(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】軸受装置
(51)【国際特許分類】
F16C 41/00 20060101AFI20241011BHJP
F16C 19/16 20060101ALI20241011BHJP
F16C 25/06 20060101ALI20241011BHJP
F16C 35/07 20060101ALI20241011BHJP
F16C 35/12 20060101ALI20241011BHJP
B23B 19/02 20060101ALI20241011BHJP
B23Q 17/00 20060101ALI20241011BHJP
G01L 5/00 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
F16C41/00
F16C19/16
F16C25/06
F16C35/07
F16C35/12
B23B19/02 B
B23Q17/00 A
G01L5/00 K
(21)【出願番号】P 2020159693
(22)【出願日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 翔平
(72)【発明者】
【氏名】植田 敬一
(72)【発明者】
【氏名】山本 庸平
【審査官】西藤 直人
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-015903(JP,U)
【文献】特開2020-133889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/16
F16C 25/06-25/08
F16C 35/04-35/078
F16C 35/12
F16C 41/00
B23B 19/02
B23Q 17/00
G01L 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに背面組み合わせされて軸を支持する、各々が内輪、外輪、転動体、および保持器を含む2つの軸受と、
前記2つの軸受の内輪の間に設けられる内輪間座と、
前記2つの軸受の外輪の間に設けられる外輪間座と、
前記外輪間座に印加される前記軸に沿う方向の荷重を検出する第1センサと、
前記外輪間座の前記軸に沿う方向の変形量を検出する第2センサと、
を備え
、
前記第1センサの出力および前記第2センサの出力を用いて前記2つの軸受に作用する予圧を算出する制御装置をさらに備える、軸受装置。
【請求項2】
前記2つの軸受の内輪を前記軸に沿う方向に締め付けることによって前記予圧を発生させるための押圧力を前記2つの軸受に印加する第1部材と、
前記2つの軸受の外輪を前記軸に沿う方向に締め付ける第2部材とをさらに備え、
前記制御装置は、
前記第1部材を締め付け、かつ前記第2部材を締め付けていない状態で前記第1センサが検出した荷重を第1予圧として取得し、
前記第1部材を締め付け、かつ前記第2部材を締め付けた状態で前記第2センサが検出した変形量に基づいて前記外輪間座に印加される前記軸に沿う方向の荷重の減少量を算出し、
前記第1予圧から前記荷重の減少量を差し引いた荷重を、前記第1部材および前記第2部材を組み付けた後の第2予圧として算出する、請求項
1に記載の軸受装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記第2センサが検出した変形量を前記荷重の減少量に換算するための情報を記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された情報を用いて、前記第2センサが検出した変形量に対応する前記荷重の減少量を算出する第1算出部と、
前記第1算出部が算出した前記荷重の減少量を前記第1予圧から減算することによって前記第2予圧を算出する第2算出部とを備える、請求項
2に記載の軸受装置。
【請求項4】
前記第1センサは、前記第1部材による前記押圧力が作用する力線上であって、かつ前記外輪間座以外の部品に配置される、請求項
2または
3に記載の軸受装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記外輪間座に搭載されている、請求項
1~
4のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項6】
前記第2センサは、前記外輪間座の前記軸に沿う方向の変形量に応じて電気抵抗が変化するひずみセンサである、請求項1~
5のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項7】
前記第1センサは、前記外輪間座に印加される圧力に応じて出力が変化する感圧センサである、請求項1~
6のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項8】
互いに背面組み合わせされて軸を支持する、各々が内輪、外輪、転動体、および保持器を含む2つの軸受と、
前記2つの軸受の内輪の間に設けられる内輪間座と、
前記2つの軸受の外輪の間に設けられる外輪間座と、
前記2つの軸受の内輪を前記軸に沿う方向に締め付けることによって前記2つの軸受に作用する予圧を発生させるための押圧力を前記2つの軸受に印加する第1部材と、
前記2つの軸受の外輪を前記軸に沿う方向に締め付ける第2部材と、
前記外輪間座に印加される前記軸に沿う方向の荷重を検出するセンサと、
前記センサの出力を用いて前記2つの軸受に作用する予圧を算出する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記第1部材を締め付け、かつ前記第2部材を締め付けていない状態で前記センサが検出した荷重を第1予圧として取得し、
前記第1部材を締め付け、かつ前記第2部材を締め付けた状態で前記センサが検出した荷重に基づいて前記外輪間座に印加される前記軸に沿う方向の荷重の減少量を算出し、
前記第1予圧から前記荷重の減少量を差し引いた荷重を、前記第1部材および前記第2部材を組み付けた後の第2予圧として算出する、軸受装置。
【請求項9】
前記2つの軸受の各々は、アンギュラ玉軸受である、請求項1~
8のいずれかに記載の軸受装置。
【請求項10】
前記軸は、工作機械の主軸である、請求項1~
9のいずれかに記載の軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、予圧荷重を検出する機能を備えた軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸などの高速回転精度および位置決め精度が求められる回転体を支持する転がり軸受には、一般的に、予圧荷重が負荷される。予圧荷重は、振動や軸受内部の滑りとそれに伴う損傷を防ぐ目的に用いられる。
【0003】
予圧荷重の大きさは、その機械に求められる剛性および精度、あるいは運転時の温度上昇を考慮して決定される。予圧荷重が過剰であると、軸受の寿命低下や異常発熱、回転トルクの増大などを招き得る。逆に、予圧荷重が不足している場合は、剛性不足、振動の増大、軸受内部の滑りとそれに伴う損傷が生じ得る。
【0004】
一般的に、予圧荷重は、荷重の負荷方法の違いによって、定位置予圧と定圧予圧とに分類される。定位置予圧は、予圧が負荷される軸受の位置が固定されており、剛性を高めるのに有効である。また、定圧予圧はばねを用いて予圧を負荷するので、熱や荷重の影響によって軸受間の位置が変化しても、予圧を一定に保つことができる。
【0005】
定位置予圧は、運転時の内輪と外輪との温度差、遠心力などによって、運転時に予圧荷重が増加する。そのため、軸が停止している時の予圧荷重(以下「組込後予圧」ともいう)の設定が重要となる。また、設定した組込後予圧を管理し、バラツキを抑えることも重要となる。そのため、従来より、組込後予圧を測定するためのさまざまな技術が提案されている(たとえば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-115284号公報
【文献】特開2020-3385号公報
【文献】特開2020-60411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
組込後予圧を直接的に測定するには、軸受装置内において予圧荷重が作用する力線(以下「第1力線」ともいう)上に、予圧荷重を検出するための荷重センサを設置することが有効である。
【0008】
ただし、抑え蓋などの部材の締め込みによって軸受をハウジングに固定する際に、第1力線とは異なる力線(以下「第2力線」ともいう)が軸受の外輪に発生する場合には、第2力線から加わる荷重によって軸受の外輪が収縮する。これに伴い、軸受内部の転動体と軌道面の弾性変形量は減少し、第1力線の予圧荷重も低下する。したがって、組込後予圧を精度よく検出するためには、第2力線から加わる荷重による減少分を考慮しなければならない。
【0009】
