(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】水処理システム及び水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/76 20230101AFI20241011BHJP
C02F 1/70 20230101ALI20241011BHJP
B01J 49/57 20170101ALI20241011BHJP
C02F 1/58 20230101ALI20241011BHJP
【FI】
C02F1/76 C
C02F1/70 Z
B01J49/57
C02F1/58 A
(21)【出願番号】P 2021022606
(22)【出願日】2021-02-16
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 悠介
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一重
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-531724(JP,A)
【文献】特開2020-022971(JP,A)
【文献】特開平09-038670(JP,A)
【文献】特開2003-010687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/58-1/64
C02F1/70-1/78
C02F9/00-9/20
B01J39/00-49/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともアニオン交換体が充填されたイオン交換体充填装置と、
前記アニオン交換体に
次亜臭素酸または
次亜臭素酸イオンを保持させる手段と、を有し、
次亜臭素酸または
次亜臭素酸イオンが保持された前記イオン交換体充填装置に、
尿素を含む被処理水が通水され
、
次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンを保持させる手段は、前記被処理水に次亜塩素酸または臭化物を添加する添加手段を有し、
前記イオン交換体充填装置は前記添加手段の下流に設けられ、前記アニオン交換体は、前記被処理水に添加された次亜塩素酸と反応して次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンを生成する臭化物イオン、または前記被処理水に添加された臭化物と反応して次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンを生成する次亜塩素酸または次亜塩素酸イオンを保持する、水処理システム。
【請求項2】
前
記添加手段と前記イオン交換体充填装置との間に、有機材料からなる接液部を有する水処理装置が設けられていない、請求項
1に記載の水処理システム。
【請求項3】
前記添加手段は前記被処理水に次亜塩素酸を添加し、
前記イオン交換体充填装置の下流に設けられ、前記
次亜塩素酸を除去す
る手段を有する、請求項
1または2に記載の水処理システム。
【請求項4】
前記アニオン交換体に元のイオンまたは酸を保持させる再生手段を有する、請求項
1から
3のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項5】
前記
次亜塩素酸または臭化物が添加された被処理水は1200(/h)以下の空間速度で前記イオン交換体充填装置に供給される、請求項1から
4のいずれか1項に記載の水処理システム。
【請求項6】
少なくともアニオン交換体が充填されたイオン交換体充填装置の前記アニオン交換体に
次亜臭素酸または
次亜臭素酸イオンを保持させる工程と、
前記
次亜臭素酸または
次亜臭素酸イオンが保持された前記イオン交換体充填装置に、
尿素を含む被処理水を通水する工程と、を有
し、
前記次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンを保持させる工程は、前記被処理水に次亜塩素酸または臭化物を添加することを有し、
前記イオン交換体充填装置は前記次亜塩素酸または前記臭化物の添加位置の下流に設けられ、前記アニオン交換体は、前記被処理水に添加された次亜塩素酸と反応して次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンを生成する臭化物イオン、または前記被処理水に添加された臭化物と反応して次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンを生成する次亜塩素酸または次亜塩素酸イオンを保持する、水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水処理システム及び水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
純水水質への高度な要求が顕在化するに伴って、近年、純水中に含まれる微量の有機物、特に尿素などの難分解性有機物を分解し除去する方法が検討されている。特許文献1,2には、尿素を含む被処理水に臭化ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムとを添加し、この被処理水を反応槽で滞留させることで尿素を除去する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-183275号公報
【文献】特開2012-11356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に開示された方法は被処理水を反応槽で長時間滞留させる必要があり、尿素を効率的に除去することができない。本発明は難分解性有機物をより効果的に除去することのできる水処理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の水処理システムは、少なくともアニオン交換体が充填されたイオン交換体充填装置と、アニオン交換体に次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンを保持させる手段と、を有し、次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンが保持されたイオン交換体充填装置に、尿素を含む被処理水が通水される。水処理システムは、次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンを保持させる手段は、被処理水に次亜塩素酸または臭化物を添加する添加手段を有している。イオン交換体充填装置は添加手段の下流に設けられ、アニオン交換体は、被処理水に添加された次亜塩素酸と反応して次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンを生成する臭化物イオン、または被処理水に添加された臭化物と反応して次亜臭素酸または次亜臭素酸イオンを生成する次亜塩素酸または次亜塩素酸イオンを保持する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、難分解性有機物をより効果的に除去することのできる水処理システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る純水製造装置の概略構成図である。
