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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】リチウム2次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/66 20060101AFI20241011BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20241011BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241011BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20241011BHJP
【FI】
H01M4/66 A
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/0569
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022556833
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2020039254
(87)【国際公開番号】W WO2022085046
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】522369728
【氏名又は名称】TeraWatt Technology株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】新井 寿一
(72)【発明者】
【氏名】緒方 健
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-140057(JP,A)
【文献】特開2002-190298(JP,A)
【文献】特開2013-251048(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117498(WO,A1)
【文献】特開2019-096464(JP,A)
【文献】特表2019-505971(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64- 4/84
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが電解溶出することによって充放電が行われるリチウム2次電池であって、
正極と、Cu、Ni、及びこれらの合金、並びにステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる負極集電体を備える負極と、を備え、
前記負極集電体は、前記正極に対向する表面の少なくとも一部に、N、S、及びOからなる群より選択される元素が各々独立に2つ以上結合した芳香環を含む化合物がコーティングされ、
前記化合物が、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールチオール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサゾールチオール、ベンゾチアゾール、及びメルカプトベンゾチアゾール、並びにこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である
リチウム2次電池。
【請求項2】
前記正極と前記負極との間に配置されているセパレータ又は固体電解質を更に備える、請求項1に記載のリチウム2次電池。
【請求項3】
前記誘導体が、芳香環に、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよいアミノ基、カルボキシ基、スルホ基、及びハロゲン基からなる群より選択される置換基が各々独立に1つ以上結合している化合物である、請求項又はに記載のリチウム2次電池。
【請求項4】
下記式(A)で表される1価の基及び下記式(B)で表される1価の基のうち少なくとも一方を有する化合物を溶媒として含有する電解液を、更に備える、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【化1】
【化2】
(式中、波線は、1価の基における結合部位を表す。)
【請求項5】
初期充電前及び/又は放電終了時において、前記負極の表面にリチウム金属が形成されていない、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【請求項6】
エネルギー密度が350Wh/kg以上である、請求項1~のいずれか1項に記載のリチウム2次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム2次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光又は風力等の自然エネルギーを電気エネルギーに変換する技術が注目されている。これに伴い、安全性が高く、かつ多くの電気エネルギーを蓄えることができる蓄電デバイスとして、様々な2次電池が開発されている。
【0003】
その中でも、正極及び負極の間をリチウムイオンが移動することで充放電を行うリチウム2次電池は、高電圧及び高エネルギー密度を示すことが知られている。典型的なリチウム2次電池として、正極及び負極にリチウム元素を保持することのできる活物質を有し、正極活物質及び負極活物質の間でのリチウムイオンの授受によって充放電をおこなうリチウムイオン2次電池が知られている。
【0004】
また、高エネルギー密度化を目的として、負極活物質に、炭素系材料のようなリチウム元素を挿入することができる材料ではなく、リチウム金属を用いるリチウム2次電池が開発されている。例えば、特許文献1には、室温で少なくとも1Cのレートでの放電時に、1000Wh/Lを越える体積エネルギー密度及び/又は350Wh/kgを越える質量エネルギー密度を実現するために、極薄リチウム金属アノードを備えるリチウム2次電池が開示されている。特許文献1は、かかるリチウム2次電池において、負極活物質としてのリチウム金属上に更なるリチウム金属が直接析出することにより充電がされる旨を開示している。
【0005】
また、更なる高エネルギー密度化や生産性の向上等を目的として、負極活物質を用いないリチウム2次電池が開発されている。例えば、特許文献2には、正極、負極、これらの間に介在された分離膜及び電解質を含むリチウム2次電池において、前記負極は、負極集電体上に金属粒子が形成され、充電によって前記正極から移動され、負極内の負極集電体上にリチウム金属を形成する、リチウム2次電池が開示されている。特許文献2は、そのようなリチウム2次電池は、リチウム金属の反応性による問題と、組み立ての過程で発生する問題点を解決し、性能及び寿命が向上されたリチウム2次電池を提供することができることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2019-517722号公報
【文献】特表2019-505971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らが、上記特許文献に記載のものを始めとする従来の電池を詳細に検討したところ、エネルギー密度、及びサイクル特性の少なくともいずれかが十分でないことがわかった。
【0008】
例えば、負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池は、その負極活物質の占める体積や質量に起因して、エネルギー密度及び容量を十分高くすることが困難である。また、従来型の負極活物質を有しない負極を備えるアノードフリー型リチウム2次電池は、充放電を繰り返すことにより負極表面上にデンドライト状のリチウム金属が形成されやすく、短絡及び容量低下が生じやすいため、サイクル特性が十分でない。
【0009】
また、アノードフリー型のリチウム2次電池において、リチウム金属析出時の離散的な成長を抑制するために、電池に大きな物理的圧力をかけて負極とセパレータとの界面を高圧に保つ方法も開発されている。しかしながら、そのような高圧の印加には大きな機械的機構が必要であるため、電池全体としては、重量及び体積が大きくなり、エネルギー密度が低下する。
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れる、リチウム2次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態に係るリチウム2次電池は、正極と、負極活物質を有しない負極と、を備え、上記負極は、上記正極に対向する表面の少なくとも一部に、N、S、及びOからなる群より選択される元素が各々独立に2つ以上結合した芳香環を含む化合物がコーティングされている。
【0012】
かかるリチウム2次電池は、負極活物質を有しないため、負極活物質を有するリチウム2次電池と比較して、電池全体の体積及び質量が小さく、エネルギー密度が原理的に高い。そのような電池は、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われる。
【0013】
また、本発明者らは、負極の正極に対向する表面の少なくとも一部が、N、S、及びOからなる群より選択される元素が各々独立に2つ以上結合した芳香環を含む化合物(以下、「負極コーティング剤」ともいう。)によりコーティングされているリチウム2次電池が、サイクル特性に優れることを見出した。なお、その要因は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。芳香環に結合した少なくとも1つのN、S、又はOが負極を構成する金属に配位結合し、芳香環に結合した少なくとも1つのN、S、又はOが負極表面付近のリチウムイオンと相互作用することにより、負極表面へのリチウム金属の析出及びその溶解を補助すると考えられる。また、かかるN、S、又はOが芳香環に結合しているため、負極と、負極コーティング剤と相互作用しているリチウムイオンとは、芳香環のπ共役により電気的に接続されることとなり、負極コーティング剤が負極表面にコーティングされていたとしても、負極表面にリチウム金属が析出することができると考えられる。ただし、その要因は上記のものに限定されず、発明を実施するための形態において更に詳述する。
【0014】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、上記正極と上記負極との間に配置されているセパレータ又は固体電解質を更に備える。そのような態様によれば、負極と正極とを一層確実に隔離することができるため、電池が短絡することを一層確実に抑制することができる。
