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特許7570327電源装置とこの電源装置を備える電動車両及び蓄電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】電源装置とこの電源装置を備える電動車両及び蓄電装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/293 20210101AFI20241011BHJP
   H01M 50/249 20210101ALI20241011BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20241011BHJP
   H01M 10/625 20140101ALI20241011BHJP
   H01M 10/6555 20140101ALI20241011BHJP
   H01M 10/653 20140101ALI20241011BHJP
   H01M 10/613 20140101ALI20241011BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20241011BHJP
   H01M 50/209 20210101ALI20241011BHJP
   H01M 50/264 20210101ALI20241011BHJP
【FI】
H01M50/293
H01M50/249
H01M10/44 P
H01M10/625
H01M10/6555
H01M10/653
H01M10/613
H01M10/658
H01M50/209
H01M50/264
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021528224
(86)(22)【出願日】2020-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2020023443
(87)【国際公開番号】W WO2020262079
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019122219
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003225
【氏名又は名称】弁理士法人豊栖特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古上 奈央
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏行
【審査官】今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-206605(JP,A)
【文献】国際公開第2019/123903(WO,A1)
【文献】特開2018-204708(JP,A)
【文献】特開2011-023302(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061894(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0193685(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20 - 50/298
H01M 10/42 - 10/48
H01M 10/52 - 10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電池セルをセパレータを挟んで厚さ方向に積層してなる電池ブロックと、
前記電池ブロックの両端面に配置してなる一対のエンドプレートと、
前記一対のエンドプレートに連結されて、前記エンドプレートを介して前記電池ブロックを加圧状態に固定してなるバインドバーとを備える電源装置であって、
前記セパレータが、
前記電池セルの膨張を吸収する粘弾性の弾性シートと、
前記弾性シートの両面に積層してなる断熱シートとからなる3層構造で、
前記断熱シートが、
無機粉末と繊維強化材とのハイブリッド素材であり、
前記電池セルが、
上端開口部を封口板で閉塞してなる電池ケースを備え、
前記セパレータは、
隣接する前記電池セル間の前記電池ケースの上端部に挟着されてなる封口部領域を除く本体領域に前記弾性シートを配置してなることを特徴とする電源装置。
【請求項2】
請求項1に記載される電源装置であって、
前記断熱シートが、
シリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッド素材であることを特徴とする電源装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載される電源装置であって、
