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特許7570251バイオセンサおよびそれを用いた測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】バイオセンサおよびそれを用いた測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/327 20060101AFI20241011BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
G01N27/327 353Z
G01N27/327 353F
G01N27/327 353R
G01N27/416 338
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021024146
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2021156877
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2020058700
(32)【優先日】2020-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 彩乃
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0184534(US,A1)
【文献】国際公開第2019/204578(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/117092(WO,A1)
【文献】特開2019-035749(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013138(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/043146(WO,A1)
【文献】特表2012-517597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/327,27/416,27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基材と、前記絶縁性基材上に設けられた、作用極と対極を含む電極対と、前記電極対のうちの少なくとも作用極上に載置された、酸化還元酵素および電子伝達物質を有する試薬と、を含み、前記電極対に供給された試料中の測定対象物質を、前記試薬を用いて測定するためのバイオセンサであって、
前記作用極はニッケル-バナジウム合金で構成されることを特徴とする、
バイオセンサ。
【請求項2】
前記ニッケル-バナジウム合金はニッケルとバナジウムの割合が重量比で80:20~9
5:5である、
請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記ニッケル-バナジウム合金はニッケルとバナジウムの割合が重量比で85:15~9
5:5である、
請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項4】
前記ニッケル-バナジウム合金はニッケルとバナジウムの割合が重量比で90:10~9
4:6である、
請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項5】
前記電子伝達物質がルテニウム錯体またはフェリシアン化物である、請求項1~4のいずれか一項に記載のバイオセンサ。
【請求項6】
前記試薬はクエン酸緩衝剤またはリン酸クエン酸緩衝剤を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のバイオセンサ。
【請求項7】
前記作用極上の前記試薬が載置された部分において、前記試薬中に含まれるクエン酸のモル濃度は1.5μmol/cm~22μmol/cmである、請求項6に記載のバイオセンサ。
【請求項8】
前記酸化還元酵素はグルコースデヒドロゲナーゼであり、前記測定対象物質はグルコース
である、請求項1~7のいずれか一項に記載のバイオセンサ。
【請求項9】
前記絶縁性基材上にコンタクトメタルが積層され、前記コンタクトメタル上に前記ニッケル-バナジウム合金が積層されることによって前記作用極が形成されており、前記作用極
を形成する前記ニッケル-バナジウム合金と前記コンタクトメタルとの合計厚みは10μ
m~55μmである、請求項1~8のいずれか一項に記載のバイオセンサ。
【請求項10】
前記コンタクトメタルは物理蒸着によって前記絶縁性基材上に積層されており、
前記ニッケル-バナジウム合金は物理蒸着によって、前記コンタクトメタル上に積層され
ており、
前記コンタクトメタルと前記ニッケル-バナジウム合金を、前記絶縁性基材上から一部除
去することによって前記電極対を含む電極群が形成されている、請求項9に記載のバイオセンサ。
【請求項11】
請求項1~1のいずれか一項に記載のバイオセンサが有する前記電極対に前記測定対象物質を含む前記試料を供給する工程、当該電極対の間に電圧を印加する工程、当該電極対の間に流れる電流の値を測定する工程、および測定された電流値に基づいて前記測定対象物質の量を算出する工程を含む、測定対象物質の測定方法。
【請求項12】
前記作用極に印加される電圧は、前記電極対の対極に対して+50mV~+500mVの電圧である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、バイオセンサおよびそれを用いた測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオセンサは一般的には酸化還元酵素や電子伝達物質等を含む試薬を載置した電極を含むが、その電極素材としては、カーボン、金およびパラジウムなどが一般的に使用される。カーボンは安価であるがスクリーン印刷が必要であり、電極製造における製造時の環境に依存する抵抗値のばらつきのコントロールが容易ではないという問題がある。また、金やパラジウムなどの貴金属は高精度の電極加工が容易であるが、カーボンと比較して高価である。そこで、安価かつ加工もしやすい卑金属(イオン化傾向が水素より大きい金属)を電極として用いることが考えられるが、卑金属は劣化が速く、電圧を印加した場合に溶出しやすいという問題がある。
【0003】
特許文献1~3には卑金属の合金であるニッケルクロム合金やニッケル銅合金などをバイオセンサの電極材料として使用することが開示されている。しかしながら、電子伝達物質などの試薬中の成分に対する応答性やバックグラウンド電流低減の観点などから改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-503080号公報
【文献】国際公開2015060119号パンフレット
