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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】冷凍装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 7/00 20060101AFI20241011BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20241011BHJP
   F25B 1/10 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
F25B7/00 E
F25B1/00 331Z
F25B1/00 304F
F25B1/00 361A
F25B1/00 371F
F25B1/00 396D
F25B1/10 S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021036004
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2021143819
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-07-04
(31)【優先権主張番号】P 2020042603
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004347
【氏名又は名称】弁理士法人大場国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【弁理士】
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 太地
【審査官】関口 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-293051(JP,A)
【文献】特開平07-127935(JP,A)
【文献】国際公開第2020/003490(WO,A1)
【文献】特開2013-242087(JP,A)
【文献】特開2005-226950(JP,A)
【文献】特開2017-067435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 7/00
F25B 1/00
F25B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高段側圧縮機、高段側凝縮器、高段側絞りおよび高段側蒸発器が、第1冷媒が循環される経路に順に配置される、高段側冷凍サイクルと、
低段側圧縮機、低段側凝縮器、低段側絞りおよび低段側蒸発器が、前記第1冷媒と異なる第2冷媒が循環される経路に順に配置される、低段側冷凍サイクルと、
前記高段側蒸発器と前記低段側凝縮器を有し、前記高段側冷凍サイクルを流れる前記第1冷媒と前記低段側冷凍サイクルを流れる前記第2冷媒との間の熱交換を行うカスケード熱交換器と、
前記高段側冷凍サイクルおよび前記低段側冷凍サイクルの運転を司る制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記高段側冷凍サイクルと前記低段側冷凍サイクルの過渡状態において、
前記高段側圧縮機における圧縮比と運転可能な範囲の圧縮比の下限値CRHLとの比較結果に基づいて、
前記高段側凝縮器に付設される、それまで運転されていた高段側送風機を停止することで高段側高圧を上げ、かつ、
前記低段側圧縮機における圧縮比と運転可能な範囲の圧縮比の下限値CRLLとの比較結果に基づいて低段側低圧を上げることにより、
中間圧力の調整を行うことで、前記高段側圧縮機および前記低段側圧縮機を運転可能な範囲で運転させる、冷凍装置。
【請求項2】
前記制御部による前記中間圧力の調整は、
前記高段側冷凍サイクルおよび前記低段側冷凍サイクルの凝縮圧力および蒸発圧力の一方または双方の調整を伴う、
