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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】搬送補助装置および医療用ベッド
(51)【国際特許分類】
   B62B 3/00 20060101AFI20241011BHJP
   A61G 7/08 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
B62B3/00 G
A61G7/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021094626
(22)【出願日】2021-06-04
(65)【公開番号】P2022186415
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000167222
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトマシンシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 寛之
(72)【発明者】
【氏名】西野 佳祐
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-163034(JP,A)
【文献】特開2015-112290(JP,A)
【文献】特開2013-100076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62B 3/00
A61G 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の搬送を補助する搬送補助装置であって、
前記対象物に取り付けられ、かつ床面に押し付けられる複数のメカナムホイールと、
前記複数のメカナムホイールの各々に取り付けられ、各メカナムホイールを駆動するモータと、
前記床面と平行な方向における、前記対象物と前記複数のメカナムホイールとの間に生じる歪みを検出することで、前記対象物に加わる力の方向と、前記歪みの大きさと、を検出する第1センサと、
前記第1センサと電気的に接続され、前記モータを制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記第1センサの検出信号に基づいて、前記歪みを相殺するようにかつ前記対象物が力を受ける方向に沿って該対象物を推進させるように、前記モータを介して前記複数のメカナムホイールを駆動し、
前記歪みの大きさをゼロに向かって減少させるように前記複数のメカナムホイールを駆動するとともに、前記歪みが大きくなるほど、前記複数のメカナムホイールそれぞれの回転速度を高速に設定する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項2】
請求項1に記載された搬送補助装置において、
前記制御装置は、前記複数のメカナムホイールの回転を検知した後に、前記対象物が力を受ける方向に沿って該対象物を推進させるように前記モータを介して前記複数のメカナムホイールを駆動する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された搬送補助装置において、
前記対象物の角速度を検出する第2センサを備え、
前記制御装置は、
前記第2センサの検出信号に基づいて、前記対象物の旋回を補助するように前記モータを介して前記複数のメカナムホイールを駆動する
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載された搬送補助装置において、
前記対象物はキャスタ付き医療用ベッドであり、
前記複数のメカナムホイールは、それぞれ、前記医療用ベッドの下面に取り付けられる
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項5】
請求項4に記載された搬送補助装置において、
前記第1センサは、歪みゲージ式のフォースセンサによって構成される
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項6】
請求項5に記載された搬送補助装置において、
前記複数のメカナムホイールは、前記医療用ベッドの短手方向に沿って並んだ2つのメカナムホイールによって構成される
ことを特徴とする搬送補助装置。
【請求項7】
請求項4から6のいずれか1項に記載された搬送補助装置が取り付けられた医療用ベッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、搬送補助装置および医療用ベッドに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ベッド搬送補助装置が開示されている。このベッド搬送補助装置は、ベッドの長手方向(直進方向)の一端部に装着される操作機と、ベッドの長手方向の他端部に装着される走行台車と、を備えている。