前記弾性シートが合成ゴムシート、熱可塑性エラストマー、発泡材から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする電源装置。
【請求項4】
請求項3に記載される電源装置であって、
前記弾性シートが、
耐熱限界温度を100℃以上とする合成ゴムであることを特徴とする電源装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載される電源装置であって、
前記弾性シートが、
フッ素ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプロンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ホリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコンゴム、熱可塑性オレフィンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブチルゴム、ポリエーテルゴムの何れかであることを特徴とする電源装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載される電源装置であって、
前記弾性シートの厚さが、
0.2mm以上であって2.0mm以下であることを特徴とする電源装置。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれかに記載される電源装置であって、
前記断熱シートが、
前記弾性シートよりも厚いことを特徴とする電源装置。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載される電源装置であって、
前記セパレータの厚さが、1mm以上であって3mm以下であることを特徴とする電源装置。
【請求項9】
請求項1ないしのいずれかに記載の電源装置を備える電動車両であって、
前記電源装置と、
該電源装置から電力供給される走行用のモータと、
前記電源装置及び前記モータを搭載してなる車両本体と、
前記モータで駆動されて前記車両本体を走行させる車輪と
を備えることを特徴とする電動車両。
【請求項10】
請求項1ないしのいずれかに記載の電源装置を備える蓄電装置であって、
前記電源装置と、
該電源装置への充放電を制御する電源コントローラと
を備え、
前記電源コントローラでもって、外部からの電力により前記池セルへの充電を可能とすると共に、該池セルに対し充電を行うよう制御することを特徴とする蓄電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の電池セルを積層している電源装置と、この電源装置を備える電動車両及び蓄電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多数の電池セルを積層している電源装置は、電動車両に搭載されて車両を走行させるモータに電力を供給する電源、太陽電池等の自然エネルギーや深夜電力で充電される電源、停電のバックアップ電源に適している。この構造の電源装置は、積層している電池セルの間にセパレータを挟着している。多数の電池セルをセパレータを挟んで積層している電源装置は、電池セルの膨張による位置ずれを阻止するために、積層した電池セルを加圧状態に固定している。このことを実現するために、電源装置は、多数の電池セルを積層している電池ブロックの両端面には一対のエンドプレートを配置して、一対のエンドプレートをバインドバーで連結している。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-204708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電源装置は、複数の電池セルを積層して電池ブロックとし、電池ブロックの両端面に一対のエンドプレートを配置して、両端面から相当に強い圧力で加圧状態に保持してバインドバーで連結している。電源装置は、電池セルを強く加圧する状態で固定して電池セルの相対移動や振動による誤動作を防止している。この電源装置は、たとえば、積層面の面積を約100cmとする電池セルを使用する装置において、エンドプレートを数トンもの強い力で押圧してバインドバーで固定している。この構造の電源装置は、隣接して積層される電池セルをセパレータで絶縁するために、セパレータには硬質プラスチックの板材が使用される。硬質プラスチックのセパレータは、電池セルの内圧が上昇して膨張する状態で、電池セルの膨張を吸収できず、この状態で電池セルとセパレータとの面圧が急激に高くなって、エンドプレートやバインドバーに極めて強い力が作用する。このため、エンドプレートとバインドバーには、極めて強靭な材質と形状が要求されて、電源装置が重く、大きく、材料コストが高くなる弊害がある。
【0005】
