(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】オーバーモールドによる減速機ホイールの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20241011BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20241011BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/14
B29C45/26
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020140951
(22)【出願日】2020-08-24
【審査請求日】2023-07-11
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポロー オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】グランプル ゲール
(72)【発明者】
【氏名】ジャケ ダミアン
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-082858(JP,A)
【文献】特開2002-248649(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0308555(US,A1)
【文献】特開2012-077841(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 39/26-39/36
B29C 41/38-41/44
B29C 43/36-43/42
B29C 43/50
B29C 45/00-45/84
B29C 49/48-49/56
B29C 49/70
B29C 51/30-51/40
B29C 51/44
F16H 1/16
F16H 55/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持軸(2)に一体化された減速機ホイール(1)の製造方法であって、この製造方法は、
支持軸(2)にホイールリム(4)を第1材料でオーバーモールドすることにより形成するステップであって、前記ホイールリム(4)が、支持軸(2)の周りに配置された内周縁(41)から外周縁(42)まで径方向に延び、互いに対向する上面(43)と下面(47)を有し、前記上面(43)が、セル(45)が形成され、補強リブ(46)によって区画され、それぞれ底面を有するリブ付き環状部(44)を有するステップと、
前記リブ付き環状部(44)に対向して配置される少なくとも1つの射出ポイント(6)において第2材料の射出を実施することにより、ホイールリム(4)の上面(43)にクラウン(5)を前記第2材料でオーバーモールドすることにより作成するステップと、
を有し、
前記方法は、前記ホイールリム(4)にクラウン(5)をオーバーモールドにより形成するステップに先立って、リブ付き環状部(44)のセル(45)の中から選択された少なくとも1つのターゲットセル(71)内に材料堆積物を形成して、前記ターゲットセル(71)の底部に対して隆起領域を形成するステップを有し、前記射出ポイント(6)における前記第2材料の射出が前記隆起領域(7)と
対向して行われることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
請求項1の製造方法において、
材料堆積物が第1材料で形成される
製造方法。
【請求項3】
請求項1または2の製造方法において、
材料堆積物の形成が、オーバーモールドによるホイールリムの形成と同時に行われる
製造方法。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1つの製造方法において、
隆起領域(7)は、ターゲットセル(71)を区画する少なくとも2つの補強リブ(46)を連結する
製造方法。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1つの製造方法において、
隆起領域(7)は、ホイールリム(4)の上面(43)と同一面の上面(73)を有する
製造方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1つの製造方法において、