【0015】
上記負極コーティング剤は、好ましくは、芳香環に1つ以上のNが結合している。そのような態様によれば、負極コーティング剤とリチウムイオン(リチウム元素)との相互作用の強さが一層好適なものとなり、電池のサイクル特性が一層向上する。
【0016】
上記負極コーティング剤は、好ましくは、下記式(1)で表される化合物、及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。
【化1】
式中、X1は、X3が結合しているC、及びNのいずれかを示し;X2は、X4が結合しているN、S、及びOのいずれかを示し;X3は、-R1、-NR1 2、-OR1、又は-SR1を示し;X4は、-R2、-CO-X、-CS-NX2、-SO2-X、-SiX3、及び-OXのいずれかを示し;R1は、水素原子、置換されていない1価の炭化水素基、又はピリジル基を示し;R2は、水素原子、又は置換されていてもよい1価の炭化水素基を示し;Xは、任意の1価の置換基を示す。
また、上記負極コーティング剤は、より好ましくは、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールチオール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサゾールチオール、ベンゾチアゾール、及びメルカプトベンゾチアゾール、並びにこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。
そのような態様によれば、負極コーティング剤とリチウムイオンとの相互作用の強さが一層好適なものとなり、更に負極と負極コーティング剤が配位したリチウムイオンとの電気的接続が一層良好なものとなるため、電池のサイクル特性が一層向上する。
【0017】
上記誘導体は、芳香環に、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよいアミノ基、カルボキシ基、スルホ基、及びハロゲン基からなる群より選択される置換基が各々独立に1つ以上結合している化合物であってもよい。
【0018】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、下記式(A)で表される1価の基及び下記式(B)で表される1価の基のうち少なくとも一方を有する化合物を溶媒として含有する電解液を、更に備える。ただし、下記式中、波線は、1価の基における結合部位を表す。
【化2】
【化3】
そのような態様によれば、負極表面において固体電解質界面層(SEI層)の形成が促進されるため、電池のサイクル特性が一層向上する。SEI層はイオン伝導性を有するため、SEI層が形成された負極表面において、リチウム金属析出反応の反応性が負極表面の面方向について均一なものとなり、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが抑制されるからである。
【0019】
上記リチウム2次電池は、リチウム金属が負極の表面に析出し、及び、その析出したリチウムが電解溶出することによって充放電が行われる。
【0020】
上記負極は、好ましくは、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなる電極である。そのような態様によれば、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、一層安全性及び生産性に優れるものとなる。また、そのような負極は安定であるため、2次電池のサイクル特性は一層向上する。
【0021】
負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池は、初期充電前及び/又は放電終了時において、負極の表面にリチウム金属が形成されていない。したがって、上記リチウム2次電池は、製造の際に可燃性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、安全性及び生産性に優れる。
【0022】
上記リチウム2次電池は、好ましくは、エネルギー密度が350Wh/kg以上である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるリチウム2次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
図2】第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の使用の概略断面図である。
図3】第2の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0026】
[第1の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図1は、第1の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。第1の本実施形態のリチウム2次電池100は、正極120と、負極活物質を有しない負極130とを備え、負極130の正極に対向する表面の少なくとも一部に、図1には図示されていないN、S、及びOからなる群より選択される元素が各々独立に2つ以上結合した芳香環を含む化合物(負極コーティング剤)がコーティングされている。また、リチウム2次電池100は、正極120の負極130に対向する面とは反対側に正極集電体110が配置され、正極120と負極130との間に、セパレータ140が配置されている。
【0027】
(負極)
負極130は、負極活物質を有さず、すなわち、リチウム及びリチウムのホストとなる活物質を有しないものである。したがって、リチウム2次電池100は、負極活物質を有する負極を備えるリチウム2次電池と比較して、電池全体の体積及び質量が小さく、エネルギー密度が原理的に高い。ここで、リチウム2次電池100は、リチウム金属が負極130上に析出し、及び、その析出したリチウム金属が電解溶出することによって充放電が行われる。
【0028】
本明細書中、「リチウム金属が負極上に析出する」とは、負極コーティング剤がコーティングされた負極の表面、及び負極の表面に形成された後述する固体電解質界面層(SEI層)の表面の少なくとも1箇所に、リチウム金属が析出することを意味する。したがって、リチウム2次電池100において、リチウム金属は、例えば、負極コーティング剤がコーティングされた負極130の表面(負極130とセパレータ140との界面)に析出してもよい。
【0029】
本明細書において、「負極活物質」とは、リチウムイオン、又はリチウム金属を負極130に保持するための物質を意味し、リチウム元素(典型的にはリチウム金属)のホスト物質と換言してもよい。そのような保持の機構としては、特に限定されないが、例えば、インターカレーション、合金化、及び金属クラスターの吸蔵等が挙げられ、典型的には、インターカレーションである。
【0030】
そのような負極活物質としては、特に限定されないが、例えば、リチウム金属及びリチウム金属を含む合金、炭素系物質、金属酸化物、並びにリチウムと合金化する金属及び該金属を含む合金等が挙げられる。上記炭素系物質としては、特に限定されないが、例えば、グラフェン、グラファイト、ハードカーボン、メソポーラスカーボン、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーン等が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化チタン系化合物、酸化スズ系化合物、及び酸化コバルト系化合物等が挙げられる。上記リチウムと合金化する金属としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、アルミニウム、及びガリウムが挙げられる。
【0031】
本明細書において、負極が「負極活物質を有しない」とは、負極における負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であることを意味する。負極における負極活物質の含有量は、負極全体に対して、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。負極が負極活物質を有さず、又は、負極における負極活物質の含有量が上記の範囲内にあることにより、リチウム2次電池100のエネルギー密度が高いものとなる。
【0032】
より詳細には、負極130は、電池の充電状態によらず、リチウム金属以外の負極活物質の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。また、負極130は、初期充電前、及び/又は放電終了時において、リチウム金属の含有量が、負極全体に対して10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下であり、1.0質量%以下であってもよく、0.1質量%以下であってもよく、0.0質量%以下であってもよい。
【0033】
したがって、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」は、アノードフリー2次電池、ゼロアノード2次電池、又はアノードレス2次電池と換言することができる。また、「負極活物質を有しない負極を備えるリチウム2次電池」は、「リチウム金属以外の負極活物質を有さず、初期充電前及び/又は放電終了時においてリチウム金属を有しない負極を備えるリチウム2次電池」や「初期充電前及び/又は放電終了時においてリチウム金属を有しない負極集電体を備えるリチウム2次電池」と換言してもよい。
【0034】
本明細書において、電池が「初期充電前である」とは、電池が組み立てられてから第1回目の充電をするまでの状態を意味する。また、電池が「放電終了時である」とは、電池の電圧が1.0V以上3.8V以下である状態を意味する。
【0035】
また、リチウム2次電池100において、電池の電圧が4.2Vの時の負極130上に析出しているリチウム金属の質量M4.2に対する、電池の電圧が3.0Vの時の負極130上に析出しているリチウム金属の質量M3.0の比M3.0/M4.2は、好ましくは20%以下であり、より好ましくは15%以下であり、更に好ましくは10%以下である。
【0036】
典型的なリチウム2次電池において、負極の容量(負極活物質の容量)は、正極の容量(正極活物質の容量)と同程度となるように設定されるが、リチウム2次電池100において、負極130はリチウム元素のホスト物質である負極活物質を有しないため、その容量を規定する必要がない。したがって、リチウム2次電池100は、負極による充電容量の制限をうけないため、原理的にエネルギー密度を高くすることができる。