【
図2】第2の実施形態に係る純水製造装置の概略構成図である。
【
図3】第3の実施形態に係る純水製造装置の概略構成図である。
【
図4】第4の実施形態に係る純水製造装置の概略構成図である。
【
図5】第5の実施形態に係る純水製造装置の概略構成図である。
【
図6】第6の実施形態に係る純水製造装置の概略構成図である。
【
図7】第7の実施形態に係る純水製造装置の概略構成図である。
【
図8】第8の実施形態に係る純水製造装置の概略構成図である。
【
図9】第9の実施形態に係る純水製造装置の概略構成図である。
【
図10】第10の実施形態に係る純水製造装置の概略構成図である。
【
図11】被処理水の空間速度と尿素除去率の関係を示すグラフである。
【
図12】被処理水の通水時間と尿素除去率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の水処理システムと水処理方法の実施形態について説明する。以下に説明する純水製造装置は水処理システムの一例である。
図1(a)は本発明の第1の実施形態に係る純水製造装置1Aの概略構成を示している。純水製造装置1A(1次システム)は下流側のサブシステム(2次システム)とともに超純水製造装置を構成する。純水製造装置1Aに供給される原水(以下、被処理水という)は尿素を含む有機物を含有している。
【0009】
純水製造装置1Aは、ろ過器11、活性炭塔12、第1のイオン交換装置13、イオン交換体充填装置14、逆浸透膜装置15、紫外線照射装置(紫外線酸化装置)16、第2のイオン交換装置17、脱気装置18を有し、これらは被処理水の流通方向Dに関し上流から下流に向かって、母管L1に沿ってこの順序で直列に配置されている。被処理水は原水ポンプ(図示せず)で昇圧された後、ろ過器11で比較的粒径の大きな塵埃等が除去され、活性炭塔12で高分子有機物などの不純物が除去される。ろ過器11の構成は限定されないが、本実施形態では砂ろ過器を用いている。第1のイオン交換装置13は、カチオン交換樹脂が充填されたカチオン塔(図示せず)と、脱炭酸塔(図示せず)と、アニオン交換樹脂が充填されたアニオン塔(図示せず)と、を有し、これらは上流から下流に向けてこの順で直列に配置されている。被処理水はカチオン塔でカチオン成分を、脱炭酸塔で炭酸を、アニオン塔でアニオン成分をそれぞれ除去される。
【0010】
純水製造装置1Aは、尿素を含有する被処理水に酸化剤を添加する酸化剤添加手段21を有している。酸化剤添加手段21は反応物添加手段の一例である。酸化剤は後述するイオン交換体充填装置14に充填されたアニオン交換体に保持されたイオンまたは酸と反応して、ハロゲンオキソ酸を生成し、アニオン交換体にハロゲンオキソ酸を保持させる。従って、酸化剤添加手段21は、アニオン交換体にハロゲンオキソ酸を保持させる手段の一例である。本実施形態では、ハロゲンオキソ酸は次亜ハロゲン酸であるが、ハロゲン酸、過ハロゲン酸、亜ハロゲン酸などでもよい。安定性の面で、次亜ハロゲン酸を用いるのが好ましい。また、本実施形態では、次亜ハロゲン酸は次亜臭素酸であるが、次亜塩素酸または次亜ヨウ素酸であってもよい。酸化剤添加手段21は、酸化剤の貯蔵タンク21aと、移送ポンプ21bと、を有する。酸化剤として、次亜塩素酸、過マンガン酸、過酸化水素、過硫酸などが挙げられる。酸化剤は連続的に被処理水に添加してもよいし、間欠的に被処理水に添加してもよい。酸化剤の濃度は特に限定されないが、濃度が高いとアニオン交換体からの有機物の剥離が生じやすくなる。また、これによる後段設備の負荷も高くなる。従って、酸化剤の濃度は5mg-Cl2/L以下とすることが好ましい。
【0011】
酸化剤添加手段21の母管L1との接続部、すなわち、酸化剤の被処理水への添加部は第1のイオン交換装置13とイオン交換体充填装置14の間にある。すなわち、イオン交換体充填装置14は、酸化剤添加手段21の母管L1との接続部のすぐ下流に位置している。「すぐ下流」とは、酸化剤添加手段21の添加部とイオン交換体充填装置14との間に、有機材料からなる接液部を有する水処理装置が設けられていないことを意味する。水処理装置は被処理水に含まれる不純物を除去するための任意の装置であり、逆浸透膜、限外ろ過膜、精密ろ過膜などのろ過膜、イオン交換装置、脱気装置などを含むが、熱交換器、ポンプ、弁、計器などは含まない。
【0012】
イオン交換体充填装置14は、少なくともアニオン交換体が充填された装置である。イオン交換体充填装置14にはカチオン交換体がさらに充填されていてもよい。この場合、カチオン交換体はアニオン交換体と混床充填されるが、複床充填されてもよく、後者の場合、被処理水の流れ方向においてアニオン交換体がカチオン交換体の上流側にあることが好ましい。尿素除去効率の観点からは、イオン交換体充填装置14にはアニオン交換体だけが充填されていることがより好ましい。一方、カチオン交換体とアニオン交換体を混床充填する場合、アニオン交換体から流出する正に帯電した溶出物をカチオン交換体で吸着することができる。アニオン交換体及びカチオン交換体としてはアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂が好適に使用されるが、モノリス状ないし繊維状のアニオン交換体及びカチオン交換体を使用することもできる。イオン交換樹脂は、ゲル型、MR型のどちらでもよい。アニオン交換樹脂は限定されず、強塩基性樹脂、弱塩基性樹脂のどちらでもよい。また、イオン交換体充填装置14は、アニオン交換樹脂を充填した電気式脱イオン水製造装置(EDI)であってもよい。
【0013】
上述のように、本実施形態のアニオン交換樹脂は、酸化剤と反応してハロゲンオキソ酸を生成するイオンまたは酸を保持している。イオンはハロゲン化物イオンであり、好ましくは臭化物イオンである。酸はハロゲン化水素である。アニオン交換樹脂が臭素形である場合、アニオン交換樹脂が保持するイオンが酸化剤と反応して、次亜臭素酸が生成される。このように、アニオン交換樹脂は、酸化剤(第1の反応物)と反応するイオンまたは酸(第2の反応物)を保持し、第1の反応物と第2の反応物の反応を生じさせ、生成物(例えば次亜臭素酸)を保持する役割を負う。被処理水は1200(/h)以下の空間速度でイオン交換体充填装置14に供給されることが好ましい。空間速度が高すぎると尿素除去率が低下する。
【0014】