各セルは、ホイールリム(4)の径方向の外周縁(42)から径方向に所定の長さ(L)にわたって延び、ホイールリム(4)の前記外周縁(42)と前記ターゲットセル(71)の隆起領域(7)との間の対応する半径方向の少なくとも1つのターゲットセル(7)において測定される内側距離(L’)が、前記少なくとも1つのターゲットセル(71)以外の各セル(45)の径方向の長さ(L)よりも小さい
製造方法。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1つの製造方法において、
材料堆積物は、ホイールリム(4)の上面(43)で、リブが形成された環状部分(44)に形成されたボス(8)の真上に形成される
製造方法。
【請求項8】
請求項1から7の何れか1つの製造方法において、
ボスは、隆起領域(7)から内周縁(41)の方向へ径方向に延びる
製造方法。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1つの製造方法において、
オーバーモールドによってクラウン(5)を形成するステップで、少なくとも2つの異なる射出ポイント(6)での第2材料の注入が実施され、前記射出ポイント(6)のそれぞれは、リブが形成された環状部分(44)に対向して配置され、
少なくとも1つのターゲットセル(71)に材料堆積物を形成するステップは、それぞれのターゲットセル(45)の底面(72)に2つの隆起領域(7)を形成するように、少なくとも2つの異なるターゲットセル(71)における材料堆積物の形成を含み、
第2材料の注入は、前記それぞれの隆起領域(7)に対向して行われる
製造方法。
【請求項10】
請求項1から9の何れか1つの製造方法において、
オーバーモールドによってクラウン(5)を形成するステップで、3つの異なる射出ポイント(6)での第2材料の注入が実施され、少なくとも1つのターゲットセル(71)に材料堆積物を形成するステップは、3つの異なるターゲットセル(71)における材料堆積物の形成を含む
製造方法。
【請求項11】
請求項1から10の何れか1つの製造方法において、
第2材料は、少なくとも1つのコールドドロップトラップ(65)を有する射出システム(62)を用いて射出され、前記少なくとも1つのコールドドロップトラップ(65)は、ホイールリム(4)にクラウン(5)を形成するステップの間に、前記射出システム(62)による第2材料の事前の射出の間に、射出ステム(62)内で予め固化したコールドドロップの各射出ポイント(6)への射出を防止するように構成される
製造方法。
【請求項12】
請求項1から11の何れか1つの製造方法を実施することにより製造される、支持軸(2)に一体化された減速機ホイール(1)において、
支持軸(2)に第1材料でオーバーモールドすることにより製造されるホイールリム(4)を有し、ホイールリム(4)は、支持軸(2)の周囲に配置された内周縁(41)から外周縁(42)まで径方向に延びて互いに対向する上面(43)と下面を有し、前記上面(43)は、リブが形成される環状部分(44)を有し、環状部分にはセル(45)が形成され、環状部分が補強リブ(46)で区画され、それぞれが底面を有し、
ホイールリム(4)の上面(43)に第2材料でオーバーモールドすることにより形成されるクラウン(5)を有し、
前記ホイールリム(4)は、リブが形成された環状部分(44)のセル(45)の中から選択される少なくとも1つのターゲットセル(71)内に材料堆積物を有し、前記材料堆積物は、前記ターゲットセル(71)の底面(72)に隆起領域(7)を形成する
減速機ホイール(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持軸と一体化された減速機ホイールをオーバーモールドによって製造する方法に関する。
【0002】
本発明は、また、このような方法を実施することで製造される減速機ホイールに関する。
【背景技術】
【0003】
自動車用パワーステアリングシステムの分野では、自動車の運転を容易にするために、アシストモータによって供給されるトルクをそのような自動車のホイールに伝達可能にするギヤ減速機を使用することが知られている。
【0004】
このようなギヤ減速機は、一般に、アシストモータによって駆動されるウォームスクリューと噛み合うウォームホイールとも呼ばれる歯付きホイールを有し、この歯付きホイールは、さらに、出力軸とも呼ばれる支持軸に固定され、支持軸は、ステアリングコラムに結合されるとともに、その回転運動がステアリングラックを介して車両のホイールに伝達される。
【0005】
ホイールリムとクラウンを出力軸に直接オーバーモールドする方法を実施することにより、このようなギヤ減速機の歯付きホイールを製造することが既に知られている。
【0006】
