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特許7570106三重鎖およびヌクレアーゼベースの遺伝子編集を亢進するための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】三重鎖およびヌクレアーゼベースの遺伝子編集を亢進するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20241011BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20241011BHJP
   C07K 16/44 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 38/43 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 35/28 20150101ALI20241011BHJP
   A61K 47/69 20170101ALI20241011BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 17/16 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/113 Z ZNA
C07K16/44
A61K39/395 N
A61K31/7088
A61K38/02
A61K38/43
A61K35/28
A61K47/69
A61P7/04
A61P21/04
A61P3/00
A61P17/16
A61P37/02
A61P7/00
A61P7/06
A61P27/02
A61P35/00
A61K48/00
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021510770
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 US2019048962
(87)【国際公開番号】W WO2020047353
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-08-30
(31)【優先権主張番号】62/725,852
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593152720
【氏名又は名称】イェール ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】Yale University
【住所又は居所原語表記】2 Whitney Avenue, New Haven, CT 06510, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】キジャーノ, エリアス
(72)【発明者】
【氏名】リッチャルディ, アデル
(72)【発明者】
【氏名】バハル, ラマン
(72)【発明者】
【氏名】ターチク, オードリー
(72)【発明者】
【氏名】エコノモス, ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】サルツマン, ダブリュー. マーク
(72)【発明者】
【氏名】グレイザー, ピーター
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-507225(JP,A)
【文献】特表2010-527618(JP,A)
【文献】特表2017-509328(JP,A)
【文献】特表2017-534571(JP,A)
【文献】特表2017-503511(JP,A)
【文献】国際公開第2017/015101(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)細胞のゲノムにおける少なくとも1つの変異を修正することができる三重鎖形成分子またはCRISPRシステムと、
(ii)3E10抗体またはその細胞透過性断片
の複合体を含む組成物。
【請求項2】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、
(i)3E10の細胞透過性断片性一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(scFv)、3E10の細胞透過性ダイアボディ、3E10の細胞透過性ヒト化型もしくはバリアント、もしくはこれらの組合せからなる群から選択される、または
(ii)3E10の重鎖のAsp31位置に対応する位置において、アスパラギン酸(Asp)アスパラギン(Asn)への置換を組み込む、
請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、
(a)配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(V)相補性決定領域(CDR)1、
(b)配列番号17のアミノ酸配列を含むVCDR2、
(c)配列番号18のアミノ酸配列を含むVCDR3、
(d)配列番号24のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(V)相補性決定領域(CDR)1、
(e)配列番号25のアミノ酸配列を含むVCDR2、および
(f)配列番号26のアミノ酸配列を含むVCDR3、または
(a)配列番号16のアミノ酸配列を含むVCDR1、
(b)配列番号17のアミノ酸配列を含むVCDR2、
(c)配列番号18のアミノ酸配列を含むVCDR3、
(d)配列番号24のアミノ酸配列を含むVCDR1、
(e)配列番号25のアミノ酸配列を含むVCDR2、および
(f)配列番号26のアミノ酸配列を含むVCDR3
を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、
(i)配列番号1、2、3、4、5もしくは6に記載のV配列、
(ii)配列番号7、8、9、10もしくは11に記載のV配列、
(iii)配列番号1、2、3、4、5もしくは6に記載のV配列および配列番号7、8、9、10もしくは11に記載のV配列、または
(iv)配列番号1、2、3、4、5もしくは6に記載のV配列のうちの1つと少なくとも95%同一であるV配列および/もしくは配列番号7、8、9、10もしくは11に記載のV配列のうちの1つと少なくとも95%同一であるV配列
を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、ATCC受託番号PTA2439のハイブリドーマによって産生される抗体3E10のパラトープまたは同じエピトープ特異性を有する組換え抗体またはその細胞透過性断片を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
挿入または組換えによって、前記細胞のゲノムにおいて少なくとも1つの変異を誘導するドナーオリゴヌクレオチドをさらに含み、前記挿入または組換えは、前記三重鎖形成分子または前記CRISPRシステムによって誘導または亢進される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ドナーオリゴヌクレオチドが一本鎖もしくは二本鎖DNAを含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記細胞のゲノムが、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症、免疫不全症候群、チロシン血症、ファンコニ貧血、球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、ならびに慢性肉芽腫性障害からなる群から選択される疾患または障害の根底にある変異を有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記変異は、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、ジストロフィン、ベータ-グロビン、CFTR、XPC、XPD、DNAポリメラーゼイータをコードする遺伝子、ファンコニ貧血遺伝子A~L、SPTA1および他のスペクトリン遺伝子、ANK1遺伝子、SERPINA1遺伝子、ATP7B遺伝子、インターロイキン2受容体ガンマ(IL2RG)遺伝子、ADA遺伝子、FAH遺伝子、または慢性肉芽腫性疾患遺伝子CYBA、CYBB、NCF1、NCF2、もしくはNCF4にある、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項11】
前記組成物がポリマーナノ粒子中にパッケージングされる、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記ポリマーナノ粒子が、
(i)ポリヒドロキシ酸ポリマー、または
(ii)前記ポリマーナノ粒子に直接または間接的に会合、連結、コンジュゲート、または他の方法で結合する標的化部分、細胞透過性ペプチド、またはその組合せ
を含む、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ポリヒドロキシ酸ポリマーがポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
細胞のゲノムを改変する方法において使用するための組成物であって、(i)細胞のゲノムにおける少なくとも1つの変異を修正することができる三重鎖形成分子またはCRISPRシステムと、(ii)3E10抗体またはその細胞透過性断片の非共有結合性複合体を含
前記方法は、前記細胞と前記組成物を接触させることを含む、組成物。
【請求項15】
前記方法は、ex vivoまたは被験体においてin vivoで実施される、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
前記細胞が造血幹細胞である、請求項14~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記方法は、前記細胞をドナーオリゴヌクレオチドと接触させることをさらに含む、請求項14~17のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が具体的に参照により本明細書に組み込まれている、2018年8月31日に出願された米国特許出願第62/725,852号の利益および優先権を主張する。
【0002】
連邦政府助成研究に関する声明
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与されたCA197574およびCA168733の下で政府の支援を受けて行われた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
配列表に関する言及
配列表は、2019年8月28日に作成された「YU_7504_PCT」という名称の、51,903バイトのサイズを有するテキストファイルとして提出され、これは、37C.F.R.§1.52(e)(5)に従って参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
本発明は、一般的に遺伝子編集技術の分野、より詳しくは細胞透過性抗体を使用して三重鎖形成オリゴヌクレオチドおよびヌクレアーゼ媒介遺伝子編集を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0005】
遺伝子編集は、例えば、鎌状赤血球貧血およびβ-サラセミアなどの遺伝性の遺伝子障害の処置のための魅力的な戦略を提供する。遺伝子は、標的化ヌクレアーゼ、例えばジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)(Haendel, et al., Gene Ther., 11:28-37 (2011))およびCRISPR(Yin, et al.,Nat. Biotechnol., 32:551-553 (2014))、短い断片の相同組換え(SFHR)(Goncz, et al.,Oligonucleotides, 16:213-224 (2006))、または三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)(Vasquez, et al.,Science, 290:530-533 (2000))を含むいくつかの方法によって選択的に編集することができる。ドナーDNAによって高い効率で遺伝子編集を行うためには、標的遺伝子におけるDNAの切断が必要であると一般的に考えられている。したがって、CRISPR/Cas9技術などの標的化ヌクレアーゼが、その使用しやすさおよび容易な試薬設計のために、広く注目されている(Doudna,et al., Science, 346:1258096 (2014))。しかし、ZFNと同様、CRISPRアプローチは、活性なヌクレアーゼを細胞に導入し、これはゲノムにおいてオフターゲット切断をもたらし得るが(Cradick,et al., Nucleic Acids Res., 41:9584-9592 (2013))、この問題はこれまで解消されていない。
【0006】
一本鎖「ドナーDNA」を鋳型として同時送達すると、細胞の内因性のDNA修復システムを動員してゲノムの部位特異的改変を開始する三重鎖形成ペプチド核酸(PNA)オリゴマーなどの代替案が開発されている(Rogers, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 99:16695-16700 (2002))。
しかしながら、歴史的に、遺伝子改変効率は、特に初代幹細胞におけるCRISPR/Cas媒介性の編集の状況では低くなり得る。例えば、嚢胞性線維症患者由来の幹細胞におけるCFTR遺伝子座を修正する試みでは、所望の改変を有したのは、処置したオルガノイドのおよそ0.3%(3~6/1400)に過ぎなかった(Schwank, et al., CellStem Cell., 13:653-658 (2013))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Doudnaら、Science(2014)346:1258096
【文献】Cradickら、Nucleic Acids Res.(2013)41:9584~9592
【文献】Rogersら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2002)99:16695~16700
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、改善された遺伝子編集のための組成物および方法がなおも必要である。
【0009】
したがって、本発明の目的は、遺伝子編集増強剤、および遺伝子改変頻度の増加を達成する方法を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、低減されたまたは低いオフターゲット改変を有するオンターゲット改変を達成するための方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、被験体における疾患または障害の1つまたは複数の症状を改善する遺伝子改変のための組成物および方法を提供することである。
【0012】
標的化遺伝子編集を亢進するための組成物およびその使用方法を開示する。遺伝子編集組成物、例えば三重鎖形成オリゴヌクレオチド、CRISPR、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEN、またはその他を、遺伝子編集増強剤、例えば細胞透過性抗DNA抗体と組み合わせて利用する遺伝子編集方法を開示する。
【0013】
細胞のゲノムを改変する例示的な方法は、細胞を、有効量の(i)遺伝子編集増強剤、および(ii)細胞のゲノム改変を誘導することができる遺伝子編集技術(例えば、三重鎖形成分子、擬似相補的オリゴヌクレオチド、CRISPRシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN))と接触させることを含み得る。前述の方法において、ゲノム改変は、(i)および(ii)の両方と接触させた細胞集団では、(i)の非存在下で(ii)と接触させた同等の集団より高い頻度で起こる。好ましい遺伝子編集技術としては、三重鎖形成分子、例えばペプチド核酸(PNA)、およびCRISPRシステム、例えばCRISPR/Cas9 D10Aニッカーゼが挙げられる。
【0014】
好ましい遺伝子編集増強剤は、担体またはコンジュゲートの助けを借りることなく、細胞の細胞質および/または核へと輸送される細胞透過性抗DNA抗体である。一部の実施形態では、細胞透過性抗DNA抗体は、全身性エリテマトーデスを有する被験体またはその動物モデル(マウスまたはウサギなど)から単離されるかまたはそれらに由来する。好ましい実施形態では、細胞透過性抗DNA抗体は、モノクローナル抗DNA抗体3E10、または3E10と同じエピトープに結合するそのバリアント、断片(例えば、細胞透過性断片)、もしくはヒト化型である。特に好ましいバリアントは、重鎖にD31N置換を組み込んだ3E10バリアントである。細胞透過性抗DNA抗体は、ATCC番号PTA2439ハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体3E10と同じまたは異なるエピトープ特異性を有し得る。
【0015】
一部の実施形態では、抗体は、
(i)配列番号1~6、12、もしくは13のいずれか1つのCDRと、配列番号7~11、もしくは15のいずれか1つのCDRとの組合せ、
(ii)配列番号15~23から選択される第1、第2、および第3の重鎖CDRと、配列番号24~30から選択される第1、第2、および第3の軽鎖CDRとの組合せ、
(iii)(i)もしくは(ii)のヒト化型、
(iv)配列番号1もしくは2のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号7もしくは8との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ、
(v)(iv)のヒト化型、または
(vi)配列番号3~6のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号9~11との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ
を有する。
【0016】
好ましくは、抗体は、RAD51に直接結合することができる。一部の実施形態では、抗DNA抗体は、モノクローナル抗体3E10のパラトープを有する。抗DNA抗体は、抗DNA抗体の単鎖可変断片またはその保存的バリアントであり得る。例えば、抗DNA抗体は、3E10の一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(3E10 Fv)、またはそのバリアント、例えば保存的バリアントであり得る。一部の実施形態では、抗DNA抗体は、重鎖にD31N置換を組み込んだ3E10の一価、二価、または多価単鎖可変断片(3E10 Fv)である。
【0017】
方法は、細胞を、例えば遺伝子編集技術によって誘導または亢進されるドナーの挿入または組換えによって細胞のゲノムにおける変異を修正または誘導する配列を含むドナーオリゴヌクレオチドと接触させることをさらに含み得る。ドナーオリゴヌクレオチド(例えば、DNA)は、一本鎖または二本鎖であり得る。好ましくは、ドナーオリゴヌクレオチドは一本鎖DNAである。増強剤、遺伝子編集技術、および/またはドナーオリゴヌクレオチドは、任意の順序で細胞と接触させることができる。
【0018】
一部の実施形態では、細胞のゲノムは、疾患または障害、例えば、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症(globinopathy)、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、または慢性肉芽腫性障害などの遺伝子障害の根底にある変異を有する。グロビン異常症は、鎌状赤血球症またはベータ-サラセミアであり得る。リソソーム蓄積症は、ゴーシェ病、ファブリー病、またはハーラー症候群であり得る。一部の実施形態では、方法は、例えばHIVの細胞への進入を促進する細胞表面受容体の活性を低減させることによって、HIV感染症を低減させる変異を誘導する。
【0019】
一部の実施形態では、細胞(例えば、造血幹細胞)を、ex vivoで接触させ、細胞を、それを必要とする被験体にさらに投与してもよい。細胞は、疾患または障害の1つまたは複数の症状を処置するために有効な量で被験体に投与され得る。
【0020】
他の実施形態では、増強剤、遺伝子編集技術、および必要に応じてドナーオリゴヌクレオチドを被験体に投与後、細胞をin vivoで接触させる。前述の各々は、同じまたは異なる医薬組成物に存在することができ、任意の順序で被験体に投与することができる。好ましい実施形態では、組成物は、被験体における疾患または障害の1つまたは複数の症状を低減するために有効な量でin vivo遺伝子改変を誘導または亢進する。
【0021】
増強剤、遺伝子編集技術、および/またはドナーオリゴヌクレオチドを含む本開示の組成物のいずれかを、ナノ粒子において一緒にまたは別々にパッケージングすることができる。ナノ粒子は、ポリヒドロキシ酸から形成され得る。好ましい実施形態では、ナノ粒子は、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)単独またはポリ(ベータ-アミノ)エステル(PBAE)とのブレンドを含む。ナノ粒子は、ダブルエマルジョンまたはナノ沈殿によって調製され得る。一部の実施形態では、遺伝子編集技術、ドナーオリゴヌクレオチド、またはその組合せを、ポリカチオンと複合体形成させた後、ナノ粒子を調製する。
【0022】
機能的分子、例えば標的化部分、細胞透過性ペプチド、またはその組合せは、増強剤、遺伝子編集技術、ナノ粒子、またはその組合せに直接または間接的に会合、連結、コンジュゲート、または他の方法で結合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1Aは、Rad51 siRNAまたは3E10によって処置したMEFにおけるβ-グロビン/GFP融合遺伝子内のIVS2-654(C->T)変異のPNA/DNA媒介遺伝子修正を示す棒グラフである。図1Bおよび1Cは、3E10によって処置したβ-グロビン/GFPトランスジェニックマウスからの骨髄(1B)および脾臓由来(1C)のCD117+細胞におけるin vivo遺伝子編集の頻度を示す箱ひげ図である。
【0024】
図2図2は、3E10抗体の存在下または非存在下でPNA/DNA含有ナノ粒子によってTownesマウスからのMEFを処置した後の遺伝子編集のパーセンテージを示す棒グラフである。
【0025】
図3図3Aは、SCD変異の近傍でのベータグロビン遺伝子を標的とするtcPNA1、2、および3の結合部位の位置の概略図である。図3Bは、3E10抗体の存在下または非存在下でtcPNA2A/ドナーDNA含有ナノ粒子によって処置したTownesマウスからの骨髄細胞における遺伝子編集のパーセンテージを示す棒グラフである。
【0026】
図4図4は、3E10抗体の存在下または非存在下でPNA/ドナーDNA含有ナノ粒子によってTownesマウスをin vivoで処置した後の骨髄細胞における遺伝子編集のパーセンテージを示す箱ひげ図である。
【0027】
図5図5は、3E10抗体の存在下または非存在下でPNA/DNA含有ナノ粒子によって処置したSC-1細胞における遺伝子編集のパーセンテージを示す棒グラフである。
【0028】
図6図6Aおよび6Bは、CRISPR/Cas9 WT(6A)およびCRISPR/Cas9 D10Aニッカーゼ(6B)の存在下で3E10抗体によって処置したまたは3E10抗体なしで処置したK562 BFP/GFPレポーター細胞におけるCas9媒介遺伝子編集のパーセンテージを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
I.定義
本明細書で使用される場合、用語「単鎖Fv」または「scFv」は、本明細書で使用される場合、scFvが抗原結合に関して所望の構造を形成することを可能にするリンカーによって結合した単一のポリペプチド鎖において軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)を含む単鎖可変断片を意味する(すなわち、単一のポリペプチド鎖のVHおよびVLが互いに会合してFvを形成する)。VLおよびVH領域は、親抗体に由来してもよく、または化学合成もしくは組換えにより合成されてもよい。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「可変領域」は、免疫グロブリンのそのようなドメインを、抗体が広く共有するドメイン(例えば抗体Fcドメイン)と識別すると意図される。可変ドメインは、その残基が抗原結合に関与する「超可変領域」を含む。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、典型的には、軽鎖可変ドメインにおけるおよそ残基24~34(L1)、50~56(L2)、および89~97(L3)、ならびに重鎖可変ドメインにおけるおよそ残基27~35(H1)、50~65(H2)、および95~102(H3);Kabat et al., Sequences of Proteinsof Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutesof Health, Bethesda, MD. (1991))ならびに/または「超可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変ドメインにおける残基26~32(L1)、50~52(L2)、および91~96(L3)、ならびに重鎖可変ドメインにおける26~32(H1)、53~55(H2)、および96~101(H3);Chothia and Lesk, 1987, J.Mol. Biol. 196:901-917)を含む。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「フレームワーク領域」または「FR」残基は、本明細書において定義した超可変領域の残基以外の可変ドメイン残基である。
【0032】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、標的抗原に結合する天然または合成の抗体を指す。この用語は、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を含む。インタクトな免疫グロブリン分子に加えて、用語「抗体」には、それらの免疫グロブリン分子の結合タンパク質、断片、およびポリマー、ならびに標的抗原に結合する免疫グロブリン分子のヒトまたはヒト化バージョンもまた含まれる。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「細胞透過性抗体」は、生きている哺乳動物細胞の細胞質および/または核に輸送される免疫グロブリンタンパク質、その断片、バリアント、またはそれに基づく融合タンパク質を指す。「細胞透過性抗DNA抗体」は、DNA(例えば、一本鎖および/または二本鎖DNA)に特異的に結合する。一部の実施形態では、抗体は、担体またはコンジュゲートの援助を受けずに細胞の細胞質へと輸送される。他の実施形態では、抗体は、細胞透過性部分、例えば細胞透過性ペプチドにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、細胞透過性抗体は、担体またはコンジュゲートの存在下または非存在下で核に輸送される。
【0034】
インタクトな免疫グロブリン分子に加えて、用語「抗体」には、免疫グロブリン分子の断片、結合タンパク質、およびポリマー、免疫グロブリンの1つより多くの種、クラス、またはサブクラスからの配列を含有するキメラ抗体、例えばヒトまたはヒト化抗体、ならびにDNAに特異的に結合する免疫グロブリンの少なくともイディオタイプを含有する組換えタンパク質もまた含まれる。抗体は、本明細書に記載されるin vitroアッセイを使用して、または類似の方法によってその所望の活性に関して試験することができ、その後、そのin vivo治療活性を、公知の臨床的試験方法に従って試験する。
【0035】
本明細書で使用される場合、用語「バリアント」は、参照のポリペプチドまたはポリヌクレオチドとは異なるが、本質的な特性を保持しているポリペプチドまたはポリヌクレオチドを指す。ポリペプチドの典型的なバリアントは、別の参照ポリペプチドとはアミノ酸配列が異なる。一般的に、差は限定的であり、そのため参照ポリペプチドとバリアントの配列は全体として極めて類似であり、多くの領域において同一である。バリアントおよび参照ポリペプチドは、1つまたは複数の改変(例えば、置換、付加、および/または欠失)によってアミノ酸配列が異なり得る。置換または挿入されるアミノ酸残基は、遺伝子コードによってコードされる残基であってもなくてもよい。ポリペプチドのバリアントは、対立遺伝子バリアントのように天然に存在してもよく、または天然に存在することが公知でないバリアントであってもよい。
【0036】
本開示のポリペプチドの構造に改変および変化を行うことができ、それでもなおポリペプチドと類似の特徴を有する分子を得ることができる(例えば、保存的アミノ酸置換)。例えば、認識可能に活性を失うことなく、ある特定のアミノ酸を配列における他のアミノ酸の代わりに使用することができる。ポリペプチドの生物学的機能的活性を定義するのはそのポリペプチドの相互作用能および性質であることから、ある特定のアミノ酸配列置換をポリペプチド配列に行うことができ、それでもなお、同様の特性を有するポリペプチドを得ることができる。
【0037】
そのような変化を行う場合、アミノ酸のハイドロパシーインデックスを考慮することができる。ポリペプチドに対する相互作用生物機能の付与におけるアミノ酸ハイドロパシーインデックスの重要性は、一般的に当技術分野において理解されている。ある特定のアミノ酸を、類似のハイドロパシーインデックスまたはスコアを有する他のアミノ酸の代わりに使用することができ、それでもなお類似の生物活性を有するポリペプチドをもたらすことができることは公知である。各アミノ酸には、その疎水性および電荷特徴に基づいてハイドロパシーインデックスが割り当てられている。それらのインデックスは、イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/シスチン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(-0.4)、トレオニン(-0.7)、セリン(-0.8)、トリプトファン(-0.9)、チロシン(-1.3)、プロリン(-1.6)、ヒスチジン(-3.2)、グルタミン酸(-3.5)、グルタミン(-3.5)、アスパラギン酸(-3.5)、アスパラギン(-3.5)、リシン(-3.9)、およびアルギニン(-4.5)である。
【0038】
