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▶ ウニヴェルズィテート・フューア・ボーデンクルトゥーア・ウィーンの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】Mut-メチロトローフ酵母
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/19 20060101AFI20241011BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20241011BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20241011BHJP
   C12N 15/53 20060101ALN20241011BHJP
   C12N 9/04 20060101ALN20241011BHJP
   C12N 15/81 20060101ALN20241011BHJP
【FI】
C12N1/19 ZNA
C12P21/02 C
C12P21/08
C12N15/53
C12N9/04
C12N15/81 Z
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2021558927
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-14
(86)【国際出願番号】 EP2020059284
(87)【国際公開番号】W WO2020201369
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2019/058190
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2019/058191
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507205623
【氏名又は名称】ウニヴェルズィテート・フューア・ボーデンクルトゥーア・ウィーン
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100187540
【弁理士】
【氏名又は名称】國枝 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】ザベック,ドーメン
(72)【発明者】
【氏名】ガッサー,ブリギッテ
(72)【発明者】
【氏名】マタノビッチ,ディートハルト
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/099462(WO,A2)
【文献】SINFG, Anamika and NARANG, Atul,bioRxiv,2019年03月11日,pp. 1-34,DOI: 10.1101/573519
【文献】SHEN, Wei et al.,Microbial Cell Factories,Vol. 15, Article No. 178,2016年10月21日,pp. 1-11,DOI: 10.1186/s12934-016-0578-4
【文献】PLA, Itzcoatl A. et al.,Biotechnology Progress,2006年,Vol. 22, Isssue 3,pp. 1-8,DOI: 10.1021/bp060012+
【文献】CHANG, Ching-Hsiang et al.,BMC Biotechnology,2018年12月27日,Vol. 18, Article No. 81,pp. 1-10,DOI: 10.1186/s12896-018-0492-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1つまたは複数の遺伝子改変の前の宿主細胞と比較して、第1および第2の内因性遺伝子の発現を減少させるための前記1つまたは複数の遺伝子改変であって、
i.前記第1の内因性遺伝子が、配列番号1として特定されるアミノ酸配列を含むアルコールオキシダーゼ1(AOX1)またはそのホモログをコードし、
ii.前記第2の内因性遺伝子が、配列番号3として特定されるアミノ酸配列を含むアルコールオキシダーゼ2(AOX2)またはそのホモログをコードする、
遺伝子改変、ならびに
b)1つまたは複数の遺伝子改変の前の宿主細胞と比較して、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)遺伝子の発現を増加させるための前記1つまたは複数の遺伝子改変であって、前記ADH2遺伝子がアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)をコードする、遺伝子改変
によって操作されている、組換えメタノール利用経路欠損メチロトローフ酵母(Mut-)宿主細胞。
【請求項2】
前記1つまたは複数の遺伝子改変が、(i)1つもしくは複数のポリヌクレオチド、もしくはその一部;または(ii)発現制御配列、の破壊、置換、欠失、ノックインもしくはノックアウトを含む、請求項1に記載のMut-宿主細胞。
【請求項3】
前記発現制御配列が、プロモーター、リボソーム結合部位、転写開始および停止配列または翻訳開始および停止配列、エンハンサー配列およびアクティベーター配列からなる群から選択される、請求項2に記載のMut-宿主細胞。
【請求項4】
前記第1および/または第2の内因性遺伝子が、前記1つまたは複数の遺伝子改変によってノックアウトされている、請求項1~3のいずれか一項に記載のMut-宿主細胞。
【請求項5】
前記ADH2遺伝子が、前記Mut-宿主細胞に対して内因性または異種である、請求項1~4のいずれか一項に記載のMut-宿主細胞。
【請求項6】
前記ADH2が、
a)配列番号50として特定されるアミノ酸配列を含むP.パストリス(P.pastoris)ADH2であるADH2、または酵母種に対して内因性であるそのホモログ;
b)配列番号50に対して少なくとも90%同一である、a)のADH2の変異体
のうちのいずれかである、請求項1~5のいずれか一項に記載のMut-宿主細胞。
【請求項7】
前記1つまたは複数の遺伝子改変が、ADH2のレベルまたは活性の増加をもたらす、前記ADH2遺伝子の機能獲得変更を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のMut-宿主細胞。
【請求項8】
前記機能獲得変更が、前記ADH2遺伝子のノックインを含む、請求項7に記載のMut-宿主細胞。
【請求項9】
前記機能獲得変更が、前記細胞における前記ADH2遺伝子発現を上方調節する、請求項7または8に記載のMut-宿主細胞。
【請求項10】
前記機能獲得変更が、前記細胞において前記ADH2遺伝子を過剰発現させるための異種発現カセットの挿入を含む、請求項7~9のいずれか一項に記載のMut-宿主細胞。
【請求項11】
前記異種発現カセットが、プロモーター配列の制御下におけるADH2遺伝子を含む異種ポリヌクレオチドを含む、請求項10に記載のMut-宿主細胞。
【請求項12】
目的のタンパク質(POI)をコードする目的の遺伝子(GOI)に作動可能に連結した発現カセットプロモーター(ECP)を含む異種目的遺伝子発現カセット(GOIEC)を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のMut-宿主細胞。
【請求項13】
前記ECPが、メタノール誘導性プロモーターである、請求項12に記載のMut-宿主細胞。
【請求項14】
前記ECPが、
a)配列番号5に対して少なくとも90%の配列同一性を有するpAOX1プロモーター;
b)配列番号6に対して少なくとも90%の配列同一性を有するpAOX2プロモーター;または
c)配列番号36~49からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含むプロモーター
のうちのいずれかである、請求項13に記載のMut-宿主細胞。
【請求項15】
前記GOIECが、前記POIの分泌を可能にするシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項12~14のいずれか一項に記載のMut-宿主細胞。
【請求項16】
前記シグナルペプチドをコードする前記ヌクレオチド配列が、前記GOIの5’末端に隣接して融合している、請求項15に記載のMut-宿主細胞。
【請求項17】
前記POIが、前記Mut-宿主細胞または前記ECPに対して異種である、請求項12~16のいずれか一項に記載のMut-宿主細胞。
【請求項18】
前記POIが、抗原結合性タンパク質、治療用タンパク質、酵素、ペプチド、タンパク質抗生物質、毒素融合タンパク質、炭水化物-タンパク質コンジュゲート、構造タンパク質、調節タンパク質、ワクチン抗原、増殖因子、ホルモン、サイトカイン、プロセシング酵素からなる群から選択されるペプチドまたはタンパク質である、請求項12~17のいずれか一項に記載のMut-宿主細胞。
【請求項19】
前記Mut-宿主細胞が、ピキア(Pichia)属、コマガタエラ(Komagataella)属、ハンゼヌラ(Hansenula)属、オガタエア(Ogataea)属、またはカンジダ(Candida)属の酵母細胞である、請求項1~18のいずれか一項に記載のMut-宿主細胞。
【請求項20】
目的のタンパク質(POI)を製造する方法であって、炭素源としてメタノールを使用して請求項1~18のいずれか一項のMut-宿主細胞を培養して前記POIを製造するステップを含む方法。
【請求項21】
細胞培養物から発酵産物が単離され、発酵産物が、前記Mut-宿主細胞から得られた前記POIまたは宿主細胞代謝物質を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
a)前記Mut-宿主細胞が、エネルギー源として基礎炭素源を使用して培養される、増殖段階
の後に、
b)前記Mut-宿主細胞が、メタノール供給を使用して培養され、それにより前記POIを産生する、産生段階
が続き、
基礎炭素源が、グルコース、グリセロール、エタノール、またはそれらの混合物のいずれかである、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
少なくとも24時間の前記産生段階の間に、宿主細胞培養において0.5~2.0%(v/v)の平均メタノール濃度が使用される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
少なくとも24時間の前記産生段階の間に、前記メタノール供給が、少なくとも2mgメタノール/(g乾燥バイオマス*h)の平均供給速度である、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
前記Mut-宿主細胞が、前記産生段階の間、前記宿主細胞の増殖を10%(w/wバイオマス)未満に制限する条件下において培養される、請求項22~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
組換えメタノール利用経路欠損メチロトローフ酵母(Mut-)宿主細胞が、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)の基質としてメタノールを使用すること、および発酵産物を製造することを可能にする条件下で前記Mut-宿主細胞を培養するステップを含む、前記発酵産物を製造する方法におけるMut-宿主細胞の使用であって、該方法は請求項20~25のいずれか一項に記載の方法である、使用。
【請求項27】
組換えメタノール利用経路欠損メチロトローフ酵母(Mut-)宿主細胞が、炭素源としてメタノールを使用して発酵産物を産生することを可能にする条件下で前記Mut-宿主細胞を培養するステップを含む、前記発酵産物を製造する方法におけるMut-宿主細胞の使用であって、Mut-宿主細胞が、
a)1つまたは複数の遺伝子改変の前の前記宿主細胞と比較して、第1および第2の内因性遺伝子の発現を減少させるための1つまたは複数の遺伝子改変であって、
i.前記第1の内因性遺伝子が、配列番号1として特定されるアミノ酸配列を含むアルコールオキシダーゼ1(AOX1)またはそのホモログをコードし、
ii.前記第2の内因性遺伝子が、配列番号3として特定されるアミノ酸配列を含むアルコールオキシダーゼ2(AOX2)またはそのホモログをコードする、
遺伝子改変、ならびに
b)アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)遺伝子の発現を増加させるための1つまたは複数の遺伝子改変であって、前記ADH2遺伝子がアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)をコードする、遺伝子改変
によって操作されている、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコールオキシダーゼ1(AOX1)およびアルコールオキシダーゼ2(AOX2)の欠損した組換えメチロトローフ酵母での目的のタンパク質(POI)の産生について言及する。
【背景技術】
【0002】
組換え宿主細胞培養において産生されるタンパク質は、診断剤および治療剤として益々重要になっている。この目的のため、目的の組換えタンパク質または異種タンパク質を非常に高レベルにおいて産生するように、細胞は、操作および/または選択される。細胞培養条件の最適化は、組換えタンパク質または異種タンパク質の良好な商業的製造にとって重要である。
【0003】
目的のタンパク質(POI)の良好な製造は、細胞培養において原核生物および真核生物宿主細胞の両方によって達成された。真核生物宿主細胞、特に哺乳動物宿主細胞、酵母、糸状菌、または細菌は、生物薬剤学的タンパク質ならびにバルクケミカルのための産生宿主として一般的に使用される。最も際立った例は、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などのメチロトローフ酵母であり、それは、異種タンパク質の効率的な分泌において定評である。P.パストリスは、新規の属であるコマガタエラ(Komagataella)に再分類されており、さらに、3つの種、K.パストリス(K.pastoris)、K.ファフィ(K.phaffii)、およびK.シュードパストリス(K.pseudopastoris)に分けられる。生物工学的用途のために一般的に使用される株は、2つの提案された種、K.パストリスおよびK.ファフィに属する。株GS115、X-33、CBS2612、およびCBS7435は、K.ファフィであり、その一方で、株DSMZ70382は、全ての利用可能なP.パストリス株にとっての参考株である基準種のK.パストリスに分類される(Kurtzman 2009, J Ind Microbiol Biotechnol. 36(11):1435~8)。Mattanovichら(Microbial Cell Factories 2009, 8:29 doi:10.1186/1475-2859-8-29)は、K.パストリスの基準株DSMZ 70382のゲノム配列決定について説明しており、そのセクレトームおよび糖輸送体を分析した。
【0004】
P.パストリス株は、AOX1およびAOX2の両方のAOX遺伝子が欠損したもの(Mut-と呼ばれる)、または、AOX2のみが欠損したもの(Mutと呼ばれる)、またはAOX遺伝子のいずれも欠損していないもの(Mutと呼ばれる)、が使用されてきた。
【0005】
組換え宿主細胞におけるタンパク質産生のために使用されるプロモーターは、調節される(例えば、培地へのメタノールの添加において誘導される、メタノール制御型)、または、絶えず活性である(構成型)、のいずれかである。メタノール誘導性プロモーターpAOX1は、Mut-、Mut、またはMut株においてタンパク質発現を制御すると説明されている。
【0006】
Chiruvoluら(Enzyme Microb. Technol. 1997, 21:277~283)は、組換えタンパク質製造のために使用されるMut-株の構成について説明している。Mut-株は、メタノールにおいて増殖せず、増殖、維持、およびタンパク質産生を提供するためには別の炭素源の使用を必要とするということが特定された。POIは、pAOX1の制御下において発現され、それは、発酵槽へのメタノールの注入により約0.5(v/v)%の濃度を維持することによって誘導された。
【0007】
Chauhanら(Process Biochemistry 1999, 34:139~145)は、pAOX1プロモーターの下でHBsAgを発現するための遺伝子を運ぶ、AOX1欠失宿主(Mut-と命名されるが、Mutであると理解される)の利用について説明している。タンパク質発現は、メタノールによって誘導されたが、発酵液における高メタノール濃度は、細胞に対して毒性であることがわかり、というのも、Mut細胞は、メタノール濃度に対して敏感であることが見出されためである。
【0008】
Karaoglanら(Biotechnol. Lett. 1995, DOI 10.1007/s10529-015-1993-z)は、P.パストリスにおけるアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)遺伝子の機能分析について説明している。ADH3(XM_002491337)およびADH(FN392323)遺伝子を破壊した。ダブルノックアウト株もエタノールを産生した。それにより、ADH遺伝子は、エタノール代謝において役割を果たしておらず、PpADH3は、P.パストリスにおけるエタノールの消費を担う唯一の遺伝子であったと結論付けられる。
【0009】
SinghおよびNarang(bioRxiv, DOI:10.1101/573519, プレプリント)は、コマガタエラ・ファフィ(Komagataella phaffii)(ピキア・パストリス)のMut、Mut(AOX1-)、およびMut(AOX1-AOX2-)株におけるβ-ガラクトシダーゼ発現について説明している。ホルマートまたは/およびホルムアルデヒドは、おそらく、真の誘導物質であると結論付けられ、というのも、両方が、ホルマートまたはホルムアルデヒドから細胞内メタノールを合成することができないMutにおいてPAOX1発現を誘導するためであり、メタノールの有望な代替品としてホルマートを提案しており、というのも、それは、メタノールの場合のような不具合を抱えているようには見えないからである。
【0010】
Wei Shenら(Microbial Cell Factories 2016, 15(1):1~11)は、無メタノールピキア・パストリスタンパク質発現系について説明している。2つのキナーゼ変異体Δgut1およびΔdakは、非メタノール炭素源の下で強いアルコールオキシダーゼ活性を示し、無メタノール発現系を構築するために使用された。
【0011】
Ia Plaら(Biotechnol Prog, 2006, pp 881~888)は、AOXプロモーターを使用したscFvの発現およびメタノールによる誘導に対するMutおよびMut+P.パストリス株について説明している。
【0012】
欧州特許出願公開第1905836(A1)号では、組換えヒトインターフェロンαを産生するためのP.パストリス株が開示されており、変異したAOX1遺伝子を含むがAOX1遺伝子座は完全には欠失していないAOX1妨害クローンの使用を提唱している。
【0013】
Ching-Hsiang Changら(BMC Biotechnology 2018, 18(1):81)は、メタノール発現調節因子1(Mxr1)-再プログラムされた細胞を使用した、P.パストリスにおける柔軟なpAOX1誘導システムを提唱している。
【0014】
Russmayer H.ら(BMC Biology 2015, 13(1):80)は、P.パストリス発現システムの調節におけるAOXの重要性について説明している。
【0015】
Tomas-Gamisans M.ら(Microbial Biotechnology 2018, 11(1):224~237)は、単一炭素源としてのメタノールまたはグリセロールに関する予測改良のための、P.パストリスゲノムスケールの代謝モデルについて説明している。
【0016】
Moserら(Microbial Cell Factories 2017, 16(1):49)は、P.パストリスにおける増殖および組換えタンパク質産生を向上させる順応性実験室進化について説明している。
【0017】
P.パストリスでの組換えタンパク質産生は、激しいプロセススキームを必要とし、それは、高い酸素需要および熱生成につながり、高いバイオマス濃度およびメタノール消費を要求する。下流での処理における酸素移動、冷却、およびバイオマス分離は、コストがかかる。したがって、低い酸素需要および熱生成のプロセスを開発することは望ましい。さらに、特に炭素源の効率的な使用によって、タンパク質産生の収率を増加させることは望ましい。
【発明の概要】
【0018】
本発明の目的は、メチロトローフ酵母における組換えタンパク質産生を向上させることである。
この目的は、特許請求の範囲の主題によって、本明細書において詳細に説明されるように解決される。
【0019】
本発明は、
a)1つまたは複数の遺伝子修飾の前の宿主細胞と比較して、第1および第2の内因性遺伝子の発現を減少させるための1つまたは複数の遺伝子修飾であって、
i.第1の内因性遺伝子が、配列番号1として特定されるアミノ酸配列を含むアルコールオキシダーゼ1(AOX1)またはそのホモログをコードし、
ii.第2の内因性遺伝子が、配列番号3として特定されるアミノ酸配列を含むアルコールオキシダーゼ2(AOX2)またはそのホモログをコードする、
1つまたは複数の遺伝子修飾、
ならびに
b)1つまたは複数の遺伝子修飾の前の前記宿主細胞と比較してアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)遺伝子の発現を増加させるための1つまたは複数の遺伝子修飾であって、ADH2遺伝子が、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)をコードする、1つまたは複数の遺伝子修飾、
によって操作された組換えメタノール利用経路欠損メチロトローフ酵母(Mut-)宿主細胞を提供する。
【0020】
詳細には、ADH2タンパク質は、EC1.1.1.1として分類されるアルコールデヒドロゲナーゼである。
本明細書において説明されるように、用語「ADH2」は、天然アルコールデヒドロゲナーゼ、例えば、配列番号50として特定されるアミノ酸配列を含むかまたはそのアミノ酸配列からなるP.パストリスアルコールデヒドロゲナーゼなど(UniProtKB-F2QSX6_KOMPC;FR839629 Genomic DNA Translation:CCA38504.1;遺伝子:PP7435_Chr2-0821)または配列番号50に対してある特定の相同性(または配列同一性)を有する配列のどちらかを意味するものである。
【0021】
詳細には、ADH2は、P.パストリス株に由来し得るか、または、真正核細胞などの有機体、例えば、酵母特にメチロトローフ酵母株、種、もしくは属などの野生型細胞に由来して天然に存在するかもしくは内因性であるか、またはそのような天然に存在するADH2の変異体である、そのホモログもしくはオーソログであり得る。
【0022】
詳細には、ADH2タンパク質は、宿主細胞の種に天然に存在するか、またはそれに対して内因性であるか、またはそれらの変異体である。
詳細には、本明細書においてADH2遺伝子と呼ばれる、P.パストリスアルコールデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子は、配列番号51として特定されるヌクレオチド配列、または、ADH2をコードする同種のポリヌクレオチド(遺伝子)を含むかまたはそれからなり、この場合、ADH2は、配列番号50に対してある特定の相同性(または配列同一性)を有する。
【0023】
詳細には、ADH2遺伝子は、Mut-宿主細胞に対して内因性または異種である。詳細には、Mut-宿主細胞は、ADH2遺伝子の1つまたは複数のコピーを含む。
詳細には、ADH2は、
a)配列番号50として特定されるアミノ酸配列を含むP.パストリスADH2であるADH2、もしくは酵母種、特にメチロトローフ酵母に対して内因性であるそのホモログ;または
b)配列番号50に対して少なくとも60%同一である、a)のADH2の変異体
のうちのどちらかである。
【0024】
相同配列は、ADH2ホモログまたはADH2遺伝子ホモログとも呼ばれる。
例示的ホモログは、図1において説明される:
配列番号52:コマガタエラ・パストリスATCC 28485のADH2アミノ酸配列
配列番号53:コマガタエラ・パストリスATCC 28485のADH2遺伝子配列
配列番号54:オガタエア・パラポリモルファDL-1のADH2アミノ酸配列
配列番号55:オガタエア・パラポリモルファDL-1のADH2遺伝子配列
配列番号56:オガタエア・パラポリモルファDL-1のADH2アミノ酸配列
配列番号57:オガタエア・パラポリモルファDL-1のADH2遺伝子配列
配列番号58:オガタエア・ポリモルファNCYC 495 leu1.1のADHアミノ酸配列
配列番号59:オガタエア・ポリモルファNCYC 495 leu1.1のADH遺伝子配列
配列番号60:オガタエア・ポリモルファNCYC 495 leu1.1のADHアミノ酸配列
配列番号61:オガタエア・ポリモルファNCYC 495 leu1.1のADH遺伝子配列
配列番号62:サッカロマイセス・セレビシエYJM627のADH2アミノ酸配列
配列番号63:サッカロマイセス・セレビシエYJM627のADH2遺伝子配列
配列番号64:カンジダ・マルトーサXu316のADH2アミノ酸配列
配列番号65:カンジダ・マルトーサXu316のADH2遺伝子配列
配列番号66:クリベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042のADH4アミノ酸配列
配列番号67:クリベロマイセス・マルシアヌスDMKU3-1042のADH4遺伝子配列
配列番号68:大腸菌(Escherichia coli)7.1982のADH1アミノ酸配列
配列番号69:大腸菌7.1982のADH1遺伝子配列
配列番号70:フサリウム・グラミネアラムPH-1のADH1アミノ酸配列
配列番号71:フサリウム・グラミネアラムPH-1のADH1遺伝子配列。
【0025】
詳細には、ADH2ホモログは、配列番号50に対して60%、70%、80%、85%、90%、または95%の配列同一性のうちの少なくともいずれかを有する。ADH2遺伝子ホモログは、本明細書において、ADH2ホモログをコードすると理解される。詳細には、配列同一性は、本明細書において詳細に開示されるように、例えば、全長配列と比較して特定される。
【0026】
詳細には、ホモログまたはホモログ配列は、野生型の宿主細胞例えば、P.パストリス、特に、K.パストリスまたはK.ファフィ、例えば、アルコールデヒドロゲナーゼ(EC1.1.1.1)、など、における、ADH2タンパク質の同じ定性的な機能によって特徴付けられる。
【0027】
詳細には、配列番号50の相同配列は、P.パストリス、特にK.パストリスまたはK.ファフィ、以外の種、例えば、コマガタエラ属またはピキア属の別の酵母、の配列であり、それぞれの内因性コード配列の発現は、本明細書において説明されるように増加される(例えば、ノックインされる)。
【0028】
宿主細胞が、P.パストリス、特に、K.パストリスまたはK.ファフィの細胞である場合、ADH2タンパク質は、内因性配列、例えば、配列番号50、または異なる株または種の配列番号50のホモログ、または野生型株または有機体において天然には存在しない、特に、メチロトローフ酵母において天然には存在しない、変異体ADH2タンパク質の人工配列、を含み得るかまたはそれらからなり得る。
【0029】
具体例により、相同配列は、野生型P.パストリスにおける内因性の天然に存在するP.パストリスアルコールデヒドロゲナーゼの活性と比較して0.2倍、0.3倍、0.4倍、0.5.倍、0.6倍、0.7倍、0.8倍、0.9倍、1倍、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、またはそれ以上高いアルコールデヒドロゲナーゼ活性のうちの少なくともいずれかを有する。アルコールデヒドロゲナーゼ活性は、好適なアッセイにおいて、例えば、無細胞抽出物を使用したアルコールデヒドロゲナーゼアッセイによって、測定することができる。無細胞抽出物は、Karaoglanら(Biotechnol Lett. 2016; 38(3):463~9)によって説明されるような、ジルコニア/シリカ/ガラスビーズによる細胞培養物の機械的破壊によって、得ることができる。アルコールデヒドロゲナーゼ活性は、NADHの形成の後に、Walker(Biochemical Education. 1992 21(1):42~43)によって説明されるように340nmの波長において吸収増加を測定することによって測定することができる。NADおよびアルコールは、基質として使用することができ、等モル濃度において消費される。NADH産生は、NAD消費と逆相関する。あるいは、市販の比色アルコールデヒドロゲナーゼ活性アッセイキットを使用することもできる(MAK053、Sigma-Aldrich)。例示的アッセイは、本明細書の実施例のセクションにおいて説明される。
【0030】
本明細書において説明されるように、用語「AOX1」は、天然アルコールオキシダーゼ1、例えば、配列番号1(UniProtKB-F2QY27)として特定されるアミノ酸配列を含むかまたはそのアミノ酸配列からなるP.パストリスアルコールオキシダーゼ-1など、あるいは、配列番号1に対してある特定の相同性(または配列同一性)を有し、メチロトローフ酵母種に対して内因性であるP.パストリスアルコールオキシダーゼ1のホモログであり得、特に内因性アルコールオキシダーゼ1の発現を減少させるための1つまたは複数の遺伝子修飾の前では、宿主細胞として使用されるメチロトローフ酵母に対して内因性であるような配列、のどちらかを意味するものである。特に、AOX1タンパク質は、宿主細胞種の種に対して内因性であるオーソログである。
【0031】
詳細には、本明細書においてAOX1と呼ばれるP.パストリスアルコールオキシダーゼ1をコードする遺伝子は、配列番号2として特定されるヌクレオチド配列を含むかまたはそれらからなる。
【0032】
相同配列は、ADH1ホモログまたはADH1ホモログとも呼ばれる。詳細には、AOX1タンパク質またはAOX1ホモログは、EC1.1.3.13として分類されるアルコールオキシダーゼ酵素である。
【0033】
詳細には、AOX1ホモログは、配列番号1に対して60%、70%、80%、85%、90%、または95%の配列同一性のうちの少なくともいずれかを有する。AOX1ホモログは、本明細書において、AOX1ホモログをコードすると理解される。詳細には、配列同一性は、例えば、本明細書において詳細に開示されるように、完全長配列と比較する場合に特定される。
【0034】
本明細書において説明されるように、用語「AOX2」は、天然アルコールオキシダーゼ2、例えば、配列番号3(UniProtKB-F2R038)として識別特定されるアミノ酸配列を含むかまたはそのアミノ酸配列からなるP.パストリスアルコールオキシダーゼ2など、または配列番号3に対してある特定の相同性(または配列同一性)を有し、メチロトロフィックーフ酵母種に対して内因性であるP.パストリスアルコールオキシダーゼ2のホモログであり得、特に、当該内因性アルコールオキシダーゼ2の発現を減じる減少させるための1つまたは複数の遺伝子修飾の前では、宿主細胞として使用されるメチロトローフ酵母に対して内因性である、配列、のどちらかを意味するものである。特に、AOX2タンパク質は、宿主細胞種の種に対して内因性であるオーソログである。
【0035】
詳細には、本明細書においてAOX2遺伝子と呼ばれるP.パストリスアルコールオキシダーゼ2をコードする遺伝子は、配列番号4として特定されるヌクレオチド配列を含むかまたはそれらからなる。
【0036】
相同配列は、AOX2ホモログまたはAOX2ホモログとも呼ばれる。詳細には、AOX2タンパク質またはAOX2ホモログは、EC1.1.3.13として分類されるアルコールオキシダーゼ酵素である。
【0037】
詳細には、AOX2ホモログは、配列番号3に対して60%、70%、80%、85%、90%、または95%の配列同一性のうちの少なくともいずれかを有する。AOX2ホモログは、本明細書において、AOX2ホモログをコードすると理解される。詳細には、配列同一性は、例えば、本明細書において詳細に開示されるように、完全長配列と比較する場合に特定される。
【0038】
詳細には、宿主細胞が、P.パストリス、特に、それぞれK.パストリスおよびK.ファフィである場合、AOX1および/またはAOX2タンパク質は、P.パストリス起源のタンパク質、特にK.パストリスまたはK.ファフィ起源のタンパク質である。あるいは、AOX1およびAOX2タンパク質のそれぞれは、P.パストリス起源、特に、K.パストリスまたはK.ファフィ起源、のそれぞれのタンパク質のホモログ(またはオーソログ)配列を含み、この場合、ホモログ(またはオーソログ)配列は、別の起源または種の野生型宿主細胞の配列である場合、野生型宿主細胞に対して内因性である。例えば、宿主細胞がK.ファフィの場合、内因性AOX1またはAOX2タンパク質は、それぞれ、配列番号1および配列番号3として特定されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0039】
別の実施例により、宿主細胞がK.パストリスの場合、内因性AOX1タンパク質は、配列番号1に対して99.85%同一である、配列番号9(コマガタエラ・パストリス、ATCC 28485)として特定されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0040】
別の実施例により、宿主細胞がK.パストリスの場合、内因性AOX2タンパク質は、配列番号3に対して99.40%同一である、配列番号11として特定されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなる。
【0041】
例示的ホモログは、図1において説明される:
配列番号9:コマガタエラ・パストリスATCC 28485のAOX1アミノ酸配列
配列番号10:コマガタエラ・パストリスATCC 28485のAOX1ヌクレオチド配列
配列番号11:コマガタエラ・パストリスATCC 28485のAOX2アミノ酸配列
配列番号12:コマガタエラ・パストリスATCC 28485のAOX2ヌクレオチド配列
配列番号13:オガタエア・メタノリカJCM 10240のMOD1アミノ酸配列
配列番号14:オガタエア・メタノリカJCM 10240のMOD1ヌクレオチド配列
配列番号15:オガタエア・メタノリカJCM 10240のMOD2アミノ酸配列
配列番号16:オガタエア・メタノリカJCM 10240のMOD2ヌクレオチド配列
配列番号17:オガタエア・メタノリカJCM 10240のpMOD1プロモーター配列
配列番号18:オガタエア・メタノリカJCM 10240のpMOD2プロモーター配列
配列番号19:オガタエア・ポリモルファNCYC 495 leu 1.1のMOXアミノ酸配列
配列番号20:オガタエア・ポリモルファNCYC 495 leu 1.1のMOXヌクレオチド配列
配列番号21:オガタエア・ポリモルファNCYC 495 leu 1.1のpMOXプロモーター配列。
【0042】
しかし、宿主細胞が異なる種の細胞である場合(K.パストリスおよび/またはK.ファフィ以外)、宿主細胞に対して内因性であるAOX1またはAOX2タンパク質配列は、それぞれ、配列番号1および配列番号3に対してホモログであり、宿主細胞におけるそのようなホモログ(それぞれ、配列番号1および配列番号3のオーソログ配列)の発現は、本明細書において説明される目的のために減少される。
【0043】
詳細には、相同配列のいずれかまたはそれぞれは、野生型宿主細胞、例えば、P.パストリス、特に、K.パストリスまたはK.ファフィ、におけるそれぞれのAOX1およびAOX2タンパク質の、例えば、アルコールオキシダーゼ(EC1.1.3.13)と同じ定性的機能によって特徴付けられる。
【0044】
