(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】電極材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20241011BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20241011BHJP
H01M 4/90 20060101ALI20241011BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20241011BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241011BHJP
【FI】
H01M4/88 K
H01M4/88 C
H01M4/86 B
H01M4/90 M
H01M4/92
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2023001618
(22)【出願日】2023-01-10
【審査請求日】2024-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2022001995
(32)【優先日】2022-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/水素利用等高度化先端技術開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】野田 志云
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕介
(72)【発明者】
【氏名】松田 潤子
(72)【発明者】
【氏名】林 灯
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 一成
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-161273(JP,A)
【文献】特開2015-195193(JP,A)
【文献】特開2019-207789(JP,A)
【文献】特開2020-064852(JP,A)
【文献】特開2020-126816(JP,A)
【文献】特開2021-082578(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/88
H01M 4/86
H01M 4/90
H01M 4/92
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メソポーラスカーボンと、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面のうち少なくとも細孔内表面に固着した電子伝導性酸化物とからなる多孔質複合担体と、前記多孔質複合担体に担持された電極触媒粒子と、を含み、前記電極触媒粒子の一部又は全部が、前記メソポーラスカーボンの細孔内に、前記電子伝導性酸化物を介して担持されてなる電極材料の製造方法であって、
以下の工程(1)~(4)を含むことを特徴とする製造方法。
工程(1):炭素担体であるメソポーラスカーボンと電子伝導性酸化物前駆体のアルコキシド化合物とを非水有機溶媒中で均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して乾燥させる工程
工程(2):工程(1)で得られた乾燥物を、水蒸気処理することによって、電子伝導性酸化物前駆体を分解し、次いで熱処理を行うことで表面に電子伝導性酸化物が固着した多孔質複合担体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた多孔質複合担体と電極触媒前駆体を含む溶液を均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して乾燥物を得る工程
工程(4):工程(3)で得られた乾燥物を不活性ガス雰囲気で熱処理する工程
【請求項2】
前記メソポーラスカーボンが、メソ孔領域の細孔の一部又は全部が隣接するメソ孔領域の細孔と相互に連通している連通孔を有する請求項
1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項3】
前記メソポーラスカーボンの細孔径が3nm以上40nm以下である請求項
2に記載の電極材料の製造方法。
【請求項4】
前記電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である請求項
1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項5】
前記電子伝導性酸化物が、ニオブドープ酸化スズからなる請求項
4に記載の電極材料の製造方法。
【請求項6】
前記電極触媒粒子が、PtまたはPtを含む合金からなる粒子である請求項
1から5のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池電極の構成材料として使用できる電極材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、既にこれを動力源とする燃料電池自動車(FCV)がすでに市販され、今後トラックやバス、船舶などへの用途拡大と普及展開が期待されている。PEFCは、一般的に、固体高分子電解質膜の両面に一対の電極を配置させた膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly(MEA)を、ガス流路が形成されたセパレータで挟持した構造を有する。燃料電池用電極(特にはPEFC用電極)は、一般に、電極触媒活性を有する電極材料及び高分子電解質からなる電極触媒層と、ガス通気性と電子伝導性を兼ね備えたガス拡散層とから構成される。
【0003】
現在普及しているPEFC用電極材料として、炭素系担体に電極触媒微粒子(典型的にはPt又はPt合金微粒子)を分散させて担持した電極材料が用いられている。また、近年、メソポーラスカーボンを触媒担体の骨格にし、メソポーラスカーボンの細孔(メソ孔)内に、Pt微粒子を担持した電極材料が注目されている(例えば、特許文献1、2)。メソポーラスカーボンは、導電性に優れ、ガス拡散もしやすく、且つ高表面積を有するため、これを固体高分子形燃料電池の電極触媒の担体として使用すると、優れた発電性能を有する電極を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6969996号公報
【文献】特許第6931808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、PEFCの電解質膜は酸性(pH=0~3)であるため、PEFCの電極材料は酸性雰囲気下で使用されることになる。また、通常運転しているときのセル電圧は0.4~1.0Vであるが、起動停止時にはセル電圧が1.5Vまで上昇することが知られている。このようなPEFCの運転条件でのカソード及びアノードの状態は、カソードにおいては担体である炭素系材料が二酸化炭素(CO2)として分解する領域である。そのため、カソードでは、炭素系担体が電気化学的に酸化されてCO2に分解する反応が起こり、結果として炭素系担体が腐食されて(カーボン腐食)、触媒活性成分であるPt粒子の凝集・脱落等を引き起し、燃料電池の性能低下原因となる。また、カソードだけでなく、アノードにおいても運転初期などに燃料ガスが不足すると、その部分での電圧低下、あるいは濃度分極が生じて局部的に通常と反対の電位となり、炭素の電気化学的酸化分解反応が起こることがある。