しかしながら、上述の特許文献1~3には、組込後予圧の検出に関する具体的な記載はなく、また、上述の第1力線の荷重と第2力線の荷重との切り分けに関する具体的な記載もない。そのため、組込後予圧を精度よく検出できないことが懸念される。
【0010】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、軸受装置の組込後予圧を精度よく検出することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1) 本開示による軸受装置は、互いに背面組み合わせされて軸を支持する、各々が内輪、外輪、転動体、および保持器を含む2つの軸受と、2つの軸受の内輪の間に設けられる内輪間座と、2つの軸受の外輪の間に設けられる外輪間座と、外輪間座に印加される軸に沿う方向の荷重を検出する第1センサと、外輪間座の軸に沿う方向の変形量を検出する第2センサと、を備える。
【0012】
(2) ある態様においては、第1センサの出力および第2センサの出力を用いて2つの軸受に作用する予圧を算出する制御装置をさらに備える。
【0013】
(3) ある態様においては、2つの軸受の内輪を軸に沿う方向に締め付けることによって予圧を発生させるための押圧力を2つの軸受に印加する第1部材と、2つの軸受の外輪を軸に沿う方向に締め付ける第2部材とをさらに備える。制御装置は、第1部材を締め付け、かつ第2部材を締め付けていない状態で第1センサが検出した荷重を第1予圧として取得し、第1部材を締め付け、かつ第2部材を締め付けた状態で第2センサが検出した変形量に基づいて外輪間座に印加される軸に沿う方向の荷重の減少量を算出し、第1予圧から荷重の減少量を差し引いた荷重を、第1部材および第2部材を組み付けた後の第2予圧として算出する。
【0014】
(4) ある態様においては、制御装置は、第2センサが検出した変形量を荷重の減少量に換算するための情報を記憶する記憶部と、記憶部に記憶された情報を用いて、第2センサが検出した変形量に対応する荷重の減少量を算出する第1算出部と、第1算出部が算出した荷重の減少量を第1予圧から減算することによって第2予圧を算出する第2算出部とを備える。
【0015】
(5) ある態様においては、第1センサは、第1部材による押圧力が作用する力線上であって、かつ外輪間座以外の部品に配置される。
【0016】
(6) ある態様においては、制御装置は、外輪間座に搭載されている。
【0017】
(7) ある態様においては、第2センサは、外輪間座の軸に沿う方向の変形量に応じて電気抵抗が変化するひずみセンサである。
【0018】
(8) ある態様においては、第1センサは、外輪間座に印加される圧力に応じて出力が変化する感圧センサである。
【0019】
(9) 本開示による他の軸受装置は、互いに背面組み合わせされて軸を支持する、各々が内輪、外輪、転動体、および保持器を含む2つの軸受と、2つの軸受の内輪の間に設けられる内輪間座と、2つの軸受の外輪の間に設けられる外輪間座と、2つの軸受の内輪を軸に沿う方向に締め付けることによって2つの軸受に作用する予圧を発生させるための押圧力を2つの軸受に印加する第1部材と、2つの軸受の外輪を軸に沿う方向に締め付ける第2部材と、外輪間座に印加される軸に沿う方向の荷重を検出するセンサと、センサの出力を用いて2つの軸受に作用する予圧を算出する制御装置とを備える。制御装置は、第1部材を締め付け、かつ第2部材を締め付けていない状態でセンサが検出した荷重を第1予圧として取得し、第1部材を締め付け、かつ第2部材を締め付けた状態でセンサが検出した荷重に基づいて外輪間座に印加される軸に沿う方向の荷重の減少量を算出し、第1予圧から荷重の減少量を差し引いた荷重を、第1部材および第2部材を組み付けた後の第2予圧として算出する。
【0020】
(10) ある態様においては、2つの軸受の各々は、アンギュラ玉軸受である。
【0021】
(11) ある態様においては、軸は、工作機械の主軸である。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、軸受装置の組込後予圧を精度よく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】軸受装置の概略構成を示す断面図(その1)である。
【
図2】センサモジュールおよび制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】軸ナットの締め付けによる初期予圧F1が軸受装置に付与されている状態を示す図である。
【