例えば、特許文献1にはオーバーモールド方法が記載され、このオーバーモールド方法では、花冠のような形状のホイールリムを出力軸にオーバーモールドした後、このホイールリムを熱可塑性材料で包み込み、外周部に歯車減速機のウォームスクリューに噛み合うように構成された歯を切削形成したクラウンが形成される。
【0007】
この方法では、クラウンを形成する熱可塑性材料を、ホイールリムの上面に対向して配置された複数の射出ポイントのレベルで、ホイールリムのすぐ近くに注入する必要がある。
【0008】
しかし、この熱可塑性材料は高温で注入されるため、射出ポイントに対向して位置するホイールリムの部分が溶融して劣化するおそれがある。したがって、ホイールリムの溶融した材料がクラウンのオーバーモールドに使用される材料と混ざり、クラウンが不均一になってその機械強度が変わってしまうおそれがある。
【0009】
特許文献1では、ホイールリムとクラウンを構成する材料を注入するのに使用される射出システムにおいて、ホイールリムを形成する前のステップの間に生成されるコールドドロップ(cold drop)を含むように構成されたキャビティの形のコールドドロップトラップが各射出ポイントに対向して配置されているため、ホイールリムが溶融するおそれが制限されている。
【0010】
したがって、これらのコールドドロップトラップが存在することにより、射出ポイントとホイールリムの間の距離が効果的に大きくなり、ホイールリムの局所的な加熱を制限することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、ホイールリムにこれらのコールドドロップトラップを一体化することは、(ホイールリムを特定の複雑な形状にすることになり、ホイールリムが弱くなるおそれがあるために)困難であることがあり、また、すべての射出ポイントに共通の1つまたは複数のコールドドロップトラップを射出システム内の射出ポイントの上流に配置することがより効果的であることがある。ホイールリムが射出ポイントに対向して配置されたコールドドロップトラップを有していない場合は、ホイールリムが射出ポイントに近接する部分が溶融するおそれを別の手段で制限する必要がある。
【0013】
本発明の目的は、出力軸にホイールリム及びクラウンのオーバーモールドを直接実施する減速機ホイールの製造方法を提供し、ホイールリムをその形成中に複雑な形状の特定の構造にすることなく、ホイールリムの局所的な加熱を制限することを可能にすることによって、この問題の全てまたは一部を解消することである。
【0014】
本発明の他の目的は、種々の形状及び大きさの減速機ホイールを製造できる方法を提供することである。
【0015】
本発明のさらに別の目的は、一般的で既に存在するオーバーモールドの設備と道具を用いて簡単に実施できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的のため、本発明は、支持軸に一体化された減速機ホイールの製造方法を提供し、この製造方法は、
支持軸にホイールリムを第1材料でオーバーモールドすることにより形成するステップであって、前記ホイールリムが、支持軸の周りに配置された内周縁から外周縁まで径方向に延び、互いに対向する上面と下面を有し、前記上面が、セルが形成され、補強リブによって区画され、それぞれ底面を有するリブ付き環状部を有するステップと、
前記リブ付き環状部に対向して配置される少なくとも1つの射出ポイントにおいて第2材料の射出を実施することにより、ホイールリムの上面にクラウンを前記第2材料でオーバーモールドすることにより作成するステップと、
を有し、
前記方法は、前記ホイールリムにクラウンをオーバーモールドにより形成するステップに先立って、リブ付き環状部のセルの中から選択された少なくとも1つのターゲットセル内に材料堆積物を形成して、前記ターゲットセルの底部に対して隆起領域を形成するステップを有し、前記射出ポイントにおける前記第2材料の射出が前記隆起領域と対向して行われることを特徴とする。
【0017】
したがって、本発明によれば、材料の堆積の形でホイールリムの上面に特定の形状を設けることによって、オーバーモールドによるクラウンの形成中におけるホイールリムの局所的な加熱によりホイールリムが部分的に溶融するおそれが低減される。
【0018】
より詳しくは、クラウンをオーバーモールドで形成するステップの前になされる材料の堆積によって、ターゲットセルの底部の隆起領域が形成され、ターゲットセルは、クラウンが形成される第2材料が射出される射出ポイントと対向して位置する。
【0019】
実際、ターゲットセルにこの隆起領域が存在することにより、特に2つの方法でホイールリムの局所的な加熱を制限できる。
