(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】蓄電デバイスおよび蓄電デバイス用セパレータ
(51)【国際特許分類】
H01M 50/463 20210101AFI20241011BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20241011BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20241011BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20241011BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20241011BHJP
H01M 4/134 20100101ALI20241011BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20241011BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20241011BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20241011BHJP
H01G 11/52 20130101ALI20241011BHJP
【FI】
H01M50/463 A
H01M50/443 M
H01M50/451
H01M50/46
H01M50/489
H01M4/134
H01M4/38 Z
H01M10/0566
H01M10/052
H01G11/52
(21)【出願番号】P 2021087949
(22)【出願日】2021-05-25
【審査請求日】2024-02-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100142387
【氏名又は名称】齋藤 都子
(74)【代理人】
【識別番号】100135895
【氏名又は名称】三間 俊介
(72)【発明者】
【氏名】中澤 祐仁
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-093941(JP,A)
【文献】特開2013-218926(JP,A)
【文献】特開2009-238752(JP,A)
【文献】国際公開第2017/064843(WO,A1)
【文献】特開2017-103030(JP,A)
【文献】特開2020-177773(JP,A)
【文献】特開2013-080676(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0164059(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
H01M 4/134
H01M 4/40
H01M 10/0566
H01M 10/052
H01G 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微多孔膜を含む蓄電デバイス用セパレータであって、
前記蓄電デバイス用セパレータの少なくとも表層に位置する均一拡散層を有しており、
前記均一拡散層が、ポリエチレンオキシドまたはエチレンオキシドとモノマーの共重合体を含むイオン伝導性材料から成る無孔層であり、
前記表層において前記均一拡散層の算術平均粗さ(Ra)が1.20μm以下であ
り、
1mol/LのLiPF
6
を含むエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/2(体積比)の電解液に前記蓄電デバイス用セパレータを1日間含侵させた後、前記均一拡散層をリチウム(Li)金属に25℃及び0.5MPaで圧着させた際の剥離強度が、2N/m以上である、蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項2】
1mol/LのLiPF
6を含むEC/DEC=1/2(体積比)である電解液に対する前記均一拡散層の膨潤度が、2倍以上である、請求項
1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項3】
前記微多孔膜の少なくとも片側に無機フィラー層を有する、請求項1
又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項4】
正極、負極、電解液及び請求項1~
3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータから構成される蓄電デバイス。
【請求項5】
前記負極と前記蓄電デバイス用セパレータの剥離強度が、2N/m以上である、請求項
4に記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記負極が、Li金属、又は銅(Cu)箔である、請求項
4又は
5に記載の蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用セパレータ、及びそれを含む蓄電デバイスなどに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、種々の物質の分離のために、又は選択透過分離膜、隔離材等として広く用いられている。その用途としては、例えば、精密ろ過膜;リチウムイオン電池、ポリマー電解質電池、燃料電池等の電池のセパレータ;コンデンサー用セパレータ;機能材を孔の中に充填させ、新たな機能を出現させるための機能膜の母材等が挙げられる。中でも、携帯電話、スマートフォン、ウェアラブル機器、ノート型パーソナルコンピュータ(PC)、タブレットPC、デジタルカメラ等に広く使用されている蓄電デバイス用のセパレータとして、ポリオレフィン微多孔膜が好適に使用されている。
【0003】
従来、蓄電デバイスでは、正極板と負極板との間にセパレータを介在させた発電要素に、電解液を含浸させていた。これらの蓄電デバイスでは、比較的低温で比較的大きな電流でデバイスを充電することなどの条件下、負極板にリチウム(Li)が析出して、この負極板から金属Liがデンドライト(樹枝状結晶)として成長することがある。このようなデンドライトが成長し続けると、セパレータを突き破って、若しくは貫通して正極板にまで到達するか、又は正極板に接近することで、デンドライト自身が経路となって短絡を招く不具合を生じることがある。
【0004】
また、電池において、析出したデンドライト(金属Li)が折れると、負極板と導通しない状態で、反応性の高い金属Liが存在することもある。このように、電池にデンドライト又はこれに起因する金属Liが多く存在すると、他の部位に短絡を生じさせたり、複数の部位同士が短絡したり、過充電により発熱した場合に、周囲にある反応性の高い金属Liまでもが反応して、さらに発熱が生じたりする不具合に繋がり易く、また電池の容量劣化の原因となる。
【0005】
これに対して、例えば特許文献1には、芳香族ポリアミド(アラミド)等のポリマーで形成される無孔状イオン透過膜と、ポリマー多孔膜等の多孔状基材との複合イオン透過膜を非水系電解液電池に用いると、デンドライトに起因する短絡への耐性、低抵抗等に優れることが記述されている。
【0006】
また、ポリマー電解質電池の低抵抗化、電極とセパレータを重ね合わせたときの界面抵抗の低減等の電池特性の観点からは、例えば特許文献2には、活性光線により重合可能なモノマーを含む電解質溶液を電極、セパレータ等に含侵させ、更に重合させてゲル化して、ゲル状ポリマー電解質を含む電極、セパレータ等の表面粗さ(Rmax)を0.6μm以下に調整することが記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2016/098660号
【文献】特開2000-215916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の複合イオン透過膜は、蓄電デバイスにおけるリチウム(Li)析出形態の制御とLiデンドライト化の抑制に改良の余地があり、特にLi析出し易い充放電機構を伴う電池系においては、耐サイクル劣化または長寿命化が困難になり得る。また、特許文献2に記載のゲル状ポリマー電解質を含む電極またはセパレータは、Liデンドライト化の抑制に着目するものではない。したがって、本発明は、蓄電デバイスにおいてLi析出形態の制御とLiデンドライト化の抑制を達成し得る蓄電デバイス用セパレータ、及びそれを含む蓄電デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、リチウム(Li)デンドライト析出に起因する蓄電デバイスの抵抗増加メカニズムを解明し、セパレータの少なくとも表層に、特定の均一拡散層を配置することにより、上記課題を解決し得ることを見出して、本発明を完成させた。本発明の実施形態の例を以下に列記する。
<1> 微多孔膜を含む蓄電デバイス用セパレータであって、
前記蓄電デバイス用セパレータの少なくとも表層に位置する均一拡散層を有しており、
前記表層において前記均一拡散層の算術平均粗さ(Ra)が1.20μm以下である、蓄電デバイス用セパレータ。
<2> 1mol/LのLiPF6を含むエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/2(体積比)の電解液に前記蓄電デバイス用セパレータを1日間含侵させた後、前記均一拡散層をリチウム(Li)金属に25℃及び0.5MPaで圧着させた際の剥離強度が、2N/m以上である、項目1に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
<3> 1mol/LのLiPF6を含むEC/DEC=1/2(体積比)である電解液に対する前記均一拡散層の膨潤度が、2倍以上である、項目1又は2に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
<4> 前記微多孔膜の少なくとも片側に無機フィラー層を有する、項目1~3のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
<5> 前記均一拡散層が、イオン伝導性材料から成る、項目1~4のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
<6> 前記均一拡散層が、無孔である、項目1~5のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータ。
<7> 正極、負極、電解液及び項目1~6のいずれか1項に記載の蓄電デバイス用セパレータから構成される蓄電デバイス。
<8> 前記負極と前記蓄電デバイス用セパレータの剥離強度が、2N/m以上である、項目7に記載の蓄電デバイス。
<9> 前記負極が、Li金属、又は銅(Cu)箔である、項目7又は8に記載の蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リチウム(Li)析出形態の制御、及びLiデンドライト化の抑制を達成し得る蓄電デバイス用セパレータ、並びにそれを含む蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」と略記することがある)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0012】
本明細書では、製膜時の膜の流れ方向をMDとし、膜平面内においてMDと90度(°)で交差する方向をTDとして定義する。
【0013】
<蓄電デバイス用セパレータ>
本実施形態に係る蓄電デバイス用セパレータ(以下、「セパレータ」という)は、微多孔膜を含み、セパレータの少なくとも表層に位置する均一拡散層を有しており、そして表層において均一拡散層の算術平均粗さ(Ra)が1.20μm以下である。
【0014】
本実施形態に係るセパレータの少なくとも表層にRaが1.20μm以下の均一拡散層が位置すると、セパレータを蓄電デバイスに用いるときに、リチウム(Li)析出形態の制御、及びLiデンドライト化の抑制を達成し得る傾向にある。この傾向は、Li析出し易い充放電機構を伴う蓄電デバイスにおいて顕著であり、ひいてはLi金属又は銅(Cu)箔で構成された負極を含む蓄電デバイスの耐サイクル劣化または長寿命化も容易にする。
【0015】
本発明によれば、Liデンドライト析出に起因する蓄電デバイスの抵抗増加メカニズムとして、次の2つのパターンが見出された:
(ア)蓄電デバイスの充電時にLiデンドライト層が負極側に厚く析出し、正負極間のセパレータを圧縮する。Liデンドライト層は、層としての気孔率が高く、析出厚みが大きいため、セパレータが圧縮されることで、セパレータの透過性が低下し抵抗が増加する。
(イ)Li金属は電位が低く還元性が高いため、Li金属表面で電解液の還元分解が進行し易く、負極またはLiデンドライト層上に分解物が堆積する。Liデンドライトは、樹枝状結晶としてシャープに析出するため、比表面積が大きく、デンドライト化で比表面積が増えることで、還元分解物が増加し、その結果抵抗は増加し、また電解液の液枯れも発生する。
【0016】
本実施形態では、上記の抵抗増加メカニズム(ア)及び(イ)に基づいてLi析出形態の制御及びLiデンドライト化の抑制を達成するという観点から、平滑性が最適化された(Ra≦1.20μm)均一拡散層を少なくとも表層に有するセパレータ、及びそれを含む蓄電デバイスを提供する。例えば、本実施形態に係るセパレータの均一拡散層を、蓄電デバイスの負極表面(又はLi析出表面)と当接又は対向するように配置して、Liイオン濃度分布を解消し、Li析出形態を制御(Liデンドライト化を抑制)することができる。
【0017】
Li析出形態の制御及びLiデンドライト化の抑制の観点から、1mol/LのLiPF6を含むエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/2(体積比)の電解液に本実施形態に係るセパレータを1日間含侵させた後、セパレータの均一拡散層をLi金属に25℃及び0.5MPaで圧着させた際の剥離強度は、2N/m以上であることが好ましく、3N/m以上60N/m以下であることがより好ましく、10N/m以上40N/m以下であることが更に好ましい。セパレータの均一拡散層をLi金属に25℃及び0.5MPaで圧着させた際の剥離強度は、例えば、Li金属と親和性が高く、適度に柔らかい樹脂を用いて均一拡散層を形成すること等により上記の数値範囲内に調整されることができる。
【0018】
所望により、本実施形態に係るセパレータは、微多孔膜等の基材、及び均一拡散層に加えて、少なくとも1つの層を含んでよい。一般に、積層型セパレータに含まれる少なくとも1つの層は、例えば、絶縁性、接着性、熱可塑性、無機多孔性などを有してよく、かつ一枚の膜で形成されるか、又はドット塗工、ストライプ塗工などで形成されたパターンでよい。したがって、本実施形態に係るセパレータの少なくとも表層に均一拡散層が位置することは、基材の片面又は両面に均一拡散層が積層されている層構造だけでなく、基材を含むセパレータ、又は基材と少なくとも1つの層を含むセパレータから部分的に又は全体に均一拡散層が露出している構造も含んでよい。
【0019】
セパレータの均一拡散層を、蓄電デバイスの負極表面(又はLi析出表面)と当接又は対向するように配置するという観点からは、好ましい層構成としては、セパレータの少なくとも表面に均一拡散層が位置し、かつ微多孔膜の少なくとも片側に無機フィラー層を有する。
【0020】