図4】軸ナットの締め付けによる初期予圧F1と抑え蓋の締め付けによる荷重F2とが軸受装置に付与されている状態を示す図である。
【
図5】制御装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図6】軸受装置の概略構成を示す断面図(その2)である。
【
図7】軸受装置の概略構成を示す断面図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本開示の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0025】
[実施の形態1]
図1は、本実施の形態1による軸受装置1の概略構成を示す断面図である。
【0026】
図1に示す軸受装置1は、たとえば、工作機械のビルトインモータ方式のスピンドル装置として使用される。この場合、軸受装置1で支持されている主軸4の一端側には図示しないモータが組み込まれ、他端側には図示しないエンドミル等の切削工具が接続される。本実施の形態において、主軸4の軸径は70mmに設定され、主軸4の最高回転速度は15000回転/分に設定されている。
【0027】
軸受装置1は、筒状のハウジング3と、2つの軸受5a,5bを含む軸受5と、軸受5aと軸受5bとの間に配置される間座6と、間座7と、軸ナット8と、抑え蓋10,20と、センサモジュール140とを備える。
【0028】
主軸4は、ハウジング3の内部に設けられ、軸受5a,5bによってハウジング3に対して回転自在に支持される。
【0029】
軸受5a,5bは、アンギュラ玉軸受、深溝玉軸受、またはテーパころ軸受等を用いることができる。
図1に示す軸受装置1にはアンギュラ玉軸受が用いられ、2個の軸受5a,5bが背面組み合わせ(DB組み合わせ)で設置されている。
【0030】
ここでは、2つの軸受5a,5bで主軸4を支持する構造を例示して説明するが、2つ以上の軸受で主軸4を支持する構造であってもよい。
【0031】
軸受5aは、内輪5iaと、外輪5gaと、内輪5iaと外輪5gaとの間に配置される複数の転動体Taと、保持器Rtaとを含む、転がり軸受である。複数の転動体Taの間隔は、保持器Rtaによって保持されている。
【0032】
軸受5bは、内輪5ibと、外輪5gbと、内輪5ibと外輪5gbとの間に配置される複数の転動体Tbと、保持器Rtbとを含む、転がり軸受である。複数の転動体Tbの間隔は、保持器Rtbによって保持されている。
【0033】
主軸4には、軸受5aの内輪5iaおよび軸受5bの内輪5ibが、互いに軸方向(主軸4に沿う方向)に離隔した位置に、締まり嵌め状態(圧入状態)で嵌合されている。
【0034】
間座6は、内輪間座6iと、外輪間座6gとを含む。内輪間座6iは内輪5ia-5ib間に配置され、外輪間座6gは外輪5ga-5gb間に配置される。
【0035】
ハウジング3の内部には、図示しない冷媒流路が形成される。ハウジング3の冷媒流路に冷媒を流すことにより、軸受5a,5bを冷却することができる。
【0036】
軸ナット8は、軸方向の軸受5a,5b側に締め付けることによって、定位置予圧を発生させるための押圧力を軸受5a,5bに印加するための環状の部材(第1部材)である。
【0037】
抑え蓋10,20は、軸受5a,5bの外輪5ga,5gbおよびハウジング3を軸方向に締め付けることによって、軸受5a,5bをハウジング3に固定するための環状の部材(第2部材)である。なお、抑え蓋10,20は、ハウジング3の内径面に嵌合される。
【0038】
軸受5a,5bを主軸4に取り付る際には、初めに軸受5a、間座6、軸受5b、間座7がこの順に主軸4に対して挿入され、この状態で軸ナット8を締め付けることによって、軸受5a,5bに初期予圧(第1予圧)F1が与えられる。軸ナット8を締め付けることにより、間座7を介して軸受5bの内輪5ibの端面に力が作用し、内輪5ibが内輪間座6iに向けて押される。この力は、内輪5ib、転動体Tb、外輪5gbと伝わり内輪5ibおよび外輪5gbの軌道面と転動体Tbとの間に初期予圧F1を与えるとともに、外輪5gbから外輪間座6gにも伝わる。また、外輪5gbから外輪間座6gに押す力が作用し、この力は、軸受5aにおいて、外輪5ga、転動体Ta、内輪5iaへと伝わり、内輪5iaおよび外輪5gaの軌道面と転動体Taの間にも初期予圧F1を与える。
【0039】