電源装置は、電池セルの圧力で押し潰される弾性シートをセパレータに使用して、内圧上昇で電池セルが膨張する状態で、エンドプレートやバインドバーに作用する強大な応力を低減できる。とくに、弾性シートのセパレータに、ゴム状弾性シートを使用してセパレータを電池セルの積層面に面接触状態に密着して、電池セルの膨張を好ましい状態で吸収できる。しかしながら、ゴム状弾性シートは、電池セルで異常な高温に加熱されると劣化して、大切な物性である粘弾性が低下する欠点がある。
【0006】
本発明は、以上の欠点を解消することを目的に開発されたもので、本発明の目的の一は、電池セルの膨張をセパレータで吸収でき、さらに電池セルに加熱される状態でのセパレータの劣化を抑制できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様に係る電源装置は、複数の電池セル1をセパレータ2を挟んで厚さ方向に積層してなる電池ブロック10と、電池ブロック10の両端面に配置してなる一対のエンドプレート3と、一対のエンドプレート3に連結されて、エンドプレート3を介して電池ブロック10を加圧状態に固定してなるバインドバー4とを備えている。セパレータ2は、電池セル1の膨張を吸収する粘弾性の弾性シート6と、弾性シートの両面に積層してなる断熱シート5とからなる3層構造で、断熱シート5を無機粉末と繊維強化材とのハイブリッド素材5Aとしている。電池セル1は、上端開口部を封口板12で閉塞してなる電池ケース11を備える。セパレータ2は、隣接する電池セル1間の電池ケース11の上端部に挟着されてなる封口部領域2aを除く本体領域2bに弾性シート6を配置している。
【0008】
本発明のある態様に係る電動車両は、上記電源装置100と、電源装置100から電力供給される走行用のモータ93と、電源装置100及びモータ93を搭載してなる車両本体91と、モータ93で駆動されて車両本体91を走行させる車輪97とを備えている。
【0009】
本発明のある態様に係る蓄電装置は、上記電源装置100と、電源装置100への充放電を制御する電源コントローラ88と備えて、電源コントローラ88でもって、外部からの電力により池セル1への充電を可能とすると共に、池セル1に対し充電を行うよう制御している。
【発明の効果】
【0010】
以上の電源装置は、電池セルの膨張をセパレータで吸収でき、さらに電池セルに加熱される状態でのセパレータの劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る電源装置の斜視図である。
図2図1に示す電源装置の垂直断面図である。
図3図1に示す電源装置の水平断面図である。
図4】セパレータと電池セルの積層状態を示す拡大断面図である。
図5】セパレータの他の一例を示す拡大断面図である。
図6】エンジンとモータで走行するハイブリッド車に電源装置を搭載する例を示すブロック図である。
図7】モータのみで走行する電気自動車に電源装置を搭載する例を示すブロック図である。
図8】蓄電用の電源装置に適用する例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明では、必要に応じて特定の方向や位置を示す用語(例えば、「上」、「下」、及びそれらの用語を含む別の用語)を用いるが、それらの用語の使用は図面を参照した発明の理解を容易にするためであって、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が制限されるものではない。また、複数の図面に表れる同一符号の部分は同一もしくは同等の部分又は部材を示す。
さらに以下に示す実施形態は、本発明の技術思想の具体例を示すものであって、本発明を以下に限定するものではない。また、以下に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、特定的な記載がない限り、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図したものである。また、一の実施の形態、実施例において説明する内容は、他の実施の形態、実施例にも適用可能である。また、図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張していることがある。
【0013】
本発明の第1の実施形態の電源装置は、複数の電池セルをセパレータを挟んで厚さ方向に積層してなる電池ブロックと、電池ブロックの両端面に配置してなる一対のエンドプレートと、一対のエンドプレートに連結されて、エンドプレートを介して電池ブロックを加圧状態に固定してなるバインドバーとを備える電源装置であって、セパレータが、電池セルの膨張を吸収する粘弾性の弾性シートと、弾性シートの両面に積層してなる断熱シートとからなる3層構造で、断熱シートを無機粉末と繊維強化材とのハイブリッド素材としている。
【0014】
