(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】スタンドの位置検出装置
(51)【国際特許分類】
B62H 1/02 20060101AFI20241011BHJP
B62J 45/42 20200101ALI20241011BHJP
【FI】
B62H1/02 B
B62J45/42
(21)【出願番号】P 2021097286
(22)【出願日】2021-06-10
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 恭造
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123451(WO,A1)
【文献】実開昭63-125219(JP,U)
【文献】特開2020-111779(JP,A)
【文献】特開平02-011923(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0252041(US,A1)
【文献】中国実用新案第203681708(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62H 1/00 - 1/14
B62J 45/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に固定されるケース部材と、前記ケース部材に配置されスタンドの回動に伴って回動するロータと、前記ロータの回動に伴って回動する磁気発生部材と、前記磁気発生部材が発する磁気を検知可能な磁気センサと、を備え、前記磁気センサが検知した磁気の変化から前記スタンドの位置を判断するスタンドの位置検出装置において、
前記ケース部材および前記ロータは、前記ロータの回転軸に交差する方向における、前記ケース部材と前記ロータとの対向面に、それぞれ凹状に形成された収納溝を有し、収納溝内に転動体が配置された転がり軸受け構造を有するスタンドの位置検出装置。
【請求項2】
前記転動体の表面がエラストマー製である、請求項1に記載のスタンドの位置検出装置。
【請求項3】
前記転動体が3個である、請求項1または2に記載のスタンドの位置検出装置。
【請求項4】
前記収納溝は、前記転動体の移動を規制する規制部材を、前記ロータの前記回転軸の周方向に備えている、請求項1に記載のスタンドの位置検出装置。
【請求項5】
前記転動体が4個以上である、請求項1に記載のスタンドの位置検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車等の車両に設けられたメインスタンドやサイドスタンドバーの位置を検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車に装着されたサイドスタンドのサイドスタンドバーは、停止時には起立位置に下ろされて自動二輪車を支え、走行時には収納位置に収納されて走行に支障のない状態で保持される。自動二輪車では、起立位置のままで走行したことを原因とする事故が発生している。このような事故が発生しないように、スタンドの位置を用いてエンジンを制御することが知られており、エンジン制御に関係するスタンドの位置検出には、高い信頼性が要求される。
【0003】
例えば、特許文献1には、移動部材の外周面との間にラビリンスシールとなる間隔を形成する内周面を有するケース部材を備えたスタンドの位置検出装置が記載されている。同文献の位置検出装置は、ケース部材と移動部材との間にあったシール部材を廃止し、ラビリンスシールを設けることで耐塵性・防水性を確保している。これによりシール部材があったスペースを活用できるため、外形サイズを大きくすることなく、太く折れにくい樹脂製の係合ピンを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の位置検出装置では、ラビリンスシールの途中まで水や塵埃が侵入することがある。このため、冬の季節などの低温環境下では、ラビリンスシールに浸入した水の凍結により、移動部材とケース部材とが固着されることがある。両者が強く固着された状態でサイドスタンドバーを無理に動かすと、サイドスタンドバーの回動に伴うロータの回動によって位置検出装置が破損する虞があった。
【0006】