【文献】特表2013-518264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安価かつ簡便に作成可能であり、再現性が高いグルコース等の測定対象物質の濃度測定を行うことのできるバイオセンサを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、酸化還元酵素および電子伝達物質を有する試薬が少なくとも作用極に載置されたバイオセンサにおいて、作用極の電極素材として特定のニッケル合金を用いることで、卑金属の合金であるにもかかわらず、貴金属電極に近い電子伝達物質の応答性を有するバイオセンサを安価かつ簡便に製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明の一態様は、絶縁性基材と、前記絶縁性基材上に設けられた電極対と、前記電極対のうちの少なくとも作用極上に載置された、酸化還元酵素および電子伝達物質を有する試薬と、を含み、前記電極対に供給された試料中の測定対象物質を、前記試薬を用いて測定するためのバイオセンサであって、前記作用極はニッケル-バナジウム合金、ニッケル-タングステン合金およびニッケル-ルテニウム合金から選択される1種類以上のニッケル合金で構成されることを特徴とする、バイオセンサ、に関する。
本発明の他の一態様は、前記バイオセンサが有する前記電極対に前記測定対象物質を含む前記試料を供給する工程、当該電極対の間に電圧を印加する工程、当該電極対の間に流れる電流の値を測定する工程、および測定された電流値に基づいて前記測定対象物質の量を算出する工程を含む、測定対象物質の測定方法、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定のニッケル合金をバイオセンサの作用極に用いることで貴金属電極に近い電子伝達物質の応答性を得ることができる。これにより、グルコースなどの測定対象物質を再現性が高く測定可能なバイオセンサを安価かつ簡便に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の一実施形態にかかるバイオセンサの製造方法の一例を示す工程図であり、(a)~(f)は、各工程でのバイオセンサの模式図を示す。
図2図2は、図1のバイオセンサ製造工程において、(b)の状態におけるb’-b’線切断部断面図を示す。
図3図3は、本発明のバイオセンサを備えた測定装置の一態様を示す模式図である。
図4図4は、本発明のバイオセンサを備えた測定装置を用いた測定プログラムの一態様を示すフローチャート図である。
図5図5は、電子伝達物質を試薬に含み、Au、Niまたは各種Ni合金を素材とする電極対を備えたバイオセンサを使用し、サイクリックボルタンメトリーを行ったときのピーク電流値の測定結果を示す図である。電子伝達物質の濃度を変えた電極を用いて測定を行い、ピーク電流値をプロットした。(A)は電子伝達物質としてルテニウム錯体を用いた場合、(B)は電子伝達物質としてフェリシアン化物を用いた場合の結果である。
図6図6は、試薬に各種緩衝剤(200mM)を用いた電極を有するバイオセンサを用いて測定を行い、グルコース濃度と電流値の関係を調べた結果を示すグラフである。
図7図7は、図6のグラフにおける、傾きをグルコース低濃度域(0~67mg/dl)と高濃度域(67~134mg/dl)で調べた結果を示すグラフである。
図8図8は、チタンからなるコンタクトメタル上にニッケル-バナジウム合金で電極が形成されたバイオセンサにおいて、ニッケル-バナジウム合金とチタンのそれぞれの厚みを変化した場合の応答電流値を調べた結果を示したものである。*、×、△、〇はそれぞれ、5秒以内に応答電流値急落発生、5秒以内に応答電流値が途中上昇発生、5秒値が20μA以上の応答電流値ばらつき、問題なし、を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について説明する。なお、数値範囲について「A~B」と記載する場合は、A以上、B以下を意味する。
【0011】
(バイオセンサ)
本発明のバイオセンサは、基材と、前記基材上に設けられた電極対と、前記電極対のうちの少なくとも作用極上に載置された試薬と、を含み、前記電極対に供給された試料中の測定対象物質を、前記試薬を用いて測定するためのバイオセンサであって、
前記作用極はニッケル-バナジウム合金(Ni-V合金)、ニッケル-タングステン合金(Ni-W合金)およびニッケル-ルテニウム合金(Ni-Ru合金)から選択される1種類以上のニッケル合金(以下、Ni合金と呼ぶこともある)で構成されることを特徴とする。
【0012】
(電極対)
本発明のバイオセンサにおける電極対は、作用極と対極を含むが、電極の数は限定されない。例えば、本発明のバイオセンサは作用極と対極を含む電極対に加えて、参照電極を含む3電極系のバイオセンサであってもよい。本発明のバイオセンサはまた、前記作用極と対極を含む電極対(以下、第一の電極対と呼ぶことがある)に加えて、測定対象物質以外の物理的な数値(試料中の別の測定対象物質の数値や、試料の温度など)を測定するため
の作用極と対極を含む電極対(以下、第二の電極対と呼ぶことがある)を有するバイオセンサであってもよい。
【0013】
作用極にはニッケル合金を用いることができ、本発明では、ニッケル-バナジウム合金、ニッケル-タングステン合金およびニッケル-ルテニウム合金からなる群より選択される1種類以上のニッケル合金を用いる。
【0014】
ニッケル-バナジウム合金におけるニッケルとバナジウムの割合は、重量比で80:20~95:5が好ましく、85:15~95:5がより好ましく、90:10~94:6がさらに好ましく、92:8が最も好ましい。
【0015】
ニッケル-タングステン合金におけるニッケルとタングステンの割合は、重量比で70:30~90:10が好ましく、75:25~85:15がより好ましく、80:20~82:18がさらに好ましいく、81:19が最も好ましい。
【0016】
ニッケル-ルテニウム合金におけるニッケルとルテニウムの割合は、重量比で60:40~40:60が好ましく、55:45~45:55がより好ましく、52:48~48:52がさらに好ましく、50:50が最も好ましい。
【0017】
なお、対極の電極素材は特に限定されないが、例えば、白金などの金属電極やカーボン電極を用いることができる。なお、対極として銀/塩化銀電極を用いてもよいし、上記のようなニッケル合金電極を用いてもよい。好ましくは、安価かつ簡便に作成可能である点で、作用極と同じニッケル合金である。
また、参照電極などの別の電極の電極素材は特に限定されないが、例えば、白金などの金属電極やカーボン電極、銀/塩化銀電極、標準水素電極、カロメル電極、パラジウム・水素電極などを用いることができるが、好ましくは安価かつ簡便に作成可能である点で、作用極と同じニッケル合金とすることができる。
なお、本発明のバイオセンサが前記第一の電極対および前記第二の電極対を有するバイオセンサである場合、当該第二の電極対における作用極と対極の電極素材もまた、それぞれ、上記で説明した作用極用電極素材および対極用電極素材とすることができ、好ましくは、安価かつ簡便に作成可能である点で、前記第一の電極対における作用極と対極、および前記第二の電極対における作用極と対極は全て同じニッケル合金である。
【0018】
(基材)
電極対を含む電極は基材上に設けられるが、基材としては、絶縁性基材が用いられる。絶縁性基材の種類は特に制限されないが、例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)のような各種の熱可塑性樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂のような各種の熱硬化性樹脂、ガラス、セラミック、紙のような絶縁性材料で形成される。電極、または後述のコンタクトメタルの基材上への固定力を高める観点で、表面の算術平均粗さであるRa値が1μm以上の素材が好ましい。Ra値が1μm未満の基材の場合、表面が平らなため、電極やコンタクトメタルの接着性が低くなる。なお、電極および基材の大きさ、厚さは適宜設定可能であるが、特に電極の厚さは、1μm~100μmが好ましい。