アミノ酸の相対的ハイドロパシー特徴は、得られたポリペプチドの二次構造を決定し、次にこれがポリペプチドと他の分子、例えば酵素、基質、受容体、抗体、抗原、および補因子との相互作用を定義すると考えられている。アミノ酸を、類似のハイドロパシーインデックスを有する別のアミノ酸に置換することができ、それでもなお機能的に等価なポリペプチドを得ることができることは当技術分野で公知である。そのような変化では、そのハイドロパシーインデックスが±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内の置換が特に好ましく、±0.5以内の置換がさらにより特に好ましい。
【0039】
同様のアミノ酸の置換はまた、特にそれによって作製された生物学的機能的に等価なポリペプチドまたはペプチドが免疫学的実施形態において使用することが意図される場合には、親水性に基づいて行うこともできる。以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0)、リシン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(glutamnine)(+0.2)、グリシン(0)、プロリン(-0.5±1)、トレオニン(-0.4)、アラニン(-0.5)、ヒスチジン(-0.5)、システイン(-1.0)、メチオニン(-1.3)、バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、チロシン(-2.3)、フェニルアラニン(-2.5)、トリプトファン(-3.4)。アミノ酸を、類似の親水性を有する別のアミノ酸の代わりに使用することができ、それでもなお生物学的に等価な、特に免疫学的に等価なポリペプチドを得ることができると理解される。そのような変化において、その親水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のアミノ酸の置換が特に好ましく、±0.5以内のアミノ酸の置換がさらにより特に好ましい。
【0040】
上記で概略を述べたように、アミノ酸置換は、一般的にアミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えばその疎水性、親水性、電荷、サイズ等に基づく。前述の様々な特徴を考慮に入れる例示的な置換は当業者に周知であり、これには(元の残基:例示的な置換):(Ala:Gly、Ser)、(Arg:Lys)、(Asn:Gln、His)、(Asp:Glu、Cys、Ser)、(Gln:Asn)、(Glu:Asp)、(Gly:Ala)、(His:Asn、Gln)、(Ile:Leu、Val)、(Leu:Ile、Val)、(Lys:Arg)、(Met:Leu、Tyr)、(Ser:Thr)、(Thr:Ser)、(Tip:Tyr)、(Tyr:Trp、Phe)、および(Val:Ile、Leu)が挙げられる。本開示の実施形態はこのように、上記のポリペプチドの機能的または生物学的等価物を企図する。特に、ポリペプチドの実施形態は、目的のポリペプチドと約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い配列同一性を有するバリアントを含み得る。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「パーセント(%)配列同一性」は、配列を整列させて、最大のパーセント配列同一性を達成するために必要に応じてギャップを導入した後、参照核酸配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸と同一である候補配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸のパーセンテージとして定義される。パーセント配列同一性を決定する目的でのアライメントは、当業者の範囲内である様々な方法で、例えば公開されているコンピュータソフトウェア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2、またはMegalign(DNASTAR)を使用して達成することができる。比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適正なパラメーターは、公知の方法によって決定することができる。
【0042】
本明細書における目的に関して、所定のヌクレオチドまたはアミノ酸配列Cの、所定の核酸配列Dとの(to)、Dとの(with)、またはDに対する%配列同一性(これは、あるいは所定の配列Dとの、Dとの、またはDに対するある特定の%配列同一性を有するかまたは含む所定の配列Cと表現することができる)は、以下のように計算される:
割合W/Z×100
式中、Wは、配列アライメントプログラムのCおよびDのアライメントにおいてそのプログラムによって同一のマッチとしてスコア化されるヌクレオチドまたはアミノ酸の数であり、Zは、Dにおけるヌクレオチドまたはアミノ酸の総数である。配列Cの長さが配列Dの長さと等しくない場合、CのDとの%配列同一性は、DのCとの%配列同一性と等しくないと認識されるであろう。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「特異的に結合する」は、他の抗原に有意に結合しない、抗体のその同族抗原(例えば、DNA)に対する結合を指す。そのような条件下で抗体が標的に特異的に結合するためには、抗体を標的に対するその特異性に関して選択する必要がある。多様なイムノアッセイフォーマットを使用して、特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択することができる。例えば、固相ELISAイムノアッセイを慣用的に使用して、タンパク質と特異的に免疫反応するモノクローナル抗体を選択する。例えば、特異的免疫反応性を決定するために使用することができるイムノアッセイフォーマットおよび条件の記載に関しては、Harlow and Lane (1988) Antibodies, A Laboratory Manual, Cold SpringHarbor Publications, New Yorkを参照されたい。好ましくは、抗体は、その第2の分子と約10mol-1より高い(例えば、10mol-1、10mol-1、10mol-1、10mol-1、1010mol-1、1011mol-1、および1012mol-1、またはそれより高い)親和性定数(Ka)で抗原に「特異的に結合する」。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「モノクローナル抗体」または「MAb」は、実質的に均一な抗体集団から得た抗体を指し、すなわち集団内の個々の抗体は、抗体分子の小さいサブセットに存在し得る起こり得る天然に存在する変異を除き、同一である。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝子編集増強因子」または「遺伝子編集増強剤」、または「増強因子」または「増強剤」は、化合物の非存在下での遺伝子編集技術の使用と比較して、遺伝子編集技術による遺伝子、ゲノム、または他の核酸の編集(例えば、挿入、欠失、置換等を含む変異)の有効性を増加させる化合物を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「被験体」は、投与の標的である任意の個体を意味する。被験体は、脊椎動物、例えば哺乳動物であり得る。したがって、被験体はヒトであり得る。この用語は、特定の年齢または性別を指し示すものではない。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」または「治療有効量」は、使用される組成物の量が、疾患または障害の1つまたは複数の原因または症状を改善するために十分な量であることを意味する。そのような改善は、単に低減または変更を必要とするに過ぎず、必ずしも排除を必要としない。正確な投薬量は、被験体に依存する変数(例えば、年齢、免疫系の健康等)、処置される疾患または障害、ならびに投与される薬剤の投与経路および薬物動態などの多様な要因に応じて変化するであろう。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される」は、生物学的でもそれ以外で望ましくないものでもない材料を指し、すなわち材料は、いかなる望ましくない生物作用も引き起こすことなく、またはそれが含有される医薬組成物の他のいかなる構成成分とも有害に相互作用することなく被験体に投与され得る。
【0049】
本明細書で使用される場合、用語「担体」または「賦形剤」は、それと共に1つまたは複数の活性成分を組み合わせる、製剤中の有機または無機成分、天然または合成の不活性成分を指す。担体または賦形剤は本来、当業者に周知であるように、活性成分のいかなる分解も最小限にするように、および被験体におけるいかなる有害な副作用も最小限にするように選択される。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「処置する」は、疾患、病的状態、または障害を治癒する、改善する、安定化する、または防止する意図での患者の医学的管理を指す。この用語は、積極的な処置、すなわち具体的に疾患、病的状態、または障害の改善を目的とする処置を含み、同様に原因の処置、すなわち関連する疾患、病的状態、または障害の原因の除去を目的とする処置も含む。加えてこの用語は、緩和処置、すなわち疾患、病的状態、または障害の治癒ではなくて症状の軽減のために設計された処置;防止的処置、すなわち関連する疾患、病的状態、または障害の発症を最小限にするか、または部分的もしくは完全に阻害することを目的とする処置;ならびに支持的処置、すなわち関連する疾患、病的状態、または障害の改善を目的とする別の特異的治療を補助するために用いられる処置を含む。
【0051】
本明細書で使用される場合、「標的化部分」は、選択された細胞または組織タイプ上の受容体部位にナノ粒子を方向付けることができ、結合分子として役立ち得るか、または別の分子とのカップリングもしくは結合のために役立ち得る物質である。本明細書で使用される場合、「方向付ける」は、選択した細胞または組織タイプに分子を優先的に結合させることを指す。これを使用して、以下に論じるように、細胞材料、分子、または薬物を方向付けることができる。
【0052】
本明細書で使用される場合、用語「阻害する」または「低減する」は、活性、応答、状態、疾患、または他の生物学的パラメーターの減少を意味する。これは、これらに限定されないが、活性、応答、状態、または疾患の完全な除去を含み得る。これはまた、例えば天然または対照レベルと比較して活性、応答、状態、または疾患の10%低減も含み得る。したがって、低減は、天然または対照レベルと比較して10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%、またはその間の任意の量の低減であり得る。
【0053】
本明細書で使用される場合、「融合タンパク質」は、1つのポリペプチドのアミノ末端と別のポリペプチドのカルボキシル末端との間で形成されたペプチド結合を通しての2つまたはそれより多くのポリペプチドの結合によって形成されたポリペプチドを指す。融合タンパク質は、構成要素ポリペプチドの化学的カップリングによって形成することができ、または単一の連続する融合タンパク質をコードする核酸配列から単一のポリペプチドとして発現させることができる。単鎖融合タンパク質は、単一の連続するポリペプチド骨格を有する融合タンパク質である。融合タンパク質は、分子生物学の通常の技術を使用して2つの遺伝子をインフレームで単一の核酸配列に結合して調製することができ、次に融合タンパク質が産生される条件下で適正な宿主細胞において核酸を発現させることができる。
【0054】
本明細書で使用される場合、用語「低分子」は、本明細書で使用される場合、一般的に分子量約2000g/mol未満、約1500g/mol未満、約1000g/mol未満、約800g/mol未満、または約500g/mol未満である有機分子を指す。低分子は非ポリマーおよび/または非オリゴマーである。
【0055】
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書においてそれ以外であると示されている場合を除き、単にその範囲内に入る各々の別々の値を個々に言及する省略方法として役立つと意図され、各々の別々の値は、あたかもそれが本明細書において個々に列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。
【0056】
用語「約」の使用は、記載の値より上または下のいずれかのおよそ±10%の範囲の値を記載すると意図される。他の実施形態では、値は、記載の値より上または下のいずれかのおよそ±5%の範囲の値の範囲であり得る。他の実施形態では、値は、記載の値より上または下のいずれかのおよそ±2%の範囲の値の範囲であり得る。他の実施形態では、値は、記載の値より上または下のいずれかのおよそ±1%の範囲の値の範囲であり得る。上記の範囲は、文脈から明白になると意図され、さらなる限定を意味するものではない。
【0057】
本明細書において記載する全ての方法は、文脈がそれ以外であることを示している場合を除き、または文脈と明らかに矛盾している場合を除き、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書において提供されるありとあらゆる例、または例示的な言語(例えば、「などの」)の使用は、単に実施形態をよりよく明らかにすることを意図しているに過ぎず、それ以外であることを特許請求している場合を除き、本実施形態の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいかなる言語も、特許請求されていない任意のエレメントが本発明の実践にとって必須であることを示すと解釈してはならない。
【0058】
II.遺伝子編集増強剤
遺伝子編集を媒介するいくつかの方法が開発されている。これらの方法は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、Talen、メガヌクレアーゼ、CRISPR/Cas9、および三重鎖形成ペプチド核酸(PNA)(Maeder, et al., Mol. Ther., 24(3):430-46 (2016);Quijano, et al.,Yale J. Biol. Med., 90(4):583-598 (2017))の使用を含む。これらのアプローチは、標的部位DNA(ヌクレアーゼ)で直接切断を行うか、またはそれらが標的遺伝子に結合して細胞に内因性修復経路(例えば、PNA)を誘発させ、二次的に鎖の切断をもたらすかのいずれかである。これらの方法では一般的であるが、遺伝子編集情報は、一本鎖もしくは二本鎖オリゴヌクレオチド、またはドナーDNAによって運ばれ、これらをヌクレアーゼまたはPNAと共に細胞または動物に同時投与する。一般的に、ドナーDNAによる高い効率の遺伝子編集を可能にするためには、標的部位でのDNA鎖の切断が必要であると考えられている。
【0059】
DNA三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)による初期の研究では、相同性検索および相同組換え修復プロセスにおける鎖の侵入に関与する因子であるRAD51が、TFO誘導遺伝子編集にとって必要であることが観察された(Bahal, et al., Nat. Commun., 7:13304 (2016))。しかし、現在ではRAD51は、PNA媒介遺伝子編集にとって必要ではないことが発見されている(抗RAD51 siRNAと組み合わせて同時送達されたPNA/ドナーDNAを使用する実験を通して)。その上、RAD51のノックダウンが、対立遺伝子特異的PCRによって測定した場合、実際に編集効率をブーストすることが発見されている。
【0060】
実施例に記載されている実験はまた、RAD51に結合してこれを阻害する細胞透過性抗DNA抗体である3E10が、培養物中のマウス細胞およびヒト細胞において、ならびにin vivoでマウスにおいてPNA/ドナーDNAによる遺伝子編集を刺激することも示している。3E10はまた、ドナーDNAと組み合わせてCRISPR/Cas9のD10Aニッカーゼバージョンによる遺伝子編集を増強することも示されている。
【0061】
したがって、遺伝子編集技術、例えば三重鎖形成PNAおよびドナーDNA(必要に応じて、ナノ粒子組成物中で)、またはCRISPR/Cas9システム(例えば、CRISPR/Cas9 D10Aニッカーゼ)およびドナーDNAの効率を増加させる組成物および方法を提供する。本開示の方法は、典型的には、細胞を、増強剤および遺伝子編集技術の両方と接触させることを含む。例示的な増強剤および遺伝子編集技術を提供する。増強剤および遺伝子編集技術は、同じまたは異なる組成物の一部であり得る。
【0062】
一部の実施形態では、増強剤は、1つまたは複数の内因性の高忠実度DNA修復経路に携わることができるか、またはエラープローン(すなわち低忠実度)DNA修復経路を阻害/モジュレートすることができる。増強剤としては、例えばDNA損傷および/またはDNA修復因子のモジュレーター、相同組換え因子のモジュレーター、細胞接着モジュレーター、細胞周期モジュレーター、細胞増殖モジュレーター、および幹細胞動員因子が挙げられる。増強因子は、1つまたは複数の内因性の高忠実度DNA修復経路をモジュレートする(例えば、変更する、阻害する、促進する、競合する)ことができるか、またはエラープローン(すなわち、低忠実度)DNA修復経路を阻害/モジュレートすることができる。好ましい実施形態では、増強因子は、DNA損傷、DNA修復、または相同組換え因子の阻害剤であり得る。より好ましい実施形態では、増強因子はRAD51の阻害剤であり得る。
【0063】
例えば、DNA損傷および/またはDNA修復因子の阻害剤を増強剤として使用してもよい。相同組換え因子の阻害剤を増強剤として使用してもよい。
【0064】
細胞は、主に、DNA切断領域でヌクレオチドを導入するかまたは欠失させることができる主要な経路であるがエラーを生じやすい経路である内因性の非相同末端結合(NHEJ)DNA修復を通してDNA切断を修復する。したがって、NHEJは、標的遺伝子の永続的なサイレンシングに適している。あるいは、細胞は、鋳型DNA鎖の存在下で相同組換えを伴うより正確な機構である相同組換え修復(HDR)によって二本鎖切断を修復することもできる。典型的には、標的化ゲノム編集は、変異した配列を鋳型/ドナーDNAによって提供される修正する配列に交換することによってゲノム中の変異配列の修正を対象とする。そのため、標的化ゲノム編集の効率を亢進するために鋳型/ドナーDNAの相同組換えにとって都合がよい機構を同定および利用するために当技術分野で継続的な努力が行われている。DNA修復に関係する因子の発現および/または活性をモジュレートすることは、ゲノム操作の精度を亢進するために有望なアプローチである。
【0065】
用語「DNA修復」は、それによって細胞がDNA分子に対する損傷を同定し、修正するプロセスの集合体を指す。一本鎖欠損は、塩基除去修復(BER)、ヌクレオチド除去修復(NER)、またはミスマッチ修復(MMR)によって修復される。二本鎖切断は、非相同末端結合(NHEJ)、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、または相同組換えによって修復される。DNAが損傷を受けると、細胞周期チェックポイントが活性化され、これが細胞周期を停止させて、分裂を継続する前に細胞に損傷を修復する時間を与える。チェックポイントメディエータータンパク質としては、BRCA1、MDC1、53BP1、p53、ATM、ATR、CHK1、CHK2、およびp21が挙げられる。したがって、BER、NER、MMR、NHEJ、MMEJ、相同組換えまたはDNA合成等を含む上記のプロセスのいずれかに関係する因子は、DNA損傷および/またはDNA修復因子として記載され得る。
【0066】
DNA損傷、DNA修復、DNA合成、または相同組換え因子の非制限的な例としては、XRCC1、ADPRT(PARP-1)、ADPRTL2、(PARP-2)、POLYMERASE BETA、CTPS、MLH1、MSH2、FANCD2、PMS2、p53、p21、PTEN、RPA、RPAl、RPA2、RPA3、XPD、ERCC1、XPF、MMS19、RAD51、RAD51B、RAD51C、RAD51D、DMC1、XRCCR、XRCC3、BRCA1、BRCA2,PALB2、RAD52、RAD54、RAD50、MREU、NB51、WRN、BLM、KU70、KU80、ATM、ATR CPIK1、CHK2、FANCA、FANCB、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、RAD1、およびRAD9が挙げられる。好ましい実施形態では、DNA損傷因子またはDNA修復因子はRAD51である。
【0067】
RAD51リコンビナーゼは、E.coli RecAのオルトログであり、哺乳動物細胞の相同組換えにおける重要なタンパク質である。RAD51は、DNA損傷の最も有害なタイプである二本鎖切断の修復を促進する。二本鎖切断は、様々な化学剤および電離放射線によって誘導され得るが、鎖間架橋の修復の際にも形成される。一度二本鎖切断が形成されると、それらは最初にエキソヌクレアーゼによって処理され、広範な3’一本鎖DNA(ssDNA)テールを生成する(Cejka et al., Nature., 467(7311):112-16 (2010);Mimitou &Symington, DNA Repair., 8(9):983-95 (2009))。ssDNAのこれらの痕跡は、一本鎖DNA結合タンパク質RPAによって急速に覆われるようになるが、RPAは最終的にRAD51によってssDNAから除去される。RAD51は、ATP依存的DNA結合活性を有し、そのためssDNAテールに結合し、多量体を形成してらせん状のヌクレオプロテインフィラメントを形成し、これは相同なdsDNA配列の検索を促進する(Kowalczykowski,Nature., 453(7194):463-6 (2008))。RAD51が、細胞中のssDNA上でRPAを除去することができるためには、BRCA2、RAD52、RAD51パラログ複合体、および他のタンパク質を含むいくつかのメディエータータンパク質が必要である(Thompson& Schild, Mutat Res., 477:131-53 (2001))。相同なdsDNA配列が見出されると、RAD51は、フィラメント内に存在するssDNAと相同なdsDNAとの間でDNA鎖交換を促進し、すなわち、ssDNAが相同なDNA二重鎖に侵入すると、二重鎖から同一のssDNAの除去および結合分子の形成をもたらす。DSB修復の重要な中間体である結合分子は、二本鎖切断修復にとって必要なDNA修復合成のための鋳型およびプライマーの両方を提供する(Paques& Haber, Microbiol. Mol. Biol. Rev., 63(2):349-404 (1999))。
【0068】
DNA鎖交換を促進することによって、RAD51は相同組換えにおいて重要な役割を果たす。このタンパク質は、バクテリオファージから哺乳動物まで進化的に保存されている。全ての生物において、RAD51オルトログはDNA修復および相同組換えにおいて重要な役割を果たす(Krough & Symington, Annu. Rev. Genet., 38:233-71 (2004);Helledayet al., DNA Repair, 6(7):923-35 (2007);Huang et al., Proc. Natl. Acad. Sci.USA., 93(10):4827-32 (1996))。
【0069】
好ましい実施形態では、増強剤は、RAD51、XRCC4、またはその組合せの発現および/または活性に拮抗するまたはそれらを低減させるものである。例えば、一部の実施形態では、増強剤は、RAD51および/またはXRCC4阻害剤である。増強剤の非制限的な例としては、リボザイム、三重鎖形成分子、siRNA、shRNA、miRNA、アプタマー、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子、および抗体が挙げられる。
【0070】
前述の因子のいずれかを設計および産生する方法は、当技術分野で周知であり、使用することができる。例えば、予め設計された抗RAD51 siRNAがDharmaconから市販されており(実施例に記載されるように)、増強剤として使用してもよい。同様に、抗XRCC4 siRNA、shRNA、およびmiRNAは当技術分野で公知であり、容易に入手可能である。さらに、XRCC4およびRAD51の低分子阻害剤が当技術分野で公知であり(例えば、Jekimovs, et al., Front. Oncol., 4:86 (2014))、本開示の方法に従って増強剤として使用することができる。
【0071】
一部の実施形態では、増強剤は細胞透過性抗体である。細胞透過性分子は、一般的に本明細書において「細胞透過性抗体」と呼ばれるが、抗原結合性断片、バリアント、ならびに融合タンパク質、例えばscFv、di-scFv、tri-scFv、および他の単鎖可変断片を含む断片および結合タンパク質、ならびに本明細書に開示の他の細胞透過性分子が、この語句に包含され、同様に本明細書に開示される組成物および方法において使用するために明白に提供される。
【0072】
組成物および方法において使用するための細胞透過性抗体は、抗DNA抗体であり得る。細胞透過性抗体は、一本鎖DNAおよび/または二本鎖DNAに結合し得る。細胞透過性抗体は、抗RNA抗体(例えば、RNAに特異的に結合する抗体)であり得る。
【0073】
二本鎖デオキシリボ核酸(dsDNA)に対する自己抗体はしばしば、全身性エリテマトーデス(SLE)を有する患者の血清中で同定され、疾患の病因にしばしば関係している。したがって、一部の実施形態では、細胞透過性抗体(例えば、細胞透過性抗DNA抗体)は、SLEを有する患者またはSLEの動物モデルに由来し得るか、またはそれらから単離することができる。
【0074】
好ましい実施形態では、抗DNA抗体は、モノクローナル抗体またはその抗原結合性断片もしくはバリアントである。一部の実施形態では、抗DNA抗体は、細胞への進入、ならびに細胞質および/または核への輸送を促進するために、細胞透過性部分、例えば細胞透過性ペプチドにコンジュゲートされる。細胞透過性ペプチドの例としては、これらに限定されないが、ポリアルギニン(例えば、R)、アンテナペディア配列、TAT、HIV-Tat、ペネトラチン、Antp-3A(Antp変異体)、ブフォリンII、トランスポータン、MAP(モデル両親媒性ペプチド)、K-FGF、Ku70、プリオン、pVEC、Pep-1、SynB1、Pep-7、HN-1、BGSC(ビス-グアニジニウム-スペルミジン-コレステロール)、およびBGTC(ビス-グアニジニウム-Tren-コレステロール)が挙げられる。他の実施形態では、抗体はTransMabs(商標)技術(InNexus Biotech.,Inc.,Vancouver,BC)を使用して改変される。
【0075】
好ましい実施形態では、抗DNA抗体は、担体またはコンジュゲートの援助を受けずに細胞の細胞質および/または核へと輸送される。例えば、細胞傷害作用を伴わずにin vivoで哺乳動物細胞の核に輸送されるモノクローナル抗体3E10およびその活性断片が、Richard Weisbartに対する米国特許第4,812,397号および第7,189,396号において開示されている。簡単に説明すると、抗体は、抗DNA抗体の血清中レベルが上昇した宿主(例えば、MRL/1prマウス)からの脾細胞を公知の技術に従って骨髄腫細胞と融合させること、または脾細胞を適正な形質転換ベクターによって形質転換し、細胞を不死化させることによって調製され得る。細胞を選択培地中で培養し、DNAに結合する抗体を選択するためにスクリーニングしてもよい。
【0076】
一部の実施形態では、細胞透過性抗体は、Rad51に結合してもよく、および/またはRad51を阻害してもよい。例えば、Turchick, et al., Nucleic Acids Res., 45(20): 11782-11799 (2017)に記載される細胞透過性抗体を参照されたい。
【0077】
組成物および方法において使用することができる抗体としては、任意のクラスの免疫グロブリン全体(すなわち、インタクトな抗体)、その断片、および抗体の少なくとも抗原結合性可変ドメインを含有する合成タンパク質が挙げられる。可変ドメインは、抗体間で配列が異なり、その特定の抗原に対する各々の特定の抗体の結合および特異性において使用される。しかし、変動性は通常、抗体の可変ドメインの中に均一に分布していない。これは典型的には、軽鎖および重鎖可変ドメインの両方において相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインは各々が4つのFR領域を含み、ほとんどがベータ-シート立体配置をとり、3つのCDRによって接続され、ベータ-シート構造を接続し、一部の例ではその一部を形成するループを形成する。各々の鎖におけるCDRは、FR領域によって一緒に非常に近位に保持され、他の鎖からのCDRと共に抗体の抗原結合性部位の形成に寄与する。したがって、抗体は、典型的にはDNA結合を維持するためおよび/またはDNA修復を妨害するために必要な少なくともCDRを含有する。
【0078】
A. 3E10配列
一部の実施形態では、細胞透過性抗DNA抗体は、モノクローナル抗DNA抗体3E10、または3E10と同じもしくは異なるエピトープに結合するそのバリアント、誘導体、断片、もしくはヒト化型である。したがって、細胞透過性抗DNA抗体は、ATCC番号PTA2439ハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体3E10と同じまたは異なるエピトープ特異性を有し得る。抗DNA抗体は、モノクローナル抗体3E10のパラトープを有し得る。抗DNA抗体は、抗DNA抗体の単鎖可変断片、またはその保存的バリアントであり得る。例えば、抗DNA抗体は、3E10の単鎖可変断片(3E10 Fv)またはそのバリアントであり得る。
【0079】
モノクローナル抗体3E10のアミノ酸配列は当技術分野で公知である。例えば、3E10重鎖および軽鎖の配列を以下に提供し、ここで一重下線はKabatシステムに従って同定されたCDR領域を示し、配列番号12~14においてイタリック体は可変領域を示し、二重下線はシグナルペプチドを示す。IMGTシステムに従うCDRも同様に提供する。
【0080】
1.3E10重鎖
一部の実施形態では、3E10の重鎖可変領域は:
【化1】
(配列番号1;Zack,et al., Immunology and Cell Biology, 72:513-520 (1994);GenBank:L16981.1-マウスIg再配列L-鎖遺伝子;部分的cds;およびGenBank:AAA65679.1-免疫グロブリン重鎖、部分的[Mus musculus])である。
【0081】
一部の実施形態では、3E10重鎖は、
【化2】
として発現される。
【0082】