【0003】
ここで、前記特許文献1に開示されている操作機は、看護士等によって操作されることで操作信号を送信する。一方、前記走行台車は、車軸と、該車軸の両端部に取り付けられた駆動輪と、を備えており、操作機から送信された操作信号を受信して車軸を旋回させるとともに、車軸を旋回させた状態で駆動輪を作動させることで、走行台車を走行させるように構成されている。
【0004】
前記特許文献1によれば、操作機の操作に伴って走行台車を走行させることで、ベッドの搬送をアシストすることができる。また、その際に車軸を旋回させることで、任意の方向へと走行台車を走行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-100076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、前記特許文献1に開示されているような走行台車は、車軸の旋回によって駆動輪を旋回させるように構成されているため、駆動輪と他の部材とが接触しないよう、駆動輪が旋回するスペースを広めに確保する必要がある。そうしたスペースを確保した分、装置の肥大化を招くことになる。
【0007】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ベッド等の対象物の搬送を補助する搬送補助装置において、そのコンパクト化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様は、対象物の搬送を補助する搬送補助装置に係る。この搬送補助装置は、前記対象物に取り付けられる複数のメカナムホイールと、前記複数のメカナムホイールの各々に取り付けられ、各メカナムホイールを駆動するモータと、前記対象物に加わる力を検出する第1センサと、前記第1センサと電気的に接続され、前記モータを制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記第1センサの検出信号に基づいて、前記対象物が力を受ける方向に沿って該対象物を推進させるように前記モータを介して前記複数のメカナムホイールを駆動する。
【0009】
前記第1の態様によると、前記搬送補助装置は、従来知られた車軸および駆動輪の代わりに、モータ駆動式のメカナムホイールによって対象物の搬送を補助する。メカナムホイールを用いた場合、メカナムホイールを旋回させなくとも、各メカナムホイールを前転させたり後転させたりするだけで、横移動、旋回等を実現することができる。そのため、メカナムホイールが旋回するスペースが不要となる分、従来よりもコンパクトに構成することができるようになる。なお、ここでいう「メカナムホイール」とは、特開2009-108542号公報、特開2016-185722号公報、および、特開2016-185722号公報が引用する米国特許第3876255号明細書に記載されているように、車輪の表面が、車軸に対して45°傾けられた複数の樽型のローラ(後述の樽型ローラ)で覆われているホイールを指す。
【0010】
また、本開示の第2の態様によれば、前記制御装置は、前記複数のメカナムホイールの回転を検知した後に、前記対象物が力を受ける方向に沿って該対象物を推進させるように前記モータを介して前記複数のメカナムホイールを駆動する、としてもよい。
【0011】
対象物に力が加わり移動を開始すると、メカナムホイールは、対象物の移動によって回り始める。換言すると、対象物に力が加わっても、その対象物が移動を開始するまではメカナムホイールは回転しない。仮に、メカナムホイールが回転していない状態でそのメカナムホイールを駆動してしまうと、搬送補助装置および対象物は、実質的に自走することになる。このことは、対象物の搬送を補助する上で望ましくない。
【0012】
これに対し、前記第2の態様によると、前記制御装置は、前記複数のメカナムホイールの回転を検知した後に、メカナムホイールの駆動を開始する。これにより、搬送補助装置の自走を避けることができ、同装置の使い勝手を向上させることができる。
【0013】
また、本開示の第3の態様によれば、前記搬送補助装置は、前記対象物の角速度を検出する第2センサを備え、前記制御装置は、前記第2センサの検出信号に基づいて、前記対象物の旋回を補助するように前記モータを介して前記複数のメカナムホイールを駆動する、としてもよい。
【0014】
前記第3の態様によると、前記制御装置は、対象物の移動に加え、その旋回を補助することもできる。これにより、搬送補助装置の使い勝手を向上させる上で有利になる。
【0015】
また、本開示の第4の態様によれば、前記対象物はキャスタ付き医療用ベッドであり、前記複数のメカナムホイールは、それぞれ、前記医療用ベッドの下面に取り付けられる、としてもよい。