請求項1に記載の冷凍装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記高段側冷凍サイクルにおける前記凝縮圧力および前記蒸発圧力の調整を行い、
次いで、前記低段側冷凍サイクルにおける前記凝縮圧力および前記蒸発圧力の調整を行う、
請求項2に記載の冷凍装置。
【請求項4】
前記高段側冷凍サイクルにおける前記凝縮圧力および前記蒸発圧力の調整は、
前記高段側圧縮機の回転数および高段側絞りの開度の一方または双方を変動させることにより行われる、
請求項3に記載の冷凍装置。
【請求項5】
前記低段側冷凍サイクルにおける前記凝縮圧力および前記蒸発圧力の調整は、
前記低段側圧縮機の回転数、低段側絞りの開度および前記低段側蒸発器の出口過熱度の少なくとも一つを変動させることにより行われる、
請求項3または請求項4に記載の冷凍装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、カスケードサイクルを利用した冷凍装置に関する。
【背景技術】
【0002】
COを冷媒として適用する冷凍機では、COの臨界温度が31.06℃であるから、外気温度が高くなると遷臨界サイクルとなり、冷凍機としての性能が大きく低下してしまう。したがって、外気温度が高い環境下で運転される冷凍機器、例えば輸送用冷凍機にはCO冷媒を単独で使用できない。
【0003】
この問題を解決する手段として、例えば特許文献1に開示される、CO冷媒の冷凍サイクルとCO以外の他の冷媒の冷凍サイクルとを組み合わせたカスケードサイクルを利用した冷凍サイクルがある。
【0004】
冷凍機の運転点は定格点に合わせて計画されているため、例えば庫内温度が外温の状態から、設定温度まで冷やし込む運転であるプルダウンでは、図2の(4)-(1)の線で示される蒸発温度は図2の上から下に向かって移動する。
一方、圧縮機には運転できる圧縮比と回転数があり、その範囲内で運転する必要がある。
したがって、プルダウン運転時などの過渡状態では圧縮機の運転範囲を逸脱する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-190917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上より、本開示は、過渡状態においても、圧縮機が運転範囲を逸脱することなく運転できる冷凍装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
冷凍装置は、高段側圧縮機、高段側凝縮器、高段側絞りおよび高段側蒸発器が、第1冷媒が循環される経路に順に配置される、高段側冷凍サイクルと、低段側圧縮機、低段側凝縮器、低段側絞りおよび低段側蒸発器が、第1冷媒と異なる第2冷媒が循環される経路に順に配置される、低段側冷凍サイクルと、高段側蒸発器と低段側凝縮器を有し、高段側冷凍サイクルを流れる第1冷媒と低段側冷凍サイクルを流れる第2冷媒との間の熱交換を行うカスケード熱交換器と、高段側冷凍サイクルおよび低段側冷凍サイクルの運転を司る制御部と、を備える。
制御部は、高段側冷凍サイクルと低段側冷凍サイクルの過渡状態において、中間圧力の調整を行うことで、高段側圧縮機および低段側圧縮機を運転可能な条件で運転させる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、過渡状態においても、圧縮機が運転範囲を逸脱することなく運転できる冷凍装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態に係る冷凍装置の回路構成を示す図である。
図2】実施形態に係る冷凍装置における、定格運転におけるp-h(圧力-比エンタルピー)線図である。
図3】実施形態に係る冷凍装置の制御の概念を示す図であり、上段に示されるグラフが中間圧力と圧縮比(高圧と低圧の比)の関係を示し、下段に示されるグラフが中間圧力と圧縮機回転数の関係を示している。
図4】実施形態に係る冷凍装置の制御手順を示すフロー図である。