【0006】
特許文献1,2で開示されているメソポーラスカーボンの細孔(メソ孔)内にPt微粒子を担持した電極材料は、Pt微粒子の凝集が起こりづらいとされているが、Pt微粒子が直接メソポーラスカーボンの細孔壁面に接触して担持されるため、カーボン腐食を避けることができず、長期間発電すると、カーボン腐食に起因するPt粒子の凝集・脱落等を防止することはできないという課題があった。
【0007】
このように、従来の電極材料は耐久性が不十分であった。そのため、電極材料について、従来にない高性能の材料開発が必須であり、特に酸化劣化に強くかつ導電性を十分確保できる電極材料が求められていた。
【0008】
かかる状況下、本発明の目的は、カーボン腐食に対する優れた耐久性と、メソポーラスカーボンに起因する優れた電子伝導性を併せ持つ電極材料、並びにこれを使用した燃料電池用電極、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に係るものである。
<1> メソポーラスカーボンと、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面のうち少なくとも細孔内表面に固着した電子伝導性酸化物とからなる多孔質複合担体と、前記多孔質複合担体に担持された電極触媒粒子と、を含み、前記電極触媒粒子の一部又は全部が、前記メソポーラスカーボンの細孔内に、前記電子伝導性酸化物を介して担持されてなる電極材料。
<2> 前記メソポーラスカーボンが、メソ孔領域の細孔同士が連通した構造を有する<1>に記載の電極材料。
<3> 前記メソポーラスカーボンの細孔径が3nm以上40nm以下である<1>または<2>に記載の電極材料。
<4> 前記電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である<1>から<3>のいずれかに記載の電極材料。
<5> 前記電子伝導性酸化物が、ニオブドープ酸化スズからなる<1>から<4>のいずれかに記載の電極材料。
<6> 前記メソポーラスカーボンの細孔内表面に固着した電子伝導性酸化物の粒径が、0.5nm以上3nm以下である<1>から<5>のいずれかに記載の電極材料。
<7> 前記電極触媒粒子が、PtまたはPtを含む合金からなる粒子である<1>から<6>のいずれかに記載の電極材料。
<8> <1>から<7>のいずれかに記載の電極材料とプロトン伝導性電解質材料とを含むことを特徴とする燃料電池用電極。
<9> 固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記アノードまたはカソードのいずれか一方又は両方が、<8>に記載の燃料電池用電極である膜電極接合体。
<10> <9>に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池。
【0011】
<1a> メソポーラスカーボンと、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面のうち少なくとも細孔内表面に固着した電子伝導性酸化物とからなる多孔質複合担体と、前記多孔質複合担体に担持された電極触媒粒子と、を含み、前記電極触媒粒子の一部又は全部が、前記メソポーラスカーボンの細孔内に、前記電子伝導性酸化物を介して担持されてなる電極材料の製造方法であって、
以下の工程(1)~(4)を含む製造方法。
工程(1):炭素担体であるメソポーラスカーボンと電子伝導性酸化物前駆体のアルコキシド化合物とを非水有機溶媒中で均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して乾燥させる工程
工程(2):工程(1)で得られた乾燥物を、水蒸気処理することによって、電子伝導性酸化物前駆体を分解し、次いで熱処理を行うことで表面に電子伝導性酸化物が固着した多孔質複合担体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた多孔質複合担体と電極触媒前駆体を含む溶液を均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して乾燥物を得る工程
工程(4):工程(3)で得られた乾燥物を不活性ガス雰囲気で熱処理する工程
<2a> 前記メソポーラスカーボンが、メソ孔領域の細孔の一部又は全部が隣接するメソ孔領域の細孔と相互に連通している連通孔を有する<1a>に記載の電極材料の製造方法。
<3a> 前記メソポーラスカーボンの細孔径が3nm以上40nm以下である<1a>または<2a>に記載の電極材料の製造方法。
<4a> 前記電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である<1a>から<3a>のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
<5a> 前記電子伝導性酸化物が、ニオブドープ酸化スズからなる<4a>に記載の電極材料の製造方法。
<6a> 前記電極触媒粒子が、PtまたはPtを含む合金からなる粒子である<1a>から<5a>に記載の電極材料の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、カーボン腐食に対する優れた耐久性と、メソポーラスカーボンに起因する優れた電子伝導性を併せ持つ電極材料、並びにこれを使用した燃料電池用電極、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)は、本発明の電極材料の概念模式図であり、(b)は、細孔近傍の拡大模式図である。
【
図3】本発明の固体高分子形燃料電池の代表的な構成を示す概念図である。
【
図4】実施例の電極材料(電極触媒未担持)の作製手順のフローチャートである。
【
図5】実施例1の電極材料(電極触媒未担持、「Sn
0.9Nb
0.1O
2/MC」)のFESEM像(左)及びSTEM像(右)である。
【
図6】(a)は、実施例2の電極材料(電極触媒未担持)のFESEM像(高倍率)であり、(b)は(a)の点線部分の領域(細孔(メソ孔)内部)の拡大写真である。
【
図7】メソポーラスカーボンの細孔(メソ孔)内の電子伝導性酸化物を示すイメージ図である。
【
図8】実施例1の電極材料(Pt/Sn
0.9Nb
0.1O
2/MC)のFESEM像(左)及びSTEM像(右)である。
【
図9】比較例1の電極材料(Pt/MC)のFESEM像(左)及びSTEM像(右)である。
【
図10】実施例2の電極材料(Pt担持、「Pt/Sn
0.98Nb
0.02O
2/MC」)のSTEM像であり、(a)は外表面、(b)はメソ孔内部、である。
【
図11】実施例1の電極材料(Pt/Sn
0.9Nb
0.1O
2/MC)及び比較例1の電極材料(Pt/MC)のサイクリックボルタモグラム(CV)である。
【
図12】実施例1及び比較例1の電極材料のリニアスイープボルタモグラム(1600rpm)である。
【
図13】起動停止サイクル試験の条件を示す図である。
【
図14】起動停止サイクル試験における実施例1及び比較例1の電極材料のECSA変化(相対値)を示す図である。
【
図15】比較例1の電極材料(Pt/MC)の起動停止サイクル試験前後(20000サイクル)のFESEM像(上)及びSTEM像(下)である。
【
図16】実施例1の電極材料(Pt/Sn
0.9Nb
0.1O
