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特許7570348細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片と相互作用する物質、がんの処置、並びにスクリーニング及び診断方法におけるその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片と相互作用する物質、がんの処置、並びにスクリーニング及び診断方法におけるその使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20241011BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241011BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20241011BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20241011BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20241011BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20241011BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20241011BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20241011BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20241011BHJP
【FI】
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
G01N33/50 Z ZNA
G01N33/15 Z
G01N33/574 A
A61K45/00
C07K14/47
C12N15/12
C07K16/18
C12N15/13
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021560163
(86)(22)【出願日】2020-03-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-25
(86)【国際出願番号】 EP2020057916
(87)【国際公開番号】W WO2020193450
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】19305374.1
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521438711
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ブルターニュ・オキシデンタル-ユベオ
(73)【特許権者】
【識別番号】521437013
【氏名又は名称】サントル・オスピタリエ・レジオナル・エ・ユニヴェルシテール・ドゥ・ブレスト
(73)【特許権者】
【識別番号】507002516
【氏名又は名称】アンスティチュート、ナシオナル、ドゥ、ラ、サンテ、エ、ドゥ、ラ、ルシェルシュ、メディカル
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL DELA SANTE ET DE LA RECHERCHE MEDICALE
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・ミグナン
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ブスカーリア
(72)【発明者】
【氏名】パトリス・エモン
(72)【発明者】
【氏名】ネリグ・ル・グー
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-511792(JP,A)
【文献】特表2017-531164(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104878098(CN,A)
【文献】ZHANG,. Z. et al.,STIM1, a directtarget of microRNA-185, promotes tumor metastasis and is associated with poorprognosis in colorectal cancer,Oncogene,2015年,34(37):4808-20,<DOI:10.1038/onc.2014.404>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
C07K
G01N
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片と相互作用する少なくとも1つの抗体又はその断片を含む、がんの処置に使用するための医薬組成物。
【請求項2】
STIM1タンパク質の前記C末端断片のペプチド配列が、配列番号2である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記がんが、前記細胞の前記原形質膜に局在し、C末端部の少なくとも一部が細胞外にあるSTIM1画分を有する細胞を含むがんである、請求項1又は2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記がんが、すい臓がん、大腸がん、乳がん、バーキットリンパ腫及び慢性リンパ性白血病の中から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記すい臓がんが、すい臓導管腺癌である、請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記抗体又はその断片が、少なくとも1つの他の活性成分と併用される、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記抗体又はその断片が、前記細胞の前記原形質膜に局在する前記STIM1画分のC末端断片に特異的に結合する、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
少なくとも1つの他の活性成分を更に含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
がんを処置するための候補分子をスクリーニングするin vitro方法における、細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分の単離されたC末端断片の使用。
【請求項11】
スクリーニングの前記方法が、生物学的スクリーニング及び生物物理学的スクリーニングを含む群から選択される技術を使用する、請求項10に記載の使用。
【請求項12】
スクリーニングが、免疫蛍光、ウエスタンブロット、免疫沈降、表面プラスモン共鳴(SPR)、フローサイトメトリー、ビデオ顕微鏡法、カルシウムフロー研究、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、蛍光及び発光相補アッセイ並びに共焦点顕微鏡を含む群から選択される技術を使用する、請求項11に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんの処置に使用するための物質、がんを処置するための候補分子をスクリーニングする方法、及びがんの診断プロセスに言及する。
【0002】
したがって、本発明は医薬分野に有用性を有する。
【0003】
下の説明において、角括弧([ ])内の参照文献は、本文の最後にある参照文献のリストを指す。
【背景技術】
【0004】
すい臓導管腺癌(PDAC)は、診断される全すい臓がんの90%の主因であり、男性及び女性においてがん死の主要因の1つである。近年に至って、PDAC患者生存率にはごくわずかな改善しかない。したがって、PDAC患者の非常に悪い予後に寄与する因子には、急速な進行及び浸潤、特定の徴候が存在しないこと、並びに利用可能な化学療法の影響がほとんどないことがある。このがんの転帰は、利用可能な処置にもかかわらず残念ながらほとんど常に致死的であり、現在の5年生存率は約6%である。実際に、特にこれらの患者の約50%が、手術できない疾患の侵襲的転移段階で診断されるので大部分の患者は、がん検出後1年以内に死亡する。
【0005】
過去10年にわたる一部の進展にもかかわらず、PDACを処置するための全身的化学療法は、全般的に有効性が限定的で、毒性が有意であり、PDACは、分子標的された薬剤及び免疫療法に対して抵抗性であることが公知である。まだ可能な場合には、外科的切除が腫瘍を除去するための基準処置であり、現在でも唯一信頼性の高い治癒的手法のままである。外科手術は、サイズ、場所及び全般的な患者の状態が許す場合にのみ考慮される。これは、外分泌性すい臓がんの10~20%の場合である。腫瘍が手術不可能である又は完全に除去できなかった場合、異なる型の化学療法、しばしば併用(ゲムシタビン、5-FU、イリノテカン、オキサリプラチン及びnab-パクリタキセル)が考慮され、放射線療法は、遠隔転移のない手術不可能な腫瘍の場合に提案される。
【0006】
このがんの処置における標的療法の評価の結果が期待外れであったのと同様に、PDACの処置において好ましい治療的結果は低いままである。このことは、処置にふさわしい患者の選択、したがって最適な臨床決定のための検証済みバイオマーカーが存在しないことと部分的に関連する。実際に、有効なPDAC処置に対する主要な障害は、疾患の不均一性であり、その不均一性は、療法に対する臨床応答の様々なパターン及び疾患の非常に不均一な臨床的進行に反映される。したがって、特定の最適な療法に有益でありそうな患者の部分集団を特定するために、疾患の活動性及び処置に対する応答の尺度となるバイオマーカーを同定することが必要である。
【0007】
すい臓がん(PC)は、有効な療法が限定されていること(すい臓がん症例の85%)、早期診断が困難であること及び信頼性の高い予測マーカーの数が少ないこと並びに患者の治療的層別化に主に起因する極めて高い死亡率及び悪い予後によってしたがって特徴付けられ、これらが、このがんを主要な公衆衛生問題にしている。PDACは、2030年までに米国及びヨーロッパにおいてがん死の第2の主因になるはずであり、すい臓がんを制御及び検出するためのより有効な戦略の開発を促す必要性が強調される。
【0008】
したがって、すい臓がんの診断、層化、予測及び処置のための代わりのツールの必要性が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Remington Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Company、Easton、USA、1985年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
重要な研究によって、本出願人は、がん、特にすい臓がんの新たな治療標的を開発するように導かれた。本出願人は、原形質膜に位置するSTIM1(間質相互作用分子1)タンパク質、特に、C末端ドメイン(Cter)が細胞外媒質に位置するように配向したSTIM1タンパク質の膜画分が、がん、特にすい臓がんの特定の治療標的であることを実証するのに驚くべきことに成功した。
【0011】
本発明の文脈において、本出願人は、新たに特徴付けられたタンパク質、すなわち原形質膜に位置するタンパク質STIM1(mSTIM1)によって調節されるカルシウム流入経路(カルシウムの構成的流入)を初めて特定する。実際に、本出願人は、すい臓上皮細胞において細胞内カルシウムストアの放出に影響されず、これらの細胞の原形質膜に位置するSTIM1プール(mSTIM1)によって調節されるCa2+流入の新たな経路を特徴付けた。本出願人は、STIM1発現の量が、がん細胞系において構成的カルシウム流入と相関することを実証する。