図5図4に引き続き、実施形態に係る冷凍装置の制御手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、実施形態について説明する。
本実施形態に係る冷凍装置1は、例えば車両に搭載される冷凍庫5の庫内を冷却するためのものである。冷凍装置1は、冷凍庫5に設けられる機器と車室外に設置された室外機3に設けられる機器とが配管および配線で接続して構成される。冷凍装置1は、外気温度、庫内温度の状態に応じて、中間圧力、凝縮圧力および蒸発圧力を逐次変更させて、圧縮機の圧縮比および回転数が運転可能範囲内となるように制御する。
以下、冷凍装置1の構成を説明した後に、冷凍装置1の圧縮比および圧縮機回転数の制御の内容を説明する。
【0011】
[全体構成]
冷凍装置1は、図1に示すように、高温側(熱源側)となる高段側冷凍サイクル10と、低温側(利用側)となる低段側冷凍サイクル30とを備える2元冷凍サイクルである。冷凍装置1は、高段側冷凍サイクル10および低段側冷凍サイクル30の動作を司る制御部50を備える。
【0012】
[高段側冷凍サイクル10]
高段側冷凍サイクル10は室外機3内に設置され、高段側圧縮機11と、高段側凝縮器13と、高段側絞りとしての高段側膨張弁15と、高段側蒸発器17とを順次配管で接続して循環経路が構成される。この循環経路の内部には高温側の第1冷媒として、冷媒Refとして、CO以外の冷媒、例えば、所定量のHFC(ハイドロフルオロカーボン)冷媒、例えばR32や自然冷媒などが封入されている。
【0013】
高段側冷凍サイクル10における動作は以下の通りである。高段側冷凍サイクル10における動作、例えば高段側圧縮機11の回転数は、制御部50により制御される。
高段側圧縮機11で圧縮された冷媒Refは、高温高圧の気体の状態で高段側凝縮器13に流入する。高段側凝縮器13には高段側送風機14が付設されており、高段側送風機14から高段側凝縮器13に冷風が供給されることで、高温高圧で流入した冷媒Refは冷却、放熱して凝縮液化し、高段側膨張弁15に至る。高段側膨張弁15で冷媒Refは絞られて減圧され、低温低圧の液状の状態、つまり蒸発しやすい状態となって高段側蒸発器17に流入する。低温・低圧状態の冷媒Refは高段側蒸発器17で低段側の冷媒から蒸発熱を奪って蒸発する。この蒸発熱の吸熱のため冷却作用を発揮する。このとき、冷媒Refは液体から気体に状態変化するため温度変化はなく、低温・低圧の気体となる。高段側蒸発器17で蒸発して低温となったガス冷媒Refは高段側圧縮機11に吸引され、その後は以上で説明したサイクルが繰り返される。
【0014】
以上で説明した高段側圧縮機11、高段側凝縮器13、高段側送風機14、高段側膨張弁15および高段側蒸発器17は、高段側冷凍サイクル10において最低限必要とされる要素であり、高段側冷凍サイクル10を実際に実施する場合には、他の要素を備えることができる。低段側冷凍サイクル30においても同様である。
【0015】
[低段側冷凍サイクル30]
一方、低段側冷凍サイクル30は、図1に示すように、低段側圧縮機31と、低段側凝縮器33と、低段側絞りとしての低段側膨張弁35と、低段側蒸発器37とを順次配管で接続して循環経路が構成される。この循環経路の内部には低段側の冷媒(第2冷媒)として所定量の二酸化炭素(CO)が封入されている。
【0016】
低段側冷凍サイクル30における動作は以下の通りである。低段側冷凍サイクル30における動作、例えば低段側圧縮機31の回転数は、制御部50により制御される。
低段側圧縮機31で圧縮されたCO冷媒は、高温高圧の気体の状態で低段側凝縮器33に流入する。高温高圧で流入したCO冷媒は冷却、放熱して凝縮液化し、低段側膨張弁35に至る。低段側膨張弁35でCO冷媒は絞られて減圧され、低温低圧の液状の状態、つまり蒸発しやすい状態となって低段側蒸発器37に流入する。低温・低圧状態のCO冷媒は低段側蒸発器37で周囲の空気から蒸発熱を奪って蒸発する。この蒸発熱の吸熱のため冷却作用を発揮する。このとき、CO冷媒は液体から気体に状態変化するため温度変化はなく、低温・低圧の気体となる。低段側蒸発器37で蒸発して低温となったガス冷媒は低段側圧縮機31に吸引され、その後は以上で説明したサイクルが繰り返される。
