(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】ドナーオリゴヌクレオチドベースの遺伝子編集を亢進するための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/09 20060101AFI20241011BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241011BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20241011BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241011BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241011BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20241011BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241011BHJP
C07K 16/44 20060101ALN20241011BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20241011BHJP
【FI】
C12N15/09 100
A61K48/00
A61K31/7088
A61K39/395 N
A61P7/00
A61P17/00
A61P37/02
A61P7/06
A61P21/00
A61P27/02
C07K16/44 ZNA
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2021510833
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 US2019048953
(87)【国際公開番号】W WO2020047344
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-08-30
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593152720
【氏名又は名称】イェール ユニバーシティー
【氏名又は名称原語表記】Yale University
【住所又は居所原語表記】2 Whitney Avenue, New Haven, CT 06510, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】キジャーノ, エリアス
(72)【発明者】
【氏名】ターチク, オードリー
(72)【発明者】
【氏名】グレイザー, ピーター
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-507225(JP,A)
【文献】特表2010-527618(JP,A)
【文献】特表2017-509328(JP,A)
【文献】特表2017-534571(JP,A)
【文献】特表2017-503511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)細胞のゲノムにおける少なくとも1つの変異を修正することができる配列を含むドナーオリゴヌクレオチドと、
(ii)3E10抗体またはその細胞透過性断片であって、配列番号1の31位に対応する位置において、アスパラギン酸(Asp)からアスパラギン(Asn)の置換を組み込む、3E10抗体またはその細胞透過性断片
の複合体を含む組成物。
【請求項2】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が3E10のヒト化型もしくは3E10のバリアントを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(scFv)である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片がダイアボディである、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、ATCC受託番号PTA2439のハイブリドーマによって産生される抗体3E10のパラトープまたは同じエピトープ特異性を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、
(a)配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(V
H)相補性決定領域(CDR)1、
(b)配列番号17のアミノ酸配列を含むV
HCDR2、
(c)配列番号18のアミノ酸配列を含むV
HCDR3、
(d)配列番号24のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(V
L)相補性決定領域(CDR)1、
(e)配列番号25のアミノ酸配列を含むV
LCDR2、および
(f)配列番号26のアミノ酸配列を含むV
LCDR3、または
(a)配列番号16のアミノ酸配列を含むV
HCDR1、
(b)配列番号17のアミノ酸配列を含むV
HCDR2、
(c)配列番号18のアミノ酸配列を含むV
HCDR3、
(d)配列番号24のアミノ酸配列を含むV
LCDR1、
(e)配列番号25のアミノ酸配列を含むV
LCDR2、および
(f)配列番号26のアミノ酸配列を含むV
LCDR3
を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、
(i)3E10の細胞透過性断片性一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(scFv)、3E10の細胞透過性ダイアボディ、3E10の細胞透過性ヒト化型もしくはバリアント、もしくはこれらの組合せからなる群から選択される、または
(ii)配列番号1、2、3、4、5もしくは6に記載のVH配列のうちの1つと少なくとも95%同一であるVH配列を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、配列番号1、2、3、4、5または6に記載のV
H配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、配列番号7、8、9、10または11に記載のV
L配列のうちの1つと少なくとも95%同一であるV
L配列を含む、請求項
6~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、配列番号7、8、9、10または11に記載のV
L配列を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、
(i)配列番号1、2、3、4、5もしくは6に記載のVH配列のうちの1つと少なくとも95%同一であるV
H配列および配列番号7、8、9、10または11に記載のV
L配列のうちの1つと少なくとも95%同一であるV
L配列、または
(ii)配列番号1、2、3、4、5または6に記載のV
H配列および配列番号7、8、9、10もしくは11に記載のV
L配列
を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記ドナーオリゴヌクレオチドが一本鎖もしくは二本鎖DNAであるか、または前記ドナーオリゴヌクレオチドが、前記細胞のゲノムにおける標的遺伝子と比較して、1つもしくは複数の挿入、置換もしくは欠失ヌクレオチドを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ドナーオリゴヌクレオチドが1~800ヌクレオチドの間である、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記細胞のゲノムが、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症、免疫不全症候群、チロシン血症、ファンコニ貧血、球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、ならびに慢性肉芽腫性障害からなる群から選択される疾患または障害の根底にある変異を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
前記免疫不全症候群が、X連鎖重症複合免疫不全症もしくはADA欠損症である、または
前記変異は、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、ジストロフィン、ベータ-グロビン、CFTR、XPC、XPD、DNAポリメラーゼイータをコードする遺伝子、ファンコニ貧血遺伝子A~L、SPTA1および他のスペクトリン遺伝子、ANK1遺伝子、SERPINA1遺伝子、ATP7B遺伝子、インターロイキン2受容体ガンマ(IL2RG)遺伝子、ADA遺伝子、FAH遺伝子、または慢性肉芽腫性疾患に関連する遺伝子CYBA、CYBB、NCF1、NCF2、もしくはNCF4にある、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
ヌクレアーゼも、三重鎖形成ペプチド核酸オリゴマーも、ナノ粒子も含まない、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、担体またはコンジュゲートの援助を受けずに前記細胞の核に輸送されることができる、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項19】
前記組成物がポリマーナノ粒子中にパッケージングされる、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記ポリマーナノ粒子が、ポリヒドロキシ酸ポリマーを含む、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記ポリヒドロキシ酸ポリマーがポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記ポリマーナノ粒子は、前記ポリマーナノ粒子に直接または間接的に会合、連結、コンジュゲート、または他の方法で結合する標的化部分、細胞透過性ペプチド、またはそれらの組合せを含む、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項23】
細胞のゲノムを改変する方法において使用するための組成物であって、前記組成物は、(i)細胞のゲノムにおける少なくとも1つの変異を修正することができる配列を含むドナーオリゴヌクレオチドと、(ii)3E10抗体またはその細胞透過性断片であって、配列番号1の31位に対応する位置において、アスパラギン酸(Asp)からアスパラギン(Asn)の置換を組み込む、3E10抗体またはその細胞透過性断片の複合体を含み、前記方法は、前記細胞と前記組成物を接触させることを含む、組成物。
【請求項24】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、
(a)配列番号15のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域(V
H)相補性決定領域(CDR)1、
(b)配列番号17のアミノ酸配列を含むV
HCDR2、
(c)配列番号18のアミノ酸配列を含むV
HCDR3、
(d)配列番号24のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域(V
L)相補性決定領域(CDR)1、
(e)配列番号25のアミノ酸配列を含むV
LCDR2、および
(f)配列番号26のアミノ酸配列を含むV
LCDR3、または
(a)配列番号16のアミノ酸配列を含むV
HCDR1、
(b)配列番号17のアミノ酸配列を含むV
HCDR2、
(c)配列番号18のアミノ酸配列を含むV
HCDR3、
(d)配列番号24のアミノ酸配列を含むV
LCDR1、
(e)配列番号25のアミノ酸配列を含むV
LCDR2、および
(f)配列番号26のアミノ酸配列を含むV
LCDR3
を含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記方法は、in vivoまたはex vivoで実施される、請求項23または24に記載の組成物。
【請求項26】
前記細胞が造血幹細胞であるか、または前記方法がヌクレアーゼまたはPNAの非存在下で実施される、請求項23~25のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が3E10のヒト化型もしくは3E10のバリアントを含む、請求項23~26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、3E10の重鎖のAsp31位置に対応する位置において、アスパラギン酸(Asp)からアスパラギン(Asn)の置換を組み込む、請求項23~27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(scFv)またはダイアボディである、請求項23~28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
前記ドナーオリゴヌクレオチドが一本鎖もしくは二本鎖DNAである、請求項23~29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
前記ドナーオリゴヌクレオチドが、前記細胞のゲノムにおける標的遺伝子と比較して、1つもしくは複数の挿入、置換もしくは欠失ヌクレオチドを含む、請求項23~30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記ドナーオリゴヌクレオチドが1~800ヌクレオチドの間である、請求項23~31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項33】
疾患または障害の処置を必要とする被験体において疾患または障害の処置をするための、請求項23~32のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項34】
前記疾患または障害が、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症、免疫不全症候群、チロシン血症、ファンコニ貧血、球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、ならびに慢性肉芽腫性障害からなる群から選択される、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記免疫不全症候群が、X連鎖重症複合免疫不全症もしくはADA欠損症である、または
前記変異は、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、ジストロフィン、ベータ-グロビン、CFTR、XPC、XPD、DNAポリメラーゼイータをコードする遺伝子、ファンコニ貧血遺伝子A~L、SPTA1および他のスペクトリン遺伝子、ANK1遺伝子、SERPINA1遺伝子、ATP7B遺伝子、インターロイキン2受容体ガンマ(IL2RG)遺伝子、ADA遺伝子、FAH遺伝子、または慢性肉芽腫性疾患に関連する遺伝子CYBA、CYBB、NCF1、NCF2、もしくはNCF4にある、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記被験体がヒト被験体である、請求項33~35のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項37】
前記細胞が造血幹細胞である、請求項33~36のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項38】
前記方法がヌクレアーゼまたはPNAの非存在下で実施される、請求項33~37のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が3E10のヒト化型もしくは3E10のバリアントを含む、請求項33~38のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項40】
前記3E10抗体またはその細胞透過性断片が、一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(scFv)またはダイアボディである、請求項33~39のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項41】
前記ドナーオリゴヌクレオチドが一本鎖もしくは二本鎖DNAである、請求項33~40のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項42】
前記ドナーオリゴヌクレオチドが、前記細胞のゲノムにおける標的遺伝子と比較して、1つもしくは複数の挿入、置換もしくは欠失ヌクレオチドを含む、請求項33~41のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項43】
前記ドナーオリゴヌクレオチドが1~800ヌクレオチドの間である、請求項33~42のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が具体的に参照により本明細書に組み込まれている、2018年8月31日に出願された米国特許出願第62/725,920号の利益および優先権を主張する。
【0002】
連邦政府助成研究に関する声明
本発明は、米国国立衛生研究所によって授与されたCA168733およびCA197574の下で政府の支援を受けて行われた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
配列表に関する言及
配列表は、2019年8月28日に作成された「YU_7503_PCT」という名称の、61,341バイトのサイズを有するテキストファイルとして提出され、これは、37C.F.R.§1.52(e)(5)に従って参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
本発明は、一般的に遺伝子編集技術の分野、より詳しくはex vivoおよびin vivo遺伝子編集方法における細胞透過性抗DNA抗体などの増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドの組成物および使用に関する。
【背景技術】
【0005】
遺伝子編集は、鎌状赤血球貧血およびβ-サラセミアなどの遺伝性の遺伝子障害の処置のための魅力的な戦略を提供する。遺伝子は、標的化ヌクレアーゼ、例えばジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)(Haendel, et al., Gene Ther., 11:28-37 (2011))およびCRISPR(Yin, et al., Nat. Biotechnol., 32:551-553 (2014))、短い断片の相同組換え(SFHR)(Goncz, et al., Oligonucleotides, 16:213-224 (2006))、または三重鎖形成オリゴヌクレオチド(TFO)(Vasquez, et al., Science, 290:530-533 (2000))を含むいくつかの方法によって選択的に編集することができる。ドナーDNAによって高い効率で遺伝子編集を行うためには、標的遺伝子におけるDNAの切断が必要であると一般的に考えられている。したがって、CRISPR/Cas9技術などの標的化ヌクレアーゼが、その使用しやすさおよび容易な試薬設計のために、広く注目されている(Doudna, et al., Science, 346:1258096 (2014))。しかし、ZFNと同様、CRISPRアプローチは、活性なヌクレアーゼを細胞に導入し、これはゲノムにおいてオフターゲット切断をもたらし得るが(Cradick, et al., Nucleic Acids Res., 41:9584-9592 (2013))、この問題はこれまで解消されていない。
加えて、遺伝子改変効率は、特に初代幹細胞におけるCRISPR/Cas媒介性の編集の状況では低くなり得る。例えば、嚢胞性線維症患者由来の幹細胞におけるCFTR遺伝子座を修正する試みでは、所望の改変を有したのは、処置したオルガノイドのおよそ0.3%(3~6/1400)に過ぎなかった(Schwank, et al., Cell Stem Cell., 13:653-658 (2013))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Doudnaら、Science(2014)346:1258096
【文献】Cradickら、Nucleic Acids Res.(2013)41:9584~9592
【文献】Schwankら、Cell Stem Cell.(2013)13:653~658
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、改善された遺伝子編集のための組成物および方法が必要である。
【0008】
したがって、本発明の目的は、オフターゲット改変が低減されているかまたは低い、オンターゲット改変を達成するための組成物および方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、遺伝子改変頻度の増加を達成するための組成物および方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、被験体における疾患または障害の1つまたは複数の症状を改善する遺伝子改変のための組成物および方法を提供することである。
【0011】
細胞を細胞透過性抗DNAループスによって処置すると、ヌクレアーゼまたはPNAの非存在下で、ドナーDNA単独による標的化遺伝子編集を亢進することが発見されている。実施例に記載するように、eMab 3E10は、ドナーDNA単独を含有するナノ粒子による遺伝子編集をブーストすることが発見されている。同様に、3E10は、いかなる関連するヌクレアーゼもPNAも伴わず、送達のためにナノ粒子に被包することなく、培養物中の細胞およびin vivoでのマウスにおいて裸のドナーDNA単独による遺伝子編集を促進することも発見されている。
【0012】
このように、標的化遺伝子編集を亢進するための組成物およびそれを使用する方法を開示する。一部の実施形態では、組成物は、細胞透過性抗体などの増強剤と、細胞のゲノムにおける変異を修正することができる配列を含有するドナーオリゴヌクレオチドとを含有する。好ましくは、組成物は、ヌクレアーゼ(例えば、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ZFN、Cas9)も、ペプチド核酸(PNA)も、ナノ粒子も含有しない。典型的には、ドナーオリゴヌクレオチドは、細胞透過性抗体に共有結合により連結されない。オリゴヌクレオチド(例えば、DNA)は、一本鎖または二本鎖であり得る。好ましくは、オリゴヌクレオチドは一本鎖DNAである。
【0013】
一部の実施形態では、オリゴヌクレオチド配列は、疾患または障害(例えば、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症(globinopathy)、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、または慢性肉芽腫性障害)の根底にある変異した遺伝子の野生型配列に対応する。例示的な遺伝子としては、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、ジストロフィン、ベータ-グロビン、CFTR、XPC、XPD、DNAポリメラーゼイータをコードする遺伝子、ファンコニ貧血遺伝子A~L、SPTA1および他のスペクトリン遺伝子、ANK1遺伝子、SERPINA1遺伝子、ATP7B遺伝子、インターロイキン2受容体ガンマ(IL2RG)遺伝子、ADA遺伝子、FAH遺伝子、ならびにCYBA、CYBB、NCF1、NCF2、またはNCF4遺伝子等を含む慢性肉芽腫性疾患に関連する遺伝子が挙げられる。
【0014】
増強剤は、典型的には、ドナーオリゴヌクレオチドによる遺伝子編集を増加させる。好ましい実施形態では、増強剤は、細胞透過性抗体である。一部の実施形態では、増強剤は抗RAD51因子である。細胞透過性抗体は、担体またはコンジュゲートの援助を受けずに細胞の細胞質および/または核に輸送される抗DNA抗体であり得る。
【0015】
一部の実施形態では、細胞透過性抗DNA抗体は、全身性エリテマトーデスを有する被験体またはその動物モデル(例えば、マウスまたはウサギ)から単離されるかまたはそれらに由来する。好ましい実施形態では、細胞透過性抗DNA抗体は、モノクローナル抗DNA抗体3E10、または3E10と同じエピトープに結合するそのバリアント、断片、もしくはヒト化型である。特に好ましいバリアントは、重鎖にD31N置換を組み込んだ3E10バリアントである。細胞透過性抗DNA抗体は、ATCC番号PTA2439ハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体3E10と同じまたは異なるエピトープ特異性を有し得る。