被処理水を、イオン交換体充填装置14に充填され次亜臭素酸を保持するアニオン交換体に接触させることで、尿素を短時間で効率的に除去することができる。尿素の大半は、被処理水がイオン交換体充填装置14を通過する数秒~数分程度の時間で除去される、従来の反応槽では数時間オーダーの滞留時間を要していたことから、反応槽と比べて極めて短時間で尿素を除去することができる。また、従来の反応槽の場合、被処理水の滞留時間を確保するために装置の大型化が避けられないが、イオン交換体充填装置14は一般的なイオン交換装置と同様の構成を有しているため、設置面積の観点からも反応槽より有利である。
【0015】
このように被処理水をハロゲンオキソ酸、特に次亜ハロゲン酸が保持されたアニオン交換体に接触させることで、尿素を短時間で効率的に除去できる理由について、発明者は以下のように考えている。ハロゲンオキソ酸がアニオン交換体上で生成、保持され、下流側への流出が抑制されることで、アニオン交換体の内部にハロゲンオキソ酸が濃縮される。被処理水はアニオン交換体の空隙(樹脂の場合は、樹脂同士の隙間)に沿って流れるため、イオン交換体充填装置14内で尿素が滞留しやすい。以上より、ハロゲンオキソ酸が尿素と接触する可能性が高くなり、短時間で尿素を除去することができる。従って、イオン交換体充填装置14には、ハロゲンオキソ酸を生成、保持するために、少なくともアニオン交換体が充填されている必要がある。
【0016】
イオン交換体充填装置14と逆浸透膜装置15との間に還元剤添加手段22が設置されている。還元剤添加手段22は被処理水中に残存した酸化剤の除去手段である。還元剤としては過酸化水素が用いられるが、亜硫酸塩を用いることもできる。還元剤添加手段22は還元剤の貯蔵タンク22aと、移送ポンプ22bと、を有している。還元剤は、移送ポンプ22bで昇圧され、イオン交換体充填装置14と逆浸透膜装置15との間で、母管L1を通る被処理水に添加される。酸化剤の除去手段は、同様の効果を有する限り還元剤添加手段22に限定されず、例えばパラジウム(Pd)等の白金族金属触媒担体、活性炭などであってもよい。あるいは、これらの酸化剤の除去手段を直列で組み合わせてもよい。なお、ハロゲンオキソ酸のアニオン交換体からの流出量は限られているが、被処理水中に流出したハロゲンオキソ酸も還元剤添加手段22で除去される。
【0017】
逆浸透膜装置15は余剰の還元剤を除去する。還元剤の除去手段は、イオン交換樹脂、電気式脱イオン装置、紫外線照射装置、白金族金属触媒担体などであってもよく、これらの還元剤除去手段は直列で組み合わせてもよい。白金族金属触媒担体は、白金族金属からなる白金族金属触媒がアニオン交換体に担持されたものである。アニオン交換体としては、アニオン交換樹脂、モノリス状有機多孔質アニオン交換体などを用いることができる。白金族金属触媒は、その触媒作用によって過酸化水素などの還元剤を分解する。白金族金属としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)などが挙げられ、これらの一種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。これらの白金族金属の中ではPtとPdが好ましく、コストの観点からはPdがさらに好ましい。白金族金属触媒担体の設置位置は、還元剤の添加位置の下流であれば特に限定されないが、後述する第2のイオン交換装置17の下流が好ましい。第2のイオン交換装置17によってアニオン成分が除去されるため、白金族金属触媒の還元剤除去性能が向上する。
【0018】
紫外線照射装置16は被処理水に紫外線を照射する。紫外線照射装置16としては、例えば254nm、185nm、172nmの少なくともいずれかの波長を含む紫外線ランプを用いることができる。イオン交換体充填装置14に充填されたアニオン交換体(及びカチオン交換体)は、酸化剤(及びハロゲンオキソ酸)に接触することで劣化し、有機物が被処理水中に流出する。この有機物は逆浸透膜装置15、紫外線照射装置16、第2のイオン交換装置17(カチオン交換体)によって分解される。この点について以下に詳細に説明する。
【0019】
次亜塩素酸などの酸化剤は酸化作用が強いため、例えば有機材料で形成された膜を容易に劣化させる。従って、本来は、本実施形態のように酸化剤をアニオン交換体などの有機構造体に接触させることは、有機材料の剥離による被処理水の水質低下を招きやすく、望ましくない。一方、被処理水をハロゲンオキソ酸が保持されたアニオン交換体に接触させることによって、尿素を短時間で且つ高効率で除去することが本願発明者により見出された。このため、本実施形態では有機材料の剥離の可能性が高まるという問題点に拘わらず、敢えて酸化剤をアニオン交換体に接触させている。そして、その結果発生する可能性のある有機物を後工程で除去するため、逆浸透膜装置15、紫外線照射装置16及び第2のイオン交換装置17を設けている。
【0020】
換言すれば、以下のように説明することもできる。本実施形態ではアニオン交換体は尿素を除去するために必須であるため、イオン交換体充填装置14のアニオン交換体は敢えて酸化剤に接触させている。しかし、それ以外の、有機材料からなる接液部を有する水処理装置(有機膜など)は、酸化剤を接触させても尿素の除去に寄与しないか、または尿素を除去する寄与度が小さい。また、酸化剤を接触させると、有機材料の劣化のために、他成分の処理性能が低下する。このため、これらの水処理装置は高濃度の酸化剤に接触させないように、イオン交換体充填装置14の後段に配置している。つまり、本実施形態では、酸化剤の被処理水への添加部とイオン交換体充填装置14との間に、酸化剤が添加された被処理水が接する、有機材料からなる接液部を有する水処理装置が設けられていない。イオン交換体充填装置14の下流側では、イオン交換体充填装置14における酸化剤の消費と、還元剤による酸化剤の分解によって、被処理水の酸化剤濃度は大幅に低下する。このため、イオン交換体充填装置14の下流側、特に還元剤添加手段22の下流側での各水処理装置からの有機材料の剥離や溶出による被処理水の水質悪化は、たとえあるとしても限定的である。要するに、本実施形態では、酸化剤に接触する、有機材料からなる接液部を有する水処理装置を、尿素除去のために必要不可欠なものだけに限定することで、尿素の除去効率の改善と有機材料の流出の抑制を両立している。
【0021】
紫外線照射装置16の下流に位置する第2のイオン交換装置17は、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが充填された再生式イオン交換樹脂塔である。紫外線照射によって被処理水中に発生する有機物の分解生成物は、第2のイオン交換装置17によって除去される。その後、被処理水中の溶存酸素、炭酸等が脱気装置18によって除去される。
【0022】