その後、軸受5a,5bが取り付けられた主軸4が、ハウジング3に挿入される。最後に、抑え蓋10,20を互いに近づく方向に締め付けることによって、軸受5a,5bに支持される主軸4がハウジング3に固定される。この際、抑え蓋10,20の締め付けによって、外輪5ga,5gbおよび外輪間座6gが収縮する。この影響で、抑え蓋10,20を締め付けた後の組込後予圧F4は、初期予圧F1よりも、抑え蓋10,20の締め付けによる荷重減少量分だけ低下することになる。
【0040】
外輪5gaと外輪5gbとの間に組み込まれる外輪間座6gには、予圧を検出するためのセンサモジュール140が配置されている。
【0041】
センサモジュール140には、後述の
図2に示すように、外輪間座6gに印加される軸方向の荷重を検出する荷重センサ143(第1センサ)と、外輪間座6gの軸方向の変形量を検出する変形量センサ144(第2センサ)とが備えられる。なお、
図1に示すセンサモジュール140の位置はあくまで例示であって、この位置に限定されるものではない。たとえば、センサモジュール140を構成する部品のうち、荷重センサ143が外輪間座6gの端面(外輪間座6gと外輪5gaとの境界、または外輪間座6gと外輪5gbとの境界)に配置され、変形量センサ144が外輪間座6gの外径面に配置されていてもよい。
【0042】
図2は、本実施の形態によるセンサモジュール140および制御装置200の構成の一例を示すブロック図である。センサモジュール140には、上述の荷重センサ143および変形量センサ144と、通信装置141と、発電装置142とを含む。
【0043】
荷重センサ143は、たとえば、外輪間座6gの端面に配置され、荷重センサ143に印加される圧力に応じて出力が変化する、感圧センサである。感圧センサは、面圧の変化で電気抵抗が変化する金属薄膜抵抗体で形成される感圧素子である。
【0044】
変形量センサ144は、たとえば、外輪間座6gの外径面に配置され、外輪間座6gの軸方向変形量に応じて電気抵抗が変化する、ひずみセンサである。なお、荷重センサ143をひずみセンサとし、変形量センサ144を感圧センサとしてもよい。
【0045】
通信装置141は、各センサ143,144に電線で接続され、各センサ143,144の検出結果を示すデータを収集する。なお、通信装置141が、各センサ143,144と無線で接続され、各センサ143,144の検出結果を示すデータをワイヤレスで収集するようにしてもよい。
【0046】
本実施の形態による軸受装置1は、制御装置200をさらに備える。なお、制御装置200は、ハウジング3の外部の領域に設けられてもよいし、ハウジング3の内部の領域(たとえば外輪間座6gの内部)に設けられてもよい。通信装置141は、各センサ143,144から収集したデータを、電磁波を用いた無線通信によって制御装置200に送信する。通信装置141は、たとえばBluetooth(登録商標)の通信規格に準拠しており、2.4GHzの周波数帯の電波を用いて各センサ143,144の検出結果を示すデータを制御装置200に無線送信することができる。
【0047】
発電装置142は、通信装置141に接続され、通信装置141を駆動させるための電力を自己発電する。発電装置142としては、たとえば、ゼーベック効果によって発電を行なう熱電素子(ペルチェ素子)を使用することができる。各センサを駆動させるために電力が必要な場合には、そのセンサに発電装置142からの電力を供給するようにしてもよい。
【0048】
制御装置200は、センサモジュール140からのデータに基づいて、予圧を算出する演算処理部220を含む。演算処理部220は、取得部221と、第1算出部222と、第2算出部223と、記憶部224とを含む。
【0049】
取得部221は、軸ナット8を締め付け、かつ抑え蓋10,20を締め付けていない状態で荷重センサ143が検出した荷重を、初期予圧F1として取得して記憶部224に記憶する。たとえば、作業者は、軸受装置1を組み立てる際に、軸ナット8の締め付けが完了した時点(抑え蓋10,20が未だ締め付けられていない状態)で初期予圧F1の測定を開始するための第1指令を制御装置200に入力するようにする。この第1指令が入力されたことに応じて、取得部221は、荷重センサ143の検出結果を取得し、取得した検出結果を初期予圧F1として記憶部224に記憶する。
【0050】
記憶部224には、第1算出部222および第2算出部223の処理に用いられる情報(係数、近似式など)が予め記憶されている。
【0051】