以上の電源装置は、弾性シートの表面に、無機粉末と繊維強化材とのハイブリッド素材からなる断熱シートを積層しているので、電池セルの膨張を弾性シートで吸収しながら、弾性シートの熱による障害をハイブリッド素材で防止する。このため、電池セルの内圧が上昇して膨張する状態で、電池セルとセパレータとの面圧が高くなるのを抑制できる。さらに、内圧が上昇して膨張する電池セルが高温に発熱する状態において、弾性シートを電池セルの発熱から保護する。したがって、高温に温度上昇した電池セルが弾性シートを加熱して劣化させる弊害を防止する。電池セルは、内圧が上昇して膨張する状態では発熱して高温になる。ハイブリッド素材は、無機粉末で断熱特性を実現するので耐熱温度が高く、電池セルが高温に発熱する状態で、電池セルの熱エネルギを効果的に遮断して、弾性シートを保護する。したがって、セパレータは、内圧上昇で電池セルが膨張する状態で弾性を失うことなく、電池セルの膨張を安定して吸収する。
【0015】
さらにまた、以上の電源装置は、セパレータの弾性シートで、電池セルの膨張による面圧の上昇を抑制するので、電池セルが膨張して、エンドプレートやバインドバーに過大な応力が作用するのを防止できる。最大応力を減少できるエンドプレートとバインドバーは、薄くして軽量化できる。また、電池セルの間のセパレータで電池セルの膨張を吸収する電源装置は、電池セルが膨張して相対位置がずれるのも抑制できる。このことは、電池セルの電気接続部の弊害も防止できる。積層された電池セルは、金属板のバスバーを電極端子に固定して電気接続しているが、電池セルが相対的に位置ずれすると、バスバーと電極端子に無理な応力が作用して故障の原因となるからである。
【0016】
本発明の第2の実施形態の電源装置は、断熱シートを、シリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッド素材としている。
【0017】
以上の電源装置は、弾性シートの表面に積層している断熱シートを、シリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッド素材とするので、優れた断熱特性の断熱シートでもって、電池セル間の熱伝導を効果的に断熱して、電池セルの熱暴走の誘発を抑制する。電池セルの熱暴走は、正極と負極が内部で短絡して発生する内部ショートや誤った取り扱い等で発生する。電池セルが熱暴走すると大量の熱を発生するので、セパレータの断熱性が充分でないと、隣接する電池セルに熱暴走を誘発する。電池セルの熱暴走が誘発すると、電源装置全体は極めて大きな熱エネルギーを放出して装置としての安全性を阻害する。シリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッド素材は、シリカエアロゲルを繊維シートの隙間に充填したもので、極めて高い空隙率によって熱伝導率を0.02W/m・Kと優れた断熱特性を実現する。
【0018】
さらにまた、シリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッド素材は、極めて優れた断熱特性を示すが、強い圧縮応力でシリカエアロゲルが破壊されると断熱特性が低下する欠点があるが、ハイブリッド素材を弾性シートに積層しているので、電池セルの膨張は弾性シートに吸収されて、シリカエアロゲルの破壊による断熱特性の低下も抑制できる。優れた断熱特性を維持するハイブリッド素材は、弾性シートを電池セルの発熱から保護しながら、電池セルの熱暴走の誘発をも阻止して、電源装置の安全性を長期間にわたって保障する。
【0019】
本発明の第3の実施形態の電源装置は、弾性シートを合成ゴムシート、熱可塑性エラストマー、発泡材から選ばれる少なくとも一つとしている。さらに、本発明の第4の実施形態の電源装置は、弾性シートを、耐熱限界温度を100℃以上とする合成ゴムとしている。
【0020】
本発明の第5の実施形態の電源装置は、弾性シートを、フッ素ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプロンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ホリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、熱可塑性オレフィンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブチルゴム、ポリエーテルゴムの何れかとしている。
【0021】
本発明の第6の実施形態の電源装置は、弾性シートの厚さを、0.2mm以上であって2.0mm以下としている。
【0022】
本発明の第7の実施形態の電源装置は、断熱シートを、弾性シートよりも厚くしている。
【0023】
本発明の第8の実施形態の電源装置は、セパレータの厚さを、1mm以上であって3mm以下としている。
【0024】