【0020】
第1に、ターゲットセルの底部に形成された材料堆積物は、射出ポイントの近傍のホイールリムの質量を局所的に増加させる効果を有するので、ホイールリムの熱容量も増加する。したがって、ホイールリムは、隆起領域が存在しない場合よりも、(射出ポイントの近傍において高温で射出された第2材料によってホイールリムに伝達される)大きな熱量を吸収でき、その融点に到達しない。
【0021】
第2に、材料が堆積することにより、その射出中にホイールリムと第2材料との間の接触面の大きさを小さくすることが可能になり、したがって、この接触面を介して第2材料によってホイールリムに伝達される熱量が減少する。したがって、ホイールリムと第2材料との間の熱交換も少なくなり、ホイールリムの部分的な溶融のおそれが制限される。
【0022】
補強リブによって区画されるセルの形状と深さは、開いたままであり、特に、第2材料を冷却した後のホイールリムのクラウンの適切な締結と適切な接着を保証するために選択することが好都合である。
【0023】
一つの実施形態では、材料堆積物は第1材料で形成される。
【0024】
一つの可能な例によれば、材料堆積物の形成は、オーバーモールドによるホイールリムの形成に付随して行われる。
【0025】
このように、材料堆積物を形成するステップは、オーバーモールドにより支持軸上にホイールリムを形成する間に、材料堆積物を直接ホイールリムに組み込むことに相当する。この材料堆積物は、ホイールリムの上面及び補強リブと同じ構成の材料で形成され、したがって、ターゲットセルの形状の変更に相当する。
【0026】
この形状変更は、例えば、支持軸にホイールリムをーバーモールドするために使用される金型の形状を変更することによって行ってもよい。
【0027】
したがって、本発明においては、そのような材料堆積物はホイールリムの製造中にホイールリムに直接組み込まれ得るが、ターゲットセルの形状変更は、ホイールリムに固有の形状(すなわち、隆起領域または材料堆積物)をターゲットセルに追加するものとして概念的に考えるべきである。
【0028】
さらに、材料堆積物は最初の材料では作られず、この材料堆積物を形成するステップは、オーバーモールドによってホイールリムを形成するステップの後で、オーバーモールドによってクラウンを形成するステップの前であると考えることができる。この場合、隆起領域は、ホイールリムとは別個の形状として現れ、ホイールリムの外側で、ホイールリムの上面でターゲットセル内に位置する。
【0029】
1つの特徴によれば、材料堆積物は、第1材料の熱拡散率よりも低い熱拡散率を有する断熱材料で形成される。
【0030】
したがて、ターゲットセル内に形成される材料堆積物が、射出ポイントでの注入中に第2材料によって放出される熱の大部分を吸収でき、ホイールリムの部分的な溶融のおそれがさらに少なくなる。
【0031】
一つの変形例では、隆起領域は、ターゲットセルを区画する少なくとも2つの補強リブを連結する。
【0032】
一つの可能な例によれば、隆起領域は、ホイールリムの上面と同一面の上面を有する。
【0033】
その後、ターゲットセルは、隆起領域のレベルでその深さ全体にわたって満たされたときに現れ、材料堆積物は、ターゲットセルを区画する補強リブの上面のレベルまでターゲットセルを満たし、この上面がホイールリムの上面の一部を構成する。
【0034】
材料堆積物が第1材料で形成されると、材料堆積物は、その後はターゲットセルを区画する補強リブと区別できなくなる。
【0035】
一つの特徴によれば、材料堆積物はホイールリムの上面から突出しない。
【0036】
一実施形態では、各セルは、ホイールリムの径方向の外周縁から径方向に所定の長さにわたって延び、ホイールリムの前記外周縁と前記ターゲットセルの隆起領域との間の対応する径方向の少なくとも1つのターゲットセルで測定される内側距離は、少なくとも1つのターゲットセル以外の各セルの径方向の長さよりも小さい。
【0037】
したがって、セルは、ホイールリムの外周縁から径方向へ延び、一端がホイールリムの内周縁の方向を指す楕円形(oblong)の形状であってもよい。材料堆積物は、その後、ターゲットセルに対応するそれらのセルの上記の一端に形成される。
【0038】
したがって、このターゲットセルは、ホイールリムの上面の正面から見て、「最も短い」セル(つまり、すべてのセルの中で最小の径方向の長さを有するセル)となる。
【0039】
