(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-23
(54)【発明の名称】キメラ抗原受容体を発現する改変された単球/マクロファージ/樹状細胞、ならびにタンパク質凝集物に関連する疾患および障害における使用
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20241011BHJP
C12N 5/0786 20100101ALI20241011BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20241011BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241011BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241011BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20241011BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20241011BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20241011BHJP
A61P 21/04 20060101ALI20241011BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20241011BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20241011BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20241011BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241011BHJP
A61P 11/02 20060101ALI20241011BHJP
A61P 11/06 20060101ALI20241011BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 11/08 20060101ALI20241011BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241011BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20241011BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20241011BHJP
A61P 9/12 20060101ALI20241011BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20241011BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20241011BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20241011BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20241011BHJP
C07K 16/18 20060101ALN20241011BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20241011BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N5/0786
C12N5/0784
C12N5/10
C12N15/62 Z
A61K35/12
A61K45/00
A61P25/00
A61P29/00
A61P9/00
A61P43/00 105
A61P25/28
A61P25/16
A61P21/04
A61P25/20
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P1/02
A61P1/04
A61P11/02
A61P11/06
A61P11/00
A61P31/00
A61P35/00
A61P11/08
A61P17/00
A61P37/02
A61P17/10
A61P9/10
A61P9/12
A61P3/04
A61P9/04
A61P1/16
A61P13/12
C07K16/18
C07K14/705
(21)【出願番号】P 2020541919
(86)(22)【出願日】2019-02-01
(86)【国際出願番号】 US2019016253
(87)【国際公開番号】W WO2019152781
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2022-01-25
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500429103
【氏名又は名称】ザ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ ペンシルバニア
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ギル ザール
(72)【発明者】
【氏名】クリチンスキー マイケル
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-532014(JP,A)
【文献】国際公開第2017/019848(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
C12N 15/00
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞であって、
該CARが、抗原結合ドメイン
を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含み、
該抗原結合ドメインが、
アミロイドタンパク質の抗原に結合
し、
該細胞が、該CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞であり、かつ
該抗原結合ドメインが該アミロイドタンパク質の抗原に結合すると、該細胞が、食作用活性を示す、
前記細胞。
【請求項2】
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む細胞であって、
該核酸配列が、抗原結合ドメインを
含む細胞外ドメインをコードする核酸配列、膜貫通ドメインをコードする核酸配列、および細胞内ドメインをコードする核酸配列のうちの1つまたは複数を含み、
該抗原結合ドメインが、
アミロイドタンパク質の抗原に結合
し、
該細胞が、該CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞であり、かつ
該抗原結合ドメインが該アミロイドタンパク質の抗原に結合すると、該細胞が、食作用活性を示す、
前記細胞。
【請求項3】
前記抗原結合ドメインが、
アミロイドーシスを有する対象の組織における
アミロイドタンパク質の抗原に結合
する、請求項1または2記載の細胞。
【請求項4】
前記細胞内ドメインが、共刺激分子およびシグナル伝達ドメインのうちの少なくとも1つであるかまたはそれを含む、請求項1~3のいずれか一項記載の細胞。
【請求項5】
前記抗原結合ドメインが、抗体物質であるかまたはそれを含む、請求項1~4のいずれか一項記載の細胞。
【請求項6】
前記抗原結合ドメインが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、一本鎖可変断片、およびそれらの抗原結合断片からなる群より選択される抗体物質であるかまたはそれを含む、請求項1~5のいずれか一項記載の細胞。
【請求項7】
前記抗体物質が、
TDP-43抗体、β-アミロイド抗体、アミロイド抗体、
および/または前述の抗体のいずれかのscFVであるかまたはそれを含む、請求項6記載の細胞。
【請求項8】
前記アミロイドーシスが、原発性アミロイドーシス(AL)、続発性アミロイドーシス(AA)、家族性アミロイドーシス(ATTR)、他の家族性アミロイドーシス、β-2ミクログロブリンアミロイドーシス、限局性アミロイドーシス、重鎖アミロイドーシス(AH)、軽鎖アミロイドーシス(AL)、原発性全身性アミロイドーシス、ApoAIアミロイドーシス、ApoAIIアミロイドーシス、ApoAIVアミロイドーシス、アポリポタンパク質C2アミロイドーシス、アポリポタンパク質C3アミロイドーシス、角膜ラクトフェリンアミロイドーシス、トランスサイレチン関連アミロイドーシス、透析アミロイドーシス、フィブリノーゲンアミロイドーシス、Lect2アミロイドーシス(ALECT2)、およびリゾチームアミロイドーシスからなる群より選択される、請求項3記載の細胞。
【請求項9】
前記CARの細胞内ドメインが、二重シグナル伝達ドメインを含む、請求項1~
8のいずれか一項記載の細胞。
【請求項10】
細胞内ドメインが、TCR、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD86、共通FcRγ、FcRβ(FcεR1b)、CD79a、CD79b、FcγRIIa、DAP10、DAP12、T細胞受容体(TCR)、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分子由来である、請求項1~
9のいずれか一項記載の細胞。
【請求項11】
前記細胞内ドメインが、CD3ζであるかまたはそれを含む、請求項1~
10のいずれか一項記載の細胞。
【請求項12】
ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される1つまたは複数の活性を示す、請求項1~
11のいずれか一項記載の細胞。
【請求項13】
核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質、脂質、ホルモン、ミクロソーム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの作用物質をさらに含む、請求項1~
12のいずれか一項記載の細胞。
【請求項14】
前記細胞の活性が、CD47活性および/またはSIRPα活性の阻害によって強化される、請求項1~
13のいずれか一項記載の細胞。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか一項記載の細胞、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【請求項16】
核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質、脂質、ホルモン、ミクロソーム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの作用物質をさらに含む、請求項
15記載の薬学的組成物。
【請求項17】
その必要がある対象における
アミロイドーシスの処置のための医薬の製造における、請求項1~
14のいずれか一項記載の細胞の使用。
【請求項18】
その必要がある対象において、
アミロイドーシスを処置するための、請求項
15または
16記載の薬学的組成物。
【請求項19】
アミロイドーシスに罹患した対象において、標的細胞または組織に対する免疫応答を刺激するための、請求項
15または
16記載の薬学的組成物。
【請求項20】
前記アミロイドーシスが、原発性アミロイドーシス(AL)、続発性アミロイドーシス(AA)、家族性アミロイドーシス(ATTR)、他の家族性アミロイドーシス、β-2ミクログロブリンアミロイドーシス、限局性アミロイドーシス、重鎖アミロイドーシス(AH)、軽鎖アミロイドーシス(AL)、原発性全身性アミロイドーシス、ApoAIアミロイドーシス、ApoAIIアミロイドーシス、ApoAIVアミロイドーシス、アポリポタンパク質C2アミロイドーシス、アポリポタンパク質C3アミロイドーシス、角膜ラクトフェリンアミロイドーシス、トランスサイレチン関連アミロイドーシス、透析アミロイドーシス、フィブリノーゲンアミロイドーシス、Lect2アミロイドーシス(ALECT2)、およびリゾチームアミロイドーシスからなる群より選択される、請求項
18~
19のいずれか一項記載の薬学的組成物。
【請求項21】
キメラ抗原受容体(CAR)を単球、マクロファージ、および/または樹状細胞に導入する段階を含む、細胞を改変する方法であって、
該CARが、抗原結合ドメイン
を含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含み、
該抗原結合ドメインが、
アミロイドタンパク質の抗原に結合
し、
該抗原結合ドメインが該アミロイドタンパク質の抗原に結合すると、該改変された細胞が、食作用活性を示す、
前記方法。
【請求項22】
CARを細胞に導入する段階が、CARをコードする核酸配列を細胞に導入することを含む、請求項
21記載の方法。
【請求項23】
核酸配列を細胞に導入することが、CARをコードするmRNAを細胞にエレクトロポレーションすることを含む、請求項
22記載の方法。
【請求項24】
核酸配列を細胞に導入することが、エレクトロポレーション、レンチウイルス形質導入、アデノウイルス形質導入、レトロウイルス形質導入、および化学物質ベースのトランスフェクションからなる群より選択される少なくとも1つの手法を含む、請求項
22記載の方法。
【請求項25】
前記CARの抗原結合ドメインが、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、および一本鎖可変断片からなる群より選択される抗体物質であるかまたはそれを含む、請求項
21~
24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記CARの抗原結合ドメインが、
TDP-43抗体、β-アミロイド抗体、アミロイド抗体、
および/または前述の抗体のいずれかのscFVであるかまたはそれを含む、請求項
21~
25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
前記抗原結合ドメインが、
アミロイドーシスを有する対象の組織における
アミロイドタンパク質の抗原に結合
する、請求項
21~
26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質など、脂質、ホルモン、ミクロソーム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される作用物質を標的に送達するように細胞を改変する段階をさらに含む、請求項
21~
27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
請求項
21~
28のいずれか一項記載の方法によって作製された細胞、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願には、米国特許法第119(e)条(35 U.S.C. § 119(e))の下で、2018年2月2日に出願された米国特許仮出願第62/625,487号、および2018年12月31日に出願された米国特許仮出願第62/786,875号の優先権が与えられており、それらは、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ますます多くの疾患および障害が、タンパク質の不適切なフォールディング、ならびに/または、タンパク質およびリポタンパク質、ならびに感染性タンパク質性物質の不適切な沈着および凝集に関連することが示されてきている。これらには、十分に確立された、アルツハイマー病におけるβ-アミロイドおよびタウの凝集物、パーキンソン病におけるα-シヌクレイン凝集物、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む状態におけるFUS、TDP-43、OPTN、およびC9ORF72の凝集、ならびに全身性アミロイドーシスのアミロイド線維およびプラーク特性が含まれる。タンパク質および/またはリポタンパク質の病原性凝集は、神経変性疾患において起こるだけではなく、炎症性疾患、線維性疾患(例えば、コラーゲン)、および心臓血管疾患(例えば、アテローム性動脈硬化プラークにおけるLDL)などの多くの他の疾患においても起こる。
【0003】
高い特異性の抗体に基づく治療アプローチは、現在、病理学的凝集物の様々な成分を標的とする抗体、または凝集物形成のための前駆タンパク質を枯渇させ、それによって凝集物形成を阻害するかまたは遮断するように方向付けられた抗体でこれらの疾患を処置するために研究されている。これらの抗体はまた、凝集したタンパク質自体を枯渇させ、それによって周りの細胞/組織へのそれらの広がりを阻害する、かつ/またはそれらが追加的な凝集物の形成の種をまくことを遮断する、かつ/またはそれらの病理学的効果の発揮を阻止するために用いることもできる。しかし、治療用抗体の機能的限界、例えば、不十分な薬物動態、細胞免疫系の従事の失敗、標的組織における保持または組織貫通の欠如(血液脳関門など)、離れた場所での(off-site)組織毒性、および慢性疾患状態における長期維持効果の欠如があり、それらは依然として対処する必要がある。
【0004】
全身性アミロイドーシスを有する患者において、通常細胞内のタンパク質の細胞外での沈着は、アミロイド(細線維)の不溶性凝集物の蓄積、ならびに、心臓、肝臓、腎臓、神経、および血管などの臓器の機能障害をもたらす。現在の処置は、臓器移植から化学療法までにわたり、これは、重篤な副作用、および大部分の症例において、限定された有効性を結果としてもたらす。血清アミロイドP成分(SAP)に対するモノクローナル抗体(mAb)の導入により、アミロイドのクリアランスがもたらされる(Richards et al. N Engl J Med 2015; 373:1106-1114(非特許文献1));しかし、致死の疾患状態の長期維持は、対処されていないままである。
【0005】
プリオン病のモデルにおいて、プリオンタンパク質(PrP)を標的とする抗体は、不溶性病原性プリオンタンパク質型PrP(Sc)の低減、および脳病変の低減をもたらす(Ohsawa et al, Microbiol Immunol. 2013 Apr;57(4):288-97(非特許文献2))。しかし、血液脳関門(BBB)および脳脊髄液の外への能動輸送のために、脳のmAb濃度は、循環血における濃度の1/1000よりも低く、これが、mAbを治療レベルで脳に送達することを難しくする。
【0006】
心臓血管疾患において、多数のモノクローナル抗体アプローチ、例えば、プロタンパク質変換酵素サブチリシン/ケキシン9型(PCSK9)を標的とする抗体の開発が、採用されてきている。しかし、抗PCSK9抗体の作用の機構は、LDL受容体が、LDLを結合し、それらの粒子を循環から除去するように、より利用可能にすることによって、循環する低密度リポタンパク質(LDL)のレベルを低下させる。これらのアプローチは、LDL粒子およびその直接の除去を標的とせず、これは、アテローム性動脈硬化プラークの状況においてLDLが既に蓄積している場合に助けになるであろう。アテローム性動脈硬化病変には、抗体および他のターゲティング部分で、理想的には、血管内皮を貫通する/組織中へ輸送され、プラーク集積成分を直接除去することができる原薬を通して標的とすることができる、様々なタンパク質およびリポタンパク質が含まれる。加えて、マクロファージは、泡沫細胞の前駆体として働くため、アテローム性動脈硬化プラークは、マクロファージに富むことが公知である。アテローム性動脈硬化疾患においては、血管内皮がより透過性になって、細胞および単球が容易に内膜中に貫通し、そこで、マクロファージに分化して、プラークの形成に寄与する(Lee et al., 2017. Lipids Health Dis. 2017; 16: 12(非特許文献3))。
【0007】
アテローム性動脈硬化症の主な処置は、脂質の低下、糖尿病および高血圧の制御、ならびに喫煙の中止である。確立されたアテローム性動脈硬化症を有する患者は、ステント挿入またはバイパス手術を受ける。しかし、再狭窄および処置の副作用が一般的であり、アテローム性動脈硬化症の処置のための新しい治療アプローチを開発する必要がある。免疫系細胞を誘引するアテローム性動脈硬化血管の連続した炎症環境により、治療法を探求する機会が提供され、そこで、プラーク中に移動するが目標とされるプラーク成分排除能力を備えている単球、マクロファージ、または樹状細胞が、アテローム性動脈硬化症におけるプラーク負荷を直接低減させる際に有用性を有し得る。
【0008】
多くの慢性炎症性疾患が、コラーゲンを含む細胞外マトリックス成分の病的沈着を特徴とする状態である、線維症の発生を結果としてもたらす。線維症は、身体における様々な臓器、特に、肺に影響を及ぼす(例えば、突発性肺線維症)が、肝臓、腎臓、心臓、皮膚、および他のものにも影響を及ぼす。線維症についての現在の処置は、根底にある炎症状態を管理しようとするが、異常なコラーゲン沈着の排除を直接標的とはしない。
【0009】
したがって、特に、タンパク質のミスフォールディングおよび凝集に基づく病理を有する疾患に対して、ならびに不均質凝集物の症例において、特異的な抗原、タンパク質、糖タンパク質、またはリポタンパク質を標的とするように最適化された新しい治療様式の開発について、必要性が存在する。本発明は、この必要性に対処する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Richards et al. N Engl J Med 2015; 373:1106-1114
【文献】Ohsawa et al, Microbiol Immunol. 2013 Apr;57(4):288-97
【文献】Lee et al., 2017. Lipids Health Dis. 2017; 16: 12
【発明の概要】
【0011】
概要
本発明は、1つまたは複数の抗原結合ドメインを含む細胞および/または組成物が、タンパク質凝集物の形成に関する疾患、障害、および/または状態を処置する際に有用であり得るという洞察に、少なくとも一部基づく。本発明は、とりわけ、キメラ抗原受容体または他の抗原結合ドメインを発現するように改変された単球、マクロファージ、および/または樹状細胞を含む単球、マクロファージ、および/または樹状細胞が、多様な疾患、障害、および/または状態において見出されるタンパク質凝集物を破壊するために用いられ得るという認識を前提にする。非限定的な例として、いくつかの態様において、タンパク質凝集物を破壊することは、以前に形成されたタンパク質凝集物のサイズを低減させること、タンパク質凝集物の成長を遅くするかもしくは阻止すること、ならびに/またはタンパク質凝集物の形成を遅くするかもしくは阻止することであってもよく、またはそれを含んでもよい。したがって、本明細書において提供される方法、細胞、および組成物は、疾患、障害、および/または状態をある範囲弱らせるための、強力な新しい種類の治療学に相当する。
【0012】
いくつかの態様において、提供される細胞および/または組成物は、タンパク質凝集物中のまたはタンパク質凝集物上のタンパク質に結合する抗原結合ドメインを含んでもよい。いくつかの態様において、提供される細胞および/または組成物は、1つよりも多いタンパク質の一部分を含むタンパク質凝集物の構造エピトープ(例えば、ネオエピトープ)に結合する抗原結合ドメインを含んでもよい。いくつかの態様において、提供される細胞および/または組成物は、タンパク質凝集物の非タンパク質成分に結合する抗原結合ドメインを含んでもよい。
【0013】
いくつかの態様において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞であって、該CARが、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含み、該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合でき、かつ該細胞が、該CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞である、前記細胞を提供する。いくつかの態様において、本開示は、リンカー/スペーサードメイン、共刺激ドメイン、および不安定化ドメインのうちの1つまたは複数を含むCARを提供する。いくつかの態様において、本発明は、CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞であり、安全スイッチ(例えば、オンスイッチ、オフスイッチ、または自殺スイッチ)、および論理ゲート(例えば、ANDゲート、ORゲート、またはNOTゲート)からなる群より選択される1つまたは複数の制御システムもまた発現する、細胞を提供する。
【0014】
いくつかの態様において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする単離された核酸配列を含む細胞であって、該単離された核酸配列が、抗原結合ドメインをコードする核酸配列、膜貫通ドメインをコードする核酸配列、および細胞内ドメインをコードする核酸配列を含み、該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合でき、かつ該細胞が、CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞である、前記細胞を提供する。
【0015】
いくつかの態様に従って、多様な抗原結合ドメインのうちのいずれかが、用いられてもよい。いくつかの態様において、抗原結合ドメインは、神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスを有する対象の組織におけるタンパク質凝集物の抗原に結合できる。いくつかの態様において、抗原結合ドメインは、抗体物質であるかまたはそれを含む。いくつかの態様において、抗原結合ドメインは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、一本鎖可変断片、およびそれらの抗原結合断片からなる群より選択される抗体物質であるかまたはそれを含む。いくつかの態様において、抗体物質は、タウ(Tau)抗体、TDP-43抗体、β-アミロイド抗体、アミロイド抗体、コラーゲン抗体、および/または前述の抗体のいずれかのscFVであるかまたはそれを含む。
【0016】
様々な態様に従って、多様な細胞内ドメインのうちのいずれかが、用いられてもよい。いくつかの態様において、細胞内ドメインは、共刺激分子およびシグナル伝達ドメインのうちの少なくとも1つであるかまたはそれを含む。いくつかの態様において、CARの細胞内ドメインは、二重シグナル伝達ドメインを含む。いくつかの態様において、CARの細胞内ドメインは、2つよりも多いシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの態様において、細胞内ドメインは、TCR、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD86、共通FcRγ、FcRβ(FcεR1b)、CD79a、CD79b、FcγRIIa、DAP10、DAP12、T細胞受容体(TCR)、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分子由来である。いくつかの態様において、細胞内ドメインは、CD3ζであるかまたはそれを含む。いくつかの態様において、細胞内ドメインは、FcERI、CD16、CD32、CD64、補体受容体、スカベンジャー受容体、カルレティキュリン受容体、ITGAM、SLAMF7、TREM2、デクチン-1、TLR1、2、3、4、5、6、7、8、9;MARCO、DAP12、MEGF10、CD19であるかまたはそれを含む。
【0017】
多様な神経変性疾患のうちのいずれかが、ある特定の態様の使用を介して対処される(例えば、処置される、治癒する、阻止される、改善される、かつ/または遅い進行を示す)可能性があることが、具体的に企図される。例えば、いくつかの態様において、神経変性疾患は、タウオパチー、初老期認知症、老年認知症、アルツハイマー病、17番染色体に連鎖したパーキンソン症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、原発性進行性失語、前頭側頭型認知症、皮質基底核認知症、パーキンソン病、認知症を伴うパーキンソン病、レビー小体型認知症、ダウン症候群、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハラーフォルデン・シュパッツ症候群、ポリグルタミン病、トリヌクレオチドリピート病、家族性英国型認知症、致死性家族性不眠症、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(アイスランド型)(HCHWA-I)、孤発性致死性不眠症(sFI)、不定型プロテアーゼ感受性プリオノパチー(Variably Protease-Sensitive Prionopathy;VPSPr)、家族性デンマーク型認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)、およびプリオン病からなる群より選択される。
【0018】
多様な炎症性疾患のうちのいずれかが、ある特定の態様の使用を介して対処される(例えば、処置される、治癒する、阻止される、改善される、かつ/または遅い進行を示す)可能性があることもまた、企図される。いくつかの態様において、炎症性疾患は、全身性エリテマトーデス、血管炎、関節リウマチ、歯周炎、潰瘍性大腸炎、副鼻腔炎、喘息、結核、クローン病、慢性感染症、遺伝性周期熱、悪性腫瘍、全身性血管炎、反復感染の素因を与える疾患、嚢胞性線維症、気管支拡張症、表皮水疱症、周期性好中球減少症、後天性または遺伝性免疫不全、注射薬使用、および集簇性ざ瘡、マックル・ウェルズ(MWS)病、ならびに家族性地中海熱(FMF)からなる群より選択される。
【0019】
多様なタイプのアミロイドーシスのうちのいずれかが、ある特定の態様の使用を介して対処される(例えば、処置される、治癒する、阻止される、改善される、かつ/または遅い進行を示す)可能性があることが、具体的に企図される。例えば、いくつかの態様において、アミロイドーシスは、原発性アミロイドーシス(AL)、続発性アミロイドーシス(AA)、家族性アミロイドーシス(ATTR)、他の家族性アミロイドーシス、β-2ミクログロブリンアミロイドーシス、限局性アミロイドーシス、重鎖アミロイドーシス(AH)、軽鎖アミロイドーシス(AL)、原発性全身性アミロイドーシス、ApoAIアミロイドーシス、ApoAIIアミロイドーシス、ApoAIVアミロイドーシス、アポリポタンパク質C2アミロイドーシス、アポリポタンパク質C3アミロイドーシス、角膜ラクトフェリンアミロイドーシス、トランスサイレチン関連アミロイドーシス、透析アミロイドーシス、フィブリノーゲンアミロイドーシス、Lect2アミロイドーシス(ALECT2)、およびリゾチームアミロイドーシスからなる群より選択される。
【0020】
多様な心臓血管疾患のうちのいずれかが、ある特定の態様の使用を介して対処される(例えば、処置される、治癒する、阻止される、改善される、かつ/または遅い進行を示す)可能性があることが、さらに企図される。いくつかの態様において、心臓血管疾患は、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、高血圧性心疾患、メタボリック症候群、高血圧、脳血管疾患、および心不全からなる群より選択される。
【0021】
多様な線維性疾患のうちのいずれかが、ある特定の態様の使用を介して対処される(例えば、処置される、治癒する、阻止される、改善される、かつ/または遅い進行を示す)可能性があることが、さらに企図される。いくつかの態様において、線維性疾患は、肺線維症、突発性肺線維症、硬変、嚢胞性線維症、強皮症、心線維症、放射線誘導肺損傷、脂肪肝炎、糸球体硬化症、間質性肺疾患、肝線維症、縦隔線維症、後腹膜腔線維症、骨髄線維症、および皮膚線維症からなる群より選択される。
【0022】
いくつかの態様に従って、提供される細胞および組成物は、いくつかの有益な活性のうちのいずれかを(例えば、対象または患者において)示す可能性がある。いくつかの態様において、細胞は、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される1つまたは複数の活性を示す。加えて、いくつかの態様において、提供される細胞の1つまたは複数の活性は、多様な方法のうちのいずれかを用いて強化されるか、または別のように調節されてもよい。具体例として、いくつかの態様において、提供される細胞の活性は、CD47活性および/またはSIRPα活性の阻害によって強化される。
【0023】
いくつかの態様において、提供される細胞および/または組成物は、併用療法の構成要素として用いられてもよいことが、具体的に企図される。いくつかの態様において、提供される細胞および/または組成物は、核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質、脂質、ホルモン、ミクロソーム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの作用物質をさらに含んでもよい。
【0024】
