(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】重合性組成物および重合性キット
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20241011BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20241011BHJP
C08F 4/12 20060101ALI20241011BHJP
C08F 20/10 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
A61K6/887
C08F2/44 B
C08F4/12
C08F20/10
(21)【出願番号】P 2020062044
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】592093578
【氏名又は名称】サンメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】小里 達也
(72)【発明者】
【氏名】大槻 環
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕也
(72)【発明者】
【氏名】奥田 朝美
(72)【発明者】
【氏名】大谷 亨
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-518082(JP,A)
【文献】特表2008-527077(JP,A)
【文献】国際公開第2017/138567(WO,A1)
【文献】特開2020-033395(JP,A)
【文献】特表2011-529526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/44
C08F 4/12
C08F 20/10
A61K 6/887
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機ボランと1級アミン化合物とを含む原料から調製される錯体と、
アルコキシ基および1級アミノ基を含有するアルコキシ基-1級アミノ基含有化合物と、
酸性基を有さず、(メタ)アクリロイル基を有する重合性単量
体と、
を含有し、
前記重合性単量体は、炭素数1以上10以下のアルカノールと(メタ)アクリル酸とのエステル、酸素を含有する複素環を含有するアルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、および、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステルからなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記錯体1モル部に対する前記1級アミノ基のモル部が、2.0モル部以上、5.0モル部以下であることを特徴とする、歯科用重合性組成物。
【請求項2】
前記アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物が、R
AO-R
B-NH
2(式中、R
Aが、炭素数1以上、6以下のアルキル基、R
Bが、炭素数2以上、9以下のアルキレン基である。)ことを特徴とする、請求項1に記載の歯科用重合性組成物。
【請求項3】
前記アルコキシ基が、炭素数3以上、6以下の分岐アルキル部分を有することを特徴と
する、請求項1または2に記載の歯科用重合性組成物。
【請求項4】
前記重合性単量体が、単官能であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用重合性組成物。
【請求項5】
前記重合性単量体が、
メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、3-エチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレートおよび(5-エチル-1,3-ジオキサン-5-イル)メチル(メタ)アクリレートからなる群から選択されるいずれか一つであることを特徴とする、請求項
1~3のいずれか一項に記載の歯科用重合性組成物。
【請求項6】
前記1級アミン化合物が、アルコキシ基をさらに含有することを特徴とする、請求項1
~5のいずれか一項に記載の歯科用重合性組成物。
【請求項7】
請求項1
~6のいずれか一項に記載の歯科用重合性組成物と、
脱錯化剤と
を有することを特徴とする、歯科用重合性キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物および重合性キットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、重合性単量体、および、有機ボランおよびアミンから生成される錯体を含有する重合性組成物と、脱錯化剤とから、2剤型の接着剤(キット)を構成することが知られている(例えば、下記特許文献1の実施例2、4~14および17~20参照。)。