【0037】
負極130としては、負極活物質を有さず、集電体として用いることができるものであれば特に限定されないが、例えば、Cu、Ni、Ti、Fe、及び、その他Liと反応しない金属、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものが挙げられる。なお、負極130にSUSを用いる場合、SUSの種類としては従来公知の種々のものを用いることができる。上記のような負極材料は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。なお、本明細書中、「Liと反応しない金属」とは、リチウム2次電池の動作条件においてリチウムイオン又はリチウム金属と反応して合金化することがない金属を意味する。
【0038】
負極130は、好ましくはCu、Ni、Ti、Fe、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものであり、より好ましくは、Cu、Ni、及び、これらの合金、並びに、ステンレス鋼(SUS)からなる群より選択される少なくとも1種からなるものである。負極130は、更に好ましくは、Cu、Ni、これらの合金、又は、ステンレス鋼(SUS)である。このような負極を用いると、電池のエネルギー密度、及び生産性が一層優れたものとなる傾向にある。
【0039】
負極130は、リチウム金属を含有しない電極である。したがって、製造の際に可燃性及び反応性の高いリチウム金属を用いなくてよいため、リチウム2次電池100は、安全性、生産性、及びサイクル特性に優れるものである。
【0040】
負極130の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における負極130の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0041】
(負極コーティング剤)
リチウム2次電池100は、負極活物質を有しない負極130を備えるため、エネルギー密度が高い。しかしながら、本発明者らは、単に、負極活物質を有しない負極を用いただけでは、電池の充放電に伴い、負極上にデンドライト状のリチウム金属が析出し、電池が短絡してしまったり、デンドライト状に析出したリチウム金属が溶解する際に、デンドライト状のリチウム金属の根元部分が溶出して、一部のリチウム金属が負極から剥がれ落ちて不活性な状態となることで電池の容量が低下してしまったりするという問題点があることを見出した。そして、鋭意研究の結果、特定の化合物を負極130の表面にコーティングすることにより、負極上に析出するリチウム金属がデンドライト状に成長することが抑制され、上記の問題点を解決できることを見出した。本発明者らは、その要因を以下のように推測しているが、その要因はこれに限定されない。
【0042】
リチウム2次電池100において、負極130は、正極120(及びセパレータ140)に対向する表面の少なくとも一部に、N、S、及びOからなる群より選択される元素が各々独立に2つ以上結合した芳香環を含む化合物(負極コーティング剤)がコーティングされている。負極コーティング剤は、少なくとも1つのN、S、及びOからなる群より選択される元素が負極130を構成する金属原子に配位結合することで負極130上に保持されていると推測される。したがって、電池の充放電を繰り返したとしても、負極コーティング剤は離脱、及び/又は分解が生じないと推測される。
【0043】
そして、負極を構成する金属原子に配位した負極コーティング剤は、少なくとも1つのN、S、及びOからなる群より選択される元素において、負極表面に存在するリチウムイオンと相互作用すると考えられる。また、負極コーティング剤は、N、S、及びOからなる群より選択される元素が各々独立に2つ以上結合した芳香環を含むため、以下のような構造:
負極を構成する金属原子-N、S、及びOからなる群より選択される第1の元素-芳香環-N、S、及びOからなる群より選択される第2の元素…リチウムイオン:
を取り得ると推察される(ここで、「-」は、共有結合又は配位結合を意味し、「…」は第2の元素とリチウムイオンとが相互作用していることを意味する。)。したがって、リチウム2次電池100を充電するような電圧を印加すると、負極コーティング剤と相互作用しているリチウムイオンは、負極コーティング剤の芳香環のπ共役を介して、負極からの電子を受け取ることにより、リチウム金属へ還元され得ると考えられる。すなわち、負極コーティング剤が、負極表面において、リチウム金属析出反応の起点又は足場となり得るため、負極コーティング剤がコーティングされている負極130を用いると、その表面において、リチウム金属の不均一な析出反応を抑制することができ、負極上に析出するリチウム金属がデンドライト状に成長することが抑制されると推察される。
【0044】
したがって、負極コーティング剤は、N、S、及びOからなる群より選択される元素が各々独立に2つ以上結合した芳香環を含む化合物、すなわち、芳香環にN、S、又はOが独立に2つ以上で結合している構造を有する化合物であれば特に限定されない。芳香環としては、ベンゼン、ナフタレン、アズレン、アントラセン、及びピレン等の芳香族炭化水素、並びに、フラン、チオフェン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、及びピラジン等のヘテロ芳香族化合物が挙げられる。この中でも、芳香族炭化水素が好ましく、ベンゼン、及びナフタレンがより好ましく、ベンゼンが更に好ましい。
【0045】
負極コーティング剤において、芳香環に1つ以上のNが結合していると好ましい。すなわち、負極コーティング剤は、芳香環にNが結合し、かつ、かかるN以外にN、S、及びOからなる群より選択される元素が各々独立に1つ以上結合している構造を有する化合物であると好ましい。このようにNが芳香環に結合している化合物を負極コーティング剤として用いると、電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。その要因は必ずしも明らかではないが、Nとリチウムイオンとの相互作用の強さが、S又はOとリチウムイオンとの相互作用の強さに比べて好適な強さであるため、充電時におけるリチウムイオンの還元析出反応と、放電時におけるリチウム金属の溶解反応とがいずれも促進されるからであると推察される。ただし、要因は上記のものに限られない。
【0046】
負極コーティング剤は、好ましくは、下記式(1)で表される化合物、及びその誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。そのような態様によれば、電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。
【化4】
【0047】
式中、X1は、X3が結合しているC、及びNのいずれかを示し;X2は、X4が結合しているN、S、及びOのいずれかを示し;X3は、-R1、-NR1 2、-OR1、又は-SR1を示し;X4は、-R2、-CO-X、-CS-NX2、-SO2-X、-SiX3、及び-OXのいずれかを示し;R1は、水素原子、置換されていない1価の炭化水素基、又はピリジル基を示し;R2は、水素原子、又は置換されていてもよい1価の炭化水素基を示し;Xは、任意の1価の置換基を示す。
【0048】
式(1)中、X1は、X3が結合しているC、及びNのいずれかを示す。X3が結合しているCとは、C-R1、C-NR1 2、C-OR1、又はC-SR1であり、この場合、最左端のCがN及びX2に結合する。ここで、R1は、水素原子、置換されていない1価の炭化水素基、又はピリジル基である。R1において、置換されていない1価の炭化水素基は特に限定されないが、例えば、炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和炭化水素基が挙げられ、好ましくはメチル基又はエチル基である。R1において、ピリジル基は特に限定されないが、例えば、2-ピリジル基、3-ピリジル基及び4-ピリジル基が挙げられ、好ましくは2-ピリジル基である。X1の好ましい態様としては、N、C-H、C-SH、C-C54N、及びC-CH3が挙げられる。
【0049】
式(1)中、X2は、X4が結合しているN、S、及びOのいずれかを示す。X4が結合しているNとは、N-R2、N-CO-X、N-CS-NX2、N-SO2-X、N-SiX3、及びN-OXであり、この場合、最左端のNがベンゼン環のC及びX1に結合する。ここで、R2は、水素原子、又は置換されていてもよい1価の炭化水素基であり、Xは、任意の1価の置換基である。
【0050】
2において、置換されていてもよい1価の炭化水素基は特に限定されないが、例えば、置換されていてもよい炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和炭化水素基が挙げられる。ここで、置換されていてもよい1価の炭化水素基における置換基としては、特に限定されないが、例えば、ニトリル基、ハロゲン基、シリル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリール基、及びアリールオキシ基等が挙げられる。Xとしては、特に限定されないが、水素原子、無置換の炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和炭化水素基、置換されていてもよいアミノ基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいヘテロ芳香族基、アルキルカルボニル基、及びアリールカルボニル基等が挙げられる。Xは、活性水素を有しない置換基であってもよい。
【0051】
2の好ましい態様としては、S、O、N-H、N-CH2-C(CH)、N-CH2-Cl、N-CH2-Si(CH33、N-CH2-O-CH3、N-CH2-C(=CH2)-CH3、N-CH3、N-CS-NH-C3HC5、N-CS-NH-C32NS、N-CS-NH-CH2-C65、N-CS-NC48、N-CO-CH3、N-CO-C65、N-CO-C54N、N-CO-NH2、N-CO-C64Cl、N-CO-C107、N-CO-NH-C65、N-SO2-CH3、N-SO2-C65、N-SO2-C322(CH3)、N-SO2-C43S、N-SO2-C54N、及びN-O-CO-C65が挙げられる。
【0052】