材料堆積物をこのように配置することにより、材料堆積物がホイールリムの内周縁に近すぎず、且つホイールリムの外周縁にも近すぎないようにすることが可能であり、これら2つの径方向の位置では、ホイールリムにクラウンをオーバーモールドするステップの際にいくつかの困難さ(注入された第2材料の不均一な分布、外周縁の近くでの薄いホイールリムの劣化のおそれなど)がある。
【0040】
一つの特徴によれば、材料堆積物はホイールリムの外周縁と接触しない。
【0041】
他の特徴によれば、材料堆積物はホイールリムの内周縁と接触しない。
【0042】
一つの変形例では、材料堆積物は、ホイールリムの上面で、リブが形成された環状部分に形成されたボスの真上に形成される。
【0043】
例えば、このようなボスは、第1材料で形成され、ホイールリムの上面に二つの補強リブの間且つホイールリムの内周縁部の近傍に配置されたキャンバー形状ないし突出領域形状にすることができる。
【0044】
前述したように、このようなボスにより、ホイールリムの熱容量を局所的に増大させることが可能である。材料をこのようにボスのすぐ近くで堆積させることによって(すなわち、このボスの隣接するセルの中から目的のセルを選択することによって)、ホイールリムの局所的な加熱のおそれをより一層制限できる。
【0045】
実際、射出ポイントがボスの近くに位置するため、ボスは、隣接するターゲットセル内に第2材料を注入することによって放出される熱の一部を吸収する。
【0046】
一つの可能な例によれば、ボスは、隆起領域から内周縁の方向へ径方向に延びる。
【0047】
一実施形態では、オーバーモールドによってクラウンを形成するステップで、少なくとも2つの異なる射出ポイントでの第2材料の注入が実施され、前記射出ポイントのそれぞれは、リブが形成された環状部分に対向して配置され、
少なくとも1つのターゲットセルに材料堆積物を形成するステップは、それぞれのターゲットセルの底面に2つの隆起領域を形成するように、少なくとも2つの異なるターゲットセルにおける材料堆積物の形成を含み、
第2材料の注入は、前記それぞれの隆起領域に対向して行われる。
【0048】
言い換えると、第2材料の注入は、複数の射出ポイントで行われ、これらの射出ポイントは、それぞれ、ホイールリムのセルの1つの内部の材料堆積物によって形成された、対応する隆起領域に対向して配置されると考えることができる。
【0049】
したがって、本発明のこの実施形態は、前述したものと同様に複数のターゲットセルを有し、それらの各々に形成された材料堆積物は、同じ特徴を有し、同じ機能を果たす。異なるターゲット部分の底部に隆起領域を配置したことにより、射出ポイントの各々に近接した位置でホイールリムが部分的に溶融するのを防止できる。
【0050】
1つの可能な例によれば、オーバーモールドによってクラウンを形成するステップで、3つの異なる射出ポイントでの第2材料の注入が実施され、少なくとも1つのターゲットセルに材料堆積物を形成するステップは、3つの異なるターゲットセルにおける材料堆積物の形成を含む。
【0051】
一つの特徴によれば、ホイールリムは、射出ポイントと同じだけ多くの隆起領域を有し、これらの隆起領域の各々は、射出ポイントに対向して位置するターゲットセル内に配置される。
【0052】
一つの変形例では、第2材料は、少なくとも1つのコールドドロップトラップを有する射出システムを用いて射出され、前記少なくとも1つのコールドドロップトラップは、ホイールリムにクラウンを形成するステップの間に、前記射出システムによる第2材料の事前の射出の間に、射出ステム内で予め固化したコールドドロップの各射出ポイントへの射出を防止するように構成される。
【0053】
例えば、注入される第2材料が循環する主管路を有する射出システムを考えることができ、この主導管は、射出ポイントのそれぞれに配置された1つの射出ノズルへそれぞれ供給する複数の第2管路に分割される。
【0054】
主管路の一端には、射出ノズルの上流側に、他の減速機ホイールのホイールリムにクラウンを形成する前のステップの間に主管路内に形成される第2材料のコールドドロップを避けるためのコールドドロップトラップを配置することができ、第2材料のコールドドロップは、クラウンを形成するステップの間に射出ノズルから射出される。このようなコールドドロップが射出点の射出ノズルのいずれかによって射出されると、射出点は、第2材料を冷却した後にクラウンと一体化される。
【0055】
このようなコールドドロップが存在することは、本発明に係る方法によって製造されるホイールの内部構造に不具合があることを表し、長期的にはホイールの機械的性能を変化させるおそれがある。
【0056】