本発明の目的は、低温環境下における水の凍結によって、移動部材とケース部材とが強く固着されることがなく、サイドスタンドの位置を変更する際に破損する虞が少ないスタンドの位置検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上述した課題を解決するための手段として、以下の構成を備えている。
車両に固定されるケース部材と、前記ケース部材に配置されスタンドの回動に伴って回動するロータと、前記ロータの回動に伴って回動する磁気発生部材と、前記磁気発生部材が発する磁気を検知可能な磁気センサと、を備え、前記磁気センサが検知した磁気の変化から前記スタンドの位置を判断するスタンドの位置検出装置において、前記ケース部材および前記ロータは、前記ロータの回転軸に交差する方向における、前記ケース部材と前記ロータとの対向面に、それぞれ凹状に形成された収納溝を有し、収納溝内に転動体が配置された転がり軸受け構造を有するスタンドの位置検出装置。
転がり軸受け構造によって、ロータの回転軸への揺動および回転軸方向のがたつきを抑えるとともに、低温環境下における水の凍結によりケース部材とロータとが強く固着されることを防止できる。
【0008】
前記転動体の表面がエラストマー製であることが好ましい。この構成によって、塵埃が収納溝に入り込んだ場合でも、転動体が変形して塵埃を噛まずに乗り越えることができるため、転がり軸受け構造の動作に支障が生じない。また、転動体の表面に付着した水が凍結した場合でも、ロータの回動に伴う転動体の回転により収納溝との固着が容易に解かれるため、位置検出装置の破損を防止できる。
【0009】
前記転動体は、例えば、3個であってもよい。3点でロータを支持する構造により、ロータの回転軸の傾きを抑え、ロータの回転面が回転軸に対して直交する水平な状態を安定に維持できる。また、少ない転動体からなる簡素な構造になるため、コスト面においても有利である。
【0010】
前記収納溝は、前記転動体の移動を規制する規制部材を、前記ロータの前記回転軸の周方向に備えていてもよい。規制部材を設けることにより、転動体の移動によるロータの回転軸の傾きを抑えることができる。規制部材は収納溝に複数設けられていてもよく、この場合には複数の規制部材が収納溝において等間隔で設けられていることが好ましい場合がある。
【0011】
前記転動体は、4個以上であってもよい。4点以上でロータを支持する構造により、転動体の相対的な位置が変化したときでも、ロータの回転軸の傾きを抑えて、ロータの回転面が回転軸に対して直交した水平な状態を安定に維持できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、転がり軸受け構造により、低温環境下における水の凍結によって、ケース部材とロータとが強く固着されることを防止できる。このため、車体に固定されたケース部材に固着されたロータがサイドスタンドと共に回動して、位置検出装置の破損原因となることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図3】(a)(b)サイドスタンドスイッチの部分断面図
【
図4】(a)(b)サイドスタンドスイッチの変形例の部分断面図
【
図5】(a)(b)サイドスタンドスイッチの他の変形例の部分断面図
【
図6】(a)(b)サイドスタンドスイッチの他の変形例の部分断面図
【
図7】(a)(b)サイドスタンドスイッチの他の変形例の部分断面図
【
図8】(a)(b)従来のサイドスタンドスイッチの部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
スタンドの位置検出装置(サイドスタンド装置)として、本発明を実施する形態について、図面を参照して説明する。同じ部材については、各図面において同じ部材番号を付して、適宜、説明を省略する。以下では、サイドスタンドについて説明するが、メインスタンドとして本発明を実施することもできる。
【0015】
図1および
図2を参照して、自動二輪車を駐車時に起立状態に支持するサイドスタンド装置1の全体構成について説明する。
図1は、本実施の形態に係るサイドスタンド装置1の斜視図であり、
図2は分解斜視図である。
【0016】
サイドスタンド装置1は、図示しない車体フレーム(車両)に設けられたブラケット2と、所定範囲内で回動可能な状態でピボットボルト4を介してブラケット2に取り付けられたサイドスタンドバー3とを備えている。サイドスタンドバー3の位置は、固定ボルト6を介してピボットボルト4に設けられたサイドスタンドスイッチ(位置検出装置)5によって検出される。