【0019】
(コンタクトメタル)
電極対を含む電極は基材上に積層されて設けられるが、基材と電極の間にコンタクトメタルを積層されて設けることが好ましい。絶縁性基材上にニッケル合金を設ける場合、バイオセンサに外部から力が加えられた場合や、電圧を印加した場合に、ニッケル合金が絶縁性基材上から剥離したり、ニッケル合金に孔が発生してしまうことがある。そこで、絶縁性基材上におけるニッケル合金の接着力を高めるためにコンタクトメタルを設けることが
好ましい。
本発明のバイオセンサにおいて、作用極のみがニッケル合金で形成されている場合は作用極と基材の間にコンタクトメタルを積層されて設ければよいが、作用極と対極のいずれもがニッケル合金で形成されている場合は作用極と基材の間および対極と基材の間にコンタクトメタルを積層されて設けることが好ましい。
コンタクトメタルの種類は、電極を構成するニッケル合金を基材に強く固定できるのであれば特に制限されないが、例えば、チタン、モリブデン、タングステン、クロム、鉄のいずれかの金属で形成され、好ましくはチタンで形成される。なお、コンタクトメタルの厚さは適宜設定可能であるが、固定力の観点から5μm~100μmが好ましい。また、ニッケル合金とコンタクトメタルの合計厚みは基材の凹凸の影響を受けないように、10μm~55μmであることが好ましい。
【0020】
電極がニッケル-バナジウム合金でコンタクトメタルがチタンの場合には、チタンの厚みをx、ニッケル-バナジウム合金をyとした場合に、以下の範囲を満たすことが好ましい。
1)7μm≦x≦52μm
2)3μm≦y≦25μm
3)y=-11/16x+155/4
【0021】
(試薬)
本発明のバイオセンサにおいて、試薬は電極対のうちの少なくとも作用極上に載置される。
試薬が載置される作用極上の位置は特に制限されないが、好ましくは、作用極に電圧を印加するための電源に接続される端部とは異なるもう一方の端部またはその近傍である。
なお、試薬は電極対を構成する作用極および対極の両方に載置されてもよく、さらに、作用極または作用極および対極の周辺の基材上、または作用極および対極の間の基材上にも載置されてもよい。また、試薬は作用極上に連続的に載置されていることが好ましく、また、厚みを有する層構造で載置されていることが好ましい。なお、本発明のバイオセンサが、測定対象物質測定のための作用極と対極を含む前記第一の電極対以外に、測定対象物質以外の物理的な数値を測定するための作用極と対極を含む前記第二の電極対を有する場合には、当該第二の電極対上には試薬が載置されていてもよいし、載置されていなくてもよい。例えば、測定対象物質以外の物理的な数値がヘマトクリット値である場合には、国際公開2005/103669に開示されるように対極のみに試薬の一部を載置される構成であってもよいし、特開2019-035748に開示されるように試薬が載置されない構成であってもよい。
【0022】
試薬に含まれる試薬は測定対象物質の検出反応に使用される試薬であれば特に制限されないが、酸化還元酵素と電子伝達物質を少なくとも含む。
【0023】
(酸化還元酵素)
酸化還元酵素は、測定対象物質を基質とし、測定対象物質を酸化還元しうる酵素であればよいが、触媒サブユニットおよび触媒ドメインとして、ピロロキノリンキノン(PQQ)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)のうち少なくとも一方を含む酸化還元酵素が例示される。
測定対象物質がグルコースの場合は、例えば、グルコースデヒドロゲナーゼまたはグルコースオキシダーゼを使用でき、グルコースデヒドロゲナーゼとして具体的には、PQQグルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)、FADを含んだαサブユニットを持つシトクロムグルコースデヒドロゲナーゼ(CyGDH)が挙げられる。その他、Agrobacterium tumefasience由来のグルコース-3-デヒドロゲナーゼ(Glucose-3-Dehydrogenase)が挙げられる。
また、酸化還元酵素は、電子伝達サブユニット若しくは、電子伝達ドメインを含むことができる。測定対象物質がグルコースの場合は、電子伝達サブユニットとしては、例えば、電子授受の機能を持つヘムを有するサブユニット挙げられる。このヘムを有するサブユニットを含む酸化還元酵素としては、シトクロムを含むものが挙げられ、例えば、シトクロムを含むグルコースデヒドロゲナーゼや、PQQGDHとシトクロムとの融合蛋白質を適用することができる。なお、PQQGDHとシトクロムとの融合蛋白質は、例えば、国際公開2005/030807号公報に開示されている。
【0024】
また、グルコース以外の測定対象物質の場合、酸化還元酵素として、コレステロールオキシダーゼ、キノヘムエタノールデヒドロゲナーゼ(QHEDH (PQQ Ethanoldh))、ソルビトールデヒドロゲナーゼ(Sorbitol DH)、D-フルクトースデヒドロゲナーゼ(Fructose DH)、セロビオースデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、尿酸オキシダーゼ等が挙げられる。
【0025】
したがって、本発明のバイオセンサは、グルコースセンサだけでなく、コレステロールセンサ、エタノールセンサ、ソルビトールセンサ、フルクトースセンサ、セロビオースセンサ、乳酸センサ、尿酸センサなどとしても使用できる。
【0026】
(電子伝達物質)
試薬に含まれる電子伝達物質は、測定対象物質と酸化還元酵素との反応によって生じた電子を受け取り、更に電極へ電子を受け渡すことができる物質であり、メディエータとも呼ばれる。
【0027】
電子伝達物質としては、酸化還元酵素から電子を受け取って還元され、電極で再酸化される、触媒作用のない化合物であればよいが、例えば、ルテニウム錯体、フェリシアン化カリウムなどのフェリシアン化物(ヘキサシアノ鉄(III)酸塩ともいう)、キノン化合物(例えば、1,4-Naphthoquinone、VK3、9,10-Phenanthrenequinone、1,2-Naphthoquinone、p-Xyloquinone、Methylbenzoquinone、2,6-Dimethylbenzoquinone、Sodium 1,2-Naphthoquinone-4-sulfonate、1,4-Anthraquinone、Tetramethylbenzoquinone、Thymoquinone)、フェニレンジアミン化合物(例えば、N, N-Dimethyl-1,4-phenylenediamine、N, N, N’,
N’-tetramethyl-1, 4-phenylenediamine dihydrochloride)、1-Methoxy-PMS(1-Methoxy-5-methylphenazinium methylsulfate)、CoenzymeQ0、AZURE A Chloride 、Phenosafranin 、6-Aminoquinoxaline、Tetrathiafulvalene等が挙げられ、これらは単独で使用してもよいし、2種以上で併用してもよい。