【0017】
低段側冷凍サイクル30における低段側凝縮器33と高段側冷凍サイクル10の高段側蒸発器17とはカスケード熱交換器20を構成する。このカスケード熱交換器20において高段側冷凍サイクル10と低段側冷凍サイクル30とが熱的に接続される。カスケード熱交換器20は、図示を省略するが、例えばプレート式と称される熱交換器から構成され、この熱交換器は二つの独立する冷媒通路が設けられ、一方の冷媒通路が高段側蒸発器17の構成要素となり、他方の冷媒通路が低段側凝縮器33の構成要素となる。
【0018】
[制御部50]
制御部50は、高段側圧縮機11、低段側圧縮機31、高段側凝縮器13、低段側凝縮器33、高段側膨張弁15、低段側膨張弁35、高段側蒸発器17、低段側蒸発器37、高段側送風機14、低段側送風機38などの冷凍装置1の構成要素の動作を制御する。制御部50は、一例として、汎用されているコンピュータ装置にて構成される。
冷凍装置1は、制御部50による冷凍装置1の構成要素の制御を行うために、外気温度を検出する温度センサS1、冷凍庫5内の温度を検出する温度センサS2を備える。図示を省略するが、冷凍装置1は、これ以外に、他の部位の温度、圧力を検出するセンサを備えることができる。制御部50は、これらセンサからの各出力を取得して、高段側圧縮機11、低段側圧縮機31などの動作を司る。
【0019】
[動 作]
制御部50により制御される冷凍装置1の動作を説明する。
[起動時]
先ず、制御部50による冷凍装置1の起動時の基本的な動作を説明する。
制御部50は、高段側圧縮機11および低段側圧縮機31を停止させている。この状態で、制御部50は先ず高段側冷凍サイクル10の高段側圧縮機11を起動する。これにより、高段側圧縮機11で圧縮された冷媒Refは、高温・高圧状態で高段側凝縮器13に入り、そこで高段側送風機14により冷やされる。高段側凝縮器13において、冷媒Refは大気中に放熱して凝縮・液化してから、高段側膨張弁15に至る。高段側膨張弁15で冷媒Refは絞られて減圧され、高段側蒸発器17に流入して蒸発する。このときの吸熱により冷却作用を発揮し、カスケード熱交換器20で低段側冷媒を冷却する。そして、高段側蒸発器17で蒸発して低温となったガス状の冷媒Refは高段側圧縮機11に再び吸引されるサイクルを繰り返す。
【0020】
高段側冷凍サイクル10の高段側圧縮機11の起動後、所定時間が経過したならば、制御部50は低段側冷凍サイクル30の低段側圧縮機31を起動する。これにより、低段側圧縮機31で圧縮されたCO冷媒は、高温・高圧状態で低段側凝縮器33に入り、高段側冷媒Refに放熱して凝縮・液化してから、低段側膨張弁35に至る。低段側膨張弁35でCO冷媒は絞られて減圧され、低段側蒸発器37に流入して蒸発する。このときの吸熱により冷却作用を発揮し、冷凍庫5の内部の空気を冷却する。そして、低段側蒸発器37で蒸発して低温となったガス状のCO冷媒は低段側圧縮機31に再び吸引されるサイクルを繰り返す。
【0021】
[通常運転]
この低段側蒸発器37による冷却により、冷凍庫5の庫内温度が目標値T1、例えば-25℃まで低下したら、制御部50は温度センサS2の出力に基づき、低段側圧縮機31を停止し、次いで、高段側冷凍サイクル10の高段側圧縮機11も停止する。
その後、冷凍庫5の庫内温度が徐々に上昇して庫内温度の目標値T1より所定の閾値ΔTだけ高い制限値T2まで達すると、制御部50は温度センサS2の出力に基づき、起動時と同様に先ず高段側冷凍サイクル10を起動し、その後、低段側冷凍サイクル30の低段側圧縮機31を起動し、低段側蒸発器37による冷凍庫5の内部の冷却作用を発揮し始める。
【0022】
[起動時の特徴的な動作]
次に、制御部50の指示に基づく起動時の特徴的な動作を、図2図3図4および図5を参照して説明する。ここでは起動時について説明するが、これは過渡的な状態における運転の一例として掲げるだけであり、他の過渡的な状態における運転について、ここで説明する形態を適用することができる。