セパレータの層構成と関連して、負極表面でのLiイオン濃度勾配を解消し、Li析出形態の制御及びLiデンドライト化を抑制すること、および電池の内部抵抗減少を両立させる観点から、基材と均一拡散層の厚み比が、基材:均一拡散層=1:1~10000:1であることが好ましく、2:1~1000:1であることがより好ましく、3:1~100:1であることが更に好ましい。また、Li金属負極におけるLiの溶解析出に伴う厚み変化に対して、均一拡散層と基材との剥離を抑制し、内部抵抗の上昇を抑制する観点から、基材と均一拡散層の結着力は、2N/m以上1000N/m以下であることが好ましく、10N/m以上600N/m以下であることがより好ましく、40N/m以上400N/m以下であることが更に好ましい。
【0021】
本実施形態に係るセパレータの構成要素について以下に説明する。
【0022】
<微多孔膜>
微多孔膜(以下、多孔質層ともいう)は、従来セパレータとして用いられていたものであってもよく、有機溶媒の耐性が高く、かつ微細な孔径有することが好ましい。微多孔膜としては、例えば、ポリオレフィン系(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン及びポリ塩化ビニル等)、及びそれらの混合物又はそれらを構成する複数のモノマーのコポリマー等の樹脂を主成分として含む微多孔膜;ポリエチレンテレフタレート、ポリシクロオレフィン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリアラミド、ポリシクロオレフィン、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂を主成分として含む微多孔膜;ポリオレフィン系繊維の織物(織布);ポリオレフィン系繊維の不織布;紙;並びに絶縁性物質粒子の集合体が挙げられる。これらの中でも、化学的電気的安定性、および塗工工程を経てポリマー層を得る場合に塗工液の塗工性に優れ、セパレータの膜厚をより薄くして、電池等の蓄電デバイス内の活物質比率を高めて体積当たりの容量を増大させる観点から、ポリオレフィン系の樹脂を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜(以下、PO微多孔膜ともいう)が好ましい。なお、本明細書における「主成分として含む」とは、特定の成分又は部材を50質量%を超えて含むことを意味し、好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上、なおも更に好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上含み、100質量%であってもよい。
【0023】
所望により、PO微多孔膜の表面には、無機塗工層又は有機(接着)層が形成することもできる。また、1つのPO微多孔膜を、別の多孔質層と積層することもできる。
【0024】
本実施形態に係る微多孔膜は、以下に示される特性を有することができる。
【0025】
(窒素ガス吸着試験により測定される細孔割合)
微多孔膜(ただし、上述のとおりに複数の多孔質層を積層して微多孔積層膜を形成する場合には、積層膜中の1つの多孔質層)は、窒素ガス吸着試験により測定される細孔直径98nm以下の一点法全細孔容積を、全気孔体積の25%以上85%以下有することが好ましい。
【0026】
窒素ガス吸着試験は後述の実施例に記載の方法で行うことができる。窒素相対圧(p/p0)が0.98の吸着量を全細孔容積と定義することで、一点法全細孔容積(細孔直径98nm以下)が導出される。この値と微多孔膜(多孔質層)の全気孔容積を比較することで、全気孔容積における、細孔容積(孔径98nm以下)の割合が割り出せる。この割合が高いほど、微多孔膜(多孔質層)がより小さな細孔から形成されていることが分かる。微多孔膜(多孔質層)がより緻密化し、リチウムデンドライトならびに、金属異物の溶出に伴う異物由来のデンドライト成長を効率的に遅延させることが可能となる観点から、一点法全細孔容積(細孔直径98nm以下)は全気孔容積の25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましい。なお、一点法による微多孔膜(多孔質層)の窒素ガス吸着試験では、細孔直径の下限値は、本技術分野において0nmを超えることができる。
【0027】
他方、微多孔膜(多孔質層)の一点法全細孔容積(細孔直径98nm以下)が全気孔容積の85%を超える場合、セパレータの目詰まりにより抵抗増加の集中する箇所が生じ、結果としてデンドライトの発生を促進してしまう。以上の観点から、一点法全細孔容積(細孔直径98nm以下)は全気孔容積の85%以下であることが好ましく、80%以下であることがより好ましい。
【0028】
なお、製膜性の観点からポリエチレン(PE)、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)等を主成分として含む(通常、50質量%以上含む)従来の微多孔膜は、一般に一点法全細孔容積(細孔直径98nm以下)を25%未満有する。これは、溶融粘度又は熱固定工程の観点から、小さな細孔が閉塞し、膜全体として大孔径化するためである。
【0029】
全気孔体積における一点法全細孔容積(細孔直径98nm以下)の割合は、例えば、微多孔膜(多孔質層)の緻密化などにより制御されることができ、より詳細には、後述される微多孔膜の製造プロセスにおいて、例えば、後述される分子量の高分子量PEを後述される含有量で含むこと;抽出工程の前に延伸工程を行うこと;延伸面倍率50倍以上及び/又は延伸温度128℃以下の条件下での延伸;延伸工程での縦横それぞれの延伸倍率を5倍以上に調整すること;熱固定(HS)工程時に、熱固定温度を、115℃以上、140℃以下に調整すること;HS延伸倍率を1.5倍以上2.2倍以下に調整すること;HS緩和倍率を0.7倍以上0.9倍未満に調整することなどを、単独で又は適宜組み合わせて使用することによって、上記で説明された細孔容積の割合の範囲内に存在するように制御されることができる。
【0030】
さらに、使用するPEの粘度平均分子量によっても細孔容積の割合を制御することができる。高分子PEを使用することで、延伸工程で孔が小孔径化し、熱固定工程で細孔が閉塞し辛くなる観点から、PO微多孔膜の粘度平均分子量(Mv)は、450,000以上であることが好ましく、500,000以上であることがより好ましく、そして膜の樹脂組成中のMw45万以上のPEの含有量は、45質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、この含有量は、100質量%であることができる。また、上記細孔割合が85%を超えないためには、膜のMvは、6,000,000以下であることが好ましく、5,000,000以下であることが好ましく、3,000,000以下であることが更に好ましい。
【0031】
また、使用するPOの分子構造によっても細孔割合を所定の範囲に制御することができる。理由は定かではないが、原料ポリマーの多分散度(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mnおよびz平均分子量Mz/重量平均分子量Mw)が高くなることによって、細孔割合が所定の範囲になる傾向にある。
【0032】
(気液法により算出される孔数)
微多孔膜(ただし、上述のとおりに複数の多孔質層を積層して微多孔積層膜を形成する場合には、積層膜中の1つの多孔質層)は、気液法によって算出される孔数Bが15個/μm2以上であることが好ましく、かつ500個/μm2以下であることが好ましい。
【0033】
気液法によって算出される断面当たりの孔数(B)は、上限としては微多孔膜(多孔質層)が高強度であることでデンドライトの成長を物理的に抑制できる観点から、また下限としては微多孔膜(多孔質層)内でリチウムイオン及び異物溶出に伴う金属イオンが拡散し、局所的なデンドライト発生を効率的に抑制できる観点、並びに局所的な抵抗増加箇所の増加を抑制し、サイクル特性を向上させる観点から、15個/μm2以上500個/μm2以下、40個/μm2以上480個/μm2以下、60個/μm2以上450個/μm2以下、80個/μm2以上350個/μm2以下、又は100個/μm2以上300個/μm2以下が好ましく、110個/μm2以上200個/μm2以下がより好ましい。気液法によって算出される断面当たりの孔数(B)は、後述するPO微多孔膜の製造工程において、全原料中の可塑剤割合(すなわち、全原料中の樹脂割合)、熱固定温度などを調整することにより、上記範囲内に調整される。
【0034】
(気孔率)
微多孔膜(ただし、上述のとおりに複数の多孔質層を積層して微多孔積層膜を形成する場合には、積層膜中の1つの多孔質層)は、気孔率εが、20%以上80%以下の範囲内にあることが好ましい。気孔率(ε)は、以下で「(圧縮前の)気孔率」ということがある。
【0035】
微多孔膜(多孔質層)の気孔率(ε)は、膜抵抗が低下し、イオン拡散性が向上することで、デンドライトの発生を効率的に抑制可能な観点、一定の膜強度と低透気度を達成するという観点、及び高いイオン伝導性、高い出力特性を有する観点から、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、45%以上であることが更に好ましく、47%以上であることがより更に好ましく、50%以上であることが特に好ましい。また膜の強度が向上することでデンドライトの成長を抑制できる観点、及び耐電圧が向上する観点から、気孔率(ε)は80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、65%以下であることが更に好ましく、60%以下であることが特に好ましい。
【0036】
(ハーフドライ法によって測定される平均流量径)
微多孔膜(ただし、上述のとおりに複数の多孔質層を積層して微多孔積層膜を形成する場合には、積層膜中の1つの多孔質層)は、ハーフドライ法によって測定される平均流量径dが0.010μm以上であることが好ましく、かつ0.150μm以下であることが好ましい。本明細書では、微多孔膜(多孔質層)の孔径は、ハーフドライ法に準拠し、パームポロメータ(Porous Materials,Inc.社:CFP-1500AE)を用いて測定された、平均流量径を意味する。
【0037】
ハーフドライ法の平均流量径(d)を測定することで、微多孔膜(多孔質層)の孔構造において、孔が狭まっている部分の孔径を知ることができる。ハーフドライ法によって測定される平均流量径dは、上限としては、微多孔膜(多孔質層)の緻密化によりデンドライトの成長を物理的に抑制可能な観点、および断面当たりの孔数(B)が増えてイオン拡散性が向上する観点から、また下限としては、目詰まりによる抵抗増加の集中する箇所が生じ、結果としてデンドライトの発生を促進されるのを防ぐ観点、及びサイクル特性向上の観点から、0.010μm以上0.150μm以下、0.015μm以上0.100μm以下、0.020μm以上0.080μm以下、0.020μm以上0.055μm以下であることが好ましく、0.025μm以上0.050μm以下であることがより好ましい。
【0038】
微多孔膜(多孔質層)の孔径又は気孔率(ε)を上記の数値範囲内に制御する手段としては、例えば、後述されるPO微多孔膜の製造方法において、後述される分子量の高分子量PEを後述される含有量で含むこと;抽出工程の前に延伸工程を行うこと;延伸工程での縦横それぞれの延伸倍率を5倍以上に調整すること、128℃以下の温度で延伸を行うこと;熱固定(HS)工程時に、熱固定温度を、115℃以上、140℃以下に調整すること、HS延伸倍率を1.5倍以上2.2倍以下に調整すること、HS緩和倍率を0.7倍以上0.9倍未満に調整することなどを単独で又は適宜組み合わせて使用することができる。
【0039】
(ハーフドライ法によって測定される平均流量径ピークの半値幅)
微多孔膜(ただし、上述のとおりに複数の多孔質層を積層して微多孔積層膜を形成する場合には、積層膜中の1つの多孔質層)は、ハーフドライ法によって測定される平均流量径ピークの半値幅0.010μm以下であることが好ましい。
【0040】
ハーフドライ法における平均流量径ピークの半値幅が狭いほど、微多孔膜(多孔質層)の孔構造が均一であると言える。孔構造が均一であるほど、リチウムイオン及び異物溶出に伴う金属イオンが均一に拡散し、局所的なデンドライト発生を効率的に抑制できる観点、デンドライトの成長を物理的に抑制可能な観点、並びに局所的な抵抗増加を抑制し、サイクル特性を向上させる観点から、ハーフドライ法によって測定される平均流量径ピークの半値幅は0.005μm以下であることが好ましく、0.002μm以下であることがより好ましい。なお、ハーフドライ法により測定される平均流量径ピークの半値幅の下限値は、本技術分野において0μmを超えることができる。平均流量径ピークの半値幅は、例えば、微多孔膜の製造方法において、高分子量PEの含有割合を制御すること、熱固定(HS)工程時に熱固定温度を、例えば140℃以下に調整することなどにより上記数値範囲内に調整されることができる。
【0041】
(膜厚)
微多孔膜の膜厚は、蓄電デバイス容量の観点、高イオン透過性と良好なレート特性の観点、デンドライトの成長を遅延させるという観点、及び高容量電池のために用いられるに際し、セパレータの占有体積を低減して電池容量の向上に資するという観点から、好ましくは、30μm以下、25μm以下、又は20μm以下であり、より好ましくは18μm以下であり、更に好ましくは16μm以下であり、1μm以上14μm以下であることがより更に好ましく、3μm以上13μm以下であることが特に好ましく、5μm以上12μm以下であることが最も好ましい。微多孔膜の膜厚は、以下で「(圧縮前の)平均膜厚」ということがある。
【0042】
微多孔膜の(圧縮前の)平均膜厚は、微多孔膜の製造プロセスにおいて、キャストロールのロール間距離、キャストクリアランス、二軸延伸時工程時の延伸倍率、HS倍率、HS温度等を制御することにより上記の数値範囲内に調整することができる。
【0043】
(透気度)
微多孔膜の透気度は、蓄電デバイスの上限としては出力特性及びサイクル特性の観点から、また下限としては膜強度の観点から、空気100cm3当たり、好ましくは0秒以上250秒以下、より好ましくは10秒以上200秒以下、更に好ましくは20秒以上180秒以下、特に好ましくは25秒以上170秒以下である。
【0044】
(目付換算突刺強度,突刺強度,目付)
微多孔膜の目付換算突刺強度は、50gf/(g/m2)以上であることが好ましい。50gf/(g/m2)以上の目付換算突刺強度は、樹脂目付当たりの膜強度が高く、かつ圧縮応力に対して潰れ難い膜構造を表し、例えば釘刺試験又は加圧試験時に、セパレータ基材として使用される微多孔膜が、高気孔率で低透気度であっても破膜し辛くなり、蓄電デバイスの安全性を向上させる傾向にある。目付換算突刺強度は、実施例に記載の方法により測定され、膜のTDに沿って、両端から中央に向かって全幅の10%内側の地点2点と中央1点との計3点で目付に換算されてない突刺強度(以下、単に突刺強度という)を測定し、それらの平均値を目付で除することにより得られる。
【0045】
突刺強度の制御による利点は、非水系二次電池等の蓄電デバイスのセル内で膨張収縮し易い電極を用いた場合に、顕著であり、車載用電池等に使用される高容量電極、又はケイ素(Si)含有負極を用いる場合に、より顕著である。このような観点から、微多孔膜の目付換算突刺強度は、50gf/(g/m2)以上150gf/(g/m2)以下であることがより好ましく、55gf/(g/m2)以上130gf/(g/m2)以下であることが更に好ましく、70gf/(g/m2)以上120gf/(g/m2)以下であることが特に好ましい。
【0046】
上記と同様の観点、一定の膜強度と低い透気度を達成するという観点、及び短絡耐性の向上の観点から、微多孔膜の目付は、1.0g/m2以上15g/m2以下の範囲内であることが好ましい。
【0047】