【0016】
前記第4の態様によると、搬送補助装置を医療用ベッドの下面に取り付けたことで、例えば、医療用ベッドの前端部に取り付けた場合と比較して、搬送補助装置および医療用ベッドの全長を抑えることができる。これにより、搬送補助装置を都度着脱せずとも、エレベータ、手術室等、種々の空間へと医療用ベッドを搬入することができるようになる。これにより、搬送補助装置の使い勝手を向上させる上で有利になる。
【0017】
また、本開示の第5の態様によれば、前記第1センサは、前記医療用ベッドのフレームおよび前記複数のメカナムホイールの間に生じる歪みを検出する歪みゲージ式のフォースセンサによって構成される、としてもよい。
【0018】
また、本開示の第6の態様によれば、前記複数のメカナムホイールは、前記医療用ベッドの短手方向に沿って並んだ2つのメカナムホイールによって構成される、としてもよい。
【0019】
また、本開示の第7の態様は、前記第4から第6の態様のうちのいずれか1つに係る搬送補助装置が取り付けられた医療用ベッドに係る。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本開示によれば、ベッド等の対象物の搬送を補助する搬送補助装置において、そのコンパクト化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】搬送補助装置および医療用ベッドの全体構成を例示する側面図である。
図2】搬送補助装置および医療用ベッドの全体構成を例示する底面図である。
図3】搬送補助装置の構成を例示する横断面図である。
図4図3の要部を拡大して例示する図である。
図5】搬送補助装置の構成を例示する側面図である。
図6】搬送補助装置の制御系の構成を例示するブロック図である。
図7】メカナムホイールの構成について説明するための図である。
図8】メカナムホイールの動作について説明するための図である。
図9】搬送補助装置によるアシストについて説明するための図である。
図10】搬送補助装置によるアシストについて説明するための図である。
図11】制御装置による処理の具体例を示すフローチャートである。
図12】歪み量とアシストを行うタイミングとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は搬送補助装置1および医療用ベッド100の全体構成を例示する側面図であり、図2は搬送補助装置1および医療用ベッド100の全体構成を例示する底面図である。
【0024】
また、図3は搬送補助装置1の構成を例示する横断面図であり、図4図3の要部を拡大して例示する図である。そして、図5は、搬送補助装置1の構成を例示する側面図である。
【0025】
図1および図2に示すように、本実施形態に係る搬送補助装置1は、対象物としてのキャスタ付き医療用ベッド(以下、単に「ベッド」と呼称する)100の下面に取り付けられており、このベッド100の搬送を補助するように構成される。
【0026】
ベッド100は、図1に示すように、マットレス等が載置されるベッド本体101と、ベッド本体101を下方から支持するフレーム102と、フレーム102に対してベッド本体101を昇降させる昇降具103と、フレーム102の四隅に設けられた4つのキャスタ104と、を備える。
【0027】
ここで、フレーム102は、矩形枠状に構成されており、左右方向に沿って延びかつベッド100の前側に配置される前フレーム102Fと、前後方向に沿って延びかつベッド100の右側に配置される右フレーム102Rと、前後方向に沿って延びかつベッド100の左側に配置される左フレーム102Lと、左右方向に沿って延びかつベッド100の後側に配置される後フレーム102Bと、を有する。
【0028】
搬送補助装置1は、前述のように構成されるフレーム102において、右フレーム102Rの前後方向中央部と、左フレーム102Lの前後方向中央部と、を架け渡すように配置される。
【0029】
本実施形態に係る搬送補助装置1は、取付板3を介してベッド100の下面に取り付けられる複数のモータ付メカナムホイール2と、ベッド100に加わる力を検出する第1センサとしてのX軸フォースセンサSw1およびY軸フォースセンサSw2と、ベッド100の角速度を検出する第2センサとしてのジャイロセンサSw3と、制御装置4と、バッテリ5と、を備える。なお、ここでいう「X軸」とは、左右方向に沿って延びかつ上下方向に直交する軸を指し、そのX軸に沿った方向を以下の記載では「X方向」と呼称する。同様に、ここでいう「Y軸」とは、前後方向に沿って延びかつ上下方向に直交する軸を指し、そのY軸に沿った方向を以下の記載では「Y方向」と呼称する。
【0030】
