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  • 特許-ベンディングロールの制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】ベンディングロールの制御方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 5/14 20060101AFI20241011BHJP
【FI】
B21D5/14 D
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021025994
(22)【出願日】2021-02-22
(65)【公開番号】P2022127803
(43)【公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】志井 里衣
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-288635(JP,A)
【文献】特開2004-298911(JP,A)
【文献】特開昭53-021874(JP,A)
【文献】特開平09-192924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降可能に支持された上ロールと、前記上ロールの下方の前後両側に配された一対の下ロールとを備え、前記上ロールと各下ロールの間で金属板を挾持した状態で、前記各下ロールを回転駆動することにより、金属板を往復移動させながら曲げ成形するベンディングロールの制御方法において、
前記上ロールは、その両端部が油圧シリンダのピストンロッドに連結され、前記油圧シリンダに接続された油圧バルブのON・OFFによって昇降するようになっており、
前記上ロールを目標位置まで昇降させる制御は、予め、前記油圧バルブをON状態からOFF状態に切り替えたときの前記上ロールの惰性による移動量に相当するオーバーラン量の設定値を設定しておき、
前記上ロールの目標位置までの必要移動量の演算値が前記オーバーラン量の設定値以上の場合は、前記油圧バルブをON状態として上ロールを昇降させた後、前記上ロールが目標位置よりもオーバーラン量の設定値分だけ手前に達した時点で前記油圧バルブをOFF状態とすることにより、前記上ロールが惰性で目標位置に近づくようにし、
前記上ロールの目標位置までの必要移動量の演算値が前記オーバーラン量の設定値未満の場合は、前記油圧バルブをON状態とするON時間を、前記演算値が前記設定値以上の場合のON時間よりも小さくなるように調整し、この調整後のON時間により前記油圧バルブをON状態とする操作を行っても前記上ロールの動作が生じない場合には、前記上ロールの動作が生じるまで、前記調整後のON時間に所定の時間を加算して前記油圧バルブをON状態とする操作を繰り返し、さらに前記上ロールが目標位置に達するまで前記油圧バルブをON状態とする操作を行うことを特徴とするベンディングロールの制御方法。
【請求項2】
前記油圧バルブのON時間の調整は、前記上ロールが目標位置に達するまで、自動的にON時間を加算して油圧バルブをON状態とする操作を繰り返すものであることを特徴とする請求項1に記載のベンディングロールの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上ロールと一対の下ロールの間で金属板の曲げ成形を行うベンディングロールの上ロールの昇降位置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンディングロールは、図3に示すように、上ロール1と上ロール1の下方の前後両側に配された一対の下ロール2とを備え、上ロール1と各下ロール2の間で金属板Wを挾持した状態で、各下ロール2を回転駆動することにより、金属板Wを往復移動させながら曲げ成形する装置であり、上ロール1の両端部を図示省略した軸受を介して油圧シリンダ3のピストンロッド3aに連結して昇降可能に支持し、その上ロール1を成形条件に応じた昇降位置に昇降させて成形作業を行うようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
そして、上ロール1の昇降位置を制御する方法は、上ロール1の現在位置をポテンショメータ4で検出して、目標位置までの必要移動量すなわち制御量を演算し、その制御量に応じて油圧シリンダ3に接続された油圧バルブ(図示省略)のバルブ制御(ON・OFF操作すなわち開閉操作)を行っている。
【0004】
このようなベンディングロールの制御方法では、油圧バルブをON状態(開状態)からOFF状態(閉状態)に切り替えたときの実際の上ロールの挙動、すなわち上ロールの惰性によるわずかな下降または上昇を考慮して、油圧バルブを操作していることが多い。
【0005】