上記と同様の観点、蓄電デバイスに衝撃が加わった際の安全性の観点、及び蓄電デバイス内部に意図せず混入する異物によってセパレータが破膜して発生する電極間短絡又は耐電圧不良を抑制するという観点から、微多孔膜の突刺強度は、200gf以上であることが好ましく、220gf以上であることがより好ましく、250gf以上であることが更に好ましく、280gf以上であることがより更に好ましく、300gf以上であることが特に好ましい。突刺強度の上限値は、特に限定されないが、膜の結晶性、膜の熱収縮性、及び抑制された電気抵抗に応じて決定されることができ、例えば、900gf以下、850gf以下、700gf以下、又は680gf以下でよい。
【0048】
微多孔膜の突刺強度と目付換算突刺強度は、例えば、微多孔膜の製造プロセスにおいて、ポリオレフィン等の高分子原料の分子量及び配合割合、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、二軸延伸工程時の樹脂組成物の単位樹脂当たりの加熱量係数、熱固定(HS)倍率などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
【0049】
(圧縮前のTD3点で測定された透気度の最大値と最小値の差R,圧縮前の透気度分布)
微多孔膜は、TDに沿って、両端から中央に向かって全幅の10%内側の地点2点と中央1点との計3点で測定された透気度の最大値と最小値の差(以下、差Rという)が、15sec/100cm3以下であることが好ましい。
【0050】
微多孔膜のTDに沿って上記のとおり3点で測定される透気度の最大値と最小値の差Rは、実施例に記載の方法により測定され、微多孔膜の圧縮試験前の透気度分布を表す。微多孔膜の全幅Wは、透気度の測定精度の観点から、好ましくは50mm以上、より好ましくは100mm以上、より更に好ましくは300mm以上である。全幅Wの上限値は、特に限定されず、例えば製膜デバイス、製膜プロセス、マザーロール寸法、スリットロール寸法、塗工プロセス等に応じて決定されることができ、例えば5000mm以下、または4000mm以下でよい。
【0051】
R≦15sec/100cm3を満足するように良好に保たれた透気度分布は、面内で透気度のばらつきが小さい膜構造を表し、例えばセパレータ基材として微多孔膜を含む蓄電デバイスについて、面内の電気化学的反応が均一に起こり、レート特性とサイクル特性などの電池特性を良化させる傾向にある。この傾向は、非水系二次電池のセル内で膨張収縮し易い電極を用いた場合に、顕著であり、車載用電池等に使用される高容量電極、又はケイ素(Si)含有負極を用いる場合に、より顕著である。このような観点から、差Rは、0sec/100cm3以上15sec/100cm3以下であることがより好ましく、0sec/100cm3以上13sec/100cm3以下であることが更に好ましく、0sec/100cm3以上11sec/100cm3以下であることがより更に好ましく、0sec/100cm3以上9sec/100cm3以下であることが特に好ましい。
【0052】
上記3点の測定値の平均値は、(圧縮前の)透気度として表され、上記と同様の観点、及び圧縮された状態でさえも高い(イオン)透過性を保つという観点および突刺強度の担保の観点から、0sec/100cm3以上200sec/100cm3以下であることが好ましく、30sec/100cm3以上180sec/100cm3以下であることがより好ましく、40sec/100cm3以上150sec/100cm3以下であることが更に好ましい。
【0053】
微多孔膜の差Rと(圧縮前の)透気度は、例えば、微多孔膜の製造プロセスにおいて、ポリオレフィン等の高分子原料の分子量及び配合割合、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、二軸延伸工程時の樹脂組成物の単位樹脂当たりの加熱量係数、HS倍率などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
【0054】
(圧縮後の膜特性)
特定の条件下で微多孔膜を圧縮試験に供することによって、蓄電デバイスの電池特性と安全性を両立することができる微多孔膜の特性が見出される。
<圧縮プレス試験>
微多孔膜又はセパレータを、実施例において後述される方法で4種の異なる圧力条件(例えば、25℃において2.5MPa、5MPa、7.5MPa、及び10MPaの圧力)で測定し、4点の測定結果から、除荷後の微多孔膜又はセパレータの気孔率と透気度の関係式を得る。
【0055】
圧縮後透気度25℃,2.5MPa≦180sec/100cm3は、上記で説明された圧縮前の透気度分布又は差Rとともに、例えばセパレータ等としてポリオレフィン微多孔膜を含む非水系二次電池について、レート特性とサイクル特性などの電池特性を良化させる傾向にある。この傾向は、非水系二次電池のセル内で膨張収縮し易い電極を用いた場合やセル外部からの圧力によってセパレータが圧縮される場合に、レート特性の良化について顕著であり、車載用電池等に使用される高容量電極、ケイ素(Si)含有負極、Li金属負極、またはCu箔を負極として用いる場合に、より顕著である。このような観点から、圧縮後透気度25℃,2.5MPaは、200sec/100cm3以下であることが好ましく、より好ましくは180sec/100cm3以下であり、更に好ましくは170sec/100cm3以下であり、120sec/100cm3以下であることが特に好ましい。加圧状態下透気度25℃,2.5MPaの下限値は、特に限定されないが、微多孔膜の機械的強度又は突刺強度に応じて決定されることができ、例えば、0sec/100cm3以上、10sec/100cm3以上、又は20sec/100cm3以上でよい。
【0056】
上記と同様の観点、及びセル内で電極が膨張収縮した状態又はセパレータが圧縮された状態で高気孔率を達成して蓄電デバイスのサイクル特性を向上させるという観点から、微多孔膜の25℃及び2.5MPa圧縮後の気孔率(以下、圧縮後気孔率25℃,2.5MPaという)が、40%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上80%以下、更に好ましくは45%以上70%以下、より更に好ましくは47%以上70%以下であり、50%以上65%以下が特に好ましい。
【0057】
微多孔膜の圧縮後透気度25℃,2.5MPaと圧縮後気孔率25℃,2.5MPaは、例えば、微多孔膜の製造プロセスにおいて、ポリオレフィン等の高分子原料の分子量及び配合割合、二軸延伸工程時の延伸倍率、二軸延伸工程時のMD/TD延伸温度、二軸延伸工程時の樹脂組成物の単位樹脂当たりの加熱量係数、HS倍率、HS温度などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
【0058】
(メルトフローインデックス)
微多孔膜のメルトフローインデックス(MI)は、膜の溶融時の流動性を低くして、釘刺試験時の発熱状態においてセパレータの流動により電極間短絡を抑制するという観点から、1.0以下であることが好ましく、0.001以上1.0以下であることがより好ましく、0.005以上0.8以下であることが更に好ましく、0.01以上0.4以下であることが特に好ましい。微多孔膜のMIは、例えば、ポリオレフィン等の高分子原料の分子量及び配合割合を制御することなどにより上記の数値範囲内に調整されることができる。
【0059】
(GPC測定の分子量)
微多孔膜のGPCにより測定される分子量については、膜の溶融時の流動性の低下と釘刺試験時の短絡耐性の観点から、重量平均分子量(Mw)が1,000,000以上のポリエチレン成分が溶出成分全体の7%以上であることが好ましく、9%以上であることがより好ましく、12%以上が更に好ましく、15%以上が特に好ましい。また、高温環境において膜が収縮する際に過剰な応力を抑制する観点から、Mwが1,000,000以上のポリエチレン成分が溶出成分全体の57%以下であることが好ましく、42%以下がより好ましく、33%以下が更に好ましく、27%以下が特に好ましい。PO微多孔膜の分子量は、例えば、ポリオレフィン原料の種類、分子量及び配合割合を制御することなどにより上記の数値範囲内に調整されることができる。
【0060】
(引張破断強度)
微多孔膜の引張破断強度は、MD、TDともに、蓄電デバイスの製造プロセスにおいて電極とセパレータを捲回および積層するために必要な膜強度を確保するという観点から、500~3,000kgf/cm2であることが好ましく、700kgf/cm2以上3,000kgf/cm2以下であることがより好ましく、1,000kgf/cm2以上3,000kgf/cm2以下であることが更に好ましい。
【0061】
微多孔膜のMDとTDの引張破断強度の値が近いほど、蓄電デバイスの釘刺試験時に膜が均等に破れることにより短絡面積を最小化し、ひいては釘刺試験安全性が良好になる。このような観点から、微多孔膜のMD引張破断強度とTD引張破断強度の比(MD/TD引張破断強度比)としては、0.7以上1.3以下が好ましく、より好ましくは0.75以上1.25以下の範囲であり、更に好ましくは0.8以上1.2以下の範囲である。微多孔膜のMD/TD引張破断強度比は、例えば、二軸延伸工程時の延伸倍率、HS倍率などを制御することによって、上記で説明された数値範囲内に調整されることができる。
【0062】
(引張弾性率)
微多孔膜の引張弾性率は、MD、TDともに、蓄電デバイスの釘刺試験時に、釘がデバイス外装を貫通し、セパレータ及び電極も貫通して変形させる際に、セパレータを破膜し難くして、短絡を完遂させず、安全性を向上させるという観点から、1,000kg/cm2以上10,000kg/cm2以下であることが好ましく、2,000kg/cm2以上90,000kg/cm2以下であることがより好ましい。
【0063】
(熱収縮率)
微多孔膜の熱収縮率については、比較的高温時の膜の形状安定性が高く、釘刺試験等の際に蓄電デバイスの熱暴走状態において短絡を抑制するという観点から、120℃でMDに測定されるとき、-10%以上20%以下であることが好ましく、-5%以上15%以下であることがより好ましく、0%以上10%以下であることが更に好ましい。微多孔膜の熱収縮率は、120℃でTDに測定されるとき、-10%以上20%以下であることが好ましく、-5%以上18%以下であることがより好ましく、0%以上15%以下であることが更に好ましく、0%以上10%以下であることが特に好ましい。
【0064】
(シャットダウン温度)
微多孔膜のシャットダウン(Fuse)温度は、好ましくは130℃以上150℃以下、より好ましくは135℃以上149℃以下である。150℃以下のシャットダウン温度は、何らかの異常反応が起こり、電池内温度が上昇するときに、150℃に達するまでにセパレータ基材の孔が閉塞することを意味する。したがって、シャットダウン温度が低いほど、低温で速やかに電極間のリチウムイオンの流れが停止するために、安全性は向上する。他方、100℃を超える高温に晒されても電池性能を低下させない観点からシャットダウン温度は130℃以上であることが好ましい。
【0065】
(含有成分)
微多孔膜(ただし、上述のとおりに複数の多孔質層を積層して微多孔積層膜を形成する場合には、積層膜中の1つの多孔質層)は、ポリオレフィン樹脂を含む樹脂組成物から形成されることが好ましい。所望により、樹脂組成物は、無機粒子、ポリオレフィン以外の樹脂などをさらに含んでよいが、無機粒子が入ることで細孔割合が小さくなる傾向がある。
【0066】
微多孔膜は、蓄電デバイスのシャットダウン性能等を向上させる観点から、多孔膜を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリオレフィン樹脂が占めるポリオレフィン樹脂組成物により形成される多孔膜であることが好ましい。ポリオレフィン樹脂組成物におけるポリオレフィン樹脂が占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることがさらに好ましく、最も好ましくは95質量%以上100質量%以下である。
【0067】
使用されるポリオレフィン樹脂としては、特に限定されず、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、及び1-オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(例えば、ホモ重合体、共重合体、多段重合体等)が挙げられる。これらの重合体は、1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。
【0068】
中でも、膜の電気抵抗の低下又は上昇抑制、膜の耐圧縮性及び構造均一性などの観点から、ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-それら以外のモノマーの共重合体、並びにこれらの混合物が好ましい。
【0069】
微多孔膜の結晶性、高強度、耐圧縮性などの観点、及びヒューズ性を発現させるという観点から、微多孔膜を構成する樹脂成分の50質量%以上100質量%以下をポリエチレンが占めるポリエチレン組成物により形成される微多孔膜が好ましい。微多孔膜を構成する樹脂成分におけるポリエチレン(PE)が占める割合は、60質量%以上100質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上100質量%以下であることが更に好ましく、80質量%以上100質量%以下であることがより更に好ましく、最も好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0070】
また、セパレータ基材として微多孔膜を形成した時の高強度、耐圧縮性、電気抵抗の抑制などの観点からは、ポリオレフィン樹脂におけるPE割合は、30質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、70質量%以上が更に好ましく、80質量%以上が特に好ましく、そして100質量%以下であることが好ましく、95質量%以下であることがより好ましく、95質量%以下であることが更に好ましい。なお、PEが50%以上であると、ヒューズ挙動も高い応答性で発現する観点でも好ましい。
【0071】
微多孔膜の原料として用いるポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、30,000以上6,000,000以下であることが好ましく、より好ましくは80,000以上3,000,000以下、さらに好ましくは150,000以上2,000,000以下である。Mvが30,000以上であると、重合体同士の絡み合いにより高強度となる傾向にあるため好ましい。他方、Mvが6,000,000以下であると、押出及び延伸工程での成形性を向上させる観点で好ましい。
【0072】
一態様では、微多孔膜がポリエチレン(PE)を含む場合、少なくとも1種類のPEのMvは、膜の配向と剛性の観点から、600,000以上であることが好ましく、700,000以上であることがより好ましく、そしてPEのMv上限値は、例えば、2,000,000以下でよい。膜の溶融時の流動性の低下と釘刺試験時の短絡耐性の観点から、微多孔膜を構成するポリオレフィン樹脂のうちMv600,000以上のPEが占める割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることが更に好ましく、70質量%以上であることが特に好ましく、100質量%でもよい。
【0073】
別の態様では、微多孔膜(多孔質層)は、Mvが500,000以上6,000,000以下のPE原料を、微多孔膜の質量を基準として、45質量%以上含むことが好ましく、50質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがさらに好ましく、80質量%以上含むことがよりさらに好ましく、90質量%以上含むことが特に好ましい。Mvが500,000以上6,000,000以下のPE原料を微多孔質層に45質量%以上含むと、延伸時に結晶が高度に配向し、微多孔質層が小孔径化、又は緻密化する傾向がある。同様の観点から、微多孔膜の製造に使用されるPO原料は、エチレンホモポリマーであることが好ましく、Mvが500,000以上6,000,000以下のエチレンホモポリマーであることがより好ましい。