【0012】
このCa2+流入経路は、すい臓上皮細胞の生存を支持し、その遊走に関与する。
【0013】
本出願人は、腫瘍組織におけるSTIM1タンパク質の発現が患者の予後と相関し、これらの組織におけるSTIM1の高発現が、患者の生存率の低下に関連付けられることを初めて実証することができた。したがって、がん性組織におけるSTIM1発現の測定は、新たな予測バイオマーカーである。加えて、mSTIM1タンパク質及びそれが調節するシグナル伝達経路は、治療標的としてこれまで提案されてこなかった。
【0014】
また、本出願人は、mSTIM1が、タンパク質のN末端ドメインの細胞外局在化(Nter outと呼ばれる)だけでなく細胞外媒質へのmSTIM1のC末端ドメイン方向(Cterと呼ばれる)も持つ二重トポロジーを示すことを驚くべきことに初めて実証した。
【0015】
驚くべきことに、本出願人は、細胞外C末端ドメインにより配向したmSTIM1が、異なるがん細胞系に存在することを実証した。この二重トポロジーは、すい臓がん細胞系、バーキットリンパ腫細胞系、結腸腺癌細胞系、乳がん腺癌細胞系及び慢性リンパ性白血病を患う患者由来の細胞に少なくとも観察される。
【0016】
こうして、本出願人は、すい臓がんに対する新たな治療標的として細胞外C末端ドメインで配向されるmSTIM1及び新たな治療的ツールとしてmSTIM1のこの部分を特異的に標的とする物質、特にSTIM1のC末端ドメインに対する抗STIM1抗体の使用を提案する。本出願人は、STIM1のC末端を標的とする抗mSTIM1抗体ですい臓細胞を処置することが、Ca2+の構成的流入を調節することを実証した。STIM1のC末端を標的とする抗mSTIM1抗体による細胞の処置は、すい臓がん細胞系においてストア作動性カルシウム流入(SOCEE)に影響を及ぼさない。
【0017】
STIM1のC末端を標的とする抗mSTIM1抗体によるすい臓がんの処置は、処置したすい臓がん細胞の生存及び遊走の低下を誘導する。有利には、本発明によるそのような抗mSTIM1抗体の使用は、特にアポトーシスへの移行を誘導することによって標的としたがん細胞の生存を低下させ、がん細胞の増殖を減少させることを可能にする。がん細胞の生存に対する類似の観察が、細胞の原形質膜におけるSTIM1 Cter outの存在と相関する効果により結腸及び乳がん細胞について行われた。
【0018】
したがって、本発明は、mSTIM1の細胞外Cterドメインを標的とする物質、例えばmSTIM1の細胞外Cterドメインに対する抗体を使用することによってmSTIM1の活性を調節して、すい臓がんに包含される細胞の応答(遊走、生存、細胞増殖)を調節し、それによりすい臓がんの処置における新たな治療的解決案をもたらすことを初めて提案する。本発明の物質、特に抗体は、C末端部が外側にあるSTIM1タンパク質の膜画分に特異的な最初の薬理学的モジュレーターである。抗体は、有効性を有利に改善し、副作用を減少させ得る既存の処置の代替物である。本出願人は、細胞が、低用量のSTIM1のC末端を標的とする抗mSTIM1抗体とともに低用量のゲムシタビンで処置される場合のすい臓がん細胞を死滅させるゲムシタビンの効率の改善を実証した。
【0019】
したがって、STIM1のCter画分に対する抗STIM1モノクローナル抗体の使用は、がん、特にすい臓がん、バーキットリンパ腫、結腸腺癌、乳がん腺癌、慢性リンパ性白血病の処置において現在標的されているシグナル伝達経路の代わりのシグナル伝達経路を標的とする新規の免疫療法を構成する。抗STIM1抗体の使用に基づく免疫療法の開発は、このがん、なおさら、この治療標的が存在する他の型のがんと戦う「ファースト・イン・クラス」療法でもある。
【0020】
有利には、本発明によると、そのような抗STIM1抗体は、単独で又は既存の化学療法、例えばゲムシタビンと併用して使用されてもよい。有利には、その抗体は、既存の化学療法による効果を強化する場合がある。有利には、その抗体は、それを必要とする患者に投与される低用量ゲムシタビンによる効果を強化する場合がある。また、その免疫療法は、処置の第1選択において有利に提案され得る。
【0021】
加えて、本出願人は、すい臓がんの進行の予測におけるSTIM1の関心も実証した。
【課題を解決するための手段】
【0022】
したがって、第1の態様において、本発明は、細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片と相互作用する物質、がんの処置におけるその使用を提供する。
【0023】
本発明によると、「STIM1」とは、間質相互作用分子1を指し、文献において「GOK」とも引用される。STIM1は、ヒトにおいてSTIM1遺伝子によってコードされるタンパク質である。STIM1は、多ドメイン膜貫通タンパク質である。ヒトSTIM1分子は、Uniprot配列: Q13586又はNCBI: NP_003147.2に対応する配列番号1のタンパク質である。このタンパク質は、NCBI配列: NM_003156.3(mRNA転写産物)に対応する配列によってコードされる。STIM1 N末端領域は、ERルーメン内に位置し、SAMドメイン(ステライルαモチーフドメイン、タンパク質-タンパク質相互作用モジュール)及びEFハンドモチーフ(カルシウム結合モチーフ)を含有する。タンパク質の中央に膜貫通ドメインが存在し、そのドメインの後に多重コイル、ERMドメイン(エズリン-ラディキシン-モエシン)及び塩基性/セリン/プロリン領域を含むC末端領域が続く。STIM1タンパク質のC末端断片のペプチド配列は、配列番号2に提供され、STIM1タンパク質のアミノ酸234~685:
NRYSKEHMKKMMKDLEGLHRAEQSLHDLQERLHKAQEEHRTVEVEKVHLEKKLRDEINLAKQEAQRLKELREGTENERSRQKYAEEELEQVREALRKAEKELESHSSWYAPEALQKWLQLTHEVEVQYYNIKKQNAEKQLLVAKEGAEKIKKKRNTLFGTFHVAHSSSLDDVDHKILTAKQALSEVTAALRERLHRWQQIEILCGFQIVNNPGIHSLVAALNIDPSWMGSTRPNPAHFIMTDDVDDMDEEIVSPLSMQSPSLQSSVRQRLTEPQHGLGSQRDLTHSDSESSLHMSDRQRVAPKPPQMSRAADEALNAMTSNGSHRLIEGVHPGSLVEKLPDSPALAKKALLALNHGLDKAHSLMELSPSAPPGGSPHLDSSRSHSPSSPDPDTPSPVGDSRALQASRNTRIPHLAGKKAVAEEDNGSIGEETDSSPGRKKFPLKIFKKPLKK
に対応する。
【0024】
STIM1は、ほとんどが小胞体に局在し、原形質膜には非常に少ない程度で局在する。
【0025】
「細胞の原形質膜に局在するSTIM1タンパク質の画分」又は「C末端部が外側にある、細胞の原形質膜に局在するSTIM1タンパク質の画分」は、本発明の意味において、細胞の原形質膜に局在するSTIM1タンパク質の画分を意味する。特に明記しない限り、「STIM1」は、全細胞画分を指す、すなわち小胞体膜中及び原形質膜に局在するSTIM1を含むが、「mSTIM1」は、原形質膜にのみ位置するSTIM1の画分を指す。
【0026】
本発明の意味において、「細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片」とは、STIM1アミノ酸配列番号1のアミノ酸234~685の領域、すなわち配列番号2のペプチドを指す。原形質膜における細胞外環境に露出したC末端部を提示するSTIM1の存在は、STIM1グリコシル化に影響されない。Cter outを持つmSTIM1の存在は、TGFβ経路によって調節される。この経路は、すい臓がんにおいて上方調節され、TGFβによるすい臓がん細胞の刺激は、Cter out方向を持つmSTIM1の量の増大を誘導する。
【0027】
「物質」は、本発明の意味において、原形質膜に局在するSTIM1タンパク質(mSTIM1)のC末端断片と相互作用を示す任意の分子を意味し、有利には、カルシウムの構成的流入を阻害して、又は標的した細胞の原形質膜におけるmSTIM1の存在を調節して、それが関与する細胞機能の欠損の全部若しくは一部を修正する。標的した細胞におけるカルシウムの構成的流入の阻害は、当業者に公知の任意の手段、例えば、蛍光によってカルシウムフローを研究する若しくは細胞内カルシウム濃度の変動を測定することによって測定又は制御され得る。
【0028】
標的した細胞において原形質膜におけるmSTIM1の存在は、当業者に公知の任意の手段、例えば、フローサイトメトリー(蛍光活性化細胞選別)若しくはELISAによって測定又は制御され得る。
【0029】
物質は、例えば、mSTIM1タンパク質のC末端断片に結合する、又は特異的に結合する任意の化合物でもよい。この場合、用語「相互作用する」は、「結合する」又は「に特異的に結合する」ことを意味する。
【0030】
物質は、天然又は合成起源でもよい。物質は、化学的に又は精製等、生物工学の任意の方法によって作製されるタンパク質でもよい。物質は、下で定義されるスクリーニングの方法を適用することによって明白に同定し得る。有利には、物質は、原形質膜を越えることができず、細胞を透過することなく細胞の原形質膜に局在するSTIM1タンパク質の画分と特異的に相互作用する。
【0031】
物質は、抗体又は単離したその結合断片、ペプチド、タンパク質、化合物及びアプタマーの中から例えば選択され得る。好ましくは、物質は、単離した抗体又は単離したその結合断片、例えばモノクローナル抗体である。
【0032】
本発明の物質の結合は、公知の任意の技術、例えばFACS(蛍光活性化細胞選別)、ELISA又はBiacore (商標)アッセイによって測定され得る。
【0033】
慣用句「に特異的に(又は選択的に)結合する」とは、タンパク質及び他の生体物質の不均一集団において抗原、すなわちSTIM1アミノ酸の配列番号1のアミノ酸残基234~685の領域の存在を決定づける結合反応を指す。2つの実体の間の特異的結合とは、102M-1~5×1015M-1の平衡定数(KA)(kon/koff)の結合を意味する。
【0034】
上で示した平衡定数(KA)に加えて、本発明の化合物はまた、5×10-2M又はより低い解離速度定数(KD)(koff/kon)を有利なことに有し得るものであり、非特異的抗原に結合する親和性より少なくとも2倍大きい親和性で、上で定義した抗原に結合する。
【0035】
一実施形態において、本発明の化合物は、本明細書に記載される方法、又は当業者に公知の方法、例えばBIAcore(商標)アッセイ[Biacore(商標)International AB、Uppsala、Sweden]、ELISA、表面プラスモン共鳴又はFACSを使用して評価される3000pM未満の解離定数(Kd)を有してもよい。
【0036】