【0023】
起動時には、冷凍庫5の内部の温度が外気の温度に近いため、低段側冷凍サイクル30における蒸発圧力は、例えば図2の(4)-(1)の線で示される定格の運転点における蒸発圧力より高くなる。したがって、高段側圧縮機11および低段側圧縮機31のそれぞれの圧縮比CR、CRおよび回転数N、Nのいずれかが、予め定められる運転可能な範囲から外れるおそれがある。特に、圧縮比については、高段側圧縮機11および低段側圧縮機31のそれぞれの下限値CRHL、CRLLを下回るおそれがある。そこで、冷凍装置1の制御部50は、起動時において、中間圧力IP、凝縮圧力CPおよび蒸発圧力EPを調整変更させることにより、圧縮比CR、CRおよび回転数N、Nを運転可能な範囲内に収める。なお、前述した起動時の基本的な動作、その後は前述した通常運転の動作が行われることを前提とする。
【0024】
中間圧力IPは、図2において、カスケード凝縮圧力((2)-(3)の線)とカスケード蒸発圧力((8)-(5)の線)の間の圧力をいう。したがって、低段側冷凍サイクル30の凝縮圧力と高段側冷凍サイクル10の蒸発圧力の変動によって、中間圧力IPは変動し得る。
また、図2において、高段側圧縮機11の圧縮比CRは、凝縮圧力((6)-(7)の線)と蒸発圧力((8)-(5)の線)の比、低段側圧縮機31の圧縮比CRは、凝縮圧力((2)-(3)の線)と蒸発圧力((4)-(1)の線)の比である。ここで、高段側圧縮機11の凝縮圧力と蒸発圧力をそれぞれ高段側高圧PHH、高段側低圧PHLと称し、低段側圧縮機31の凝縮圧力と蒸発圧力をそれぞれ低段側高圧PLH、低段側低圧PLLと称することがある。
【0025】
図3を参照して、冷凍装置1における起動時の特徴的な制御について説明する。
図3において、上段のグラフは中間圧力と高段側圧縮機11および低段側圧縮機31のそれぞれの圧縮比との関係を示しており、下段のグラフは同一能力で比較した場合の中間圧力と高段側圧縮機11および低段側圧縮機31のそれぞれの回転数との関係を示している。
上段のグラフにおいて、中間圧力が大きくなると、高段側圧縮機11の圧縮比(「高段側」の線)は小さくなる。逆に、中間圧力が大きくなると、低段側圧縮機31の圧縮比(「低段側」の線)は大きくなる。下段のグラフにおいて、中間圧力が大きくなると、高段側圧縮機11の回転数(「高段側」の線)は小さくなる。逆に、中間圧力が大きくなると、低段側圧縮機31の回転数(「低段側」の線)は大きくなる。
【0026】
図3において、「X」が付された線分は中間圧力を制御しない運転の状態を示し、「Y」が付された線分は中間圧力を制御した運転の状態を示している。
中間圧力を制御しない場合(線分X)を参照すると、高段側の圧縮比は下限値CRHLを超えているが、低段側の圧縮比は下限値CRLLを下回っており、運転可能な範囲から逸脱する。また、回転数についても、高段側の回転数は、高段側の回転数の上限値NHUを超えており、運転可能な範囲から逸脱する。
【0027】
以上に対して、中間圧力を制御する(線分Y)場合を参照すると、圧縮比について、高段側および低段側のいずれもそれぞれの下限値CRHLおよび下限値CRLLを超えており、運転可能な範囲に含まれる。また、回転数についても、高段側および低段側のいずれもそれぞれの上限値NHUおよび上限値NLUを下回っており、運転可能な範囲に含まれる。
【0028】
以上説明のように、中間圧力の大小を制御することにより、起動時においても高段側圧縮機11および低段側圧縮機31を運転の可能な範囲で運転できる。
なお、図3には、圧縮比について、高段側および低段側の下限値CRHL、下限値CRLL、ならびに、回転数について、高段側および低段側の上限値NHU、上限値NLUしか示されていない。ここでは、圧縮比について下限値を下回るか否かが課題となり、回転数については上限値を上回るかが課題である。そこで、現実には設定される、高段側および低段側の圧縮比のそれぞれの上限値(CRHU、CRLU)、ならびに、高段側および低段側の回転数の下限値(NHL、NLL)の図3における記載は省略されている。