搬送補助装置1を構成する各モータ付メカナムホイール2、制御装置4、バッテリ5、X軸フォースセンサSw1、Y軸フォースセンサSw2およびジャイロセンサSw3は、いずれも取付板3に組み付けられており、この取付板3を介してベッド100の下面に後付けすることができる。
【0031】
取付板3は、右フレーム102Rと左フレーム102Lとを架け渡すように構成された取付板本体30と、取付板本体30の下面に接続された第1板部31と、第1板部31の下面に接続された第2板部32と、第2板部32の下面に接続された第3板部33と、を有する。
【0032】
取付板本体30は、左右方向に沿って延びる矩形板状に構成されており、その両端部に右フレーム102Rと左フレーム102Lとが締結されている。具体的に、取付板本体30の右端部は、右方に向かって開口した断面凹字状に形成されており、右フレーム102Rの前後方向中央部が締結されている。一方、取付板本体30の左端部は、左方に向かって開口した断面凹字状に形成されており、左フレーム102Lの前後方向中央部が締結されている。
【0033】
第1板部31は、矩形板状に構成されており、取付板本体30の下面の左右方向中央部に取り付けられている。第2板部32は、第1板部31と略同じ寸法を有する板状に構成されており、第1板部31の下面に配置されている。第3板部33は、第1板部31および第2板部32と略同じ寸法を有する板状に構成されており、第2板部32の下面に配置されている。図4および図5に示すように、第1板部31および第2板部32の左側部にはX軸フォースセンサSw1が取り付けられている一方、第2板部32および第3板部33の前部にはY軸フォースセンサSw2が取り付けられている。
【0034】
なお、第1板部31と第2板部32は、X方向にスライド可能な2列の第1リニアガイド34,34によって連結されている。第1板部31および第2板部32の相対位置は、X軸フォースセンサSw1の剛性によって保持されている。これにより、X軸フォースセンサSw1には、X方向の力のみが作用することになる。
【0035】
同様に、第2板部32と第3板部33は、Y方向にスライド可能な2列の第2リニアガイド35,35によって連結されている。第2板部32および第3板部33の相対位置は、Y軸フォースセンサSw2の剛性によって保持されている。これにより、Y軸フォースセンサSw2には、Y方向の力のみが作用することになる。
【0036】
また、第3板部33の下面には、左右一対のサスペンション7,7が取り付けられている。サスペンション7,7は、それぞれ上下方向に伸縮するように構成されている。サスペンション7,7の上端部は第3板部33に取り付けられる一方、サスペンション7,7の下端部にはブラケット6が取り付けられている。
【0037】
ブラケット6は、左右方向に延びる矩形板状に構成されており、その右端部に設けられたフランジ部61には、複数のモータ付メカナムホイール2のうち、後述の第1のモータ付メカナムホイール2Rが取り付けられる一方、その左端部に設けられたフランジ部61には、後述の第2のモータ付メカナムホイール2Lが取り付けられる。
【0038】
サスペンション7,7が上下方向に伸縮することで、モータ付メカナムホイール2を床面200に向けて付勢することができる。この付勢によって、モータ付メカナムホイール2を床面200に常時押し付けることができる。
【0039】
以下、モータ付メカナムホイール2の構成、および、搬送補助装置1によるモータ付メカナムホイール2を用いた制御について、詳細に説明する。
【0040】
図6は、搬送補助装置1の制御系の構成を例示するブロック図である。また、図7は、メカナムホイール21R,21Lの構成について説明するための図であり、図8は、メカナムホイール21R,21Lの動作について説明するための図である。そして、図9および図10は、搬送補助装置1によるアシストについて説明するための図である。
【0041】
複数のモータ付メカナムホイール2は、複数のメカナムホイール21R,21Lと、複数のメカナムホイール21R,21Lの各々に取り付けられ、各メカナムホイール21R,21Lを駆動するモータ22R,22Lと、を有する。
【0042】
このうち、複数のメカナムホイール21R,21Lは、ベッド100の短手方向(図例では、左右方向)に沿って並んだ2つのメカナムホイール21R,21Lによって構成される。なお、2つのメカナムホイール21R,21Lは、ベッド100の長手方向(図例では、前後方向)に沿って並ぶように配置してもよいし、短手方向および長手方向の双方に傾斜した斜め方向に沿って並ぶように配置してもよい。
【0043】
具体的に、複数のモータ付メカナムホイール2のうち、右側に位置する第1のモータ付メカナムホイール2Rは、メカナムホイール21Rと、このメカナムホイール21Rを駆動するモータ22Rと、を有する(モータ22Rは、図6にのみ図示)。
【0044】