【0016】
一部の実施形態では、抗体は、
(i)配列番号1~6、12、もしくは13のいずれか1つのCDRと、配列番号7~11、もしくは15のいずれか1つのCDRとの組合せ、
(ii)配列番号15~23から選択される第1、第2、および第3の重鎖CDRと、配列番号24~30から選択される第1、第2、および第3の軽鎖CDRとの組合せ、
(iii)(i)もしくは(ii)のヒト化型、
(iv)配列番号1もしくは2のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号7もしくは8との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ、
(v)(iv)のヒト化型、または
(vi)配列番号3~6のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号9~11との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ
を有する。
【0017】
好ましくは、抗体は、RAD51に直接結合することができる。一部の実施形態では、抗DNA抗体は、モノクローナル抗体3E10のパラトープを有する。抗DNA抗体は、抗DNA抗体の単鎖可変断片またはその保存的バリアントであり得る。例えば、抗DNA抗体は、3E10の一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(3E10 Fv)、またはそのバリアント、例えば保存的バリアントであり得る。一部の実施形態では、抗DNA抗体は、重鎖にD31N置換を組み込んだ3E10の一価、二価、または多価単鎖可変断片(3E10 Fv)である。
【0018】
同様に、薬学的に許容される賦形剤中に増強剤、例えば細胞透過性抗体と、ドナーオリゴヌクレオチドとを含有する医薬組成物も提供する。組成物を使用して、細胞を有効量の組成物と接触させることによって細胞のゲノムを改変することができる。
【0019】
同様に、細胞を、有効量の(i)増強剤、例えば細胞透過性抗体、および(ii)細胞のゲノムにおける変異を修正することができる配列を含有するドナーオリゴヌクレオチドと接触させることによって、細胞のゲノムを改変する方法も提供する。ゲノム改変は、細胞を(i)および(ii)の両方と接触させる場合では、(i)の非存在下で(ii)と接触させる場合より高い頻度で起こり得る。好ましくは、方法は、細胞をヌクレアーゼ(例えば、ZFN、Cas9)またはペプチド核酸(PNA)と接触させることを伴わない。
【0020】
ドナーオリゴヌクレオチドは、別々にナノ粒子に被包することができる。ナノ粒子は、ポリヒドロキシ酸(例えば、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA))から形成され得る。ナノ粒子は、ダブルエマルジョンから調製され得る。一部の実施形態では、標的化部分、細胞透過性ペプチド、またはその組合せは、ナノ粒子に直接または間接的に会合、連結、コンジュゲート、または他の方法で結合する。
【0021】
一部の実施形態では、細胞(例えば、造血幹細胞)を、ex vivoで接触させ、それを必要とする被験体に細胞をさらに投与することができる。細胞は、疾患または障害の1つまたは複数の症状を処置するのに有効な量で被験体に投与され得る。他の実施形態では、細胞透過性抗体およびドナーオリゴヌクレオチドを被験体に投与した後に、細胞をin vivoで接触させる。
【0022】
被験体は、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、または慢性肉芽腫性障害などの疾患または障害を有し得る。そのような実施形態では、遺伝子改変は、被験体における疾患または障害の1つまたは複数の症状を低減させるのに有効な量で起こり得る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、1)ドナーDNA単独を含有するNP、2)ドナーDNAおよびPNAを含有するNP、ならびに3)ドナーDNA単独および3E10を含有するNPによって処置したMEFにおけるβ-グロビン/GFP融合遺伝子内のIVS2-654(C->T)変異の遺伝子修正を示す棒グラフである。パーセント遺伝子編集を、フローサイトメトリーによって評価したGFP
+ MEFの割合によって決定した。
【0024】
【
図2】
図2は、Townesマウスからの骨髄細胞をeMab(3E10)およびドナーDNAによってex vivoで処置後のベータグロビン遺伝子の遺伝子編集のパーセンテージを示す棒グラフである。遺伝子編集頻度は、ゲノムDNAの液滴デジタルPCR(ddPCR)分析によって決定した。
【0025】
【
図3】
図3は、TownesマウスからのMEFをeMab(3E10)およびドナーDNAによってin vitroで処置後のベータグロビン遺伝子における遺伝子編集のパーセンテージを示す棒グラフである。遺伝子編集頻度を、ゲノムDNAの液滴デジタルPCR(ddPCR)分析によって決定した。3E10/ドナーDNAによって処置したMEFにおける編集は、ドナーDNA単独によって処置したMEFより有意に高かった。
【0026】
【
図4】
図4は、Townesマウスを腹腔内注射によって送達される3E10およびドナーDNAによってin vivoで処置後のベータグロビン遺伝子における遺伝子編集のパーセンテージを示す棒グラフである。遺伝子編集を、注射の2ヶ月後の骨髄細胞において評価した。ブランクPLGAナノ粒子と比較すると、3E10/ドナーDNAによって処置したマウスは、有意に高レベルの遺伝子編集を実証した。
【発明を実施するための形態】
【0027】
I.定義
本明細書で使用される場合、用語「単鎖Fv」または「scFv」は、本明細書で使用される場合、scFvが抗原結合に関して所望の構造を形成することを可能にするリンカーによって結合した単一のポリペプチド鎖において軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)を含む単鎖可変断片を意味する(すなわち、単一のポリペプチド鎖のVHおよびVLが互いに会合してFvを形成する)。VLおよびVH領域は、親抗体に由来してもよく、または化学合成もしくは組換えにより合成されてもよい。
【0028】
本明細書で使用される場合、用語「可変領域」は、免疫グロブリンのそのようなドメインを、抗体が広く共有するドメイン(例えば抗体Fcドメイン)と識別すると意図される。可変ドメインは、その残基が抗原結合に関与する「超可変領域」を含む。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」からのアミノ酸残基(すなわち、典型的には、軽鎖可変ドメインにおけるおよそ残基24~34(L1)、50~56(L2)、および89~97(L3)、ならびに重鎖可変ドメインにおけるおよそ残基27~35(H1)、50~65(H2)、および95~102(H3);Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD. (1991))ならびに/または「超可変ループ」からの残基(すなわち、軽鎖可変ドメインにおける残基26~32(L1)、50~52(L2)、および91~96(L3)、ならびに重鎖可変ドメインにおける26~32(H1)、53~55(H2)、および96~101(H3);Chothia and Lesk, 1987, J. Mol. Biol. 196:901-917)を含む。
【0029】
本明細書で使用される場合、用語「フレームワーク領域」または「FR」残基は、本明細書において定義した超可変領域の残基以外の可変ドメイン残基である。
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「抗体」は、標的抗原に結合する天然または合成の抗体を指す。この用語は、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を含む。インタクトな免疫グロブリン分子に加えて、用語「抗体」には、それらの免疫グロブリン分子の結合タンパク質、断片、およびポリマー、ならびに標的抗原に結合する免疫グロブリン分子のヒトまたはヒト化バージョンもまた含まれる。
【0031】
本明細書で使用される場合、用語「細胞透過性抗体」は、生きている哺乳動物細胞の細胞質および/または核に輸送される免疫グロブリンタンパク質、その断片、バリアント、またはそれに基づく融合タンパク質を指す。「細胞透過性抗DNA抗体」は、DNA(例えば、一本鎖および/または二本鎖DNA)に特異的に結合する。一部の実施形態では、抗体は、担体またはコンジュゲートの援助を受けずに細胞の細胞質へと輸送される。他の実施形態では、抗体は、細胞透過性部分、例えば細胞透過性ペプチドにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、細胞透過性抗体は、担体またはコンジュゲートの存在下または非存在下で核に輸送される。
【0032】
インタクトな免疫グロブリン分子に加えて、用語「抗体」には、免疫グロブリン分子の断片、結合タンパク質、およびポリマー、免疫グロブリンの1つより多くの種、クラス、またはサブクラスからの配列を含有するキメラ抗体、例えばヒトまたはヒト化抗体、ならびにDNAに特異的に結合する免疫グロブリンの少なくともイディオタイプを含有する組換えタンパク質もまた含まれる。抗体は、本明細書に記載されるin vitroアッセイを使用して、または類似の方法によってその所望の活性に関して試験することができ、その後、そのin vivo治療活性を、公知の臨床的試験方法に従って試験する。
【0033】
本明細書で使用される場合、用語「バリアント」は、参照のポリペプチドまたはポリヌクレオチドとは異なるが、本質的な特性を保持しているポリペプチドまたはポリヌクレオチドを指す。ポリペプチドの典型的なバリアントは、別の参照ポリペプチドとはアミノ酸配列が異なる。一般的に、差は限定的であり、そのため参照ポリペプチドとバリアントの配列は全体として極めて類似であり、多くの領域において同一である。バリアントおよび参照ポリペプチドは、1つまたは複数の改変(例えば、置換、付加、および/または欠失)によってアミノ酸配列が異なり得る。置換または挿入されるアミノ酸残基は、遺伝子コードによってコードされる残基であってもなくてもよい。ポリペプチドのバリアントは、対立遺伝子バリアントのように天然に存在してもよく、または天然に存在することが公知でないバリアントであってもよい。
【0034】
本開示のポリペプチドの構造に改変および変化を行うことができ、それでもなおポリペプチドと類似の特徴を有する分子を得ることができる(例えば、保存的アミノ酸置換)。例えば、認識可能に活性を失うことなく、ある特定のアミノ酸を配列における他のアミノ酸の代わりに使用することができる。ポリペプチドの生物学的機能的活性を定義するのはそのポリペプチドの相互作用能および性質であることから、ある特定のアミノ酸配列置換をポリペプチド配列に行うことができ、それでもなお、同様の特性を有するポリペプチドを得ることができる。
【0035】
そのような変化を行う場合、アミノ酸のハイドロパシーインデックスを考慮することができる。ポリペプチドに対する相互作用生物機能の付与におけるアミノ酸ハイドロパシーインデックスの重要性は、一般的に当技術分野において理解されている。ある特定のアミノ酸を、類似のハイドロパシーインデックスまたはスコアを有する他のアミノ酸の代わりに使用することができ、それでもなお類似の生物活性を有するポリペプチドをもたらすことができることは公知である。各アミノ酸には、その疎水性および電荷特徴に基づいてハイドロパシーインデックスが割り当てられている。それらのインデックスは、イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/シスチン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(-0.4)、トレオニン(-0.7)、セリン(-0.8)、トリプトファン(-0.9)、チロシン(-1.3)、プロリン(-1.6)、ヒスチジン(-3.2)、グルタミン酸(-3.5)、グルタミン(-3.5)、アスパラギン酸(-3.5)、アスパラギン(-3.5)、リシン(-3.9)、およびアルギニン(-4.5)である。
【0036】
アミノ酸の相対的ハイドロパシー特徴は、得られたポリペプチドの二次構造を決定し、次にこれがポリペプチドと他の分子、例えば酵素、基質、受容体、抗体、抗原、および補因子との相互作用を定義すると考えられている。アミノ酸を、類似のハイドロパシーインデックスを有する別のアミノ酸に置換することができ、それでもなお機能的に等価なポリペプチドを得ることができることは当技術分野で公知である。そのような変化では、そのハイドロパシーインデックスが±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内の置換が特に好ましく、±0.5以内の置換がさらにより特に好ましい。
【0037】
同様のアミノ酸の置換はまた、特にそれによって作製された生物学的機能的に等価なポリペプチドまたはペプチドが免疫学的実施形態において使用することが意図される場合には、親水性に基づいて行うこともできる。以下の親水性値がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0)、リシン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(glutamnine)(+0.2)、グリシン(0)、プロリン(-0.5±1)、トレオニン(-0.4)、アラニン(-0.5)、ヒスチジン(-0.5)、システイン(-1.0)、メチオニン(-1.3)、バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、チロシン(-2.3)、フェニルアラニン(-2.5)、トリプトファン(-3.4)。アミノ酸を、類似の親水性を有する別のアミノ酸の代わりに使用することができ、それでもなお生物学的に等価な、特に免疫学的に等価なポリペプチドを得ることができると理解される。そのような変化において、その親水性値が±2以内であるアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のアミノ酸の置換が特に好ましく、±0.5以内のアミノ酸の置換がさらにより特に好ましい。
【0038】
上記で概略を述べたように、アミノ酸置換は、一般的にアミノ酸側鎖置換基の相対的類似性、例えばその疎水性、親水性、電荷、サイズ等に基づく。前述の様々な特徴を考慮に入れる例示的な置換は当業者に周知であり、これには(元の残基:例示的な置換):(Ala:Gly、Ser)、(Arg:Lys)、(Asn:Gln、His)、(Asp:Glu、Cys、Ser)、(Gln:Asn)、(Glu:Asp)、(Gly:Ala)、(His:Asn、Gln)、(Ile:Leu、Val)、(Leu:Ile、Val)、(Lys:Arg)、(Met:Leu、Tyr)、(Ser:Thr)、(Thr:Ser)、(Tip:Tyr)、(Tyr:Trp、Phe)、および(Val:Ile、Leu)が挙げられる。本開示の実施形態はこのように、上記のポリペプチドの機能的または生物学的等価物を企図する。特に、ポリペプチドの実施形態は、目的のポリペプチドと約50%、60%、70%、80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、またはそれより高い配列同一性を有するバリアントを含み得る。
【0039】
本明細書で使用される場合、用語「パーセント(%)配列同一性」は、配列を整列させて、最大のパーセント配列同一性を達成するために必要に応じてギャップを導入した後、参照核酸配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸と同一である候補配列中のヌクレオチドまたはアミノ酸のパーセンテージとして定義される。パーセント配列同一性を決定する目的でのアライメントは、当業者の範囲内である様々な方法で、例えば公開されているコンピュータソフトウェア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGN、ALIGN-2、またはMegalign(DNASTAR)を使用して達成することができる。比較される配列の全長にわたって最大のアライメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アライメントを測定するための適正なパラメーターは、公知の方法によって決定することができる。
【0040】
本明細書における目的に関して、所定のヌクレオチドまたはアミノ酸配列Cの、所定の核酸配列Dとの(to)、Dとの(with)、またはDに対する%配列同一性(これは、あるいは所定の配列Dとの、Dとの、またはDに対するある特定の%配列同一性を有するかまたは含む所定の配列Cと表現することができる)は、以下のように計算される:
割合W/Z×100
式中、Wは、配列アライメントプログラムのCおよびDのアライメントにおいてそのプログラムによって同一のマッチとしてスコア化されるヌクレオチドまたはアミノ酸の数であり、Zは、Dにおけるヌクレオチドまたはアミノ酸の総数である。配列Cの長さが配列Dの長さと等しくない場合、CのDとの%配列同一性は、DのCとの%配列同一性と等しくないと認識されるであろう。
【0041】
本明細書で使用される場合、用語「特異的に結合する」は、他の抗原に有意に結合しない、抗体のその同族抗原(例えば、DNA)に対する結合を指す。そのような条件下で抗体が標的に特異的に結合するためには、抗体を標的に対するその特異性に関して選択する必要がある。多様なイムノアッセイフォーマットを使用して、特定のタンパク質と特異的に免疫反応する抗体を選択することができる。例えば、固相ELISAイムノアッセイを慣用的に使用して、タンパク質と特異的に免疫反応するモノクローナル抗体を選択する。例えば、特異的免疫反応性を決定するために使用することができるイムノアッセイフォーマットおよび条件の記載に関しては、Harlow and Lane (1988) Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Publications, New Yorkを参照されたい。好ましくは、抗体は、その第2の分子と約105mol-1より高い(例えば、106mol-1、107mol-1、108mol-1、109mol-1、1010mol-1、1011mol-1、および1012mol-1、またはそれより高い)親和性定数(Ka)で抗原に「特異的に結合する」。
【0042】
本明細書で使用される場合、用語「モノクローナル抗体」または「MAb」は、実質的に均一な抗体集団から得た抗体を指し、すなわち集団内の個々の抗体は、抗体分子の小さいサブセットに存在し得る起こり得る天然に存在する変異を除き、同一である。
【0043】
本明細書で使用される場合、用語「遺伝子編集増強因子」または「遺伝子編集増強剤」、または「増強因子」または「増強剤」は、化合物の非存在下でのドナーオリゴヌクレオチドの使用と比較して、ドナーオリゴヌクレオチドによる遺伝子、ゲノム、または他の核酸の編集(例えば、挿入、欠失、置換等を含む変異)の有効性を増加させる化合物を指す。
【0044】
本明細書で使用される場合、用語「被験体」は、投与の標的である任意の個体を意味する。被験体は、脊椎動物、例えば哺乳動物であり得る。したがって、被験体はヒトであり得る。この用語は、特定の年齢または性別を指し示すものではない。
【0045】
本明細書で使用される場合、用語「有効量」は、使用される組成物の量が、疾患または障害の1つまたは複数の原因または症状を改善するために十分な量であることを意味する。そのような改善は、単に低減または変更を必要とするに過ぎず、必ずしも排除を必要としない。正確な投薬量は、被験体に依存する変数(例えば、年齢、免疫系の健康等)、処置される疾患または障害、ならびに投与される薬剤の投与経路および薬物動態などの多様な要因に応じて変化するであろう。
【0046】
本明細書で使用される場合、用語「薬学的に許容される」は、生物学的でもそれ以外で望ましくないものでもない材料を指し、すなわち材料は、いかなる望ましくない生物作用も引き起こすことなく、またはそれが含有される医薬組成物の他のいかなる構成成分とも有害に相互作用することなく被験体に投与され得る。
【0047】
本明細書で使用される場合、用語「担体」または「賦形剤」は、それと共に1つまたは複数の活性成分を組み合わせる、製剤中の有機または無機成分、天然または合成の不活性成分を指す。担体または賦形剤は本来、当業者に周知であるように、活性成分のいかなる分解も最小限にするように、および被験体におけるいかなる有害な副作用も最小限にするように選択される。
【0048】
本明細書で使用される場合、用語「処置する」は、疾患、病的状態、または障害を治癒する、改善する、安定化する、または防止する意図での患者の医学的管理を指す。この用語は、積極的な処置、すなわち具体的に疾患、病的状態、または障害の改善を目的とする処置を含み、同様に原因の処置、すなわち関連する疾患、病的状態、または障害の原因の除去を目的とする処置も含む。加えてこの用語は、緩和処置、すなわち疾患、病的状態、または障害の治癒ではなくて症状の軽減のために設計された処置;防止的処置、すなわち関連する疾患、病的状態、または障害の発症を最小限にするか、または部分的もしくは完全に阻害することを目的とする処置;ならびに支持的処置、すなわち関連する疾患、病的状態、または障害の改善を目的とする別の特異的治療を補助するために用いられる処置を含む。
【0049】
本明細書で使用される場合、「標的化部分」は、選択された細胞または組織タイプ上の受容体部位に粒子または分子を方向付けることができ、結合分子として役立ち得るか、または別の分子とのカップリングもしくは結合のために役立ち得る物質である。本明細書で使用される場合、「方向付ける」は、選択した細胞または組織タイプに分子を優先的に結合させることを指す。これを使用して、以下に論じるように、細胞材料、分子、または薬物を方向付けることができる。
【0050】
本明細書で使用される場合、用語「阻害する」または「低減する」は、活性、応答、状態、疾患、または他の生物学的パラメーターの減少を意味する。これは、これらに限定されないが、活性、応答、状態、または疾患の完全な除去を含み得る。これはまた、例えば天然または対照レベルと比較して活性、応答、状態、または疾患の10%低減も含み得る。したがって、低減は、天然または対照レベルと比較して10、20、30、40、50、60、70、80、90、100%、またはその間の任意の量の低減であり得る。
【0051】
本明細書で使用される場合、「融合タンパク質」は、1つのポリペプチドのアミノ末端と別のポリペプチドのカルボキシル末端との間で形成されたペプチド結合を通しての2つまたはそれより多くのポリペプチドの結合によって形成されたポリペプチドを指す。融合タンパク質は、構成要素ポリペプチドの化学的カップリングによって形成することができ、または単一の連続する融合タンパク質をコードする核酸配列から単一のポリペプチドとして発現させることができる。単鎖融合タンパク質は、単一の連続するポリペプチド骨格を有する融合タンパク質である。融合タンパク質は、分子生物学の通常の技術を使用して2つの遺伝子をインフレームで単一の核酸配列に結合して調製することができ、次に融合タンパク質が産生される条件下で適正な宿主細胞において核酸を発現させることができる。
【0052】
本明細書における値の範囲の列挙は、本明細書においてそれ以外であると示されている場合を除き、単にその範囲内に入る各々の別々の値を個々に言及する省略方法として役立つと意図され、各々の別々の値は、あたかもそれが本明細書において個々に列挙されているかのように本明細書に組み込まれる。
【0053】
用語「約」の使用は、記載の値より上または下のいずれかのおよそ±10%の範囲の値を記載すると意図される。他の実施形態では、値は、記載の値より上または下のいずれかのおよそ±5%の範囲の値の範囲であり得る。他の実施形態では、値は、記載の値より上または下のいずれかのおよそ±2%の範囲の値の範囲であり得る。他の実施形態では、値は、記載の値より上または下のいずれかのおよそ±1%の範囲の値の範囲であり得る。上記の範囲は、文脈から明白になると意図され、さらなる限定を意味するものではない。
【0054】
本明細書において記載する全ての方法は、文脈がそれ以外であることを示している場合を除き、または文脈と明らかに矛盾している場合を除き、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書において提供されるありとあらゆる例、または例示的な言語(例えば、「などの」)の使用は、単に実施形態をよりよく明らかにすることを意図しているに過ぎず、それ以外であることを特許請求している場合を除き、本実施形態の範囲を限定するものではない。本明細書におけるいかなる言語も、特許請求されていない任意のエレメントが本発明の実践にとって必須であることを示すと解釈してはならない。