なお、式(1)で表される化合物は、Tris-(1-benzotriazolyl)methaneや2,6-bis[(1H-benzotriazole-1-yl)methyl]-4-methylphenolのような二量体又は三量体等の多量体であってもよいが、式(1)で表される化合物は、単量体であると好ましい。
【0053】
これらの中でも、負極コーティング剤は、より好ましくは、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールチオール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサゾールチオール、ベンゾチアゾール、及びメルカプトベンゾチアゾール、並びにこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。そのような態様によれば、電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。
【0054】
同様の観点から、これらの中でも、負極コーティング剤は、更に好ましくは、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンゾオキサゾール、及びメルカプトベンゾチアゾール、並びにこれらの誘導体からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0055】
下記式(1)で表される化合物の誘導体、又は、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、ベンズイミダゾールチオール、ベンゾオキサゾール、ベンゾオキサゾールチオール、ベンゾチアゾール、及びメルカプトベンゾチアゾールの誘導体とは、これらの化合物から誘導される、これらの化合物の一部に置換基が結合した化合物であれば特に限定されない。かかる誘導体としては、芳香環に、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよいアミノ基、カルボキシ基、スルホ基、ハロゲン基、及びシリル基からなる群より選択される置換基が各々独立に1つ以上結合している化合物が挙げられる。そのような置換されていてもよい炭化水素基としては、1価の炭素数1~10の直鎖又は分岐鎖の飽和又は不飽和炭化水素基が挙げられる。ここで、置換されていてもよい炭化水素基における置換基としては、特に限定されないが、例えば、ニトリル基、ハロゲン基、シリル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アリール基、及びアリールオキシ基等が挙げられる。
【0056】
負極コーティング剤の具体例としては、例えば、1H-benzotriazole、5-methyl-1H-benzotriazole、4-methyl-1H-benzotriazole、1-benzoyl-1H-benzotriazole、1-(2-pyridylcarbonyl)benzotriazole、1-acetyl-1H-benzotriazole、5-amino-1H-benzotriazole、2-mercaptobenzothiazole、6-amino-2-mercaptobenzothiazole、benzimidazole、2-(2-pyridyl)benzimidazole、benzoxazole、2-methylbenzoxazole、benzotriazole-5-carboxylic acid、benzotriazole-1-carboxamide、N-(2-propenyl)-1H-benzotriazole-1-carbothioamide、N-(2-thiazolyl)-1H-benzotriazole-1-carbothioamide、N-benzyl-1H-benzotriazole-1-carbothioamide、1-propargyl-1H-benzotriazole、1H-benzotriazole-4-sulfonic acid、1H-benzotriazole-1-acetonitrile、3H-benzotriazole-5-carboxylic acid、5-bromo-1H-benzotriazole、2-(2-hydroxy-5-methylphenyl)benzotriazole、1-(chloromethyl)-1H-benzotriazole、1-(methylsulfonyl)-1H-benzotriazole、1-[(trimethylsilyl)methyl]benzotriazole、1-(phenoxymethyl)-1H-benzotriazole、1-(trimethylsilyl)-1H-benzotriazole、1-(phenylsulfonyl)-1H-benzotriazole、1-[(1-methyl-1H-imidazol-2-yl)sulfonyl]-1H-benzotriazole、1-(2-pyridinylsulfonyl)-1H-benzotriazole、1-(4-chlorobenzoyl)-1H-benzotriazole、1-(methoxymethyl)-1H-benzotriazole、1-(2-thienylsulfonyl)-1H-benzotriazole、1-(3-pyridinylsulfonyl)-1H-benzotriazole、5-(trifluoromethyl)-1H-1,2,3-benzotriazole、bis(1-benzotriazolyl)methanethione、benzotriazol-1-ylpyrrolidin-1-ylmethanethione、1-(1-naphthylcarbonyl)-1H-benzotriazole、1-(2-methyl-allyl)-1H-benzotriazole、1-(benzoyloxy)-1H-1,2,3-benzotriazole、N-phenyl-1H-1,2,3-benzotriazole-1-carboxamide、phenyl 1H-1,2,3-benzotriazole-5-carboxylate、1-methyl-1H-1,2,3-benzotriazol-5-amine、tris-(1-benzotriazolyl)methane、及び2,6-bis[(1H-benzotriazole-1-yl)methyl]-4-methylphenol等が挙げられる。
【0057】
負極コーティング剤としては、これらの中でも、1H-benzotriazole、5-methyl-1H-benzotriazole、4-methyl-1H-benzotriazole、1-benzoyl-1H-benzotriazole、1-(2-pyridylcarbonyl)benzotriazole、5-amino-1H-benzotriazole、2-mercaptobenzothiazole、6-amino-2-mercaptobenzothiazole、benzimidazole、2-(2-pyridyl)benzimidazole、benzoxazole、2-methylbenzoxazole、1-(phenoxymethyl)-1H-benzotriazole、1-[(1-methyl-1H-imidazol-2-yl)sulfonyl]-1H-benzotriazole、1-(methoxymethyl)-1H-benzotriazole、benzotriazol-1-ylpyrrolidin-1-ylmethanethione、1-(1-naphthylcarbonyl)-1H-benzotriazole、1-(2-methyl-allyl)-1H-benzotriazole、1-(benzoyloxy)-1H-1,2,3-benzotriazole、tris-(1-benzotriazolyl)methane、及び2,6-bis[(1H-benzotriazole-1-yl)methyl]-4-methylphenolが更により好ましく、1H-benzotriazole、5-methyl-1H-benzotriazole、4-methyl-1H-benzotriazole、1-benzoyl-1H-benzotriazole、1-(2-pyridylcarbonyl)benzotriazole、2-mercaptobenzothiazole、6-amino-2-mercaptobenzothiazole、benzimidazole、2-(2-pyridyl)benzimidazole、2-methylbenzoxazole、1-(methoxymethyl)-1H-benzotriazole、1-(1-naphthylcarbonyl)-1H-benzotriazole、1-(2-methyl-allyl)-1H-benzotriazole、1-(benzoyloxy)-1H-1,2,3-benzotriazole、及び2,6-bis[(1H-benzotriazole-1-yl)methyl]-4-methylphenolが特に好ましい。
【0058】
負極コーティング剤は、負極130の正極120に対向する表面の少なくとも一部にコーティングされている。負極コーティング剤が負極の表面の少なくとも一部に「コーティングされている」とは、負極の表面において、面積比で10%以上の表面が負極コーティング剤を有していることを意味する。負極130は、面積比で、好ましくは20%以上、30%以上、40%以上、又は50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは80%以上が負極コーティング剤を有している。
【0059】
負極130の表面に負極コーティング剤をコーティングする方法は後述する。また、上述した負極コーティング剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
(正極)
正極120としては、正極活物質を有する限り、一般的にリチウム2次電池に用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム2次電池の用途によって、公知の材料を適宜選択することができる。正極120は、正極活物質を有するため、安定性及び出力電圧が高い。
【0061】
本明細書において、「正極活物質」とは、リチウム元素(典型的には、リチウムイオン)を正極120に保持するための物質を意味し、リチウム元素(典型的には、リチウムイオン)のホスト物質と換言してもよい。
【0062】