本明細書では用語「抗体」とは、例えば、細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片と結合、立体障害、安定化/不安定化若しくは空間分布によって相互作用する全抗体、又は細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片と特異的に相互作用する能力を保持する抗体の1つ若しくは複数の部分を指す「抗体断片」を指す。本発明の抗体は、天然に存在する抗体でもよく、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重鎖(本明細書でHと略記される)及び2つの軽鎖(L)を含む糖タンパク質である。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書でVHと略記される)及び重鎖定常領域(本明細書でCHと略記される)から構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2及びCH3から構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書でVLと略記される)及び軽鎖定常領域(本明細書でCLと略記される)から構成される。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLから構成される。VH及びVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存されている領域に挟まった相補性決定領域(CDR)と称される超可変領域に更に再分割され得る。各VH及びVLは、アミノ末端からカルボキシ末端へFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順序で配置される3つのCDR及び4つのFRで構成される。重鎖及び軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。抗体の定常領域は、エフェクター細胞として免疫系の様々な細胞及び古典的補体系の第1成分(Clq)を含めた宿主組織又は因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0037】
用語「抗体」又は「抗体断片」は、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド結合されたFv(sdFv)、Fab断片、F(ab')断片及び例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体を含めた抗イディオタイプ(抗Id)抗体、VL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価断片; F(ab)2断片、F(ab2)' 、F(ab)2'、scFv、VHH(VHドメインからなる、sdAb断片)、VH及びCH1ドメインからなるFd断片;並びに単離した相補性決定領域(CDR)を含む。抗体断片は、当業技術者に公知の従来通りの技術を使用して得られてもよく、断片は、完全抗体と同じ様式で有用性についてスクリーニングされる。
【0038】
抗体のフレームワーク及び/又は定常領域は、全抗体の場合、ヒト、齧歯動物、ラクダ、イヌ、ネコ、サメ等、哺乳動物又は非哺乳動物由来あってもよい。
【0039】
好ましくは、抗体は、キメラ、ヒト若しくはヒト化抗体であり、それによりヒトにおいて免疫原性が減少される及び/又はヒトへの治療的投与に対する有効性が改善される。
【0040】
抗体は、任意のアイソタイプ、例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY、任意のクラス、例えばIgG1、IgG2、例えばIgG2b、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2、又は任意のサブクラスでもよい。
【0041】
本発明の好ましい実施形態によると、本発明による抗体の軽鎖のそれぞれの定常領域は、κ型である。任意のアロタイプ、例えばKm(1)、Km(1、2)、Km(1、2、3)又はKm(3)が、本発明の遂行に適しているが、好ましいアロタイプはKm(3)である。好ましくは、本発明の抗体は、IgG2b/カッパ、特にマウスIgG2b/カッパである。
【0042】
本明細書では慣用句「単離された抗体」とは、天然の環境成分から同定、分離及び/又は回収された抗体を指す。天然の環境の汚染物質成分は、抗体の診断又は治療的使用と干渉することになる材料であり、酵素、ホルモン及び他のタンパク質性又は非タンパク性溶質を含み得る。単離された抗体は、抗体の天然の環境の少なくとも1つの成分が存在しないことになるので、組換え細胞内にin situで抗体を含む。しかしながら、通常、単離された抗体は少なくとも1つの精製工程によって調製されることになる。
【0043】
例えば、物質は、クローンCDN3H4、sc-66173(Santacruz)、クローンHPA012123(Sigma Aldrich)又はクローンHPA011088(Sigma Aldrich)等の末端C(Cter)を標的とする抗STIM1抗体でもよい。
【0044】
抗体は、当業者に公知の任意の方法、例えば抗体の産生をもたらす条件下で抗体を発現する宿主細胞を培養し、宿主細胞又は宿主細胞の培養培地から本発明の抗体を単離することによって製造されてもよい。
【0045】
宿主細胞とは、核酸分子のトランスフェクション又はファージミド若しくはバクテリオファージの感染によって抗体を発現する細胞、及びそのような細胞の後代若しくは潜在的後代を指す。宿主細胞は、先行技術において公知の任意の細胞、例えばSP2/0、YB2/0、IR983F、Namalwaヒト骨髄腫、PERC6、CHO-DG44、CHO-DUK-B11、CHO-K-1、CHO-Lec10、CHO-Lec1、CHO-Lec13、CHO-Pro-5若しくはCHO/DHFR-等のCHO細胞、Wil-2、Jurkat、Vero、Molt-4、COS-7、293-HEK、BHK、K6H6、NS0、SP2/0-Ag14又はP3X63Ag8.653でもよい。
【0046】
核酸の発現の場合、発現ベクターは標準的な技術によって宿主細胞にトランスフェクトされ得る。用語「トランスフェクション」の様々な形態は、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、DEAEデキストラントランスフェクション等、原核又は真核宿主細胞中に外来性DNAを導入するために一般的に使用される様々な技術を包含するものとする。
【0047】
抗体の細胞培養産生、精製及び特徴付けは、先行技術の周知の方法によって実現され得る。例えば、細胞は、上清採集、低速遠心分離による清澄化及び限外濾過、例えばPellicon XLフィルター(Millipore)による減容化の前に増殖させ、死滅させる(4~5日間)ことが可能になり得る。濃縮された培養上清は、HiTrapプロテインA FFカラム(GE Healthcare)に注入され得、結合した抗体は、クエン酸ナトリウム緩衝液で溶出され得、画分は、トリスを使用して中和され得る。抗体を含有する画分はプールされ、PBS中で透析され得、試料は、滅菌濾過され、4℃で貯蔵され得る。精製された抗体は、非還元及び還元条件下でSDS-PAGEによって特徴付けられ得る。
【0048】
本発明の別の実施形態において、物質は、アプタマー、すなわち古典的なワトソン-クリック型塩基対以外の相互作用によって非核酸又は核酸分子に特異的な結合親和性を有する核酸分子でもよい。アプタマーは、例えばRNA又はDNAアプタマーでもよい。アプタマーは、様々な用途においてモノクローナル抗体と置換できることが公知である。
【0049】
「がん」は、本発明の意味において、Cter端部の少なくとも一部が外部媒質に露出している細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分を有する任意のがんを意味する。例えば、がんは、すい臓がん、より具体的には、すい臓導管腺癌でもよい。がんは、大腸がん(腺癌)、乳がん(腺癌)、バーキットリンパ腫又は慢性リンパ性白血病でもよい。
【0050】
本発明が、細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片と相互作用する物質を含む医薬を、それを必要とする患者に投与する工程を含む、がんを処置するための方法も含むことが上記の結果得られる。
【0051】
本発明が、がんの処置のための医薬の製造のために細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片と相互作用する物質の使用を更に含むことも、上記の結果得られる。
【0052】
細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片と相互作用する物質を、それを必要とする対象に投与する工程を含む、がんを処置する方法についても記載される。
【0053】
第2の態様において、本発明は、細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分のC末端断片と相互作用する少なくとも1つの物質及び少なくとも1つの薬学的に許容可能な賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0054】
そのような組成物は、薬学的に使用され得る調剤において物質の処方を容易にする任意の賦形剤及び/又は添加物を含んでもよい。表現「薬学的に許容可能な」は、がんを処置するための物質の有効性と負に干渉せず、投与される宿主に対して毒性がない任意の媒体を包含する。特に、本発明による組成物に適切な薬学的に許容可能な媒体は、特に全身的適用に対して適切な媒体である。適切な薬学的に許容可能な媒体は、先行技術において周知であり、例えばこの分野において標準的な参照教科書であるRemington Pharmaceutical Sciences(Mack Publishing Company、Easton、USA、1985年)に記載されている。媒体は、例えば、クエン酸ナトリウム、ポリソルベート80、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、塩酸及び注射用蒸留水から選択される成分の1つ又は複数でもよい。
【0055】
有利には、本発明による組成物は、医薬品として適用されてもよい。特に有利には、本発明の組成物は、上述のがんの処置及び/又は診断、層化並びに予測における医薬品として適用されてもよい。
【0056】
本発明の医薬組成物において、上述の物質は、がんの処置又は診断に対して唯一の有効成分でもよい。或いは、その上、本発明の医薬組成物は、他の任意の活性成分、例えば物質の効果を強化する又は上で定義した物質によって強化される他の任意の活性成分を含んでもよい。例えば、それは、STIM1のC末端を標的とする抗STIM1とゲムシタビンの組み合わせでもよく、実施例において本出願人によって実証された通り、活性成分単独での使用と比較してすい臓細胞の生存を低下させる。
【0057】
第3の態様において、本発明は、がん、特にすい臓がんを処置するための候補分子をスクリーニングする方法における細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分の単離されたC末端断片の使用を提供する。
【0058】
「スクリーニングの方法」は、本発明の意味において、STIM1タンパク質の膜画分、特にC末端断片と相互作用する、又はその膜発現を調節する物質の同定を可能にする任意の方法を意味する。好ましくは、画分が、無傷の細胞の原形質膜上に位置し、これは、原形質膜が壊れておらず及び/又は透過処理されておらず、有利なことに非浸透性分子が細胞を透過することを許さないことを意味する。それは、当技術に熟達した者に公知の任意の方法、例えば、生物学的スクリーニング、例えば免疫蛍光、FRET、BRET、他の発光若しくは蛍光相補アッセイ、近接ライゲーションアッセイ、ウエスタンブロット、免疫沈降、表面プラスモン共鳴(SPR)、フローサイトメトリー、ビデオ顕微鏡法、カルシウムフロー研究、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、及び共焦点顕微鏡を含む群から選択される技術、又は例えば蛍光によって細胞内カルシウム濃度の変動を測定することによる生物物理学的スクリーニングでもよい。有利には、スクリーニングの方法は、細胞を透過することなく、細胞の原形質膜でC末端を外側にして局在するSTIM1タンパク質の画分と選択的に相互作用する物質の同定を可能にする。換言すれば、スクリーニングの方法は、細胞の原形質膜に局在し、C末端が外側にあるSTIM1タンパク質の画分と選択的に相互作用する非透過性物質を同定することを可能にする。スクリーニングの方法は、例えば、原形質膜上でmSTIM1タンパク質を発現する無傷の細胞を含有する試料に対してin vitroで実現されてもよい。