野生型配列に変異を組み込む3E10抗体のバリアントも同様に、例えばZack, et al., J. Immunol., 157(5):2082-8 (1996)に記載されるように当技術分野で公知である。例えば、3E10の重鎖可変領域のアミノ酸31位は、抗体およびその断片が核の中に侵入してDNAに結合する能力に影響を及ぼすことが決定されている(配列番号1、2、および13における太字)。CDR1におけるD31N変異(配列番号2および13における太字)は、核の中に侵入して元の抗体よりかなり高い効率でDNAに結合する(Zack,et al., Immunology and Cell Biology, 72:513-520 (1994)、Weisbart, et al., J.Autoimmun., 11, 539-546 (1998);Weisbart, Int. J. Oncol., 25, 1867-1873 (2004))。
【0083】
一部の実施形態では、3E10の重鎖可変領域の好ましいバリアントのアミノ酸配列は:
【化3】
である。
【0084】
一部の実施形態では、3E10重鎖は、
【化4】
【化5】
として発現される。
【0085】
一部の実施形態では、配列番号1または2のC末端セリンは、存在しないか、または例えば3E10重鎖可変領域においてアラニンに置換されている。
【0086】
Kabatによって同定された相補性決定領域(CDR)は、上記の下線で示され、CDR H1.1(元の配列):DYGMH(配列番号15)、CDR H1.2(D31N変異を有する):NYGMH(配列番号16)、CDR H2.1:YISSGSSTIYYADTVKG(配列番号17)、CDR H3.1:RGLLLDY(配列番号18)を含む。
【0087】
Kabat CDR H2.1のバリアントはYISSGSSTIYYADSVKG(配列番号19)である。
【0088】
加えてまたはあるいは、重鎖相補性決定領域(CDR)は、IMGTシステムに従って定義することができる。IMGTシステムによって同定された相補性決定領域(CDR)は、CDR H1.3(元の配列):GFTFSDYG(配列番号20)、CDR H1.4(D31N変異を有する):GFTFSNYG(配列番号21)、CDR H2.2:ISSGSSTI(配列番号22)、CDR H3.2:ARRGLLLDY(配列番号23)を含む。
【0089】
2.3E10軽鎖
一部の実施形態では、3E10の軽鎖可変領域は:
【化6】
である。
【0090】
3E10の軽鎖可変領域のアミノ酸配列はまた:
【化7】
でもあり得る。
【0091】
一部の実施形態では、3E10軽鎖は、
【化8】
として発現される。
【0092】
他の3E10軽鎖配列は、当技術分野で公知である。例えば、Zack, et al., J. Immunol., 15;154(4):1987-94 (1995);GenBank:L16981.1-マウスIg再配列L鎖遺伝子、部分的cds;GenBank:AAA65681.1-免疫グロブリン軽鎖、部分的[Mus musculus])を参照されたい。
【0093】
Kabatによって同定された相補性決定領域(CDR)を、下線で示し、CDR L1.1:
【化9】
を含む。
【0094】
Kabat CDR L1.1のバリアントはRASKSVSTSSYSYLA(配列番号27)である。
【0095】
Kabat CDR L2.1のバリアントはYASYLQS(配列番号28)である。
【0096】
加えてまたはあるいは、重鎖相補性決定領域(CDR)は、IMGTシステムに従って定義することができる。IMGTシステムによって同定された相補性決定領域(CDR)は、CDR L1.2 KSVSTSSYSY(配列番号29)、CDR L2.2:YAS(配列番号30)、CDR L3.2:QHSREFPWT(配列番号26)を含む。
【0097】
一部の実施形態では、配列番号7または8の配列のC末端は、3E10軽鎖可変領域においてアルギニンをさらに含む。
【0098】
B.ヒト化3E10
一部の実施形態では、抗体はヒト化抗体である。非ヒト抗体をヒト化する方法は、当技術分野で周知である。一般的に、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源からそれに導入された1つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基はしばしば、典型的に「インポート」可変ドメインからとって「インポート」残基と呼ばれる。抗体のヒト化技術は、一般的には、抗体分子の1つまたは複数のポリペプチド鎖をコードするDNA配列を操作するために、組換えDNA技術の使用を伴う。
【0099】
例示的な3E10ヒト化配列は、WO2015/106290号およびWO2016/033324号において論じられ、以下に提供される。
【0100】
1.ヒト化3E10重鎖可変領域
一部の実施形態では、ヒト化3E10重鎖可変ドメインは
【化10】
を含む。
【0101】
2.ヒト化3E10軽鎖可変領域
一部の実施形態では、ヒト化3E10軽鎖可変ドメインは
【化11】
を含む。
【0102】
C.断片、バリアント、および融合タンパク質
抗DNA抗体は、3E10またはそのヒト化型の可変重鎖および/または軽鎖(例えば、配列番号1~11のいずれか、または配列番号12~14のいずれかの重鎖および/もしくは軽鎖)のアミノ酸配列と、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%同一である可変重鎖および/または可変軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体断片または融合タンパク質で構成され得る。
【0103】
抗DNA抗体は、3E10またはそのバリアントもしくはヒト化型のCDR(例えば、配列番号1~11、または配列番号12~14、または配列番号15~30のいずれかのCDR)のアミノ酸配列と、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%同一である1つまたは複数のCDRを含む抗体断片または融合タンパク質で構成され得る。2つのアミノ酸配列のパーセント同一性の決定は、BLASTタンパク質比較によって決定することができる。一部の実施形態では、抗体は、上記の好ましい可変ドメインのCDRの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ全てを含む。
【0104】
好ましくは、抗体は、重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3の各々の1つと、軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3の各々の1つとの組合せを含む。
【0105】
3E10の軽鎖可変配列の予測される相補性決定領域(CDR)は上記に提供される。同様にGenBank:AAA65681.1-免疫グロブリン軽鎖、部分的[Mus musculus]およびGenBank:L34051.1-マウスIg再配列カッパ鎖mRNA V領域も参照されたい。3E10の重鎖可変配列の予測される相補性決定領域(CDR)は上記に提供される。同様に、例えばZack, et al., Immunology and Cell Biology, 72:513-520 (1994)、GenBank受託番号AAA65679.1.Zach,et al., J. Immunol. 154 (4), 1987-1994 (1995)、およびGenBank:L16982.1-マウスIg再配列H鎖遺伝子、部分的cdsも参照されたい。
【0106】
このように、一部の実施形態では、細胞透過性抗体は、配列番号1もしくは2のCDR、もしくは重鎖および軽鎖可変領域全体、または配列番号12もしくは13の重鎖領域、あるいはそのヒト化型と、配列番号7もしくは8、または配列番号14の軽鎖領域、あるいはそのヒト化型との組合せを含有する。一部の実施形態では、細胞透過性抗体は、配列番号3、4、5、または6のCDR、または重鎖および軽鎖可変領域全体と、配列番号9、10、または11との組合せを含有する。
【0107】
同様に、生物活性を有する抗体の断片も含まれる。他の配列に結合しているか否かによらず、断片は、断片の活性が非改変抗体または抗体断片と比較して有意に変更されていないかまたは損なわれない限り、特定の領域または特異的アミノ酸残基の挿入、欠失、置換、または他の選択された改変を含む。
【0108】
本開示の抗原性タンパク質に対して特異的な単鎖抗体の産生にも技術を適合させることができる。単鎖抗体の産生方法は当業者に周知である。単鎖抗体は、短いペプチドリンカーを使用して重鎖および軽鎖の可変ドメインを一緒に融合させ、それによって抗原結合性部位を単一の分子上で再構成することによって作製することができる。1つの可変ドメインのC末端が、15~25アミノ酸のペプチドまたはリンカーを介して他の可変ドメインのN末端に繋がれている単鎖抗体可変断片(scFv)が、抗原結合性または結合の特異性を有意に妨害することなく作製されている。リンカーは、重鎖および軽鎖をその適したコンフォメーションの配向で一緒に結合させることを可能にするように選択される。
【0109】
抗DNA抗体を、その治療能を改善するように改変することができる。例えば、一部の実施形態では、細胞透過性抗DNA抗体を、標的細胞の細胞質および/または核における第2の治療標的に対して特異的な別の抗体にコンジュゲートする。例えば、細胞透過性抗DNA抗体は、3E10 Fvおよび第2の治療標的に特異的に結合するモノクローナル抗体の単鎖可変断片を含有する融合タンパク質であり得る。他の実施形態では、細胞透過性抗DNA抗体は、3E10からの第1の重鎖および第1の軽鎖、ならびに第2の治療標的に特異的に結合するモノクローナル抗体からの第2の重鎖および第2の軽鎖を有する二特異性抗体である。
【0110】
二価の単鎖可変断片(ジ-scFv)は、2つのscFvを連結することによって操作することができる。これは、2つのVHおよび2つのVL領域を有する単一のペプチド鎖を産生し、タンデムscFvを生じることによって行うことができる。scFvはまた、2つの可変領域を一緒にフォールドするには短すぎるリンカーペプチド(約5アミノ酸)によって、scFvを二量体化させることによって設計することができる。このタイプは、ダイアボディとして公知である。ダイアボディは、対応するscFvの40分の1までの解離定数を有することが示されており、このことは、それらがその標的に対してかなり高い親和性を有することを意味している。さらにより短いリンカー(1または2アミノ酸)は、三量体(トリアボディまたはトリボディ)の形成をもたらす。テトラボディもまた産生されている。それらは、その標的に対してダイアボディよりさらに高い親和性を示す。一部の実施形態では、抗DNA抗体は、3E10の2つまたはそれより多くの連結した単鎖可変断片(例えば、3E10ジ-scFv、3E10トリ-scFv)、またはその保存的バリアントを含有し得る。一部の実施形態では、抗DNA抗体は、ダイアボディまたはトリアボディ(例えば、3E10ダイアボディ、3E10トリアボディ)である。3E10の1つのおよび2つまたはそれより多くの連結された単鎖可変断片の配列は、WO2017/218825号およびWO2016/033321号に提供される。
【0111】
抗体の機能は、抗体またはその断片を治療剤とカップリングさせることによって亢進され得る。抗体または断片と治療剤とのそのようなカップリングは、抗体または抗体断片および治療剤を含む免疫コンジュゲートを作製することによって、または融合タンパク質を作製することによって、または抗体もしくは断片を核酸、例えばDNAもしくはRNA(例えば、siRNA)に連結させることによって達成することができる。
【0112】
組換え融合タンパク質は、融合遺伝子の遺伝的操作を通して作製されたタンパク質である。これは典型的には、第1のタンパク質をコードするcDNA配列から停止コドンを除去すること、次に第2のタンパク質のcDNA配列をライゲーションまたはオーバーラップ伸長PCRを通してインフレームで付加することを伴う。次に、DNA配列を、細胞によって単一のタンパク質として発現させる。タンパク質は、両方の元のタンパク質の完全な配列、またはそのいずれかの一部分のみを含むように操作することができる。2つの実体がタンパク質である場合、しばしばリンカー(または「スペーサー」)ペプチドもまた付加され、これによってタンパク質は独立して折り畳まれ、予想されるように挙動する可能性がより高くなる。
【0113】
一部の実施形態では、細胞透過性抗体は、その半減期を変更するように改変される。一部の実施形態では、抗体が、循環中または処置部位により長期間存在するように、抗体の半減期を増加させることが望ましい。例えば、抗体の力価を、循環中または処置される位置でより長期間維持することが望ましい場合がある。他の実施形態では、抗DNA抗体の半減期は、可能性がある副作用を低減させるように減少させる。抗体断片、例えば3E10Fvは、全長の抗体より短い半減期を有し得る。半減期を変更する他の方法は公知であり、記載の方法において使用することができる。例えば、抗体は、例えばXtend(商標)抗体半減期延長化技術(Xencor、Monrovia、CA)を使用して半減期を延長させるFcバリアントによって操作することができる。
【0114】
1.リンカー
本明細書で使用される用語「リンカー」は、限定されないが、ペプチドリンカーを含む。ペプチドリンカーは、可変領域によるエピトープの結合を妨害しない限り、任意のサイズであり得る。一部の実施形態では、リンカーは、1つまたは複数のグリシンおよび/またはセリンアミノ酸残基を含む。一価の単鎖抗体可変断片(scFv)は、1つの可変ドメインのC末端が、15~25アミノ酸ペプチドまたはリンカーを介して他の可変ドメインのN末端に典型的に繋がれている。リンカーは、重鎖および軽鎖がその適したコンフォメーションの配向で一緒に結合することができるように選択される。ダイアボディ、トリアボディ等におけるリンカーは、典型的に上記で論じたように一価のscFvより短いリンカーを含む。ジ、トリ、および他の多価scFvは、典型的に3つまたはそれより多くのリンカーを含む。リンカーは、長さおよび/またはアミノ酸組成に関して同じであっても異なっていてもよい。したがって、リンカーの数、リンカーの組成、およびリンカーの長さは、当技術分野で公知であるようにscFvの所望の価数に基づいて決定することができる。リンカーは、ジ、トリ、および他の多価scFvの形成を可能にするかまたは促進することができる。
【0115】
例えば、リンカーは、4~8アミノ酸を含み得る。特定の実施形態では、リンカーは、アミノ酸配列GQSSRSS(配列番号31)を含む。別の実施形態では、リンカーは、15~20アミノ酸、例えば18アミノ酸を含む。特定の実施形態では、リンカーは、アミノ酸配列GQSSRSSSGGGSSGGGGS(配列番号32)を含む。他のフレキシブルリンカーとしては、これらに限定されないが、アミノ酸配列Gly-Ser、Gly-Ser-Gly-Ser(配列番号33)、Ala-Ser、Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号34)、(Gly-Ser)(配列番号35)および(Gly-Ser)(配列番号36)、ならびに(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)(配列番号37)が挙げられる。
【0116】
2.例示的な抗DNA scFv配列
モノ、ジ、およびトリscFvを含む例示的なマウス3E10 scFv配列は、WO2016/033321号およびWO2017/218825号に開示され、以下に提供する。本開示の組成物および方法において使用するための細胞透過性抗体は、例示的なscFv、ならびにその断片およびバリアントを含む。
【0117】
scFv 3E10(D31N)のアミノ酸配列は:
【化12】
である。
【0118】
配列番号38に関連するscFvタンパク質ドメインのアノテーション
・AGIH配列は溶解度を増加させる(配列番号38のアミノ酸1~4)
・Vk可変領域(配列番号38のアミノ酸5~115)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号38のアミノ酸116~121)
・(GGGGS)(配列番号37)リンカー(配列番号38のアミノ酸122~136)
・VH可変領域(配列番号38のアミノ酸137~252)
・Mycタグ(配列番号38のアミノ酸253~268)
・His6タグ(配列番号38のアミノ酸269~274)
【0119】
3E10ジ-scFv(D31N)のアミノ酸配列
ジ-scFv 3E10(D31N)は、3E10の2×重鎖および軽鎖可変領域を含むジ-単鎖可変断片であり、重鎖の31位のアスパラギン酸がアスパラギンに変異している。ジ-scFv 3E10(D31N)のアミノ酸配列は:
【化13】
である。
【0120】
配列番号39に関連するジ-scFvタンパク質ドメインのアノテーション
・AGIH配列は溶解度を増加させる(配列番号39のアミノ酸1~4)
・Vk可変領域(配列番号39のアミノ酸5~115)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号39のアミノ酸116~121)
・(GGGGS)(配列番号37)リンカー(配列番号39のアミノ酸122~136)
・VH可変領域(配列番号39のアミノ酸137~252)
・ヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸からなるFv断片間のリンカー(配列番号39のアミノ酸253~265)
・Swivel配列(配列番号39のアミノ酸266~271)
・Vk可変領域(配列番号39のアミノ酸272~382)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号39のアミノ酸383~388)
・(GGGGS)(配列番号37)リンカー(配列番号39のアミノ酸389~403)
・VH可変領域(配列番号39のアミノ酸404~519)
・Mycタグ(配列番号39のアミノ酸520~535)
・His6タグ(配列番号39のアミノ酸536~541)
【0121】
トリ-scFvのアミノ酸配列
トリ-scFv 3E10(D31N)は、310Eの3×重鎖および軽鎖可変領域を含むトリ-単鎖可変断片であり、重鎖の31位のアスパラギン酸がアスパラギンに変異している。トリ-scFv 3E10(D31N)のアミノ酸配列は:
【化14】
である。
【0122】
配列番号40に関連するトリ-scFvタンパク質ドメインのアノテーション
・AGIH配列は溶解度を増加させる(配列番号40のアミノ酸1~4)
・Vk可変領域(配列番号40のアミノ酸5~115)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号40のアミノ酸116~121)
・(GGGGS)(配列番号37)リンカー(配列番号40のアミノ酸122~136)
・VH可変領域(配列番号40のアミノ酸137~252)
・ヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸からなるFv断片間のリンカー(配列番号40のアミノ酸253~265)
・Swivel配列(配列番号40のアミノ酸266~271)
・Vk可変領域(配列番号40のアミノ酸272~382)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号40のアミノ酸383~388)
・(GGGGS)(配列番号37)リンカー(配列番号40のアミノ酸389~403)
・VH可変領域(配列番号40のアミノ酸404~519)
・ヒトIgG C1の最初の13アミノ酸からなるFv断片間のリンカー(配列番号40のアミノ酸520~532)
・Swivel配列(配列番号40のアミノ酸533~538)
・Vk可変領域(配列番号40のアミノ酸539~649)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号40のアミノ酸650~655)
・(GGGGS)(配列番号37)リンカー(配列番号40のアミノ酸656~670)
・VH可変領域(配列番号40のアミノ酸671~786)
・Mycタグ(配列番号40のアミノ酸787~802)
・His6タグ(配列番号40のアミノ酸803~808)
【0123】
WO2016/033321号およびNoble, et al., Cancer Research, 75(11):2285-2291(2015)は、ジ-scFvおよびトリ-scFvが、その一価の対応物と比較していくつかの改善された追加の活性を有することを示している。例示的な融合タンパク質の各々の異なるドメインに対応する部分配列もまた、上記に提供される。当業者は、例示的な融合タンパク質、またはそのドメインを利用して、上記でより詳細に論じられた融合タンパク質を構築することができることを認識するであろう。例えば、一部の実施形態では、ジ-scFvは、VH可変ドメインに連結された(例えば、配列番号39のアミノ酸137~252、またはその機能的バリアントもしくは断片)、Vk可変領域を含む第2のscFvに連結された(例えば、配列番号39のアミノ酸272~382、またはその機能的バリアントもしくは断片)、VH可変ドメインに連結された(例えば、配列番号39のアミノ酸404~519、またはその機能的バリアントもしくは断片)、Vk可変領域を含む第1のscFv(例えば、配列番号39のアミノ酸5~115、またはその機能的バリアントもしくは断片)を含む。一部の実施形態では、トリ-scFvは、Vk可変領域を含む第3のscFvドメインに連結された(例えば、配列番号40のアミノ酸539~649、またはその機能的バリアントもしくは断片)、VH可変ドメインに連結された(例えば、配列番号40のアミノ酸671~786、またはその機能的バリアントもしくは断片)ジ-scFvを含む。
【0124】
Vk可変領域は、例えば、リンカー(例えば、(GGGGS)(配列番号37))によって、単独または軽鎖CH1の(6アミノ酸)(配列番号39のアミノ酸116~121)と組み合わせて、VH可変ドメインに連結することができる。他の適切なリンカーは上記に論じられており、当技術分野で公知である。scFvは、単独で、またはswivel配列(例えば、配列番号39のアミノ酸266~271)と組み合わせて、リンカー(例えば、配列番号39のヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸(253~265))によって連結することができる。他の適切なリンカーは上記で論じられ、当技術分野で公知である。
【0125】
したがって、ジ-scFvは、配列番号39のアミノ酸5~519を含み得る。トリ-scFvは、配列番号40のアミノ酸5~786を含み得る。一部の実施形態では、融合タンパク質は、追加のドメインを含む。例えば、一部の実施形態では、融合タンパク質は、溶解度を亢進する配列(例えば、配列番号39のアミノ酸1~4)を含む。したがって、一部の実施形態では、ジ-scFvは、配列番号39のアミノ酸1~519を含み得る。トリ-scFvは、配列番号40のアミノ酸1~786を含み得る。一部の実施形態では、融合タンパク質は、融合タンパク質の精製、単離、捕捉、同定、分離等を亢進する1つまたは複数のドメインを含む。例示的なドメインとしては、例えばMycタグ(例えば、配列番号39のアミノ酸520~535)および/またはHisタグ(例えば、配列番号39のアミノ酸536~541)を含む。したがって、一部の実施形態では、ジ-scFvは、配列番号39のアミノ酸配列を含み得る。トリ-scFvは配列番号40のアミノ酸配列を含み得る。他の置換可能なドメインおよび追加のドメインは上記で詳細に論じられている。
【0126】
例示的な3E10ヒト化Fv配列は、WO2016/033324号において論じられている:
【化15】
【0127】
III.遺伝子編集技術
遺伝子編集技術は、好ましくは増強剤と組み合わせて使用される。例示的な遺伝子編集技術としては、これらに限定されないが、三重鎖形成オリゴヌクレオチド、擬似相補的オリゴヌクレオチド、CRISPR/Cas、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、およびTALENが挙げられ、その各々を以下により詳細に論じる。以下により詳細に論じるように、遺伝子編集技術は、ドナーオリゴヌクレオチドと組み合わせて使用され得る。
【0128】
A.三重鎖形成分子(TFM)
1.組成物
二重鎖DNAに配列特異的に結合して三本鎖構造を形成する「三重鎖形成分子」を含有する組成物としては、これらに限定されないが、三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)、ペプチド核酸(PNA)、および「テールクランプ(tail clamp)」PNA(tcPNA)が挙げられる。三重鎖形成分子を使用して、ドナーDNA分子と組み合わせた場合に、哺乳動物細胞において部位特異的相同組換えを誘導することができる。ドナーDNA分子は、標的DNA配列と比較して変異した核酸を含有し得る。これは、標的化された二重鎖DNAによってコードされるポリペプチドまたはタンパク質を活性化する、不活化する、または他の方法でその機能を変更するために有用である。三重鎖形成分子としては、三重鎖形成オリゴヌクレオチドおよびペプチド核酸(PNA)が挙げられる。三重鎖形成分子は、米国特許第5,962,426号、第6,303,376号、第7,078,389号、第7,279,463号、第8,658,608号、米国特許出願公開第2003/0148352号、第2010/0172882号、第2011/0268810号、第2011/0262406号、第2011/0293585号、および公開されたPCT出願第WO1995/001364号、WO1996/040898号、WO1996/039195号、WO2003/052071号、WO2008/086529号、WO2010/123983号、WO2011/053989号、WO2011/133802号、WO2011/13380号、Rogers, et al., Proc Natl Acad Sci USA, 99:16695-16700 (2002),Majumdar, et al., Nature Genetics, 20:212-214 (1998)、Chin, et al., Proc NatlAcad Sci USA, 105:13514-13519 (2008)、およびSchleifman, et al., Chem Biol.,18:1189-1198 (2011)に記載されている。以下により詳細に論じるように、三重鎖形成分子は、典型的に二本鎖核酸分子中のポリピリミジン:ポリプリン標的モチーフに結合して三本鎖核酸分子を形成する一本鎖オリゴヌクレオチドである。一本鎖オリゴヌクレオチド/オリゴマーは、典型的にフーグスティーン型または逆フーグスティーン型結合を介してポリピリミジン:ポリプリン標的モチーフのポリプリン鎖と実質的に相補的な配列を含む。
【0129】
a.三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)
三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)は、第3鎖として配列特異的に二重鎖DNAに結合するオリゴヌクレオチドとして定義される。オリゴヌクレオチドは、ヒト遺伝子内またはヒト遺伝子に隣接する既定の標的配列、標的領域、または標的部位に選択的に結合するかまたはハイブリダイズして三本鎖構造を形成する合成または単離された核酸分子である。
【0130】
好ましくは、オリゴヌクレオチドは、in vitro変異誘発のためには7~40ヌクレオチド長の間、最も好ましくは10~20ヌクレオチド長の間、およびin vivo変異誘発のためには20~30ヌクレオチド長の間の一本鎖核酸分子である。核酸塩基(時に本明細書において単に「塩基」と呼ぶ)組成は、ホモプリンまたはホモピリミジンであり得る。あるいは、核酸塩基組成は、ポリプリンまたはポリピリミジンであり得る。しかし、他の組成もまた有用である。
【0131】
オリゴヌクレオチドは、好ましくは公知のDNA合成手順を使用して生成される。一実施形態では、オリゴヌクレオチドは合成によって生成される。オリゴヌクレオチドはまた、当技術分野で周知である標準的な方法を使用して化学改変することもできる。
【0132】
オリゴヌクレオチド/オリゴマーの核酸塩基配列は、標的配列、標的領域の主溝内でオリゴヌクレオチド/オリゴマーの結合を達成するための必要性によって課せられた物理的拘束、およびオリゴ/標的配列複合体が低い解離定数(k)を有する必要性に基づいて選択される。オリゴヌクレオチド/オリゴマーは、三重ヘリックス形成に貢献し、第3鎖が結合(例えば、フーグスティーン型結合)するために公知の構造モチーフの1つに基づいて生成される核酸塩基組成を有する。最も安定な複合体は、哺乳動物ゲノムにおいて比較的豊富に存在するポリプリン:ポリピリミジンエレメント上で形成される。TFOによる三重鎖形成は、核酸二重鎖のプリン鎖と平行のまたは逆平行の配向の第3鎖で起こり得る。逆平行プリンモチーフでは、トリプレットは、G.G:CおよびA.A:Tであるが、平行なピリミジンモチーフでは、標準的なトリプレットは、C.G:CおよびT.A:Tである。三重構造は、二重鎖におけるTFO鎖およびプリン鎖における塩基間の1つ、2つまたは3つのフーグスティーン型水素結合(核酸塩基に応じて)によって安定化させることができる。第3鎖結合オリゴヌクレオチドおよび/またはペプチド核酸の塩基組成および結合特性の総説は、例えば米国特許第5,422,251号、Bentin et al., Nucl. Acids Res., 34(20): 5790-5799 (2006)、およびHansenet al., Nucl. Acids Res., 37(13): 4498-4507 (2009)に提供される。
【0133】
好ましくは、オリゴヌクレオチド/オリゴマーは、高ストリンジェンシーおよび特異性の条件下で標的配列に結合するか、またはハイブリダイズする。最も好ましくは、オリゴヌクレオチド/オリゴマーは、二重鎖DNAの主溝内に配列特異的に結合する。オリゴヌクレオチド/オリゴマーが二本鎖核酸配列とin vitroで三重ヘリックスを形成するための反応条件は、ポリマーの長さ、G:CおよびA:T塩基対の数、ならびにハイブリダイゼーション反応に利用される緩衝液の組成などの要因に応じてオリゴ毎に変化する。第3鎖結合コードに基づいて二本鎖核酸分子の標的領域と実質的に相補的なオリゴヌクレオチドが好ましい。
【0134】
本明細書で使用される場合、三重鎖形成分子は、オリゴヌクレオチドが、標的領域との三重ヘリックスの形成を可能にする核酸塩基組成を有する場合、標的領域と実質的に相補的であると言われる。そのため、オリゴヌクレオチド/オリゴマーは、オリゴヌクレオチド/オリゴマーに非相補的塩基が存在する場合であっても、標的領域と実質的に相補的であり得る。上記のように、実質的に相補的なオリゴヌクレオチド/オリゴマーの核酸塩基配列を決定するために使用することができる多様な構造モチーフが利用可能である。
【0135】
b.ペプチド核酸(PNA)
別の実施形態では、三重鎖形成分子は、ペプチド核酸(PNA)である。ペプチド核酸は、オリゴヌクレオチドの糖リン酸骨格が、アミド結合によって連結された反復する置換または非置換N-(2-アミノエチル)-グリシン残基によってその全体が交換されているポリマー分子であると考えることができる。様々な核酸塩基が、メチレンカルボニル結合によって骨格に連結される。PNAは、オリゴヌクレオチド(DNAまたはRNA)と類似の様式で核酸塩基の間隔を維持するが、糖リン酸骨格が交換されていることから、古典的な(非置換)PNAは非キラルであり、中性電荷を有する分子である。ペプチド核酸は、ペプチド核酸残基(時に、「残基」と呼ばれる)で構成される。核酸塩基は、標準的な塩基(ウラシル、チミン、シトシン、アデニン、およびグアニン)のいずれか、または以下に記載される改変された複素環式核酸塩基のいずれかであり得る。