詳細には、配列番号1および配列番号3のそれぞれの相同配列は、P.パストリス、特に、K.パストリスまたはK.ファフィ、以外の種、例えば、コマガタエラ属またはピキア属の別の酵母の配列であり、それぞれの内因性コード配列の発現は、本明細書において説明されるように、減少または無効にされる(ノックアウトされる)。
【0045】
詳細には、AOX1およびAOX2タンパク質の両方は、宿主細胞に対して内因性であり、それぞれAOX1およびAOX2をコードする遺伝子の発現は、減少されるかまたは欠失される。
【0046】
詳細には、AOX1およびAOX2タンパク質の両方は、同じ起源のタンパク質であり、第1および第2の内因性遺伝子の発現を減少させるための操作の前の同じ宿主細胞(または宿主細胞種)に由来するかそれに対して内因性である。
【0047】
詳細には、AOX1およびAOX2タンパク質の両方は、P.パストリス起源のタンパク質、特に、宿主細胞に対して内因性であるそれぞれの遺伝子によってコードされるタンパク質であり、この場合、宿主細胞は、P.パストリスである。
【0048】
詳細には、AOX1およびAOX2タンパク質の両方は、コマガタエラ・ファフィ起源のタンパク質、特に、宿主細胞に対して内因性であるそれぞれの遺伝子によってコードされるタンパク質であり、その場合、宿主細胞は、コマガタエラ・ファフィである。
【0049】
詳細には、AOX1およびAOX2タンパク質の両方は、コマガタエラ・パストリス起源のタンパク質、特に、宿主細胞に対して内因性であるそれぞれの遺伝子によってコードされるタンパク質であり、この場合、宿主細胞は、コマガタエラ・パストリスである。
【0050】
特定の態様により、1つまたは複数の遺伝子修飾は、(i)1つもしくは複数のポリヌクレオチド、もしくはその一部;または(ii)発現制御配列、の破壊、置換、欠失、ノックイン、もしくはノックアウトを含む。
【0051】
特定の態様により、1つまたは複数の遺伝子修飾は、本明細書において説明される宿主細胞の1つまたは複数の内因性ポリヌクレオチド、例えば、コーディングポリヌクレオチド、例えば、それぞれAOX1、AOX2、もしくはADH2タンパク質、特に、宿主細胞種、タイプ、もしくは株において天然に存在する野生型(未修飾または天然)タンパク質、をコードするポリヌクレオチド(または遺伝子)、またはポリヌクレオチド(または遺伝子)の発現を制御するヌクレオチド配列、の遺伝子修飾である。
【0052】
特定の態様により、1つまたは複数の遺伝子修飾は、発現制御配列、例えば、プロモーター、リボソーム結合部位、転写開始および停止配列もしくは翻訳開始および停止配列、など、の遺伝子修飾、またはエンハンサー配列またはアクティベーター配列の遺伝子修飾である。
【0053】
宿主細胞を操作する様々な方法を用いることより、例えば、
a)例えば、それぞれAOX1またはAOX2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを破壊すること、そのようなポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを破壊すること、そのようなプロモーターをより低いプロモーター活性を有する別のプロモーターで置き換えることなどによって、それぞれAOX1またはAOX2タンパク質をコードする遺伝子の発現を減少させるため;または
b)例えば、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノムの中に導入すること、そのようなポリヌクレオチドに作動可能に連結したプロモーターを破壊すること、そのようなプロモーターをより高いプロモーター活性を有する別のプロモーターで置き換えることなどによって、ADH2タンパク質をコードする遺伝子の発現を増加させるために、
内因性ポリヌクレオチドの発現を調節する(減少させるまたは増加させる)ことができる。
【0054】
遺伝子発現を修飾する特定の方法は、例えば、宿主細胞を修飾するCRISPRベースの方法において使用されるRNA誘導リボヌクレアーゼによって関連配列、例えば、プロモーター、リボソーム結合部位、転写開始または停止配列、翻訳開始または停止配列、エンハンサー配列またはアクティベーター配列、抑制配列または阻害配列、シグナル配列またはリーダー配列、特に、タンパク質の発現および/または分泌を制御する配列、からなる群から選択される制御配列など、を標的にするそれぞれの転写制御因子を使用することにより、ポリヌクレオチド(遺伝子)の発現を調節する制御配列を調節(例えば、活性化、上方調節、不活性化、阻害、または下方調節)するステップを用いる。
【0055】
特定の態様により、1つまたは複数の遺伝子修飾は、結果としてADH2のレベルまたは活性を増加させる、ADH2遺伝子の機能獲得変更を含む。
詳細には、機能獲得変更は、ADH2遺伝子のノックインを含む。
【0056】
詳細には、機能獲得変更は、細胞におけるADH2遺伝子発現を上方調節する。
詳細には、機能獲得変更は、細胞においてADH2遺伝子を過剰発現させるための異種発現カセットの挿入を含む。
【0057】
詳細には、異種発現カセットは、プロモーター配列の制御下においてADH2遺伝子を含む異種ポリヌクレオチドを含む。そのようなプロモーターは、構成的プロモーター、抑制性プロモーター、または誘導性プロモーターのうちのいずれかであり得る。
【0058】
詳細には、遺伝子の発現を増加させるための1つまたは複数の遺伝子修飾は、例えば、異種遺伝子のノックイン、または内因性遺伝子のコピー数を増加させることによって、そのような遺伝子修飾を行わないそれぞれの宿主と比較して、遺伝子または遺伝子の一部の発現を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%、またはそれ以上増加させる、遺伝子またはゲノム配列の挿入または活性化を含む1つまたは複数のゲノム変異を含む。
【0059】
詳細には、発現を増加させる1つまたは複数の遺伝子修飾は、1つまたは複数の内因性ポリヌクレオチドの発現を構成的に改良するかそうでなければ増加させるゲノム変異を含む。
【0060】
詳細には、発現を増加させる1つまたは複数の遺伝子修飾は、1つまたは複数の内因性ポリヌクレオチドの発現を条件付きで改良するかそうでなければ増加させる1つまたは複数の誘導性または抑制性調節配列を導入するゲノム変異を含む。そのような条件付きで活性化する修飾は、特に、細胞培養条件に応じて、活性でありおよび/または発現される調節要素および遺伝子を標的にする。
【0061】
詳細には、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現は、目的のタンパク質(POI)を製造する方法において宿主細胞を使用する場合に増加する。詳細には、遺伝子修飾に関して、ADH2タンパク質の発現は、POIが産生される間の宿主細胞培養の条件下において増加する。
【0062】
詳細には、宿主細胞は、例えば、1つまたは複数のそれぞれのADH2遺伝子のノックインによって、ADH2タンパク質の量(例えば、レベル、活性、または濃度)を、修飾を行わない宿主細胞と比較して50%、60%、70%、80%、90%、または95%(mol/mol)、またはそれ以上のうちの少なくともいずれかにおいて増加するように、遺伝子修飾される。特定の実施形態により、宿主細胞は、(1つまたは複数の)ゲノム配列、特にそれぞれのADH2タンパク質をコードするゲノム配列、の1つまたは複数の挿入を含むように遺伝子修飾され、ゲノム配列は、宿主細胞のゲノム中統合される。そのような宿主細胞は、典型的には、ノックイン株として提供される。
【0063】
特定の実施形態により、本明細書において説明される宿主細胞が細胞培養において培養された後、宿主細胞または宿主細胞培養物中のADH2タンパク質の総量は、そのような遺伝子修飾を行う前のまたは行わない宿主細胞によって発現または産生される基準量と比較して、またはそれぞれの宿主細胞培養物において産生される基準量と比較して、またはそのような修飾を行う前のまたは修飾を行わない宿主細胞と比較して、50%、60%、70%、80%、90%、または95%(活性%、またはmol/mol)、または100%以上のうちの少なくともいずれかにおいて増加する。
【0064】
詳細には、例えば、AOX1および/またはAOX2遺伝子などの遺伝子の発現を減少させるための1つまたは複数の遺伝子修飾は、例えば、遺伝子のノックアウトによって、そのような遺伝子修飾を行っていないそれぞれの宿主と比較して、遺伝子または遺伝子の一部の発現を少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、または95%減少させるか、または完全にその発現を無効にする、遺伝子またはゲノム配列の欠失または不活性化を含む1つまたは複数のゲノム変異を含む。
【0065】
詳細には、発現を減少させる1つまたは複数の遺伝子修飾は、1つまたは複数の内因性ポリヌクレオチドの発現を構成的に弱めるかそうでなければ減少させるゲノム変異を含む。
【0066】
詳細には、発現を減少させる1つまたは複数の遺伝子修飾は、1つまたは複数の内因性ポリヌクレオチドの発現を条件付きで弱めるかそうでなければ減少させる1つまたは複数の誘導性または抑制性調節配列を導入するゲノム変異を含む。そのような条件付きで活性化する修飾は、特に、細胞培養条件に応じて、活性でありおよび/または発現される調節要素および遺伝子を標的にする。
【0067】
詳細には、1つまたは複数の内因性ポリヌクレオチドの発現は減少し、それにより、目的のタンパク質(POI)を製造する方法において宿主細胞を使用する場合に、それぞれAOX1またはAOX2タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現を減少させる。詳細には、遺伝子修飾に関して、AOX1およびAOX2タンパク質の両方の発現は、POIが産生される間の宿主細胞培養の条件下において減少される。
【0068】
詳細には、宿主細胞は、AOX1およびAOX2タンパク質の両方の量(例えば、レベル、活性、または濃度)を、修飾を行わない宿主細胞と比較して50%、60%、70%、80%、90%、または95%(活性%、またはmol/mol)のうちの少なくともいずれかにおいて減少させるため、または100%において、例えば、検出不可能な量まで減少させるために、遺伝子修飾され、それにより、例えば、それぞれAOX1およびAOX2遺伝子のノックアウトによって、AOX1およびAOX2タンパク質の両方の産生を完全に無効にする。特定の実施形態により、宿主細胞は、(1つまたは複数の)ゲノム配列、特にそれぞれAOX1および/またはAOX2タンパク質をコードするゲノム配列、の1つまたは複数の欠失を含むように遺伝子修飾される。そのような宿主細胞は、典型的には、欠失株またはノックダウン株として提供される。
【0069】
特定の態様により、第1および/または第2の内因性遺伝子は、1つまたは複数の遺伝子修飾によってノックアウトされる。詳細には、Mut-宿主細胞は、ΔAOX1/ΔAOX2ノックアウト株である。
【0070】
特定の態様により、第1および/または第2の内因性遺伝子は、1つまたは複数の遺伝子修飾によってノックアウトされ;ADH2遺伝子は、1つまたは複数の遺伝子修飾によってノックインされる。詳細には、Mut-宿主細胞は、ΔAOX1/ΔAOX2+ADH2-OE株である。
【0071】
特定の実施形態により、本明細書において説明される宿主細胞が、細胞培養において培養された後、宿主細胞または宿主細胞培養物中のそれぞれAOX1および/またはAOX2タンパク質の総量は、そのような遺伝子修飾を行う前のまたは行わない宿主細胞によって発現または産生される基準量と比較して、またはそれぞれの宿主細胞培養物において産生される基準量と比較して、またはそのような修飾を行う前のまたは修飾を行わない宿主細胞と比較して、50%、60%、70%、80%、90%、もしくは95%(mol/mol)のうちの少なくともいずれか、または100%において、例えば、検出不可能な量まで、減少される。
【0072】
それぞれADH2、AOX1、またはAOX2タンパク質の産生を増加または減少させる遺伝子修飾の効果について本明細書において説明される宿主細胞を比較する場合、それは、典型的には、そのような遺伝子修飾の前または遺伝子修飾を行わない同等な宿主細胞と比較される。比較は、典型的には、特にPOIを産生する条件下において培養された時に組換えPOIまたは異種POIを産生するように操作されるそのような遺伝子修飾を行わない(または行う前の)、同じ宿主細胞種またはタイプにおいて為される。
【0073】
しかしながら、比較は、組換えPOIまたは異種POIを産生するようにさらには操作されない同じ宿主細胞種またはタイプにおいても行うことができる。特定の態様により、それぞれADH2、AOX1、またはAOX2タンパク質の増加または減少は、細胞内におけるそれぞれのタンパク質の量(例えば、レベル、活性、または濃度)の増加または減少によって特定される。詳細には、タンパク質の量は、例えば、ウエスタンブロット法、免疫蛍光イメージング、フローサイトメトリーまたは質量分析法などを用いる好適な方法によって特定され、特に、その場合、質量分析法は、例えば、Doneanuら(MAbs. 2012; 4(1): 24~44)によって説明されるような、液体クロマトグラフィ-質量分析法(LC-MS)、または液体クロマトグラフィタンデム-質量分析法(LC-MS/MS)である。特定の実施例により、アルコールデヒドロゲナーゼ活性は、無細胞抽出物を使用する活性アッセイによって測定することができる。無細胞抽出物は、Karaoglanら(Biotechnol Lett. 2016; 38(3): 463~9)によって説明されるように、ジルコニア/シリカ/ガラスビーズによる細胞培養物の機械的破壊によって得ることができる。アルコールデヒドロゲナーゼ活性は、Walker(Biochemical Education. 1992 21(1):42~43)によって説明されるように、NADHの形成直後に、340nmの波長での吸収増加を測定することによって測定される。NADおよびアルコールは、基質として使用され、当モル濃度において消費される。NADH産生は、NADの消費に逆相関する。あるいは、市販の比色分析アルコールデヒドロゲナーゼ活性アッセイキットを使用することもできる(MAK053、Sigma-Aldrich)。アルコールオキシダーゼ活性は、Verduynら(Journal of Microbiological Methods. 1984 (2)1: 15~25)によって説明されるように、過酸化水素と反応する2,2’-アジノ-ビス-(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)を用いた熱量測定によって、あるいは、CouderおよびBaratti(Agric. Bioi. Chern. 1980; 44(10):2279~2289)によって説明されるように、形成されたホルムアルデヒドの量を測定することによって、測定することができる。詳細なアッセイは、本明細書の実施例のセクションにおいて説明される。
【0074】
特定の態様により、Mut-宿主細胞は、目的のタンパク質(POI)をコードする目的の遺伝子(GOI)に作動可能に連結した発現カセットプロモーター(ECP)を含む異種目的遺伝子発現カセット(GOIEC)を含む。
【0075】
特定の態様により、Mut-宿主細胞は、少なくとも1つの異種GOIECを含む組換え宿主細胞であり、この場合、GOIECに含まれる少なくとも1つの成分または成分の組み合わせは、宿主細胞に対して異種である。詳細には、人工発現カセットが使用され、特にその場合、プロモーターおよびGOIは、お互いに異種であり、そのような組み合わせは本質的に天然には生じず、例えば、その場合、プロモーターおよびGOIの一方(または一方のみ)は、人工であるか、または互いに対しておよび/もしくは本明細書において説明される宿主細胞に対して異種であるか;または、プロモーターは、内因性プロモーターであり、GOIは、異種GOIであるか;または、プロモーターは、人工であるかまたは異種プロモーターであり、GOIは異種GOIであるか、のいずれかであり;その場合、プロモーターおよびGOIの両方は、人工であるか、異種であるか、または異なる起源、例えば、本明細書において説明される宿主細胞と比較して異なる種またはタイプ(株)の細胞に由来する。詳細には、ECPは、本明細書において説明される宿主細胞として使用される細胞のGOIに天然には付随せず、および/またはGOIに作動可能に連結されない。
【0076】
詳細には、GOIECは、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、または抑制性プロモーターを含む。
構成的プロモーターの具体例としては、例えば、pGAPおよびその機能的バリアント、国際公開第2014139608号において公開される、pCS1などの構成的プロモーターのいずれかが挙げられる。
【0077】
誘導性プロモーターまたは抑制性プロモーターの具体例としては、例えば、天然のpAOX1またはpAOX2およびその機能的バリアント、国際公開第2013050551号において公開される、pG1-pG8などの調節プロモーターおよびその断片のいずれか;国際公開第2017021541(A1)号において公開される、pG1およびpG1-xなどの調節プロモーターのいずれかが挙げられる。
【0078】
酵母宿主細胞による使用にとって好適なプロモーター配列は、Mattanovichら(Methods Mol. Biol. (2012) 824:329~58)によって説明されており、その例としては、解糖酵素、例えば、トリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDHまたはGAP)およびそのバリアント、ラクターゼ(LAC)およびガラクトシダーゼ(GAL)、P.パストリスグルコース-6-ホスフェートイソメラーゼプロモーター(PPGI)、3-ホスホグリセレートキナーゼプロモーター(PPGK)、グリセロールアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼプロモーター(pGAP)、翻訳伸長因子プロモーター(PTEF)、およびP.パストリスエノラーゼ1(PEN01)のプロモーター、トリオースホスフェートイソメラーゼ(PTPI)、リボソーマルサブユニットタンパク質(PRPS2、PRPS7、PRPS31、PRPL1)、アルコールオキシダーゼプロモーター(PAOX1、PAOX2)または変更された特性を有するそのバリアント、ホルムアルデヒドデヒドロゲナーゼプロモーター(PFLD)、イソシトレートリアーゼプロモーター(PICL)、α-ケトイソカプロエートデカルボキシラーゼプロモーター(PTHI)、ヒートショックタンパク質のファミリーメンバーのプロモーター(PSSA1、PHSP90、PKAR2)、6-ホスホグルコネートデヒドロゲナーゼ(PGND1)、ホスホグリセリン酸ムターゼ(PGPM1)、トランスケトラーゼ(PTKL1)、ホスファチジルイノシトールシンターゼ(PPIS1)、フェロ-02-オキシドレダクターゼ(PFET3)、高親和性鉄透過酵素(PFTR1)、抑制性アルカリホスファターゼ(PPH08)、N-ミリストイルトランスフェラーゼ(PNMT1)、フェロモン反応転写因子(PMCM1)、ユビキチン(PUBI4)、一本鎖DNAエンドヌクレアーゼ(PRAD2)、ミトコンドリア内膜の主要ADP/ATPキャリアのプロモーター(PPET9)(国際公開第2008/128701号)、ならびにギ酸デヒドロゲナーゼ(FMD)プロモーターが挙げられる。
【0079】
好適なプロモーターのさらなる例としては、サッカロミセス・セレビシエエノラーゼ(ENO1)、サッカロミセス・セレビシエガラクトキナーゼ(GAL1)、サッカロミセス・セレビシエアルコールデヒドロゲナーゼ/グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(ADH1、ADH2/GAP)、サッカロマイセス・セレビシエトリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)、サッカロミセス・セレビシエメタロチオネイン(CUP1)、およびサッカロマイセス・セレビシエ3-ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)、ならびにマルターゼ遺伝子プロモーター(MAL)が挙げられる。
【0080】
GAPプロモーター(pGAP)、AOX1(pAOX1)、もしくはAOX2(pAOX2)プロモーター、またはそれらの機能的バリアントでありかつpGAPもしくはpAOX1もしくはpAOX2のいずれかに由来するプロモーターは、特に好ましい。pAOXプロモーターは、メタノールによって誘導することができ、グルコースによって抑制される。詳細には、機能的バリアントは、それらが由来するプロモーターに対して80%、85%、90%、95%、または100%配列同一性の少なくともいずれかを有し、それらが由来するプロモーターと比較して、およそ同じプロモーター活性(例えば、±50%、±40%、±30%、±20%、または±10%のいずれか;しかし、プロモーター活性は向上され得る)を有する。
【0081】
特定の実施形態により、ECPは、メタノール誘導性である。特に、ECPは、メタノール制御される。詳細には、ECPは、メタノール含有細胞培養物において完全に誘導することができる。そのような場合、メタノールは、細胞培養物に供給されるエネルギー源としてだけではなく、ECPを誘導する際にPOI発現を誘導するためにも使用され得る。
【0082】
特定の態様により、ECPは、POIを産生するために炭素源として使用される、細胞培養物中に存在するメタノールの量によってメタノール誘導可能である。詳細には、異種発現カセットによるGOI発現は、メタノール誘導性ECPによって誘導可能である。
【0083】
詳細には、ECPは、メタノール誘導性であり、例えば、細胞培養培地または細胞培養上清中における0.1(v/v)%、0.05(v/v)%、または0.01(v/v)%のいずれか未満である量のメタノールの不在下において抑制される(本明細書において、プロモーター抑制量(promoter-repressing amount)と呼ばれる)。
【0084】
詳細には、ECPは、メタノール誘導性であり、例えば、プロモーター抑制量を、例えば、細胞培養培地または細胞培養上清中における0.1(v/v)%、0.5(v/v)%、1(v/v)%、1.5(v/v)%、2.0(v/v)%、2.5(v/v)%、または3(v/v)%のうちの少なくともいずれかにおいて超える量のメタノールの存在下において誘導される(本明細書において、プロモーター誘導量(promoter-inducing amount)と呼ばれる)。
【0085】
詳細には、ECPは、本明細書において説明される細胞培養方法において使用されるようなメタノール量によって完全に誘導される。ECPプロモーターは、培養条件がほぼ最大の誘導を提供する場合、完全に誘導されると見なされる。
【0086】
細胞培養培地または細胞培養上清中におけるそのような量は、特に、宿主細胞の供給および宿主細胞による消費の際に検出可能であり得る量として、理解される。典型的には、細胞培養物の産生段階にPOIを産生する場合、細胞培養物は、POI産生の間に細胞によって即座に消費される量において補助炭素源を加えることによって供給を受け、その結果、細胞培養培地または細胞培養上清中に全く残留しないかまたは少ない残量のみ、例えば、最大でも1.0g/Lまでの量しか残らない。
【0087】
詳細には、ECPは、宿主細胞に対して内因性であるかまたは異種である。
詳細には、ECPは、以下:
a)配列番号5に対して60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%の配列同一性のうちの少なくともいずれかを含むかまたはそれからなるpAOX1プロモーター;または
b)配列番号6に対して60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、または100%の配列同一性のうちの少なくともいずれかを含むかまたはそれからなるpAOX2プロモーター;または
c)配列番号36~49からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなるプロモーター、
のうちのいずれかである。
【0088】
詳細には、表38に一覧される任意のメタノール誘導性プロモーター、特に、配列番号36~49からなる群から選択されるヌクレオチド配列を含むかまたはそれからなるものが、使用され得る。
【0089】
少なくとも60%の配列同一性によって特徴付けられる機能的pAOX1およびpAOX2プロモーターバリアントが、本明細書において詳細に説明される例示的メタノール誘導性プロモーターによって例示される。例えば、配列番号17(オガタエア・メタノリカJCM 10240のpMOD1プロモーター配列)は、配列番号15と比較して54.0%の配列同一性を有し;配列番号18(オガタエア・メタノリカJCM 10240のpMOD2プロモーター配列)は、配列番号6と比較して53.7%の配列同一性を有する。それぞれpAOX1およびpAOX2プロモーターと比較したpMOD1およびpMOD2プロモーターの配列同一性は、LALIGNバージョン36.3.8g 2017年12月を使用したアラインメントによって特定されており;結果は、同じ配列方向および最も高い重なりにおいて整列された配列を意味している(パラメータ:Matrix:+5/-4;GAP OPEN:-5;Gap Extend:-4;E()Threshold 10.0;Output format:MARKX 0;Graphics:Yes)。
【0090】
さらなる例示的メタノール誘導性プロモーターは、表38に一覧されるか、またはGasserら(Gasser, Steiger, & Mattanovich, 2015, Microb Cell Fact. 14: 196)によって説明されるような、pSHB17、pALD4、pFDH1、pDAS1、pDAS2、pPMP20、pFBA1-2pPMP47、pFLD、pFGH1、pTAL1-2、pDAS2、pCAM1、pPP7435_Chr1-0336である。
【0091】
本明細書において説明されるように、用語「pAOX1」は、配列番号5として特定される配列を含むプロモーター、または配列番号5に対してある特定の相同性(または配列同一性)を有する配列の両方を意味するものである。相同配列は、pAOX1ホモログとも呼ばれる。pAOX1ホモログは、天然の自然に発生する配列であり得るか、または、例えば、変異誘発の任意の好適な方法によって作製された、その変異体であり得る。
【0092】
本明細書において説明されるように、用語「pAOX2」は、配列番号6として特定される配列を含むプロモーター、または配列番号6に対してある特定の相同性(または配列同一性)を有する配列の両方を意味するものである。相同配列は、pAOX2ホモログとも呼ばれる。pAOX2ホモログは、天然の自然に発生する配列であり得るか、または、例えば、変異誘発の任意の好適な方法によって作製された、その変異体であり得る。
【0093】
本明細書において説明されるpAOX1またはpAOX2変異体は、詳細には、匹敵する発現系または産生宿主系において特定されるように、誘導された状態のときのそれぞれ天然のpAOX1またはpAOX2プロモーターと比較して、約0.5倍から、1.1倍、1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.1倍、2.2倍、2.3倍、2.4倍、2.5倍、2.6倍、2.7倍、2.8倍、2.9倍、3倍、3.3倍、3.5倍、3.8倍、4倍、4.5倍、5倍、5.5倍、または少なくとも6倍のうちの少なくともいずれかまで増加されるプロモーター強度によって特徴付けられる。
【0094】
詳細には、プロモーター強度は、基準プロモーターと比較した場合の、モデルタンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質、GFP、例えば、強化されたGFP、すなわちeGFPなど、Gene Bank アクセッション番号U57607)などのPOIの発現レベル、および/または転写強度によって特定される。好ましくは、転写解析は、定量的または準定量的であり、好ましくは、qRT-PCR、DNAマイクロアレイ、RNA配列決定、およびトランスクリプトーム分析を用いる。
【0095】
詳細には、本明細書において説明される組換え宿主細胞は、1つのみまたは複数の異種GOIEC、例えば、発現カセットの複数のコピー、例えば、少なくとも2、3、4、または5コピー(遺伝子コピー数、GCN)を含む。例えば、組換え宿主細胞は、最大で2、3、4、または5までのコピーを含む。各コピーは、同じまたは異なる配列を含み得るかまたはそれらからなり得、ただし、GOIに作動可能に連結されたECPを含む。
【0096】
特定の態様により、異種発現カセットは、自己複製ベクターまたはプラスミドに含まれるか、または宿主細胞の染色体内に統合される。
発現カセットは、宿主細胞内に導入され得、例えば、統合の特異的な部位において、染色体内要素として宿主細胞ゲノム(またはその染色体のいずれか)に統合され得るか、またはランダムに統合され得、その場合、高産生宿主細胞系が選択される。あるいは、当該発現カセットは、染色体外遺伝子要素、例えば、プラスミドまたは人工染色体、例えば、酵母人工染色体(YAC)など、の内に統合され得る。特定の実施例により、当該発現カセットは、ベクター、特に発現ベクター、によって、宿主細胞に導入され、その場合、それらは、好適な形質転換技術によって宿主細胞に導入される。この目的のため、GOIは、発現ベクターにリゲートされ得る。
【0097】
好ましい酵母発現ベクター(好ましくは、酵母での発現のために使用される)は、pPICZ、pGAPZ、pPIC9、pPICZalfa、pGAPZalfa、pPIC9K、pGAPHis、pPUZZLE、またはGoldenPiCSに由来するプラスミドからなる群から選択される。
【0098】
ベクターまたはプラスミドを導入するために宿主細胞をトランスフェクトまたは形質転換する技術は、当分野において周知である。そのような技術は、電気穿孔法、スフェロプラスト、脂質小胞媒介取り込み、ヒートショック媒介取り込み、リン酸カルシウム媒介トランスフェクション(リン酸カルシウム/DNA共沈)、ウイルス感染、特に、改変されたウイルス、例えば、改変されたアデノウイルスを使用するウイルス感染、マイクロインジェクション、および電気穿孔法を含み得る。
【0099】
本明細書において説明される形質転換体は、発現カセット、ベクター、またはプラスミドDNAを宿主に導入すること、および関連タンパク質または選択マーカーを発現する形質転換体を選択することによって得ることができる。宿主細胞は、宿主細胞の形質転換のために慣習的に使用される方法、例えば、電気パルス法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、およびそれらの修正された方法などによって、異種DNAまたは外来DNAを導入するために、処理することができる。P.パストリスは、好ましくは、電気穿孔法によって形質転換される。微生物による組換えDNA断片の取り込みのための形質転換の好ましい方法は、化学形質転換、電気穿孔法、またはプロトプラステーション(protoplastation)による形質転換が挙げられる。
【0100】
特定の態様により、本明細書において説明される異種GOIECは、ポリヌクレオチドの人工融合物、例えば、GOIに作動可能に連結されたECP、および場合により、さらなる配列、例えば、シグナル配列、リーダー配列、またはターミネーター配列など、を含むかまたはそれからなる。
【0101】
詳細には、発現カセットは、GOIに作動可能に連結されたECPを含み、場合によりさらに、分泌されたタンパク質としてPOIを発現し産生するために必要な場合には、シグナル配列およびリーダー配列を含む。
【0102】
特定の態様により、GOIECは、POIの分泌を可能にするシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
詳細には、シグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列は、GOIの5’末端に隣接して融合される。
【0103】
詳細には、シグナルペプチドは、S.セレビシエα接合因子プレプロペプチド由来のシグナル配列、P.パストリス酸性ホスファターゼ遺伝子(PHO1)由来のシグナルペプチド、および細胞外タンパク質X(EPX1)からなる群から選択される(Heiss, S., V. Puxbaum, C. Gruber, F. Altmann, D. Mattanovich & B. Gasser, Microbiology 2015;161(7):1356~68)。
【0104】
詳細には、国際公開第2014067926(A1)号に記載される任意のシグナル配列および/またはリーダー配列、特に配列番号22または配列番号23、
を使用することができる。
【0105】
詳細には、国際公開第2012152823(A1)号に記載されるようなシグナル配列、特に、配列番号24として特定されるS.セレビシエの天然α接合因子のシグナル配列またはその変異体、を使用することができる。
【0106】
特定の態様により、本明細書において説明される宿主細胞は、例えば、タンパク質産生を向上させるために、1つまたは複数のさらなる遺伝子修飾を受け得る。
詳細には、宿主細胞はさらに、プロテアーゼ欠損株、特に、カルボキシペプチダーゼY活性の欠損した株、を生成するために使用されるタンパク質分解活性に影響を及ぼす1つまたは複数の遺伝子を修飾するために操作される。具体例は、国際公開第1992017595(A1)号に記載される。液胞プロテアーゼ、例えば、プロティナーゼAまたはプロティナーゼBなど、における機能が欠損したプロテアーゼ欠損ピキア株のさらなる例が、米国特許第6153424(A)号に記載される。さらなる例は、ade2欠失、および/またはプロテアーゼ遺伝子PEP4およびPRB1の一方または両方の欠失を有するピキア株であり、例えば、ThermoFisher Scientificによって提供される。
【0107】
詳細には、宿主細胞は、国際公開第2010099195(A1)号において開示されるように、PEP4、PRB1、YPS1、YPS2、YMP1、YMP2、YMP1、DAP2、GRHl、PRD1、YSP3、およびPRB3からなる群より選択される機能遺伝子産物、特にプロテアーゼ、をコードする少なくとも1つの核酸配列を改変するように操作される。
【0108】
ヘルパー因子をコードする遺伝子の過剰発現または過小発現は、詳細には、例えば、国際公開第2015158800(A1)号に記載されるように、GOIの発現を増強するために適用される。
【0109】
POIは、真核生物の、原核生物の、または合成の、ぺプチド、ポリペプチド、タンパク質、または宿主細胞の代謝物質のうちのいずれかであり得る。
特定の態様により、POIは、Mut-宿主細胞またはECPに対して異種である。
【0110】
詳細には、POIは、宿主細胞種に対して異種である。
詳細には、POIは、分泌されたペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質であり、すなわち、宿主細胞から細胞培養上清中へ分泌される。
【0111】
詳細には、POIは、真核生物タンパク質であり、好ましくは、哺乳動物由来タンパク質または哺乳動物関連タンパク質、例えば、ヒトタンパク質またはヒトタンパク質配列を含むタンパク質、または細菌性タンパク質または細菌由来タンパク質など、である。
【0112】
好ましくは、POIは、哺乳動物において機能する治療用タンパク質である。
特定の場合において、POIは、多量体タンパク質であり、詳細には、二量体または四量体である。
【0113】
詳細には、POIは、抗原結合性タンパク質、治療用タンパク質、酵素、ペプチド、タンパク質抗生物質、毒素融合タンパク質、炭水化物-タンパク質コンジュゲート、構造タンパク質、調節タンパク質、ワクチン抗原、増殖因子、ホルモン、サイトカイン、プロセシング酵素からなる群から選択されるペプチドまたはタンパク質である。
【0114】
詳細には、抗原結合性タンパク質は、以下: a)抗体または抗体断片、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、Fab、Fd、scFv、ダイアボディ(diabody)、トリアボディ(triabody)、Fv四量体、ミニボディ、またはVH、VHH、IgNARs、もしくはV-NARのような単一ドメイン抗体など;