【0003】
特許文献1に記載の接着剤では、使用時において、脱錯化剤が錯体と反応すると、錯体の脱錯化反応に基づいて、錯体から有機ボランが生成され、この有機ボランが重合開始剤として機能し、重合性単量体が重合する。これによって、接着剤が、被着体に接着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、特許文献1の上記した実施例において、良好な美観の検討は特に考慮されておらず、例えば、アスコルビン酸を第3成分として添加した接着剤(組成物)は、優れた保存安定性を有するものの、色調が変化し美観を損ねることが分かった。
【0006】
近年、用途および目的によって、重合性組成物に、良好な美観と、優れた安定性との両立が要求される。
【0007】
しかし、特許文献1に記載の重合性組成物では、上記した要求を満足できない場合がある。
【0008】
本発明は、良好な美観と、優れた安定性とを両立できる重合性組成物および重合性キットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明(1)は、酸性基を有しない重合性単量体と、有機ボランと1級アミン化合物とを含む原料から調製される錯体と、アルコキシ基および1級アミノ基を含有するアルコキシ基-1級アミノ基含有化合物とを含有する、重合性組成物を含む。
【0010】
本発明(2)は、前記錯体1モル部に対する前記1級アミノ基のモル部が、2.0モル部以上、5.0モル部である、(1)に記載の重合性組成物を含む。
【0011】
本発明(3)は、前記アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物が、RAO-RB-NH2(式中、RAが、炭素数1以上、6以下のアルキル基、RBが、炭素数2以上、9以下のアルキレン基である。)、(1)または(2)に記載の重合性組成物を含む。
【0012】
本発明(4)は、前記アルコキシ基が、炭素数3以上、6以下の分岐アルキル部分を有する、(1)~(3)のいずれか一項に記載の重合性組成物を含む。
【0013】
本発明(5)は、前記重合性単量体が、(メタ)アクリロイル基を含有する、(1)~(4)のいずれか一項に記載の重合性組成物を含む。
【0014】
本発明(6)は、前記重合性単量体が、単官能である、(1)~(5)のいずれか一項に記載の重合性組成物を含む。
【0015】
本発明(7)は、前記重合性単量体が、酸素を含有する複素環を含有するアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステルである、(1)~(6)のいずれか一項に記載の重合性組成物を含む。
【0016】
本発明(8)は、前記重合性単量体が、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレートおよび(5-エチル-1,3-ジオキサン-5-イル)メチル(メタ)アクリレートからなる群から選択されるいずれか一つである、(7)に記載の重合性組成物を含む。
【0017】
本発明(9)は、前記1級アミン化合物が、アルコキシ基をさらに含有する、(1)~(8)のいずれか一項に記載の重合性組成物を含む。
【0018】
本発明(10)は、(1)~(9)のいずれか一項に記載の重合性組成物と、脱錯化剤とを有する、重合性キットを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の重合性組成物および重合性キットは、良好な美観と、優れた安定性とを両立できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(重合性組成物)
本発明の重合性組成物は、重合性単量体と、錯体と、アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物とを含有する。
【0021】
重合性単量体は、酸性基を含有しない。酸性基としては、例えば、カルボキシル基およびカルボン酸無水物基などのカルボン酸基、リン酸基、チオリン酸基、ピロリン酸基、スルホン酸基およびホスホン酸基が挙げられる。
【0022】
酸性基を含有しない重合性単量体は、例えば、分子内に(メタ)アクリロイル基を単数または複数含有する。好ましくは、重合性単量体は、(メタ)アクリロイル基を単数含有する。なお、(メタ)アクリロイル基は、メタクリロイル基(CH2=C(CH3)CO-)および/またはアクリロイル基(CH2=CHCO-)を意味する。「(メタ)アクリ・・・」の用法は、以下同様である。
【0023】
(メタ)アクリロイル基を単数含有する重合性単量体は、単官能単量体である。そのような重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0024】