いくつかの態様において、提供される細胞および/または組成物は、その必要がある対象における神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスの処置のための医薬の製造において、用いられてもよいことが、具体的に企図される。
【0025】
様々な態様に従って、本発明は、提供される細胞、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物を提供する。いくつかの態様において、薬学的組成物は、核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質、脂質、ホルモン、ミクロソーム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの作用物質をさらに含む。
【0026】
様々な態様に従って、本発明は、その必要がある対象に本発明の薬学的組成物の治療的有効量を投与する段階を含む、該対象において、神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスを処置する方法を提供する。
【0027】
様々な態様に従って、本発明は、対象に本発明の薬学的組成物の治療的有効量を投与する段階を含む、神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスに罹患した対象において、標的細胞または組織に対する免疫応答を刺激するための方法を提供する。
【0028】
様々な態様に従って、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を単球、マクロファージ、および/または樹状細胞に導入する段階を含む、細胞を改変する方法であって、該CARが、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含み、該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合できる抗体物質であるかまたはそれを含む、前記方法を提供する。いくつかの態様において、CARを細胞に導入する段階は、CARをコードする核酸配列を細胞に導入することを含む。いくつかの態様において、核酸配列を細胞に導入することは、CARをコードするmRNAを細胞にエレクトロポレーションすることを含む。いくつかの態様において、核酸配列を細胞に導入することは、エレクトロポレーション、レンチウイルス形質導入、アデノウイルス形質導入、レトロウイルス形質導入、および化学物質ベースのトランスフェクションからなる群より選択される少なくとも1つの手法を含む。いくつかの態様において、方法は、核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質など、脂質、ホルモン、ミクロソーム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される作用物質を標的に送達するように細胞を改変する段階をさらに含む。いくつかの態様において、本発明は、本発明の方法によって作製された細胞を含む組成物を含む。
【0029】
[本発明1001]
キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞であって、
該CARが、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含み、
該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合でき、かつ
該細胞が、該CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞である、
前記細胞。
[本発明1002]
キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む細胞であって、
該核酸配列が、抗原結合ドメインをコードする核酸配列、膜貫通ドメインをコードする核酸配列、および細胞内ドメインをコードする核酸配列のうちの1つまたは複数を含み、
該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合でき、かつ
該細胞が、該CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞である、
前記細胞。
[本発明1003]
前記抗原結合ドメインが、神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスを有する対象の組織におけるタンパク質凝集物の抗原に結合できる、本発明1001または1002の細胞。
[本発明1004]
前記細胞内ドメインが、共刺激分子およびシグナル伝達ドメインのうちの少なくとも1つであるかまたはそれを含む、前記本発明のいずれかの細胞。
[本発明1005]
前記抗原結合ドメインが、抗体物質であるかまたはそれを含む、前記本発明のいずれかの細胞。
[本発明1006]
前記抗原結合ドメインが、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、一本鎖可変断片、およびそれらの抗原結合断片からなる群より選択される抗体物質であるかまたはそれを含む、前記本発明のいずれかの細胞。
[本発明1007]
前記抗体物質が、タウ(Tau)抗体、TDP-43抗体、β-アミロイド抗体、アミロイド抗体、コラーゲン抗体、および/または前述の抗体のいずれかのscFVであるかまたはそれを含む、本発明1006の細胞。
[本発明1008]
前記神経変性疾患が、タウオパチー、初老期認知症、老年認知症、アルツハイマー病、17番染色体に連鎖したパーキンソン症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、原発性進行性失語、前頭側頭型認知症、皮質基底核認知症、パーキンソン病、認知症を伴うパーキンソン病、レビー小体型認知症、ダウン症候群、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハラーフォルデン・シュパッツ症候群、ポリグルタミン病、トリヌクレオチドリピート病、家族性英国型認知症、致死性家族性不眠症、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(アイスランド型)(HCHWA-I)、孤発性致死性不眠症(sFI)、不定型プロテアーゼ感受性プリオノパチー(Variably Protease-Sensitive Prionopathy;VPSPr)、家族性デンマーク型認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)、およびプリオン病からなる群より選択される、本発明1003の細胞。
[本発明1009]
前記炎症性疾患が、全身性エリテマトーデス、血管炎、関節リウマチ、歯周炎、潰瘍性大腸炎、副鼻腔炎、喘息、結核、クローン病、慢性感染症、遺伝性周期熱、悪性腫瘍、全身性血管炎、嚢胞性線維症、気管支拡張症、表皮水疱症、周期性好中球減少症、後天性または遺伝性免疫不全、注射薬使用(injection-drug use)、および集簇性ざ瘡、マックル・ウェルズ(MWS)病、ならびに家族性地中海熱(FMF)からなる群より選択される、本発明1003の細胞。
[本発明1010]
前記アミロイドーシスが、原発性アミロイドーシス(AL)、続発性アミロイドーシス(AA)、家族性アミロイドーシス(ATTR)、他の家族性アミロイドーシス、β-2ミクログロブリンアミロイドーシス、限局性アミロイドーシス、重鎖アミロイドーシス(AH)、軽鎖アミロイドーシス(AL)、原発性全身性アミロイドーシス、ApoAIアミロイドーシス、ApoAIIアミロイドーシス、ApoAIVアミロイドーシス、アポリポタンパク質C2アミロイドーシス、アポリポタンパク質C3アミロイドーシス、角膜ラクトフェリンアミロイドーシス、トランスサイレチン関連アミロイドーシス、透析アミロイドーシス、フィブリノーゲンアミロイドーシス、Lect2アミロイドーシス(ALECT2)、およびリゾチームアミロイドーシスからなる群より選択される、本発明1003の細胞。
[本発明1011]
前記心臓血管疾患が、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、高血圧性心疾患、メタボリック症候群、高血圧、脳血管疾患、および心不全からなる群より選択される、本発明1003の細胞。
[本発明1012]
前記線維性疾患が、肺線維症、突発性肺線維症、硬変、嚢胞性線維症、強皮症、心線維症、放射線誘導肺損傷、脂肪肝炎、糸球体硬化症、間質性肺疾患、肝線維症、縦隔線維症、後腹膜腔線維症、骨髄線維症、および皮膚線維症からなる群より選択される、本発明1003の細胞。
[本発明1013]
前記CARの細胞内ドメインが、二重シグナル伝達ドメインを含む、前記本発明のいずれかの細胞。
[本発明1014]
細胞内ドメインが、TCR、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD86、共通FcRγ、FcRβ(FcεR1b)、CD79a、CD79b、FcγRIIa、DAP10、DAP12、T細胞受容体(TCR)、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83に特異的に結合するリガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される共刺激分子由来である、前記本発明のいずれかの細胞。
[本発明1015]
前記細胞内ドメインが、CD3ζであるかまたはそれを含む、前記本発明のいずれかの細胞。
[本発明1016]
食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される1つまたは複数の活性を示す、前記本発明のいずれかの細胞。
[本発明1017]
核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質、脂質、ホルモン、ミクロソーム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの作用物質をさらに含む、前記本発明のいずれかの細胞。
[本発明1018]
前記細胞の活性が、CD47活性および/またはSIRPα活性の阻害によって強化される、前記本発明のいずれかの細胞。
[本発明1019]
前記本発明のいずれかの細胞、および薬学的に許容される担体を含む、薬学的組成物。
[本発明1020]
核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質、脂質、ホルモン、ミクロソーム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される少なくとも1つの作用物質をさらに含む、本発明1019の薬学的組成物。
[本発明1021]
その必要がある対象における神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスの処置のための医薬の製造における、本発明1001~1018のいずれかの細胞の使用。
[本発明1022]
その必要がある対象に本発明1019の薬学的組成物の治療的有効量を投与する段階を含む、該対象において、神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスを処置する方法。
[本発明1023]
対象に本発明1019の薬学的組成物の治療的有効量を投与する段階を含む、神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスに罹患した対象において、標的細胞または組織に対する免疫応答を刺激するための方法。
[本発明1024]
キメラ抗原受容体(CAR)を単球、マクロファージ、および/または樹状細胞に導入する段階を含む、細胞を改変する方法であって、
該CARが、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含み、
該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合できる抗体物質であるかまたはそれを含む、
前記方法。
[本発明1025]
CARを細胞に導入する段階が、CARをコードする核酸配列を細胞に導入することを含む、本発明1024の方法。
[本発明1026]
核酸配列を細胞に導入することが、CARをコードするmRNAを細胞にエレクトロポレーションすることを含む、本発明1025の方法。
[本発明1027]
核酸配列を細胞に導入することが、エレクトロポレーション、レンチウイルス形質導入、アデノウイルス形質導入、レトロウイルス形質導入、および化学物質ベースのトランスフェクションからなる群より選択される少なくとも1つの手法を含む、本発明1025の方法。
[本発明1028]
前記CARの抗原結合ドメインが、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、単一ドメイン抗体、および一本鎖可変断片からなる群より選択される抗体物質であるかまたはそれを含む、本発明1024の方法。
[本発明1029]
前記CARの抗原結合ドメインが、タウ抗体、TDP-43抗体、β-アミロイド抗体、アミロイド抗体、コラーゲン抗体、および/または前述の抗体のいずれかのscFVであるかまたはそれを含む、本発明1024の方法。
[本発明1030]
前記抗原結合ドメインが、神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスを有する対象の組織におけるタンパク質凝集物の抗原に結合できる、本発明1024~1029のいずれかの方法。
[本発明1031]
前記神経変性疾患が、タウオパチー、初老期認知症、老年認知症、アルツハイマー病、17番染色体に連鎖したパーキンソン症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、原発性進行性失語、前頭側頭型認知症、皮質基底核認知症、パーキンソン病、認知症を伴うパーキンソン病、レビー小体型認知症、ダウン症候群、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハラーフォルデン・シュパッツ症候群、ポリグルタミン病、トリヌクレオチドリピート病、家族性英国型認知症、致死性家族性不眠症、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(アイスランド型)(HCHWA-I)、孤発性致死性不眠症(sFI)、不定型プロテアーゼ感受性プリオノパチー(VPSPr)、家族性デンマーク型認知症、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)、異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)、およびプリオン病からなる群より選択される、本発明1022~1023および1030のいずれかの方法。
[本発明1032]
前記炎症性疾患が、全身性エリテマトーデス、血管炎、関節リウマチ、歯周炎、潰瘍性大腸炎、副鼻腔炎、喘息、結核、クローン病、慢性感染症、遺伝性周期熱、悪性腫瘍、全身性血管炎、嚢胞性線維症、気管支拡張症、表皮水疱症、周期性好中球減少症、後天性または遺伝性免疫不全、注射薬使用、および集簇性ざ瘡、マックル・ウェルズ(MWS)病、ならびに家族性地中海熱(FMF)からなる群より選択される、本発明1022~1023および1030のいずれかの方法。
[本発明1033]
前記アミロイドーシスが、原発性アミロイドーシス(AL)、続発性アミロイドーシス(AA)、家族性アミロイドーシス(ATTR)、他の家族性アミロイドーシス、β-2ミクログロブリンアミロイドーシス、限局性アミロイドーシス、重鎖アミロイドーシス(AH)、軽鎖アミロイドーシス(AL)、原発性全身性アミロイドーシス、ApoAIアミロイドーシス、ApoAIIアミロイドーシス、ApoAIVアミロイドーシス、アポリポタンパク質C2アミロイドーシス、アポリポタンパク質C3アミロイドーシス、角膜ラクトフェリンアミロイドーシス、トランスサイレチン関連アミロイドーシス、透析アミロイドーシス、フィブリノーゲンアミロイドーシス、Lect2アミロイドーシス(ALECT2)、およびリゾチームアミロイドーシスからなる群より選択される、本発明1022~1023および1030のいずれかの方法。
[本発明1034]
前記心臓血管疾患が、アテローム性動脈硬化症、冠動脈疾患、末梢動脈疾患、高血圧性心疾患、メタボリック症候群、高血圧、脳血管疾患、および心不全からなる群より選択される、本発明1022~1023および1030のいずれかの方法。
[本発明1035]
前記線維性疾患が、肺線維症、突発性肺線維症、硬変、嚢胞性線維症、強皮症、心線維症、放射線誘導肺損傷、脂肪肝炎、糸球体硬化症、間質性肺疾患、肝線維症、縦隔線維症、後腹膜腔線維症、骨髄線維症、および皮膚線維症からなる群より選択される、本発明1022~1023および1030のいずれかの方法。
[本発明1036]
核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質など、脂質、ホルモン、ミクロソーム、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される作用物質を標的に送達するように細胞を改変する段階をさらに含む、本発明1024~1030のいずれかの方法。
[本発明1037]
本発明1024~1030のいずれかの方法によって作製された細胞を含む、組成物。
本発明の他の特徴、目的、および利点は、以下の詳細な説明において明らかである。しかし、詳細な説明は、本発明の態様を示すが、限定ではなく、例証としてのみ与えられることが、理解されるべきである。本発明の範囲内の様々な変化および改変が、詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の前述のおよび他の特徴および利点は、添付の図面と組み合わされる例証となる態様の以下の詳細な説明から、より完全に理解されるであろう。本発明は、図面において示される態様の厳密な配置および手段には限定されないことが、理解されるべきである。
【0031】
【
図1】THP1マクロファージ上の抗アミロイドCARの発現を示す、代表的なフロープロットのセットである。
【
図2】AKTA精製システムに接続されたSephadex 75 30/100カラム(GE)を用いた、フリーの軽鎖の溶出プロファイルを示す。
【
図3】PAGEによって分析した、サイズ排除クロマトグラフィーにより分離されたタンパク質画分を示す。重鎖を含まない軽鎖が、第2の画分および第3の画分において確認された。
【
図4】熱変性されたフリーの軽鎖の電子顕微鏡写真を示す。EMネガティブ染色は、長いタンパク質線維を示す。
【
図5】蛍光標識された軽鎖アミロイド細線維のCAR発現マクロファージによる取り込みを例証する。プロットの最下段のヒストグラムにおけるMFI(平均蛍光強度)の増加は、アミロイド細線維の取り込みを例証する。
【発明を実施するための形態】
【0032】
発明の詳細な説明
定義
他に定義されない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書において記述された方法および材料と類似または同等の任意の方法および材料を本発明の試験の実践において用いることができるが、好ましい材料および方法が本明細書において記述される。本発明を記述および主張するうえで、以下の専門用語が用いられる。
【0033】
本明細書において用いられる専門用語は、特定の態様のみを説明するためのものであり、限定することを意図するものではないことも理解されたい。
【0034】
「1つの(a)」および「1つの(an)」という冠詞は本明細書において、その冠詞の文法的目的語の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)をいうように用いられる。例として、「1つの要素」は、1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0035】
量、時間的持続時間などのような測定可能な値をいう場合に本明細書において用いられる「約」は、規定値から±20%または±10%、より好ましくは±5%、さらにより好ましくは±1%、なおより好ましくは±0.1%のバラツキを包含するよう意図されるが、これはそのようなバラツキが、開示された方法を実施するのに適切なためである。本願において用いられる用語「約」および「およそ」は、同義語として使用される。約/およそ を伴ってまたは伴わずに本願において用いられるあらゆる数字は、関連分野の当業者に認識される任意の正常変動を包含することを意味するものである。
【0036】
本明細書において用いられる「活性化」とは、検出可能な細胞増殖を誘導するように十分に刺激された、またはそのエフェクター機能を発揮するように刺激された、単球/マクロファージ/樹状細胞の状態のことを指す。活性化は、誘導されたサイトカイン産生、食作用、細胞シグナル伝達、標的細胞死滅、または抗原のプロセシングおよび提示を伴うこともできる。
【0037】
「活性化された単球/マクロファージ/樹状細胞」という用語は、とりわけ、細胞分裂を起こしているか、またはエフェクター機能を発揮している単球/マクロファージ/樹状細胞をいう。「活性化された単球/マクロファージ/樹状細胞」という用語は、とりわけ、エフェクター機能を果たしているか、または、食作用、サイトカイン分泌、増殖、遺伝子発現変化、代謝変化、および他の機能を含む、静止状態においては見られない任意の活性を発揮している細胞をいう。
【0038】
「作用物質」、または「生物学的作用物質」または「治療用作用物質」という用語は、本明細書において、本明細書に記載の改変細胞によって発現される、放出される、分泌される、または標的へと送達される可能性のある分子を指して用いられる。作用物質には、核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体、抗体物質またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子(例えば、小分子)、糖質または類似物、脂質、ホルモン、ミクロソーム、それらの誘導体または変形物、およびそれらの任意の組み合わせが非限定的に含まれる。作用物質は、標的上または標的細胞上に存在する任意の細胞部分、例えば受容体、抗原決定基または他の結合部位等と結合しうる。作用物質は散在してもよく、または細胞の中に輸送されて、そこでそれが細胞内で作用してもよい。
【0039】
本明細書において用いられる「抗体」という用語は、特定の標的抗原に対する特異的結合を付与するのに十分な、標準的な免疫グロブリン配列エレメントを含むポリペプチドをいう。当技術分野において公知であるように、天然で産生されるような無傷の抗体は、互いに会合して「Y形」構造と一般的に呼ばれるものになる、2本の同一の重鎖ポリペプチド(各々は約50 kD)および2本の同一の軽鎖ポリペプチド(各々は約25 kD)から構成される、およそ150 kDの四量体物質である。各重鎖は、アミノ末端の可変(VH)ドメイン(Y構造の先端に位置する)、ならびにそれに続く3つの定常ドメイン:CH1、CH2、およびカルボキシ末端のCH3(Yの軸の基部に位置する)の、少なくとも4つのドメイン(各々は約110アミノ酸長)から構成される。「スイッチ」として公知である短い領域が、重鎖可変領域と定常領域とを接続する。「ヒンジ」は、CH2ドメインおよびCH3ドメインを、抗体の残りの部分に接続する。このヒンジ領域における2本のジスルフィド結合は、無傷の抗体において、2本の重鎖ポリペプチドを互いに接続する。各軽鎖は、もう1つの「スイッチ」によって互いから分離された、アミノ末端の可変(VL)ドメイン、およびそれに続くカルボキシ末端の定常(CL)ドメインの2つのドメインから構成される。無傷の抗体四量体は、重鎖および軽鎖が、単一のジスルフィド結合によって互いに連結されている、2つの重鎖-軽鎖二量体から構成され;二量体が互いに接続されて、四量体が形成されるように、2本の他のジスルフィド結合が、重鎖ヒンジ領域を互いに接続する。天然で産生される抗体はまた、典型的にはCH2ドメイン上がグリコシル化される。天然の抗体における各ドメインは、圧縮された逆平行βバレルにおいて互いにパックされた2つのβシート(例えば、3本、4本、または5本鎖のシート)から形成される「免疫グロブリンフォールド」を特徴とする構造を有する。各可変ドメインは、「相補性決定領域」として公知の3つの超可変ループ(CDR1、CDR2、およびCDR3)、ならびに4つのいくぶん不変の「フレームワーク」領域(FR1、FR2、FR3、およびFR4)を含有する。天然の抗体がフォールディングする場合、FR領域は、ドメインのための構造的フレームワークを提供するβシートを形成し、重鎖および軽鎖の両方由来のCDRループ領域は、Y構造の先端に位置する単一の超可変抗原結合部位を創出するように、三次元空間において集まる。天然に存在する抗体のFc領域は、補体系の要素に、およびまた、例えば、細胞傷害作用を媒介するエフェクター細胞を含む、エフェクター細胞上の受容体に結合する。当技術分野において公知であるように、Fc受容体に対するFc領域の親和性および/または他の結合属性は、グリコシル化または他の改変を通して調節することができる。いくつかの態様において、(例えば、CARの成分として)本発明に従って生成され、かつ/または利用される抗体は、改変されたかまたは操作されたそのようなグリコシル化を有するFcドメインを含む、グリコシル化されたFcドメインを含む。本発明の目的で、ある特定の態様において、天然の抗体において見出されるような十分な免疫グロブリンドメイン配列を含む任意のポリペプチドまたはポリペプチドの複合体を、そのようなポリペプチドが、天然で産生され(例えば、抗原に反応する生物によって生じ)ようと、組換え工学、化学合成、または他の人工的なシステムもしくは方法論によって生成されようと、「抗体」と呼び、かつ/または「抗体」として用いることができる。いくつかの態様において、抗体はポリクローナルであり;いくつかの態様において、抗体はモノクローナルである。いくつかの態様において、抗体は、マウス抗体、ウサギ抗体、霊長類抗体、またはヒト抗体に特徴的である定常領域配列を有する。いくつかの態様において、抗体配列エレメントは、当技術分野において公知であるように、ヒト化、霊長類化、キメラなどである。さらに、本明細書において用いられる「抗体」という用語は、適切な態様において(別に述べられるかまたは文脈から明らかではない限り)、代替的な提示において抗体の構造的および機能的な特徴を利用するための、当技術分野で公知のまたは開発された構築物またはフォーマットのいずれかをいうことができる。例えば、態様で、本発明に従って利用される抗体は、無傷のIgA、IgG、IgE、またはIgM抗体;二重特異性または多重特異性抗体(例えば、Zybody(登録商標)など);Fab断片、Fab'断片、F(ab')2断片、Fd'断片、Fd断片、および単離されたCDRまたはそのセットなどの抗体断片;一本鎖抗体Fv;ポリペプチド-Fc融合物;単一ドメイン抗体(例えば、IgNARまたはその断片などのサメ単一ドメイン抗体);ラクダ科抗体;マスクされた抗体(例えば、Probody(登録商標);Small Modular ImmunoPharmaceutical(「SMIP(商標)」);一本鎖またはタンデムダイアボディ(TandAb(登録商標));VHH;Anticalin(登録商標);Nanobody(登録商標)ミニボディ;BiTE(登録商標);アンキリンリピートタンパク質またはDARPIN(登録商標);Avimer(登録商標);DART;TCR様抗体;Adnectin(登録商標);Affilin(登録商標);Trans-body(登録商標);Affibody(登録商標);TrimerX(登録商標);MicroProtein;Fynomer(登録商標);Centyrin(登録商標);ならびにKALBITOR(登録商標)から選択されるがこれらに限定されない、フォーマットである。いくつかの態様において、抗体は、天然で産生された場合に有するであろう共有結合性修飾(例えば、グリカンの付着)が欠如していてもよい。いくつかの態様において、抗体は、共有結合性修飾(例えば、グリカン、ペイロード[例えば、検出可能部分、治療用部分、触媒部分など]、または他のペンダント基[例えば、ポリエチレングリコールなど]の付着)を含有してもよい。
【0040】
「抗体物質」という用語は、特定の抗原に特異的に結合する作用物質をいう。いくつかの態様において、この用語は、特異的結合を付与するのに十分な免疫グロブリン構造エレメントを含む、任意のポリペプチドまたはポリペプチド複合体を包含する。例示的な抗体物質には、モノクローナル抗体またはモノクローナル抗体が含まれるが、これらに限定されることはない。いくつかの態様において、抗体物質は、マウス抗体、ウサギ抗体、霊長類抗体、またはヒト抗体に特徴的である1つまたは複数の定常領域配列を含んでもよい。いくつかの態様において、抗体物質は、当技術分野において公知であるような、ヒト化、霊長類化、キメラなどである1つまたは複数の抗体配列エレメントを含んでもよい。多くの態様において、「抗体物質」という用語は、代替的な提示において抗体の構造的および機能的な特徴を利用するための、当技術分野で公知のまたは開発された構築物またはフォーマットの1つまたは複数をいうように用いられる。例えば、いくつかの態様において、本発明に従って利用される抗体物質は、無傷のIgA、IgG、IgE、またはIgM抗体;二重特異性または多重特異性抗体(例えば、Zybody(登録商標)など);Fab断片、Fab'断片、F(ab')2断片、Fd'断片、Fd断片、および単離されたCDRまたはそのセットなどの抗体断片;一本鎖抗体Fv;ポリペプチド-Fc融合物;単一ドメイン抗体(例えば、IgNARまたはその断片などのサメ単一ドメイン抗体);ラクダ科抗体;マスクされた抗体(例えば、Probody(登録商標);Small Modular ImmunoPharmaceutical(「SMIP(商標)」);一本鎖またはタンデムダイアボディ(TandAb(登録商標));VHH;Anticalin(登録商標);Nanobody(登録商標)ミニボディ;BiTE(登録商標);アンキリンリピートタンパク質またはDARPIN(登録商標);Avimer(登録商標);DART;TCR様抗体;Adnectin(登録商標);Affilin(登録商標);Trans-body(登録商標);Affibody(登録商標);TrimerX(登録商標);MicroProtein;Fynomer(登録商標)、Centyrin(登録商標);ならびにKALBITOR(登録商標)から選択されるがこれらに限定されない、フォーマットである。いくつかの態様において、抗体は、天然で産生された場合に有するであろう共有結合性修飾(例えば、グリカンの付着)が欠如していてもよい。いくつかの態様において、抗体は、共有結合性修飾(例えば、グリカン、ペイロード[例えば、検出可能部分、治療用部分、触媒部分など]、または他のペンダント基[例えば、ポリエチレングリコールなど]の付着)を含有してもよい。多くの態様において、抗体物質は、そのアミノ酸配列が、当業者によって相補性決定領域(CDR)として認識される1つまたは複数の構造エレメントを含む、ポリペプチドであるかまたはそれを含み;いくつかの態様において、抗体物質は、そのアミノ酸配列が、参照抗体において見出されるCDRと実質的に同一である少なくとも1つのCDR(例えば、少なくとも1つの重鎖CDRおよび/または少なくとも1つの軽鎖CDR)を含む、ポリペプチドであるかまたはそれを含む。いくつかの態様において、含まれるCDRは、参照CDRと比較した際に、配列が同一であるかまたは1~5個のアミノ酸置換を含有するかのいずれかである点で、参照CDRと実質的に同一である。いくつかの態様において、含まれるCDRは、参照CDRと少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を示す点で、参照CDRと実質的に同一である。いくつかの態様において、含まれるCDRは、参照CDRと少なくとも96%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性を示す点で、参照CDRと実質的に同一である。いくつかの態様において、含まれるCDRは、含まれるCDR内の少なくとも1個のアミノ酸が、参照CDRと比較した際に欠失しているか、付加されているか、または置換されているが、含まれるCDRが、それ以外は参照CDRのものと同一であるアミノ酸配列を有する点で、参照CDRと実質的に同一である。いくつかの態様において、含まれるCDRは、含まれるCDR内の1~5個のアミノ酸が、参照CDRと比較した際に欠失しているか、付加されているか、または置換されているが、含まれるCDRが、それ以外は参照CDRと同一であるアミノ酸配列を有する点で、参照CDRと実質的に同一である。いくつかの態様において、含まれるCDRは、含まれるCDR内の少なくとも1個のアミノ酸が、参照CDRと比較した際に置換されているが、含まれるCDRが、それ以外は参照CDRのものと同一であるアミノ酸配列を有する点で、参照CDRと実質的に同一である。いくつかの態様において、含まれるCDRは、含まれるCDR内の少なくとも1~5個のアミノ酸が、参照CDRと比較した際に欠失しているか、付加されているか、または置換されているが、含まれるCDRが、それ以外は参照CDRと同一であるアミノ酸配列を有する点で、参照CDRと実質的に同一である。いくつかの態様において、抗体物質は、そのアミノ酸配列が、当業者によって免疫グロブリン可変ドメインとして認識される構造エレメントを含む、ポリペプチドであるかまたはそれを含む。いくつかの態様において、抗体物質は、免疫グロブリン結合ドメインと相同であるか、またはほとんど相同である結合ドメインを有する、ポリペプチドタンパク質である。いくつかの態様において、抗体物質は、そのアミノ酸配列が、当業者によって免疫グロブリン可変ドメインとして認識される構造エレメントを含む、ポリペプチドではなく、かつ/またはそれを含まない。いくつかの態様において、抗体物質は、免疫グロブリン構造エレメントを含まない分子または組成物(例えば、少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む受容体または他の天然に存在する分子)であってもよく、またはそれを含んでもよい。