図1(b)は、イオン交換体充填装置14の近傍をより詳細に示している。純水製造装置1Aを長時間運転すると、アニオン交換体に保持され酸化剤と反応するイオンが徐々に失われていき、尿素除去性能が低下する。このため、純水製造装置1Aはアニオン交換体に元のイオンまたは酸を保持させる再生手段23を有している。純水製造装置1Aの運転を継続しながらアニオン交換体の再生を行うため、イオン交換体充填装置14は複数のイオン交換体充填装置14a,14bを有している。イオン交換体充填装置14a,14bは母管L1に接続された分岐管L2a,L2bにそれぞれ配置され、分岐管L2a,L2b上の弁V1,V2によって運転の切り替えが可能となっている。
図1(b)には、イオン交換体充填装置14aを運転しながら、イオン交換体充填装置14bのアニオン交換体の再生を行う例を示している。なお、イオン交換体充填装置の台数は2台に限定されない。純水製造装置1Aの連続運転が求められない場合、イオン交換体充填装置の台数は1台でもよい。
【0023】
再生手段23は、再生剤の貯蔵タンク23aと、使用済み再生剤の回収タンク23bと、を有している。アニオン交換樹脂が臭素形である場合、再生剤は臭化物、例えばNaBrである。貯蔵タンク23aから供給された再生剤は、分岐管L3aを通ってイオン交換体充填装置14aに供給され、回収タンク23bに回収される。同様に、貯蔵タンク23aから供給された再生剤は、分岐管L3bを通ってイオン交換体充填装置14bに供給され、回収タンク23bに回収される。再生対象のイオン交換体充填装置14a,14bの切り替えは、分岐管L3a,L3b上の弁V3,V4によって行われる。再生の際には樹脂の逆洗、水抜きなどが行われることがある。図示は省略しているが、再生手段23はこれらに必要な設備も備えている。なお、再生手段23はアニオン交換体の尿素除去性能の回復のために使用されるが、ハロゲン形のアニオン交換体を作成するためにも用いられる。所望のハロゲン形のアニオン交換体が市販されていない場合、例えばOH形のアニオン交換体を、再生手段23によって、所望のハロゲン形のアニオン交換体に変換することができる。
【0024】
次に、
図2~5を参照して、本発明の純水製造装置の他の実施形態について説明する。説明を省略した構成及び効果については第1の実施形態と同様である。これらの実施形態からわかるように、反応物添加手段21,24とイオン交換体充填装置14は不可分のセットとして純水製造装置に組み込まれ、また、このセットの設置位置は自由度が高い。
【0025】
(第2の実施形態)
図2に、第2の実施形態に係る純水製造装置1Bの概略構成を示している。酸化剤は活性炭塔12の処理水に添加される。これに伴い、イオン交換体充填装置14は酸化剤の添加部と第1のイオン交換装置13との間に設けられている。すなわち、母管L1上には、被処理水の流通方向Dに関し上流から下流に向かって、活性炭塔12、酸化剤の添加部、イオン交換体充填装置14、還元剤の添加部、第1のイオン交換装置13がこの順序で直列に配置されている。本実施形態でも、酸化剤の添加部とイオン交換体充填装置14との間に、有機材料からなる接液部を有する水処理装置が存在しないため、有機材料の剥離や溶出による被処理水の水質悪化が防止される。また、酸化剤由来の成分(本実施形態では、臭化物イオン、塩化物イオン、Naイオン)と還元剤由来の成分は、逆浸透膜装置15及び第2のイオン交換装置17だけでなく、第1のイオン交換装置13でも除去することができる。従って、第1のイオン交換装置13の後段の水処理装置の負荷を軽減することができる。
【0026】
(第3の実施形態)
図3には第3の実施形態に係る純水製造装置1Cの概略構成を示している。酸化剤はろ過装置11の上流で添加される。これに伴い、イオン交換体充填装置14が酸化剤の添加部とろ過装置11との間に設けられている。すなわち、母管L1上には、被処理水の流通方向Dに関し上流から下流に向かって、酸化剤の添加部、イオン交換体充填装置14、ろ過装置11、活性炭塔12、第1のイオン交換装置13がこの順序で直列に配置されている。なお、ろ過装置11は砂ろ過装置であるため、前述の通り酸化剤の影響を受けにくい。従って、ろ過装置11は酸化剤の添加部とイオン交換体充填装置14との間に設けてもよい。本実施形態では、イオン交換体充填装置14のアニオン交換体から微量な破砕物が流出した場合、下流のろ過装置11で除去することが可能である。また、酸化剤は活性炭塔12で除去可能なため、還元剤添加手段22を設ける必要がない。また、本実施形態でも、第2の実施形態と同様、酸化剤由来の成分と還元剤由来の成分を第1のイオン交換装置13でも除去することができる。
【0027】
(第4の実施形態)
図4には第4の実施形態に係る純水製造装置1Dの概略構成を示している。ろ過装置はイオン交換体充填装置114と一体化されている。具体的には共通の塔に砂とイオン交換体が複床混床で充填されている。本実施形態では装置のコストダウン及び装置の設置面積の低減が可能である。また、本実施形態でも、第2の実施形態と同様、酸化剤由来の成分を第1のイオン交換装置13でも除去することができる。ハロゲンオキソ酸は活性炭塔12で除去可能なため、還元剤添加手段22を設ける必要がない。
【0028】
(第5の実施形態)
図5には第5の実施形態に係る純水製造装置1Eの概略構成を示している。本実施形態では、アニオン交換体にXO、XO
2、XO
3またはXO
4(Xはハロゲン元素、またはハロゲン化水素)が保持されている。XO、XO
2、XO
3、XO
4はそれぞれ、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、ハロゲン酸、過ハロゲン酸、またはそれぞれ、次亜ハロゲン酸イオン、亜ハロゲン酸イオン、ハロゲン酸イオン、過ハロゲン酸イオンである。被処理水にはハロゲン塩などのハロゲン化物が添加される。すなわち、本実施形態の純水製造装置1Eは、尿素を含有する被処理水にハロゲン化物を添加するハロゲン化物添加手段24を有している。ハロゲン化物添加手段24は反応物添加手段の一例である。ハロゲン化物添加手段24はハロゲン化物の含有水(水溶液)の貯蔵タンク24aと、移送ポンプ24bと、を有している。ハロゲン化物の含有水は、移送ポンプ24bで昇圧され、第1のイオン交換装置13とイオン交換体充填装置14との間で、母管L1を通る被処理水に添加される。ハロゲン化物はイオン交換体充填装置14に充填されたアニオン交換体に保持されたイオンまたは酸と反応して、ハロゲンオキソ酸を生成し、アニオン交換体にハロゲンオキソ酸を保持させる。従って、ハロゲン化物添加手段24は、アニオン交換体にハロゲンオキソ酸を保持させる手段の一例である。ハロゲン化物として、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウムなどの臭化物塩が挙げられる。余剰のハロゲン化物は逆浸透膜装置15で除去される。
【0029】