同様に、複数のモータ付メカナムホイール2のうち、左側に位置する第2のモータ付メカナムホイール2Lは、メカナムホイール21Lと、このメカナムホイール21Lを駆動するモータ22Lと、を有する(モータ22Lは、図6にのみ図示)。
【0045】
各メカナムホイール21R,21Lは、図7に示すように、ホイール本体の円周上に、そのホイール本体の中心に対して45°傾けた複数の樽型ローラを取り付けてなる。
【0046】
2つのメカナムホイール21R,21Lは、図8に示すように、前後方向に沿って延びる鏡映面に対し、樽型ローラが互いに鏡映対称となるように配置される(樽型ローラの傾斜方向が互いに反対方向となるように配置される)。ここで、図8に示すように上方から見た場合、各樽型ローラの傾斜方向は、前後方向に沿って後側から前側に向かうに従って、左右方向の内側から外側(左右方向の中央部から右側または左側)へ向かって延びている。なお、各樽型ローラの傾斜方向は、図8等に示す例には限定されない。
【0047】
ここで、2つのメカナムホイール21R,21Lを双方とも前転するように駆動させると、ベッド100の前進をアシストすることができる。同様に、2つのメカナムホイール21R,21Lを双方とも後転するように駆動すると、ベッド100の後退をアシストすることができる(図示省略)。
【0048】
また、2つのメカナムホイール21R,21Lのうちの一方を前転するように駆動させ、他方を後転するように駆動させると、ベッド100の横移動(左右方向に沿った移動)をアシストすることができる。
【0049】
また、2つのメカナムホイール21R,21Lのうちの一方のみを前転または後転するように駆動させると、ベッド100の斜め移動をアシストすることができる。この斜め移動は、ベッド100に設けられた4つのキャスタ104のうちのいずれかを支点とした旋回(図例では、右後輪のキャスタ104を支点とした旋回)をアシストすることもできる。その際、前述のように各樽型ローラの傾斜方向を設定することで、右後輪のキャスタ104を支点とした旋回をアシストする際には左側のメカナムホイール21Lが駆動される一方、左後輪のキャスタ104を支点とした旋回をアシストする際には右側のメカナムホイール21Rが駆動されることになる。このように、旋回のアシストの際には支点の外側のメカナムホイール21R,21Lを駆動するように構成することで、実際の作業感覚に近いアシストを実現することができる。
【0050】
なお、2つのメカナムホイール21R,21Lは、対応するモータ22R,22Lを駆動していない場合も前転および後転が許容される。これにより、ベッド100を押し運ぶ際のふらつきを抑制し、ベッド100の搬送を安定させることができる。
【0051】
モータ22R,22Lによるメカナムホイール21R,21Lの駆動は、第1センサの検出信号を通じて制御することができる。本実施形態に係る搬送補助装置1は、そうした第1センサとして、歪みゲージ式のフォースセンサによって構成されたX軸フォースセンサSw1およびY軸フォースセンサSw2を備えている。
【0052】
X軸フォースセンサSw1は、第1板部31と第2板部32との間に生じたX方向(左右方向)における歪みを検出する。第1板部31は、取付板本体30を介してフレーム102と接続されている。一方、第2板部32は、第3板部33、サスペンション7およびブラケット6を介して各メカナムホイール21R,21Lと接続されている。よって、X軸フォースセンサSw1は、取付板本体30、第3板部33、サスペンション7およびブラケット6を介して、フレーム102と2つのメカナムホイール21R,21Lとの間に生じたX方向の歪みを検出することができる。X軸フォースセンサSw1の検出信号は、制御装置4に入力される。
【0053】
Y軸フォースセンサSw2は、第2板部32と第3板部33との間に生じたY方向(前後方向)における歪みを検出する。第2板部32は、第1板部31および取付板本体30を介してフレーム102と接続されている。一方、第3板部33は、サスペンション7およびブラケット6を介して各メカナムホイール21R,21Lと接続されている。よって、Y軸フォースセンサSw2は、フレーム102と2つのメカナムホイール21R,21Lとの間に生じたY方向の歪みを検出することができる。Y軸フォースセンサSw2の検出信号は、制御装置4に入力される。
【0054】
モータ22R,22Lによるメカナムホイール21R,21Lの駆動は、第2センサの検出信号を通じて制御することもできる。本実施形態に係る搬送補助装置1は、そうした第2センサとして、さらにジャイロセンサSw3を備えている。このジャイロセンサSw3は、予め設定した任意の箇所(例えばベッド100の場合、前側の先端部)における角速度を検出し、その検出信号を制御装置4に入力する。
【0055】
搬送補助装置1はまた、メカナムホイール21R,21L各々の回転を検出する回転センサSw4を有する(図6にのみ図示)。回転センサSw4は、例えば、モータ22R,22L各々に設けられたホール素子センサとすることができる。回転センサSw4の検出信号は、制御装置4に入力される。