【0055】
II.組成物
標的化遺伝子編集を亢進するための組成物およびその使用方法を開示する。開示される方法は典型的には、細胞を、増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドの両方と接触させることを含む。例示的な増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドを提供する。増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドは、同じまたは異なる組成物の一部であり得る。
【0056】
一部の実施形態では、増強剤は、1つまたは複数の内因性の高忠実度DNA修復経路に携わることができるか、またはエラープローン(すなわち低忠実度)DNA修復経路を阻害/モジュレートすることができる。増強剤としては、例えばDNA損傷および/またはDNA修復因子のモジュレーター、相同組換え因子のモジュレーター、細胞接着モジュレーター、細胞周期モジュレーター、細胞増殖モジュレーター、および幹細胞動員因子が挙げられる。増強因子は、1つまたは複数の内因性の高忠実度DNA修復経路をモジュレートする(例えば、変更する、阻害する、促進する、競合する)ことができるか、またはエラープローン(すなわち、低忠実度)DNA修復経路を阻害/モジュレートすることができる。好ましい実施形態では、増強因子は、DNA損傷、DNA修復、または相同組換え因子の阻害剤であり得る。より好ましい実施形態では、増強因子はRAD51の阻害剤であり得る。
【0057】
例えば、DNA損傷および/またはDNA修復因子の阻害剤を増強剤として使用してもよい。相同組換え因子の阻害剤を増強剤として使用してもよい。
【0058】
細胞は、主に、DNA切断領域でヌクレオチドを導入するかまたは欠失させることができる主要な経路であるがエラーを生じやすい経路である内因性の非相同末端結合(NHEJ)DNA修復を通してDNA切断を修復する。したがって、NHEJは、標的遺伝子の永続的なサイレンシングに適している。あるいは、細胞は、鋳型DNA鎖の存在下で相同組換えを伴うより正確な機構である相同組換え修復(HDR)によって二本鎖切断を修復することもできる。典型的には、標的化ゲノム編集は、変異した配列を鋳型/ドナーDNAによって提供される修正する配列に交換することによってゲノム中の変異配列の修正を対象とする。そのため、標的化ゲノム編集の効率を亢進するために鋳型/ドナーDNAの相同組換えにとって都合がよい機構を同定および利用するために当技術分野で継続的な努力が行われている。DNA修復に関係する因子の発現および/または活性をモジュレートすることは、ゲノム操作の精度を亢進するために有望なアプローチである。
【0059】
用語「DNA修復」は、それによって細胞がDNA分子に対する損傷を同定し、修正するプロセスの集合体を指す。一本鎖欠損は、塩基除去修復(BER)、ヌクレオチド除去修復(NER)、またはミスマッチ修復(MMR)によって修復される。二本鎖切断は、非相同末端結合(NHEJ)、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、または相同組換えによって修復される。DNAが損傷を受けると、細胞周期チェックポイントが活性化され、これが細胞周期を停止させて、分裂を継続する前に細胞に損傷を修復する時間を与える。チェックポイントメディエータータンパク質としては、BRCA1、MDC1、53BP1、p53、ATM、ATR、CHK1、CHK2、およびp21が挙げられる。したがって、BER、NER、MMR、NHEJ、MMEJ、相同組換えまたはDNA合成等を含む上記のプロセスのいずれかに関係する因子は、DNA損傷および/またはDNA修復因子として記載され得る。
【0060】
DNA損傷、DNA修復、DNA合成、または相同組換え因子の非制限的な例としては、XRCC1、ADPRT(PARP-1)、ADPRTL2、(PARP-2)、POLYMERASE BETA、CTPS、MLH1、MSH2、FANCD2、PMS2、p53、p21、PTEN、RPA、RPAl、RPA2、RPA3、XPD、ERCC1、XPF、MMS19、RAD51、RAD51B、RAD51C、RAD51D、DMC1、XRCCR、XRCC3、BRCA1、BRCA2,PALB2、RAD52、RAD54、RAD50、MREU、NB51、WRN、BLM、KU70、KU80、ATM、ATR CPIK1、CHK2、FANCA、FANCB、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、FANCC、FANCD1、FANCD2、FANCE、FANCF、FANCG、RAD1、およびRAD9が挙げられる。好ましい実施形態では、DNA損傷因子またはDNA修復因子はRAD51である。
【0061】
RAD51リコンビナーゼは、E.coli RecAのオルトログであり、哺乳動物細胞の相同組換えにおける重要なタンパク質である。RAD51は、DNA病変の最も有害なタイプである二本鎖切断の修復を促進する。二本鎖切断は、様々な化学剤および電離放射線によって誘導され得るが、鎖間架橋の修復の際にも形成される。一度二本鎖切断が形成されると、それらは最初にエキソヌクレアーゼによって処理され、広範な3’一本鎖DNA(ssDNA)テールを生成する(Cejka et al., Nature., 467(7311):112-16 (2010);Mimitou & Symington, DNA Repair., 8(9):983-95 (2009))。ssDNAのこれらの痕跡は、一本鎖DNA結合タンパク質RPAによって急速に覆われるようになるが、RPAは最終的にRAD51によってssDNAから除去される。RAD51は、ATP依存的DNA結合活性を有し、そのためssDNAテールに結合し、多量体を形成してらせん状のヌクレオプロテインフィラメントを形成し、これは相同なdsDNA配列の検索を促進する(Kowalczykowski, Nature., 453(7194):463-6 (2008))。RAD51が、細胞中のssDNA上でRPAを除去することができるためには、BRCA2、RAD52、RAD51パラログ複合体、および他のタンパク質を含むいくつかのメディエータータンパク質が必要である(Thompson & Schild, Mutat Res., 477:131-53 (2001))。相同なdsDNA配列が見出されると、RAD51は、フィラメント内に存在するssDNAと相同なdsDNAとの間でDNA鎖交換を促進し、すなわち、ssDNAが相同なDNA二重鎖に侵入すると、二重鎖から同一のssDNAの除去および結合分子の形成をもたらす。DSB修復の重要な中間体である結合分子は、二本鎖切断修復にとって必要なDNA修復合成のための鋳型およびプライマーの両方を提供する(Paques & Haber, Microbiol. Mol. Biol. Rev., 63(2):349-404 (1999))。
【0062】
DNA鎖交換を促進することによって、RAD51は相同組換えにおいて重要な役割を果たす。このタンパク質は、バクテリオファージから哺乳動物まで進化的に保存されている。全ての生物において、RAD51オルトログはDNA修復および相同組換えにおいて重要な役割を果たす(Krough & Symington, Annu. Rev. Genet., 38:233-71 (2004);Helleday et al., DNA Repair, 6(7):923-35 (2007);Huang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 93(10):4827-32 (1996))。
【0063】
好ましい実施形態では、増強剤は、RAD51、XRCC4、またはその組合せの発現および/または活性に拮抗するまたはそれらを低減させるものである。例えば、一部の実施形態では、増強剤は、RAD51および/またはXRCC4阻害剤である。増強剤の非制限的な例としては、リボザイム、三重鎖形成分子、siRNA、shRNA、miRNA、アプタマー、アンチセンスオリゴヌクレオチド、低分子、および抗体が挙げられる。
【0064】
前述の因子のいずれかを設計および産生する方法は、当技術分野で周知であり、使用することができる。例えば、予め設計された抗RAD51 siRNAがDharmaconから市販されており(実施例に記載されるように)、増強剤として使用してもよい。同様に、抗XRCC4 siRNA、shRNA、およびmiRNAは当技術分野で公知であり、容易に入手可能である。さらに、XRCC4およびRAD51の低分子阻害剤が当技術分野で公知であり(例えば、Jekimovs, et al., Front. Oncol., 4:86 (2014))、本開示の方法に従って増強剤として使用することができる。
【0065】
A.細胞透過性抗体
一部の実施形態では、増強剤は細胞透過性抗体である。細胞透過性分子は、一般的に本明細書において「細胞透過性抗体」と呼ばれるが、抗原結合性断片、バリアント、ならびに融合タンパク質、例えばscFv、di-scFv、tr-scFv、および他の単鎖可変断片を含む断片および結合タンパク質、ならびに本明細書に開示の他の細胞透過性分子が、この語句に包含され、同様に本明細書に開示される組成物および方法において使用するために明白に提供される。
【0066】
組成物および方法において使用するための細胞透過性抗体は、抗DNA抗体であり得る。細胞透過性抗体は、一本鎖DNAおよび/または二本鎖DNAに結合し得る。細胞透過性抗体は、抗RNA抗体(例えば、RNAに特異的に結合する抗体)であり得る。
【0067】
二本鎖デオキシリボ核酸(dsDNA)に対する自己抗体はしばしば、全身性エリテマトーデス(SLE)を有する患者の血清中で同定され、疾患の病因にしばしば関係している。したがって、一部の実施形態では、細胞透過性抗体(例えば、細胞透過性抗DNA抗体)は、SLEを有する患者またはSLEの動物モデルに由来し得るか、またはそれらから単離することができる。
【0068】
好ましい実施形態では、抗DNA抗体は、モノクローナル抗体またはその抗原結合性断片もしくはバリアントである。一部の実施形態では、抗DNA抗体は、細胞への進入、ならびに細胞質および/または核への輸送を促進するために、細胞透過性部分、例えば細胞透過性ペプチドにコンジュゲートされる。細胞透過性ペプチドの例としては、これらに限定されないが、ポリアルギニン(例えば、R9)、アンテナペディア配列、TAT、HIV-Tat、ペネトラチン、Antp-3A(Antp変異体)、ブフォリンII、トランスポータン、MAP(モデル両親媒性ペプチド)、K-FGF、Ku70、プリオン、pVEC、Pep-1、SynB1、Pep-7、HN-1、BGSC(ビス-グアニジニウム-スペルミジン-コレステロール)、およびBGTC(ビス-グアニジニウム-Tren-コレステロール)が挙げられる。他の実施形態では、抗体はTransMabs(商標)技術(InNexus Biotech.,Inc.,Vancouver,BC)を使用して改変される。
【0069】
好ましい実施形態では、抗DNA抗体は、担体またはコンジュゲートの援助を受けずに細胞の細胞質および/または核へと輸送される。例えば、細胞傷害作用を伴わずにin vivoで哺乳動物細胞の核に輸送されるモノクローナル抗体3E10およびその活性断片が、Richard Weisbartに対する米国特許第4,812,397号および第7,189,396号において開示されている。簡単に説明すると、抗体は、抗DNA抗体の血清中レベルが上昇した宿主(例えば、MRL/1prマウス)からの脾細胞を公知の技術に従って骨髄腫細胞と融合させること、または脾細胞を適正な形質転換ベクターによって形質転換し、細胞を不死化させることによって調製され得る。細胞を選択培地中で培養し、DNAに結合する抗体を選択するためにスクリーニングしてもよい。
【0070】
一部の実施形態では、細胞透過性抗体は、Rad51に結合してもよく、および/またはRad51を阻害してもよい。例えば、Turchick, et al., Nucleic Acids Res., 45(20): 11782-11799 (2017)に記載される細胞透過性抗体を参照されたい。
【0071】
組成物および方法において使用することができる抗体としては、任意のクラスの免疫グロブリン全体(すなわち、インタクトな抗体)、その断片、および抗体の少なくとも抗原結合性可変ドメインを含有する合成タンパク質が挙げられる。可変ドメインは、抗体間で配列が異なり、その特定の抗原に対する各々の特定の抗体の結合および特異性において使用される。しかし、変動性は通常、抗体の可変ドメインの中に均一に分布していない。これは典型的には、軽鎖および重鎖可変ドメインの両方において相補性決定領域(CDR)または超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに濃縮される。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク(FR)と呼ばれる。天然の重鎖および軽鎖の可変ドメインは各々が4つのFR領域を含み、ほとんどがベータ-シート立体配置をとり、3つのCDRによって接続され、ベータ-シート構造を接続し、一部の例ではその一部を形成するループを形成する。各々の鎖におけるCDRは、FR領域によって一緒に非常に近位に保持され、他の鎖からのCDRと共に抗体の抗原結合性部位の形成に寄与する。したがって、抗体は、典型的にはDNA結合を維持するためおよび/またはDNA修復を妨害するために必要な少なくともCDRを含有する。
【0072】
1. 3E10配列
一部の実施形態では、細胞透過性抗DNA抗体は、モノクローナル抗DNA抗体3E10、または3E10と同じもしくは異なるエピトープに結合するそのバリアント、誘導体、断片、もしくはヒト化型である。したがって、細胞透過性抗DNA抗体は、ATCC番号PTA2439ハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体3E10と同じまたは異なるエピトープ特異性を有し得る。抗DNA抗体は、モノクローナル抗体3E10のパラトープを有し得る。抗DNA抗体は、抗DNA抗体の単鎖可変断片、またはその保存的バリアントであり得る。例えば、抗DNA抗体は、3E10の単鎖可変断片(3E10 Fv)またはそのバリアントであり得る。
【0073】
モノクローナル抗体3E10のアミノ酸配列は当技術分野で公知である。例えば、3E10重鎖および軽鎖の配列を以下に提供し、ここで一重下線はKabatシステムに従って同定されたCDR領域を示し、配列番号12~14においてイタリック体は可変領域を示し、二重下線はシグナルペプチドを示す。IMGTシステムに従うCDRも同様に提供する。
【0074】
a.3E10重鎖
一部の実施形態では、3E10の重鎖可変領域は:
【化1】
(配列番号1;Zack, et al., Immunology and Cell Biology, 72:513-520 (1994);GenBank:L16981.1-マウスIg再配列L-鎖遺伝子;部分的cds;およびGenBank:AAA65679.1-免疫グロブリン重鎖、部分的[Mus musculus])である。
【0075】
一部の実施形態では、3E10重鎖は、
【化2】
として発現される。
【0076】
野生型配列に変異を組み込む3E10抗体のバリアントも同様に、例えばZack, et al., J. Immunol., 157(5):2082-8 (1996)に記載されるように当技術分野で公知である。例えば、3E10の重鎖可変領域のアミノ酸31位は、抗体およびその断片が核の中に侵入してDNAに結合する能力に影響を及ぼすことが決定されている(配列番号1、2、および13における太字)。CDR1におけるD31N変異(配列番号2および13における太字)は、核の中に侵入して元の抗体よりかなり高い効率でDNAに結合する(Zack, et al., Immunology and Cell Biology, 72:513-520 (1994)、Weisbart, et al., J. Autoimmun., 11, 539-546 (1998);Weisbart, Int. J. Oncol., 25, 1867-1873 (2004))。
【0077】
一部の実施形態では、3E10の重鎖可変領域の好ましいバリアントのアミノ酸配列は:
【化3】
である。
【0078】
一部の実施形態では、3E10重鎖は、
【化4】
【化5】
として発現される。
【0079】
一部の実施形態では、配列番号1または2のC末端セリンは、存在しないか、または例えば3E10重鎖可変領域においてアラニンに置換されている。
【0080】
Kabatによって同定された相補性決定領域(CDR)は、上記の下線で示され、CDR H1.1(元の配列):DYGMH(配列番号15)、CDR H1.2(D31N変異を有する):NYGMH(配列番号16)、CDR H2.1:YISSGSSTIYYADTVKG(配列番号17)、CDR H3.1:RGLLLDY(配列番号18)を含む。
【0081】
Kabat CDR H2.1のバリアントはYISSGSSTIYYADSVKG(配列番号19)である。
【0082】
加えてまたはあるいは、重鎖相補性決定領域(CDR)は、IMGTシステムに従って定義することができる。IMGTシステムによって同定された相補性決定領域(CDR)は、CDR H1.3(元の配列):GFTFSDYG(配列番号20)、CDR H1.4(D31N変異を有する):GFTFSNYG(配列番号21)、CDR H2.2:ISSGSSTI(配列番号22)、CDR H3.2:ARRGLLLDY(配列番号23)を含む。
【0083】
b.3E10軽鎖
一部の実施形態では、3E10の軽鎖可変領域は:
【化6】
である。
【0084】
3E10の軽鎖可変領域のアミノ酸配列はまた:
【化7】
でもあり得る。
【0085】
一部の実施形態では、3E10軽鎖は、
【化8】
として発現される。
【0086】
他の3E10軽鎖配列は、当技術分野で公知である。例えば、Zack, et al., J. Immunol., 15;154(4):1987-94 (1995);GenBank:L16981.1-マウスIg再配列L鎖遺伝子、部分的cds;GenBank:AAA65681.1-免疫グロブリン軽鎖、部分的[Mus musculus])を参照されたい。
【0087】
Kabatによって同定された相補性決定領域(CDR)を、下線で示し、CDR L1.1:
【化9】
を含む。
【0088】
Kabat CDR L1.1のバリアントはRASKSVSTSSYSYLA(配列番号27)である。
【0089】
Kabat CDR L2.1のバリアントはYASYLQS(配列番号28)である。
【0090】
加えてまたはあるいは、重鎖相補性決定領域(CDR)は、IMGTシステムに従って定義することができる。IMGTシステムによって同定された相補性決定領域(CDR)は、CDR L1.2 KSVSTSSYSY(配列番号29)、CDR L2.2:YAS(配列番号30)、CDR L3.2:QHSREFPWT(配列番号26)を含む。
【0091】
一部の実施形態では、配列番号7または8の配列のC末端は、3E10軽鎖可変領域においてアルギニンをさらに含む。
【0092】
2.ヒト化3E10
一部の実施形態では、抗体はヒト化抗体である。非ヒト抗体をヒト化する方法は、当技術分野で周知である。一般的に、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源からそれに導入された1つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基はしばしば、典型的に「インポート」可変ドメインからとって「インポート」残基と呼ばれる。抗体のヒト化技術は、一般的には、抗体分子の1つまたは複数のポリペプチド鎖をコードするDNA配列を操作するために、組換えDNA技術の使用を伴う。
【0093】
例示的な3E10ヒト化配列は、WO2015/106290号およびWO2016/033324号において論じられ、以下に提供される。
【0094】
a.ヒト化3E10重鎖可変領域
一部の実施形態では、ヒト化3E10重鎖可変ドメインは
【化10】
を含む。
【0095】
b.ヒト化3E10軽鎖可変領域
一部の実施形態では、ヒト化3E10軽鎖可変ドメインは
【化11】
【化12】
を含む。
【0096】
3.断片、バリアント、および融合タンパク質
抗DNA抗体は、3E10またはそのヒト化型の可変重鎖および/または軽鎖(例えば、配列番号1~11のいずれか、または配列番号12~14のいずれかの重鎖および/もしくは軽鎖)のアミノ酸配列と、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%同一である可変重鎖および/または可変軽鎖のアミノ酸配列を含む抗体断片または融合タンパク質で構成され得る。
【0097】
抗DNA抗体は、3E10またはそのバリアントもしくはヒト化型のCDR(例えば、配列番号1~11、または配列番号12~14、または配列番号15~30のいずれかのCDR)のアミノ酸配列と、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも99%、または100%同一である1つまたは複数のCDRを含む抗体断片または融合タンパク質で構成され得る。2つのアミノ酸配列のパーセント同一性の決定は、BLASTタンパク質比較によって決定することができる。一部の実施形態では、抗体は、上記の好ましい可変ドメインのCDRの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、または6つ全てを含む。
【0098】
好ましくは、抗体は、重鎖CDR1、CDR2、およびCDR3の各々の1つと、軽鎖CDR1、CDR2、およびCDR3の各々の1つとの組合せを含む。
【0099】
3E10の軽鎖可変配列の予測される相補性決定領域(CDR)は上記に提供される。同様にGenBank:AAA65681.1-免疫グロブリン軽鎖、部分的[Mus musculus]およびGenBank:L34051.1-マウスIg再配列カッパ鎖mRNA V領域も参照されたい。3E10の重鎖可変配列の予測される相補性決定領域(CDR)は上記に提供される。同様に、例えばZack, et al., Immunology and Cell Biology, 72:513-520 (1994)、GenBank受託番号AAA65679.1.Zach, et al., J. Immunol. 154 (4), 1987-1994 (1995)、およびGenBank:L16982.1-マウスIg再配列H鎖遺伝子、部分的cdsも参照されたい。
【0100】
このように、一部の実施形態では、細胞透過性抗体は、配列番号1もしくは2のCDR、もしくは重鎖および軽鎖可変領域全体、または配列番号12もしくは13の重鎖領域、あるいはそのヒト化型と、配列番号7もしくは8、または配列番号14の軽鎖領域、あるいはそのヒト化型との組合せを含有する。一部の実施形態では、細胞透過性抗体は、配列番号3、4、5、または6のCDR、または重鎖および軽鎖可変領域全体と、配列番号9、10、または11との組合せを含有する。
【0101】
同様に、生物活性を有する抗体の断片も含まれる。他の配列に結合しているか否かによらず、断片は、断片の活性が非改変抗体または抗体断片と比較して有意に変更されていないかまたは損なわれない限り、特定の領域または特異的アミノ酸残基の挿入、欠失、置換、または他の選択された改変を含む。
【0102】
本開示の抗原性タンパク質に対して特異的な単鎖抗体の産生にも技術を適合させることができる。単鎖抗体の産生方法は当業者に周知である。単鎖抗体は、短いペプチドリンカーを使用して重鎖および軽鎖の可変ドメインを一緒に融合させ、それによって抗原結合性部位を単一の分子上で再構成することによって作製することができる。1つの可変ドメインのC末端が、15~25アミノ酸のペプチドまたはリンカーを介して他の可変ドメインのN末端に繋がれている単鎖抗体可変断片(scFv)が、抗原結合性または結合の特異性を有意に妨害することなく作製されている。リンカーは、重鎖および軽鎖をその適したコンフォメーションの配向で一緒に結合させることを可能にするように選択される。
【0103】
抗DNA抗体を、その治療能を改善するように改変することができる。例えば、一部の実施形態では、細胞透過性抗DNA抗体を、標的細胞の細胞質および/または核における第2の治療標的に対して特異的な別の抗体にコンジュゲートする。例えば、細胞透過性抗DNA抗体は、3E10 Fvおよび第2の治療標的に特異的に結合するモノクローナル抗体の単鎖可変断片を含有する融合タンパク質であり得る。他の実施形態では、細胞透過性抗DNA抗体は、3E10からの第1の重鎖および第1の軽鎖、ならびに第2の治療標的に特異的に結合するモノクローナル抗体からの第2の重鎖および第2の軽鎖を有する二特異性抗体である。
【0104】