【0041】
「抗体断片」という用語は、無傷の抗体の一部分をいい、無傷の抗体の抗原決定可変領域をいう。抗体断片の例としては、Fab、Fab'、F(ab')2およびFv断片、直鎖状抗体、scFv抗体、ならびに抗体断片から形成される多重特異性抗体、ならびにそのヒトおよびヒト化型が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0042】
本明細書において用いられる「抗体重鎖」は、天然に存在する立体配座にある全抗体分子中に存在する2つのタイプのポリペプチド鎖のうち大きい方をいう。
【0043】
本明細書において用いられる「抗体軽鎖」は、天然に存在する立体配座にある全抗体分子中に存在する2つのタイプのポリペプチド鎖のうち小さい方をいう。αおよびβ軽鎖は、2つの主要な抗体軽鎖アイソタイプをいう。
【0044】
本明細書において用いられる用語「合成抗体」とは、例えば、本明細書において記述されるバクテリオファージによって発現される抗体のような、組み換えDNA技術を用いて作製される抗体を意味する。この用語はまた、抗体タンパク質またはその抗体を規定するアミノ酸配列を発現する抗体コードDNA分子の合成によって作製された抗体であって、そのDNA配列またはアミノ酸配列が、利用可能でかつ当技術分野において周知であるDNA配列またはアミノ酸配列の合成技術を用いて得られた抗体も意味するとみなされるべきである。
【0045】
本明細書において用いられる「抗原」または「Ag」という用語は、免疫応答を誘発することができる分子と定義される。この免疫応答には、抗体産生、または特異的免疫適格細胞の活性化のいずれかまたは両方が含まれうる。当業者は、事実上、全てのタンパク質またはペプチドを含む任意の高分子が抗原として働きうることを理解するであろう。さらに、抗原は、組み換えDNAまたはゲノムDNAに由来することができるかまたは由来する。当業者は、免疫応答を惹起するタンパク質をコードするヌクレオチド配列または部分ヌクレオチド配列を含む任意のDNAが、それゆえ、本明細書においてその用語が用いられる通りの「抗原」をコードすることを理解するであろう。さらに、当業者は、抗原が遺伝子の完全長ヌクレオチド配列のみによってコードされる必要はないことを理解するであろう。本発明が、2つ以上の遺伝子の部分ヌクレオチド配列の使用を含むが、これに限定されないこと、およびこれらのヌクレオチド配列が、所望の免疫応答を誘発するために様々な組み合わせで配置されることは容易に明らかである。さらに、当業者は、抗原が「遺伝子」によってコードされる必要は全くないことを理解するであろう。抗原が生体サンプルから作製され、合成されまたは由来しうることは容易に明らかである。そのような生体サンプルは、組織サンプル、腫瘍サンプル、細胞または生体液を含むことができるが、これらに限定されることはない。
【0046】
「自己抗原」という用語は、本発明によれば、免疫系によって外来性であると認識される任意の自己抗原を意味する。自己抗原には、細胞表面受容体を含めて、細胞タンパク質、リンタンパク質、細胞表面タンパク質、細胞脂質、核酸、糖タンパク質が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0047】
本明細書において用いられる「自己免疫疾患」という用語は、自己免疫応答から生じる障害と定義される。自己免疫疾患は、自己抗原に対する不適切かつ過剰な応答の結果である。自己免疫疾患の例としては、とりわけ、アジソン病、円形脱毛症、強直性脊椎炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性耳下腺炎、クローン病、糖尿病(I型)、栄養障害性表皮水疱症、単純型表皮水疱症、精巣上体炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本病、溶血性貧血、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、乾癬、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、脊椎関節症、甲状腺炎、血管炎、尋常性白斑、粘液水腫、悪性貧血、潰瘍性大腸炎が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0048】
本明細書において用いられる場合、「自己」という用語は、後にその個体に再び導入される、同じ個体に由来する任意の材料をいうよう意図される。
【0049】
「同種」とは、同じ種の異なる動物に由来する移植片をいう。
【0050】
「異種」とは、異なる種の動物に由来する移植片をいう。
【0051】
本明細書において用いられる「キメラ抗原受容体」または「CAR」という用語は、免疫エフェクター細胞上で発現されるように操作され、細胞を特異的に標的とし、かつ/または抗原に結合する、人工T細胞表面受容体をいう。CARは、養子細胞移入を伴う療法として用いられうる。単球、マクロファージ、および/または樹状細胞を患者から(例えば血液または腹水を介して)取り出し、特定の形態の抗原に特異的な受容体を発現するように改変する。いくつかの態様において、CARは、例えば、アミロイドタンパク質抗原に対する特異性をもって発現されている。CARは、細胞内活性化ドメイン、膜貫通ドメイン、および、例えばアミロイドタンパク質抗原結合領域を含む細胞外ドメインも含みうる。いくつかの局面において、CARは、一本鎖可変断片(scFv)由来モノクローナル抗体、CD3ζ膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインの融合体を含む。CARデザインの特異性は、受容体のリガンド(例えば、ペプチド)に由来しうる。いくつかの態様において、CARは、疾患/障害に関連するタンパク質凝集物に特異的なCARを発現する単球、マクロファージ、または樹状細胞を再度方向付けることによって、神経変性疾患/障害、炎症性疾患/障害、心臓血管疾患/障害、線維性疾患/障害、または他の疾患/障害を標的とすることができる。
【0052】
「キメラ性細胞内シグナル伝達分子」という用語は、1つまたは複数の刺激分子および/または共刺激分子の1つまたは複数の細胞内ドメインを含む組換え受容体のことを指す。キメラ性細胞内シグナル伝達分子は、細胞外ドメインを実質的に欠いている。いくつかの態様において、キメラ性細胞内シグナル伝達分子は、さらなるドメイン、例えば膜貫通ドメイン、検出可能なタグ、およびスペーサードメインなどを含む。
【0053】
本明細書において用いられる場合、「保存的配列改変」という用語は、アミノ酸配列を含む抗体の結合特性に有意に影響または変化を与えないアミノ酸改変をいうよう意図される。そのような保存的改変には、アミノ酸置換、付加および欠失が含まれる。改変は、部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介突然変異誘発のような、当技術分野において公知の標準的な技法によって、本発明の抗体に導入することができる。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有するアミノ酸残基で置き換えられているものである。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖を有するアミノ酸(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分枝側鎖を有するアミノ酸(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)および芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。したがって、抗体のCDR領域内の1つまたは複数のアミノ酸残基を、同じ側鎖ファミリー由来の他のアミノ酸残基で置き換えることができ、この変化した抗体は、本明細書において記述される機能的アッセイ法を用い抗原結合能について試験することができる。
【0054】
「共刺激リガンド」には、この用語が本明細書において用いられる場合、単球/マクロファージ/樹状細胞上のコグネイト共刺激分子と特異的に結合し、それにより、増殖、活性化、分化などを含むがこれらに限定されない単球/マクロファージ/樹状細胞応答を媒介するシグナルを与える、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)上の分子が含まれる。共刺激リガンドは、CD7、B7-1 (CD80)、B7-2 (CD86)、PD-L1、PD-L2、4-1BBL、OX40L、誘導性共刺激リガンド(ICOS-L)、細胞内接着分子(ICAM)、CD30L、CD40、CD70、CD83、HLA-G、MICA、MICB、HVEM、リンホトキシンβ受容体、3/TR6、ILT3、ILT4、HVEM、Tollリガンド受容体に結合するアゴニストまたは抗体、および、B7-H3と特異的に結合するリガンドを含むことができるが、これらに限定されることはない。共刺激リガンドはまた、とりわけ、限定されるものではないが、CD27、CD28、4-1BB、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1 (LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、および、CD83と特異的に結合するリガンドのような単球/マクロファージ/樹状細胞上に存在する共刺激分子と特異的に結合する抗体も包含する。
【0055】
「共刺激分子」または「共刺激ドメイン」とは、最初の刺激を強めるかまたは弱めるために用いられる、自然免疫細胞上の分子のことを指す。例えば、病原体関連パターン認識受容体、例えばTLR(強める)またはCD47/SIRPα軸(弱める)などは、自然免疫細胞上の分子である。共刺激分子には、TCR、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD86、共通FcRγ、FcRβ(FcεR1b)、CD79a、CD79b、FcγRIIa、DAP10、DAP12、T細胞受容体(TCR)、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、本明細書に記載の他の共刺激分子、それらの任意の誘導体、変異体、または断片、同じ機能的能力を有する、共刺激分子の任意の合成配列、およびそれらの任意の組み合わせが非限定的に含まれる。
【0056】
本明細書において用いられる「共刺激シグナル」とは、一次シグナル、例えばマクロファージ上のCARの活性化などとの組み合わせで、マクロファージの活性化を導くシグナルのことを指す。
【0057】
「細胞傷害性の」または「細胞傷害性」という用語は、細胞を死滅させるかまたは損傷させることを指す。1つの態様において、代謝的に強化された細胞の細胞傷害性は、例えば、マクロファージの増加した細胞溶解活性である。
【0058】
「疾患」は、動物が恒常性を維持できず、疾患が改善されなければその動物の健康が悪化し続ける、動物の健康状態である。対照的に、動物における「障害」は、その動物が恒常性を維持できるが、その動物の健康状態が障害のない場合よりも好ましくない健康状態である。未処置のまま放置されても、障害が必ずしも動物の健康状態のさらなる低下を引き起こすとは限らない。
【0059】
本明細書において用いられる「神経変性疾患」という用語は、ニューロンの喪失もしくは変性を、ならびに/または神経細胞の細胞質および/もしくは核における、または細胞外空間におけるミスフォールディングされたタンパク質凝集物の存在を特徴とする、神経学的疾患をいう(Forman et al., Nat. Med. 10, 1055 (2004))。神経変性疾患には、神経変性運動障害、ならびに記憶喪失および/または認知症に関連している神経変性状態が含まれる。神経変性疾患には、タウオパチーおよびα-シヌクレオパチーが含まれる。神経変性疾患の例には、初老期認知症、老年認知症、アルツハイマー病、17番染色体に連鎖したパーキンソン症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、原発性進行性失語、前頭側頭型認知症、皮質基底核認知症、パーキンソン病、認知症を伴うパーキンソン病、レビー小体型認知症、ダウン症候群、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、およびハラーフォルデン・シュパッツ症候群が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0060】
「有効量」または「治療的有効量」は、本明細書において互換的に用いられ、特定の生物学的結果を達成するのに有効な、または治療的もしくは予防的利益をもたらす、本明細書において記述される化合物、製剤、材料もしくは組成物の量のことを指す。
【0061】
「コードする」とは、定義されたヌクレオチド(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)配列または定義されたアミノ酸配列のいずれかを有する、生物学的過程において他の重合体および高分子の合成のための鋳型として働く、遺伝子、cDNAまたはmRNAのような、ポリヌクレオチドにおける特定のヌクレオチド配列の固有の特性ならびにそれに起因する生物学的特性をいう。したがって、遺伝子は、その遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳によって細胞または他の生体系においてタンパク質が産生される場合、タンパク質をコードする。mRNA配列と同一であり通常は配列表に示されるヌクレオチド配列であるコード鎖も、遺伝子またはcDNAの転写のための鋳型として用いられる非コード鎖もともに、タンパク質、またはその遺伝子もしくはcDNAの他の産物をコードするということができる。
【0062】
本明細書において用いられる場合、「内因性」とは、生物、細胞、組織もしくは系の内部に由来するか、またはそれらの内部で産生される、任意の材料をいう。
【0063】
本明細書において用いられる場合、「外因性」という用語は、生物、細胞、組織もしくは系の外部から導入されるか、またはそれらの外部で産生される、任意の材料をいう。
【0064】
本明細書において用いられる「増大する」という用語は、単球、マクロファージ、または樹状細胞の数の増加のように、数が増加することをいう。1つの態様において、エクスビボで増大した単球、マクロファージ、または樹状細胞は、培養物中に当初存在している数と比べて数が増加する。別の態様において、エクスビボで増大した単球、マクロファージ、または樹状細胞は、培養物中の他の細胞型と比べて数が増加する。本明細書において用いられる「エクスビボ」という用語は、生物(例えば、ヒト)から取り出され、生物の外側で(例えば、培養皿、試験管、またはバイオリアクタ中で)増殖された細胞をいう。
【0065】
本明細書において用いられる「発現」という用語は、そのプロモーターによって駆動される特定のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳と定義される。
【0066】
「発現ベクター」とは、発現されるヌクレオチド配列に機能的に連結された発現制御配列を含む組み換えポリヌクレオチドを含むベクターをいう。発現ベクターは、発現のために十分なシス作用性エレメントを含む; 発現のための他のエレメントは宿主細胞によって、またはインビトロ発現系において供給されうる。発現ベクターには、組み換えポリヌクレオチドを組み入れたコスミド、プラスミド(例えば、裸のもの、またはリポソーム中に含まれるもの)ならびにウイルス(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス(例えば、Ad5F35)およびアデノ随伴ウイルス)のような、当技術分野において公知の全てのものが含まれる。
【0067】
本明細書において用いられる「相同性」とは、2つの重合体分子間の、例えば、2つのDNA分子もしくは2つのRNA分子のような、2つの核酸分子間の、または2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列同一性をいう。2つの分子の両方におけるサブユニット位置が同じ単量体サブユニットによって占められている場合; 例えば、2つのDNA分子の各々における位置がアデニンによって占められているなら、それらはその位置で相同である。2つの配列間の相同性は、一致しているまたは相同である位置の数の一次関数である; 例えば、2つの配列における位置の半分(例えば、10サブユニット長の重合体における5つの位置)が相同であるなら、2つの配列は50%相同であり; 位置の90% (例えば、10中9)が一致しているまたは相同であるなら、2つの配列は90%相同である。核酸またはタンパク質に対して適用される場合、本明細書において用いられる「相同な」とは、約50%の配列同一性を有する配列のことを指す。より好ましくは、相同配列は約75%の配列同一性を有し、さらにより好ましくは少なくとも約80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する。
【0068】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含んだキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖またはその断片(Fv、scFv、Fab、Fab'、F(ab')2または抗体の他の抗原結合部分配列のような)である。ほとんどの場合、ヒト化抗体は、レシピエントの相補性決定領域(CDR)由来の残基が、所望の特異性、親和性および能力を有するマウス、ラットまたはウサギのような非ヒト種(ドナー抗体)のCDR由来の残基によって置き換えられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基によって置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、持ち込まれたCDRまたはフレームワーク配列にも見出されない残基を含むことができる。これらの改変は、抗体性能をさらに改良かつ最適化するためになされる。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域の全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、かつFR領域の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つの、および典型的には2つの、可変ドメインの実質的に全てを含む。また、ヒト化抗体は、最適には、免疫グロブリン定常領域(Fc)の少なくとも一部分、典型的にはヒト免疫グロブリンのそれを含む。さらなる詳細については、Jones et al., Nature, 321: 522-525, 1986; Reichmann et al., Nature, 332: 323-329, 1988; Presta, Curr. Op. Struct. Biol., 2: 593-596, 1992を参照されたい。
【0069】
「完全ヒト」とは、分子全体がヒト由来であるか、または抗体のヒト形態と同一のアミノ酸配列からなる、抗体のような、免疫グロブリンをいう。
【0070】
本明細書において用いられる「同一性」とは、2つのポリペプチド分子間のような、2つの重合体分子間の、特に2つのアミノ酸分子間のサブユニット配列同一性をいう。2つのアミノ酸配列が同じ位置に同じ残基を有する場合; 例えば、2つのポリペプチド分子の各々における位置がアルギニンによって占められているなら、それらはその位置で同一である。2つのアミノ酸配列がアライメントにおいて同じ位置に同じ残基を有する程度または同一性は、百分率として表現されることが多い。2つのアミノ酸配列間の同一性は、一致しているまたは同一である位置の数の一次関数である; 例えば、2つの配列における位置の半分(例えば、10アミノ酸長の重合体における5つの位置)が同一であるなら、2つの配列は50%同一であり; 位置の90% (例えば、10中9)が一致しているまたは同一であるなら、2つのアミノ酸配列は90%同一である。
【0071】
「実質的に同一な」とは、参照アミノ酸配列(例えば、本明細書に記載のアミノ酸配列のいずれか1つ)または核酸配列(例えば、本明細書に記載の核酸配列のいずれか1つ)に対して少なくとも50%の同一性を示すポリペプチド分子または核酸分子を意味する。好ましくは、そのような配列は、比較のために用いられる配列に対して、アミノ酸レベルまたは核酸について、少なくとも60%、より好ましくは80%または85%、より好ましくは90%、95%またはさらには99%同一である。
【0072】
ガイド核酸配列は、二本鎖DNA標的部位の一方の鎖(ヌクレオチド配列)に対して相補的であってよい。ガイド核酸配列と標的配列との間の相補性のパーセンテージは、少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、61%、62%、63%、63%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%でありうる。ガイド核酸配列は、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35個またはそれを上回るヌクレオチドの長さでありうる。いくつかの態様において、ガイド核酸配列は、10~40個のヌクレオチドの連続したひと続きである。可変ターゲティングドメインは、DNA配列、RNA配列、改変されたDNA配列、改変されたRNA配列(例えば、本明細書に記載の改変を参照)、またはそれらの任意の組み合わせで構成されうる。
【0073】
配列同一性は、典型的には、配列分析ソフトウェア(例えば、Genetics Computer Group, University of Wisconsin Biotechnology Center, 1710 University Avenue, Madison, Wis. 53705のSequence Analysis Software Package、BLAST、BESTFIT、GAP、またはPILEUP/PRETTYBOXプログラムなど)を用いて測定される。そのようなソフトウェアは、さまざまな置換、欠失、および/または他の改変に対して相同性の度合いを指定することによって、同一または類似の配列をマッチングさせる。保存的置換には、典型的には、以下の群の中での置換が含まれる:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン;セリン、スレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。同一性の度合いを決定するための1つの例示的なアプローチでは、BLASTプログラムを用いることができ、e-3~e-100の間にある確率スコアは類縁性のある配列であることを指し示す。
【0074】
本明細書において用いられる「免疫グロブリン」または「Ig」という用語は、抗体として機能するタンパク質のクラスと定義される。B細胞によって発現される抗体は、BCR (B細胞受容体)または抗原受容体といわれることもある。このタンパク質のクラスに含まれる5つの成員は、IgA、IgG、IgM、IgDおよびIgEである。IgAは、唾液、涙液、母乳、消化管分泌物、ならびに気道および泌尿生殖路の粘液分泌物のような、身体分泌物中に存在する主要な抗体である。IgGは、最も一般的な循環血中抗体である。IgMは、ほとんどの対象で一次免疫応答において産生される主要な免疫グロブリンである。これは凝集反応、補体固定および他の抗体応答において最も効率的な免疫グロブリンであり、細菌およびウイルスに対する防御において重要である。IgDは抗体機能が判明していない免疫グロブリンであるが、抗原受容体として働いている可能性がある。IgEは、アレルゲンに対する曝露時に肥満細胞および好塩基球からのメディエータの放出を引き起こすことによって即時型過敏症を媒介する免疫グロブリンである。
【0075】
本明細書において用いられる「免疫応答」という用語は、リンパ球が抗原分子を異物と同定し、抗体の形成を誘導し、および/またはリンパ球を活性化して抗原を除去する場合に起きる抗原に対する細胞応答と定義される。
【0076】
本明細書において用いられる場合、「説明材料(instructional material)」は、本発明の組成物および方法の有用性を伝えるために使用できる刊行物、記録、略図または他の任意の表現媒体を含む。本発明のキットの説明材料は、例えば、本発明の核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器に添付されてもよく、または核酸、ペプチドおよび/もしくは組成物を含む容器と一緒に出荷されてもよい。あるいは、説明材料および化合物がレシピエントによって共同的に用いられることを意図して、説明材料は容器とは別に出荷されてもよい。
【0077】
「単離された」とは、天然の状態から変えられたまたは取り出されたことを意味する。例えば、生きている動物に天然に存在する核酸またはペプチドは「単離されて」いないが、その天然状態の共存物質から部分的にまたは完全に分離された同じ核酸またはペプチドは「単離されて」いる。単離された核酸またはタンパク質は、実質的に精製された形態で存在することができ、または例えば、宿主細胞のような、非天然環境で存在することができる。
【0078】
本明細書において用いられる「レンチウイルス」とは、レトロウイルス科(Retroviridae)ファミリーの属をいう。レンチウイルスは、非分裂細胞に感染できるという点で、レトロウイルスの中でも独特である; それらはかなりの量の遺伝情報を宿主細胞のDNA中に送達することができるため、それらは遺伝子送達ベクターの最も効率的な方法の1つである。HIV、SIVおよびFIVは全て、レンチウイルスの例である。レンチウイルスに由来するベクターは、インビボで有意なレベルの遺伝子移入を達成するための手段を与える。
【0079】
用語「レビー小体」および「レビー神経突起」は、神経細胞に生じるタンパク質の異常な凝集物をいう。
【0080】
本明細書において用いられる用語「改変された」とは、本発明の分子または細胞の変化した状態または構造を意味する。分子は化学的に、構造的に、および機能的になど、多くの方法で改変されうる。細胞は、核酸の導入によって改変されうる。
【0081】
本明細書において用いられる用語「調節する」とは、処置もしくは化合物の非存在下での対象における応答のレベルと比較して、および/または他の点では同一であるが処置を受けていない対象における応答のレベルと比較して、対象における応答のレベルの検出可能な増加または減少を媒介することを意味する。この用語は対象、好ましくはヒトにおいて、天然のシグナルもしくは応答をかく乱させ、および/またはそれに影響を与え、それにより有益な治療応答を媒介することを包含する。
【0082】
本発明の文脈において、一般的に存在する核酸塩基に関する以下の略語が用いられる。「A」はアデノシンをいい、「C」はシトシンをいい、「G」はグアノシンをいい、「T」はチミジンをいい、および「U」はウリジンをいう。
【0083】
特別の定めのない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」は、互いの縮重型である、かつ同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列を含む。RNAまたはタンパク質をコードするヌクレオチド配列という語句はまた、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が、型によっては、イントロンを含みうる程度までイントロンを含みうる。
【0084】
「機能的に連結された」という用語は、調節配列と異種核酸配列との間の、後者の発現を結果的にもたらす、機能的連結をいう。例えば、第1の核酸配列が第2の核酸配列との機能的関係の下で配置されている場合、第1の核酸配列は第2の核酸配列と機能的に連結されている。例えば、プロモーターがコード配列の転写または発現に影響を与えるなら、プロモーターはコード配列に機能的に連結されている。一般に、機能的に連結されたDNA配列は連続的であり、2つのタンパク質コード領域をつなぎ合わせることが必要な場合、同じ読み枠の中にある。
【0085】
免疫原性組成物の「非経口」投与には、例えば、皮下(s.c.)、静脈内(i.v.)、筋肉内(i.m.)、腫瘍内(i.t.)もしくは腹腔内(i.p.)、もしくは胸骨内注射、または輸注法が含まれる。
【0086】
本明細書において用いられる「ポリヌクレオチド」という用語は、ヌクレオチドの鎖と定義される。さらに、核酸はヌクレオチドの重合体である。したがって、本明細書において用いられる核酸およびポリヌクレオチドは互換的である。当業者は、核酸がポリヌクレオチドであり、それらは単量体「ヌクレオチド」に加水分解されうるという一般知識を有する。単量体ヌクレオチドは、ヌクレオシドに加水分解されうる。本明細書において用いられる場合、ポリヌクレオチドには、非限定的に、組み換え手段、すなわち通常のクローニング技術およびPCR(商標)などを用いた組み換えライブラリーまたは細胞ゲノムからの核酸配列のクローニングを含む、当技術分野において利用可能な任意の手段により、ならびに合成手段により得られる全ての核酸配列が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0087】
本明細書において用いられる場合、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は互換的に用いられ、ペプチド結合によって共有結合されたアミノ酸残基で構成される化合物をいう。タンパク質またはペプチドは、少なくとも2つのアミノ酸を含まなくてはならず、タンパク質またはペプチドの配列を構成しうるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドには、ペプチド結合によって相互につなぎ合わされた2つまたはそれ以上のアミノ酸を含む任意のペプチドまたはタンパク質が含まれる。本明細書において用いられる場合、この用語は、例えば、当技術分野において一般的にはペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマーともいわれる短鎖と、当技術分野において一般にタンパク質といわれる長鎖の両方をいい、そのなかには多くのタイプがある。「ポリペプチド」には、とりわけ、例えば、生物学的に活性な断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモ二量体、ヘテロ二量体、ポリペプチドの変種、修飾ポリペプチド、誘導体、類似体、融合タンパク質が含まれる。ポリペプチドには、天然ペプチド、組み換えペプチド、合成ペプチド、またはそれらの任意の組み合わせが含まれる。
【0088】
本明細書において用いられる「タンパク質凝集物」という用語は、対象中の組織において互いに凝集して病理学的状態を引き起こすか、または対象を病理学的状態のリスクに置く、2つ以上のタンパク質(例えば、同じタンパク質の2つ以上、2つ以上の異なるタンパク質など)を意味する。いくつかの態様において、タンパク質凝集物は、ミスフォールディングされたタンパク質、(例えば、フォールディングに影響を及ぼしえないが、機能に影響を及ぼす変異の結果として)別のように不適当に形成された/形成異常のタンパク質、ならびに/またはタンパク質および非タンパク質成分(例えば、核酸、小分子など)の凝集物のうちの1つまたは複数であってもよく、またはそれを含んでもよい。そのようなタンパク質凝集物の非限定的な例には、アミロイドタンパク質の凝集物、タウタンパク質の凝集物、TDP-43タンパク質の凝集物、免疫グロブリン軽鎖またはトランスサイレチンタンパク質の凝集物、プリオンタンパク質の凝集物などが含まれる。
【0089】
本明細書において用いられる「プロモーター」という用語は、ポリヌクレオチド配列の特異的転写を開始させるために必要な、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列と定義される。
【0090】
本明細書において用いられる場合、「プロモーター/調節配列」という用語は、プロモーター/調節配列に機能的に連結された遺伝子産物の発現のために必要とされる核酸配列を意味する。ある場合には、この配列はコアプロモーター配列であってよく、他の場合には、この配列はエンハンサー配列および遺伝子産物の発現に必要とされる他の調節エレメントを含んでもよい。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的な様式で遺伝子産物を発現させるものであってもよい。
【0091】