2/MC)の起動停止サイクル試験前後(60000サイクル)のFESEM像(上)及びSTEM像(下)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下の例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。なお、本明細書において、「~」とはその前後の数値又は物理量を含む表現として用いるものとする。
【0015】
<1.電極材料>
本発明の電極材料は、メソ孔領域の細孔を有するメソポーラスカーボンと、前記メソポーラスカーボンの細孔内表面及び細孔外表面のうち少なくとも細孔内表面に固着した電子伝導性酸化物とからなる多孔質複合担体と、前記多孔質複合担体に担持された電極触媒粒子と、を含み、前記電極触媒粒子の一部又は全部が、前記メソポーラスカーボンの細孔内に、前記電子伝導性酸化物を介して担持されてなることを特徴とする。
【0016】
本発明の電極材料において、電子伝導性酸化物はメソポーラスカーボンにおけるメソ孔領域の細孔内表面の一部または全部を被覆し、電極触媒粒子は当該電子伝導性酸化物に担持されている。すなわち、電極触媒粒子は、メソポーラスカーボンのメソ孔領域の細孔内に、前記電子伝導性酸化物を介して担持されている。
【0017】
なお、本発明の電極材料において、電極触媒粒子は、メソ孔領域の細孔の内部のみならず、メソ孔領域の細孔以外の細孔や外表面にも電子伝導性酸化物を介して電極触媒粒子が担持されていてもよい。
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
図1(a)は本発明の電極材料の代表的な構成を示す模式図であり、
図1(b)は、細孔近傍の拡大模式図である。
【0020】
図1(a)に示すように、本発明に係る電極材料1は、担体骨格であるメソポーラスカーボン2と、メソポーラスカーボン2(細孔内表面2a及び外表面2b)に固着された粒子状の電子伝導性酸化物3aと、からなる多孔質複合担体と、電子伝導性酸化物3aに担持された電極触媒粒子3bによって構成される。
【0021】
なお、
図1(a)に示す電極材料1は、外表面2bにも電子伝導性酸化物3a及びこれに分散担持された電極触媒粒子3bを有しているが、電子伝導性酸化物3a及び電極触媒粒子3bは、細孔内表面2aのみに存在していてもよい。
【0022】
電極材料1の担体骨格であるメソポーラスカーボン2(以下、「本発明に係るメソポーラスカーボン」と称す場合がある。)は、メソ孔領域の細孔を多数有する多孔質炭素である。
【0023】
なお、本明細書において、「細孔」とは、例えば径が150nm以下の孔(特に径が100nm以下の孔)を包含するものとする。「メソ孔領域の細孔」とは径が2nm~50nmの細孔を意味するものとする。また、本明細書において「マイクロ孔領域の細孔」とは径が2nm未満の細孔を意味し、「マクロ孔領域の細孔」とは径が50nm超150nm以下の細孔を意味するものとする。
【0024】
メソポーラスカーボン2として、メソ孔領域(2~50nm)の細孔を有する多孔質炭素が使用できるが、好適には細孔径3nm以上40nm以下である。この範囲であれば、細孔の内壁に、電子伝導性酸化物や電極触媒を固着(担持)した場合でも細孔内部への物質拡散が著しく阻害されることなく、スムーズに行われる。
【0025】
また、後述するように燃料電池用電極を作製するにあたり、本発明の電極材料と、プロトン伝導性電解質材料(イオノマー)とを混合するが、プロトン伝導性電解質材料(イオノマー)は、大きさ数十nmであるため、細孔径の小さいメソ孔内には浸入できないため、メソポーラスカーボンの細孔内に、前記電子伝導性酸化物を介して担持された電極触媒金属に対するイオノマー由来の被毒を抑制することができる。
【0026】
本発明に係るメソポーラスカーボンは、メソ孔領域(2nm~50nm)の細孔以外の領域(マイクロ孔領域、マクロ細孔)を含んでいてもよいが、メソ孔領域の細孔の割合が多い方が好ましい。
【0027】
メソポーラスカーボンの細孔の構造(細孔径、形状等)は、電子顕微鏡で観察することにより確認できる。電子顕微鏡としては、例えば、電界放出形走査電子顕微鏡(FESEM)、走査透過電子顕微鏡(STEM)が挙げられる。
【0028】
メソポーラスカーボン2におけるメソ孔領域の細孔は、他の細孔とは独立した単独孔の他、メソ孔領域の細孔の一部又は全部が隣接するメソ孔領域の細孔と相互に連通している連通孔を有しており、三次元的な網目構造を有することが好ましい。連通孔の存在により、メソポーラスカーボンの細孔内部の物質の拡散が促進される。
【0029】
電極材料の大きさや形状は、その骨格材料であるメソポーラスカーボンの大きさや形状に依存する。メソポーラスカーボンの大きさや形状は、燃料電池用電極を形成したときに電極材料が連続的に接触でき、かつ燃料電池用電極内の水素や酸素などのガス拡散及び水(蒸気)の排出がスムーズに行える程度の空間を形成できる範囲で決定される。
【0030】
本発明の電極材料に使用されるメソポーラスカーボンは、適宜合成して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。市販品としては、例えば、MgOを鋳型とするメソポーラスカーボンである東洋炭素株式会社製のCNovelシリーズ(設計メソ孔径:5~150nm)が挙げられる。
【0031】
(電子伝導性酸化物)
図1に示すように、本実施形態の電極材料1では、電子伝導性酸化物3aは、メソポーラスカーボン2におけるメソ孔領域の細孔の内表面2aに固着している。また、本実施形態の電極材料1では、電子伝導性酸化物3aは、メソポーラスカーボン2の外表面にも固着されているが、外表面の電子伝導性酸化物は必ずしも必須ではない。
【0032】
電子伝導性酸化物の固着量は、粒径(薄膜状の場合は膜厚)や表面積等の電子伝導性酸化物の物性、電子伝導性酸化物の製造方法によっても最適値がかわるため、十分な量の電極触媒粒子が担持できる範囲で適宜決定される。
【0033】
細孔内の電子伝導性酸化物の大きさは、メソポーラスカーボン2の細孔を閉塞せず、ガスなどの物質移動を阻害しない範囲で決定される。メソポーラスカーボン2の細孔径にもよるが、細孔の内表面に固着される電子伝導性酸化物の大きさは、好適には粒径0.5nm以上3nm以下である。
【0034】
外表面の電子伝導性酸化物3aは、メソ孔の閉塞に実質的に関与しないため、細孔内の電子伝導性酸化物より大きくてもよいが、電気抵抗を小さくするため、電極触媒粒子3bを分散担持することができる範囲内で粒径が小さい方が好ましい。外表面の電子伝導性酸化物を有する場合、その大きさは、好適には0.5nm以上10nm以下である。
【0035】
なお、「粒子状電子伝導性酸化物の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる任意の粒子状電子伝導性酸化物(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。
【0036】
なお、
図1(a),(b)では、電子伝導性酸化物3aは、メソポーラスカーボン2に分散固着された粒子状電子伝導性酸化物であるがこれに限定されず、電子伝導性酸化物3aはメソポーラスカーボン2に固着されていればよい。例えば、
図1(c)のように電子伝導性酸化物3aが分散せずに、連続してメソポーラスカーボン2の表面(特には細孔内表面)を被覆するように固着していてもよい。すなわち、本発明の電極材料において、固着した電子伝導性酸化物の形態は、本発明の目的を損なわない限り、粒子状、島状、薄膜状等のいずれの形態であってもよい
【0037】
電子伝導性酸化物3aを構成する電子伝導性酸化物としては、燃料電池(特には固体高分子形燃料電池)のアノード条件、カソード条件の少なくともいずれか一方で十分な耐久性と電子伝導性を併せ持つものであればよい。