(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレートなど、炭素数1以上、10以下のアルカノールと、(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。より一層優れた安定性を確保する観点から、好ましくは、炭素数1以上、3以下のアルカノールと、(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられ、より好ましくは、メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0025】
また、(メタ)アクリレートとして、酸素を含有する複素環を含有するアルコールと、(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。複素環に含有される酸素の数は、1または2以上であり、好ましくは、1または2である。複素環を形成する原子数は、例えば、3以上、好ましくは、4以上であり、また、例えば、7以下、好ましくは、6以下である。複素環を形成する炭素には、メチルおよび/またはエチルが置換してもよい。酸素を含む複素環を含むアルコールとしては、例えば、テトラヒドロフルフリルアルコール、3-エチル-3-オキセタンメタノール、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン)メタノール、(5-エチル-1,3-ジオキサン)メタノールなどが挙げられる。そのような(メタ)アクリレートとしては、具体的には、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(5-エチル-1,3-ジオキサン-5-イル)メチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(5-エチル-1,3-ジオキサン-5-イル)メチル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0026】
さらに、(メタ)アクリレートとして、例えば、テトラメチルピペリジニル(メタ)アクリレート(詳しくは、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル(メタ)アクリレート)、ヒドロキアルキル(メタ)アクリレート(例えば、2-ヒドロキシエチルアクリレート)なども挙げられる。
【0027】
(メタ)アクリロイル基を複数含有する重合性単量体としては、多官能単量体であり、また、架橋性単量体と称呼される。そのような重合性単量体としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ペンタプロピレングリコール、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールと、(メタ)アクリル酸および/またはジ(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。好ましくは、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0028】
重合性単量体は、単独使用また併用できる。具体的には、単官能単量体および多官能単量体(架橋性単量体)のそれぞれを単独使用でき、また、それらを併用できる。
【0029】
重合性組成物における重合性単量体の割合は、例えば、60モル%以上、好ましくは、75モル%以上であり、また、例えば、99モル%以下、好ましくは、95モル%以下である。錯体1モル部に対する重合性単量体のモル部は、例えば、10モル部以上、好ましくは、20モル部以上であり、また、例えば、200モル部以下、好ましくは、100モル部以下である。
【0030】
重合性組成物における重合性単量体の同定および定量は、公知の手法で実施でき、例えば、高速液体クロマトグラフ(HPLC)や核磁気共鳴(NMR)、ガスクロマトグラフ質量分析(GC-MS)などによって、実施できる。
【0031】
(錯体)
錯体は、有機ボランと、1級アミン化合物とを含む原料から調製される。
【0032】
(有機ボラン)
有機ボランは、例えば、BR3で示される。BR3中、Rは、互いに同一または相異なっていてもよい。Rとしては、例えば、炭素数1以上20以下のアルキル基、例えば、炭素数6以上20以下のアリール基、例えば、炭素数3以上20以下のシクロアルキルまたはシクロアルケニルなどが挙げられる。好ましくは、アルキル基が挙げられる。
【0033】