第1算出部222は、軸ナット8を締め付け、かつ抑え蓋10,20を締め付けた状態で変形量センサ144が検出した外輪間座6gの軸方向変形量を、記憶部224に記憶された情報を用いて予圧荷重減少量F3を算出する。たとえば、作業者は、軸受装置1を組み立てる際に、軸ナット8の締め付けが完了し、かつ抑え蓋10,20の締め付けが完了した状態で組込後予圧F4の算出を開始するための第2指令を制御装置200に入力するようにする。この第2指令が入力されたことに応じて、第1算出部222は、変形量センサ144の検出結果を取得し、取得した検出結果を記憶部224に記憶された情報を用いて予圧荷重減少量F3に変換する。
【0052】
第2算出部223は、取得部221が取得した初期予圧F1と、第1算出部222が算出した予圧荷重減少量F3とに基づいて、組込後予圧F4を算出する。算出された組込後予圧F4は、図示しないディスプレイに表示される。
【0053】
なお、本実施の形態においては演算処理部220がセンサモジュール140の外部に設けられるが、演算処理部220の一部または全部がセンサモジュール140の内部に設けられてもよい。
【0054】
<組込後予圧F4の算出>
以下、制御装置200による組込後予圧F4の算出手法について詳しく説明する。
【0055】
図3は、軸ナット8の締め付けによって初期予圧F1が軸受装置1に付与されている状態を示す図である。初期予圧F1が作用する第1力線は、
図3に示すように、軸ナット8を締め付けることにより、間座7、内輪5ib、転動体Tb、外輪5gb、外輪間座6g、外輪5ga、転動体Ta、内輪5iaを通る経路となる。
【0056】
図4は、軸ナット8の締め付けによる初期予圧F1と抑え蓋10,20の締め付けによる荷重F2とが軸受装置1に付与されている状態を示す図である。軸受5a,5bが取り付けられた主軸4がハウジング3に挿入された状態で抑え蓋10,20を締め付けることによって、主軸4がハウジング3に固定される。抑え蓋10,20の締め付けによる荷重F2が作用する第2力線は、
図4に示すように、外輪5gb、外輪間座6g、外輪5gaを通る経路となる。したがって、抑え蓋10,20の締め付けによる荷重F2が作用する第2力線は、初期予圧F1が作用する第1力線と、外輪間座6gにおいて重なっている。
【0057】
そして、抑え蓋10,20の締め付けによる荷重F2によって外輪5ga,5gbおよび外輪間座6gが収縮すると、この影響で組込後予圧F4は、初期予圧F1よりも、抑え蓋10,20の締め付けによる荷重減少量分だけ低下することになる。
【0058】
この点に鑑み、本実施の形態による制御装置200は、以下の手順で組込後予圧F4を算出する。まず、制御装置200(取得部221)は、
図3に示すような初期予圧F1が付与されている状態、すなわち、軸ナット8を締め付け、かつ抑え蓋10,20を締め付けていない状態で、荷重センサ143が検出した荷重を初期予圧F1として取得して記憶する。
【0059】
その後、制御装置200(第1算出部222)は、
図4に示すような軸ナット8による初期予圧F1と抑え蓋10,20の締め付けによる荷重F2とが軸受装置1に付与されている状態、すなわち、軸ナット8を締め付け、かつ抑え蓋10,20を締め付けた状態で、変形量センサ144が検出した外輪間座6gの軸方向変形量を取得する。そして、制御装置200(第1算出部222)は、取得された軸方向変形量を、抑え蓋10,20の締め付けによる予圧荷重減少量F3に換算する。なお、抑え蓋10,20の締め付けによる外輪間座6gの軸方向変形量と、抑え蓋10,20の締め付けによる予圧荷重減少量F3との対応関係を示す情報は、外輪間座6g、および軸受5a,5bの内部諸元に基づいて予め規定されて記憶部224に記憶されている。制御装置200(第1算出部222)は、記憶部224に記憶された対応関係を参照して、軸方向変形量を予圧荷重減少量F3に換算する。
【0060】
その後、制御装置200(第2算出部223)は、初期予圧F1から荷重減少量F3を差し引いた値を、組込後予圧F4として算出する。
【0061】
図5は、制御装置200が組込後予圧F4を算出する際に行なう処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0062】
まず、制御装置200は、軸ナット8を締め付け、かつ抑え蓋10,20を締め付けていない状態で荷重センサ143が検出した荷重を、初期予圧F1として取得して記憶する(ステップS10)。たとえば、制御装置200は、上述の第1指令が入力されたことに応じて荷重センサ143の検出結果を取得し、取得した検出結果を初期予圧F1として記憶部224に記憶する。
【0063】