【0136】
PNAは、ワトソン-クリック型の水素結合を介して、しかしDNAまたはRNAで構成される対応するヌクレオチドより有意に高い結合親和性でDNAに結合することができる。PNAの中性の骨格は、PNAと標的DNAリン酸との間の静電気的反発を減少させる。二重鎖DNAの開裂を促進するin vitroまたはin vivo条件下では、PNAは、二重鎖DNAの鎖侵入を媒介し、それによって1つのDNA鎖を置き換えてD-ループを形成することができる。
【0137】
非常に安定な三重鎖PNA:DNA:PNA構造は、1つのホモプリンDNA鎖および2つのPNA鎖から形成することができる。2つのPNA鎖は、2つの別々のPNA分子(Bentin et al., Nucl. Acids Res., 34(20): 5790-5799 (2006)およびHansen etal., Nucl. Acids Res., 37(13): 4498-4507 (2009)を参照されたい)、または単一のビス-PNA分子を形成するために十分な可撓性のリンカーによって一緒に連結された2つのPNA分子(米国特許第6,441,130号を参照されたい)であり得る。いずれの例においても、PNA分子は、標的二重鎖の鎖の1つと共に三重鎖「クランプ」を形成して、二重鎖標的の他の鎖を置き換える。この構造において、1つの鎖は、逆平行の配向のDNA鎖(ワトソン-クリック型結合部分)とワトソン-クリック型塩基対を形成するが、他方の鎖は、平行な配向のDNA鎖(フーグスティーン型結合部分)とフーグスティーン型塩基対を形成する。ホモプリン鎖は、安定なPNA/DNA/PNA三重鎖の形成を可能にする。PNAクランプは、三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)が必要とする配列より短いホモプリン配列で形成することができ、同様により大きい安定性で形成することができる。
【0138】
ビス-PNA分子のリンカーにおける使用のための適切な分子としては、これらに限定されないが、O-リンカーと呼ばれる8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、および6-アミノヘキサン酸が挙げられる。ポリ(エチレン)グリコール単量体もまた、ビス-PNAリンカーにおいて使用することができる。ビス-PNAリンカーは、前述の2つまたはそれより多くのいずれかの組合せで複数のリンカー残基を含有し得る。一部の実施形態では、PNAオリゴマーは、3つの8-アミノ-2,6,10-トリオキサオクタン酸、3つの8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸、または3つの6-アミノヘキサン酸分子によって連結される。
【0139】
PNAはまた、PNAの溶解度を増加させ、二重鎖DNAに関するPNAの親和性を増加させる他の正に帯電した部分も含み得る。一般的に使用される正に帯電した部分は、アミノ酸リシンおよびアルギニン(例えば、PNAオリゴマー(またはそのセグメント)のCまたはN末端に結合した追加の置換基として、または骨格の側鎖改変として(Huang et al., Arch. Pharm. Res. 35(3): 517-522 (2012)およびJain et al.,JOC, 79(20): 9567-9577 (2014)を参照されたい))を含むが、他の正に帯電した部分も同様に有用であり得る(例えば、米国特許第6,326,479号を参照されたい)。一部の実施形態では、PNAオリゴマーは、骨格の1つまたは複数の「ミニPEG」側鎖改変を有し得る(例えば、米国特許第9,193,758号およびSahuet al., JOC, 76: 5614-5627 (2011)を参照されたい)。
【0140】
ペプチド核酸は、一般的にペプチド合成プロセスから適合させた公知の方法論を使用して調製された、非天然の合成ポリアミドである。
【0141】
c.テールクランプペプチド核酸(tcPNA)
ポリプリン:ポリピリミジンストレッチは、哺乳動物ゲノムに存在してはいるが、この要件の非存在下で三重鎖形成を標的化することが望ましい。PNAなどの一部の実施形態では、三重鎖形成分子は、ワトソン-クリック型結合部分の末端に付加された「テール」を含む。「テール」または「テールクランプ」として公知の追加の核酸塩基を、三重ヘリックス外の標的鎖に結合するワトソン-クリック型結合部分に付加すると、ポリプリン:ポリピリミジンストレッチの要件をさらに低減させ、可能性がある標的部位の数を増加させる。テールは、最も典型的には、リンカーから最も遠いワトソン-クリック型結合配列の末端に付加される。したがって、この分子は、三重鎖および二重鎖形成の両方を包含するDNAに対する結合様式を媒介する(Kaihatsu, et al., Biochemistry, 42(47):13996-4003 (2003);Bentin, etal., Biochemistry, 42(47):13987-95 (2003))。例えば、三重鎖形成分子がテールクランプPNA(tcPNA)である場合、PNA/DNA/PNA三重ヘリックス部分およびPNA/DNA二重鎖部分はいずれもピリミジンに富む鎖の置き換えを生じ、ヌクレオチド切除修復経路を強く誘発する変更されたヘリックス構造を作製し、ドナーDNA分子との組換え部位を活性化する(Rogers,et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 99(26):16695-700 (2002))。
【0142】
クランプPNA(時にビス-PNAと呼ばれる)に付加されたテールは、Kaihatsu,et al., Biochemistry, 42(47):13996-4003 (2003);Bentin, et al., Biochemistry,42(47):13987-95 (2003)によって記載されているテール-クランプPNA(tcPNAと呼ばれる)を形成する。tcPNAは、低い解離定数のためにDNAにより効率的に結合することは公知である。テールの付加はまた、三重鎖形成分子の標的二重鎖に対する結合の特異性および結合のストリンジェンシーも増加させる。同様に、クランプPNAにテールを付加すると、テールなしのPNAと比較して標的部位でドナーオリゴヌクレオチドの組換え頻度を改善することも見出されている。
一部の実施形態では、PNAテールクランプシステムは、好ましくは指定された配向/順序で以下:
1つまたは複数の正に帯電したアミノ酸、例えばリシンを含む正に帯電した領域、
標的配列とフーグスティーン型相同性を有するいくつかのPNAサブユニットを含む領域、
リンカー、
標的配列とのワトソン-クリック型相同性結合を有するいくつかのPNAサブユニットを含む領域、
テール標的配列とのワトソン-クリック型相同性結合を有するいくつかのPNAサブユニットを含む領域、
1つまたは複数の正に帯電したアミノ酸サブユニット、例えばリシンを含む正に帯電した領域
の1つまたは複数を含む。
【0143】
一部の実施形態では、テール標的配列の1つまたは複数のPNA単量体は、本明細書に開示されるように改変されている。
【0144】
d.PNA改変
PNAはまた、PNAの溶解度を増加させる、および二重鎖DNAに対するPNAの親和性を増加させる他の正に帯電した部分もまた含み得る。一般的に使用される正に帯電した部分は、アミノ酸リシンおよびアルギニンを含むが、他の正に帯電した部分もまた有用であり得る。リシンおよびアルギニン残基をビス-PNAリンカーに付加することができ、またはPNA鎖のカルボキシまたはN末端に付加することができる。PNAに対する一般的な改変は、その各々の全体が具体的に参照により本明細書に組み込まれている、Sugiyama and Kittaka, Molecules, 18:287-310 (2013)およびSahu, et al., J. Org. Chem., 76, 5614-5627 (2011)において論じられ、これらには、これらに限定されないが、オリゴマーの末端または内部部分での帯電したアミノ酸残基、例えばリシンの取り込み;極性基を骨格、カルボキシメチレン架橋、および核酸塩基に含めること;元のN-(2-アミノエチル)グリシン骨格上にキラルPNAを有する置換基;元のアミノエチルグリシル骨格スケルトンと負に帯電した足場構造との交換;高分子量ポリエチレングリコール(PEG)と末端の1つとのコンジュゲーション;キメラオリゴマーを生成するためのPNAとDNAとの融合、骨格構築の再設計、PNAとDNAまたはRNAとのコンジュゲーションが挙げられる。これらの改変は、溶解度を改善するが、しばしば結合親和性および/または配列特異性の低減をもたらす。
【0145】
PNAオリゴマーの1つまたは複数のPNA残基(「サブユニット」とも呼ばれる)においてγ(「ガンマ」とも呼ばれる)改変(「置換」とも呼ばれる)を有する三重鎖形成ペプチド核酸(PNA)オリゴマーもまた提供する。
【0146】
一部の実施形態では、PNA残基の一部または全ては、以下に例証するようにポリアミド骨格(γPNA)におけるガンマ位置で改変される(式中、「B」は核酸塩基であり、「R」はガンマ位置での置換である)。
【化16】
#1 キラルγPNA
【0147】
ガンマ位置での置換はキラリティを作製し、らせん状の事前組織化をPNAオリゴマーに提供し、標的DNAに対して実質的に増加した結合親和性を生じる(Rapireddy, et al., Biochemistry, 50(19):3913-8 (2011), He et al.,"The Structure of a γ-modified peptide nucleic acid duplex", Mol.BioSyst. 6:1619-1629 (2010);およびSahu et al., "Synthesis andCharacterization of Conformationally Preorganized, (R)-DiethyleneGlycol-Containing γ-Peptide Nucleic Acids with Superior HybridizationProperties and Water Solubility", J. Org. Chem, 76:5614-5627 (2011))。ガンマ位置での特異的置換の化学的性質に応じて、他の有利な特性を付与することができる(上記のキラルγPNAの例証における「R」基)。
【0148】
γ置換の1つのクラスはミニPEGであるが、他の残基および側鎖を考慮することができ、さらに混合置換を使用してオリゴマーの特性を調整することができる。「ミニPEG」および「MP」は、ジエチレングリコールを指す。ミニPEG含有γPNAは、元のPNAの設計および他のキラルγPNAと比較して、優れたハイブリダイゼーション特性および水溶解度を示す、コンフォメーションが事前組織化されたPNAである。Sahuらは、右巻きらせんをとるL-アミノ酸から調製したγPNA、および左巻きらせんをとるD-アミノ酸から調製したγPNAについて記載している。右巻きらせんのγPNAのみが、高い親和性および配列選択性でDNAまたはRNAにハイブリダイズする。最も好ましい実施形態では、PNA残基の一部または全ては、ミニPEG含有γPNAである(Sahu, et al., J. Org. Chem., 76, 5614-5627 (2011))。一部の実施形態では、リンカーのワトソン-クリック型結合側のあらゆる他のPNA残基がミニPEG含有γPNAであるtcPNAを調製する。したがって、これらの実施形態では、PNAのテールクランプ側は、交互になった古典的PNAおよびミニPEG含有γPNA残基を有する。
【0149】
一部の実施形態では、PNA媒介遺伝子編集は、追加のまたは代替のγ置換または上記および下記で導入されたものを含むがこれらに限定されない他のPNA化学改変を介して達成される。他の側鎖とのγ置換の例としては、アラニン、セリン、トレオニン、システイン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リシン、アルギニン、およびその誘導体の置換が挙げられる。本明細書の「その誘導体」は、これらのアミノ酸側鎖、例えばセリン、システイン、トレオニン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リシンおよびアルギニンの側鎖に共有結合した化学部分として定義される。
【0150】
一貫して改善された遺伝子編集効力を示すγPNAに加えて、ゲノムにおけるオフターゲット効果のレベルは、極めて低いままである。これは、PNAにおける任意の固有のヌクレアーゼ活性の欠如と一致しており(ZFNまたはCRISPR/Cas9またはTALENとは対照的に)、三重鎖誘導遺伝子編集の機構を反映し、これは、内因性の高忠実度DNA修復経路に関係する標的結合部位で変更されたヘリックスを作製することによって作用する。上記で論じたように、SCF/c-Kit経路はまた、これらの同じ経路を刺激し、オフターゲットリスクまたは細胞毒性を増加させることなく、増強された遺伝子編集を提供する。
【0151】
加えて、任意の三重鎖形成配列を、PNA結合を亢進するためにグアニジン-G-クランプ(「G-クランプ」)PNA残基を含むように改変することができ、G-クランプは他の任意の核酸塩基と同様に骨格に連結される。グアニンと5つのH-結合を形成することができるシトシンアナログであるG-クランプ(9-(2-グアニジノエトキシ)フェノキサジン)によるシトシンの置換を有するγPNAはまた、拡大したフェノキサジン環系および実質的に増加した結合親和性により、余分な塩基スタッキングを提供することができる。in vitro研究は、Cの単一のG-クランプによる置換が、23oCによるPNA-DNA二重鎖の結合を実質的に亢進することができることを示している(Kuhn, et al., Artificial DNA, PNA & XNA, 1(1):45-53(2010))。結果として、γPNA含有G-クランプ置換は、さらに増加した活性を有し得る。
【0152】
G-クランプ単量体-G塩基対ペアの構造(G-クランプを「X」によって示す)を、C-G塩基対と比較して以下に例証する。
【化17】
#1 C-G塩基対
#2 X-G塩基対
【0153】
一部の研究は、ペプチド合成においてD-アミノ酸を使用して改善を示している。
【0154】
特定の実施形態では、遺伝子編集組成物は、少なくとも1つのペプチド核酸(PNA)オリゴマーを含む。少なくとも1つのPNAオリゴマーは、骨格炭素のガンマ位置で少なくとも1つの改変を含む改変PNAオリゴマーであり得る。改変PNAオリゴマーは、骨格炭素のガンマ位置で少なくとも1つのミニPEG改変を含み得る。遺伝子編集組成物は、少なくとも1つのドナーオリゴヌクレオチドを含み得る。遺伝子編集組成物は、胎児ゲノム内で標的配列を改変することができる。
【0155】
PNAは、集合的に全体で長さが50核酸塩基以下であるフーグスティーン型結合ペプチド核酸(PNA)セグメントとワトソン-クリック型結合PNAセグメントとを含み得、2つのセグメントは、ポリプリンストレッチを含むゲノムDNAの標的領域に結合するかまたはハイブリダイズして、2つのPNAセグメントおよびゲノムDNAのポリプリンストレッチにおける鎖の侵入、置き換え、および三重鎖組成物の形成を誘導し、フーグスティーン型結合セグメントは、少なくとも5核酸塩基の長さにわたってフーグスティーン型結合により標的領域に結合し、ワトソン-クリック型結合セグメントは、少なくとも5核酸塩基の長さにわたってワトソン-クリック型結合により標的領域に結合する。
【0156】
PNAセグメントは、骨格炭素のガンマ改変を含み得る。ガンマ改変は、ガンマミニPEG改変であり得る。フーグスティーン型結合セグメントは、シュードシトシン、シュードイソシトシン、および5-メチルシトシンからなる群より選択される1つまたは複数の化学改変シトシンを含み得る。ワトソン-クリック型結合セグメントは、三重鎖の外部でワトソン-クリック型結合によって標的二重鎖に結合する最大15核酸塩基の配列を含み得る。2つのセグメントは、リンカーによって連結することができる。一部の実施形態では、フーグスティーン型結合セグメントのみ、ワトソン-クリック型結合セグメントのみ、または全PNAオリゴマーにおけるペプチド核酸残基の全てが、骨格炭素のガンマ改変を含む。一部の実施形態では、PNAオリゴマーのフーグスティーン型結合セグメントのみ、またはワトソン-クリック型結合セグメントのみにおけるペプチド核酸残基の1つまたは複数が、骨格炭素のガンマ改変を含む。一部の実施形態では、フーグスティーン型結合部分のみ、ワトソン-クリック型結合部分のみ、または全PNAオリゴマーにおける交互のペプチド核酸残基が、骨格炭素のガンマ改変を含む。
【0157】
一部の実施形態では、骨格炭素の少なくとも1つのガンマ改変は、ガンマミニPEG改変である。一部の実施形態では、少なくとも1つのガンマ改変は、アラニン、セリン、トレオニン、システイン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、リシン、アルギニン、およびその誘導体からなる群より選択されるアミノ酸の側鎖である。一部の実施形態では、全てのガンマ改変は、ガンマミニPEG改変である。必要に応じて、少なくとも1つのPNAセグメントは、G-クランプ(9-(2-グアニジノエトキシ)フェノキサジン)を含む。
【0158】
2.三重鎖形成標的配列の検討事項
三重鎖形成分子は、本明細書において「標的配列」、「標的領域」、または「標的部位」と呼ばれる既定の標的領域に結合する。三重鎖形成分子の標的配列は、例えばベータグロビン、嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)をコードするヒト遺伝子、または以下でより詳細に論じられる他の遺伝子、または脂質、糖タンパク質、もしくはムコ多糖類の代謝にとって必要な酵素、または修正を必要とする別の遺伝子内であり得るかまたはそれに隣接し得る。標的配列は、遺伝子のコードDNA配列内またはイントロン内であり得る。標的配列はまた、プロモーターもしくはエンハンサー配列、またはRNAスプライシングを調節する部位を含む、標的遺伝子の発現を調節するDNA配列内でもあり得る。
【0159】
三重鎖形成分子のヌクレオチド配列は、標的配列の配列、物理的拘束、および三重鎖形成分子/標的配列の低い解離定数(K)の優先性に基づいて選択される。本明細書で使用される場合、三重鎖形成分子が標的領域との三重ヘリックスの形成を可能にする核酸塩基組成を有する場合、三重鎖形成分子は、標的領域と実質的に相補的であると言われる。三重鎖形成分子は、非相補的核酸塩基が三重鎖形成分子に存在する場合であっても、標的領域と実質的に相補的であり得る。
【0160】
実質的に相補的なオリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定するために使用することができる多様な構造モチーフが利用可能である。好ましくは、三重鎖形成分子は、高いストリンジェンシーおよび特異性の条件下で標的配列に結合またはハイブリダイズする。核酸配列に対する三重鎖形成分子プローブまたはプライマーのin vitro三重ヘリックス形成のための反応条件は、三重鎖形成分子の長さ、G:CおよびA:T塩基対の数、ならびにハイブリダイゼーション反応に利用する緩衝液の組成などの要因に応じて、三重鎖形成分子毎に異なる。
【0161】
a.TFOに関する標的配列の検討事項
好ましくは、TFOは、in vitro変異誘発に関して7~40ヌクレオチド長の間、最も好ましくは10~20ヌクレオチド長の間、およびin vivo変異誘発に関して20~30ヌクレオチド長の間の一本鎖核酸分子である。塩基組成は、ホモプリンまたはホモピリミジンであり得る。あるいは、塩基組成は、ポリプリンまたはポリピリミジンであり得る。しかし、他の組成もまた有用である。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは、二重鎖DNAの主溝内に配列特異的に結合する。第3鎖の結合コードに基づいて、二重鎖核酸分子の標的領域と実質的に相補的なオリゴヌクレオチドが好ましい。オリゴヌクレオチドは、三重ヘリックス形成に貢献する塩基組成を有し、第3鎖結合のための公知の構造モチーフの1つに基づいて生成される。最も安定な複合体は、ポリプリン:ポリピリミジンエレメントにおいて形成され、これは哺乳動物ゲノムにおいて比較的豊富である。TFOによる三重鎖形成は、二重鎖のプリン鎖と平行であるかまたは逆平行配向の第3鎖によって起こり得る。逆平行プリンモチーフでは、トリプレットは、G.G:CおよびA.A:Tであるが、平行なピリミジンモチーフでは、標準的なトリプレットは、C.G:CおよびT.A:Tである。三重鎖構造は、TFO鎖における塩基と二重鎖におけるプリン鎖の間の2つのフーグスティーン型水素結合によって安定化される。第3鎖結合オリゴヌクレオチドに関する塩基組成の総説は、米国特許第5,422,251号に提供される。
【0162】
TFOは、好ましくは公知のDNAおよび/またはPNA合成手順を使用して生成される。一実施形態では、オリゴヌクレオチドは、合成により生成される。オリゴヌクレオチドはまた、当技術分野で周知である標準的な方法を使用して化学改変することもできる。
【0163】
b.PNAの標的配列の検討事項
いくつかの三重鎖形成分子、例えばPNA、PNAクランプおよびテールクランプPNA(tcPNA)は、標的二重鎖に侵入し、ポリピリミジン鎖を置き換え、ワトソン-クリック型およびフーグスティーン型結合による標的二重鎖のポリプリン鎖との三重鎖形成を誘導する。好ましくは、ワトソン-クリック型およびフーグスティーン型結合部分の両方が、標的配列と実質的に相補的である。三重鎖形成オリゴヌクレオチドの場合、安定なPNA/DNA/PNA三重鎖の形成を可能にするためにはホモプリン鎖が必要であるが、PNAクランプは、三重鎖形成オリゴヌクレオチドが必要とするものより短いホモプリン配列を形成することができ、しかもより大きい安定性で形成することができる。
【0164】
好ましくは、PNAは、長さが6~50核酸塩基含有残基の間である。ワトソン-クリック型部分は、必要に応じてテール配列を含む、長さが9核酸塩基含有残基またはそれより多くでなければならない。より好ましくは、ワトソン-クリック型結合部分は、必要に応じて0~約15核酸塩基含有残基のテール配列を含む、長さが約9~30核酸塩基含有残基の間である。より好ましくは、ワトソン-クリック型結合部分は、必要に応じて長さが0~約10核酸塩基含有残基のテール配列を含む、長さが約10~25核酸塩基含有残基の間である。最も好ましい実施形態では、ワトソン-クリック型結合部分は、必要に応じて長さが5~10核酸塩基含有残基のテール配列を含む、長さが15~25核酸塩基含有残基の間である。フーグスティーン型結合部分は、長さが6核酸塩基残基またはそれより多くでなければならない。最も好ましくは、フーグスティーン型結合部分は、長さが約6~15(両端含む)核酸塩基含有残基である。
【0165】
三重鎖形成分子は、標的二重鎖ヌクレオチドにおいてポリプリン:ポリピリミジンストレッチのポリプリン鎖を標的とするように設計される。したがって、三重鎖形成分子の塩基組成は、ホモピリミジンであり得る。あるいは、塩基組成はポリピリミジンであり得る。「テール」の付加は、連続するポリプリン:ポリピリミジンの必要性を低減させる。三重鎖形成分子のワトソン-クリック型結合部分に「テール」として知られる追加の核酸塩基含有残基を付加することによって、ワトソン-クリック型結合部分が、三重鎖形成のためにポリプリン配列の外部の標的鎖に結合/ハイブリダイズすることが可能となる。これらの追加の塩基は、標的二重鎖におけるポリプリン:ポリピリミジンストレッチの必要性をさらに低減させ、したがって可能性がある標的部位の数を増加させる。例えば、三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)およびヘリックス侵入ペプチド核酸(ビス-PNAおよびtcPNA)を含む三重鎖形成分子(TFM)もまた、一般的にポリプリン:ポリピリミジン配列を利用して、三重ヘリックスを形成する。従来の核酸TFOは、少なくとも15、好ましくは30核酸塩基含有残基またはそれより多くのストレッチを必要とし得る。ペプチド核酸は、三重ヘリックスを形成するために必要なプリンがより少ないものの、少なくとも10個または好ましくはそれより多くが必要であり得る。テールクランプPNA、またはtcPNAとも呼ばれるテールを含むペプチド核酸は、三重鎖ヘリックスを形成するために必要なプリンがさらに少ない。三重ヘリックスは、8個未満のプリンを含有する標的配列によって形成され得る。したがって、PNAは、6~30ポリプリン:ポリピリミジンの間、好ましくは6~25ポリプリン:ポリピリミジンの間、より好ましくは6~20ポリプリン:ポリピリミジンの間を含有する二重鎖核酸上の部位を標的とするように設計しなければならない。
【0166】
PNAなどの三重鎖形成分子のワトソン-クリック型結合鎖に「混合型配列」テールを付加することもまた、三重鎖形成分子の長さを増加させ、それに対応して結合部位の長さを増加させる。これは、標的部位で作製した損傷の標的特異性およびサイズを増加させ、ポリプリン:ポリピリミジンのストレッチの低い必要性を維持しながら、二重鎖核酸におけるヘリックスを破壊する。標的配列の長さを増加させると、標的の特異性を改善し、例えば17塩基対の標的はヒトゲノムにおいて統計学的にユニークであろう。より小さい損傷と比較すると、根底にあるDNA二重鎖のより大きい破壊を伴うより大きい三重鎖損傷が、ドナーオリゴヌクレオチドの組換えを促進する内因性のDNA修復機構によってより急速かつ効率的に検出および処理される可能性がある。
【0167】
三重鎖形成分子は、好ましくは公知の合成手順を使用して生成される。一実施形態では、三重鎖形成分子は合成により生成される。三重鎖形成分子はまた、当技術分野で周知である標準的な方法を使用して化学改変することもできる。
【0168】
B.擬似相補的オリゴヌクレオチド/PNA
遺伝子編集技術は、米国特許第8,309,356号に開示される技術などの擬似相補的オリゴヌクレオチドであり得る。「ダブル二重鎖形成分子(double duplex-forming molecule)」は、二重鎖DNAに配列特異的に結合して4本鎖構造を形成するオリゴヌクレオチドである。ダブル二重鎖形成分子、例えば擬似相補的オリゴヌクレオチド/PNAの対は、哺乳動物細胞において染色体部位でドナーオリゴヌクレオチドとの組換えを誘導することができる。擬似相補的オリゴヌクレオチド/PNAは、それらが例えば立体妨害のために互いを認識もハイブリダイズもしないが、各々が標的部位でその相補的核酸鎖を認識してハイブリダイズすることができるように1つまたは複数の改変を含有する相補的オリゴヌクレオチド/PNAである。本明細書で使用される場合、用語「擬似相補的オリゴヌクレオチド」は、擬似相補的ペプチド核酸(pcPNA)を含む。擬似相補的オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドが、標的領域とのダブル二重鎖の形成を可能にする塩基組成を有する場合、標的領域と実質的に相補的であると言われる。そのため、オリゴヌクレオチドは、擬似相補的オリゴヌクレオチドに非相補的塩基が存在する場合であっても、標的領域と実質的に相補的であり得る。
【0169】
この戦略は、標的二本鎖DNAにおいてポリプリン配列を好む三重ヘリックスオリゴヌクレオチドおよびビス-ペプチド核酸などの誘導された組換えの他の方法と比較してより効率的であり得、増加した可撓性を提供する。この設計は、擬似相補的オリゴヌクレオチドが互いと対を形成しないが、その代わりに、標的部位で同族核酸に結合してダブル二重鎖の形成の誘導を確実にする。
【0170】
ダブル二重鎖形成分子が結合する既定の領域は、「ダブル二重鎖標的配列」、「ダブル二重鎖標的領域」、または「ダブル二重鎖標的部位」と呼ばれ得る。ダブル二重鎖形成分子のためのダブル二重鎖標的配列(DDTS)は、例えば誘導された遺伝子修正を必要とするヒト遺伝子内またはそれに隣接し得る。DDTSは、遺伝子のコードDNA配列内またはイントロン内であり得る。DDTSはまた、プロモーターまたはエンハンサー配列を含む、標的遺伝子の発現を調節するDNA配列内でもあり得る。
【0171】
擬似相補的オリゴヌクレオチドのヌクレオチド/核酸塩基配列は、DDTSの配列に基づいて選択される。擬似相補的オリゴヌクレオチドの治療的投与は、リンカーに連結されていないかまたは連結された2つの一本鎖オリゴヌクレオチドを伴う。1つの擬似相補的オリゴヌクレオチド鎖は、DDTSと相補的であるが、他方は置き換えられるDNA鎖と相補的である。擬似相補的オリゴヌクレオチド、特にpcPNAの使用は、三重鎖形成オリゴヌクレオチド、ヘリックス侵入ペプチド核酸(ビス-PNAおよびtcDNA)、および側面副溝結合剤(side-by-side minor groove binder)と同様に、配列の選択ならびに/または標的の長さおよび特異性に対する制限を受けない。擬似相補的オリゴヌクレオチドは、第3鎖のフーグスティーン型結合を必要とせず、したがってホモプリン標的に限定されない。擬似相補的オリゴヌクレオチドは、所望の標的部位の混合型の一般的な配列認識となるように設計することができる。好ましくは、標的部位は、約40%またはそれより多くのA:T塩基対含有量を含有する。好ましくは、擬似相補的オリゴヌクレオチドは、長さが約8~50核酸塩基含有残基の間、より好ましくは長さが8~30、さらにより好ましくは約8~20核酸塩基含有残基の間である。
【0172】
擬似相補的オリゴヌクレオチドは、ドナーオリゴヌクレオチドの標的部位から約1~800塩基の間の距離で標的部位(DDTS)に結合するように設計しなければならない。より好ましくは、擬似相補的オリゴヌクレオチドは、ドナーオリゴヌクレオチドから約25~75塩基の距離で結合する。最も好ましくは、擬似相補的オリゴヌクレオチドは、ドナーオリゴヌクレオチドから約50塩基の距離で結合する。β-グロビンイントロンIVS2(G→A)における変異の標的化修復のために好ましいpcPNA配列は、米国特許第8,309,356号に記載されている。
【0173】
好ましくは、擬似相補的オリゴヌクレオチドは、高いストリンジェンシーおよび特異性の条件下で標的核酸分子に結合/ハイブリダイズする。最も好ましくは、オリゴヌクレオチドは、配列特異的に結合し、ダブル二重鎖の形成を誘導する。擬似相補的オリゴヌクレオチドの特異性および結合親和性は、長さ、G:CおよびA:T塩基対の数、ならびに製剤などの要因に応じて、オリゴマー毎に異なり得る。
【0174】
C.CRISPR/Cas