【0029】
[高段側冷凍サイクル10の動作]
はじめに、高段側冷凍サイクル10における動作を説明する。
制御部50は高段側圧縮機11を低い回転数、典型例として下限値NHLの回転数で起動する(図4 S101)。ここでは、下限値NHLを例示しているが、下限値NHLより閾値ΔNHTだけ高い範囲の回転数(NHL~NHL+ΔNHT)で起動させることもできる。
【0030】
次に、制御部50は高段側膨張弁15の開度を全開にするように指示する(S103)。この指示により、高段側低圧PHL図2の(8)-(5)の線)が定格運転に比べて低くなる。これにより、高段側の圧縮比CRは大きくなる。
【0031】
次に、高段側圧縮機11の回転数Nを設定値NHSまで上げる(S105)。この設定値NHSとは、定格運転における高段側圧縮機11の回転数であり、外気温度、庫内温度および目標とする冷凍能力から決められる。
【0032】
次に、高段側冷凍サイクル10における圧縮比CRと運転可能な範囲の圧縮比の下限値CRHLとを比較し、圧縮比CRが下限値CRHL以下か否か判定される(S107)。この判定は、下限値CRHL以下の状態での高段側圧縮機11の運転を継続させないために行われる。
したがって、圧縮比CRが下限値CRHL以下であれば(S107 Y)、それまで運転されていた高段側送風機14を停止するように制御部50が指示する(図4 S109)。これにより、高段側凝縮器13における冷媒Refの凝縮に伴う大気への放熱が抑えられる。そうすると、高段側高圧PHHが上がるので、高段側の圧縮比CRは、それまでよりも大きくなる。
【0033】
圧縮比CRが下限値CRHLを超えていれば(図4 S107,N)、高段側膨張弁15の開度を調整、具体的には全開から閉じていくように制御部50が指示する(S111)。これは、圧縮比CRが下限値CRHLを超えていれば、現時点の圧縮比CRが高段側圧縮機11の運転範囲に収まっているので、高段側膨張弁15を閉じていくことにより、高段側低圧PHLを上げる。
圧縮比CRが下限値CRHL以下であれば(S107 Y)、高段側送風機14を停止するように制御部50が指示した(S109)後に、高段側膨張弁15の開度を全開から閉じていくように指示がなされる(S111)。
【0034】
高段側膨張弁15を閉じていきながら、制御部50は高段側低圧PHLと設定値PHLSとの大小関係を判定する(S113)。この設定値PHLSとは、定格運転における高段側圧縮機11の圧力であり、外気温度、庫内温度において決まる最も性能が良くなる中間圧力から決まる。
制御部50は、高段側低圧PHLが設定値PHLSに達したならば(S113 Y)、次の低段側冷凍サイクル30の動作(図5)に移行する。
制御部50は、高段側低圧PHLが設定値PHLSに達するまで(S113 N)、高段側膨張弁15を段階的に閉じるよう指示する。
【0035】
[低段側冷凍サイクル30の動作]
次に、低段側冷凍サイクル30における動作について、図5を参照して説明する。
制御部50は低段側圧縮機31を低い回転数、典型例として下限値NLLの回転数で起動する(図5 S115)。ここでは、下限値NLLを例示しているが、下限値NLLより閾値ΔNLTだけ高い範囲の回転数(NLL~NLL+ΔNLT)で起動させることもできる。
【0036】
次に、制御部50は低段側膨張弁35の開度を全開にするように指示する(S117)。
この指示により、低段側低圧PLL図2の(4)-(1)の線)が定格運転に比べて低くなる。これにより、低段側の圧縮比CRは大きくなる。
【0037】
次に、低段側冷凍サイクル30における圧縮比CRと運転可能な範囲の圧縮比の下限値CRLLとを比較し、圧縮比CRが下限値CRLL以下か否か判定される(S121)。この判定は、下限値CRLLを下回る状態での低段側圧縮機31の運転を継続させないために行われる。
【0038】
圧縮比CRが下限値CRLL以下であれば(S121 N)、低段側蒸発器37の冷媒としてのCOの出口過熱度の設定値を変更し(大→小,S127)、低段側膨張弁35の開度を大きくする(S129)。