【0074】
また、ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(密度0.910g/cm3以上0.930g/cm3未満)、線状低密度ポリエチレン(密度0.910g/cm3以上0.940g/cm3未満)、中密度ポリエチレン(密度0.930g/cm3以上0.942g/cm3未満)、高密度ポリエチレン(密度0.942g/cm3以上)、超高分子量ポリエチレン(密度0.910g/cm3以上0.970g/cm3未満)、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバー等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用することができる。中でも、ポリエチレンを単独、ポリプロピレンを単独、又はポリエチレンとポリプロピレンの混合物のいずれかを使用する事は、均一なフィルムを得る観点から好ましい。
【0075】
また、ポリオレフィン樹脂は、PO微多孔膜をセパレータとして備える蓄電デバイスの安全性の観点からは、0.930g/cm3以上0.942g/cm3未満の密度を有する中密度ポリエチレン(MDPE)であることが好ましく、例えば、高密度ポリエチレン(HDPE)以外のPEでもよい。さらに、PO微多孔膜が薄膜である場合でさえも蓄電デバイスの安全性を向上させるという観点から、粘度平均分子量1,000,000未満の中密度ポリエチレン、及び粘度平均分子量1,000,000以上2,000,000以下かつ密度0.930g/cm3以上0.942g/cm3未満の超高分子量ポリエチレンから選択される少なくとも1種をPO微多孔膜の質量を基準として、50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0076】
ポリオレフィン樹脂は、PEでは安全性を確保し難い高温領域(160℃以上)において安全性を確保するという観点から、ポリプロピレン(PP)を含むことが好ましい。ポリプロピレンとしては、耐熱性の観点からプロピレンのホモポリマーが好ましい。耐熱性をさらに向上させるという観点からは、ポリオレフィン樹脂は、主成分としてのポリエチレンと、ポリプロピレンとを含むことがより好ましい。したがって、PO原料中のPP原料の割合は、延伸工程での製膜性、及び耐破膜性の観点から、0質量%を超え、かつ10質量%以下であることが好ましい。
【0077】
PEとPPを併用する場合には、ポリエチレンとしては、粘度平均分子量100万未満の中密度ポリエチレン、及び粘度平均分子量100万以上200万以下かつ密度0.930g/cm3以上0.942g/cm3未満の超高分子量ポリエチレンから選択される少なくとも1種を用いることで、強度と透過性をバランスさせ、更に適切なヒューズ温度を保つ観点から好ましい。
【0078】
ポリオレフィン樹脂の粘度平均分子量(後述する実施例における測定法に準じて測定される。)としては、好ましくは5万以上、より好ましくは10万以上であり、より好ましくは50万以上、より好ましくは70万以上、より好ましくは100万以上であり、その上限としては、好ましくは600万以下、好ましくは300万以下、好ましくは190万以下である。粘度平均分子量を5万以上とすることは、溶融成形の際のメルトテンションを高く維持して良好な成形性を確保する観点、又は、十分な絡み合いを樹脂に付与して微多孔膜の強度を高める観点から好ましい。一方、粘度平均分子量を600万以下とすることは、均一な溶融混練を実現し、シートの成形性、特に厚み成形性を向上させる観点から好ましい。
【0079】
ポリエチレン原料の多分散度(Mw/Mn)は、4.0以上10.0以下が好ましい。多分散度(Mw/Mn)は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。理由は定かではないが、原料ポリマーの多分散度を上記範囲に設定することは、PO微多孔膜の細孔割合が適度に高くかつ、均一な孔構造ができ易い傾向になる。このような観点から、ポリエチレン原料の多分散度は6.0以上がより好ましく、7.0以上が更に好ましい。
【0080】
さらに、ポリエチレン原料のz平均分子量と重量平均分子量の比(Mz/Mw)は、2.0以上7.0以下が好ましい。Mz/Mw)は、後述する実施例における測定法に準じて測定される。理由は定かではないが、原料ポリマーのMz/Mwを上記範囲に設定することは、PO微多孔膜の細孔割合が適度に高くかつ、均一な孔構造ができ易い傾向となる。このような観点から、ポリエチレン原料のMz/Mwは4.0以上がより好ましく、5.0以上がさらに好ましい。
【0081】
前記樹脂組成物には、必要に応じて、無機粒子、フェノール系又はリン系又はイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウムやステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料等の公知の各種添加剤を混合してよい。ただし無機粒子などを樹脂組成物と混合することで、得られる膜の細孔割合が小さくなる傾向がある。
【0082】
(微多孔膜の製造方法)
微多孔膜の製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン(PO)樹脂を用いるPO微多孔膜の製造方法の場合には、以下の:
ポリオレフィン樹脂と、孔形成材料と、所望により各種添加剤とを含む樹脂組成物を混合する混合工程(a)と、
工程(a)で得られた混合物を溶融混練して押出す押出工程(b)と、
工程(b)で得られた押出物をシート状に成形するシート成形工程(c)と、
工程(c)で得られたシート状成形物を、少なくとも一回、少なくとも一軸方向に延伸する一次延伸工程(d)と、
工程(d)で得られた一次延伸膜から孔形成材料を抽出する抽出工程(e)と、
工程(e)で得られた抽出膜を所定の温度で熱固定(HS)する熱固定工程(f)とを含む方法が挙げられる。
【0083】
上記PO微多孔膜の製造方法により、リチウムイオン二次電池およびその他の蓄電デバイス用セパレータとして用いる場合に、リチウムデンドライト抑制能力と金属異物による化学微短絡抑制能力、並びに高出力特性、サイクル特性を高度に両立することが可能なPO微多孔膜を提供することができる。中でも、一次延伸工程(d)でMD及びTDに延伸し、抽出工程(e)を経た後に熱固定工程(f)にてTDに熱固定する方法は、得られるPO微多孔膜の細孔割合と孔径などを上記で説明された数値範囲内に調整し易い傾向にある。なお、本実施形態のPO微多孔膜の製造方法は、上記製造方法に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0084】
〔混合工程(a)〕
混合工程(a)は、ポリオレフィン樹脂と、孔形成材料と、所望により各種添加剤とを含む樹脂組成物を混合する工程である。なお、混合工程(a)においては、必要に応じて、他の成分を樹脂組成物と混合してもよい。
【0085】
孔形成材料は、PO樹脂及び無機粒子の材料と区別される限り、任意でよく、例えば可塑剤であることができる。可塑剤としては、PO樹脂の融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒、例えば、流動パラフィン(LP)、パラフィンワックス等の炭化水素類;フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル等のエステル類;オレイルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等を使用してよい。
【0086】
樹脂組成物中の可塑剤の含有量は、好ましくは60質量%~90質量%であり、より好ましくは71質量%~85質量%、更に好ましくは73質量%~85質量%、特に好ましくは75質量%~85%質量%である。可塑剤の含有量を60質量%以上に調整することで、膜の孔数が増え、イオン拡散性が増大し、デンドライトの発生を効率的に抑えられることに加え、サイクル特性が向上するほか、樹脂組成物の溶融粘度が低下し、メルトフラクチャーが抑制されることで、押出時の製膜性が向上する傾向にある。他方、可塑剤の含有量を90質量%以下に調整することにより製膜工程中での原反伸びを抑制することができる。
【0087】
工程(a)において、POを含む樹脂組成物には、任意の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン樹脂以外の重合体;フェノール系化合物、リン系化合物、イオウ系化合物等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤;光安定剤;帯電防止剤;防曇剤;着色顔料等が挙げられる。これらの添加剤の総添加量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、好ましくは0質量部超20質量部以下であり、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0088】
工程(a)における混合の方法としては、特に限定されないが、例えば、原材料の一部又は全部を必要に応じてヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、タンブラーブレンダー等を用いて予め混合する方法が挙げられる。その中でも、ヘンシェルミキサーを用いて混合を行う方法が好ましい。
【0089】
〔押出工程(b)〕
押出工程(b)は、工程(a)で得られた樹脂組成物を溶融混練して押出す工程である。なお、押出工程(b)では、必要に応じて、ポリオレフィン樹脂以外の成分を樹脂組成物と混合してもよい。
【0090】
工程(b)における溶融混練の方法としては、特に限定されないが、例えば、工程(a)で混合した混合物を含む全ての原材料を、一軸押出機、二軸押出機等のスクリュー押出機;ニーダー;ミキサー等により溶融混練する方法が挙げられる。その中でも、溶融混錬は二軸押出機によりスクリューを用いて行うことが好ましい。また、溶融混練を行う際、可塑剤の添加は2回以上に分けて行う事が好ましく、更に、複数回に分けて添加剤の添加を行う場合、1回目の添加量が全体の添加量の80重量%以下となるように調整する事が、含有成分の凝集を抑えて均一に分散させる観点から好ましい。これにより、得られる微多孔膜が、大面積でシャットダウンすることで発熱を抑制し、セパレータとしてセルの安全性を向上させる観点から好ましい。
【0091】
工程(b)において孔形成材料を使用する場合、溶融混練部の温度は、樹脂組成物を均一に混錬する観点から200℃未満が好ましい。溶融混練部の温度の下限は、ポリオレフィン樹脂を可塑剤などの孔形成材料へ均一に溶解させる観点からポリオレフィンの融点以上である。
【0092】
混練時において、特に限定されないが、原料のPOに酸化防止剤を所定の濃度で混合した後、それらの混合物の周囲を窒素雰囲気に置換し、窒素雰囲気を維持した状態で溶融混練を行うことが好ましい。溶融混練時の温度は、160℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、また、その温度は300℃未満が好ましい。
【0093】
工程(b)においては、上記混練を経て得られた混練物が、T型ダイ、環状ダイ等の押出機により押し出される。このとき、単層押出しであってもよく、共押出しであってもよい。押出しの際の諸条件は、特に限定されず、例えば公知の方法を採用できる。また、得られるPO微多孔膜の膜厚の観点から、(ダイ)リップクリアランスなどを制御することが好ましい。
【0094】
〔シート成形工程(c)〕
シート成形工程(c)は、押出工程(b)で得られた押出物をシート状に成形する工程である。シート成形工程(c)により得られるシート状成形物は、単層であってもよく、積層であってもよい。シート成形の方法としては、特に限定されないが、例えば、押出物を圧縮冷却により固化させる方法が挙げられる。
【0095】
圧縮冷却方法としては、特に限定されないが、例えば、冷風、冷却水等の冷却媒体に押出物を直接接触させる方法;冷媒で冷却した金属ロール、プレス機等に押出物を接触させる方法等が挙げられる。これらの中でも、冷媒で冷却した金属ロール、プレス機等に押出物を接触させる方法が、膜厚制御が容易な点で好ましい。
【0096】
工程(b)の溶融混練以降、溶融物をシート状に成形する工程における設定温度は、押出し機の設定温度より高温に設定することが好ましい。シート成形の設定温度の上限は、ポリオレフィン樹脂の熱劣化の観点から、300℃以下が好ましく、260℃以下がより好ましい。例えば、押出機より連続してシート状成形体を製造する際に、溶融混練工程後、シート状に成形する工程、即ち、押出機出口からTダイまでの経路、及びTダイの設定温度が押出し工程の設定温度よりも高温に設定されている場合は、樹脂組成物と孔形成材料が分離することなく、溶融物をシート状に成形することが可能となるため好ましい。また、得られるPO微多孔膜の膜厚の観点から、キャストクリアランスなどを制御することが好ましい。
【0097】
〔一次延伸工程(d)〕
一次延伸工程(d)は、シート成形工程(c)で得られたシート状成形物を、少なくとも一回、少なくとも一軸方向に延伸する工程である。この延伸工程(次の抽出工程(e)より前に行う延伸工程)を「一次延伸」と呼ぶこととし、一次延伸によって得られた膜を「一次延伸膜」と呼ぶこととする。一次延伸では、シート状成形物を、少なくとも一方向へ延伸することができ、MD及びTDの両方向で行ってもよいし、MD又はTDの片方だけ行ってもよい。
【0098】
一次延伸の延伸方法としては、特に限定されないが、例えば、ロール延伸機による一軸延伸;テンターによるTD一軸延伸;ロール延伸機及びテンター、又は複数のテンターの組み合わせによる逐次二軸延伸;同時二軸テンター又はインフレーション成形による同時二軸延伸等が挙げられる。中でも、得られるPO微多孔膜の物性安定性の観点から、同時二軸延伸が好ましい。
【0099】
一次延伸のMD及び/又はTDの延伸倍率は、好ましくは5倍以上であり、より好ましくは6倍以上である。一次延伸のMD及び/又はTDの延伸倍率が5倍以上であることにより、得られるPO微多孔膜が緻密なフィブリルを形成して小孔径化するとともに、強度が向上する傾向にある。また、一次延伸のMD及び/又はTDの延伸倍率は、好ましくは9倍以下であり、より好ましくは8倍以下又は7倍以下である。一次延伸のMD及び/又はTDの延伸倍率が9倍以下であることにより、延伸時の破断が抑制される傾向にある。二軸延伸を行う際は、逐次延伸でも同時二軸延伸でもよいが、各軸方向の延伸倍率は、それぞれ、好ましくは5倍以上9倍以下であり、より好ましくは、6倍以上8倍以下、又は6倍以上7倍以下である。
【0100】
一次延伸温度は、PO樹脂組成物に含まれる原料樹脂組成及び濃度を参照して選択することが可能である。MD及び/又はTDの延伸温度は、小孔径化と破断抑制の観点から110℃以上であることが好ましく、115℃以上であることがより好ましい。また、MD及び/又はTDの延伸温度は、膜強度を高める観点、又は小孔径化の観点から128℃以下であることが好ましく、126℃以下であることがより好ましく、124℃以下であることが更に好ましく、122℃以下であることが特に好ましい。
【0101】
〔抽出工程(e)〕