一部の実施形態では、遺伝子編集組成物は、CRISPR/Casシステムである。CRISPR(クラスター化して規則的な配置の短い回文配列リピート(Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats))は、塩基配列の複数の短い直接反復を含有するDNA遺伝子座の頭字語である。原核生物のCRISPR/Casシステムが、真核生物において使用される遺伝子編集(特定の遺伝子をサイレンシングする、亢進する、または変化させる)として使用するために適合されている(例えば、Cong, Science, 15:339(6121):819-823 (2013)およびJinek, et al., Science,337(6096):816-21 (2012)を参照されたい)。細胞に、cas遺伝子および特異的に設計したCRISPRを含む必要なエレメントをトランスフェクトすることによって、生物のゲノムを、任意の所望の位置で切断し、改変することができる。CRISPR/Casシステムを使用してゲノム編集に使用するための組成物を調製する方法は、その全体が具体的に参照により本明細書に組み込まれている、WO2013/176772号およびWO2014/018423号に詳細に記載されている。
【0175】
一般的に、「CRISPRシステム」は、Cas遺伝子、tracr(トランス活性化CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性な部分的tracrRNA)、tracrメイト配列(内因性のCRISPRシステムの文脈において「ダイレクトリピート」およびtracrRNAプロセシング部分的ダイレクトリピートを包含する)、ガイド配列(内因性のCRISPRシステムの文脈において「スペーサー」とも呼ばれる)、またはCRISPR遺伝子座からの他の配列および転写物をコードする配列を含む、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現に関係するか、またはその活性を方向付ける転写物および他のエレメントを集合的に指す。ガイド配列に作動可能に連結した1つまたは複数のtracrメイト配列(例えば、ダイレクトリピート-スペーサー-ダイレクトリピート)はまた、ヌクレアーゼによるプロセシング前のプレ-crRNA(プレ-CRISPR RNA)またはプロセシング後のcrRNAと呼ぶこともできる。
【0176】
一部の実施形態では、tracrRNAおよびcrRNAは、連結され、成熟crRNAが、Cong,Science, 15:339(6121):819-823 (2013)およびJinek, et al., Science, 337(6096):816-21(2012))に記載されるように、天然のcrRNA:tracrRNA二重鎖を模倣するように合成のステムループを介して部分的tracrRNAに融合されているキメラcrRNA-tracrRNAハイブリッドを形成する。単一の融合crRNA-tracrRNA構築物はまた、ガイドRNAまたはgRNA(またはシングルガイドRNA(sgRNA))と呼ばれ得る。sgRNA内で、crRNA部分は、「標的配列」として同定することができ、tracrRNAはしばしば、「足場構造」と呼ばれる。
【0177】
所望のDNA標的配列が同定されると、実施者が適切な標的部位を決定するのを助けるために利用可能な多くの資源がある。例えば、実施者が標的部位を選択するのを助けるために、およびその部位でのニックまたは二本鎖切断に影響を及ぼす関連するsgRNAを指定するのを助けるために、ヒトエクソンの40%より多くを標的化する約190,000個の潜在的sgRNAの生物情報によって生成されたリストを含む、多様な公的資源が利用可能である。同様に、広範囲の種におけるCRISPR標的化部位を科学者が発見し、適正なcrRNA配列を生成するのを助けるために設計されたツールであるcrispr.u-psud.fr/も参照されたい。
【0178】
一部の実施形態では、CRISPRシステムの1つまたは複数のエレメントの発現を促進する1つまたは複数のベクターを、CRISPRシステムのエレメントの発現が1つまたは複数の標的部位でCRISPR複合体の形成を方向付けるように標的部位に導入する。操作されるCRISPRシステムが異なれば詳細は異なり得るが、全体的な方法論は類似である。DNA配列を標的とするためにCRISPR技術を使用することに関心を有する実施者は、標的配列を含有する短いDNA断片をガイドRNA発現プラスミドに挿入することができる。sgRNA発現プラスミドは、tracrRNA配列(足場構造)の形態の標的配列(約20ヌクレオチド)、ならびに適切なプロモーターおよび真核細胞における適したプロセシングのための必要なエレメントを含有する。そのようなベクターは、市販されている(例えば、Addgeneを参照されたい)。システムの多くは、注文の相補的オリゴマーに依存し、これをアニールして二本鎖DNAを形成し、その後scRNA発現プラスミドにクローニングする。トランスフェクトした細胞における同じまたは別々のプラスミドからのsgRNAおよび適正なCas酵素の同時発現は、所望の標的部位で一本鎖または二本鎖切断(Cas酵素の活性に応じて)をもたらす。
【0179】
一部の実施形態では、ベクターは、CRISPR酵素、例えばCasタンパク質をコードする酵素コード配列に作動可能に連結された調節エレメントを含む。Casタンパク質の非制限的な例としては、Casl、CaslB、Cas2、Cas3、Cas4、Cas5、Cas6、Cas7、Cas8、Cas9(CsnlおよびCsxl2としても公知)、CaslO、Csyl、Csy2、Csy3、Csel、Cse2、Cscl、Csc2、Csa5、Csn2、Csm2、Csm3、Csm4、Csm5、Csm6、Cmrl、Cmr3、Cmr4、Cmr5、Cmr6、Csbl、Csb2、Csb3、Csxl7、Csxl4、CsxlO、Csxl6、CsaX、Csx3、Csxl、Csxl5、Csfl、Csf2、Csf3、Csf4、Cpf1、そのホモログ、またはその改変型が挙げられる。一部の実施形態では、非改変CRISPR酵素は、Cas9のようにDNA切断活性を有する。一部の実施形態では、CRISPR酵素は、標的配列内および/または標的配列の相補体内などの標的配列の位置で1つまたは両方の鎖の切断を方向付ける。一部の実施形態では、CRISPR酵素は、標的配列の最初または最後のヌクレオチドから約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、50、100、200、500塩基対、またはそれより多くの塩基対内で1つまたは両方の鎖の切断を方向付ける。
【0180】
CRISPR/Casシステムは、変異したCRISPR酵素が、標的配列を含有する標的ポリヌクレオチドの1つまたは両方の鎖の切断能を欠如するように、対応する野生型酵素に関して変異した酵素を含有し得る。2つのCas9ヌクレアーゼドメインの1つを独立して変異させることによって、Cas9ニッカーゼが開発された。例えば、S.pyogenesのCas9のRuvC I触媒ドメインにおけるアスパラギン酸からアラニンへの置換(D10A)により、Cas9は、両方の鎖を切断するヌクレアーゼからニッカーゼ(一本鎖を切断する)へと変換される。上記の効果を達成する(すなわち、1つまたは他のヌクレアーゼ部分を不活化する)ために、他の残基を変異させることができる。非制限的な例として、残基D10、G12、G17、E762、H840、N854、N863、H982、H983、A984、D986、および/またはA987を置換することができる。Cas9をニッカーゼにする特定の変異としては、H840A、N854A、およびN863Aが挙げられる。アラニン置換以外の変異も同様に適切である。Cas9の2つまたはそれより多くの触媒ドメイン(RuvC I、RuvC II、およびRuvC III)を変異させて、全てのDNA切断活性を実質的に欠如する変異したCas9を産生することができる。D10A変異を、H840A、N854A、またはN863A変異の1つまたは複数と組み合わせて、全てのDNA切断活性を実質的に欠如する(例えば、変異した酵素の活性が、その非変異型に関して約25%未満、10%、5%>、1%>、0.1%>、0.01%であるか、またはそれより低い場合)Cas9酵素を産生することができる。
【0181】
好ましくは、例えばCas9ニッカーゼなどのCas9のバリアントを、CRISPR/Casシステムを含有する遺伝子編集技術において用いる。ニッカーゼは、例えば2つの隣接するgRNAと共に使用する場合、オフターゲット編集の確率を低下させることができる。D10A変異を有するCas9ニッカーゼは、標的鎖のみを切断する。これに対し、HNHドメインにおいてH840A変異を有するCas9ニッカーゼは、非標的鎖切断ニッカーゼを作製する。WT Cas9および1つのgRNAによって両方の鎖を平滑に切断する代わりに、Cas9ニッカーゼおよび2つのgRNAを使用してねじれ型切断を作製することができる。これは、正確な遺伝子組み込みおよび挿入に対してさらにより大きい制御を提供する。両方のニッキングCas9酵素は、その標的DNAを有効にニックしなければならないことから、ペアのニッカーゼは、二本鎖切断Cas9システムと比較して有意に低いオフターゲット効果を有し、一般的により有効なツールである。好ましい実施形態では、遺伝子編集技術は、Crispr/Cas9ニッカーゼ(例えば、D10A、H840A、N854A、およびN863Aニッカーゼ)である。より好ましい実施形態では、遺伝子編集技術は、Crispr/Cas9 D10Aニッカーゼである。
【0182】
D.ジンクフィンガーヌクレアーゼ
一部の実施形態では、標的細胞のゲノムにおいて一本鎖または二本鎖切断を誘導するエレメントは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)をコードする1つまたは複数の核酸構築物である。ZFNは、典型的に切断ドメインに連結されたジンクフィンガータンパク質に由来するDNA結合ドメインを含む融合タンパク質である。
【0183】
最も一般的な切断ドメインは、タイプIIS酵素Foklである。Fok1は、1つの鎖のその認識部位から9ヌクレオチド、および他の鎖のその認識部位から13ヌクレオチドでDNAの二本鎖切断を触媒する。例えば、米国特許第5,356,802号、第5,436,150号、および第5,487,994号、ならびにLi et al. Proc., Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992):4275-4279;Li et al.Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2764-2768 (1993);Kim et al. Proc. Natl. Acad.Sci. USA. 91:883-887 (1994a);Kim et al. J. Biol. Chem. 269:31 ,978-31,982(1994b)を参照されたい。これらの酵素(またはその酵素的機能的断片)の1つまたは複数を、切断ドメインの供給源として使用することができる。
【0184】
原則として目的の任意のゲノム位置を標的とするように設計することができるDNA結合ドメインは、その各々が、標的DNA配列において一般的に3~4ヌクレオチドを認識するCysHisジンクフィンガーのタンデムアレイであり得る。CysHisドメインは、一般的な構造:Phe(時にTyr)-Cys-(2~4アミノ酸)-Cys-(3アミノ酸)-Phe(時にTyr)-(5アミノ酸)-Leu-(2アミノ酸)-His-(3アミノ酸)-Hisを有する。複数のフィンガー(数は異なる:公開された研究では、単量体あたり3~6個のフィンガーが使用されている)を一緒に連結することによって、ZFN対は、18~36ヌクレオチド長のゲノム配列に結合するように設計することができる。
【0185】
遺伝子操作方法としては、これらに限定されないが、合理的設計および様々なタイプの経験的選択方法が挙げられる。合理的設計は、例えば、各々のトリプレットまたはクアドルプレットヌクレオチド配列が、特定のトリプレットまたはクアドルプレット配列に結合するジンクフィンガーの1つまたは複数のアミノ酸配列に関連する、トリプレット(またはクアドルプレット)ヌクレオチド配列および個々のジンクフィンガーアミノ酸配列を含むデータベースの使用を含む。例えば、米国特許第6,140,081号、第6,453,242号、第6,534,261号、第6,610,512号、第6,746,838号、第6,866,997号、第7,067,617号、米国特許出願公開第2002/0165356号、第2004/0197892号、第2007/0154989号、第2007/0213269号、ならびに国際特許出願公開番号WO98/53059号およびWO2003/016496号を参照されたい。
【0186】
E.転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ
一部の実施形態では、標的細胞のゲノムにおいて一本鎖または二本鎖切断を誘導するエレメントは、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)をコードする1つまたは複数の核酸構築物である。TALENは、ZFNと類似の全体的な構築を有するが、主な差は、DNA結合ドメインがTALエフェクタータンパク質に由来し、転写因子が植物病原性細菌に由来することである。TALENのDNA結合ドメインは、各々が約34残基長のアミノ酸反復配列のタンデムアレイである。反復配列は互いに非常に類似であり、典型的にそれらは主に2つの位置(アミノ酸12および13、反復配列可変二残基、またはRVDと呼ばれる)で異なる。各々のRVDは、4つの起こり得るヌクレオチドのうちの1つに対する優先的結合を指定し、このことは、各々のTALEN反復配列が、単一の塩基対に結合することを意味しているが、NN RVDはグアニンに加えてアデニンにも結合することが公知である。TALエフェクターDNA結合は、ジンクフィンガータンパク質ほどその機構があまり十分に理解されていないが、それらのおそらくより単純なコードは、操作されたヌクレアーゼ設計にとって非常に有益であることを証明し得る。TALENはまた、二量体として切断し、比較的長い標的配列を有し(これまで報告された最も短い配列は単量体あたり13ヌクレオチドに結合する)、結合部位間のスペーサーの長さに関してZFNほどストリンジェントでない要件を有するように思われる。単量体および二量体TALENは、10個より多く、14個より多く、20個より多く、または24個より多くの反復配列を含み得る。
【0187】
TALを特定の核酸に結合させるように操作する方法は、Cermak, et al,Nucl. Acids Res. 1-11 (2011)に記載されている。米国特許出願公開第2011/0145940号は、TALエフェクターおよびそれらを使用してDNAを改変する方法を開示している。Milleret al. Nature Biotechnol 29: 143 (2011)は、TAL切断バリアントをFok1ヌクレアーゼの触媒ドメインに連結することによって部位特異的ヌクレアーゼ構築のためのTALENを作製することを報告した。得られたTALENは、不死化したヒト細胞において遺伝子改変を誘導することが示された。TALEN結合ドメインの一般的な設計原理は、例えばWO2011/072246号において見出され得る。
【0188】
IV.ドナーオリゴヌクレオチド
一部の実施形態では、遺伝子編集組成物は、ドナーオリゴヌクレオチドを含むかまたはドナーオリゴヌクレオチドと組み合わせて投与される。ドナーオリゴヌクレオチドは、増強剤として使用される細胞透過性抗体に共有結合されていてもされていなくてもよい。例えば、ドナーオリゴヌクレオチドは、細胞透過性抗体と非共有結合複合体を形成し得る。ドナーオリゴヌクレオチド(例えば、DNAもしくはRNA、またはその組合せ)は、一本鎖または二本鎖であり得る。好ましくは、オリゴヌクレオチドは一本鎖DNAである。
【0189】
一般的に、遺伝子治療の場合、ドナーオリゴヌクレオチドは、宿主ゲノムにおいて変異を修正することができる配列を含むが、一部の実施形態では、ドナーは、例えばHIV感染症を促進する癌遺伝子または受容体の発現を低減させることができる変異を導入する。所望の修正または変異を導入するように設計された配列を含有することに加えて、ドナーオリゴヌクレオチドはまた、同義(サイレント)変異(例えば、7~10個)を含有し得る。追加のサイレント変異は、処置した細胞から単離したゲノムDNAの対立遺伝子特異的PCRを使用して修正された標的配列の検出を促進することができる。
【0190】
ドナーオリゴヌクレオチドは、一本鎖(ss)または二本鎖(ds)型(例えば、ssDNA、dsDNA)で存在することができる。ドナーオリゴヌクレオチドは、任意の長さのオリゴヌクレオチドであり得る。例えば、ドナーオリゴヌクレオチドのサイズは、1~800ヌクレオチドの間であり得る。一実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、25~200ヌクレオチドの間である。一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、100~150ヌクレオチドの間である。さらなる実施形態では、ドナーヌクレオチドは、約40~80ヌクレオチド長である。ドナーオリゴヌクレオチドは、約60ヌクレオチド長であり得る。長さ25~200のssDNAは活性である。ほとんどの研究は、長さ60~70のssDNAについて行われている。長さ70~150のより長いものも同様に作用する。好ましい長さは60である。
【0191】
ドナー配列の組換えの成功は、標的領域の配列の変化をもたらす。ドナーオリゴヌクレオチドはまた、ドナー断片、ドナー核酸、ドナーDNA、またはドナーDNA断片とも呼ばれる。ドナー断片内の相同な位置の数が多ければ、ドナー断片が標的配列、標的領域、または標的部位に組み換えられる確率が増加することは、当技術分野で理解されている。
【0192】
標的配列は、遺伝子のコードDNA配列内またはイントロン内であり得る。標的配列はまた、プロモーターもしくはエンハンサー配列、またはRNAスプライシングを調節する配列を含む、標的遺伝子の発現を調節するDNA配列内でもあり得る。
【0193】
ドナー配列は、組換え、例えば1つまたは複数のヌクレオチドの点変異、置換、欠失、または挿入の標的となる領域の配列と比較して1つまたは複数の核酸配列の変更を含有し得る。欠失および挿入は、フレームシフト変異または欠失をもたらし得る。点変異は、ミスセンスまたはナンセンス変異を引き起こし得る。これらの変異は、標的遺伝子の発現を妨害、低減、停止、増加、改善、または他の方法で変更し得る。
【0194】
ドナーオリゴヌクレオチドは、遺伝子(またはその一部分)、例えば疾患または障害(例えば、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、または慢性肉芽腫性障害)に関係する変異遺伝子の野生型配列に対応し得る。
【0195】
1つまたは複数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれより多く)の異なるドナーオリゴヌクレオチド配列を、本開示の方法に従って使用してもよい。これは、例えば2つの対立遺伝子が異なる改変を含有するヘテロ接合標的遺伝子を作製するために有用であり得る。
【0196】
ドナーオリゴヌクレオチドは、好ましくは複素環式塩基として主要な天然に存在するヌクレオチド(ウラシル、チミン、シトシン、アデニン、およびグアニン)、糖部分としてデオキシリボース、およびリン酸エステル結合で構成されるDNAオリゴヌクレオチドである。ドナーオリゴヌクレオチドは、組換え部位での置換配列の所望の構造に応じて、またはヌクレアーゼによる分解に対する何らかの抵抗性を提供するために、核酸塩基、糖部分、または骨格/連結に対する改変を含み得る。例えば、ssDNAオリゴヌクレオチドの各末端(5’および3’末端の両方)での末端の3つのヌクレオシド間結合を、通常のホスホジエステル結合の代わりにホスホロチオエート結合に交換し、それによってエキソヌクレアーゼに対する抵抗性の増加を提供することができる。ドナーオリゴヌクレオチドに対する改変は、ドナーオリゴヌクレオチドの組換え標的配列での組換えの成功を妨害してはならない。
【0197】
ドナーオリゴヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖のいずれかであり得、標的遺伝子座でゲノム配列の1つまたは両方の鎖を標的とすることができる。ドナーは典型的に、標的ゲノム遺伝子座の1つの鎖を標的とする一本鎖DNA配列として提示される。しかし、明白に提供されていない場合であっても、各々のドナーの逆相補鎖および二本鎖DNA配列もまた、提供される配列に基づいて開示される。一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、本開示の配列の機能的断片、またはその逆相補鎖、もしくは二本鎖DNAである。
【0198】
一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、1、2、3、4、5、6個、またはそれより多くの必要に応じたホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含む。一部の実施形態では、ドナーは、ドナーオリゴヌクレオチドにおける最初の2、3、4、もしくは5ヌクレオチド、および/または最後の2、3、4、もしくは5ヌクレオチドの間にホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含む。
【0199】
A.三重鎖および二重鎖ベースの技術のための好ましいドナーオリゴヌクレオチドの設計
ペプチド核酸を含む三重鎖形成分子は、混合配列リンカーを介してドナーオリゴヌクレオチドと組み合わせてもしくはそれに繋がれて投与され得るか、または標的配列と実質的に相同である繋がれていないドナーオリゴヌクレオチドと共に使用され得る。三重鎖形成分子は、最大数百塩基対離れたドナーオリゴヌクレオチド配列の組換えを誘導することができる。ドナーオリゴヌクレオチド配列は、三重鎖形成分子の標的結合部位から1~800塩基の間であることが好ましい。より好ましくは、ドナーオリゴヌクレオチド配列は、三重鎖形成分子の標的結合部位から25~75塩基の間である。最も好ましくは、ドナーオリゴヌクレオチド配列は、三重鎖形成分子の標的結合部位から約50ヌクレオチドである。
【0200】
ドナー配列は、組換えのために標的化される領域の配列と比較して、1つまたは複数の核酸配列の変更、例えば、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、欠失、または挿入を含有し得る。ドナー配列の組換えの成功は、標的領域の配列の変化をもたらす。ドナーオリゴヌクレオチドは、ドナー断片、ドナー核酸、ドナーDNA、またはドナーDNA断片とも呼ばれる。この戦略は、三重鎖がDNA修復を誘発する能力を利用し、相同なドナーDNAとの組換えの確率をおそらく増加させる。ドナー断片内の相同な位置の数がより多ければ、ドナー断片が標的配列、標的領域、または標的部位に組み換えられる確率が増加することは当技術分野で理解されている。ドナーオリゴヌクレオチドを三重鎖形成分子に繋ぐことにより、繋がれたドナー断片を組換えおよび情報転送が起こり得るように同時に配置しながら、三重ヘリックス形成を介した標的部位認識が促進される。三重鎖形成分子はまた、繋がれていないドナーオリゴヌクレオチドの相同組換えを有効に誘導する。本明細書で使用される場合、用語「組換え原性」は、標的部位もしくは配列に組換えすることができる、または別のDNA断片、オリゴヌクレオチド、もしくは組成物の組換えを誘導することができるDNA断片、オリゴヌクレオチド、ペプチド核酸、または組成物を定義するために使用される。
【0201】
繋がれていないまたは非連結断片は、20ヌクレオチドから数千ヌクレオチド長の範囲であり得る。ドナーオリゴヌクレオチド分子は、連結されているか否かによらず、一本鎖または二本鎖型で存在し得る。組み換えられるドナー断片は、三重鎖形成分子に連結していても連結していなくてもよい。連結されたドナー断片は、4ヌクレオチド~100ヌクレオチド長、好ましくは4~80ヌクレオチド長の範囲であり得る。しかし、非連結ドナー断片は、かなり広い範囲を有し、20ヌクレオチド~数千ヌクレオチドの範囲を有する。一実施形態では、オリゴヌクレオチドドナーは、25~80核酸塩基の間である。さらなる実施形態では、繋がれていないドナーヌクレオチドは、約50~60ヌクレオチド長である。
【0202】
三重鎖形成分子、例えばtcPNAを含む組成物は、1つまたは1つより多くのドナーオリゴヌクレオチドを含み得る。1つより多くのドナーオリゴヌクレオチドは、単一のトランスフェクションまたは連続的トランスフェクションにおいて三重鎖形成分子と共に投与され得る。
【0203】
B.ヌクレアーゼベースの技術のための好ましいドナーオリゴヌクレオチドの設計
記載のゲノム編集システムのヌクレアーゼ活性は、標的DNAを切断して、標的DNAにおいて一本鎖または二本鎖切断を産生する。二本鎖切断は、2つの方法、すなわち非相同末端結合および相同組換え修復のうちの1つの方法において細胞を修復することができる。非相同末端結合(NHEJ)では、二本鎖切断は、切断末端を互いに直接ライゲーションすることによって修復される。そのため、一部の核酸材料は失われ得るが、新規核酸材料が部位に挿入されず、欠失がもたらされる。相同組換え修復では、切断された標的DNA配列と相同性を有するドナーポリヌクレオチドを、切断された標的DNA配列の修復のための鋳型として使用し、ドナーポリヌクレオチドから標的DNAへの遺伝情報の転送をもたらす。そのため、新規核酸材料を部位に挿入/コピーすることができる。NHJEおよび/または相同組換え修復による標的DNAの改変を使用して、遺伝子修正、遺伝子置換、遺伝子タグ付け、トランスジーン挿入、ヌクレオチド欠失、遺伝子破壊、遺伝子変異等を誘導することができる。増強剤として、3E10は、RAD51媒介性である経路からRAD52媒介性である経路へのDNA修復および組換え経路のバランスをシフトさせることによって、組換えを促進すると考えられる。
【0204】
切断部位で挿入されるドナー配列を含むポリヌクレオチドは、編集される細胞に提供される。ドナーポリヌクレオチドは、ドナーポリヌクレオチドとそれが相同性を有するゲノム配列との間の相同組換え修復を支持するために、切断部位でゲノム配列と十分な相同性、例えば切断部位に隣接するヌクレオチド配列、例えば切断部位の約50塩基またはそれ未満内、例えば約30塩基内、約15塩基内、約10塩基内、約5塩基内、または切断部位に直ちに隣接するヌクレオチド配列と、例えば、70%、80%、85%、90%、95%、または100%の相同性を含有する。
【0205】
ドナー配列は、それが交換するゲノム配列と同一であってもなくてもよい。ドナー配列は、標的配列(例えば、遺伝子)の野生型配列(またはその一部分)に対応し得る。ドナー配列は、相同組換え修復を支持するために十分な相同性が存在する限り、ゲノム配列に関して少なくとも1つまたは複数の一塩基変化、挿入、欠失、転位、または再配列を含有し得る。一部の実施形態では、ドナー配列は、標的DNA領域と2つの隣接する配列との間の相同組換え修復によって標的領域の非相同配列の挿入がもたらされるように、2つの相同性領域が隣接する非相同配列を含む。
【0206】
ゲノム編集組成物が、標的DNA配列と相同性を有する少なくともセグメントを含むドナーポリヌクレオチドを含む場合、方法を使用して、標的DNA配列に核酸材料を付加、すなわち挿入または交換する(例えば、タンパク質、siRNA、miRNA等をコードする核酸を「ノックインする」)、タグ(例えば、6×His、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質等)、ヘマグルチニン(HA)、FLAG等)を付加する、遺伝子に調節配列(例えば、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム進入配列(IRES)、2Aペプチド、開始コドン、停止コドン、スプライスシグナル、局在化シグナル等)を付加する、または核酸配列を改変する(例えば、変異を導入する)ことができる。
【0207】
C.オリゴヌクレオチドの変形形態
本開示の遺伝子編集技術、その構成成分、ドナーオリゴヌクレオチド、または他の核酸のいずれかは、核酸塩基または連結に対して1つまたは複数の改変または置換を含み得る。改変は、三重鎖形成技術と共に使用するのに特に好ましく、典型的にはそれに関連して以下に論じられるが、改変のいずれも、本開示の遺伝子編集組成物、ドナーオリゴヌクレオチド、他のヌクレオチド等のいずれかの構築に利用することができる。改変は、遺伝子編集技術を防止してはならず、好ましくはその活性、持続、または機能を亢進しなければならない。例えば、三重鎖形成剤として使用するためのオリゴヌクレオチドの改変は、二重鎖の侵入、鎖の置き換えを防止してはならず、好ましくは亢進しなければならず、および/または標的部位に対する三重鎖形成分子の特異性または結合親和性を増加させることによって上記のように三重鎖形成を安定化させなければならない。改変塩基および塩基アナログ、改変糖および糖アナログ、ならびに/または当技術分野で公知の様々な適切な連結もまた、本明細書に開示される分子における使用に適切である。
【0208】
i.複素環式塩基
主な天然に存在するヌクレオチドは、複素環式塩基としてウラシル、チミン、シトシン、アデニン、およびグアニンを含む。遺伝子編集分子は、そのヌクレオチド構成要素に対する化学改変を含み得る。例えば、シトシンが隣接する標的配列は、問題であり得る。三重鎖の安定性は、連続するシトシンによって大きく損なわれ、これは、Nプロトン化に起因する正電荷間の反発によるか、またはおそらく隣接するシトシンがプロトンに関して競合するためであると考えられている。三重鎖形成分子、例えばPNAを含むヌクレオチドの化学改変は、生理的条件下で三重鎖形成分子の結合親和性および/または三重鎖の安定性を増加させるために有用であり得る。
【0209】
複素環式塩基または複素環式塩基アナログの化学改変は、ヌクレオチドの結合親和性または三重鎖におけるその安定性を増加させるために有効であり得る。化学改変複素環式塩基としては、これらに限定されないが、イノシン、5-(1-プロピニル)ウラシル(pU)、5-(1-プロピニル)シトシン(pC)、5-メチルシトシン、8-オキソ-アデニン、シュードシトシン、シュードイソシトシン、5および2-アミノ-5-(2’-デオキシ-β-D-リボフラノシル)ピリジン(2-アミノピリジン)、ならびに様々なピロロ-およびピラゾロピリミジン誘導体が挙げられる。三重鎖形成分子、例えばPNAにおけるシトシンの5-メチルシトシンまたはシュードイソシトシンへの置換は、中性および/または生理的pHで、特に孤立したシトシンを有する三重鎖形成分子において三重鎖形成を安定化させるために役立つ。これは、正電荷が、三重鎖形成分子と標的二重鎖との間の負電荷反発を部分的に低減させ、フーグスティーン型結合を可能にするためである。
【0210】
ii.骨格
オリゴヌクレオチドのヌクレオチドサブユニットは、ある特定の改変を含有し得る。例えば、オリゴヌクレオチドのリン酸骨格のその全体を、反復するN-(2-アミノエチル)-グリシン単位によって交換してもよく、および/またはホスホジエステル結合を、部分的または完全にペプチド結合またはホスホロチオエート結合に交換してもよい。例えば、PNAにおいて、オリゴヌクレオチドのリン酸骨格のその全体を、反復するN-(2-アミノエチル)-グリシン単位に交換し、ホスホジエステル結合を典型的にはペプチド結合に交換する。様々な複素環式塩基をメチレンカルボニル結合によって骨格に連結し、これによって、それらは高い親和性および配列特異性でワトソン-クリック型の塩基対形成を介してPNA-DNAまたはPNA-RNA二重鎖を形成することができる。PNAは、従来のDNAオリゴクレオチドと類似であるが、非キラルおよび電荷中性の分子である複素環式塩基の間隔を維持する。ペプチド核酸はペプチド核酸単量体で構成される。