b)抗体模倣物、例えば、アドネクチン、アフィボディ、アフィリン、アフィマー、アフィチン、アルファボディ、アンチカリン、アビマー、DARPins、フィノマー、クニッツドメインペプチド、モノボディ、またはNanoCLAMPSなど;または
c)1つまたは複数の免疫グロブリンフォールドドメイン、抗体ドメイン、または抗体模倣物を含む融合タンパク質
からなる群より選択される。
【0115】
特定のPOIは、抗原結合性分子、例えば、抗体、またはその断片、特に、抗原結合性ドメインを含む抗体断片など、である。中でも特に、特定のPOIは、抗体、例えば、モノクローナル抗体(mAbs)、免疫グロブリン(Ig)または免疫グロブリンクラスG(IgG)、重鎖抗体(HcAb’s)、またはその断片、例えば、抗原結合性断片(Fab)、Fd、単鎖可変断片(scFv)、または操作されたそのバリアント、例えば、Fv二量体(ダイアボディ)、Fv三量体(トリアボディ)、Fv四量体、またはミニボディ、ならびにVH、VHH、IgNARs、またはV-NARのような単一ドメイン抗体、または免疫グロブリンフォールドドメインを含む任意のタンパク質である。さらなる抗原結合性分子は、抗体模倣物、または(代替)足場タンパク質、例えば、操作されたクニッツドメイン、アドネクチン、アフィボディ、アフィリン、アンチカリン、またはDARPinsから選択され得る。
【0116】
特定の態様により、POIは、例えば、BOTOX、マイオブロック(Myobloc)、ナーブロック(NeuroBloc)、ディスポート(Dysport)(または、ボツリヌス神経毒素の他のセロタイプ)、アルグルコシダーゼアルファ、ダプトマイシン、YH-16、コリオゴナドトロピンアルファ、フィルグラスチム、セトロレリクス、インターロイキン-2、アルデスロイキン、テセロイキン(teceleulin)、デニロイキンジフチトクス、インターフェロンアルファ-n3(注射剤)、インターフェロンアルファ-nl、DL-8234、インターフェロン、サントリー(ガンマ-1a)、インターフェロンガンマ、チモシンアルファ1、タソネルミン、DigiFab、ViperaTAb、EchiTAb、CroFab、ネシリチド、アバタセプト、アレファセプト、レビフ、エプトテルミンアルファ、テリパラチド(骨粗鬆症)、カルシトニン注射剤(骨疾患)、カルシトニン(経鼻、骨粗鬆症)、エタネルセプト、ヘモグロビングルタマー250(ウシ)、ドロトレコギンアルファ、コラゲナーゼ、カルペリチド、組換えヒト上皮成長因子(局所ゲル、創傷の治癒)、DWP401、ダルベポエチンアルファ、エポエチンオメガ、エポエチンベータ、エポエチンアルファ、デシルジン、レピルジン、ビバリルジン、ノナコグアルファ、モノニン、エプタコグアルファ(活性型)、組換え第VIII因子+VWF、リコンビナート(Recombinate)、組換え第VIII因子、第VIII因子(リコンビナート)、アルフマート(Alphnmate)、オクトコグアルファ、第VIII因子、パリフェルミン、インジキナーゼ、テネクテプラーゼ、アルテプラーゼ、パミテプラーゼ、レテプラーゼ、ナテプラーゼ、モンテプラーゼ、フォリトロピンアルファ、rFSH、hpFSH、ミカファンギン、ペグフィルグラスチム、レノグラスチム、ナルトグラスチム、セルモレリン、グルカゴン、エキセナチド、プラムリンチド、イミグルセラーゼ(iniglucerase)、ガルスルファーゼ、ロイコトロピン、モルグラモスチム(molgramostirn)、トリプトレリン酢酸塩、ヒストレリン(皮下インプラント、ヒドロン)、デスロレリン、ヒストレリン、ナファレリン、ロイプロリド徐放性デポー剤(ATRIGEL)、ロイプロリドインプラント(DUROS)、ゴセレリン、ユートロピン、KP-102プログラム、成長ホルモン、メカセルミン(成長不全)、エンフビルチド(enlfavirtide)、Org-33408、インスリングラルギン、インスリングルリジン、インスリン(吸入)、インスリンリスプロ、インスリンデテミル(insulin deternir)、インスリン(頬、ラピッドミスト)、メカセルミンリンファバート、アナキンラ、セルモロイキン、99 mTc-アプシタイド注射、ミエロピド、ベタセロン、グラチラマー酢酸塩、ゲポン、サルグラモスチム、オプレルベキン、ヒト白血球由来アルファインターフェロン、ビリブ、インスリン(組換え体)、組換えヒトインスリン、インスリンアスパルト、メカセルミン(mecasenin)、ロフェロン-A、インターフェロン-アルファ2、アルファフェロン、インターフェロンアルファコン-1、インターフェロンアルファ、「アボネックス」組換えヒト黄体形成ホルモン、ドルナーゼアルファ、トラフェルミン、ジコノチド、タルチレリン、ジボテルミンアルファ、アトシバン、ベカプレルミン、エプチフィバチド、ゼマイラ、CTC-111、シャンバック-B、HPVワクチン(四価)、オクトレオチド、ランレオチド、アンセスチム(ancestirn)、アガルシダーゼ ベータ、アガルシダーゼアルファ、ラロニダーゼ、酢酸プレザチド銅(局所ゲル)、ラスブリカーゼ、ラニビズマブ、アクティミューン、PEG-イントロン、トリコミン、組換え家塵ダニアレルギー減感作注射、組換えヒト副甲状腺ホルモン(PTH)1-84(皮下、骨粗鬆症)、エポエチンデルタ、トランスジェニックアンチトロンビンIII、グランジトロピン、ビトラーゼ、組換えインスリン、インターフェロン-アルファ(経口トローチ)、GEM-21S、バプレオチド、イデュルスルファーゼ、オマパトリラト(omnapatrilat)、組換え血清アルブミン、セルトリズマブペゴル、グルカルピダーゼ、ヒト組換えC1エステラーゼ阻害剤(血管性水腫)、ラノテプラーゼ、組換えヒト成長ホルモン、エンフビルチド(無針注射Biojector2000)、VGV-1、インターフェロン(アルファ)、ルシナクタント、アビプタジル(吸入、肺疾患)、イカチバント、エカランチド、オミガナン、オーログラブ、ペキシガナン酢酸塩、アディPEG20、LDI-200、デガレリクス、シントレデキンベスドトクス(cintredelinbesudotox)、Favld、MDX-1379、ISAtx-247、リラグルチド、テリパラチド(骨粗鬆症)、チファコギン、AA4500、T4N5リポソームローション、カツマキソマブ、DWP413、ART-123、クリサリン、デスモテプラーゼ、アメジプラーゼ、コリフォリトロピンアルファ、Th-9507、テデュグルチド、ダイアミド、DWP-412、成長ホルモン(徐放性注射)、組換えG-CSF、インスリン(吸入、AIR)、インスリン(吸入、テクノスフィア)、インスリン(吸入、AERx)、RGN-303、DiaPep277、インターフェロンベータ(C型肝炎ウイルス感染症(HCV))、インターフェロンアルファ-n3(経口)、ベラタセプト、経皮インスリンパッチ、AMG-531、MBP-8298、キセレセプト、オペバカン、AIDSVAX、GV-1001、リンホスキャン、ランピルナーゼ、リポキシサン、ルスプルチド、MP52(ベータ-リン酸三カルシウムキャリア、骨再生)、黒色腫ワクチン、シプロイセル-T、CTP-37、インセジア、ビテスペン、ヒトトロンビン(凍結、外科出血)、トロンビン、TransMID、アルフィメプラーゼ、プリカーゼ、テルリプレシン(静脈内、肝腎症候群)、EUR-1008M、組換えFGF-I(注射剤、血管性疾患)、BDM-E、ロチガプチド、ETC-216、P-113、MBI-594AN、ズラマイシン(吸入、嚢胞性繊維症)、SCV-07、OPI-45、エンドスタチン、アンギオスタチン、ABT-510、ボウマンバーク阻害剤濃縮物、XMP-629、99 mTc-Hynic-アネキシンV、カハラリドF、CTCE-9908、テベレリクス(徐放性)、オザレリクス、ロミデプシン(rornidepsin)、BAY-504798、インターロイキン4、PRX-321、ペップスキャン、イボクタデキン、rhラクトフェリン、TRU-015、IL-21、ATN-161、シレンギチド、アルブフェロン、ビファシクス、IRX-2、オメガインターフェロン、PCK-3145、CAP-232、パシレオチド、huN901-DMI、卵巣癌免疫治療ワクチン、SB-249553、オンコバックス-CL、オンコバックス-P、BLP-25、セルバックス-16、マルチエピトープペプチド黒色腫ワクチン(MART-1、gp100、チロシナーゼ)、ネミフィチド、rAAT(吸入)、rAATは(皮膚科学用)、CGRP(吸入、喘息)、ペグスネルセプト、サイモシンベータ4、プリチデプシン、GTP-200、ラモプラニン、GRASPA、OBI-1、AC-100、サケカルシトニン(経口、エリゲン)、カルシトニン(経口、骨粗鬆症)、エキサモレリン、カプロモレリン、カルデバ、ベラフェルミン、131I-TM-601、KK-220、T-10、ウラリチド、デペレスタット、ヘマタイド、クリサリン(局所)、rNAPc2、組換え第VIII因子(PEG化リポソーム)、bFGF、PEG化組換えスタフィロキナーゼバリアント、V-10153、ソノリシスプロリーゼ、ニューロバックス、CZEN-002、膵島細胞ネオゲネシス療法、rGLP-1、BIM-51077、LY-548806、エキセナチド(徐放性、メディソルブ)、AVE-0010、GA-GCB、アボレリン、ACM-9604、リナクロチド酢酸塩(linaclotid eacetate)、CETi-1、ヘモスパン、VAL(注射剤)、速効性インスリン(注射剤、ヴィアデル)、鼻腔内インスリン、インスリン(吸入)、インスリン(経口、エリゲン)、組換えメチオニルヒトレプチン、ピトラキンラ(皮下注射、湿疹)、ピトラキンラ(吸入粉末剤、アストマ)、マルチカイン、RG-1068、MM-093、NBI-6024、AT-001、PI-0824、Org-39141、Cpn10(自己免疫疾患/炎症)、タラクトフェリン(局所)、rEV-131(点眼剤)、rEV-131(呼吸器疾患)、経口組換えヒトインスリン(糖尿病)、RPI-78M、オプレルベキン(経口)、CYT-99007 CTLA4-Ig、DTY-001、バラテグラスト、インターフェロンアルファ-n3(局所)、IRX-3、RDP-58、タウフェロン、胆汁酸塩刺激リパーゼ、メリスパーゼ、アラリン(alaline)ホスファターゼ、EP-2104R、メラノタン-II、ブレメラノチド、ATL-104、組換えヒトマイクロプラスミン、AX-200、SEMAX、ACV-1、Xen-2174、CJC-1008、ダイノルフィンA、SI-6603、LAB GHRH、AER-002、BGC-728、マラリアワクチン(ビロゾーム、PeviPRO)、ALTU-135、パルボウイルスB19ワクチン、インフルエンザワクチン(組換えノイラミニダーゼ)、マラリア/HBVワクチン、脾脱疽ワクチン、Vacc-5q、Vacc-4x、HIVワクチン(経口)、HPVワクチン、Tatトキソイド(Tat Toxoid)、YSPSL、CHS-13340、PTH(1-34)、リポソームクリーム(Novasome)、オスタボリン-C(Ostabolin-C)、PTH類似体(局所、乾癬)、MBRI-93.02、MTB72Fワクチン(結核)、MVA-Ag85Aワクチン(結核)、FARA04、BA-210、組換えペストFIVワクチン、AG-702、OxSODrol、rBetV1、Der-p1/Der-p2/Der-p7アレルゲン標的ワクチン(塵性ダニアレルギー)、PR1ペプチド抗原(白血病)、変異体rasワクチン、HPV-16E7リポペプチドワクチン、ラビリンチンワクチン(腺癌)、CMLワクチン、WT1-ペプチドワクチン(癌)、IDD-5、CDX-110、ペントリス(Pentrys)、ノレリン(Norelin)、CytoFab、P-9808、VT-111、イクロカプチド、テルベルミン(皮膚科学用、糖尿病の足部潰瘍)、ルピントリビル、レティキュロース、rGRF、HA、αガラクトシダーゼA、ACE-011、ALTU-140、CGX-1160、アンジオテンシン治療ワクチン、D-4F、ETC-642、APP-018、rhMBL、SCV-07(経口、結核)、DRF-7295、ABT-828、ErbB2特異的免疫毒素複合体(抗癌)、DT3SSIL-3、TST-10088、PRO-1762、コンボトックス(Combotox)、コレシストキニン-B/ガストリン受容体結合ペプチド、111In-hEGF、AE-37、トラスツズマブ(trasnizumab)-DM1、アンタゴニストG、IL-12(組換え体)、PM-02734、IMP-321、rhIGF-BP3、BLX-883、CUV-1647(局所)、L-19に基づく放射免疫療法(癌)、Re-188-P-2045、AMG-386、DC/1540/KLHワクチン(癌)、VX-001、AVE-9633、AC-9301、NY-ESO-1ワクチン(ぺプチド)、NA17.A2ペプチド、黒色腫ワクチン(パルス式抗原治療)、前立腺癌ワクチン、CBP-501、組換えヒトラクトフェリン(ドライアイ)、FX-06、AP-214、WAP-8294A(注射剤)、ACP-HIP、SUN-11031、ペプチドYY[3-

36](肥満、経鼻)、FGLL、アタシセプト、BR3-Fc、BN-003、BA-058、ヒト上皮小体ホルモン1-34(鼻腔、骨粗鬆症)、F-18-CCR1、AT-1100(小児脂肪便症/糖尿病)、JPD-003、PTH(7-34)、リポソームクリーム(Novasome)、ズラマイシン(眼科、ドライアイ)、CAB-2、CTCE-0214、グリコPEG化エリスロポエチン、EPO-Fc、CNTO-528、AMG-114、JR-013、第XIII因子、アミノカンジン、PN-951、716155、SUN-E7001、TH-0318、BAY-73-7977、テベレリクス(即時放出)、EP-51216、hGH(制御放出、Biosphere)、OGP-I、シフビルチド、TV4710、ALG-889、Org-41259、rhCC10、F-991、チモペンチン(肺疾患)、r(m)CRP、肝臓選択性インスリン、スバリン、L19-IL-2融合タンパク質、エラフィン、NMK-150、ALTU-139、EN-122004、rhTPO、トロンボポイエチン受容体アゴニスト(血小板減少性疾患)、AL-108、AL-208、神経成長因子アンタゴニスト(疼痛)、SLV-317、CGX-1007、INNO-105、経口テリパラチド(エリゲン)、GEM-OS1、AC-162352、PRX-302、LFn-p24融合ワクチン(Therapore)、EP-1043、S肺炎小児用ワクチン、マラリアワクチン、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)B群ワクチン、新生児用B群連鎖球菌ワクチン、脾脱疽ワクチン、HCVワクチン(gpE1+gpE2+MF-59)、中耳炎療法、HCVワクチン(コア抗原+ISCOMATRIX)、hPTH(1-34)(経皮、ViaDerm)、768974、SYN-101、PGN-0052、アビスクムミン、BIM-23190、結核ワクチン、マルチエピトープ・チロシナーゼペプチド、癌ワクチン、エンカスチム、APC-8024、GI-5005、ACC-001、TTS-CD3、血管標的TNF(固形腫瘍)、デスモプレシン(バッカル制御放出)、オネルセプト、またはTP-9201、アダリムマブ(HUMIRA)、インフリキシマブ(REMICADE(商標))、リツキシマブ(RITUXAN(商標)/MAB THERA(商標))、エタネルセプト(ENBREL(商標))、ベバシズマブ(AVASTIN(商標))、トラスツズマブ(HERCEPTIN(商標))、ペグフィルグラスチム(pegrilgrastim)(NEULASTA(商標))、または後発生物製剤およびバイオベターを含む任意の他の好適なポリペプチドである。
【0117】
特定の態様により、発酵産物が、細胞培養物から単離され、この場合、発酵産物は、Mut-宿主細胞から得られたPOIまたは宿主細胞代謝物質を含む。
特定の態様により、Mut-宿主細胞は、ピキア属、コマガタエラ属、ハンゼヌラ属、オガタエア属、またはカンジダ属の酵母細胞である。
【0118】
詳細には、Mut-宿主細胞は、ピキア属種、例えば、ピキア・パストリスピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)、ピキア・クルイベリ(Pichia kluyveri,)、およびピキア・アンガスタ(Pichia angusta)など;コマガタエラ属種、例えば、コマガタエラ・パストリス、コマガタエラ・シュードパストリス、またはコマガタエラ・ファフィなど、ハンゼヌラ属種、例えば、ハンゼヌラ・ポリモアファなど、オガタエア属種、例えば、オガタエア・ポリモルファまたはオガタエア・パラポリモルファなど、ならびにカンジダ属種、例えば、カンジダ・ユチリス(Candida utilis)、カンジダ・カカオイ(Candida cacaoi)、およびカンジダ・ボイディニ(Candida boidinii)など、からなる群から選択される酵母の菌株に由来する。
【0119】
好ましいのは、ピキア・パストリス種である。詳細には、宿主細胞は、CBS704、CBS2612、CBS7435、CBS9173-9189、DSMZ70877、X-33、GS115、KM71、KM71HおよびSMD1168からなる群から選択されるピキア・パストリス株である。
【0120】
供給源:CBS704(=NRRL Y-1603=DSMZ 70382)、CBS2612(=NRRL Y-7556)、CBS7435(=NRRL Y-11430)、CBS 9173-9189(CBS株:CBS-KNAW菌類生物多様性センター、Centraalbureau voor Schimmelculturen、ユトレヒト、オランダ)、およびDSMZ 70877(ドイツ微生物細胞培養コレクション(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures));Invitrogenの菌株、例えば、X-33、GS115、KM71、KM71HおよびSMD1168など。
【0121】
特定の態様により、本発明は、目的のタンパク質(POI)を産生する方法であって、POIを産生するための炭素源としてメタノールを、特に、ECPのメタノール誘導のため(だけ)ではなくエネルギー源としての使用のためのそのようなメタノール量を、使用して、本明細書において説明されるMut-宿主細胞を培養するステップを含む方法を提供する。
【0122】
特定の態様により、方法は、POIを産生するための炭素源としてメタノールを使用してMut-宿主細胞を培養するステップを含み、この場合、Mut-宿主細胞は、
目的のタンパク質(POI)をコードする目的の遺伝子(GOI)に作動可能に連結した発現カセットプロモーター(ECP)を含む異種目的遺伝子発現カセット(GOIEC)を含み、この場合、
Mut-宿主細胞は、1つまたは複数の遺伝子修飾の前の宿主細胞と比較して、第1および第2の内因性遺伝子の発現を減少させるために、1つまたは複数の遺伝子修飾によって操作され、その場合、
a)第1の内因性遺伝子は、配列番号1として特定されるアミノ酸配列を含むアルコールオキシダーゼ1(AOX1)またはそのホモログをコードし、ならびに
b)第2の内因性遺伝子は、配列番号3として特定されるアミノ酸配列を含むアルコールオキシダーゼ2(AOX2)またはそのホモログをコードする。
【0123】
詳細には、Mut-宿主細胞は、単一の炭素源として、または他の炭素源(例えば、炭水化物)との組み合わせにおいて、特に、例えば、増殖および/またはPOI産生(合成)などのためのエネルギー源として、メタノールを使用して培養される。
【0124】
詳細には、そのような他の炭素源(本明細書において「非メタノール炭素源」とも呼ばれる)は、炭水化物である。
詳細には、非メタノール炭素源は、糖、ポリオール、アルコール、または先述のうちの任意の1つまたは複数の混合物から選択される。
【0125】
詳細には、糖は、単糖、例えば、ヘキソースなど、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、もしくはマンノース、または二糖、例えば、ショ糖など;またはアルコールもしくはポリオール、例えば、エタノール、もしくは任意のジオールもしくはトリオール、例えば、グリセロール、または先述のうちの任意のいずれかの混合物、のうちの任意の1つもしくは複数であり得る。本明細書において説明される炭素源として使用されるメタノール量に加えて、任意のそのような非メタノール炭素源を、追加的に、POIを産生する量において細胞培養で使用してもよい。
【0126】
特定の実施形態により、Mut-宿主細胞の細胞系が培養される。
詳細には、細胞系は、バッチ培養、流加バッチ培養、または連続培養条件下において培養される。培養は、マイクロタイタープレート、振盪フラスコ、またはバイオリアクターにおいて実施され得、場合により、第一ステップとしてバッチ段階(batch phase)によって開始され、その後に、第二ステップとして流加バッチ段階(fed-batch phase)または連続培養段階(continuous culture phase)が続く。
【0127】
特定の態様により、本明細書において説明される方法は、増殖段階(growing phase)および産生段階(production phase)を含む。
詳細には、方法は、以下のステップ:
a)増殖条件下において宿主細胞を培養するステップ(増殖段階または「成長段階(growth phase)」);および、さらなるステップ
b)POIを産生するためにGOIが発現される、炭素源としてのメタノールの存在下での増殖制限条件下において宿主細胞を培養するステップ(産生段階)
を含む。
【0128】
詳細には、第二ステップb)は、第一ステップa)の後に続く。
詳細には、
a)Mut-宿主細胞が、エネルギー源として基礎炭素源を使用して培養される、増殖段階;の後に、
b)Mut-宿主細胞が、メタノール供給を使用して培養され、その結果、POIを産生する、産生段階、
が続く。
【0129】
詳細には、宿主細胞は、例えば、場合により炭素源の量が消費されるまでの、細胞培養における宿主細胞の増殖を可能にするのに十分な量において、第1の炭素源を含む細胞培養培地において、増殖条件下の第一ステップにおいて培養され、さらなる培養ステップは、増殖制限条件下であり得る。
【0130】
詳細には、第2の炭素源は、メタノールおよび場合により1つまたは複数のさらなる炭素源(メタノール以外)であり、第二炭素源は、補助炭素源(supplemental carbon source)と呼ばれる。
【0131】
詳細には、基礎炭素源および/または補助炭素源(メタノールに加えて)は、糖、ポリオール、アルコール、または先述のうちの任意の1つまたは複数の混合物から選択することができる。
【0132】
特定の実施形態により、基礎炭素源は、補助炭素源とは異なっており、例えば、量的および/または質的に異なる。量的な違いは、典型的には、ECPプロモーター活性を抑制または誘導するための異なる条件を提供する。
【0133】
さらなる特定の実施形態により、基礎炭素源および補助炭素源は、同じタイプの分子または炭水化物を、好ましくは異なる濃度において含む。さらなる特定の実施形態により、炭素源は、2つ以上の異なる炭素源の混合物である。
【0134】
任意のタイプの有機炭素源、特に、宿主細胞培養、特に真核生物宿主細胞培養のために典型的に使用されるものが使用され得る。特定の実施形態により、炭素源は、ヘキソース、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、もしくはマンノースなど、二糖、例えば、ショ糖など、アルコール、例えば、グリセロールもしくはエタノールなど、またはそれらの混合物である。
【0135】
特定の好ましい実施形態により、基礎炭素源は、グルコース、グリセロール、エタノール、またはそれらの混合物からなる群から選択される。好ましい実施形態により、基礎炭素源は、グリセロールである。
【0136】
さらなる特定の実施形態により、補助炭素源は、(メタノールに加えて)、ヘキソース、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、およびマンノースなど、二糖、例えば、ショ糖など、アルコール、例えば、グリセロールもしくはエタノールなど、またはそれらの混合物を含む。好ましい実施形態により、補助炭素源は、メタノールに加えてグルコースを含む。
【0137】
両方の培養ステップは、詳細には、炭素源の存在下において細胞系を培養するステップを含む。
詳細には、成長段階(ステップa))の培養は、バッチ段階において実施され;ならびに産生段階(ステップb))の培養は、流加バッチ段階または連続培養段階において実施される。
【0138】
詳細には、宿主細胞は、特に、産生段階において細胞培養を維持するときに完全に消費される量のみの炭素源を含む、規定された最小限の培地を供給することによって炭素源を制限しつつ、高い増殖速度の段階の間は、基礎炭素源を含む炭素源リッチな培地において増殖され(増殖条件下において)、ステップa)(例えば、最大増殖速度の少なくとも50%、または少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、少なくとも99%、または最高で最大増殖速度までにおいて)、ならびに低い増殖速度の段階の間、POIを産生する(増殖抑制条件下)、ステップb)(例えば、最大増殖速度の90%未満、好ましくは80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、または40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、または0.2%未満))。
【0139】
詳細には、特に、産生段階の間、宿主細胞培養において、詳細には、細胞培養培地または細胞培養上清において、0.5(v/v)%、0.55(v/v)%、0.6(v/v)%、0.65(v/v)%、0.7(v/v)%、0.75(v/v)%、0.8(v/v)%、0.85(v/v)%、0.9(v/v)%、0.95(v/v)%、または1.0(v/v)%のうちの少なくともいずれか、例えば、最高でも3(v/v)%、2.5(v/v)%、2(v/v)%、1.5(v/v)%、または1(v/v)%のいずれか、の平均メタノール濃度が使用される。
【0140】
詳細には、平均メタノール濃度は、少なくとも24時間にわたる産生段階の間、好ましくは、0.1(v/v)%、0.5(v/v)%、1(v/v)%、1.5(v/v)%、2(v/v)%、2.5(v/v)%、または3(v/v)%のうちの少なくといずれかに維持される。
【0141】
特定の実施形態により、平均メタノール濃度は、少なくとも24時間にわたる産生段階の間、0.5~2(v/v)%である。
平均量または平均濃度は、細胞培養物において、特に、細胞培養培地または細胞培養上清において、観察期間の少なくとも開始時および終了時、観察期間の間、例えば、少なくとも24時間毎に、または連続測定毎に、測定したときのメタノール濃度の合計を測定回数で割ることによって、計算することができる。
【0142】
細胞培養物中のメタノール濃度は、HPLCのような好適な標準的アッセイを使用して測定することができ、例えば、細胞培養による消費における培養培地中の残留濃度として特定することができる。
【0143】
詳細には、メタノール供給は、産生段階の間、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、または15mgメタノール/(g乾燥バイオマス*時)、またはそれ以上のうちの少なくともいずれか、例えば、2~20または2~15mgメタノール/(g乾燥バイオマス*時)、の平均供給速度である。
【0144】
メタノールは、1回でまたは複数回に分割して、例えば、1回または複数回の注射によって、細胞培養物に加えられ得るか、または、POIを産生するある特定の期間に連続的に加えられ得る。平均量は、観察期間における全てのメタノール添加の合計を、平均総乾燥バイオマスおよび観察期間の所要時間で割ることによって、計算することができる。平均総乾燥バイオマスは、観察期間の少なくとも開始時および終了時、場合により観察期間の間に、乾燥バイオマス濃度を測定することによって計算される。次いで、乾燥バイオマス濃度は、観察期間の開始時と終了時との間において補間される。補間された乾燥バイオマス濃度は、各間隔において反応器の容積を掛けられ、全ての間隔に対する計算値が合計され、間隔の数で割られる。間隔の所要時間は、1時間以下である。
【0145】
詳細には、平均供給速度は、少なくとも24時間の産生段階の間、好ましくは、2mg、3mg、4mg、5mg、6mg、7mg、8mg、9mg、10mg、11mg、12mg、13mg、14mg、または15mgメタノール/(g乾燥バイオマス*時)、またはそれ以上のうちの少なくともいずれか、例えば、2~20または2~15mgメタノール/(g乾燥バイオマス*時)、に維持される。
【0146】
観察期間は、本明細書において、細胞培養がPOIを産生しているある特定の期間として理解され、特に、産生段階、特に、流加バッチ法または連続細胞培養法の産生段階として理解される。実際のPOI産生プロセスまたは産生段階は、観察期間よりも長い場合があるが、平均量は、定義された観察期間の間において計算される。
【0147】
詳細には、POI産生プロセスの所要時間は、10時間から500時間である。
詳細には、バッチ段階は、およそ10時間から36時間において実施される。
用語「およそ(around)」は、培養時間に関連する場合、+/-5%または+/-10%を意味するものである。
【0148】
例えば、およそ10時間から36時間の特定のバッチ実行時間は、18時間から39.6時間、詳細には、19時間から37.8時間であり得る。
特定の実施形態により、バッチ段階は、バッチ培地における基礎炭素源として10g/Lから50g/Lのグリセロール、詳細には、20g/Lから40g/Lグリセロールを使用して実施され、培養は、25℃でおよそ27時間から30時間、もしくは30℃でおよそ23時間から36時間、または25℃から30℃の間の任意の温度で23時間から36時間の培養時間において実施される。バッチ培地中のグリセロール濃度を下げると、バッチ段階の長さが減少し、バッチ培地中のグリセロールを増加させると、バッチ段階はさらに長引くであろう。グリセロールの代替として、グルコースを、例えば、およそ同じ量において使用することができる。
【0149】
バッチ段階の後に流加バッチ段階が続く、細胞培養およびPOI発現の典型的な系において、流加バッチ段階の培養は、およそ15時間から100時間、およそ15時間から80時間、およそ15時間から70時間、およそ15時間から60時間、およそ15時間から50時間、およそ15時間から45時間、およそ15時間から40時間、およそ15時間から35時間、およそ15時間から30時間、およそ15時間から35時間、およそ15時間から25時間、またはおよそ15時間から20時間のうちのいずれかにおいて;好ましくはおよそ20時間から40時間において、実施される。詳細には、流加バッチ段階の培養は、およそ100時間、およそ80時間、およそ70時間、およそ60時間、およそ55時間、およそ50時間、およそ45時間、およそ40時間、およそ35時間、およそ33時間、およそ30時間、およそ25時間、およそ20時間、またはおよそ15時間のうちのいずれかにおいて、実施される。
【0150】
詳細には、容積特異的産物形成速度(rP)は、単位容積(L)および単位時間(h)あたりに形成される産物の量(mg)(mg(Lh)-1)である。容積特異的産物形成速度は、空時収量(space time yield:STY)または容積生産性(volumetric productivity)とも呼ばれる。
【0151】
詳細には、本明細書において説明される方法の流加バッチ培養は、約30mg(Lh)-1(30mg(Lh)-1+/-5%または+/-10%)の空時収量となるように実施される。詳細には、約30mg(Lh)-1の空時収量は、約30時間以内の流加バッチにおいて、詳細には、33時間、32時間、31時間、30時間、29時間、28時間、27時間、26時間、または25時間未満のうちの少なくともいずれかの流加バッチ時間以内において、27、28、29、30、31、32、または33mg(Lh)-1のうちの少なくともいずれかを達成することができる。
【0152】
詳細には、POIは、例えば、最大増殖速度未満の増殖速度、典型的には、細胞の最大増殖速度の90%未満、好ましくは80%未満、70%未満、60%未満、50%未満、40%未満、30%未満、20%未満、10%未満、5%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、または0.2%未満において細胞系を培養することによってなど、増殖制限条件下での産生段階に発現される。典型的には、最大増殖速度は、宿主細胞の各タイプに対して個別に特定される。
【0153】
特定の態様により、Mut-宿主細胞は、宿主細胞の増殖を10%未満、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、または1%未満(w/wバイオマス)のいずれかに制限する条件下において、産生段階の間に培養される。
【0154】
詳細には、産生段階は、0.0001h-1から0.2時-1、好ましくは0.005h-1から0.15h-1の範囲内の特定の増殖速度を維持するような増殖制限量において補助炭素源を提供する供給培地を用いる。
【0155】
特定の態様により、本発明は、発酵産物を製造する方法における、組換えメタノール利用経路欠損メチロトローフ酵母(Mut-)宿主細胞の使用であって、方法が、Mut-宿主細胞がアルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)のための基質としてメタノールを使用すること、および発酵産物を製造することができる条件下において、(Mut-)宿主細胞を培養するステップを含む、使用を提供する。
【0156】
詳細には、Mut-宿主細胞は、アルコールオキシダーゼ1(AOX1)およびアルコールオキシダーゼ2(AOX2)を欠損している。
詳細には、Mut-宿主細胞において、アルコールオキシダーゼ1(AOX1)およびアルコールオキシダーゼ2(AOX2)をコードする遺伝子は、ノックアウトされるかまたは欠失される。
【0157】
特定の態様により、本発明は、発酵産物を製造する方法における、組換えメタノール利用経路欠損メチロトローフ酵母(Mut-)宿主細胞の使用であって、方法が、Mut-宿主細胞が炭素源としてメタノールを使用して発酵産物を産生することができる条件下において、(Mut-)宿主細胞を培養するステップを含み、Mut-宿主細胞が、
a)1つまたは複数の遺伝子修飾の前の宿主細胞と比較して、第1および第2の内因性遺伝子の発現を減少させるための1つまたは複数の遺伝子修飾であって、
i.第1の内因性遺伝子が、配列番号1として特定されるアミノ酸配列を含むアルコールオキシダーゼ1(AOX1)またはそのホモログをコードし、ならびに
ii.第2の内因性遺伝子が、配列番号3として特定されるアミノ酸配列を含むアルコールオキシダーゼ2(AOX2)またはそのホモログをコードする、
1つまたは複数の遺伝子修飾、ならびに、
b)アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)遺伝子の発現を増加させるための1つまたは複数の遺伝子修飾であって、ADH2遺伝子が、アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH2)をコードする、1つまたは複数の遺伝子修飾
によって操作される、使用を提供する。
【0158】
特定の態様により、本発明は、宿主細胞において目的のタンパク質(POI)を産生する方法であって、以下のステップ:
a)それぞれAOX1およびAOX2をコードする第1および第2の遺伝子の発現を減少させる(過小発現)ように宿主細胞を遺伝子操作するステップ;
b)ADH2をコードする遺伝子の発現を増加させる(過剰発現)ように宿主細胞を遺伝子操作するステップ;
c)発現カセットプロモーター(ECP)の制御下においてPOIをコードする目的の遺伝子(GOI)を含む異種発現カセットを宿主細胞に導入するステップ;
d)炭素源としてメタノールを使用してPOIを産生する条件下において宿主細胞を培養し、それにより、特に、増殖および/またはPOI産生のためのエネルギーを供給するステップ;
e)場合により、POIを細胞培養物から単離するステップ;および
f)場合により、POIを精製するステップ
を含む方法を提供する。