二価の単鎖可変断片(ジ-scFv)は、2つのscFvを連結することによって操作することができる。これは、2つのVHおよび2つのVL領域を有する単一のペプチド鎖を産生し、タンデムscFvを生じることによって行うことができる。scFvはまた、2つの可変領域を一緒にフォールドするには短すぎるリンカーペプチド(約5アミノ酸)によって、scFvを二量体化させることによって設計することができる。このタイプは、ダイアボディとして公知である。ダイアボディは、対応するscFvの40分の1までの解離定数を有することが示されており、このことは、それらがその標的に対してかなり高い親和性を有することを意味している。さらにより短いリンカー(1または2アミノ酸)は、三量体(トリアボディまたはトリボディ)の形成をもたらす。テトラボディもまた産生されている。それらは、その標的に対してダイアボディよりさらに高い親和性を示す。一部の実施形態では、抗DNA抗体は、3E10の2つまたはそれより多くの連結した単鎖可変断片(例えば、3E10ジ-scFv、3E10トリ-scFv)、またはその保存的バリアントを含有し得る。一部の実施形態では、抗DNA抗体は、ダイアボディまたはトリアボディ(例えば、3E10ダイアボディ、3E10トリアボディ)である。3E10の1つのおよび2つまたはそれより多くの連結された単鎖可変断片の配列は、WO2017/218825号およびWO2016/033321号に提供される。
【0105】
抗体の機能は、抗体またはその断片を治療剤とカップリングさせることによって亢進され得る。抗体または断片と治療剤とのそのようなカップリングは、抗体または抗体断片および治療剤を含む免疫コンジュゲートを作製することによって、または融合タンパク質を作製することによって、または抗体もしくは断片を核酸、例えばDNAもしくはRNA(例えば、siRNA)に連結させることによって達成することができる。
【0106】
組換え融合タンパク質は、融合遺伝子の遺伝的操作を通して作製されたタンパク質である。これは典型的には、第1のタンパク質をコードするcDNA配列から停止コドンを除去すること、次に第2のタンパク質のcDNA配列をライゲーションまたはオーバーラップ伸長PCRを通してインフレームで付加することを伴う。次に、DNA配列を、細胞によって単一のタンパク質として発現させる。タンパク質は、両方の元のタンパク質の完全な配列、またはそのいずれかの一部分のみを含むように操作することができる。2つの実体がタンパク質である場合、しばしばリンカー(または「スペーサー」)ペプチドもまた付加され、これによってタンパク質は独立して折り畳まれ、予想されるように挙動する可能性がより高くなる。
【0107】
一部の実施形態では、細胞透過性抗体は、その半減期を変更するように改変される。一部の実施形態では、抗体が、循環中または処置部位により長期間存在するように、抗体の半減期を増加させることが望ましい。例えば、抗体の力価を、循環中または処置される位置でより長期間維持することが望ましい場合がある。他の実施形態では、抗DNA抗体の半減期は、可能性がある副作用を低減させるように減少させる。抗体断片、例えば3E10Fvは、全長の抗体より短い半減期を有し得る。半減期を変更する他の方法は公知であり、記載の方法において使用することができる。例えば、抗体は、例えばXtend(商標)抗体半減期延長化技術(Xencor、Monrovia、CA)を使用して半減期を延長させるFcバリアントによって操作することができる。
【0108】
a.リンカー
本明細書で使用される用語「リンカー」は、限定されないが、ペプチドリンカーを含む。ペプチドリンカーは、可変領域によるエピトープの結合を妨害しない限り、任意のサイズであり得る。一部の実施形態では、リンカーは、1つまたは複数のグリシンおよび/またはセリンアミノ酸残基を含む。一価の単鎖抗体可変断片(scFv)は、1つの可変ドメインのC末端が、15~25アミノ酸ペプチドまたはリンカーを介して他の可変ドメインのN末端に典型的に繋がれている。リンカーは、重鎖および軽鎖がその適したコンフォメーションの配向で一緒に結合することができるように選択される。ダイアボディ、トリアボディ等におけるリンカーは、典型的に上記で論じたように一価のscFvより短いリンカーを含む。ジ、トリ、および他の多価scFvは、典型的に3つまたはそれより多くのリンカーを含む。リンカーは、長さおよび/またはアミノ酸組成に関して同じであっても異なっていてもよい。したがって、リンカーの数、リンカーの組成、およびリンカーの長さは、当技術分野で公知であるようにscFvの所望の価数に基づいて決定することができる。リンカーは、ジ、トリ、および他の多価scFvの形成を可能にするかまたは促進することができる。
【0109】
例えば、リンカーは、4~8アミノ酸を含み得る。特定の実施形態では、リンカーは、アミノ酸配列GQSSRSS(配列番号31)を含む。別の実施形態では、リンカーは、15~20アミノ酸、例えば18アミノ酸を含む。特定の実施形態では、リンカーは、アミノ酸配列GQSSRSSSGGGSSGGGGS(配列番号32)を含む。他のフレキシブルリンカーとしては、これらに限定されないが、アミノ酸配列Gly-Ser、Gly-Ser-Gly-Ser(配列番号33)、Ala-Ser、Gly-Gly-Gly-Ser(配列番号34)、(Gly4-Ser)2(配列番号35)および(Gly4-Ser)4(配列番号36)、ならびに(Gly-Gly-Gly-Gly-Ser)3(配列番号37)が挙げられる。
【0110】
b.例示的な抗DNA scFv配列
モノ、ジ、およびトリscFvを含む例示的なマウス3E10 scFv配列は、WO2016/033321号およびWO2017/218825号に開示され、以下に提供する。本開示の組成物および方法において使用するための細胞透過性抗体は、例示的なscFv、ならびにその断片およびバリアントを含む。
【0111】
scFv 3E10(D31N)のアミノ酸配列は:
【化13】
である。
【0112】
配列番号38に関連するscFvタンパク質ドメインのアノテーション
・AGIH配列は溶解度を増加させる(配列番号38のアミノ酸1~4)
・Vk可変領域(配列番号38のアミノ酸5~115)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号38のアミノ酸116~121)
・(GGGGS)3(配列番号37)リンカー(配列番号38のアミノ酸122~136)
・VH可変領域(配列番号38のアミノ酸137~252)
・Mycタグ(配列番号38のアミノ酸253~268)
・His6タグ(配列番号38のアミノ酸269~274)
【0113】
3E10ジ-scFv(D31N)のアミノ酸配列
ジ-scFv 3E10(D31N)は、3E10の2×重鎖および軽鎖可変領域を含むジ-単鎖可変断片であり、重鎖の31位のアスパラギン酸がアスパラギンに変異している。ジ-scFv 3E10(D31N)のアミノ酸配列は:
【化14】
である。
【0114】
配列番号39に関連するジ-scFvタンパク質ドメインのアノテーション
・AGIH配列は溶解度を増加させる(配列番号39のアミノ酸1~4)
・Vk可変領域(配列番号39のアミノ酸5~115)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号39のアミノ酸116~121)
・(GGGGS)3(配列番号37)リンカー(配列番号39のアミノ酸122~136)
・VH可変領域(配列番号39のアミノ酸137~252)
・ヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸からなるFv断片間のリンカー(配列番号39のアミノ酸253~265)
・Swivel配列(配列番号39のアミノ酸266~271)
・Vk可変領域(配列番号39のアミノ酸272~382)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号39のアミノ酸383~388)
・(GGGGS)3(配列番号37)リンカー(配列番号39のアミノ酸389~403)
・VH可変領域(配列番号39のアミノ酸404~519)
・Mycタグ(配列番号39のアミノ酸520~535)
・His6タグ(配列番号39のアミノ酸536~541)
【0115】
トリ-scFvのアミノ酸配列
トリ-scFv 3E10(D31N)は、310Eの3×重鎖および軽鎖可変領域を含むトリ-単鎖可変断片であり、重鎖の31位のアスパラギン酸がアスパラギンに変異している。トリ-scFv 3E10(D31N)のアミノ酸配列は:
【化15】
である。
【0116】
配列番号40に関連するトリ-scFvタンパク質ドメインのアノテーション
・AGIH配列は溶解度を増加させる(配列番号40のアミノ酸1~4)
・Vk可変領域(配列番号40のアミノ酸5~115)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号40のアミノ酸116~121)
・(GGGGS)3(配列番号37)リンカー(配列番号40のアミノ酸122~136)
・VH可変領域(配列番号40のアミノ酸137~252)
・ヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸からなるFv断片間のリンカー(配列番号40のアミノ酸253~265)
・Swivel配列(配列番号40のアミノ酸266~271)
・Vk可変領域(配列番号40のアミノ酸272~382)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号40のアミノ酸383~388)
・(GGGGS)3(配列番号37)リンカー(配列番号40のアミノ酸389~403)
・VH可変領域(配列番号40のアミノ酸404~519)
・ヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸からなるFv断片間のリンカー(配列番号40のアミノ酸520~532)
・Swivel配列(配列番号40のアミノ酸533~538)
・Vk可変領域(配列番号40のアミノ酸539~649)
・軽鎖CH1の最初(の6アミノ酸)(配列番号40のアミノ酸650~655)
・(GGGGS)3(配列番号37)リンカー(配列番号40のアミノ酸656~670)
・VH可変領域(配列番号40のアミノ酸671~786)
・Mycタグ(配列番号40のアミノ酸787~802)
・His6タグ(配列番号40のアミノ酸803~808)
【0117】
WO2016/033321号およびNoble, et al., Cancer Research, 75(11):2285-2291(2015)は、ジ-scFvおよびトリ-scFvが、その一価の対応物と比較していくつかの改善された追加の活性を有することを示している。例示的な融合タンパク質の各々の異なるドメインに対応する部分配列もまた、上記に提供される。当業者は、例示的な融合タンパク質、またはそのドメインを利用して、上記でより詳細に論じられた融合タンパク質を構築することができることを認識するであろう。例えば、一部の実施形態では、ジ-scFvは、VH可変ドメインに連結された(例えば、配列番号39のアミノ酸137~252、またはその機能的バリアントもしくは断片)、Vk可変領域を含む第2のscFvに連結された(例えば、配列番号39のアミノ酸272~382、またはその機能的バリアントもしくは断片)、VH可変ドメインに連結された(例えば、配列番号39のアミノ酸404~519、またはその機能的バリアントもしくは断片)、Vk可変領域を含む第1のscFv(例えば、配列番号39のアミノ酸5~115、またはその機能的バリアントもしくは断片)を含む。一部の実施形態では、トリ-scFvは、Vk可変領域を含む第3のscFvドメインに連結された(例えば、配列番号40のアミノ酸539~649、またはその機能的バリアントもしくは断片)、VH可変ドメインに連結された(例えば、配列番号40のアミノ酸671~786、またはその機能的バリアントもしくは断片)ジ-scFvを含む。
【0118】
Vk可変領域は、例えば、リンカー(例えば、(GGGGS)3(配列番号37))によって、単独または軽鎖CH1の(6アミノ酸)(配列番号39のアミノ酸116~121)と組み合わせて、VH可変ドメインに連結することができる。他の適切なリンカーは上記に論じられており、当技術分野で公知である。scFvは、単独で、またはswivel配列(例えば、配列番号39のアミノ酸266~271)と組み合わせて、リンカー(例えば、配列番号39のヒトIgG CH1の最初の13アミノ酸(253~265))によって連結することができる。他の適切なリンカーは上記で論じられ、当技術分野で公知である。
【0119】
したがって、ジ-scFvは、配列番号39のアミノ酸5~519を含み得る。トリ-scFvは、配列番号40のアミノ酸5~786を含み得る。一部の実施形態では、融合タンパク質は、追加のドメインを含む。例えば、一部の実施形態では、融合タンパク質は、溶解度を亢進する配列(例えば、配列番号39のアミノ酸1~4)を含む。したがって、一部の実施形態では、ジ-scFvは、配列番号39のアミノ酸1~519を含み得る。トリ-scFvは、配列番号40のアミノ酸1~786を含み得る。一部の実施形態では、融合タンパク質は、融合タンパク質の精製、単離、捕捉、同定、分離等を亢進する1つまたは複数のドメインを含む。例示的なドメインとしては、例えばMycタグ(例えば、配列番号39のアミノ酸520~535)および/またはHisタグ(例えば、配列番号39のアミノ酸536~541)を含む。したがって、一部の実施形態では、ジ-scFvは、配列番号39のアミノ酸配列を含み得る。トリ-scFvは配列番号40のアミノ酸配列を含み得る。他の置換可能なドメインおよび追加のドメインは上記で詳細に論じられている。
【0120】
例示的な3E10ヒト化Fv配列は、WO2016/033324号において論じられている:
【化16】
【0121】
B.ドナーオリゴヌクレオチド
ドナーオリゴヌクレオチドは、組成物および方法において使用するために提供される。一部の実施形態では、組成物は、ドナーオリゴヌクレオチドを含むかまたはドナーオリゴヌクレオチドと組み合わせて投与される。ドナーオリゴヌクレオチドは、増強剤に共有結合により連結していてもしていなくてもよい。例えば、ドナーオリゴヌクレオチドは、細胞透過性抗体と非共有結合性の複合体を形成し得る。
【0122】
ドナーオリゴヌクレオチド戦略としては、これらに限定されないが、小断片相同置換(例えば、ポリヌクレオチド小DNA断片(SDF))および一本鎖オリゴデオキシヌクレオチド媒介遺伝子改変(例えば、ssODN/SSO)が挙げられる。
【0123】
一般的に、遺伝子治療の場合、ドナーオリゴヌクレオチドは、宿主ゲノムにおける変異を修正することができる配列を含むが、一部の実施形態では、ドナーは、例えばHIV感染症を促進する癌遺伝子または受容体の発現を低減させることができる変異を導入する。所望の修正または変異を導入するように設計された配列を含有することに加えて、ドナーオリゴヌクレオチドはまた、同義(サイレント)変異(例えば、7~10個)も含有し得る。追加のサイレント変異は、処置した細胞から単離されたゲノムDNAの対立遺伝子特異的PCRを使用して、修正された標的配列の検出を促進することができる。
【0124】
ドナーオリゴヌクレオチドは、一本鎖(ss)または二本鎖(ds)型(例えば、ssDNA、dsDNA)で存在することができる。このように、オリゴヌクレオチド(例えば、DNAもしくはRNA、またはその組合せ)は、一本鎖または二本鎖であり得る。好ましくは、オリゴヌクレオチドは、一本鎖DNAである。
【0125】
ドナーオリゴヌクレオチドは、任意の長さのオリゴヌクレオチドであり得る。例えば、ドナーオリゴヌクレオチドのサイズは1~800ヌクレオチドの間であり得る。一実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、25~200ヌクレオチドの間である。一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、100~150ヌクレオチドの間である。さらなる実施形態では、ドナーヌクレオチドは、約40~80ヌクレオチド長である。ドナーオリゴヌクレオチドは、約60ヌクレオチド長であり得る。長さ25~200のssDNAは活性である。ほとんどの研究は、長さ60~70のssDNAによって行われている。70~150のようなより長いオリゴヌクレオチドも作用する。好ましい長さは60である。
【0126】
ドナー配列は、組換えのために標的化される領域の配列と比較して、1つまたは複数の核酸配列の変更、例えば1つまたは複数のヌクレオチドの置換、欠失、または挿入を含有し得る。ドナー配列の組換えの成功は、標的領域の配列の変化をもたらす。ドナーオリゴヌクレオチドはまた、本明細書においてドナー断片、ドナー核酸、ドナーDNA、またはドナーDNA断片とも呼ばれる。ドナー断片内の相同な位置の数が多ければ、ドナー断片が標的配列、標的領域、または標的部位に組み換えられる確率が増加することは、当技術分野で理解されている。
【0127】
ドナーオリゴヌクレオチドは、標的DNA配列と比較して、少なくとも1つの変異した、挿入された、または欠失されたヌクレオチドを含有し得る。標的配列は、遺伝子のコードDNA配列内またはイントロン内であり得る。標的配列はまた、プロモーターもしくはエンハンサー配列またはRNAスプライシングを調節する配列を含む、標的遺伝子の発現を調節するDNA配列内であり得る。
【0128】
ドナーオリゴヌクレオチドは、標的配列と比較して多様な変異を含有し得る。代表的なタイプの変異としては、これらに限定されないが、点変異、欠失、および挿入が挙げられる。欠失および挿入は、フレームシフト変異または欠失をもたらし得る。点変異は、ミスセンスまたはナンセンス変異を引き起こし得る。これらの変異は、標的遺伝子の発現を妨害、低減、停止、増加、改善、または他の方法で変更し得る。
【0129】
ドナーオリゴヌクレオチドは、遺伝子(またはその一部分)、例えば疾患または障害(例えば、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症)に関係する変異遺伝子の野生型配列に対応し得る。例示的な遺伝子としては、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、ジストロフィン、ベータ-グロビン、CFTR、XPC、XPD、およびDNAポリメラーゼイータをコードする遺伝子が挙げられる。
【0130】
組成物は、1つまたは複数の(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれより多くの)異なるドナーオリゴヌクレオチド配列を含み得る。1つより多くのドナーオリゴヌクレオチドの使用は、例えば2つの対立遺伝子が異なる改変を含有するヘテロ接合標的遺伝子を作製するために有用であり得る。
【0131】
ドナーオリゴヌクレオチドは、好ましくは複素環式塩基として主要な天然に存在するヌクレオチド(ウラシル、チミン、シトシン、アデニン、およびグアニン)、糖部分としてデオキシリボース、およびリン酸エステル結合で構成されるDNAオリゴヌクレオチドである。ドナーオリゴヌクレオチドは、組換え部位での置換配列の所望の構造に応じて、またはヌクレアーゼによる分解に対する何らかの抵抗性を提供するために、核酸塩基、糖部分、または骨格/連結に対する改変を含み得る。例えば、ssDNAオリゴヌクレオチドの各末端(5’および3’末端の両方)での末端の3つのヌクレオシド間結合を、通常のホスホジエステル結合の代わりにホスホロチオエート結合に交換し、それによってエキソヌクレアーゼに対する抵抗性の増加を提供することができる。ドナーオリゴヌクレオチドに対する改変は、ドナーオリゴヌクレオチドの組換え標的配列での組換えの成功を妨害してはならない。
【0132】
1.ドナーオリゴヌクレオチドの設計
挿入されるドナー配列を含むポリヌクレオチドを、編集される細胞に提供する。「ドナー配列」、「ドナーポリヌクレオチド」、または「ドナーオリゴヌクレオチド」は、標的部位で挿入される核酸配列を意味する。ドナーポリヌクレオチドは、典型的には標的部位でゲノム配列と十分な相同性、例えば、ドナーポリヌクレオチドとドナーポリヌクレオチドが相同性を有するゲノム配列との間の相同組換え修復を支持するために、標的部位でヌクレオチド配列と70%、80%、85%、90%、95%、または100%の相同性を含有する。
【0133】
ドナー配列は、それが交換するゲノム配列と同一であってもなくてもよい。ドナー配列は、標的配列(例えば、遺伝子)の野生型配列(またはその一部分)に対応し得る。ドナー配列は、相同組換え修復を支持するために十分な相同性が存在する限り、ゲノム配列に関して少なくとも1つまたは複数の一塩基変化、挿入、欠失、転位、または再配列を含有し得る。一部の実施形態では、ドナー配列は、標的DNA領域と2つの隣接する配列との間の相同組換え修復によって標的領域の非相同配列の挿入がもたらされるように、2つの相同性領域が隣接する非相同配列を含む。
【0134】
ドナーオリゴヌクレオチドは、それが相同性を有する染色体における部位と単純に組換えすると考えられる。外因性のヌクレアーゼを使用しないことから、内因性のDNA修復および/または複製因子は、その標的部位へのドナーDNAの相同指向性の組換えを支持することに関係すると考えられている。3E10は、DNA修復および組換え経路のバランスを、RAD51媒介性である経路からRAD52媒介性である経路へとシフトさせることによって、組換えを促進すると考えられる。
【0135】
ゲノム編集組成物が、標的DNA配列と相同性を有する少なくともセグメントを含むドナーポリヌクレオチド配列を含む場合、方法を使用して、標的DNA配列に核酸材料を部位特異的に付加、すなわち挿入または交換する(例えば、タンパク質、siRNA、miRNA等の発現を可能にする核酸を「ノックイン」するために)、タグ(例えば、6×His、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、黄色蛍光タンパク質等)、ヘマグルチニン(HA)、FLAG等)を付加する、遺伝子に調節配列(例えば、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム進入配列(IRES)、2Aペプチド、開始コドン、停止コドン、スプライスシグナル、局在シグナル等)を付加する、または核酸配列を改変する(例えば、変異を導入する)ことができる。
【0136】
2.オリゴヌクレオチド組成物
ドナーオリゴヌクレオチドまたは他の核酸のいずれかは、核酸塩基または結合に対する1つまたは複数の改変または置換を含み得る。改変は、遺伝子編集の活性、持続、または機能を防止してはならず、好ましくは亢進すべきである。例えば、オリゴヌクレオチドに対する改変は、二重鎖の侵入および/または鎖の置き換えを防止してはならず、好ましくは亢進すべきである。改変された塩基および塩基アナログ、改変された糖および糖アナログ、ならびに/または当技術分野で公知の様々な適切な結合もまた、本明細書における分子における使用に適切である。
【0137】
a.複素環式塩基
主要な天然に存在するヌクレオチドとしては、複素環式塩基としてウラシル、チミン、シトシン、アデニン、およびグアニンが挙げられる。遺伝子編集分子は、そのヌクレオチド構成要素に対する化学的改変を含み得る。例えば、シトシンが隣接する標的配列は、問題であり得る。ヌクレオチドの化学改変は、生理的条件下で結合親和性および/または安定性を増加させるために有用であり得る。
【0138】
複素環式塩基または複素環式塩基アナログの化学改変は、ヌクレオチドの結合親和性または複合体(例えば、二重鎖または三重鎖)におけるその安定性を増加させるために有効であり得る。化学改変複素環式塩基としては、これらに限定されないが、イノシン、5-(1-プロピニル)ウラシル(pU)、5-(1-プロピニル)シトシン(pC)、5-メチルシトシン、8-オキソ-アデニン、シュードシトシン、シュードイソシトシン、5および2-アミノ-5-(2’-デオキシ-β-D-リボフラノシル)ピリジン(2-アミノピリジン)、および様々なピロロ-およびピラゾロピリミジン誘導体が挙げられる。
【0139】
b.骨格
オリゴヌクレオチドのヌクレオチドサブユニットは、ある特定の改変を含有し得る。例えば、オリゴヌクレオチドのホスフェート骨格を、反復するN-(2-アミノエチル)-グリシン単位によってその全体を交換してもよく、および/またはホスホジエステル結合をペプチド結合もしくはホスホロチオエート結合に部分的にまたは完全に交換してもよい。複素環式塩基は、メチレンカルボニル結合によって骨格に連結してもよく、これによって高い親和性および配列特異性でワトソン-クリックの塩基対形成を介してDNAと二重鎖を形成することができる。
【0140】
他の骨格改変は、ペプチドおよびアミノ酸の変動および改変を含む。ドナーオリゴヌクレオチドの骨格構成要素は、ペプチド結合であり得るか、またはあるいは、それらは非ペプチド結合であり得る。例としては、アセチルキャップ、アミノスペーサー、例えば8-アミノ-3,6-ジオキサオクタン酸(本明細書においてO-リンカーと呼ばれる)が挙げられ、アミノ酸、例えばリシンは、正電荷がオリゴヌクレオチド(oligonucelotide)等において望ましい場合には特に有用である。
【0141】
オリゴヌクレオチドの骨格改変は、DNA標的部位に対して高い特異性で分子が結合するのを防止してはならず、情報の伝達を媒介するのを防止してはならない。