他の実施形態では、第1材料及び第2材料は、少なくとも1つのコールドドロップトラップを有する同一の射出システムを用いて射出され、ホイールリムにクラウンを形成するステップの間に、前記少なくとも1つのコールドドロップトラップは、支持軸にホイールリムを形成するステップの間に射出システム内で予め固化したコールドドロップが各射出ポイントで射出されるのを防止するように構成される。
【0057】
この実施形態では、射出システムで形成されるコールドドロップは、第1材料で構成される。このコールドドロップが、本発明に係る方法で製造されたホイールのクラウンに入り込むと、ホイールの構造がさらに不均一になり、ホイールの機械特性がさらに低下する。
【0058】
本発明はまた、前述の製造方法を実施することにより製造される、支持軸に一体化された減速機ホイールに関し、
この減速機ホイールは、支持軸に第1材料でオーバーモールドすることにより製造されるホイールリムを有し、ホイールリムは、支持軸の周囲に配置された内周縁から外周縁まで径方向に延びて互いに対向する上面と下面を有し、前記上面は、リブが形成される環状部分を有し、環状部分にはセルが形成され、環状部分が補強リブで区画され、それぞれが底面を有し、
前記減速機ホイールは、ホイールリムの上面に第2材料でオーバーモールドすることにより形成されるクラウンを有し、
前記ホイールリムは、リブが形成された環状部分のセルの中から選択される少なくとも1つのターゲットセル内に材料堆積物を有し、前記材料堆積物は、前記ターゲットセルの底面に隆起領域を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】
図1は、本発明に係るホイールの斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明に係るホイールの断面図である。
【
図3】
図3は、ホイールリムにオーバーモールドすることによりクラウンを形成するステップを示す斜視図である。
【
図5】
図5は、ホイールリムの上面の一部を示す平面図である。
【
図7】
図7は、ホイールリムにオーバーモールドすることによりクラウンを形成するステップを示す断面図である。
【
図8】
図8は、ホイールリム上面の一部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
本発明のその他の特徴及び効果は、添付の図を参照してなされる以下の非限定的な実施携帯の詳細な説明により明らかになるであろう。
【0061】
図1及び
図2は、オーバーモールドすることによる本発明に係る製造方法で形成された、自動車のパワーステアリング装置の減速機のホイール1を示す図である(それぞれ斜視図及び断面図である)。
図2に示すように、このホイール1は、長手方向の軸21と外壁22とを有する支持軸2(
図1には示さず)に一体化されている。
【0062】
図2に示された実施形態において、支持軸は、外壁22と接触し且つ径方向突起31を有する金属製のリング3を備える。
【0063】
本発明に係る方法では、金属リング3と接触する内周縁41と外周縁42との間で径方向に延び、且つ一般に逆転した花冠のような形状を有するホイールリム4を、このリング3を覆って形成するように第1材料を射出する。
【0064】
特に、ホイールリム4は上面43を有し、その構造については詳細を後に説明する。
【0065】
突起31は、金属リング3とホイールリム4との間の適切な密着性を保証し、且つ支持軸2へのホイール1の固定を可能にする。
【0066】
他の実施形態では、ホイールリム4は、支持軸2の外壁22に直接に接触し、支持軸は金属リング3を有さない。
【0067】
その後、このホイールリム4は、クラウン5を形成するようにホイールリム4の上面43と接触する状態で第2材料に包囲され、クラウン5は、例えばウォームねじと協働するするための歯が切られた外周縁51を有する。
【0068】
したがって、本発明に従った方法は、少なくとも2つの連続した以下のステップ、すなわち、
支持軸2にホイールリム4を第1材料でオーバーモールドにより形成するステップと、
次に、ホイールリム4の上面43にクラウン5を第2材料でオーバーモールドにより形成するステップと、
を有する。
【0069】
図3は、ホイールリム4にクラウン5を形成するステップを示す。
【0070】
このオーバーモールドステップは、射出システム62によって供給される3つの射出ノズル61によって、複数の射出ポイント6に第2材料を射出することによって行われる。
【0071】
これらの射出ポイント6は、ホイールリム4の上面43に対向して、特に、この同じ上面43のリブが形成された状環状部44に対向して配置され、このリブが形成された環状部44は、補強リブ46によって区画されたセル45を有する。