具体的には、予め、上述した上ロールの惰性による移動量に相当するオーバーラン量の設定値を設定しておき、油圧バルブをON状態として上ロールを昇降させた後、上ロールが目標位置よりもオーバーラン量の設定値分だけ手前に達した時点で油圧バルブをOFF状態とすることにより、上ロールが惰性で目標位置に近づくようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2515217号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなベンディングロールの上ロールの惰性による移動を考慮した制御方法では、上ロールの制御量がオーバーラン量の設定値未満の場合、上ロールを自動で昇降させて目標位置に停止させることができない。このため、ペンダントスイッチにより上ロールを手動で昇降させて目標位置に近づけるか、手動で一旦目標位置から遠ざかる方向に昇降させて制御量がオーバーラン量の設定値以上となる位置で停止させた後、自動で目標値を目指すようにする必要があり、このように上ロールの昇降位置決めに手間がかかることが成形作業の効率を低下させる一因となる。
【0008】
また、自動で昇降させた上ロールが何らかの原因によって目標位置(の許容範囲内)に停止しなかった場合でも、その誤差を補正する機能がなく、制御精度の点でも改善の余地がある。
【0009】
これに対し、上ロール昇降用の油圧シリンダを作動させる油圧バルブとして応答性の高いサーボバルブを用いるようにすれば、位置決め前の上ロールが目標位置近傍にある場合でも自動制御で上ロールの位置を微調整でき、制御精度を向上させることができる。しかし、既設のベンディングロールにおいて汎用の油圧バルブをサーボバルブに交換しようとすると、油圧システム、機械構造、電気制御の変更が必要となり、多大なコストがかかることになる。
【0010】
そこで、本発明は、ベンディングロールの上ロールの昇降位置制御において、低コストで上ロール位置の微調整を可能にし、制御精度の向上が図れるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は、昇降可能に支持された上ロールと、前記上ロールの下方の前後両側に配された一対の下ロールとを備え、前記上ロールと各下ロールの間で金属板を挾持した状態で、前記各下ロールを回転駆動することにより、金属板を往復移動させながら曲げ成形するベンディングロールの制御方法において、前記上ロールは、その両端部が油圧シリンダのピストンロッドに連結され、前記油圧シリンダに接続された油圧バルブのON・OFFによって昇降するようになっており、前記上ロールを目標位置まで昇降させる制御は、予め、前記油圧バルブをON状態からOFF状態に切り替えたときの前記上ロールの惰性による移動量に相当するオーバーラン量の設定値を設定しておき、前記上ロールの目標位置までの必要移動量の演算値が前記オーバーラン量の設定値以上の場合は、前記油圧バルブをON状態として上ロールを昇降させた後、前記上ロールが目標位置よりもオーバーラン量の設定値分だけ手前に達した時点で前記油圧バルブをOFF状態とすることにより、前記上ロールが惰性で目標位置に近づくようにし、前記上ロールの目標位置までの必要移動量の演算値が前記オーバーラン量の設定値未満の場合は、前記油圧バルブをON状態とするON時間を、前記演算値が前記設定値以上の場合よりも小さくなるように調整することにより、前記上ロールが目標位置に近づくようにする構成を採用した。
【0012】
すなわち、上ロールの昇降位置制御において、位置決め前の上ロールが目標位置からある程度離れている場合は、従来と同じ制御方法で自動制御を行い、上ロールが目標位置近傍にある場合は、昇降用の油圧シリンダを作動させる油圧バルブのON時間を調整する制御を行うことにより、自動で上ロール位置を微調整でき、制御精度の向上が図れるようにしたのである。この構成によれば、従来の手動での上ロール位置調整をなくすことができるうえ、制御にサーボバルブを必要としないので、汎用の油圧バルブを用いて低コストでの制御を実現できる。
【0013】
ここで、前記油圧バルブのON時間の調整は、具体的には、前記上ロールが目標位置に達するまで、自動的にON時間を加算して油圧バルブをON状態とする操作を繰り返す方法を採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のベンディングロールの制御方法は、上述したように、上ロールの昇降位置制御において、位置決め前の上ロールが目標位置近傍にある場合でも、昇降用の油圧シリンダを作動させる油圧バルブのON時間を調整する制御を行うことにより、上ロール位置の微調整を可能として、制御精度を向上させることができる。したがって、従来の手動での上ロール位置調整をなくすことができ、上ロールの位置決め作業にかかる時間の短縮が図れる。また、汎用の油圧バルブを組み込んだ既設のベンディングロールに対しても、電気制御の変更のみで適用可能であり、低コストでの制御を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態のベンディングロールの制御方法を適用して上ロールを下降させる制御の主要部を示すフローチャート
図2図1の制御の補助部(下降させすぎた上ロールを上昇させる制御)のフローチャート
図3】一般的なベンディングロールにおける上ロールの昇降位置制御の概略説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。本発明の制御方法を実施するベンディングロールの基本的な構造は、前述の図3に示した一般的なものである。すなわち、このベンディングロールは、上ロール1と一対の下ロール2の間で金属板Wを挾持した状態で、各下ロール2を回転駆動することにより、金属板Wを往復移動させながら曲げ成形するものであり、その上ロール1は油圧シリンダ3のピストンロッド3aに連結されて昇降可能に支持されている。
【0017】