【0142】
c.改変核酸
オリゴヌクレオチドは、互いに連結されたヌクレオチドの鎖で構成される。標準的なヌクレオチドは典型的には、複素環式塩基(核酸塩基)、複素環式塩基に結合した糖部分、および糖部分のヒドロキシル官能基をエステル化するホスフェート部分を含む。主な天然に存在するヌクレオチドは、複素環式塩基としてウラシル、チミン、シトシン、アデニン、およびグアニン、ならびにホスホジエステル結合によって連結されたリボースまたはデオキシリボース糖を含む。本明細書で使用される場合、「改変ヌクレオチド」または「化学改変ヌクレオチド」は、複素環式塩基、糖部分、またはホスフェート部分構成要素のうちの1つまたは複数の化学改変を有するヌクレオチドを定義する。改変ヌクレオチドの電荷は、同じ核酸塩基配列のDNAまたはRNAオリゴヌクレオチドと比較して低減させることができる。オリゴヌクレオチドは、標的部位でのヌクレオチド二重鎖による静電気的反発が、対応する核酸塩基配列を有するDNAまたはRNAオリゴヌクレオチドと比較して低減されるように、低い負電荷を有していてもよく、電荷を有していなくてもよく、または正電荷を有していてもよい。
【0143】
低減された電荷を有する改変ヌクレオチドの例としては、改変ヌクレオチド間結合、例えば非キラルおよび非荷電サブユニット間結合を有するホスフェートアナログ(例えば、Sterchak, E. P. et al., Organic Chem., 52:4202,(1987))、および非キラルサブユニット間結合を有する非荷電モルホリノベースのポリマー(例えば、米国特許第5,034,506号を参照されたい)を含む。一部のヌクレオチド間結合アナログとしては、モルホリデート、アセタール、およびポリアミド結合複素環が挙げられる。ロックド核酸(LNA)は、改変RNAヌクレオチドである(例えば、Braasch, et al., Chem. Biol., 8(1):1-7(2001)を参照されたい)。LNAは、DNAとハイブリッドを形成するが、これはDNA/DNAハイブリッドより安定である。したがって、LNAを使用することができる。LNAの結合効率は、一部の実施形態では、正電荷をそれに付加することによって増加させることができる。市販の核酸合成機および標準的なホスホルアミダイト化学を使用してLNAを作製する。
【0144】
分子はまた、改変された複素環式塩基、糖部分、または糖部分アナログを有するヌクレオチドも含み得る。改変ヌクレオチドは、上記の改変複素環式塩基または塩基アナログを含み得る。糖部分の改変としては、これらに限定されないが、2’-O-アミノエトキシ、2’-O-アミノエチル(2’-OAE)、2’-O-メトキシ、2’-O-メチル、2-グアニドエチル(2’-OGE)、2’-O,4’-C-メチレン(LNA)、2’-O-(メトキシエチル)(2’-OME)、および2’-O-(N-(メチル)アセトアミド)(2’-OMA)が挙げられる。
【0145】
一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、1、2、3、4、5、6、またはそれより多くの必要に応じたホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含む。一部の実施形態では、ドナーは、ドナーオリゴヌクレオチドにおける最初の2、3、4、もしくは5ヌクレオチド、および/または最後の2、3、4、もしくは5ヌクレオチドの間にホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含む。
【0146】
C.医薬組成物
細胞透過性抗DNA抗体およびドナーオリゴヌクレオチド組成物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて治療的に使用することができる。
【0147】
組成物は、好ましくは、適切な薬学的担体と組み合わせて治療的使用のために用いられる。そのような組成物は、有効量の組成物、および薬学的に許容される担体または賦形剤を含む。
【0148】
in vivoで投与されるヌクレオチドは、細胞および組織に取り込まれ、分布することは当業者によって理解される(Huang, et al., FEBS Lett., 558(1-3):69-73 (2004))。例えば、Nyceらは、アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)を吸入すると、内因性のサーファクタント(肺細胞によって産生される脂質)に結合し、追加の担体脂質の必要なく肺細胞に取り込まれることを示した(Nyce, et al., Nature, 385:721-725 (1997))。小さい核酸は、T24膀胱癌組織培養細胞に容易に取り込まれる(Ma, et al., Antisense Nucleic Acid Drug Dev., 8:415-426 (1998))。
【0149】
増強剤、例えば細胞透過性抗体、およびドナーオリゴヌクレオチドを含む組成物は、適切な薬学的担体中で局部、局所、または全身投与するための製剤に存在し得る。Remington’s Pharmaceutical Sciences, 15th Edition by E. W. Martin (Mark Publishing Company, 1975)は、典型的な担体および調製方法を開示している。化合物はまた、細胞に標的化するために、生物分解性または非生物分解性のポリマーまたはタンパク質またはリポソームで形成される適切な生体適合性の粒子に被包することができる。そのようなシステムは当業者に周知であり、適正な核酸と共に使用するために最適化することができる。一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、ナノ粒子に被包される。
【0150】
様々な核酸送達方法が、例えばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1989);およびAusubel, et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York (1994)に記載されている。そのような核酸送達システムは、所望の核酸を、例として、しかし限定ではないが「裸の」核酸としての「裸の」形態で、または送達にとって適切なビヒクル中で製剤化された、例えばカチオン性分子もしくはリポソーム形成脂質との複合体中で、またはベクターの構成成分もしくは医薬組成物の構成成分として含む。核酸送達システムは、例えばそれを細胞と接触させることによって細胞に直接提供することができ、または例えば、いずれかの生物プロセスの作用を通して間接的に提供することができる。そのような核酸送達システムは、エンドサイトーシス、受容体標的化、天然もしくは合成の細胞膜断片とのカップリング、電気穿孔などの物理的手段、核酸送達システムとポリマー担体、例えば制御放出性フィルムもしくはナノ粒子もしくはマイクロ粒子と組み合わせること、ベクターを使用すること、核酸送達システムを組織もしくは細胞周囲の流体に注入すること、細胞膜を通しての核酸送達システムの単純な拡散、または細胞膜を超えての任意の能動的もしくは受動的輸送機構によって細胞に提供することができる。加えて、核酸送達システムは、ウイルスベクターの抗体関連標的化および抗体媒介性固定などの技術を使用して、細胞に提供することができる。
【0151】
注射のための製剤は、必要に応じて追加の保存剤と共に単位剤形、例えばアンプルまたは多用量容器で提示され得る。組成物は、ある特定の実施形態では被験体の血液と等張であり得る滅菌の水性または非水性の溶液、懸濁物、およびエマルジョンのような形態をとることができる。非水性溶媒の例は、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えばオリーブ油、ゴマ油、ココナツ油、落花生油、ピーナッツ油、鉱油、注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチル、または合成モノもしくはジグリセリドを含む固定油である。水性担体は、食塩水および緩衝媒体を含む、水、アルコール/水溶液、エマルジョン、または懸濁物を含む。非経口ビヒクルは、塩化ナトリウム溶液、1,3-ブタンジオール、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸加リンゲルまたは固定油を含む。静脈内ビヒクルとしては、補液および栄養補充剤、ならびに電解質補充剤(例えば、リンゲルデキストロースに基づく補充剤)が挙げられる。材料は溶液、エマルジョン、または懸濁物中であり得る(例えば、粒子、リポソーム、または細胞に組み込まれる)。典型的には、製剤を等張にするために、適正な量の薬学的に許容される塩が製剤において使用される。トレハロースは典型的に、1~5%の量で医薬組成物に添加され得る。溶液のpHは、好ましくは約5~約8、より好ましくは約7~約7.5である。
【0152】
医薬組成物は、担体、濃化剤、希釈剤、緩衝液、保存剤、および表面活性剤を含み得る。担体製剤は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, Paに見出され得る。当業者は過剰な実験を行うことなく組成物を調製および製剤化するための様々なパラメーターを容易に決定することができる。
【0153】
組成物(細胞透過性抗体およびドナーリゴヌクレオチド)は、単独でまたは他の適切な構成成分と共に、吸入により投与されるエアロゾル製剤(すなわち、それらを「噴霧化」することができる)に作製することができる。エアロゾル製剤は、加圧された許容可能な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素および空気の中に入れることができる。吸入による投与の場合、化合物は、適切な噴射剤を使用して、加圧パックまたはネブライザーからのエアロゾルスプレーの形態で送達される。
【0154】
一部の実施形態では、組成物(細胞透過性抗体およびドナーオリゴヌクレオチド)は、製剤成分、例えば塩、担体、緩衝化剤、乳化剤、希釈剤、賦形剤、キレート剤、保存剤、溶解剤、または安定化剤と共に薬学的に許容される担体を含む。ドナーオリゴヌクレオチドは、細胞取り込みを改善するために、親油性基、例えばコレステロールならびにC32官能基を有するラウリン酸およびリトコール酸誘導体にコンジュゲートすることができる。例えば、コレステロールは、in vitro(Lorenz, et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 14(19):4975-4977 (2004))およびin vivo(Soutschek, et al., Nature, 432(7014):173-178 (2004))でsiRNAの取り込みおよび血清安定性を亢進することが実証されている。加えて、ステロイドコンジュゲートオリゴヌクレオチドが血流中で異なるリポタンパク質、例えばLDLと結合すると、完全性を保護し、生体分布を促進することが示されている(Rump, et al., Biochem. Pharmacol., 59(11):1407-1416 (2000))。細胞取り込みを増加するために上記の化合物に結合またはコンジュゲートすることができる他の基としては、アクリジン誘導体;架橋剤、例えばソラレン誘導体、アジドフェナシル、プロフラビンおよびアジドプロフラビン;人工エンドヌクレアーゼ;金属錯体、例えばEDTA-Fe(II)およびポルフィリン-Fe(II);アルキル化部分;ヌクレアーゼ、例えばアルカリホスファターゼ;ターミナルトランスフェラーゼ;アブザイム;コレステリル部分;親油性担体;ペプチドコンジュゲート;長鎖アルコール;リン酸エステル;放射性マーカー;非放射性マーカー;炭水化物;ならびにポリリリシンまたは他のポリアミンが挙げられる。Levyらに対する米国特許第6,919,208号もまた、亢進された送達方法を記載している。これらの医薬組成物は、それ自体が公知である様式、例えば従来の混合、溶解、造粒、粉砕、乳化、被包、封入、または凍結乾燥プロセスによって製造され得る。
【0155】
さらなる担体としては、徐放性調製物、例えば抗体を含有する固体の疎水性ポリマーの半透過性マトリックスが挙げられ、マトリックスは、成形された粒子、例えばフィルム、リポソーム、または微粒子の形状である。埋め込みは、埋め込み可能な薬物送達システム、例えばマイクロスフェア、ハイドロゲル、ポリマーリザーバー、コレステロールマトリックス、ポリマーシステム、例えばマトリックス侵食および/または拡散システム、ならびに非ポリマーシステムを挿入することを含む。吸入は、インヘラーにおいて組成物(細胞透過性抗体およびドナーオリゴヌクレオチド)を単独で、または吸収することができる担体に結合させてエアロゾルによって投与することを含む。全身投与の場合、組成物をリポソームに被包することが好ましい場合がある。
【0156】
組成物は、血管または尿カテーテルなどの侵襲性デバイスを使用して、および薬物送達能を有し、拡張するデバイスまたはステントグラフトとして構成されるステントなどの介入性デバイスを使用して、薬剤および/またはヌクレオチド送達システムの組織特異的取り込みを可能にする様式で送達され得る。
【0157】
製剤(細胞透過性抗体およびドナーオリゴヌクレオチドを含有する)は、拡散によって、またはポリマーマトリックスの分解によって生体崩壊性(bioerodible)のインプラントを使用して送達され得る。ある特定の実施形態では、製剤の投与は、ある一定期間、例えば数時間、数日間、数週間、数ヶ月間、または数年間にわたって組成物に対する逐次的な曝露をもたらすように設計され得る。これは、例えば製剤の反復投与によって、または反復投与することなく長期間にわたって組成物が送達される徐放性もしくは制御放出送達システムによって達成され得る。
【0158】
適切な他の送達システムとしては、時限放出、遅延放出、徐放性、または制御放出送達システムが挙げられる。そのようなシステムは、多くの症例において反復投与を回避できるので、被験体および医師の利便性を増加させる。多くのタイプの放出送達システムが利用可能であり、当業者に公知である。それらには、例えばポリマーベースのシステム、例えばポリ乳酸および/またはポリグリコール酸、ポリ酸無水物、ポリカプロラクトン、コポリオキサレート、ポリエステルアミド、ポリオルトエステル、ポリヒドロキシ酪酸、および/またはこれらの組合せが挙げられる。核酸を含有する前述のポリマーのマイクロカプセルは、例えば米国特許第5,075,109号に記載されている。他の例としては、ステロール、例えばコレステロール、コレステロールエステル、および脂肪酸または中性脂肪、例えばモノ、ジ、およびトリグリセリドを含む脂質ベースの非ポリマーシステム、ハイドロゲル放出システム、リポソームベースのシステム、リン脂質ベースのシステム、silasticシステム、ペプチドベースのシステム、ワックスコーティング、通常の結合剤および賦形剤を使用する圧縮錠、または部分的に融合したインプラントが挙げられる。製剤は、例えばマイクロスフェア、ハイドロゲル、ポリマーリザーバー、コレステロールマトリックスまたはポリマーシステムとしてであり得る。一部の実施形態では、システムは、例えば、細胞透過性抗体および/またはドナーオリゴヌクレオチドを含有する製剤の拡散または侵食/分解速度の制御を通して、組成物の徐放または制御放出が起こることを可能にし得る。
【0159】
活性剤(細胞透過性抗体およびドナーオリゴヌクレオチド)およびその組成物は、肺または粘膜投与のために製剤化することができる。投与は、肺、鼻、口腔(舌下、または口腔内)、膣、または直腸粘膜への組成物の送達を含み得る。本明細書で使用される場合、用語エアロゾルは、噴射剤を使用して産生されるか否かによらず、溶液または懸濁物であり得る粒子の微細なミストの任意の調製物を指す。エアロゾルは、標準的な技術、例えば超音波処理または高圧処置を使用して産生することができる。
【0160】
上気道を介して投与する場合、製剤は、滴剤またはスプレーとして鼻腔内投与するための溶液、例えば緩衝化されたもしくは緩衝化されていない水もしくは等張食塩水、または懸濁物として製剤化することができる。好ましくは、そのような溶液または懸濁物は、鼻分泌物に対して等張であり、例えば約pH4.0~約pH7.4、またはpH6.0~pH7.0の範囲のほぼ同じpHである。緩衝液は生理的に適合性でなければならず、単なる例としてリン酸緩衝液が挙げられる。
【0161】
増強剤、例えば細胞透過性抗体およびドナーオリゴヌクレオチドは、ナノ粒子送達ビヒクルを使用して標的細胞に送達することができる。一部の実施形態では、組成物の一部をナノ粒子にパッケージングし、一部をパッケージングしない。例えば、一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、ナノ粒子に組み込まれるが、細胞透過性抗体は組み込まれない。ナノ粒子は、一般的に500nm~0.5nm未満の間の範囲の粒子、好ましくは50~500nmの間である直径を有する粒子、より好ましくは50~300nmの間である直径を有する粒子を指す。ポリマー粒子の細胞内部移行は、そのサイズに高度に依存することから、ナノ微粒子ポリマー粒子は、マイクロ微粒子ポリマー粒子より非常に高い効率で細胞に内部移行する。例えば、Desaiらは、直径100nmであるナノ粒子は、直径1μMを有するマイクロ粒子と比較して約2.5倍多く培養Caco-2細胞によって取り込まれることを実証した(Desai, et al., Pharm. Res., 14:1568-73(1997))。ナノ粒子はまた、in vivoで組織の中により深く拡散する能力がより高い。
【0162】
好ましい生体分解性ポリマーの例としては、ポリ(ヒドロキシ酸)などの加水分解により分解する合成ポリマー、例えば乳酸およびグリコール酸のポリマーおよびコポリマー、他の分解性ポリエステル、ポリ酸無水物、ポリ(オルト)エステル、ポリエステル、ポリウレタン、ポリ(酪酸)(poly(butic acid))、ポリ(吉草酸)、ポリ(カプロラクトン)、ポリ(ヒドロキシアルカノエート)、ポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)、およびポリ(アミン-co-エステル)ポリマー、例えば、Zhou, et al., Nature Materials, 11:82-90 (2012)およびWO2013/082529号、米国特許出願公開第2014/0342003号、およびPCT/US2015/061375号に記載されるものが挙げられる。
【0163】
核酸のナノ粒子への被包効率を増加させるために、核酸をポリカチオンと複合体形成させることができる。用語「ポリカチオン」は、正電荷、好ましくは選択されたpHで、好ましくは生理的pHで少なくとも2の正電荷を有する化合物を指す。ポリカチオン部分は、選択されたpH値で約2~約15の間の正電荷を有し、好ましくは約2~約12の間の正電荷を有し、より好ましくは約2~約8の間の正電荷を有する。
【0164】
多くのポリカチオンが当技術分野で公知である。ポリカチオンの適切な構成要素は、塩基性アミノ酸およびその誘導体、例えばアルギニン、アスパラギン、グルタミン、リシン、およびヒスチジン、カチオン性デンドリマー、ならびにアミノ多糖類を含む。適切なポリカチオンは、構造が線形、例えば線形のテトラリシン、分岐またはデンドリマーであり得る。
【0165】
例示的なポリカチオンとしては、これらに限定されないが、アクリルアミドおよび2-アクリルアミド-2-メチルプロパントリメチルアミンに基づく合成ポリカチオン、ポリ(N-エチル-4-ビニルピリジン)、または類似の4級化ポリピリジン、ジエチルアミノエチルポリマーおよびデキストランコンジュゲート、硫酸ポリミキシンB、リポポリアミン、ポリ(アリルアミン)、例えば強いポリカチオンであるポリ(ジメチルジアリルアンモニウムクロリド)、ポリエチレンイミン、ポリブレン、およびポリペプチド、例えばプロタミン、ヒストンポリペプチド、ポリリシン、ポリアルギニン、およびポリオルニチンが挙げられる。適切な天然に存在するポリアミンとしては、これらに限定されないが、スペルミン、スペルミジン、カダベリンおよびプトレシンが挙げられる。一部の実施形態では、粒子自体がポリカチオン(例えば、PLGAとポリ(ベータアミノエステル)のブレンド)である。
【0166】
機能的分子を、送達のために利用される担体に直接または間接的に会合、連結、コンジュゲート、または他の方法で結合させることができる。標的化部分を、ドナーオリゴヌクレオチド、もしくはナノ粒子、またはその他の送達ビヒクルに直接または間接的に会合、連結、コンジュゲート、または他の方法で結合させることができる。標的化部分は、標的化細胞の表面上の受容体または他の分子に結合するタンパク質、ペプチド、核酸分子、糖類、または多糖類であり得る。移植片に対する結合の特異性およびアビディティの程度は、標的化分子の選択を通してモジュレートすることができる。
【0167】
部分の例としては、例えば特定の細胞への分子の送達を提供する標的化部分、例えば造血幹細胞、CD34+細胞、T細胞、または他の任意の好ましい細胞タイプ、ならびに好ましい細胞タイプ上に発現される受容体およびリガンドに対する抗体が挙げられる。好ましくは、部分は造血幹細胞を標的とする。細胞外マトリックス(「ECM」)を標的化する分子の例としては、グリコサミノグリカン(「GAG」)およびコラーゲンが挙げられる。一実施形態では、ポリマー粒子の外部表面は、粒子が選択された細胞または組織と相互作用する能力を亢進するように改変され得る。標的化分子にコンジュゲートされたアダプターエレメントを粒子に挿入する上記の方法が好ましい。しかし、別の実施形態では、カルボキシ末端を有するポリマー性のマイクロまたはナノ粒子の外部表面は、遊離のアミン末端を有する標的化分子に連結され得る。
【0168】
ポリマー性のマイクロおよびナノ粒子に結合する他の有用なリガンドは、病原体関連分子パターン(PAMP)を含む。PAMPは、細胞もしくは組織の表面上のToll様受容体(TLR)を標的とし、または細胞もしくは組織の内部にシグナルを送り、それによっておそらく取り込みを増加させる。粒子表面にコンジュゲートされたまたは同時被包されたPAMPとしては、非メチル化CpG DNA(細菌)、二本鎖RNA(ウイルス)、リポ多糖類(lipopolysacharride)(細菌)、ペプチドグリカン(細菌)、リポアラビノマンナン(lipoarabinomannin)(細菌)、ザイモサン(酵母)、マイコプラズマリポタンパク質、例えばMALP-2(細菌)、フラジェリン(細菌)、ポリ(イノシン-シチジン)酸(細菌)、リポテイコ酸(細菌)、またはイミダゾキノリン(合成)が挙げられ得る。
【0169】
別の実施形態では、粒子の外部表面をマンノースアミンを使用して処置し、それによって粒子の外部表面をマンノシル化してもよい。この処置によって、粒子は抗原提示細胞表面上のマンノース受容体で標的細胞または組織に結合することができる。あるいは、Fc部分(Fc受容体を標的化する)を含有する免疫グロブリン分子、熱ショックタンパク質部分(HSP部分)、ホスファチジルセリン(スキャベンジャー受容体)、およびリポ多糖類(LPS)との表面コンジュゲーションは、細胞または組織上の追加の受容体標的である。
【0170】
マイクロおよびナノ粒子に共有結合することができるレクチンは、ムチンおよび粘膜細胞層に対してそれらを標的特異的にする。
【0171】
標的化部分の選択は、ナノ粒子組成物の投与方法、および標的化される細胞または組織に依存する。標的化分子は、一般的に細胞もしくは組織に対する粒子の結合親和性を増加させることができるか、またはナノ粒子を臓器中の特定の組織もしくは組織中の特定の細胞タイプに標的化することができる。純粋型または部分精製型のムチンの天然の構成成分のいずれかが粒子に共有結合すると、ビーズと腸管界面の表面張力を減少させ、ムチン層におけるビーズの溶解度を増加させる。余分なペンダントカルボン酸側基を含有するポリアミノ酸、例えばポリアスパラギン酸およびポリグルタミン酸の結合は、生体接着性を増加させる。15,000~50,000kDaの分子量範囲のポリアミノ酸を使用すると、粒子の表面に結合した120~425アミノ酸残基の鎖を生じる。ポリアミノ鎖は、ムチン鎖における鎖のもつれによって、およびカルボン酸電荷の増加によって生体接着を増加させる。
【0172】
III.方法
細胞のゲノムを改変する方法は、細胞を、有効量の(i)細胞透過性抗体、および(ii)細胞ゲノムにおける変異を修正することができる配列を含有するドナーオリゴヌクレオチドと接触させることを含む。ゲノム改変は、細胞を(i)および(ii)の両方と接触させた場合では、(i)の非存在下で(ii)と接触させた場合より高い頻度で起こり得る。好ましくは、方法は、細胞を、ヌクレアーゼ(例えば、ZFN、Cas9)またはペプチド核酸(PNA)と接触させることを伴わない。方法を使用して、in vitro、ex vivo、またはin vivo遺伝子編集を実施することができる。
【0173】