具体的には、有機ボランとしては、例えば、トリメチルボラン、トリエチルボラン、トリプロピルボラン、トリブチルボランなどの、炭素数1以上、20以下のトリアルキルボラン、例えば、炭素数6以上20以下のアリールボラン(例えば、トリフェニルボランなど)、例えば、炭素数3以上20以下のシクロアルキルボランまたはシクロアルケニルボラン(例えば、トリ(シクロヘキシル)ボランなど)などが挙げられる。有機ボランとして、好ましくは、トリアルキルボランが挙げられ、より好ましくは、炭素数1以上、10以下のトリアルキルボランが挙げられ、さらに好ましくは、炭素数2以上、8以下のトリアルキルボラン、とりわけ好ましくは、より一層優れた安定性を確保する観点から、炭素数3以上、5以下のトリアルキルボランが挙げられる。
【0034】
好ましくは、トリアルキルボランとして、トリブチルボランが挙げられる。トリブチルボランとしては、例えば、トリ-n-ブチルボラン、トリ-sec-ブチルボラン、トリ-tert-ブチルボランが挙げられ、好ましくは、トリ-n-ブチルボランが挙げられる。
【0035】
有機ボランは、単独種類を用いることができ、または、複数種類を併用することができる。好ましくは、単独種類を用いる。
【0036】
有機ボランの割合は、有機ボランのモル数と、1級アミン化合物における1級アミノ基のモル数とが後述する所定割合となるように、調整される。
【0037】
(1級アミン化合物)
1級アミン化合物は、分子内に1級アミノ基(-HN2)を単数または複数有する。さらに、1級アミン化合物は、1級アミノ基以外に、例えば、2級アミノ基、および/または、アルコキシ基(メトキシ、エトキシ、プロポキシなど)を分子内に単数または複数含んでもよい。
【0038】
1級アミン化合物としては、例えば、(1)2級アミノ基およびアルコキシ基を含有せず、1級アミノ基を含有する第1の1級アミン化合物、例えば、(2)アルコキシ基を含有せず、1級アミノ基および2級アミノ基を含有する第2の1級アミン化合物、例えば、(3)2級アミノ基を含有せず、アルコキシ基および1級アミノ基を含有する第3の1級アミン化合物(アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物に相当)、例えば、(4)1級アミノ基、2級アミノ基およびアルコキシ基を含有する第4の1級アミン化合物が挙げられる。
【0039】
(1)第1の1級アミン化合物としては、例えば、エチルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ベンジルアミンなどの脂肪族モノアミンなどのモノアミン、例えば、1,2-ジアミノエタン、1,3-ジアミノプロパン、1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,12-ジアミノドデカン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、3-メチル-1,5-ジアミノペンタンなどの脂肪族ジアミンなどのジアミン、イソホロンジアミンなどの脂環族ジアミンなどのジアミンが挙げられる。好ましくは、ジアミンが挙げられ、より好ましくは、脂肪族ジアミンが挙げられ、さらに好ましくは、1,3-ジアミノプロパンが挙げられる。
【0040】
(2)第2の1級アミン化合物としては、例えば、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミンなどの脂肪族トリアミンなどのトリアミン、例えば、トリエチレンテトラアミンなどの脂肪族テトラアミンなどのテトラアミンなどが挙げられる。好ましくは、トリアミン、より好ましくは、脂肪族トリアミン、さらに好ましくは、ジエチレントリアミンが挙げられる。
【0041】
(3)第3の1級アミン化合物は、アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物であって、例えば、RAO-RB-NH2で示される。
【0042】
式中、RAが、炭素数1以上、6以下のアルキル基、RBが、炭素数2以上、9以下のアルキレン基である。
【0043】
RAで示されるアルキル基としては、具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、sec-ペンチル、3-ペンチル、tert-ペンチル、ヘキシル、イソヘキシルなどの、直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられる。
【0044】
アルキル基として、好ましくは、分岐状のアルキル基が挙げられ、具体的には、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、sec-ペンチル、3-ペンチル、tert-ペンチル、イソヘキシルが挙げられる。好ましくは、イソブチルが挙げられる。
【0045】
また、好ましくは、アルキル基として、メチルも挙げられる。
【0046】