本発明の第9の実施形態の電源装置は、電池セルが、上端開口部を封口板で閉塞してなる電池ケースを備え、セパレータが、隣接する電池セル間の電池ケースの上端部に挟着されてなる封口部領域を除く本体領域に弾性シートを配置している。
【0025】
(実施の形態1)
以下、さらに具体的な電源装置と電動車両を詳述する。
図1の斜視図と図2の垂直断面図と図3の水平断面図に示す電源装置100は、複数の電池セル1をセパレータ2を挟んで厚さ方向に積層している電池ブロック10と、電池ブロック10の両端面に配置している一対のエンドプレート3と、一対のエンドプレート3を連結してエンドプレート3を介して電池ブロック10を加圧状態に固定しているバインドバー4とを備える。
【0026】
(電池ブロック10)
電池ブロック10の電池セル1は、外形を四角形とする角形電池セルで、図4に示すように、底を閉塞している電池ケース11の上端開口部に封口板12をレーザー溶接して気密に固定して、内部を密閉構造としている。封口板12は、図1に示すように、上面の両端部に正負一対の電極端子13を上方向に突出して設けている。電極端子13の間には安全弁14の開口部15を設けている。安全弁14は、電池セル1の内圧が所定値以上に上昇した際に開弁して、内部のガスを放出する。安全弁14は、電池セル1の内圧上昇を防止する。
【0027】
(電池セル1)
電池セル1は、リチウムイオン二次電池である。電池セル1をリチウムイオン二次電池とする電源装置100は、容量と重量に対する充電容量を大きくできる特長がある。ただし、電池セル1は、リチウムイオン二次電池以外の非水系電解液二次電池等、他の充電できる全ての電池とすることができる。
【0028】
(エンドプレート3、バインドバー4)
エンドプレート3は、電池ブロック10に押圧されて変形しない、電池セル1の外形にほぼ等しい外形の金属板で、両側縁にバインドバー4を連結している。バインドバー4は、エンドプレート3が積層している電池セル1を加圧状態で連結して、電池ブロック10を所定の圧力で加圧状態に固定している。
【0029】
(セパレータ2)
セパレータ2は、積層している電池セル1の間に挟まれて、内圧上昇による電池セルの膨張を吸収し、さらに隣接する電池セル1を絶縁し、さらにまた電池セル1間における熱伝導を遮断する。電池ブロック10は、隣接する電池セル1の電極端子13に金属板のバスバー(図示せず)を固定して、電池セル1を直列又は並列に接続している。直列に接続される電池セル1は、電池ケース11に電位差が発生するので、セパレータ2で絶縁して積層する。並列に接続される電池セル1は、電池ケース11に電位差は発生しないが、熱暴走の誘発を防止するために、セパレータ2で断熱して積層する。
【0030】
セパレータ2は、図4の拡大断面図に示すように、内圧上昇による電池セル1の膨張を吸収する弾性のある弾性シート6と、この弾性シート6の両面に積層している断熱シート5とからなる3層構造である。弾性シート6は、内圧が上昇して膨張する電池セル1に加圧されて変形して、電池セル1の膨張を吸収する弾性に調整される。弾性シート6が電池セル1の膨張で変形する量は、材料の硬度で特定される。したがって、弾性シート6の硬度は、内圧上昇で膨張する電池セル1の変形量を考慮して最適値に設定される。弾性シート6の硬度は、電池セル1の圧力を考慮して最適値に設定されるが、常温において、好ましくは30度以上であって85度以下、さらに好ましくは40度以上であって85度以下とする。弾性シート6の硬度が低すぎると、電池セル1が膨張しない状態、電池セル1を積層してエンドプレート3で加圧状態に固定される状態で薄く押し潰され、反対に高すぎると内圧が上昇する電池セル1に加圧されての変形量が少なく、電池セル1の膨張を吸収できなくなる。したがって、弾性シート6の硬度は、電池セル1がセパレータ2を加圧する圧力を考慮して、内圧上昇による電池セル1の膨張を吸収できる最適値に設定される。
【0031】
弾性シート6は、粘性と弾性の両方の性質がある粘弾性のあるシートである。粘弾性は、物質に一定の歪みが与えられたときの応力緩和の緩和時間で判別され、緩和時間が観測の時間スケールに対して十分に短いと粘性、長ければ弾性体と扱われ、同等の時間であれば粘弾性と扱われるが、本明細書において「粘弾性」は粘性と弾性の両方の性質のある状態を意味するものであって、緩和時間を同等の時間とする状態に特定するものでない。粘弾性の弾性シート6は、合成ゴム、発泡材、熱可塑性エラストマーが適しており、さらに、耐熱限界温度を100℃以上とする合成ゴムが適している。
【0032】
弾性シート6は、たとえば、シリコンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプロンゴム、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、ホリイソブチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、熱可塑性オレフィンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、ブチルゴム、ポリエーテルゴムなどが使用できる。