そして、この実施形態のベンディングロールの制御方法は、成形作業を行う際に、成形条件に応じた上ロール1の目標位置とポテンショメータ4で検出した上ロール1の現在位置から制御量を演算し、その制御量に応じて油圧シリンダ3に接続された油圧バルブ(図示省略)のバルブ制御(ON・OFF操作)を行うことにより、上ロール1を目標位置まで昇降させるものである。
【0018】
次に、この実施形態の制御方法のうち、位置決め前の上ロール1が目標位置よりも上方にある場合の制御の具体的な処理手順を、図1および図2に基づいて説明する。
【0019】
この制御方法では、予め、前記油圧バルブをON状態からOFF状態に切り替えたときの上ロール1の惰性による移動量に相当するオーバーラン量の設定値を設定しておく。そして、図1に示すように、まず、上ロール1を下降させる制御(下降制御)を開始して(ステップS)、上ロール1の目標位置と現在位置から演算した制御量と、オーバーラン量の設定値とを比較し、制御量がオーバーラン量設定値以上の場合は通常の制御を行う(ステップS、S)。
【0020】
ここで、通常の制御とは、前述の従来の制御と同じものであり、具体的には、油圧バルブをON状態として上ロール1を下降させた後、上ロール1が目標位置よりもオーバーラン量の設定値分だけ手前に達した時点で油圧バルブをOFF状態として、上ロール1が惰性で目標位置に近づくようにする。
【0021】
一方、ステップSで制御量がオーバーラン量設定値未満の場合は、下降開始位置(現在位置)を記憶した後、所定の下降時バルブON時間の初期値分だけ油圧バルブをON状態として上ロール1の下降操作を行う(ステップS、S)。ここで、バルブON時間の初期値は通常の制御でのバルブON時間のレベルよりもかなり小さく設定されており、実際の上ロール1の下降動作を生じさせない場合もある。このため、ステップSの下降操作をしても上ロール1の下降動作がない場合は、上ロール1の下降動作が生じるまで、バルブON時間に所定の時間を加算して下降操作を行う処理を繰り返す(ステップS、S、S)。なお、ステップSで加算する時間は、なるべく小さく(例えば0.01秒)設定することが望ましい。
【0022】
上記ステップSの下降操作により実際に上ロール1が下降して、現在位置が目標位置に一致していれば、制御は完了となる(ステップS、S)。ここで、目標位置は、ある程度の許容範囲を有するものとする。これに対し、上ロール1の下降動作を生じた後の現在位置が目標位置に一致していない場合は、現在位置と目標位置の上下方向の位置関係の判定を行い(ステップS、S)、現在位置が目標位置よりも下方にあれば、すなわち上ロール1が目標位置を行き過ぎていれば、後述の図2に示すように上ロール1を上昇させる制御(上昇制御)を開始する(ステップS10)。
【0023】
上記ステップSの判定で現在位置が目標位置よりも上方にあれば、すなわち上ロール1が目標位置に達していなければ、現在位置を記憶した後、油圧バルブをON状態として上ロール1の下降操作を行う(ステップS11、S12)。ステップS12の下降操作により上ロール1の下降動作が生じていれば、現在位置と目標位置の一致判定に戻り(ステップS13、S)、上ロール1の下降動作がない場合は、上ロール1の下降動作が生じるか、またはリトライカウンタがリトライ設定回数に達するまで下降操作を繰り返す(ステップS13、S14、S15、S12)。そして、ステップS14でリトライカウンタがリトライ設定回数に達したときは、バルブON時間に所定の時間を加算して下降操作を行う処理に戻る(ステップS、S)。
【0024】
ステップS10から開始される上昇制御は、上述した下降制御における「下降」を「上昇」に、「上方」を「下方」にそれぞれ置き換えた形で、ほぼ同じ処理を行う。具体的には、図2におけるステップS16~S21がそれぞれ下降制御におけるステップS~Sに相当し、図2におけるステップS22、S23~S27がそれぞれ下降制御におけるステップS、S11~S15に相当する。ただし、下降制御におけるステップS、Sに相当する処理、すなわち制御量がオーバーラン量設定値以上の場合に通常制御を行う処理は含まれていない。また、ステップS22の判定で、現在位置が目標位置よりも上方にあれば、すなわち上ロール1が目標位置を行き過ぎていれば、各設定値を制御が収束する方向に再設定して上昇制御に戻るようにしている(ステップS28、S)。
【0025】
上述した処理手順は位置決め前の上ロール1が目標位置よりも上方にある場合のものであるが、逆に目標位置が上方にある場合の処理手順は、図1および図2において「下降」と「上昇」、「上方」と「下方」をそれぞれ入れ替えたものとなる。
【0026】
このベンディングロールの制御方法は、上述したように、位置決め前の上ロール1が目標位置近傍にある場合は、油圧バルブのON時間を調整することにより、上ロール位置を微調整して上ロール1を目標位置に近づけるようにしているので、手動での上ロール位置調整を行う従来の方法に比べて制御精度を向上させることができ、上ロール1の位置決め作業の時間短縮も図れる。また、油圧バルブには汎用のものを用いればよいので、サーボバルブを用いる場合に比べて低コストでの制御を実現することができる。
【0027】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0028】
1 上ロール
2 下ロール
3 油圧シリンダ
3a ピストンロッド
4 ポテンショメータ
W 金属板
図1
図2
図3