RBで示されるアルキレン基としては、好ましくは、メチレン、エチレン(ジメチレン)、プロピレン(トリメチレン)、ブチレン(テトラメチレン)、ペンチレン(ペンタメチレン)、ヘキシレン(ヘキサメチレン)、ヘプチレン(ヘプタメチレン)、オクチレン(オクタメチレン)、ノニレン(ノナメチレン)などの、炭素数2以上9以下の直鎖状のアルキレン基(ポリメチレン基)が挙げられ、より好ましくは、炭素数2以上5以下の直鎖状のアルキレン基が挙げられ、さらに好ましくは、プロピレンが挙げられる。
【0047】
具体的には、(3)第3の1級アミン化合物としては、メトキシエチルアミン、メトキシプロピルアミン、メトキシブチルアミンなどのメトキシ-アルキルアミン、例えば、エトキシプロピルアミンなどのエトキシ-アルキルアミン、例えば、プロポキシメチルアミン、プロポキシエチルアミン、プロポキシプロピルアミン、プロポキシブチルアミンなどのプロポキシ-アルキルアミン、例えば、ブトキシ-アルキルアミン、例えば、ペンチルオキシ-アルキルアミン、例えば、ヘキシルオキシ-アルキルアミンなどの、アルキル部分の炭素数が2以上、5以下のアルコキシ-アルキルアミンが挙げられる。好ましくは、安定性の観点から、アルキル部分の炭素数が2以上、5以下のメトキシ-アルキルアミン、アルキル部分の炭素数が2以上、5以下のプロポキシ-アルキルアミンが挙げられる。
【0048】
アルキル部分の炭素数が2以上、5以下のメトキシプロピルアミンとして、好ましくは、3-メトキシプロピルアミン、メトキシイソプロピルアミンなどが挙げられ、より好ましくは、3-メトキシプロピルアミンが挙げられる。
【0049】
アルキル部分の炭素数が2以上、5以下のプロポキシ-アルキルアミンとして、好ましくは、プロポキシプロピルアミンが挙げられる。プロポキシプロピルアミンとして、具体的には、3-プロポキシプロピルアミン、3-イソプロポキシプロピルアミンなどが挙げられ、好ましくは、3-イソプロポキシプロピルアミンが挙げられる。
【0050】
(4)第4の1級アミン化合物としては、例えば、N-メトキシメチル-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミンなどが挙げられる。
【0051】
1級アミン化合物としては、好ましくは、(1)第1の1級アミン化合物、(2)第2の1級アミン化合物、(3)第3の1級アミン化合物(アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物)が挙げられ、より一層優れた安定性を確保する観点から、より好ましくは(1)第1の1級アミン化合物、(3)第3の1級アミン化合物が挙げられ、さらに好ましくは、(3)第3の1級アミン化合物が挙げられる。
【0052】
1級アミン化合物の割合は、有機ボランのモル数と、1級アミン化合物における1級アミノ基のモル数とが後述する所定割合となるように、調整される。
【0053】
なお、原料は、本発明の効果を阻害しない範囲で公知の添加剤を適量含むことができる。
【0054】
一方、好ましくは、原料は、有機ボランと、1級アミン化合物とのみを含む。つまり、好ましくは、原料は、添加剤を含まず、有機ボランと、1級アミン化合物とから構成される。
【0055】
原料から錯体を調製(合成)する方法は、後述する。
【0056】
重合性組成物における錯体の割合は、例えば、0.1モル%以上、好ましくは、1モル%以上であり、また、例えば、10モル%以下、好ましくは、5モル%以下である。
【0057】
重合性組成物における錯体の同定および定量は、公知の手法で実施でき、例えば、示差屈折検出器やUV-Vis(紫外可視分光)検出器を用いたHPLC、燃焼法に基づく元素分析、UV-Vis(紫外可視分光)分析などによって、実施できる。
【0058】
アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物は、重合性組成物の使用前(または保管中)において、錯体の分解を抑制して、錯体を安定にして、これによって、重合性単量体の反応を抑制する安定化剤である。
【0059】
アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物は、アルコキシ基および1級アミノ基を含有する。好ましくは、アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物としては、1級アミン化合物で例示した(3)第3の1級アミン化合物(アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物)と同様であって、(3)第3の1級アミン化合物から適宜選択される。
【0060】