【0017】
ブラケット2は、板状部11と、板状部11を厚み方向に貫通して固定された貫通ピン12とを有している。板状部11には、サイドスタンドバー3の取り付け位置において、厚み方向に貫通する軸孔13が形成されている。貫通ピン12の一端側は、サイドスタンドスイッチ5を位置決めする位置決めピンとして機能する。貫通ピン12の他端側は、図示しないリターンスプリングに係止される係止ピンとして機能する。
【0018】
サイドスタンドバー3は、ピボットボルト4によりブラケット2に取り付けられており、ピボットボルト4を中心として、起立位置と収納位置との間を回動可能に構成されている。サイドスタンドバー3は、起立位置においてその先端が地面に接し、収納位置において地面に対して略水平となる。サイドスタンドバー3の基端側は、板状部11を挟み込むように二股に形成された一対の連結部15、16が設けられている。この一対の連結部15、16を貫通する軸孔17、18が形成されている。一方の連結部15の軸孔17の近傍には、サイドスタンドスイッチ5のロータ32に係合される係合孔19が貫通形成されている。
【0019】
ピボットボルト4は、一対の連結部15、16にブラケット2を挟み込んだ状態で、一対の連結部15、16の軸孔17、18およびブラケット2の軸孔13に挿通される。この場合、ピボットボルト4の中間部23は、一方の連結部15の軸孔17およびブラケット2の軸孔13に挿通され、先端側のネジ部24は、他方の連結部16の軸孔18に挿通されて一部が外部に露出される。
【0020】
ピボットボルト4は、この露出されたネジ部24に固定ナット7が螺合され、固定ナット7が締め付けられることにより一対の連結部15、16に固定される。これにより、サイドスタンドバー3は、ピボットボルト4と一体となってブラケット2に対して回動される。また、ピボットボルト4の頭部21には、固定ボルト6が螺合されるネジ穴22が形成されている。
【0021】
サイドスタンドスイッチ5は、後述する挟持部34で貫通ピン12の一端側を挟み込んだ状態で、固定ボルト6によりピボットボルト4の頭部21に取り付けられる。サイドスタンドスイッチ5のケース部材31には、挟持部34およびカプラ部35が形成されている。サイドスタンドスイッチ5は、挟持部34で貫通ピン12の一端側を挟み込むことにより位置決めされる。サイドスタンドバー3の位置に応じた信号がカプラ部35から出力される。
【0022】
固定ボルト6は、サイドスタンドスイッチ5を挿通してピボットボルト4のネジ穴22に螺合された状態で締め付けられることで、サイドスタンドスイッチ5をピボットボルト4に固定する。固定ボルト6は、頭部に円形のフランジ部27を有し、このフランジ部27により飛び石などからサイドスタンド装置1を保護している。
【0023】
図8(a)および
図8(b)を参照して、従来のサイドスタンドスイッチ105について説明する。
図8(a)は
図8(b)におけるBB断面を、
図8(b)は
図8(a)におけるAA断面を示している。このことは、
図3(a)、
図3(b)~
図7(a)、
図7(b)でも同じである。
【0024】
サイドスタンドスイッチ105では、ケース部材131の内周面とロータ132の外周面との間に形成された狭い間隔Dがラビリンスシールとなり、その内部への異物混入を防いでいる。しかし、ラビリンスシールの途中まで水が侵入した場合、狭い間隔Dにおけるケース部材131とロータ132との両方に水が接した状態となる。このため、気温の低い冬季にラビリンスシールに侵入した水が凍結することにより、ケース部材131とロータ132とが固着されることがある。この状態でサイドスタンドバー3を無理に回動させた場合、いわゆる凍結時の無理回しによる破損が生じる虞があった。すなわち、サイドスタンドバー3に伴ってロータ132が回動する際に、ロータ132と固着したケース部材131等に大きな力が加わって、サイドスタンドスイッチ105が壊れる虞があった。
【0025】
そこで、本発明のサイドスタンドスイッチ5は、気温の低い冬季に水が凍結することによってケース部材31とロータ32とが強く固着されることがなく、固着を容易に解くための構成を備えている。
図3~
図7を参照して、サイドスタンドスイッチ5の構成について、以下に説明する。
【0026】
図3(a)および
