーゼmRNA遺伝子が濃度依存的に増加していることが分かる。上記結果はサリチルアミドがチロシナーゼ遺伝子の転写を促進することにより結果的にメラニン生成を促進することを示している。
【0038】
<3.チロシナーゼ酵素活性測定試験>
マッシュルームチロシナーゼを用いてサリチルアミドのチロシナーゼ酵素活性促進効果を試験した。
なお、マッシュルームチロシナーゼはチロシナーゼ阻害剤(例えば、美白剤)のスクリーニングに頻用されることが知られている。
マッシュルームチロシナーゼ(tyrosinase from mushroom lyophilized powder;シグマ社製)を蒸留水に溶解させ、1U/μLチロシナーゼ水溶液となるように調製した。
3,4-ジヒドロキシ-L-フェニルアラニン(L-DOPA;シグマ社製)を2.5mM溶液となるように0.1Mリン酸緩衝液(pH6.8)に溶解した。
サリチルアミドはDMSO(富士フィルム和光純薬社製)に溶解して下記試験に使用した。
【0039】
L-DOPA水溶液を300μL、0.1Mリン酸緩衝液を1.1mL、各濃度のサリチルアミドDMSO溶液50μLを試験管内に投入、混合し、25℃10分間放置した。コントロール(0μM)はサリチルアミドDMSO溶液の代わりにDMSOのみ50μLを添加した。チロシナーゼ水溶液50μLを上記の混合液に添加し、混合後、直ちに475nmにおける吸光度の測定を開始した。吸光度は1秒毎、120秒間測定した。チロシナーゼ活性(%)は以下の式に従って算出した。
100-[(A-B)/A×100]
上記式中、Aはコントロールの30秒経過時の吸光度と60秒経過時の吸光度との差を示す。BはサリチルアミドDMSO溶液存在下における30秒経過時の吸光度と60秒経過時の吸光度との差を示す。結果を
図3に示す。
【0040】
図3に示した結果から明らかなように、サリチルアミド非存在下(DMSOのみ)のコントロールにおけるチロシナーゼを100%とした場合、濃度依存的にサリチルアミドの存在によってチロシナーゼの酵素活性が向上することが分かる。
特に1mMサリチルアミド存在下では約1.45倍まで活性が上昇していた。
2mMにおいてはやや活性が1mMにおけるピーク時を低下し、図には示していないが4mM存在下ではさらに活性が低下したが、いずれにしてもコントロール(0mM)における活性レベルを上回っていた。
以上の結果から、サリチルアミドはチロシナーゼ遺伝子の転写を促進し、チロシナーゼタンパク量を上昇させるだけでなく、チロシナーゼ酵素に作用し、酵素活性も高めることが明らかである。
【配列表】