【0059】
「候補分子」とは、本発明の意味において、細胞の原形質膜に局在するSTIM1タンパク質の画分のC末端断片と相互作用する任意の分子を意味する。相互作用は、物質との関係で上に定義したものでもよい。例えば、相互作用は、このタンパク質の活性又は発現の調節でもよい。タンパク質の活性の調節は、細胞内カルシウムの構成的流入の変化等、カルシウムフローの変化に反映され得る。発現の調節は、候補分子の適用前に同じ細胞若しくは同等の細胞で測定されるレベルと比較した、原形質膜に局在するSTIM1タンパク質の発現の増大又は低下でもよい。STIM1タンパク質の発現の調節は、例えば、転写修飾、後成的修飾、又はSTIM1のリン酸化、ユビキチン化の修飾又はSTIM1タンパク質の膜アドレス指定に必要なグリコシル化プロセスの調節等、原形質膜におけるSTIM1タンパク質の組み込み若しくは安定性を調節する機序の変化と関連付け得る。有利には、選択された候補分子は、細胞の原形質膜に局在するSTIM1タンパク質の画分と特異的に相互作用する。選択された候補分子は原形質膜を横断しないので、その分子は、本発明のスクリーニングの方法において小胞体に局在するSTIM1タンパク質と相互作用しない。
【0060】
「細胞」とは、本発明の意味において、原形質膜のレベルでSTIM1を発現し、STIM1のC末端部が細胞外環境に露出している任意の細胞を意味する。有利には、本発明のスクリーニング方法において、STIM1の膜発現を調節し及び/又は細胞外Ca2+の構成的流入の改変等の機能を調節する分子を厳密にスクリーニングするために、細胞は無傷であり及び/又は壊れておらず及び/又は透過処理されていない。有利には、本発明のスクリーニング方法は、原形質膜に局在するSTIM1タンパク質の画分との特異的相互作用のため細胞内に透過せず、原形質膜にとどまる分子を選択することを可能にする。換言すれば、スクリーニングのこの方法は、非浸透性分子、すなわち原形質膜を横断しない分子を選択することを可能にする。細胞は、単離された細胞でもよく、試料の形態で本発明のスクリーニングの方法に提供されてもよい。有利には、細胞はがん細胞でもよい。
【0061】
がん、特にすい臓がんを処置するのに有用な候補分子をin vitroでスクリーニングする方法において、原形質膜上でC末端が外側にあるSTIM1タンパク質を発現する、例えば、単離された無傷の細胞の使用が、本発明に含まれる。
【0062】
スクリーニングの方法は:
(a)細胞の外側に局在するC末端断片を含む細胞において原形質膜に局在するSTIM1タンパク質を表面に発現する単離した無傷の細胞を含有する試料を準備する工程と、
(b)C末端部が外側にあるmSTIM1タンパク質の画分の存在に対する候補分子の効果を試験することが可能な条件下で、候補分子で試料を処理する工程と、
(c)C末端部が外側にあるmSTIM1の画分の機能又は存在に対する候補分子の効果を試験することが可能な条件下で、候補分子で試料を処理する工程と、
(d)候補分子とmSTIM1タンパク質のC末端断片との結合を決定し、それにより上で定義した通り、C末端断片が外側にある細胞の原形質膜に局在するSTIM1画分に特異的に結合する化合物を同定し、選択する工程とを含み得る。
【0063】
別の態様において、本発明は、対象由来生体試料中のSTIM1の発現のin vitro検出を含む、がんの進行を予測し及び/又は進行をモニタリングするプロセスを提供する。有利には、STIM1の測定は、全細胞画分STIM1において行われる。
【0064】
がん、例えば対象におけるすい臓がんの診断は、すい臓細胞におけるSTIM1発現を測定することによって実現され得る。対照すい臓非がん性細胞におけるSTIM1レベルと比較して減少しているすい臓がん細胞におけるSTIM1発現は、これらの細胞ががん性であることを意味し、それにより対象におけるすい臓がんを診断することが可能になる。
【0065】
「進行を予測し及び/又は進行をモニタリングする」ことによって、本方法によりがんの見込まれる転帰が予測可能になることが本発明において意味される。より具体的には、予後方法は、生存率を評価することができ、前記生存率は、研究において、がん診断後の所与の期間、通常5年生きている人々のパーセンテージを示す。この情報は、医薬品が適しているか、肯定的な場合、どんな型の医薬品が患者にとってより適当か、実践者が決定することを可能にする。
【0066】
がん、例えば対象におけるすい臓がんの進行の予測及び/又は進行のモニタリングは、すい臓がん細胞においてSTIM1発現を測定することによって実現され得る。対象の腫瘍組織におけるSTIM1発現の経時的な増大は、すい臓がんにおける全生存期間の低下、すなわちがんの予後不良と関係する。
【0067】
発現の変化は、腫瘍内のSTIM1の発現の増大のこともあり、それによりがんの予後不良又は進行が可能になる。「発現の増大」は、本発明の意味において、本IHC発現スケールを使用して2より大きいグレードの発現を意味する。
【0068】
一般に、予後良好は、本発明の意味において、3年より長い生存期間中央値と関係するが、予後不良は、3年より短い生存期間中央値と関係する。
【0069】
STIM1発現を測定する場合、STIM1の検出は、STIM1の任意の部分、好ましくはSTIM1のC末端断片を特異的に認識できる任意の化合物で実現され得る。例えば、その化合物は、抗体若しくはその結合断片、タンパク質、ペプチド、化合物又はアプタマーでもよい。好ましくは、検出は、細胞原形質膜に位置するSTIM1画分のC末端断片に対する抗体、例えば、mSTIM1の末端C断片を標的とする抗STIM1抗体(STIM1:クローンCDN3H4、sc-66173、Santacruz)で行われる。
【0070】
本発明は、限定するものと解されるべきでない付属の図面に関する以下の例によって更に例示される。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】STIM1発現は、すい臓がん細胞において減少するが、その増大が、すい臓がんにおける全生存期間の低下と関係することを示す図である。A:すい臓組織におけるSTIM1タンパク質の発現が、免疫化学によって検出され、2つのグレード(低及び高STIM1発現)にランク付けされる。ヒトすい臓がん切除から得られたすい臓原発腫瘍におけるSTIM1染色の代表的な画像[Sigma-AldrichのクローンHPA011088(1)及びN6072(2)のSTIM1抗体]。B:腫瘍組織におけるSTIM1の発現に基づくカプラン-マイヤー全生存期間曲線の代表例。患者は2つの群に分割される:高STIM1(TUM≧2、高グレード、点線)及び低STIM1(TUM<2、低グレード、実線) STIM1発現(n=48)。データは、スチューデントのt検定及びCox分析で表される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図2】STIM1がPanc-1-Wt細胞の構成的カルシウム流入に関わることを示す図である。パネルA及びパネルB:構成的流入(constitutive entry)は、細胞外Ca2+濃度の変化の結果生じる細胞内Ca2+濃度の変動を記録することによって評価される。構成的Ca2+流入は、空ベクター(empty vector, 正方形)若しくは標的していないsiRNA(siRNA Ctrl、円形)でトランスフェクトした細胞において得られた値と比較して過剰発現(STIM1 OE; n=150;三角形、パネルA1)又は過小発現(STIM1を標的とするsiRNA; n>40;灰色正方形、パネルB1)しているPanc-1-Wt細胞におけるこの流入の振幅(Amplitude)によって観察されるSTIM1発現によって調節される。構成的Ca2+流入の測定を記録する代表例が、異なる条件について示される(パネルA2:黒色線=空ベクター、灰色線= STIM1 OE及びパネルB2:黒色線= siRNA Ctrl、灰色線= siRNA STIM1)。データは、n個の観察の平均+/- SEMで表され、ノンパラメトリックマン・ホイットニー検定で分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図3】異なるすい臓がん細胞系BxPC3、Panc-1-Wt及びMiaPacaにおいてmSTIM1発現が、構成的カルシウム流入と相関することを示す図である。パネルA1 :構成的流入は、細胞外Ca2+濃度の変化の結果生じる細胞内Ca2+濃度の変動を記録することによって評価される。BxPC3(ひし形)、Panc-1-Wt(正方形)及びMiaPaca(三角形)細胞系において測定された構成的Ca2+流入の振幅のヒストグラムが、パネルA1に示される。パネルA2において構成的Ca2+流入の測定を記録する代表例が、異なるすい臓細胞系について示される(B×PC3:黒色線、MiaPaca:黒色太点線、Panc: 黒色点線)。データ値は、個々の実験的点としてプロットされ、n個の観察の平均+/- SEMも報告される。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、***P<0.001。パネルB:異なるすい臓細胞系において観察されるmSTIM1の量(Panc-1-Wt >MiaPaca >BxPC3)は、これらの細胞系において測定される構成的Ca2+流入の振幅に比例している。BxPC3(パネルB1)、Panc-1-Wt(パネルB2)及びMiaPaca(パネルB3)細胞におけるフローサイトメトリーで検出されたmSTIM1レベルの代表的な重層図。透過処理していない細胞におけるSTIM1標識は、PEにカップリングした抗STIM1抗体クローンGOK(STIM1 N末端部分を標的とする)(黒色)で実現され、アイソタイプ(白色)で観察された標識と比較された。
図4】原形質膜(plasma membrane)に位置するSTIM1(mSTIM1)画分が、すい臓細胞において二重トポロジーを有することを示す図である。パネルA: Panc-1-Wt細胞原形質膜におけるmSTIM1二重トポロジーが、フローサイトメトリーで特定された。線グラフは、透過処理していない細胞において、STIM1 N末端領域を標的とするSTIM1抗体(PEにカップリングされたGOK Ab、パネルA1)又はSTIM1のSTIM1 C末端領域を標的とするSTIM1抗体(PEにカップリングされたCDN3H4クローン、パネルA2)で検出された、mSTIM1発現(黒色)の代表的重層図を示す。白色:アイソタイプ対照。ヒストグラムは、mSTIM1発現細胞(n=6)の平均蛍光強度値(MFI)±SEMを表す。パネルB: Panc-1-Wt細胞原形質膜におけるmSTIM1二重トポロジーが、ELISA手法によって確認された。ヒストグラムは、無傷のPanc-1-Wt細胞においてSTIM1のN末端領域(GOK Ab、n=12、パネルB1)又はC末端領域(CDN3H4クローン、n=4、パネルB2)のいずれかを標的とする抗体を使用して測定された光学密度(OD)±SEMの値を示す。パネルC: mSTIM二重方向の略図。データは、n個の観察の平均+/- SEMとして表され、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図5】Panc-1-Wt細胞系において全STIM1発現の変化が、mSTIM1二重トポロジーを確認したことを示す図である。STIM1発現ベクター(V5 STIM1 Flag:パネルA及びB)又はSTIM1を標的とするsiRNA(SiSTIM1:パネルC及びD)でトランスフェクトした透過処理していないPanc-1-Wt細胞において、フローサイトメトリー分析による直接免疫蛍光染色によって評価した、PANC細胞におけるSTIM1 mAb反応性。無傷の細胞は、STIM1 N末端領域を標的とするSTIM1抗体(PEにカップリングされたGOK Ab、パネルA及びC)又はSTIM1のC末端領域を標的とするSTIM1抗体(PEにカップリングされたCDN3H4クローン、パネルB及びD)で標識される。STIM1抗体(黒色)又はアイソタイプ適合性対照(白色) mAbで染色したPanc-1-Wt細胞の蛍光の代表的なプロットが、各条件について4つのディケード対数目盛に示される。平均蛍光強度(MFI)値のヒストグラムが、各実験条件について提供される。MFI値は、対照条件[空ベクター又は非標的化SIRNA(siRNA Ctrl)によるトランスフェクション]に対して標準化(normalize)される。データは、n個の観察の平均+/- SEMとして表され、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、*P<0.05及び**P<0.01。