図3(b)は、本発明のサイドスタンド装置1の備えるサイドスタンドスイッチ5の部分断面図である。
サイドスタンドスイッチ5は、ケース部材31と、ロータ32と、磁気発生部材36と、磁気センサ37と、を備えている。自動二輪車で走行する場合、運転者によりサイドスタンドバー3が押し上げられ、ピボットボルト4を支点として起立位置から収納位置に回動(移動)する。サイドスタンドバー3の位置に応じて、磁気センサ37によって検知される磁気発生部材36からの磁気が変化する。この磁気の変化に基づいて、サイドスタンドスイッチ5は、サイドスタンドバー3(
図1、
図2参照)の位置を判断し、位置を示す信号をカプラ部35から出力する。出力された信号は、例えば、図示しないECU(Engine Control Unit)等によるエンジン制御等に用いられる。
【0027】
ケース部材31は、合成樹脂等で成形されており、車両に固定されるステータとして機能し、固定ボルト6によって固定され、貫通ピン12(
図1、
図2参照)により回転規制される。このため、ケース部材31は、サイドスタンドバー3と共に回動しない。
【0028】
ロータ32は、ケース部材31の内側に配置され、固定ボルト6のフランジ部27によってピボットボルト4の頭部を中心として回動可能に取り付けられている。ロータ32は、その一部がサイドスタンドバー3の連結部15に設けられた係合孔19と係合し、サイドスタンドバー3と共に回動する(
図1、
図2参照)。
【0029】
ケース部材31は、ロータ32の回転軸(Y軸)に交差する方向における、ロータ32と対向する面に、凹状に形成された収納溝38を有している。また、ロータ32もその回転軸に交差する方向における、ケース部材31との対向面に、凹状に形成された収納溝39を有している。収納溝38、39は、断面(XY面の切断面)形状が、略V型断面、コの字型断面、半円型断面などになるように形成される。収納溝38が転がり軸受け構造の外輪として機能し、収納溝39が転がり軸受け構造の内輪として機能する。
【0030】
図3(a)に示すように、ケース部材31は収納溝38において分割可能な、本体31aとリング状のボール押さえ部31bからなる2つの部品からなる構造とすることが好ましい。ケース部材31とロータ32との間にボール(転動体)40を装填してから、リング状のボール押さえ部31bと本体31aとを接着や接合して固定することで、転がり軸受け構造(ベアリング)が構成される。そして、
図3(b)に示すように。各ボール40は、回転方向の位置が120度になる様に、すなわちロータ32の回転中心Oとボール40の中心とを結んだ直線により形成される中心角X1、X2およびX3がそれぞれ120度となるように配置される。なお、使用することにより中心角X1、X2およびX3が120度から多少変動したとしても良い。
【0031】
磁気発生部材36は、例えば、プラスチックマグネットなどにより構成され、ロータ32に取り付けられている。ロータ32に設けられた磁気発生部材36もサイドスタンドバー3の回動によってロータ32と共に回動する。
【0032】
磁気発生部材36の回動は、ケース部材31に設けられた磁気センサ37によって検出される。サイドスタンドバー3が起立位置のときと収納位置のときとで、磁気センサ37によって検出される磁気発生部材36の磁気が変化する。したがって、サイドスタンドスイッチ5は、磁気センサ37によりサイドスタンドバー3の位置を検出できる。例えば、磁気センサ37に対面する磁気発生部材36の極性がサイドスタンドバー3の位置に応じて変化する構成とした場合、磁気センサ37は磁気の極性の変化を検出する。
【0033】
サイドスタンドスイッチ5は磁気検知式の装置であるため、電気的な接続箇所がケース部材31とロータ32との隙間から離れて設けられている。このため、ケース部材31とロータ32との間に多少の塵埃や水などの液体が入ったとしても、サイドスタンドバー3の位置の検出に致命的な問題が生じる虞は非常に低い。そこで、サイドスタンドスイッチ5は、ラビリンスシール(
図8(a)参照)に代えて、ケース部材31とロータ32との間に転がり軸受け構造を設けている。
【0034】
ケース部材31とロータ32との間に、収納溝38、39で挟まれた空間に3個のボール40が配置された、転がり軸受け構造(ベアリング)を設けることによって、以下の効果が得られる。