増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドは、同じまたは異なる混合物中で一緒に細胞と接触させることができるか、または増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドを細胞と別々に接触させることができる。例えば、細胞を最初に増強剤と接触させた後、ドナーオリゴヌクレオチドと接触させることができる。あるいは、細胞を最初にドナーオリゴヌクレオチドと接触させた後、増強剤と接触させることができる。一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドおよび増強剤を、溶液中で混合し、同時に細胞と接触させる。好ましい実施形態では、ドナーDNAを溶液中で増強剤と混合し、その組合せを培養物中の細胞に添加するか、または処置される動物に注射する。
【0174】
増強剤および/またはドナーオリゴヌクレオチドの有効量または治療有効量は、疾患もしくは障害の1つもしくは複数の症状を処置する、阻害する、もしくは軽減するために、または他の方法で所望の薬理学的および/もしくは生理学的効果を提供するために、例えば疾患もしくは障害の根底にある病理生理学的機構の1つもしくは複数を低減する、阻害する、もしくは逆転させるために十分な投薬量であり得る。
【0175】
有効量はまた、増強剤の非存在下でのドナー断片の投与と比較して、ドナー断片の組換え率を増加させるために有効な量でもあり得る。増強剤および/またはドナーオリゴヌクレオチドの製剤は、投与様式に適合するように作製される。薬学的に許容される担体は、投与される特定の組成物によって、および組成物を投与するために使用される特定の方法によって部分的に決定される。したがって、増強剤および/またはドナーオリゴヌクレオチドを含有する医薬組成物の広く多様な適切な製剤が存在する。正確な投薬量は、多様な要因、例えば被験体依存的変数(例えば、年齢、免疫系の健康、臨床症状等)に従って変化する。
【0176】
増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドは、1日1回、2回、または3回、週に1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、月に1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、または8回標的細胞に投与することができるか、または標的細胞と他の方法で接触させることができる。例えば、一部の実施形態では、増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドは、2日毎もしくは3日毎、または平均でほぼ1週間に約2~約4回投与される。
【0177】
増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドは、同時に投与してもしなくてもよい。一部の実施形態では、増強剤を細胞と接触させた後に、ドナーオリゴヌクレオチドと接触させる。増強剤を、被験体に投与して例えば1、2、3、4、5、6、8、10、12、18、もしくは24時間後、または1、2、3、4、5、6、もしくは7日後、またはその任意の組合せ後に、ドナーオリゴヌクレオチドを被験体に投与することができる。
【0178】
好ましい実施形態では、増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドは、標的細胞の少なくとも0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25%の頻度で、少なくとも1つの標的対立遺伝子において遺伝子改変が起こるのを誘導するために有効な量で投与される。一部の実施形態では、特にex vivo適用では、遺伝子改変は、約0.1~25%、または0.5~25%、または1~25%、2~25%、または3~25%、または4~25%または5~25%または6~25%、または7~25%、または8~25%、または9~25%、または10~25%、11~25%、または12~25%、または13%~25%または14%~25%または15~25%、または2~20%、または3~20%、または4~20%または5~20%または6~20%、または7~20%、または8~20%、または9~20%、または10~20%、11~20%、または12~20%、または13%~20%または14%~20%または15~20%、2~15%、または3~15%、または4~15%または5~15%または6~15%、または7~15%、または8~15%、または9~15%、または10~15%、11~15%、または12~15%、または13%~15%または14%~15%の頻度で少なくとも1つの標的対立遺伝子に起こる。
【0179】
一部の実施形態では、特にin vivo適用では、遺伝子改変は、約0.1%~約15%、または約0.2%~約15%、または約0.3%~約15%、または約0.4%~約15%、または約0.5%~約15%、または約0.6%~約15%、または約0.7%~約15%、または約0.8%~約15%、または約0.9%~約15%、または約1.0%~約15%、または約1.1%~約15%、または約1.1%~約15%、1.2%~約15%、または約1.3%~約15%、または約1.4%~約15%、または約1.5%~約15%、または約1.6%~約15%、または約1.7%~約15%、または約1.8%~約15%、または約1.9%~約15%、または約2.0%~約15%、または約2.5%~約15%、または約3.0%~約15%、または約3.5%~約15%、または約4.0%~約15%、または約4.5%~約15%、または約5.0%~約15%、または約1%~約15%、約1.5%~約15%、約2.0%~約15%、または約2.5%~約15%、または約3.0%~約15%、または約3.5%~約15%、または約4.0%~約15%、または約4.5%~約15%の頻度で少なくとも1つの標的対立遺伝子に起こる。
【0180】
一部の実施形態では、遺伝子改変は、低いオフターゲット効果で起こる。一部の実施形態では、オフターゲット改変は、実施例に記載される解析のような、しかしこれらに限定されない慣用的な解析を使用して検出不能である。一部の実施形態では、オフターゲットインシデントは、0~1%、または0~0.1%、または0~0.01%、または0~0.001%、または0~0.0001%、または0~0.00001%、または0~0.000001%の頻度で起こる。一部の実施形態では、オフターゲット改変は、標的部位より約102分の1、103分の1、104分の1、または105分の1の頻度で起こる。
【0181】
A.Ex vivo遺伝子治療
一部の実施形態では、細胞のex vivo遺伝子治療は、被験体における遺伝子障害を処置するために使用される。ex vivo遺伝子治療に関して、細胞を、被験体から単離し、ex vivoで組成物(増強剤およびドナーオリゴヌクレオチド)と接触させ、変更された配列を遺伝子の中にまたはそれに隣接して含有する細胞を産生する。好ましい実施形態では、細胞は、処置される被験体から、または同系宿主から単離される。標的細胞を被験体から採取した後、増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドと接触させる。細胞は、造血前駆細胞または幹細胞であり得る。好ましい実施形態では、標的細胞はCD34+造血幹細胞である。造血幹細胞(HSC)、例えばCD34+細胞は、赤血球を含む全ての血液細胞型を生じる多能性幹細胞である。したがって、CD34+細胞を、例えばサラセミア、鎌状赤血球症、またはリソソーム蓄積症を有する患者から単離することができ、変異体遺伝子を、組成物および方法を使用してex vivoで変更または修復し、細胞を処置または療法として患者に再度導入することができる。
【0182】
幹細胞は、当業者によって単離および濃縮することができる。CD34+および他の細胞のそのような単離および濃縮方法は、当技術分野で公知であり、例えば米国特許第4,965,204号、第4,714,680号、第5,061,620号、第5,643,741号、第5,677,136号、第5,716,827号、第5,750,397号および第5,759,793号に開示されている。造血前駆細胞および幹細胞に関して濃縮された組成物の文脈において本明細書で使用される場合、「濃縮された」は、細胞の天然供給源で見出されるものより高い割合の望ましいエレメント(例えば、造血前駆細胞および幹細胞)を示す。細胞の組成物は、細胞の天然供給源に対して少なくとも1桁、好ましくは2桁または3桁、より好ましくは10、100、200、または1000倍濃縮され得る。
【0183】
ヒトでは、CD34+細胞は、臍帯血から、骨髄から、または造血増殖因子、例えば顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球-単球コロニー刺激因子(GM-CSF)、幹細胞因子(SCF)を、骨髄腔から末梢循環中へと造血幹細胞の移動を引き起こすために十分な量でドナーに皮下または静脈内注射することによってサイトカイン動員を行った後の血液から回収することができる。最初に、骨髄細胞を骨髄の任意の適切な供給源、例えば脛骨、大腿骨、椎骨、または他の骨小腔から得てもよい。骨髄を単離するために、適正な溶液を使用して骨を洗い流し、この溶液は、低濃度の一般的に約5~25mMの許容される緩衝液と共にウシ胎仔血清または他の天然に存在する因子を好都合に補充した平衡塩類溶液である。好都合な緩衝液は、Hepes、リン酸緩衝液、乳酸緩衝液等を含む。
【0184】
細胞は、正の選択および負の選択技術によって選択することができる。細胞は、当業者に公知の方法を使用して、造血前駆細胞または幹細胞表面抗原、例えばCD34に結合する市販の抗体を使用して選択することができる。例えば、抗体を、磁気ビーズにコンジュゲートして、免疫原性の手順を利用して所望の細胞タイプを回収してもよい。他の技術は、蛍光活性化細胞選別(FACS)の使用を伴う。CD34抗原は、非白血病個体の造血系内の前駆細胞において見出され、モノクローナル抗体My-10(すなわち、CD34抗原を発現する)によって認識される細胞集団上に発現され、骨髄移植のための幹細胞を単離するために使用することができる。My-10は、American Type Culture Collection(Rockville、Md.)にHB-8483として寄託され、抗HPCA1として市販されている。加えて、ヒト骨髄からの分化した、および「専門の」細胞の負の選択を利用して、実質的に任意の所望の細胞マーカーに対して選択することができる。例えば、前駆細胞または幹細胞、最も好ましくはCD34+細胞は、CD3-、CD7-、CD8-、CD10-、CD14-、CD15-、CD19-、CD20-、CD33-、クラスII HLA+およびThy-1+のいずれかであるとして特徴付けることができる。
【0185】
前駆細胞または幹細胞が単離された後、それらを、任意の適切な培地中で成長させることによって増大させてもよい。例えば、前駆細胞または幹細胞を、間質細胞からの馴化培地中、例えば因子の分泌に関連して骨髄もしくは肝臓から得ることができる培地中、または幹細胞の増殖を支持する細胞表面因子を含む培地中で成長させることができる。間質細胞は、望ましくない細胞を除去するために適正なモノクローナル抗体を用いて造血細胞から取り除くことができる。
【0186】
単離された細胞を、修復または変更を必要とする遺伝子、例えばヒトベータ-グロビンまたはα-L-イズロニダーゼ遺伝子の中でまたは遺伝子に隣接して所望の変更を引き起こすために有効な量で、増強剤、例えば細胞透過性抗体または抗RAD51因子とドナーオリゴヌクレオチドとの組合せとex vivoで接触させる。これらの細胞を、本明細書において改変細胞と呼ぶ。細胞透過性抗体およびドナーオリゴヌクレオチドの溶液は、単純に培養物中の細胞に添加され得る。あるいは、トランスフェクション技術を使用してもよい。細胞にオリゴヌクレオチドをトランスフェクトさせる方法は当技術分野で周知である(Koppelhus, et al., Adv. Drug Deliv. Rev., 55(2): 267-280 (2003))。遺伝子修正頻度をさらに増加させるためには、S期の細胞を同期させることが望ましい場合がある。例えばダブルチミジンブロックによって培養細胞を同期させる方法は、当技術分野で公知である(Zielke, et al., Methods Cell Biol., 8:107-121 (1974))。
【0187】
改変細胞は、培養において維持または増大させた後に被験体に投与することができる。培養条件は一般的に、細胞タイプに応じて当技術分野で公知である。特にCD34+を維持するための条件は十分に研究されており、いくつかの適切な方法が利用可能である。ex vivoで多能性造血細胞を増大させる一般的なアプローチは、インターロイキン-3などの早期作用型サイトカインの存在下で精製前駆細胞または幹細胞を培養することである。同様に、造血前駆細胞をex vivoで維持するために、栄養培地中にトロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、およびflt3リガンド(Flt-3L;すなわちflt3遺伝子産物のリガンド)の組合せを含めることも、始原(すなわち、比較的未分化の)ヒト造血前駆細胞をin vitroで増大させるために有用であり、それらの細胞はSCID-huマウスに生着することが可能であることも示されている(Luens et al., 1998, Blood 91:1206-1215)。他の公知の方法では、細胞は、マウスプロラクチン様タンパク質E(mPLP-E)またはマウスプロラクチン様タンパク質F(mPIP-F;集合的にmPLP-E/IFと呼ぶ)を含む栄養培地中、ex vivoで維持することができる(例えば、数分間、数時間、または3、6、9、13日、もしくはそれより多くの日数)(米国特許第6,261,841号)。他の適切な細胞培養および増大方法も同様に使用することができると認識される。細胞はまた、米国特許第5,945,337号に記載されるように無血清培地中で成長させることもできる。
【0188】
別の実施形態では、インターロイキンおよび増殖因子の特定の組合せを使用して、改変造血幹細胞をex vivoでCD4+細胞培養物へと分化させた後、当技術分野で周知の方法を使用して被験体に投与する。細胞を、単離された造血幹細胞の元の集団と比較して、ex vivoで大量に、好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、さらにより好ましくは少なくとも20倍増大させてもよい。
【0189】
別の実施形態では、ex vivo遺伝子治療のための細胞は、脱分化した体細胞であり得る。体細胞を、多能性幹細胞様細胞になるように再プログラムすることができ、これを造血前駆細胞になるように誘導することができる。次に、造血前駆細胞を、CD34+細胞に関して上記のように、増強剤、例えば細胞透過性抗体とドナーオリゴヌクレオチドとによって処置し、1つまたは複数の改変遺伝子を有する組換え細胞を産生することができる。再プログラムすることができる代表的な体細胞としては、これらに限定されないが、線維芽細胞、脂肪細胞、および筋細胞が挙げられる。誘導した幹細胞様細胞由来の造血前駆細胞は、マウスにおいて発生に成功している(Hanna, J. et al. Science, 318:1920-1923 (2007))。
【0190】
誘導した幹細胞様細胞から造血前駆細胞を産生するために、体細胞を宿主から採取する。好ましい実施形態では、体細胞は自己の線維芽細胞である。細胞を培養し、Oct4、Sox2、Klf4、およびc-Myc転写因子をコードするベクターを形質導入する。形質導入された細胞を培養し、胚性幹細胞(ES)の形態、ならびにAP、SSEA1、およびNanogを含むがこれらに限定されないES細胞マーカーに関してスクリーニングする。形質導入されたES細胞を培養し、誘導幹細胞様細胞を産生するように誘導する。次に、細胞をCD41およびc-kitマーカー(初期造血前駆細胞マーカー)ならびに骨髄系および赤血球系分化のマーカーに関してスクリーニングする。
【0191】
次に、改変造血幹細胞または改変誘導造血前駆細胞を被験体に導入する。細胞の送達は、様々な方法を使用して行ってもよく、最も好ましくは注入による静脈内投与ならびに骨膜、骨髄、および/または皮下部位への直接デポー注射を含む。
【0192】
改変細胞を投与された被験体を、細胞の生着を亢進するために骨髄前処置のために処置してもよい。レシピエントを、生着を亢進するために放射線または化学療法処置を使用して処置した後、細胞を投与してもよい。投与の際、細胞は一般的に生着するまで一定期間を要する。造血幹細胞または前駆細胞の有意な生着の達成には、典型的に数週間から数ヶ月を要する。
【0193】
改変造血幹細胞の高いパーセンテージの生着は、有意な予防または治療効果を達成するために必要であるとは考えられていない。生着した細胞は生着後経時的に増大し、改変細胞のパーセンテージを増加させると考えられている。例えば、一部の実施形態では、改変細胞は、修正されたα-L-イズロニダーゼ遺伝子を有する。したがって、ハーラー症候群を有する被験体では、改変細胞は状態を改善または治癒することができる。予防効果または治療効果を提供するために必要であるのは、改変造血幹細胞のごく少数または小さいパーセンテージの生着であると考えられる。
【0194】
好ましい実施形態では、被験体に投与される細胞は自己、例えば被験体に由来するか、または同系である。
【0195】
一部の実施形態では、組成物および方法を使用して、胚ゲノムをin vitroで編集することができる。方法は典型的には、胚をin vitroで、胚のゲノムにおいて少なくとも1つの変更を誘導するために有効量の増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドと接触させることを含む。最も好ましくは、胚は単細胞接合体であるが、受精の前および間での雄性および雌性配偶子、ならびに2、4、8、または16細胞を有し、接合体のみならず桑実胚および未分化胚芽細胞を含む胚の処置も同様に提供される。典型的には、胚をin vitro受精の間または受精後の培養0~6日目に組成物と接触させる。
【0196】
接触させることは、胚を浸漬する液体培地に組成物を添加することであり得る。例えば、組成物をピペットで直接胚培養培地に入れることができ、それによってそれらは胚に取り込まれる。
【0197】
B.in vivo遺伝子治療
一部の実施形態では、細胞のin vivo遺伝子治療を、被験体における遺伝子障害の処置のために使用する。組成物(細胞透過性抗体およびドナーオリゴヌクレオチド)を、in vivo遺伝子治療のために被験体に直接投与することができる。
【0198】
一般的に、抗体、オリゴヌクレオチド、および関連分子を含む化合物を投与する方法は、当技術分野で周知である。特に、現在使用中の製剤と共に核酸治療薬のために既に使用されている投与経路は、上記のドナーオリゴヌクレオチドの好ましい投与経路および製剤を提供する。好ましくは、組成物(増強剤およびドナーオリゴヌクレオチド)は、遺伝子治療を必要とする動物などの、遺伝子操作を受けている生物に注射または注入される。
【0199】
組成物(例えば、増強剤、例えば細胞透過性抗体およびドナーオリゴヌクレオチド)は、静脈内、腹腔内、羊水内、筋肉内、皮下、または局部(舌下、直腸、鼻腔内、肺、直腸粘膜および膣)、および経口(舌下、口腔内)を含むがこれらに限定されない複数の経路によって投与することができる。
【0200】
一部の実施形態では、化合物は、肺送達、例えば鼻腔内投与または経口吸入のために製剤化される。
【0201】
製剤の投与は、増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドがその標的に達することができる任意の許容される方法によって達成され得る。投与は、処置される状態に応じて、局所的(すなわち、特定の領域、生理的システム、組織、臓器、または細胞タイプに)であってもよく、または全身であってもよい。in vivo送達のための組成物および方法はまた、WO2017/143042号においても論じられている。
【0202】
方法はまた、有効量の増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドを、胚もしくは胎児、またはその妊娠中の母親にin vivoで投与することを含み得る。一部の方法では、組成物を卵黄静脈もしくは臍帯静脈などの静脈もしくは動脈の中に、または胚もしくは胎児の羊膜に注射および/または注入することによって、組成物を子宮内に送達する。例えば、Ricciardi, et al., Nat Commun. 2018 Jun 26;9(1):2481. doi: 10.1038/s41467-018-04894-2、およびWO2018/187493号を参照されたい。
【0203】
C.処置される疾患
遺伝子治療は、ヒト遺伝子疾患、例えば嚢胞性線維症、血友病、グロビン異常症、例えば、鎌状赤血球貧血およびベータ-サラセミア、色素性乾皮症、ならびにリソソーム蓄積症の状況において研究する場合には明らかであるが、この戦略はまた、HIVなどの非遺伝子疾患を処置するために、ex vivoベースの細胞改変の状況において、および同様にin vivo細胞改変のためにも有用である。増強剤、例えば細胞透過性抗体とドナーオリゴヌクレオチドとを使用する方法は、単一の遺伝子における変異によって引き起こされる遺伝子欠損、障害、および疾患を処置するために、例えば点変異によって引き起こされる遺伝子欠損、障害および疾患を修正するために特に有用である。標的遺伝子が遺伝子障害の原因である変異を含有する場合、標的遺伝子のDNA配列を正常へと回復し得る方法を、変異原性修復のために使用することができる。標的配列は、遺伝子のコードDNA配列内またはイントロン内であり得る。標的配列はまた、プロモーターまたはエンハンサー配列を含む標的遺伝子の発現を調節するDNA配列内であり得る。
【0204】
本明細書における方法において、増強剤およびドナーオリゴヌクレオチドと接触した細胞を、被験体に投与してもよい。被験体は、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、またはリソソーム蓄積症などの疾患または障害を有し得る。そのような実施形態では、遺伝子改変は、被験体における疾患または障害の1つまたは複数の症状を低減させるのに有効な量で起こり得る。グロビン異常症、嚢胞性線維症、HIV、およびリソソーム蓄積症における変異を修正するために設計されたドナーオリゴヌクレオチドの例示的な配列は、当技術分野で公知であり、例えばその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている、公開された国際出願WO2017/143042号、WO2017/143061号、WO2018/187493号、および公開された米国出願第2017/0283830号に開示されている。
【0205】
ドナーオリゴヌクレオチドは、一本鎖または二本鎖のいずれかであり得、標的遺伝子座でゲノム配列の1つまたは両方の鎖を標的とすることができる。例示的なドナーオリゴヌクレオチドを以下に提供する。ドナーは典型的に、標的ゲノム遺伝子座の1つの鎖を標的化する一本鎖DNA配列として提示される。しかし、たとえ以下に明白に提供されていない場合であっても、各ドナーの逆相補鎖および二本鎖DNA配列もまた、提供された配列に基づいて開示される。一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、本開示の配列の機能的断片、またはその逆相補鎖、もしくはその二本鎖DNAである。
【0206】
1.グロビン異常症
世界全体で、グロビン異常症は、有意な病的状態および死亡の原因である。1,200を超える異なる公知の遺伝的変異がヒトアルファ様(HBZ、HBA2、HBA1、およびHBQ1)およびベータ様(HBE1、HBG1、HBD、およびHBB)グロビン遺伝子のDNA配列に影響を及ぼす。より蔓延していて十分に研究されている2つのグロビン異常症は、鎌状赤血球貧血およびβ-サラセミアである。鎌状赤血球貧血患者におけるβ-グロビン鎖の6位のグルタミン酸のバリンへの置換は、ヘモグロビン多量体化の素因となり、鎌状細胞の硬化性および血管閉塞をもたらし、その結果組織および臓器の損傷をもたらす。β-サラセミア患者では、多様な変異機構がβ-グロビンの合成の低減をもたらし、不対の不溶性α鎖の凝集体の蓄積をもたらし、これが無効な赤血球生成、赤血球破壊の加速、および重度の貧血を引き起こす。
【0207】
併せて、グロビン異常症は、ヒトにおける最も一般的な単一遺伝子障害を表す。本明細書におけるドナーオリゴヌクレオチドは、in vitroおよび生きている細胞の両方で、動物においてex vivoおよびin vivoの両方でヒトβ-グロビンとの結合に関して有効である。実験結果はまた、IVS2-654サラセミア変異(内因性のマウスベータグロビンの代わりに)を有するヒトベータグロビン遺伝子を有するトランスジェニックマウスにおいてin vivoでサラセミア関連変異の修正も実証している。
【0208】
β-サラセミアは、RBC内でα-ヘモグロビンの沈殿をもたらす不安定な異常ヘモグロビン症であり、重度の溶血性貧血を引き起こす。患者は黄疸および脾腫を示し、血液中のヘモグロビン濃度の実質的な減少により、繰り返し輸血を必要とし、典型的には経時的に重度の鉄過剰負荷をもたらす。心筋鉄沈着症による心不全が、20代の終わりまでのβ-サラセミアによる死亡の主な原因である。したがって、これらの患者における繰り返し輸血の低減は、患者の転帰を改善するために根本的に重要である。