【0211】
他の骨格改変は、ペプチドおよびアミノ酸の変形形態および改変を含む。ドナーオリゴヌクレオチドの骨格構成要素は、ペプチド結合であり得るか、またはあるいは、それらは非ペプチド結合であり得る。例としては、アセチルキャップ、アミノスペーサー、例えば8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸(本明細書においてO-リンカーと呼ぶ)が挙げられ、アミノ酸、例えばリシンは、オリゴヌクレオチド(例えば、PNA)において正電荷が望ましい場合等では特に有用である。PNAを化学的にアセンブルする方法は周知である。例えば、米国特許第5,539,082号、第5,527,675号、第5,623,049号、第5,714,331号、第5,736,336号、第5,773,571号、および第5,786,571号を参照されたい。
【0212】
オリゴヌクレオチドの骨格改変は、分子が高い特異性でDNA標的部位に結合するのを防止してはならず、情報の転送を媒介するのを防止してはならない。例えば、三重鎖形成分子の改変は、分子が高い特異性で標的部位に結合するのを防止してはならず、標的二重鎖の1つの鎖を置き換え、標的二重鎖の他の鎖の周囲にクランプを形成することによって、標的二重鎖核酸との三重鎖が生じるのを防止してはならない。
【0213】
iii.改変核酸
ペプチド核酸に加えて改変核酸もまた、三重鎖形成分子として有用である。オリゴヌクレオチドは、互いに連結されたヌクレオチドの鎖で構成される。標準的なヌクレオチドは典型的に、複素環式塩基(核酸塩基)、複素環式塩基に結合した糖部分、および糖部分のヒドロキシル官能基をエステル化するホスフェート部分を含む。主な天然に存在するヌクレオチドは、複素環式塩基としてウラシル、チミン、シトシン、アデニン、およびグアニン、ならびにホスホジエステル結合によって連結されたリボースまたはデオキシリボース糖を含む。本明細書で使用される場合、「改変ヌクレオチド」または「化学改変ヌクレオチド」は、複素環式塩基、糖部分、またはホスフェート部分構成要素のうちの1つまたは複数の化学改変を有するヌクレオチドを定義する。改変ヌクレオチドの電荷は、同じ核酸塩基配列のDNAまたはRNAオリゴヌクレオチドと比較して低減させることができる。例えば、三重鎖形成分子は、標的部位でのヌクレオチド二重鎖による静電気的反発が、対応する核酸塩基配列を有するDNAまたはRNAオリゴヌクレオチドと比較して低減されるように、低い負電荷を有してもよく、電荷を有していなくてもよく、または正電荷を有していてもよい。
【0214】
低減された電荷を有する改変ヌクレオチドの例としては、改変ヌクレオチド間結合、例えば非キラルおよび非荷電サブユニット間結合を有するホスフェートアナログ(例えば、Sterchak, E. P. et al., Organic Chem.,52:4202,(1987))、および非キラルサブユニット間結合を有する非荷電モルホリノベースのポリマー(例えば、米国特許第5,034,506号を参照されたい)を含む。一部のヌクレオチド間結合アナログとしては、モルホリデート、アセタール、およびポリアミド結合複素環が挙げられる。ロックド核酸(LNA)は、改変RNAヌクレオチドである(例えば、Braasch,et al., Chem. Biol., 8(1):1-7(2001)を参照されたい)。LNAは、DNAとハイブリッドを形成するが、これはDNA/DNAハイブリッドより安定であり、特性はペプチド核酸(PNA)/DNAハイブリッドの特性と類似である。したがって、LNAをまさにPNA分子のように使用することができる。LNAの結合効率は、一部の実施形態では、正電荷をそれに付加することによって増加させることができる。市販の核酸合成剤および標準的なホスホロアミダイト化学を使用してLNAを作製する。
【0215】
分子はまた、改変された複素環式塩基、糖部分、または糖部分アナログを有するヌクレオチドも含み得る。改変ヌクレオチドは、ペプチド核酸に関して上記の改変複素環式塩基または塩基アナログを含み得る。糖部分の改変としては、これらに限定されないが、2’-O-アミノエトキシ、2’-O-アミノエチル(2’-OAE)、2’-O-メトキシ、2’-O-メチル、2-グアニドエチル(2’-OGE)、2’-O,4’-C-メチレン(LNA)、2’-O-(メトキシエチル)(2’-OME)、および2’-O-(N-(メチル)アセトアミド)(2’-OMA)が挙げられる。2’-O-アミノエチル糖部分の置換は、それらが中性pHでプロトン化され、このように、三重鎖形成分子と標的二重鎖との間で電荷の反発を抑制することから特に好ましい。
【0216】
V.ナノ粒子送達
増強剤、遺伝子編集分子、ドナーオリゴヌクレオチド等を含むがこれらに限定されない本開示の組成物はいずれも、ナノ粒子送達ビヒクルを使用して標的細胞に送達することができる。一部の実施形態では、組成物の一部をナノ粒子にパッケージングし、一部をパッケージングしない。例えば、一部の実施形態では、遺伝子編集技術および/またはドナーオリゴヌクレオチドは、ナノ粒子に組み込まれるが、増強剤は組み込まれない。一部の実施形態では、遺伝子編集技術および/またはドナーオリゴヌクレオチド、および増強剤がナノ粒子にパッケージングされる。異なる組成物を同じナノ粒子または異なるナノ粒子にパッケージングすることができる。例えば、組成物を混合して一緒にパッケージングすることができる。一部の実施形態では、異なる組成物は、別々のナノ粒子に別々にパッケージングされ、ナノ粒子は類似または同一のように構成および/または製造される。一部の実施形態では、異なる組成物は、別々のナノ粒子に別々にパッケージングされ、ナノ粒子は異なるように構成および/または製造される。
【0217】
ナノ粒子は、一般的に500nm~0.5nm未満の間の範囲の粒子、好ましくは50~500nmの間、より好ましくは50~300nmの間である直径を有する粒子を指す。ポリマー粒子の細胞内部移行は、そのサイズに高度に依存することから、ナノ微粒子ポリマー粒子は、マイクロ微粒子ポリマー粒子より非常に高い効率で細胞に内部移行する。例えば、Desaiらは、直径100nmであるナノ粒子が、直径1μMを有するマイクロ粒子と比較して約2.5倍多く培養Caco-2細胞によって取り込まれることを実証した(Desai, et al., Pharm. Res., 14:1568-73(1997))。ナノ粒子はまた、in vivoで組織の中により深く拡散する能力がより高い。
【0218】
A.ポリマー
ナノ粒子のコアを形成するポリマーは、任意の生体分解性または非生体分解性の合成または天然のポリマーであり得る。好ましい実施形態では、ポリマーは生体分解性ポリマーである。
【0219】
好ましい生体分解性ポリマーの例としては、ポリ(ヒドロキシ酸)などの加水分解により分解する合成ポリマー、例えば乳酸およびグリコール酸のポリマーおよびコポリマー、他の分解性ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)(poly(butic acid))、ポリ(吉草酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)、およびポリ(アミン-co-エステル)ポリマー、例えば、Zhou, et al., Nature Materials, 11:82-90 (2012)およびWO2013/082529号、米国特許出願公開第2014/0342003号、およびPCT/US2015/061375号に記載されるものが挙げられる。
【0220】
一部の実施形態では、非生体分解性ポリマー、特に疎水性ポリマーを使用することができる。好ましい非生体分解性ポリマーの例としては、エチレン酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸と他の不飽和の重合可能な単量体とのコポリマー、ポリ(ブタジエン無水マレイン酸)、ポリアミド、コポリマーおよびその混合物、ならびにデキストラン、セルロース、およびその誘導体が挙げられる。
【0221】
他の適切な生体分解性および非生体分解性ポリマーが当技術分野で公知である。これらの材料は単独で、または物理的混合物(ブレンド)として、またはコポリマーとして使用され得る。
【0222】
ナノ粒子製剤は、標的化組織または細胞を含む検討に基づいて選択することができる。例えば、ベータ-サラセミアを処置または修正する処置を対象とする実施形態(例えば、標的細胞が、例えば造血幹細胞である場合)では、好ましいナノ粒子製剤は、PLGAである。好ましい実施形態では、ナノ粒子は、ポリラクチド(PLA)から製作されたポリマー、およびラクチドとグリコリドのコポリマー(PLGA)から形成される。これらは、ヒトにおいて商業的使用が確立されており、長期間安全であることが記録されている(Jiang, et al., Adv. Drug Deliv. Rev., 57(3):391-410);Aguado andLambert, Immunobiology, 184(2-3):113-25 (1992);Bramwell, et al., Adv. DrugDeliv. Rev., 57(9):1247-65 (2005))。
【0223】
他の好ましいナノ粒子製剤、特に嚢胞性線維症を処置するために好ましいナノ粒子製剤は、McNeer,et al., Nature Commun., 6:6952. doi: 10.1038/ncomms7952 (2015)およびFields, etal., Adv Healthc Mater., 4(3):361-6 (2015). doi: 10.1002/adhm.201400355 (2015)Epub 2014に記載されている。そのようなナノ粒子は、ポリ(ベータアミノ)エステル(PBAE)およびポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)のブレンドで構成される。したがって、一部の実施形態では、本開示の組成物を送達するために利用されるナノ粒子は、PBAEとPLGAのブレンドで構成される。
【0224】
遺伝子編集技術をロードしたPLGAおよびPBAE/PLGAブレンドナノ粒子は、McNeer,et al., Nature Commun., 6:6952. doi: 10.1038/ncomms7952 (2015)、およびFields, etal., Adv Healthc Mater., 4(3):361-6 (2015). doi: 10.1002/adhm.201400355 (2015)Epub 2014に記載のようなダブルエマルジョン溶媒蒸発技術を使用して製剤化することができる。ポリ(ベータアミノエステル)(PBAE)は、Akinc, etal., Bioconjug Chem., 14:979-988 (2003)に記載されるように1,4-ブタンジオールジアクリレートおよび4,4’-トリメチレンジピペリジンのマイケル付加反応によって合成することができる。一部の実施形態では、PBAEブレンド粒子、例えばPLGA/PBAEブレンド粒子は、約1~99パーセントの間、または約1~50パーセントの間、または約5~25パーセントの間、または約5~20パーセントの間、または約10~20パーセントの間、または約15パーセントのPBAE(wt%)を含有する。
【0225】
B.ポリカチオン
核酸のナノ粒子への被包効率を増加させるために、核酸をポリカチオンと複合体形成させることができる。用語「ポリカチオン」は、正電荷、好ましくは選択されたpHで、好ましくは生理的pHで少なくとも2の正電荷を有する化合物を指す。ポリカチオン部分は、選択されたpH値で約2~約15の間の正電荷、好ましくは約2~約12の間の正電荷、より好ましくは約2~約8の間の正電荷を有する。
【0226】
多くのポリカチオンが当技術分野で公知である。ポリカチオンの適切な構成要素は、塩基性アミノ酸およびその誘導体、例えばアルギニン、アスパラギン、グルタミン、リシン、およびヒスチジン;カチオン性デンドリマー;ならびにアミノ多糖類を含む。適切なポリカチオンは、構造が線形、例えば線形のテトラリシン、分岐またはデンドリマーであり得る。
【0227】
例示的なポリカチオンとしては、これらに限定されないが、アクリルアミドおよび2-アクリルアミド-2-メチルプロパントリメチルアミンに基づく合成ポリカチオン、ポリ(N-エチル-4-ビニルピリジン)、または類似の4級化ポリピリジン、ジエチルアミノエチルポリマーおよびデキストランコンジュゲート、硫酸ポリミキシンB、リポポリアミン、ポリ(アリルアミン)、例えば強いポリカチオンであるポリ(ジメチルジアリルアンモニウムクロリド)、ポリエチレンイミン、ポリブレン、およびポリペプチド、例えばプロタミン、ヒストンポリペプチド、ポリリシン、ポリアルギニン、およびポリオルニチンが挙げられる。
【0228】
一部の実施形態では、粒子自体がポリカチオン(例えば、PLGAとポリ(ベータアミノエステル)のブレンド)である。
【0229】
C.機能的/標的化分子
標的化分子を、遺伝子編集分子またはナノ粒子または他の送達ビヒクルに直接または間接的に会合、連結、コンジュゲート、または他の方法で結合させることができる。標的化分子は、標的化細胞の表面上の受容体または他の分子に結合するタンパク質、ペプチド、核酸分子、糖類、または多糖類であり得る。結合の特異性およびアビディティの程度は、標的化分子の選択を通してモジュレートすることができる。
【0230】
部分の例としては、例えば特定の細胞への分子の送達を提供する標的化部分、例えば造血幹細胞、CD34細胞、T細胞、または他の任意の好ましい細胞タイプ、ならびに好ましい細胞タイプ上に発現される受容体およびリガンドに対する抗体が挙げられる。好ましくは、部分は造血幹細胞を標的とし得る。細胞外基質(「ECM」)を標的化する分子の例としては、グリコサミノグリカン(「GAG」)およびコラーゲンが挙げられる。一実施形態では、ポリマー粒子の外部表面は、粒子が選択された細胞または組織と相互作用する能力を亢進するように改変され得る。一部の実施形態では、標的化分子にコンジュゲートされたアダプターエレメントを粒子に挿入する。別の実施形態では、カルボキシ末端を有するポリマー性のマイクロまたはナノ粒子の外部表面は、遊離のアミン末端を有する標的化分子に連結され得る。
【0231】
ポリマー性のマイクロおよびナノ粒子に結合する他の有用なリガンドは、病原体関連分子パターン(PAMP)を含む。PAMPは、細胞もしくは組織の表面上のToll様受容体(TLR)を標的とし、または細胞もしくは組織の内部にシグナルを送り、それによっておそらく取り込みを増加させる。粒子表面にコンジュゲートされたまたは同時被包されたPAMPとしては、非メチル化CpG DNA(細菌)、二本鎖RNA(ウイルス)、リポ多糖類(lipopolysacharride)(細菌)、ペプチドグリカン(細菌)、リポアラビノマンナン(lipoarabinomannin)(細菌)、ザイモサン(酵母)、マイコプラズマリポタンパク質、例えばMALP-2(細菌)、フラジェリン(細菌)、ポリ(イノシン-シチジン)酸(細菌)、リポテイコ酸(細菌)、またはイミダゾキノリン(合成)が挙げられ得る。
【0232】
別の実施形態では、粒子の外部表面をマンノースアミンを使用して処置し、それによって粒子の外部表面をマンノシル化してもよい。この処置によって、粒子は抗原提示細胞表面上のマンノース受容体で標的細胞または組織に結合することができる。あるいは、Fc部分を含有する(Fc受容体を標的化する)免疫グロブリン分子、熱ショックタンパク質部分(HSP受容体)、ホスファチジルセリン(スキャベンジャー受容体)、およびリポ多糖類(LPS)との表面コンジュゲーションは、細胞または組織上の追加の受容体標的である。
【0233】
レクチンをマイクロおよびナノ粒子に共有結合して、ムチンおよび粘膜細胞層に対してそれらを標的特異的にすることができる。
【0234】
標的化部分の選択は、ナノ粒子組成物の投与方法、および標的化される細胞または組織に依存する。標的化分子は、一般的に細胞もしくは組織に対する粒子の結合親和性を増加させることができるか、またはナノ粒子を臓器中の特定の組織もしくは組織中の特定の細胞タイプを標的化することができる。純粋型または部分精製型のムチンの天然の構成成分のいずれかが粒子に共有結合すると、ビーズと腸管界面の表面張力を減少させ、ムチン層におけるビーズの溶解度を増加させる。余分なペンダントカルボン酸側基を含有するポリアミノ酸、例えばポリアスパラギン酸およびポリグルタミン酸の結合もまた、生体接着性を増加させる有用な手段を提供するはずである。15,000~50,000kDaの分子量範囲のポリアミノ酸を使用すると、粒子の表面に結合した120~425アミノ酸残基の鎖を生じる。ポリアミノ鎖は、ムチン鎖における鎖のもつれによって、およびカルボン酸電荷の増加によって生体接着を増加させる。
【0235】
ナノ粒子の効力は、体へのその投与経路によって部分的に決定される。経口投与および局部投与されたナノ粒子の場合、上皮細胞は、生物の内部を外界から分離する主な障壁を構成する。したがって、一実施形態では、本開示のナノ粒子は、上皮細胞標的化分子、例えば上皮細胞の表面上に表示されたエピトープを認識してそれに結合する抗体もしくはその生物活性断片、または上皮細胞表面受容体に結合するリガンドをさらに含む。適切な受容体の例としては、これらに限定されないが、IgE Fc受容体、EpCAM、選択された炭水化物特異性、ジペプチジルペプチダーゼ、およびE-カドヘリンが挙げられる。
【0236】
ナノ粒子送達システムの効率はまた、NP表面に対する機能的リガンドの結合によって改善することができる。有望なリガンドとしては、これらに限定されないが、低分子、細胞透過性ペプチド(CPP)、標的化ペプチド、抗体、またはアプタマー(Yu, et al., PLoS One., 6:e24077 (2011), Cu, et al., J ControlRelease, 156:258-264 (2011), Nie, et al., J Control Release, 138:64-70 (2009),Cruz, et al., J Control Release, 144:118-126 (2010))が挙げられる。一部の実施形態では、機能的分子は、CPP、例えばmTAT(HIV-1(ヒスチジン改変を有する)HHHHRKKRRQRRRRHHHHH(配列番号42)(Yamano,et al., J Control Release, 152:278-285 (2011));またはbPrPp(ウシプリオン)MVKSKIGSWILVLFVAMWS DVGLCKKRPKP(配列番号43)(Magzoub,et al., Biochem Biophys Res Commun., 348:379-385 (2006));またはMPG(合成キメラ:SV40 Lg T.Ant.+HIV gb41コート)GALFLGFLGAAGSTMGAWS QPKKKRKV(配列番号44)(Endoh,et al., Adv Drug Deliv Rev., 61:704-709 (2009))である。これらの部分の結合は、多様な異なる機能に役立つ:例えば細胞内取り込み、エンドソーム破壊、および核への送達を誘導する。
【0237】
VI.薬学的製剤
増強剤(例えば、細胞透過性抗DNA抗体)、遺伝子編集技術、およびドナーオリゴヌクレオチドの組成物は、適切な薬学的担体と組み合わせて治療的に使用することができる。そのような組成物は、有効量の組成物、および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。
【0238】
in vivoで投与されるヌクレオチドは、細胞および組織に取り込まれ、分布することは当業者によって理解される(Huang, et al., FEBS Lett., 558(1-3):69-73 (2004))。例えば、Nyceらは、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)を吸入すると、内因性のサーファクタント(肺細胞によって産生される脂質)に結合し、追加の担体脂質の必要なく肺細胞に取り込まれることを示した(Nyce,et al., Nature, 385:721-725 (1997))。小さい核酸は、T24膀胱癌組織培養細胞に容易に取り込まれる(Ma, et al.,Antisense Nucleic Acid Drug Dev., 8:415-426 (1998))。
【0239】
本開示の組成物は、適切な薬学的担体中で局部、局所、または全身投与するための製剤に存在し得る。Remington's Pharmaceutical Sciences, 15th Edition by E. W. Martin(Mark Publishing Company, 1975)は、典型的な担体および調製方法を開示している。化合物はまた、細胞に標的化するために、生体分解性または非生物分解性のポリマーまたはタンパク質またはリポソームで形成される適切な生体適合性のマイクロカプセル、マイクロ粒子、ナノ粒子、またはマイクロスフェアに被包することができる。そのようなシステムは当業者に周知であり、適正な核酸と共に使用するために最適化することができる。上記のように、一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、ナノ粒子に被包される。
【0240】
様々な核酸送達方法が、例えばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold SpringHarbor Laboratory, New York (1989);およびAusubel, et al., Current Protocols inMolecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1994)に記載されている。そのような核酸送達システムは、所望の核酸を、例として、しかし限定ではないが「裸の」核酸としての「裸の」形態で、または送達にとって適切なビヒクル中で製剤化された、例えばカチオン性分子もしくはリポソーム形成脂質との複合体中で、またはベクターの構成成分もしくは医薬組成物の構成成分として含む。核酸送達システムは、例えばそれを細胞と接触させることによって細胞に直接提供することができ、または例えば、いずれかの生物プロセスの作用を通して間接的に提供することができる。そのような核酸送達システムは、エンドサイトーシス、受容体標的化、天然もしくは合成の細胞膜断片とのカップリング、電気穿孔などの物理的手段、核酸送達システムとポリマー担体、例えば制御放出性フィルムもしくはナノ粒子もしくはマイクロ粒子と組み合わせること、ベクターを使用すること、核酸送達システムを組織もしくは細胞周囲の流体に注入すること、細胞膜を通しての核酸送達システムの単純な拡散、または細胞膜を超えての任意の能動的もしくは受動的輸送機構によって細胞に提供することができる。加えて、核酸送達システムは、ウイルスベクターの抗体関連標的化および抗体媒介性固定などの技術を使用して、細胞に提供することができる。
【0241】
注射のための製剤は、必要に応じて追加の保存剤と共に単位剤形、例えばアンプルまたは多用量容器で提示され得る。組成物は、ある特定の実施形態では被験体の血液と等張であり得る滅菌の水性または非水性の溶液、懸濁物、およびエマルジョンのような形態をとることができる。非水性溶媒の例は、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、ゴマ油、ココナツ油、落花生油、ピーナッツ油、鉱油、注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチル、または合成モノもしくはジグリセリドを含む固定油である。水性担体は、食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール/水溶液、エマルジョン、または懸濁物を含む。非経口ビヒクルは、塩化ナトリウム溶液、1,3-ブタンジオール、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲルまたは固定油を含む。静脈内ビヒクルとしては、補液および栄養補充剤、ならびに電解質補充剤(例えば、リンゲルデキストロースに基づく補充剤)が挙げられる。材料は溶液、エマルジョン、または懸濁物中であり得る(例えば、粒子、リポソーム、または細胞に組み込まれる)。典型的には、製剤を等張にするために、適正な量の薬学的に許容される塩が製剤において使用される。トレハロースは典型的に、1~5%の量で医薬組成物に添加され得る。溶液のpHは、好ましくは約5~約8、より好ましくは約7~約7.5である。
医薬組成物は、担体、濃化剤、希釈剤、緩衝液、保存剤、および表面活性剤を含み得る。担体製剤は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Paに見出され得る。当業者は過剰な実験を行うことなく組成物を調製および製剤化するための様々なパラメーターを容易に決定することができる。
【0242】
本開示の組成物は、単独でまたは他の適切な構成成分と共に、吸入により投与されるエアロゾル製剤(すなわち、それらを「噴霧化」することができる)に作製することができる。エアロゾル製剤は、加圧された許容可能な噴霧体、例えばジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素および空気の中に入れることができる。吸入による投与の場合、化合物は、適切な噴霧体を使用して、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0243】
一部の実施形態では、組成物は、製剤成分、例えば塩、担体、緩衝化剤、乳化剤、希釈剤、賦形剤、キレート剤、充填剤、乾燥剤、抗酸化剤、抗菌剤、保存剤、結合剤、増量剤、シリカ、溶解剤、または安定化剤と共に薬学的に許容される担体を含む。トレハロースは、典型的に1~5%の量で医薬組成物に添加され得る。ドナーオリゴヌクレオチドは、細胞取り込みを改善するために、親油性基、例えばコレステロールならびにC32官能基を有するラウリン酸およびリトコール酸誘導体にコンジュゲートすることができる。例えば、コレステロールは、siRNAのin vitro(Lorenz, et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 14(19):4975-4977 (2004))およびin vivo(Soutschek,et al., Nature, 432(7014):173-178 (2004))での取り込みおよび血清中安定性を亢進することが実証されている。加えて、ステロイドコンジュゲートオリゴヌクレオチドが血流中で異なるリポタンパク質、例えばLDLに結合すると、完全性を保護し、生体分布を促進することが示されている(Rump,et al., Biochem. Pharmacol., 59(11):1407-1416 (2000))。細胞の取り込みを増加させるために上記の化合物に結合またはコンジュゲートさせることができる他の基としては、アクリジン誘導体;架橋剤、例えばソラレン誘導体、アジドフェナシル、プロフラビン、およびアジドプロフラビン;人工エンドヌクレアーゼ;金属錯体、例えばEDTA-Fe(II)およびポルフィリン-Fe(II);アルキル化部分;ヌクレアーゼ、例えばアルカリホスファターゼ;ターミナルトランスフェラーゼ;アブザイム;コレステリル部分;親油性担体;ペプチドコンジュゲート;長鎖アルコール;リン酸エステル;放射性マーカー;非放射性マーカー;炭水化物;ならびにポリリシンまたは他のポリアミンが挙げられる。Levyらに対する米国特許第6,919,208号もまた、亢進された送達方法を記載している。これらの医薬製剤は、それ自体が公知である様式、例えば従来の混合、溶解、造粒、粉砕、乳化、被包、封入、または凍結乾燥プロセスによって製造され得る。
【0244】
さらなる担体としては、徐放性調製物、例えば抗体を含有する固体の疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが挙げられ、マトリックスは、成形された粒子、例えばフィルム、リポソーム、またはマイクロ粒子の形状である。埋め込みは、埋め込み可能な薬物送達システム、例えばマイクロスフェア、ハイドロゲル、ポリマーリザーバー、コレステロールマトリックス、ポリマーシステム、例えばマトリックス侵食および/または拡散システム、ならびに非ポリマーシステム、例えば圧縮された、融合された、または部分融合されたペレットを挿入することを含む。吸入は、吸入器において組成物を単独で、または吸収することができる担体に結合させてエアロゾルによって投与することを含む。全身投与の場合、組成物をリポソームに被包することが好ましい場合がある。
【0245】
組成物は、薬剤および/またはヌクレオチド送達システムの組織特異的取り込みを可能にする様式で送達され得る。技術は、組織または臓器局在デバイス、例えば創傷用包帯または経皮送達システムを使用すること、侵襲性デバイス、例えば血管もしくは尿カテーテルを使用すること、および/または介入性デバイス、例えば薬物送達能を有し、拡張するデバイスもしくはステントグラフトとして構成されるステントを使用することを含む。
【0246】
組成物(例えば、細胞透過性抗体、遺伝子編集技術、およびドナーオリゴヌクレオチドを含有する)の製剤は、生体崩壊性(bioerodible)のインプラントを使用して、拡散によってまたはポリマーマトリックスの分解によって送達され得る。ある特定の実施形態では、製剤の投与は、ある一定期間、例えば数時間、数日間、数週間、数ヶ月間、または数年間にわたって組成物に対する逐次的な曝露をもたらすように設計され得る。これは、例えば製剤の反復投与によって、または反復投与することなく長期間にわたって組成物が送達される徐放性もしくは制御放出送達システムによって達成され得る。
【0247】
適切な他の送達システムとしては、時限放出、遅延放出、徐放性、または制御放出送達システムが挙げられる。そのようなシステムは、多くの症例において反復投与を回避できるので、被験体および医師の利便性を増加させる。多くのタイプの放出送達システムが利用可能であり、当業者に公知である。それらとしては、例えばポリマーベースのシステム、例えばポリ乳酸および/またはポリグリコール酸、ポリ酸無水物、ポリカプロラクトン、コポリオキサレート、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸、および/またはこれらの組合せが挙げられる。核酸を含有する前述のポリマーのマイクロカプセルは、例えば米国特許第5,075,109号に記載されている。他の例としては、ステロール、例えばコレステロール、コレステロールエステル、および脂肪酸または中性脂肪、例えばモノ、ジ、およびトリグリセリドを含む脂質ベースの非ポリマーシステム、ハイドロゲル放出システム、リポソームベースのシステム、リン脂質ベースのシステム、silasticシステム、ペプチドベースのシステム、ワックスコーティング、通常の結合剤および賦形剤を使用する圧縮錠、または部分的に融合したインプラントが挙げられる。製剤は、例えばマイクロスフェア、ハイドロゲル、ポリマーリザーバー、コレステロールマトリックスまたはポリマーシステムであり得る。一部の実施形態では、システムは、例えば増強剤、遺伝子編集技術、および/またはドナーオリゴヌクレオチドを含有する製剤の拡散または侵食/分解速度の制御を通して、組成物の徐放または制御放出が起こることを可能にし得る。