図6】様々な量のSTIM1を発現しているすい臓がん細胞におけるELISAによるmSTIM1トポロジーの分析を表す図である。C末端STIM1エピトープを標的とする抗体(CDN3H4クローン)を使用する原形質膜に位置するSTIM1(パネルA及びC)又は全STIM1発現(パネルB及びD)の量のELISAによる定量化。ヒストグラムは、V5 STIM1 Flagでトランスフェクトし、空ベクターに対して標準化及び比較した(パネルA及びB; n=8)、又はSTIM1を標的とするsiRNAでトランスフェクトした(パネルC及びD; n>6)Panc-1-Wt細胞において測定した光学密度(OD)±SEMの値を示す。平均値±SEMが、各実験条件について報告される。データは、対照値(空ベクター又は非標的化SIRNAによるトランスフェクション)に対して標準化され、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図7】原形質膜に位置するSTIM1が、異なるすい臓がん細胞において二重トポロジーを有することを示す図である。BxPC3(パネル1)及びMiaPaca(パネル2)細胞系における原形質膜STIM1発現の代表的なフローサイトメトリープロット。無傷の細胞は、STIM1のC末端に位置するエピトープを認識する抗体で標識された(PEにカップリングしたCDN3H4クローンを薄い灰色、PE又はアイソタイプを濃い灰色)。
図8】Bリンパ球細胞系の原形質膜に位置するSTIM1(mSTIM1)が、二重トポロジーを有することを示す図である。パネルA:無傷のJOK細胞は、STIM1 N末端領域(PEにカップリングしたGOK Ab、パネルA1)又はSTIM1 C末端領域(PEにカップリングしたCDN3H4クローン、パネルA2)を認識する抗STIM1抗体で標識された。mSTIM1の代表的なサイトメトリープロットは、アイソタイプ及び抗STIM1抗体による11件の実験の代表例であり、それぞれ白色及び黒色で標識した。STIM1発現の平均蛍光強度値(MFI)(n=11)の値が、平均値±SEMとともにヒストグラムに示される。パネルB: STIM1クローンGOK(パネルB1)若しくはクローンCDN3H4(パネルB2)抗体又は二次抗体のみ(対照)とインキュベートしたPLP細胞におけるmSTIM1のELISAによる検出。4つの観察の平均+/- SEMが、単一値とともに報告される。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、**P<0.01及び***P<0.001。
図9】STIM1が、慢性リンパ球患者由来Bリンパ球の原形質膜に位置する場合に二重トポロジーを有することを示す図である。無傷のB細胞におけるmSTIM1検出は、末梢血からの単離直後にフローサイトメトリーで試験された。STIM1 N末端領域を標的とするSTIM1抗体(PEにカップリングされたGOK Ab、パネルA)又はSTIM1のSTIM1 C末端領域を標的とするSTIM1抗体(PEにカップリングされたCDN3H4クローン、パネルB)のいずれかによるB細胞のSTIM1の標識を例示するサイトメトリープロットの代表例。アイソタイプ対照による標識は、濃い灰色である。平均蛍光強度(MFI)値のヒストグラムが示される。n個(少なくとも50個)の観察の平均+/- SEMが、各ヒストグラムについて示され、データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、***P<0.001。
図10】STIM1のC末端を標的とする抗体であるクローンCDN3H4の選択性のウエスタンブロットによる確認を表す図である。STIM1の発現は、STIM1を過剰発現するPanc-1-Wt細胞(パネルA)又はHEK(パネルB)においてC末端STIM1エピトープを標的とする抗体(CDN3H4クローン)を使用するウエスタンブロットによって明らかになった。Panc-1-Wt細胞は、STIM1(STIM1 OE)又は空ベクターを含有する発現ベクターでトランスフェクトされ、HEK細胞は、STIM1(pSTIM1)又は空ベクターを含有するレンチウイルス(Lentivirus)で形質導入された。
図11】すい臓がん細胞の構成的Ca2+流入が、STIM1 C末端領域を標的とする抗STIM1抗体によって遮断されることを示す図である。A:構成的Ca2+流入が、STIM1のC末端ドメインを標的とする抗STIM1抗体(CDN3H4クローン、黒色破線)又はアイソタイプ(黒色線)とインキュベートしたすい臓がん細胞において外部のCa2+濃度を変化させることによって測定される。Panc-1-Wt細胞におけるこの測定の代表的な記録が、パネルAに示される。ヒストグラムは、BxPC3(パネルB)、Panc-1-Wt(パネルC)及びMiaPaca(パネルD)細胞系におけるCa2+構成的流入(Constitutive Entry)の振幅(Amplitude)の単一値を、n個の観察(n>70個の細胞)の平均振幅値+/- SEMとともに示す。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、**P<0.01及び***P<0.001。
図12】すい臓がん細胞のストア作動性Ca2+流入が、STIM1 C末端領域を標的とする抗STIM1抗体によって調節されないことを示す図である。A: SOCEが、タプシガルギン(2μM)による小胞体Ca2+ストアの枯渇後に0mM外部Ca2+において、及び1.8mM細胞外Ca2+の再添加後に記録される。Panc-1-Wt細胞についてパネルAに例示した通り、すい臓細胞が、アイソタイプ、又はSTIM1(CDN3H4)のC末端部を標的とする抗STIM1抗体とインキュベートされた。ヒストグラムは、BxPC3(パネルB)、Panc-1-Wt(パネルC)及びMiaPaca(パネルD)細胞系におけるSOCE振幅の個々の値及び速度(傾斜, slope)並びにn個の観察(n>3)の平均値+/- SEMを示す。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、ns:有意でない。
図13】すい臓細胞において、細胞外環境に露出したC末端部を提示する原形質膜におけるSTIM1の存在が、STIM1グリコシル化状態に影響されないことを示す図である。原形質膜におけるmSTIM1の量が、STIM1のN末端(GOKクローン、パネルA及びB)又はC末端(CDN3H4クローン、パネルC及びD)ドメインを標的とする抗体を使用するELISAによってPanc-1-Wt細胞系において評価される。ヒストグラムは、各実験条件についてn個の観察(n>7)の光学密度(OD)の個々の値及びその平均+/- SEMを表す。mSTIM1(パネルA及びC)及び全STIM1(B及びD)の量が、野生型STIM1(V5 STIM1 Flag)、グリコシル化部位で突然変異されたSTIM1(V5 STIM1 Flag N131 171)を含有する発現ベクター又は空ベクターでトランスフェクトされた細胞において評価された。値は、空ベクターでトランスフェクトした細胞において測定されるODに対して標準化される。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、**P<0.01及び***P<0.001。
図14】すい臓細胞において、細胞の外側にC末端があるSTIM1の原形質膜における局在が、STIM1グリコシル化状態に影響されないことを示す図である。mSTIM1の量が、STIM1のN末端(GOKクローン、パネルA)又はC末端(CDN3H4クローン、パネルB)ドメインを標的とする抗体を使用してMiaPaca細胞におけるELISAによって評価された。ヒストグラムは、野生型STIM1(V5 STIM1 Flag)、グリコシル化部位で突然変異されたSTIM1(V5 STIM1 Flag N131 171)を含有する発現ベクター又は空ベクターでトランスフェクトされたMiaPaca細胞において検出された光学密度の単一の値及びn個の観察(n>4)の平均+/- SEMを表す。値は、空ベクターでトランスフェクトした細胞において測定されるODに対して標準化される。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析で分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図15】すい臓がん細胞において原形質膜でC末端が外側にあるSTIM1の存在の、TGFβ1シグナル伝達経路による調節を示す図である。TGFβ1で異なる期間処理したPanc-1-Wt細胞においてELISA実験手法を使用して、STIM1のC末端ドメインを標的とする抗体を使用してmSTIM1(無傷の細胞)及び全STIM1(透過処理した細胞)発現を検出した。ヒストグラムは、異なる実験条件についてn個の観察の光学密度(OD)の単一値及びその平均+/- SEMを示す。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図16】すい臓がん細胞におけるSTIM1のC末端ドメインを標的とする抗体のin vitroでの機能効果を示す図である。Panc-1-Wt細胞の遊走(migration)が、ボイデンチャンバーとトランスウエル遊走アッセイを使用して(パネルA、n=8)又は創傷治癒の分析(パネルB、n=12)によって48時間評価される。細胞は、10μg/mlのSTIM1C末端ドメインを標的とする抗STIM1抗体(CDN3H4クローン)とこれまで通りインキュベートした。ヒストグラム(パネルA1及びB2)は、n個の実験の遊走の%の単一値及び平均+/- SEMを示す。創傷治癒の代表的な経時的進行が、パネルB1に示される。ボイデンチャンバー又は創傷治癒試験における代表的な実験が、パネルA2及びB3に例示される。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図17】STIM1のC末端ドメインを標的とする抗体の、すい臓がん細胞の生存に対するin vitro効果を例示する図である。各実験手法において、細胞は、異なる2つの濃度(5μg/ml及び10μg/ml)のSTIM1 C末端ドメインを標的とする抗体(CDN3H4クローン)、又は対照アイソタイプ(Isotype)で48時間処理された。パネルA:抗体(クローンCDN3H4、n=16)のPanc-1-Wt細胞に対する細胞毒性(cell cytotoxicity)効果(Cell Tox green assay、Promega)の評価。パネルB:抗体(CDN3H4クローン; n=18)で処理した細胞の細胞増殖(Cell Titer proliferation assay、Promega)の評価。パネルC:細胞が異なる濃度の抗体(CDN3H4クローン、n=12)で処理された際のPanc-1-Wt細胞生存(cell survive)の分析(CCK-8 kit、Sigma)。ヒストグラムは、各実験条件の個々の値及びn個の観察の平均+/-SEMを表す。データは、アイソタイプで処理した細胞の場合に得られる平均値に対して標準化された。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図18】STIM1のC末端ドメインを標的とする抗体の、すい臓がん細胞の細胞死に対するin vitro効果を示す図である。