抽出工程(e)は、一次延伸工程(d)で得られた一次延伸膜から孔形成材料を抽出して、抽出膜を得る工程である。孔形成材料を除去する方法としては、例えば、抽出溶剤に一次延伸膜を浸漬して孔形成材料を抽出し、充分に乾燥させる方法等が挙げられる。孔形成材料を抽出する方法は、バッチ式及び連続式のいずれであってもよい。また、多孔膜中の孔形成材料、特に可塑剤の残存量は、1質量%未満にすることが好ましい。
【0102】
孔形成材料を抽出する際に用いられる抽出溶剤としては、ポリオレフィン樹脂に対して貧溶媒で、かつ孔形成材料又は可塑剤に対して良溶媒であり、沸点がポリオレフィン樹脂の融点より低いものを用いることが好ましい。このような抽出溶剤としては、特に限定されないが、例えば、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;塩化メチレン、1,1,1-トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;ハイドロフルオロエーテル、ハイドロフルオロカーボン等の非塩素系ハロゲン化溶剤;エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が挙げられる。なお、これらの抽出溶剤は、蒸留等の操作により回収して再利用してよい。
【0103】
〔熱固定工程(f)〕
熱固定工程(f)は、抽出工程(e)で得られた抽出膜を、所定の温度で熱固定する工程である。この際の熱処理の方法としては、特に限定されないが、テンター又はロール延伸機を利用して、延伸及び緩和操作を行う熱固定方法が挙げられる。
【0104】
熱固定工程(f)における延伸操作は、MD及びTDのうちの少なくとも1つの方向にPO微多孔膜を延伸する操作であり、MD及びTDの両方向で行ってもよいし、MD又はTDの片方だけ行ってもよい。
【0105】
熱固定工程(f)におけるMD及びTDの延伸倍率は、それぞれ、好ましくは1.5倍以上2.2倍以下であり、より好ましくは1.7倍以上2.1倍以下である。工程(f)でのMD及びTDの延伸倍率は、膜の強度を発現させるという観点から1.5倍以上が好ましく、破断抑制の観点から2.2倍以下が好ましい。
【0106】
この延伸操作における延伸温度は、延伸時の破断抑制の観点から115℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。また、熱固定工程(f)での延伸温度は、多孔数化・高気孔率化の観点から140℃以下であることが好ましく、そして138℃以下であることがより好ましく、134℃以下であることがより好ましく、131℃以下であることがより好ましく、128℃以下であることがより好ましく、又は125℃以下であることがより好ましい。また、延伸温度が上記数値範囲内であることにより、得られるPO微多孔膜の孔径が制御され易い傾向にある。
【0107】
熱固定工程(f)における緩和操作は、MD及びTDのうちの少なくとも1つの方向にPO微多孔膜を縮小する操作のことであり、MD及びTDの両方向で行ってもよいし、MD又はTDの片方だけ行ってもよい。熱固定工程(f)における緩和倍率は、好ましくは0.95倍以下であり、より好ましくは0.90倍以下であり、さらに好ましくは0.85倍以下である。工程(f)における緩和倍率が0.95倍以下であることにより、膜の熱収縮が抑制される傾向にある。また、緩和倍率は、緩和温度を高めるという観点、又は多孔数化と高気孔率化の観点から、0.5倍以上であることが好ましく、より好ましくは0.7以上である。ここで「緩和倍率」とは、緩和操作後の膜の寸法を緩和操作前の膜の寸法で除した値のことであり、MD及びTDの双方を緩和した場合は、MDの緩和倍率とTDの緩和倍率を乗じた値のことである。
緩和倍率=(緩和操作後の膜の寸法(m))/(緩和操作前の膜の寸法(m))
【0108】
この緩和操作における緩和温度は、破断抑制の観点から115℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。また多孔数化・高気孔率化の観点から140℃以下であることが好ましく、そして138℃以下であることがより好ましく、134℃以下であることがより好ましく、131℃以下であることがより好ましく、128℃以下であることがより好ましく、又は125℃以下であることがより好ましい。また緩和温度が上記数値範囲内であることにより、得られるPO微多孔膜の孔径が小さく均一に制御され易い傾向にある。
【0109】
上記工程(a)~(f)の順序は、本発明の効果を損なわない限り、任意に変更されることができる。上記工程(a)~(f)後に、PO微多孔膜の総延伸倍率は、50倍以上100倍以下の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは70倍以上100倍以下の範囲内にある。ここで「総延伸倍率」とは、一次延伸工程(d)におけるMD及び/又はTDの延伸倍率と熱固定工程における延伸倍率及び/又は緩和倍率を乗じた値のことである。
【0110】
〔他の工程〕
PO微多孔膜の製造方法は、上記工程(a)~(f)以外の他の工程を含むことができる。他の工程としては、特に限定されないが、例えば、上記熱固定の工程に加え、積層体であるPO微多孔膜を得るための工程として、単層体であるPO微多孔膜を複数枚重ね合わせる積層工程が挙げられる。また、PO微多孔膜の製造方法は、後述される均一拡散層の形成の観点から、PO微多孔膜の表面に対して、電子線照射、プラズマ照射、コロナ放電処理、界面活性剤の塗布、化学的改質等の表面処理を施す表面処理工程;PO微多孔膜表面に、熱可塑性樹脂を含む接着層を設ける工程などを含んでもよい。更には、無機多孔質層又は有機(接着)層のための材料を、PO微多孔膜の片面又は両面に塗工して、少なくとも1つの層を備えたPO微多孔膜を得てもよい。
【0111】
〔無機塗工層の形成〕
安全性、寸法安定性、耐熱性などの観点から、PO微多孔膜表面に無機塗工層を設けることができる。無機塗工層は、無機粒子などの無機成分を含む層であり、所望により、無機粒子同士を結着させるバインダ樹脂、無機粒子を溶媒中に分散させる分散剤などを含んでよい。
【0112】
無機塗工層に含まれる無機粒子の材料としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、及び酸化鉄などの酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、及び窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム(AlOOH、アルミナ1水和物、又はベーマイト)、チタン酸カリウム、タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、及びケイ砂等のセラミックス;並びにガラス繊維などが挙げられる。無機粒子は、単独で用いてもよく、複数を併用してもよい。
【0113】
バインダ樹脂としては、例えば、共役ジエン系重合体、アクリル系重合体、ポリビニルアルコール系樹脂、及び含フッ素樹脂などが挙げられる。また、バインダ樹脂は、ラテックスの形態であることができ、水又は水系溶媒を含むことができる。
【0114】
分散剤は、スラリー中で無機粒子表面に吸着し、静電反発などにより無機粒子を安定化させるものであり、例えば、ポリカルボン酸塩、スルホン酸塩、ポリオキシエーテル、界面活性剤などである。
【0115】
無機塗工層は、例えば、上記で説明された含有成分のスラリーをPO微多孔膜表面に塗布乾燥することにより形成されることができる。
【0116】
〔接着層の形成〕
エネルギー密度を高めるために近年車載向け電池にも採用されることが増えているラミネート型電池の変形又はガス発生による膨れを防ぐため、PO微多孔膜表面に、熱可塑性樹脂を含む接着層を設けることができる。
【0117】
接着層に含まれる熱可塑性樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレン又はポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の含フッ素樹脂;フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレンテトラフルオロエチレン共重合体、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等の含フッ素ゴム;スチレン-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体及びその水素化物、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体及びその水素化物、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル-アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のゴム類;エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド、ポリエステル等の樹脂等が挙げられる。
【0118】
更に、熱固定工程(f)、積層工程又は表面処理工程の後に、PO微多孔膜を捲回したマスターロールに対して、所定の温度条件下においてエージング処理を施した後、該マスターロールの巻き返し操作を行うこともできる。これにより、巻き返し前のPO微多孔膜より熱的安定性の高いPO微多孔膜を得易くなる傾向にある。マスターロールのエージングと巻き返しを行う場合、マスターロールをエージング処理する際の温度は、特に限定されないが、好ましくは35℃以上であり、より好ましくは45℃以上であり、更に好ましくは60℃以上である。また、PO微多孔膜の透過性保持の観点から、マスターロールをエージング処理する際の温度は、120℃以下が好ましい。エージング処理に要する時間は、特に限定されないが、24時間以上であると、上記効果が発現し易いため好ましい。
【0119】
<均一拡散層>
均一拡散層とは、電解液を含む場合にリチウム(Li)イオンの均一拡散が可能な層をいう。本実施形態に係る均一拡散層は、セパレータの少なくとも表層に位置し、1.20μm以下のRaを有することによって、セパレータを含む蓄電デバイスにおいてLiイオン濃度分布を解消し、Li析出形態の制御とLiデンドライト化の抑制を可能にする。
【0120】
均一拡散層の算術平均粗さ(Ra)は、Liイオンの均一拡散の観点、及び負極表面での局所的なLiイオン濃度集中を抑制するための平滑性の最適化の観点から、0.001μm以上1.200μm以下であることが好ましく、0.010μm以上1.000μm以下であることがより好ましく、0.015μm以上0.950μm以下の範囲内にあることが更に好ましい。同様の観点から、均一拡散層の十点平均粗さ(Rz)は、0.001μm以上4.000μm以下であることが好ましく、0.010μm以上3.000μm以下であることがより好ましく、0.015μm以上2.000μm以下であることが更に好ましい。また、同様の観点から、均一拡散層のRms(要素の平均長さ)は、1.0μm以上100.0μm以下であることが好ましく、2.0μm以上80.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以上70.0μm以下であることが更に好ましい。
【0121】
均一拡散層のRa、RzまたはRmsは、例えば、均一拡散層の形成プロセスにおいて、塗工条件、例えば、均一拡散層材料と使用溶媒の組み合わせ、塗工方法、乾燥プロセスなどを制御することなどにより上記の数値範囲内に調整されることができる。
【0122】
また、Li金属又は銅(Cu)箔を含む負極とセパレータの界面抵抗を低減して蓄電デバイスのサイクル特性を良好にするという観点から、1mol/LのLiPF6を含むEC/DEC=1/2(体積比)である電解液に本実施形態に係るセパレータを1日間含侵させた後、セパレータの均一拡散層をLi金属に25℃及び0.5MPaで圧着させた際の剥離強度は、2N/m以上200N/m以下であることが好ましく、3N/m以上60N/m以下であることがより好ましく、10N/m以上40N/m以下であることが更に好ましい。前記剥離強度は、Li金属と親和性が高く、適度に柔らかい樹脂を用いて均一拡散層を形成すること等により上記の数値範囲内に調整されることができる。Li金属との親和性の高い材料として、極性を有する材料が好ましい。極性有する材料としては、特に限定されないが、例えばエチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸・無水マレイン酸共重合体等のオレフィン共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル類;ポリ酢酸ビニル類;ポリビニルアルコール類;ポリビニルアセタール類;ポリビニルブチラール類;合フッ素ポリベンゾオキサゾール;アクリル樹脂類;ポリメタクリル酸メチル等のメタクリル樹脂類;ポリアクリロニトリル類;アクリロニトリル・ブタジエン・ステレン共重合体等のアクリロニトノル共重合体;ステレン・メタクリル酸共重合体、スチレン・アクリロニトリル共重合体等のスチレン共重合体;ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム等のイオン性ポリマー;アセタール樹脂類;ナイロン66等のポリアミド類;ゼラチン;アラビアゴム;ポリカーボネート類、ポリエステルカーボネート類;セルロース系樹脂類;ポリケトン類;ポリエーテル類;フェノール樹脂類;ユリア樹脂類;エポキシ樹脂類;不飽和ポリエステル樹脂類;アルキド樹脂類;メラミン樹脂類;ポリウレタン類;ジアリールフタレート樹脂類;ポリフェニレンオキサイド類;ポリフェニレンスルフイドポリスルホン類;ポリフェニルサルフォン類;ポリイミド類;ビスマレイミドトリアジン樹脂類;含フッ素樹脂類;ポリイミドアミド類;ポリエーテルスルホン類;ポリエーテルケトン類;ポリエーテルイミド類等があげられる。電解液との親和性の観点から、含フッ素樹脂類、ポリカーボネート類、ポリケトン類、ポリエーテル類、ポリアクリロニトリル類が好ましい。適度に柔らかい樹脂としては、例えば、本技術分野において約300℃を超えるガラス転移温度(Tg)を有すると考えられるアラミド樹脂よりも低いTgを有する樹脂などを使用してよい。Tgの範囲としては、Li金属または銅(Cu)箔を含む負極と良好な結着を形成する観点から、100℃未満が好ましく、25~100℃がより好ましく、25℃未満が更に好ましい。また、Tgは、電解液(EC/DEC=1/2(体積比)等)を含み均一拡散層材料を可塑化させた状態の値でもよい。Tgは、示差走査熱量測定(DSC)で得られるDSC曲線から決定される。具体的には、DSC曲線における低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の変曲点における接線との交点の温度を、ガラス転移温度として採用することができる。また、「ガラス転移」はDSCにおいて試験片であるポリマーの状態変化に伴う熱量変化が吸熱側に生じたものを指す。このような熱量変化はDSC曲線において階段状変化の形状として観測される。「階段状変化」とは、DSC曲線において、曲線がそれまでの低温側のベースラインから離れ新たな高温側のベースラインに移行するまでの部分を示す。なお、階段状変化とピークとが組み合わされたものも階段状変化に含まれることとする。更に、「変曲点」とは、階段状変化部分のDSC曲線の勾配が最大になるような点を示す。また、階段状変化部分において、上側を発熱側とした場合に、上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点と表現することもできる。「ピーク」とは、DSC曲線において、曲線が低温側のベースラインから離れてから再度同じベースラインに戻るまでの部分を示す。「ベースライン」とは、試験片に転移、及び反応を生じない温度領域のDSC曲線のことを示す。