【0209】
例示的なβ-グロビン遺伝子変異
塩基60001から塩基66060までの第11染色体のヒト天然ヘモグロビン遺伝子クラスタのGenBank配列の一部分(GenBank:U01317.1-第11染色体上のヒトベータグロビン領域-LOCUS HUMHBB,73308bp ds-DNA)を以下に示す。62187~62189位での遺伝子コード配列の開始を、波状の下線で示す。GenBank配列のこの部分は、天然のβグロビン遺伝子配列を含有する。鎌状赤血球ヘモグロビンでは、62206位のアデニン塩基がチミンに変異している。他の一般的な点変異はイントロン2(IVS2)で起こり、これを以下の配列においてイタリック体で強調する。変異は、IVS2-1、IVS2-566、IVS2-654、IVS2-705、およびIVS2-745を含み、これらもまた太字および太字の下線で示し、番号付けはイントロン2の開始に対するものである。
【0210】
遺伝子編集分子は、本明細書に提供するガイダンスに基づいて、および当技術分野で公知の他の方法に基づいて設計することができる。例示的なドナーオリゴヌクレオチド配列が、例えばWO1996/040271号、WO/2010/123983号、および米国特許第8,658,608号に提供されており、本明細書における改変の1つまたは複数を含むように変更することができる。標的領域は、ゲノムDNAのコード鎖またはその相補的な非コード配列(例えば、ワトソンまたはクリック鎖)に基づいて参照することができる。ドナーオリゴヌクレオチドによって標的化される例示的な部位は、ベータグロビン遺伝子における任意の疾患関連変異(以下に示す)を包含する任意の領域であり得る。
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【0211】
例示的なβ-グロビンドナー
一部の実施形態では、増強剤、例えば細胞透過性抗体は、配列
5’AAAGAATAACAGTGATAATTTCTGGGTTAAGGCAATAGCAATATCTCTGCATATAAATAT 3’(配列番号43)を含み、修正するIVS2-654ヌクレオチドを下線で示すIVS2-654変異の修正のためのドナーオリゴヌクレオチド、またはIVS2-654変異を修正するために適切かつ十分なその機能的断片と組み合わせて使用される。
【0212】
他の例示的なドナー配列としては、これらに限定されないが、
ドナーGFP-IVS2-1(センス)
5’GTTCAGCGTGTCCGGCGAGGGCGAGGTGAGTCTATGGGACCC
TTGATGTTT 3’(配列番号44)、
ドナーGFP-IVS2-1(アンチセンス)
【0213】
5’AAACATCAAGGGTCCCATAGACTCACCTCGCCCTCGCCGGACACGCTGAAC 3’(配列番号45)、および変異を修正するために適切かつ十分なその機能的断片が挙げられる。
【0214】
一部の実施形態では、鎌状赤血球症の変異は、配列
【化21】
、もしくは変異を修正するために適切かつ十分なその機能的断片であって、枠で囲んだ3つのヌクレオチドが、変異体バリン(ヒト鎌状赤血球症に関連する)を野生型グルタミン酸に復帰させる修正されたコドン6を表し、太字のフォント(下線のない)のヌクレオチドが、ゲノムDNAに対する変化を表すがコードされるアミノ酸に対する変化を表さない、配列もしくはその機能的断片、または
【化22】
、もしくは変異を修正するために適切かつ十分なその機能的断片であって、太字および下線の残基が修正である、配列もしくはその機能的断片、または
【化23】
、もしくは変異を修正するために適切かつ十分なその機能的断片であって、太字および下線の残基が修正であり、「(s)」が、必要に応じたホスホロチオエートヌクレオシド間結合を示す、配列もしくはその機能的断片
を有するドナーを使用して修正することができる。
【0215】
2.嚢胞性線維症
組成物および方法を使用して、嚢胞性線維症を処置することができる。嚢胞性線維症(CF)は、Cl-輸送を媒介するイオンチャネルである嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)の欠損によって引き起こされる致死性の常染色体劣性疾患である。CFTR機能の欠如は、慢性閉塞性肺疾患および呼吸器不全による早期死亡、腸閉塞症候群、外分泌および内分泌膵機能不全、ならびに不妊をもたらす(Davis, et al., Pediatr Rev., 22(8):257-64 (2001))。CFにおける最も一般的な変異は、3塩基対欠失(F508del)であり、これはフェニルアラニン残基の喪失をもたらし、CFTRタンパク質の細胞内分解および細胞表面発現の欠如を引き起こす(Davis, et al., Am J Respir Crit Care Med., 173(5):475-82 (2006))。この一般的な変異に加えて、早期の停止コドンによる変異のクラスであるナンセンス変異を含む他の多くの変異が存在し、疾患をもたらす。実際に、ナンセンス変異は、疾患を引き起こす変異のおよそ10%を占める。ナンセンス変異の中で、G542XおよびW1282Xは、最も一般的であり、頻度はそれぞれ2.6%および1.6%である。
【0216】
CFは、最も厳密に特徴付けられた遺伝子疾患の1つであるが、CFを有する患者の現行の処置は、遺伝子欠損の根本的な修正ではなくて症状の管理が中心である。遺伝子治療は、肺および他の臓器系へのin vivo送達が難しいために、CFではなおも漠然とした標的である(Armstrong, et al., Archives of disease in childhood (2014) doi: 10.1136/archdischild-2012-302158. PubMed PMID: 24464978)。近年、血液リンパ系が関係する疾患の処置のための遺伝子治療に多くの進歩が認められ、自家移植のための細胞の採取およびex vivoでの操作が可能である;一部の例は、HIV-1抵抗性細胞を産生するためにCCR5を標的とするジンクフィンガーヌクレアーゼの使用(Holt, et al., Nature biotechnology, 28(8): 839-47 (2010))、副腎脳白質ジストロフィーの処置のためのレンチウイルスベクターによるABCD1遺伝子の修正(Cartier, et al., Science, 326(5954):818-23 (2009))、およびレトロウイルス遺伝子移入を使用するADA欠損症によるSCIDの修正(Aiuti, et al., The New England Journal Of Medicine, 360(5):447-58 (2009))を含む。
【0217】
残念なことに、採取および自家移植片は、肺および他の内部臓器を巻き込むことにより、CFにおける選択肢ではない。1つのアプローチとして、UKの嚢胞性線維症遺伝子治療コンソーシアムは、CFTRをコードするcDNAを含有するプラスミドを肺に送達するためにリポソームを試験した(Alton, et al., Thorax, 68(11):1075-7 (2013), Alton, et al., The Lancet Respiratory Medicine, (2015). doi: 10.1016/S2213-2600(15)00245-3. PubMed PMID: 26149841)、他の臨床試験は、ポリエチレングリコール置換リシン30量体ペプチドによって圧縮されたCFTR遺伝子またはCFTR発現プラスミドを送達するためにウイルスベクターを使用しているが、成功は限定的であった(Konstan, et al., Human Gene Therapy, 15(12):1255-69 (2004))。標的化挿入を伴わない遺伝子付加のためのプラスミドDNAの送達は、内因性遺伝子の修正をもたらさず、正常なCFTR遺伝子調節を受けず、CFTR cDNAのウイルス媒介性の組み込みは、重要なゲノム部位への非特異的組み込みのリスクを導入し得る。
【0218】
増強剤、例えば細胞透過性抗体、およびドナーDNAオリゴヌクレオチドを使用して、嚢胞性線維症をもたらす変異を修正することができる。好ましい実施形態では、組成物は、鼻腔内または肺送達によって投与される。一部の実施形態では、複数の組織、例えば腸における変異を修正する必要性により、IV注射または注入などの全身投与を利用してCFを処置する。組成物は、嚢胞性線維症の1つまたは複数の症状を低減するために有効な量で遺伝子修正を誘導または亢進するために有効な量で投与することができる。例えば、一部の実施形態では、遺伝子修正は、環状AMP刺激に対する応答障害を改善するため、フォルスコリンに対する応答の過分極を改善するため、鼻での大きいルーメン負電位の低減を改善するため、気管支肺胞洗浄液(BAL)中の炎症細胞の低減を改善するため、肺組織学を改善するため、またはその組合せのために有効な量で起こる。一部の実施形態では、標的細胞は、皮膚の汗腺を構成する、肺、肝臓、膵臓、または消化器もしくは生殖系の通路を裏打ちする細胞、特に上皮細胞である。特定の実施形態では、標的細胞は、気管支上皮細胞である。本明細書に記載の遺伝子編集方法を使用する永続的なゲノム変化は、プラスミドに基づくアプローチほど一過性ではなく、変化は娘細胞に受け継がれるが、一部の改変細胞は、呼吸上皮の通常の代謝回転により時間と共に失われ得る。一部の実施形態では、標的細胞は肺上皮前駆細胞である。肺上皮前駆細胞の改変は、表現型のより長期間の修正を誘導することができる。
【0219】
ヒト嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)の配列は、当技術分野で公知であり、例えばGenBank受託番号:AH006034.1を参照されたく、CFTRの標的化修正の組成物および方法は、McNeer, et al., Nature Communications, 6:6952, (DOI 10.1038/ncomms7952), 11 pagesに記載されている。
【0220】
例示的なCFTRドナー
一部の実施形態では、CFTR遺伝子の修正のために使用することができるドナーは、配列
5’TTCTGTATCTATATTCATCATAGGAAACACCAAAGATAATGTTCTCCTTAATGGTGCCAGG3’(配列番号49)、または嚢胞性線維症膜貫通コンダクタンス調節因子(CFTR)遺伝子におけるF508del変異を修正するために適切かつ十分なその機能的断片を含む。この位置でCFTR遺伝子の他の鎖にマッチする相補的配列またはその機能的断片もまた適切である。
【0221】
一部の実施形態では、CFTR遺伝子修正のために使用することができるドナーは、配列
【化24】
またはCFTRにおける変異を修正するために適切かつ十分なその機能的断片であって、太字および下線のヌクレオチドが挿入された変異であり、「(s)」が必要に応じたホスホロチオエートヌクレオシド間結合を示す、配列またはその機能的断片を含む。
【0222】
一部の実施形態では、CFTR遺伝子修正のために使用することができるドナーは、配列
【化25】
、またはCFTRにおける変異を修正するために適切かつ十分なその機能的断片であって、太字および下線のヌクレオチドが挿入された変異であり、「(s)」が必要に応じたホスホロチオエートヌクレオシド間結合を示す、配列またはその機能的断片を含む。
【0223】
一部の実施形態では、CFTR遺伝子における変異を修正するために設計された配列を含有することに加えて、ドナーオリゴヌクレオチドはまた、追加の同義(サイレント)変異も含有し得る。追加のサイレント変異は、処置した細胞から単離したゲノムDNAの対立遺伝子特異的PCRを使用して、修正された標的配列の検出を促進することができる。
【0224】
3.リソソーム蓄積症
本開示の組成物および方法は、リソソーム蓄積症を処置するためにも使用することができる。リソソーム蓄積症(LSD)は、リソソーム機能の欠損に起因する50を超える臨床的に認識されたまれな遺伝性代謝障害群である(Walkley, J. Inherit. Metab. Dis., 32(2):181-9 (2009))。リソソーム蓄積症は、より大きいエンドソーム/リソソーム系の一部である細胞のリソソームオルガネラの機能障害によって引き起こされる。ユビキチン-プロテオソームおよびオートファゴソーム系と併せて、リソソームは、基質の分解およびリサイクル、恒常性の制御、および細胞内でのシグナル伝達にとって必須である。リソソームの機能障害は通常、分解またはリサイクルされる運命にある脂質、糖タンパク質(糖含有タンパク質)、またはムコ多糖類(反復二糖単位からなる長鎖非分岐多糖類;グリコサミノグリカンまたはGAGとしても公知)の代謝にとって必要な単一の酵素の欠乏の結果である。酵素の欠乏は、望ましくない脂質、糖タンパク質、およびGAGの分解またはリサイクルを低減させるか、または防止し、細胞内でのこれらの材料の増進または「蓄積」をもたらす。ほとんどのリソソーム病は、広範な組織および臓器の罹患を示し、脳、内臓、骨、および結合組織がしばしば罹患する。3分の2を超えるリソソーム病が脳に罹患する。ニューロンはリソソームの機能障害に対して特に影響を受けやすいように思われ、特定の軸索および樹状突起の異常からニューロンの死に至る範囲の欠損を示す。
【0225】
個別ではLSDは、1:100,000未満の頻度で起こるが、群としての頻度は、出生数1,500~7,000例あたり1という高率である(Staretz-Chacham, et al., Pediatrics, 123(4):1191-207 (2009))。LSDは、典型的に先天性の遺伝的エラーの結果である。これらの障害のほとんどは常染色体劣性遺伝であるが、ファブリー病およびハンター症候群(MPS II)のようにX連鎖劣性遺伝されるものもある。罹患した個体は一般的に、出生時は正常であるように見えるが、疾患は進行性である。臨床疾患の発症は、数年または数十年後まで起こらない場合があるが、典型的に致死性である。リソソーム蓄積症は、多くは小児に罹患し、しばしば幼少期および予測不能な年齢で、多くは生後数ヶ月または数年以内に死亡する。他の多くの小児は、その特定の障害の様々な症状に数年苦しんだ後にこの疾患が原因で死亡する。臨床疾患は、精神遅滞および/または認知症、盲目または難聴を含む感覚消失、運動系機能障害、発作、睡眠および行動障害等として出現し得る。リソソーム蓄積症を有する一部の人は、肝臓肥大(肝腫)および脾臓肥大(脾腫)、肺および心臓の問題、ならびに骨の成長異常を有する。
【0226】
多くのLSDの処置は、酵素補充療法(ERT)および/または基質低減療法(SRT)、ならびに症状の処置または管理である。米国におけるERTの平均年間費用は$90,000~$565,000の範囲である。ERTは、多様なLSDに関して有意な全身での臨床有効性を有するが、組換えタンパク質が血液脳関門を通過することができないことから、中枢神経系(CNS)の疾患症状に関してはほとんどまたは全く効果が認められない。同種造血幹細胞移植(HSCT)は、選択されたLSDにとって非常に有効な処置を表す。これは現在、関連する神経続発症の進行を防止する唯一の手段である。しかし、HSCTは、費用が高く、HLA適合ドナーを必要とし、有意な病的状態および死亡に関連する。最近の遺伝子治療研究は、LSDがこのタイプの処置の良好な標的であることを示唆している。
【0227】
WO2011/133802号は、組成物および方法において利用することができるドナーオリゴヌクレオチドの例を提供する。
【0228】
例えば、組成物および方法は、ゴーシェ病(GD)を処置するために用いることができる。ゴーシェ病は、ゴーシェ症候群としても公知であり、最も一般的なリソソーム蓄積症である。ゴーシェ病は、リソソームにおける酵素グルコセレブロシダーゼ(酸性β-グルコシダーゼとしても公知)の欠乏により、脂質が細胞およびある特定の臓器に蓄積する遺伝性遺伝子疾患である。グルコセレブロシダーゼ酵素は、b-グリコシドをb-グルコースおよびセラミドサブユニットへと切断することによって、脂肪物質であるグルコセレブロシド(グルコシルセラミドとしても公知)の分解に寄与する(Scriver CR, Beaudet AL, Valle D, Sly WS. The metabolic and molecular basis of inherited disease. 8th ed. New York: McGraw-Hill Pub, 2001: 3635-3668)。この酵素に欠陥があると、特に単核細胞系列の細胞、ならびに脾臓、肝臓、腎臓、肺、脳、および骨髄を含む臓器および組織に物質が蓄積する。
【0229】
2つの主要な型:非ニューロパチー性(タイプ1、成人において最も一般的に観察されるタイプ)およびニューロパチー性(タイプ2および3)が存在する。グルコシダーゼ媒介性GDの原因である唯一の公知のヒト遺伝子であるGBA(GBAグルコシダーゼ、ベータ、酸性)は、第1染色体の位置1q21に位置する。200個を超える変異が、この単一の遺伝子の公知のゲノム配列内で定義されている(NCBI参照配列:NG_009783.1)。最も一般的に観察される変異は、N370S、L444P、RecNciI、84GG、R463C、およびrecTLである。84GGは、酵素を合成する能力がないヌル変異である。しかし、N370S変異は、タイプ1疾患およびより軽症型疾患にほぼ常に関連する。非常にまれにスフィンゴ脂質活性化タンパク質の欠乏(ゴーシェ因子、SAP-2、サポシンC)がGDをもたらすことがある。一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、GBAにおける変異を修正するために設計および使用される。
【0230】
別の実施形態では、組成物および方法は、まれなX連鎖劣性障害であり、酵素アルファガラクトシダーゼA(a-GAL A、GLAによってコードされる)の欠乏に起因するファブリー病(ファブリー病、アンダーソン-ファブリー病、びまん性体部被角血管腫(angiokeratoma corporis diffusum)、およびアルファ-ガラクトシダーゼA欠乏症としても公知)を処置するために使用される。GLAをコードするヒト遺伝子は、公知のゲノム配列(NCBI参照配列:NG_007119.1)を有し、第X染色体のXp22に位置する。GLAにおける変異は、血管、他の組織、および臓器内に糖脂質であるグロボトリアオシルセラミド(Gb3と省略する、GL-3、またはセラミドトリヘキソシド)の蓄積をもたらし、その適切な機能の障害をもたらす(Karen, et al., Dermatol. Online J., 11 (4): 8 (2005))。この状態はヘミ接合性の男性(すなわち、全ての男性)、ならびにホモ接合性で、おそらくヘテロ接合性(キャリア)の女性に罹患する。男性は典型的に、重度の症状を示すが、女性は無症候性から重度の症状を有するまで多様であり得る。この変動性は、女性の胚発生の際のX不活化パターンによると考えられる。一部の実施形態では、ドナーオリゴヌクレオチドは、GLAにおける変異を修正するために設計および使用される。
【0231】
組成物および方法は、ハーラー症候群(HS)を処置するために使用することができる。ハーラー症候群は、ムコ多糖症I型(MPS I)、α-L-イズロニダーゼ欠乏、およびハーラー病としても公知であり、リソソームにおけるムコ多糖類の分解に関与する酵素であるα-L-イズロニダーゼの欠乏によりムコ多糖類の増進をもたらす遺伝子障害である(Dib and Pastories, Genet. Mol. Res., 6(3):667-74 (2007))。MPS Iは、症状の重症度に基づいて3つのサブタイプに分類される。3つのタイプ全てが、酵素α-L-イズロニダーゼの非存在または不十分なレベルに起因する。MPS I Hまたはハーラー症候群は、MPS Iサブタイプのうちで最も重篤である。他の2つのタイプは、MPS I Sまたはシャイエ症候群、およびMPS I H-S、またはハーラー-シャイエ症候群である。α-L-イズロニダーゼがなければ、結合組織の主な構成成分であるヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸が体内で増進する。過剰量のグリコサミノグリカン(GAG)が血液循環の中を通過して体全体に蓄積し、一部は尿に分泌される。症状は小児期に出現し、0歳もの早期での発達の遅延を含み得る。患者は通常、年齢2歳から4歳の間でその発達のプラトーに達し、その後進行性の精神減退および身体スキルの喪失が起こる(Scott et al., Hum. Mutat. 6: 288-302 (1995))。言語は聴覚喪失および舌の肥大により限定的であり得、最終的に部位の障害は、角膜の混濁および網膜変性に起因し得る。手根管症候群(または体の他所での類似の神経圧迫)および関節の動きの制限もまた一般的である。
【0232】
例示的なドナー
一部の実施形態では、配列
5’AGGACGGTCCCGGCCTGCGACACTTCCGCCCATAATTGTTCTTCATCTGCGGGGCGGGGGGGGG3’(配列番号52)、またはW402X変異(これは重度のハーラー症候群に関連するムコ多糖症I型の一般的な変異である)を修正するために適切かつ十分なその機能的断片を有するドナーオリゴヌクレオチドは、細胞におけるW402X変異を修正するために、増強剤、例えば細胞透過性抗体と共に投与される。
【0233】
配列
5’GGGACGGCGCCCACATAGGCCAAATTCAATTGCTGATCCCAGCTTAAGACGTACTGGTCAGCCTGGC 3’(配列番号53)、またはハーラー症候群に関連するアルファ-L-イズロニダーゼ遺伝子におけるQ70X変異を修正するために適切であるその機能的断片を有し得る例示的なドナーオリゴヌクレオチドは、細胞におけるQ70X変異を修正するために、増強剤、例えば細胞透過性抗体と共に投与される。
【0234】
一部の実施形態では、Q70Xでの点変異またはW402X変異を修正するために設計された配列を含有することに加えて、ドナーオリゴヌクレオチドはまた、7~10個の追加の同義(サイレント)変異も含有し得る。追加のサイレント変異は、処置された細胞から単離したゲノムDNAの対立遺伝子特異的PCRを使用して、修正された標的配列の検出を促進することができる。
【0235】
D.組合せ治療
本明細書における遺伝子編集のための異なる構成成分の各々は、単独で、または任意の組合せで、およびさらに1つまたは複数の追加の活性剤と組み合わせて投与することができる。全ての例において、薬剤の組合せは、同じ混合物の一部であり得るか、または別々の組成物として投与することができる。一部の実施形態では、別々の組成物は、同じ投与経路を通して投与される。他の実施形態では、別々の組成物は、異なる投与経路を通して投与される。
【0236】
好ましい追加の活性剤の例としては、所望の疾患または状態を処置するために当技術分野で公知の他の従来の治療を含む。例えば、鎌状赤血球症の処置では、追加の治療はヒドロキシウレアであり得る。
【0237】
嚢胞性線維症の処置では、追加の治療は、粘液溶解剤、抗生物質、栄養剤等を含み得る。特定の薬物が嚢胞性線維症基金の薬物パイプラインで概略が述べられており、これらには、これらに限定されないが、CFTRモジュレーター、例えばKALYDECO(登録商標)(イバカフトル)、ORKAMBI(商標)(ルマカフトル+イバカフトル)、アタルレン(PTC124)、VX-661+イバカフトル、リオシグアト、QBW251、N91115、およびQR-010;気道表面液を改善する作用物質、例えば高張食塩水、ブロンキトール、およびP-1037;粘液変質剤、例えばPULMOZYME(登録商標)(ドルナーゼアルファ);抗炎症剤、例えばイブプロフェン、アルファ1アンチトリプシン、CTX-4430、およびJBT-101;抗感染薬、例えば吸入トブラマイシン、アジスロマイシン、CAYSTON(登録商標)(吸入用アズトレオナム液)、TOBI吸入パウダー、レボフロキサシン、ARIKACE(登録商標)(噴霧化したリポソームアミカシン)、AEROVANC(登録商標)(バンコマイシン塩酸塩吸入用パウダー)、およびガリウム;ならびに栄養補助剤、例えばaquADEK、膵リパーゼ酵素産物、リプロタマーゼ(liprotamase)、およびブルルリパーゼ(burlulipase)が挙げられる。
【0238】
HIVの処置では、追加の治療は、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NRTI)、プロテアーゼ阻害剤(PI)、融合阻害剤、CCR5アンタゴニスト(CCR5)(進入阻害剤とも呼ばれる)、インテグラーゼストランドトランスファー阻害剤(INSTI)、またはその組合せが挙げられるがこれらに限定されない抗レトロウイルス剤であり得る。
【0239】
リソソーム蓄積症の処置では、追加の治療は、例えば酵素置換療法、骨髄移植、またはその組合せを含み得る。
【0240】
E.遺伝子改変の決定