【0028】
なお、ルテニウム錯体としては、3価ルテニウム(Ru(III))と配位子からなるルテニウム錯体であることが好ましく、下記のようなルテニウムアンモニア錯体がより好ましい。
[Ru(NHX]n+
ここで、Xとしては、NH3、ハロゲンイオン、CN、ピリジン、ニコチンアミド、ビピリジン又はH2O等が挙げられ、これらの中でもNH3又はハロゲンイオン(例えば、Cl-、F-、Br-、I-)が好ましい。前記化学式におけるn+は、酸化型ルテニウム(III)錯体の価数を表し、Xの種類により適宜決定される。なお、ルテニウム錯体の詳細は特開2018-013400に開示されている。
【0029】
本発明のバイオセンサの試薬中の酸化還元酵素の含有量は、測定対象物質の種類によって適宜決定できるが、測定対象物質に対して充分な酸化還元酵素が含有されている必要があるため、酸化還元酵素の量は、バイオセンサの試薬が載置された部分の表面積1cm当たり、1~10Uが好ましく、より好ましくは1~5U、特に好ましくは1~3Uである。
【0030】
試薬における電子伝達物質の含有量は、酸化還元酵素より多く含有されていることが好ましく、測定試料の種類等によって適宜決定できるが、例えば、バイオセンサの試薬が載置された部分の表面積1cm当たり、10mmol~100mmolが好ましく、より好ましくは10mmol~50mmol、特に好ましくは15mmol~20mmolである。
【0031】
(その他の成分)
試薬は、酸化還元酵素および電子伝達物質を含むが、これらに加えてブチラール樹脂系、ポリエステル樹脂系などの樹脂バインダーや、再表2005/043146に開示された層状無機化合物のようなバインダー、界面活性剤などを含有させてもよい。
【0032】
また、試薬は、緩衝剤や界面活性剤などの添加剤を追加的に含んでもよい。緩衝剤としては、Tris、ACES、CHES、CAPSO、TAPS、CAPS、Bis-Tris、TAPSO、TES、TricineおよびADA等のアミン系緩衝剤を用いてもよいし、リン酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、リン酸クエン酸緩衝剤、酢酸-酢酸Na緩衝剤、リンゴ酸-酢酸Na緩衝剤、マロン酸-酢酸Na緩衝剤、コハク酸-酢酸Na緩衝剤等のカルボキシル基を有する緩衝剤を用いてもよい。緩衝剤のpHは6.8~7.2が好ましく、pH約7.0がより好ましい。
【0033】
この中では、クエン酸緩衝剤およびリン酸クエン酸緩衝剤を用いることが好ましい。
試薬中のクエン酸緩衝剤またはリン酸クエン酸緩衝剤におけるクエン酸のモル濃度は、作用極上の試薬が載置された部分において、1.5μmol/cm~22μmol/cmが好ましく、7.5μmol/cm~15μmol/cmとなることが特に好ましい。このようなバイオセンサの電極対に試料が供給され、前記試料によって試薬が溶解したときに、前記試薬と前記試料の混合溶液中の作用極上の拡散前におけるクエン酸濃度は、クエン酸が1.5μmol/cm~22μmol/cm含まれた試薬の場合、約20mM~約300mMとなり、クエン酸が7.5μmol/cm~15μmol/cm含まれた試薬の場合、約100mM~約200mMとなる。なお、作用極上の試薬と試料の混合溶液とは、物理的に作用極上に存在する混合溶液を含み、作用極上で試薬と測定対象物質とが反応する領域に存在する溶液のことである。また、前記混合溶液は流体であり、濃度勾配も存在することから、ここでいうクエン酸濃度の数値は平均濃度を指す。
【0034】
界面活性剤としては、Triton X-100、ドデシル硫酸ナトリウム、ペルフルオロオクタンスルホン酸またはステアリン酸ナトリウムやアルキルアミノカルボン酸(またはその塩)、カルボキシベタイン、スルホベタインおよびホスホベタイン等が挙げられる。
【0035】
なお、バイオセンサは、基材、コンタクトメタル、電極対、試薬以外に、基材の電極対を有する面側に設置され、電極を覆うカバー、基材とカバーの間に設置され、基材とカバーの間に所定の空間を形成させるためのスペーサー、電極対のうちの少なくとも作用極の試薬載置部を含む領域上に設けられ、所定の空間を有する試料供給部などを含むことができる。前記試料供給部は、前記カバーやスペーサーを加工することによって形成されるものでもよい。
なお、バイオセンサは上記以外の部材を含んでもよい。
【0036】
以下、本発明に使用可能なバイオセンサの一例について、図1に基づいて説明する。
図1(a)~(f)は、バイオセンサを製造する一連の工程を示した斜視図である。なお、本発明に使用可能なバイオセンサは以下の態様には限定されない。例えば、以下の態様ではコンタクトメタルを使用しているが、コンタクトメタルは本発明のバイオセンサにおいて必須の構成ではない。
【0037】
図1(f)に示すように、このバイオセンサAは、基材10、第1端部と後述の測定装置と接続される第2端部と、第1端部と第2端部を接続するリード部を有する対極11と、対極11の第1端部に隣接する第1端部と後述の測定装置と接続される第2端部と、第1端部と第2端部を接続するリード部を有する作用極12とから構成された電極系(図1(b))、基材10と電極系の間に構成されたコンタクトメタル19(図1(a))、絶縁層14、開口部を有するスペーサー15および貫通孔18を有するカバー16を備えている。図1(c)に示すように、作用極12の第1端部の上には試薬13が載置されている。そして、基材10の上には、図1(d)に示すように、電極対のリード部に絶縁層14が積層されている。そして、絶縁層14の上には、図1(e)に示すように、作用極12の試薬を含む部分である第1端部と、それに対向する対極の第1端部を含む領域に対応する箇所が開口部になっているスペーサー15が配置されている。さらにスペーサー15の上には、前記開口部に対応する一部に貫通孔18を有するカバー16が配置されている(図1(f))。このバイオセンサにおいて、前記開口部の空間部分であり、かつ、前記作用極、対極および絶縁層14とカバー16とに挟まれた空間部分が、キャピラリー構造の試料供給部17となる。この試料供給部17は電極対のうちの少なくとも作用極の第1端部の試薬載置部を含む領域上に所定の空間として形成されている。そして、前記貫通孔18が、試料を毛管現象により吸入するための空気孔となる。なお、絶縁層14を備えず、スペーサー15が絶縁性部材で形成され、絶縁層14の機能を兼ね、スペーサー15とカバー16とに挟まれた空間部分が、キャピラリー構造の試料供給部17となるバイオセンサAであってもよい。
【0038】
(バイオセンサの作製方法)
本発明のバイオセンサは、例えば、以下のようにして作製される。すなわち、表面の算術平均粗さRa値が約2μmの絶縁性基材の片面に、成膜室圧力0.1~0.5Pa、アルゴンガス流入量160~300Sccm、7800Wの条件のスパッタリングによりコンタクトメタルを積層させる。次に、作用極および対極として機能する金属層を引き続き成膜室圧力0.1~0.5Pa、アルゴンガス流入量160~300Sccm、8000Wの条件のスパッタリングによりそれぞれ形成する。次に、電極上(少なくとも作用極の第1端部上)に試薬調製液をコートし、乾燥させることで試薬を電極上に載置することができる。
【0039】
より具体的なバイオセンサの作製法を以下に例示するが、本発明のバイオセンサの作製法は以下に限定されない。
【0040】