【0056】
制御装置4は、取付板3の下面に取り付けられている。この制御装置4は、図2および図3に示すように、左右方向において第2のモータ付メカナムホイール2Lと左フレーム102Lとの間に配置されている。
【0057】
制御装置4は、CPUと、メモリと、入出力バスと、を備えている。この制御装置4は、X軸フォースセンサSw1、Y軸フォースセンサSw2、ジャイロセンサSw3および回転センサSw4と電気的に接続されており、これらのセンサの検出信号に基づいて各モータ22R,22Lを個別に制御することができる。
【0058】
詳しくは、本実施形態に係る制御装置4は、X軸フォースセンサSw1およびY軸フォースセンサSw2の検出信号に基づいて、ベッド100が力を受ける方向(ベッド100の進行方向)に沿って該ベッド100を推進させるように、各モータ22R,22Lを介して2つのメカナムホイール21R,21Lを駆動する。
【0059】
ここで、前述のように歪みゲージ式のセンサを用いた場合、制御装置4は、以下のようにして2つのメカナムホイール21R,21Lを駆動することができる。例えば、図9に示すように、4つのキャスタ104のうちの左後輪に対して斜め前方向F1へと力F0が加わった場合、その力F0は、キャスタ104から、フレーム102、取付板3、サスペンション7、ブラケット6を介してメカナムホイール21R,21Lに伝達される。そのため、ベッド100に力F0を加えることでベッド100が移動を開始すると、メカナムホイール21R,21Lは、ベッド100の移動によって回り始める。ベッド100に力F0を加えた際、フレーム102とメカナムホイール21R,21Lとの間には歪みStが生じることになる。
【0060】
そうして生じた歪みStの方向は、ベッド100が力を受ける方向F1を反転させた方向に相当する。そのため、歪みStの方向を算出することで、ベッド100が力を受ける方向F1を取得することができる。また、ベッド100に加わった力F0が大きくなるほど、ベッド100を押す早さが大きくなり、それに起因して生じる歪みStも大きくなると考えられる。したがって、歪みStの大きさを取得することで、ベッド100を押す早さを推定することができる。
【0061】
具体的に、制御装置4は、X軸フォースセンサSw1の検出信号に基づいてX方向に生じた歪みSxを取得するとともに、Y軸フォースセンサSw2の検出信号に基づいてY方向に生じた歪みSyを取得する。制御装置4は、2つの歪みSx,Syの合成ベクトルを算出することで、XY方向全体で見た歪みStの方向と大きさを算出する。
【0062】
そして、制御装置4は、算出された歪みStを相殺するように、2つのメカナムホイール21R,21Lをそれぞれ個別に駆動する。前述したように、歪みStの方向は、ベッド100が力を受ける方向(ベッド100の進行方向)F1を反転させた方向に等しいため、歪みStを相殺するように2つのメカナムホイール21R,21Lを駆動することは、ベッド100が力を受ける方向F1に沿ってベッド100を推進させることに等しい。
【0063】
また、制御装置4は、歪みStの大きさに基づいて、2つのメカナムホイール21R,21Lそれぞれの回転速度(モータ22R,22Lの回転速度)を決定することができる。ここで、制御装置4は、ベッド100を押す早さが大きい場合、すなわち歪みStが大きい場合には、それらが小さい場合よりもモータ22R,22Lの回転速度を高速に設定する。制御装置4は、歪みStの大きさに応じて各モータ22R,22Lの回転速度を決定し、決定された回転速度を実現するように各モータ22R,22Lを駆動する。
【0064】
また、制御装置4は、2つのメカナムホイール21R,21Lのうちの少なくとも一方の回転を検知した後に、ベッド100が力を受ける方向F1に沿って該ベッド100を推進させるように各モータ22R,22Lを介して2つのメカナムホイール21R,21Lを駆動する。2つのメカナムホイール21R,21Lが回転しているか否かの判定は、回転センサSw4の検出信号に基づいて制御装置4が実行する。制御装置4は、X軸フォースセンサSw1およびY軸フォースセンサSw2の検出信号に基づいて2つのメカナムホイール21R,21Lのうちの少なくとも一方の回転が検知されたことを受けて、各モータ22R,22Lの駆動を開始する。
【0065】
また、制御装置4は、ジャイロセンサSw3の検出信号に基づいて、ベッド100の旋回を補助するように、各モータ22R,22Lを介して2つのメカナムホイール21R,21Lを駆動する。
【0066】