シークエンシングおよび対立遺伝子特異的PCRは、遺伝子改変が起こっているか否かを決定するための好ましい方法である。PCRプライマーは、元の対立遺伝子と、組換え後の新規の予想される配列とを識別するように設計される。組換え事象が起こっているか否かを決定する他の方法は当技術分野で公知であり、作製された改変のタイプに基づいて選択され得る。方法としては、これらに限定されないが、例えばシークエンシング、対立遺伝子特異的PCR、液滴デジタルPCR、または制限エンドヌクレアーゼ選択的PCR(REMS-PCR)によるゲノムDNAの解析;例えばノザンブロット、in situハイブリダイゼーション、リアルタイムまたは定量的逆転写酵素(RT)PCTによる、標的遺伝子から転写されたmRNAの解析;ならびに例えば、免疫染色、ELISA、またはFACSによる標的遺伝子によってコードされるポリペプチドの解析が挙げられる。一部の例では、改変細胞を親対照と比較する。他の方法は、標的遺伝子によって転写されたRNAまたは標的遺伝子によってコードされたポリペプチドの機能の変化を試験することを含み得る。例えば、標的遺伝子が酵素をコードする場合、酵素機能を試験するために設計されたアッセイを使用してもよい。
【0241】
本発明は、以下の非制限的な実施例を参照してさらに理解される。
【実施例】
【0242】
(実施例1:3E10は、ドナーDNAのみを含有するNPによる遺伝子編集を亢進する)
【0243】
材料および方法
ドナーDNAおよびナノ粒子の合成
一本鎖ドナーDNAオリゴマーを標準的なDNA合成によって調製し、5’および3’末端を、各末端で3つのホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含めることによって保護した。ドナーDNAの配列は、β-グロビンイントロン2における624~684位にマッチし、以下:
【化26】
の通りであり、修正するIVS2-654ヌクレオチドを下線で示す。
【0244】
ドナーDNAを含有するまたはドナーDNAおよびPNAを含有するナノ粒子を、既に記載されたダブルエマルジョン溶媒蒸発プロトコールによって合成した(Bahal, et al., Nat. Commun., 7:13304 (2016))。簡単に説明すると、ポリ(乳酸-co-グリコール)酸(PLGA)をジクロロメタン中で40mg/mlの濃度で溶解した。被包の前に、PNAおよびドナーDNAを2:1のモル比で混合し、ボルテックス下でPLGA溶液に滴下して添加した。ドナーDNA単独を含有するNPの場合、DNAを、2nmole/mgポリマーのモル比で滴下して添加した。得られた混合物に、38%の振幅を使用して10秒間の超音波処理を3回行った。次に、油中水エマルジョンを、ポリビニルアルコール(5w/v%)を含有する界面活性剤溶液に滴下して添加した。第2のエマルジョン後、超音波処理ステップを記載のように繰り返した。得られたナノ粒子溶液を0.3%PVA溶液25mlに添加し、室温で3時間撹拌した。撹拌および粒子の「硬化」後、ナノ粒子を遠心分離(16,100g、15分間、4℃)を介して3回洗浄後、凍結保護剤(トレハロース、mg:mg)中で瞬間凍結して凍結乾燥した。乾燥ナノ粒子を後に使用するまで-20℃で保存した。
【0245】
細胞の単離、培養、および処置
マウス胚線維芽細胞(MEF)を、サラセミア関連IVS2-654(C→T)変異がGFPコード配列内に挿入されたヒトβ-グロビンイントロン2からなるβ-グロビン/GFP融合トランスジーンを有するトランスジェニックマウスモデルから単離した(Sazani, et al., Nat. Biotechnol., 20:1228-1233 (2002);Bahal, et al., Nat. Commun., 7:13304 (2016))。これは、β-グロビン/GFP mRNAの不正確なスプライシングおよびGFP発現の欠如をもたらす。
【0246】
細胞培養物に単純に添加することによって、MEFを、10%FBSを含有するDMEM培地中、細胞5,000個/ウェルの播種密度で、ドナーDNA単独を含有する、またはドナーDNAと組み合わせてPNAを含有するナノ粒子2mgによって処置した。
【0247】
一部の試料では、ドナーDNA含有ナノ粒子による処置の前に、MEFを、最終濃度7.5μMの3E10 WT(野生型3E10重鎖および軽鎖配列を含有する)によって処置した。3E10 WTを、公開された配列に基づいて293細胞における組換え発現構築物からの発現によって、全長の組換え抗体として調製し、標準的な技術によって精製した。細胞を、72時間後にフローサイトメトリーを介した蛍光によって遺伝子編集に関して解析した。
【0248】
結果
図1に示すように、ドナーDNA NP単独による処置は、バックグラウンド(無処置対照)をわずかに超える何らかの検出可能な編集をもたらした。3E10を添加すると、この編集が有意に増加した(
図1)。ドナーDNA NP+3E10による処置は、ドナーDNA/PNAを含有するNPによって処置した細胞と比較して、高いパーセンテージ編集を達成した(遺伝子編集に関して既に確立されたアプローチ(Bahal, et al., Nat. Commun., 7:13304 (2016)))。
【0249】
(実施例2:3E10は、ex vivoで骨髄細胞における裸のドナーDNAによるベータグロビン遺伝子の編集を亢進する。)
【0250】
材料および方法
ドナーDNA
一本鎖ドナーDNAオリゴマーを標準的なDNA合成によって調製し、5’および3’末端を、各末端で3つのホスホロチオエートヌクレオシド間結合を含めることによって保護した。ドナーDNA配列は、鎌状赤血球変異の位置であるコドン6を中心とする野生型ヒトベータグロビン配列にマッチする60ヌクレオチドの一本鎖DNAである。ドナーDNAの配列は以下の通りである
5’TTGCCCCACAGGGCAGTAACGGCAGACTTCTCCTCAGGAGTCAGGTGCACCATGGTGTCTGTTTG3’(配列番号48)
【0251】
鎌状赤血球症のマウスモデル
鎌状赤血球症(SCD)では、コドン6での変異(GAG->GTG)は、グルタミン酸のバリンへの変化をもたらす。このSCD変異部位を修正(編集)するために、Townesマウスモデルにおいて研究を実施した。
【0252】
Townesマウスモデルは、Ryan TM, Ciavatta DJ, Townes TM., ”Knockout-transgenic mouse model of sickle cell disease.” Science. 1997 Oct 31;278(5339):873-6. PMID: 9346487によって開発された。
【0253】
Townesマウスは、ヒト鎌状ヘモグロビン(HbS)を排他的に発現する。それらは、ヒトα-、γ-、およびβs-グロビンを発現するトランスジェニックマウスを生成した後、これをマウスα-およびβ-グロビン遺伝子の欠失を有するノックアウトマウスと交配させることによって産生した。このように、得られた子孫は、マウスα-およびβ-グロビンをもはや発現しない。その代わりに、マウスはヒトα-およびβs-グロビンを排他的に発現する。したがって、マウスはヒト鎌状ヘモグロビンを発現し、SCDを有する個体の主要な血液学的および組織病理学的特色の多くを保有する。
【0254】
細胞の単離、培養、および処置
ドナーDNAにより誘導される遺伝子編集に及ぼす3E10の効果をさらに評価するために、上記のようにヒトヘモグロビンアルファ(hα)およびヒト鎌状ヘモグロビンベータ(βS)によって設計した鎌状赤血球症のトランスジェニックマウスモデルを使用した(Townesモデル、Jackson Laboratory)。骨髄細胞をこれらのマウスから採取し、12ウェルプレートにおいて20%FBSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンを有するRPMI中、細胞200,000個/ウェルの密度で培養した。
【0255】
処置の前、3E10 D31N(3E10 D31N重鎖および野生型軽鎖配列を含有する)を、酢酸ナトリウム緩衝液中で、裸のドナーDNAと共に室温で5分間同時インキュベートした(非共有結合抗体-DNA複合体を形成させる)。次に、骨髄細胞を、最終濃度7.5μMの3E10および0.5μg/μlのドナーDNAの抗体-DNA混合物によって処置した。
【0256】
72時間後、細胞を3回洗浄した後、ゲノムDNA(gDNA)を単離した(SV Wizard,Promega)。新たに単離したgDNAを、遺伝子編集頻度の定量的決定のために液滴デジタルPCR(ddPCR)によって分析した。
【0257】
結果
3E10がDNAに結合して細胞に浸透する能力によって、ナノ粒子送達の必要をなくすことができるか否かを決定するために実験を設計した(Weisbart et al., Sci. Rep., 5:12022 (2015))。したがって、ドナーDNAをナノ粒子に被包する(実施例1に記載したように)のではなく、裸のドナーDNAと組み合わせた3E10が鎌状赤血球症トランスジェニックモデルからの骨髄細胞において遺伝子編集を媒介する能力を評価した。
【0258】
図2に示すように、細胞を、3E10とドナーDNAのプレインキュベートした混合物によって処置すると、8%の範囲の実質的な遺伝子編集頻度が観察された。遺伝子編集がアーチファクトではないことを保証するために、ドナー単独および無処置細胞からのゲノムDNAにスパイクしたドナーからなるddPCR対照を試料として含めた。バックグラウンドシグナルは対照において検出されず、アーチファクトは除外された(
図2)。
【0259】
(実施例3:3E10は、MEFにおける裸のドナーDNAによるベータグロビン遺伝子の編集を亢進する)
【0260】
材料および方法
マウス胚線維芽細胞(MEF)を、Townesマウス胚(実施例2で使用したものと同じ鎌状赤血球トランスジェニックマウスモデル)から単離した。次に、MEFを20%FBSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含有するDMEM培地中、細胞200,000個/ウェルの播種密度で12ウェルプレートに播種した。
【0261】
処置の前、3E10 D31N(3E10 D31N重鎖および野生型軽鎖配列を含有する)およびドナーDNAを、5分間インキュベートした。次に、MEFを、最終濃度7.5μMの3E10および0.5μg/μlのドナーDNAによって処置した。
【0262】
72時間後、細胞を3回洗浄した後、gDNAを単離した(SV Wizard,Promega)。新たに単離したゲノムDNAを、デジタル液滴PCR(ddPCR)によって編集頻度に関して分析した。
【0263】
結果
処置した骨髄細胞(上の実施例2に記載)における3E10およびドナーDNAによる知見を別の細胞タイプに拡大するために、MEFにおいて裸のドナーDNAと組み合わせた3E10による遺伝子編集の効率を評価した。ドナーDNA単独によって処置したMEFにおいて観察された遺伝子編集が非常に低レベルであったことと比較すると、3E10とドナーDNAの組合せは、13%の範囲の高レベルの遺伝子編集を達成した(
図3)。
【0264】
(実施例4:3E10およびドナーDNA単独は、Townesマウスにおいてin vivo編集を達成する)
【0265】
材料および方法
3E10が、生きている動物においてin vivoでドナーDNAにより誘導される遺伝子編集を促進するか否かを試験するために、Townesモデル(実施例2および3で使用したものと同じ鎌状赤血球トランスジェニックマウスモデル)を使用した。マウスの処置の前に、3E10 D31N(3E10 D31N重鎖および野生型軽鎖配列を含有する)1mgを、ドナーDNA330μgと共に酢酸ナトリウム緩衝液中、室温で5分間混合した。次に、実験条件あたり2匹のマウスに、全体で4用量の3E10/ドナーDNAを2日の間隔を空けて腹腔内(i.p.)に注射した。各用量は、3E10 1mgおよびドナーDNA330μgからなった。2ヶ月後、骨髄細胞を採取し、デジタル液滴PCR(ddPCR)を介して鎌状赤血球変異でのベータグロビン遺伝子における遺伝子編集に関して分析した。
【0266】
結果
ブランクPLGAナノ粒子によって処置した対照マウスと比較すると、3E10およびドナーDNAによって処置したマウスは、1.5%の頻度で有意に高レベルの遺伝子編集を実証した(
図4)。
【0267】
それ以外であると定義している場合を除き、本明細書で使用した全ての科学技術用語は、本発明が属する当業者によって一般的に理解される同じ意味を有する。本明細書において引用した刊行物およびそれらが引用した材料は、具体的に参照により本明細書に組み込まれる。
【0268】
当業者は、単なる慣用的な実験を使用して、本明細書に記載の本発明の具体的な実施形態に対する多くの均等物を認識するか、または確認することができる。そのような均等物は、以下の特許請求の範囲に包含されると意図される。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
細胞のゲノムにおける変異を修正することができる配列を含むドナーオリゴヌクレオチドと、
1つまたは複数のDNA修復経路に携わり、ドナー単独と比較してドナーオリゴヌクレオチドによるゲノム編集を増加させる増強剤と
を含む組成物。
(項目2)
前記増強剤が、細胞透過性抗体、その断片またはヒト化バリアントである、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記細胞透過性抗体が、抗DNA抗体であり、RAD51を阻害する、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記細胞透過性抗体が、3E10モノクローナル抗体もしくはその細胞透過性断片、一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(scFv)、またはダイアボディ、またはそのヒト化型もしくはバリアントを含む、項目3に記載の組成物。
(項目5)
(i)配列番号1~6、12、もしくは13のいずれか1つのCDRと、配列番号7~11、もしくは15のいずれか1つのCDRとの組合せ、
(ii)配列番号15~23から選択される第1、第2、および第3の重鎖CDRと、配列番号24~30から選択される第1、第2、および第3の軽鎖CDRとの組合せ、
(iii)(i)もしくは(ii)のヒト化型、
(iv)配列番号1もしくは2のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号7もしくは8との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ、
(v)(iv)のヒト化型、または
(vi)配列番号3~6のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号9~11との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ
を含む、項目2から4のいずれか一項に記載の組成物。
(項目6)
前記細胞透過性抗体が、ATCC受託番号PTA2439のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体3E10と同じまたは異なるエピトープ特異性を含む、項目2から5のいずれか一項に記載の組成物。
(項目7)
モノクローナル抗体3E10のパラトープを有する組換え抗体を含む、項目2から6のいずれか一項に記載の組成物。
(項目8)
前記抗DNA抗体が、自己免疫疾患を有する被験体または自己免疫疾患の動物モデルに由来する、項目2から7のいずれか一項に記載の組成物。
(項目9)
前記自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデスである、項目8に記載の組成物。
(項目10)
前記オリゴヌクレオチドが一本鎖または二本鎖である、項目1から9のいずれか一項に記載の組成物。
(項目11)
前記オリゴヌクレオチドがDNAを含む、項目1から10のいずれか一項に記載の組成物。
(項目12)
前記オリゴヌクレオチドが一本鎖DNAである、項目11に記載の組成物。
(項目13)
前記細胞のゲノムが、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、リソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、ならびに慢性肉芽腫性障害を含む群から選択される疾患または障害の根底にある変異を有する、項目1から12のいずれか一項に記載の組成物。
(項目14)
前記変異が、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、ジストロフィン、ベータ-グロビン、CFTR、XPC、XPD、DNAポリメラーゼイータをコードする遺伝子、ファンコニ貧血遺伝子A~L、SPTA1および他のスペクトリン遺伝子、ANK1遺伝子、SERPINA1遺伝子、ATP7B遺伝子、インターロイキン2受容体ガンマ(IL2RG)遺伝子、ADA遺伝子、FAH遺伝子、ならびにCYBA、CYBB、NCF1、NCF2、またはNCF4遺伝子を含む慢性肉芽腫性疾患に関連する遺伝子にある、項目13に記載の組成物。
(項目15)
前記オリゴヌクレオチド配列が、前記遺伝子の野生型配列の一部分に対応する、項目14に記載の組成物。
(項目16)
ヌクレアーゼも、三重鎖形成ペプチド核酸オリゴマーも、ナノ粒子も含まない、項目1から15のいずれか一項に記載の組成物。
(項目17)
項目1から15のいずれか一項に記載の組成物と、薬学的に許容される賦形剤とを含む医薬組成物。
(項目18)
ポリマーナノ粒子をさらに含む、項目17に記載の組成物。
(項目19)
細胞のゲノムを改変する方法であって、前記細胞を、有効量の項目1から18のいずれか一項に記載の組成物と接触させることを含む、方法。
(項目20)
細胞のゲノムを改変する方法であって、前記細胞を、ドナーオリゴヌクレオチド、および
1つまたは複数のDNA修復経路に携わり、ドナー単独と比較してドナーオリゴヌクレオチドによるゲノム編集を増加させる増強剤
と接触させることを含むか、またはそれからなる方法。
(項目21)
前記ドナーオリゴヌクレオチドおよび前記増強剤が異なる組成物の一部である、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記増強剤が、細胞透過性抗体、その断片またはヒト化バリアントである、項目20または21に記載の方法。
(項目23)
前記細胞透過性抗体が、抗DNA抗体であり、RAD51を阻害する、項目22に記載の方法。
(項目24)
前記細胞透過性抗体が、3E10モノクローナル抗体もしくはその細胞透過性断片、一価、二価、もしくは多価単鎖可変断片(scFv)、またはダイアボディ、またはそのヒト化型もしくはバリアントを含む、項目22または23に記載の方法。
(項目25)
(i)配列番号1~6、12、もしくは13のいずれか1つのCDRと、配列番号7~11、もしくは15のいずれか1つのCDRとの組合せ、
(ii)配列番号15~23から選択される第1、第2、および第3の重鎖CDRと、配列番号24~30から選択される第1、第2、および第3の軽鎖CDRとの組合せ、
(iii)(i)もしくは(ii)のヒト化型、
(iv)配列番号1もしくは2のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号7もしくは8との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ、
(v)(iv)のヒト化型、または
(vi)配列番号3~6のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号9~11との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ
を含む、項目22から24のいずれか一項に記載の方法。
(項目26)
前記細胞透過性抗体が、ATCC受託番号PTA2439のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体3E10と同じまたは異なるエピトープ特異性を含む、項目22から25のいずれか一項に記載の方法。
(項目27)
モノクローナル抗体3E10のパラトープを有する組換え抗体を含む、項目22から26のいずれか一項に記載の方法。
(項目28)
前記抗DNA抗体が、自己免疫疾患を有する被験体または自己免疫疾患の動物モデルに由来する、項目22から27のいずれか一項に記載の方法。
(項目29)
前記自己免疫疾患が、全身性エリテマトーデスである、項目28に記載の方法。
(項目30)
前記ドナーオリゴヌクレオチドおよび前記増強剤が、同じまたは異なる時間に前記細胞と接触する、項目22から29のいずれか一項に記載の方法。
(項目31)
前記細胞のゲノムが、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、およびリソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、ならびに慢性肉芽腫性障害からなる群より選択される疾患または障害の根底にある変異を有する、項目19から30のいずれか一項に記載の方法。
(項目32)
前記変異が、凝固第VIII因子、凝固第IX因子、ジストロフィン、ベータ-グロビン、CFTR、XPC、XPD、DNAポリメラーゼイータをコードする遺伝子、ファンコニ貧血遺伝子A~L、SPTA1および他のスペクトリン遺伝子、ANK1遺伝子、SERPINA1遺伝子、ATP7B遺伝子、インターロイキン2受容体ガンマ(IL2RG)遺伝子、ADA遺伝子、FAH遺伝子、ならびにCYBA、CYBB、NCF1、NCF2、またはNCF4遺伝子を含む慢性肉芽腫性疾患に関連する遺伝子にある、項目31に記載の方法。
(項目33)
前記オリゴヌクレオチド配列が、前記遺伝子の野生型配列の一部分に対応する、項目32に記載の方法。
(項目34)
前記増強剤が、担体またはコンジュゲートの援助を受けずに前記細胞の核に輸送される細胞透過性抗体である、項目19から33のいずれか一項に記載の方法。
(項目35)
前記接触させることがex vivoで起こる、項目19から34のいずれか一項に記載の方法。
(項目36)
前記細胞が造血幹細胞である、項目35に記載の方法。
(項目37)
それを必要とする被験体に前記細胞を投与することをさらに含む、項目35から36のいずれか一項に記載の方法。
(項目38)
前記細胞が、疾患または障害の1つまたは複数の症状を処置するのに有効な量で前記被験体に投与される、項目37に記載の方法。
(項目39)
前記接触させることが、それを必要とする被験体に投与した後にin vivoで起こる、項目19から34のいずれか一項に記載の方法。
(項目40)
前記被験体が、血友病、筋ジストロフィー、グロビン異常症、嚢胞性線維症、色素性乾皮症、およびリソソーム蓄積症、免疫不全症候群、例えばX連鎖重症複合免疫不全症およびADA欠損症、チロシン血症、ファンコニ貧血、赤血球障害である球状赤血球症、アルファ-1-アンチトリプシン欠乏症、ウィルソン病、レーバー遺伝性視神経症、ならびに慢性肉芽腫性障害からなる群より選択される疾患または障害を有する、項目39に記載の方法。
(項目41)
遺伝子改変が、前記被験体における前記疾患または前記障害の1つまたは複数の症状を低減させるのに有効な量で起こる、項目40に記載の方法。
(項目42)
前記ドナーオリゴヌクレオチドおよび前記増強剤が、一緒にまたは別々にナノ粒子に被包される、項目22から41のいずれか一項に記載の方法。
(項目43)
前記ナノ粒子がポリヒドロキシ酸ポリマーを含む、項目42に記載の方法。
(項目44)
前記ナノ粒子が、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)を含む、項目43に記載の方法。
(項目45)
標的化部分、細胞透過性ペプチド、またはその組合せが、前記ナノ粒子に直接または間接的に会合、連結、コンジュゲート、または他の方法で結合している、項目42から44のいずれか一項に記載の方法。
(項目46)
前記細胞をヌクレアーゼまたはPNAと接触させることを含まない、項目22から45のいずれか一項に記載の方法。
(項目47)
ドナーオリゴヌクレオチドと、以下:
(i)配列番号1~6、12、もしくは13のいずれか1つのCDRと、配列番号7~11、もしくは15のいずれか1つのCDRとの組合せ、
(ii)配列番号15~23から選択される第1、第2、および第3の重鎖CDRと、配列番号24~30から選択される第1、第2、および第3の軽鎖CDRとの組合せ、
(iii)(i)もしくは(ii)のヒト化型、
(iv)配列番号1もしくは2のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号7もしくは8との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ、
(v)(iv)のヒト化型、または
(vi)配列番号3~6のいずれか1つとの少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む重鎖と、配列番号9~11との少なくとも85%の配列同一性を含むアミノ酸配列を含む軽鎖との組合せ
を含む結合タンパク質とを含む、組成物。
(項目48)
細胞のゲノムを改変する方法であって、前記細胞を、項目47に記載の組成物と接触させることを含む、方法。
【配列表】