Panc-1-Wt細胞が、異なる3濃度(1、5及び10μg/ml)の抗STIM1抗体を用いるSTIM1のC末端ドメインを標的とする抗体(CDN3H4クローン)又はアイソタイプで48時間処理される。細胞死を、アネキシン/ヨウ化プロピジウム標識によるフローサイトメトリーで分析した。抗体処理に供された生細胞(黒色)、壊死細胞(後期壊死細胞=白色、初期壊死細胞=薄い灰色)又はアポトーシス細胞(濃い灰色)のパーセンテージが、アイソタイプ処理条件に対して標準化される(パネルA)。パネルBのヒストグラムは、各実験条件において検出されたアポトーシス細胞(アネキシン/IP陽性細胞)の量を示す。データは、n個の観察(n=3)の平均+/-SEMとして表される。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析で分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図19】STIM1のC末端部を標的とする異なるSTIM1抗体を使用してC末端が外側にあるmSTIM1を標的とすることが、すい臓がん細胞の増殖を調節することを実証する図である。パネルA及びB:パネルAにおいて抗STIM1 C末端抗体(HPA011088)及びパネルBにおいて抗STIM1 C末端抗体(HAP012123)を使用するフローサイトメトリーによってPanc-1-Wt細胞原形質膜上で検出された、C末端が外側にあるmSTIM1。STIM1標識のMFIは、アイソタイプ標識に対して標準化される(n>3)。パネルC及びD:各実験手法において、細胞は、10μg/mlのSTIM1 C末端ドメインを標的とする抗STIM1抗体(パネルCにおいてHPA011088及びパネルDにおいてHPA012123)又は対照アイソタイプで48時間処理された。細胞増殖(Cell Titer assay Promegaを使用する)及び細胞生存(CCK8 assay Sigmaを使用する)が、抗体(HPA011088又はHPA012123; n>4)で処理された細胞において評価された。ヒストグラムは、各実験条件の個々の値及びn個の観察の平均+/-SEMを表す。データは、アイソタイプで処理した細胞の場合に得られる平均値に対して標準化された。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図20】すい臓がん細胞の生存を減少させるために化学療法薬ゲムシタビンをSTIM1のC末端ドメインを標的とする抗体と組み合わせるin vitro有益性を示す図である。各実験手法において、細胞は、5μg/mlのSTIM1のC末端ドメインを標的とする抗体(CDN3H4クローン)単独で又はゲムシタビン(15nM)と組み合わせて48時間処理された。対照条件において細胞は、対照アイソタイプで処理された。パネルA:Panc-1-Wtにおける細胞生存(CCK8キット、パネルA)、細胞増殖( Cell Titer assay、パネルB)、細胞毒性(Cell Tox green assay、パネルC)に対する処理の効果の評価。ヒストグラム(各条件においてn=4)は、各実験条件の個々の値及びn個の観察の平均+/-SEMを表す。データは、アイソタイプで処理した細胞の場合に得られる平均値に対して標準化された。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図21】結腸直腸腺癌細胞において、C末端が外側にあるmSTIM1の発現勾配が、STIM1のC末端を標的とする抗STIM1 mAbの細胞生存に対する効果と相関することを例示する図である。パネルA及びB:結腸直腸腺癌細胞の原形質膜においてC末端が外側にあるmSTIM1の量が、フローサイトメトリー実験(パネルA)又はELISA手法(パネルB)によって得られた。ヒストグラムは、アイソタイプ(パネルA)と比較したmSTIM1発現細胞の平均蛍光強度値(MFI)±SEM(n>3)又はSTIM1のC末端領域のいずれかを標的とする抗体(CDN3H4クローン、n>3)を使用して無傷の細胞において測定された光学密度(OD)の平均値±SEM(パネルB)を表す。パネルC及びD: 10μg/mlのSTIM1 C末端ドメインを標的とする抗体(CDN3H4クローン)又は対照アイソタイプによる48時間処理の細胞増殖(パネルC)及び細胞生存(パネルD)に対する効果。細胞が、抗STIM1抗体クローンCDN3H4(各条件においてn=12)で処理された場合のパネルCにおける細胞増殖(Cell Titer assay)及びパネルDにおける細胞生存(CCK8キット)の評価。ヒストグラムは、各実験条件の個々の値及びn個の観察の平均+/-SEMを表す。データは、アイソタイプで処理した細胞の場合に得られる平均値に対して標準化された。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図22】結腸直腸腺癌(SW620及びLovo)細胞死に対するSTIM1のC末端ドメインを標的とする抗体(CDN3H4クローン)のin vitro効果を示す図である。LOVO細胞(パネルA及びB)及びSW-620細胞(パネルC及びD)が、10μg/ml CDN3H4抗体又はアイソタイプで48時間処理される。細胞死を、アネキシン/ヨウ化プロピジウム標識プロトコールを使用してフローサイトメトリーで分析した。抗体処理に供された生細胞、壊死細胞又はアポトーシス細胞のパーセンテージが、アイソタイプ処理条件に対して標準化される(パネルA~C)。パネルB~Dのヒストグラムは、各実験条件において検出された壊死細胞(アネキシン/PI陽性細胞)の量を示す。データは、n個の観察(n=1)の平均+/-SEMとして表される。
図23】乳がん細胞においてC末端が外側にあるmSTIM1の発現が、STIM1のC末端を標的とする抗STIM1 mAbの細胞生存に対する効果と相関することを概説する図である。乳がん細胞の原形質膜におけるC末端が外側にあるmSTIM1の量が、ELISA手法(パネルA)によって評価された。ヒストグラムは、STIM1のC末端領域を標的とする抗体(CDN3H4クローン)を使用して無傷の細胞において測定された光学密度(OD)の平均値±SEMを表す。パネルB及びC:各実験において、細胞は、10μg/mlのSTIM1のC末端ドメインを標的とする抗体(CDN3H4クローン)又は対照アイソタイプで48時間処理された。抗STIM1抗体(CDN3H4クローン; n=8)で処理した2つの型の乳がん細胞系の細胞増殖(Cell Titer assay、パネルB)又は細胞生存(CCK8キット、パネルC)の評価。ヒストグラムは、各実験条件の個々の値及びn個の観察の平均+/-SEMを表す。データは、アイソタイプで処理した細胞の場合に得られる平均値に対して標準化された。データは、ノンパラメトリックマン・ホイットニー分析によって分析される、*P<0.05、**P<0.01及び***P<0.001。
図24】無処理細胞(黒丸)及び10μg/ml STIM1断片ペプチドC8(STIM1配列のアミノ酸495~530に対応する)(三角形)で処理した細胞についてA: PANC-1細胞生存(%)、B: PANC-1細胞増殖(%)及びC: PANC-1細胞毒性(%)に対するSTIM1 C末端ペプチドの効果を概説する図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0072】
(実施例1)
すい臓腺癌の病変の進行マーカーであるSTIM1タンパク質の発現
すい臓腺癌(すい臓導管腺癌: PDAC)患者のがん細胞におけるSTIM1タンパク質の発現が、病変進行マーカーを構成することを実証した(図1を参照のこと)。
【0073】
健康なすい臓組織及びすい臓腫瘍組織(PDAC)(n=48)におけるSTIM1の発現(平均グレード)が、Table 1(表1)に示される。
【0074】
【表1】
【0075】
低及び高グレードのパーセンテージによって定義される、健康なすい臓組織及びがんすい臓組織(n=48)におけるSTIM1の発現が、Table 2(表2)に示される。
【0076】
【表2】
【0077】
STIM1タンパク質の発現は、正常な腫瘍周囲細胞と比較してがん細胞において低下する。しかしながら、がん細胞におけるSTIM1発現の増大は、悪い予後と相関する。
【0078】
STIM1発現を、古典的な免疫組織化学プロトコールを使用して決定した。STIM1に対する異なる2つ検証済み抗体のパネルを使用した。簡潔には、STIM1発現のIHC分析の場合、腫瘍と正常なすい臓組織両方を含有するホルマリン固定、パラフィン包埋(FFPE)組織塊を、異なるすい臓がん段階の手術した患者から得た。IHC染色を、自動化されたIHC染色システム(Roche Diagnostics Ventana Benchmark、N750-BMKU-FS)を使用し、製造業者の推奨にしたがって実行した。試験タンパク質の発現のレベルを採点し(1~3)、スコア0は、STIM1の弱い又は存在しない発現に対応し、3は、対象の試験タンパク質の強い発現に対応する。統計分析を、ウィルコクソンの対応あり検定を使用して行った。
【0079】
(実施例2)
STIM1の発現のレベルは、カルシウムの構成的流入を調節する
STIM1の発現のレベルは、カルシウムの構成的流入を調節する: (図2を参照のこと)。この流入の振幅は、すい臓がん系の原形質膜におけるSTIM1タンパク質の発現のレベルと関連がある(図3を参照のこと)。
【0080】
Panc細胞を、市販の推奨にしたがってトランスフェクト剤lipo293を使用してSTIM1遺伝子を含有する発現ベクター(pSTIM1ベクター)又は空ベクター5μgでトランスフェクトした。細胞を、市販の推奨にしたがってトランスフェクト剤lipoRNAimaxを使用してSTIM1を標的とするsiRNA(配列番号3: ugagggaagaccucaauua)5μM又はSiCtrlでトランスフェクトした。
【0081】
構成的Ca2+流入(CCE)測定の場合、Panc細胞に、135mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2、10mM HEPES、10mMグルコースを含有し、pH7.4に調整し、5mM CaCl2で補充した培地中で、2μMプルロニック酸(登録商標)の存在下で、2μM Fura-2/AM蛍光色素を37℃で60分間ロードした。細胞を次いで洗浄し、単一細胞蛍光画像化のためにカバーグラス上に並べた。Fura-2を、モノクロメーターを使用して340及び380nmで二者択一的に励起し、蛍光放射を、ダイクロイックミラー及び14ビットCCDカメラを備えた蛍光顕微鏡を使用して510nmで記録した。基礎蛍光の安定化後、細胞外培地を、0.5mM CaCl2で補充した緩衝液Aと100秒間置き換え、曲線安定化後に当初の5mM CaCl2含有緩衝液Aと再度置き換えた。340及び380nmで測定した蛍光の比の値を経時的に収集し、標準化する。
【0082】
mSTIM1の量を、条件当たり5×106個の細胞を使用してフローサイトメトリーで評価する。細胞を、酵素不含溶液を使用して37℃で5分間培養プレートからはがした。細胞を、次いで1500rpmで5分間遠心分離し、PBS 50μl中のPEとカップリングした抗STIM1抗体(GOK-PE、BD Biosciences; 20μg/ml)1μl又はPEとカップリングしたアイソタイプ対照0.5μlと氷上で30分間、細胞上で次いでインキュベートした。3回の洗浄後、細胞をフローサイトメーター(Navios、Beckman coulter) を使用してPBS中で読み取った。
【0083】
(実施例3)
mSTIM1タンパク質の二重トポロジーの実証