例えば、図10に示すように、ベッド100の後側部分に力F3を加えることで、その前端部Pcを支点としてベッド100を旋回させる場合を考える。この場合、ジャイロセンサSw3を任意の場所に取り付け、予め設定したベッドの支点(図例では前端部Pc)と、2つのメカナムホイール21R,21Lの各中央部Pr,Plと、の間の旋回半径を制御装置4に事前に記憶させておく。ベッド100を旋回させると、各中央部Pr,Plは、それぞれ、座標Pr’,Pl’に移動することになる。
【0067】
制御装置4は、ジャイロセンサSw3の検出信号と、事前に記憶された旋回半径と、に基づいて、各中央部Pr,Plにおける旋回途中の回転角度θと、旋回速度を算出する。回転角度θの正負は、旋回方向に相当する。よって、回転角度θを算出することは、ベッド100の旋回方向を取得することに等しい。制御装置4は、取得された旋回方向に沿ってベッド100が回転するように、各モータ22R,22Lを駆動する。
【0068】
また一般に、ベッド100の前端部Pcと、2つのメカナムホイール21R,21Lの各中央部Pr,Plとの間で、回転角度θは共通になるが、旋回速度は相違し得る。制御装置4は、各中央部Pr,Plにおける旋回速度に応じたモータ22R,22Lの回転速度を決定し、決定された回転速度を実現するように各モータ22R,22Lを駆動する。
【0069】
バッテリ5は、取付板3の下面に取り付けられている。このバッテリ5は、図2および図3に示すように、左右方向において、第1のモータ付メカナムホイール2Rと右フレーム102Rとの間に配置されている。2つのモータ付メカナムホイール2は、左右方向において制御装置4とバッテリ5との間に配置されることになる。バッテリ5は、制御装置4、モータ22R,22L等、搬送補助装置1の各部に電力を供給する。
【0070】
以下、制御装置4による処理の具体例を、図11および図12を参照して説明する。図11は、制御装置4による処理の具体例を示すフローチャートである。図12は歪み量とアシストを行うタイミングとの関係を示すグラフである。
【0071】
ここで、図12の時間t0においてベッド100に力が加わり、その力によってベッド100が動き出したものとする。この場合、ベッド100の動き出しとほぼ同時に搬送補助装置1に力が加わるが、メカナムホイール21R,21Lの回転軸等、機械的要素に生じる静止摩擦力によって、メカナムホイール21R,21Lは直ちに回転しない。この場合、メカナムホイール21R,21Lはその場に留まろうとするため、フレーム102と、メカナムホイール21R,21Lの取付部(第3板部33)との間に生じる歪みStは、時間が進むにしたがって直線的に大きくなる(時間t0から時間t1にかけての期間を参照)。この歪みStの大きさは、X軸フォースセンサSw1およびY軸フォースセンサSw2の検出信号に反映されることになる。
【0072】
そして、メカナムホイール21R,21Lに加わる力が前述の静止摩擦力を上回ったタイミング(図12の時間t1を参照)で、メカナムホイール21R,21Lが回転を開始する。メカナムホイール21R,21Lが回転を開始すると、該メカナムホイール21R,21Lに作用する摩擦力は静止摩擦力から動摩擦力に変化する。一般に、動摩擦力は静止摩擦力よりも小さいため、歪みStは減少する(時間t1から時間t2にかけての期間を参照)。時間t1から時間t2までの期間は、メカナムホイール21R,21Lが回転を開始してから、モータ22R,22Lを駆動するまでの一瞬のタイムラグを示す。
【0073】
この場合、まず、図11のステップS1において、制御装置4は、X軸フォースセンサSw1、Y軸フォースセンサSw2およびジャイロセンサSw3の検出信号を読み込む。
【0074】
続くステップS2において、制御装置4は、回転センサSw4の検出信号に基づいて、2つのメカナムホイール21R,21Lのうちの少なくとも一方が回転しているか否かを判定する。この判定がNOの場合は、制御装置4は制御プロセスをステップS1に戻し、YESの場合は、制御プロセスをステップS3に進める。
【0075】
続くステップS3において、制御装置4は、X軸フォースセンサSw1およびY軸フォースセンサSw2の検出信号に基づいて、フレーム102と各メカナムホイール21R,21Lの間に生じる歪みの方向および大きさを算出する。この算出を行う代わりに、ベッド100に加わる力の方向および大きさを直に算出してもよい。
【0076】
続くステップS4において、制御装置4は、ジャイロセンサSw3の検出信号に基づいて、対象物としてのベッド100の旋回方向および旋回速度を算出する。この算出は、前述のように事前に記憶された旋回半径を参照して行われる。
【0077】
続くステップS5において、制御装置4は、各メカナムホイール21R,21Lの駆動速度(対応するモータ22R,22Lの回転速度)を決定する。この決定は、ステップS3で算出された歪みの大きさ、および、ステップS4で算出されたベッド100の旋回速度等に基づいて行うことができる。例えば、ベッド100を押す速度が低く、それに伴って生じた歪み量が小さい場合(図12のグラフG1を参照)は、各メカナムホイール21R,21Lの駆動速度を相対的に低く設定する一方、ベッド100を速度が速く、それに伴って生じた歪み量が大きい場合(図12のグラフG2を参照)は、各メカナムホイール21R,21Lの駆動速度を相対的に高く設定する。