まず、図1(a)に示すように、基材10上にスパッタリングによる物理蒸着(PVD)によって、上述の条件でコンタクトメタル19をコートする。次に、図1(b)に示すように、第1端部、第2端部およびリード部を有する対極11ならびに第1端部、第2端部およびリード部を有する作用極12からなる電極系をスパッタリングによって、上述の条件でコンタクトメタル19上に積層させる。作用極12は上記のニッケル合金を、コンタクトメタル上に積層する。
図2に、図1(b)におけるb’-b’線切断部の断面図を示す。基材10上にコンタクトメタル19が積層され、コンタクトメタル19上に作用極12および対極11がそれぞれ積層されている。
なお、スパッタリング以外にも、例えば、薄膜めっき、その他の物理蒸着方法、化学蒸着(CVD)による成膜などの手段によって基材上にコンタクトメタルや電極材料をコートすることができる。その次に、レーザ光を用いた掘削やマスクを用いたエッチングを施すことで電極系を形成することができる。例えば、絶縁性基材上に物理蒸着によってコンタクトメタルの層を形成し、当該コンタクトメタル層上に物理蒸着によってニッケル合金の層を形成し、当該コンタクトメタルと当該ニッケル合金を、当該絶縁性基材上から一部除去することによって電極対を含む電極群が形成されてもよい。
また、作用極12は、ニッケル合金をスクリーン印刷などによって基材上に印刷することで形成することもできる。
対極11についても、対極材料を基材上に同様の方法で同時にコートし、掘削やエッチングを施すか、対極材料をスクリーン印刷などで基材上に印刷することで形成することができる。なお、参照電極などの他の電極を有する場合、合わせて形成させてもよい。
【0041】
続いて、図1(c)に示すように、作用極12上の一部、好ましくは作用極12の第1端部上に試薬を載置する。試薬の載置方法は特に制限されないが、例えば、試薬の溶液を作用極12の一部、好ましくは作用極12の第1端部上にスポットし、乾燥させることで行うことができる。より具体的には、試薬13は、例えば、酸化還元酵素、電子伝達物質と、必要に応じて緩衝剤およびバインダーが分散された分散液を調製し、これを作用極12上に分注して、乾燥させることによって形成できる。前記分散液の調製に使用する溶媒としては、例えば、水、緩衝液アルコール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が使用できる。
【0042】
続いて、図1(d)に示すように、前記電極対11、12を形成した基材10上に絶縁層14を形成する。この絶縁層は、電極対11、12のリード部に形成する。言い換えると、作用極12の第1端部の試薬を含む部分と、それに対向する対極の第1端部の部分を含む領域を除いた基材10上に形成する。前記絶縁層14は、例えば、絶縁性樹脂を溶媒に溶解した絶縁ペーストを前記基材10上に印刷し、これを加熱処理または紫外線処理して形成することができる。絶縁性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ブチラール樹脂、フェノール樹脂等が挙げられ、前記溶媒としては、例えば、カルビトールアセテート、二塩基酸エステル系混合溶剤(DBEソルベント)等が挙げられる。
【0043】
次に、図1(e)に示すように、絶縁層14上にスペーサー15を配置する。図示したように、スペーサー15は、前記作用極12の第1端部の試薬を含む部分と、それに対向する対極の第1端部の部分を含む領域に対応する箇所が開口部となっている。スペーサー15の材料としては、例えば、樹脂製フィルムやテープ等が使用できる。また、両面テープであれば、前記絶縁層14との接着だけでなく、後述するカバー16も容易に接着できる。この他にも、例えば、レジスト印刷等の手段によりスペーサーを形成してもよい。
【0044】
次に、図1(f)に示すように、前記スペーサー15上にカバー16を配置する。前記カバー16の材料としては、特に制限されないが、例えば、各種プラスチック等が使用でき、好ましくは、PET等の透明樹脂が挙げられる。なお、PET等の透明樹脂には、親水剤(例えばシノリンなど)が塗布されてもよい。
【0045】
(バイオセンサの用途)
本発明のバイオセンサは試料中の測定対象物質の測定に好適に使用できる。
【0046】
(試料)
試料は測定対象物質を含む試料であれば特に制限されないが、生体試料が好ましく、血液、尿などが挙げられる。
【0047】
(測定対象物質)
測定対象物質は、例えば、グルコース、コレステロール、エタノール、ソルビトール、フルクトース、セロビオース、乳酸、尿酸などが挙げられる。
【0048】
(測定原理)
本発明のバイオセンサの作用極の第1端部の試薬載置部に測定対象物質を含む試料を接触させると、測定対象物質が試薬と反応する。反応後に電極対間に電圧を印加することで、反応に基づくシグナルが生成する。このシグナルを検出することで、測定対象物質を測定することができる。
具体的には、バイオセンサの試薬が酸化還元酵素と電子伝達物質を含む場合、酸化還元酵素と測定対象物質との酸化反応または還元反応によって生じた電子が電子伝達物質に受け渡され、電子伝達物質は還元される。そして、電極対間に電圧を印加することで、作用極表面で還元型の電子伝達物質は酸化され、これによって試料中の測定対象物質の量に依存した酸化電流が発生する。この電流値を測定することで、該電流値に基づき試料中の測定対象物質濃度を測定することができる。
【0049】
測定対象物質の濃度を算出する場合には、ボルタンメトリー法、アンペロメトリー法、クーロメトリー法などが採用される。ボルタンメトリー法は、電極に印加する電圧を変化させ、変化する応答電流値のパターンを計測し、そのパターンにおける電流ピーク値などに基づいて測定対象物質の濃度を算出する方法である。アンペロメトリー法は、電極に一定の電圧を印加し、反応開始から一定時間後の応答電流値を取得し、この応答電流値に基づいて測定対象物質の濃度を算出する方法である。クーロメトリー法は、電極に一定の電圧を印加し、試料中の殆ど全ての測定対象物質を反応させてから、応答電流値の積算値を取得し、積算値に基づいて測定対象物質の濃度を算出する方法である。
【0050】
(測定対象物質の測定方法)
本発明の測定対象物質の測定方法は、
バイオセンサが有する前記電極対に前記測定対象物質を含む前記試料を供給する工程、
当該電極対の間に電圧を印加する工程、
当該電極対の間に流れる電流の値を測定する工程、および
測定された電流値に基づいて前記測定対象物質の量を算出する工程、
を含む。
【0051】
(試料供給工程)
バイオセンサの前記電極対への試料の供給は、試料が収容された容器から、例えば、マイクロチップ、シリンジ、キャピラリーなどの公知の供給手段を使用して行うことができる。試料の供給は自動化された供給手段によって行うこともできる。
なお、バイオセンサが前述の試料供給部を有するときは、試料供給部に試料を供給することで、効率よくバイオセンサに試料を反応させることができる。
【0052】
(電圧印加工程)
次に、電極対間に電圧を印加する。
アンペロメトリー法やクーロメトリー法を行う場合には、電極対間に一定の電圧を印加する。
ここで、作用極12に印加する電圧としては、対極に対して正の電圧であればよく、適宜設定できるが、例えば、対極に対して+50~+500mV、好ましくは+100~+250mV、特に好ましくは+200mVである。上記のような電圧の範囲であると、ニッケル合金電極の基材からの溶出を抑えることができ、電極の安定性を維持でき、電圧印加時の電極溶出を防止できるためバックグラウンド電流の低減および長期利用が可能である。