そのような正極活物質としては、特に限定されないが、例えば、金属酸化物及び金属リン酸塩が挙げられる。上記金属酸化物としては、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト系化合物、酸化マンガン系化合物、及び酸化ニッケル系化合物等が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、特に限定されないが、例えば、リン酸鉄系化合物、及びリン酸コバルト系化合物が挙げられる。典型的な正極活物質としては、LiCoO2、LiNixCoyMnzO(x+y+z=1)、LiNixMnyO(x+y=1)、LiNiO2、LiMn24、LiFePO、LiCoPO、LiFeOF、LiNiOF、及びTiS2が挙げられる。上記のような正極活物質は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0063】
正極120は、上記の正極活物質以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、公知の導電助剤、バインダー、固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質が挙げられる。
【0064】
正極120における導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、カーボンブラック、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)、カーボンナノファイバー(CF)、及びアセチレンブラック等が挙げられる。また、バインダーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド、ポリテトラフルオロエチレン、スチレンブタジエンゴム、アクリル樹脂、及びポリイミド樹脂等が挙げられる。
【0065】
正極120における、正極活物質の含有量は、正極120全体に対して、例えば、50質量%以上100質量%以下であってもよい。導電助剤の含有量は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下あってもよい。バインダーの含有量は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。固体ポリマー電解質、及び無機固体電解質の含有量の合計は、正極120全体に対して、例えば、0.5質量%30質量%以下であってもよい。
【0066】
(正極集電体)
正極120の片側には、正極集電体110が配置されている。正極集電体110は、電池においてリチウムイオンと反応しない導電体であれば特に限定されない。そのような正極集電体としては、例えば、アルミニウムが挙げられる。
【0067】
正極集電体110の平均厚さは、好ましくは4μm以上20μm以下であり、より好ましくは5μm以上18μm以下であり、更に、好ましくは6μm以上15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100における正極集電体110の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。
【0068】
(セパレータ)
セパレータ140は、正極120と負極130とを隔離することにより電池が短絡することを防ぎつつ、正極120と負極130との間の電荷キャリアとなるリチウムイオンのイオン伝導性を確保するための部材であり、電子導電性を有さず、リチウムイオンと反応しない材料により構成される。また、セパレータ140は当該電解液を保持する役割も担う。セパレータ140は、上記役割を担う限りにおいて限定はないが、例えば、多孔質のポリエチレン(PE)膜、ポリプロピレン(PP)膜、又はこれらの積層構造により構成される。
【0069】
セパレータ140は、セパレータ被覆層により被覆されていてもよい。セパレータ被覆層は、セパレータ140の両面を被覆していてもよく、片面のみを被覆していてもよい。セパレータ被覆層は、イオン伝導性を有し、リチウムイオンと反応しない部材であれば特に限定されないが、セパレータ140と、セパレータ140に隣接する層とを強固に接着させることができるものであると好ましい。そのようなセパレータ被覆層としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、スチレンブタジエンゴムとカルボキシメチルセルロースの合材(SBR-CMC)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(Li-PAA)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、及びアラミドのようなバインダーを含むものが挙げられる。セパレータ被覆層は、上記バインダーにシリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸リチウム等の無機粒子を添加させてもよい。なお、セパレータ140は、セパレータ被覆層を有するセパレータを包含するものである。
【0070】
セパレータ140の平均厚さは、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下であり、更に好ましくは20μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池100におけるセパレータ140の占める体積が減少するため、リチウム2次電池100のエネルギー密度が一層向上する。また、セパレータ140の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極120と負極130とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0071】
(電解液)
リチウム2次電池100は、電解液を有していることが好ましい。リチウム2次電池100において、電解液は、セパレータ140に浸潤させてもよく、正極集電体110と、正極120と、セパレータ140と、負極130との積層体と共に密閉容器に封入してもよい。電解液は、電解質及び溶媒を含有し、イオン伝導性を有する溶液であり、リチウムイオンの導電経路として作用する。このため、電解液を含む態様によれば、電池の内部抵抗が一層低下し、エネルギー密度、容量、及びサイクル特性が一層向上する。
【0072】
電解液は、下記式(A)で表される1価の基及び下記式(B)で表される1価の基のうち少なくとも一方を有するフッ化アルキル化合物を溶媒として含有すると好ましい。
【化5】
【化6】
ただし、式中、波線は、1価の基における結合部位を表す。
【0073】
一般的に、電解液を有するアノードフリー型のリチウム2次電池において、電解液中の溶媒等が分解されることにより、負極等の表面に固体電解質界面層(SEI層)が形成される。SEI層は、リチウム2次電池において、電解液中の成分が更に分解されること、並びにそれに起因する非可逆的なリチウムイオンの還元、及び気体の発生等を抑制する。また、SEI層はイオン伝導性を有するため、SEI層が形成された負極表面において、リチウム金属析出反応の反応性が負極表面の面方向について均一なものとなる。したがって、SEI層の形成を促進することは、アノードフリー型のリチウム2次電池の性能を向上させるために、非常に重要である。本発明者らは、負極コーティング剤が負極表面にコーティングされたリチウム2次電池100において、上記のフッ化アルキル化合物を溶媒として用いると、負極表面にSEI層が形成されやすく、負極上にデンドライト状のリチウム金属が成長することが一層抑制され、その結果、サイクル特性が一層向上することを見出した。その要因は、必ずしも明らかではないが、以下の要因が考えられる。
【0074】
リチウム2次電池100の充電時、特に初期充電時において、リチウムイオンだけでなく、溶媒である上記フッ化アルキル化合物も負極上で還元されると考えられる。そして、フッ化アルキル化合物中の上記式(A)で表される部分、及び上記式(B)で表される部分は、多数のフッ素に置換されていることに起因して、酸素原子の反応性が高く、上記式(A)で表される部分、及び上記式(B)で表される部分は、その一部、又は全部が脱離しやすいと推察される。その結果、リチウム2次電池100の充電時において、上記式(A)で表される部分、及び上記式(B)で表される部分の、一部、又は全部が負極表面に吸着し、当該吸着した部分を起点としてSEI層が生じるため、リチウム2次電池100はSEI層が形成されやすいと推察される。また、負極130は、リチウムイオンと相互作用していると推察される負極コーティング剤を有するため、SEI層の形成時にリチウムイオンが近傍に多く存在すると考えられ、リチウム元素の濃度が高いSEI層が形成されると考えられる。その結果、負極コーティング剤が負極表面にコーティングされたリチウム2次電池100において、上記のフッ化アルキル化合物を溶媒として用いると、適度な厚さを有するイオン伝導性の高いSEI層が形成されやすくなるため、サイクル特性が一層向上すると推察される。
【0075】
したがって、上記フッ化アルキル化合物を溶媒として含有する電解液を含む態様によれば、SEI層が形成されやすいにも関わらず、電池の内部抵抗が低く、レート性能に優れる。すなわち、サイクル特性及びレート性能に一層優れるものとなる。なお、「レート性能」とは、大電流にて充放電ができる性能を意味し、レート性能は、電池の内部抵抗が低い場合に優れることが知られている。
【0076】
なお、本明細書において、化合物が「溶媒として含まれる」とは、リチウム2次電池の使用環境において、当該化合物単体又は他の化合物との混合物が液体であればよく、さらには、電解質を溶解させて溶液相にある電解液を作製できるものであればよい。
【0077】
そのようなフッ化アルキル化合物としては、エーテル結合を有する化合物(以下、「エーテル化合物」という。)、エステル結合を有する化合物、及びカーボネート結合を有する化合物等が挙げられる。電解液における電解質の溶解度を一層向上させる観点、及びSEI層が一層形成されやすくなる観点から、フッ化アルキル化合物は、エーテル化合物であると好ましい。
【0078】
フッ化アルキル化合物であるエーテル化合物としては、式(A)で表される1価の基及び式(B)で表される1価の基の双方を有するエーテル化合物(以下、「第一フッ素溶媒」ともいう。)、式(A)で表される1価の基を有し、かつ、式(B)で表される1価の基を有しないエーテル化合物(以下、「第二フッ素溶媒」ともいう。)、及び式(A)で表される1価の基を有せず、かつ、式(B)で表される1価の基を有するエーテル化合物(以下、「第三フッ素溶媒」ともいう。)等が挙げられる。
【0079】