なお、PEFCのカソード条件とは、PEFCの通常運転時のカソードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、空気等の酸素を含むガスが供給される条件(酸化雰囲気)を意味し、アノード条件とは、PEFCの通常運転時のアノードにおける条件であり、温度が室温~150℃程度、水素を含む燃料ガスが供給される条件(還元雰囲気)を意味する。
【0038】
電子伝導性酸化物として具体的には、酸化スズ、酸化モリブデン、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化チタン及び酸化タングステンから選択される1種を主体とする電子伝導性酸化物が挙げられる。ここで、本発明において「主体とする電子伝導性酸化物」とは、(A)母体酸化物のみからなるもの、及び(B)他元素をドープされた酸化物であって、母体酸化物が80mol%以上含まれるもの、を意味する。
【0039】
ドープされる元素として、具体的には、Sn,Ti,Sb,Nb,Ta,W,In,V,Cr,Mn,Moなどが挙げられる(但し、母体酸化物と異なる元素である。)。ドープされる元素は、母体酸化物より価数が高い元素であり、例えば、母体酸化物が酸化チタンの場合で例示すると、上記ドープ種元素のうち、Ti以外の元素(例えば、Nb)が選択される。
【0040】
この中でも、電子伝導性酸化物3aが、酸化スズを主体とする酸化物であることが好ましい。ここで、「主体とする酸化物」とは、対象となる酸化物を50mol%以上含む酸化物をいう。
ここで、電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする酸化物である場合には、本発明の燃料電池用電極をカソードとして使用することが好ましい。
元素としてスズ(Sn)は、PEFCのカソード条件で、酸化物であるSnO2が熱力学的に安定であり酸化分解が起こらない。また、酸化スズは、十分な電子伝導性を有し、電極触媒粒子(特には貴金属粒子)を高分散で担持が可能な担体となる。
【0041】
なお、本発明の燃料電池用電極をアノードとして使用する場合には、酸化スズを主体とする酸化物はPEFCのアノード条件で還元され金属Snとなるため好ましくない。
【0042】
酸化スズを主体とする酸化物の中でも、より優れた電極性能を有する燃料電池用電極が形成できる点で、ニオブ(Nb)を0.1~20mol%ドープしたニオブドープ酸化スズが特に好ましい。
【0043】
(電極触媒粒子)
電極触媒粒子3bは、電子伝導性酸化物3aに選択的に分散担持されている。ここで「電子伝導性酸化物に選択的に分散担持」とは、全ての電極触媒粒子(個数)のうち、80%以上、好適には90%以上、より好適には95%以上(100%を含む)が、電子伝導性酸化物に担持されていることを意味する。電子伝導性酸化物に担持された電極触媒粒子の割合は、評価対象となる電極材料を電子顕微鏡で観察した任意の電極触媒粒子(100個以上)を選出し、そのうち、電子伝導性酸化物に担持された個数と、メソポーラスカーボンに担持された個数とをカウントすることにより、評価することができる。
【0044】
電極触媒粒子3bは、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性を有するものであれば、貴金属系触媒、非貴金属系触媒のいずれでもよいが、好適には、Pt,Ru,Ir,Pd,Rh,Os,Au,Ag等の貴金属、及びこれらの貴金属を含む合金から選択される。なお、「貴金属を含む合金」とは「上記の貴金属のみからなる合金」と、「上記の貴金属とそれ以外の金属からなる合金で上記の貴金属を10質量%以上含む合金」を含む。貴金属と合金化させる上記「それ以外の金属」は、特に限定されないが、Co,Ni,W,Ta,Nb,Snを好適な例として挙げることができ、これらを1種類あるいは2種類以上を使用してもよい。また、分相した状態で2種類以上の上記貴金属及び貴金属を含む合金を使用してもよい。なお、本明細書において、上記貴金属、及びこれらの貴金属を含む合金を以下、「電極触媒金属」と呼ぶ場合がある。
【0045】
電極触媒金属の中でも、Pt及びPtを含む合金は、固体高分子形燃料電池の作動温度である80℃付近の温度域において、酸素の還元(及び水素の酸化)に対する電気化学的触媒活性が高いため、特に好適に使用することができる。
【0046】
電極触媒粒子3bの形状は、特に制限されず公知の電極触媒粒子と同様の形状のものが使用できる。具体的な形状として球形、楕円形、多面体、コアシェル構造等が挙げられる。また、電極触媒粒子3bの構造は、結晶に限定されず、非晶質であってよく、結晶と非晶質の混合体であってもよい。
【0047】
電極触媒粒子3bの大きさは、小さいほど電気化学反応が進行する有効表面積が増加するため、電気化学的触媒活性が高くなる傾向がある。しかし、その大きさが小さすぎると、電気化学的反応活性が低下する。従って、電極触媒粒子3bの大きさは、平均粒子径として0.5~4nmであることが好ましい。
【0048】
なお、本発明における「電極触媒粒子の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる電極触媒粒子(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。電子顕微鏡像による平均粒径算出時は、微粒子の形状が、球形以外の場合は、粒子における最大長を示す方向の長さをその粒径とする。
【0049】
電極触媒粒子の担持量は、触媒の種類、担体である電子伝導性酸化物の大きさ(厚み)等の条件を考慮して適宜決定される。触媒担持量が少なすぎると電極性能が不十分となり、多すぎると電極触媒粒子が凝集して性能が低下する場合がある。
【0050】
電極触媒粒子の担持量は、電極材料の全重量に対して、好ましくは0.1~60質量%、より好ましくは0.5~20質量%とすると、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の電極反応活性を得ることができる。
【0051】
また、電極触媒粒子の担持量は、電子伝導性酸化物に対して、通常、3~40質量%である。このような範囲であれば、単位質量あたりの触媒活性に優れ、担持量に応じた所望の電気化学的触媒活性を得ることができる。
前記担持量が3質量%未満の場合は、電極反応活性が不十分であり、40質量%超の場合は電極触媒粒子の凝集が起こりやすく、酸素や水素の電気化学反応に対する有効表面積が低下するという問題がある。なお、電極触媒粒子の担持量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析(ICP)によって調べることができる。
【0052】
<2.電極材料の製造方法>
上述した本発明の電極材料の製造方法は特に限定されず、電極材料を構成するメソポーラスカーボン、電子伝導性酸化物、電極触媒粒子の種類に応じて適宜好適な方法を選択すればよく、通常、メソポーラスカーボンに電子伝導性酸化物を担持した後に、電子伝導性酸化物に電極触媒粒子を担持する方法が採用される。
【0053】
本発明の電極材料の製造方法の好適例は、以下に説明する工程(1)~(4)を含む製造方法(以下、「本発明の製造方法」、と称す場合がある。)である。
【0054】
工程(1):炭素担体であるメソポーラスカーボンと電子伝導性酸化物前駆体のアルコキシド化合物とを非水有機溶媒中で均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して乾燥させる工程