本実施形態では、第1~第4の実施形態と異なり、被処理水に酸化剤が添加されない。酸化剤と異なり、ハロゲン化物は有機材料の剥離を招くことがないので、有機物が被処理水中に流出しにくくなる。このため、後段設備の負荷が低減し、紫外線照射装置16の照射量の低減などが可能となる。さらに、ハロゲン化物はイオン交換体充填装置14の上流側の任意の位置で添加することができる。純水製造装置1Eを長時間運転すると、アニオン交換体に保持されたハロゲン化物と反応するイオンが徐々に失われていき、尿素除去性能が低下する。第1~第4の実施形態と異なり、貯蔵タンク23aには酸化剤、例えば次亜塩素酸が貯蔵されている。アニオン交換体の再生工程は第1の実施形態と同様に行われる。
【0030】
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明の純水製造装置はこれらに限定されない、例えば、酸化剤添加手段21(またはハロゲン化物添加手段24)とイオン交換体充填装置14と還元剤添加手段22は、逆浸透膜装置15の下流に設けてもよい。逆浸透膜装置15を2段構成とし、前段の逆浸透膜装置と後段の逆浸透膜装置の間に、酸化剤添加手段21(またはハロゲン化物添加手段24)、イオン交換体充填装置14、還元剤添加手段22をこの順で設けてもよい。第2のイオン交換装置17は電気式脱イオン水製造装置(EDI)であってもよい。また、本発明は回収水の処理、排水の処理にも使用できる。
【0031】
上述の実施形態では酸化剤(第1~第4の実施形態)またはハロゲン化物(第5の実施形態)だけを添加しているが、これらを交互に添加することもできる。この場合、酸化剤添加手段21とハロゲン化物添加手段24の双方が母管L1に設けられる。例えば、アニオン交換樹脂がハロゲン形の場合、被処理水に、まず酸化剤が添加される。ハロゲンオキソ酸の生成に伴い、アニオン交換樹脂がハロゲン形からXO形等に変わっていく。XO形等の増加に伴い、アニオン交換樹脂に捕捉されているハロゲンイオンが減少し、尿素除去性能が低下していく。そこで、尿素除去性能がある程度低下したら酸化剤の添加を停止し、ハロゲン化物を添加する。ハロゲン化物はXO等のイオンと反応し、再びハロゲンオキソ酸を生成する。尿素除去性能がある程度低下したらハロゲン化物の添加を停止し、酸化剤を添加する。以上の工程を繰り返し行う。この方法では、イオン交換体充填装置14a,14bの切り替えは不要となる。酸化剤とハロゲン化物の添加のタイミングを制御するため、純水製造装置は、イオン交換体充填装置14の処理水の尿素濃度の測定手段と、尿素濃度に応じて酸化剤とハロゲン化物の添加を切り替える制御手段と、を備えることが望ましい。酸化剤とハロゲン化物の添加の切り替えは、尿素濃度が所定の値を上回ったタイミング、所定の時間内における尿素濃度の平均価が所定の値を上回ったタイミングなどで行うことができる。
【0032】
また、第1、第2、第5の実施形態において、ろ過装置11の上流に反応槽を設け、反応槽にハロゲンオキソ酸を添加することもできる。反応槽の被処理水にハロゲンオキソ酸が添加され、被処理水は反応槽で所定時間滞留した後、ろ過装置11に送られる。ろ過装置11にはハロゲンオキソ酸濃度の高い被処理水が供給されるが、ろ過装置11は砂ろ過装置であるため、ハロゲンオキソ酸に接することによる劣化は生じない。反応槽の構成は従来の反応槽の構成と基本的に同じである。すなわち反応槽は内部に流路を備え、被処理水が流路に沿って所定時間流れる間に尿素が除去される。ただし、本変形例では反応槽を流出した被処理水に酸化剤(またはハロゲン化物)が添加されるため、反応槽で尿素を取りきる必要はない。一般に尿素除去効率は尿素濃度が低くなるに従い低下する傾向がある。例えば、尿素濃度を当初の濃度の10%まで下げるための時間と、10%から1%まで下げるための時間は同程度である。本変形例では、反応槽は尿素を粗取りすればよいため、長い滞留時間を必要としない。従って、従来と比べて短時間での尿素の処理が可能となり、反応槽の小型化も可能となる。一方、イオン交換体充填装置14で処理する尿素の量は反応槽によって大幅に低減するため、イオン交換体充填装置14の負荷が軽減し、再生頻度が低下する。第3及び第4の実施形態ではイオン交換体充填装置14,114の上流に反応槽を設けることもできる。
【0033】
次に、尿素を含有する被処理水にハロゲンオキソ酸を添加することを特徴とするいくつかの実施形態について説明する。説明を省略した構成及び効果に関しては第1の実施形態と同様である。
【0034】
(第6の実施形態)
純水製造装置1Fは、尿素を含有する被処理水にハロゲンオキソ酸を添加するハロゲンオキソ酸添加手段25を有している。ハロゲンオキソ酸添加手段25は、アニオン交換体にハロゲンオキソ酸イオンを保持させる手段の一例である。本実施形態では、ハロゲンオキソ酸は次亜ハロゲン酸であるが、ハロゲン酸、過ハロゲン酸、亜ハロゲン酸などでもよい。安定性の面で、次亜ハロゲン酸を用いるのが好ましい。また、本実施形態では、次亜ハロゲン酸は次亜臭素酸であるが、次亜塩素酸または次亜ヨウ素酸であってもよい。ハロゲンオキソ酸添加手段25は、臭化物塩の貯蔵タンク25a(臭化物塩の供給手段)と、酸化剤の貯蔵タンク25b(酸化剤の供給手段)と、臭化物塩と酸化剤の滞留槽25c(臭化物塩と酸化剤の混合手段)と、移送ポンプ25dと、を有する。臭化物塩として、臭化ナトリウム(NaBr)や臭化カリウムなどが挙げられる。酸化剤として、次亜塩素酸塩(例えば、次亜塩素酸ナトリウム(NaClO))、過マンガン酸塩、過酸化水素、過硫酸塩などが挙げられる。次亜臭素酸は長期間の保存が困難であるため、使用するタイミングに合わせて臭化物塩と酸化剤を混合して生成する。滞留槽25cで生成された次亜臭素酸は、移送ポンプ25dで昇圧され、母管L1を通る被処理水に添加される。臭化物塩と酸化剤を直接母管L1に供給し、母管L1内の被処理水の流れによってこれらを攪拌して、次亜臭素酸を生成してもよい。次亜臭素酸は連続的に被処理水に添加してもよいし、間欠的に被処理水に添加してもよい。あるいは、ラインミキサーや、オリフィスなどを母管L1に設置し、これらの設備で乱流を作り、臭化物塩と酸化剤を混合させて、次亜臭素酸を生成してもよい。
【0035】
ハロゲンオキソ酸添加手段25の母管L1との接続部、すなわち、ハロゲンオキソ酸の被処理水への添加部は第1のイオン交換装置13とイオン交換体充填装置14の中間にある。すなわち、イオン交換体充填装置14は、ハロゲンオキソ酸添加手段25の母管L1との接続部のすぐ下流に位置し、ハロゲンオキソ酸が添加された被処理水は直ちにイオン交換体充填装置14で処理される。「すぐ下流」とは、ハロゲンオキソ酸添加手段25の添加部とイオン交換体充填装置14との間に、有機材料からなる接液部を有する水処理装置が設けられていないことを意味する。水処理装置は被処理水に含まれる不純物を除去するための任意の装置であり、逆浸透膜、限外ろ過膜、精密ろ過膜などのろ過膜、イオン交換装置、脱気装置などを含むが、熱交換器、ポンプ、弁、計器などは含まない。
【0036】