【0039】
圧縮比CRが下限値CRLL超えていれば(S121 Y)、低段側膨張弁35の開度を調整、具体的には全開から閉じていくように制御部50が指示する(S123)。低段側膨張弁35を閉じていくことにより、低段側低圧PLLを上げる。低段側膨張弁35を閉じていきながら、制御部50は低段側低圧PLLと設定値PLLSとの大小関係を判定する(S125)。この設定値PLLSとは、定格運転における低段側圧縮機31の圧力であり、庫内温度と低段側蒸発器性能から決まめられる。
制御部50は、低段側低圧PLLが設定値PLLSに達したならば(S125 Y)、
前述した低段側蒸発器37の冷媒としてのCOの出口過熱度の設定値を変更し(大→小,S127)、低段側高圧PLHが設定値になるように低段側膨張弁35の開度を大きくし(S129)、低段側圧縮機31の回転数を設定値NLSまで上げる(S131)という手順を順次行う。
S127において、COの出口過熱度の設定値は、低段側膨張弁35の開度、低段側圧縮機31の回転数を変更することで変更させる。
【0040】
[効 果]
以上説明したように、過渡状態においても、高段側圧縮機11および低段側圧縮機31が運転範囲を逸脱することなく運転できる冷凍装置1が提供される。
【0041】
[付記]
以上の実施形態に記載の冷凍装置1は、以下のように把握される。[第1の態様に係る冷凍装置1の構成]
第1の態様に係る冷凍装置1は、高段側圧縮機11、高段側凝縮器13、高段側絞り15および高段側蒸発器17が、第1冷媒Refが循環される経路に順に配置される、高段側冷凍サイクル10と、低段側圧縮機31、低段側凝縮器33、低段側絞り35および低段側蒸発器37が、第1冷媒と異なる第2冷媒COが循環される経路に順に配置される、低段側冷凍サイクル30と、高段側蒸発器17と低段側凝縮器33を有し、高段側冷凍サイクル10を流れる第1冷媒と低段側冷凍サイクル30を流れる第2冷媒との間の熱交換を行うカスケード熱交換器20と、高段側冷凍サイクル10および低段側冷凍サイクル30の運転を司る制御部50と、を備える。
制御部50は、高段側冷凍サイクル10と低段側冷凍サイクル30の過渡状態において、中間圧力IPの調整を行うことで、高段側圧縮機11および低段側圧縮機31を運転可能な条件で運転させる。
【0042】
[第2の態様に係る冷凍装置1の構成]
第2の態様に係る制御部50による中間圧力IPの調整は、高段側冷凍サイクル10および低段側冷凍サイクル30の凝縮圧力および蒸発圧力の一方または双方の調整を伴うことができる。
【0043】
[第3の態様に係る冷凍装置1の構成]
第3の態様に係る制御部50は、高段側冷凍サイクル10における凝縮圧力および蒸発圧力の調整を行い、次いで、低段側冷凍サイクル30における凝縮圧力および蒸発圧力の調整を行うことができる。
【0044】
[第4の態様に係る冷凍装置1の構成]
第4の態様に係る高段側冷凍サイクル10における凝縮圧力および蒸発圧力の調整は、高段側圧縮機11の回転数および高段側絞り15の開度の一方または双方を変動させることにより行うことができる。
【0045】
[第5の態様に係る冷凍装置1の構成]
第5の態様に係る低段側冷凍サイクル30における凝縮圧力および蒸発圧力の調整は、
低段側圧縮機31の回転数、低段側絞り35の開度および低段側蒸発器37の出口過熱度の少なくとも一つを変動させることにより行うことができる。
【0046】
上記以外にも、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 冷凍装置
3 室外機
5 冷凍庫
10 高段側冷凍サイクル
11 高段側圧縮機
13 高段側凝縮器
14 高段側送風機
15 高段側膨張弁
17 高段側蒸発器
20 カスケード熱交換器
30 低段側冷凍サイクル
31 低段側圧縮機
33 低段側凝縮器
35 低段側膨張弁
37 低段側蒸発器
38 低段側送風機
50 制御部
S1,S2 温度センサ
図1
図2
図3
図4
図5