試料を試薬と接触させた後、所定の時間非印加の状態で保持した後、電極系に電圧を印加してもよいし、前記試料と試薬の接触と同時に電極系に電圧を印加してもよい。非印加の状態で保持する場合の保持時間としては、例えば、30秒以下、または10秒以下である一方、サイクリックボルタンメトリー測定を行う場合は、作用極に対して電位を一定速度で掃引する。電位掃引のサイクルは複数サイクルでもよい。
なお、前記のように、第一の電極対と第二の電極対を含むバイオセンサを使用する場合には、第二の電極対の作用極に印加する電圧は、前記第一の電極対の作用極に印加する電圧と異なる電圧であってもよい。例えば、上述のWO2005/103669に開示される対極のみに試薬の一部を載置される構成の電極対を備えるバイオセンサや、特開2019-035748に開示される試薬がされない構成の電極対を備えるバイオセンサを用いて、測定対象物質以外の物理的な数値としてヘマトクリット値を測定する場合には、第二の電極対の作用極に、第二の電極対の対極に対して+1.0~+7.0Vの高電圧を印加することもある。
【0053】
(電流測定工程)
電流測定は、アンペロメトリー法の場合は電圧印加一定時間後の応答電流値を測定し、クーロメトリー法の場合は応答電流の積算値を得るため、応答電流値を経時的に測定する。一方、サイクリックボルタンメトリー法の場合は、サイクリックボルタンメトリー波形を得るため、掃引中の電圧に応じた電流値を継続的に測定する。応答電流値の測定は、通常の電流計などを用いて行うことができる。
【0054】
(濃度算出工程)
測定された応答電流値に基づき、測定対象物質の濃度を算出する。
アンペロメトリー法の場合、応答電流値と測定対象物質の濃度との関係をあらかじめ検量線などで求めておき、測定された応答電流値を検量線に当てはめて測定対象物質の濃度を算出することができる。
クーロメトリー法の場合、応答電流値の積算値と測定対象物質の濃度との関係をあらかじめ検量線などで求めておき、測定された応答電流値の積算値を検量線に当てはめて測定対象物質の濃度を算出することができる。
また、サイクリックボルタンメトリー法の場合は、サイクリックボルタンメトリー波形におけるピーク値と測定対象物質の濃度との関係をあらかじめ検量線などで求めておき、測定された応答電流値を検量線に当てはめて測定対象物質の濃度を算出することができる。
【0055】
(測定装置)
本発明の一態様によれば、本発明のバイオセンサは、測定装置に組み込んで使用される。測定装置は、電位を制御するための制御部22、ポテンショスタット25、電流を検出するための検出部24、電流値から演算部23、測定結果を測定する出力部21および複数の接続端子26などを含むことができる。さらに、バイオセンサの電極対に電圧を印加するための電力供給部を含んでもよい。
【0056】
次に、図面を用いて、本発明のバイオセンサを用いて測定する測定装置の一態様について説明する。ここでは、グルコースセンサを備えた測定装置の一態様について例示したが、本発明のバイオセンサを備えた測定装置は以下の態様には限定されない。
【0057】
図3は、測定装置Bの構成例を示す。測定装置Bは、制御コンピュータ20とポテンショスタット25を含み、バイオセンサAが装着されると、それぞれの接続端子26は、バイオセンサの作用極および対極の対応する第2端部と電気的に接続する。制御コンピュータ20は、ハードウェア的には、CPU(中央演算処理装置)のようなプロセッサと、メモリ(RAM(Random Access Memory)、ROM(Read OnlyMemory))のような記録媒体と、通信ユニットを含んでおり、プロセッサが記録媒
体(例えばROM)に記憶されたプログラムをRAMにロードして実行することによって、出力部21、制御部22、演算部23および検出部24を備えた装置として機能する。
【0058】
制御部22は、電圧印加のタイミング、印加電圧値などを制御する。ポテンショスタット25は、作用極の電位を対極に対して一定にする装置であり、制御部22によって制御され、バイオセンサAの作用極と対極との間に所定の電圧(50mV~500mV)を印加し、作用極の応答電流を測定し、応答電流の測定結果を検出部24に送る。
【0059】
演算部23は検出された電流値から測定対象物質の濃度の演算を行い、記憶する。出力部21は、図示しない表示ユニットとの間でデータ通信を行い、演算部23による測定対象物質の濃度の演算結果を表示ユニットに送信する。
【0060】
以下、この測定装置の使用方法の一態様について、試料が全血、測定対象物がグルコースであり酸化還元酵素がグルコースデヒドロゲナーゼ、電子伝達物質がルテニウム(III)化合物である例を挙げて説明する。
【0061】
図4は、測定装置を用いたグルコース濃度測定処理の例を示すフローチャートである。
【0062】
まず、測定装置へバイオセンサAが装着され、次に、バイオセンサAが有する電極対に測定対象物質を含む試料が供給される(試料供給工程)。
具体的には、例えば、全血試料をバイオセンサAの試料供給部17の一端に接触させる。この試料供給部17は、前述のようにキャピラリー構造となっており、その他端に対応する位置においてカバー16には空気孔18が設けられているため、毛管現象によって前記試料が内部に吸引される。吸引された前記試料は、検出部13の作用極12上に設けられた試薬表面に達する。そして、表面に達した試料中のグルコースはグルコースデヒドロゲナーゼと優先的に反応し、グルコノラクトンに変換される。この際に生じた電子によって、ルテニウム(III)化合物が還元され、ルテニウム(II)化合物が生成される。
【0063】
次に、電極対間に電圧を印加する(電圧印加工程)。
具体的には、例えば、制御コンピュータ20のCPU(制御部22)は、グルコース濃度測定の開始指示を受け付けると、制御部22は、ポテンショスタット25を制御して、作用極への所定の電圧を印加し、測定を開始する(ステップS01)。なお、濃度測定開始指示としてもよい。
【0064】
電極に正の電圧を印加することで、試薬中に存在するこのルテニウム(II)化合物と、電極との間で、電子授受が行われ、応答電流が流れるので、この電流を検出する(応答電流測定工程)。
具体的には、例えば、ポテンショスタット25は、電圧印加によって得られる応答電流、すなわち、試料内の測定対象物質(グルコース)に由来する電子の電極への移動に基づく電流、例えば、電圧印加から1~20秒後の定常電流を測定し、検出部24へ送る(ステップS02)。
【0065】
この酸化電流の値は、試料中のグルコースの濃度に比例するため、これを前記演算手段によりグルコース濃度に演算すれば、試料中のグルコース濃度を算出することができる(濃度算出工程)。
具体的には、例えば、演算部23は、電流値に基づいて演算処理を行い、グルコース濃度を算出する(ステップS03)。例えば、制御コンピュータ20の演算部23はグルコース濃度の計算式またはグルコース濃度の検量線データを予め保持しており、これらの計算式または検量線を用いて電流値をグルコース濃度に換算して、グルコース濃度を算出する。
【0066】
出力部21は、グルコース濃度の算出結果を、表示部25との間に形成された通信リンクを通じて表示部25へ送信する(ステップS04)。また、算出結果を演算部23に保存し、後から算出結果を呼び出して、表示部に表示し確認することも可能である。