イオン交換体充填装置14は、少なくともアニオン交換体が充填された装置である。イオン交換体充填装置14にはカチオン交換体がさらに充填されていてもよい。この場合、カチオン交換体はアニオン交換体と混床充填されるが、複床充填されてもよく、後者の場合、アニオン交換体がカチオン交換体の上流側にあることが好ましい。後述の実施例1で述べるように、尿素除去効率の観点からは、イオン交換体充填装置14にはアニオン交換体だけが充填されていることがより好ましい。一方、カチオン交換体とアニオン交換体を混床充填する場合、アニオン交換体から流出する正に帯電した溶出物をカチオン交換体で吸着することができる。アニオン交換体及びカチオン交換体としてはアニオン交換樹脂及びカチオン交換樹脂が好適に使用されるが、モノリス状ないし繊維状のアニオン交換体及びカチオン交換体を使用することもできる。イオン交換樹脂は、ゲル型、MR型のどちらでもよい。アニオン交換樹脂は限定されず、強塩基性樹脂、弱塩基性樹脂のどちらでもよく、強塩基性樹脂の場合、OH形でもよいし、Cl形等であってもよい。また、イオン交換体充填装置14は、アニオン交換樹脂を充填した電気式脱イオン水製造装置(EDI)であってもよい。
【0037】
ハロゲンオキソ酸が添加された被処理水を、イオン交換体充填装置14に充填されたアニオン交換体に接触させることで、尿素を短時間で効率的に除去することができる。尿素の大半は、被処理水がイオン交換体充填装置14を通過する数秒~数分程度の時間で除去される、従来の反応槽では数時間オーダーの滞留時間を要していたことから、反応槽と比べて極めて短時間で尿素を除去することができる。また、従来の反応槽の場合、被処理水の滞留時間を確保するために装置の大型化が避けられないが、イオン交換体充填装置14は一般的なイオン交換装置と同様の構成を有しているため、設置面積の観点からも反応槽より有利である。
【0038】
このようにハロゲンオキソ酸、特に次亜ハロゲン酸が添加された被処理水をアニオン交換体に接触させることで、尿素を短時間で効率的に除去できる理由について、発明者は以下のように考えている。ハロゲンオキソ酸がアニオン交換体に接触することで、ハロゲンオキソ酸イオンがアニオン交換体に捕捉される。この結果、アニオン交換体の内部にハロゲンオキソ酸イオンが濃縮される。また、被処理水はアニオン交換体の空隙(樹脂の場合は、樹脂同士の隙間)に沿って流れるため、アニオン交換体には尿素が滞留しやすい。以上より、ハロゲンオキソ酸イオンが尿素と接触する可能性が高くなり、短時間で尿素を除去することができる。従って、イオン交換体充填装置14には、ハロゲンオキソ酸イオンを捕捉するために、少なくともアニオン交換体が充填されている必要がある。
【0039】
イオン交換体充填装置14と逆浸透膜装置15との間に還元剤添加手段22が設置されている。還元剤添加手段22は被処理水中に残存したハロゲンオキソ酸の除去手段である。還元剤としては過酸化水素が用いられるが、亜硫酸塩を用いることができる。還元剤添加手段22は還元剤の貯蔵タンク22aと、移送ポンプ22bと、を有している。還元剤は、移送ポンプ22bで昇圧され、イオン交換体充填装置14と逆浸透膜装置15との間で、母管L1を通る被処理水に添加される。ハロゲンオキソ酸の除去手段は、同様の効果を有する限り還元剤添加手段22に限定されず、例えばパラジウム(Pd)等の白金族金属触媒担体、活性炭などであってもよい。あるいは、これらのハロゲンオキソ酸の除去手段を直列で組み合わせてもよい。
【0040】
紫外線照射装置16は被処理水に紫外線を照射する。紫外線照射装置16としては、例えば254nm、185nm、172nmの少なくともいずれかの波長を含む紫外線ランプを用いることができる。イオン交換体充填装置14に充填されたアニオン交換体(及びカチオン交換体)は、酸化剤であるハロゲンオキソ酸に接触することで劣化し、有機物が被処理水中に流出する。この有機物は逆浸透膜装置15、紫外線照射装置16、第2のイオン交換装置17(カチオン交換体)によって分解される。この点について以下に詳細に説明する。
【0041】
次亜臭素酸などのハロゲンオキソ酸は酸化作用が強いため、例えば有機材料で形成された膜を容易に劣化させる。従って、本来は、本実施形態のようにハロゲンオキソ酸をアニオン交換体などの有機構造体に接触させることは、有機材料の剥離による被処理水の水質低下を招きやすく、望ましくない。一方、ハロゲンオキソ酸が添加された被処理水をアニオン交換体に接触させることによって、尿素を短時間で且つ高効率で除去することが本願発明者により見出された。このため、本実施形態では有機材料の剥離の可能性が高まるという問題点に拘わらず、敢えてハロゲンオキソ酸が添加された被処理水をアニオン交換体に接触させている。そして、その結果発生する可能性のある有機物を後工程で除去するため、逆浸透膜装置15、紫外線照射装置16及び第2のイオン交換装置17を設けている。
【0042】
換言すれば、以下のように説明することもできる。本実施形態ではアニオン交換体は尿素を除去するために必須であるため、イオン交換体充填装置14のアニオン交換体は敢えてハロゲンオキソ酸に接触させている。しかし、それ以外の、有機材料からなる接液部を有する水処理装置(有機膜など)は、ハロゲンオキソ酸を接触させても尿素の除去に寄与しないか、または尿素を除去する寄与度が小さい。また、ハロゲンオキソ酸を接触させると、有機材料の劣化のために、他成分の処理性能が低下する。このため、これらの水処理装置は高濃度のハロゲンオキソ酸に接触させないように、イオン交換体充填装置14の後段に配置している。つまり、本実施形態では、ハロゲンオキソ酸の被処理水への添加部とイオン交換体充填装置14との間に、ハロゲンオキソ酸が添加された被処理水が接する、有機材料からなる接液部を有する水処理装置が設けられていない。イオン交換体充填装置14の下流側では、イオン交換体充填装置14におけるハロゲンオキソ酸の消費と、還元剤によるハロゲンオキソ酸の分解によって、被処理水のハロゲンオキソ酸濃度は大幅に低下する。このため、イオン交換体充填装置14の下流側、特に還元剤添加手段22の下流側での各水処理装置からの有機材料の剥離や溶出による被処理水の水質悪化は、たとえあるとしても限定的である。要するに、本実施形態では、ハロゲンオキソ酸に接触する、有機材料からなる接液部を有する水処理装置を、尿素除去のために必要不可欠なものだけに限定することで、尿素の除去効率の改善と有機材料の流出の抑制を両立している。
【0043】
次に、
図7~10を参照して、本発明の純水製造装置の他の実施形態について説明する。説明を省略した構成及び効果については第6の実施形態と同様である。これらの実施形態からわかるように、ハロゲンオキソ酸添加手段25とイオン交換体充填装置14は不可分のセットとして純水製造装置に組み込まれ、また、このセットの設置位置は自由度が高い。
【0044】
(第7の実施形態)