【0248】
活性剤(増強剤、遺伝子編集技術、およびドナーオリゴヌクレオチド)およびその組成物は、肺または粘膜投与のために製剤化することができる。投与は、肺、鼻、口腔(舌下、または口腔内)、膣、または直腸粘膜への組成物の送達を含み得る。本明細書で使用される場合、用語エアロゾルは、噴霧体を使用して産生されるか否かによらず、溶液または懸濁物であり得る粒子の微細なミストの任意の調製物を指す。エアロゾルは、標準的な技術、例えば超音波または高圧処置を使用して産生することができる。
【0249】
上気道を介して投与する場合、製剤は、滴剤またはスプレーとして鼻腔内投与するための溶液、例えば緩衝化されたもしくは緩衝化されていない水もしくは等張食塩水、または懸濁物として製剤化することができる。好ましくは、そのような溶液または懸濁物は、鼻分泌物に対して等張であり、例えば約pH4.0~約pH7.4、またはpH6.0~pH7.0の範囲のほぼ同じpHである。緩衝液は生理的に適合性でなければならず、単なる例としてリン酸緩衝液が挙げられる。
【0250】
VII.方法
本開示の組成物は、in vitro、ex vivo、またはin vivo遺伝子編集のために使用することができる。方法は典型的には、細胞のゲノムを改変するために、細胞を、増強剤と組み合わせて有効量の遺伝子編集組成物と接触させることを含む。好ましい実施形態では、方法は、治療結果を達成するために十分数の細胞のゲノムを改変するために、標的細胞集団を、増強剤(例えば、細胞透過性抗体)と組み合わせて有効量の遺伝子編集組成物およびドナーオリゴヌクレオチドと接触させることを含む。
【0251】
増強剤および遺伝子編集組成物は、同じまたは異なる混合物中で一緒に細胞と接触させることができるか、または増強剤および遺伝子編集組成物を細胞と別々に接触させることができる。例えば、細胞を最初に増強剤と接触させた後、遺伝子編集組成物と接触させることができる。あるいは、細胞を最初に遺伝子編集組成物と接触させた後、増強剤と接触させることができる。一部の実施形態では、遺伝子編集組成物および増強剤を、溶液中で混合し、同時に細胞と接触させる。好ましい実施形態では、遺伝子編集組成物を溶液中で増強剤と混合し、その組合せを培養細胞に添加するか、または処置される動物に注射する。
【0252】
有効量または治療有効量は、疾患もしくは障害の1つもしくは複数の症状を処置する、阻害する、もしくは軽減するために、または他の方法で所望の薬理学的および/もしくは生理学的効果を提供するために、例えば疾患もしくは障害の根底にある病理生理学的機構の1つもしくは複数を低減する、阻害する、もしくは逆転させるために十分な投薬量であり得る。
【0253】
一部の実施形態では、遺伝子編集技術が三重鎖形成分子である場合、分子は、標的部位で三重ヘリックスの形成を誘導するために有効な量で投与することができる。遺伝子編集技術、例えば有効量の三重鎖形成分子はまた、遺伝子編集技術の非存在下でのドナー断片の投与と比較して、ドナー断片の組換え率を増加させるために有効な量でもあり得る。増強剤、遺伝子編集技術、およびドナーオリゴヌクレオチドの製剤は、投与様式に適合するように作製される。薬学的に許容される担体は、投与される特定の組成物によって、および組成物を投与するために使用される特定の方法によって部分的に決定される。したがって、増強剤、遺伝子編集技術、およびドナーオリゴヌクレオチドを含有する医薬組成物の広く多様な適切な製剤が存在する。正確な投薬量は、多様な要因、例えば被験体依存的変数(例えば、年齢、免疫系の健康、臨床症状等)に従って変化する。
【0254】
開示の組成物は、1日1回、2回、または3回、週に1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、月に1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、または8回標的細胞に投与することができるか、または他の方法で標的細胞と接触させることができる。例えば、一部の実施形態では、組成物は、2日毎もしくは3日毎、または平均でほぼ1週間に約2~約4回投与される。
【0255】
組成物は、同時に投与してもしなくてもよい。一部の実施形態では、増強剤(例えば、細胞透過性抗体)を被験体に投与した後に、遺伝子編集技術および/またはドナーオリゴヌクレオチドを被験体に投与する。増強剤を、被験体に投与して例えば1、2、3、4、5、6、8、10、12、18、もしくは24時間後、または1、2、3、4、5、6、もしくは7日後、またはその任意の組合せ後に、遺伝子編集技術および/またはドナーオリゴヌクレオチドを被験体に投与することができる。
【0256】
一部の実施形態では、遺伝子編集技術および/またはドナーオリゴヌクレオチドを被験体に投与した後に、増強剤を被験体に投与する。遺伝子編集技術を、被験体に投与して例えば1、2、3、4、5、6、8、10、12、18、もしくは24時間後、または1、2、3、4、5、6、もしくは7日後、またはその任意の組合せ後に、増強剤を被験体に投与することができる。
【0257】
一部の実施形態では、増強剤(例えば、細胞透過性抗体)およびドナーオリゴヌクレオチドは、遺伝子編集技術(例えば、PNAまたはCRISPR/Cas)とは別々に同じまたは異なる混合物中で一緒に細胞と接触させることができる。一部の実施形態では、増強剤(例えば、細胞透過性抗体)およびドナーオリゴヌクレオチドは、細胞と別々に接触させることができる。例えば、一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドおよび増強剤(例えば、細胞透過性抗体)を、溶液中で混合し、細胞と同時に接触させてもよく、これは細胞を遺伝子編集技術(例えば、PNAまたはCRISPR/Cas)と接触させることとは別個であり得る。
【0258】
好ましい実施形態では、増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドは、標的細胞の少なくとも0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25%の頻度で、少なくとも1つの標的対立遺伝子において遺伝子改変が起こるのを誘導するために有効な量で投与される。一部の実施形態では、特にex vivo適用では、遺伝子改変は、約0.1~25%、または0.5~25%、または1~25%、2~25%、または3~25%、または4~25%または5~25%または6~25%、または7~25%、または8~25%、または9~25%、または10~25%、11~25%、または12~25%、または13%~25%または14%~25%または15~25%、または2~20%、または3~20%、または4~20%または5~20%または6~20%、または7~20%、または8~20%、または9~20%、または10~20%、11~20%、または12~20%、または13%~20%または14%~20%または15~20%、2~15%、または3~15%、または4~15%または5~15%または6~15%、または7~15%、または8~15%、または9~15%、または10~15%、11~15%、または12~15%、または13%~15%または14%~15%の頻度で少なくとも1つの標的対立遺伝子に起こる。
【0259】
一部の実施形態では、特にin vivo適用では、遺伝子改変は、約0.1%~約15%、または約0.2%~約15%、または約0.3%~約15%、または約0.4%~約15%、または約0.5%~約15%、または約0.6%~約15%、または約0.7%~約15%、または約0.8%~約15%、または約0.9%~約15%、または約1.0%~約15%、または約1.1%~約15%、または約1.1%~約15%、1.2%~約15%、または約1.3%~約15%、または約1.4%~約15%、または約1.5%~約15%、または約1.6%~約15%、または約1.7%~約15%、または約1.8%~約15%、または約1.9%~約15%、または約2.0%~約15%、または約2.5%~約15%、または約3.0%~約15%、または約3.5%~約15%、または約4.0%~約15%、または約4.5%~約15%、または約5.0%~約15%、または約1%~約15%、約1.5%~約15%、約2.0%~約15%、または約2.5%~約15%、または約3.0%~約15%、または約3.5%~約15%、または約4.0%~約15%、または約4.5%~約15%の頻度で少なくとも1つの標的対立遺伝子に起こる。
【0260】
一部の実施形態では、遺伝子改変は、低いオフターゲット効果で起こる。一部の実施形態では、オフターゲット改変は、実施例に記載される解析のような、しかしこれらに限定されない慣用的な解析を使用して検出不能である。一部の実施形態では、オフターゲットインシデントは、0~1%、または0~0.1%、または0~0.01%、または0~0.001%、または0~0.0001%、または0~0.00001%、または0~0.000001%の頻度で起こる。一部の実施形態では、オフターゲット改変は、標的部位より約10分の1、10分の1、10分の1、または10分の1の頻度で起こる。
【0261】
A.ex vivo遺伝子治療
一部の実施形態では、細胞のex vivo遺伝子治療を、被験体における遺伝子障害を処置するために使用する。ex vivo遺伝子治療に関して、細胞を、被験体から単離し、ex vivoで組成物(増強剤、遺伝子編集技術、および/またはドナーオリゴヌクレオチド)と接触させ、変更された配列を遺伝子の中にまたはそれに隣接して含有する細胞を産生する。好ましい実施形態では、細胞は、処置される被験体から、または同系宿主から単離される。標的細胞を被験体から除去した後、遺伝子編集組成物および増強剤と接触させる。細胞は、造血前駆細胞または幹細胞であり得る。好ましい実施形態では、標的細胞はCD34造血幹細胞である。造血幹細胞(HSC)、例えばCD34+細胞は、赤血球を含む全ての血液細胞型を生じる多能性幹細胞である。したがって、CD34+細胞を、例えばサラセミア、鎌状赤血球症、またはリソソーム蓄積症を有する患者から単離することができ、変異体遺伝子を、本開示の組成物および方法を使用してex vivoで変更または修復し、細胞を処置または療法として患者に再度導入することができる。
【0262】
幹細胞は、当業者によって単離および濃縮することができる。CD34および他の細胞のそのような単離および濃縮方法は、当技術分野で公知であり、例えば米国特許第4,965,204号、第4,714,680号、第5,061,620号、第5,643,741号、第5,677,136号、第5,716,827号、第5,750,397号および第5,759,793号に開示されている。造血前駆細胞および幹細胞に関して濃縮された組成物の文脈において本明細書で使用される場合、「濃縮された」は、細胞の天然供給源で見出されるものより高い割合の望ましいエレメント(例えば、造血前駆細胞および幹細胞)を示す。細胞の組成物は、細胞の天然供給源に対して少なくとも1桁、好ましくは2桁または3桁、より好ましくは10、100、200、または1000倍濃縮され得る。
【0263】
ヒトでは、CD34細胞は、臍帯血から、骨髄から、または造血増殖因子、例えば顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-単球コロニー刺激因子(GM-CSF)、幹細胞因子(SCF)を、骨髄腔から末梢循環中へと造血幹細胞の移動を引き起こすために十分な量でドナーに皮下または静脈内注射することによってサイトカイン動員を行った後の血液から回収することができる。最初に、骨髄細胞を骨髄の任意の適切な供給源、例えば脛骨、大腿骨、椎骨、または他の骨小腔から得てもよい。骨髄を単離するために、適正な溶液を使用して骨を洗い流し、この溶液は、低濃度の一般的に約5~25mMの許容される緩衝液と共にウシ胎仔血清または他の天然に存在する因子を好都合に補充した平衡塩類溶液である。好都合な緩衝液は、Hepes、リン酸緩衝液、乳酸緩衝液等を含む。
【0264】
細胞は、正の選択および負の選択技術によって選択することができる。細胞は、当業者に公知の方法を使用して、造血前駆細胞または幹細胞表面抗原、例えばCD34に結合する市販の抗体を使用して選択することができる。例えば、抗体を、磁気ビーズにコンジュゲートして、免疫原性の手順を利用して所望の細胞タイプを回収してもよい。他の技術は、蛍光活性化細胞選別(FACS)の使用を伴う。CD34抗原は、非白血病個体の造血系内の前駆細胞において見出され、モノクローナル抗体My-10(すなわち、CD34抗原を発現する)によって認識される細胞集団上に発現され、骨髄移植のための幹細胞を単離するために使用することができる。My-10は、American Type Culture Collection(Rockville、Md.)にHB-8483として寄託され、抗HPCA1として市販されている。加えて、ヒト骨髄からの分化した、および「専門の」細胞の負の選択を利用して、実質的に任意の所望の細胞マーカーに対して選択することができる。例えば、前駆細胞または幹細胞、最も好ましくはCD34細胞は、CD3、CD7、CD8、CD10、CD14、CD15、CD19、CD20、CD33、クラスII HLAおよびThy-1のいずれかであるとして特徴付けることができる。
【0265】
前駆細胞または幹細胞が単離された後、それらを、任意の適切な培地中で成長させることによって増大させてもよい。例えば、前駆細胞または幹細胞を、間質細胞からの馴化培地中、例えば因子の分泌に関連して骨髄もしくは肝臓から得ることができる培地中、または幹細胞の増殖を支持する細胞表面因子を含む培地中で成長させることができる。間質細胞は、望ましくない細胞を除去するために適正なモノクローナル抗体を用いて造血細胞から取り除くことができる。
【0266】
単離された細胞を、修復または変更を必要とする遺伝子、例えばヒトベータ-グロビンまたはα-L-イズロニダーゼ遺伝子の中でまたは遺伝子に隣接して所望の変更を引き起こすために有効な量の、遺伝子編集技術、増強剤、およびドナーオリゴヌクレオチドの組合せとex vivoで接触させる。これらの細胞を、本明細書において改変細胞と呼ぶ。細胞にオリゴヌクレオチドをトランスフェクトさせる方法は当技術分野で周知である(Koppelhus, et al., Adv. Drug Deliv. Rev., 55(2): 267-280 (2003))。遺伝子修正頻度をさらに増加させるためには、S期の細胞を同期させることが望ましい場合がある。例えばダブルチミジンブロックによって培養細胞を同期させる方法は、当技術分野で公知である(Zielke,et al., Methods Cell Biol., 8:107-121 (1974))。
【0267】
改変細胞は、培養において維持または増大させた後に被験体に投与することができる。培養条件は一般的に、細胞タイプに応じて当技術分野で公知である。特にCD34を維持するための条件は十分に研究されており、いくつかの適切な方法が利用可能である。ex vivoで多能性造血細胞を増大させる一般的なアプローチは、インターロイキン-3などの早期作用型サイトカインの存在下で精製前駆細胞または幹細胞を培養することである。同様に、造血前駆細胞をex vivoで維持するために、栄養培地中にトロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、およびflt3リガンド(Flt-3L;すなわちflt3遺伝子産物のリガンド)の組合せを含めることも、始原(すなわち、比較的未分化の)ヒト造血前駆細胞をin vitroで増大させるために有用であり、それらの細胞はSCID-huマウスに生着することが可能であることも示されている(Luens et al., 1998, Blood 91:1206-1215)。他の公知の方法では、細胞は、マウスプロラクチン様タンパク質E(mPLP-E)またはマウスプロラクチン様タンパク質F(mPIP-F;集合的にmPLP-E/IFと呼ぶ)を含む栄養培地中、ex vivoで維持することができる(例えば、数分間、数時間、または3、6、9、13日、もしくはそれより多くの日数)(米国特許第6,261,841号)。他の適切な細胞培養および増大方法も同様に使用することができると認識される。細胞はまた、米国特許第5,945,337号に記載されるように無血清培地中で成長させることもできる。
【0268】
別の実施形態では、インターロイキンおよび増殖因子の特定の組合せを使用して、改変造血幹細胞をex vivoでCD4細胞培養物へと分化させた後、当技術分野で周知の方法を使用して被験体に投与する。細胞を、単離された造血幹細胞の元の集団と比較して、ex vivoで大量に、好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、さらにより好ましくは少なくとも20倍増大させてもよい。
【0269】
別の実施形態では、ex vivo遺伝子治療のための細胞は、脱分化した体細胞であり得る。体細胞を、多能性幹細胞様細胞になるように再プログラムすることができ、これを造血前駆細胞になるように誘導することができる。次に、造血前駆細胞を、増強剤、遺伝子編集技術、およびドナーオリゴヌクレオチドによって処置し、1つまたは複数の改変遺伝子を有する組換え細胞を産生することができる。再プログラムすることができる代表的な体細胞としては、これらに限定されないが、線維芽細胞、脂肪細胞、および筋細胞が挙げられる。誘導した幹細胞様細胞由来の造血前駆細胞は、マウスにおいて発生に成功している(Hanna, J. et al. Science, 318:1920-1923 (2007))。
【0270】
誘導した幹細胞様細胞から造血前駆細胞を産生するために、体細胞を宿主から採取する。好ましい実施形態では、体細胞は自己の線維芽細胞である。細胞を培養し、Oct4、Sox2、Klf4、およびc-Myc転写因子をコードするベクターを形質導入する。形質導入された細胞を培養し、胚性幹細胞(ES)の形態、ならびにAP、SSEA1、およびNanogを含むがこれらに限定されないES細胞マーカーに関してスクリーニングする。形質導入されたES細胞を培養し、誘導幹細胞様細胞を産生するように誘導する。次に、細胞をCD41およびc-kitマーカー(初期造血前駆細胞マーカー)ならびに骨髄系および赤血球系分化のマーカーに関してスクリーニングする。
【0271】
次に、改変造血幹細胞または改変誘導造血前駆細胞を被験体に導入する。細胞の送達は、様々な方法を使用して行ってもよく、最も好ましくは注入による静脈内投与ならびに骨膜、骨髄、および/または皮下部位への直接デポー注射を含む。
【0272】
改変細胞を投与された被験体を、細胞の生着を亢進するために骨髄前処置のために処置してもよい。レシピエントを、生着を亢進するために放射線または化学療法処置を使用して処置した後、細胞を投与してもよい。投与の際、細胞は一般的に生着するまで一定期間を要する。造血幹細胞または前駆細胞の有意な生着の達成には、典型的に数週間から数ヶ月を要する。
【0273】
改変造血幹細胞の高いパーセンテージの生着は、有意な予防または治療効果を達成するために必要であるとは考えられていない。生着した細胞は生着後経時的に増大し、改変細胞のパーセンテージを増加させると考えられている。例えば、一部の実施形態では、改変細胞は、修正されたα-L-イズロニダーゼ遺伝子を有する。したがって、ハーラー症候群を有する被験体では、改変細胞は状態を改善または治癒することができる。予防効果または治療効果を提供するために必要であるのは、改変造血幹細胞のごく少数または小さいパーセンテージの生着であると考えられる。
【0274】
好ましい実施形態では、被験体に投与される細胞は自己、例えば被験体に由来するか、または同系である。
【0275】
一部の実施形態では、組成物および方法を使用して、胚ゲノムをin vitroで編集することができる。方法は典型的には、胚をin vitroで、胚のゲノムにおいて少なくとも1つの変更を誘導するために有効量の増強剤および遺伝子編集技術と接触させることを含む。最も好ましくは、胚は単細胞接合体であるが、受精の前および間での雄性および雌性配偶子、ならびに2、4、8、または16細胞を有し、接合体のみならず桑実胚および未分化胚芽細胞を含む胚の処置も同様に提供される。典型的には、胚をin vitro受精の間または受精後の培養0~6日目に組成物と接触させる。
【0276】
接触させることは、胚を浸漬する液体培地に組成物を添加することであり得る。例えば、組成物をピペットで直接胚培養培地に入れることができ、それによってそれらは胚に取り込まれる。
【0277】
B.in vivo遺伝子治療
一部の実施形態では、細胞のin vivo遺伝子治療を、被験体における遺伝子障害の処置のために使用する。本開示の組成物を、in vivo遺伝子治療のために被験体に直接投与することができる。
【0278】
一般的に、抗体、オリゴヌクレオチド、および関連分子を含む化合物を投与する方法は、当技術分野で周知である。特に、現在使用中の製剤と共に核酸治療薬のために既に使用されている投与経路は、上記のドナーオリゴヌクレオチドの好ましい投与経路および製剤を提供する。好ましくは、組成物は、遺伝子治療を必要とする動物などの、遺伝子操作を受けている生物に注射または注入される。
【0279】
本開示の組成物は、静脈内、腹腔内、羊水内、筋肉内、皮下、または局部(舌下、直腸、鼻腔内、肺、直腸粘膜および膣)、および経口(舌下、口腔内)を含むがこれらに限定されない複数の経路によって投与することができる。
【0280】
一部の実施形態では、化合物は、肺送達、例えば鼻腔内投与または経口吸入のために製剤化される。
【0281】
製剤の投与は、増強剤、遺伝子編集技術および/またはドナーオリゴヌクレオチドがその標的に達することができる任意の許容される方法によって達成され得る。投与は、処置される状態に応じて、局所的(すなわち、特定の領域、生理的システム、組織、臓器、または細胞タイプに)であってもよく、または全身であってもよい。in vivo送達のための組成物および方法はまた、WO2017/143042号においても論じられている。
【0282】
方法はまた、有効量の増強剤および遺伝子編集技術を、胚もしくは胎児、またはその妊娠中の母親にin vivoで投与することを含み得る。一部の方法では、組成物を卵黄静脈もしくは臍帯静脈などの静脈もしくは動脈の中に、または胚もしくは胎児の羊膜に注射および/または注入することによって、組成物を子宮内に送達する。例えば、Ricciardi, et al., Nat Commun. 2018 Jun 26;9(1):2481. doi:10.1038/s41467-018-04894-2、およびWO2018/187493号を参照されたい。
【0283】
C.処置される疾患
遺伝子治療は、ヒト遺伝子疾患、例えば嚢胞性線維症、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、例えば、鎌状赤血球貧血およびベータ-サラセミア、色素性乾皮症、ならびにリソソーム蓄積症の状況において研究する場合には明らかであるが、この戦略はまた、HIVなどの非遺伝子疾患を処置するために、ex vivoベースの細胞改変の状況において、および同様にin vivo細胞改変のためにも有用である。増強剤、遺伝子編集技術、および/またはドナーオリゴヌクレオチドを使用する方法は、単一の遺伝子における変異によって引き起こされる遺伝子欠損、障害、および疾患を処置するために、例えば点変異によって引き起こされる遺伝子欠損、障害および疾患を修正するために特に有用である。標的遺伝子が遺伝子障害の原因である変異を含有する場合、本開示の方法を、標的遺伝子のDNA配列を正常へと回復し得る変異原性修復のために使用することができる。標的配列は、遺伝子のコードDNA配列内またはイントロン内であり得る。標的配列はまた、プロモーターまたはエンハンサー配列を含む標的遺伝子の発現を調節するDNA配列内でもあり得る。
【0284】
開示の方法において、増強剤、遺伝子編集技術、および/またはドナーオリゴヌクレオチドと接触した細胞を、被験体に投与してもよい。被験体は、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、または慢性肉芽腫性障害などの疾患または障害を有し得る。そのような実施形態では、遺伝子改変は、被験体における疾患または障害の1つまたは複数の症状を低減させるのに有効な量で起こり得る。グロビン異常症、嚢胞性線維症、HIV、およびリソソーム蓄積症における変異を修正するために設計された三重鎖形成分子およびドナーオリゴヌクレオチドの例示的な配列は、当技術分野で公知であり、例えばその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、公開された国際出願WO2017/143042号、WO2017/143061号、WO2018/187493号、および公開された米国出願第2017/0283830号に開示されている。
【0285】
D.組合せ治療
本明細書に開示される遺伝子編集の異なる構成成分の各々は、単独で、または任意の組合せで、およびさらに1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせて投与することができる。全ての例において、薬剤の組合せは、同じ混合物の一部であり得るか、または別々の組成物として投与することができる。一部の実施形態では、別々の組成物は、同じ投与経路を通して投与される。他の実施形態では、別々の組成物は、異なる投与経路を通して投与される。
【0286】
好ましい追加の活性剤の例としては、所望の疾患または状態を処置するために当技術分野で公知の他の従来の治療が挙げられる。例えば、鎌状赤血球症の処置では、追加の治療はヒドロキシウレアであり得る。
【0287】
嚢胞性線維症の処置では、追加の治療は、粘液溶解剤、抗生物質、栄養剤等を含み得る。特定の薬物が嚢胞性線維症基金の薬物パイプラインで概略が述べられており、これらとしては、これらに限定されないが、CFTRモジュレーター、例えばKALYDECO(登録商標)(イバカフトル)、ORKAMBI(商標)(ルマカフトル+イバカフトル)、アタルレン(PTC124)、VX-661+イバカフトル、リオシグアト、QBW251、N91115、およびQR-010;気道表面液を改善する作用物質、例えば高張食塩水、ブロンキトール、およびP-1037;粘液変質剤、例えばPULMOZYME(登録商標)(ドルナーゼアルファ);抗炎症剤、例えばイブプロフェン、アルファ1アンチトリプシン、CTX-4430、およびJBT-101;抗感染薬、例えば吸入トブラマイシン、アジスロマイシン、CAYSTON(登録商標)(吸入用アズトレオナム液)、TOBI吸入パウダー、レボフロキサシン、ARIKACE(登録商標)(噴霧化したリポソームアミカシン)、AEROVANC(登録商標)(バンコマイシン塩酸塩吸入用パウダー)、およびガリウム;ならびに栄養補助剤、例えばaquADEK、膵リパーゼ酵素産物、リプロタマーゼ(liprotamase)、およびブルルリパーゼ(burlulipase)が挙げられる。
【0288】
HIVの処置では、追加の治療は、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、融合阻害剤、CCR5アンタゴニスト(CCR5)(進入阻害剤とも呼ばれる)、インテグラーゼストランドトランスファー阻害剤(INSTI)、またはその組合せが挙げられるがこれらに限定されない抗レトロウイルス剤であり得る。
【0289】
リソソーム蓄積症の処置では、追加の治療は、例えば酵素置換療法、骨髄移植、またはその組合せを含み得る。
【0290】
E.遺伝子改変の決定
シークエンシングおよび対立遺伝子特異的PCRは、遺伝子改変が起こっているか否かを決定するための好ましい方法である。PCRプライマーは、元の対立遺伝子と、組換え後の新規の予想される配列とを識別するように設計される。組換え事象が起こっているか否かを決定する他の方法は当技術分野で公知であり、作製された改変のタイプに基づいて選択され得る。方法としては、これらに限定されないが、例えばシークエンシング、対立遺伝子特異的PCR、液滴デジタルPCR、または制限エンドヌクレアーゼ選択的PCR(REMS-PCR)によるゲノムDNAの解析;例えばノザンブロット、in situハイブリダイゼーション、リアルタイムまたは定量的逆転写酵素(RT)PCRによる、標的遺伝子から転写されたmRNAの解析;ならびに例えば、免疫染色、ELISA、またはFACSによる、標的遺伝子によってコードされるポリペプチドの解析が挙げられる。一部の例では、改変細胞を親対照と比較する。他の方法は、標的遺伝子によって転写されたRNAまたは標的遺伝子によってコードされたポリペプチドの機能の変化を試験することを含み得る。例えば、標的遺伝子が酵素をコードする場合、酵素機能を試験するために設計されたアッセイを使用してもよい。
【実施例
【0291】
(実施例1:Rad51のノックダウンはK562細胞におけるPNA媒介遺伝子編集を亢進する)
材料および方法
PNAおよびドナーDNA
【0292】
三重鎖形成PNA(PNA194と呼ぶ)の配列は、H-KKK-JJTJTTJTT-O-O-O-TTCTTCTCC-KKK-NH(配列番号45)であり、式中J=シュードイソシトシン、K=リシン、およびO=フレキシブルオクタン酸リンカーである。
【0293】
一本鎖ドナーDNAオリゴマーを標準的なDNA合成によって調製し、5’および3’末端を、各末端で3つのホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含めることによって保護した。ドナーDNAの配列は、5’GTTCAGCGTGTCCGGCGAGGGCGAGGTGAGTCTATGGGACCCTTGATGTTT3’(配列番号46)(51ヌクレオチド)であった。
【0294】
細胞培養および処置
ヒトK562細胞の細胞培養モデルを使用した。これらの細胞は、GFPコード配列内に埋もれているサラセミア関連IVS2-1(G→A)変異を有するヒトβ-グロビンイントロン2からなるβ-グロビン/GFP融合トランスジーンを有し、β-グロビン/GFP mRNAの不正確なスプライシングおよびGFP発現の欠如をもたらす(Chin, et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 105(36):13514-9 (2008))。変異の修正は、緑色蛍光、DNAシークエンシング、対立遺伝子特異的PCR、または液滴デジタルPCRによってスコア化することができる。
【0295】
K562細胞を、特異的DNA修復因子のノックダウンを達成するためにSMARTpool siRNA(Dharmacon)によって処置した。細胞を、10%ウシ胎仔血清を補充したRPMI培地中で成長させた。48時間後、細胞にPNAおよび一本鎖ドナーDNAをヌクレオフェクトした。
【0296】
48時間後、ゲノムDNAを単離し、対立遺伝子特異的PCRを使用して、ゲノム編集の成功を測定し、IVS2-1変異を修正した。
【0297】
結果