工程(2):工程(1)で得られた乾燥物を、水蒸気処理することによって、電子伝導性酸化物前駆体を分解し、次いで熱処理を行うことで表面に電子伝導性酸化物が固着した多孔質複合担体を得る工程
工程(3):工程(2)で得られた多孔質複合担体と電極触媒前駆体を含む溶液を均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して乾燥物を得る工程
工程(4):工程(3)で得られた乾燥物を不活性ガス雰囲気で熱処理する工程
【0055】
以下、本発明の製造方法について詳述する。
【0056】
工程(1)では、炭素担体であるメソポーラスカーボンと電子伝導性酸化物前駆体のアルコキシド化合物とを非水有機溶媒中で均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して乾燥させる。
炭素担体であるメソポーラスカーボンは、上述のようにメソ孔領域の細孔(径が2nm~50nm)を有し、この細孔内には水系溶媒は侵入しがたいが、非水系有機溶媒を使用することによりアルコキシド化合物を細孔内に侵入させることができる。
そのため、電子伝導性酸化物前駆体としてアルコキシド化合物を使用し、これをメソポーラスカーボンと共に非水有機溶媒に溶解させて混合し、非水系有機溶媒を留去することのよってアルコキシド化合物をメソポーラスカーボンの表面(特には細孔内表面)に吸着させた状態で乾燥させることができる。
【0057】
電子伝導性酸化物前駆体としては、目的とする電子伝導性酸化物に対応する金属を含むアルコキシド化合物を使用することができる。
例えば、電子伝導性酸化物が、Sn酸化物である場合には、アルコキシド化合物として、スズメトキシド、スズエトキシド、スズプロポキシド、スズブトキシド、スズメトキシエトキシドおよびスズエトキシエトキシドを使用することができる。この中でも、スズエトキシドが好適である。
例えば、目的とする電子伝導性酸化物が、ニオブ酸化物を含有するSn酸化物である場合には、上記スズアルコキシド化合物と共に、ニオブアルコキシド化合物を使用すればよい。
ニオブアルコキシド化合物としては、ニオブメトキシド、ニオブエトキシド、ニオブプロポキシド、ニオブブトキシド、ニオブメトキシエトキシドおよびニオブエトキシエトキシドを使用することができる。この中でも、ニオブエトキシドが好適である。
【0058】
非水系有機溶媒は、アルコキシド化合物が反応しないものであればよく、例えば、アセトン、アセチルアセトン、トルエン、キシレン、ケロシン等が挙げられる。
非水系有機溶媒は、実質的に水を含有しないことが好ましい。ここで、「実質的に水を含有しない」とは、親水性の溶媒などに含有される不純物としての微量の水の存在までも除外するものではなく、当業者が工業上行う通常の努力によって溶媒中の水分割合を可及的に少なくした場合を包含する。
【0059】
メソポーラスカーボン及び電子伝導性酸化物前駆体の濃度は、本発明の電極材料が製造できる範囲で適宜決定すればよい。
【0060】
溶媒を留去する方法は、本発明の目的を損なわない限り任意であるが、減圧による溶媒の留去が好ましい。
【0061】
工程(2)では、まず、工程(1)で得られた乾燥物を、水蒸気処理することによって、メソポーラスカーボンの表面(細孔内表面、細孔外表面)に吸着した電子伝導性酸化物前駆体(アルコキシド化合物)を加水分解する。ここで、「水蒸気処理」とは、水蒸気を含むガスを接触させて反応させることを意味する。
水蒸気処理に使用されるガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスであり、通常、窒素である。
【0062】
水蒸気処理に使用されるガスには、0.5~90%(好適には1~20%)の水蒸気が含まれることが好ましい。
【0063】
水蒸気処理による加水分解を行った後に、熱処理を行うことでアルコキシド化合物の加水分解物(主に水酸化物)を目的とする電子伝導性酸化物に変換させる。
【0064】
熱処理温度は、アルコキシド化合物の加水分解物が酸化物に変化する温度以上であればよく、電子伝導性酸化物やその前駆体の種類等を考慮して適宜選択される。
Sn酸化物の場合、熱処理温度は350℃以上であり、好適には400℃以上、より好適には500℃以上である。上限温度は700℃以下、好適には650℃以下である。
【0065】
熱処理温度の時の雰囲気は、アルコキシド化合物の加水分解物が酸化物に変化し、電子伝導性酸化物や炭素担体への影響がない雰囲気であればよく、通常、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気である。
【0066】
工程(3)では、工程(2)で得られた多孔質複合担体と電極触媒前駆体を含む溶液を均一になるまで混合した後に、溶媒を留去して乾燥物を得る。工程(3A)により、多孔質複合担体(表面に電子伝導性酸化物が固着したメソポーラスカーボン)における電子伝導性酸化物の上に電極触媒粒子前駆体が担持される。
【0067】
工程(3)における電極触媒前駆体は、本発明の目的を損なわない限り制限はないが、電極触媒前駆体によっては、電極金属粒子の粒径や分散性の点で、本発明の目的を達成することができない場合がある。
【0068】
高分散で粒径の小さい電極触媒粒子を得ることが可能な電極触媒前駆体として、電極触媒のアセチルアセトナート化合物が好適である。電極触媒前駆体であるアセチルアセトナート化合物を多孔質複合担体へ担持した後に、電極触媒前駆体を電極触媒粒子へ直接的に変換される。この方法では、電極触媒前駆体に残留不純物を含まないため、触媒活性の向上が見込まれる。
アセチルアセトナート法では、電極触媒のアセチルアセトナート化合物をジクロロメタンなどの適当な溶媒に溶解させた溶液に多孔質複合担体を分散し、それを撹拌及び溶媒の留去を行うことにより、電極触媒前駆体の担持が行うことができる、この方法では塩素や硫黄といった不純物が混入することを回避でき、ナノサイズの粒径分布の揃った電極触媒粒子を高分散に担持することができる。また、溶液中に強い酸化剤や還元剤を用いることがないため、多孔質複合担体を構成する電子伝導性酸化物や炭素担体であるメソポーラスカーボンが劣化することを回避できるという利点がある。
【0069】
電極触媒のアセチルアセトナート化合物としては、Pt,Ru,Ir,Pd,Rh,Os,Au,Ag等の貴金属のアセチルアセトナートが挙げられ、これらを1種又は2種以上を使用することができる。溶媒は、貴金属アセチルアセトナートを分散できる有機溶媒であればよく、代表例としては、ジクロロメタン、アセチルアセトンが挙げられる。
【0070】
アセチルアセトナート法による電極触媒微粒子の担持方法を提示すると、電子伝導性酸化物が担持された導電補助材と貴金属アセチルアセトナートとを所定の容器に入れ、氷冷しながら、超音波攪拌装置にて、溶媒が全て揮発するまで攪拌する方法が挙げられる。
【0071】
工程(4)では、工程(3)で得られた乾燥物を不活性ガス雰囲気で熱処理する。
工程(3)で得られた乾燥物は、工程(4)により、多孔質複合担体に担持された電極触媒粒子体は、不定比の金属酸化物を含むことがあり、そのままでは活性が低いため、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気、あるいは水素を含有する還元性雰囲気中で熱処理することで電極触媒となる金属の有する電気化学触媒作用を活性化する。
【0072】
熱処理条件は、電子伝導性酸化物や、電極触媒となる金属や前駆体の種類にもよって、適宜選択される。例えば、酸化スズ等の還元性雰囲気では不安定な電子伝導性酸化物の場合には、電極触媒がPtやPt合金の場合、通常、180~400℃、好適には200~250℃である。温度が低すぎると電極触媒となる金属の活性化が不十分となり、温度が高すぎると電極触媒粒子が凝集し、有効反応表面積が小さくなりすぎる問題がある。雰囲気には必要に応じて水蒸気を加えてもよい。