STIM1タンパク質のC末端部(クローンCDN3H4、sc-66173、Santacruz)及びN末端部(クローンGOK、BD transduction Laboratory)を標的とする抗STIM1抗体を使用するサイトメトリー並びにELISA手法によって、原形質膜に局在するこのタンパク質STIM1の画分(mSTIM1)が、これまでに確立されている通り、タンパク質のN末端ドメインが細胞外にある方向性(Nter outと呼ばれる)だけでなくmSTIM1の末端Cドメインが細胞外にある方向性(Cter out方向)も持つ二重トポロジーを有することを実証した(図4を参照のこと)。mSTIM1の二重方向性は、すい臓細胞におけるSTIM1の内在性発現において及びSTIM1を過剰発現又は過小発現する細胞を使用して実証された(図5及び図6を参照のこと)。
【0084】
Panc細胞を、市販の推奨にしたがってトランスフェクト剤lipo293を使用してSTIM1遺伝子を含有する発現ベクター(pSTIM1ベクター)又は空ベクター5μgでトランスフェクトした。細胞を、市販の推奨にしたがってトランスフェクト剤lipoRNAimaxを使用してSTIM1を標的とするsiRNA(配列: UGAGGGAAGACCUCAAUUA)5μM又はSiCtrlでトランスフェクトした。
【0085】
STIM1の量を、フローサイトメトリー又はELISA手法を使用して評価した。
【0086】
ELISA測定の場合、106個の細胞を、DMEM培地中で96ウェルプレートにロードした。細胞を、2% PFAを使用して室温(RT)で10分間固定した。細胞を、次いでリン酸緩衝溶液(PBS)で洗浄し、次に5%脂肪乳で補充したPBS30分間インキュベートした。細胞を次に、N末端(GOK 0.1μl、BD Biosciences; 1μg/ml)又はC末端(CDN3H4 sc-66173 10μl、Santacruz; 1μg/ml)に対する抗STIM1抗体とRTで1時間30分、インキュベートした。PBSで3回の洗浄後、細胞を、ペルオキシダーゼコンジュゲートした二次抗体を含有するPBS +5%脂肪乳中で、RTで30分間インキュベートした。3回の洗浄後、ペルオキシダーゼコンジュゲートした二次抗体[SIGMAFAST (商標) OPD錠剤、Sigma-Aldrich]の基質を、37℃で20分間添加し、反応を、H2SO4溶液を使用して停止させた。ELISAプレートを、吸光度392nmで読み取り、ヤヌスグリーンとインキュベーションした後に光学密度を、細胞によって495nmで放射される吸光度を使用して標準化した。
【0087】
フローサイトメトリーを使用してSTIM1の量を決定する場合、5×106個の細胞を、条件毎に使用した。すい臓細胞を、酵素不含溶液を使用して37℃で5分間培養プレートからはがした。細胞を、次いで1500rpmで5分間遠心分離し、N末端(GOK-PE 1μl、BD Biosciences; 20μg/ml)若しくはC末端(CDN3H4 sc-66173 5μl、Santacruz; 10μg/ml)に対する抗STIM1抗体又はアイソタイプ対照0.5μlを含有するPBS 50μlと氷上で30分間インキュベートした。結合していない抗STIM1とインキュベーションする場合、細胞を洗浄し、PEコンジュゲートした二次抗体と氷上で20分間次いでインキュベートした。3回の洗浄後、細胞をフローサイトメーター(Navios、Beckman Coulter Life Sciences)を使用してPBS中で読み取った。
【0088】
(実施例4)
様々ながん細胞系におけるmSTIM1の二重方向性
mSTIM1の二重方向性は、様々なすい臓細胞系(図7を参照のこと)だけでなく、結腸腺癌細胞系(図21を参照のこと)、乳腺癌細胞(図23を参照のこと)、血液学的悪性腫瘍由来Bリンパ球(慢性リンパ性白血病、バーキット細胞系を患う患者のBリンパ球)(図8及び図9を参照のこと)においても観察された。二重トポロジーは、フローサイトメトリー又はELISA手法によって特定された。
【0089】
ELISA測定の場合、106個の細胞を、DMEM培地中で96ウェルプレートにロードした。細胞を、2% PFAを使用して室温(RT)で10分間固定した。細胞を、次いでリン酸緩衝溶液(PBS)で洗浄し、5%脂肪乳で補充したPBSと次に30分間インキュベートした。細胞を次に、N末端(GOK 0.1μl、BD Biosciences; 1μg/ml)又はC末端(CDN3H4 sc-66173 10μl、Santacruz; 1μg/ml)に対する抗STIM1抗体とRTで1時間30分、インキュベートした。PBSで3回の洗浄後、細胞を、ペルオキシダーゼコンジュゲートした二次抗体を含有するPBS +5%脂肪乳中で、RTで30分間インキュベートした。3回の洗浄後、ペルオキシダーゼコンジュゲートした二次抗体[SIGMAFAST (商標) OPD錠剤、Sigma-Aldrich]の基質を、37℃で20分間添加し、反応を、H2SO4溶液を使用して停止させた。ELISAプレートを、吸光度392nmで読み取り、ヤヌスグリーンとインキュベーションした後に光学密度を、細胞によって495nmで放射される吸光度を使用して標準化した。
【0090】
フローサイトメトリーを使用してSTIM1の量を決定する場合、5×106個の細胞を、条件毎に使用した。すい臓細胞を、酵素不含溶液を使用して37℃で5分間培養プレートからはがした。細胞を、次いで1500rpmで5分間遠心分離し、N末端(GOK-PE 1μl、BD Biosciences; 20μg/ml)若しくはC末端(CDN3H4 sc-66173 5μl、Santacruz; 10μg/ml)に対する抗STIM1抗体又はアイソタイプ対照0.5μlを含有するPBS 50μlと氷上で30分間インキュベートした。結合していない抗STIM1とインキュベーションする場合、細胞を洗浄し、PEコンジュゲートした二次抗体と氷上で20分間次いでインキュベートした。3回の洗浄後、細胞をフローサイトメーター(Navios、Beckman Coulter Life Sciences)を使用してPBS中で読み取った。
【0091】
(実施例5)
Cter抗体によるSTIM1の検出の特異性の実証
ウエスタンブロット手法(図10を参照のこと)によって、タンパク質のC末端ドメインを標的とする抗STIM1抗体(STIM1:クローンCDN3H4、sc-66173、Santacruz)が、STIM1タンパク質をよく認識することを示した。フローサイトメトリー及びELISA手法は、この抗体が、STIM1の膜画分(mSTIM1)を認識することを示した。Cter抗体によるmSTIM1の検出のこの特異性は、このタンパク質を異なるレベルで発現する無傷の透過処理していない細胞においてSTIM1で標識することにより、フローサイトメトリー及びELISAによって確認された(図5及び図6を参照のこと)。この抗体は、フローサイトメトリーにおいて透過処理した細胞又は壊れた細胞のSTIM1の膜画分(mSTIM1)並びに小胞体膜に位置するSTIM1の大部分の画分を特異的に検出することを可能にする。
【0092】
タンパク質抽出を、107個のPanc 1-Wt細胞を、20mMトリスHCl pH7.5、150mM NaCl、1mM EDTA、1mM EGTA、1% Triton X100、2.5mM Na+ ピロリン酸四ナトリウム、1mMグリセロリン酸、1mM Na+ オルトバナジン酸、1μg/mlロイペプチン及びプロテアーゼ阻害剤カクテルを含有する溶解緩衝液を用いて氷上でかき集めることによって実行した。タンパク質抽出物を超音波処理し、16,000gで12分間遠心分離した。細胞溶解物のタンパク質濃度を、フォリン法を使用して決定した。タンパク質75μgを、変性条件でSDS-PAGE 7.5%ポリアクリルアミドゲルに流し、次いでPVDF(ポリフッ化ビニリデン)膜シートに転写した。非特異的なブロッキングを、PBS、0.1% tween 20中の5%脂肪乳との1時間のインキュベーションによって行った。ブロットを、マウスモノクローナル抗STIM1(CDN3H4クローン、Santacruz; 1:1000希釈)又はマウスモノクローナル抗GAPDH抗体(6C5クローン、Abcam; 1:10,000希釈)を含有するPBS、0.1% tween 20中の5%脂肪乳と終夜インキュベートした。ブロットを、PBS、0.1 % tween 20で洗浄した後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートヤギ抗マウスとインキュベートし、Luminata Forte試薬で明らかにした。全ての結果は、GAPDH定量化に対して標準化された。
【0093】
(実施例6)
すい臓上皮細胞の構成的Ca2+流入は、抗STIM1抗体の使用によって阻害される
すい臓上皮細胞の構成的Ca2+流入が、抗STIM1抗体クローンCDN3H4(クローンCDN3H4、sc-66173、Santacruz)の使用によって阻害されることを実証する(図11を参照のこと)。この抗体は、細胞内カルシウムストアの放出(SOCE:ストア作動性Ca2+流入)によって活性化されるCa2+流入に対する効果を持たない(図12を参照のこと)。
【0094】
SOCE測定の場合、106個の細胞を、96ウェルに播種した。製造業者のプロトコールにしたがって、細胞にFura-2アセトキシメチルエステル[Fura-2 QBT(商標)、Molecular Probes]蛍光色素をロードする。Fura-2 QBT(商標)を吸引し、135 NaCl、5 KCl、1 MgCl2、1 EGTA、10 Hepes、10グルコースを(mMで)含有し、NaOHで7.45にpH調整したCa2+不含Hepes緩衝溶液の等容量と置き換えた。細胞内カルシウムレベルの変動を、FlexStation 3(商標)(Molecular Devices、Berkshire、UK)を使用してモニタリングし、二重励起波長能力により、340nm(Ca2+結合)及び380nm(Ca2+結合なし)での励起後にFura-2 AMピーク放出(510nm)のレシオメトリック測定が可能になる。340/380比の修飾は、細胞内の遊離Ca2+濃度の変化を反映する。Ca2+不含条件下でタプシガルジン(2μM)溶液を用いて小胞体からCa2+ストアを放出させることによってSOCEを誘発して、細胞内Ca2+放出の大きさを決定した(Hepes緩衝溶液)。次に、細胞を、Ca2+含有Hepes緩衝溶液に戻してSOCEを測定した。SOCEの大きさ及び速度を推定した。
【0095】
構成的Ca2+流入(CCE)測定の場合、Panc-1細胞に、135mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2、10mM HEPES、10mMグルコースを含有し、pH7.4に調整し、5mM CaCl2で補充した培地中で、2μMプルロニック酸(登録商標)の存在下で、2μM Fura-2/AM蛍光色素を37℃で60分間ロードした。細胞を次いで洗浄し、単一細胞蛍光画像化のためにカバーグラス上に並べた。Fura-2を、モノクロメーターを使用して340及び380nmで二者択一的に励起し、蛍光放射を、ダイクロイックミラー及び14ビットCCDカメラを備えた蛍光顕微鏡を使用して510nmで記録した。基礎蛍光の安定化後、細胞外培地を、0.5mM CaCl2で補充した緩衝液Aと100秒間置き換え、曲線安定化後に当初の5mM CaCl2含有緩衝液Aと再度置き換えた。340及び380nmで測定した蛍光の比の値を経時的に収集し、標準化する。
【0096】
(実施例7)
Cter out方向を有するmSTIM1の原形質膜における存在は、STIM1のグリコシル化に影響されず、TGFβシグナル伝達によって調節される
Nter out方向とは対照的にCter out方向を有するmSTIM1の原形質膜における存在は、STIM1のグリコシル化(AA N131及びN171位におけるグリコシル化)に影響されない(図13及び図14を参照のこと)。
【0097】
Cter out方向を有するmSTIM1の量は、異なる細胞シグナル伝達経路、特に、すい臓がんにおける過剰活性化経路であるTGFβ経路によって調節される。TGFβ経路の刺激は、すい臓がん細胞においてCter方向のmSTIM1量の増大を誘導する(図15を参照のこと)。
【0098】