ヒトK562細胞におけるPNA媒介遺伝子編集に及ぼすDNA修復因子のsiRNAノックダウンの影響を調べた。ウェスタンブロット分析は、トランスフェクションの72時間後にRAD51タンパク質の完全なノックダウンを実証した。次に、ノックダウン細胞集団における遺伝子編集を、対立遺伝子特異的PCRによって分析し、GFP-β-グロビン融合遺伝子モデルにおける遺伝子編集を定量した。
【0298】
PCR結果は、RAD51がPNA媒介遺伝子編集にとって必要ではないことを実証した。同様に、RAD51のsiRNAノックダウンが、対立遺伝子特異的PCRによって測定した場合に、実際に編集効率をブーストすることも観察された。これに対し、関連するリコンビナーゼであるRAD52のノックダウンは、PNA媒介遺伝子編集を抑制した。類似の実験は、XPA、FANCD2、FANCA、およびXRCC1のノックダウンが全て、PNA媒介遺伝子編集の抑制をもたらすことを実証した。RAD51のノックダウンと同様に、XRCC4のノックダウンは遺伝子編集を亢進した。
【0299】
(実施例2:3E10は、β-グロビン/GFPマウスモデルを使用してex vivoおよびin vivoの両方でベータグロビン遺伝子の編集を亢進する)
【0300】
材料および方法
PNAおよびドナーDNA
一本鎖ドナーDNAオリゴマーを標準的なDNA合成によって調製し、5’および3’末端を、各末端で3つのホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含めることによって保護した。ドナーDNAの配列は、β-グロビンイントロン2における624~684位にマッチし、以下の通りであり、修正するIVS2-654ヌクレオチドを下線で示す:5’AAAGAATAACAGTGATAATTTCTGGGTTAAGGAATAGCAATATCTCTGCATATAAATAT3’(配列番号47)
【0301】
PNA(γtcPNA4と呼ぶ)の配列は、
【化18】
であり、式中、下線の核酸塩基は、ガンマミニPEG側鎖置換を有し、J=シュードイソシトシン、K=リシン、およびO=フレキシブルオクタン酸リンカーである。
【0302】
ナノ粒子の合成
遺伝子編集剤を送達するために使用されるポリマー性のPLGAナノ粒子は、既に記載されているように(Bahal, et al., Nat. Commun., 7:13304 (2016))、ダブルエマルジョン溶媒蒸発プロトコールによって合成した。
【0303】
マウスモデル
遺伝子編集を、GFPコード配列内に埋もれている異なるサラセミア関連IVS2-654(C→T)変異(β-グロビン/GFP mRNAの不正確なスプライシングおよびGFP発現の欠如をもたらす)(Chin, et al., Proc Natl Acad Sci U S A, 105(36):13514-9 (2008))を有するヒトβ-グロビンイントロン2からなるβ-グロビン/GFP融合トランスジーンを有するマウスからマウス胚線維芽細胞(MEF)において評価した。遺伝子編集によるIVS2-654(C→T)変異の修正によって、細胞は機能的GFPを発現することができ、フローサイトメトリーによって定量した場合に緑色に見える。
【0304】
細胞培養および処置
3E10がex vivoでPNA/DNAに方向付けられた遺伝子編集に及ぼす効果を評価するために、MEF(上記のβ-グロビン/GFPトランスジェニックマウスモデルから単離)を、細胞培養物(DMEM培地、10%FBSを含有する)に単に添加することによって、PNAおよびドナーDNAを含有するナノ粒子によって処置した。細胞を、2500個/ウェルで播種した。細胞を、サブコンフルエントに達した場合に処置した。次いで、細胞を72時間後に、フローサイトメトリーを介して蛍光によって遺伝子編集に関して分析した。
【0305】
一部の例では、ドナーDNAナノ粒子2mgによる処置の24時間前に、細胞をRAD51に対するsiRNA、スクランブル対照siRNA、または3E10(表記の用量で)のいずれかによって処置した。
【0306】
次に、遺伝子編集MEF集団をFACSによって分析し、GFP-β-グロビン融合遺伝子モデルにおけるGFPの読取りを使用して編集効率を同定した。
【0307】
マウスの処置
3E10がin vivoでPNA/DNAに方向付けられた遺伝子編集に及ぼす効果を評価するために、上記と同じβ-グロビン/GFPトランスジェニックマウスモデルを使用した。ナノ粒子による処置の3時間前、マウスに、3E10 0.5mgを腹腔内(i.p.)に注射した。全長の3E10または単鎖可変断片(scFv)のいずれかを使用した。次に、PNA/ドナーDNAを含有するナノ粒子2mgを静脈内に注射した。8日後、骨髄および脾臓を採取し、これらの組織からのCD117+細胞(C-KIT+、造血幹細胞および前駆細胞のマーカー)を、造血前駆幹細胞濃縮セット(BD Bioscience)を使用して単離した。濃縮後、細胞を、GFP発現に関してフローサイトメトリーを介して分析した。
【0308】
結果
図1Aに示すように、PNA/DNAのナノ粒子送達前にRAD51 siRNAの前処置を行うと、siRNA処置を行わない細胞と比較して編集効率の2.4倍の増加をもたらした。そのような効果は、スクランブル配列siRNA対照による前処置では観察されなかった。細胞のナノ粒子による処置の24時間前に3E10による前処置を行うと、用量依存的効果をもたらし、遺伝子編集は、3E10の1.0μM~7.5μMの用量にわたって2.7~3.2倍の範囲で増加した(図1A)。
【0309】
処置したマウスの骨髄および脾臓から単離されたCD117+細胞において、全長の3E10およびPNA/DNAナノ粒子によって処置した動物では、ナノ粒子単独によって処置した動物と比較して高レベルの遺伝子編集が観察された(図1Bおよび1C)。
【0310】
(実施例3:3E10は、鎌状赤血球症のマウスモデルからのMEFにおけるベータグロビン遺伝子のPNA/DNA媒介編集を亢進する)
【0311】
材料および方法
PNAおよびドナーDNA
PNA(tcPNA1Aと呼ぶ)の配列は、
【化19】
であり、下線の核酸塩基はガンマミニPEG側鎖置換を有し、J=シュードイソシトシン、K=リシン、およびO=フレキシブルオクタン酸リンカーである。
【0312】
一本鎖ドナーDNAオリゴマーを標準的なDNA合成によって調製し、5’および3’末端を、各末端で3つのホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含めることによって保護した。ドナーDNAの配列は5’TTGCCCCACAGGGCAGTAACGGCAGACTTCTCCTCAGGAGTCAGGTGCACCATGGTGTCTGTTTG-3’(配列番号50)であった。
【0313】
鎌状赤血球症のマウスモデル
鎌状赤血球症(SCD)では、コドン6での変異(GAG->GTG)は、グルタミン酸のバリンへの変化をもたらす。このSCD変異部位を修正(編集)するため、Townesマウスモデルにおいて研究を実施した。
【0314】
Townesマウスモデルは、Ryan TM, Ciavatta DJ, TownesTM., "Knockout-transgenic mouse model of sickle cell disease."Science. 1997 Oct 31;278(5339):873-6. PMID: 9346487によって開発された。
【0315】
Townesマウスは、ヒト鎌状ヘモグロビン(HbS)を排他的に発現する。それらは、ヒトα-、γ-、およびβ-グロビンを発現するトランスジェニックマウスを生成した後、これをマウスα-およびβ-グロビン遺伝子の欠失を有するノックアウトマウスと交配させることによって産生した。このように、得られた子孫は、マウスα-およびβ-グロビンをもはや発現しない。その代わりに、マウスはヒトα-およびβ-グロビンを排他的に発現する。したがって、マウスはヒト鎌状ヘモグロビンを発現し、SCDを有する個体の主要な血液学的および組織病理学的特色の多くを保有する。
【0316】
細胞培養および処置
マウス胚線維芽細胞(MEF)は、鎌状赤血球症のトランスジェニックマウスモデル(Townesモデル、Jackson Laboratory)からのマウス胚から単離した。これらのMEFを、12ウェルプレートにおいて、細胞200,000個/ウェルの播種密度で播種した。24時間後、細胞を全長の3E10(7.5μM)と共に5分間インキュベートした後、ナノ粒子2mg/ウェルを添加した。ナノ粒子は、ドナーDNA単独またはドナーDNAおよびtcPNA1Aのいずれかを含有し、これはSCD変異(A:TからT:A)部位でベータグロビン遺伝子に結合してこれを修正するように設計された。
【0317】
48時間後、細胞を3回洗浄後、ゲノムDNAを単離した(SV Wizard, Promega)。新たに単離したゲノムDNAを、液滴デジタルPCR(ddPCR)によって分析し、遺伝子編集頻度を定量した。
【0318】
結果
図2に示すように、無処置MEF(ブランク対照)は、遺伝子編集を生じなかった。PNA/ドナーDNAを含有するPLGA NPによって処置した細胞は、およそ1%の編集頻度を達成した(図2)。ナノ粒子処置前に3E10を添加すると、遺伝子編集を6%~8%へと実質的に増加させた(図2)。
【0319】
(実施例4:3E10は、鎌状赤血球症のマウスモデルからのBM細胞におけるベータグロビン遺伝子のPNA/DNA媒介編集を亢進する)
【0320】
材料および方法
PNAおよびドナーDNA
三重鎖形成PNA(tcPNA2Aと呼ぶ)の配列は、
【化20】
であり、下線の核酸塩基は、ガンマミニPEG側鎖置換を有し、J=シュードイソシトシン、K=リシン、およびO=フレキシブルオクタン酸リンカーである。ベータグロビン遺伝子座におけるtcPNA2の相対的な位置を図3Aに示す。
【0321】
一本鎖ドナーDNAオリゴマーを標準的なDNA合成によって調製し、5’および3’末端を、各末端で3つのホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含めることによって保護した。ドナーDNAの配列は、5’TTGCCCCACAGGGCAGTAACGGCAGACTTCTCCTCAGGAGTCAGGTGCACCATGGTGTCTGTTTG-3’(配列番号50)であった。
【0322】
細胞培養および処置
骨髄細胞は、実施例3において上記と同じ鎌状赤血球症のトランスジェニックマウスモデル(Townesモデル、Jackson Laboratory)から単離した。細胞を、全長の3E10およびナノ粒子2mg/ウェルによって処置した。ナノ粒子は、SCD変異(A:TからT:A)部位でベータグロビン遺伝子に結合してこれを修正するように設計されたドナーDNAおよびtcPNA2Aを含有した。
【0323】
48時間後、細胞を洗浄後に、ゲノムDNAを単離した(SV Wizard,Promega)。新たに単離したゲノムDNAを、液滴デジタルPCR(ddPCR)によって分析し、遺伝子編集頻度を定量した。
【0324】
結果
MEFにおいて観察された知見(上記の実施例3)を別の細胞タイプに拡大するために、骨髄細胞における遺伝子編集に及ぼす3E10の効果を評価した。図3Bに示すように、無処置骨髄細胞(ブランクNP)は、遺伝子編集を生じなかった。tcPNA2/ドナーDNAを含有するPLGA NPによって処置した細胞は、およそ4%(図3B)の編集頻度を達成した。ナノ粒子の処置前に3E10を添加すると、遺伝子編集を8%より高くまで実質的に増加させた(図3B)。
【0325】
(実施例5:3E10は、Townesマウスモデルにおいてin vivoでPNA/DNA媒介編集を亢進する)
【0326】
材料および方法
3E10がin vivoで遺伝子編集をブーストすることができるか否かをさらに検証するために、Townesモデル(実施例3および4で使用した同じ鎌状赤血球トランスジェニックマウスモデル)を使用した。マウスに、2週間の期間にわたってPNA/ドナーDNAを含有するナノ粒子2mgを全体で4用量を注射し、目標はベータグロビン遺伝子におけるコドン6の変異を修正することであった。各ナノ粒子投与の3時間前、マウスに3E10 1mgを腹腔内(i.p)注射した。2ヶ月後、骨髄細胞を採取し、デジタル液滴PCR(ddPCR)を介して編集に関して分析した。注射は上記のように2週間の期間にわたって3日毎に実施した。
【0327】
これらの実験に使用したPNA、tcPNA1Aの配列は、
【化21】
であり、下線の核酸塩基はガンマミニPEG側鎖置換を有し、J=シュードイソシトシン、K=リシン、およびO=フレキシブルオクタン酸リンカーである。
【0328】
ドナーDNAの配列は5’TTGCCCCACAGGGCAGTAACGGCAGACTTCTCCTCAGGAGTCAGGTGCACCATGGTGTCTGTTTG-3’(配列番号50)であった。
【0329】
結果
ナノ粒子単独によって処置したマウスと比較すると、3E10の添加は、遺伝子編集を実質的に増加させ、平均編集頻度は0.13%から2.1%へと増加した(図4)。
【0330】
(実施例6:3E10は、SC-1細胞においてベータグロビン編集を亢進する)
【0331】
材料および方法
PNAおよびドナーDNA
以下の実験において、tcPNA2Aを含有するNPを使用した。既に記載したように、tcPNA2Aの配列は以下の通りである:
【化22】
【0332】
ドナーDNAの配列は:5’TTGCCCCACAGGGCAGTAACGGCAGACTTCTCCTCAGGAGTCAGGTGCACCATGGTGTCTGTTTG-3’(配列番号50)であった。
【0333】
細胞培養および処置
SCD変異を有するヒトリンパ芽球様細胞株であるSC-1細胞を、3E10の存在下または非存在下でナノ粒子2mg/ウェルによって処置した。48時間後、細胞を洗浄後にゲノムDNAを単離した(SV Wizard,Promega)。新たに単離したゲノムDNAを、液滴デジタルPCR(ddPCR)によって編集頻度に関して分析した。
【0334】
結果
図5に示すように、ブランク対照は、遺伝子編集を生じなかった。tcPNA2A/ドナーDNAを含有するPLGA NPによって処置した細胞は、およそ6%の編集頻度を達成した。ナノ粒子処置前に3E10を添加すると、遺伝子編集を17%へと実質的に増加させた(図5)。
【0335】
(実施例7:3E10はK562細胞におけるCRISPR/Cas9ニッカーゼバリアントによる遺伝子編集を亢進する)
【0336】
材料および方法
BFP/GFPレポーター遺伝子を有するK562細胞(Richardson, etal., Nat. Biotechnol., 34(3):339-44 (2016))に、CRISPR/Cas9 WTまたはCRISPR/Cas9 D10Aニッカーゼバリアント酵素およびGFPにおける変異部位を標的とするガイドRNAをトランスフェクトした。一部の試料をまた、全長の3E10によって1.5mg/mL=10μMの濃度で処置した。
【0337】
Cas9タンパク質およびガイドRNAを、ヌクレオフェクションによってリボヌクレオタンパク質(RNP)複合体として導入した。Cas9ヌクレアーゼ緩衝液(NEB)中でCas9タンパク質45pmol(D10AニッカーゼバリアントまたはWT、いずれもPNA Bioから得た)を、sgRNA 45pmol(Invitrogen GeneArt kitによって合成)と共に室温で5分間プレインキュベートした。
【0338】
細胞に、RNP複合体および以下の配列:
【化23】
を有するドナーDNAをヌクレオフェクトした。
【0339】
sgRNA結合領域は、GCUGAAGCACUGCACGCCAU(配列番号53)であった。
【0340】
遺伝子編集の頻度を、緑色蛍光に関するフローサイトメトリーによって2日後に測定した。
【0341】
結果
図6Bに示すように、3E10処置は、ニッカーゼCas9 D10Aによる遺伝子編集を実質的にブーストした。
【0342】
それ以外であると定義していない限り、本明細書で使用した全ての化学技術用語は、開示の本発明が属する当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書において引用した刊行物およびそれらが引用される材料は、具体的に参照により本明細書に組み込まれる。
【0343】
当業者は、単なる慣用的な実験を使用して、本明細書に記載される本発明の具体的な実施形態に対する多くの均等物を認識するか、または確認することができるであろう。そのような均等物は以下の特許請求の範囲に包含されると意図される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
三重鎖形成分子、擬似相補的オリゴヌクレオチド、CRISPRシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびイントロンコードメガヌクレアーゼからなる群より選択される遺伝子編集技術と、
1つまたは複数のDNA修復経路を低減させ、前記遺伝子編集技術単独と比較して前記遺伝子編集技術によるゲノム編集を増加させる増強剤と
を含む、組成物。
(項目2)
前記増強剤が、細胞透過性抗体、その断片またはヒト化バリアントである、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記細胞透過性抗体が、抗DNA抗体であり、RAD51を阻害する、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記細胞透過性抗体が、3E10モノクローナル抗体もしくはその細胞透過性断片、一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(scFv)、またはダイアボディ、またはそのヒト化型もしくはバリアントを含む、項目2または3に記載の組成物。
(項目5)
(i)配列番号1~6、12、もしくは13のいずれか1つのCDRと、配列番号7~11、もしくは15のいずれか1つのCDRとの組合せ、
(ii)配列番号15~23から選択される第1、第2、および第3の重鎖CDRと、配列番号24~30から選択される第1、第2、および第3の軽鎖CDRとの組合せ、
(iii)(i)もしくは(ii)のヒト化型、
(iv)配列番号1もしくは2のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号7もしくは8との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ、
(v)(iv)のヒト化型、または
(vi)配列番号3~6のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号9~11との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ
を含む、項目2から4のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6)
前記細胞透過性抗体が、ATCC受託番号PTA2439のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体3E10と同じまたは異なるエピトープ特異性を含む、項目2から5のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)
モノクローナル抗体3E10のパラトープを有する組換え抗体を含む、項目2から6のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)
前記抗DNA抗体が、自己免疫疾患を有する被験体または自己免疫疾患の動物モデルに由来する、項目2から7のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)
前記自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデスである、項目8に記載の組成物。
(項目10)
前記遺伝子編集技術によって誘導または亢進される挿入または組換えによって細胞のゲノムにおいて変異を誘導するドナーオリゴヌクレオチドをさらに含む、項目1から9のいずれか一項に記載の組成物。
(項目11)
前記オリゴヌクレオチドがDNAを含む、項目10に記載の組成物。
(項目12)
前記オリゴヌクレオチドが一本鎖または二本鎖である、項目10または11に記載の組成物。
(項目13)
前記細胞のゲノムが、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、ならびに慢性肉芽腫性障害を含む群から選択される疾患または障害の根底にある変異を有する、項目1から12のいずれか一項に記載の組成物。
(項目14)
前記変異が、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、ジストロフィン、ベータ-グロビン、CFTR、XPC、XPD、DNAポリメラーゼイータをコードする遺伝子、ファンコニ貧血遺伝子A~L、SPTA1および他のスペクトリン遺伝子、ANK1遺伝子、SERPINA1遺伝子、ATP7B遺伝子、インターロイキン2受容体ガンマ(IL2RG)遺伝子、ADA遺伝子、FAH遺伝子、ならびにCYBA、CYBB、NCF1、NCF2、またはNCF4遺伝子を含む慢性肉芽腫性疾患に関連する遺伝子にある、項目13に記載の組成物。
(項目15)
前記オリゴヌクレオチド配列が、前記遺伝子の野生型配列の一部分に対応する、項目14に記載の組成物。
(項目16)
ヌクレアーゼまたはPNAを含む、項目1から15のいずれか一項に記載の組成物。
(項目17)
前記遺伝子編集技術が、三重鎖形成分子またはCRISPRシステムである、項目1から16のいずれか一項に記載の組成物。
(項目18)
前記三重鎖形成分子がペプチド核酸(PNA)である、項目17に記載の組成物。
(項目19)
前記CRISPRシステムがCRISPR/Cas9 D10Aニッカーゼである、項目17に記載の組成物。
(項目20)
項目1から19のいずれか一項に記載の組成物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
(項目21)
ポリマーナノ粒子をさらに含む、項目20に記載の組成物。
(項目22)
細胞のゲノムを改変する方法であって、前記細胞を、有効量の項目1から22のいずれか一項に記載の組成物と接触させることを含む、方法。
(項目23)
細胞のゲノムを改変する方法であって、前記細胞を、三重鎖形成分子、擬似相補的オリゴヌクレオチド、CRISPRシステム、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、およびイントロンコードメガヌクレアーゼからなる群より選択される遺伝子編集技術、ならびに
1つまたは複数のDNA修復経路を低減させ、前記遺伝子編集技術単独と比較して前記遺伝子編集技術によるゲノム編集を増加させる増強剤
と接触させることを含む、方法。
(項目24)
前記遺伝子編集技術および前記増強剤が異なる組成物の一部である、項目23に記載の方法。
(項目25)
前記増強剤が、細胞透過性抗体、その断片またはヒト化バリアントである、項目23または24に記載の方法。
(項目26)
前記細胞透過性抗体が、抗DNA抗体であり、RAD51を阻害する、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記細胞透過性抗体が、3E10モノクローナル抗体もしくはその細胞透過性断片、一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(scFv)、またはダイアボディ、またはそのヒト化型もしくはバリアントを含む、項目25または26に記載の方法。
(項目28)
(i)配列番号1~6、12、もしくは13のいずれか1つのCDRと、配列番号7~11、もしくは15のいずれか1つのCDRとの組合せ、
(ii)配列番号15~23から選択される第1、第2、および第3の重鎖CDRと、配列番号24~30から選択される第1、第2、および第3の軽鎖CDRとの組合せ、
(iii)(i)もしくは(ii)のヒト化型、
(iv)配列番号1もしくは2のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号7もしくは8との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ、
(v)(iv)のヒト化型、または
(vi)配列番号3~6のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号9~11との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ
を含む、項目25から27のいずれか一項に記載の方法。
(項目29)
前記細胞透過性抗体が、ATCC受託番号PTA2439のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体3E10と同じまたは異なるエピトープ特異性を含む、項目25から28のいずれか一項に記載の方法。
(項目30)
モノクローナル抗体3E10のパラトープを有する組換え抗体を含む、項目25から29のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
前記抗DNA抗体が、自己免疫疾患を有する被験体または自己免疫疾患の動物モデルに由来する、項目25から30のいずれか一項に記載の方法。
(項目32)
前記自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデスである、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記細胞をドナーオリゴヌクレオチドと接触させることをさらに含む、項目22から32のいずれか一項に記載の方法。
(項目34)
前記遺伝子編集技術および前記増強剤、および必要に応じてドナーオリゴヌクレオチドが、同じ時間または異なる時間に前記細胞と接触する、項目22から33のいずれか一項に記載の方法。
(項目35)
前記細胞のゲノムが、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、およびリソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、ならびに慢性肉芽腫性障害からなる群より選択される疾患または障害の根底にある変異を有する、項目22から34のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
前記変異が、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、ジストロフィン、ベータ-グロビン、CFTR、XPC、XPD、DNAポリメラーゼイータをコードする遺伝子、ファンコニ貧血遺伝子A~L、SPTA1および他のスペクトリン遺伝子、ANK1遺伝子、SERPINA1遺伝子、ATP7B遺伝子、インターロイキン2受容体ガンマ(IL2RG)遺伝子、ADA遺伝子、FAH遺伝子、ならびにCYBA、CYBB、NCF1、NCF2、またはNCF4遺伝子を含む慢性肉芽腫性疾患に関連する遺伝子にある、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記ドナーオリゴヌクレオチド配列が、前記遺伝子の野生型配列の一部分に対応する、項目33から36のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
前記接触させることがex vivoで起こる、項目22から37のいずれか一項に記載の方法。
(項目39)
前記細胞が造血幹細胞である、項目38に記載の方法。
(項目40)
それを必要とする被験体に複数の前記細胞を投与することをさらに含む、項目22から39のいずれか一項に記載の方法。
(項目41)
前記細胞が、疾患または障害の1つまたは複数の症状を処置するのに有効な量で前記被験体に投与される、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記接触させることが、それを必要とする被験体に投与後in vivoで起こる、項目22から37のいずれか一項に記載の方法。
(項目43)
前記被験体が、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、およびリソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、ならびに慢性肉芽腫性障害からなる群より選択される疾患または障害を有する、項目42に記載の方法。
(項目44)
遺伝子改変が、前記被験体における前記疾患または前記障害の1つまたは複数の症状を低減させるのに有効な量で起こる、項目43に記載の方法。
(項目45)
遺伝子編集技術、増強剤、および必要に応じてドナーオリゴヌクレオチドが、一緒にまたは別々にナノ粒子に被包される、項目22から44のいずれか一項に記載の方法。
(項目46)
前記ナノ粒子がポリヒドロキシ酸ポリマーを含む、項目45に記載の方法。
(項目47)
前記ナノ粒子が、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)を含む、項目46に記載の方法。
(項目48)
標的化部分、細胞透過性ペプチド、またはその組合せが、前記ナノ粒子に直接または間接的に会合、連結、コンジュゲート、または他の方法で結合している、項目45から47のいずれか一項に記載の方法。
(項目49)
前記遺伝子編集技術が、三重鎖形成分子またはCRISPRシステムである、項目22から38のいずれか一項に記載の方法。
(項目50)
前記三重鎖形成分子がペプチド核酸(PNA)である、項目49に記載の方法。
(項目51)
前記CRISPRシステムがCRISPR/Cas9 D10Aニッカーゼである、項目50に記載の方法。
(項目52)
三重鎖形成分子、またはCRISPR/Casシステム、および結合タンパク質を含む組成物であって、前記結合タンパク質は、以下:
(i)配列番号1~6、12、もしくは13のいずれか1つのCDRと、配列番号7~11、もしくは15のいずれか1つのCDRとの組合せ、
(ii)配列番号15~23から選択される第1、第2、および第3の重鎖CDRと、配列番号24~30から選択される第1、第2、および第3の軽鎖CDRとの組合せ、
(iii)(i)もしくは(ii)のヒト化型、
(iv)配列番号1もしくは2のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号7もしくは8との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ、
(v)(iv)のヒト化型、または
(vi)配列番号3~6のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号9~11との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ
を含む、組成物。
(項目53)
ドナーオリゴヌクレオチドをさらに含む、項目52に記載の組成物。
(項目54)
細胞のゲノムを改変する方法であって、前記細胞を、項目53に記載の組成物と接触させることを含む、方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
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