【0159】
詳細には、本明細書において説明される方法のステップa)は、ステップb)の前、後、または同時に実施される。
詳細には、本明細書において説明される方法のステップa)およびb)は、ステップc)の前、後、または同時に実施される。
【0160】
特定の態様により、宿主細胞は、最初、POIを産生するために操作される前に、それぞれAOX1およびAOX2をコードする第1および第2遺伝子の発現を減少させるように、およびADH2をコードする遺伝子の発現を増加させるように、遺伝子操作される。特定の実施例により、野生型宿主細胞は、本明細書において説明される方法のステップa)およびb)に従って遺伝子修飾される。詳細には、宿主細胞は、それぞれAOX1およびAOX2をコードする第1および第2遺伝子の低減のため、およびADH2をコードする遺伝子の発現を増加させるために、1つまたは複数の遺伝子修飾を野生型宿主細胞株に導入する際に提供される。
【0161】
さらなる態様により、宿主細胞は、最初に、それぞれAOX1およびAOX2をコードする第1および第2の遺伝子を減少させるため、およびADH2をコードする遺伝子の発現を増加させるためにさらに遺伝子修飾される前に、異種または組換えPOIを産生するように操作される。特定の実施例により、野生型宿主細胞は、最初に、POI産生のための発現カセットを含むように操作され得る。そのような操作された宿主細胞は、次いで、それぞれAOX1およびAOX2をコードする第1および第2の遺伝子を減少させるため、およびADH2をコードする遺伝子の発現を増加させるために、さらに改変され得る。
【0162】
さらなる態様により、宿主細胞は、操作ステップ、例えば、POI産生のために操作するステップ、ならびに、それぞれAOX1およびAOX2をコードする第1および第2遺伝子の低減のため、および、同時にADH2をコードする遺伝子の発現を増加させるために遺伝子修飾するステップ、すなわち、1つの方法ステップにおいて、例えば、1つまたは複数の反応混合物においてそれぞれ発現カセット、試薬、およびツールを用いるステップ、を受ける。
【0163】
詳細には、方法は、本明細書において詳細に説明されるような組換えMut-宿主細胞を生成するための方法ステップを用いる。
詳細には、異種発現カセットは、本明細書において詳細に説明されるようなECPを含む。
【0164】
詳細には、POIは、適切な培地においてMut-宿主細胞を培養すること、培養ステップの間にメタノールを含む細胞培養産生培地を使用してPOIを産生すること、および、細胞を分離する際に、発現したPOIを細胞培養物、特に、細胞培養上清または培地から単離すること、ならびに、場合によりPOIを、発現した産物にとって適切な方法で精製すること、によって産生することができる。
それにより、精製されたPOI調製物を作製することができる。
【0165】
驚くべきことに、Mut-宿主細胞は、メタノールに鈍感で、効率的に取り込むことができ、POI産生のためのエネルギーを提供するのに必要なかなりの量のメタノールを使用することができることが判明した。これは、驚くべきことであり、と言うのも、先行技術において、メタノールは、Mut株に対して毒性であることがわかっているためである。
【0166】
本明細書において説明される細胞培養の具体例により、有利なことに、Mut-宿主細胞の増殖は、産生段階の間、制限され、それは、酸素供給および冷却の必要性を減少させる。
【0167】
さらに驚くべきことに、POI産生の収率が、アルコールデヒドロゲナーゼのこれまで過小評価されたメカニズムと、メチロトローフ酵母におけるADH2の活性とによって増加され、それにより、メタノール利用経路欠損メチロトローフ酵母のAOX1およびAOX2遺伝子をノックアウトするにもかかわらず、結果として、メタノール取り込みおよび効果的なメタノール消費を生じた。
【0168】
特定の実施例により、メタノール誘導性ECPは、GOIECにおいて有利に使用された。細胞培養において炭素源として使用されるメタノール量は、GOIの発現を誘導するのに十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0169】
図1-1】本明細書において参照される配列
図1-2】本明細書において参照される配列
図1-3】本明細書において参照される配列
図1-4】本明細書において参照される配列
図1-5】本明細書において参照される配列
図1-6】本明細書において参照される配列
図1-7】本明細書において参照される配列
図1-8】本明細書において参照される配列
図1-9】本明細書において参照される配列
図1-10】本明細書において参照される配列
図1-11】本明細書において参照される配列
図1-12】本明細書において参照される配列
図1-13】本明細書において参照される配列
図1-14】本明細書において参照される配列
【発明を実施するための形態】
【0170】
明細書全体を通して使用される特定の用語は、以下の意味を有する。
用語「炭素源」は、本明細書において使用される場合、発酵性炭素基質、典型的には、微生物のためのエネルギー源として好適な炭水化物源、例えば、宿主生物または産生細胞系によって代謝されることができるもの、特に、精製された形態において、最小限の培地中において、または複雑な栄養物質などの原材料において提供される、単糖、オリゴ糖、多糖、グリセロールを含むアルコール、からなる群から選択される源、を意味するものである。炭素源は、単一の炭素源として、または異なる炭素源の混合物として、本明細書において説明されるように使用され得る。
【0171】
本明細書において説明されるように、メタノールは、炭素源として、例えば、産生段階の間の単独の炭素源として、または非メタノール炭素源との混合物において、使用される。詳細には、メタノールは、任意の非メタノール炭素源と共に、細胞培養物に同時供給(co-fed)される。
【0172】
非メタノール炭素源は、メタノール以外の炭素源、特に、無メタノール炭素源である炭素源として本明細書において理解される。
本明細書において説明されるような「基礎炭素源」は、典型的には、細胞増殖にとって好適な炭素源、例えば、宿主細胞のための、特に真核細胞のための栄養物など、である。基礎炭素源は、培地、例えば、基礎培地または複合培地など、においてだけではなく、精製された炭素源を含む既知組成培地においても提供され得る。基礎炭素源は、典型的には、例えば、継代培養ステップの間に90%超、好ましくは95%超の生存率を示す、例えば、少なくとも5g/L細胞乾燥質量、好ましくは少なくとも10g/L細胞乾燥質量、または少なくとも15g/L細胞乾燥質量の細胞密度を得るために、特に培養プロセスにおける増殖段階の間に、細胞増殖を提供する量において提供される。
【0173】
基礎炭素源は、典型的には、過剰量または余剰量において使用され、それは、例えば、高い特定の増殖速度を有する細胞系の培養の間、例えば、バッチ培養プロセスまたは流加バッチ培養プロセスにおける細胞系の増殖段階の間などに、バイオマスを増加させるためのエネルギーを提供する過剰として理解される。この余剰量は、特に、測定可能で、典型的には、補助炭素源の制限された量を供給する間より、少なくとも10倍高い、好ましくは少なくとも50倍、または少なくとも100倍高い、発酵液中の残留濃度を達成するような、補助炭素源の制限された量(増殖制限条件下において使用されるような)を超過する量である。
【0174】
本明細書において説明される「補助炭素源」は、典型的には、特に培養プロセスの産生段階において産生細胞系による発酵産物の産生を促進する補助基質である。産生段階は、詳細には、例えば、バッチプロセス、流加バッチプロセス、および連続培養プロセスなどにおける増殖段階の後に続く。補助炭素源は、詳細には、流加バッチプロセスの供給に含まれ得る。補助炭素源は、典型的には、炭素基質制限条件下の細胞培養において、すなわち、制限された量の炭素源を使用する条件下において用いられる。
【0175】
詳細には、本明細書において説明される方法において、メタノールは、補助炭素源として使用される。
炭素源の「制限された量」または「制限された炭素源」は、本明細書において、詳細には、特に、最大増殖速度未満に制御された増殖速度の培養プロセスにおいて、産生細胞系による発酵産物の産生を促進する炭素基質のタイプおよび量を意味するとして理解される。産生段階は、詳細には、例えば、バッチプロセス、流加バッチプロセス、および連続培養プロセスなどにおける増殖段階の後に続く。細胞培養プロセスは、バッチ培養、連続培養、流加バッチ培養を用い得る。バッチ培養は、少量の種培養液が培地に加えられ、培養中に、追加の培地を加えることなくまたは培養液を排出することなく、細胞が培養される培養プロセスである。
【0176】
連続培養は、培養中に培地が連続的に加えられ、および放出される、培養プロセスである。連続培養は、潅流培養も包含する。バッチ培養と連続培養との中間であり、半バッチ培養とも呼ばれる流加バッチ培養は、培養中に培地が連続的にまたは逐次的に加えられるが、連続培養とは異なり、培養液は連続的には排出されない、培養プロセスである。
【0177】
特に好ましいのは、培養への増殖制限栄養基質の供給に基づく流加バッチプロセスである。単一流加バッチ発酵または反復流加バッチ発酵を含む流加バッチ戦略は、典型的には、バイオリアクターでの高細胞密度を達成するためにバイオ産業プロセスにおいて使用される。炭素基質の制限された追加は、培養の増殖速度に直接的に影響を及ぼし、オーバーフロー代謝または望ましくない代謝副産物の形成を回避するのに貢献する。炭素源制限条件下において、炭素源は、詳細には、流加バッチプロセスの供給に含まれ得る。それにより、炭素基質は、制限された量において提供される。
【0178】
本明細書において説明されるケモスタットまたは連続培養においても、増殖速度は、しっかりと制御することができる。
炭素源の制限された量は、本明細書において、特に、例えば、産生段階または産生モードにおいて、増殖制限条件下で産生細胞系を維持するのに必要な炭素源の量として理解される。そのような制限された量は、流加バッチプロセスにおいて用いられ得、その場合、炭素源は、供給培地に含まれ、例えば、バイオマスを特定の低増殖速度に維持しつつPOIを産生するために、持続的エネルギー送達のために低供給速度において培養物に供給される。供給培地は、典型的には、細胞培養物の産生段階の間に、発酵液に加えられる。
【0179】
炭素源の制限された量は、例えば、細胞培養液中の炭素源の残留量によって決定され得、それは、所定の閾値未満であるか、さらには、標準的(炭水化物)アッセイにおいて測定される場合の検出限界未満である。残留量は、典型的には、発酵産物を収穫する際の発酵液において特定されるであろう。
【0180】
また、炭素源の制限された量は、例えば、時間あたりの計算された平均量を特定するために、例えば、培養時間あたりの、全培養プロセス、例えば、流加バッチ段階、に加えられた量によって特定される場合に、発酵槽への炭素源の平均供給速度を定義することによって特定され得る。この平均供給速度は、細胞培養による補助炭素源の完全な使用を確保するために、低く、例えば、0.6gL-1-1(L初期発酵量およびh時間あたりのg炭素源)から25L-1-1の間、好ましくは1.6gL-1-1から20gL-1-1の間、に維持される。
【0181】
炭素源の制限された量は、特定の増殖速度を測定することによっても特定され得、この場合、特定の増殖速度は、産生段階の間、例えば、所定の範囲内、例えば、0.001h-1から0.20h-1、または0.005h-1から0.20h-1の範囲、好ましくは0.01h-1から0.15h-1の間、において、低く、例えば、特定の最大増殖速度未満、に維持される。
【0182】
詳細には、供給培地は、メタノールを含む既知組成において使用される。
細胞培養培地、例えば、流加バッチプロセスにおける最少培地または供給培地など、に関する用語「既知組成」は、産生細胞系のインビトロ細胞培養にとって好適な培養培地を意味するものであり、この場合、化学成分および(ポリ)ペプチドの全てが既知である。典型的には、既知組成培地は、動物由来成分を完全に含まず、純粋で一貫した細胞培養環境を表す。
【0183】
用語「細胞」または「宿主細胞」は、本明細書において使用される場合、単一の細胞、単一の細胞クローン、または宿主細胞の細胞系を意味するものである。用語「宿主細胞」は、メチロトローフ酵母の細胞に対して特に当てはまり、それらは、POIまたは宿主細胞代謝物質を産生するための組換え目的のために好適に使用される。用語「宿主細胞」が人間を包含しないことは、十分に理解される。詳細には、本明細書において説明される宿主細胞は、人工有機体であり、天然(野生型)の宿主細胞の誘導体である。本明細書において説明される宿主細胞、方法、および使用(例えば、詳細には、1つまたは複数の遺伝子修飾を含むものを意味する)、異種発現カセットまたは発現構築物、トランスフェクトまたは形質転換された宿主細胞および組換えタンパク質、は、天然には存在しない「人工物」または合成物であり、したがって、「自然の法則」の結果とは見なされないことは、十分に理解される。
【0184】
用語「細胞系」は、本明細書において使用される場合、長期間にわたって増殖する能力を取得した特定の細胞タイプにおける確立されたクローンを意味する。細胞系は、典型的には、内因性または組換え遺伝子を発現するため、またはポリペプチドを産生するための代謝経路の産物のため、またはそのようなポリペプチドによって媒介される細胞代謝物質のために使用される。
【0185】
本明細書において説明されるPOIを産生する宿主細胞は、「産生宿主細胞」とも呼ばれ、それぞれの細胞系は、「産生細胞系」と呼ばれる。「産生細胞系」は、一般的に、産生プロセスの産物、例えば、POIなど、を得るために、バイオリアクターでの細胞培養にすぐに使える細胞系であると理解される。
【0186】
本明細書において説明される特定の実施形態は、メタノールを酵素的に処理してそれにより細胞にエネルギーを提供するためにADH2を効率的に使用することができるMut-産生宿主細胞を意味する。
【0187】
本明細書において説明される特定の実施形態は、AOX1およびAOX2タンパク質をコードする内因性遺伝子を過小発現するように、およびADH2をコードする遺伝子を過剰発現するように操作された産生細胞系を意味し、メタノールを炭素源として使用して本明細書において説明されるECPの制御下でのPOI産生の高い収率によって特徴付けられる。
【0188】
用語「細胞培養」または「培養すること」または「培養」は、宿主細胞に関して本明細書において使用される場合、活性状態または静穏状態での、詳細には、産業において既知の方法による制御されたバイオリアクターでの、細胞の増殖、分化、または持続的増殖力を支持する条件下での、人工環境、例えば、インビトロ環境における細胞の維持を意味する。
【0189】
適切な培養培地を使用して細胞培養物を培養する場合、細胞は、細胞培養物での細胞の培養を支持するのに好適な条件下において、培養容器の培地または基質に接触する。本明細書において説明されるように、宿主細胞、例えば、メチロトローフ酵母、の増殖のために使用することができる培養培地が提供される。標準的細胞培養技術は、当分野において周知である。
【0190】
本明細書において説明される細胞培養は、特に、例えば、細胞培養培地において、POIを得るために、分泌されたPOIの産生を提供する技術を用い、この場合、POIは、本明細書において「細胞培養上清」とも呼ばれる細胞バイオマスから分離可能であり、より高い純度のPOIを得るために精製され得る。タンパク質(例えば、POI)が、細胞培養において、宿主細胞によって産生および分泌される場合、そのようなタンパク質は、細胞培養上清中に分泌され、細胞培養上清を宿主細胞バイオマスから分離し、場合により、精製されたタンパク質調製物を作製するためにタンパク質をさらに精製することによって得ることができるということは、本明細書において理解される。
【0191】
細胞培養培地は、制御された人工のインビトロ環境での細胞の維持および細胞の増殖に必要な栄養素を提供する。細胞培養培地の特徴および組成は、特定の細胞要件に応じて変わる。重要なパラメータとしては、オスモル濃度、pH、および栄養素配合が挙げられる。栄養素の供給は、当技術分野において既知の方法に従って、連続モードまたは不連続モードにおいて為され得る。
【0192】
バッチプロセスは、細胞培養モードであり、当該モードでは、細胞の培養に必要な栄養素の全てが初期培養培地に含まれ、バッチ段階の後、流加バッチプロセスにおいて、発酵中にさらなる栄養素の追加供給がされないが、それに対して、供給段階は、1つまたは複数の栄養素が供給によって培養物に供給される状態において行われる。ほとんどのプロセスにおいて、供給のモードは、決定的で重要であるが、本明細書において説明される宿主細胞および方法は、細胞培養のある特定のモードに関して制限されない。
【0193】
組換えPOIは、本明細書において説明される宿主細胞およびそれぞれの細胞系を使用することにより、適切な培地において培養し、発現された産物または代謝物質を培養物から単離し、場合により、それを適切な方法によって精製することによって、産生することができる。
【0194】
本明細書において説明されるPOIの産生のためのいくつかの異なるアプローチが好ましい。POIは、発現され得、処理され得、場合により、関連タンパク質をコードする組換えDNAを含む発現ベクターによって宿主細胞をトランスフェクトまたは形質転換すること、トランスフェクトまたは形質転換された細胞の培養物を調製すること、培養物を増殖させること、転写およびPOI産生を誘導すること、およびPOIを回収すること、によって分泌され得る。
【0195】
ある特定の実施形態において、細胞培養プロセスは、流加バッチプロセスである。詳細には、所望の組換えPOIをコードする核酸コンストラクトによって形質転換された宿主細胞は、増殖段階において培養され、所望の組換えPOIを産生するために産生段階に以降される。
【0196】
別の実施形態において、本明細書において説明される宿主細胞は、例えば、ケモスタットを使用して、連続モードにおいて培養される。連続発酵プロセスは、バイオリアクターへの、規定された一定で連続した速度の新鮮な培養培地の供給によって特徴付けられ、当該供給により、同時に、培養液が、同じ規定された一定で連続した除去速度においてバイオリアクターから除去される。培養培地、供給速度、および除去速度を同じ一定のレベルに維持することにより、バイオリアクターにおける細胞培養パラメータおよび条件は、一定に維持される。
【0197】
本明細書において説明される安定した細胞培養は、詳細には、培養の約20継代の後でさえ、好ましくは、少なくとも30継代、より好ましくは少なくとも40継代、最も好ましくは少なくとも50継代の後でさえ、遺伝的特性を維持する細胞培養、詳細には、POI産生レベルを高く、例えば、少なくともμgレベルに維持する細胞培養を意味するとして理解される。詳細には、安定した組換え宿主細胞系が提供され、これは、工業規模での生産のために使用される場合にかなりの利点であると考えられる。
【0198】
本明細書において説明される細胞培養は、栄養素の供給に基づく培養モード、特に、流加バッチプロセスもしくはバッチプロセス、または連続もしくは半連続プロセス(例えば、ケモスタット)との組み合わせにおいて、量および技術システムの両方に関して、工業製造規模での方法にとって特に有利である。
【0199】
本明細書において説明される宿主細胞は、典型的には、POI産生のためにGOIを発現するその能力について試験され、以下の試験:ELISA、活性アッセイ、HPLC、または他の好適な試験、例えば、SDS-PAGEおよびウエスタンブロット技術、または質量分析法など、のいずれかによってPOI収率について試験される。
【0200】
それぞれの細胞培養におけるAOX1および/またはAOX2タンパク質をコードする遺伝子の過小発現または発現の減少に対する1つまたは複数の遺伝子修飾の効果、例えば、POI産生に対するそれらの効果を特定するために、それぞれの細胞においてそのような遺伝子修飾を行っていない株と比較して、流加バッチまたはケモスタット発酵を使用して、マイクロタイタープレート、振盪フラスコ、またはバイオリアクターにおいて、宿主細胞系が培養され得る。
【0201】
本明細書において説明される製造方法は、詳細には、パイロット規模または工業規模での発酵を可能にする。工業プロセス規模は、好ましくは、少なくとも10L、詳細には少なくとも50L、好ましくは少なくとも1m、好ましくは少なくとも10m、最も好ましくは少なくとも100mの容積を用いるであろう。
【0202】
例えば、100Lから10mまたはそれ以上の反応器容量での流加バッチ培養を意味し、およそ0.02~0.15h-1の希釈速度によって、およそ50~1000Lまたはそれ以上の発酵槽容積での、数日の典型的なプロセス時間、または連続プロセスを用いる、工業規模での製造条件は好ましい。
【0203】
本明細書において説明される目的のために使用される装置、施設、および方法は、原核生物細胞系および/または真核生物細胞系を含む任意の所望の細胞系の培養における、および培養による使用にとって特に好適である。さらに、ある実施形態において、装置、施設、および方法は、懸濁細胞または足場依存性(付着性)細胞を含む任意の細胞タイプの培養にとって好適であり、医薬製品およびバイオ医薬製品、例えば、ポリペプチド産物(POI)、核酸産物(例えば、DNAまたはRNA)、または細胞および/またはウイルス、例えば、細胞療法および/またはウイルス療法において使用されるものなど、の産生のために構成された産生作業にとって好適である。
【0204】
ある特定の実施形態において、細胞は、組換え治療用産物または診断用産物などの産物を発現または産生する。本明細書においてより詳細に説明されるように、細胞によって産生される産物の例としては、これらに限定されるわけではないが、POI、例えば、抗体分子(例えば、モノクローナル抗体、二重特異性抗体)を含む本明細書において例示されるものなど、抗体模倣物(抗原に特異的に結合するが抗体に構造的に関連はしないポリペプチド分子、例えば、DARPin、アフィボディ、アドネクチン、またはIgNARなど)、融合タンパク質(例えば、Fc融合タンパク質、キメラサイトカイン)、他の組換えタンパク質(例えば、グリコシル化タンパク質、酵素、ホルモン)、またはウイルス治療(例えば、抗癌腫瘍溶解性ウイルス、遺伝子治療のためのウイルスベクター、およびウイルス免疫療法)、細胞治療(例えば、多分化能性幹細胞、間充織幹細胞、および成人幹細胞)、ワクチンまたは脂質で覆われた粒子(例えば、エキソソーム、ウイルス様粒子)、RNA(例えば、siRNAなど)またはDNA(例えば、プラスミドDNAなど)、抗生物質、またはアミノ酸が挙げられる。ある実施形態において、装置、施設、および方法は、バイオシミラーを製造するために使用することができる。
【0205】
言及したように、ある特定の実施形態において、装置、施設、および方法は、真核細胞、例えば、酵母細胞、例えば、タンパク質、ぺプチド、または抗生物質、アミノ酸、核酸(例えば、DNAまたはRNAなど)などの、大規模な方式において細胞によって合成されたPOIの産生を可能にする。本明細書において特に記載のない限り、装置、施設、および方法は、任意の所望の容積または生産能力、例えば、これらに限定されるわけではないが、ベンチ規模、試験規模、およびフル生産規模の能力を含むことができる。
【0206】
その上、本明細書において特に明記されない限り、装置、施設、および方法は、任意の好適な反応器、例えば、これらに限定されるわけではないが、撹拌タンク、エアリフト、繊維、ミクロ繊維、中空繊維、セラミックマトリックス、流動床、固定床、および/または噴流床バイオリアクターなど、を含むことができる。本明細書において使用される場合、「反応器」は、発酵槽もしくは発酵ユニット、または任意の他の反応器を含むことができ、用語「反応器」は、「発酵槽」と相互互換的に使用される。例えば、いくつかの態様において、実例のバイオリアクターユニットは、以下:栄養素および/または炭素源の供給、好適なガス(例えば、酸素)の注入、発酵培地または細胞培養培地の入口流および出口流、気相および液相の分離、温度の維持、酸素およびCOレベルの維持、pHレベルの維持、アジテーション(例えば、撹拌)、および/またはクリーニング/滅菌、のうちの1つまたは複数、または全てを実施することができる。実例の反応器ユニット、例えば、発酵ユニットなど、は、ユニット内に複数の反応器を含んでもよく、例えば、ユニットは、各ユニットに1、2、3、4、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、60、70、80、90、または100、またはそれ以上のバイオリアクターを有することができ、および/または施設は、施設内に単一のまたは複数の反応器を有する複数のユニットを収容し得る。様々な実施形態において、バイオリアクターは、バッチ、半流加バッチ、流加バッチ、潅流、および/または連続発酵プロセスにとって好適であり得る。任意の好適な反応器直径を使用することができる。ある実施形態において、バイオリアクターは、約100mLから約50,000Lの間の容積を有することができる。非限定的な例としては、100mL、250mL、500mL、750mL、1リットル、2リットル、3リットル、4リットル、5リットル、6リットル、7リットル、8リットル、9リットル、10リットル、15リットル、20リットル、25リットル、30リットル、40リットル、50リットル、60リットル、70リットル、80リットル、90リットル、100リットル、150リットル、200リットル、250リットル、300リットル、350リットル、400リットル、450リットル、500リットル、550リットル、600リットル、650リットル、700リットル、750リットル、800リットル、850リットル、900リットル、950リットル、1000リットル、1500リットル、2000リットル、2500リットル、3000リットル、3500リットル、4000リットル、4500リットル、5000リットル、6000リットル、7000リットル、8000リットル、9000リットル、10,000リットル、15,000リットル、20,000リットル、および/または50,000リットルの容積が挙げられる。さらに、好適な反応器は、マルチユース、シングルユース、使い捨て、または非使い捨てであり得、任意の好適な材料、例えば、ステンレス(例えば、316Lまたは任意の他の好適なステンレス)およびインコネルなどの合金、プラスチック、および/またはガラスなど、で形成することができる。
【0207】
ある実施形態において、および本明細書において特に明記されない限り、本明細書において説明される装置、施設、および方法は、特に言及されない任意の好適な単位操作および/または設備、例えば、そのような産物の分離、精製、および単離のための操作および/または設備など、も含むことができる。任意の好適な施設および環境、例えば、従来の現場組立施設、モジュール式、可動式、および一次的な施設、または任意の他の好適な構成、施設、および/もしくはレイアウトなど、を使用することができる。例えば、いくつかの実施形態において、モジュール式クリーンルームを使用することができる。さらに、特に明記しない限り、本明細書において説明される装置、システム、および方法は、単一の場所または施設に収容および/もしくは実施することができ、または別々のまたは複数の場所および/もしくは施設において収容および/または実施することができる。
【0208】
好適な技術は、バイオリアクターでの培養を包含し得、それは、バッチ段階によって開始され、その後に高い特定の増殖速度での短い急激な流加バッチ段階が続き、さらにその後に、低い特定の増殖速度での流加バッチ段階が続く。別の好適な培養技術は、バッチ段階と、その後に続く任意の好適な特定の増殖速度での、またはPOI産生時間にわたって高い増殖速度から低い増殖速度へと、もしくはPOI産生時間にわたって低い増殖速度から高い増殖速度へと移行するような特定の増殖速度の組み合わせでの、流加バッチ段階を包含し得る。別の好適な培養技術は、バッチ段階と、その後に続く、低希釈速度での連続培養段階を包含し得る。
【0209】
好ましい実施形態は、バイオマスを提供するためのバッチ培養と、その後に続く、高収率POI産生のための流加バッチ培養を含む。
少なくとも1g/L細胞乾燥重量、より好ましくは少なくとも10g/L細胞乾燥重量、好ましくは少なくとも20g/L細胞乾燥重量、好ましくは30、40、50、60、70、または80g/L細胞乾燥重量のうちの少なくともいずれかの細胞密度を得るための増殖条件下においてバイオリアクターにて本明細書において説明される宿主細胞を培養することは好ましい。パイロット規模または工業規模においてバイオマス生産においてそのような収率を提供することは有利である。
【0210】
バイオマスの蓄積を可能にする増殖培地、詳細には基礎増殖培地は、典型的には、炭素源、窒素源、硫黄源、およびリン酸源を含む。典型的には、そのような培地は、さらに、微量元素およびビタミンを含み、さらに、アミノ酸、ペプチド、または酵母エキスを含み得る。
【0211】
好ましい窒素源としては、NHPO、NH、または(NHSOが挙げられる。
好ましい硫黄源としては、MgSO、(NHSO、またはKSOが挙げられる。
【0212】
好ましいリン酸源としては、NHPO、またはHPO、またはNaHPO、KHPO、NaHPO、またはKHPOが挙げられる。
さらなる典型的な培地成分としては、KCl、CaCl、および微量元素、例えば、Fe、Co、Cu、Ni、Zn、Mo、Mn、I、Bなどが挙げられる。
【0213】
好ましくは、培地は、ビタミンBが補われる。
P.パストリスのための典型的な増殖培地は、グリセロール、ソルビトール、またはグルコース、NHPO、MgSO、KCl、CaCl、ビオチン、および微量元素を含む。
【0214】
産生段階において、産生培地は、詳細には、制限された量のみの補助炭素源と共に使用される。
好ましくは、宿主細胞系は、好適な炭素源を伴う無機培地において培養され、それにより、さらに、単離プロセスを著しく簡素化する。好ましい無機培地の例は、利用可能な炭素源(特に、本明細書で説明されたメタノール、場合により、例えば、グルコース、グリセロール、またはソルビトールと組み合わせて)、多量元素を含む塩(カリウム、マグネシウム、カルシウム、アンモニウム、塩化物、硫酸塩、リン酸塩)、および微量元素(銅、ヨウ素、マンガン、モリブデン酸塩、コバルト、亜鉛、鉄塩、およびホウ酸)、場合により、例えば、栄養要求性を補足するための、ビタミンまたはアミノ酸、を含有するものである。
【0215】
詳細には、細胞は、望ましいPOIの発現をもたらすのに好適な条件下において培養され、その場合、POIは、発現系および発現されるタンパク質の性質、例えば、タンパク質がシグナルペプチドに融合するか否か、およびタンパク質が可溶性であるかまたは膜結合性であるか、などに応じて、細胞または培養培地から精製することができる。当業者によって理解されるであろうように、培養条件は、用いられる宿主細胞および特定の発現ベクターのタイプなどの要因に従って変わるであろう。
【0216】
典型的な産生培地は、補助炭素源、さらにNHPO、MgSO、KCl、CaCl、ビオチン、および微量元素を含む。
例えば、発酵に加えられる補助炭素源の供給は、最大で50重量%までの利用可能な糖を伴う炭素源を含み得る。
【0217】
発酵は、好ましくは、pH3から8の範囲において実施される。
典型的な発酵時間は、20℃から35℃、好ましくは22~30℃の範囲の温度において約24時間から120時間である。
【0218】
POIは、好ましくは、少なくとも1mg/L、好ましくは少なくとも10mg/L、好ましくは少なくとも100mg/L、最も好ましくは少なくとも1g/Lの力価を生じる条件を用いて発現される。
【0219】
用語「発現」または「発現カセット」は、本明細書において使用される場合、これらの配列で形質転換またはトランスフェクトされた宿主が、コードされたタンパク質または宿主細胞代謝物質を産生することができるように、作動可能に連結された所望のコード配列および制御配列を含有する核酸分子を意味する。形質転換を生じさせるために、発現系は、ベクターに含ませられ得るが、ただし、関連DNAも、宿主細胞染色体に統合され得る。発現は、ポリペプチドまたは代謝物質を含む、分泌発現産物または非分泌発現産物を意味し得る。
【0220】
発現カセットは、例えば、「ベクター」または「プラスミド」の形態において、発現構築物として簡便に提供され、それらは、典型的には、好適な宿主生物におけるクローンされた組換えヌクレオチド配列、すなわち組換え遺伝子、の転写、ならびにそれらのmRNAの翻訳のために必要なDNA配列である。発現ベクターまたは発現プラスミドは、通常、自立複製のためのオリジナルまたは宿主細胞におけるゲノム統合のための遺伝子座、選択マーカー(例えば、アミノ酸合成遺伝子、またはゼオシン(zeocin)、カナマイシン、G418、もしくはハイグロマイシン、ヌールセオトリシンなどの抗生物質に対する抵抗性を付与する遺伝子)、いくつかの制限酵素切断部位、好適なプロモーター配列、および転写ターミネーターを含み、その場合、成分は、一緒に作動可能に連結される。用語「プラスミド」および「ベクター」は、本明細書で使用される場合、自己複製性ヌクレオチド配列、ならびにゲノム統合ヌクレオチド配列、例えば、人工染色体など、例えば、酵母人工染色体(YAC)など、を含む。
【0221】
発現ベクターは、クローニングベクター、改変されたクローニングベクター、および特異的に設計されたプラスミドを含み得るが、それらに限定されるわけではない。本明細書において説明される好ましい発現ベクターは、真核生物宿主細胞において組換え遺伝子を発現するために好適な発現ベクターであり、宿主生物に応じて選択される。適切な発現ベクターは、典型的には、真核生物宿主細胞においてPOIをコードするDNAを発現するために好適な調節配列を含む。調節配列の例としては、プロモーター、オペレーター、エンハンサー、リボソーム結合部位、および転写および翻訳の開始および停止を制御する配列が挙げられる。調節配列は、典型的には、発現されるDNA配列に作動可能に連結される。
【0222】
本明細書において説明される特定の発現構築物は、プロモーターの転写制御下においてPOIをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結したプロモーターを含む。詳細には、プロモーターは、POIのコード配列に天然には付随しない。
【0223】
宿主細胞における組換えヌクレオチド配列の発現を可能にするために、GOIECとして本明細書において説明される発現カセットまたはベクターは、ECP、典型的には、プロモーターヌクレオチド配列を含み、それらは、コード配列の5’末端に隣接し、例えば、目的の遺伝子(GOI)から上流において遺伝子に隣接するか、または、シグナル配列またはリーダー配列が使用される場合には、POIの発現および分泌を促進するために、それぞれシグナル配列およびリーダー配列から上流において配列に隣接する。プロモーター配列は、典型的には、特にGOIなど、作動可能に連結した下流のヌクレオチド配列の転写を調節するかまたは開始する。
【0224】
本明細書において説明される特定の発現構築物は、宿主細胞からのPOIの分泌を生じさせるリーダー配列と連結されたPOIをコードするポリヌクレオチドを含む。発現ベクターにおけるそのような分泌リーダー配列の存在は、典型的には、組換え発現および分泌のために意図されるPOIが天然には分泌されないタンパク質であり、そのため、天然の分泌リーダー配列を欠く場合、あるいは、そのヌクレオチド配列が、その天然分泌リーダー配列を伴わずにクローンされている場合、に必要である。概して、宿主細胞からのPOIの分泌を生じさせるために有効な任意の分泌リーダー配列が使用され得る。分泌リーダー配列は、酵母源、例えば、サッカロミセス・セレビシエのMFaなどの酵母α因子、または酵母ホスファターゼ、哺乳動物源または植物源または他の源に由来し得る。
【0225】
特定の実施形態において、マルチクローニングベクターが使用され得、それらは、マルチクローニング部位を有するベクターである。詳細には、所望の異種遺伝子は、発現ベクターを調製するために、マルチクローニング部位において統合または導入され得る。マルチクローニングベクターの場合、プロモーターは、典型的には、マルチクローニング部位の上流に位置される。
【0226】
用語「遺伝子発現」または「ポリヌクレオチドを発現する」は、本明細書で使用される場合、mRNAへのDNA転写、mRNAプロセシング、mRNA成熟化、mRNAエクスポート、翻訳、タンパク質フォールディングおよび/またはタンパク質移動からなる群から選択される少なくとも1つのステップを含むことが意図される。