「構成的」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合、細胞のほとんどまたは全ての生理学的条件の下で、遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0092】
「誘導性」プロモーターは、遺伝子産物をコードまたは特定するポリヌクレオチドと機能的に連結された場合、実質的にはプロモーターに対応する誘導因子が細胞内に存在する場合にのみ遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0093】
「組織特異的」プロモーターは、遺伝子をコードするまたは遺伝子によって特定されるポリヌクレオチドと機能的に連結された場合、実質的には細胞が、プロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ遺伝子産物を細胞内で産生させるヌクレオチド配列である。
【0094】
「免疫抑制に対して抵抗性」という用語は、免疫系の活性または活性化の抑制が欠如していることまたは抑制が低下していることを意味する。
【0095】
「シグナル伝達経路」は、細胞のある部分から細胞の別の部分へのシグナルの伝達において役割を果たす種々のシグナル伝達分子間の生化学的関係をいう。「細胞表面受容体」という語句は、シグナルを受け取り、細胞の原形質膜を越えてシグナルを伝達しうる分子および分子の複合体を含む。
【0096】
「一本鎖抗体」とは、免疫グロブリン重鎖および軽鎖断片が、操作されたアミノ酸の長さを介してFv領域に連結されている、組み換えDNA技法によって形成された抗体をいう。米国特許第4,694,778号; Bird, 1988, Science 242:423-442; Huston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883; Ward et al., 1989, Nature 334:54454; Skerra et al., 1988, Science 242:1038-1041に記述されているものを含めて、一本鎖抗体を作製する様々な方法が知られている。
【0097】
抗体物質などの抗原結合ドメインに関して本明細書において用いられる用語「特異的に結合する」とは、特異的抗原を認識するがサンプル中の他の分子を実質的に認識または結合しない、抗原結合ドメインまたは抗体物質を意味する。例えば、1つの種由来の抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインまたは抗体物質が、1つまたは複数の種由来のその抗原に結合してもよい。しかし、そのような異種間反応性はそれ自体で、特異的として抗原結合ドメインまたは抗体物質の分類を変化させることはない。別の例において、抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインまたは抗体物質が、その抗原の異なる対立遺伝子型に結合してもよい。しかし、そのような交差反応性はそれ自体で、特異的として抗原結合ドメインまたは抗体物質の分類を変化させることはない。場合によっては、「特異的結合」または「特異的に結合する」という用語を、抗原結合ドメインまたは抗体物質、タンパク質またはペプチドと第2の化学種との相互作用に関連して用い、相互作用が化学種上の特定の構造(例えば、抗原決定基またはエピトープ)の存在に依存することを意味してもよい; 例えば、抗原結合ドメインまたは抗体物質は、タンパク質全体ではなく特定のタンパク質構造を認識し、それに結合する。抗原結合ドメインまたは抗体物質がエピトープ「A」に特異的であるなら、エピトープAを含む分子(または遊離した、標識されていないA)の存在は、標識された「A」およびその抗原結合ドメインまたは抗体物質を含む反応において、その抗体に結合した標識されたAの量を減らすであろう。
【0098】
「刺激」という用語は、刺激分子(例えば、TCR/CD3複合体)がそのコグネイトリガンドと結合し、それによって、限定されるものではないが、Fc受容体機構を介するまたは人工CARを介するシグナル伝達のような、シグナル伝達事象を媒介することにより誘導される、一次応答を意味する。刺激は、TGF-βのダウンレギュレーション、および/または細胞骨格構造の再編成などのような、ある特定の分子の発現の変化を媒介することができる。
【0099】
「刺激分子」とは、この用語が本明細書において用いられる場合、抗原提示細胞上に存在するコグネイト刺激リガンドと特異的に結合する、単球、マクロファージ、または樹状細胞の分子を意味する。
【0100】
本明細書において用いられる「刺激リガンド」は、抗原提示細胞(例えば、aAPC、樹状細胞、B細胞など)または腫瘍細胞上に存在する場合、単球、マクロファージ、または樹状細胞上のコグネイト結合パートナー(本明細書において「刺激分子」といわれる)と特異的に結合でき、それによって、活性化、免疫応答の開始、増殖などを含むが、これらに限定されない、免疫細胞による応答を媒介するリガンドを意味する。刺激リガンドは当技術分野において周知であり、とりわけ、Toll様受容体(TLR)リガンド、抗toll様受容体抗体、アゴニスト、および、単球/マクロファージ受容体に対する抗体を包含する。加えて、インターフェロンγなどのサイトカインは、マクロファージに対する強力な刺激物質である。
【0101】
「対象」という用語は、免疫応答が誘発されうる生物(例えば、哺乳動物)を含むよう意図される。本明細書において用いられる「対象」または「患者」は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物でありうる。非ヒト哺乳動物には、例えば、ヒツジ、ウシ、ブタ、イヌ、ネコおよびネズミ哺乳動物のような、家畜およびペットが含まれる。好ましくは、対象はヒトである。
【0102】
本明細書において用いられる場合、「実質的に精製された」細胞は、他の細胞型を本質的に含まない細胞である。また、実質的に精製された細胞とは、その天然の状態において通常結び付いている他の細胞型から分離された細胞をいう。ある例では、実質的に精製された細胞の集団とは、均質な細胞集団をいう。他の例では、この用語は、単に、天然の状態において通常結び付いている細胞から分離された細胞をいう。いくつかの態様において、細胞はインビトロで培養される。他の態様において、細胞はインビトロで培養されない。
【0103】
「標的部位」または「標的配列」とは、結合が起きるのに十分な条件の下で結合分子が特異的に結合しうる核酸の一部分を規定するゲノム核酸配列をいう。
【0104】
「標的」は、体内にある処置が必要な細胞、臓器、組織、または部位(例えば、タンパク質凝集物)を意味する。
【0105】
本明細書において用いられる場合、「T細胞受容体」または「TCR」という用語は、抗原の提示に応答してT細胞の活性化に関与する膜タンパク質の複合体をいう。TCRは、主要組織適合遺伝子複合体分子に結合した抗原を認識する役割を担う。TCRは、アルファ(a)およびベータ(β)鎖のヘテロ二量体から構成されるが、一部の細胞ではTCRはガンマおよびデルタ(γ/δ)鎖からなる。TCRは、構造的に類似しているが、異なる解剖学的位置および機能を有するα/βおよびγ/δ形態で存在しうる。各鎖は、2つの細胞外ドメイン、つまり可変ドメインおよび定常ドメインから構成される。いくつかの態様において、TCRは、TCRを含む任意の細胞(例えば、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、記憶T細胞、調節性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、およびγδT細胞を含む)上で改変されうる。
【0106】
本明細書において用いられる「治療的」という用語は、処置および/または予防を意味する。治療効果は、疾患状態の抑制、寛解または根絶によって得られる。
【0107】
本明細書において用いられる「トランスフェクションされた」または「形質転換された」または「形質導入された」という用語は、外因性核酸が宿主細胞に移入または導入される過程をいう。「トランスフェクションされた」または「形質転換された」または「形質導入された」細胞は、外因性核酸でトランスフェクションされた、形質転換された、または形質導入されたものである。この細胞には初代対象細胞およびその子孫が含まれる。
【0108】
疾患を「処置する」とは、この用語が本明細書において用いられる場合、対象が被っている疾患または障害の少なくとも1つの徴候または症状の頻度または重症度を低減することを意味する。
【0109】
本明細書において用いられる「転写制御下」または「機能的に連結された」という語句は、RNAポリメラーゼによる転写の開始およびポリヌクレオチドの発現を制御するためにプロモーターがポリヌクレオチドに関して正しい位置および方向にあることを意味する。
【0110】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、かつ単離された核酸を細胞の内部に送達するために使用できる組成物である。直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性または両親媒性化合物と結び付いたポリヌクレオチド、プラスミドおよびウイルスを含むが、これらに限定されない、多数のベクターが当技術分野において公知である。したがって、「ベクター」という用語は、自律的に複製するプラスミドまたはウイルスを含む。この用語はまた、例えばポリリジン化合物、リポソームなどのような、細胞内への核酸の移入を容易にする非プラスミド性および非ウイルス性の化合物を含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターなどが挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0111】
範囲: 本開示の全体を通じて、本発明のさまざまな局面を範囲の形式で提示することができる。範囲の形式の記述は、単に簡便にするためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない制限と解釈されるべきではないことが理解されるべきである。したがって、範囲の記述は、可能な全ての部分範囲およびその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものとみなされるべきである。例えば、1~6のような範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などのような部分範囲、ならびにその範囲内の個々の数字、例えば、1、2、2.7、3、4、5、5.3および6を具体的に開示したものとみなされるべきである。これは、範囲の幅に関係なく適用される。
【0112】
説明
本発明は、とりわけ、対象においてタンパク質凝集物に関連する疾患または障害を処置するための組成物および方法を含む。疾患には、神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、アミロイドーシス、または、タンパク質の凝集および/もしくはミスフォールディングに、またはタンパク質性感染性粒子の存在もしくは活性に基づく病理を有する任意の他の疾患または障害が含まれうる。本発明は、単球、マクロファージ、または樹状細胞における、任意の設計のキメラ抗原受容体(CAR)の発現を含む。いくつかの態様において、そのような改変細胞は、罹患した組織微小環境に動員されるか、直接注射されるか、または塗布され、そこで、組織に浸潤することおよび/または組織と相互作用すること、ならびに、(不均質凝集物を含む)タンパク質凝集物における標的タンパク質/リポタンパク質、ミスフォールディングされたタンパク質、または感染性タンパク質を改変する、中和する、または排除することによって、強力な免疫エフェクターとして作用する。
【0113】
本開示に包含される利点の中には、CARを発現させるための単球、マクロファージ、および樹状細胞などの細胞の使用によって、食作用の過程を介して不溶性タンパク質のクリアランスが可能になることがある。食作用性の取り込みは、病原性タンパク質凝集物の分解および消化をもたらしうる。T細胞およびNK細胞などの他の細胞は、食作用の能力を有さない。特定の理論に拘束されることは望まないが、本開示に包含される利点の中には、単球、マクロファージ、および樹状細胞などの細胞の使用によって、伝統的な細胞療法(例えば、CAR-T)において有意な安全性の論点であることが判明している、「サイトカイン放出症候群」(CRS)とも呼ばれる「サイトカインストーム」の可能性が回避されることがある。
【0114】
いくつかの態様において、本開示は、安全スイッチ(例えば、オンスイッチ、オフスイッチ、または自殺スイッチ)、および論理ゲート(例えば、ANDゲート、ORゲート、またはNOTゲート)からなる群より選択される1つまたは複数の制御システムを含む細胞(例えば、単球、マクロファージ、または樹状細胞)を提供する。いくつかの態様において、本開示は、「安全スイッチ」(例えば、死滅スイッチ、自殺スイッチ、オンスイッチ、オフスイッチ)を含む細胞(例えば、単球、マクロファージ、または樹状細胞)を提供する。いくつかの態様において、安全スイッチは、プログラム細胞死に関与する酵素および小分子アクチベーターを含む。いくつかの態様において、安全スイッチは、プログラム細胞死に関与する酵素および抗体アクチベーターを含む。いくつかの態様において、酵素をコードする遺伝子は、エクスビボで細胞(例えば、単球、マクロファージ、または樹状細胞)に形質導入される。いくつかの態様において、安全スイッチの活性化は、その中で安全スイッチが活性化されている細胞の死をもたらす。いくつかの態様において、安全スイッチの活性化は、その中で安全スイッチが活性化されている細胞の活性のダウンレギュレーションをもたらし、ここで、細胞は、将来再活性化することができる。いくつかの態様において、細胞の活性は、デフォルトでダウンレギュレートされ、安全スイッチの活性化が、細胞の活性のアップレギュレーションをもたらし、ここで、細胞は、将来不活性化することができる。
【0115】
アミロイド/アミロイドーシス
アミロイドーシスは、アミロイドまたはアミロイド細線維として公知の不正確にフォールディングされたタンパク質の異常な集積という共通の病理学的特徴を有する疾患の群を説明するために用いられる用語である(Chiti and Dobson. 2006. Ann Review Biochem, 75: 333-366;Sipe et al., Amyloid 21(4): 221-224)。アミロイド細線維は、可溶性前駆タンパク質のミスフォールディングの結果として細胞外に沈着する、不溶性タンパク質複合体である(Nienhuis et al., Kidney Dis (Basel). 2016 Apr; 2(1): 10-19)。アミロイド細線維の形成は、欠陥タンパク質のオリゴマー化および凝集の結果である。アミロイドーシスは、限局性または全身性であることができ、1つのアプローチに従って、以下の6群に分類することができる:アミロイド細線維が免疫グロブリン軽鎖タンパク質から構成される、原発性アミロイドーシス(AL);アミロイドの供給源が炎症の結果としての血清アミロイドA(SAA)である、続発性アミロイドーシス(AA);典型的には変異したトランスサイレチンタンパク質の結果である、家族性アミロイドーシス(ATTR);疾患病理をもたらす様々なタンパク質のミスフォールディングを伴う、他の家族性アミロイドーシス;病的凝集物がβ-2ミクログロブリンタンパク質から構成される、β-2ミクログロブリンアミロイドーシス;ならびに、様々な組織および臓器における多様なタンパク質に関連する、限局性アミロイドーシス(Boston University Amyloidosis Center)。
【0116】
免疫グロブリン軽鎖アミロイドーシス(AL)は、根底にある形質細胞新生物に由来するアミロイド細線維の沈着によって引き起こされる臓器不全を特徴とする、多系統致死障害である。ALは、米国において毎年約3,000人の患者が診断される、希少な状態である。現在の処置アプローチは、形質細胞に方向付けられた化学療法であり、したがって非特異的である。この種の処置の副作用は、高い早期の死亡率(約3分の1が1年以内に死亡する)に、ならびに臓器からのアミロイド沈着の遅延したかつ不完全なクリアランスに関連している。これは、患者に、継続している死亡のリスクと共に、心不全、ネフローゼ症候群、および不能にするニューロパチー由来の慢性の病的状態を負わせる。ALにおける転帰を改善するために、形質細胞を超える治療法、特に、沈着したアミロイド軽鎖のクリアランスが必要とされる。本明細書において、アミロイドの臓器沈着を特定して、食作用を通して沈着物を一掃し、したがって、ALにおける臓器機能の改善、病的状態の低減、および生存率の改善をもたらす、キメラ抗原受容体を発現するマクロファージ(CARマクロファージ)に基づく処置プラットフォームが、開発された。この処置プラットフォームは、追加的なタイプのアミロイドーシス、およびミスフォールディングされたタンパク質の細胞外沈着に関連する他の疾患に拡張することができる。
【0117】
追加的なタイプのアミロイドーシスには、重鎖アミロイドーシス(AH)、原発性全身性アミロイドーシス、ApoAIアミロイドーシス、ApoAIIアミロイドーシス、ApoAIVアミロイドーシス、アポリポタンパク質C2アミロイドーシス、およびアポリポタンパク質C3アミロイドーシス、角膜ラクトフェリンアミロイドーシス、トランスサイレチン関連アミロイドーシス、透析アミロイドーシス、フィブリノーゲンアミロイドーシス、Lect2アミロイドーシス(ALECT2)、およびリゾチームアミロイドーシスが含まれるが、これらに限定されることはない。
【0118】
追加的なアミロイド関連疾患の例には、以下が含まれる:タウタンパク質およびβ-アミロイドの凝集物が観察される、アルツハイマー病;変異したプリオンタンパク質が毒性凝集物を構成する、海綿状脳症(プリオン病);タンパク質クリスタリンの凝集によって引き起こされる、白内障;アミリンおよび他のものから作られる凝集物を伴う、2型糖尿病(Caughey and Lansbury. 2003. Annu Rev Neurosci. 26:267-98;Valastyan and Lindquist, Disease Models & Mechanisms (2014) 7, 9-14)。
【0119】
アミロイドーシスに関係しているタンパク質には、血清アミロイドA(SAA)タンパク質、モノクローナル免疫グロブリン軽鎖タンパク質(κまたはλ)、免疫グロブリン重鎖タンパク質、トランスサイレチンタンパク質、アポリポタンパク質A-I(AApoAI)、アポリポタンパク質A-II(AApoAII)、アポリポタンパク質A-IV(AApoAIV)、アポリポタンパク質C2(ApoC2)、アポリポタンパク質C3(ApoC3)、ケラチン、アミロイドDan(ADan)、ラクトフェリン、ゲルゾリン(AGelまたはGSN)、フィブリノーゲン(AFib)、フィブリノーゲンα鎖(FGA)、リゾチーム(AlysまたはLYZ)、Lect2、β-2ミクログロブリン、アミロイドβ、クリスタリン、アミリン(膵島アミロイドペプチド)、プリオンタンパク質(PrP)、白血球細胞由来ケモタキシン2(LECT2)、シスタチンC(CST3)、オンコスタチンM受容体(OSMR)、内在性膜タンパク質2B(ITM2b)、プロラクチン(PRL)、ケラトエピセリン(keratoepithelin)、および心房性ナトリウム利尿因子(ANF)が含まれるが、これらに限定されることはない。アミロイドーシスは、四肢、特に、足首および/もしくは脚の腫脹、疲労、息切れ、体重減少、不整脈、手もしくは足のしびれ、手もしくは足の刺痛もしくは疼痛、および/または息切れを含むがこれらに限定されない、多様な徴候または症状のいずれかを介して現れうる。これらの臨床的症状発現は、最も主要な臓器系の関与を反映するが、特に、心臓、腎臓、および末梢神経の関与を反映する。
【0120】
いくつかの態様において、提供される組成物は、化学療法、幹細胞療法、抗炎症剤、または、とりわけプロテアソーム阻害剤などの骨髄腫に方向付けられた治療法を含むがこれらに限定されない、アミロイドーシスのための1つまたは複数の他の処置と共に用いられてもよい。
【0121】
本明細書において開示される組成物および方法は、アミロイド凝集物の共通エピトープ、または、本明細書において「アミロイド」と呼ばれる、アミロイド細線維の形成に寄与する様々なミスフォールディングされたタンパク質とは別個であるエピトープに対する抗体、抗体物質、および/または他の抗原結合ドメインを含んでもよい。アミロイドという用語は、野生型および変異型両方の天然に存在するヒトアミノ酸配列ならびに断片、対立遺伝子、種、および誘導されたバリアントを含む類似体を含む。類似体のアミノ酸は、類似体およびヒト配列を最大に整列させた場合に天然のヒト配列において対応するアミノ酸と、同じ数字を割り当てられる。類似体は、典型的には、多くの場合保存的置換によって、1個、2個、または数個の位置で、天然に存在するペプチドとは異なっている。「対立遺伝子バリアント」という用語は、同じ種における様々な個体の遺伝子間のバリエーション、および遺伝子によってコードされるタンパク質における対応するバリエーションをいうように用いられる。抗アミロイド抗体、その断片、および類似体は、固相ペプチド合成もしくは組換え発現によって合成することができ、または天然供給源から得ることができる。自動ペプチド合成機は、Applied Biosystems, Foster City, Califなどの多数の供給業者から市販されている。
【0122】
アミロイドβ/アルツハイマー病
アルツハイマー病(AD)とは、時間と共に記憶喪失が悪化することを特徴とする、あるタイプの進行性認知症である。この疾患は、米国において6番目の主たる死亡原因であり、根底にあるADの病理を処置するための治療法は現在ない。AD患者の脳において観察される主な病理は、Aβ42を含むアミロイドβタンパク質から構成される細胞外凝集物/プラークの蓄積である(Sadigh-Eteghad et al. 2014. Medical Principles and Practice. 24 (1): 1-10)。βアミロイドタンパク質は、他の認知症(レビー小体)または筋肉疾患などの他の疾患状態において、プラークを形成する場合がある。
【0123】
AD罹患者は、多様な徴候または症状のいずれかを示しうるが、共通の徴候または症状には、記憶(例えば、短期記憶もしくは長期記憶)の喪失、推理力の抑制、決断を行う能力の抑制もしくは喪失、計画能力障害、人格に対する変化、および/または行動パターンの変化(例えば、抑うつ、気分変動、抑制の喪失、無関心、および引きこもり)が含まれる。
【0124】
ADの症状は、時間と共に悪化するが、疾患が進行する速度は異なる。平均で、ADを有する対象は、診断後4~8年生存するが、他の要因に応じて、20年程度生存することができる。ADに関連した脳における変化は、疾患のいずれかの徴候の数年前に始まる。数年間続く場合があるこの期間は、発症前ADと呼ばれる。
【0125】
早期段階のAD(軽度AD)の対象は、例えば、運転する、働く、および社会活動に参加することによって、独立して機能しうる。いくつかの態様において、早期ADに罹患した対象は、記憶違いをする、例えば、なじみ深い単語または日用品の場所を忘れるかのように感じうる。いくつかの態様において、早期ADを有する対象の近くの友人、家族、または他者は、困難に気づき始める。いくつかの態様において、早期ADに罹患した対象と詳細な医学的面接を行う医師は、記憶または集中において問題を検出することができうる。いくつかの態様において、早期段階ADに罹患した対象は、以下からなる群より選択される1つまたは複数の困難を経験する:正しい単語または名前を思いつく問題、新しい人々に紹介された時に名前を覚えているトラブル、社会環境または労働環境において業務を行う挑戦、ちょうど読んだばかりの資料を忘れること、貴重品をなくすかまたは置き違えること、および計画または組織化に伴うトラブルの増加。
【0126】
中期段階のAD(中等度AD)は、典型的には最長の病期であり、何年間も続く場合がある。疾患が進行するにつれて、ADを有する対象は、より高いレベルの世話を必要とするであろう。いくつかの態様において、中期段階のADに罹患した対象は、以下からなる群より選択される症状を経験する場合がある:単語の混乱、欲求不満または怒りを感じること、および予期しないやり方で行動すること(例えば、入浴の拒否または他の人格変化)。中等度ADを有する対象の脳における神経変性によって、対象が、思考を表現すること、および日常的な業務を行うことが難しくなる場合がある。いくつかの態様において、中期段階のADに罹患した対象における症状は、近親の家族以外の他者が容易に気づくであろう。いくつかの態様において、中期段階のADに罹患した対象は、以下からなる群より選択される1つまたは複数の困難を経験し、かつそれを含みうる:事象または対象自身の履歴についての忘却、特に社会的または精神的に挑戦的な状況において不機嫌を感じることまたは引っ込み思案になること、対象自身の住所もしくは電話番号、または対象が卒業した高校もしくは大学を思い出せないこと、対象がどこにいるかまたは何日であるかについての混乱、季節または時機に適切な衣服を選ぶのに助けを必要とすること、膀胱および腸を制御するトラブル、睡眠パターンの変化(例えば、日中に眠り、夜に不穏状態になること)、徘徊するおよび迷子になるリスクの増加、人格および行動の変化(例えば、疑心および妄想)、ならびに強迫的、反復的な行動(例えば、手をもみ絞ることまたはティッシュペーパーを細断すること)。
【0127】
最終段階のAD(重度AD)において、対象は、その環境に応答する能力、会話をし続ける能力、および最終的には動きを制御する能力を喪失する。いくつかの態様において、最終段階のADに罹患した対象は、まだ単語または句を言う可能性があるが、疼痛を伝えることが難しくなる。いくつかの態様において、最終段階のADに罹患した対象は、有意な人格変化を経験する。いくつかの態様において、最終段階のADに罹患した対象は、日常活動で広範囲にわたる助けを必要とする。いくつかの態様において、最終段階のADに罹患した対象は、以下からなる群より選択される1つまたは複数の困難を経験する:日常活動および個人的な世話で24時間の介助を必要とすること、最近の経験および周囲に対する意識を喪失すること、身体能力(例えば、歩く能力、座る能力、および最終的には嚥下する能力)の変化を経験すること、伝える困難が増加すること、ならびに感染症(例えば、肺炎)に対して脆弱になること。
【0128】
いくつかの態様において、本発明による組成物は、早期段階のADに罹患した対象に投与される。いくつかの態様において、本発明による組成物は、中期段階のADに罹患した対象に投与される。いくつかの態様において、本発明による組成物は、最終段階のADに罹患した対象に投与される。
【0129】
ADのための現在の処置は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤およびN-メチル-D-アスパラギン酸受容体アンタゴニストであるメマンチンを含むが、疾患修飾よりもむしろ対症の有益性を提供する(Malik and Robertson. 2017. J Neurol 264:416-418)。いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載されるようなキメラ抗原受容体(CAR)を含む改変細胞を含む組成物で、ADに罹患した対象を処置することを含む。いくつかの態様において、ADに罹患した対象を処置することは、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物を、単独でまたは追加的な(非CAR)治療用組成物との組み合わせで投与することを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物のみで、ADに罹患した対象を処置することは、追加的な(非CAR)治療用組成物のみで、ADに罹患した対象を処置することよりも、対象のAD症状および/または病理に対して、より大きな効果を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物と、追加的な治療用組成物との組み合わせで、ADに罹患した対象を処置することは、対象のAD症状および/または病理に対して相乗効果を有する。いくつかの態様において、追加的な治療用組成物には、凝集したAβを選択的に標的とするヒトモノクローナル抗体が含まれる。いくつかの態様において、凝集したAβを選択的に標的とするヒトモノクローナル抗体は、アデュカヌマブである。いくつかの態様において、追加的な治療用組成物には、タウタンパク質凝集の選択的阻害剤が含まれる。いくつかの態様において、タウタンパク質凝集の選択的阻害剤は、ロイコ-メチルチオニニウムビスヒドロメタンスルホナート(LMTM)である。
【0130】
いくつかの態様において、対象におけるAD症状に対するAD処置の効果は、アルツハイマー病評価尺度-認知機能下位尺度(ADAS-Cog)および/またはAD共同研究-日常生活動作質問票(ADCS-ADL)を用いて評価される。いくつかの態様において、対象におけるAD病理に対するAD処置の効果は、対象の脳におけるタンパク質凝集物のレベルを測定することによって評価される。いくつかの態様において、タンパク質凝集物は、凝集したAβ(例えば、Aβ42)である。いくつかの態様において、タンパク質凝集物は、タウタンパク質凝集物である。
【0131】
コラーゲン/線維性疾患
コラーゲンの異常な沈着が、全身性硬化症(強皮症)および慢性移植片対宿主病などの全身性障害において、ならびに様々な肺線維性障害および肝硬変などの臓器特異的障害においての両方で起こる。
【0132】
全身性硬化症
全身性硬化症(SSc)は、皮膚、血管、心臓、肺、腎臓、胃腸(GI)管、および筋骨格系に影響を及ぼし、かつ特徴的な特性としてコラーゲン凝集物の発生を含む、結合組織疾患(CTD)である。内臓の関与により、SScを有する患者の有意な罹患率および致死率が結果としてもたらされる(Kowal-Bielecka O, et al. Ann Rheum Dis 2017;76:1327-1339)。いくつかの態様において、SScの症状は、皮膚のパッチの硬化および緊縮を含む。いくつかの態様において、SScの症状は、低温または感情的苦悩に対する誇大な応答を含み、これは、手指または足指におけるしびれ、疼痛、または体色変化(「レイノー現象」とも呼ばれる)を引き起こす場合がある。いくつかの態様において、SScの症状は、(例えば、腸管の筋肉が、腸を通るように食物を適切に動かさない場合)酸の流入および/または栄養素を吸収する問題を含む。いくつかの態様において、SScの症状は、様々な程度まで、心臓、肺、または腎臓の異常な機能を含む。
【0133】
全身性硬化症を有する対象におけるレイノー現象(RP)のための現在の治療法には、ジヒドロピリジン型カルシウムアンタゴニスト(例えば、ニフェジピン)、PDE-5阻害剤、プロスタノイド(例えば、静脈内イロプロスト)、およびフルオキセチンが含まれる。全身性硬化症を有する対象における指の潰瘍のための現在の治療法には、静脈内イロプロスト、PDE-5阻害剤、およびボセンタンが含まれる。肺動脈高血圧(PAH)のための現在の治療法には、エンドセリン受容体アンタゴニスト(例えば、アンブリセンタン、ボセンタン、およびマシテンタン)、PDE-5阻害剤(例えば、シルデナフィルおよびタダラフィル)、ならびにリオシグアトが含まれる。全身性硬化症を有する対象における皮膚および肺の問題のための現在の治療法には、メトトレキサート、シクロホスファミド、および造血幹細胞移植(HSCT)が含まれる。全身性硬化症を有する対象における強皮症腎クリーゼのための現在の治療法には、ACE阻害剤が含まれる。SSc関連胃腸疾患のための現在の治療法には、プロトンポンプ阻害剤、運動促進薬、および(症候性の小腸細菌過剰増殖を処置するための)間欠性または回転性の抗生物質が含まれる。
【0134】
いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載されるようなキメラ抗原受容体(CAR)を含む改変細胞を含む組成物で、SScに罹患した対象を処置する段階を含む方法を提供する。いくつかの態様において、SScに罹患した対象を処置する段階は、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物を、単独でまたは追加的な(非CAR)治療用組成物との組み合わせで投与することを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物のみで、SScに罹患した対象を処置することは、追加的な(非CAR)治療用組成物のみで、SScに罹患した対象を処置することよりも、対象のSSc症状および/または病理に対して、より大きな効果を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物と、追加的な治療用組成物との組み合わせで、SScに罹患した対象を処置することは、対象のSSc症状および/または病理に対して相乗効果を有する。
【0135】
移植片対宿主病
慢性移植片対宿主病(GVHD)は、100日よりも長く生存した人々の20%~70%において起こる、同種造血幹細胞移植(HSCT)の最も重篤なかつ一般的な長期合併症である(Lee, S.J. Blood. 2005 Jun 1; 105(11): 4200-4206)。影響を受けた人々のおよそ半分が、3つ以上の関与する臓器を有し、処置は、典型的には、1~3年の中央値にわたる免疫抑制薬物療法を必要とする。同種移植の長期の成功に対する慢性GVHDの良く認識された有害作用にもかかわらず、その病態生理学の理解は不十分であり、全身性コルチコステロイドを超える管理戦略は、確立されていない。