より好ましくは、アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物としては、1級アミン化合物が(3)第3の1級アミン化合物である場合には、それと同一種類の(3)第3の1級アミン化合物が挙げられる。具体的には、1級アミン化合物が3-イソプロポキシプロピルアミンであれば、アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物は、3-イソプロポキシプロピルアミンである。上記の選択であれば、製造方法を簡便にできる。
【0061】
重合性組成物におけるアルコキシ基-1級アミノ基含有化合物のモル部は、アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物における1級アミノ基の数にもよるが、例えば、1モル%以上、好ましくは、3モル%以上、より好ましくは、7モル%以上であり、また、例えば、25モル%以下、好ましくは、20モル%以下である。
【0062】
錯体1モル部に対する、アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物の1級アミノ基のモル部は、例えば、0.5モル部以上、好ましくは、1.0モル部以上、より好ましくは、2.0モル部以上、さらに好ましくは、4.0モル部以上であり、また、例えば、20モル部以下、好ましくは、10モル部以下、より好ましくは、7.0モル部以下、さらに好ましくは、5.0モル部以下である。
【0063】
錯体1モル部に対する1級アミノ基のモル部が上記した下限以上であれば、また、上記した上限以下であれば、重合性組成物の安定性をより一層良好にできる。
【0064】
重合性組成物におけるアルコキシ基-1級アミノ基含有化合物の同定および定量は、公知の手法で実施でき、例えば、示差屈折検出器やUV-Vis(紫外可視分光)検出器を用いたHPLC、UV-Vis(紫外可視分光)分析、燃焼法に基づく元素分析などによって、実施できる。
【0065】
なお、重合性組成物は、公知の添加剤を適宜の割合で含むことができる。添加剤は、例えば、フィラー、重合禁止剤、他の安定化剤などが挙げられる。これら添加剤は、例えば、特開2017-141423号公報などに記載される。
【0066】
(重合性組成物の調製方法)
次に、重合性組成物の調製方法を説明する。
【0067】
この方法では、重合性単量体と、錯体と、アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物と、必要により配合される添加剤とを、上記した割合で、配合し、これらを混合する。
【0068】
錯体は、公知の方法によって準備(合成)され、例えば、特開2017-141423号公報などに詳述される。具体的には、有機ボランと1級アミン化合物とを配合する。ここの際、有機ボラン1モル部に対する1級アミン化合物の1級アミノ基のモル数は、例えば、1以上、好ましくは、有機ボランを確実に反応させる観点から、1超過、より好ましくは、1.2以上、さらに好ましくは、1.5以上であり、また、例えば、5以下、より好ましくは、3以下である。
【0069】
有機ボランの1モル部と、1級アミノ基の1モル部とが反応して、錯体1モル部が生成されるが、1級アミン化合物が余っても、余りの1級アミン化合物は、後述する溶媒除去工程において、除去され、実質的に残存しない。
【0070】
上記した配合において、溶媒を適宜の割合で配合することができる。溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルなどのエーテル、例えば、ヘキサン、ヘプタンなどの低分子量アルカンが挙げられる。
【0071】
具体的には、溶媒で有機ボランを溶解した溶媒溶液を調製する。次いで、溶媒溶液と、1級アミン化合物とを混合する。これによって、錯体を生成する。
【0072】
その後、溶媒を除去する。この際、余りの1級アミン化合物は、溶媒とともに、除去される。
【0073】
(重合性キット)
そして、この重合性組成物は、脱錯化剤とともに重合性キットに含まれる。つまり、重合性キットは、重合性組成物と、脱錯化剤とを含む。より具体的には、重合性キットは、重合性組成物と、脱錯化剤とを別々に含む。詳しくは、重合性キットは、接着剤として被着体を接着するまでは、2剤型の接着剤として、重合性組成物と、脱錯化剤とが別々に準備され、接着剤として被着体を接着する直前に、重合性組成物と、脱錯化剤とを接触させる。具体的には、重合性組成物と、脱錯化剤とを混合する。
【0074】
脱錯化剤は、錯体に対する反応性を有すれば、特に限定されない。脱錯化剤は、特開2017-141423号公報などに記載される。具体的には、脱錯化剤としては、酸が挙げられ、詳しくは、(メタ)アクリル酸などの、酸性基を含有する重合性単量体などが挙げられる。
【0075】
重合性キットの全量に対する重合性組成物の割合は、例えば、10質量%以上、また、例えば、99質量%以下である。重合性キットの全量に対する脱錯化剤の割合は、例えば、3質量%以上、また、例えば、50質量%以下である。
【0076】