第一フッ素溶媒としては、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジエトキシメタン、及び1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジエトキシプロパン等が挙げられる。上記のフッ化アルキル化合物の効果を有効かつ確実に奏する観点から、第一フッ素溶媒としては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルが好ましい。
【0080】
第二フッ素溶媒としては、例えば、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、メチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、プロピル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、1H,1H,5H-パーフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、及び1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル等が挙げられる。上記のフッ化アルキル化合物の効果を有効かつ確実に奏する観点から、第二フッ素溶媒としては、1,1,2,2-テトラフルオロエチル-2,2,2-トリフルオロエチルエーテル、メチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、エチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテル、及び1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル-1,1,2,2-テトラフルオロエチルエーテルが好ましい。
【0081】
第三フッ素溶媒としては、例えば、ジフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、トリフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、フルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル、及びメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテル等が挙げられる。上記のフッ化アルキル化合物の効果を有効かつ確実に奏する観点から、第三フッ素溶媒としては、ジフルオロメチル-2,2,3,3-テトラフルオロプロピルエーテルが好ましい。
【0082】
電解液は、式(A)で表される1価の基及び式(B)で表される1価の基の双方を有しない溶媒を含んでいてもよい。そのような溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アセトニトリル、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、リン酸トリメチル、及びリン酸トリエチル等のフッ素を含有しない溶媒、並びに、メチルノナフルオロブチルエーテル、エチルノナフルオロブチルエーテル、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-4-トリフルオロメチルペンタン、メチル-2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルエーテル、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルメチルエーテル、エチル-1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロプロピルエーテル、及びテトラフロロエチルテトラフロロプロピルエーテル等のフッ素を含有する溶媒が挙げられる。
【0083】
上記フッ化アルキル化合物を含め、上述した溶媒は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0084】
電解液におけるフッ化アルキル化合物の含有量は、特に限定されないが、電解液の溶媒成分の総量に対して、好ましくは40体積%以上であり、より好ましくは50体積%以上であり、更に好ましくは60体積%以上であり、更により好ましくは70体積%以上である。フッ化アルキル化合物の含有量が上記の範囲内にあると、SEI層が一層形成されやすくなるため、電池のサイクル特性が一層向上する傾向にある。フッ化アルキル化合物の含有量の上限は特に限定されず、フッ化アルキル化合物の含有量は、電解液の溶媒成分の総量に対して、100体積%以下であってもよく、95体積%以下であってもよく、90体積%以下であってもよく、80体積%以下であってもよい。
【0085】
電解液に含まれる電解質としては、塩であれば特に限定されないが、例えば、Li、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。電解質としては、好ましくはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、特に限定されないが、LiI、LiCl、LiBr、LiF、LiBF4、LiPF6、LiAsF6、LiSO3CF3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF32、LiN(SO2CF3CF32、LiBF2(C24)、LiB(O2242、LiB(O224)F2、LiB(OCOCF34、LiNO3、及びLi2SO4等が挙げられる。上記のリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0086】
電解液における電解質の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.5M以上であり、より好ましくは0.7M以上であり、更に好ましくは0.9M以上であり、更により好ましくは1.0M以上である。電解質の濃度が上記の範囲内にあることにより、SEI層が一層形成されやすくなり、また、内部抵抗が一層低くなる傾向にある。電解質の濃度の上限は特に限定されず、電解質の濃度は10.0M以下であってもよく、5.0M以下であってもよく、2.0M以下であってもよい。
【0087】
(リチウム2次電池の使用)
図2に本実施形態のリチウム2次電池の1つの使用態様を示す。リチウム2次電池200は、リチウム2次電池100において、正極集電体110及び負極130に、リチウム2次電池を外部回路に接続するための正極端子220及び負極端子210がそれぞれ接合されている。リチウム2次電池200は、負極端子210を外部回路の一端に、正極端子220を外部回路のもう一端に接続することにより充放電される。
【0088】
正極端子220及び負極端子210の間に、負極端子210から外部回路を通り正極端子220へと電流が流れるような電圧を印加することでリチウム2次電池200が充電される。リチウム2次電池200を充電することにより、負極上にリチウム金属の析出が生じる。
【0089】
リチウム2次電池200は、電池の組み立て後の第1回目の充電(初期充電)により、負極コーティング剤がコーティングされた負極130の表面(負極130とセパレータ140との界面)に固体電解質界面層(SEI層)が形成されていてもよい。形成されるSEI層としては、特に限定されないが、例えば、リチウムを含む無機化合物、及びリチウムを含む有機化合物等を含んでいてもよい。SEI層の典型的な平均厚さとしては、1nm以上10μm以下である。
【0090】
充電後のリチウム2次電池200について、正極端子220及び負極端子210を接続するとリチウム2次電池200が放電される。これにより、負極上に生じたリチウム金属の析出が電解溶出する。
【0091】
(リチウム2次電池の製造方法)
図1に示すようなリチウム2次電池100の製造方法としては、上述の構成を備えるリチウム2次電池を製造することができる方法であれば特に限定されないが、例えば以下のような方法が挙げられる。
【0092】
まず、正極120を公知の製造方法により、又は市販のものを購入することにより準備する。正極120は例えば以下のようにして製造する。上述した正極活物質、公知の導電助剤、及び公知のバインダーを混合し、正極混合物を得る。その配合比は、例えば、上記正極混合物全体に対して、正極活物質が50質量%以上99質量%以下、導電助剤が0.5質量%30質量%以下、バインダーが0.5質量%30質量%以下であってもよい。得られた正極混合物を、所定の厚さ(例えば、5μm以上1mm以下)を有する正極集電体としての金属箔(例えば、Al箔)の片面に塗布し、プレス成型する。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定のサイズに打ち抜き、正極集電体110上に形成された正極120を得る。
【0093】
次に、両面又は片面の少なくとも一部に負極コーティング剤がコーティングされた負極130を製造する。まず、上述した負極材料、例えば1μm以上1mm以下の金属箔(例えば、電解Cu箔)を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄する。次に、かかる負極材料を水洗した後、上述した負極コーティング剤を含有する溶液(例えば、負極コーティング剤が0.01体積%以上10体積%以下である溶液)に浸漬して、更に、大気下で乾燥させることにより、負極コーティング剤をコーティングする。この際、負極材料の片面をマスキングすることにより、片面のみに負極コーティング剤をコーティングしてもよい。このようにして負極コーティング剤がコーティングされた負極材料を、所定の大きさに打ち抜くことで負極130を得ることができる。
【0094】
なお、負極130の製造工程において、負極コーティング剤のコーティングと負極材料の打ち抜き加工はその順番が逆であってもよい。すなわち、負極130は、洗浄した負極材料を所定の大きさに打ち抜いた後、上述の方法でその表面に負極コーティング剤をコーティングすることにより製造してもよい。ただし、負極コーティング剤をコーティングした後に負極材料を打ち抜くような負極の製造方法によれば、負極コーティング剤がコーティングされた負極材料をロール・ツー・ロール(roll-to-roll)法で容易に製造することができるため、かかる製造方法が好ましい。
【0095】
次に、上述した構成を有するセパレータ140を準備する。セパレータ140は従来公知の方法で製造してもよく、市販のものを用いてもよい。