【0072】
これらの補強リブ46は、ホイールリム4の外周縁42からホイールリム4の内周縁41に向かって径方向に延び、それによって、それらの間に、外周縁42から径方向に延びる楕円形状のセル45も形成されている。
【0073】
クラウン5によって覆われるように構成されるホイールリム4のこのセルの構造により、ホイールリム4とクラウン5との間に非常に広い接触面を形成することが可能になり、それによって、これらの2つの要素の間の強固な接着が保証されるので、ホイール1に優れた堅牢性が与えられる。
【0074】
ホイールリム4の上面43の詳細図が、以下の
図4及び5に示されている。
特に、射出ポイント6と対向して配置されたターゲットセル71内に、隆起領域7が存在することが分かり、この隆起領域7は、このターゲットセル71の底部72の材料堆積物によって形成される。
【0075】
例えば、この材料堆積物は第1材料で形成できる。
【0076】
このターゲットセル71は、セル45の中から選択され、射出ポイント6と対向して配置される。
【0077】
前述したように、射出ポイント6と対向して配置されたこの隆起領域7が存在することにより、ホイールリム4の部分的な溶融が生じ得るホイールリム4の局所的な加熱を回避できる。
【0078】
実際、この隆起領域7により、ホイールリムの質量が局所的に増加するので、ホイールリム4の熱容量を増加させることが可能になる。したがって、ホイールリム4は、大幅に温度上昇することなく、射出ポイント6の近傍においてより多くの熱量を吸収できる。
【0079】
さらに、隆起領域7が存在することにより、ホイールリム4と射出ポイント6で射出された第2材料との間の接触面を小さくすることが可能になり、したがって、クラウン5の形成中にこのホイールリム4とこの第2材料との間で生じる熱交換の大きさを小さくできる。
【0080】
図3から
図5に示された実施形態では、隆起領域7は、ターゲットセル71がその深さ全体にわたって充填された状態を呈し、このターゲットセル71を区画する補強リブ46から隆起領域7を区別できるように、ホイールリム4の上面43と同一面になっている。
【0081】
本発明は、隆起領域7の複数の異なる実施形態として、
隆起領域7を構成する材料堆積物の形成を、ホイールリム4の形成ステップの後に、例えば、ターゲットセル71が形成された後にターゲットセル71内に材料を射出することによって行うこと、あるいは、
隆起領域7を構成する材料堆積物の形成を、例えば、このホイールリム4を支持軸2にオーバーモールドするために使用される金型の形状を変更することによって、追加の射出ステップを行わずに、ホイールリム4を形成するステップに付随して行うこと、
を考慮していることに留意されたい。
【0082】
また、隆起領域を、第1材料(この隆起領域7は、その後にホイールリム4と同質になる)または別の材料、特に断熱特性を有する材料(隆起領域7は、その後にホイールリム4の外部に異質の要素として現れる)で形成することも考えられる。
【0083】
ホイールリム4は、3つの射出ポイント6の各々に対向する隆起領域7を有しているが、
図3に示された本発明の実施形態ではそのうちの1つのみが示されている。これらの隆起領域7の各々により、射出ポイント6の各々に対向するホイールリム4の局所的な加熱を回避できる。
【0084】
さらに、隆起領域7は、射出ポイント6とホイールリム4の内周縁42との間で径方向に延びるボス8の近傍に配置される。このボス8は、上面43からわずかに突出した部分として現れ、射出ポイント6の近傍において、ホイールリム4の質量と熱容量を局所的にさらに増やすことが可能である。このボス8に隣接するセル45に、隆起領域7を形成する材料堆積物を配置することにより(すなわち、このボス8に接触するセル45の中からターゲットセル71を選択することにより)、ホイールリム4の加熱のおそれをさらに制限できる。
【0085】
【0086】
隆起領域7を形成する材料堆積物は、射出ポイント6に対向して、(ホイールリム4の上面43と対向する下面47とを隔てる距離として定義される)ホイールリム4の厚さe1が最小となる位置に配置される。
【0087】
隆起領域は、射出ポイント6と対向して、同程度の厚さe2を有する。ターゲットセル71内に隆起領域が存在することにより、射出ポイント6に対向するホイールリム4の厚さを効果的に2倍にすることができる。このように、ホイールリム4は、より優れた堅牢性を有し、射出ポイント6に対向して、破損が生じ得る部分的な溶融のおそれからより良好に保護される。
【0088】