【0136】
いくつかの態様において、慢性GVHDの徴候および症状には、以下が含まれる:関節または筋肉の疼痛、息切れ、持続性の咳、視覚変化(例えば、ドライアイ)、皮膚変化(例えば、皮膚下の瘢痕または皮膚の硬直)、発疹、皮膚または白眼に対する黄ばみ(黄疸)、口渇、口のびらん、腹痛、下痢、悪心、および嘔吐。
【0137】
標的組織をねらった処置は、罹患率を最小化し、かつ慢性GVHDに罹患した対象において機能性を改善する可能性がある。主な衰弱させる組織応答のうちの1つは、線維症である。ハロフギノンは、TGF-βにより誘導されるコラーゲンα1遺伝子過剰発現を阻害するために、局所的にまたは全身的に与えられている。ハロフギノンは、タンパク質合成に依拠する機構を介して、特に、TGF-βでの活性化または活性化変異によってコラーゲンを過剰分泌するように誘導された線維芽細胞において、smad3リン酸化を阻害する。過剰なコラーゲン沈着はまた、火傷の犠牲者、およびその多くもまた過剰なコラーゲン沈着に苦しむ、強皮症を有する人々の処置と同様に、身体のリハビリテーションを通して戦う可能性もある。硬化過程を制御できるまで、積極的な温熱療法、マッサージ、および受動的な可動域の運動が、機能を維持する手助けをすることができる。
【0138】
いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載されるようなキメラ抗原受容体(CAR)を含む改変細胞を含む組成物で、慢性GVHDに罹患した対象を処置する段階を含む方法を提供する。いくつかの態様において、慢性GVHDに罹患した対象を処置する段階は、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物を、単独でまたは追加的な(非CAR)治療用組成物との組み合わせで投与することを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物のみで、慢性GVHDに罹患した対象を処置することは、追加的な(非CAR)治療用組成物のみで、慢性GVHDに罹患した対象を処置することよりも、対象の慢性GVHD症状および/または病理に対して、より大きな効果を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物と、追加的な治療用組成物との組み合わせで、慢性GVHDに罹患した対象を処置することは、対象の慢性GVHD症状および/または病理に対して相乗効果を有する。いくつかの態様において、追加的な(非CAR)治療用組成物は、ハロフギノンを含む。
【0139】
肺線維症
肺線維症(PF)は、肺組織が損傷を受けて瘢痕が生じた時に起こる、肺疾患である。この肥厚した硬い組織により、肺が適切に働くことが難しくなる。肺線維症が悪化するにつれて、息切れが進行性に悪化する。肺線維症に関連する瘢痕化は、多数の要因によって引き起こされうるが、大部分の症例において、医師はPFの原因を決定することができず、原因が見出されない場合、状態は突発性肺線維症と称される。いくつかの態様において、PFの徴候および症状には、以下が含まれる:息切れ(呼吸困難)、乾性咳、疲労、原因不明の体重減少、筋肉および関節の痛み、ならびに手指または足指の先端の肥大および球状化(rounding)(ばち状指)。
【0140】
PFのための現在の治療法には、ニンテダニブ(Ofev;血管内皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子、およびPDGF受容体を含む複数のチロシンキナーゼを標的とするチロシンキナーゼ阻害剤)、ならびにピルフェニドン(Esbriet;線維芽細胞増殖を低減させ、TGF-βにより刺激されるコラーゲン産生を阻害し、かつTGF-βなどの線維形成媒介物質の産生を低減させるピリドン)が含まれる。
【0141】
いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載されるようなキメラ抗原受容体(CAR)を含む改変細胞を含む組成物で、PFに罹患した対象を処置する段階を含む方法を提供する。いくつかの態様において、PFに罹患した対象を処置する段階は、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物を、単独でまたは追加的な(非CAR)治療用組成物との組み合わせで投与することを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物のみで、PFに罹患した対象を処置することは、追加的な(非CAR)治療用組成物のみで、PFに罹患した対象を処置することよりも、対象のPF症状および/または病理に対して、より大きな効果を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物と、追加的な治療用組成物との組み合わせで、PFに罹患した対象を処置することは、対象のPF症状および/または病理に対して相乗効果を有する。いくつかの態様において、追加的な(非CAR)治療用組成物は、ニンテダニブを含む。いくつかの態様において、追加的な(非CAR)治療用組成物は、ピルフェニドンを含む。
【0142】
肝硬変
肝硬変は、正常な肝臓構造の広範な歪みを結果としてもたらす、肝線維症の後期段階である。いくつかの態様において、硬変は、密な線維性組織によって囲まれた再生結節を特徴とする。いくつかの態様において、硬変の徴候および症状には、以下が含まれる:疲労、出血しやすい、内出血しやすい、皮膚のかゆみ、黄疸、腹水(腹部における体液の蓄積)、食欲の喪失、悪心、脚の腫脹、体重減少、肝性脳症(錯乱、傾眠、および不明瞭発語)、皮膚上のクモ状血管、手のひらの発赤、(男性における)精巣萎縮および乳房膨大。
【0143】
硬変のための現在の治療法は、本質的に支持的であり、有害な薬物を中止すること、栄養を提供すること、ならびに根底にある障害および合併症を処置することが含まれる。末期段階の肝疾患を有する患者には、肝移植が必要である。
【0144】
いくつかの態様において、本発明は、本明細書に記載されるようなキメラ抗原受容体(CAR)を含む改変細胞を含む組成物で、硬変に罹患した対象を処置する段階を含む方法を提供する。いくつかの態様において、硬変に罹患した対象を処置する段階は、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物を、単独でまたは追加的な(非CAR)治療用組成物との組み合わせで投与することを含む。いくつかの態様において、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物のみで、硬変に罹患した対象を処置することは、追加的な(非CAR)治療用組成物のみで、硬変に罹患した対象を処置することよりも、対象の硬変症状および/または病理に対して、より大きな効果を有する。いくつかの態様において、本明細書に記載されるようなCARベースの治療用組成物と、追加的な治療用組成物との組み合わせで、硬変に罹患した対象を処置することは、対象の硬変症状および/または病理に対して相乗効果を有する。
【0145】
リポタンパク質/心臓血管疾患
アテローム性動脈硬化症は、脂質、リポタンパク質、タンパク質、および他の物質から構成される不均質なプラークが、動脈の壁に蓄積して、血管の内腔を閉塞させ、多くの場合に疼痛および組織損傷をもたらす、血管疾患である。アテローム性動脈硬化プラークの主な成分は、低密度リポタンパク質(LDL)であり、これは、損傷を受けた上皮細胞層を通して血管の裏打ちに入ることによって、プラークの形成を開始すると考えられている。上皮は、喫煙、糖尿病、または他の状態によって損傷を受ける場合がある。LDLの蓄積は、単球(最終的には泡沫細胞に変わる)を誘引する炎症反応、およびプラーク成長の触媒をもたらす。
【0146】
いくつかの症例においては、プラークが「破裂する」場合があり、結果として生じた血餅が、心筋梗塞または卒中を引き起こしうる。アテローム性動脈硬化プラークによって引き起こされる3つの主な疾患は、冠動脈疾患(プラークが、冠動脈中にあり、胸痛または狭心症を引き起こしうる場合)、脳血管疾患(アテローム性動脈硬化プラークが、脳中にあり、一過性虚血発作を引き起こしうる場合)、および末梢動脈疾患(疼痛、歩行困難、不良な創傷治癒、および極端な症例においては、切断の必要を伴う、四肢における不良な循環をもたらす)である。
【0147】
アテローム性動脈硬化症は、LDLの低減、血液の低粘稠化、血圧の低下、および他のものを標的とするがプラークの溶解を直接標的とはしない医薬での毎日の維持を必要とする、併存疾患を伴って長年にわたって発症する、慢性疾患である。アテローム性動脈硬化症のための維持投薬を何年も受けることは、肝臓に対する損傷を結果としてもたらす場合がある。薬に加えて、アテローム性動脈硬化症は、ステント留置を伴うかまたは伴わない血管の再開通(経皮的冠動脈形成術またはPCI)、冠動脈バイパス移植(CABG)手術、四肢におけるバイパス移植、または頸動脈内膜切除術などの医学的手法で処置することができる。
【0148】
本発明の本CARで処置することができる追加的な適応症には、皮質下梗塞および白質脳症を伴う常染色体優性脳動脈症(CADASIL)、脳β-アミロイド血管症、フェニルケトン尿症(PKU)、肺胞蛋白症(自己免疫性)、ならびに肺胞蛋白症(先天性)が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0149】
キメラ抗原受容体(CAR)
本発明の1つの局面において、改変された単球、マクロファージ、または樹状細胞は、その中でCARを発現させることによって作製される。したがって、本発明は、提供されるCAR、および提供されるCARをコードする核酸構築物を包含し、該CARは、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含む。ある特定の例において、CARを含む単球、マクロファージ、または樹状細胞は、本明細書においてCAR-マクロファージと呼ばれる。
【0150】
1つの局面において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を含む細胞であって、該CARが、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含み、該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合でき、かつ該細胞が、該CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞である、前記細胞を含む。
【0151】
別の局面において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列(例えば、単離された核酸配列)を含む細胞であって、該核酸配列が、抗原結合ドメインをコードする核酸配列、膜貫通ドメインをコードする核酸配列、および細胞内ドメインをコードする核酸配列を含み、該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合でき、かつ該細胞が、該CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞である、前記細胞を提供する。いくつかの態様において、単一の核酸配列は、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインのうちの少なくとも2つをコードしてもよい。
【0152】
1つの局面において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を含む改変細胞であって、該CARが、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および共刺激分子の細胞内ドメインを含み、該抗原結合ドメインが、神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスを有する対象の組織におけるタンパク質凝集物中のタンパク質抗原に結合できる抗体物質またはその断片を含み、かつ該改変細胞が、ターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージ、または樹状細胞である、前記改変細胞を含む。別の局面において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列を含む改変細胞であって、該核酸配列が、抗原結合ドメインをコードする核酸配列、膜貫通ドメインをコードする核酸配列、および共刺激分子の細胞内ドメインをコードする核酸配列を含み、該抗原結合ドメインをコードする核酸配列が、神経変性疾患、炎症性疾患、心臓血管疾患、線維性疾患、またはアミロイドーシスを有する対象の組織におけるタンパク質凝集物中のタンパク質に結合できる抗体またはその断片を含み、かつ該細胞が、CARを発現し、ターゲティングされたエフェクター活性を保有する、単球、マクロファージ、または樹状細胞である、前記改変細胞を含む。1つの態様において、ターゲティングされたエフェクター活性は、CARの抗原結合ドメインに特異的に結合する標的細胞上の抗原に対して方向付けられる。別の態様において、ターゲティングされたエフェクター活性は、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌からなる群より選択される。
【0153】
抗原結合ドメイン
いくつかの態様において、提供されるCARは、タンパク質凝集物の抗原および/または標的細胞の表面上の抗原に結合する、1つまたは複数の抗原結合ドメインを含む。CARの抗原結合ドメインに結合する抗原として作用しうる細胞表面マーカーの例には、ウイルス感染症、細菌感染症、および寄生虫感染症、自己免疫疾患/障害、神経変性疾患/障害、炎症性疾患/障害、心臓血管疾患/障害、線維性疾患/障害、ならびにアミロイドーシスに関連するものが含まれる。
【0154】
抗原結合ドメインの選択は、タンパク質凝集物中に、または標的細胞の表面上に存在する抗原のタイプおよび数に依存する。例えば、抗原結合ドメインを、特定の疾患状態または障害状態に関連する標的細胞上の細胞表面マーカーとして作用する抗原を認識するように選択してもよい。
【0155】
いくつかの態様において、抗原結合ドメインは、ミスフォールディングされたタンパク質抗原またはタンパク質凝集物のタンパク質、例えば、関心対象の疾患/障害に特異的であるタンパク質に結合する。いくつかの態様において、疾患/障害は、神経変性疾患/障害、炎症性疾患/障害、心臓血管疾患/障害、繊維性疾患/障害、またはアミロイドーシス(例えば、免疫グロブリン軽鎖のまたはトランスサイレチンのタンパク質凝集物によって媒介される)である。いくつかの態様において、神経変性疾患/障害は、タウオパチー、α-シヌクレオパチー、初老期認知症、老年認知症、アルツハイマー病(β-アミロイドのタンパク質凝集物によって媒介される)、17番染色体に連鎖したパーキンソン症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、原発性進行性失語、前頭側頭型認知症、皮質基底核認知症、パーキンソン病、認知症を伴うパーキンソン病、レビー小体型認知症、ダウン症候群、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハラーフォルデン・シュパッツ症候群、ポリグルタミン病、トリヌクレオチドリピート病、家族性英国型認知症、致死性家族性不眠症、ゲルストマン・シュトロイスラー・シャインカー症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(アイスランド型)(HCHWA-I)、孤発性致死性不眠症(sFI)、不定型プロテアーゼ感受性プリオノパチー(VPSPr)、家族性デンマーク型認知症、ならびにプリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病、CJD、および異型クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)など)からなる群より選択される。
【0156】
抗原結合ドメインは、抗原に結合する任意のドメインを含むことができ、非限定的に、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、合成抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、非ヒト抗体、およびそれらの任意の断片、例えばscFvであってもよく、またはそれを含んでもよい。加えて、いくつかの態様において、抗原結合ドメインは、アプタマー、darpin、天然に存在する受容体もしくは合成受容体、affibody、または他の操作されたタンパク質認識分子であることができ、またはそれを含む。したがって、いくつかの態様において、抗原結合ドメイン部分は、哺乳動物抗体またはその断片を含む。別の態様において、CARの抗原結合ドメインは、抗タウ抗体、抗TDP-43抗体、抗β-アミロイド抗体、抗アミロイド抗体、および抗コラーゲン抗体、またはそれらの断片(例えば、scFV)からなる群より選択される。
【0157】
場合によっては、抗原結合ドメインは、全体または一部において、CARが最終的に用いられることになるものと同じ種に由来する。例えば、ヒトにおける使用のために、いくつかの態様において、CARの抗原結合ドメインは、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはそれらの断片であってもよく、またはそれを含んでもよい。
【0158】
本発明のいくつかの局面において、抗原結合ドメインは、細胞における発現のために、提供されるCARの別のドメイン、例えば、膜貫通ドメインまたは細胞内ドメインに機能的に連結されている。いくつかの態様において、抗原結合ドメインをコードする核酸は、膜貫通ドメインをコードする核酸に機能的に連結されており、かつ膜貫通ドメインは、細胞内ドメインをコードする核酸に機能的に連結されている。いくつかの態様において、CARを含む改変細胞(例えば、改変された単球、マクロファージ、または樹状細胞)は、活性化に必要とされる追加的な抗原結合ドメインをさらに含む(例えば、二重特異性CARまたは二重特異性改変細胞)。いくつかの態様において、二重特異性改変細胞は、2つの抗原が存在することを必要とすることによって、オフターゲット効果および/または組織外オンターゲット(on-target off-tissue)効果を低減させることができる。いくつかの態様において、CARおよび追加的な抗原結合ドメインは、孤立していては、改変細胞の活性化を媒介するには不十分であるが、互いに相乗的に、改変細胞の活性化を刺激する、別個のシグナルを提供する。いくつかの態様において、そのような構築物は、「AND」論理ゲートと呼ばれてもよい。
【0159】
いくつかの態様において、二重特異性改変細胞は、細胞の活性が刺激される前に、1つの抗原が存在し(例えば、ミスフォールディングされたタンパク質抗原またはタンパク質凝集物のタンパク質)、かつ第2の正常なタンパク質抗原が存在しないことを必要とすることによって、オフターゲット効果および/または組織外オンターゲット効果を低減させることができる。いくつかの態様において、そのような構築物は、「NOT」論理ゲートと呼ばれてもよい。ANDゲートとは対照的に、NOTゲートCAR改変細胞は、単一抗原に結合することによって活性化される。しかし、第2の受容体の第2の抗原に対する結合は、CARを通して永続化されている活性化シグナルを無効にするように機能する。この抑制性受容体は、正常組織において豊富に発現しているが、ミスフォールディングされたタンパク質またはタンパク質凝集物中には存在しない抗原を標的とするであろう。
【0160】
膜貫通ドメイン
膜貫通ドメインに関して、提供されるCARは、CARの抗原結合ドメインを細胞内ドメインと接続する膜貫通ドメインを含むように設計することができる。いくつかの態様において、膜貫通ドメインは、CARにおけるドメインの1つまたは複数に天然に付随してもよい。場合によっては、膜貫通ドメインを、受容体複合体の他のメンバーとの相互作用を最小限に抑えるために、同じまたは異なる表面膜タンパク質の膜貫通ドメインに対するそのようなドメインの結合を避けるように選択すること、またはそのためのアミノ酸置換によって選択もしくは改変することもできる。
【0161】
いくつかの態様において、膜貫通ドメインは、天然供給源または合成供給源のいずれに由来してもよい。供給源が天然である場合には、ドメインは任意の膜結合タンパク質または膜貫通タンパク質に由来しうる。いくつかの態様において、特に有用性のある膜貫通領域は、T細胞受容体のα、βまたはζ鎖、CD28、CD3ε、CD45、CD4、CD5、CD8、CD9、CD16、CD22、CD33、CD37、CD64、CD80、CD86、CD134、CD137、CD154、Toll様受容体1(TLR1)、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、およびTLR9に由来しうる(すなわち、それらの少なくとも膜貫通領域を含む)。いくつかの態様において、膜貫通領域は1つまたは複数のヒンジ領域を含んでもよい。場合によっては、ヒトIg(免疫グロブリン)ヒンジ領域を含む、種々のヒトヒンジ領域のいずれかも用いることができる(例えば、CD28またはCD8ヒンジ領域)。
【0162】
いくつかの態様において、膜貫通ドメインは合成性であってもよく、この場合には、それは主として、ロイシンおよびバリンなどの疎水性残基を含むと考えられる。いくつかの態様において、フェニルアラニン、トリプトファンおよびバリンのトリプレットが合成膜貫通ドメインの各末端に認められるであろう。
【0163】
細胞内ドメイン
いくつかの態様において、CARの細胞内ドメインまたは他の細胞質ドメインは、本明細書の他所に記載されるキメラ性細胞内シグナル伝達分子と類似したまたは同一の細胞内ドメインであってもよく、またはそれを含んでもよく、かつこれは、CARが発現される細胞の活性化の原因となる。
【0164】
いくつかの態様において、CARの細胞内ドメインは、シグナル活性化および/または形質導入の原因となるドメインを含む。
【0165】
いくつかの態様において用いるための細胞内ドメインの例には、表面受容体の細胞質部分、共刺激分子、および、単球、マクロファージ、または樹状細胞においてシグナル伝達を惹起するように協調的に作用する任意の分子、ならびにこれらの要素の任意の誘導体または変異体および同じ機能的能力を有する任意の合成配列が含まれるがこれらに限定されない。
【0166】
いくつかの態様において有用な細胞内ドメインの例には、TCR、CD3ζ、CD3γ、CD3δ、CD3ε、CD86、一般的なFcRγ、FcRβ(Fcε R1b)、CD79a、CD79b、FcγRIIa、DAP10、DAP12、T細胞受容体(TCR)、CD27、CD28、4-1BB(CD137)、OX40、CD30、CD40、PD-1、ICOS、リンパ球機能関連抗原-1(LFA-1)、CD2、CD7、LIGHT、NKG2C、B7-H3、CD83と特異的に結合するリガンド、CDS、ICAM-1、GITR、BAFFR、HVEM(LIGHTR)、SLAMF7、NKp80(KLRF1)、CD127、CD160、CD19、CD4、CD8α、CD8β、IL2Rβ、IL2Rγ、IL7Rα、ITGA4、VLA1、CD49a、ITGA4、IA4、CD49D、ITGA6、VLA-6、CD49f、ITGAD、CD11d、ITGAE、CD103、ITGAL、CD11a、LFA-1、ITGAM、CD11b、ITGAX、CD11c、ITGB1、CD29、ITGB2、CD18、LFA-1、ITGB7、TNFR2、TRANCE/RANKL、DNAM1(CD226)、SLAMF4(CD244、2B4)、CD84、CD96(Tactile)、CEACAM1、CRTAM、Ly9(CD229)、CD160(BY55)、PSGL1、CD100(SEMA4D)、CD69、SLAMF6(NTB-A、Ly108)、SLAM(SLAMF1、CD150、IPO-3)、BLAME(SLAMF8)、SELPLG(CD162)、LTBR、LAT、GADS、SLP-76、PAG/Cbp、NKp44、NKp30、NKp46、NKG2D、Toll様受容体1(TLR1)、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、本明細書に記載の他の共刺激分子、それらの任意の誘導体、変異体または断片、同じ機能的能力を有する、共刺激分子の任意の合成配列、およびそれらの任意の組み合わせを非限定的に含む、1つまたは複数の分子または受容体由来の断片またはドメインを含むものが含まれる。
【0167】
いくつかの態様において、CARの細胞内ドメインは、二重シグナル伝達ドメイン、例えば41BB、CD28、ICOS、TLR1、TLR2、TLR3、TLR4、TLR5、TLR6、TLR7、TLR8、TLR9、TLR10、TLR11、CD116受容体β鎖、CSF1-R、LRP1/CD91、SR-A1、SR-A2、MARCO、SR-CL1、SR-CL2、SR-C、SR-E、CR1、CR3、CR4、デクチン1、DEC-205、DC-SIGN、CD14、CD36、LOX-1、CD11bを、任意の組み合わせで、上記の段落に列記されたシグナル伝達ドメインのいずれかと共に含む。いくつかの態様において、CARの細胞内ドメインは、1つまたは複数の共刺激分子の任意の部分、例えば、CD3、FcεRIγ鎖由来の少なくとも1つのシグナル伝達ドメイン、それらの任意の誘導体または変異体、同じ機能的能力を有するそれらの任意の合成配列、およびそれらの任意の組み合わせを含む。
【0168】
いくつかの態様において、提供されるCARの抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間、または提供されるCARの細胞内ドメインと膜貫通ドメインとの間に、スペーサードメインを組み入れてもよい。本明細書で用いる場合、「スペーサードメイン」という用語は、一般に、膜貫通ドメインを、ポリペプチド鎖中の抗原結合ドメインまたは細胞内ドメインのいずれかと連結させる働きをする任意のオリゴペプチドまたはポリペプチドのことを意味する。いくつかの態様において、スペーサードメインは、最大で300アミノ酸、好ましくは10~100アミノ酸、最も好ましくは25~50アミノ酸で構成される。いくつかの態様において、短いオリゴペプチドリンカーまたはポリペプチドリンカー、好ましくは長さが2~10アミノ酸であるものが、CARの膜貫通ドメインと細胞内ドメインとの間の連結を形成してもよい。リンカーの一例には、グリシン-セリンダブレットが含まれる。
【0169】
ヒト抗体
いくつかの態様において、CARの抗原結合ドメインとしてヒト抗体またはその断片を用いることが好ましいと考えられる。ヒト対象の治療的処置のためには、完全ヒト抗体が特に望ましい。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリン配列に由来する抗体ライブラリーを用いるファージディスプレイ法を、これらの手法の改良法と併せて含む、当技術分野において公知の種々の方法によって作製することができる。また、米国特許第4,444,887号および第4,716,111号;ならびにPCT公開公報第WO 98/46645号、WO 98/50433号、WO 98/24893号、WO 98/16654号、WO 96/34096号、WO 96/33735号およびWO 91/10741号も参照されたい;これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0170】
また、ヒト抗体を、機能的内因性免疫グロブリンを発現する能力はないがヒト免疫グロブリン遺伝子を発現することはできるトランスジェニックマウスを用いて産生させることもできる。例えば、ヒトの重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子複合体を、無作為に、または相同組換えによって、マウス胚性幹細胞に導入することができる。または、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子に加えて、ヒト可変領域、定常領域、および多様性領域をマウス胚性幹細胞に導入することもできる。マウス重鎖および軽鎖免疫グロブリン遺伝子は、相同組換えによるヒト免疫グロブリン遺伝子座の導入と別々または同時に、非機能性にすることができる。例えば、キメラマウスおよび生殖系列突然変異型マウスにおける抗体重鎖連結領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失は、内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。この改変された胚性幹細胞を増やし、胚盤胞に微量注入してキメラマウスを生じさせる。続いて、キメラマウスを交配させて、ヒト抗体を発現するホモ接合性子孫を生じさせる。トランスジェニックマウスに対して、通常の様式で、選択された抗原、例えば、本発明のポリペプチドの全体または一部分による免疫処置を行う。免疫処置を行ったトランスジェニックマウスから、選択した標的に対して方向付けられた抗体を、従来のハイブリドーマ技術を用いて入手することができる。トランスジェニックマウスによって保有されるヒト免疫グロブリン導入遺伝子はB細胞分化の際に再編成され、その後にクラススイッチおよび体細胞突然変異を起こす。したがって、そのような手法を用いて、IgG1(γ1)およびIgG3を非限定的に含む、治療的に有用なIgG、IgA、IgMおよびIgE抗体を産生させることが可能である。ヒト抗体を産生させるためのこの技術の概略については、Lonberg and Huszar(Int. Rev. Immunol, 13:65-93 (1995))を参照されたい。ヒト抗体およびヒトモノクローナル抗体を産生させるためのこの技術の詳細な考察、ならびにそのような抗体を産生させるためのプロトコールについては、例えば、PCT公開公報第WO 98/24893号、WO 96/34096号およびWO 96/33735号;ならびに米国特許第5,413,923号;第5,625,126号;第5,633,425号;第5,569,825号;第5,661,016号;第5,545,806号;第5,814,318号;および第5,939,598号も参照されたく、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。加えて、Abgenix, Inc.(Freemont, Calif.)およびGenpharm(San Jose, Calif.)などの会社と、選択した抗原に対して方向付けられたヒト抗体を、上記のものに類似した技術を用いて得るための契約を結ぶこともできる。抗原負荷刺激によってヒト抗体の産生がもたらされると考えられる、生殖系列突然変異型マウスへのヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入に関する具体的な考察については、例えば、Jakobovits et al., 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:2551;Jakobovits et al., 1993, Nature, 362:255-258 ;Bruggermann et al., 1993, Year in Immunol, 7:33;およびDuchosal et al., 1992, Nature, 355:258を参照されたい。
【0171】
また、ヒト抗体を、ファージディスプレイライブラリーから導き出すこともできる(Hoogenboom et al., J. Mol. Biol, 227:381 (1991);Marks et al., J. Mol. Biol, 222:581-597 (1991);Vaughan et al., Nature Biotech., 14:309 (1996))。ファージディスプレイ技術(McCafferty et al., Nature, 348:552-553 (1990))は、免疫処置を受けていないドナーの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、インビトロでヒト抗体および抗体断片を産生させるために用いることができる。この手法によれば、抗体Vドメイン遺伝子を、糸状バクテリオファージ、例えばM13またはfdの主要コートタンパク質またはマイナーコートタンパク質の遺伝子中にインフレームでクローニングして、ファージ粒子の表面上に機能的抗体断片として提示させる。糸状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むので、抗体の機能特性に基づく選択により、それらの特性を呈する抗体をコードする遺伝子の選択ももたらされる。このため、ファージはB細胞のいくつかの特性を模倣する。ファージディスプレイは種々のフォーマットで行うことができる;それらの概説については、Johnson, Kevin S, and Chiswell, David J., Current Opinion in Structural Biology 3:564-571 (1993)を参照されたい。V遺伝子セグメントのいくつかの供給源をファージディスプレイに用いることができる。Clackson et al., Nature, 352:624-628 (1991)は、免疫処置を受けたマウスの脾臓に由来するV遺伝子の小規模なランダムコンビナトリアルライブラリーから、抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離している。免疫処置を受けていないヒトドナーからV遺伝子のレパートリーを構築して、抗原(自己抗原を含む)の多様なアレイに対する抗体を、本質的にはMarks et al., J. Mol. Biol, 222:581-597 (1991)、またはGriffith et al., EMBO J., 12:725-734 (1993)に記載された手法に従って単離することができる。米国特許第5,565,332号および第5,573,905号も参照されたく、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0172】