【0073】
<3.電極>
本発明の電極は、上述の本発明の電極材料とプロトン伝導性電解質材料を含む。本発明の電極において、本発明の電極材料が互いに接触して導電パスを形成している。
【0074】
以下に、本発明の電極材料を用いて形成した燃料電池用電極について説明する。具体的には、上述の電極材料をPEFCにおける電極として用いたケースについて説明する。なお、本発明の電極材料は、燃料電池用電極以外の電極(例えば、固体高分子形水電解装置用電極)としても使用することが可能である。
【0075】
本発明の電極は、上述の電極材料のみから構成されていてもよいが、通常、燃料電池の電解質に使用されるプロトン伝導性電解質材料(以下、「プロトン伝導性電解質材料」、または単に「電解質材料」と記載する場合がある。)を含む。電極材料と共に燃料電池の電極に含まれる電解質材料は、燃料電池用電解質膜に使用される電解質材料と同じであってもよく、異なってもよい。電極と電解質膜の密着性を向上させる観点から、同じものを用いることが好ましい。
【0076】
PEFCの電極と電解質膜とに使用される電解質材料としては、プロトン伝導性電解質材料が挙げられる。このプロトン伝導性電解質材料は、ポリマー骨格の全部または一部にフッ素原子を含むフッ素系電解質材料と、ポリマー骨格にフッ素原子を含まない炭化水素系電解質材料に大別され、この両者を電解質材料として使用することができる。
【0077】
フッ素系電解質材料としては、具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などが好適な一例として挙げられる。
【0078】
炭化水素系電解質材料としては、具体的には、ポリスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールスルホン酸、ポリベンズイミダゾールホスホン酸、ポリイミドスルホン酸等のポリマーや、これらにアルキル基等の側鎖を有するポリマーが好適な一例として挙げられる。
【0079】
上記電極材料と電極材料と混合する電解質材料との質量比は、これらの材料を用いて形成される電極内の良好なプロトン伝導性を付与し、かつ電極内のガス拡散及び水蒸気の排出をスムーズに行えるように適宜決定すればよい。ただし、電極材料に混合する電解質材料の量が多すぎるとプロトン伝導性はよくなるが、ガスの拡散性は低下する。逆に混合する電解質材料の量が少なすぎるとガス拡散性はよくなるが、プロトン伝導性は低下する。そのため、上記電極材料に対する電解質材料の質量比率は、10~50質量%が好適な範囲である。この質量比率が10質量%より小さい場合は、プロトン伝導性を有する材料の連続性が悪くなり、燃料電池用電極として十分なプロトン伝導性が確保できない。逆に50質量%より大きい場合は電極材料の連続性が悪くなり、燃料電池用電極として十分な電子伝導性を有することができなくなる場合がある。さらには電極内部でのガス(酸素、水素、水蒸気)の拡散性が低下する場合がある。
【0080】
本発明の電極は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述の電極材料やプロトン伝導性材料以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、上述の電極材料に含まれるメソポーラスカーボン以外の導電材(以下、「他の導電材」と記載する。)を含んでいてもよい。他の導電補助材を含むことにより、電極材料をつなぐ導電パスが増加し、電極全体としての導電性が向上する場合がある。
【0081】
他の導電材としては、電極に使用される公知の導電材を使用することができる。典型的には炭素系の導電材であり、例えば、カーボンブラック、活性炭などの粒子状炭素(鎖状連結炭素粒子も含む)、カーボンファイバーやカーボンナノチューブ(CNT)等の繊維状炭素などが挙げられる。また、電極触媒粒子を未担持のメソポーラスカーボンを他の導電材として使用することもできる。
【0082】
なお、本発明の電極材料を含む電極として、PEFC用電極について説明したが、PEFC以外にもアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池などの各種燃料電池における電極として用いることができる。また、PEFCと同様な高分子電解質膜を使用した水の電解装置用の電極としても好適に使用することができる。
なお、本発明の電極材料を含む電極は、酸素の還元、水素の酸化に対する優れた電気化学的触媒活性を有するため、カソード及びアノードとして使用することができる。特に、上記(反応2)で示される酸素の還元電気化学的触媒活性に優れ、燃料電池の運転条件で担体である導電性材料の電気化学的酸化分解が起こらないことから、特にカソードとして好適に使用することができる。
【0083】
また、本発明の電極は、PEFC以外にもアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池などの各種燃料電池における電極として用いることができる。また、PEFCと同様な固体高分子電解質膜を使用した水の電解装置用の電極としても好適に使用することができる。
【0084】
<4.膜電極接合体(MEA)>
本発明の膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記カソードとアノードの少なくとも一方が、上記本発明の電極であることを特徴とする。
【0085】
本発明の好適な実施形態として、電子伝導性酸化物に酸化スズを主体とする酸化物を用いた電極材料を含む電極を本発明の電極をカソードに使用した膜電極接合体について説明する。
図2は本発明の実施形態に係る膜電極接合体の断面構造を模式的に示したものである。
図2に示すように膜電極接合体10は、カソード4及びアノード5が固体高分子電解質膜6に対面して配置された構造を有する。
【0086】
カソード4は、電極触媒層4aとガス拡散層4bで構成される。
電極触媒層4aは、上述の通り、本発明の電極(電子伝導性酸化物:酸化スズを主体とする酸化物)を用いているため、詳細な説明は省略する。なお、アノード5として本発明の電極を使用した場合には、カソード4としてその他の公知のカソードも使用できる。
【0087】
ガス拡散層4bとしては従来公知のガス拡散層を使用することができる。例えば、従来PEFCのガス拡散層として使用されている、100nm~90μm程度の細孔径分布を有する導電性の炭素系シート状部材が挙げられ、好適には撥水処理が施されたカーボンクロス、カーボンペーパー、カーボン不織布等を用いることができる。また、ステンレススチール等の炭素系材料以外のシート状部材でもよい。このようなガス拡散層4bの厚みは特に制限はないが、通常、50μm~1mm程度である。また、ガス拡散層4bは、その片面に平均粒径10~100nm程度の炭素微粒子の集合体及び撥水剤からなるマイクロポーラス層を有していてもよい。
【0088】
アノード5は、電極触媒層5aとガス拡散層5bで構成される。アノード5としては、本発明の電極のほか、その他の公知のアノードも同様に使用できる。例えば、グラファイト、カーボンブラック、活性炭、カーボンナノチューブ、グラッシーカーボンなどの炭素系材料からなる導電性担体の表面上に、触媒である貴金属粒子を担持した電極材料と、燃料電池の電解質材料との分散液を塗布・乾燥して製造された電極触媒層5aを、ガス拡散層5b上に形成した電極が挙げられる。アノード5のガス拡散層5bは、カソード4で説明したガス拡散層4bと同様のものが使用できる。