重合性キットは、種々の接着用途に用いることができ、とりわけ、美観と安定性とが求められる接着用途に用いられる。この重合性キットは、好ましくは、医療用接着剤および/または歯科用接着剤として用いることができる。
【0077】
(作用効果)
重合性組成物および重合性キットは、良好な美観と、優れた安定性とを両立できる。
【0078】
詳しくは、この重合性組成物では、アルコキシ基-1級アミノ基含有化合物が、保管中の重合性組成物における錯体の分解を有効に抑制でき、錯体を極めて安定に維持でき、そのため、重合性単量体の反応を抑制できる。そのため、良好な美観と、優れた安定性とを両立できる。
【0079】
一方、この重合性組成物と、脱錯化剤とを含む重合性キットでは、使用する際に、重合性組成物と、脱錯化剤とが接触することによって、錯体から1級アミン化合物が脱離して、有機ボランが再び生成され、これが重合開始剤として機能して、重合性単量体が重合する。これによって、優れた接着機能を発現できる。
【0080】
(変形例)
錯体の合成において余る1級アミン化合物を、そのまま、安定化剤としてのアルコキシ基-1級アミノ基含有化合物とすることができる。なお、この変形例では、1級アミン化合物は、(3)2級アミノ基を含有せず、アルコキシ基および1級アミノ基を含有する第3の1級アミン化合物である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例および比較例等に基づいて本発明を説明する。但し、これらの例は、本発明の理解を容易にするための例示であり、本発明はこれらに何ら限定されるものはない。また以下において、特に言及しない限り、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味するものとする。
【0082】
また、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。
【0083】
実施例1
<錯体の合成>
フラスコ中をアルゴンで充満させて、0.2モルの3-メトキシ-1-プロピルアミンをフラスコに加えた。次いで、0.1モルのトリ-n-ブチルボランが溶解したテトラヒドロフラン溶液を、上記フラスコ中に滴下ロートを用いて滴下した。
【0084】
具体的には、まず、フラスコ中の3-メトキシ-1-プロピルアミンを冷却(氷冷)しながら、アルゴンガスで3-メトキシ-1-プロピルアミンをバブリングし、続いて、トリ-n-ブチルボランのテトラヒドロフラン溶液をフラスコに添加した。
【0085】
その後、フラスコを冷却(氷冷)しながら、2時間撹拌することにより、テトラヒドロフランを除去し、錯体を得た。なお、上記したテトラヒドロフランの除去とともに、余りの3-メトキシ-1-プロピルアミンは、実質的に除去された。
【0086】
<重合性組成物の調製>
メチルメタクリレート(重合性単量体)41.7モルと、錯体1モルと、3-メトキシ-1-プロピルアミン(安定化剤)5モルとを混合した。これによって、重合性組成物を調製した。調製した重合性組成物は、ガラス製のサンプル瓶に充填し、密封した。
【0087】
実施例2~比較例3
表1~表5に記載の処方に従った以外は、実施例1と同様にして、重合性組成物を得た。なお、表1~表5の処方欄の数値に対応する単位は、モルである。
【0088】
[評価]
下記の事項を評価した。その結果を、表1~表5に記載する。
【0089】
<安定性(熱安定性試験)>
サンプル瓶に密封した直後の重合性組成物を1mL分取し、E型粘度計(コーンプレート型)により25℃、50rpm、大気圧下の条件下で、粘度V0を測定した。
【0090】
別途、サンプル瓶を45℃のオーブン中で静置した。
【0091】
静置開始から重合性組成物を状態を、目視および触診にて確認し、増粘したと判断したときにその粘度V1を測定した。これを、所定期間経過毎に実施した。
【0092】
そして、粘度V0に対する粘度V1の比(V1/V0)が100以上となるまでの静置日数をカウントした。この日数が長い(表中の数字が大きい)ほど、安定性に優れることを意味する。
【0093】
<美観(色差)>
調製直後の重合性組成物2mLを、無色透明のφ30mmのガラス製シャーレにそれぞれ入れた。続いて、重合性組成物を分光測色計(CM-5/KONICA MINOLTA社製)にセットして、(L0,a0,b0)を測定した。
【0094】
次に、前記安定性(熱安定性試験)にて粘度V0に対する粘度V1の比(V1/V0)が100以上となった日数の重合性組成物の(L1,a1,b1)を測定した。
【0095】
下記式に基づいて、ΔEを求めた。
ΔE=(L1-L0)2+(a1-a0)2+(b1-b0)2
【0096】
下記の評価基準に基づいて、重合性組成物の色差を評価した。
○:ΔEが10未満であった。
×:ΔEが10以上であった。
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】