【0096】
電解液は、上記の溶媒に上記の電解質(典型的には、リチウム塩)を溶解させることにより調製すればよい。
【0097】
次に、以上のようにして得られた、正極120が形成された正極集電体110、セパレータ140、及び負極コーティング剤がコーティングされた負極130を、この順に積層することで図1に示されるような積層体を得る。なお、負極130の片面のみに負極コーティング剤がコーティングされている場合は、かかる表面が正極120(及びセパレータ140)に対向するように積層する。以上のようにして得られた積層体を、電解液と共に密閉容器に封入することでリチウム2次電池100を得ることができる。密閉容器としては、特に限定されないが、例えば、ラミネートフィルムが挙げられる。
【0098】
[第2の本実施形態]
(リチウム2次電池)
図3は、第2の本実施形態に係るリチウム2次電池の概略断面図である。第2の本実施形態のリチウム2次電池300は、正極120と、負極活物質を有しない負極130とを備え、負極130の正極に対向する表面の少なくとも一部に、図3には図示されていないN、S、及びOからなる群より選択される元素が各々独立に2つ以上結合した芳香環を含む化合物(負極コーティング剤)がコーティングされている。また、リチウム2次電池300は、正極120の負極130に対向する面とは反対側に正極集電体110が配置され、正極120と負極130との間に、固体電解質310が配置されている。
【0099】
正極集電体110、正極120、負極130、及び負極コーティング剤の構成、及びその好ましい態様は、第1の本実施形態のリチウム2次電池100と同様であり、リチウム2次電池300は、リチウム2次電池100と同様の効果を奏するものである。リチウム2次電池300は、リチウム2次電池100が備えるような電解液を備えていてもよい。
【0100】
(固体電解質)
一般に、液体電解質を備える電池は、液体の揺らぎに起因して、電解質から負極表面に対してかかる物理的圧力が場所によって異なる傾向にある。一方、リチウム2次電池300は、固体電解質310を備えるため、固体電解質310から負極130の表面にかかる圧力が均一であり、負極130の表面に析出するリチウム金属の形状を一層均一にすることができる。すなわち、このような態様によれば、負極130の表面に析出するリチウム金属が、デンドライト状に成長することが一層抑制されるため、リチウム2次電池300のサイクル特性は一層優れたものとなる。
【0101】
固体電解質310としては、一般的にリチウム固体2次電池に用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム2次電池300の用途によって、公知の材料を適宜選択することができる。固体電解質310は、好ましくはイオン伝導性を有し、電気伝導性を有しないものである。固体電解質310が、イオン伝導性を有し、電気伝導性を有しないことにより、リチウム2次電池300の内部抵抗が一層低下すると共に、リチウム2次電池300の内部で短絡することを一層抑制することができる。その結果、リチウム2次電池300のエネルギー密度、容量、及びサイクル特性は一層優れたものとなる。
【0102】
固体電解質310としては、特に限定されないが、例えば、樹脂及びリチウム塩を含むものが挙げられる。そのような樹脂としては、特に限定されないが、例えば、鎖及び/又は側鎖にエチレンオキサイドユニットを有する樹脂、アクリル樹脂、ビニル樹脂、エステル樹脂、ナイロン樹脂、ポリシロキサン、ポリホスファゼン、ポリビニリデンフロライド、ポリメタクリル酸メチル、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、ポリ乳酸、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリアセタール、ポリスルホン、及びポリテトラフロロエチレン等が挙げられる。上記のような樹脂は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0103】
固体電解質310に含まれるリチウム塩としては、特に限定されないが、例えば、リチウム2次電池100の電解液が含み得るリチウム塩として例示した塩が挙げられる。上記のようなリチウム塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0104】
一般に、固体電解質における樹脂とリチウム塩との含有量比は、樹脂の有する酸素原子と、リチウム塩の有するリチウム原子の比([Li]/[O])によって定められる。固体電解質310において、樹脂とリチウム塩との含有量比は、上記比([Li]/[O])が、好ましくは0.02以上0.20以下、より好ましくは0.03以上0.15以下、更に好ましくは0.04以上0.12以下になるように調整される。
【0105】
固体電解質310は、上記樹脂及びリチウム塩以外の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、特に限定されないが、例えば、溶媒及びリチウム塩以外の塩が挙げられる。リチウム塩以外の塩としては、特に限定されないが、例えば、Na、K、Ca、及びMgの塩等が挙げられる。溶媒としては、特に限定されないが、例えば、リチウム2次電池100が含み得る電解液において例示したものが挙げられる。上記のような溶媒、及びリチウム塩以外の塩は、1種を単独で又は2種以上を併用して用いられる。
【0106】
固体電解質310の平均厚さは、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは18μm以下であり、更に、好ましくは15μm以下である。そのような態様によれば、リチウム2次電池300における固体電解質310の占める体積が減少するため、リチウム2次電池300のエネルギー密度が一層向上する。また、固体電解質310の平均厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは7μm以上であり、更に、好ましくは10μm以上である。そのような態様によれば、正極120と負極130とを一層確実に隔離することができ、電池が短絡することを一層抑止することができる。
【0107】
固体電解質310は、ゲル電解質を包含するものとする。ゲル電解質としては、特に限定されないが、例えば、高分子と、有機溶媒と、リチウム塩とを含むものが挙げられる。ゲル電解質における高分子としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン及び/又はポリエチレンオキシドの共重合体、ポリビニリデンフロライド、並びにポリビニリデンフロライド及びヘキサフロロプロピレンの共重合体等が挙げられる。
【0108】
(2次電池の製造方法)
リチウム2次電池300は、セパレータに代えて固体電解質を用いること以外は、上述した第1の本実施形態に係るリチウム2次電池100の製造方法と同様にして、製造することができる。
【0109】
固体電解質310の製造方法としては、上述した固体電解質310を得られる方法であれば特に限定されないが、例えば、以下のようにすればよい。固体電解質に従来用いられる樹脂、及びリチウム塩(例えば、固体電解質310が含み得るものとして上述した樹脂及びリチウム塩。)を有機溶媒(例えば、N-メチルピロリドン、アセトニトリル)に溶解する。得られた溶液を所定の厚みになるように成形用基板にキャストすることで、固体電解質310を得る。ここで、樹脂及びリチウム塩の配合比は、上記したように、樹脂の有する酸素原子と、リチウム塩の有するリチウム原子との比([Li]/[O])によって定めてもよい。上記比([Li]/[O])は、例えば0.02以上0.20以下である。成形用基板としては、特に限定されないが、例えばPETフィルムやガラス基板を用いてもよい。
【0110】
[変形例]
上記本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその本実施形態のみに限定する趣旨ではなく、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、様々な変形が可能である。
【0111】
例えば、第1の本実施形態のリチウム2次電池100において、負極130の両面にセパレータ140が形成されていてもよい。この場合、リチウム2次電池は、以下の順番:正極集電体/正極/セパレータ/負極/セパレータ/正極/正極集電体;で各構成が積層される。そのような態様によれば、リチウム2次電池の容量を一層向上させることができる。
【0112】
リチウム2次電池300は、リチウム固体2次電池であってもよい。そのような態様によれば、電解液を用いなくてもよいため、電解液漏洩の問題が生じず、電池の安全性が一層向上する。
【0113】
リチウム2次電池100は、セパレータ140を有していなくてもよい。そのような場合、正極120と負極130とが接触することに起因する電池の短絡が生じないように、正極120と負極130とは、十分に間隔を維持して固定されることが望ましい。
【0114】
本実施形態のリチウム2次電池は、正極集電体及び/又は負極に、外部回路へと接続するための端子を取り付けてもよい。例えば10μm以上1mm以下の金属端子(例えば、Al、Ni等)を、正極集電体及び負極の片方又は両方にそれぞれ接合してもよい。接合方法としては、従来公知の方法を用いればよく、例えば超音波溶接を用いてもよい。
【0115】
なお、本明細書において、「エネルギー密度が高い」又は「高エネルギー密度である」とは、電池の総体積又は総質量当たりの容量が高いことを意味するが、好ましくは800Wh/L以上又は350Wh/kg以上であり、より好ましくは900Wh/L以上又は400Wh/kg以上であり、更に好ましくは1000Wh/L以上又は450Wh/kg以上である。
【0116】
また、本明細書において、「サイクル特性に優れる」とは、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクルの前後において、電池の容量の減少率が低いことを意味する。すなわち、初期充電の後の1回目の放電容量と、通常の使用において想定され得る回数の充放電サイクル後の放電容量とを比較した際に、充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していないことを意味する。ここで、「通常の使用において想定され得る回数」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、30回、50回、70回、100回、300回、又は500回である。また、「充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対してほとんど減少していない」とは、リチウム2次電池が用いられる用途にもよるが、例えば、充放電サイクル後の放電容量が、初期充電の後の1回目の放電容量に対して、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であることを意味する。