【0123】
1mol/LのLiPF6を含むEC/DEC=1/2(体積比)である電解液に対する均一拡散層の膨潤度は、上限として均一拡散層の強度の観点から、また下限としてはLiイオンの均一拡散の観点から、2倍以上であることが好ましく、3倍以上10倍以下であることがより好ましく、3.5倍以上8倍以下であることが更に好ましい。この膨潤度は、例えば均一拡散層の原料又は含有成分の溶解度パラメータ(SP値)の制御などにより上記の数値範囲内に調整されることができる。
【0124】
均一拡散層は、平滑性の最適化の観点、及び蓄電デバイスにおけるLi析出形態の制御とLiデンドライト化の抑制の観点から、下記(1)~(3):
(1)電解液を含むときに、均一拡散層の表面観察において、Liイオン拡散が不可能な領域中に描ける内接円の最大直径が、100nm以下である;
(2)電解液を含むときに、均一拡散層の任意の箇所における3.0μm×4.0μmの範囲の表面観察において、Liイオン拡散が不可能な領域の総面積(Stotal)が、上限7.2μm2である;及び
(3)電解液を含むときに、均一拡散層の表面観察において、Liイオン拡散が不可能な領域に対するLiイオン拡散が可能な領域の面積比が、不可能な領域:可能な領域=60:40~0:100ある;
のいずれか又は2つ以上を満たすことが好ましい。
【0125】
上記(1)~(3)について、Liイオン拡散が不可能な領域とは、例えば非イオン伝導性材料を含む領域を指す。具体的には、PO微多孔膜のポリオレフィン(PO)部は、Liイオン拡散が不可能な領域に該当するが、PO微多孔膜の表層においてPO幹の太さが100nm以下の場合には上記(1)を満たすものとしてみなすことができる。また、均一拡散層がフィラー層である場合も上記と同様に考えてよい。表面観察においてLiイオン拡散が可能な領域と不可能な領域の見分け方として、例えばEDX、NMR、XRD、XPS、XRF等を適宜組み合わせることで、イオン伝導性材料または非イオン伝導性材料を同定し、マッピング等でこれらの材料の膜表面における分布を明らかにすることで見分けることができる。なお空孔部分は、電解液で満たされることでLiイオンの拡散が可能であるため、Liイオン拡散可能な領域である。
【0126】
上記(1)について、Liイオン拡散が不可能な領域中に描ける内接円の最大直径は、100nm以下であることが好ましく、より好ましくは80nm以下、60nm以下、40nm以下、20nm以下であり、Liイオン拡散不可能な領域を含まないことが最も好ましい。
【0127】
上記(2)について、総面積Stotalは、7.2μm2以下であることが好ましく、6.0μm2以下、4.8μm2以下、3.6μm2以下、又は2.4μm2以下であることがより好ましく、Liイオン拡散不可能な領域を含まないことが最も好ましい。
【0128】
上記(3)について、Liイオン拡散が不可能な領域に対するLiイオン拡散が可能な領域の面積比が、不可能な領域:可能な領域=60:40~0:100であることが好ましく、30:70~0:100、20:80~0:100、10:90~0:100であることがより好ましく、Liイオン拡散不可能な領域を含まないことが最も好ましい。
【0129】
均一拡散層が薄いほど、電気抵抗を低減する一方で、均一拡散層が厚いことで蓄電デバイスの負極表面においてLiイオンが均一拡散し易くなる。このような観点から、均一拡散層の厚みは、0μm超10μm以下の範囲内にあることが好ましく、0.5~7.0μmであることがより好ましく、1.0~6.0μmであることが更に好ましく、2.0~5.0μmであることがより更に好ましい。なお、均一拡散層がパターンとして形成される場合、または均一拡散層の厚みが一定ではない場合には、均一拡散層の厚みは、微多孔膜の厚み方向に沿って、最大となるように決定することができる。
【0130】
均一拡散層の構成材料は、少なくとも1つのイオン伝導性材料を含むことが好ましく、イオン伝導性材料と非イオン伝導性材料の両方を含んでもよいがイオン伝導性材料から成ることが好ましく、実質的にイオン伝導性材料から成ることがより好ましく、イオン伝導性材料のみから成ることがより更に好ましく、均一拡散層は、イオン伝導性材料のみから成る無孔層であることが特に好ましい。
【0131】
イオン伝導性材料としては、25℃で10-7Scm-1以上のイオン伝導度を示す材料であればよく、イオン伝導度は、10-6Scm-1以上、10-4Scm-1以上、又は10-3Scm-1以上であることが好ましい。イオン伝導度は、材料単独の値でも良いし、材料を電解液等に膨潤させた状態の値でも良いが、抵抗の観点から、材料単独の値であることがより好ましい。イオン伝導度は、材料が分かれば文献等により当業者であれば容易に判断することが可能である。判断が難しい場合、実施例に記載の方法で測定することも可能である。前記イオン伝導度を満たす材料としては、有機材料および無機材料が挙げられ、例えば固体電解質やゲル電解質が挙げられる。ゲル電解質としては電解液を膨潤したものでもよいし、Li塩を含むことによって伝導性を発現するものでもよい。ポリエチレンオキシド、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、ポリカーボネート、ポリアセタール等の極性官能基を有する材料が挙げられ、これらを構成するモノマーの複数が共重合したものでもよい。イオン伝導性材料は、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸、更にはポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリルを含むことが好ましい。固体電解質としては、例えば、酸化物、硫化物および窒化物等が挙げられる。具体的にはLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li0.34La0.51TiO2.94、Li4SiO4-Li2BO3、Li7La3Zr2O12、Li3BO3-Li2SO4、Li2.9PO3.3N0.46、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li9.54Si1.74P1.44S11.7Cl0.3、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、Li6PS5Cl、Li2S-B2S3-LI、Li2S-P2S5-LiBH4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-P2S5、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4、Li3N等の材料が挙げられ、組成割合は上記に限らずともよい。
【0132】
非Liイオン伝導性材料としては、前記Liイオン伝導性材料以外の材料を用いることが可能であり、具体的にポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン類やポリスチレン、ポリ塩化ビニル等の有機材料や無機材料が挙げられる。
【0133】
均一拡散層の形態は、粒子状、膜状、フィルム状、又はそれらの複合体でよく、中でも、膜状又はフィルム状が好ましい。また、均一拡散層は、Liイオンの均一拡散の観点から、無孔であることが好ましく、膜状かつ無孔であることがより好ましい。
【0134】
(均一拡散層の形成方法)
均一拡散層の形成方法は、セパレータの少なくとも表層に均一拡散層が位置し、かつ均一拡散層の算術平均粗さ(Ra)が上記の数値範囲内に調整されるのであれば特に限定されるものではないが、例えば、微多孔膜、積層膜等のセパレータ基材の部分的な成形又は加工、均一拡散層の構成材料を含む塗料のセパレータ基材への塗工などでよい。
【0135】
微多孔膜、積層膜等のセパレータ基材の部分的な成形加工により均一拡散層を形成する場合には、基材表層において幹の太さが上記(1)の条件を満たすように成形加工を行うことが好ましい。
【0136】
均一拡散層の構成材料を含む塗料のセパレータ基材への塗工においては、均一拡散層の表面の平滑性の観点から、塗料の溶媒、塗工方法、乾燥プロセスなどを最適化することが好ましい。
【0137】
溶媒は、均一拡散層の平滑性を向上させるために、微多孔膜内への過度な塗料の浸透を抑制、微多孔膜表面での塗料ハジキを抑制、および塗工時の塗料のレベリングを促進できる溶媒を選択することが好ましい。溶媒は、塗料および塗工される微多孔膜の親和性に基づき、粘度と表面張力の観点で選択することができる。前記観点を満たす溶媒であれば特に限定されないが、例えば、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、水、エタノール、メタノール、n-プロパノール、アセトン、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、シクロヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、メチルエチルケトン、等でよい。
【0138】
塗工方法としては、例えば、バーコート、グラビアダイレクト印刷、グラビアリバース印刷、ディップ、ダイコート、ナイフコート、エアドクタコート、ブレードコート、スクイズコート、キャストコート、スクリーン印刷、スプレーコートなどが挙げられる。それらの中で、ディッピング以外の方法が好ましい。薄く塗工することおよび平滑性の観点から、バーコート、グラビアリバース印刷、ダイコートおよびナイフコートがより好ましく、グラビアリバース印刷が特に好ましい。
【0139】
乾燥プロセスでは、例えば塗料の溶媒沸点等に応じて、乾燥温度を決定することができる。平滑性の観点から、溶媒の沸点よりも低いことが好ましく、更には沸点から15℃よりも低い温度で乾燥することが好ましく、50℃よりも低い温度であることが特に好ましい。
【0140】
<セパレータの製造方法>
本実施形態に係るセパレータは、例えば、上記で説明された微多孔膜の製造方法と均一拡散層の形成方法とを組み合わせることにより製造されることができる。得られたセパレータは、蓄電デバイスに組み込まれることによってLiデンドライトの発生を抑制しサイクル特性を向上させることができる。
【0141】
<蓄電デバイス>
正極、負極、電解液、及び上記で説明されたセパレータから構成される蓄電デバイスも本発明の一態様である。蓄電デバイスとしては、例えば、非水系電解液電池、非水系電解質電池、非水系リチウムイオン二次電池、非水系ゲル二次電池、非水系固体二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等が挙げられる。
【0142】
蓄電デバイスは、セパレータと、正極板と、負極板と、非水電解液(非水溶媒とこれに溶解した金属塩を含む)を備えてよい。具体的には、例えば、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な遷移金属酸化物を含む正極板と、リチウムイオン等を吸蔵及び放出可能な負極板とが、セパレータを介して対向するように捲回又は積層され、非水電解液を保液し、デバイス容器又はデバイス外装体に収容されている。
【0143】
正極板について以下に説明する。正極活物質としては、例えば、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム又はコバルト酸リチウム等のリチウム複合金属酸化物、リン酸鉄リチウム等のリチウム複合金属リン酸塩等を用いることができる。正極活物質は導電剤及びバインダと混錬され、正極ペーストとしてアルミニウム箔等の正極集電体に塗布乾燥され、所定の厚みに圧延された後、所定の寸法に切断されて正極板となる。ここで、導電剤としては、正極電位下において安定な金属粉末、例えば、アセチレンブラック等のカーボンブラック又は黒鉛材料を用いることができる。また、バインダとしては、正極電位下において安定な材料、例えば、ポリフッ化ビニリデン、変性アクリルゴム又はポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
【0144】
負極板について以下に説明する。負極活物質としては、リチウム(Li)金属、銅(Cu)箔、またはリチウムを吸蔵できる材料を用いることができる。さらに、例えば、黒鉛、シリサイド、及びチタン合金材料等から成る群から選ばれる少なくとも1種類を負極に用いることができる。また、非水電解質二次電池の負極活物質としては、例えば、金属、金属繊維、炭素材料、酸化物、窒化物、珪素(Si)化合物、錫(Sn)化合物、又は各種合金材料等を用いることができる。
【0145】
負極に使用可能な炭素材料としては、例えば、各種天然黒鉛、コークス、易黒鉛化性炭素、難黒鉛化性炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、及び非晶質炭素等が挙げられる。
【0146】
負極活物質としては、上記材料のうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。負極活物質はバインダと混錬され、負極ペーストとして銅箔等の負極集電体に塗布乾燥され、所定厚に圧延された後、所定寸法に切断されて負極板となる。ここで、バインダとしては、負極電位下において安定な材料、例えば、PVDF又はスチレン-ブタジエンゴム共重合体等を用いることができる。
【0147】
上記で説明された負極の材料の中でも、本実施形態に係るセパレータの均一拡散層の効果が顕著に現れるものとして、負極が、Li金属、又は銅(Cu)箔で構成されることが好ましい。また、セパレータの均一拡散層を、蓄電デバイスの負極表面(又はLi析出表面)と当接又は対向するように配置して、Liイオン濃度分布を解消し、Li析出形態を制御(Liデンドライト化を抑制)することも好ましい。
【0148】
非水電解液について以下に説明する。非水電解液は、一般的に、非水溶媒とこれに溶解したリチウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩等の金属塩とを含む。非水溶媒としては、環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、環状カルボン酸エステル等が用いられ、これらの一部がフッ素化して耐酸化性が向上したものを用いてもよい。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4、LiBF4、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、Li(CF3SO2)2、LiAsF6、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。その他、イオン液体を用いてもよいし、リチウム塩を非水溶媒に1mol/L以上溶解させた高濃度Li塩非水電解液を用いてもよい。
【0149】
なお、上述した各種パラメータの測定方法については、特に断りの無い限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定されるものである。
【実施例】
【0150】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の物性は以下の方法により測定した。特に断りのない場合は、室温23℃、湿度40%の環境で測定した。
【0151】
(1)一点法全細孔容積および細孔割合
(1a)一点法全細孔容積(別名:一点法体積吸着量)(細孔直径98nm)(cm3/g)