さらに、隆起領域7は、ターゲットセル71の底部72に対して異なる傾斜を有する第1傾斜面731及び第2傾斜面732を有する上面73を含み、この第1傾斜面731及び第2傾斜面732は、射出ポイント6で射出される第2材料の流れを促進し、射出ポイント6をホイールリム4の上面43により良好に分配するように選択されている。
【0089】
図7は、ホイール1及び射出システム62の断面図である。
【0090】
この
図7に示すように、射出システム62は、第2導管64によってノズル61の各々に接続された主導管63を含む。第2材料は、主導管63に導入され、したがって、各ノズル61に向かい、第2導管64を介して各射出ポイント6に射出される。
【0091】
また、射出システム62は、二次導管64の上流側に、主導管の連続部分に配置されるキャビティの形態のコールドドロップトラップ65を有する。
【0092】
この射出システムは、本発明に係る方法を実施することにより、複数の減速機ホイールを連続的に製造するために使用するように構成され、他の減速機ホイールのクラウンをオーバーモールドすることにより形成するステップの完了時に、第2材料のある量を冷却することにより生成されるコールドドロップが主導管63に形成することができる。
【0093】
ホイールリム4にクラウン5をオーバーモールドにより形成するステップ中に第2材料を射出する間に、このコールドドロップは、主管路の連続部分で(長手方向軸21に沿って、ホイール1の方向に)排出され、コールドドロップトラップ65に導入され、第2材料の射出の間中保持されたままになる。
【0094】
したがって、このコールドドロップは、いずれかのノズル61によって射出ポイント6に注入されず、射出システム62内に位置した状態に留まる。したがって、射出システム62は、「スプルー」と一体化した状態に留まり、オーバーモールドによるクラウン5の形成工程が完了するとホイール1から取り外される。
【0095】
すべての射出ノズル61に共通し、射出ノズル61の上流に位置するコールドドロップトラップ65が存在しているため、オーバーモールドでクラウン5を作るステップの間にホイール1にコールドドロップが取り込まれるのを避けることができる。したがって、ホイールリム4に各射出ポイント6の近くでコールドドロップトラップを配置する必要はない。
【0096】
特に、欧州特許第2952321号明細書に推奨されているように、各射出ポイント6に固有のトラップ用キャビティをホイールリム4内に配置することは不要である。
【0097】
同じ射出システム62を、本発明に係る方法の間に第1材料を射出した後に第2材料を射出するために連続して使用することも考えられる。この場合、コールドドロップトラップ65は、第1材料で形成され且つオーバーモールドによってホイールリム4を形成するステップの間に形成されたコールドドロップの射出を防止するために使用できる。
【0098】
上面43の一部を平面図に示す
図8では、隆起領域7の径方向の位置決めを示すことができる。
【0099】
実際、この隆起領域7は、隆起領域7に対向して配置された射出ポイント6で射出される第2材料の適切な伝播を促進し、ホイールリム4の最も壊れやすい部分の劣化を回避するために、隆起領域7が内周縁41に近すぎず、外周縁42にも近すぎないように配置するが望ましい。
【0100】
したがって、
図8に示された実施形態では、隆起領域7は、リブが形成された環状部分44の径方向の幅のほぼ中央に、内周縁41よりも外周縁42にわずかに近い位置に配置される。より具体的には、隆起領域7は、ボス8と接触するターゲットセル71の一端711に配置される。
【0101】
各セル45は、外周縁42と各セル45を区画する補強リブ46との間で径方向に沿って測定される径方向長さLの全体にわたって、ホイールリム4の外周縁42から径方向に延びる楕円形状を有している。
【0102】
ターゲットセル71内に隆起領域を配置しているため、ターゲットセルは、ターゲットセル71内でホイールリム4の外周縁42と隆起領域7との間で径方向に測定された内側距離L'の分だけ径方向に延びる。この内側距離L'は、他のセル45のそれぞれの径方向長さLよりも小さいので、ターゲットセル71は、実際には、ホイールリム4の上面43の「最も短い」セル(すなわち、最小の径方向長を有する)となる。
【0103】
したがって、ターゲットセル71内で隆起領域7をそのように径方向配置することにより、射出ポイント6の近傍でこのホイールリム4の局所的な加熱のおそれを制限しつつ、ホイールリム4にクラウン5をオーバーモールドによって形成するように、第2材料を効果的に射出するステップを実施できる。