【実施例
【0067】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の態様には限定されない。
【0068】
(実施例1)
バイオセンサは、各電極の各種金属の電流応答性の性能を比較するために、簡易的に図1に示すバイオセンサと比較し、以下の手順で作製した簡易的なバイオセンサを使用した。まず、グルコースセンサの絶縁性基材10として、PET製基材(長さ50mm、幅6mm、厚み250μm)を準備し、その一方の表面全体に、各種金属(金(Au)、ニッケル(Ni)、Ni-V(92:8)、Ni-W(81:19)、Ni-Ru(50:50))をスパッタリングし、それをトリミングすることにより、第1端部と第2端部とリード部を有する作用極12と、第1端部と第2端部とリード部を有する対極11とを形成した。
【0069】
作用極12上に、ルテニウム化合物([Ru(NH36]Cl3、同仁化学研究所社製)またはフェリシアン化カリウムのいずれかの電子伝達物質のみを載置した。すなわち、上記電子伝達物質を0.45μL、作用極12の第1端部の上に分注した。そして、これを、30℃で乾燥させることにより、電子伝達物質を載置した。
【0070】
次に、前記電極対上に粘着テープを介してスペーサーを載せて、所定の空間を形成した。すなわち、スペーサーの開口部の所定の空間が、キャピラリー構造となるため、これを試料供給部とした。
【0071】
なお、試薬としてグルコース酸化還元酵素を用いてもよく、その場合、グルコースデヒドロゲナーゼを用いることができる。グルコースデヒドロゲナーゼを用いる場合の試薬作製用調製液は以下の通り調製した。まず、10mMもしくは50mMのルテニウム化合物([Ru(NH36]Cl3、同仁化学研究所社製)または10mMもしくは50mMのフェリシアン化カリウムにグルコースデヒドロゲナーゼ(3.0 Unit/strip)を添加して試薬作製用調製液とすればよい。
【0072】
<サイクリックボルタンメトリー測定>
上記のようにして作製した電子伝達物質を試薬に含み、Au、Niまたは各種Ni合金を素材とする電極(作用極)を備えたバイオセンサについて、サイクリックボルタンメトリー波形を調べることにより電子伝達物質の電気応答性を測定し、電極応答特性を評価した。サイクリックボルタンメトリー波形は、グルコースセンサの試料供給部に試料(100mMPBS(リン酸緩衝生理食塩水) pH7.0)を導入した後に、掃引速度を20mV/secとし、作用極への印加電圧が対極に対してルテニウム錯体の場合は-400mV→+400mV、フェリシアン化物の場合は-800mV→+800mVを3周となるように掃引し、掃引時の応答電流を測定することにより調べた。図5は、それぞれのバイオセンサについて1、2および3周目のピーク電流値を測定し、それらの平均値を算出した結果を示す。
【0073】
その結果、Ni-V電極、Ni-W電極、Ni-Ru電極のいずれを作用極として用いた場合でも、Au電極には及ばないものの、Ni電極と比べて優れた電流応答性を示すことが分かった。したがって、本発明によれば、Ni-V電極、Ni-W電極、Ni-Ru電
極のいずれかのニッケル合金電極をバイオセンサの作用極に用いることで貴金属電極に近い電子伝達物質の応答性を得ることができることがわかった。これにより、上述のようなニッケル合金を用いることで、グルコースなどの測定対象物質を再現性が高く測定可能なバイオセンサを安価かつ簡便に作製することができるようになる。
【0074】
(実施例2)
次に、電極の試薬に用いる緩衝剤によるバックグラウンドの影響について検討を行った。緩衝剤の性能を比較するために、簡易的に実施例1のバイオセンサと比較し、検出部13の作用極12の第1端部上に、試薬(電子伝達物質および酸化還元酵素)を載置しなかった以外は、同様のバイオセンサを用いた。すなわち、Ni-V電極、Ni-W電極またはNi電極において、試料にクエン酸(最終濃度20mM、50mM、100mMまたは200mM)を緩衝剤として用いてサイクリックボルタンメトリー(0→+1.0V)を行い、特長を捉えやすい電圧である+0.5Vの時の電流値を測定した。比較例として、試料にリン酸(最終濃度20mM、50mM、100mM、または200mM)を緩衝剤として用いて同様の測定方法で電流値を測定した。本実験では、検出部13上に緩衝剤のみが電極上に存在するため、電圧を印加することで得られる電流値は緩衝剤のみを含む溶液による電流値のみに起因する。このことから、各緩衝剤によるバックグラウンド、つまりノイズ成分の影響を評価できる。結果を表1に示す。その結果、クエン酸緩衝剤を用いた場合にはリン酸緩衝剤を用いた場合よりもバックグラウンド電流値を低減できることがわかり、その傾向はNi-V電極において顕著であった。バックグラウンド電流は電圧印加による電極の腐食が一因と考えられる。NiとV(バナジウム)は卑金属なので腐食しやすいためである。クエン酸緩衝剤を用いることでクエン酸がNiと錯体を形成し、不動態被膜の破壊を抑え、バックグラウンド電流値が低下したと考えられた。なお、クエン酸の濃度に依存しているため、リン酸クエン酸緩衝剤を用いた場合でも同じような効果を得ることができる。また、濃度が高くなるほど、バックグラウンド電流値が低くなっていることから、クエン酸濃度が200mMより高い場合、例えば、200mM~300mMであっても、同じような効果を得ることができることがわかる。
【0075】
【表1】
【0076】
(実施例3)
次に、グルコース濃度測定における再現性の評価を行った。実施例1のバイオセンサと比較し、電極をNi-V電極のみとし、以下の表2の構成とした試薬を作用極の第1端部に載置した以外は同様のバイオセンサ(Ni-V電極を作用極に有する図1に示したバイオセンサ)を用い、Ni-V電極において緩衝剤の違いによる検出感度の評価を実施した。緩衝剤は、リン酸、クエン酸、リン酸クエン酸、PIPES、HEPES(それぞれpH7.0)を用い、それぞれ試料によって試薬が溶解したときに、作用極上の試薬と試料の混合溶液中の濃度が約100mMとなるように調整した。クエン酸およびリン酸クエン酸の場合、1stripあたりのクエン酸の存在量を17.2μgとした。これはクエン酸の物質量に換算すると90nmolに相当しており、作用極上の試薬が載置された部分は0.006cmであるため、クエン酸のモル濃度は15μmol/cmに相当する。
このようなバイオセンサを用いて図3に示した測定装置を用いて、静脈全血検体を用い、グルコース濃度を0mg/dL、67mg/dL、134mg/dL、336mg/dL、600mg/dL、1000mg/dLに変えて測定を行い、+0.2Vの電圧を作用極に印加し、電圧印加から8秒後電流値を測定した。結果を図6に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
その結果、クエン酸緩衝剤およびリン酸クエン酸緩衝剤を用いた電極を用いた場合には、リン酸の場合と同様、グルコース濃度に応じた高い応答電流値を示し、応答電流値の直線性がよいことがわかった。一方、PIPES、HEPESを用いたときは、グルコース濃度に対して、応答電流値の直線性が悪化したため、グルコース濃度測定における再現性が著しく悪化することがわかった。この現象は、PIPES、HEPESを用いた試薬の場合、検体に対する溶解性が下がっていることが原因であった。
【0079】