また、ヒト抗体をインビトロ活性化B細胞によって作製することもできる(米国特許第5,567,610号および第5,229,275号を参照。これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。また、ヒト抗体を、限定はされないが、Roder et al.(Methods Enzymol, 121:140-167 (1986))によって記載されたものなどのハイブリドーマ手法を用いてインビトロで作製することもできる。
【0173】
ヒト化抗体
いくつかの態様において、非ヒト抗体をヒト化することができ、この場合には、抗体の特定の配列または領域を、ヒトにおいて天然に産生される抗体との類似性を高めるために改変する。例えば、いくつかの態様において、抗体またはその断片は非ヒト哺乳動物scFvを含みうる。いくつかの態様において、抗原結合ドメイン部分はヒト化される。
【0174】
ヒト化抗体は、以下のものを非限定的に含む、当技術分野において公知の種々の手法を用いて生成させることができる:CDRグラフティング(例えば、欧州特許第EP 239,400号;国際公開公報第WO 91/09967号;ならびに米国特許第5,225,539号、第5,530,101号および第5,585,089号を参照。これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる)、ベニヤリング(veneering)またはリサーフェイシング(resurfacing)(例えば、欧州特許第EP 592,106号および第EP 519,596号;Padlan, 1991, Molecular Immunology 28(4/5):489-498;Studnicka et al., 1994, Protein Engineering 7(6):805-814;およびRoguska et al., 1994, Proc Natl Acad Sci USA 91:969-973を参照。これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる)、チェーンシャッフリング(chain shuffling)(例えば、米国特許第5,565,332号を参照。これはその全体が参照により本明細書に組み入れられる)、ならびに例えば、米国特許出願公開第US2005/0042664号、米国特許出願公開第US2005/0048617号、米国特許第6,407,213号、米国特許第5,766,886号、国際公開公報第WO 9317105号、Tan et al., J. Immunol, 169: 1119-25 (2002), Caldas et al., Protein Eng., 13(5):353-60 (2000), Morea et al., Methods, 20(3):267-79 (2000), Baca et al., J. Biol. Chem., 272(16):10678-84 (1997), Roguska et al., Protein Eng., 9(10):895-904 (1996), Couto et al., Cancer Res., 55 (23 Supp):5973s-5977s (1995), Couto et al., Cancer Res., 55(8): 1717-22 (1995), Sandhu J S, Gene, 150(2):409-10(1994)、およびPedersen et al., J. Mol. Biol, 235(3):959-73 (1994)に開示された手法、これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる。多くの場合、フレームワーク領域におけるフレームワーク残基は、抗原結合を変更するため、好ましくは改善するために、CDRドナー抗体由来の対応する残基によって置換されると考えられる。これらのフレームワーク置換は、当技術分野において周知の方法によって、例えば抗原結合にとって重要なフレームワーク残基を同定するためにCDRとフレームワーク残基との相互作用をモデリングすることによって、および特定の位置にある異常なフレームワーク残基を同定するために配列比較によって同定される(例えば、Queen et al., 米国特許第5,585,089号;およびRiechmann et al., 1988, Nature, 332:323を参照。これらはそれぞれその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0175】
ヒト化抗体は、非ヒト性である供給源からその中に導入された、1つまたは複数のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば「インポート」残基と称され、典型的には「インポート」可変ドメインから採られる。したがって、ヒト化抗体は、非ヒト免疫グロブリン分子由来の1つまたは複数のCDR、およびヒト由来のフレームワーク領域を含む。抗体のヒト化は当技術分野において周知であり、本質的にはWinterらの方法(Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986);Riechmann et al., Nature, 332:323-327 (1988);Verhoeyen et al., Science, 239:1534-1536 (1988))に従って、ヒト抗体の対応する配列を齧歯動物のCDRまたはCDR配列へと置換すること、すなわち、CDRグラフティング(EP 239,400号;PCT公開公報第WO 91/09967号;および米国特許第4,816,567号;第6,331,415号;第5,225,539号;第5,530,101号;第5,585,089号;第6,548,640号。これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)によって行うことができる。そのようなヒト化キメラ抗体では、実質的にインタクトではないヒト可変ドメインが、非ヒト種由来の対応する配列によって置換されている。実際上は、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基およびおそらくはいくつかのフレームワーク(FR)残基が、齧歯動物抗体における類似部位由来の残基によって置換されたヒト抗体である。また、抗体のヒト化を、ベニヤリングもしくはリサーフェイシング(EP 592,106号;EP 519,596号;Padlan, 1991, Molecular Immunology, 28(4/5):489-498;Studnicka et al., Protein Engineering, 7(6):805-814 (1994);およびRoguska et al., PNAS, 91:969-973 (1994))またはチェーンシャッフリング(米国特許第5,565,332号)によって達成することもでき、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0176】
ヒト化抗体を作製する上で用いられる、軽鎖および重鎖の両方のヒト可変ドメインの選択は、抗原性を低下させるために典型的に行われる。いわゆる「ベストフィット」法に従って、齧歯動物抗体の可変ドメインの配列を、既知のヒト可変ドメイン配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。続いて、齧歯動物のものに最も近いヒト配列を、ヒト化抗体のヒトフレームワーク(FR)として受け入れる(Sims et al., J. Immunol, 151:2296 (1993);Chothia et al., J. Mol. Biol, 196:901 (1987)、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。もう1つの方法では、軽鎖または重鎖の特定のサブグループのすべてのヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワークを用いる。同じフレームワークをいくつかの異なるヒト化抗体に用いることができる((Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992);Presta et al., J. Immunol., 151:2623 (1993)、これらの内容はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)。
【0177】
抗体はヒト化することができ、これは、標的抗原に対する高い親和性保持し、かつ他の有利な生物学的特性を有する。本発明の1つの局面によれば、親配列およびヒト化配列の三次元モデルを用いた親配列およびさまざまな概念上のヒト化産物の分析の過程によって、ヒト化抗体が調製される。免疫グロブリンの三次元モデルは一般的に入手可能であり、当業者にはよく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列に関して可能性のある三次元立体構造を図示および表示するコンピュータプログラムが利用可能である。これらの表示の検討により、候補免疫グロブリン配列の機能における残基の考えられる役割の分析、すなわち、候補免疫グロブリンがその抗原と結合する能力に影響を及ぼす残基の分析が可能となる。このようにして、標的抗原に対する親和性の増加といった所望の抗体特性が達成されるように、FR残基をレシピエント配列およびインポート配列から選択し、組み合わせることができる。一般に、CDR残基は、抗原結合に影響を及ぼすことに直接かつ最も実質的に関与している。
【0178】
いくつかの態様において、ヒト化抗体は、元の抗体と類似の抗原特異性を保っている。しかし、ある特定のヒト化方法を用いると、標的抗原に対する抗体の結合の親和性および/または特異性を、その内容の全体が参照により本明細書に組み入れられる、Wu et al., J. Mol. Biol, 294:151 (1999)によって記載されたような「定方向進化」の方法を用いて高めることができる。
【0179】
ベクター
いくつかの態様において、本明細書において他所に記載されたような単球、マクロファージまたは樹状細胞にCARを導入するために、ベクターを用いてもよい。1つの局面において、本発明は、本明細書に記載されたようなCARをコードする核酸配列を含むベクターを含む。いくつかの態様において、ベクターは、プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロトランスポゾン(例えば、piggyback、sleeping beauty)、部位特異的挿入ベクター(例えば、CRISPR、Znフィンガーヌクレアーゼ、TALEN)、または自殺発現ベクター、または当技術分野において公知の他のベクターを含む。
【0180】
いくつかの態様において、上述した構築物は、ヒト細胞に用いることが認可されている、第3世代レンチウイルスベクタープラスミド、他のウイルスベクター、またはRNAとともに用いることができる。いくつかの態様において、ベクターは、レンチウイルスベクターなどのウイルスベクターである。いくつかの態様において、ベクターはRNAベクターである。
【0181】
本明細書に記載の分子の任意のものの作製は、シークエンシングによって検証することができる。完全長タンパク質の発現は、イムノブロット、免疫組織化学、フローサイトメトリー、または当技術分野において周知であって利用可能である他の技術を用いて検証することができる。
【0182】
いくつかの態様において、本発明はまた、本発明のDNAが挿入されたベクターも提供する。レンチウイルスなどのレトロウイルスに由来するものを含むベクターは、長期的遺伝子移入を達成するための適したツールであるが、これはそれらが導入遺伝子の長期的で安定的な組み込み、および娘細胞におけるその伝搬を可能にするためである。レンチウイルスベクターは、マウス白血病ウイルスなどのオンコレトロウイルスに由来するベクターを上回る利点を有するが、これはそれらが、肝細胞などの非増殖性細胞の形質導入も行うことができるためである。また、それらには、それらが導入された対象において生じる免疫原性が低いという利点も加わっている。
【0183】
天然または合成性の核酸の発現は、典型的には、核酸またはその部分をプロモーターと機能的に連結させて、その構築物を発現ベクター中に組み入れることによって達成される。ベクターは一般に、哺乳動物細胞において複製可能なものであり、かつ/または哺乳動物の細胞ゲノム中に組み込まれうる。典型的なベクターは、転写ターミネーターおよび翻訳ターミネーター、開始配列、ならびに所望の核酸配列の発現の調節のために有用なプロモーターを含有する。
【0184】
様々な態様に従って、核酸を、さまざまな種類のベクター中にクローニングすることができる。例えば、いくつかの態様において、核酸を、プラスミド、ファージミド、ファージ誘導体、動物ウイルスおよびコスミドを非限定的に含むベクター中にクローニングすることができる。いくつかの態様において特に関心が持たれるベクターには、発現ベクター、複製ベクター、プローブ生成ベクターおよびシークエンシングベクターが含まれる。
【0185】
いくつかの態様において、発現ベクターを、ウイルスベクターの形態で細胞に与えることもできる。ウイルスベクター技術は当技術分野において周知であり、例えば、Sambrook et al., 2012, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, volumes 1-4, Cold Spring Harbor Press, NY)、ならびにウイルス学および分子生物学の他のマニュアルに記載されている。ベクターとして有用なウイルスには、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、およびレンチウイルスが非限定的に含まれる。一般に、適したベクターは、少なくとも1種の生物において機能する複製起点、プロモーター配列、好都合な制限エンドヌクレアーゼ部位、および1つまたは複数の選択マーカー(例えば、その内容が全体として参照により本明細書に組み入れられる、WO 01/96584号;WO 01/29058号;および米国特許第6,326,193号を参照されたい)。
【0186】
そのほかのプロモーターエレメント、例えばエンハンサーなどは、転写開始の頻度を調節し、いくつかの態様において有用でありうる。典型的には、これらは開始部位の30~110bp上流の領域に位置するが、いくつかのプロモーターは、開始部位の下流にも機能的エレメントを含むことが最近示されている。プロモーターエレメント間の間隔には柔軟性があり、そのため、エレメントが互いに対して逆位になったり移動したりしてもプロモーター機能は保持される。チミジンキナーゼ(tk)プロモーターでは、反応性の低下を起こすことなく、プロモーターエレメント間の間隔を50bpまで隔てることができる。プロモーターによっては、個々のエレメントが協調的に、または独立して、転写を活性化しうるように思われる。
【0187】
適したプロモーターの一例は、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター配列である。このプロモーター配列は、それと機能的に連結した任意のポリヌクレオチド配列の高レベルの発現を作動させることのできる強力な構成性プロモーター配列である。しかし、シミアンウイルス40(SV40)初期プロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MMTV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)長末端反復配列(LTR)プロモーター、MoMuLVプロモーター、トリ白血病ウイルスプロモーター、エプスタイン・バーウイルス最初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、伸長因子1αプロモーター、ならびにアクチンプロモーター、ミオシンプロモーター、ヘモグロビンプロモーターおよびクレアチンキナーゼプロモーターなどの、ただしこれらには限定されないヒト遺伝子プロモーターを非限定的に含む、他の構成性プロモーター配列を、様々な態様に従って用いることもできる。さらに、本発明は、構成性プロモーターの使用に限定されるべきではない。誘導性プロモーターも本発明の一部として想定している。誘導性プロモーターの使用により、それと機能的に連結しているポリヌクレオチド配列の発現を、そのような発現が所望である場合には有効にし、発現が所望でない場合には発現を無効にすることができる分子スイッチがもたらされる。誘導性プロモーターの例には、メタロチオネイン(metallothionine)プロモーター、グルココルチコイドプロモーター、プロゲステロンプロモーター、およびテトラサイクリンプロモーターが非限定的に含まれる。
【0188】
CARポリペプチドまたはその部分の発現を評価する目的で、ウイルスベクターによってトランスフェクトまたは感染させようとする細胞の集団からの発現細胞の同定および選択を容易にするために、細胞に導入される発現ベクターに、選択マーカー遺伝子もしくはレポーター遺伝子またはその両方を含有させることもできる。他の局面において、選択マーカーを別個のDHA小片上に保有させて、同時トランスフェクション手法に用いることもできる。宿主細胞における発現を可能にするために、選択マーカー遺伝子およびレポーター遺伝子をいずれも、適切な調節配列に隣接させることができる。有用な選択マーカーには、例えば、neoなどの抗生物質耐性遺伝子が含まれる。
【0189】
いくつかの態様において、レポーター遺伝子は、トランスフェクトされた可能性のある細胞を同定するため、および調節配列の機能性を評価するために用いられる。一般に、レポーター遺伝子とは、レシピエント生物または組織に存在しないかまたはそれらによって発現されず、かつ、その発現が何らかの容易に検出可能な特性、例えば、酵素活性によって顕在化するポリペプチドをコードする、遺伝子のことである。レポーター遺伝子の発現は、そのDNAがレシピエント細胞に導入された後の適した時点でアッセイされる。適したレポーター遺伝子には、ルシフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌性アルカリホスファターゼをコードする遺伝子、または緑色蛍光性タンパク質の遺伝子が含まれうる(例えば、その全文が参照により本明細書に組み入れられる、Ui-Tei et al., 2000 FEBS Letters 479:79-82)。適した発現系は周知であり、公知の手法を用いて調製すること、または販売されているものを入手することができる。一般に、レポーター遺伝子の最も高レベルでの発現を示す最小限の5'フランキング領域を有する構築物が、プロモーターとして同定される。そのようなプロモーター領域をレポーター遺伝子と連結させて、プロモーターにより作動する転写を作用物質が調節する能力を評価するために用いることができる。
【0190】
核酸の導入
いくつかの態様において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)のいくつかまたはすべてをコードする核酸配列を、単球、マクロファージ、または樹状細胞に導入する段階を含む、細胞を改変するための方法であって、該CARが、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含み、該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合でき、かつ該細胞が、該CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞である、前記方法を含む。
【0191】
いくつかの態様において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸配列(例えば、単離された核酸配列または非天然核酸配列)を、単球、マクロファージ、または樹状細胞に導入する段階を含む、細胞を改変するための方法であって、該単離された核酸配列が抗原結合ドメインをコードする核酸配列、膜貫通ドメインをコードする核酸配列、および細胞内ドメインをコードする核酸配列を含み、該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合でき、かつ該細胞が、該CARを発現する単球、マクロファージ、および/または樹状細胞である、前記方法を含む。いくつかの態様において、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインのうちの1つまたは複数は、別々の核酸分子によってコードされる。
【0192】
いくつかの態様において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)を、単球、マクロファージ、または樹状細胞に導入する段階を含む、細胞を改変するための方法であって、該CARが、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含み、該抗原結合ドメイン、例えば、抗体、抗体物質などが、神経変性疾患/障害、炎症性疾患/障害、心臓血管疾患/障害、線維性疾患/障害、またはアミロイドーシスを有する対象の組織におけるタンパク質凝集物に結合でき、かつ該細胞が、該CARを発現し、ターゲティングされたエフェクター活性を保有する単球、マクロファージ、または樹状細胞である、前記方法を含む。いくつかの態様において、CARを細胞に導入する段階は、CAR(例えば、CARのいくつかの成分またはすべて)をコードする核酸配列の導入を含む。いくつかの態様において、核酸配列の導入は、CARをコードするDNAまたはmRNAをエレクトロポレーションによって細胞に導入することを含む。
【0193】
CARをコードする遺伝子などの遺伝子を細胞に導入して発現させる方法は、当技術分野において公知である。発現ベクターに関連して、ベクターは、宿主細胞、例えば、哺乳動物細胞、細菌細胞、酵母細胞、または昆虫細胞に、当技術分野における任意の方法によって容易に導入することができる。例えば、いくつかの態様において、発現ベクターを、物理的手段、化学的手段、または生物学的手段によって宿主細胞に移入することができる。
【0194】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための物理的方法には、リン酸カルシウム沈殿、リポフェクション、粒子衝撃、マイクロインジェクション、エレクトロポレーション、スクイーズ技術などが含まれる。ベクターおよび/または外因性核酸を含む細胞を生成させるための方法は、当技術分野において周知である。例えば、Sambrook et al., 2012, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, volumes 1 -4, Cold Spring Harbor Press, NYを参照されたい。エレクトロポレーション(Amaxa Nucleofector-II (Amaxa Biosystems, Cologne, Germany))、(ECM 830 (BTX) (Harvard Instruments, Boston, Mass.)またはGene Pulser II (BioRad, Denver, Colo.)、Multiporator (Eppendort, Hamburg Germany)を含む市販の方法を用いて、核酸を標的細胞に導入することができる。カチオン性リポソーム媒介トランスフェクションを用いて、リポフェクションを用いて、ポリマーカプセル化を用いて、ペプチド媒介トランスフェクションを用いて、または「遺伝子銃」などの微粒子銃粒子送達系を用いて、核酸を細胞に導入することもできる(例えば、Nishikawa, et al. Hum Gene Ther., 12(8):861-70 (2001)を参照されたい)。
【0195】
いくつかの態様において、関心対象のポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための生物学的方法は、DNAベクターおよびRNAベクターの使用であってもよく、またはそれを含んでもよい。RNAベクターには、RNA転写産物の産生のためのRNAプロモーターおよび/または他の関連するドメインを有するベクターが含まれる。ウイルスベクター、および特にレトロウイルスベクターは、哺乳動物、例えば、ヒトの細胞に遺伝子を挿入するための最も広く用いられる方法となっている。他のウイルスベクターは、レンチウイルス、ポックスウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス(例えば、Ad5F35)、およびアデノ随伴ウイルスなどに由来しうる。例えば、米国特許第5,350,674号および同第5,585,362号を参照されたい。
【0196】
いくつかの態様において、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を、単球、マクロファージ、および/または樹状細胞に導入する段階を含む、細胞を改変する方法であって、該CARが、抗原結合ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞内ドメインを含み、該抗原結合ドメインが、タンパク質凝集物の抗原に結合できる抗体物質であるかまたはそれを含む、前記方法を提供する。いくつかの態様において、核酸配列を細胞に導入する段階は、アデノウイルス形質導入を含む。いくつかの態様において、アデノウイルス形質導入は、Ad5F35アデノウイルスベクターの使用を含む。いくつかの態様において、Ad5F35アデノウイルスベクターは、ヘルパー依存型Ad5F35アデノウイルスベクターである。いくつかの態様において、AD5F35アデノウイルスは、組み込み型、CD46ターゲティング、ヘルパー依存型アデノウイルスHDAd5/35++ベクター系である。
【0197】
ポリヌクレオチドを宿主細胞に導入するための化学的手段には、巨大分子複合体、ナノカプセル、マイクロスフェア、ビーズのような、コロイド分散系、ならびに水中油型乳剤、ミセル、混合ミセルおよびリポソームを含めて脂質に基づく系が含まれる。インビトロおよびインビボでの送達媒体として用いるための例示的なコロイド系は、リポソーム(例えば、人工膜小胞)である。
【0198】
非ウイルス性送達系を利用するいくつかの態様において、例示的な送達媒体はリポソームであってよく、またはリポソームを含んでもよい。脂質製剤の使用を、宿主細胞への核酸の導入のために想定している(インビトロ、エクスビボまたはインビボ)。別の局面において、核酸を脂質と付随させてもよい。いくつかの態様において、脂質と付随した核酸は、リポソームの水性内部の中に封入するか、リポソームの脂質二重層の内部に配置させるか、リポソームおよびオリゴヌクレオチドの両方と結合する連結分子を介してリポソームに付着させるか、リポソーム内に封じ込めるか、リポソームと複合体化させるか、脂質を含有する溶液中に分散させるか、脂質と混合するか、脂質と配合するか、脂質中に懸濁物として含有させるか、ミセル中に含有させるかもしくは複合体化させるか、または他の様式で脂質と付随させることができる。脂質、脂質/DNAまたは脂質/発現ベクターが関連する組成物は、溶液中のいかなる特定の構造にも限定されない。例えば、それらは二重層構造の中に、ミセルとして、または「崩壊した」構造として存在しうる。それらはまた、溶液中に単に点在していて、大きさも形状も均一でない凝集物を形成する可能性があってもよい。脂質とは、天然脂質または合成脂質であってよい脂肪性物質のことである。例えば、脂質には、細胞質中に天然に存在する脂肪小滴、ならびに長鎖脂肪族炭化水素およびそれらの誘導体を含む化合物のクラス、例えば脂肪酸、アルコール、アミン、アミノアルコール、およびアルデヒドなどが含まれる。
【0199】
使用に適した脂質は、商業的供給源から得ることができる。例えば、ジミリスチルホスファチジルコリン(「DMPC」)は、Sigma, St. Louis, MOから得ることができ; リン酸ジセチル(「DCP」)は、K & K Laboratories (Plainview, NY)から得ることができ; コレステロール(「Choi」)は、Calbiochem-Behringから得ることができ; ジミリスチルホスファチジルグリセロール(「DMPG」)および他の脂質は、Avanti Polar Lipids, Inc. (Birmingham, AL)から得られうる。クロロホルムまたはクロロホルム/メタノール中の脂質のストック溶液は、約-20℃で保存することができる。クロロホルムはメタノールよりも容易に蒸発するので、唯一の溶媒として用いられる。「リポソーム」は、密閉された脂質二重層または凝集物の生成によって形成される種々の単層状および多層状脂質媒体を包含する一般用語である。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部水性媒体を有する小胞構造を有すると特徴付けることができる。多層状リポソームは、水性媒体によって分離された複数の脂質層を有する。それらは、リン脂質を過剰の水溶液に懸濁させると、自発的に形成される。脂質成分は閉鎖構造の形成前に自己再構成を受け、脂質二重層の間に水および溶解溶質を閉じ込める(Ghosh et al., 1991 Glycobiology 5: 505-10)。しかしながら、通常の小胞構造とは溶液中で異なる構造を有する組成物も包含される。例えば、脂質は、ミセル構造をとり、または脂質分子の不均一な凝集物として単に存在しうる。リポフェクトアミン-核酸複合体も企図される。
【0200】
外因性核酸を宿主細胞に導入するために、またはその他の方法で本明細書に記載される分子に細胞を曝露するために用いられる方法にかかわらず、宿主細胞における核酸の存在を確認するために、種々のアッセイ法が実施されうる。そのようなアッセイ法には、例えば、サザンおよびノザンブロッティング、RT-PCRおよびPCRのような、当業者に周知の「分子生物学的」アッセイ法; 例えば、免疫学的手段(ELISAおよびウエスタンブロット)によって、または本発明の範囲に入る作用物質を同定するための本明細書において記述されるアッセイ法によって、特定のペプチドの存在または非存在を検出するような「生化学的」アッセイ法が含まれる。
【0201】
いくつかの態様において、1つまたは複数の核酸配列は、細胞の集団に形質導入を行うこと、細胞の集団にトランスフェクションを行うこと、および細胞の集団にエレクトロポレーションを行うことからなる群より選択される方法によって導入される。いくつかの態様において、細胞の集団は、本明細書に記載の核酸配列の1つまたは複数を含む。いくつかの態様において、1つまたは複数の核酸が、1つまたは複数のヌクレアーゼ酵素(例えば、Cas9またはCas12a)とともに、トランスフェクションされ、形質導入され、かつ/またはエレクトロポレーションされる。
【0202】
いくつかの態様において、細胞に導入される核酸はRNAであるかまたはRNAを含む。いくつかの態様において、RNAは、インビトロで転写されたRNAまたは合成RNAを含むmRNAである。いくつかの態様において、RNAは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)生成された鋳型を用いたインビトロ転写によって産生される。任意の供給源由来の関心対象のDNAは、適切なプライマーおよびRNAポリメラーゼを用いてインビトロmRNA合成のための鋳型にPCRによって直接変換することができる。いくつかの態様において、DNA供給源は、例えば、ゲノムDNA、プラスミドDNA、ファージDNA、cDNA、合成DNA配列または任意の他の適切なDNA供給源であることができる。いくつかの態様において、インビトロ転写のための所望の鋳型は、CARであるかまたはCARを含む。
【0203】