【0227】
用語「発現を増加する」は、本明細書において「過剰発現」とも呼ばれ、これは、ある特定のポリヌクレオチドの発現を増加させる遺伝子変化前の宿主細胞であり得るか、またはそうでなければ、ポリヌクレオチドの発現を増加させるように操作されていない同じタイプまたは種の宿主細胞によって発現される、参照標準によって示される発現レベルを超える任意の量を意味する。
【0228】
宿主細胞が所定の遺伝子産物を含まない場合、発現のために遺伝子産物を宿主細胞に導入することは可能であり;この場合、任意の検出可能な発現は、用語「過剰発現」に包含される。
【0229】
タンパク質(例えば、ADH2)をコードする遺伝子の過剰発現は、タンパク質(例えば、ADH2)の過剰発現とも見なされる。過剰発現は、当業者に既知の任意の方法によって達成することができる。概して、それは、遺伝子の転写/翻訳を増加させることによって、例えば、遺伝子のコピー数を増加させることによって、または調節配列もしくは遺伝子の発現に関連する部位を変更もしくは修飾することによって達成することができる。例えば、遺伝子は、高い発現レベルを達成するために、強いプロモーターに作動可能に連結させることができる。そのようなプロモーターは、内因性プロモーターまたは異種プロモーター、特に組換えプロモーターであり得る。あるプロモーターを、遺伝子の発現を増加させる異種プロモーターで置き換えることができる。さらに、誘導性プロモーターの使用は、培養の過程において発現を増加させることを可能にする。その上、過剰発現は、例えば、特定の遺伝子の染色体位置を改変すること、リボソーム結合部位または転写ターミネーターなどの特定の遺伝子に隣接する核酸配列を変更すること、オープンリーディングフレームにフレームシフトを導入すること、遺伝子の転写および/もしくは遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば、調節タンパク質、抑圧遺伝子、エンハンサー、転写活性因子など)を修飾すること、または当技術分において特定の遺伝子ルーチンの発現を調節解除する任意の他の従来の手段(例えば、これらに限定されるわけではないが、例えば、リプレッサータンパク質の発現を妨げるための、アンチセンス核酸分子の使用、または過剰発現することが望ましい遺伝子の発現を通常は抑制する転写因子のための遺伝子を欠失または変異させること)によっても達成することができる。mRNAの寿命を延ばすことは、発現のレベルも向上させ得る。例えば、ある特定のターミネーター領域は、mRNAの半減期を延ばすために使用され得る。遺伝子の複数のコピーが含まれる場合、遺伝子は、可変コピー数のプラスミドに位置され得るか、または染色体に統合され増幅され得る。1つまたは複数の遺伝子またはゲノム配列を発現のための宿主細胞に導入することは可能である。
【0230】
特定の実施形態により、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチドは、1細胞あたり1つのコピーまたは複数のコピーに存在することができる。コピーは、お互いに隣接している場合もあれば、離れている場合もある。別の特定の実施形態により、ADH2タンパク質の過剰発現は、1細胞あたり1つのコピーまたは複数のコピーにおいて、宿主細胞のゲノムへの統合(すなわち、ノックイン)にとって好適な1つまたは複数のプラスミド上において提供されるADH2タンパク質をコードする組換えヌクレオチド配列を用いる。コピーは、お互いに隣接している場合もあれば、離れている場合もある。過剰発現は、ポリヌクレオチドの複数のコピー、例えば、1宿主細胞あたりポリヌクレオチドの2、3、4、5、6、またはそれ以上のコピーを発現させることによって達成することができる。
【0231】
GOIとADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)とを含む組換えヌクレオチド配列は、1つまたは複数の自己複製プラスミド上において提供され得、1細胞あたり1つのコピーまたは複数のコピーに導入され得る。
【0232】
あるいは、GOIとADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)とを含む組換えヌクレオチド配列は、同じプラスミド上に存在し得、1細胞あたり1つのコピーまたは複数のコピーに導入され得る。
【0233】
ADH2タンパク質をコードする異種ポリヌクレオチド(遺伝子)または、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)を含む異種組換え発現構築物は、好ましくは、宿主細胞のゲノムに統合される。
【0234】
用語「ゲノム」は、一般的に、DNA(またはRNA)においてコードされる有機体の遺伝子情報全体を意味する。それは、染色体上、プラスミドまたはベクター上、またはその両方に存在し得る。好ましくは、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)は、細胞の染色体に統合される。
【0235】
ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)は、その天然の遺伝子座に統合され得る。「天然の遺伝子座」は、特定の染色体上の位置を意味し、その場合、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)は、天然に存在する野生型細胞に位置される。しかしながら、別の実施形態において、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)は、それらの天然の遺伝子座においてではなく宿主細胞のゲノムに存在するが、異所的に統合される。用語「異所的統合(ectopic integration)」は、その通常の染色体座以外の部位における微生物のゲノムへの核酸の挿入、すなわち、所定のまたはランダムな統合を意味する。別の実施形態において、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチド(遺伝子)は、天然の遺伝子座に異所的に統合される。異種組換えは、ランダムなまたは非標的化統合を達成するために使用することができる。異種組換えは、著しく異なる配列を有するDNA分子の間の組換えを意味する。
【0236】
酵母細胞の場合、ADH2タンパク質および/またはGOIをコードするポリヌクレオチド(遺伝子)は、所望の遺伝子座、例えば、AOX1、GAP、ENO1、TEF、HIS4(Zamirら, Proc. NatL Acad. Sci. USA (1981) 78(6):3496~3500)、HO(Vothら Nucleic Acids Res. 2001 June 15; 29(12): e59)、TYR1(Mirisolaら, Yeast 2007; 24: 761-766)、His3、Leu2、Ura3(Taxisら, BioTechniques (2006) 40:73~78)、Lys2、ADE2、TRP1、GAL1、ADH1など、に挿入され得るか、または5SリボソームRNA遺伝子の統合において挿入され得る。
【0237】
他の実施形態において、ADH2タンパク質および/またはGOIをコードするポリヌクレオチド(遺伝子)は、プラスミドまたはベクターに統合することができる。好ましくは、プラスミドは、真核生物発現ベクター、好ましくは、酵母発現ベクターである。好適なプラスミドまたはベクターは、本明細書において詳細に説明される。
【0238】
組換え宿主細胞における内因性または異種ポリヌクレオチドの過剰発現は、発現制御配列を改変することによって達成することができる。発現制御配列は、当技術分野において既知であり、その例としては、例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写ターミネーター、内部リボソーム侵入部位(IRES)、ならびに宿主細胞におけるポリヌクレオチド配列の発現を提供する同様のものが挙げられる。発現制御配列は、特に、転写に関与する細胞タンパク質と相互作用する。例示的発現制御配列は、例えば、Goeddel, Gene Expression Technology: Methods in Enzymology, Vol. 185, Academic Press, San Diego, Calif. (1990)に記載される。
【0239】
好ましい実施形態において、過剰発現は、ポリヌクレオチドを発現させるためにエンハンサーを使用することによって達成される。転写エンハンサーは、方向および位置に比較的左右されず、イントロン内ならびにコード配列自体内において、転写単位に対して5’および3’側に見出される。エンハンサーは、コード配列に対して位置5’または3’において発現ベクターに挿入され得るが、好ましくは、プロモーターからの部位5’に位置される。ほとんどの酵母遺伝子は、1つのみのUASを含み、それは、概して、キャップ部位の数百の塩基対内にあり、ほとんどの酵母エンハンサー(UAS)は、プロモーターの3’に位置された場合に機能することができないが、高等真核生物におけるエンハンサーは、プロモーターの5’および3’の両方において機能することができる。
【0240】
多くのエンハンサー配列が、哺乳類遺伝子によって知られている(グロビン、RSV、SV40、EMC、エラスターゼ、アルブミン、a-フェトプロテイン、およびインスリン)。真核細胞ウイルス由来のエンハンサー、例えば、SV40後期エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーなど、も使用してもよい。
【0241】
詳細には、本明細書において説明されるようなポリヌクレオチド(遺伝子)をコードするGOIおよび/またはADH2は、宿主細胞における発現を提供する転写調節配列および翻訳調節配列に作動可能に連結される。用語「転写調節配列」は、本明細書に使用される場合、遺伝子核酸配列に付随し、遺伝子の翻訳を調節する、ヌクレオチド配列を意味する。転写および/または翻訳調節配列は、プラスミドまたはベクターに位置され得るか、または宿主細胞の染色体に統合され得る。転写および/または翻訳調節配列は、それが調節する遺伝子の同じ核酸分子に位置される。
【0242】
詳細には、ADH2タンパク質の過剰発現は、当技術分野において既知の方法、例えば、Marxら, 2008 (Marx, H., Mattanovich, D. and Sauer, M. Microb Cell Fact 7 (2008): 23)によって説明されるように、それらの内因性調節領域を遺伝子修飾することによって達成することができ、そのような方法は、例えば、遺伝子の発現を増加させる組換えプロモーターの統合を含む。
【0243】
例えば、組換え宿主細胞における内因性または異種ポリヌクレオチドの過剰発現は、そのような発現を制御するプロモーターを改変すること例えば、高い発現レベルを達成するために別のより強力なプロモーターによってポリヌクレオチドに作動可能に連結されるプロモーター(例えば、内因性プロモーターまたは、野生型有機体のポリヌクレオチドに天然で連結されているプロモーター)を置き換えることによって達成することができる。そのようなプロモーターは、誘導性または構成的であり得る。プロモーターの改変は、当技術分野において既知の変異誘導方法によっても実施され得る。
【0244】
好ましい実施形態において、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびPOIをコードするポリヌクレオチドの両方の発現は、誘導性プロモーターによって駆動される。別の好ましい実施形態において、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチドおよびPOIをコードするポリヌクレオチドの両方の発現は、構成的プロモーターによって駆動される。さらなる別の好ましい実施形態において、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現は、構成的プロモーターによって駆動され、POIをコードするポリヌクレオチドの発現は、誘導性プロモーターによって駆動される。さらなる別の好ましい実施形態において、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現は、誘導性プロモーターによって駆動され、POIをコードするポリヌクレオチドの発現は、構成的プロモーターによって駆動される。
【0245】
詳細には、メタノール誘導性プロモーターは、本明細書において詳細に説明されるように、ADH2をコードする遺伝子を過剰発現するため、および/またはGOIを発現するために使用される発現構築物において用いられ得る。
【0246】
一例として、ADH2タンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現は、構成的GAPプロモーターによって駆動され得、POIをコードするポリヌクレオチドの発現は、メタノール誘導性AOX1またはAOX2プロモーターによって駆動され得る。
【0247】
一実施形態において、ADH2タンパク質およびPOIをコードするポリヌクレオチドの発現は、プロモーター活性(例えば、プロモーターの強さ)および/または発現挙動(例えば、誘導性であるかまたは構成的であるか)に関して同じプロモーターまたは同じタイプのプロモーターによって駆動される。
【0248】
本明細書において「過小発現」とも呼ばれる「発現を減少させる」なる用語は、ある特定のポリヌクレオチドの発現を減少させる遺伝子変化の前の宿主細胞であり得るか、そうでなければ、ポリヌクレオチドの発現を下げるように操作されていない同じタイプまたは種の宿主細胞である、参照標準によって示される発現量または発現レベル(例えば、活性または濃度)未満の任意の量またはレベル(例えば、活性または濃度)を意味する。本明細書において説明される発現の減少は、詳細には、定義されたAOX1タンパク質またはAOX2タンパク質をコードするポリペプチドまたは遺伝子、特に、操作前の宿主細胞に対して内因性である遺伝子、を意味する。特に、それぞれの遺伝子産物は、本明細書において説明されるような、定義されたAOX1タンパク質またはAOX2タンパク質である。遺伝子の発現を減少させるために遺伝子修飾によって宿主細胞を操作する場合、遺伝子産物またはポリペプチドの発現は、宿主細胞の遺伝子修飾の前の同じ遺伝子産物またはポリペプチドの発現未満のレベル、または遺伝子修飾されていない匹敵する宿主における発現未満のレベルにおいてである。「未満」は、例えば、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80、90%、またはそれ以上を含む。遺伝子産物またはポリペプチドの発現がない場合も、用語「発現の減少」または「過小発現」によって包含される。
【0249】
本明細書において説明される特定の実施形態により、宿主細胞は、AOX1タンパク質またはAOX2タンパク質をコードする内因性宿主細胞遺伝子(本明細書において定義され、例えば、野生型P.パストリスにおいて天然に存在する配列のホモログまたはオーソログを含む)、または宿主細胞にAOX1タンパク質もしくはAOX2タンパク質を発現または産生する能力を与える他の(コードまたは非コード)ヌクレオチド配列を(遺伝子またはその一部の不活性化または欠失のため)ノックダウンまたはノックアウトするように操作される。
【0250】
詳細には、欠失株が提供され、その場合、ヌクレオチド配列が破壊される。
用語「破壊する(disrupt)」は、本明細書に使用される場合、例えば、ノックダウンまたはノックアウトによる、宿主細胞における1つまたは複数の内因性タンパク質の発現または活性における著しい減少から完全な除去までを意味する。これは、例えば、質量分析法などによって、宿主細胞の細胞培養物または培養培地におけるこの1つまたは複数の内因性タンパク質の存在として測定され得、その場合、内因性タンパク質の全含有量は、閾値未満であり得るか、または検出不可能であり得る。あるいは、それは、内因性タンパク質の酵素活性として測定され得る。
【0251】
用語「破壊する(disrupt)」は、詳細には、遺伝子サイレンシング、遺伝子ノックダウン、遺伝子ノックアウト、ドミナントネガティブコンストラクトの送達、条件付き遺伝子ノックアウト、および/または特定の遺伝子に関する遺伝子変化からなる群から選択される少なくとも1つのステップによる遺伝子操作の結果を意味する。
【0252】
遺伝子発現との関連における用語「ノックダウン」、「減少」、または「欠失」は、本明細書に使用される場合、対照細胞における発現と比較した場合の所定の遺伝子の発現の減少を生じる実験的アプローチを意味する。遺伝子のノックダウンは、様々な実験的アプローチ、例えば、細胞内に核酸分子を導入して遺伝子のmRNAの一部とハイブリダイズすることによりその劣化を引き起こすことによって(例えば、shRNA、RNAi、miRNA)、または転写の減少、mRNA安定性の低下、mRNA翻訳の減少、またはコードされたタンパク質の活性の低下を生じるような方法において遺伝子の配列を変えることによって、達成することができる。
【0253】
所定の遺伝子の発現の完全な阻害は、「ノックアウト」と呼ばれる。遺伝子のノックアウトは、遺伝子から機能的転写物は合成されず、それにより、この遺伝子によって通常は提供される機能の欠如が生じる。遺伝子ノックアウトは、DNA配列を変更し、それにより、遺伝子またはその調節配列あるいはそのような遺伝子または調節配列の一部の破壊または欠失を生じさせることによって達成される。ノックアウト技術は、重要な部分または遺伝子配列全体を置換する、割り込ませる、または欠失させるための、相同組換え技術の使用、あるいは、Gajら(Trends Biotechnol. 2013;31(7):397~405)によって説明されるような、標的遺伝子のDNAへの二本鎖切断を導入するためのDNA修飾酵素、例えば、亜鉛フィンガーまたはメガヌクレアーゼなど、の使用を含む。
【0254】
特定の実施形態は、宿主細胞へと形質転換またはトランスフェクトされる1つまたは複数のノックアウトプラスミドまたはカセットを用いる。相同的組換えにより、宿主細胞における標的遺伝子を破壊することができる。この手順は、典型的には、標的遺伝子の全ての対立遺伝子が安定して除去されるまで繰り返される。
【0255】
本明細書において説明される特定の遺伝子をノックアウトするための特定の1つの方法は、例えば、Weningerら(J. Biotechnol. 2016, 235:139~49)において説明されるCRISPR-Cas9法である。別の方法としては、例えば、Heissら 2013 (Appl Microbiol Biotechnol. 97(3):1241~9.)によって説明されるスプリットマーカー法が挙げられる。
【0256】
別の実施形態は、宿主細胞をトランスフェクトするために低分子干渉RNA(siRNA)を使用し、宿主細胞によって内因的に発現される標的タンパク質をコードするmRNAを標的化することによる、標的mRNAの劣化を意味する。
【0257】
遺伝子の発現は、遺伝子発現に直接干渉する方法、例えば、これらに限定されるわけではないが、例えば、特定のプロモーター関連リプレッサーの使用、所定のプロモーターの部位特異的変異誘発、プロモーター交換、または翻訳の阻害または減少、例えば、RNAiまたは非コードRNA誘導の転写後遺伝子サイレンシング、によるDNA転写の阻害または減少など、によって阻害または減少され得る。活性の低下した機能不全または不活性な遺伝子産物の発現は、例えば、コード遺伝子内の部位特異的またはランダムな変異誘発、挿入、または欠失によって達成することができる。
【0258】
遺伝子産物の活性の阻害または低下は、例えば、タンパク質発現の前または同時におけるそれぞれの酵素への阻害剤の投与またはそれを用いたインキュベーションによって達成することができる。そのような阻害剤の例としては、これらに限定されるわけではないが、阻害性ペプチド、抗体、アプタマー、酵素に対する融合タンパク質もしくは抗体模倣物、またはそのリガンドもしくは受容体、または阻害性ペプチドもしくは核酸または同様の結合活性を有する小分子が挙げられる。
【0259】
遺伝子サイレンシング、遺伝子ノックダウン、および遺伝子ノックアウトは、遺伝子修飾、またはmRNA転写または遺伝子のどちらかに対して相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドを用いた処理のどちらかによって、遺伝子の発現を減少させる技術を意味する。DNAの遺伝子修飾が為される場合、結果は、ノックダウンまたはノックアウトされた有機体である。mRNAに結合した、または遺伝子に一時的に結合したオリゴヌクレオチドによって、遺伝子発現における変化が引き起こされる場合、これは、結果として、染色体DNAの修飾なしに遺伝子発現における一時的な変化を生じ、それは、一時的ノックダウンと呼ばれる。
【0260】
上記の用語に包含される一時的ノックダウンにおいて、活性遺伝子またはその転写物に対するこのオリゴヌクレオチドの結合は、転写のブロッキングによる発現の減少(遺伝子結合の場合)、mRNA転写物の劣化(例えば、低分子干渉RNA(siRNA)またはアンチセンスRNAによる)、またはmRNA翻訳のブロッキングを生じる。
【0261】
遺伝子サイレンシング、ノックダウン、またはノックアウトを実施するための別のアプローチは、それぞれの文献により当業者に既知であり、本発明との関連におけるそれらの適用は、日常的作業と見なされる。遺伝子ノックアウトは、遺伝子の発現を完全に遮断する技術を意味し、すなわち、それぞれの遺伝子は、作動不能であるか、または除去される。この目標を達成する方法論的アプローチは、多種多様であり、当業者に既知である。その例は、所定の遺伝子に対して支配的にネガティブである変異体の生成である。そのような変異体は、部位特異的変異誘発(site directed mutagenesis)(例えば、欠失、部分欠失、挿入、または核酸の置換)によって、好適なトランスポゾンの使用によって、またはそれぞれの文献から当業者に既知の他のアプローチによって、生成することができ、本発明との関連におけるその適用は、結果として、日常的作業と見なされる。一例は、標的化されたZnフィンガーヌクレアーゼの使用によるノックアウトである。それぞれのキットが、Sigma Aldrichによって「CompoZR knockout ZFN」として提供される。別のアプローチは、TALエフェクターヌクレアーゼ(Transcription activator-like effector nuclease:TALEN)の使用を含む。
【0262】
ドミナントネガティブコンストラクトの送達は、例えば、トランスフェクションによる、機能不全遺伝子発現産物をコードする配列の導入を伴う。コード配列は、機能不全酵素の遺伝子発現が遺伝子発現産物の天然の発現を無効にするような方法において、強力なプロモーターに機能的に結合され、それは、次に、遺伝子発現産物のそれぞれの活性の有効な生理的欠陥を生じる。
【0263】
条件付き遺伝子ノックアウトは、組織特異的または時間特異的な方法において遺伝子の発現を阻害することを可能にする。これは、例えば、目的の遺伝子の周りにloxP部位と呼ばれる短い配列を導入することによって為される。再び、他のアプローチは、それぞれの文献から当業者に知られており、本発明との関連におけるそれらの適用は、日常的作業と見なされる。
【0264】
他の1つのアプローチは、機能不全の遺伝子産物または活性の低下した遺伝子産物を生じ得る遺伝子変化である。このアプローチは、フレームシフト変異、ナンセンス変異(すなわち、未成熟終止コドンの導入)、または遺伝子産物全体を機能不全にするかまたは活性低下を引き起こすアミノ酸置換を生じる変異の導入を伴う。そのような遺伝子変化は、例えば、変異誘発(例えば、欠失、部分欠失、挿入、または核酸の置換)、非特異的(ランダムな)変異誘発または部位特異的変異誘発のどちらか、によって生じさせることができる。遺伝子サイレンシング、遺伝子ノックダウン、遺伝子ノックアウト、ドミナントネガティブコンストラクトの送達、条件付き遺伝子ノックアウト、および/または遺伝子変化の実際の適用について説明するプロトコールは、一般的に、当業者に利用可能であり、彼らの日常的作業の範疇である。本明細書において提供される技術教示は、結果として、遺伝子産物の遺伝子発現の阻害または減少、または機能不全または不活性な、または活性の低下した遺伝子産物の発現を生じる全ての想到される方法に関して完全に有効である。
【0265】
本明細書において説明される遺伝子修飾は、例えば、J. Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual (3rd edition), Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (2001)によって説明されるような、当技術分野において既知のツール、方法、および技術を用いてもよい。
【0266】
用語「内因性」は、本明細書において使用される場合、それぞれの内因性遺伝子の発現を減少させるための、および/または、内因性タンパク質の産生を減少させるためのその修飾の前に、野生型(天然)宿主細胞に存在する、それらの分子および配列、特に内因性遺伝子またはタンパク質を包含することが意図される。特に、本来それらが見出されるような特定の宿主細胞において生じる(および、それらから得ることができる)内因性核酸分子(例えば、遺伝子)またはタンパク質は、「宿主細胞内因性」または「宿主細胞に対して内因性」であると理解される。その上、核酸またはタンパク質「を内因的に発現する」細胞は、本来それらが見出されるような同じ特定のタイプの宿主が発現するのと同様に、その核酸またはタンパク質を発現する。その上、核酸、タンパク質、または他の化合物を「内因的に産生する(endogenously producing)」または「内因的に産生する(endogenously produces)」宿主細胞は、本来それらが見出されるような同じ特定のタイプの宿主細胞が産生するのと同様に、その核酸、タンパク質、または化合物を産生する。
【0267】
したがって、内因性タンパク質が、宿主細胞によってそれ以上産生されなくても、例えば、タンパク質をコードする遺伝子が不活性化または欠失されている宿主細胞のノックアウト変異体においてタンパク質は、本明細書において依然として、「内因性」と呼ばれる。
【0268】
用語「異種(heterologous)」は、ヌクレオチド配列、コンストラクト、例えば、発現カセットなど、アミノ酸配列、またはタンパク質に関して本明細書において使用される場合、所定の宿主細胞に対して外来性であるような、すなわち、本来宿主細胞において見出されないような「外因性」化合物、または所定の宿主細胞において天然に見出されるような、例えば、「内因性」であるが、ただし、異種コンストラクトに関連して、であるような、または、例えば、内因性核酸に融合されるかもしくはそれと併用される異種核酸を用い、それによりコンストラクトを異種にすることにより、そのような異種コンストラクトに組み込まれるような、化合物を意味する。内因的に見出される異種ヌクレオチド配列は、細胞において、非天然の量、例えば、予想を超える量、または天然に見出される量を超える量、においても産生され得る。異種ヌクレオチド配列、または異種ヌクレオチド配列を含む核酸は、おそらく、内因性ヌクレオチド配列とは配列が異なっているが、内因的に見出されるのと同じタンパク質をコードする。詳細には、異種ヌクレオチド配列は、本来、宿主細胞に対して同じ関係においては見出されないものである。任意の組換えまたは人工ヌクレオチド配列が、異種であると理解される。異種ポリヌクレオチドの例は、例えば、ハイブリッドプロモーターを得るためのプロモーターに天然には付随しないヌクレオチド配列であるか、または本明細書において説明されるように、コード配列に作動可能に連結したヌクレオチド配列である。結果として、ハイブリッドポリヌクレオチドまたはキメラポリヌクレオチドが得られ得る。異種化合物のさらなる例は、転写制御因子、例えば、内因性の天然に存在するPOIコード配列が通常は作動可能に連結しないプロモーター、に作動可能に連結したポリヌクレオチドをコードするPOIである。
【0269】
用語「作動可能に連結された」は、本明細書に使用される場合、1つまたは複数のヌクレオチド配列の機能が、核酸分子上に存在する少なくとも1つの他のヌクレオチド配列によって影響されるような方法での、単一の核酸分子、例えば、ベクター、または発現カセット、上でのヌクレオチド配列の結合を意味する。作動可能に連結することにより、核酸配列は、同じ核酸分子上の別の核酸配列との機能的関係内に置かれる。例えば、プロモーターは、そのコード配列の発現に作用することができる場合、組換え遺伝子のコード配列に作動可能に連結される。さらなる例として、シグナルペプチドをコードする核酸は、分泌形態、例えば、成熟タンパク質のプレフォームまたは成熟タンパク質、においてタンパク質を発現することができる場合、POIをコードする核酸配列に作動可能に連結される。詳細には、お互いに作動可能に連結されるそのような核酸は、直ちに、すなわち、シグナルペプチドをコードする核酸とPOIをコードする核酸配列との間にさらなる要素または核酸配列なしに、連結され得る。
【0270】
用語「メチロトローフ酵母」は、本明細書に使用される場合、それらの増殖のために単一の炭素源としてメタノールの使用を可能にする共通の代謝経路を共有する酵母の属および種を意味する。メタノール誘導に対する転写調節された反応において、いくつかの酵素は、高いレベルにおいて急速に合成される。これらの遺伝子の発現を制御するプロモーターは、中でも最も強力で最も厳密に酵母プロモーターを調節するため、メチロトローフ酵母は、組換えタンパク質の大規模生産のための宿主として魅力的である。
【0271】
本明細書において説明されるメチロトローフ酵母は、それをメタノール利用経路において不十分にさせる1つまたは複数の遺伝子修飾によって、特に、内因性AOX1タンパク質またはAOX2タンパク質をそれぞれコードする遺伝子の一方または両方を過小発現させることによって、変異される。AOX1タンパク質をコードする遺伝子およびAOX2タンパク質をコードする遺伝子の両方を過小発現するか、そうでなければ、その発現を欠損するメチロトローフ酵母は、本明細書において、「Mut-」として理解される。本明細書において説明される目的のために、そのようなMut-酵母は、依然として、「メチロトローフ酵母」と呼ばれるが、それは、そのような遺伝子修飾の前に、機能的メタノール利用経路を含むためである。
【0272】
「プロモーター」配列は、典型的には、プロモーターがコード配列の転写を制御する場合、コード配列に作動可能に連結されると理解される。プロモーター配列が、天然においてコード配列に付随しない場合、その転写は、天然(野生型)細胞においてプロモーター制御されないか、または、配列は、異なる連続した配列によって組み換えられる。
【0273】
本明細書において説明される目的のために使用されるプロモーターは、本明細書において「ECP」と呼ばれる。ECPは、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、または抑制性プロモーターであり得る。特定の実施形態において、ECPは、それぞれ、メタノールおよびメタノール炭素源によって誘導可能なプロモーターである。
【0274】
本明細書において説明されるECPは、特に、DNAをコードするPOIの発現を開始するか、調節するか、そうでなければ、媒介するかまたは制御する。プロモーターDNAおよびコードDNAは、同じ遺伝子または異なる遺伝子由来であってもよく、同じ有機体または異なる有機体由来であってもよい。
【0275】
本明細書において説明される誘導性ECPは、詳細には、抑制された状態および誘導された状態において異なるプロモーター強度を有する、調節可能なプロモーターであるとして理解される。用語「調節可能な(regulatable)」は、誘導性または抑制性調節要素、例えば、本明細書において説明されるプロモーターなど、に関して、例えば、バッチ培養の増殖段階などにおいて、過剰量の物質(例えば、細胞培養培地における栄養素など)の存在下の宿主細胞において抑制され、流加バッチ戦略に従って、例えば、産生段階(例えば、補助基質の供給またはメタノール誘導のためのメタノールの追加の際など)において、強力な活性を誘導するように抑制解除される、要素を意味するものである。さらに、調節要素は、調節可能に設計することができ、それにより、要素は、細胞培養添加剤の添加なしに不活性であり、そのような添加剤の存在下で活性である。したがって、そのような調節要素の制御下でのPOIの発現は、そのような添加剤の添加において誘導することができる。
【0276】
ECPの強度は、詳細には、その転写強度を意味し、高いまたは低い頻度でそのプロモーターにおいて生じる転写の開始の効率によって表される。転写強度が高いほど、より多い頻度において、そのプロモーターにおいて転写が生じるであろう。プロモーター強度は、プロモーターの典型的な特徴であり、というのも、それは、所定のmRNA配列がどの程度の頻度で転写されるかを決定し、実質的に、転写に関していくつかの遺伝子に他の遺伝子よりも高い優先度を与え、それは、転写のより高い濃度につながるからである。例えば、大量に必要とされるタンパク質をコードする遺伝子は、典型的には、比較的強力なプロモーターを有する。RNAポリメラーゼは、一度に1回しか転写タスクを実行できず、そのため、効率的であるために、その仕事を優先させなければならない。プロモーター強度の差は、この優先順位付けを考慮に入れて選択される。
【0277】
強力なECP、特に、完全に誘導された状態、典型的には、ほぼ最大活性の状態として理解される状態、において比較的強いECP、は、本明細書において好ましい。相対強度は、一般的に、匹敵するプロモーターに対して特定され、プロモーターは、本明細書において基準プロモーターと呼ばれ、標準プロモーター、例えば、宿主細胞として使用される細胞のそれぞれのpGAPプロモーターなど、であり得る。
【0278】
転写の頻度は、一般的に、転写率として理解され、それは、例えば、好適なアッセイ、例えば、RT-PCRまたはノーザンブロット法など、での転写の量によって特定される。例えば、本発明によるプロモーターの転写強度は、P.パストリスである宿主細胞において、P.パストリスの天然pGAPプロモーターと比較することにより特定される。
【0279】
目的の遺伝子を発現するプロモーターの強度は、一般的に、発現強度または高い発現レベル/率を支持する能力として理解される。例えば、本発明のプロモーターの発現強度および/または転写強度は、P.パストリスである宿主細胞において、P.パストリスの天然pGAPプロモーターと比較することにより特定される。
【0280】
基準プロモーターと比較する比較転写強度は、標準的な方法によって、例えば、転写の量を、例えば、マイクロアレイを用いて測定することによって、または細胞培養において、例えば、組換え細胞におけるそれぞれの遺伝子発現産物の量を測定することによって、特定され得る。特に、転写率は、マイクロアレイにおける転写強度、ノーザンブロット法、または定量的リアルタイムPCR(qRT-PCR)を用いて、またはデータが、高増殖率の状態と、低増殖率の状態、または異なる培地組成を用いた状態との間の発現レベルの差と、基準プロモーターと比較した場合の高いシグナル強度とを示す、RNA配列決定法(RNA-seq)を用いて、によって特定され得る。
【0281】
発現率は、例えば、リポーター遺伝子、例えば、eGFPの発現の量によって特定され得る。
本明細書において説明されるECPは、例えば、「相同pGAPプロモーター(homologous pGAP promoter)」とも呼ばれる、宿主細胞における天然pGAPプロモーターと比較して少なくとも15%の転写率または転写強度によって反映される、比較的高い転写強度を発揮する。好ましくは、転写率または転写強度は、天然pGAPプロモーターと比較した場合に、例えば、POIを産生する組換え目的のために宿主細胞として選択された(真核生物)宿主細胞において特定した場合に、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または100%、またはそれ以上のうちの少なくともいずれか、例えば、110%、120%、130%、140%、150%、160%、170%、180%、190%、または200%、またはそれ以上のうちの少なくともいずれかである。
【0282】