図7に、第7の実施形態に係る純水製造装置1Gの概略構成を示している。ハロゲンオキソ酸は活性炭塔12の処理水に添加される。これに伴い、イオン交換体充填装置14はハロゲンオキソ酸の添加部と第1のイオン交換装置13との間に設けられている。すなわち、母管L1上には、被処理水の流通方向Dに関し上流から下流に向かって、活性炭塔12、ハロゲンオキソ酸の添加部、イオン交換体充填装置14、還元剤の添加部、第1のイオン交換装置13がこの順序で直列に配置されている。本実施形態でも、ハロゲンオキソ酸の添加部とイオン交換体充填装置14との間に、有機材料からなる接液部を有する水処理装置が存在しないため、有機材料の剥離や溶出による被処理水の水質悪化が防止される。また、酸化剤由来の成分(本実施形態では、臭化物イオン、塩化物イオン、Naイオン)と還元剤由来の成分は、逆浸透膜装置15及び第2のイオン交換装置17だけでなく、第1のイオン交換装置13でも除去することができる。従って、第1のイオン交換装置13の後段の水処理装置の負荷を軽減することができる。
【0045】
(第8の実施形態)
図8に、第8の実施形態に係る純水製造装置1Hの概略構成を示している。ハロゲンオキソ酸はろ過装置11の上流と下流の2か所で添加される。具体的には、ろ過装置11の下流にハロゲンオキソ酸添加手段25が接続されている。ろ過装置11の上流に反応槽20が設けられ、反応槽20に他のハロゲンオキソ酸添加手段26が接続されている。図示は省略するが、反応槽20の上流に他のハロゲンオキソ酸添加手段26が接続されていてもよい。ハロゲンオキソ酸添加手段25と他のハロゲンオキソ酸添加手段26は、貯蔵タンク25a,25b、滞留槽25c及び移送ポンプ25dを共用しているが、これらの設備はハロゲンオキソ酸添加手段25と他のハロゲンオキソ酸添加手段26で別々に設けてもよい。反応槽20の被処理水にハロゲンオキソ酸が添加され、被処理水は反応槽20で所定時間滞留した後、ろ過装置11に送られる。ろ過装置11にはハロゲンオキソ酸濃度の高い被処理水が供給されるが、ろ過装置11は砂ろ過装置であるため、ハロゲンオキソ酸に接することによる劣化は生じない。また、ハロゲンオキソ酸は活性炭塔12で除去可能なため、還元剤添加手段22を設ける必要がない。
【0046】
反応槽20の構成は従来の反応槽の構成と基本的に同じである。すなわち反応槽20は内部に流路(図示せず)を備え、被処理水が流路に沿って所定時間流れる間に尿素が除去される。ただし、本実施形態では反応槽20を流出した被処理水に再度ハロゲンオキソ酸が添加されるため、反応槽20で尿素を取りきる必要はない。一般に尿素除去効率は尿素濃度が低くなるに従い低下する傾向がある。例えば、尿素濃度を当初の濃度の10%まで下げるための時間と、10%から1%まで下げるための時間は同程度である。本実施形態では、反応槽20は尿素を粗取りすればよいため、長い滞留時間を必要としない。従って、従来と比べて短時間での尿素の処理が可能となり、反応槽20の小型化も可能となる。一方、イオン交換体充填装置14で処理する尿素の量は反応槽20によって大幅に低減するため、イオン交換体充填装置14の負荷が軽減する。これによりアニオン交換体(及びカチオン交換体)の交換頻度が低減し、アニオン交換体(及びカチオン交換体)の劣化による有機物の発生量も低減する。なお、本実施形態のハロゲンオキソ酸添加手段25はろ過装置11の出口で母管L1に接続されている。しかし、ハロゲンオキソ酸添加手段25の接続部の位置はこれに限定されず、ハロゲンオキソ酸添加手段25は他の実施形態の位置で母管L1に接続されてもよい。
【0047】
反応槽20は省略することもできる。また、ハロゲンオキソ酸添加手段25と他のハロゲンオキソ酸添加手段26はいずれかだけを設けてもよいし、両方を設けてもよい。例えば、反応槽20を設け、ハロゲン酸添加手段として他のハロゲンオキソ酸添加手段26だけを設けた場合、反応槽20で消費されなかったハロゲンオキソ酸を、イオン交換体充填装置14に充填されたアニオン交換体に接触させることができる。また、本実施形態でも、第2の実施形態と同様、酸化剤由来の成分と還元剤由来の成分を第1のイオン交換装置13でも除去することができる。
【0048】
(第9の実施形態)
図9には第9の実施形態に係る純水製造装置1Jの概略構成を示している。ハロゲンオキソ酸はろ過装置11の上流で添加される。これに伴い、イオン交換体充填装置14がハロゲンオキソ酸の添加部とろ過装置11との間に設けられている。すなわち、母管L1上には、被処理水の流通方向Dに関し上流から下流に向かって、ハロゲンオキソ酸の添加部、イオン交換体充填装置14、ろ過装置11、活性炭塔12、第1のイオン交換装置13がこの順序で直列に配置されている。なお、ろ過装置11は砂ろ過装置であるため、前述の通りハロゲンオキソ酸の影響を受けにくい。従って、ろ過装置11はハロゲンオキソ酸の添加部とイオン交換体充填装置14との間に設けてもよい。本実施形態では、イオン交換体充填装置14のアニオン交換体から微量な破砕物が流出した場合、下流のろ過装置11で除去することが可能である。また、ハロゲンオキソ酸は活性炭塔12で除去可能なため、還元剤添加手段22を設ける必要がない。本実施形態でも、第3の実施形態と同様、イオン交換体充填装置14の上流に反応槽20を設けることができる。また、本実施形態でも、第2の実施形態と同様、酸化剤由来の成分と還元剤由来の成分を第1のイオン交換装置13でも除去することができる。
【0049】
(第10の実施形態)
図10には第10の実施形態に係る純水製造装置1Kの概略構成を示している。ろ過装置はイオン交換体充填装置114と一体化されている。具体的には共通の塔に砂とイオン交換体が複床混床で充填されている。本実施形態では装置のコストダウン及び装置の設置面積の低減が可能である。また、本実施形態でも、第2の実施形態と同様、酸化剤由来の成分と還元剤由来の成分を第1のイオン交換装置13でも除去することができる。ハロゲンオキソ酸は活性炭塔12で除去可能なため、還元剤添加手段22を設ける必要がない。
【0050】
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明の純水製造装置はこれらに限定されない、例えば、ハロゲンオキソ酸添加手段25とイオン交換体充填装置14と還元剤添加手段22は、逆浸透膜装置15の下流に設けてもよい。逆浸透膜装置15を2段構成とし、前段の逆浸透膜装置と後段の逆浸透膜装置の間に、ハロゲンオキソ酸添加手段25、イオン交換体充填装置14、還元剤添加手段22をこの順で設けてもよい。第2のイオン交換装置17は電気式脱イオン水製造装置(EDI)であってもよい。また、本発明は回収水の処理、排水の処理にも使用できる。
【0051】
以上の各実施形態において、ハロゲンオキソ酸はpHによってイオンまたは酸として存在することがある。ハロゲンオキソ酸とはこれらの形態を総称したものである。
【0052】
(実施例1)