収納溝38、39の断面(XY面の切断面)を見たときの断面形状を略V型断面に構成することで、ケース部材31とロータ32との相対的な位置のずれ、およびロータ32の回転軸(回転中心O)の揺動が規制できる。
【0035】
なお、先行技術文献に係る特許文献1に記載のサイドスタンドスイッチでは、それ以前のサイドスタンドスイッチにおいてシール部材が設けられていたスペースを活用し、外形サイズを大きくすることなく、太く折れにくい樹脂製の係合ピンを実現している。本実施形態のサイドスタンドスイッチ5では、転がり軸受構造が特許文献1以前のサイドスタンドスイッチで用いられていたシール部材と同等のスペースを占めることとなる。しかしながら、転がり軸受構造を構成する隣り合うボール40の間は空きスペースとなっている。このため、このスペースに係合ピンを配置すれば、先行技術文献のサイドスタンドスイッチと同様の太く折れにくい樹脂製の係合ピンを実現でき、製品の外形サイズも先行技術文献のサイドスタンドスイッチと同等の大きさに収めることができる。また、本実施形態の転がり軸受機構はシール部材に比べて安価に構成することができ、コストも先行技術文献のサイドスタンドスイッチと同等に抑えることができる。
【0036】
サイドスタンドスイッチ5の機能・性能の観点から、ケース部材31とロータ32との相対位置が微変動することは問題ではない。また、サイドスタンドバー3は足で操作されるため、転がり軸受け構造の回転の円滑性に対する要求は手動の回転型入力装置などに比べて高くない。そこで、転がり軸受け構造を構成するボール40は、金属からなる剛球ではなく、弾力を備えたエラストマーを用いることが好ましい。
【0037】
弾性を有するエラストマー製のボール40を用いることで、収納溝38、39内に塵埃が浸入しても、ボール40が変形して塵埃を乗り越えることができる。このため、塵埃の侵入によって、サイドスタンドスイッチ5の動作に問題が生じることを防止できる。エラストマーとしては、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ブチルゴム、エチレンプロピルゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴム、天然ゴムなどが挙げられる。柔らかすぎると脱輪が生じる可能性あるため、ある程度の硬さを備えたエラストマーが好ましい。例えば、弾性率(ヤング率)が5~10MPa程度のエラストマーが好ましい。また、耐光性の観点から、天然ゴム(NR)やブタジエンゴム(BR)などが好ましい。
【0038】
ケース部材31とロータ32との間に転がり軸受け構造を設けることで、両者の間への水の侵入を抑えることができる。サイドスタンドスイッチ5が二輪車に取り付けられた場合には、
図3(a)に示すY方向が水平方向となる。したがって、収納溝38の一部が上下(鉛直)方向の底の部分となり、収納溝38に水をためることができる。よって、収納溝38、39を設けることで、収納溝38、39内に水が浸入することがあっても、収納溝38の一部にたまった水の凍結によってケース部材31とロータ32とが強く固着されることはない。また、ケース部材31とロータ32との隙間は収納溝38における上下方向の底となる部分より高い位置にあるため、水は浸入しにくくなる。これにより、気温が低い冬季において、ケース部材31とロータ32との間に侵入した水が凍結して両者を強く固着することを防止できる。収納溝38、39に侵入した水を収納溝38の一部にためて、ケース部材31とロータ32との隙間に水が侵入することを抑える観点から、収納溝38、39における幅Wは、1.0mm以上が好ましく、3.0mm以上がより好ましい。収納溝38、39の幅Wは、
図3bに示すXZ平面での切断面における、対向するケース部材31とロータ32との距離である。Y軸における位置によって距離が異なる場合、最大となる距離を収納溝38、39の幅Wとする。
【0039】
転がり軸受け構造においては、ボール40の表面と収納溝38、39との間に水が付着して凍結する可能性がある。しかし、水が凍結する部分はボール40の数に対応した3か所のみであって固着力が小さいことから、転がり軸受け構造が回転する際に、水の凍結によるボール40と収納溝38、39との固着を解くことができる。
【0040】