天然pGAPプロモーターは、典型的には、ほとんどの生物中に存在する構成的プロモーターであるグリセロアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)をコードするGAP遺伝子の発現を開始させる。解糖および糖新生の鍵酵素であるGAPDH(EC1.2.1.12)は、異化作用および同化作用の糖質代謝において決定的な役割を果たす。
【0283】
天然pGAPプロモーターは、詳細には、未修飾(非組換え)または組換え真核細胞を含む、同じ種または株の天然真核細胞と同様に、組換え真核細胞において活性である。そのような天然pGAPプロモーターは、一般的に、内因性プロモーターであると理解され、したがって、宿主細胞に対して相同であり、比較目的のための標準または基準プロモーターとして機能し得る。本明細書において説明されるプロモーターの相対発現強度または転写強度は、通常、POIを産生するための宿主として使用される同じ種または株の天然pGAPプロモーターと比較される。
【0284】
用語「変異誘発」は、本明細書において使用される場合、非コード領域またはコード領域に少なくとも1つの変化を有するそのバリアントを得るために、例えば、1つまたは複数のヌクレオチドの挿入、欠失、および/または置換によって、ヌクレオチド配列の変異体を提供する方法を意味するものである。変異誘発は、ランダムな、セミランダムな、または部位特異的な変異によって為され得る。バリアントは、基準として親配列を使用する好適な変異誘発方法によって作製することができる。ある特定の変異誘発方法は、核酸を操作する方法、または、テンプレートとしてそれぞれの親配列情報を使用してヌクレオチド配列をデノボ合成する方法を含む。特定の変異誘発方法は、変異体の合理的な操作を適用する。
【0285】
本明細書に使用される用語「ヌクレオチド配列」または「核酸配列」は、DNAまたはRNAのどちらかを意味する。「核酸配列」または「ポリヌクレオチド配列」または単に「ポリヌクレオチド」は、5’から3’末端へと読まれるデオキシリボヌクレオチド塩基またはリボヌクレオチド塩基の一本鎖または二本鎖ポリマーを意味する。それは、発現カセット、自己複製プラスミド、DNAまたはRNAの感染性ポリマー、および非機能的DNAまたはRNAを含む。
【0286】
用語「目的のタンパク質(POI)」は、本明細書に使用される場合、宿主細胞において組換え技術によって作製されたポリペプチドまたはタンパク質を意味する。より詳細には、タンパク質は、宿主細胞において天然には存在しないポリペプチド、すなわち、異種タンパク質、であり得るか、または宿主細胞に対して天然であり得、すなわち、宿主細胞に対して相同なタンパク質であり得るが、しかし、例えば、POIをコードする核酸配列を含む自己複製ベクターによる形質転換によって、または統合の際に、宿主細胞のゲノム中へPOIをコードする核酸配列の1つまたは複数のコピーの組換え技術によって、または例えば、プロモーター配列の、POIをコードする遺伝子の発現を制御する1つまたは複数の調節配列の組換え改変によって、産生される。場合によって、用語POIは、本明細書において使用される場合、組換え的に発現されたタンパク質によって媒介されるような宿主細胞による任意の代謝産物も意味する。
【0287】
親ヌクレオチドまたはアミノ酸配列と比較したときのバリアント、ホモログ、またはオーソログの「配列同一性」なる用語は、2つ以上の配列の同一性の程度を示す。2つ以上のアミノ酸配列は、対応する位置において同じアミノ酸残基または保存されたアミノ酸残基を、ある程度、最高で100%まで有し得る。2つ以上のヌクレオチド配列は、対応する位置において同じ塩基対または保存された塩基対を、ある程度、最高で100%まで有し得る。
【0288】
配列類似性検索は、過剰な(例えば、少なくとも50%の)配列同一性を有するホモログを特定するために、有効で信頼できる戦略である。頻繁に使用される配列類似性検索ツールは、例えば、BLAST、FASTA、およびHMMERである。
【0289】
配列類似性検索は、過剰な類似性、および共通の祖先を反映する統計的に有意な類似性を検出することによって、そのような相同タンパク質または遺伝子を特定することができる。ホモログは、オーソログを包含し得、それらは、本明細書において、異なる有機体における同じタンパク質、例えば、異なる有機体または種におけるそのようなタンパク質のバリアント、として理解される。
【0290】
異なる有機体または種における同じタンパク質のオーソロガス配列は、典型的には、タンパク質配列に対して、詳細には、同じ属由来のオーソログの配列に対して、相同である。典型的には、オーソログは、約25%、30%、35%、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、または95%の同一性、最高で100%の配列同一性のうちの少なくともいずれかを有する。
【0291】
詳細には、タンパク質のオーソログは、ノックアウト宿主細胞におけるオーソロガス配列によって、タンパク質またはタンパク質をコードする遺伝子の置換において特定することができ、この場合、宿主細胞は、そのような置換の前に、それぞれの遺伝子またはタンパク質をノックアウトするために改変されている。
【0292】
例えば、想定されるADH2、AOX1、またはAOX2タンパク質が、P.パストリス宿主細胞において機能的であり、そのような内因性タンパク質をコードする遺伝子がノックアウトされているP.パストリス宿主細胞のそれぞれの内因性タンパク質に取って代わる場合、そのような想定されるADH2、AOX1、またはAOX2タンパク質は、本明細書において説明される目的に対して、それぞれホモログと見なすことができる。
【0293】
配列番号1として特定されるアミノ酸配列を含むかまたはそれらからなるAOX1タンパク質は、K.ファフィ起源である。他のメチロトローフ酵母宿主細胞に存在する相同配列が存在することは、よく理解される。例えば、ピキア・パストリスの酵母は、それぞれの相同配列を含む。ピキア・パストリスは、新属であるコマガタエラに分類し直されており、3つの種K.パストリス、K.ファフィ、およびK.シュードパストリスに分けられる。
【0294】
配列番号1の特定の相同配列は、例えば、K.パストリス(例えば、配列番号9、例えば、配列番号10を含むかまたはそれからなるヌクレオチド配列によってコードされる)、オガタエア・ポリモルファ(例えば、配列番号19、例えば、配列番号20を含むかまたはそれからなるヌクレオチド配列によってコードされる)、またはオガタエア・メタノリカ(例えば、配列番号13、例えば、配列番号14を含むかまたはそれからなるヌクレオチド配列によってコードされる)に見出される。
【0295】
配列番号3として特定されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるAOX2タンパク質は、K.ファフィ起源である。他のメチロトローフ酵母宿主細胞に存在する相同配列が存在することは、よく理解される。例えば、ピキア・パストリスの酵母は、それぞれの相同配列を含む。ピキア・パストリスは、新属であるコマガタエラに分類し直されており、3つの種K.パストリス、K.ファフィ、およびK.シュードパストリスに分けられる。
【0296】
配列番号3の特定の相同配列は、例えば、K.パストリス(例えば、配列番号11、例えば、配列番号12を含むかまたはそれからなるヌクレオチド配列によってコードされる)、オガタエア・ポリモルファ(例えば、配列番号19、例えば、配列番号20を含むかまたはそれからなるヌクレオチド配列によってコードされる)、またはオガタエア・メタノリカ(例えば、配列番号15,例えば、配列番号16を含むかまたはそれからなるヌクレオチド配列によってコードされる)、に見出される。
【0297】
オガタエア・ポリモルファは、本明細書において配列番号19によって例示された、1つのアルコールオキシダーゼしか有していない。したがって、本明細書において説明されるようなオガタエア・ポリモルファにおけるAOX1およびAOX2の発現の減少は、オガタエア・ポリモルファの内因性アルコールオキシダーゼの発現を減少させることによって、効果的に実施される。
【0298】
本明細書において説明されるある特定の配列同一性を有するAOX1またはAOX2タンパク質、特に、P.パストリスAOX1またはAOX2タンパク質のオーソログである任意のそのようなタンパク質、の任意の相同配列は、本明細書において説明されるように、それぞれAOX1タンパク質またはAOX2タンパク質の定義に含まれる。
【0299】
配列番号50として特定されるアミノ酸配列を含むかまたはそれからなるADH2タンパク質は、K.ファフィ起源である。他のメチロトローフ酵母宿主細胞に存在する相同配列が存在することは、よく理解される。例えば、ピキア・パストリスの酵母は、それぞれの相同配列を含む。ピキア・パストリスは、新属であるコマガタエラに分類し直されており、3つの種K.パストリス、K.ファフィ、およびK.シュードパストリスに分けられる。
【0300】
配列番号50の特定の相同配列は、例えば、配列番号52、54、56、58、60、62、64、66、68、または70のいずれかである。
本明細書において説明されるある特定の配列同一性を有するADH2タンパク質の任意の相同配列、特に、本明細書において説明されるような、P.パストリスADH2タンパク質のオーソログである任意のそのようなタンパク質。
【0301】
本明細書において説明されるアミノ酸配列、ホモログ、およびオーソログに関する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、いずれの保存的置換も配列同一性の一部と見なさず、最大パーセント配列同一性を達成するために配列を整列させ、必要であればギャップを導入した後の、特定のポリペプチド配列におけるアミノ酸残基と同一である、候補配列におけるアミノ酸残基の割合として定義される。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含め、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。
【0302】
本明細書において説明される目的のために、2つのアミノ酸配列の間の配列同一性が、以下の例示的パラメータ:Program:blastp、Word size:6、Expect value:10、Hitlist size:100、Gapcosts:11.1、Matrix:BLOSUM62、Filter string:F、Compositional adjustment:Conditional compositional score matrix adjustment、による、NCBI BLASTプログラム バージョンBLASTP 2.8.1を使用して決定される。
【0303】
例えば、プロモーターまたは遺伝子のヌクレオチド配列に関する「パーセント(%)同一性」は、いずれの保存的置換も配列同一性の一部と見なさない、最大パーセント配列同一性を達成するために、配列を整列させ、必要であればギャップを導入した後の、DNA配列におけるヌクレオチドと同一である、候補DNA配列におけるヌクレオチドの割合として定義される。パーセントヌクレオチド配列同一性を特定する目的のためのアラインメントは、当技術分野における技能の範囲内の様々な方法において、例えば、公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して、達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大アラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含め、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。
【0304】
本明細書において説明される目的のために(特に明記されない限り)、2つのアミノ酸配列の間の配列同一性は、NCBI BLASTプログラム バージョンBLASTN 2.8.1を使用して、以下の例示的パラメータ:Program:blastn、Word size:11、Expect threshold:10、Hitlist size:100、Gap Costs:5.2、Match/Mismatch Scores:2,-3、Filter string:Low complexity regions、Mark for lookup table only、を使用して決定される。
【0305】
用語「単離された」または「単離」は、POIに関して本明細書において使用される場合、「精製された」または「十分に純粋な」形態において存在するように、天然において関連する環境から十分に分離されているそのような化合物、特に細胞培養上清、を意味するものである。しかし、「単離された」は、他の化合物または材料との人工混合物または合成混合物、または基本的な活性を妨げず、例えば、不完全な精製により存在し得る不純物の存在の排除、を必ずしも意味するわけではない。単離された化合物は、その調合薬を製造するためにさらに製剤化することができ、さらに、実用目的のために、単離することもでき、例えば、POIは、診断または治療において使用される場合、薬学的に許容される担体または賦形剤と混合することができる。
【0306】
用語「精製された」は、本明細書において使用される場合、少なくとも50%(mol/mol)、好ましくは少なくとも60%、70%、80%、90%、または95%の化合物(例えば、POI)を含む調製物を意味するものである。純度は、化合物にとって適切な方法によって測定される(例えば、クロマトグラフ法、ポリアクリルアミドゲル電気泳動法、HPLC分析など)。本明細書において説明される、単離され精製されたPOIは、不純物を減少させるために細胞培養上清を精製することによって得られ得る。
【0307】
組換えポリペプチドまたはタンパク質産物を得るための単離方法および精製方法として、溶解度の違いを利用する方法、例えば、塩析および溶媒沈殿など、分子量の違いを利用する方法、例えば、限外ろ過およびゲル電気泳動法など、電荷の違いを利用する方法、例えば、イオン交換クロマトグラフィなど、特異的親和性を利用する方法、例えば、親和クロマトグラフィなど、疎水性の違いを利用する方法、例えば、逆相高速液体クロマトグラフィなど、ならびに等電点の違いを利用する方法、例えば、等電焦点法など、が使用され得る。
【0308】
以下の標準的方法が好ましい:精密ろ過、接線流フィルタ(TFF)、または遠心分離法、沈殿または熱処理によるPOI精製、酵素消化物によるPOI活性化、クロマトグラフィによるPOI精製、例えば、イオン交換(IEX)など、疎水性相互作用クロマトグラフィ(HIC)、親和クロマトグラフィ、サイズ排除(SEC)またはHPLCクロマトグラフィ、濃縮物のPOI沈殿、および限外ろ過ステップによる洗浄、による、細胞(デブリ)分離および洗浄。
【0309】
非常に精製された産物は、本質的に混在タンパク質を含まず、好ましくは、少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、少なくとも98%、最高で100%までの純度を有する。精製された産物は、細胞培養上清または細胞残屑の精製によって得られ得る。
【0310】
単離および精製されたPOIは、従来の方法、例えば、ウエスタンブロット、HPLC活性アッセイ、またはELISAなど、によって特定することができる。
用語「組換え」は、本明細書において使用される場合、遺伝子操作によって調製されること、またはその結果を意味するものである。組換え宿主は、1つまたは複数のヌクレオチドまたはヌクレオチド配列を欠失および/または不活性化するように操作され得、詳細には、組換え核酸配列を含む発現ベクターまたはクローニングベクターを含み得、特に、宿主に対して外来性のヌクレオチド配列を用いる。組換えタンパク質は、宿主においてそれぞれの組換え核酸を発現させることによって産生される。POIに関する用語「組換え」は、本明細書において使用される場合、組換え手段によって調製、発現、作製、または単離されるPOI、例えば、POIを発現するように形質転換された宿主細胞から単離されたPOIなど、を含む。本発明に従って、当技術分野の技能内の従来の分子生物学、微生物学、および組換えDNA技術を用いてもよい。このような技術は、文献において十分に説明される。例えば、Maniatis, Fritsch & Sambrook, ”Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor,(1982)を参照されたい。
【0311】
ある特定の組換え宿主細胞は、「操作された」宿主細胞であり、それは、遺伝子工学を使用して、すなわち、人間の介入によって、取り扱われた宿主細胞として理解される。宿主細胞が、所定の遺伝子またはそれぞれのタンパク質の発現を減少させるように、または過小発現するように操作される場合、宿主細胞は、取り扱う前の宿主細胞と同じ条件下において比較して、または遺伝子またはタンパク質が過小発現されるように操作されていない宿主細胞と比較して、宿主細胞がもはや、それぞれ、そのような遺伝子およびタンパク質を発現する能力を有しないように取り扱われる。
【0312】
前述の説明は、後述の実施例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。ただし、そのような実施例は、本発明の1つまたは複数の実施形態を実践する方法の単なる例示であり、本発明の範囲の限定として読まれるべきではない。
【実施例
【0313】
実施例1:ピキア・パストリス(Pichia pastoris)のメタノール利用陰性株の生成
メタノール利用陰性株(Mut)を生成するため、AOX1およびAOX2と名付けられたメタノール利用を担う2つの遺伝子をピキア・パストリス(コマガタエラ酵母(komagataella phaffii)と同義)のゲノムから欠失させた。
【0314】
a)このため、P.パストリス株(CBS2612、CBS-KNAW Fungal Biodiversity Centre,Centraalbureau voor Schimmelcultures,Utrecht,The Netherlands)をエレクトロコンピテントにした。株を100mLのYPD培地(本培養)中に16~20時間(25℃;180rpm)接種し、光学濃度(OD600)1.8~3で、遠心分離(5分;1500g;4℃)によって2つの50mLファルコンチューブに回収した。細胞ペレットを、10mLのYPD+20mM HEPES+25mM DTTに再懸濁し、インキュベートした(30分;25℃;180rpm)。インキュベーション期間後、ファルコンチューブを40mLの氷冷した滅菌蒸留水で満たし、遠心分離した(5分;1500rpm;4℃)(Eppendorf AG,Germany)。細胞ペレットを、氷冷した滅菌1mM HEPES緩衝剤、pH8に再懸濁し、遠心分離した(5分;1500g;4℃)。細胞ペレットを45mLの氷冷した1Mソルビトールに再懸濁し、遠心分離した(5分;1500g;4℃)。ペレットを、500μLの氷冷した1Mソルビトールに再懸濁し、80μLを氷冷した1.5mLエッペンドルフチューブにアリコートした。アリコートしたエレクトロコンピテントな細胞を使用まで-80℃で保存した。
【0315】
b)酵母株の培養は、選択が必要な場合には500μg/mLのジェネテシンまたは200μg/mLのハイグロマイシンを含有するYPD培地(10g/Lの酵母抽出物、20g/Lのペプトン、20g/Lのグルコース)またはYPDアガープレート(10g/Lの酵母抽出物、20g/Lのペプトン、20g/Lのグルコース、20g/Lのアガー-アガー)で行った。
【0316】
c)AOX1およびAOX2の欠失株を生成するため、スプリットマーカーカセットアプローチを使用した(Gasserら,2013)。遺伝子欠失を生成するためのDNA断片は、表1に見出される。スプリットマーカーカセットは、LoxP部位に隣接したジェネテシンの抗生物質耐性カセットを持つ。
【0317】
d)欠失は、0.5μgのAOX1スプリットマーカーカセット1および0.5μgのAOX1スプリットマーカーカセット2を添加することによって行い、エレクトロコンピテントな細胞をアリコートし、氷上で5分間インキュベートした。電気穿孔を2kVで4ミリ秒行った(Gene Pulser,Bio-Rad Laboratories,Inc,USA)。形質転換後、電気穿孔した細胞を1mLのYPD培地に再懸濁し、サーモシェーカー(Eppendorf AG,Germany)上で、700rpmで振盪しながら、30℃で1.5時間~3時間再生させた。その後、20μLと150μLの細胞懸濁液を、選択のために500μg/mLのジェネテシンを含有するYPDプレート上に蒔き、48時間28℃でインキュベートした。出現したコロニーを、500μg/mLのジェネテシンを含有する新しいYPDプレート上に再ストリークした。AOX1遺伝子座の正確な破壊は、欠失カセットの外側に結合するプライマーであるAOX1_ctrl_FwdおよびAOX1_ctrl_Rev(表2)を使用してゲノムDNAのPCRによって確かめた。1つのクローンを、P.パストリス aox1Δ::KanMX株を作製する所望の遺伝子の正確な欠失を確認するPCR増幅およびPCRアンプリコンのシークエンシングに基づいて選択した。単一の陽性コロニーから液体培養をインキュベートし、本培養を作成するための液体培地中への500μg/mLのジェネテシンの添加以外は、実施例1a)で説明したようにエレクトロコンピテントにした。選択のためのLoxP領域の間のジェネテシン抗生物質耐性カセットおよびハイグロマイシン耐性カセットの欠失に必要なCreリコンビナーゼを持つ500μgのpTAC_Cre_Hph_Mx4プラスミドを用いて株を電気穿孔した(Marx,Mattanovich,&Sauer,2008)。記載したように電気穿孔を行い、形質転換体を、500μg/mLのジェネテシンおよび200μg/mLのハイグロマイシンを含むYPDと200μg/mLのハイグロマイシンのみを含むYPDプレートに並行して再ストリークすることにより、ジェネテシン耐性の欠損を選択した。500μg/mLのジェネテシンおよび200μg/mLのハイグロマイシンを含むYPDプレートでは増殖することができないが、200μg/mLのハイグロマイシンのみを含むYPDプレートでは増殖することができたクローンを選択した。AOX1コード領域および抗生物質マーカーの欠失の成功は、プライマーAOX1_ctrl_FwdおよびAOX1_ctrl_Rev(表2)によるPCR増幅およびPCRアンプリコンのシークエンシングによって確かめた(Microsynth AG,Swiss)。生成した株は、P.パストリスCBS2612 Δaox1と呼び、Mut表現型を示す。これを、さらなる遺伝子操作のために選択した。
【0318】
e)P.パストリスCBS2612 Δaox1を使用して、a)に記載のプロトコールによりエレクトロコンピテントな細胞を生成し、d)に記載した手順により0.5μgのAOX2スプリットマーカーカセット1および0.5μgのAOX2スプリットマーカーカセット2(表1)を用いて電気穿孔した。抗生物質マーカーは、d)に記載したのと同じ手順によって除去した。AOX2コード領域および抗生物質マーカーの欠失の成功は、プライマーAOX2_ctrl_fwd&AOX2_ctrl_rev(表2)によるPCR増幅およびPCRアンプリコンのシークエンシングによって確かめた(Microsynth AG,Swiss)。生成した株は、P.パストリスCBS2612 Δaox1Δaox2と呼び、メタノール利用陰性(Mut)表現型を示す。
【0319】
f)PCR増幅のためのゲノムDNAは、製造業者の推奨により、Wizard(登録商標)Genomic DNA精製キット(Promega Corporation,USA)を用いて単離した。PCR増幅反応は、製造業者の推奨により、Q5ポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.,USA)を用いて行った。
【0320】
【表1-1】
【0321】
【表1-2】
【0322】
【表1-3】
【0323】
【表2】
【0324】
実施例2:メタノール誘導性AOX1プロモーター下のP.パストリスΔaox1およびP.パストリスΔaox1Δaox2による細胞内eGFPの産生
タンパク質産生能力およびプロモーター活性を試験するため、P.パストリスΔaox1Δaox2株およびP.パストリスΔaox1株を、高感度緑色蛍光タンパク質(eGFP)の発現構築物(表4)により形質転換した。eGFPコード配列は、PAOX1:PP7435_chr4(237941・・・238898)の発現制御下にあった。
【0325】
a)発現構築物BB3aN_pAOX1_GFP_ScCYCttを、プラスミドBB1_12_pAOX1,BB1_23_eGFP,BB1_34_ScCYC1ttおよびBB3aN_14から、記載されたようにGolden Gateアセンブリー手順(Prielhoferら,2017)を使用してアセンブルした。プラスミドおよび配列は、Golden PiCSキット#1000000133(Addgene,Inc.,USA)で入手可能である。電気穿孔の前に、製造業者のプロトコールにより制限酵素AscI(New England Biolabs,Inc.,USA)を用いてプラスミドを線状化し、Hi Yield(登録商標)Gel/PCR DNA Fragment Extraction Kits(Sud-Laborbedarf GmbH,Germany)を用いて精製した。500ngの線状化したプラスミドは、実施例1a)および1d)に先に記載したように、エレクトロコンピテントなP.パストリスΔaox1Δaox2およびP.パストリスΔaox1に形質転換した。陽性の形質転換体を、100μg/Lのノーセオスリシンを含むYPDで選択し、後のスクリーニング実験に使用した。
【0326】
b)P.パストリスΔaox1Δaox2およびP.パストリスΔaox1における細胞内eGFP発現のスモールスケールスクリーニング実験。実施例2a)からの10個の形質転換体をピックし、ウェルあたり2mLのYPDおよび100μg/Lのノーセオスリシンを含有する24深ウェルプレート中の終夜培養へと接種した。全ての形質転換体を2重に試験した。24ウェルプレートを通気性膜で密封し、25℃および280rpmでインキュベートした。eGFPの細胞内発現レベルのスクリーニングのため、終夜培養物をグルコース徐放性のための25g/Lの多糖および0.3%のアミラーゼ(m2p-labs GmbH,Germany)を含む2.5mLの最小ASMv6培地を含む24深ウェルプレートに移し、2時間インキュベートし、続いてeGFP産生の誘導のため、0.2%(v/v)または1%(v/v)メタノールのいずれかを添加した。eGFP測定は、Gallios flow cytometer(Beckman Coulter,Inc.,USA)を使用して、誘導の4および20時間後に行った。このため、細胞を、0.24g/L KHPO、1.8g/L NaHPO 2HO、0.2g/L KCl、8g/L NaClを含有するリン酸緩衝生理食塩水中で0.5のOD600に希釈した。20,000イベントを測定した。FX値は、等式
【0327】
【数1】
【0328】
を使用する、ソフトウェアFACS Expression version3(De Novo Software,USA)を用いて算出した。方法は、既に記載された(Ata,Prielhofer,Gasser,Mattanovich,&Calik,2017;Hohenblum,Borth,&Mattanovich,2003;Prielhoferら,2013)。
【0329】
c)最小培地ASMv6:6.3g/L(NHHPO、0.8g/L(NHSO、0.49g/L MgSO 7HO、2.64g/L KCl、0.054g/L CaCl 2HO、22g/L クエン酸一水和物、1.47mL/L PTM0微量金属、0.8mg/L ビオチン 20mL/L NHOH(25%);KOHでpHを6.5に設定。
【0330】
d)結果は、表3に示す。蛍光は、細胞内eGFPレベルを決定する代用であり、細胞内eGFPレベルは、PAOX1の活性を決定するための代用であった。結果は、1%メタノール誘導下での20時間で、プロモーターがP.パストリスΔaox1Δaox2株において活性であり、eGFPが産生されることを示す。P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aN_pAOX1_GFP_ScCYCtt株の誘導は、20時間後、0.2%メタノールよりも1%でよく、P.パストリスΔaox1株ではメタノール濃度間の違いは観察されない。
【0331】
【表3】
【0332】
【表4-1】
【0333】
【表4-2】
【0334】
実施例3:メタノール誘導性AOX1プロモーター下で分泌HSAおよびVHHを産生するP.パストリスΔaox1およびP.パストリスΔaox1Δaox2株の生成
P.パストリスΔaox1Δaox2株において分泌組換えタンパク質を産生する能力を試験し、それをP.パストリスΔaox1株と比較するため、株を2つの分泌モデルタンパク質の発現構築物を用いて形質転換した:(1)その天然の分泌リーダーを伴うヒト血清アルブミン(HSA)または(2)出芽酵母(S.cerevisiae)α接合因子分泌リーダーを伴うラクダ類抗体の可変領域(VHH)。目的のこれらの遺伝子のコード配列(外部プロバイダーによってコドン最適化および合成された)は表4に見出すことができる。
【0335】
a)HSAおよびVHH産生に使用するpPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTTおよびpPM2pZ30_pAOX1_αMF-vHH_CycTT発現構築物は、WO2008128701A2に記載のpPuzzle ZeoRベクターの誘導体であり、大腸菌(E.coli)pUC19oriおよびゼオシン抗生物質耐性カセットからなる。pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTTの場合では、ゼオシン耐性は、制限酵素処理およびライゲーションを介してノーセオスリシン耐性に交換される。さらに、ベクターは、効率的なインテグレーションのためのPGI遺伝子座PP7435_Chr3(1366329・・・1367193)に相同なインテグレーション配列を持つ。発現ベクターは、他により詳細に記載される(Gasserら,2013;Stadlmayrら,2010)。目的の遺伝子(GOI)の発現は、PAOX1 PP7435_chr4(237941・・・238898)およびサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)CYC1転写終結因子によって媒介された。ヒト血清アルブミン(HSA)の遺伝子(GenBank NP_000468)を、P.パストリスにコドン最適化し、合成した。これは、天然の分泌リーダーを有し、したがって、上澄み液へと分泌される。VHHの遺伝子は、P.パストリスにコドン最適化して合成し(表4)、上澄み液への分泌のためのN末端S.セレビシエα接合型リーダーを有する。発現構築物の形質転換のため、環状ベクターを、XmnI(New England Biolabs,Inc.,USA)を用いてPGI1相同配列内の制限酵素処理により線状化し、Hi Yield(登録商標)Gel/PCR DNA Fragment Extraction Kit(Sud-Laborbedarf GmbH,Germany)を用いて精製した。
【0336】
b)エレクトロコンピテントなP.パストリスΔaox1Δaox2およびP.パストリスΔaox1を、500ngの線状化pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTTおよびpPM2pZ30_pAOX1_αMF-vHH_CycTTプラスミドを用いて電気穿孔し、選択は実施例1a)および実施例1d)に先に記載したように行った。選択は、それぞれ100μg/mLのノーセオスリシンまたは25μg/mLのゼオシンを含むYPDプレートで行った。
【0337】
実施例4:HSAおよびVHH産生P.パストリスΔaox1Δaox2およびP.パストリスΔaox1のスモールスケールスクリーニング
a)前培養のため、選択のために使用する抗生物質耐性に基づき100μg/mLのノーセオスリシンまたは25μg/mLのゼオシンを含む2mLのYPDに形質転換体を接種した。各発現構築物につき、スクリーニングのため12個の形質転換体をピックした。前培養およびスクリーニング培養は、通気性膜で密封した24ウェルプレートで培養し、280rpm、25℃でインキュベートした。スクリーニング培養物を、開始光学濃度(OD600)8で、6mmフィードビーズ(Kuhner Shaker GmbH,Germany)に基づくグルコース徐放システムを有する2mLの最小培地(ASMv6)に接種し、培養をグルコース限界に維持した。株は、受け取る全メタノールおよび持続期間が異なる、異なるメタノール供給手順で比較した(表5)。
【0338】
b)インキュベーション期間後、1mLの各培養物を除去し、前計量したエッペンドルフチューブ内で遠心分離した。上澄み液を除去し、製造業者の使用説明書によりCaliper LabChip GXII Touch(PerkinElmer,inc.,USA)を用いてタンパク質濃度を測定した。ウェット細胞重量は、細胞ペレットを含むエッペンドルフチューブを計量することにより決定し、以下のように算出した:重量(全)-重量(空)=ウェット細胞重量(WCW)(g/L)。このデータから、収率を算出した:収率(μg/g)=タンパク質濃度/ウェット細胞重量。濃度が2倍である、または上澄み液中に検出可能なタンパク質がない形質転換体のデータは、外れ値として解析から除外した。外れ値は、2コピーの発現構築物を持つまたは全くコピーがない、のいずれかの形質転換体と考えられる(Aw&Polizzi,2013;Schwarzhansら,2016)。
【0339】
【表5】
【0340】
c)結果は、P.パストリスΔaox1Δaox2が、PAOX1の誘導下で分泌タンパク質を産生でき、収率は業界標準として使用されるP.パストリスΔaox1に匹敵することを示す(表6)。「ツーショット-延長」戦略では、P.パストリスΔaox1Δaox2はよい収率を示し、少ないメタノールでの長い培養時間下で、P.パストリスΔaox1Δaox2が有利な収率を示すことを示している。さらに、これは、PAOX1およびメタノール誘導によって制御される分泌タンパク質を産生するP.パストリスΔaox1Δaox2株をスクリーニングするために制限グルコース条件を使用することが可能であることを示す。
【0341】
【表6】
【0342】
実施例5:バイオリアクター培養
組換えタンパク質産生設定の流加バッチモードにおけるP.パストリスΔaox1Δaox2の挙動およびプロセスパラメータを決定するため、バイオリアクター培養を実施した。培養は、以下のように実施した。
【0343】
a)0.7Lのワーキング容積でDASGIPバイオリアクターを使用した(Eppendorf AG,Germany)。1つのバイオリアクターシステムは、温度を制御するため、1つのバイオブロックに配置された4つのリアクターからなる。各リアクターは、ソフトウェア制御された4つの蠕動ポンプに接続される。さらに、各リアクターは、重量測定法でポンプスピードを調整するため、DASGIP制御ソフトウェア(Eppendorf AG,Germany)に接続された2つの利用可能なバランスを有した。各リアクターは、制御可能なガス供給(加圧空気、N、Oは任意の所望の量で混合することができる)およびリアクターオフガスにおけるOおよびCO濃度測定のためのガスアナライザーと接続された。リアクターは、DASGIP制御ソフトウェアに接続されたpHプローブおよび溶存酸素(DO)プローブを有した。DASGIP制御ソフトウェアは、1分間隔で全てのパラメータを記録した。
【0344】
b)バイオリアクター培養培地は、BSM培地(Mellitzerら,2014):11.48g/L HPO、0.5g/L CaCl 2HO、7.5g/L MgSO 7HO、9g/L KSO、2g/L KOH、40g/Lグリセロール、0.25g/L NaCl、4.35mL/L PTM0、0.87mg/L ビオチン、0.1mL/L Glanapon2000、25% NHで5.5に設定されたpH、からなる。
【0345】
c)PTM0:6.0g CuSO 5HO、0.08g NaI、3.36g MnSO O、0.2g NaMoO 2HO、0.02g HBO、0.82g CoCl、20.0g ZnCl、65.0g FeSO 7HO、5mL/L HSO(95%~98%)からなる。