実施例1は第1~第4の実施形態に対応する。超純水に尿素を添加して作成した被処理水を、イオン交換装置を模擬したカラムに通水して、尿素除去率を測定した。カラムにはイオン交換樹脂を100mL充填し、被処理水を流量12L/h(SV120(/h))で通水した。尿素の添加量は、尿素濃度が80μg/Lとなるように調整した。酸化剤として次亜塩素酸(HClO)を2mg-Cl2/L(塩素換算濃度)の濃度で添加した。次亜塩素酸の濃度は残塩濃度計(HANNA製)を用いて測定した。比較例1ではOH形のアニオン交換樹脂だけをカラムに100mL充填した。アニオン交換樹脂としてAMBERJET 4002 OH型(オルガノ(株)製)を用いた。実施例1では臭素形のアニオン交換樹脂だけをカラムに100mL充填した。臭素形のアニオン交換樹脂は、AMBERJET 4002 OH型にNaBr含有水を、カラムの入口と出口の臭素濃度が同じになるまで通液して作成した。尿素除去率は、カラムの入口側における被処理水の尿素濃度をC1,カラムの処理水の尿素濃度をC2としたときに、(C1-C2)/C1×100(%)として求めた。尿素濃度はICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)にて測定した。尿素除去率は実施例1で80%、比較例で3%であった。これより、次亜塩素酸を添加した被処理水を臭素形のアニオン交換樹脂と接触させることで、尿素が効率的に除去されることが分かった。
【0053】
表1に示すように、実施例1では、アニオン交換樹脂中の臭素濃度の減少に伴い、140時間後に尿素除去率が70%まで低下した。そこで、尿素と次亜塩素酸の添加を停止し、NaBr含有水をカラムに通水し、カラム中のアニオン交換樹脂を臭素形に再生させた。150時間後に、NaBr含有水の供給を停止し(再生工程を停止し)、再び尿素と次亜塩素酸の添加を開始した。160時間後に尿素除去率は80%まで回復した。
【0054】
【0055】
(実施例2)
実施例2は第5の実施形態に対応する。実施例2では、ClO形のアニオン交換樹脂だけをカラムに100mL充填し、尿素とNaBr(ハロゲン塩)を添加した被処理水をカラムに通水した。ClO形のアニオン交換樹脂はAMBERJET 4002 OH型にHClO含有水を、カラムの入口と出口のClO濃度が同じになるまで通液して生成した。その他の説明を省略した条件等は実施例1と同様である。尿素除去率は80%であった。これより、NaBrを添加した被処理水をClO形のアニオン交換樹脂と接触させることで、尿素が効率的に除去されることが分かった。
【0056】
表2に示すように、実施例2では、アニオン交換樹脂中のClO濃度の減少に伴い、30時間後に尿素除去率が60%まで低下した。そこで、尿素とNaBr含有水の添加を停止し、HClO含有水をカラムに通水し、カラム中のアニオン交換樹脂をClO形に再生させた。60時間後に、HClO含有水の供給を停止し(再生工程を停止し)、再び尿素とNaBr含有水の添加を開始した。80時間後に尿素除去率は80%まで回復した。
【0057】
【0058】
(実施例3)
超純水にハロゲンオキソ酸を添加して作成した被処理水を、イオン交換装置を模擬したカラムに通水して、尿素除去率を測定した。カラムにはイオン交換樹脂を100mL充填し、被処理水を流量12L/h(SV120(/h))で通水した。尿素の添加量は、尿素濃度が80μg/Lとなるように調整した。ハロゲンオキソ酸として次亜臭素酸を2mg-Cl2/L(塩素換算濃度)の濃度で添加した。臭化物塩としてNaBrを、酸化剤としてNaClOをそれぞれ選定し、次亜臭素酸は、NaBrとNaClOとを混合して生成した。次亜臭素酸の濃度は試料水にグリシンを添加し、遊離塩素を結合塩素に変化させた後、遊離塩素試薬にて残塩濃度計(HANNA製)を用いて測定した。比較例3ではカチオン交換樹脂だけをカラムに100mL充填した。実施例3-1ではアニオン交換樹脂だけをカラムに100mL充填した。実施例3-2ではアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂を容積比2:1で、合計100mLとなるようにカラムに混床充填した。カチオン交換樹脂としてAMBERJET 1024 H型(オルガノ(株)製)を、アニオン交換樹脂としてAMBERJET 4002 OH型(オルガノ(株)製)を用いた。尿素除去率は、カラムの入口側における被処理水の尿素濃度をC1,カラムの処理水の尿素濃度をC2としたときに、(C1-C2)/C1×100(%)として求めた。尿素濃度はICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)にて測定した。尿素除去率は実施例3-1で98%、実施例3-2で95%、比較例3で0.5%であった。これより、次亜臭素酸を含む被処理水をアニオン交換体と接触させることで、尿素が効率的に除去されることが分かった。
【0059】
(実施例4)
実施例3と同様の装置を用いて、被処理水がカラムに供給される空間速度をパラメータとして尿素除去率を求めた。具体的には、実施例3-1の条件で複数のSV(120,240,500,1000,1200)(単位(/h))に対する尿素除去率を求めた。アニオン交換樹脂の添加量はすべてのSVで100mLとして、被処理水の通水流量を変化させた。
図11にSVと尿素除去率の関係を示す。SVが小さいほど被処理水とアニオン交換体の接触時間が長くなるため尿素除去率が向上する。SVが大きいほど尿素除去率は減少するが、SV1200(/h)でも44%の除去率が実現されており、純水の要求水質によってはこの程度でも十分な効果が得られる。従って、被処理水は1200(/h)以下の空間速度SVでイオン交換体充填装置14に供給されることが好ましく、70%以上の尿素除去率を得ようとする場合はSV500(/h)以下とすることが好ましく、90%以上の尿素除去率を得ようとする場合はSV240(/h)以下とすることが好ましい。
【0060】
(実施例5)
実施例3と同様の装置を用いて、尿素除去率と、被処理水のイオン交換体充填装置14への通水時間と、の関係を求めた。具体的には、実施例3-1と同じ条件で超純水に尿素と次亜塩素酸を添加し、被処理水を作成した。この被処理水を、BrO
-の累積供給量がアニオン交換樹脂のイオン交換容量の約2倍当量に達するまで、通水流量120L/hで通水した(通水時間は約700時間)。
図12に通水時間と尿素除去率の関係を示す。使用したアニオン交換樹脂は非再生型であるが、長時間の通水に対しても良好な尿素除去率を維持した。従って、イオン交換体充填装置14を非再生式とすることで、長期間の運転が可能であり、再生も不要となる。
【符号の説明】
【0061】
1A~1K 純水製造装置
11 ろ過器
12 活性炭塔
13 第1のイオン交換装置
14 イオン交換体充填装置
15 逆浸透膜装置
16 紫外線照射装置(紫外線酸化装置)
17 第2のイオン交換装置
18 脱気装置
21 酸化剤添加手段(反応物添加手段)
22 還元剤添加手段
23 再生手段
24 ハロゲン化物添加手段(反応物添加手段)
25 ハロゲンオキソ酸添加手段
26 他のハロゲンオキソ酸添加手段