ボール40としては、難着氷性のあるエラストマーからなるものが好ましい。これにより、ボール40の表面に付着した水が凍結して、ボール40を介してケース部材31とロータ32とが固着することが抑えられる。したがって、水の凍結によりケース部材31とロータ32とが固着した状態での無理回しによる、サイドスタンドスイッチ5の破損の発生が抑えられる。
【0041】
また、ボール40は成形金型によって作られるが、成形金型が分割される個所の付近にはパーティングラインとよばれる段差やバリなどができることがある。ボール40をエラストマーで形成することで、パーティングラインが収納溝38、39の面に接触したとしても、柔軟性があるため回動が阻害されることはない。このため、安価な成形金型が使用可能であるという点でも優れている。
【0042】
なお、本実施形態の説明ではエラストマー製のボール40を用いる構成を示したが、剛体のボール40を用いて、ボール40を保持する保持部材をエラストマー製にすることで同様の効果を得ることは可能である。しかしながら、剛体のボール40を用いた場合、ケース部材31側およびロータ32の収納溝38、39に加えて、新たにエラストマー製の保持部材を設ける必要がある。保持部材の追加は、サイドスタンド装置1の外形の大型化、構造の複雑化を招く。また、追加する保持部材のスペースを確保するためケース部材31およびロータ32が薄くなり、強度低下を招く。したがって、構成部品が増えることにより、小型化またはメカ的な強度のいずれかが犠牲になりやすい。
【0043】
逆に、サイドスタンド装置1は、二輪車の操縦者の足にぶつかり難くし、転倒したときに路面に衝突しにくくする観点から、小型・低背であることが求められる。また、転倒、跳ね石の衝突、外部環境(暑さ、寒さ、日光など)により破損しないメカ的な強度も求められる。
【0044】
対して、エラストマー製のボール40を用いた場合、サイドスタンド装置1の転がり軸受け構造は、ボール40の材質が変わるだけで、一般的な転がり軸受け構造と大きく変わらない。そのため、サイドスタンド装置1に対する、小型化およびメカ的な強度の要求を容易に充足することができる。また、前述の通り、コスト面でのメリットもある。
このようにサイドスタンド装置においては、ボール40をエラストマー製にすることにより大きなメリットを得ることができる。
【0045】
図4(a)および
図4(b)は、サイドスタンドスイッチ5の変形例を示す部分断面図である。同図に示すように、ボール40の個数を4個以上としてもよい。ボール40の個数を多くすることにより、ボール40の片寄りによって生じるロータ32の回転中心Oのずれを抑制できる。
【0046】
ボール40は3個あれば、転がり軸受け構造の回転面が決定される。しかし、何らかの理由により作動中に、ボール40の位置に片寄りが発生することがある。このような場合、ロータ32の回転中心Oが所定の位置からがずれてしまう虞がある。
そこで、ボール40が片寄った場合に回転中心Oが所定の位置からずれることを防止するために、
図4(a)、
図4(b)に示す変形例では、ボール40を6個配置している。
【0047】
また、
図4(a)、
図4(b)に示す変形例では、ボール40が剛体部40aとエラストマー部40bとで構成されている。金属などからなる剛体部40aの表面をエラストマー部40bで覆うことにより、塵芥などを噛まないようにボール40の表面を柔らかくしつつ、過大な力が加えられたときの変形を抑えることができる。したがって、転がり軸受け構造の堅牢性が向上する。
【0048】
図5(a)および
図5(b)は、サイドスタンドスイッチ5の他の変形例の部分断面図である。これらの図に示すサイドスタンドスイッチ5は、ボール40がそれぞれ、移動制限機構41の隔室42に1個ずつ配置されている。このようにロータ32の回転軸の周方向に等間隔に備えられた隔室42がボール40の移動を規制する規制部材となる。これにより、ボール40の数を少なく維持したままで、使用に伴ってボール40の位置に偏りが生じることを防止できる。このため、ボール40の個数を最小限にしながら、ロータ32の回転面を安定に維持することができる。
【0049】
移動制限機構41は、複数のボール40の相対的な位置関係を維持するための、ケース部材31およびロータ32とは別の部材である。移動制限機構41は、ケース部材31およびロータ32の一方または双方に対して摺動可能に構成されている。
図5(a)および