次いで、制御装置200は、軸ナット8を締め付け、かつ抑え蓋10,20を締め付けた状態で変形量センサ144が検出した外輪間座6gの軸方向変形量を取得する(ステップS12)。たとえば、制御装置200は、上述の第2指令が入力されたことに応じて、変形量センサ144が検出した外輪間座6gの軸方向変形量を取得する。
【0064】
次いで、制御装置200は、ステップS12で取得した軸方向変形量を、予圧荷重減少量F3に換算する(ステップS14)。制御装置200は、記憶部224に記憶されている、外輪間座6gの軸方向変形量と予圧荷重減少量F3との対応関係を参照して、ステップS12で取得した軸方向変形量を予圧荷重減少量F3に換算する。
【0065】
次いで、制御装置200は、ステップS10で取得した初期予圧F1から、ステップS14で求めた予圧荷重減少量F3を差し引いた値(=F1-F3)を、組込後予圧F4として算出する(ステップS16)。
【0066】
以上のように、本実施の形態による軸受装置1は、互いに背面組み合わせされて主軸4を支持する軸受5a,5bと、軸受5a,5b間に設けられる内輪間座6iおよび外輪間座6gと、外輪間座6gに印加される軸方向荷重を検出する荷重センサ143と、外輪間座6gの軸方向変形量を検出する変形量センサ144と、を備える。
【0067】
この構成によれば、荷重センサ143が検出した荷重を初期予圧F1として取得し、変形量センサ144が検出した外輪間座6gの軸方向変形量に基づいて予圧荷重減少量F3を算出し、初期予圧F1から荷重減少量F3を差し引いた値を、組込後予圧F4として算出することができる。これにより、組込後予圧F4を精度よく検出することができる。その結果、組込後予圧F4の測定による工数の増加、生産性の低下、コストの上昇を抑えることができる。また、組込後予圧F4のバラツキも抑えることができ、高精度な組込後予圧F4の管理を実現することができる。
【0068】
さらに、本実施の形態による軸受装置1は、予圧を発生させるための押圧力を軸受5a,5bに印加する軸ナット8と、軸受5a,5bをハウジング3に固定するための抑え蓋10,20と、制御装置200と、を備える。そして、制御装置200は、軸ナット8を締め付け、かつ抑え蓋10,20を締め付けていない状態で荷重センサ143が検出した荷重を初期予圧(第1予圧)F1として取得し、軸ナット8を締め付け、かつ抑え蓋10,20を締め付けた状態で変形量センサ144が検出した変形量に基づいて荷重減少量F3を算出し、初期予圧F1から荷重減少量F3を差し引いた荷重を、組込後予圧F4として算出する。これにより、軸ナット8を締め付けた後に抑え蓋10,20を締め付けることによって予圧が変化する場合であっても、組込後予圧F4を精度よく検出することができる。
【0069】
さらに、本実施の形態による軸受装置1においては、荷重センサ143が、予圧が作用する経路(第1力線)のうち、外輪間座6g(主軸4が回転しても回転しない部材)に実装される。そのため、荷重センサ143がたとえば間座7(主軸4の回転に伴って回転する部材)に実装される場合に比べて、回転振動によるノイズなどが低減されるため、組込後予圧F4の測定および無線でのデータ伝送を安定的に行なうことができる。
【0070】
[実施の形態2]
図6は、本実施の形態2による軸受装置1Aの概略構成を示す断面図である。軸受装置1Aは、上述の
図1に示す軸受装置1に対して、軸受5bと間座7との間に軸受5cを追加することによって、主軸4にアンギュラ玉軸受が3列背面組み合わせ(DBT配列)で組み込まれている。軸受装置1Aのその他の構成は、上述の軸受装置1と同じである。
【0071】
このような軸受装置1Aにおいても、上述の実施の形態1と同様の手法で組込後予圧F4を算出することができる。
【0072】
[実施の形態3]
図7は、本実施の形態3による軸受装置1Bの概略構成を示す断面図である。軸受装置1Bは、上述の
図6に示す軸受装置1Aに対して、軸受5aの左側に軸受5dを追加することによって、主軸4にアンギュラ玉軸受が4列背面組み合わせ(DTBT配列)で組み込まれている。軸受装置1Bのその他の構成は、上述の軸受装置1Aと同じである。
【0073】
このような軸受装置1Bにおいても、上述の実施の形態1と同様の手法で組込後予圧F4を算出することができる。
【0074】
[変形例1]
上述の実施の形態1~3においては荷重センサ143とは別に変形量センサ144を設ける例について説明したが、変形量センサ144の機能を荷重センサ143が兼用することもできる。この場合、変形量センサ144を省略することができるため、製造コストの低減が期待できる。