【0089】
固体高分子電解質膜6としては、プロトン伝導性を有し、化学的安定性及び熱的安定性を有するものであれば公知のPEFC用電解質膜を用いればよい。なお、
図2では厚みを強調して図示しているが、電気抵抗を小さくするため固体高分子電解質膜6の厚みは通常0.007~0.05mm程度である。
【0090】
固体高分子電解質膜6を構成する電解質材料としては、フッ素系電解質材料、炭化水素系電解質材料が挙げられる。特にフッ素系電解質材料で形成されている電解質膜が、耐熱性、化学的安定性などに優れているため好ましい。具体的には、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)などが好適例として挙げられる。
【0091】
以上、図面を参照して本発明のMEAの実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
例えば、上記実施の形態ではカソードのみに本発明の電極を採用しているが、電子伝導性酸化物として酸化スズを主体とする酸化物に代えて、アノード条件で安定な酸化物にすることによって、本発明の電極をアノードにも用いることもできる。
【0092】
<5.固体高分子形燃料電池>
本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)は、本発明の膜電極接合体を備えてなり、通常、膜電極接合体をガス流路が形成されたセパレータで挟持した構造を有する。
【0093】
図3は本発明の固体高分子形燃料電池の代表的な構成を示す概念図である。
図3に示すように、固体高分子形燃料電池20においてアノード5には水素が供給され、(反応1)2H
2 → 4H
++4e
-によって、生成したプロトン(H
+)は固体高分子電解質膜6を介してカソード4に供給され、また、生成した電子は外部回路21を介してカソードへ供給され、(反応2)O
2+4H
++4e
-→2H
2Oによって、酸素と反応して水を生成する。
このアノードとカソードの電気化学反応によって両電極間に電位差を発生させる。本発明の固体高分子形燃料電池において、本発明の膜電極接合体以外の構成要素は、公知の固体高分子形燃料電池と同様であるため、詳細な説明を省略する。
実際には、本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)が発電性能に応じた基数だけ積層された燃料電池スタックが形成され、ガス供給装置、冷却装置などその他付随する装置を組み立てることにより使用される。
【実施例】
【0094】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において、メソポーラスカーボンを、「MC」と記載する場合がある。
【0095】
1.電極材料の製造
実施例の電極材料として、以下の実施例1,2の電極材料を製造した。
【0096】
使用した多孔質炭素、貴金属前駆体化合物、電子伝導性酸化物は以下の通りである。
<多孔質炭素>
多孔質炭素として、下記メソポーラスカーボン(MC)(東洋炭素(株)製、「多孔質炭素CNovel MJ(4)010(グレード名)」)を使用した。
設計細孔径:10nm
比表面積:1100m2/g
全細孔容積:2.0mL/g
ミクロ孔容積:0.4mL/g
粒径:100mesh pass(粉砕して使用)
<電子伝導性酸化物前駆体化合物>
Sn原料化合物として、スズエトキシド(Sn(OC2H5)4)(strem chemicals INC)、Nb原料化合物として、ニオブエトキシド(Nb(OC2H5)5)(Sigma Aldrich)を使用した。
<貴金属前駆体化合物>
貴金属前駆体化合物として、Ptアセチルアセトナート(Pt(C5H7O2)2、Platinum(II) acetylacetonate,97%,Sigma Aldrich)を使用した。なお、Ptアセチルアセトナートを、以下、Pt前駆体(Pt(acac)2)と記載する場合がある。
【0097】
<実施例1>
図4に示すフローチャートのとおり、水蒸気加水分解法によって実施例の電極材料(電極触媒未担持)を作製した。
まず、担体骨格材である上記メソポーラスカーボン(MC)200mgを、ボールミルで、1μm程度の粒径になるまで粉砕を施した後、有機溶媒(容積比2:1のアセチルアセトンとトルエンの混合液)に分散させて、MCを含む分散液を得た。次いで、金属エトキシド試薬(スズエトキシド750mg、及びニオブエトキシド128mg)を、Sn:Nb=90:10(mol比)になるように混合有機溶媒に溶解した金属エトキシド溶液を準備し、この金属エトキシド溶液を、MCを含む分散液に加え、溶媒総量は45mLになるよう調製してから、超音波撹拌をしながら減圧し、有機溶媒を蒸発させることで、MC表面(細孔内表面及び外表面)に金属エトキシド試薬を均一に吸着させた乾燥粉末を得た。
得られた乾燥粉末を粉砕後、150℃の水蒸気雰囲気(3%加湿N
2雰囲気)中で3時間保持することで金属エトキシド試薬の水蒸気加水分解を進行させたのち、300℃に昇温して更に3時間保持し、ニオブドーブ酸化スズ(Sn
0.9Nb
0.1O
2)を結晶化(XRDにて確認)させた。その後、自然冷却で室温に戻すことによって実施例1の電極材料(電極触媒未担持、「Sn
0.9Nb
0.1O
2/MC」)を得た。
【0098】
次いで、実施例1の電極材料(Pt未担持)に、実施例1の電極材料(電極触媒未担持)に、白金アセチルアセトナート法により、電極触媒粒子であるPt触媒粒子を担持した。Pt前駆体(Pt(acac)2)の量は、Ptが20wt%になるようにした。
ナスフラスコに、ニオブドーブ酸化スズを担持したMCからなる実施例1の電極材料(電極触媒未担持)およびPt前駆体を加え、さらにジクロロメタンを加え溶解させた。次いで、ナスフラスコを氷冷しながら、超音波撹拌装置にて、溶媒が全て揮発するまで撹拌して、乾燥粉末を得た。次いで、得られた乾燥粉末をN2雰囲気下で、210℃で3時間、240℃で3時間還元処理を施すことで、実施例1の電極材料(Pt/Sn0.9Nb0.1O2/MC)を得た。
【0099】
<実施例2>
金属エトキシド溶液を、Sn:Nb=98:2(mol比)になるように調製し、金属エトキシド試薬を吸着させた乾燥粉末の加熱温度を400℃(実施例1:300℃)にした以外は、実施例1と同様にして、実施例2の電極材料(Pt担持、「Pt/Sn0.98Nb0.02O2/MC」)を得た。なお、実施例2の電極材料において、結晶のニオブドーブ酸化スズ(Sn0.98Nb0.02O2)が形成されていた(XRDにて確認)。
【0100】
<比較例1>
比較例として、金属エトキシド溶液を使用しないこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の電極材料(Pt/MC)を得た。
【0101】
2.物性評価
2-1.微細構造観察
(1)電極材料(電極触媒未担持)
図5に実施例1の電極材料(電極触媒未担持)のFESEM像及びSTEM像(top view)を示す。また、
図6(a)に実施例2の電極材料(電極触媒未担持)のFESEM像(top view)、
図6(b)に
図6(a)の点線部分の領域(メソ孔に相当)の拡大写真を示す。
図5,
図6(a)のとおり、実施例1の電極材料、実施例2の電極材料について、MC外表面に2~5nmの粒子状のSn(Nb)O
2が固着されていることが確認された。
また、
図6(a)の点線部分の領域を拡大し、メソ孔内部を観察すると、メソ孔の内表面を被覆するように粒径2nm程度(粒径3nm以下)のSn(Nb)O
2が確認された。