【0346】
d)グルコース供給培地:50%(w/w)グルコース、2.08mg/kg ビオチン、10.4mL/kg PTM0からなる。メタノール供給培地:50%(v/v)または100%(v/v)メタノールである。グリセロール供給培地:60%(w/w)グリセロール、2.08mg/kg ビオチン、10.4mL/kg PTM0からなる。
【0347】
e)溶存酸素(DO)の設定ポイントは20%であった。ある特定の場合では、DO対照は不活性化され、撹拌および通気は手動で一定な750rpmおよび9.5sL/hに設定した。pHは、DASGIP制御ソフトウェアによって制御された12.5%または25%のいずれかのNHを用いて5.0または5.5に設定した。酸対照は、必要な場合に手動の添加により、10% HPOを用いて達成された。温度は25℃に設定した。開始OD600は2であり、開始体積は300mL+15mLの接種培養であった。
【0348】
f)サンプリングは、毎日行った(およそ24時間毎)。最初の3mLの吸引液をリアクターから採取し、サンプリングポートのデッドボリュームを除去した。次いで、9mLの試料を採取した。3×2mLを再軽量した2mLエッペンドルフチューブへピペットし、1×1.5mLを1つの1.5mLエッペンドルフチューブへとピペットした。試料を遠心分離(16,000g、10分、4℃)した。上澄み液を、タンパク質およびHPLC解析のために回収し、-20℃で保存した。ペレットを1mLの0.1M HCl中での再懸濁により洗浄し、微量の塩を除去し、再び遠心分離(16,000g、10分、4℃)した。次いでペレットを、105℃で24時間乾燥させ、乾燥細胞重量を決定した。乾燥細胞重量は以下:(重量(全)-重量(空))/2=乾燥細胞重量(g/L)のように算出し、3回の反復の平均として算出した。HPLC試料のみが必要な場合、2mLのみの試料が採取された
g)細胞生存率は、ヨウ化プロピジウムを用いて細胞懸濁液を染色することによって測定した。このため、リアクター試料からの細胞懸濁液は、リン酸緩衝生理食塩水を用いて0.5のOD600に希釈し、590~650nmのフィルタを用いるGalliosフローサイトメーター(Beckman coulte,Inc.,USA)での測定の前に、10μMの最終濃度にヨウ化プロピジウムのストック溶液と混合した。試料当たり50,000イベントを測定した。
【0349】
実施例6:細胞を含まないバイオリアクターからのメタノールの蒸発率を決定する。
通気および撹拌によるリアクターからのメタノールの蒸発率を評価するため、リアクターを滅菌培地で満たし、メタノールをパルスし、メタノール濃度を決定するために試料を採取した。
【0350】
a)この例のため、2つのリアクターを、グリセロールを含まない310mLのBSM培地で満たし、2つのリアクターを、グリセロールを含まない500mLのBSM培地で満たし、増殖培養によりグリセロールが消費されるバッチ段階の終了時の培地をシミュレートした。
【0351】
b)リアクター撹拌スピードを760rpmに設定し、P.パストリスΔaox1Δaox2の培養の場合のように9.5sL/hでガス注入した。パラメータは表7に見出すことができる。
【0352】
c)50%(v/v)メタノールパルスを手動で添加し、メタノール濃度を1%(v/v)に増加させ、試料を実際に達成された濃度を決定するために採取した。試料ポートから3mLのデッドボリュームの最初の除去、および吸引液の廃棄により、3.4、6.5、22.4、31.0、47.9時間で試料を採取した。その直後に4mLの試料を採取した。
【0353】
d)メタノール濃度のHPLC測定を、先に記載されたように行った(Blumhoff,Steiger,Marx,Mattanovich,&Sauer,2013)。特定および定量のため、純度標準を使用した。カラムは、Aminex HPX-87H(Bio-Rad Laboratories,Inc,USA)であり、0.6mL/分で4mM HSO移動相を用いて60℃で実行した。検出器は、屈折率検出器RID-10A(Shimadzu,Corp.,Japan)であり、算出はLabSolutions v5.85ソフトウェア(Shimadzu,Corp.,Japan)を用いて行った。
【0354】
e)蒸発率は、最大時間および濃度差のある最初および最終試料からのみ算出した。隣接する試料間の濃度の変化はわずかであり、測定誤差は算出に影響が大きかった。データは表8に見出すことができる。R1およびR2は、500mLの培地で満たし、平均値0.063g-1*-1を有した。
【0355】
【表7】
【0356】
【表8】
【0357】
実施例7:P.パストリスΔaox1Δaox2のメタノール取り込み率の決定
メタノール取り込み率を決定するため、P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT株をバイオリアクターで培養した。培養は、ある特定のバイオマス濃度まで増殖させた。次いで、メタノールパルスを適用し、試料をパルス直後およびおよそ20時間後に採取した。目的はMut株のメタノール取り込み率を決定し、それを実施例6で測定されたメタノール蒸発率と比較することである。
【0358】
a)前培養:リアクター接種の24時間前に、100μg/Lのノーセオスリシンを含有する50mLのYPDに、P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTTを接種した。リアクターの接種の3時間前に、前培養は、別の100μg/Lのノーセオスリシンを含有するさらなる50mLのYPDによって希釈した。接種前、適切な量の培養物を遠心分離(1500g、5分、20℃)し、OD600が42の15mLのBSM培地中に再懸濁した。
【0359】
b)300mLのBSM培地で満たしたリアクターに、15mLのP.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT培養物を接種した。リアクター内の標的接種OD600は2であった。残存酸素スパイクによって示されるバッチ段階の終了時に、50%(w/w)グルコース供給を2.4mL/hで開始し、24時間バイオマスを増加させた。グルコース供給開始の2時間後、9.5mLの50%(v/v)メタノールショットを与え、メタノール濃度を1.5%に増加させた(測定した濃度は、R1=1.47%およびR2=1.48%であった)。これは、メタノール消費を誘導するために行われた。グルコース供給段階の終了時に、細胞乾燥重量およびHPLCのための試料を採取した。
【0360】
c)グルコース段階の後、撹拌およびガス注入は、一定な750rpmおよび9.5sL/hに設定した。追加の50%メタノールパルスを添加し、濃度を1.5%に増加させ、すぐに試料を採取した(測定された濃度は、R1=1.36%およびR2=1.36%であった)。濃度を19.5時間後に再び測定し、特異的なメタノール取り込み率(qメタノール)を決定するために使用した。
【0361】
d)この実験のメタノール濃度減少(dc/dt)は、0.022~0.063gL-1-1の範囲である実施例6e)、表8での蒸発率で得られた値と比較して、平均0.37gL-1-1で実質的に高かった。
【0362】
特異的メタノール取り込み率は、以下のように表9に表すデータに基づいて算出した。
【0363】
【数2】
【0364】
体積は、測定期間にわたり一定であった。引かれる蒸発を含まない平均の特異的メタノール取り込み率(qメタノール)は、5.07mg g-1-1であった。引かれる蒸発を含む特異的メタノール取り込み率の算出のため、22mg L-1-1の蒸発率を、実施例6e)、表8の結果に基づき推定した。この結果は、完全に新しく、予想外であった。これまで、Mutはメタノールを代謝することができず、メタノールの減少が蒸発減であることが、出版された論文で報告および認められた(Looserら,2015)。
【0365】
【表9】
【0366】
実施例8:培養戦略1-P.パストリスΔaox1Δaox2への一定のグルコース/メタノール同時供給の適用
P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT株を、組換えタンパク質産生シナリオで培養した。株に、一定の制限グルコース供給を供給し、タンパク質産生のためにメタノールで誘導した。
【0367】
a)接種は、実施例7a)b)に記載のように行った。培養は、2つの段階に分けた。(1)段階1:バッチは、BSM培地中2のOD600で開始した。バッチ段階の終了は、リアクターR1で22.27h、リアクターR2で21.52hでの残存酸素スパイクによって示された。
【0368】
b)(2)段階2:50%(w/w)グルコース供給を含む流加バッチ段階は、97時間、2.4mL/hの供給速度で段階1の後に開始した。同時に、メタノール濃度を1.5%(v/v)に増加させるために、50%(v/v)メタノールパルスを添加した。HPLC試料は、実施例6d)に記載のように採取し、正確な濃度を測定し、必要であれば追加のパルスを添加した。予測されるバイオマス濃度に基づいて算出されたメタノール供給および実施例7d)で測定されたように5mg/g-1-1の特異的メタノール取り込み率を適用した。メタノール濃度は、HPLCによるアットラインで毎日測定した。
【0369】
c)メタノール供給は、以下のように時間間隔で算出した:
【0370】
【数3】
【0371】
d)実施例7d)に基づき予測される特異的メタノール取り込み率のため、アットラインで1日当たり1回だけのメタノール濃度測定および供給調整を伴い、1.19%から1.5%(v/v)のメタノールへとバイオリアクター培養の間メタノール濃度を過剰に保つことが可能であった。
【0372】
e)プロセスおよび生産性データは、表10に見出すことができる。特異的生産性の全体平均は、29.4μg g-1-1であった。培養の終了時のメタノール濃度は、リアクターR1およびR2で10.4および10.0g/L(1%(v/v)メタノールは、7.92g/Lに相当する)であった。リアクターR1およびR2による段階2で消費されたメタノールの総量は、25.03gおよび24.07gであった。これは、以下の等式によって算出した:
【0373】
【数4】
【0374】
【表10】
【0375】
実施例9:培養戦略2-別々のグルコース供給段階およびメタノールのみの供給段階による供給戦略
P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT株を、まず、制限グルコース供給を適用してバイオマスを増加させ、メタノールパルスによる別の段階、およびタンパク質産生を誘導するための供給へと続く組換えタンパク質産生シナリオで試験した。
【0376】
a)バイオリアクター培養を3つの段階に分けた。(1)段階1は、開始OD600が2のBSM培地でのバッチ段階からなる。接種は、実施例7a)b)に記載のように行った。バッチ段階は、リアクターR3およびR4で、それぞれ19.68および19.5時間続いた。(2)段階2は、25時間、4.8mL/hでの50%(w/w)グルコース供給であり、バイオマス濃度を増加させた。(3)段階3は、1.5%(v/v)の標的濃度に達するように50%(v/v)メタノールパルスで開始し、メタノール供給プロファイルは、72.7時間、実施例8c)に記載のように予測される細胞乾燥重量および特異的メタノール取り込み率に基づき算出された。メタノール濃度を実施例6d)に記載のように毎日HPLCによってアットラインで測定し、正確な濃度を測定し、必要であれば追加の補正パルスを添加した。この段階では、リアクター撹拌スピードは一定な760rpmに設定し、ガス注入は9.5sL/hであった。
【0377】
b)プロセスおよび生産性データは、表11に見出すことができる。培養を通して最大および最小メタノール濃度は、4.3g/Lから12.55g/Lの範囲であった。特異的生産性の全体平均は、32.9μg g-1-1であった。培養の終了時のメタノール濃度は、リアクターR3およびR4で7.10および7.47g/Lであった。リアクターR3およびR4により段階3で消費されたメタノールの量は、12.0gおよび12.6gであった。これは、実施例8e)のように算出した。段階3でのバイオマスが一定であったため、段階3のメタノール取り込み率(qメタノール)は、以下の等式によって算出した:
【0378】
【数5】
【0379】
段階3では、リアクターR3のqメタノールは3.79mg g-1-1であり、リアクターR4では、qメタノールは3.92mg g-1-1である。
c)表11の総バイオマスは、12mLの試料抽出について補正し、バイオマスが増加しなかったことを示す。全体的に、段階3の総バイオマスは、リアクターR3およびR4で4.5%および3.4%減少した。驚いたことに、それにもかかわらず、培養は分泌組換えタンパク質を産生した。これは、P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT株は、メタノールのみを供給し、明らかな増殖がない場合でさえも、組換え分泌タンパク質を効果的に産生することができる。唯一の炭素源としてメタノールを用いて段階3で産生されたタンパク質の総量の平均は105mgである。
【0380】
【数6】
【0381】
【表11】
【0382】
実施例10:培養戦略3-グルコース/メタノール同時供給段階による供給戦略および別のメタノールのみの供給段階
P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT株を、バッチ段階の後に制限グルコース供給ならびに追加のメタノールパルスおよび供給を適用してバイオマスの増加および組換えタンパク質産生を同時に達成する組換えタンパク質産生シナリオで試験した。所望のバイオマスが達成された後、グルコース供給は停止したが、メタノール供給は培養の残りの間継続した。
【0383】
a)バイオリアクター培養を3つの段階に分けた。(1)段階1は、バッチ段階であった。このため、リアクターは、開始OD600が2の産生株P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTTを接種した。接種は、実施例7a)b)に記載のように行った。バッチ段階は、リアクターR1およびR2で、それぞれ19.35および19.37時間続いた。バッチ段階の終了は、残存酸素ピークによって示された。(2)この時点で、段階2を開始した。段階2は、25時間、4.8mL/hでの50%(w/w)グルコース供給からなる。段階2の開始時には、50%(v/v)メタノールパルスを適用し、メタノール濃度を標的の1.5%(v/v)に増加させ、続くメタノール供給を開始して、メタノール消費、蒸発およびグルコース供給による希釈に対抗した。(3)段階3は、72.9時間のメタノールのみの供給からなる。この段階では、リアクター撹拌速度は一定な760rpmに設定し、ガス注入は9.5sL/hであった。メタノール濃度を実施例6d)に記載のように毎日HPLCによってアットラインで測定した。必要であれば追加の補正パルスを添加した。
【0384】
b)メタノール供給は、実施例9b)のように時間間隔で算出した:
c)プロセスおよび生産性データは、表12に見出すことができる。2回の繰り返しの培養を通して最大および最小メタノール濃度は、6.9g/Lから11.4g/Lの範囲であった。特異的生産性の全体平均は、45.8μg g-1-1であり、段階3の平均特異的生産性は、34.0μg g-1-1であった。培養の終了時のメタノール濃度は、リアクターR1およびR2で8.0g/Lであった。リアクターR1およびR2により段階3で消費されたメタノールの量は、14.4gおよび14.1gであった。これは、実施例9b)に示すように等式によって算出した。段階3でのバイオマスが一定であったため、段階3のメタノール取り込み率(qメタノール)は、実施例9b)に示すように算出した。段階3では、リアクターR1のqメタノールは4.61mg g-1-1であり、リアクターR2のqメタノールは4.54mg g-1h-1であった。全体的に、段階3では、バイオマスは、リアクターR1およびR2で5.7%および5.5%減少した。また、これは、P.パストリスΔaox1Δaox2株による明らかな増殖がない産生が可能であることを示す。唯一の炭素源としてメタノールを用いて段階3で産生された組換えタンパク質の総量の平均は106mgであり、実施例9、段階3で産生された105mgの組換えタンパク質と類似する。これは、実施例9の32.9μg g-1-1とこの実施例の34.0μg g-1-1から、段階3での類似の特異的生産性によっても示される。結論として、段階3(メタノールのみを供給する段階)での生産性は、培養が段階2(グルコース供給段階)で誘導されたか、またはそうでないかに依存しなかった。組換えタンパク質産生が増殖と無関係であるため、メタノールのみを供給する戦略は、P.パストリスΔaox1Δaox2株で使用する場合、いくつかの利点を有する。実施例8のようにメタノールのみを供給する段階を含まないバイオリアクター培養では、プロセスは、最大リアクター体積および酵母乾燥質量濃度によって制約される。ある特定の時間後、この制約は、最大体積または最大の所望のバイオマス濃度のいずれかに達することによって培養プロセスを停止させる。実施例9のように、P.パストリスΔaox1Δaox2と組み合わせてメタノール供給段階を使用することにより、バイオマスが増加せず、体積の増加が無視できるため、培養時間は、バイオマス濃度または体積によってもはや制限されない。結果として、高いバイオマス濃度での培養は、これらの制約に達することなくより長い期間バイオリアクターで維持することができ、目的のタンパク質の濃度を増加するより長い産生段階を可能にする。以下の実施例12に示すようにメタノール利用が低いP.パストリスΔaox1株を使用する場合、メタノールのみの供給段階も適用されるが、P.パストリスΔaox1がメタノールのみの供給で継続して増殖し、したがって議論したのと同じ制約を示すためこれらの利点は存在しない。P.パストリスΔaox1をP.パストリスΔaox1Δaox2と同じメタノール供給速度に制限することは、生産性の喪失をもたらす。さらなるプロセスに関連するP.パストリスΔaox1Δaox2株の改善は、実施例12で議論する。
【0385】
【表12】
【0386】
実施例11:培養戦略3-VHHを分泌するP.パストリスΔaox1Δaox2に適用するグルコース/メタノール同時供給段階および別々のメタノールのみの供給段階による供給戦略
別の分泌タンパク質により分泌された組換えタンパク質産生を確認するため、実施例10a)に記載のバイオリアクター培養を、P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pZ30_pAOX1_αMF-vHH_CycTTを用いて繰り返した。
【0387】
a)実施例10a)のように、このバイオリアクター培養を3つ段階に分けた。(1)段階1は、バッチ段階であった。このため、実施例7a)b)に記載のように、リアクターは、開始OD600が2の産生株P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pZ30_pAOX1_αMF-vHH_CycTTを接種した。バッチ段階は、リアクターR1およびR2で、それぞれ18.79および19.33時間続いた。バッチ段階の終了は、残存酸素ピークによって示された。(2)この時点で、段階2を開始した。段階2は、33.9時間、4.8mL/hでの50%(w/w)グルコース供給からなり、実施例10においてよりもさらに高くバイオマスを増加させた。段階2の開始時には、50%(v/v)メタノールパルスを添加し、メタノール濃度を標的値の1.5%(v/v)に増加させ、続くメタノール供給を開始して、メタノール消費、蒸発およびグルコース供給による希釈に対抗した。(3)段階3は、63.9時間のメタノールのみの供給からなる。撹拌速度は一定な760rpmに設定し、ガス注入は9.5sL/hに設定した。メタノール濃度を実施例6d)に記載のように毎日HPLCによってアットラインで測定した。必要であれば追加の補正パルスを添加した。
【0388】
b)メタノール供給は、実施例9b)に記載のように算出した。
プロセスおよび生産性データは、表13に見出すことができる。2回の繰り返しの培養を通して最大および最小メタノール濃度は、8.7g/L(R1)から11.3g/L(R1)の範囲であった。特異的生産性の全体平均は、118.0μg g-1-1であり、段階3では、88.2μg g-1-1であった。培養の終了時のメタノール濃度は、リアクターR1およびR2で10.5g/Lおよび10.8g/Lであった。リアクターR1およびR2により消費されたメタノールの量は、26.6gおよび26.0gであった。これは、実施例8e)に示すように以下の等式によって算出した。この量は、より高いバイオマス濃度により実施例10より高いが、依然としてMut株(実施例12に記載)より著しく低い(5分の1)。段階3でのバイオマスが一定であったため、段階3のメタノール取り込み率(qメタノール)は、実施例9b)に示すように算出した。段階3では、リアクターR1のqメタノールは4.75mg g-1-1であり、リアクターR2のqメタノールは4.68mg g-1-1であった。
【0389】
c)全体的に、段階3では、バイオマスは、リアクターR1およびR2で4.4%および4.9%減少した。表13のデータは、P.パストリスΔaox1Δaox2株が、リットル当たりグラム量でも分泌組換えタンパク質を産生できることを明確に示す。メタノールのみを供給する段階では、vHH濃度は815.5mg/L増加し、平均総量323.1mgの抗体断片が唯一の炭素源としてメタノールを使用して産生されたことを意味する。
【0390】
【表13】
【0391】
実施例11.1:確立されたバイオリアクター培養プロトコールを用いて培養したメタノール利用が低いP.パストリスΔaox1(Mut)と比較してP.パストリスΔaox1Δaox2(Mut)株で得られたプロセスパラメータ。
【0392】
比較のため、P.パストリスΔaox1 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTTを、Mut表現型の確立された培養プロトコールを用いて培養した(Potvin,Ahmad,&Zhang,2012)。
【0393】
a)このバイオリアクター培養を4つの段階
に分けた。(1)段階1は、バッチ段階であった。このため、実施例7a)b)に記載のように、リアクターは、開始OD600が2の産生株P.パストリスΔaox1 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTTを接種した。バッチ段階は、リアクターR1およびR2で、それぞれ20.17および20.30時間続いた。バッチ段階の終了は、残存酸素ピークによって示された。(2)段階2は、8時間、線状に増加する(y=0.225x+1.95)60%グリセロール供給である。(3)段階3は、18時間、線状に減少する(y=3.75-0.111x)60%グリセロール供給と線状に増加する(y=0.028x+0.6)100%メタノール供給による同時供給段階であった。(4)段階4は、72時間、線状に増加する100%メタノール供給(y=0.028x+1.10)によるメタノールのみの供給段階である。総実行時間は、119.25時間であった。
【0394】
b)グリセロールとメタノール供給は、DASGIP制御ソフトウェア(Eppendorf AG,Germany)により、a)の等式に基づいて重量測定で制御された。
c)プロセスおよび生産性データは、表13.1に見出すことができる。段階3から段階4(産生段階)の特異的生産性の全体平均は、61.7μg g-1-1であった。消費したメタノールの平均総量は、培養期間全体にわたり165.8gであり、段階4(メタノールのみの供給段階)では150.6gであった。培養ブロスの残存メタノール濃度は、これがメタノール限定培養であったため、ゼロであると考えられた。この実施例の段階4は、実施例9、10および11の段階3に相当する。段階4の平均バイオマスに基づき、実施例9b)に示すようにメタノール取り込み率(qメタノール)を算出した。段階4のqメタノールは、リアクターR1では37.1mg g-1-1であり、リアクターR2では37.6mg g-1-1であった。段階4のqメタノールは、望まないバイオマス増加を促進する。培養終了時の総バイオマスの53.2%(R1)および52.4%(R2)が、段階4のメタノールによる増殖中に生成される。
【0395】
d)株に関連するプロセスパラメータの比較は表13.2に示され、提示した実施例からの特異的メタノール取り込み率および供給速度の概要は13.3に見出すことができる。組換えタンパク質産生のためにP.パストリスΔaox1Δaox2Mutを使用することにより、P.パストリスΔaox1によるプロセスと比較して、いくつかの重要なプロセスパラメータが著しく改善した。反応の熱は、実質的に80%より大きく低下し、冷却の必要性の低下をもたらす。特異的酸素取り込み率および酸素移行率は、80%より大きく低下し、混合および通気の必要性の低下をもたらし、通気の流速ならびに純粋な酸素をバイオリアクターベッセルに供給する必要性を低下させる。低い特異的メタノール取り込み率は、培養に必要とされるメタノールの量を低下させる。メタノールは毒性および可燃性である。
【0396】
Mut株の使用は、それが生産設備で操作および保存するために必要なメタノールの量を低下させるため、技術および安全性の改善を提示する。別の利点は、高メタノール濃度へのP.パストリスΔaox1Δaox2の低い感受性である。これは、実施例10の株P.パストリスΔaox1Δaox2およびこの実施例のP.パストリスΔaox1の細胞生存率データによって確認される。実施例10において、プロセスの終了時におけるリアクターR1およびR2のMut細胞の生存率は、99.8%および99.7%であった。これに対し、この実施例におけるリアクターR1およびR2のMut細胞の細胞生存率は、95.9%および96.5%であった。P.パストリスΔaox1Δaox2株の低い感受性と高い生存率は、組換え産生された分泌タンパク質の純度に効果を有する。溶解した細胞は、目的のタンパク質を分解するプロテアーゼを放出し、上澄み液中に望まない可溶性タンパク質を加え、両作用が上澄み液中の目的のタンパク質の低純度および欠如をもたらす。実施例10のP.パストリスΔaox1Δaox2の純度が両リアクターR1およびR2で85%であったのと比較して、この実施例のP.パストリスΔaox1の純度は、リアクターR1およびR2で72%および77%であった。
【0397】
【表14】
【0398】
【表15】
【0399】
【表16】
【0400】
実施例12:メタノール利用陰性およびアルコールデヒドロゲナーゼ欠損株の生成
実施例7で観察されたP.パストリスMut株のメタノール消費は、予想外であり、新しかった。この知識に基づき、アルコールデヒドロゲナーゼがこの特徴の要因であるという仮説を立てた。P.パストリスΔaox1Δaox2におけるメタノール消費へのアルコールデヒドロゲナーゼの効果を試験するため、2つの可能性のあるアルコールデヒドロゲナーゼを欠失のために選択した。ADH2:PP7435_Chr2-0821およびADH900:PP7435_Chr2-0990。遺伝子のコード領域を抗生物質耐性と交換することにより、3つの株、(1)ADH2欠損株、(2)ADH900欠損株、および(3)二重欠失ADH2&ADH900株を作製した。効果的に、株(1)P.パストリスΔaox1Δaox2 adh2Δ::HphR、(2)P.パストリスΔaox1Δaox2 Adh900Δ::KanMXおよび(3)P.パストリスΔaox1Δaox2 adh2Δ::HphR adh900Δ::KanMXを作成した。
【0401】
a)P.パストリスΔaox1Δaox2を、実施例1a)に記載のようにエレクトロコンピテントにした。ADH2欠失を生成するため、実施例1b)に記載のようにスプリットマーカー手法を使用した。エレクトロコンピテントな細胞を、実施例1d)に記載のように、500ngのAdh2スプリットマーカーカセット1および500ngのAdh2スプリットマーカーカセット2により形質転換した。カセット配列は、表14に見出すことができる。形質転換体は、200μg/mLのハイグロマイシンを含むYPDプレートで選択した。1つのクローンをPCR増幅およびPCRアンプリコンのシークエンシングに基づいて選択した。抗生物質マーカーによるADH2コード領域の置換の成功は、プライマーAdh2_KO_ctrl_fwd & Adh2_KO_ctrl_rev(表15)を用いるPCR増幅およびPCRアンプリコンのシークエンシングによって確かめた(Microsynth AG,Swiss)。生成した株は、(1)P.パストリスΔaox1Δaox2 Adh2Δ::HphRと呼ばれる。
【0402】
b)P.パストリスΔaox1Δaox2株を、実施例1a)に記載のようにエレクトロコンピテントにした。エレクトロコンピテントな細胞を、実施例1d)に記載のように、500ngのAdh900スプリットマーカーカセット1および500ngのAdh900スプリットマーカーカセット2により形質転換した。カセット配列は、表14に見出すことができる。形質転換体は、500μg/mlのジェネテシンを含むYPDプレートで選択した。1つのクローンをPCR増幅およびPCRアンプリコンのシークエンシングに基づいて選択した。抗生物質マーカーによるADH900コード領域の置換の成功は、プライマーAdhII_KO_Ctrl_fwd & AdhII_KO_Ctrl_rev(表15)を用いるPCR増幅およびPCRアンプリコンのシークエンシングによって確かめた(Microsynth AG,Swiss)。生成した株は、(2)P.パストリスΔaox1Δaox2 Adh900Δ::KanMXと呼ばれる。
【0403】
c)P.パストリスΔaox1Δaox2 adh2Δ::HphR株を、200μg/mLのハイグロマイシンを主培養培地に添加した以外は実施例1a)に記載のようにエレクトロコンピテントにした。エレクトロコンピテントな細胞は、実施例1d)に記載のように、500ngのAdh900スプリットマーカーカセット1および500ngのAdh900スプリットマーカーカセット2により形質転換した。カセット配列は、表14に見出すことができる。形質転換体は、200μg/mLのハイグロマイシンおよび500μg/mLのジェネテシンを含むYPDプレートで選択した。1つのクローンをPCR増幅およびPCRアンプリコンのシークエンシングに基づいて選択した。抗生物質マーカーによるADH900コード領域の置換の成功は、プライマーAdhII_KO_Ctrl_fwd & AdhII_KO_Ctrl_rev(表15)を用いるPCR増幅およびPCRアンプリコンのシークエンシングによって確かめた(Microsynth AG,Swiss)。生成した株は、(3)P.パストリスΔaox1Δaox2 Adh2Δ::HphR Adh900Δ::KanMXと呼ばれる。
【0404】
d)PCR増幅のためのゲノムDNAは、製造業者の推奨により、Wizard(登録商標)Genomic DNA精製キット(Promega Corporation,USA)を用いて単離した。PCR増幅反応は、製造業者の推奨により、Q5ポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.,USA)を用いて行った。
【0405】
【表17-1】
【0406】
【表17-2】
【0407】
【表17-3】
【0408】
【表18】
【0409】
実施例13:Adh2およびAdh900過剰発現メタノール利用陰性株の生成
ADH2およびADH900過剰発現の効果を調べるため、構成的プロモーターPGAP:PP7425_Chr1(596296・・・596790)およびそれぞれADH2コード配列またはADH900コード配列から構成されるように発現構築物を作成した。ADH2およびADH900コード配列(表16)を改変し、遺伝子産物のアミノ酸配列に影響することなくコード配列のBbsIおよびBsaI制限部位を除去した。生成した株は、P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pGAP_Adh2_CycTTおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pGAP_Adh900_CycTTと名付けた。
【0410】
a)Golden Gateアセンブリー法を使用するため、制限酵素BbsIおよびBsaI(New England Biolabs,Inc.,USA)の制限部位は、遺伝子産物のアミノ酸配列に影響することなくコード配列から除去される必要があった。このプロセスは、キュアリングと呼ばれる。ADH2PP7435_Chr2-0821のコード配列は、c.45G>Aおよびc.660C>Gで改変された。ADH900PP7435_Chr2-0990のコード配列は、c.42C>Gで改変された。Golden Gateアセンブリーのために使用したキュアしたコード配列は、表15に見出すことができる。最初の12塩基対および最後の15塩基対は、コード配列の部分ではなく、Golden Gateアセンブリーに必要とされることに注意されたい。
【0411】
b)本明細書で使用したGolden Gateアセンブリーは、既に記載された(Prielhoferら,2017)。(1)発現構築物BB3aZ_pGAP_Adh2_CycTTは以下のようにアセンブルした。Adh2_GG_cured DNA断片(表15)を、BB1_23骨格へとクローニングし、BB1_23_Adh2を作成した。発現構築物は、BB3aZ_14(骨格)、BB1_23_Adh2(コード配列)BB1_12_pGAP(プロモーター)、BB1_34_ScCYC1tt(ターミネーター)のGolden Gateアセンブリーによって生成した。(2)発現構築物BB3aZ_pGAP_Adh900_CycTTは以下のようにアセンブルした。Adh900_GG_cured DNA断片(表15)を、BB1_23骨格へとクローニングし、BB1_23_Adh900を作成した。発現構築物は、BB3aZ_14(骨格)、BB1_23_Adh900(コード配列)BB1_12_pGAP(プロモーター)、BB1_34_ScCYC1tt(ターミネーター)のGolden Gateアセンブリーによって生成した。プラスミドおよび配列は、Golden PiCS kit#1000000133(Addgene,Inc.,USA)で入手可能である。
【0412】
【表19-1】
【0413】
【表19-2】
【0414】
【表19-3】
【0415】
c)P.パストリスΔaox1Δaox2株を、実施例1a)に記載のようにエレクトロコンピテントにした。BB3aZ_pGAP_Adh2_CycTT発現構築物およびBB3aZ_pGAP_Adh900_CycTT発現構築物を、製造業者のプロトコールによりAscI(New England Biolabs,Inc.,USA)を用いて線状化し、Hi Yield(登録商標)Gel/PCR DNA Fragment Extraction Kit(Sud-Laborbedarf GmbH,Germany)を用いて精製した。500ngの線状化したプラスミドは、実施例1a)および1d)に先に記載したように、エレクトロコンピテントなP.パストリスΔaox1Δaox2に形質転換した。陽性の形質転換体を、25μg/mLのゼオシンを含むYPDで選択した。発現構築物のインテグレーションの成功は、鋳型としてゲノムDNAを用いる、プライマー109_BB3aN_ctrl_fwdおよびpGAP_goi_rev_v2(表17)でのPCR増幅により確かめた。作成された株は、P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pGAP_Adh2_CycTTおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pGAP_Adh900_CycTTと呼ばれる。
【0416】
d)PCR増幅のためのゲノムDNAは、製造業者の推奨により、Wizard(登録商標)Genomic DNA精製キット(Promega Corporation,USA)を用いて単離した。PCR増幅反応は、製造業者の推奨により、Q5ポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.,USA)を用いて行った。
【0417】
【表20】