【0075】
変形量センサ144を省略して荷重センサ143のみを設ける場合、以下の手順で組込後予圧F4を算出することができる。まず、制御装置200は、軸ナット8を締め付け、かつ抑え蓋10,20を締め付けていない状態で荷重センサ143が検出した荷重を初期予圧F1として取得して記憶する。
【0076】
次いで、制御装置200は、軸ナット8を締め付け、かつ抑え蓋10,20を締め付けた状態で荷重センサ143が検出した荷重F2を取得し、取得した荷重F2を予圧荷重減少量F3に換算する。なお、荷重F2と予圧荷重減少量F3との対応関係を示す情報は、予め規定されて記憶部224に記憶しておくことができる。制御装置200は、記憶部224に記憶された対応関係を参照して、荷重F2を予圧荷重減少量F3に換算することができる。
【0077】
そして、制御装置200は、初期予圧F1から予圧荷重減少量F3を差し引いた値(=F1-F3)を、組込後予圧F4として算出する。
【0078】
以上のように変形量センサ144を省略して荷重センサ143のみを設けるように変形することもできる。
【0079】
[変形例2]
上述の実施の形態1~3においては軸ナット8を用いて第1力線に初期予圧F1を印加する例について説明したが、軸ナット8に代えて、油圧ナット、あるいは、主軸4の端部に取り付けられる蓋を取り付けるためのボルトなどの部材を用いて第1力線に荷重F1を印加するようにしてもよい。
【0080】
[変形例3]
上述の実施の形態1~3においては軸受の配列を2列背面組み合わせ(DB配列)、3列背面組み合わせ(DBT配列)、4列背面組み合わせ(DTBT配列)とする例をそれぞれ挙げたが、2列背面組み合わせを含む配列であれば5列以上の配列であってもよい。
【0081】
[変形例4]
上述の実施の形態1~3においては荷重センサ143を外輪間座6gに設けているが、軸ナット8と内輪5ibとの間に組み込まれる間座7のように、第1力線が通過する外輪間座6g以外の他の部品に荷重センサ143を設けるようにしてもよい。
【0082】
[変形例5]
上述の実施の形態1~3においては軸ナット8を締め付けた後に抑え蓋10,20を締め付ける場合を示したが、軸ナット8および抑え蓋10,20を締め付ける順番は必ずしもこの順番に限定されない。すなわち、抑え蓋10,20を締め付けた後に軸ナット8を締め付けるようにしてもよい。この場合、たとえば、抑え蓋10,20を締め付けた状態で変形量センサ144の出力に基づいて予圧荷重減少量F3を先に算出し、その後に軸ナット8を締め付けた状態で荷重センサ143が検出した荷重F1を算出し、荷重F1に予圧荷重減少量F3を加えた値を、組込後予圧F4として算出するようにすればよい。
【0083】
[変形例6]
上述の
図2には示していないが、各センサ143,144の出力を増幅する処理回路部を制御装置200に設けて、処理回路部での増幅後に演算処理部220の処理を施すようにしてもよい。処理回路部は、回路部と増幅部とで構成され、たとえば各センサ143,144が荷重に応じて電気抵抗が変化するように構成されている場合、回路部では、3つの既知の抵抗値、および荷重センサ143または変形量センサ144でブリッジ回路を構成し、ブリッジ回路に印加する電源電圧と、荷重センサ143および変形量センサ144の抵抗変化に応じた電圧を得るように構成することができる。増幅部では、ブリッジ回路から出力された電圧を差動アンプに接続し、電圧を増幅させて出力するするように構成することができる。また、処理回路部の機能を演算処理部220の内部に設けるようにしてもよい。
【0084】
上述の実施の形態1-3および変形例1-6における特徴は、矛盾が生じない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【0085】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0086】
1,1A,1B 軸受装置、3 ハウジング、4 主軸、5,5a,5b,5c,5d 軸受、5ga,5gb 外輪、5ia,5ib 内輪、6,7 間座、6g 外輪間座、6i 内輪間座、8 軸ナット、10,20 抑え蓋、140 センサモジュール、141 通信装置、142 発電装置、143 荷重センサ、144 変形量センサ、200 制御装置、220 演算処理部、221 取得部、222 第1算出部、223 第2算出部、224 記憶部、Rta,Rtb 保持器、Ta,Tb 転動体。