図7にMCの細孔(メソ孔)の内部の粒子状のSn(Nb)O
2のイメージ図を示す。
【0102】
(2)電極材料(Pt担持)
図8に実施例1の電極材料(Pt/Sn
0.9Nb
0.1O
2/MC)、
図9に比較例1の電極材料(Pt/MC)のFESEM像及びSTEM像(top view)を示す。
図8から、実施例1の電極材料ではPt微粒子がSn(Nb)O
2を介してMCに分散担持されていることが確認された。また、
図9から、比較例1の電極材料では、Pt微粒子が直接MCに担持されていることが確認された。
【0103】
実施例2の電極材料(Pt/Sn
0.98Nb
0.02O
2/MC)のSTEM像(top view)を、
図10(a),(b)に示す。
図10(a)に示す実施例2の電極材料の外表面では、粒子状のSn(Nb)O
2に、Pt微粒子(粒径2~3nm)が担持されていることが確認された。また、
図10(b)に示す実施例2の電極材料のメソ孔(約10nm)内においても、Sn(Nb)O
2の上に、Pt微粒子が担持されていることが確認された。
【0104】
3.電気化学的評価(ハーフセル)
3-1.サイクリックボルタンメトリー(CV)の評価
実施例1及び比較例1の電極材料について、サイクリックボルタンメトリー(CV)による評価を行った。CVから求めた水素吸着量から電気化学的表面積(ECSA)を算出した。なお、ECSAは、電極材料に含まれるPtの有効表面積に相当する。
【0105】
評価用の燃料電池電極は、以下の手順で作製した。
まず、超純水19mLと2-プロパノール6mLの混合溶液を、電極材料粉末の入ったサンプル瓶に加え、続けて5%Nafion分散液100μLを加えた後、氷水にサンプル瓶を浸した状態で超音波撹拌を30分間行って電極材料分散液とした。なお、電極材料粉末の量は、電極上に電極材料の分散液10μLを滴下した際に、電極上の単位面積当たりのPt質量が17.3μg-Pt・cm-2となるようにした。調製した電極材料分散液10μLを、マイクロピペットを用いてAuディスク電極上に滴下し、恒温器に入れて60℃で約15分間乾燥を行うことで、Nafion膜を形成させて電極材料をAu電極上に固定し、評価用の燃料電池電極(作用極)を得た。
【0106】
CVの測定条件は以下の通りである。なお、1原子のPtにつき1原子のHが吸着すると仮定すると210μC/cm2の電気量となる。
測定:三電極式セル(作用極:評価用の燃料電池電極、対極:Pt、参照極:Ag/AgCl)
電解液:0.1M HClO4(pH:約1)
測定電位範囲:0.05~1.2V(可逆水素電極基準)
走査速度 :50 mV/s
水素吸着量:0.05~0.4Vの水素吸着を示すピーク面積から算出
電気化学的表面積(ECSA):下記式より算出
ECSA=(水素吸着量)[μC] / 210[μC/cm2]
【0107】
図11に実施例1及び比較例1の電極材料のCVを示す。
図11の通り、実施例1の電極材料(Pt/Sn
0.9Nb
0.1O
2/MC)を使用した電極は、水素の吸脱着に由来するピーク(0.05~0.4V)が観察され、燃料電池用電極として機能することが確認された。
さらに、実施例1の電極材料(Pt/Sn
0.9Nb
0.1O
2/MC)は、電子伝導性酸化物を有さない比較例1の電極材料(Pt/MC)と比較して、水素吸着量が多く、電気化学的表面積(ECSA)が大きいことが確認された(ECSA 実施例1:112m
2/g、比較例1:79.5m
2/g)。
【0108】
3-2.ORR活性の評価
実施例1及び比較例1の電極材料について、ORR活性を評価した。
ORR活性は、回転ディスク電極法(RDE法)でリニアスイープボルタンメトリー(LSV)を行い、得られる活性化支配電流(ik)を基に算出するMass activity(単位Pt質量当たりの活性)を指標とした。
Mass activity = ik / 電極上のPt質量
活性化支配電流(ik)は、回転電極測定によって得られた電流-電位曲線について、任意の電位においてi-1とω-1/2でプロットして得られるKoutecky-Levichプロットを作成し、得られた直線を外挿することによって切片から求めた。
具体的な手順として、まず、O2を50mL/分で30分間バブリングした後、0.2VRHEから貴な方向に向けて10mV/sで1.20VRHEまで電位を走査し、測定を行った。なお、測定中は常にO2を50mL/分でパージした。なお、VRHEは可逆水素電極(RHE)基準の電位である。
【0109】
図12に実施例1及び比較例1の電極材料のリニアスイープボルタモグラム(1600rpm)を示す。
図12のORR測定で得られた実施例1の電極材料の0.9V
RHE時のMass activityは38.2A/g_
Ptであった。
【0110】
3-3.起動停止サイクル試験
実施例1及び比較例1の電極材料について燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が推奨する方法(固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案、平成23年1月発行)で起動停止サイクル試験を行った。起動停止サイクル試験は、カーボン腐食を促進させるサイクル試験であり、具体的には
図13に示す1.0~1.5V
RHEの短形波を、1サイクル当たり2秒印加することを繰り返し、サイクル試験後の電極触媒の劣化挙動をECSA変化として評価する。
【0111】
図14に起動停止サイクル試験(6万サイクル迄)における実施例1及び比較例1の電極材料のECSA変化(相対値)を示す。
図14からわかるように、比較例1の電極材料(Pt/MC)を使用した電極は、起動停止サイクル試験直後からECSAが大きく減少し、1万サイクルで初期値の50%程度となり、2万サイクルまで試験を継続できなかった(ECSA維持率はほぼ0)。これに対し、実施例1の電極材料(Pt/Sn
0.9Nb
0.1O
2/MC)を使用した電極では、ECSAの減少が緩やかであり、6万サイクルでも、初期値の30%程度を保持できることが確認された。
【0112】
図15に比較例1の電極材料(Pt/MC)の起動停止サイクル試験前後(20000サイクル)のFESEM像及びSTEM像、
図16に実施例1の電極材料(Pt/Sn
0.9Nb
0.1O
2/MC)の起動停止サイクル試験前後(60000サイクル)のFESEM像及びSTEM像を示す。
以上の結果から、実施例1の電極材料におけるPt粒子は、サイクル試験を進めても、電子伝導性酸化物(Sn(Nb)O
2)を介してMC表面(細孔内表面及び外表面)に高分散担持された状態を保持しているのに対し、電子伝導性酸化物を有さない比較例1の電極材料(Pt/MC)では、サイクル試験の進行に伴い、Pt粒子が脱離・凝集したことに起因していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明の電極材料によれば、優れた電極触媒活性、電子伝導性、ガス拡散性、及び優れた耐久性を有する燃料電池用電極を供することができ、自動車、電力、ガス、家電業界で使用される固体高分子形燃料電池の電極構成部材として有望である。特に、負荷変動が激しい燃料電池自動車向けに使用されることが期待される
【符号の説明】
【0114】
1 電極材料
2 多孔質炭素(メソポーラスカーボン)
2a 細孔内表面
2b 外表面
3a 電子伝導性酸化物
3b 電極触媒粒子
4 電極(カソード)
4a カソード電極層
4b ガス拡散層
5 電極(アノード)
5a アノード電極層
5b ガス拡散層
6 固体高分子電解質膜
10 膜電極接合体(MEA)
20 固体高分子形燃料電池
21 外部回路
P 細孔(メソ孔)