いくつかの態様において、PCRを用いてインビトロでのmRNA転写のための鋳型を作製することができ、これが次いで、細胞に導入される。PCRを実施するための方法は、当技術分野において周知である。PCRで用いるためのプライマーは、PCRの鋳型として用いられるDNAの領域に実質的に相補的な領域を有するようにデザインされる。本明細書において用いられる「実質的に相補的」とは、プライマー配列中の塩基の大部分または全部が相補的であるか、または1つもしくは複数の塩基が非相補的である、もしくはミスマッチであるヌクレオチドの配列をいう。実質的に相補的な配列は、PCRに用いられるアニーリング条件の下で、意図されたDNA標的とアニールまたはハイブリダイズすることができる。プライマーは、DNA鋳型の任意の部分に実質的に相補的であるようにデザインすることができる。例えば、プライマーは、5'および3' UTRを含む、細胞内で通常転写される遺伝子の部分(読み取り枠)を増幅するようにデザインすることができる。プライマーは、関心対象の特定ドメインをコードする遺伝子の一部分を増幅するようにデザインすることもできる。1つの態様において、プライマーは、5'および3' UTRの全部または一部分を含むヒトcDNAのコード領域を増幅するようにデザインされる。PCRに有用なプライマーは、当技術分野において周知である合成方法によって作製される。「フォワードプライマー」は、増幅されるDNA配列の上流にあるDNA鋳型上のヌクレオチドと実質的に相補的なヌクレオチドの領域を含むプライマーである。「上流」とは、コード鎖に対して増幅されるDNA配列の、5'側の位置をいうように本明細書において用いられる。「リバースプライマー」は、増幅されるDNA配列の下流にある二本鎖DNA鋳型と実質的に相補的なヌクレオチドの領域を含むプライマーである。「下流」とは、コード鎖に対して増幅されるDNA配列の、3'側の位置をいうように本明細書において用いられる。
【0204】
RNAの安定性および/または翻訳効率を促進する能力を有する化学構造が用いられてもよい。RNAは、好ましくは5'および3' UTRを有する。1つの態様において、5' UTRは長さが0~3000ヌクレオチドである。コード領域に付加される5'および3' UTR配列の長さは、UTRの異なる領域にアニールするPCRのためのプライマーをデザインすることを含むが、これに限定されない、異なる方法によって変化させることができる。この手法を用いて、当業者は、転写されたRNAのトランスフェクション後に最適な翻訳効率を達成するために必要とされる5'および3' UTRの長さを変えることができる。
【0205】
5'および3' UTRは関心対象の遺伝子の、天然に存在する内因性5'および3' UTRであることができる。あるいは、関心対象の遺伝子に対して内因性ではないUTR配列を、フォワードプライマーおよびリバースプライマーにUTR配列を組み入れることによって、または鋳型の他の任意の改変によって付加することができる。関心対象の遺伝子に対して内因性ではないUTR配列の使用は、RNAの安定性および/または翻訳効率を変化させるのに有用であることができる。例えば、3' UTR配列中のAUに富むエレメントはmRNAの安定性を低下させうることが知られている。それゆえ、当技術分野において周知であるUTRの特性に基づいて転写されたRNAの安定性を増加させるように、3' UTRを選択またはデザインすることができる。
【0206】
いくつかの態様において、5' UTRは、内因性遺伝子のコザック(Kozak)配列を含むことができる。あるいは、関心対象の遺伝子に対して内因性ではない5' UTRが上記のようにPCRによって付加される場合、コンセンサスコザック配列は、5' UTR配列を付加することによって再デザインすることができる。コザック配列は、いくつかのRNA転写産物の翻訳効率を高めることができるが、効率的な翻訳を可能にするために全てのRNAに必要とされるようではない。多くのmRNAに対してのコザック配列の必要性は、当技術分野において公知である。他の態様において、5' UTRは、そのRNAゲノムが細胞内で安定なRNAウイルスに由来することができる。他の態様において、mRNAのエキソヌクレアーゼ分解を妨げるために、様々なヌクレオチド類似体を3'または5' UTRにおいて用いることができる。
【0207】
遺伝子クローニングを必要とせずにDNA鋳型からRNAの合成を可能にするために、転写のプロモーターはDNA鋳型に対して、転写される配列の上流に付け加えられるべきである。RNAポリメラーゼのプロモーターとして機能する配列がフォワードプライマーの5'末端に付加される場合、RNAポリメラーゼプロモーターは、転写される読み取り枠の上流でPCR産物に組み入れられるようになる。1つの態様において、プロモーターは、本明細書の他の箇所に記述されるように、T7ポリメラーゼプロモーターである。他の有用なプロモーターには、T3およびSP6 RNAポリメラーゼプロモーターが含まれるが、これらに限定されることはない。T7、T3およびSP6プロモーターのコンセンサスヌクレオチド配列は、当技術分野において公知である。
【0208】
いくつかの態様において、mRNAは、リボソーム結合、細胞内でのmRNAの翻訳開始および安定性を決定する5'末端のキャップおよび3'ポリ(A)尾部の両方を有する。環状DNA鋳型、例えば、プラスミドDNAでは、RNAポリメラーゼは真核細胞での発現には適さない長い鎖状体の生成物を産生する。3' UTRの末端で線状化されたプラスミドDNAの転写は、転写後にポリアデニル化されても真核生物のトランスフェクションにおいて効果的ではない正常なサイズのmRNAをもたらす。
【0209】
直鎖状DNA鋳型上で、ファージT7 RNAポリメラーゼは鋳型の最後の塩基を越えて転写産物の3'末端を伸長させることができる(Schenborn and Mierendorf, Nuc Acids Res., 13:6223-36 (1985); Nacheva and Berzal-Herranz, Eur. J. Biochem., 270:1485-65 (2003)。
【0210】
DNA鋳型へのポリA/Tストレッチの組み込みの従来の方法は、分子クローニングである。しかしながら、プラスミドDNAに組み込まれたポリA/T配列は、プラスミドの不安定性を引き起こすことがあり、その理由は、細菌細胞から得られたプラスミドDNA鋳型が、欠失および他の異常で高度に損なわれていることが多いためである。これにより、クローニング手順は面倒で時間がかかるだけでなく、信頼できないことも多い。それが、クローニングなしにポリA/T 3'ストレッチを有するDNA鋳型の構築を可能にする方法が非常に望ましいという理由である。
【0211】
転写DNA鋳型のポリA/Tセグメントは、100T尾部(サイズは50~5000 Tであることができる)のようなポリT尾部を含むリバースプライマーを用いることによってPCR中に、またはDNAライゲーションもしくはインビトロ組み換えを含むが、これらに限定されない、任意の他の方法によってPCR後に産生することができる。ポリ(A)尾部はまた、RNAに安定性を与え、RNAの分解を低減させる。一般に、ポリ(A)尾部の長さは、転写されたRNAの安定性と正の相関がある。1つの態様において、ポリ(A)尾部は、100~5000個のアデノシンである。
【0212】
RNAのポリ(A)尾部は、大腸菌(E. coli)ポリAポリメラーゼ(E-PAP)のような、ポリ(A)ポリメラーゼを用いてインビトロ転写後にさらに伸長することができる。1つの態様において、ポリ(A)尾部の長さを100ヌクレオチドから300~400ヌクレオチドに増加させると、RNAの翻訳効率が約2倍増加する。さらに、異なる化学基の3'末端への結合は、mRNA安定性を増加させることができる。そのような結合は改変された/人工のヌクレオチド、アプタマーおよび他の化合物を含むことができる。例えば、ATP類似体は、ポリ(A)ポリメラーゼを用いてポリ(A)尾部に組み入れることができる。ATP類似体はRNAの安定性をさらに増すことができる。
【0213】
5'キャップもRNA分子に安定性をもたらす。好ましい態様において、本明細書において開示される方法により産生されるRNAは、5'キャップを含む。5'キャップは、当技術分野において知られ、本明細書において記述されている技法を用いて提供される(Cougot, et al., Trends in Biochem. Sci., 29:436-444 (2001); Stepinski, et al., RNA, 7:1468-95 (2001); Elango, et al., Biochim. Biophys. Res. Commun., 330:958-966 (2005))。
【0214】
いくつかの態様において、本明細書において開示される方法によって産生されるRNAは、内部リボソーム侵入部位(IRES)配列を含むこともできる。IRES配列は、mRNAとのキャップ非依存性リボソーム結合を開始させ、翻訳の開始を容易にする任意のウイルス配列、染色体配列または人為的にデザインされた配列でありうる。糖、ペプチド、脂質、タンパク質、酸化防止剤、および界面活性剤のような細胞透過性および生存性を促進する因子を含有できる、細胞エレクトロポレーションに適した任意の溶質を含めることができる。
【0215】
いくつかのインビトロ転写RNA(IVT-RNA)ベクターは、文献において公知であり、これはインビトロ転写のための鋳型として標準化された様式で利用され、安定化されたRNA転写産物が産生されるように遺伝子操作されている。現在、当技術分野において用いられているプロトコールは、以下の構造: RNA転写を可能にする5' RNAポリメラーゼプロモーター、その後に非翻訳領域(UTR)が3'側および/または5'側のいずれかで隣接した関心対象の遺伝子、ならびに50~70個のAヌクレオチドを含む3'ポリアデニルカセットを有するプラスミドベクターに基づく。インビトロ転写に先立ち、環状プラスミドは、II型制限酵素によってポリアデニルカセットの下流で線状化される(認識配列は切断部位に対応する)。したがってポリアデニルカセットは、転写産物中の後のポリ(A)配列に対応する。この手順の結果として、一部のヌクレオチドは、線状化後に酵素切断部位の一部として残り、3'末端でポリ(A)配列を伸長またはマスクする。この非生理的な突出部が、そのような構築体から細胞内に産生されるタンパク質の量に影響を与えるかどうかは、明らかではない。
【0216】
いくつかの態様において、RNA構築体はエレクトロポレーションによって細胞に送達される。例えば、米国特許第2004/0014645号、米国特許第2005/0052630A1号、米国特許第2005/0070841A1号、米国特許第2004/0059285A1号、米国特許第2004/0092907A1号に教示されているように哺乳動物細胞への核酸構築体のエレクトロポレーションの製剤および方法論を参照されたい。任意の既知の細胞型のエレクトロポレーションに必要な電場強度を含む様々なパラメータは、関連する研究文献ならびに当技術分野における多数の特許および出願において一般的に知られている。例えば、米国特許第6,678,556号、米国特許第7,171,264号、および米国特許第7,173,116号を参照されたい。エレクトロポレーションの治療的適用のための装置は、例えばMedPulser(商標) DNAエレクトロポレーション治療システム(DNA Electroporation Therapy System) (Inovio/Genetronics, San Diego, Calif.)のように市販されており、米国特許第6,567,694号; 米国特許第6,516,223号、米国特許第5,993,434号、米国特許第6,181,964号、米国特許第6,241,701号、および米国特許第6,233,482号のような特許に記述されており; エレクトロポレーションは、例えば米国特許第20070128708A1号に記述されているようにインビトロでの細胞のトランスフェクションのために用いることもできる。エレクトロポレーションは、インビトロで細胞に核酸を送達するために利用することもできる。したがって、当業者に公知の多くの利用可能な装置およびエレクトロポレーションシステムのいずれかを利用する発現構築体を含めて核酸の細胞へのエレクトロポレーション介在性の投与は、関心対象のRNAを標的細胞に送達するための素晴らしい新たな手段となる。
【0217】
細胞の供給源
いくつかの態様において、食細胞が本明細書に記載される組成物および方法において使用される。いくつかの態様において、単球、マクロファージおよび/または樹状細胞などの食細胞の供給源が対象から得られる。対象の非限定的な例としては、ヒト、イヌ、ネコ、マウス、ラット、およびそれらのトランスジェニック種が挙げられる。好ましくは、対象はヒトである。いくつかの態様において、細胞は、末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、脾臓組織、臍帯および人工多能性幹細胞を含む、いくつかの供給源から得ることができる。ある特定の態様において、当技術分野において利用可能な任意の数の単球、マクロファージ、樹状細胞または始原細胞株が用いられうる。ある特定の態様において、T細胞は、フィコール(Ficoll)分離のような、当業者に公知の任意の数の技法を用いて、対象から収集された血液の単位から得ることができる。いくつかの態様において、個体の循環血液からの細胞は、アフェレーシスまたは白血球除去輸血によって得られる。アフェレーシス生成物は、典型的には、T細胞、単球、顆粒球、B細胞、他の有核白血球、赤血球および血小板を含めて、リンパ球を含む。アフェレーシスによって収集された細胞を洗浄して、血漿画分を除去し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)のような、適切な緩衝液もしくは培地またはその後の加工処理段階のため、カルシウムを欠くかつマグネシウムを欠きうるか、もしくは全部ではないが多くの二価陽イオンを欠きうる洗浄溶液の中に細胞を配してもよい。洗浄後、細胞は、例えば、Ca不含、Mg不含PBSのような、種々の生体適合性緩衝液に再懸濁されうる。あるいは、アフェレーシスサンプルの望ましくない成分が除去され、細胞は培地に直接再懸濁されうる。
【0218】
いくつかの態様において、単球、マクロファージ、または樹状細胞に対する前駆細胞が用いられてもよい(例えば、幹細胞)。非限定的な例には、造血幹細胞、骨髄系共通前駆細胞、骨髄芽球、単芽球、前単球、および中間体が含まれる。別の態様において、人工多能性幹細胞が、単球、マクロファージ、および/または樹状細胞を生じさせる供給源として用いられてもよい。
【0219】
造血幹細胞などの骨髄系前駆細胞が用いられる場合には、それらを、エクスビボで、単球、マクロファージ、および/もしくは樹状細胞、または該経路の前駆細胞に分化させてもよい。加えて、骨髄系分化がインビボで起こるように、前駆細胞(造血幹細胞などであるがこれに限定されない)が、治療用細胞として用いられてもよい。細胞は、自己であってもよく、または同種ドナーもしくは万能ドナーが供給減であってもよい。いくつかの態様において、骨髄系前駆細胞または造血幹細胞は、CARの発現が、細胞型特異的プロモーター、例えば、公知の骨髄系、マクロファージ、単球、樹状細胞、ミクログリア細胞、M1特異的、またはM2特異的プロモーターの制御下であるように、操作されてもよい。
【0220】
いくつかの態様において、単球または前駆細胞を、当業者に公知のサイトカインで、注入の前にエクスビボでミクログリア細胞に分化させてもよい。いくつかの態様において、単球のミクログリア細胞への分化は、中枢神経系における活性を改善する可能性がある。
【0221】
いくつかの態様において、人工多能性幹細胞は、遺伝子OCT4、SOX2、KLF4、およびC-MYCでリプログラミングされた、正常ヒト組織、例えば、末梢血、線維芽細胞、皮膚、ケラチノサイト、腎上皮細胞、または他の細胞に由来しうる。いくつかの態様において、自己、同種、または万能ドナーiPSCは、骨髄細胞系列(単球、マクロファージ、樹状細胞、および/またはそれらの前駆細胞)に向けて分化させることができる。
【0222】
いくつかの態様において、細胞は、赤血球を溶解し、例えばパーコール(PERCOLL)(商標)勾配を通じた遠心分離によってリンパ球および赤血球を枯渇させることにより、末梢血から単離される。あるいは、細胞は臍帯から単離することができる。いずれにせよ、単球、マクロファージおよび/または樹状細胞の特定の亜集団は、陽性または陰性選択技法によってさらに単離することができる。
【0223】
このように単離された単核細胞は、CD34、CD3、CD4、CD8、CD14、CD19またはCD20を含むが、これらに限定されない、特定の抗原を発現する細胞を枯渇させることができる。これらの細胞の枯渇は、単離された抗体、腹水などの、抗体を含む生体サンプル、物理的支持体に結合した抗体、および細胞結合抗体を用いて達成することができる。
【0224】
陰性選択による、単球、マクロファージおよび/または樹状細胞集団の濃縮は、陰性選択細胞に特有の表面マーカーに向けられた抗体の組み合わせを用いて達成することができる。好ましい方法は、陰性選択された細胞上に存在する細胞表面マーカーに向けられたモノクローナル抗体のカクテルを用いる陰性磁気免疫接着またはフローサイトメトリーによる細胞選別および/または選択である。例えば、単球、マクロファージおよび/または樹状細胞の細胞集団の陰性選択による濃縮は、CD34、CD3、CD4、CD8、CD14、CD19またはCD20に対する抗体を典型的に含むモノクローナル抗体カクテルを使用して達成することができる。
【0225】
陽性または陰性選択による所望の細胞集団の単離の間、細胞および表面(例えば、ビーズのような粒子)の濃度を変えることができる。ある特定の態様において、細胞およびビーズの最大の接触を確実にするために、ビーズおよび細胞が一緒に混合される体積を有意に減少させる(すなわち、細胞の濃度を増加させる)ことが望ましい場合がある。例えば、1つの態様において、20億個の細胞/mlの濃度が用いられる。1つの態様において、10億個の細胞/mlの濃度が用いられる。さらなる態様において、1億個超の細胞/mlが用いられる。さらなる態様において、10、15、20、25、30、35、40、45、または50百万個の細胞/mlの細胞濃度が用いられる。さらに別の態様において、75、80、85、90、95、または100百万個の細胞/mlの細胞濃度が用いられる。さらなる態様において、125または150百万個の細胞/mlの濃度を用いることができる。高濃度の細胞の使用は、細胞収量、細胞活性化、および細胞増大の増加をもたらすことができる。
【0226】
いくつかの態様において、細胞の集団は、本発明の単球、マクロファージ、または樹状細胞を含む。細胞の集団の例には、末梢血単核細胞、臍帯血細胞、精製された単球、マクロファージまたは樹状細胞の集団、および細胞株が非限定的に含まれる。いくつかの態様において、末梢血単核細胞は、単球、マクロファージまたは樹状細胞の集団を含む。いくつかの態様において、精製された細胞は、単球、マクロファージまたは樹状細胞の集団を含む。
【0227】
いくつかの態様において、細胞は、アップレギュレートされたM1マーカーおよび/またはダウンレギュレートされたM2マーカーを有してもよい。例えば、いくつかの態様において、少なくとも1つのM1マーカー、例えばHLA DR、CD86、CD80およびPDL1などは食細胞においてアップレギュレートされている。もう1つの例では、いくつかの態様において、少なくとも1つのM2マーカー、例えばCD206、CD163などは、食細胞においてダウンレギュレートされている。1つの態様において、細胞は、アップレギュレートされた少なくとも1つのM1マーカーおよびダウンレギュレートされた少なくとも1つのM2マーカーを有する。
【0228】
いくつかの態様において、食細胞におけるターゲティングされたエフェクター活性は、CD47活性またはSIRPα活性のいずれかの阻害によって強化される。CD47活性および/またはSIRPα活性は、食細胞を抗CD47抗体または抗SIRPα抗体で処理することによって阻害することができる。あるいは、CD47活性またはSIRPα活性を、当業者に公知である任意の方法によって阻害することもできる。
【0229】
細胞の増大
いくつかの態様において、単球、マクロファージまたは樹状細胞を含む細胞または細胞集団は、増大のために培養される。いくつかの態様において、始原細胞を含む細胞または細胞集団は、単球、マクロファージまたは樹状細胞の分化および増大のために培養される。いくつかの態様において、本発明は、本明細書において記載されるようなキメラ抗原受容体を含む単球、マクロファージまたは樹状細胞を増大させることを含む。
【0230】
本明細書において開示されるデータによって実証されているように、本明細書に開示される方法によって細胞を増大させる段階により、約10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、1000倍、2000倍、3000倍、4000倍、5000倍、6000倍、7000倍、8000倍、9000倍、10,000倍、100,000倍、1,000,000倍、10,000,000倍、またはそれを上回って、ならびにそれらの間のいずれかおよびすべての全体的および部分的な整数倍に増やすことができる。1つの態様において、細胞は約20倍~約50倍の範囲で増大される。
【0231】
培養後に、細胞を培養装置内にて細胞培地中で、ある期間にわたって、または細胞が最適な継代のために集密もしくは高い細胞密度に達するまでインキュベートし、その後に別の培養装置への継代を行う。いくつかの態様において、培養装置は、インビトロで細胞を培養するために一般的に用いられる任意の培養装置であってよい。好ましくは、細胞を別の培養装置に継代する前の集密のレベルは70%またはそれを上回る。より好ましくは、集密のレベルは90%またはそれを上回る。期間は、インビトロでの細胞の培養に適する任意の時間であってよい。培養培地の入れ替えは、細胞の培養中にどの時点に行ってもよい。好ましくは、培養培地を約2~3日毎に入れ替える。続いて細胞を培養装置から採取し、その上で細胞を直ちに用いるか、または後に用いるための貯蔵することができる。
【0232】
本明細書において記述される培養段階(本明細書において記述される作用物質との接触)は、非常に短くてもよく、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22または23時間など、24時間未満であってもよい。本明細書においてさらに記述される培養段階(本明細書において記述される作用物質との接触)は、もっと長くてもよく、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14またはそれ以上の日数であってもよい。
【0233】
いくつかの態様において、細胞は数時間(約3時間)~約14日間、またはその間の任意の時間単位の整数値の間、培養されうる。細胞培養に適切な条件には、血清(例えば、ウシ胎仔血清もしくはヒト血清)、L-グルタミン、インスリン、M-CSF、GM-CSF、IL-10、IL-12、IL-15、TGF-βおよびTNF-α、または当業者に公知の細胞増殖のための任意の他の添加剤を含む、増殖および生存に必要な因子を含有しうる適切な培地(例えば、マクロファージ完全培地、DMEM/F12、DMEM/F12-10 (Invitrogen))が含まれる。細胞増殖のための他の添加剤には、界面活性剤、プラスマネート、ならびにN-アセチル-システインおよび2-メルカプトエタノールのような還元剤が含まれるが、これらに限定されることはない。培地は、RPMI 1640、AIM-V、DMEM、MEM、α-MEM、F-12、X-Vivo 15、およびX-Vivo 20、Optimizerにアミノ酸、ピルビン酸ナトリウムおよびビタミンを添加したものであって、無血清であるか、適切な量の血清(もしくは血漿)もしくは規定のホルモン群、ならびに/または細胞の増殖および増大に十分な量のサイトカインを補充したかのいずれかのものを含むことができる。抗生物質、例えば、ペニシリンおよびストレプトマイシンは、実験的培養物にのみ含められ、対象に注入しようとする細胞の培養物には含まれない。標的細胞は、増殖を支持するのに必要な条件、例えば、適切な温度(例えば、37℃)および雰囲気(例えば、空気に加えて5% CO2)の下で維持される。
【0234】
細胞を培養するために用いられる培地は、細胞を活性化しうる作用物質を含みうる。例えば、単球、マクロファージまたは樹状細胞を活性化しうることが当技術分野において公知である作用物質が培地中に含められる。
【0235】
治療法
いくつかの態様において、本明細書に記載される改変細胞が、対象の処置のための組成物に含まれてもよい。1つの局面において、組成物は、本明細書に記載されるキメラ抗原受容体を含む改変細胞を含む。いくつかの態様において、提供される組成物は、薬学的組成物を含んでもよく、薬学的に許容される担体をさらに含んでもよい。いくつかの態様において、改変細胞を含む薬学的組成物の治療的有効量が、投与されてもよい。
【0236】
1つの局面において、本発明は、対象に、本明細書に記載されるような改変細胞を含む薬学的組成物の治療的有効量を投与する段階を含む、該対象において神経変性疾患/障害、炎症性疾患/障害、心臓血管疾患/障害、線維性疾患/障害、またはアミロイドーシスに関連する疾患または状態を処置する方法を提供する。別の局面において、本発明は、対象に、本明細書に記載されるような改変細胞を含む薬学的組成物の治療的有効量を投与する段階を含む、対象において罹患した/障害を受けた細胞または組織を標的とするように免疫応答を刺激するための方法を提供する。さらに別の局面において、本発明は、その必要がある対象における免疫応答の処置のための医薬の製造における、本明細書に記載されるような提供される改変細胞の使用を含む。なお別の局面において、本発明は、その必要がある対象における神経変性疾患/障害、炎症性疾患/障害、心臓血管疾患/障害、線維性疾患/障害、またはアミロイドーシスの処置のための医薬の製造における、本明細書に記載されるような提供される改変細胞の使用を含む。
【0237】
いくつかの態様において、本明細書に記載されるように作製された提供される改変細胞は、ターゲティングされたエフェクター活性を保有する。いくつかの態様において、提供される改変細胞は、例えば、CARの抗原結合ドメインに対する特異的結合を通して、標的細胞上の抗原に対して方向付けられた、ターゲティングされたエフェクター活性を有する。いくつかの態様において、ターゲティングされたエフェクター活性には、食作用、ターゲティングされた細胞性細胞傷害作用、抗原提示、およびサイトカイン分泌が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0238】
いくつかの態様において、本明細書に記載される改変細胞は、作用物質、例えば、生物学的作用物質または治療的作用物質を標的に送達する能力を有する。いくつかの態様において、細胞は、作用物質を標的に送達するように改変または操作されてもよく、該作用物質は、核酸、抗生物質、抗炎症剤、抗体またはその抗体断片、増殖因子、サイトカイン、酵素、タンパク質、ペプチド、融合タンパク質、合成分子、有機分子、糖質または類似物、脂質、ホルモン、ミクロソーム、それらの誘導体または変形物、およびそれらの任意の組み合わせからなる群より選択される。非限定的な例として、抗原を標的とするCARで改変されたマクロファージは、マクロファージ機能を補助するために、サイトカインまたは抗体などの作用物質を分泌することができる。抗CD47/抗SIRPα mABなどの抗体もまた、マクロファージ機能を補助する可能性がある。さらに別の例において、抗原(例えば、α-シヌクレインまたはβ-アミロイドなどのタンパク質凝集物中のタンパク質)を標的とするCARで改変されたマクロファージは、抑制性遺伝子(すなわち、SIRPα)をダウンレギュレートすることによってマクロファージ機能を補助するsiRNAをコードするように操作される。別の例では、CARマクロファージは、マクロファージ機能を補助する受容体または酵素のドミナントネガティブ(または別のように変異した)バージョンを発現するように操作される。
【0239】
いくつかの態様において、マクロファージは複数の遺伝子で改変され、ここで、少なくとも1つの遺伝子はCARを含み、かつ少なくとも1つの他の遺伝子は、CARマクロファージ機能を強化する遺伝因子を含む。いくつかの態様において、マクロファージは複数の遺伝子で改変され、ここで、少なくとも1つの遺伝子はCARを含み、かつ少なくとも1つの他の遺伝子は、他の免疫細胞(例えばT細胞)の機能を補助するかまたはリプログラミングする。いくつかの態様において、マクロファージは複数の遺伝子で改変され、ここで、少なくとも1つの遺伝子はCARを含み、かつ少なくとも1つの他の遺伝子は、治療有効性を強化する遺伝因子を含む。治療有効性は、チェックポイント受容体を遮断することによって作用するタンパク質、免疫刺激活性を有するタンパク質、免疫抑制/抗炎症活性を有するタンパク質、およびタンパク質プラークを不安定化するタンパク質を含むがこれらに限定されない、多様な遺伝因子によって強化されうる。
【0240】
さらに、いくつかの態様において、神経変性疾患/障害、炎症性疾患/障害、心臓血管疾患/障害、線維性疾患、アミロイドーシス、または、タンパク質ミスフォールディングもしくはタンパク質凝集物に関連していることが当技術分野において公知の任意の疾患/障害を処置するために、改変細胞を、動物、好ましくは哺乳動物、さらにより好ましくはヒトに投与することができる。いくつかの態様において、神経変性疾患/障害には、タウオパチー、α-シヌクレオパチー、初老期認知症、老年認知症、アルツハイマー病、17番染色体に連鎖したパーキンソン症(FTDP-17)、進行性核上性麻痺(PSP)、ピック病、原発性進行性失語、前頭側頭型認知症、皮質基底核認知症、パーキンソン病、認知症を伴うパーキンソン病、レビー小体型認知症、ダウン症候群、多系統萎縮症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、ハラーフォルデン・シュパッツ症候群、ポリグルタミン病、トリヌクレオチドリピート病、およびプリオン病が含まれる。加えて、いくつかの態様において、本発明の細胞を、疾患/障害を処置するかまたは軽減させるために免疫応答、特に細胞媒介性免疫応答の減弱化または別の様式での阻害が望ましい、任意の状態の処置のために用いることができる。1つの局面において、本発明は、対象に、本明細書に記載される細胞の集団を含む薬学的組成物の治療的有効量を投与することを含む、該対象における神経変性疾患/障害、炎症性疾患/障害、心臓血管疾患/障害、線維性疾患、アミロイドーシス、または、タンパク質ミスフォールディングおよび/もしくはタンパク質凝集物に関連していることが当技術分野において公知の任意の疾患/障害などの状態の処置を含む。加えて、いくつかの態様において、本発明の細胞を、処置の前の前処理またはコンディショニングとして投与することができる。
【0241】
いくつかの態様において、提供される細胞をまた、対象の組織においてタンパク質凝集物中にタンパク質を含む炎症性疾患/障害を処置するために用いることもできる。そのような炎症性疾患/障害の例には、線維性疾患が含まれるが、これに限定されることはない。
【0242】
いくつかの態様において、本発明の細胞は、適切な前臨床および臨床の実験および試験において判定される投与量および経路でならびに時間で投与することができる。細胞組成物は、これらの範囲内の投与量で複数回投与されうる。本発明の細胞の投与は、当業者によって判定される所望の疾患/障害または状態を処置するのに有用な他の方法と組み合わされてもよい。
【0243】
様々な態様に従って、投与される本発明の細胞は、治療を受けている対象に関して自家、同種異系(allogeneic)、異種、または万能ドナーでありうる。
【0244】
本発明の細胞の投与は、当業者に公知の任意の簡便かつ出願に適した様式で、行われうる。本発明の細胞はエアロゾル吸入、注射、摂取、輸血、植込みまたは移植により対象に投与されうる。本明細書において記述される組成物は患者へ経動脈的に、皮下に、皮内に、腫瘍内に、リンパ節内に(intranodally)、髄内に、筋肉内に、静脈内(i.v.)注射により、腹腔内に、または頭蓋内に投与されうる。いくつかの態様において、本発明の細胞は、対象における炎症部位、対象における局所疾患部位、リンパ節、臓器、腫瘍などに直接注射されうる。
【0245】
薬学的組成物
いくつかの態様において、本発明の薬学的組成物は、本明細書において記述される細胞を、1つまたは複数の薬学的にまたは生理学的に許容される担体、希釈剤または賦形剤と組み合わせて含みうる。そのような組成物は、中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水などのような緩衝液; グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストランのような炭水化物、マンニトール; タンパク質; ポリペプチドまたはグリシンのようなアミノ酸; 抗酸化剤; EDTAまたはグルタチオンのようなキレート剤; アジュバント(例えば、水酸化アルミニウム); および保存料を含みうる。本発明の組成物は、好ましくは、静脈内投与のために製剤化される。
【0246】
本発明の薬学的組成物は、処置される(または予防される)疾患/障害に適切な様式で投与されうる。臨床試験によって適切な投与量が判定されうるが、投与の量および頻度は、患者の状態、ならびに患者の疾患/障害のタイプおよび重症度のような因子によって判定されよう。
【0247】
「免疫学的に有効な量」、「抗免疫応答に有効な量」、「免疫応答を阻害する有効量」または「治療量」が示されている場合、投与される本発明の組成物の正確な量は、患者(対象)の年齢、体重、免疫応答、および状態の個体差を考慮して、医師により決定され得る。本明細書において記述される細胞を含む薬学的組成物は、104~109個の細胞/kg体重、好ましくは105~106個の細胞/kg体重の投与量で、それらの範囲内の全ての整数値を含めて、投与されうると一般に言及することができる。本明細書に記載される細胞組成物はまた、これらの投与量で複数回投与されうる。細胞は、免疫療法において一般に知られている注入技法を用いることにより投与することができる(例えば、Rosenberg et al., New Eng. J. of Med. 319:1676, 1988を参照のこと)。特定の患者に対する最適な投与量および処置計画は、疾患/障害の徴候について患者を監視し、それに応じて処置を調整することにより、医学分野の当業者によって容易に判定されることができる。