JIS Z8831-2:2010粉体(固体)の細孔分布及び細孔特性「第2部ガス吸着によるメソ細孔及びマクロ孔の測定方法」に基づき定容量法による窒素ガス吸着試験を行った。具体的には、窒素相対圧(p/p0)が0.98の標準状態の温度及び圧力(STP)換算でのガス吸着量を、吸着質の液体体積としての体積相当量と定義して、一点法体積吸着量(細孔直径98nm)の導出を行った。この時、相対圧(p/p0)0.98は、シリンダ型細孔を仮定し、その細孔半径をrpとすると、rp=rk+tと表され、細孔直径98.8nmに相当する。ここで、rkは、細孔内で凝縮した吸着質の曲率半径であり、次の式で示される。
rk=-0.953/ln(p/p0)。
また、tは、実験的又は理論的に求められた参照吸着等温線から得られる相対圧での窒素の多分子層吸着膜の平均厚さであり、以下の式で表される。
t=0.354*[-5/ln(p/p0)]^1/3
【0152】
(1b)細孔割合(細孔直径98nm以下)(%)
上記一点法全細孔容積(細孔直径98nm以下)Aと樹脂原料密度より、次式を用いて、細孔直径98nm以下の孔からなる気孔率を計算した。
細孔直径98nm以下の孔からなる気孔率P(%)=A/(A+1/樹脂原料密度)×100
後述する膜全体の気孔率における上記気孔率の割合を計算することで細孔割合を計算した。
細孔割合(細孔直径98nm以下)(%)=(P/膜全体の気孔率)×100
【0153】
(2)密度(g/cm3)
JIS K7112:1999に従い、密度勾配管法(23℃)により、試料の密度を測定した。
【0154】
(3)膜厚(μm)
東洋精機(株)社製の微小測厚器、KBM(商標)を用いて、室温23±2℃でPO微多孔膜、均一拡散層、無機フィラー層、又はセパレータの厚みを測定した。ただし、(圧縮前の)微多孔膜の平均膜厚(μm)、並びに(圧縮前の)多層多孔膜及び塗工層の膜厚(μm)については、次のように測定した。
【0155】
[(圧縮前の)微多孔膜の平均膜厚(μm)]
微多孔膜を10cm×10cmにサンプリング後、重ねて15μm以上になるように複数枚微多孔膜を重ねて、9か所を測定して平均を取り、その平均値を重ねた枚数で割った値を1枚の厚みとした。
【0156】
[(圧縮前の)多層多孔膜及び塗工層の膜厚(μm)]
(圧縮前の)微多孔膜の平均膜厚と(圧縮前の)多層多孔膜のそれぞれの厚みから塗工層の厚みを算出した。また、多層多孔膜からの検出の観点から、断面SEM像を用いて各層の厚みを計測することも可能である。
【0157】
(4)気孔率(%)
10cm×10cm角に試料を切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと真密度(g/cm3)より、次式を用いて計算した。微多孔膜に塗工等により積層構造を形成したセパレータにおいて、セパレータの気孔率はセパレータ全体の平均気孔率を指し、微多孔膜の気孔率は微多孔膜のみから算出し、塗工等により形成された積層部分の気孔率はセパレータと微多孔膜の体積と質量の差分および、積層部分を構成する材料の真密度を用いて算出した。
気孔率(%)=(体積-(質量/混合組成物の真密度))/体積×100
なお、混合組成物の密度は、用いた材料の各々の密度と混合比より計算して求められる値を用いた。
【0158】
(5)透気度(sec/100cm3)旭精工株式会社の王研式透気度測定機「EGO2」を用いて温度23℃、湿度40%の雰囲気下で透気度を測定した。
透気度の測定値は、膜の幅方向(TD)に沿って両端から中央に向かって全幅の10%内側の地点2点と中央1点との計3点の透気度を測定し、それらの平均値を算出した値である。
【0159】
[圧縮プレス試験]
厚さ0.8mmのゴム製の緩衝材、厚さ0.1mmのPETフィルム、微多孔膜またはセパレータ2枚、上記PETフィルム、上記緩衝材の順序で積層し、得られた積層体を静置し、積層体の片側の緩衝材面に対して圧力を掛けることにより圧縮試験を行なった。ここで、用いる微多孔膜は5×5cm四方であり、プレス試験に用いる前に平均膜厚(9点平均)、目付、及び透気度を測定した。また、目付と平均膜厚から圧縮プレス試験前の気孔率を算出した。
圧縮試験は、プレス機を用いて、温度25℃及び圧縮時間3分間の条件下、2.5MPa、5MPa、7.5MPa、及び10MPaの圧力で行われた。また、除荷してから1時間後に積層体から微多孔膜を取り外し、圧縮後の平均膜厚(9点平均)、圧縮後の透気度を測定した。また、目付と圧縮後の平均膜厚から、圧縮後の気孔率を算出した。
【0160】
(6)目付(g/m2)、突刺強度(gf)および目付換算突刺強度(gf/(g/m2))
目付は、単位面積(1m2)当たりのポリオレフィン微多孔膜の重量(g)である。1m×1mにサンプリング後、島津製作所製の電子天秤(AUW120D)にて重量を測定した。なお、1m×1mにサンプリングできない場合は、適当な面積に切り出して重量を測定した後、単位面積(1m2)当たりの重量(g)に換算した。
【0161】
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES-G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーで微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部を、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/secで、室温23℃及び湿度40%の雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として突刺強度(gf)を測定した。突刺試験の測定値は、膜のTDに沿って、両端から中央に向かって全幅の10%内側の地点2点と中央1点との計3点を測定し、それらの平均値を算出した値である。
目付換算突刺強度は以下の式で求める。
目付換算突刺強度[gf/(g/m2)]=突刺強度[gf]/目付[g/m2]
ここで、ポリオレフィン微多孔膜基材に少なくとも1つ以上の層を設けた多層多孔膜の突刺強度および目付換算突刺強度に関しては、樹脂の強度および目付当たりの強度を評価する観点から、ポリオレフィン微多孔膜基材の突刺強度および目付換算突刺強度をもって特性を評価した。
【0162】
(7)気液法から求めた多孔膜又は多孔質層の孔数(個/μm2)
キャピラリー内部の流体は、流体の平均自由工程がキャピラリーの孔径より大きい時はクヌーセンの流れに、小さい時はポアズイユの流れに従うことが知られている。そこで、多孔膜又は多孔質層の透気度測定における空気の流れがクヌーセンの流れに、また多孔膜又は多孔質層の透水度測定における水の流れがポアズイユの流れに従うと仮定する。
この場合、多孔膜の平均孔径d(μm)と曲路率τa(無次元)は、空気の透過速度定数Rgas(m3/(m2・sec・Pa))、水の透過速度定数Rliq(m3/(m2・sec・Pa))、空気の分子速度ν(m/sec)、水の粘度η(Pa・sec)、標準圧力Ps(=101325Pa)、気孔率ε(%)、膜厚L(μm)から、次式を用いて求めた。
d=2ν×(Rliq/Rgas)×(16η/3Ps)×106
τa=(d×(ε/100)×ν/(3L×Ps×Rgas))1/2
ここで、Rgasは透気度(sec)から次式を用いて求めた。
Rgas=0.0001/(透気度×(6.424×10-4)×(0.01276×101325))
また、Rliqは透水度(cm3/(cm2・sec・Pa))から次式を用いて求め
た。
Rliq=透水度/100
なお、透水度は次のように求めた。直径41mmのステンレス製の透液セルに、あらかじめエタノールに浸しておいた多孔膜又は多孔質層をセットし、該膜又は層のエタノールを水で洗浄した後、約50000Paの差圧で水を透過させ、120sec間経過した際の透水量(cm3)より、単位時間・単位圧力・単位面積当たりの透水量を計算し、これを透水度とした。
また、νは気体定数R(=8.314)、絶対温度T(K)、円周率π、空気の平均分子量M(=2.896×10-2kg/mol)から次式を用いて求めた。
ν=((8R×T)/(π×M))1/2
さらに、孔数B(個/μm2)は、次式より求めた。
B=4×(ε/100)/(π×d2×τa)
【0163】
(8)孔径および半値幅
(8a)ハーフドライ法による平均流量径(μm)
ハーフドライ法に準拠し、パームポロメータ(Porous Materials,Inc.社:CFP-1500AE)を用い、平均孔径(μm)を測定した。浸液には同社製のパーフルオロポリエステル(商品名「Galwick」、表面張力15.6dyn/cm)を用いた。乾燥曲線、及び湿潤曲線について、印加圧力、及び空気透過量の測定を行い、得られた乾燥曲線の1/2の曲線と湿潤曲線とが交わる圧力PHD(Pa)から、次式により平均孔径dHD(μm)を求め、平均流量径とした。
dHD=2860×γ/PHD
【0164】
(8b)ハーフドライ法による孔径ピークの半値幅(μm)
前記平均流量径を示す孔径分布ピークトップの半分の値に該当する孔径値の差分を算出して半値幅とした。
【0165】
(9)分子量及び粘度平均分子量
(9a)GPC-光散乱によるポリエチレンの多分散度(Mw/Mn)、(Mz/Mw)の測定
示差屈折率計と光散乱検出器を接続したGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用い、以下の条件で、各樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、z平均分子量(Mz)、分子量分布(Mw/Mn)、及び、(Mz/Mw)を測定した。具体的には、Agilent社製、示差屈折計(RI)と、光散乱検出器(PD2040)、を内蔵したPL-GPC200を使用した。カラムとして、Agilent PLgel MIXED-A(13μm、7.5mmI.D×30cm)を2本連結して使用した。160℃のカラム温度で、溶離液として、1,2,4-トリクロロベンゼン(0.05wt%の4,4’-Thiobis(6-tert-butyl-3-methylphenolを含有)を、流速1.0ml/min、注入量500μLの条件で測定し、RIクロマトグラムと、散乱角度15°と90°の光散乱クロマトグラムを得た。得られたクロマトグラムより、Cirrusソフトを用いて、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)及びz平均分子量(Mz)を得た。このMzとMwの値を用いて分子量分布(Mz/Mw)を、また、MwとMnの値を用いて分子量分布(Mw/Mn)を得た。なお、ポリエチレンの屈折率増分の値は、0.053ml/gを用いた。
【0166】
(9b)粘度平均分子量(Mv)
ASTM-D4020に基づき、デカリン溶媒における135℃での極限粘度[η](dl/g)を求めた。PO微多孔膜およびポリエチレン原料については次式によりMvを算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67
ポリプロピレン原料については、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0167】
(10)メルトフローインデックス(MI)]
JIS K7210:1999(プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR))に従って、微多孔膜のメルトフローインデックス(MI)を測定した。190℃で21.6kgfの荷重を膜に加えて、直径2mm、長さ10mmのオリフィスから10分で流出した樹脂量(g)を測定し、小数点以下第一位を四捨五入した値をMIとした。
【0168】
(11)密度(g/cm3)
JIS K7112:1999に従い、密度勾配管法(23℃)により、試料の密度を測定した。
【0169】
(12)TD方向3点(両端から中央に向かって全幅の10%内側の地点2点と中央1点との計3点)の透気度の最大値と最小値の差
旭精工株式会社の王研式透気度測定機(測定部の直径30mmφ)を用い、膜の左幅を0%、右端を100%とした時、50%の位置となる中央1点と左端から10%中央側(10%の位置)、および右端から10%中央側(90%の位置)の計3点の透気度を測定し、3点のうち最も大きい値と最も小さい値の差Rを得た。
測定するサンプルの幅に応じ、具体的にはサンプル幅が150mm幅以下の場合においては、測定部の直径が13mmφであるノズルを用いて同様に幅方向の透気度分布を測定する。
【0170】
(13)120℃,1時間での熱収縮率(%)
サンプルとして、多孔膜をMDに100mmかつTDに100mm、MDに50mmでTDかつ50mm、またはMDに30mmかつTDに30mmの加熱前の長さ(mm)に切り取り、120℃のオーブン中に1時間静置した。このとき、温風が直接サンプルに当たらないように、サンプルを10枚の紙に挟んだ。サンプルをオーブンから取り出して冷却した後、長さを測定して加熱後の長さ(mm)とし、下式にて熱収縮率を算出した。測定はMDとTDでそれぞれ行い、数値の大きい方を熱収縮率とした。
熱収縮率(%)={(加熱前の長さ-加熱後の長さ)/加熱前の長さ}×100
【0171】
(14)引張破断強度(MPa)とMD/TD引張破断強度比
JIS K7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG-A型(商標)を用いて、MD及びTDサンプル(形状;幅10mm×長さ100mm)について測定した。引張試験機のチャック間を50mmとし、サンプルの両端部(各25mm)の片面にセロハン(登録商標)テープ(日東電工包装システム(株)製、商品名:N.29)を貼ったものを用いた。更に、試験中のサンプル滑りを防止するために、引張試験機のチャック内側に、厚み1mmのフッ素ゴムを貼り付けた。
なお、測定は、温度23±2℃、チャック圧0.40MPa、及び引張速度100mm/minの条件下で行った。
引張破断強度(MPa)は、ポリオレフィン微多孔膜の破断時の強度を、試験前のサンプル断面積で除することで求めた。
引張破断強度をMDとTDのそれぞれについて求めて、MD引張破断強度とTD引張破断強度の比(MD/TD引張破断強度比)も算出した。
【0172】
(15)MD及びTDの引張弾性率(MPa)
MD及びTDの測定について、MDサンプル(MD120mm×TD10mm)及びTDサンプル(MD10mm×TD120mm)を切り出した。雰囲気温度23±2℃、湿度40±2%の状況下でJIS K7127に準拠し、島津製作所製の引張試験機、オートグラフAG-A型(商標)を用いて、サンプルのMD及びTDの引張弾性率を測定した。サンプルをチャック間距離が50mmとなるようにセットし、引張速度200mm/分でチャック間が60mm、すなわち歪みが20.0%に達するまでサンプルを伸張した。引張弾性率(MPa)は、得られる応力-歪曲線における歪み1.0%から4.0%の傾きから求めた。
【0173】
(16)算術平均粗さRa、十点平均粗さRz、平均長さRSm
(JIS B0601-1994に準拠)
電池用セパレータを10mm幅×50mm長さで切り出す。切り出したセパレータを、ガラス板(松浪硝子工業社製、マイクロスライドガラス S1225、76mm×26mm)に15mm以上離して平行に張った両面テープ(日東電工社製 両面接着テープ No.501F、5mm幅×20m)に貼り付ける。この時、両面テープの高さにより、セパレータ中央部は、ガラス板に直接つかずに浮いた状態で固定されている。
この状態のサンプルは、レーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-8500)を用いて、均一拡散層の表面粗さを測定した。この際、粗さを測定した範囲は110μm×150μmで、場所を変えて5回行い、算術平均粗さRa、十点平均粗さRz及び平均長さRSmの各平均値を、均一拡散層の算術平均粗さRa、十点平均粗さRz及び平均長さRSmとした。
【0174】
(17)均一拡散層の表面観察
走査型電子顕微鏡SEM(型式S-4800、HITACHI社製)を用いて、均一拡散層の任意の10箇所の表面において3.0μm×4.0μmのサイズで撮影を行い、画像解析ソフト「ImageJ」に読み込み、下記3項目の確認を行った。