次に、同じデータを用いて、グルコース低濃度域(Glu0-Glu67)とグルコース中濃度域(Glu67-Glu134)に分けて検量線の傾きを見た結果を図7に示す。図7の横軸には、リン酸、クエン酸、リン酸クエン酸、PIPES、HEPESの緩衝剤のグルコース低濃度域とグルコース中濃度域とをそれぞれ並べ、縦軸にそれぞれの検量線の傾きを並べたものである。検量線の傾きが大きいほうがグルコース濃度換算値の再現性が高くなり、検出感度が高いことを示す。図7のとおり、クエン酸緩衝剤およびリン酸クエン酸緩衝剤を試薬に含む電極を用いた場合には、低濃度域でリン酸の場合よりも傾きが大きく、低濃度域および中濃度域でPIPESおよびHEPESの場合よりも傾きが大きいことがわかった。従って、クエン酸緩衝剤およびリン酸クエン酸緩衝剤を試薬に含む電極はグルコース低濃度域での検出感度が高いことがわかった。
【0080】
また、同様のバイオセンサを用い、グルコース濃度67mg/dl、134mg/dl、336mg/dlの試料(全血)を測定し(n=10)、それぞれの変動係数(CV)を求めた。結果を表3に示す。その結果、クエン酸緩衝剤およびリン酸クエン酸緩衝剤を用いた電極を有するバイオセンサはグルコース低濃度領域での測定値の再現性が良いことが分かった。
【0081】
【表3】
【0082】
なお、PIPESやHEPESを用いた場合には、記載しない実施例2と同様の実験からバックグラウンド成分の影響が低いことが確認できた。実施例3の実験から検量線の傾きは小さく、CV値も大きかったため、高い検出感度と測定再現性はクエン酸に特異的であることが分かった。
【0083】
以上より、試薬にクエン酸緩衝剤またはリン酸クエン酸緩衝剤を使用することにより、バックグラウンドの電流値を低下させることができるとともに、測定の再現性を高めることができる。これにより、再現性が高くかつ高精度の測定が可能となる。
【0084】
当該発明のバイオセンサを用いて測定する際に、流れる電流値が大きい条件、具体的には、印加電圧が1.0V以上のように高電圧を印加した場合や、血しょうのような抵抗値の低い(つまり電流が流れやすい)検体を用いた場合では、卑金属であるニッケル合金の溶出することによって、電極が基材から剥離したり、電極に孔が発生したりすることによって、正しい応答電流値を得ることができないという課題が見出された。この現象は、バイオセンサの電極の厚みが厚いほど、および/またはコンタクトメタルの厚さが薄いほど顕著に発生することが見出された。特に、いずれもコンタクトメタルとニッケル合金で形成される、第一の電極対および第二の電極対を備え、対極のみに試薬の一部が載置される構成の第二の電極対を備えるバイオセンサや、作用極および対極のいずれにも試薬が載置されない構成の第二の電極対を備えるバイオセンサを用いて、ヘマトクリット値を測定するために、+1.0~+7.0Vの高電圧を印加した場合に顕著に発生することが確認された。
【0085】
そこで、下記実施例4に記載のように、絶縁性基材上にチタンからなるコンタクトメタルを積層し、当該コンタクトメタル上にニッケル-バナジウム合金を積層することによって電極系が形成されたバイオセンサにおいて、ニッケル-バナジウム合金とチタンのそれぞれの厚みを変化した場合の応答電流値を評価し、鋭意検討を行った。その結果、電極及びコンタクトメタルのいずれも所定の厚み範囲とし、かつ、両者に一定の関係を有する場合には、当該現象が発生しないようにできることを突き止めた。すなわち、以下少なくとも四点の現象を確認した。
(1)電極は薄いほど電極層は安定するが、薄すぎると電極自体の抵抗値が高くなりすぎたり、抵抗値の個体間差のばらつきが大きくなりすぎたりするため、一定範囲以上の厚みが必要であること。
(2)コンタクトメタルは電極を基材に固定する目的であり、電極層を安定するために一定以上の厚みが必要であるが、厚すぎると不安定になること。
(3)電極とコンタクトメタルの合計厚みは、基材の凹凸の影響を受けない(薄い場合には電極の表面が凹凸を帯び、抵抗値が高くなる)ようにするために、最低限10μm以上の厚さであることが必要であること。
(4)一定の範囲まではコンタクトメタルが厚いほど、載せられる電極の厚みは増えていくが、一定の範囲を超えると測定値に影響が発生するため載せられる電極は減少し、合計厚みが55μm以下とすること。
【0086】
電極がニッケル-バナジウム合金でコンタクトメタルがチタンの場合、実施例4のとおり、チタンの厚みをx、ニッケル-バナジウム合金をyとした場合に、以下の範囲を満たすことで、当該現象が発生しないようにできることを確認した。
1)7μm≦x≦52μm
2)3μm≦y≦25μm
3)y=-11/16x+155/4
【0087】
(実施例4)
絶縁性基材上にチタンからなるコンタクトメタルを積層し、当該コンタクトメタル上にニッケル-バナジウム合金を積層することによって電極対を形成し、バイオセンサを作製した(作用極・対極に試薬なし)。バイオセンサは、コンタクトメタルとニッケル-バナジウム合金の厚みを変えたものを複数用意し、下記の検体を添加したのち、電圧を印加して応答電流を評価した。

<測定条件>
電圧:3.5V
印加時間:10秒
温度:40℃
検体:ヘマトクリット値20%の血液
<検証結果の判定基準>
・ 5秒以内に応答電流値急落発生
× 5秒以内に応答電流値が途中上昇発生
△ 5秒値が20μA以上の応答電流値ばらつき
〇 問題なし
【0088】
結果を図8に示す。
以下、図8の結果について考察する。図8の実験を実施する前に、まず、それぞれの電極・コンタクトメタルの厚み条件で製作したバイオセンサを観察し、電極の表面の凹凸を目視確認した。その結果、上記現象(3)のとおり、ニッケル-バナジウム合金とコンタクトメタルの合計厚みが、10μm未満の場合には、基材の凹凸の影響を受けており、測定結果に影響が発生することが予想され、バイオセンサとしては不適切であると判断した。
【0089】
このように、基材の凹凸の影響を受けないようにニッケル-バナジウム合金とコンタクトメタルの合計厚みが10μm以上のバイオセンサを複数製作し、測定条件に従った結果が図8となる。図8の結果から、ニッケル-バナジウム合金の厚さが3μm以上かつ25μm以下、およびチタンの厚さが7μm以上20μm未満の条件ではそのような厚み条件であっても安定して測定できることを確認した。このことから、上記現象(1)および(2)のとおり、電極およびコンタクトメタルには厚さ条件があることが確かめることができた。一方、チタンの厚さが20μm以上の条件では、チタンが厚くなればなるほど、その上に載せられるニッケル-バナジウム合金の厚さが薄くなる結果となった。チタンが50μmで、ニッケル-バナジウム合金が5μmであれば測定できることが確認でき、上述の3)y=-11/16x+155/4の関係式を見出すとともに、上記現象(4)の条件を確かめることができた。
【符号の説明】
【0090】
A・・・バイオセンサ
10・・・基材
11・・・対極
12・・・作用極
13・・・試薬
14・・・絶縁層
15・・・スペーサー
16・・・カバー
17・・・試料供給部
18・・・空気孔
19・・・コンタクトメタル
B・・・測定装置
20・・・制御コンピュータ
21・・・出力部
22・・・制御部
23・・・演算部
24・・・検出部
25・・・ポテンショスタット
26・・・接続端子
図1
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図8