【0418】
実施例14:メタノール利用陰性アルコールデヒドロゲナーゼ欠損株の無細胞抽出物におけるアルコールデヒドロゲナーゼ活性の測定。
表現型レベルでのアルコールデヒドロゲナーゼの欠失の成功を調べるため、基質としてエタノールを用いて無細胞抽出物におけるアルコールデヒドロゲナーゼ活性を測定した。エタノールは、一般にAdh2の主な基剤と考えられる。
【0419】
a)通気性膜によって密封した24ウェルプレートにおいて、2mLのYPD培地中、25℃および280rpmで終夜培養を行った。使用した株は、実施例12a)P.パストリスΔaox1Δaox2 Adh2Δ::HphR、実施例12b)P.パストリスΔaox1Δaox2 Adh2Δ::HphR Adh900Δ::KanMXおよび実施例1e)P.パストリスΔaox1Δaox2であった。さらなる対照として、P.パストリスX33(Thermo Fisher Scientific Inc.,USA)およびP.パストリスX33 ΔAdh2(Noconら、2014)を使用した。
【0420】
b)無細胞抽出物は、終夜培養を遠心分離(16,000g、5分、4℃)し、それを1mLのリン酸緩衝生理食塩水に再懸濁することによって調製した。2回目の遠心分離ステップ(16,000rpm、5分、4℃)の後、細胞は、ガラスビーズ(glass beats)を含む0.5mLの細胞溶解緩衝液に再懸濁した。培養を、ステップの間氷上で1分間冷却しながら、6m/sで3×20秒間ビーズ破砕により、ribolyser(MP Biomedicals,Inc.,USA)で溶解した。溶解ステップの後、培養物を遠心分離(16.000g、5分、4℃)し、上澄み液を新しいエッペンドルフチューブに移し、再び遠心分離(16.000g、30分、4℃)し、持ち越した細胞デブリを除去した。2回目の遠心分離ステップの後、上澄み液を使用まで-20℃で保存した。
【0421】
c)細胞溶解緩衝液は、50mLあたり20mM HEPES、420mM NaCl、1.5mM MgCl、10%グリセロール、1 SIGMAFAST(商標)Protease Inhibitor Cocktail Tablets(Sigma-Aldrich GmbH)からなる。アッセイ緩衝液は、pH8.9の、100mM MOPS、5mM MgSO、2mM NADからなる。
【0422】
d)無細胞抽出物のタンパク質濃度は、製造業者の推奨により、Pierce(商標)BCA Protein Assay(Thermo Scientific,Inc.,USA)によって測定し、全ての試料を3.8mg/mLの共通濃度に均一に調整した。
【0423】
e)アルコールデヒドロゲナーゼ活性アッセイは、96ウェルプレートで行った。測定は、340nmでのNADHの吸光度を測定することにより、マイクロプレートリーダー(Tecan Group Ltd.,Swiss)で行った。温度は42℃に設定した。アッセイを開始するため、20μLの無細胞抽出物をアッセイ緩衝液に添加し、基質として1Mのエタノールを添加する前に10から15分間平衡化した。全終了体積は、300μLであった。mU/mgでの活性は、基質エタノールの添加後の吸収の最大線形増加から算出した。1活性単位は、1分当たりに消費される1μmolの基剤(NAD)に相当する。これは、ランベルト-ベールの法則および係数εNADH=6220 M-1cm-1を使用して、吸収データから算出した。
【0424】
f)結果は、無細胞抽出物のアルコールデヒドロゲナーゼ活性へのAHD遺伝子欠失の効果を明確に示す(表18)。ADH2遺伝子を欠失することにより、94%の活性減少が達成される。これは、P.パストリスX33株によってさらに確認される。第2のアルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子ADH900も欠失することにより、99%の合わせた活性減少が観察される。
【0425】
【表21】
【0426】
実施例15:メタノール利用陰性およびアルコールデヒドロゲナーゼ欠損株のメタノール取り込み率の測定。
メタノール取り込み率を決定するため、Mutおよびアルコールデヒドロゲナーゼ欠損株を、バイオリアクター内で培養した。試験した株は、P.パストリスΔaox1Δaox2 Adh2Δ::HphR、P.パストリスΔaox1Δaox2 Adh900Δ::KanMXおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 Adh2Δ::HphR Adh900Δ::KanMXであった。培養は、特定のバイオマス濃度まで増殖させた。次いで、メタノールパルスを適用し、パルスの直後およびおよそ20時間後にメタノール濃度を測定した。実験設定は、実施例7に既に詳細に記載した。目的は、アルコールデヒドロゲナーゼ欠損株の特異的メタノール取り込み率を決定し、それを実施例7で測定したメタノール取り込み率と比較することであった。
【0427】
a)300mLのBSM培地で満たしたリアクターに、15mLのP.パストリスΔaox1Δaox2 adh2Δ::HphR(リアクターaR2およびaR4)およびP.パストリスΔaox1Δaox2 adh900Δ::KanMX(リアクターaR1およびaR3)を接種した。標的開始OD600は2であった。残存酸素スパイクによって示されるバッチ段階の終了時に、50%(w/w)グルコース供給を2.8mL/hで開始し、24時間バイオマスを増加させた。グルコース供給開始の2時間後、50%(v/v)メタノールショットを与え、メタノール濃度を1.5%に増加させた(測定した濃度は、aR1=1.64%、aR2=1.66%、aR3=1.59%、およびaR4=1.67%であった)。これは、メタノール消費を誘導するために行われた。グルコース供給段階の終了時に、細胞乾燥重量およびHPLCのための試料を採取した。
【0428】
b)グルコース供給段階の後、撹拌およびガス注入は、一定な750rpmおよび9.5sL/hに設定した。追加の50%メタノールパルスを添加し、濃度を1.5%に増加させ、すぐにHPLC試料を採取した(測定された濃度は、aR1=1.36%、aR2=1.44%、aR3=1.34%およびaR4=1.45%であった)。濃度を18.4時間後に再び測定し、特異的なメタノール取り込み率(qメタノール)を決定するために使用した。
【0429】
c)別々のバイオリアクター培養を開始し、二重ADH欠失株P.パストリスΔaox1Δaox2 adh2Δ::HphR adh900Δ::KanMXの取り込み率を測定した。培養は、この実施例および実施例7で説明したように行った。P.パストリスΔaox1Δaox2 Adh2Δ::HphR Adh900Δ::KanMXをリアクターcR3およびcR4に接種した。標的開始OD600は2であった。残存酸素スパイクによって示されるバッチ段階の終了時に、50%(w/w)グルコース供給を2.4mL/hで開始し、24時間バイオマスを増加させた。グルコース供給開始の2時間後、50%(v/v)メタノールショットを与え、メタノール濃度を1.5%に増加させた(測定した濃度は、cR3=1.50%およびcR4=1.47%であった)。これは、メタノール消費を誘導するために行われた。グルコース供給段階の終了時に、細胞乾燥重量およびHPLCのための試料を採取した。
【0430】
d)グルコース供給段階の後、撹拌およびガス注入は、一定な750rpmおよび9.5sL/hに設定した。追加の50%メタノールパルスを添加し、濃度を1.5%に増加させ、すぐにHPLC試料を採取した(測定された濃度は、cR3=1.37%およびcR4=1.49%であった)。濃度を19.5時間後に再び測定し、特異的なメタノール取り込み率(qメタノール)を決定するために使用した。
e)特異的メタノール取り込み率は、実施例7d)のように算出した。ADH2を欠失させることにより、メタノール取り込み率の驚くべき、および実質的な減少が達成された(表19)。メタノールのdc/dtは、aR2およびaR4で0.07~0.06g L-1-1であり、実施例6で観察された蒸発よりわずかだけ高かった。反対に、ADH900欠失株のメタノール取り込み率は減少せず、実際、実施例7のP.パストリスΔaox1Δaox2の測定された取り込み率よりわずかに高かった。この差は、実施例7とこの実施例の間でわずかに異なる条件に起因し、その差は、わずかに高いリアクター体積およびメタノールパルス後のメタノール濃度であり得る。二重ADH欠失株は、ADH2欠失株の既に低い取り込み率と比較して、メタノール取り込み率の観察可能な減少を示さない。これらの結果は、ADH2遺伝子およびその産物、酵素Adh2がP.パストリスΔaox1Δaox2で観察される特徴を最も広範囲に担い、実施例7における観察は、自然なメタノール酸化または任意の他の酵素の乱雑な活性の結果ではないことを予期せず確認した。
【0431】
したがって、P.パストリスΔaox1Δaox2におけるメタノール取り込みの主な原因遺伝子および酵素は、ADH2遺伝子およびその産物である酵素Adh2であると結論付けられた。
【0432】
【表22】
【0433】
実施例16:メタノール利用陰性およびアルコールデヒドロゲナーゼ過剰発現株のメタノール取り込み率の測定。
Adh2がP.パストリスΔaox1Δaox2におけるメタノールの消費の原因酵素であることを確認するため、およびADH2またはADH900遺伝子の過剰発現によりメタノール取り込み率を増加することが可能であるか調べるため、P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pGAP_Adh2_CycTTおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pGAP_Adh900_CycTT株の特異的メタノール取り込み率を、バイオリアクター培養で測定した。実験は、実施例7および15に記載のように行った。
【0434】
a)300mLのBSM培地で満たしたリアクターに、15mLのP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pGAP_Adh2_CycTT(リアクターR1およびR3)およびP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pGAP_Adh900_CycTT(R2およびR4)を接種した。標的開始OD600は2であった。残存酸素スパイクによって示されるバッチ段階の終了時に、50%(w/w)グルコース供給を2.8mL/hで開始し、24時間バイオマスを増加させた。グルコース供給開始の2時間後、50%(v/v)メタノールショットを与え、メタノール濃度を1.5%に増加させた(測定した濃度は、R1=1.56%、R2=1.53%、R3=1.52%、およびR4=1.54%であった)。これは、メタノール消費を誘導するために行われた。グルコース供給段階の終了時に、細胞乾燥重量およびHPLCのための試料を採取した。
【0435】
b)グルコース供給段階の後、撹拌およびガス注入は、一定な750rpmおよび9.5sL/hに設定した。追加の50%メタノールパルスを添加し、濃度を1.5%に増加させ、すぐにHPLC試料を採取した(測定された濃度は、R1=1.30%、R2=1.30%、R3=1.35%およびR4=1.30%であった)。濃度を4.1、20.1時間後に再び測定し、特異的なメタノール取り込み率(qメタノール)を決定するために使用した。
【0436】
c)より高いメタノール取り込み率が期待されたため、4.1時間でのさらなるサンプリング時間が選択された。4.1時間での平均メタノール取り込み率は、ADH2過剰発現株P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pGAP_Adh2_CycTTで7.72mg g-1-1であり、ADH900過剰発現株P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pGAP_Adh900_CycTTで5.61mg g-1-1であった。20.1時間後、平均取り込み率は、ADH2過剰発現株で6.35mg g-1-1に、ADH900過剰発現株で5.16mg g-1-1に減少した(表20)。実施例15e)で先に議論したように、ADH900遺伝子を欠失する場合、親P.パストリスΔaox1Δaox2への顕著な差は観察されず、同じことがADH900遺伝子を過剰発現する場合にも当てはまる。一方で、ADH2過剰発現株は、ADH900過剰発現株と比較して4.1時間と21.7時間で37%と23%高い取り込み率を示した。Adh2がメタノールの消費の原因酵素であり、ADH2遺伝子の過剰発現によりメタノール消費を増加させることができるという予期せぬ発見をさらに強調する。
【0437】
【表23】
【0438】
実施例17:ADH2過剰発現のためのメタノール誘導性プロモーターを有する株の生成
メタノール誘導性ADH2過剰発現の効果を調べる目的のため、ADH2コード配列の発現を制御するメタノール誘導性プロモーターPAOX1 PP7435_chr4(237941・・・238898)およびPFLD1 PP7435_Chr3(262922・・・263518)から構成される、2つの過剰発現構築物を作成した。ADH2コード配列を改変し、遺伝子産物のアミノ酸配列に影響することなくコード配列のBbsIおよびBsaI制限部位を除去した(表16)。生成した株は、P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pAOX1_Adh2_CycTTおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pFLD1_Adh2_CycTTと名付けた。
【0439】
a)既に記載された(Prielhoferら,2017)Golden Gateアセンブリーを使用して、発現構築物を作成した。(1)発現構築物BB3aZ_pAOX1_Adh2_CycTTは以下のようにアセンブルした。Adh2_GG_cured DNA断片(表16)を、BB1_23骨格へとクローニングし、BB1_23_Adh2を作成した。発現構築物は、BB3aZ_14(骨格)、BB1_23_Adh2(コード配列)BB1_12_pAOX1(プロモーター)、BB1_34_ScCYC1tt(ターミネーター)のGolden Gateアセンブリーによって生成した。(2)発現構築物BB3aZ_pFLD1_Adh2_CycTTは、BB3aZ_14(骨格)、BB1_23_Adh2(コード配列)BB1_12_pFLD1(プロモーター)、BB1_34_ScCYC1tt(ターミネーター)のGolden Gateアセンブリーによって生成した。プラスミドおよび配列は、Golden Pics kit#1000000133(Addgene,Inc.,USA)で入手可能である。
【0440】
b)P.パストリスΔaox1Δaox2株を、実施例1a)に記載のようにエレクトロコンピテントにした。BB3aZ_pAOX1_Adh2_CycTT発現構築物およびBB3aZ_pFLD1_Adh2_CycTT発現構築物を、製造業者のプロトコールによりAscI(New England Biolabs,Inc.,USA)を用いて線状化し、Hi Yield(登録商標)Gel/PCR DNA Fragment Extraction Kit(Sud-Laborbedarf GmbH,Germany)を用いて精製した。500ngの線状化したプラスミドは、実施例1a)および1d)に先に記載したように、エレクトロコンピテントなP.パストリスΔaox1Δaox2に形質転換した。陽性の形質転換体を、25μg/mLのゼオシンを含むYPDプレートで選択した。発現構築物のインテグレーションの成功は、鋳型としてゲノムDNAを用いる、プライマー109_BB3aN_ctrl_fwdおよびpGAP_goi_rev_v2(表17)でのPCR増幅により確かめた。作成された株は、P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pAOX1_Adh2_CycTTおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pFLD1_Adh2_CycTTと呼ばれる。
【0441】
c)PCR増幅のためのゲノムDNAは、製造業者の推奨により、Wizard(登録商標)Genomic DNA精製キット(Promega Corporation,USA)を用いて単離した。PCR増幅反応は、製造業者の推奨により、Q5ポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.,USA)を用いて行った。
【0442】
実施例18:ADH2過剰発現のためのメタノール誘導性プロモーターを有するメタノール利用陰性株の特異的メタノール取り込み率の測定
特異的メタノール取り込み率へのメタノール誘導性プロモーターによるADH2過剰発現の効果を調べるため、バイオリアクター培養を実施例7および実施例16に記載のように設定した。この目的のため、実施例17で生成した株P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pAOX1_Adh2_CycTTおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pFLD1_Adh2_CycTTを使用した。
【0443】
a)300mLのBSM培地で満たしたリアクターに、15mLのP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pAOX1_Adh2_CycTT(リアクターR1およびR2)およびP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pFLD1_Adh2_CycTT(R3およびR4)を接種した。標的開始OD600は2であった。残存酸素スパイクによって示されるバッチ段階の終了時に、50%(w/w)グルコース供給を2.8mL/hで開始し、24時間バイオマスを増加させた。グルコース供給開始の2時間後、50%(v/v)メタノールショットを与え、メタノール濃度を1.5%に増加させた(測定した濃度は、R1=1.57%、R2=1.57%、R3=1.57%、およびR4=1.70%であった)。これは、メタノール消費およびメタノール誘導性プロモーターを誘導するために行われた。グルコース供給段階の終了時に、細胞乾燥重量およびHPLCのための試料を採取した。
【0444】
b)グルコース供給段階の後、撹拌およびガス注入は、一定な750rpmおよび9.5sL/hに設定した。追加の50%メタノールパルスを添加し、濃度を1.5%に増加させ、すぐにHPLC試料を採取した(測定された濃度は、R1=1.42%、R2=1.39%、R3=1.39%およびR4=1.42%であった)。濃度を4.2時間後に再び測定し、特異的なメタノール取り込み率(qメタノール)を決定するために使用した。最初のパルスがほぼ消費された後、2度目のメタノールパルスを適用し、すぐにHPLC試料を採取した(測定された濃度は、R1=1.61%、R2=1.65%、R3=1.50%およびR4=1.47%であった)。濃度を6.2時間後に再び測定し、2度目の特異的なメタノール取り込み率(qメタノール)を決定するために使用した。
【0445】
c)2回のメタノールパルスを使用して、特異的メタノール取り込み率(qメタノール)を決定した。第1のパルスとサンプリング時間の間の時間は4.2時間であった。第2のメタノールパルスとサンプリング点の間の時間は、6.2時間であった。第1のパルス後、4.2時間後の平均メタノール取り込み率は、PFLD1ADH2過剰発現株P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pFLD1_Adh2_CycTTで8.3mg g-1-1であり、PAOX1ADH2過剰発現株P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pAOX1_Adh2_CycTTで11.6mg g-1-1であった(表21)。第2のメタノールパルスの6.2時間後、平均取り込み率は、PFLD1ADH2過剰発現株で10.1mg g-1-1に、PAOX1ADH2過剰発現株で13.8mg g-1-1に増加した(表22)。このデータは、メタノール誘導性プロモーターを使用する場合、長いメタノール誘導時間が、Adh2の発現および特異的メタノール取り込み率の増加をもたらすことを示す。したがって、株は、唯一のエネルギーおよび炭素源としてメタノールを含む培地中で、経時的に特異的メタノール取り込み率を維持および増加させることもできる。実施例7に記載のP.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT株と比較して、特異的メタノール取り込み率は、平均してP.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pFLD1_Adh2_CycTTで1.6倍、P.パストリスΔaox1Δaox2 BB3aZ_pAOX1_Adh2_CycTTで2.3倍増加した。
【0446】
【表24】
【0447】
【表25】
【0448】
実施例19:分泌組換えタンパク質を産生するADH2過剰発現株の生成
ADH2過剰発現および続く特異的メタノール取り込み率の増加が組換えタンパク質産生に影響を与えるかどうか調べるため、実施例3のHSAおよびvHH産生P.パストリスΔaox1Δaox2を、PAOX1ADH2およびPFLD1ADH2過剰発現構築物を用いて形質転換し、実施例4に記載の適合プロトコールを用いてスモールスケールでスクリーニングした。
【0449】
a)既に記載された(Prielhoferら,2017)Golden Gateアセンブリーを使用して、過剰発現構築物を作成した。(1)発現構築物BB3aK_pAOX1_Adh2_CycTTは、実施例17のBB3aK_14(骨格)、BB1_23_Adh2(コード配列)、BB1_12_pAOX1(プロモーター)、BB1_34_ScCYC1tt(ターミネーター)のGolden Gateアセンブリーによって生成した。(2)発現構築物BB3aK_pFLD1_Adh2_CycTTは、実施例17のBB3aK_14(骨格)、BB1_23_Adh2(コード配列)、BB1_12_pFLD1(プロモーター)、BB1_34_ScCYC1tt(ターミネーター)のGolden Gateアセンブリーによって生成した。プラスミドおよび配列は、Golden Pics kit#1000000133(Addgene,Inc.,USA)で入手可能である。
【0450】
b)P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTTおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pZ30_pAOX1_αMF-vHH_CycTT株を、実施例1a)に記載のようにエレクトロコンピテントにした。BB3aK_pAOX1_Adh2_CycTT発現構築物およびBB3aK_pFLD1_Adh2_CycTT発現構築物を、製造業者のプロトコールによりAscI(New England Biolabs,Inc.,USA)を用いて線状化し、Hi Yield(登録商標)Gel/PCR DNA Fragment Extraction Kit(Sud-Laborbedarf GmbH,Germany)を用いて精製した。500ngの線状化したプラスミドは、実施例1a)および1d)に先に記載したように、エレクトロコンピテントなP.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTTおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pZ30_pAOX1_αMF-vHH_CycTTに形質転換した。P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pZ30_pAOX1_αMF-vHH_CycTT_BB3aK_pAOX1_Adh2_CYcTTおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pZ30_pAOX1_αMF-vHH_CycTT_BB3aK_pFLD1_Adh2_CycTT形質転換体について、陽性の形質転換体を、500μg/mLのジェネテシンおよび25μg/mLのゼオシンを含むYPDプレートで選択した。P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT_BB3aK_pAOX1_Adh2_CycTTおよびP.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT_BB3aK_pFLD1_Adh2_CycTT形質転換体は、500μg/mLのジェネテシンおよび100μg/mLのノーセオスリシンを含むYPDプレートで選択した。さらなるスクリーニングのため、形質転換当たり複数のクローンを選択した(実施例20)。作成された株は、P.パストリスΔaox1Δaox2 PAOX1HSA PAOX1ADH2、P.パストリスΔaox1Δaox2 PAOX1HSA PFLD1ADH2、P.パストリスΔaox1Δaox2 PAOX1vHH PAOX1ADH2、およびP.パストリスΔaox1Δaox2 PAOX1vHH PFLD1ADH2と名付けられた。
【0451】
実施例20:分泌組換えタンパク質を産生するADH2過剰発現株のスモールスケールスクリーニング
実施例19に記載の形質転換体から複数のクローンをスモールスケールスクリーニングで試験し、ADH2過剰発現の組換えタンパク質産生への影響を調べた。スクリーニング手順は、ツーショット-延長プロトコールおよび実施例4に記載の標準プロトコールから適合させた。
【0452】
a)P.パストリスΔaox1Δaox2 PAOX1HSA PAOX1ADH2およびP.パストリスΔaox1Δaox2 PAOX1HSA PFLD1ADH2の前培養のため、500μg/mLのジェネテシンおよび100μg/mLのノーセオスリシンを含む2mLのYPDにクローンを接種し、P.パストリスΔaox1Δaox2 PAOX1vHH PAOX1ADH2およびP.パストリスΔaox1Δaox2 PAOX1vHH PFLD1ADH2クローンは、500μg/mLのジェネテシンおよび25μg/mLのゼオシンに接種した。親株は、選択のために使用する抗生物質耐性に基づき100μg/mLのノーセオスリシンまたは25μg/mLのゼオシンを含むYPDに2つ反復して接種した。各発現構築物につき、スクリーニングのため11個のクローンをピックした。前培養およびスクリーニング培養は、通気性膜で密封した24ウェルプレートで培養し、280rpm、25℃でインキュベートした。スクリーニング培養物を、開始光学濃度(OD600)8で、多糖溶液および酵素に基づくグルコース徐放システムEnPump200(Enpresso GmbH,Germany)を有する2mLの最小培地(ASMv6)に接種し、培養をグルコース限界に維持した。株は、受け取る全メタノールおよびインキュベーション時間が異なる、2つの異なるメタノール供給手順で比較した(表23)。
【0453】
b)インキュベーション期間後、1mLの各培養物を除去し、前計量したエッペンドルフチューブ内で遠心分離した。上澄み液を除去し、製造業者の使用説明書によりCaliper LabChip GXII Touch(PerkinElmer,inc.,USA)を用いてタンパク質濃度を測定した。ウェット細胞重量は、細胞ペレットを含むエッペンドルフチューブを計量することにより決定し、以下のように算出した:重量(全)-重量(空)=ウェット細胞重量(WCW)(g/L)。このデータから、収率を算出した:収率(μg/g)=タンパク質濃度/ウェット細胞重量。
【0454】
【表26】
【0455】
c)結果は、表24に要約する。驚くべきことに、親Mut株と比較した場合、過剰発現は、vHHで1.7倍、HSAで2.3倍までタンパク質収率(μg/g)を増加させた。実際に、ADH2の過剰発現がP.パストリスΔaox1Δaox2の組換えタンパク質産生を改善することを証明する。
【0456】
d)平均実行株を、バイオリアクター培養のために選択した。発現構築物のインテグレーションの成功は、鋳型としてゲノムDNAを用いる、プライマー109_BB3aN_ctrl_fwdおよびpGAP_goi_rev_v2(表17)でのPCR増幅により確かめた。PCR増幅のためのゲノムDNAは、製造業者の推奨により、Wizard(登録商標)Genomic DNA精製キット(Promega Corporation,USA)で単離した。PCR増幅反応は、製造業者の推奨により、Q5ポリメラーゼ(New England Biolabs,Inc.,USA)を用いて行った。
【0457】
【表27】
【0458】
実施例21:モデルタンパク質としてHSAを産生するADH2過剰発現のメタノール資化陰性株。戦略3による培養-グルコース/メタノール同時供給段階および別々のメタノールのみの供給段階による供給戦略。
【0459】
バイオリアクター培養は、実施例19で生成され、実施例20で選択されたメタノール利用陰性ADH2過剰発現株の組換えタンパク質産生能力を評価するために実施した。この目的のため、P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT BB3aK_pAOX1_Adh2_CycTT(Δaox1Δaox2 PAOX1HSA PAOX1ADH2)およびP.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pN21_pAOX1_HSAopt_CycTT BB3aK_pFLD1_Adh2_CycTT(Δaox1Δaox2 PAOX1HSA PFLD1ADH2)株を、実施例10および実施例11に記載のように戦略3で培養した。
【0460】
a)このバイオリアクター培養を3つの段階に分けた。(1)段階1は、バッチ段階であった。リアクターは、開始OD600が2の産生株を接種した。接種は、実施例7a)b)に記載のように行った。バッチ段階の終了は、残存酸素スパイクによって示された。(2)この時点で、段階2を開始した。段階2は、25時間、4.8mL/hでの50%(w/w)グルコース供給からなる。段階2の開始時には、50%(v/v)メタノールパルスを適用し、メタノール濃度を標的の1.5%(v/v)に増加させ、続くメタノール供給を開始して、メタノール消費、蒸発およびグルコース供給による希釈に対抗した。(3)段階3は、19.6(R1、R2)および21.6(R5、R6)時間のメタノールのみの供給からなる。メタノール濃度を実施例6d)に記載のようにHPLCによってアットラインで測定した。必要であれば追加の補正パルスを添加した。メタノール供給は、実施例8および9b)のように時間間隔で算出した。各リアクターR1、R2、R5およびR6で使用する株は、表25で特定される。
【0461】
b)プロセスおよび生産性データは、表26および表27に見出すことができる。リアクターR1、R2、R5およびR6の培養を通して最大および最小メタノール濃度は、8.0g/Lから13.6g/Lの範囲であった。リアクターR1、R2およびR5、R6は、モデルタンパク質としてHSAを産生していた。段階3の68.7時間での特異的生産性(q)は、実施例10と比較してPAOX1またはPFLD1のいずれかによるADH2過剰発現の正の影響を示す(表28、表29)。qの加重平均は、簡単な比較のため、実施例10の時点45.02~69.58時間について算出した。実施例10の時点45.02~69.58時間でのqは、平均40.9μg g-1-1である。本実施例の時点49.1~68.7時間のPAOX1ADH2過剰発現(R1、R2)のリアクターでのqは、平均84.3μg g-1-1である。これは、実施例10と比較して2倍の増加である(表28)。同様の時間枠(47.1~68.7時間)でのPFLD1ADH2過剰発現(R5、R6)は、71μg g-1-1の平均qを示す。これはqの1.7倍増加を示す(表29)。時点68.7時間での体積生産性は、PAOX1ADH2過剰発現で1.21倍(表30)、PFLD1ADH2過剰発現で1.13倍(表31)増加した。この実施例における増加したqおよび体積生産性は、組換えタンパク質産生のためのP.パストリスΔaox1Δaox2株におけるADH2過剰発現の利点を実証する。
【0462】
【表28】
【0463】
【表29】
【0464】
【表30】
【0465】
【表31】
【0466】
【表32】
【0467】
【表33】
【0468】
【表34】
【0469】
実施例22:モデルタンパク質としてvHHを産生するADH2過剰発現のメタノール利用陰性株。戦略3による培養-グルコース/メタノール同時供給段階および別々のメタノールのみの供給段階による供給戦略。
【0470】
バイオリアクター培養は、実施例19で生成され、実施例20で選択されたメタノール利用陰性ADH2過剰発現株の組換えタンパク質産生能力を評価するために実施した。この目的のため、P.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pZ30_pAOX1_vHH_CycTT BB3aK_pAOX1_Adh2_CycTT(Δaox1Δaox2 PAOX1vHH PAOX1ADH2)およびP.パストリスΔaox1Δaox2 pPM2pZ30_pAOX1_vHH_CycTT BB3aK_pFLD1_Adh2_CycTT(Δaox1Δaox2 PAOX1vHH PFLD1ADH2)株を、実施例10および実施例11に記載のように戦略3で培養した。
【0471】
a)バイオリアクター培養を3つの段階に分けた。(1)段階1は、バッチ段階であった。リアクターは、開始OD600が2の産生株を接種した。接種は、実施例7a)b)に記載のように行った。バッチ段階の終了は、残存酸素スパイクによって示された。(2)この時点で、段階2を開始した。段階2は、25時間、4.8mL/hでの50%(w/w)グルコース供給からなる。段階2の開始時には、50%(v/v)メタノールパルスを適用し、メタノール濃度を標的の1.5%(v/v)に増加させ、続くメタノール供給を開始して、メタノール消費、蒸発およびグルコース供給による希釈に対抗した。(3)段階3は、43.6(R3、R4)および44.6(R7、R8)時間のメタノールのみの供給からなる。メタノール濃度を実施例6d)に記載のようにHPLCによってアットラインで測定した。必要であれば追加の補正パルスを添加した。メタノール供給は、実施例8および9b)のように時間間隔で算出した。各リアクターR3、R4、R7およびR8で使用する株は、表25に見出すことができる。
【0472】
b)プロセスおよび生産性データは、表32および表33に見出すことができる。リアクターR3、R4、R7およびR8の培養を通して最大および最小メタノール濃度は、8.6g/Lから14.4g/Lの範囲であった。リアクターR3、R4およびR7、R8は、モデルタンパク質としてvHHを産生していた。ADH2過剰発現は、実施例11と比較して特異的生産性(q)に正の影響を示した。簡単な比較のため、qの加重平均は、実施例11の段階2(時点20.0~53.6時間)について算出した。比較は、段階2でのqの、PAOX1ADH2過剰発現(R3、R4)が1.71倍、PFLD1ADH2過剰発現(R7、R8)が1.78倍の増加を示すことを示す(表34、表35)。段階3でのより遅い時点では、改善がさらに大きい。時点92.7および91.7では、qは、3.76倍(PAOX1ADH2過剰発現)および3.86倍(PFLD1ADH2過剰発現)増加する(表34、表35)。さらに、体積生産性は、両ケースにおいて、実施例11の親株と比較して少なくとも1.9倍改善した(表35、表36)。この実施例における増加したqおよび体積生産性は、組換えタンパク質産生のためのP.パストリスΔaox1Δaox2株におけるADH2過剰発現の利点を実証する。
【0473】
【表35】
【0474】
【表36】
【0475】
【表37】
【0476】
【表38】
【0477】
【表39】
【0478】
【表40】
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【表41-1】
【0480】
【表41-2】
【0481】
【表41-3】
【0482】
【表41-4】
【0483】
【表41-5】
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