図5(b)には、ケース部材31およびロータ32とは別の部材として、移動制限機構41を備えた態様を示した。しかし、複数のボール40の相対的な位置関係を維持するための機構はこれに限られない、たとえば、ケース部材31の収納溝38およびロータ32の収納溝39の一方または双方に、ボール40の移動を制限する突起部を設けてもよい。
【0050】
ボール40を3個とする場合、ロータ32の回転中心Oとボール40の中心とを結んだ直線により形成される3つの中心角X1、X2、X3がいずれも120°になるように、ボール40を配置する。そして、ロータ32の回転に伴って遊星的な動きをするボール40が周動する軌道の範囲を示す周動角θが以下の式(1)を満たすように移動制限機構41を設ける。
ケース部材31の内径の寸法をDs、ロータ32の外径の寸法をDrとし、サイドスタンドバー3(
図1、
図2参照)の起立位置と収納位置との間でロータ32が回転(回動)する回転角をφとすると、ボール40が摺動する範囲を示す周動角θは、次の式(1)によって表される。
θ=(Dr/Ds)・φ ・・・(1)
この摺動角θを中心角とするように、隔室42は設けられる。
【0051】
図6(a)および
図6(b)は、サイドスタンドスイッチ5の他の変形例の部分断面図である。当該変形例に係るサイドスタンドスイッチ5は、回転軸構造の回転子として、ボール40の代わりに円柱状のローラー(転動体)50を備えている。このため、
図6(a)に示すように、ケース部材31およびロータ32には、ローラー50に対応するコ字型の断面形状を備えた収納溝58および59が設けられている。
【0052】
図7(a)および
図7(b)は、サイドスタンドスイッチ5の他の変形例の部分断面図である。当該変形例に係るサイドスタンドスイッチ5は、回転軸構造の回転子として、ボール40に代えて無限軌道(管)状の回転部材(転動体)60を備えている。このため、
図7(a)に示すように、ケース部材31およびロータ32には、回転部材60に対応する断面形状を備えた収納溝58および59が形成されている。
【0053】
回転部材60は、収納溝58および59との接触面積が大きいので、ロータ32の回転に伴う、相対位置のずれが少なくなる。なお、回転部材60はラジアル方向(X軸方向およびZ軸方向)に動きやすい。しかし、サイドスタンドスイッチ5にはロータ32の回転方向の力が加わるのみである。ラジアル方向(X軸方向、Z軸方向)およびスラスト方向(Y軸方向)へは、大きな荷重が加わらないため無限軌道状の回転部材60を用いても問題ない。無限軌道状の回転部材60がラジアル方向に移動する距離は、ケース部材31とロータ32との間隙の寸法である収納溝58、59の幅Wを適度に小さくすることにより抑制できる。
【0054】
図7(a)および
図7(b)の変形例に係るサイドスタンドスイッチ5は、固定ボルト6およびフランジ部27を覆うキャップ71と、ケース部材31のボール押さえ部31bを覆うスカート72を備えている。キャップ71によりフランジ部27の周辺からの砂塵の侵入を抑制し、スカート72によりケース部材31と連結部15との間からの砂塵の侵入を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
以上説明したように、本発明は、自動二輪車等の二輪車を支持するサイドスタンドバーの回動位置を検出するサイドスタンド装置として有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 :サイドスタンド装置(スタンドの位置検出装置)
2 :ブラケット
3 :サイドスタンドバー(サイドスタンド)
4 :ピボットボルト
5、105:サイドスタンドスイッチ
6 :固定ボルト
7 :固定ナット
11 :板状部
12 :貫通ピン
13 :軸孔
15、16:連結部
17、18:軸孔
19 :係合孔
21 :頭部
22 :ネジ穴
23 :中間部
24 :ネジ部
27 :フランジ部
31、131:ケース部材
31a :本体(ケース部材)
31b :ボール押さえ部(ケース部材)
32、132:ロータ
34 :挟持部
35 :カプラ部
36 :磁気発生部材
37 :磁気センサ
38、39、58、59:収納溝
40 :ボール(転動体)
40a :剛体部
40b :エラストマー部
41 :移動制限機構
42 :隔室(規制部材)
50 :ローラー(転動体)
60 :回転部材(転動体)
71 :キャップ
72 :スカート
D :間隔
W :収納溝の幅
O :回転中心
X1、X2、X3:中心角
θ :ボールの周動角
φ :ロータの回転角