(I)電解液を含んだ際のLiイオン拡散が不可能な領域中に描ける内接円の最大直径
(II)電解液を含んだ際のLiイオン拡散が不可能な領域の総面積(Stotal)
(III)電解液を含んだ際のLiイオン拡散が不可能な領域に対するLiイオン拡散が可能な領域の面積比
【0175】
(18)Liとの接着力測定
(18a)Liとの接着力(電解液注液前)
セパレータを幅20mm×長さ70mmの長方形状に切り取り、15mm×60mmの大きさに切ったLi箔(本城金属株式会社製)と重ねて、積層体とし、この積層体を以下の条件でプレスした。
温度:25℃
プレス圧:0.5MPa
プレス時間:5秒
プレス後のセパレータとLi箔の剥離強度を、(株)イマダ製のフォースゲージZP5N及びMX2-500N(製品名)を用いて、剥離速度50mm/分にて90°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。このとき、上記の条件で行った長さ40mm分の剥離試験における剥離強度の平均値をLiとの接着力(電解液注液前)として採用した。
【0176】
(18b)Liとの接着力(電解液注液後)
セパレータを幅20mm×長さ70mmの長方形状に切り取り、15mm×60mmの大きさに切ったLi箔と重ねて、セパレータと電極の積層体とし、この積層体をアルミラミネートフィルムに挿入し、電解液(1mol/LのLiPF6を含むEC/DEC=1/2の混合物)を0.4ml加えた。これを密封した後、12時間静置し、以下の条件でプレスした。
温度:25℃
プレス圧:0.5MPa
プレス時間:1分
プレス後のセパレータと電極の剥離強度を、(株)イマダ製のフォースゲージZP5N及びMX2-500N(製品名)を用いて、剥離速度50mm/分にて90°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。このとき、上記の条件で行った長さ40mm分の剥離試験における剥離強度の平均値をLiとの接着力(電解液注液後)として採用した。
【0177】
(19)膨潤度の測定
均一拡散層に使用した材料を融点以下の温度で12時間真空乾燥し、溶媒を完全に除去することで均一拡散層材料の乾燥物を得た。得られた乾燥物のうち約0.5gの質量を秤量し、浸漬前質量(WA)とした。この乾燥物を、25℃の1mol/LのLiPF6を含むエチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート(DEC)=1:2(体積比)の電解液10gと共に50mLのバイアル瓶に入れ、24時間浸漬した後、サンプルを取り出し、タオルぺーパーで拭き取った直後に質量を測定し、浸漬後質量(WB)とした。
均一拡散層の電解液膨潤度は、以下の式より算出した。
膨潤度(%)=WB/WA
なお、上記の式において、均一拡散層の材料が上記電解液に膨潤も溶解もしない場合、膨潤度は100%となる。
【0178】
(20)微多孔膜と均一拡散層の結着力測定
幅76mm×長さ126mmのスライドガラス上に、両面テープ(ナイスタックNWBB-15)で、均一拡散層側が上に向くようにセパレータを貼り付けた。
試験片の均一拡散層側の面に、メンディングテープ(スコッチ MP-12)を貼り付けた。スライドガラスを平らな状態に固定し、かつメンディングテープの一端を折り返し、スライドガラスに対して水平方向に引張り速度100mm/分にて90°剥離試験を行い、剥離強度を測定した。このとき、上記の条件で行った長さ40mm分の剥離試験における剥離強度の平均値を微多孔膜と均一拡散層の結着力として採用した。
【0179】
(21)電池試験
a.正極の作製
正極活物質としてリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi5Co2Mn3O2)を92.2質量%、導電材として鱗片状グラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ2.3質量%、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を3.2質量%、N-メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製する。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の片面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間の乾燥後、ロールプレス機で圧縮成形する。この時、正極の活物質塗布量は125g/m2、活物質かさ密度は3.00g/cm3になるようにする。作製した正極を面積2.00cm2の円形に打ち抜いた。
【0180】
b.負極の作製
負極としてリチウム金属を用意して、面積2.05cm2の円形に打ち抜いた。
【0181】
c.非水電解液
エチレンカーボネート:ジエチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0ml/Lとなるように溶解させて調製した。
【0182】
d.電池組立と評価
正極と負極の活物質面が対向するように、鉛直方向に沿って、下から負極、セパレータ、正極の順に重ね、蓋付きステンレス金属製容器に収納する。容器と蓋とは絶縁されており、容器は負極の銅箔と、蓋は正極のアルミ箔と接している。この容器内に調製した非水電解液を注入して密閉し1日静置した。
上記のようにして組み立てた簡易電池を25℃雰囲気下、電流値0.3mA/cm2で電池電圧4.3Vまで充電し、さらに4.3Vを保持するようにして電流値を0.3mA/cm2から絞り始めるという方法で、合計約12時間、電池作製後の最初の充電を行い、そして電流値0.3mA/cm2で電池電圧3.0Vまで放電し電池のコンディショニングを行った。
次いで25℃雰囲気下、電流値3.0mA/cm2で電池電圧4.3Vまで充電し、さらに4.3Vを保持するようにして電流値を3mA/cm2から絞り始めるという方法で、合計約3時間充電を行い、そして電流値3.0mA/cm2で電池電圧3.0Vまで放電するというサイクルを繰り返した。
このサイクルにおける1サイクル目の放電容量に対する各サイクル数の放電容量の割合を容量維持率(%)として求め、容量維持率が80%を下回るサイクル数を評価した。
【0183】
(22)イオン伝導度の測定
正極及び負極をステンレスのプレートに変更し、均一拡散層材料からなる無孔フィルムまたはプレートをセパレータの代わりに用いて上記項目(21)と同様にしてセルを作製した。作製したセルについて、25℃雰囲気下、電圧振幅10mV、周波数10Hz~5,000kHzの条件で交流インピーダンスを測定し、Cole-Coleプロットの実軸の交点、またはCole-Coleプロットから外挿した実軸との交点から下記計算式により膜抵抗(Ωcm)を求めた。この際、Cole-Coleプロットが半円に近い形の時は円弧の外挿から交点を求め、Cole-Coleプロットが直線に近い形の時は直線の外挿から交点を求めた。そして、膜抵抗の逆数をイオン伝導度として算出した。
・膜抵抗(Ωcm):Cole-Coleプロットから求めた抵抗値(Ω)×膜面積(cm2)/厚み(cm)
・イオン伝導度(Scm-1):1/膜抵抗(Ωcm)
【0184】
(23)ガラス転移温度Tgの測定
均一拡散層材料をアルミ皿に適量取り、使用した溶媒の沸点よりも高い温度かつ均一拡散層材料が熱分解しない温度において30分間乾燥して乾燥体を得た。乾燥体10mgを測定用アルミニウム容器に充填し、DSC測定装置(島津製作所社製、型式名「DSC6220」)にて窒素雰囲気下におけるDSC曲線、及びDSC曲線を得た。測定条件は下記の通りとした。
1段目降温プログラム:25℃から毎分15℃の割合で降温。-50℃に到達後5分間維持。
2段目昇温プログラム:-50℃から毎分15℃の割合で400℃まで昇温。この2段目の昇温時にDSC、及びDDSCのデータを取得。
ベースライン(得られたDSC曲線におけるベースラインを高温側に延長した直線)と、変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)における接線との交点をガラス転移温度(Tg)とした。
【0185】
[実施例1]
<ポリオレフィン多孔性基材の作製>
Mvが70万であるホモポリマーの高密度ポリエチレンを45質量部と、Mvが30万であるホモポリマーの高密度ポリエチレンを45質量部と、Mvが40万であるホモポリマーのポリプロピレン5質量部と、を、タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドした。
【0186】
得られたポリオレフィン混合物99質量部に酸化防止剤としてテトラキス-[メチレン-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンを1質量部添加し、再度タンブラーブレンダーを用いてドライブレンドすることにより、混合物を得た。
【0187】
得られた混合物を、窒素雰囲気下で二軸押出機へフィーダーにより供給した。
【0188】
また、流動パラフィン(37.78℃における動粘度7.59×10-5m2/s)を押出機シリンダにプランジャーポンプにより注入した。
【0189】
押し出される全混合物中の、流動パラフィンの割合が65質量部、及びポリマー濃度が35質量部となるように、フィーダー及びポンプの運転条件を調整した。
【0190】
次いで、それらを二軸押出機内で230℃に加熱しながら溶融混練し、得られた溶融混練物を、T-ダイを経て表面温度80℃に制御された冷却ロール上に押し出し、その押出物を冷却ロールに接触させ成形(cast)して冷却固化することにより、シート状成形物を得た。
【0191】
このシートを同時二軸延伸機にて、温度112℃において倍率7×6.4倍に延伸した。その後、延伸物を塩化メチレンに浸漬して、流動パラフィンを抽出除去後、乾燥し、更にテンター延伸機を用いて温度130℃において横方向に2倍延伸した。
【0192】
その後、この延伸シートを幅方向に約10%緩和して熱処理を行い、ポリオレフィン多孔性基材A1を得た。得られた基材の物性を表1に示す。
【0193】
【0194】
<均一拡散層の材料の作製>
(触媒の製造)
撹拌機、温度計及び蒸留装置を備えた三つ口フラスコにトリブチルスズクロライド10g及びトリブチルホスフェート35gを入れ、窒素気流下に撹拌しながら、250℃で20分間加熱し、留出物を留去させ、残留物として固体状の縮合物質を得た。以下においては、この有機スズ-リン酸エステル縮合物質を触媒として用いた。
【0195】
(ポリエーテル多元共重合体の製造)
容量3Lのガラス製四つ口フラスコの内部を窒素置換し、これに触媒として上記有機スズ
-リン酸エステル縮合物質0.3gと水分10ppm以下に調整した下記式:
【化1】
で表されるグリシジルエーテル化合物300gとアリルグリシジルエーテル27gと溶媒n-ヘキサン2000gを仕込み、これにエチレンオキシド320gを上記グリシジルエーテル化合物の重合率をガスクロマトグラフィーで追跡しながら、逐次添加した。重合反応はメタノールで停止した。重合反応終了後、生成したポリマーをデカンテーションにて取り出した後、常圧下、40℃で24時間、更に、減圧下、45℃で10時間乾燥して、反応性モノマー成分としてアリルグリシジルエーテル成分を有するポリマー595gを得た。
【0196】
このようにして得たポリエーテル多元共重合体のガラス転移温度は-70℃、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー測定による重量平均分子量は1.0×106 であった。融解熱量は存在しなかった。また、プロトンNMRスペクトルによるこのポリエーテル多元共重合体のモノマー換算組成は、上記グリシジルエーテル化合物(16):エチレンオキシド:アリルグリシジルエーテル=20:80:2モル%であった。
【0197】
上記ポリエーテル多元共重合体2.0gと架橋助剤ジエチレングリコールジメタクリレート(日本油脂(株)製ブレンマーPDE-100)0.4gと重合開始剤ベンゾイルパーオキサイド0.02gを水67.0gに溶解させて、塗工液を調製した。
【0198】
<均一拡散層の基材表層への担持>
基材A1に出力100W、速度2.0m/minの条件でコロナ処理を施した後、上記塗工液をバーコーターを用いて塗工し、不活性ガス雰囲気中、85℃で2時間加熱し、上記ポリエーテル多元共重合体を架橋させ、表層に均一拡散層を有するセパレータを得た。各評価結果を表2に示す。なお均一拡散層は負極に接するように配置した。
【0199】
[実施例2]
バーコーターの代わりにリバースグラビアを用いて塗工し、加熱を50℃10minした後85℃、2時間加熱したこと以外は実施例1と同様にして、表層に均一拡散層を有するセパレータを得た。各評価結果を表2に示す。なお均一拡散層は負極に接するように配置した。
【0200】
[実施例3]
脱水したN-メチル-2-ピロリドン(NMP、三菱化学社製)に、ジアミンとして4,4’-ジアミノジフェニルエーテル(東京化成工業社製)を窒素気流下で溶解させ、30℃以下に冷却した。そこへ、系内を窒素気流下、30℃以下に保った状態で、ジアミン全量に対して99モル%に相当する2-クロロテレフタロイルクロライド(日本軽金属社製)を30分かけて添加し、全量添加後、約2時間の撹拌を行うことで、芳香族ポリアミド(A)を重合した。得られた重合溶液を、酸クロライド全量に対して97モル%の炭酸リチウム(本荘ケミカル社製)および6モル%のジエタノールアミン(東京化成社製)により中和することで芳香族ポリアミド(A)の溶液を得た。
【0201】
得られた芳香族ポリアミド溶液を支持体であるステンレス(SUS316)ベルト上にバーコーターを用いて膜状に塗布し、熱風温度80℃で10分間、100℃で10分間、最終的に120℃でフィルムが自己支持性を持つまで乾燥させた後、フィルムを支持体から剥離した。次いで、60℃の水浴に導入することで、溶媒および中和塩などの抽出を行った。なお、剥離から水浴後までの延伸は、フィルムの長手方向(MD)に1.1倍、幅方向(TD)は無把持である。続いて、得られた含水状態のフィルムを、温度280℃のテンター室内にて、定長でTDに1.15倍の延伸を施しながら、2分間の熱処理を施し、厚み4μmの均一拡散層を得た。
【0202】
得られた均一拡散層を、ステンレス支持体との剥離面と基材A1を重ねて、均一拡散層を有するセパレータを得た。この際の均一拡散層のRaはステンレス支持体との剥離面とは逆の面であり、この面を負極と接するように配置した。各評価結果を表2に示す。
【0203】
[実施例4]
板状のベーマイト(平均粒径1.0μm)96.0質量部とアクリル重合体ラテックス(固形分濃度40%、平均粒径145nm、Tg=-10℃)4.0質量部、及びポリカルボン酸アンモニウム水溶液(サンノプコ社製 SNディスパーサント5468)1.0質量部を100質量部の水に均一に分散させて塗布液を調製し、基材A1上に厚み4μmになるように塗工した。次いでベーマイトが塗工された面と反対の面に、実施例2と同様にして均一拡散層を作成した。各評価結果を表2に示す。なお、均一拡散層は負極に接するように配置した。
【0204】
[比較例1]
均一拡散層を有さないセパレータとして基材A1の各評価結果を表2に示す。
【0205】
[比較例2]
実施例1において、水の代わりにトルエン21.6gを用いて塗料調整を行い、基材A1にコロナ処理を施さなかったこと以外は実施例1と同様にして、表層に均一拡散層を有するセパレータを得た。各評価結果を表2に示す。
【0206】
[比較例3]
実施例3において芳香族ポリアミド溶液塗布後の乾燥条件を120℃のみにしたこと以外は、実施例4と同様にして、表層に均一拡散層を有するセパレータを得た。各評価結果を表2に示す。
【0207】