【0248】
ある特定の態様において、単球、マクロファージ、または樹状細胞を対象に投与し、続いて血液を再び採血し(またはアフェレーシスを行い)、本発明にしたがってそれから単球、マクロファージ、または樹状細胞を活性化し、これらの活性化された細胞を患者に再注入することが望ましい場合がある。このプロセスは数週間ごとに複数回行うことができる。ある特定の態様において、細胞は、10 ml~400 mlの採血から活性化されうる。ある特定の態様において、細胞は、20 ml、30 ml、40 ml、50 ml、60 ml、70 ml、80 ml、90 mlまたは100 mlの採血から活性化される。理論によって束縛されるべきではないが、この複数の採血/複数の再注入プロトコールを用いて、細胞のある特定の集団を選び出すことができる。
【0249】
本発明のある特定の態様において、細胞を、本明細書において記述される方法または当技術分野において公知の他の方法(細胞が治療レベルにまで増大される)を用いて改変し、多くの関連処置法と一緒に(例えば、その前に、それと同時にまたはその後に)、患者に投与する。さらなる態様において、外科手術の前または後に、細胞が投与されうる。
【0250】
対象に投与される前記処置の投与量は、処置される状態および処置のレシピエントの正確な性質によって変化する。ヒト投与のための投与量の拡大縮小は、当技術分野において認められている実践にしたがって行うことができる。CAMPATH抗体の用量は、例えば、一般的に、成人患者については1~約100 mgの範囲であり、通常、1~30日間、毎日投与される。好ましい一日用量は1~10 mg/日であるが、場合によっては、40 mg/日までの高用量が用いられてもよい(米国特許第6,120,766号に記述されている)。
【0251】
本発明において有用な方法および組成物は、実施例に記載の特定の製剤に限定されないことが理解されるべきである。以下の実施例は当業者に、本発明の、細胞を作製および使用する方法、増大および培養方法、ならびに治療方法の完全な開示かつ記述を提供するために記載されており、本発明者らがその発明とみなすものの範囲を限定することを意図するものではない。
【0252】
本発明の実践には、別段の指示がない限り、分子生物学(組み換え技法を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の従来の技法が利用され、それらは十分に当業者の認識範囲内である。そのような技法は、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」, fourth edition (Sambrook, 2012);「Oligonucleotide Synthesis」(Gait, 1984);「Culture of Animal Cells」(Freshney, 2010);「Methods in Enzymology」「Handbook of Experimental Immunology」(Weir, 1997);「Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells」(Miller and Calos, 1987);「Short Protocols in Molecular Biology」(Ausubel, 2002);「Polymerase Chain Reaction: Principles, Applications and Troubleshooting」, (Babar, 2011);「Current Protocols in Immunology」(Coligan, 2002)のような、文献のなかで十分に説明されている。これらの技法は、本発明のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの産生に適用可能であり、したがって、本発明の形成(making)および実践において考慮されうる。特定の態様に特に有用な技法は、以下の項で論じられる。
【実施例】
【0253】
実験的実施例
本発明は、以下の実験的実施例を参照して、さらに詳細に説明される。これらの実施例は、例示のみを目的として提供されており、特記しない限り、限定することを意図したものではない。したがって、本発明は、以下の実施例に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、本明細書で提供された教示の結果として明らかになる、ありとあらゆる変形を包含すると解釈されるべきである。
【0254】
さらなる説明なしに、当業者は、上記の説明および以下の実施例を用いて、本発明の化合物/細胞を作製して利用し、かつ特許請求の範囲に記載の方法を実施することができると考えられる。したがって、以下の実施例は、本発明の好ましい態様を具体的に指し示したものであり、本開示の残りの部分を多少なりとも限定するものとして解釈されるべきではない。
【0255】
後述の実験に用いる材料および方法は、特記しない限り、以下に説明される通りである。
【0256】
細胞培養:細胞株を、10%ウシ胎仔血清およびペニシリン/ストレプトマイシンを加えたRPMI 1640中で、5% CO2下において37Cで培養する。培地中で1ng/mLのホルボール12-ミリステート13-アセテートとともに細胞を48時間培養することによって、THP-1単球AML細胞株を分化させて誘導する。
【0257】
初代ヒトマクロファージ:初代ヒト単球を、正常ドナーのアフェレーシス生成物から、Miltenyi CD14 MicroBeads(Miltenyi、130-050-201)を用いて精製する。単球を、5%ヒトAB血清を加えたX-Vivo培地、または10%ウシ胎仔血清を加えたRPMI 1640中で、ペニシリン/ストレプトマイシン、グルタマックス(glutamax)および10ng/mL組換えヒトGM-CSFまたはM-CSF(PeproTech、300-03)とともに、MACS GMP Cell Differentiation Bags(Miltenyi、170-076-400)内で7日間培養する。マクロファージを第5日~第10日に採取し、後に使用するまでFBS+10% DMSO中で凍結保存する。
【0258】
食作用アッセイ:WtまたはCARマクロファージ赤色蛍光(mRFP+)THP1サブラインを、インビトロ食作用アッセイにおいて用いる前に、1 ng/mL ホルボール12-ミリステート13-アセテートで48時間かけて分化させる。
【0259】
タイムラプス顕微鏡検査:CAR媒介性食作用の蛍光性タイムラプスビデオ顕微鏡検査を、EVOS FL Auto Cell Imaging System、またはLeica共焦点レーザー走査型顕微鏡(Leica TCS SP8)を含む他のデジタル画像化蛍光顕微鏡を用いて行う。画像を、1~2分毎に6~24時間にわたって取り込む。画像分析は、FIJI画像化ソフトウェアおよびHCS Studio 2.0 Cell Analysis Software(Thermo Fisher)で行う。
【0260】
レンチウイルスの生成およびトランスフェクション:キメラ抗原受容体構築物を、GeneArt(Life Technologies)によって新規合成し、以前に記載された通りにレンチウイルスベクター中にクローニングする。濃縮されたレンチウイルスを、以前に記載された通りにHEK293T細胞を用いて作製した。場合によっては、骨髄系細胞におけるレンチウイルスの形質導入効率を強化するために、Vpxおよびアクセサリープラスミドを、レンチウイルスパッケージング過程に導入する。
【0261】
DNAエレクトロポレーション:他の場合には、CARを、最小長プラスミドを含む様々な長さのプラスミド中にクローニングし、Lonza NucleofectorでのNucleofectionを含むがこれに限定されない、エレクトロポレーションを通して、細胞に直接導入する。
【0262】
アデノウイルスの生成およびトランスフェクション:標準的な分子生物学手法に従って、CMVプロモーター下にGFP、CARをコードするかまたは導入遺伝子をコードしないAd5f35キメラアデノウイルスベクターを生成させ、用量設定を行う。初代ヒトマクロファージに、様々な感染多重度で形質導入し、GFP発現および生存度について、EVOS FL Auto Cell Imaging Systemを用いて連続的に画像化した。CAR発現は、Hisタグ標識抗原および抗His-APC二次抗体(R&D Biosystems Clone AD1.1.10)を用いた表面CAR発現のFACS分析によって評価する。
【0263】
フローサイトメトリー:FACSは、BD LSR Fortessaにて行った。表面CAR発現は、ビオチン化プロテインL(GenScript M00097)およびストレプトアビジンAPC(BioLegend、#405207)、またはHisタグ標識抗原および抗His-APC二次抗体(R&D Biosystems Clone AD1.1.10)で検出する。すべてのフロー結果について、生存性(Live/Dead Aqua Fixable Dead Cell Stain, Life Technologies L34957)単細胞に対するゲーティングをする。
【0264】
RNAエレクトロポレーション:標準的な分子生物学手法を用いて、CAR構築物を、T7プロモーターの制御下にあるインビトロ転写プラスミド中にクローニングする。mMessage mMachine T7 Ultra In Vitro Transcription Kit(Thermo Fisher)を用いて、CAR mRNAをインビトロ転写させ、RNEasy RNA Purification Kit(Qiagen)を用いて精製し、BTX ECM850エレクトロポレーター(BTX Harvard Apparatus)を用いてヒトマクロファージへのエレクトロポレーションを行う。CAR発現を、FACS分析を用いて、エレクトロポレーション後の様々な時点でアッセイする。
【0265】
抗アミロイドCARマクロファージの作製:抗アミロイドCARを、モノクローナル抗体NEOD001を用いて開発した(構築物4001と称する)。mAb NEOD001 CAR構築物を含有するレンチウイルスベクターを用いて、急性骨髄性白血病細胞株THP-1に形質導入した。100万個のTHP-1 mRFP+細胞に、2 mlの体積の培養培地(10% FBS、1%抗生物質、1% L-グルタミン、1% HEPESを補給したRPMI)における37℃で72時間のインキュベーションによって、5:1の感染多重度(MOI)(1細胞当たり5ウイルス粒子)で、4001 CAR構築物を保有するレンチウイルスを形質導入した。72時間のインキュベーション後、細胞を、培養培地で洗浄し、フローサイトメトリーによってCARの発現について試験した。ビオチン化ヤギ抗マウス抗体(Biotin-SP-AffiniPure goat anti mouse IgG, F(ab')2 fragment specific;カタログ番号115-065-072-Jackson Immunoresearch)およびその後のストレプトアビジンAPC(Biolegend、5μl/染色)を、THP-1 mRFP細胞の表面上のCAR発現の検出のために用いた。
【0266】
アミロイド細線維の作製:アミロイド細線維を、ヒト細胞株AMLC-1によって細胞培養培地に分泌された免疫グロブリン軽鎖の熱変性によって得た(Arendt BK, Blood. 2008 Sep 1;112(5):1931-41)。800~1000万個のAMLC-1細胞を、10% FBS、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、1% L-グルタミン、および1 ng/mlヒトIL-6を補給した40 ml IMDM中で、直立でT75フラスコにおいて培養した。この細胞株の倍加時間は、4日であると決定され、したがって、細胞を4日毎に分割した。分泌された軽鎖を、およそ500 mLの細胞培養培地から精製した。採取する前に、細胞を、FBSを含まない培養培地(Opti-MEM)中で4日間増殖させた。500 mLの培養培地を、10 kDaの分子量カットオフを有するCentricon Plus-70スピニングカラム(Millipore)を用いて、2 mlの最終体積まで濃縮した。フリーの軽鎖の精製は、AKTAタンパク質精製システムによって作動されたSephadex 75 30/100GLカラム(GE Healthcare)を用いて、サイズ排除クロマトグラフィーによって達成した。Sephadexカラムの溶出は、TRIS食塩緩衝液1 mM、pH=7.2を用いて行った。クロマトグラフィープロファイルを、
図2に示す。
【0267】
溶出された画分を、Amiconスピンカラム(10 kDa分子カットオフ)を用いて、0.5 ml以下の最終体積まで濃縮し、各画分におけるタンパク質濃度を、nanodrop分光光度計を用いて測定した。溶出された画分の同一性を、SDS-PAGEを用いて、ゲルのウェルに各画分由来の約20μgのタンパク質をローディングして、検討した(
図3)。Bolt Novex 4-12% BIS-TRIS PLUSポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)およびMES泳動用緩衝液を用いて、各画分中のタンパク質を分離した。フリーの軽鎖が、Sephadexカラムから溶出された第2の画分および第3の画分において確認された。
【0268】
変性免疫グロブリン軽鎖の細線維の形成:変性免疫グロブリン軽鎖の細線維を得るために、軽鎖画分を、57.2℃で4日間、熱変性させた(Arendt BK Blood. 2008 Sep 1;112(5):1931-41)。細線維の形成を、ネガティブ染色を用いて電子顕微鏡によって評価した(
図4)。
【0269】
変性軽鎖の蛍光標識:分化したCAR+THP-1mRFP+細胞の食作用機能のインビトロ試験は、蛍光色素での変性細線維の標識を必要とする。100μgの変性軽鎖細線維を、マイクロスケールタンパク質標識キット(カタログ番号A30006、Molecular Probes)を用いて蛍光色素AF488で標識した。蛍光標識の強度を、nanodrop分光光度計を用いてチェックした。
【0270】
実施例1:血清アミロイドPタンパク質を標的とするCAR遺伝子操作マクロファージの作製
血清アミロイドPタンパク質(SAP)を認識する抗体のscFvを含有する細胞外ドメインを有するCAR構築物を、第1世代のCARバックボーンと、市販の抗アミロイドPタンパク質抗体、例えば、抗血清アミロイドP抗体クローンEP1018Y(Abcamカタログ番号ab45151)、クローン14B4(Abcamカタログ番号ab27313)、クローン5.4A(Milliporeによるカタログ番号CBL304)、または血清アミロイドPタンパク質に結合する任意の市販のもしくは専売の抗体もしくは標的認識部分の配列とを含有するプラスミドを構築することによって作製する。ミスフォールディングされた抗体軽鎖上のネオエピトープを選択的に標的とするNEOD001scFvもまた、用いることができる。加えて、CARの細胞外ドメインは、SAP上のエピトープを認識する合成ターゲティング部分、例えば、アプタマー、darpin、天然に存在するかもしくは合成のSAP受容体、affibody、またはSAPに対する親和性を有する他の操作されたタンパク質認識分子を含むことができる。
【0271】
CAR構築物を、初代ヒトマクロファージ、またはTHP-1などのマクロファージ細胞株にトランスフェクトするかまたは形質導入する。マクロファージにおけるCAR転写産物の発現を、ターゲティングドメインの細胞表面発現を実証するフローサイトメトリーによって評価する。
【0272】
蛍光標識されたアミロイド軽鎖のまたは血清アミロイドPタンパク質のターゲティングは、食作用アッセイを用いてインビトロで実証され、CARマクロファージと標的タンパク質との間の標的とする相互作用の特異性は、対照マクロファージとCAR発現マクロファージとの間の活性を比較することにより、ミスフォールディングされたSAPの差次的な食作用によって実証される。残存疾患をモデル化するために、残存アミロイド細線維を、マクロファージの除去時に定量する。能動的および受動的な取り込みを、4℃と比較して、37℃でアッセイを行う場合に、取り込みが強化された倍率を正規化することによって比較する。
【0273】
実施例2:CAR遺伝子操作マクロファージによる食作用を介した血清アミロイドPタンパク質エピトープを有する標的の排除または低減
インビボモデルにおいて標的タンパク質またはタンパク質凝集物の排除または低減を実証するために、タンパク質異種移植モデルを用いることができ、ここでは、SAPを直接化学的コンジュゲーションキット(AF488またはVivoTrack 680)で蛍光マーカーにコンジュゲートし、NSGSマウスの肝臓に手術により埋め込む。生着期間後に、マウスは、ビヒクルのみ(リン酸緩衝生理食塩水)、対照非操作マクロファージ、またはSAPに対して方向付けられたCARマクロファージのいずれかの静脈注射を受ける(群当たりn=5)。注射を、3日毎に5サイクルにわたって繰り返す。処置の終わりに、マウスを安楽死させて、肝臓組織を収集する。IVIS Spectrum(Perkin Elmer)を用いて、全体の蛍光について全肝臓を画像化し、シグナルの強度を処置群の中で比較する。次いで、肝臓SAP負荷を、免疫組織化学染色によって定量する。
【0274】
あるいは、インビボモデルにおける標的タンパク質またはタンパク質凝集物の排除または低減は、トランスジェニックマウスモデル、例えば、ヒト変異体トランスサイレチン(TTR)遺伝子を発現するトランスジェニックマウス(Murakami et al., 1992. Am J Pathol. 1992 Aug; 141(2): 451-456に記載)、またはアミロイドの沈着が観察される別のマウスモデルにおいて実証することができる。
【0275】
TTRモデルにおいて、アミロイド沈着は、6か月齢前後で観察可能になり始め、徐々に増加して、最終的には、心臓、肝臓、脾臓、胃、腸、甲状腺、および/または皮膚などの複数の臓器において検出される。アミロイド沈着が確立され、組織学的分析または他の方法によって検出可能になったら、血清アミロイドPタンパク質を標的とするCARマクロファージでの処置を、CARマクロファージ細胞、対照CARマクロファージ、または対照非操作マクロファージの単回尾静脈注射によって実施する。アミロイド沈着物の低減が、マウス組織の免疫組織化学、またはマウス臓器においてアミロイド沈着物の量を測定することができる他の方法によって観察される。
【0276】
実施例3:アミロイドβを標的とするCAR遺伝子操作マクロファージの作製
アミロイドβ、もしくはアミロイドプラークを構成するミスフォールディングされたタンパク質の三次構造を認識する抗体(Glabe, 2004. Trends Biochem Sci. 2004 Oct;29(10):542-7)、またはアミロイドプラークを形成するミスフォールディングされたタンパク質を認識するオリゴマー特異的抗体(Kayed et al., 2003. Science. Apr 18;300(5618):486-9)のscFvを含有する細胞外ドメインを有するCAR構築物を、作製する。CARを、第1世代のCARバックボーンと、市販の抗アミロイドβ抗体(例えば、Abcamによるab2539、もしくRockland Antibodies and Assaysによる抗体番号600-401-253S)、またはgammabody(Perchiacca et al., 2012. PNAS 2012 January, 109 (1) 84-89に記載されている通り)、または、βアミロイド前駆タンパク質もしくは形成されたアミロイド凝集物上のエピトープに結合する、多数の他の専売のもしくは受託合成された抗体もしくは他の標的認識部分の配列とを含有するプラスミドを構築することによって作製する。
【0277】
CAR構築物を、初代ヒトマクロファージ、またはTHP-1などのマクロファージ細胞株にトランスフェクトするかまたは形質導入し、マクロファージ細胞におけるCAR転写産物の発現を、ターゲティングドメインの細胞表面発現を実証するフローサイトメトリーによって評価する。
【0278】
アミロイド前駆タンパク質のターゲティングは、食作用アッセイを介してインビトロで実証され、CARマクロファージと標的タンパク質との間の標的とする相互作用の特異性および選択性は、抗原を有さない標的とは対照的な抗原を有する標的の差次的な食作用によって実証される。能動的および受動的な取り込みを、4℃と比較して、37℃でアッセイを行う場合に、取り込みが強化された倍率を正規化することによって比較する。βアミロイド毒性からのニューロンの救出を、生存ヒトニューロンを有する培養チャンバーをセットすること、および抗原特異的マクロファージを伴ってまたは伴わずにβアミロイドを添加することによってモデル化する。残存生存ニューロンを、顕微鏡によって定量する。
【0279】
実施例4:CAR遺伝子操作マクロファージによる食作用を介したアミロイドβエピトープを有する標的の排除または低減
インビボモデルにおいて標的タンパク質またはタンパク質凝集物の排除または低減を実証するために、タンパク質異種移植モデルを用いることができ、ここでは、βアミロイドタンパク質を直接化学的コンジュゲーションキット(AF488またはVivoTrack 680)で蛍光マーカーにコンジュゲートし、NSGSマウスの肝臓に手術により埋め込む。生着期間後に、マウスは、ビヒクルのみ(リン酸緩衝生理食塩水)、対照非操作マクロファージ、またはβアミロイドタンパク質に対して方向付けられたCARマクロファージのいずれかの静脈注射を受ける(群当たりn=5)。注射を、3日毎に5サイクルにわたって繰り返す。処置の終わりに、マウスを安楽死させて、肝臓組織を収集する。IVIS Spectrum(Perkin Elmer)を用いて、全体の蛍光について全肝臓を画像化し、シグナルの強度を処置群の中で比較する。次いで、肝臓βアミロイドタンパク質負荷を、免疫組織化学染色によって定量する。
【0280】
あるいは、インビボモデルにおける標的タンパク質またはタンパク質凝集物の排除または低減は、マウス臓器においてβアミロイドタンパク質の蓄積を有するトランスジェニックマウスモデル、例えば、膵臓における蓄積を有するモデル(Kawarabayashi et al. 1996. Neurobiol Aging 17, 215-222)、腸における蓄積を有するモデル(Fukuchi et al. 1996. Am J Pathol 149, 219-227)、もしくは骨格筋における蓄積を有するモデル(Fukuchi et al. 1998. Am J Pathol 153, 1687-1693)、またはPhilipson et al. 2010. FEBS J: 277(6): 1389-1409において概説されているものなどの他のマウスモデル、またはβアミロイド沈着物の蓄積が観察される他のモデルを用いることによって、実証することができる。βアミロイド沈着が確立され、組織学的分析または他の方法によって検出可能になったら、βアミロイドタンパク質を標的とするCARマクロファージでの処置を、CARマクロファージ細胞、または対照CARマクロファージ、または対照非操作マクロファージの単回尾静脈注射によって実施する。アミロイド沈着物の低減が、マウス組織の免疫組織化学、またはマウス臓器においてアミロイド沈着物の量を測定することができる他の方法によって観察される。
【0281】
実施例5:コラーゲンまたは線維性コラーゲンを標的とするCAR遺伝子操作マクロファージの作製
コラーゲンまたは線維性コラーゲンを認識する抗体のscFvを含有する細胞外ドメインを有するCAR構築物を、第1世代のCARバックボーンと、市販の抗コラーゲン抗体もしくは抗線維性コラーゲン抗体、または、コラーゲン、線維性コラーゲン、もしくは線維性コラーゲン凝集物上のエピトープに結合する、多数の他の専売のもしくは受託合成された抗体もしくは他の標的認識部分の配列とを含有するプラスミドを構築することによって作製する。
【0282】
CAR構築物を、初代ヒトマクロファージ、またはTHP-1などのマクロファージ細胞株にトランスフェクトするかまたは形質導入し、マクロファージ細胞におけるCAR転写産物の発現を、ターゲティングドメインの細胞表面発現を実証するフローサイトメトリーによって評価する。
【0283】
コラーゲンまたは線維性コラーゲンのターゲティングは、食作用アッセイを介してインビトロで実証され、CARマクロファージと標的タンパク質との間の標的とする相互作用の特異性および選択性は、CARマクロファージを対照マクロファージと比較することにより、抗原を有する標的の差次的な食作用によって実証される。
【0284】
実施例6:CAR遺伝子操作マクロファージによる食作用を介したコラーゲンエピトープを有する標的の排除または低減
線維性疾患、または線維症は、コラーゲンを含む細胞外マトリックスタンパク質の病理学的沈着を特徴とする。線維症は、多くの臓器において、特に肺において起こる(例えば、突発性肺線維症(IPF))。IPFモデルは、C57BL/6Jマウスにおいてブレオマイシン攻撃後に確立される(Limjunyawong et al., 2014. Physiol Rep. Feb 1; 2(2): e00249)。IPFの確立後、例えば、ブレオマイシン投与の1、3、または6か月後に、動物は、コラーゲンを標的とするCARマクロファージの全身投与を受ける。30日後またはブレオマイシン投与後の任意の他の時に、動物を屠殺して、免疫組織化学、およびヒドロキシプロリンアッセイ(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)を介したコラーゲン含量の測定のために、肺を収集する。
【0285】
あるいは、インビボモデルにおいて標的タンパク質またはタンパク質凝集物の排除または低減を実証するために、タンパク質異種移植モデルを用いることができ、ここでは、コラーゲンタンパク質を直接化学的コンジュゲーションキット(AF488またはVivoTrack 680)で蛍光マーカーにコンジュゲートし、NSGSマウスの肝臓に手術により埋め込む。生着期間後に、マウスは、ビヒクルのみ(リン酸緩衝生理食塩水)、対照非操作マクロファージ、またはコラーゲンタンパク質に対して方向付けられたCARマクロファージのいずれかの静脈注射を受ける(群当たりn=5)。注射を、3日毎に5サイクルにわたって繰り返す。処置の終わりに、マウスを安楽死させて、肝臓組織を収集する。IVIS Spectrum(Perkin Elmer)を用いて、全体の蛍光について全肝臓を画像化し、シグナルの強度を処置群の中で比較する。次いで、肝臓コラーゲンタンパク質負荷を、免疫組織化学染色によって定量する。
【0286】
実施例7:LDLを標的とするCAR遺伝子操作マクロファージの作製
アテローム性動脈硬化疾患は、血管内皮の透過性の増加をもたらす。単球は、内皮下空間中に引き込まれ、そこで、マクロファージに分化して、泡沫細胞に変わるプラークの形成に寄与する場合がある。同時に、プラークの形成は、より大きな、かつより大量のLDLを保持する。LDL抗体クローン262-01(カタログ番号sc-57895、Santa Cruz Biotechnology)などの抗LDL抗体のscFv、またはLDLに結合する任意の他の市販のもしくは専売の抗体もしくは標的認識部分を保有する第1世代CARを構築することによって、マクロファージを、LDLを標的とし、かつ貪食するように操作する。
【0287】
CAR構築物を、初代ヒトマクロファージ、またはTHP-1などのマクロファージ細胞株にトランスフェクトし、マクロファージ細胞におけるCAR転写産物の発現を、ターゲティングドメインの細胞表面発現を実証するフローサイトメトリーによって評価する。
【0288】
LDLのターゲティングは、食作用アッセイによってインビトロで実証され、CARマクロファージと標的タンパク質との間の標的とする相互作用の特異性および選択性は、抗原を有さない標的とは対照的な、好天を有する標的の差次的な食作用によって実証される。
【0289】
実施例8:CAR遺伝子操作マクロファージによる食作用を介したLDLエピトープを有する標的の排除または低減
アテローム性動脈硬化疾患は、十分に確立されたマウスアテローム性動脈硬化症モデル、例えば、ApoEノックアウトモデル(Plump et al., 1992. Cell 71:343-353)、LDLR欠損モデル、他のアテローム性動脈硬化症モデル(Veseli et al. 2017. Volume 816, 5 December 2017, Pages 3-13)、または本明細書に記載される実験を可能にするようにさらに改変されているモデルのうちの1つにおいて再現される。アテローム性動脈硬化疾患を確立した後、動物は、尾静脈注射を通して、LDLを標的とするCARマクロファージを受け、ある期間にわたってモニターされる。動物の屠殺時に、下行胸部大動脈(DA)および/または大動脈弓(AA)、ならびに血液および主要な臓器を収集して、アテローム性動脈硬化疾患のレベルについて、IHC、RT-PCR、および血液化学を含む方法によって分析する。
【0290】
あるいは、インビボモデルにおいて標的タンパク質またはタンパク質凝集物の排除または低減を実証するために、タンパク質異種移植モデルを用いることができ、ここでは、LDLを直接化学的コンジュゲーションキット(AF488またはVivoTrack 680)で蛍光マーカーにコンジュゲートし、NSGSマウスの肝臓に手術により埋め込む。生着期間後に、マウスは、ビヒクルのみ(リン酸緩衝生理食塩水)、対照非操作マクロファージ、またはLDLに対して方向付けられたCARマクロファージのいずれかの静脈注射を受ける(群当たりn=5)。注射を、3日毎に5サイクルにわたって繰り返す。処置の終わりに、マウスを安楽死させて、肝臓組織を収集する。IVIS Spectrum(Perkin Elmer)を用いて、全体の蛍光について全肝臓を画像化し、シグナルの強度を処置群の中で比較する。次いで、肝臓LDL負荷を、免疫組織化学染色によって定量する。
【0291】
実施例9:抗アミロイドCARマクロファージの開発
抗アミロイドCARマクロファージを、アミロイド特異的scFvの配列をCARバックボーン中にクローニングすること、および細胞株由来のマクロファージに形質導入することによって開発した。CARの発現を示す代表的なフローサイトメトリープロットを、
図1に示す。CARを発現するTHP1mRFP+細胞の頻度は、およそ40%であると決定された。細胞を選別して、培養において増大させた。CAR+THP1細胞をマクロファージに分化させるために、1 ug/ml PMAおよびイオノマイシンで48~72時間処理した;このインキュベーション期間の終わりに、細胞は、マクロファージ様形態を呈した。
【0292】
実施例10:インビトロモデルにおける抗アミロイド初代ヒトCARマクロファージによるアミロイド細線維のクリアランス
CAR+THP-1mRFP+細胞が変性アミロイド細線維を特異的に貪食するという仮定を吟味するために、フローサイトメトリー分析を行って、赤色(mRFP)チャンネルおよび緑色(AF480)チャンネルの両方において蛍光を発するCAR+THP-1mRFP+細胞を検出した。簡潔に述べると、5×10
4個のCAR+THP-1mRFP+細胞または非形質導入THP-1mRFP+細胞を、AF480標識された変性アミロイド細線維、AF480標識された変性免疫グロブリンタンパク質、または陰性対照としてのGFP標識されたα-シヌクレイン線維のいずれかと、37℃で4時間インキュベートした。(食作用は4℃では起こらないと期待されるため)食作用と、細胞表面への線維の付着とを区別するために、複製のチューブのセットを、並行して4℃でインキュベートした。結果により、CAR+THP-1mRFP+細胞は、4℃でアミロイド細線維を貪食しなかった(MFI AF480 CAR+THP-1細胞=240;MFI AF480 UTD THP-1細胞=134)が、37℃では、AF480 CAR+THP-1細胞のMFI値(MFI=618)は、AF480 UTD THP-1細胞のMFI値(MFI=262)と比較して2倍であったことが実証され、これは、CAR+THP1細胞が、アミロイド細線維を貪食できたことを示す(
図5)。さらに、アミロイド軽鎖繊維の食作用の特異性は、CAR+THP-1mRFP+細胞がGFP+α-シヌクレイン細線維を貪食しないことによって示された。加えて、CAR+THP-1mRFP+細胞は、4℃でインキュベートした時にさえAF480陽性になったため、繊維を形成しなかったAF480標識された変性免疫グロブリン分子は、食作用よりもむしろ細胞表面への付着を示した。
【0293】
他の態様
本明細書における変数の定義における要素のリストの記述は、単一の要素または列記された要素の組み合わせ(または部分的組み合わせ)としての、その変数の定義を含む。本明細書における態様の記述は、単一の態様としての、または他の態様もしくはその一部分と組み合わせられた、その態様を含む。
【0294】
本明細書で引用した各特許、特許出願および刊行物の開示は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。本発明は特定の態様に関連して開示されているが、本発明の他の態様および変形は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、当業者によって考案され得ることが明らかである。添付の特許請求の範囲は、全てのそのような態様および同等の変形を包含するように解釈されることが意図される。