【0078】
図12の例では、時間t1で静摩擦から動摩擦に変わって、メカナムホイール21R,21Lの回転が検知され、ステップS5から続くステップS6において、制御装置4は、時間t1から時間t2にかけての期間内におけるいずれかのタイミングでモータ22R,22Lに制御信号を入力し、各メカナムホイール21R,21Lを駆動させる。その後、図12の時間t2においてアシストが開始されると、フレーム102と各メカナムホイール21R,21Lの間に生じた歪みが相殺される。これにより、図12の時間t2以降に示すように、歪み量の大きさは、ゼロに向かって減少することになる。図12のグラフG2のように、各メカナムホイール21R,21Lの駆動速度が相対的に高く設定された場合は、図12のグラフG1のように相対的に低く設定された場合に比して、歪み量は急速に減少することになる。図12に示すように、ベッド100に加わる力、ひいてはメカナムホイール21R、21Lの駆動速度の高低にかかわらず、ベッド100に力が加わってからモータ22R,22Lによるアシストが開始されるまでのタイムラグは同じになる。
【0079】
以上説明したように、本実施形態に係る搬送補助装置1は、図8および図9に示したように、従来知られた車軸および駆動輪の代わりに、メカナムホイール21R,21Lによってベッド100の搬送を補助する。これにより、医療用ベッドのような重量の嵩むベッド100であっても、1人で搬送することができるようになる。
【0080】
また、X軸フォースセンサSw1およびY軸フォースセンサSw2の検出信号に基づいてモータ22R,22Lを自動的に駆動するように構成することで、搬送を補助するための特別な操作が不要となる。これにより、搬送補助装置1の使い勝手を向上させることができる。
【0081】
また、図8に示したように、メカナムホイール21R,21Lを旋回させなくとも、各メカナムホイール21R,21Lを前転させたり後転させたりするだけで、横移動、旋回等を実現することができる。そのため、メカナムホイール21R,21Lが旋回するスペースが不要となる分、従来よりもコンパクトに構成することができるようになる。
【0082】
また仮に、メカナムホイール21R,21Lが回転していない状態でそのメカナムホイール21R,21Lを駆動してしまうと、搬送補助装置1およびベッド100は、実質的に自走することになる。このことは、ベッド100の搬送を補助する上で望ましくない。
【0083】
これに対し、本実施形態に係る制御装置4は、図11に示したように、メカナムホイール21R、21Lの回転を検知した後に、メカナムホイール21R,21Lの駆動を開始する。これにより、搬送補助装置1の自走を抑制し、同装置1の使い勝手を向上させることができる。
【0084】
また、本実施形態に係る制御装置4は、図10に示したように、ベッド100の移動に加え、その旋回を補助することもできる。これにより、搬送補助装置1の使い勝手を向上させることができる。
【0085】
また、図1図4に示したように、搬送補助装置1をベッド100の下面に取り付けたことで、例えば、ベッド100の前端部に取り付けた場合と比較して、搬送補助装置1およびベッド100の前後方向における全長を抑えることができる。これにより、搬送補助装置1を都度着脱せずとも、エレベータ、手術室等、種々の空間へとベッド100を搬入することができるようになる。これにより、搬送補助装置1の使い勝手を向上させる上で有利になる。
【0086】
《他の実施形態》
前記実施形態では、対象物としてベッド100が例示されていたが、搬送補助装置1を取付可能な対象物は、ベッド100には限定されない。本開示に係る搬送補助装置1は、例えば台車に取り付けてもよい。
【0087】
また、前記実施形態では、ベッド100に加わる力を検出するための第1センサとして、歪みゲージ式のX軸フォースセンサSw1およびY軸フォースセンサSw2が例示されていたが、それらの例示には限定されない。第1センサとして加速度センサを用いてもよいし、圧電式の力センサを用いてもよい。
【符号の説明】
【0088】
1 搬送補助装置
2 モータ付メカナムホイール
21R メカナムホイール
21L メカナムホイール
22R モータ
22L モータ
4 制御装置
100 ベッド(医療用ベッド,対象物)
102 フレーム
104 キャスタ
Sw1 X軸フォースセンサ(第1センサ)
Sw2 Y軸フォースセンサ(第1センサ)
Sw3 ジャイロセンサ(第2センサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12