【実施例
【0117】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0118】
[実施例1]
以下のようにしてリチウム2次電池を作製した。
まず、厚さ10μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後、水洗した。続いて、電解Cu箔を、負極コーティング剤としての1H-benzotriazole(1H-ベンゾトリアゾール)を含有する溶液に浸漬した後、乾燥させ、更に水洗することにより、負極コーティング剤がコーティングされたCu箔を得た。得られたCu箔を所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜くことにより負極を得た。
【0119】
セパレータとして、12μmのポリエチレン微多孔膜の両面に2μmのポリビニリデンフロライド(PVdF)がコーティングされた、厚さ16μm、所定の大きさ(50mm×50mm)のセパレータを準備した。
【0120】
正極は以下のようにして作製した。正極活物質としてLiNi0.85Co0.12Al0.032を96質量部、導電助剤としてカーボンブラックを2質量部、及びバインダーとしてポリビニリデンフロライド(PVdF)を2質量部混合したものを、正極集電体としての12μmのAl箔の片面に塗布し、プレス成型した。得られた成型体を、打ち抜き加工により、所定の大きさ(40mm×40mm)に打ち抜き、正極集電体に形成された正極を得た。
【0121】
電解液として、ジメトキシエタン(DME)に、LiN(SO2F)2(LiFSI)を溶解させて、1.0M LiFSI溶液を調製した。以下、かかる電解液を「電解液1」という。
【0122】
以上のようにして得られた正極集電体に形成された正極、セパレータ、及び負極コーティング剤としての1H-benzotriazole(1H-ベンゾトリアゾール)がコーティングされた負極を、この順に積層することによって、図1に示すような積層体を得た。負極のセパレータに対向する面は、1H-benzotriazole(1H-ベンゾトリアゾール)がコーティングされていた。更に、正極集電体及び負極に、それぞれ100μmのAl端子及び100μmのNi端子を超音波溶接で接合した後、ラミネートの外装体に挿入した。次いで、上記の電解液を外装体に注入した。外装体を封止することにより、リチウム2次電池を得た。
【0123】
[実施例2~47]
負極コーティング剤として、1H-benzotriazole(1H-ベンゾトリアゾール)に代えて、表6~7に記載の各化合物を用いたこと以外は実施例1と同様にして、リチウム2次電池を得た。なお、表6~7に記載される各化合物は略称で表されており、各化合物の略称と、化合物名と、構造式と、用いた実施例の番号との対応関係は表1~5に示されている。
【0124】
[実施例48~52]
負極を以下のようにして製造したこと以外は実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0125】
厚さ10μmのNi箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後、水洗した。続いて、Ni箔を、負極コーティング剤としての表7記載の各化合物を含有する溶液に浸漬した後、乾燥させ、更に水洗することにより、負極コーティング剤がコーティングされたNi箔を得た。得られたNi箔を所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜くことにより負極を得た。なお、表7に記載される各化合物は略称で表されており、各化合物の略称と、化合物名と、構造式と、用いた実施例の番号との対応関係は表1~5に示されている。
【0126】
[実施例53~57]
負極を以下のようにして製造したこと以外は実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0127】
厚さ10μmのSUS(ステンレス鋼)箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後、水洗した。続いて、SUS(ステンレス鋼)箔を、負極コーティング剤としての表7記載の各化合物を含有する溶液に浸漬した後、乾燥させ、更に水洗することにより、負極コーティング剤がコーティングされたSUS(ステンレス鋼)箔を得た。得られたSUS(ステンレス鋼)箔を所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜くことにより負極を得た。なお、表7に記載される各化合物は略称で表されており、各化合物の略称と、化合物名と、構造式と、用いた実施例の番号との対応関係は表1~5に示されている。
【0128】
[実施例58~114]
実施例58~114は、電解液1に代えて、以下のように調製される電解液2を用いたこと以外は、それぞれ実施例1~57と同様にしてリチウム2次電池を得た。用いた負極材料と、負極コーティング剤を表8~9に示す。なお、表8~9に記載される各化合物は略称で表されており、各化合物の略称と、化合物名と、構造式と、用いた実施例の番号との対応関係は表1~5に示されている。
【0129】
[比較例1]
厚さ10μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後、水洗し所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜いたものを負極として用いた以外は実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0130】
[比較例2]
負極を以下のようにして製造したこと以外は実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0131】
厚さ10μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後、水洗した。続いて、電解Cu箔を、塩酸溶液に浸漬した後、乾燥させ、更に水洗することにより、表面が酸処理されたCu箔を得た。得られたCu箔を所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜くことにより負極を得た。
【0132】
[比較例3]
負極を以下のようにして製造したこと以外は実施例1と同様にしてリチウム2次電池を得た。
【0133】
厚さ10μmの電解Cu箔を、スルファミン酸を含む溶剤で洗浄した後、水洗した。続いて、電解Cu箔を、希硫酸溶液に浸漬した後、乾燥させ、更に水洗することにより、表面が酸処理されたCu箔を得た。得られたCu箔を所定の大きさ(45mm×45mm)に打ち抜くことにより負極を得た。
【0134】
[比較例4~6]
比較例4~6は、電解液1に代えて上記の電解液2を用いたこと以外は、それぞれ比較例1~3と同様にしてリチウム2次電池を得た。用いた負極材料を表10に示す。
【0135】
[容量及びサイクル特性の評価]
以下のようにして、各実施例及び比較例で作製したリチウム2次電池の容量及びサイクル特性を評価した。
【0136】
作製したリチウム2次電池を、3.2mAで、電圧が4.2VになるまでCC充電した(初期充電)後、3.2mAで、電圧が3.0VになるまでCC放電した(以下、「初期放電」という。)。次いで、13.6mAで、電圧が4.2VになるまでCC充電した後、20.4mAで、電圧が3.0VになるまでCC放電するサイクルを、温度25℃の環境で繰り返した。各例について、初期放電から求められた容量(以下、「初期容量」という。)を表6~10に示す。また、各例について、その放電容量が初期容量の80%になったときのサイクル回数(表中、「サイクル回数」という。)を表6~10に示す。
【0137】
[直流抵抗の測定]
作製したリチウム2次電池を、5.0mAで4.2VまでCC充電した後、30mA、60mA、及び90mAでそれぞれ30秒間CC放電した。なお、この時、下限電圧は2.5Vに設定したが、いずれの例においても、30秒の放電では、2.5Vに到達しなかった。また、各放電の間には、5.0mAで再度4.2VまでCC充電する充電をはさみ、充電完了後に次のCC放電を実施した。以上のようにして得られる電流値Iと電圧降下Vをプロットし、各点を直線近似することにより得られるI-V特性の傾きから直流抵抗(DCR)(単位:Ω)を求めた。各例についての結果を表6~10に示す。
【0138】
【表1】
【0139】
【表2】
【0140】
【表3】
【0141】
【表4】
【0142】
【表5】
【0143】
【表6】
【0144】
【表7】
【0145】
【表8】
【0146】
【表9】
【0147】
【表10】
【0148】
表6~10から、負極コーティング剤によりコーティングされている負極を用いた実施例1~114は、そうでない比較例1~6と比較して、サイクル回数が高く、サイクル特性に優れることがわかる。また、負極コーティング剤によりコーティングされている負極を用いた実施例1~114は、そうでない比較例1~6に対して、直流抵抗が同程度であり、負極コーティング剤をコーティングしてもレート性能が悪化しないことがわかる。すなわち、本発明のリチウム2次電池は、サイクル特性及びレート性能に優れることがわかる。
【0149】
また、表6~10から、負極コーティング剤がコーティングされた負極を備えるリチウム2次電池において、上記の式(A)で表される1価の基及び式(B)で表される1価の基のうち少なくとも一方を有する化合物を溶媒として含有する電解液を用いると、サイクル特性が一層向上することがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明のリチウム2次電池は、エネルギー密度が高く、サイクル特性に優れるため、様々な用途に用いられる蓄電デバイスとして、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0151】
100,200,300…リチウム2次電池、110…正極集電体、120…正極、130…負極、140…セパレータ、210…負極端子、220…正極端子、310…固体電解質。
図1
図2
図3