【0033】
とくに、フッ素ゴムとシリコンゴムは、耐熱限界温度が230℃と相当に高く、高温の電池セルに加熱される状態で弾性を保持して、高温に発熱する電池セルの膨張を安定して吸収できる特徴がある。さらにアクリルゴムの耐熱限界温度は160℃、水素化ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴムの耐熱限界温度が140℃と100℃以上であるので、電池セルが高温に発熱する状態においても膨張を安定して吸収できる。
【0034】
断熱シート5は、電池セル1の積層面1Aと弾性シート6との間に挟まれて、発熱した電池セル1から弾性シート6への熱伝導を断熱する。熱伝導率の小さい断熱シート5は、高温の電池セル1に加熱される状態で弾性シート6の温度を低くできる。断熱シート5は、熱伝導率の小さい無機粉末と繊維強化材とのハイブリッド素材5Aである。最適な断熱シート5は、無機粉末をシリカエアロゲルとする、シリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッド素材5Aである。このハイブリッド素材5Aは、繊維シートの隙間にシリカエアロゲルを配置している。
【0035】
シリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッド素材5Aは、繊維シートの繊維隙間に、ナノサイズの多孔質構造を有するシリカエアロゲルを充填している。ハイブリッド素材5Aは、シリカエアロゲルのゲル原料を、繊維に含浸して製造される。シリカエアロゲルを繊維シートに含浸した後、繊維を積層し、ゲル原料を反応させて湿潤ゲルを形成し、さらに湿潤ゲル表面を疎水化、熱風乾燥して製造される。繊維シートの繊維は、ポリエチレンテレフタレート(PET)である。ただ、繊維シートの繊維は、難燃処理を施した酸化アクリル繊維やグラスウールなどの無機繊維も使用できる。
【0036】
ハイブリッド素材5Aは、繊維シートの繊維径を、好ましくは0.1~30μmとする。繊維シートの繊維径を30μmより細くし、繊維による熱伝導を小さくして、断熱シート5の断熱特性を向上できる。シリカエアロゲルは、二酸化ケイ素(SiO)の骨格と、90%~98%の空気で構成された微粒子で、2nm~20nmの球状体が結合したクラスタ構造で、クラスタで形成される骨格間には100nm以下の微細孔があって、三次元的な微細な多孔性構造をしている。
【0037】
断熱シート5であるシリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッド素材5Aは、膨張する電池セル1の圧力で脆弱なシリカエアロゲルが圧縮されて破壊されると断熱特性が低下する特性がある。膨張する電池セル1に加圧されてシリカエアロゲルが破壊する弊害は、積層している弾性シート6が抑制する。弾性シート6は、電池セルの膨張を吸収して、電池セル1の膨張時におけるシリカエアロゲルの圧縮応力を低下して破壊を防止する。したがって、弾性シート6とハイブリッド素材5Aとの積層構造のセパレータ2は、ハイブリッド素材5Aの優れた断熱特性が弾性シート6の高温障害を防止し、また弾性シート6の粘弾性がシリカエアロゲルの破壊を防止する相乗効果を発揮して、内圧上昇による電池セル1の膨張を長期間にわたって吸収できる。
【0038】
シリカエアロゲルと繊維強化材とのハイブリッド素材5Aの断熱シート5は、薄くて優れた断熱特性を示す。断熱シート5は、弾性シート6の高温障害を防止することを考慮して、電池セル1が発熱する状態で、弾性シート6の温度が耐熱限界温度よりも低くなる厚さに設定される。したがって、断熱シート5の厚さは、温度上昇する電池セル1の最高温度と弾性シート6の耐熱限界温度とを考慮して最適値に設定され、たとえば、0.4mm~1.4mm、好ましくは、0.5mm~1.2mmとする。さらに、セパレータ2の両面に積層されるハイブリッド素材5Aの断熱シート5は、厚くして電池セル1の熱暴走の誘発を抑制できる。断熱シート5は、熱暴走して発熱するエネルギーを考慮して、電池セル1の熱暴走の誘発を阻止できる厚さに設定する。電池セル1が熱暴走して発熱するエネルギーは、電池セル1の充電容量が大きくなると大きくなる。ただし、本実施形態の電源装置は、断熱シート5の厚さを以上の範囲に特定するものでなく、断熱シート5の厚さは、繊維シートとシリカエアロゲルからなる熱暴走の断熱特性と、電池セル1の熱暴走の誘発を防止するために要求される断熱特性を考慮して最適値に設定される。
【0039】