Panc及びMiaPaca細胞を、市販の推奨にしたがってトランスフェクト試薬lipo293を使用して野生型STIM1を含有する発現ベクターpSTIM1ベクター(pSTIM1)又は突然変異させたSTIM1(N131Q、N171Q STIM1)又は空ベクター5μgで過剰発現させた。TGFβシグナル伝達の影響を評価するために、細胞を、DMEM培地中で、37℃で5分間、15分間、30分間、24時間及び48時間25ng/ml TGFβ1で処理した。
【0099】
原形質膜におけるSTIM1の量を、ELISAによって評価した。106個の細胞を、DMEM培地中で96ウェルプレートにロードした。細胞を、2% PFAを使用して室温(RT)で10分間固定した。細胞を、次いでリン酸緩衝溶液(PBS)で洗浄し、次に5%脂肪乳で補充したPBS30分間インキュベートした。細胞を次に、N末端(GOK 1μl、BD Biosciences; 1μg/ml)又はC末端(CDN3H4 sc-66173 5μl、Santacruz; 10μg/ml)に対する抗STIM1抗体とRTで1時間30分、インキュベートした。PBSで3回の洗浄後、細胞を、ペルオキシダーゼコンジュゲートした二次抗体を含有するPBS +5%脂肪乳中で、RTで30分間インキュベートした。3回の洗浄後、ペルオキシダーゼコンジュゲートした二次抗体[SIGMAFAST (商標) OPD錠剤、Sigma-Aldrich]の基質を、37℃で20分間添加し、反応を、H2SO4溶液を使用して停止させた。ELISAプレートを、吸光度392nmで読み取り、ヤヌスグリーンとインキュベーションした後に光学密度を、細胞によって495nmで放射される吸光度を使用して標準化した。
【0100】
(実施例8)
STIM1のC末端画分を標的とする抗STIM1抗体は、Panc-1-Wtすい臓がん細胞のin vitro遊走を減少させる
STIM1のC末端画分を標的とする抗STIM1抗体(クローンCDN3H4、Santa Cruz)は、トランスウエル遊走(ボイデンチャンバー)又は創傷治癒技術によって評価されるPanc-1-Wt細胞のin vitro遊走を減少させる(図16を参照のこと)。遊走測定(創傷治癒技術)の場合、106個の細胞を、DMEM培地中で96ウェルプレートにロードした。Panc-1-Wtコンフルエント細胞を、手作業でかき集め、細胞を抗STIM1 CDN3H4(10ug/ml)又はアイソタイプで処理した。撮影を、1時間につき1画像の割合で48時間行った。創傷の領域を、時系列を表す画像において算出した。
【0101】
フィルターを通り抜ける遊走に基づく遊走アッセイの場合、5×106個の細胞を、ボイデンチャンバー(transwell Corning 8μm孔径)の上側にロードし、SVFを含まないDMEM培地中で、STIM1のC末端を標的とする抗STIM1(CDN3H4クローン10μg/ml)の有り又は無しで37℃において48時間インキュベートした。底面プレートに、10% SVF DMEM培地をロードした。フィルターの上面から細胞を除去した後、遊走した細胞を固定化し、DAPI核着色した後に5箇所の視野の細胞を手作業で計数した。
【0102】
(実施例9)
STIM1のC末端画分を標的とする抗STIM1抗体は、Panc-1-Wt細胞、すい臓がん細胞、大腸がん細胞及び乳がん細胞のin vitro生存を減少させる
STIM1のC末端画分を標的とする抗STIM1抗体(クローンCDN3H4、Santa Cruz)は、すい臓がん細胞(図17を参照のこと)、結腸がん細胞(図21を参照のこと)及び乳がん細胞(図23を参照のこと)のin vitro生存を減少させる。STIM1のC末端画分を標的とする抗STIM1抗体による処理は、主に細胞増殖を減少させることによって細胞生存を減少させる(図17及び図21及び図23を参照のこと)。in vitroで、STIM1のC末端画分を標的とする抗STIM1抗体(クローンCDN3H4)は、これらの細胞のアポトーシスを誘導することによって細胞毒性を招いた(図18及び図22を参照のこと)。STIM1のC末端部を標的とする異なる抗体も、細胞生存の減少を誘導する(図19)。抗STIM1抗体の効果は、C末端部を外側に配向したmSTIM1の量に比例する(図21及び図23)。
【0103】
細胞増殖、細胞毒性及び細胞生存の測定の場合、106個の細胞を、96ウェルプレート中のDMEM培地100μlに播種した。細胞を、STIM1のC末端を標的とする抗STIM1抗体(CDN3H4、Santa Cruz; HPA011088又はHPA012123クローン、Sigma)と37℃で48時間インキュベートした。細胞増殖を、Cell Titerキット増殖アッセイ(Promega)を使用して評価した。細胞毒性を、Cell Tox green細胞毒性アッセイ(Promega)を使用して評価し、細胞生存を、Sigma製CCK8キットを使用して測定した。これらキット全てを、製造業者の推奨にしたがって使用し、プレートリーダーを使用した。
【0104】
アポトーシス測定の場合、5×106個の細胞を、12ウェルプレートに播種した。細胞を、抗STIM1 CDN3H4抗体(10ug/ml)と37℃で48時間インキュベートした。洗浄後、細胞を、酵素不含溶液を使用してプレートからはがした。細胞を、1500rpmで5分間遠心分離し、アネキシンV-FiTC 1μl及びヨウ化プロピジウム(PI) 1μlを含有するPBS 50μlに暗所で、RTで15分間懸濁した。アネキシン及びPI染色の評価を、細胞アポトーシス及び壊死を評価するためにフローサイトメーター(Navios、Beckman Counter)を使用して実現した。
【0105】
(実施例10)
ゲムシタビンとSTIM1のC末端画分を標的とする抗STIM1抗体との組み合わせは、すい臓細胞生存に対するゲムシタビンの効果を強化する
低用量(5μg/ml)のSTIM1のC末端画分を標的とする抗STIM1抗体(クローンCDN3H4、Santa Cruz)又は低用量(15nM)のゲムシタビンは、細胞毒性を誘導することなく、すい臓がん細胞の生存及び増殖をわずかだが有意に減少させる(図17を参照のこと)。STIM1のC末端画分を標的とするこの抗STIM1抗体と、同様に低用量のゲムシタビンとの組み合わせは、ゲムシタビン単独による処理の効果の有意で重要な強化を誘導する。
【0106】
細胞増殖、細胞毒性及び細胞生存の測定の場合、106個の細胞を、96ウェルプレート中のDMEM培地100μlに播種した。細胞を、5μg/mlの、STIM1のC末端を標的とする抗STIM1抗体(CDN3H4、Santa Cruz)単独、15nMゲムシタビン単独又は5ug/ml抗STIM1クローンCDN3H4と15nMゲムシタビンの両方と37℃で48時間インキュベートした。関連性のある対照(アイソタイプ又は/及びDMSO処理)も実現した。細胞増殖を、Cell Titerキット増殖アッセイ(Promega)を使用して評価した。細胞毒性を、Cell Tox green細胞毒性アッセイ(Promega)を使用して評価し、細胞生存を、Sigma製CCK8キットを使用して測定した。これらキット全てを、製造業者の推奨にしたがって使用し、プレートリーダーを使用した。
【0107】
(実施例11)
抗(mSTIM1のC末端断片)をスクリーニングする方法
C末端を外側にして原形質膜に局在するSTIM1画分(mSTIM1)を調節する分子のスクリーニングを、Panc-1すい臓がん細胞等、C末端が外側にあるmSTIM1を充分な量発現する細胞に対して実行する。2つの型のPanc-1細胞: STIM1で安定にトランスフェクトしたPanc-1細胞又は内在量のSTIM1を含むPanc-1を使用する。これらの細胞は、測定可能な構成的カルシウム流入を示す。スクリーニングは、細胞外カルシウムの構成的流入に対する細胞の原形質膜に局在するSTIM1の画分を標的とする分子の効果を測定する第1の手法で構成される。蓄積SOCE(ストア作動性カルシウム流入)の放出によって決まるカルシウム流入に対するこれらの分子の効果も評価して、構成的カルシウム流入に作用する分子の流入SOCEに対する分子の効果を決定する。これら2つのカルシウムフローの振幅を、蛍光プローブ(Fura-2 QBT、Molecular Devices)を使用して細胞内カルシウム濃度の変動をモニタリングすることによって測定する。
【0108】
構成的Ca2+流入(CCE)測定の場合、Panc細胞に、135mM NaCl、5mM KCl、1mM MgCl2、10mM HEPES、10mMグルコースを含有し、pH7.4に調整し、1.8mM CaCl2で補充した培地中で、2μM Fura-2 QBT蛍光色素を37℃で60分間ロードした。細胞を次いで洗浄し、単一細胞蛍光画像化のためにカバーグラス上に並べた。Fura-2を、モノクロメーターを使用して340及び380nmで二者択一的に励起し、蛍光放射を、ダイクロイックミラー及び14ビットCCDカメラを備えた蛍光顕微鏡を使用して510nmで記録した。基礎蛍光の安定化後、細胞外培地を、0.5mM CaCl2で補充した緩衝液Aと100秒間置き換え、曲線安定化後に当初の5mM CaCl2含有緩衝液Aと再度置き換えた。340及び380nmで測定した蛍光の比の値を経時的に収集し、標準化する。
【0109】
SOCE及び構成的Ca2+流入の測定の場合、106個の細胞を、96ウェルに播種した。製造業者のプロトコールにしたがって、細胞にFura-2アセトキシメチルエステル[Fura-2 QBT(商標)、Molecular Probes]蛍光色素をロードする。Fura-2 QBT(商標)を吸引し、135 NaCl、5 KCl、1 MgCl2、1 EGTA、10 Hepes、10グルコースを(mMで)含有し、NaOHで7.45にpH調整したCa2+不含Hepes緩衝溶液の等容量と置き換えた。蛍光の変化を、FlexStation 3(商標)(Molecular Devices、Berkshire、UK)を使用してモニタリングする。二重励起波長能力により、340nm(Ca2+結合)及び380nm(Ca2+結合なし)での励起後にFura-2 AMピーク放出(510nm)のレシオメトリック測定が可能になる。340/380比の修飾は、細胞内の遊離Ca2+濃度の変化を反映する。Ca2+不含条件下でタプシガルジン(2μM)溶液を用いて小胞体からCa2+ストアを放出させることによってSOCEを誘発して、細胞内Ca2+放出の大きさを決定した(Hepes緩衝溶液)。次に、細胞を、Ca2+含有Hepes緩衝溶液に戻してSOCEを測定した。SOCEの大きさ及び速度を推定した。構成的流入は、マンガン(Mn2+)を細胞外培地に添加した際に励起波長360nmで記録されるFura 2蛍光の消光を追跡することにより、刺激が全く存在しない状態で測定される。蛍光消光の割合は、Ca2+流入の優れた近似値を表す。
【0110】
細胞を、細胞に蛍光プローブをロードする瞬間及び細胞内カルシウム濃度の変動の測定の全体を通じて、試験化合物と接触させる。
【0111】
原形質膜におけるSTIM1の位置に対するスクリーニングした化合物の効果は、リード候補について実現される。スクリーニングは、細胞遊走及び細胞生存に対する有望な分子の効果を追跡することによってもなされる。
【0112】
(参考文献)
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5(A.B)】
図5(C.D)】
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図9D
図10A
図10B
図11A
図11B
図11C
図11D
図12A
図12B
図12C
図12D
図13A
図13B
図13C
図13D
図14A
図14B
図15
図16A
図16B
図17A
図17B
図17C
図18
図19A
図19B
図19C
図19D
図20
図21A
図21B
図21C
図21D
図22A
図22B
図22C
図22D
図23A
図23B
図23C
図24A
図24B
図24C
【配列表】
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