セパレータ2は、各々の電池セル1の間に積層されるので、厚いセパレータ2は電池ブロック10を大きくする。電池ブロック10を小形化することから、セパレータ2はできる限り薄くすることが要求される。電源装置において、容積に対する充電容量は極めて大切な特性である。電源装置100は、電池ブロック10を小形化して充電容量を大きくするために、セパレータ2には、弾性シート6と断熱シート5を薄くして、電池セル1の熱暴走の誘発を阻止する特性が要求される。弾性シート6は、たとえば0.2mm以上であって1.0mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上であって0.8mm以下として、電池セル1の膨張による圧縮応力の増加を抑制する。さらに、弾性シート6は、好ましくは断熱シート5よりも薄くして、電池セル1の膨張時のシリカエアロゲルの圧縮応力を低下させる。
【0040】
図4のセパレータ2は、その外形を電池セル1の積層面1Aの外形とほぼ等しい四角形状としている。このセパレータ2は、3層に積層される弾性シート6と断熱シート5とを等しい外形としており、断熱シート5の全面に対向して弾性シート6を介在させている。ただ、セパレータ2は、必ずしも断熱シート5の全面に対向して弾性シート6を介在させる構造には限定しない。セパレータ2は、図5に示すように、隣接する電池セル1間の電池ケース11の上端部に挟着されてなる封口部領域2aを除く本体領域2bに弾性シート6を配置することもできる。このセパレータ2は、電池ケース11の上端開口部を閉塞してなる封口板12と対向する領域である封口部領域2aには、弾性シート6を介在させることなく、封口部領域2aを除く本体領域2bに弾性シート6を介在させている。このセパレータ2は、電池セル1が膨張する状態で、大きな圧縮応力を受ける領域に弾性シート6を配置することで電池セル1の膨張を弾性シート6で吸収しながら、電池セル1の封口板12に沿う領域においては、弾性シート6を配置しないことで、電池セル1の上端部の変形を抑制して上端部の損傷を防止できる。
【0041】
以上の電源装置100は、好ましくは全てのセパレータ2を、弾性シート6の両面に断熱シート5を積層する構造とするが、必ずしも全てのセパレータ2を、弾性シート6の両面に断熱シート5を積層する構造とする必要はない。電源装置は、全てのセパレータを断熱シートと弾性シートとの積層構造とする必要はなく、断熱シートのみのセパレータと、断熱シートと弾性シートの積層構造のセパレータとを混在して設けることもできる。
【0042】
弾性シート6と断熱シート5は、接着層や粘着層を介して接合して定位置に積層される。セパレータ2と電池セル1も接着層や粘着層を介して接合されて定位置に配置される。ただ、セパレータ2は、電池セル1を嵌合構造で定位置に配置する電池ホルダー(図示せず)の定位置に配置することもできる。
【0043】
以上の電源装置100は、電池セル1を、充電容量を6Ah~80Ahとする角形電池セルとし、セパレータ2の断熱シート5を、繊維シートとシリカエアロゲルからなる厚さが1mmである「パナソニック製のNASBIS(登録商標)」とし、2枚の断熱シート5の間に積層している弾性シート6を厚さが0.5mmのウレタンゴムシートとして、特定の電池セル1を強制的に熱暴走させて、隣接する電池セル1への熱暴走の誘発を防止できる。
【0044】
以上の電源装置は、電動車両を走行させるモータに電力を供給する車両用の電源として利用できる。電源装置を搭載する電動車両としては、エンジンとモータの両方で走行するハイブリッド自動車やプラグインハイブリッド自動車、あるいはモータのみで走行する電気自動車等の電動車両が利用でき、これらの車両の電源として使用される。なお、車両を駆動する電力を得るために、上述した電源装置を直列や並列に多数接続して、さらに必要な制御回路を付加した大容量、高出力の電源装置100を構築した例として説明する。
【0045】
(ハイブリッド車用電源装置)
図6は、エンジンとモータの両方で走行するハイブリッド自動車に電源装置を搭載する例を示す。この図に示す電源装置を搭載した車両HVは、車両本体91と、この車両本体91を走行させるエンジン96及び走行用のモータ93と、これらのエンジン96及び走行用のモータ93で駆動される車輪97と、モータ93に電力を供給する電源装置100と、電源装置100の電池を充電する発電機94とを備えている。電源装置100は、DC/ACインバータ95を介してモータ93と発電機94に接続している。車両HVは、電源装置100の電池を充放電しながらモータ93とエンジン96の両方で走行する。モータ93は、エンジン効率の悪い領域、例えば加速時や低速走行時に駆動されて車両を走行させる。モータ93は、電源装置100から電力が供給されて駆動する。発電機94は、エンジン96で駆動され、あるいは車両にブレーキをかけるときの回生制動で駆動されて、電源装置100の電池を充電する。なお、車両HVは、図6に示すように、電源装置100を充電するための充電プラグ98を備えてもよい。この充電プラグ98を外部電源と接続することで、電源装置100を充電できる。
【0046】
(電気自動車用電源装置)
また、図7は、モータのみで走行する電気自動車に電源装置を搭載する例を示す。この図に示す電源装置を搭載した車両EVは、車両本体91と、この車両本体91を走行させる走行用のモータ93と、このモータ93で駆動される車輪97と、このモータ93に電力を供給する電源装置100と、この電源装置100の電池を充電する発電機94とを備えている。電源装置100は、DC/ACインバータ95を介してモータ93と発電機94に接続している。モータ93は、電源装置100から電力が供給されて駆動する。発電機94は、車両EVを回生制動する時のエネルギーで駆動されて、電源装置100の電池を充電する。また車両EVは充電プラグ98を備えており、この充電プラグ98を外部電源と接続して電源装置100を充電できる。
【0047】
(蓄電装置用の電源装置)
さらに、本発明は、電源装置の用途を、車両を走行させるモータの電源には特定しない。実施形態に係る電源装置は、太陽光発電や風力発電等で発電された電力で電池を充電して蓄電する蓄電装置の電源として使用することもできる。図8は、電源装置100の電池を太陽電池82で充電して蓄電する蓄電装置を示す。
【0048】
図8に示す蓄電装置は、家屋や工場等の建物81の屋根や屋上等に配置された太陽電池82で発電される電力で電源装置100の電池を充電する。この蓄電装置は、太陽電池82を充電用電源として充電回路83で電源装置100の電池を充電した後、DC/ACインバータ85を介して負荷86に電力を供給する。このため、この蓄電装置は、充電モードと放電モードを備えている。図に示す蓄電装置は、DC/ACインバータ85と充電回路83を、それぞれ放電スイッチ87と充電スイッチ84を介して電源装置100と接続している。放電スイッチ87と充電スイッチ84のON/OFFは、蓄電装置の電源コントローラ88によって切り替えられる。充電モードにおいては、電源コントローラ88は充電スイッチ84をONに、放電スイッチ87をOFFに切り替えて、充電回路83から電源装置100への充電を許可する。また、充電が完了し満充電になると、あるいは所定値以上の容量が充電された状態で、電源コントローラ88は充電スイッチ84をOFFに、放電スイッチ87をONにして放電モードに切り替え、電源装置100から負荷86への放電を許可する。また、必要に応じて、充電スイッチ84をONに、放電スイッチ87をONにして、負荷86への電力供給と、電源装置100への充電を同時に行うこともできる。
【0049】
さらに、電源装置は、図示しないが、夜間の深夜電力を利用して電池を充電して蓄電する蓄電装置の電源として使用することもできる。深夜電力で充電される電源装置は、発電所の余剰電力である深夜電力で充電して、電力負荷の大きくなる昼間に電力を出力して、昼間のピーク電力を小さく制限することができる。さらに、電源装置は、太陽電池の出力と深夜電力の両方で充電する電源としても使用できる。この電源装置は、太陽電池で発電される電力と深夜電力の両方を有効に利用して、天候や消費電力を考慮しながら効率よく蓄電できる。
【0050】
以上のような蓄電装置は、コンピュータサーバのラックに搭載可能なバックアップ電源装置、携帯電話等の無線基地局用のバックアップ電源装置、家庭内用または工場用の蓄電用電源、街路灯の電源等、太陽電池と組み合わせた蓄電装置、信号機や道路用の交通表示器などのバックアップ電源用などの用途に好適に利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る電源装置は、ハイブリッド自動車、燃料電池自動車、電気自動車、電動オートバイ等の電動車両を駆動するモータの電源用等に使用される大電流用の電源として好適に利用できる。例えばEV走行モードとHEV走行モードとを切り替え可能なプラグイン式ハイブリッド電気自動車やハイブリッド式電気自動車、電気自動車等の電源装置が挙げられる。またコンピュータサーバのラックに搭載可能なバックアップ電源装置、携帯電話等の無線基地局用のバックアップ電源装置、家庭内用、工場用の蓄電用電源、街路灯の電源等、太陽電池と組み合わせた蓄電装置、信号機等のバックアップ電源用等の用途にも適宜利用できる。
【符号の説明】
【0052】
100…電源装置、1…電池セル、1A…積層面、2…セパレータ、2a…封口部領域、2b…本体領域、3…エンドプレート、4…バインドバー、5…断熱シート、5A…ハイブリッド素材、6…弾性シート、10…電池ブロック、11…電池ケース、12…封口板、13…電極端子、14…安全弁、15…開口部、81…建物、82…太陽電池、83…充電回路、84…充電スイッチ、85…DC/ACインバータ、86…負荷、87…放電スイッチ、88…電源コントローラ、91…車両本体、93…モータ、94…発電機、95…DC/ACインバータ、96…エンジン、97…車輪、98…充電プラグHV、EV…車両
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8