(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】横編機
(51)【国際特許分類】
D04B 15/82 20060101AFI20241011BHJP
D04B 15/36 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
D04B15/82 306
D04B15/36 101
(21)【出願番号】P 2022062178
(22)【出願日】2022-04-01
【審査請求日】2024-05-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100101638
【氏名又は名称】廣瀬 峰太郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 昌紀
(72)【発明者】
【氏名】森田 真人
(72)【発明者】
【氏名】島崎 宜紀
(72)【発明者】
【氏名】上山 裕之
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-169431(JP,A)
【文献】特開平09-241952(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 15/82
D04B 15/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯口を挟んで対向するように少なくとも前後一対設けられる針床、
針床の長手方向に沿って一定のピッチで並設される複数の針溝にそれぞれ収容される複数の編針、
針床の長手方向に往復動するキャリッジ、および
キャリッジに搭載されるカムシステムと選針機構とプレッサー群とを備え、
カムシステムは、キャリッジの走行方向に応じて切り替わる入側部分と出側部分とで編針を歯口に進退する方向に駆動して編成動作を行わせ、
選針機構は、カムシステムで編成動作を行わせる編針を選択し、
プレッサー群は、選択された編針を編成動作に応じて押圧し、
編針は、
プレッサー群からの押圧を受ける選択用バットを有し、基底位置のBポジション、Bポジションよりも歯口に進出する方向に設定される中間位置のHポジション、およびHポジションよりも歯口に進出する進出位置のAポジションを含む異なる位置に案内され、各位置で選択用バットが受けるプレッサー群からの押圧の違いで、カムシステムが編針に行わせる編成動作を異ならせることが可能なセレクトジャックと、
選針機構での編針の選択状態に対応して、編針が非選択の場合の基底経路、編針が選択される場合に、基底経路よりも歯口に進出する方向の中間経路、または中間経路よりも歯口に進出する方向の進出経路のいずれかを通るように三段階で選択され、中間経路または進出経路のいずれかを通ると、セレクトジャックと係合して、セレクトジャックを歯口に進出する方向のポジションにそれぞれ案内することが可能なセレクターとを含み、
選針機構は、セレクターを予め設定される経路に沿って移動させ、係合部を介してセレクトジャックを駆動するように案内するセレクター駆動カムを含む、
横編機において、
カムシステムの入側部分で駆動される編針を三段階で選択する入側選針機構と、
入側選針機構での選択でAポジションに案内されたセレクトジャックをHポジションに下げるセレクトジャック下げカムと、
カムシステムの入側部分と出側部分との中間で、セレクトジャック下げカムでセレクトジャックがHポジションに下げられた編針または入側選針機構でHポジションまたはBポジションが選択された編針を、カムシステムの出側部分で駆動されるように三段階で選択する中間選針機構と、
セレクターとセレクトジャックとの係合部を、Bポジションのセレクトジャックとセレクターとが係合する第一段階で入側選針機構での選針を受け、Hポジションのセレクトジャックとセレクターとの係合を可能にする第二段階を設けて、中間選針機構での選針を受けるように、セレクトジャックまたはセレクターを針溝に沈める押圧が可能な押圧カムと
を含み、
中間選針機構に、第二段階の係合でセレクトジャックが案内される位置として、Aポジションよりも歯口に進出する方向の前進位置が設けられる
ことを特徴とする横編機。
【請求項2】
前記押圧カムは、前記入側選針機構に設けられて前記セレクトジャックの前記選択用バットを押圧し、
セレクトジャックは、選択用バットで前記歯口から退出する方向となる後端の根元部分に、後端側に張出す張出部を有し、
前記セレクターは、歯口に進出する方向の先端部が、前記第一段階で押圧カムによる押圧によって針溝に沈むセレクトジャックの選択用バットの後端と係合し、前記第二段階で張出部の後端と係合する、
ことを特徴とする請求項1記載の横編機。
【請求項3】
前記入側選針機構および前記中間選針機構は、前記セレクターを磁力で吸引する状態を、前記選択を受けて複数の位置で解除可能な吸引アクチュエーターを含み、
前記セレクター駆動カムは、吸引アクチュエーターによる吸引が解除された位置に応じて前記三段階に異なる経路に案内するように、セレクターを駆動する、
ことを特徴とする請求項1または2記載の横編機。
【請求項4】
前記プレッサー群は、前記入側選針機構で前記Hポジションが選択された前記編針が所定の編成動作を行うように、前記セレクトジャックの前記選択用バットを前記針溝に沈める入側Hプレッサーと、編成動作に影響しない位置で退避する出側Hプレッサーを有し、少なくとも出側Hプレッサーは、走行方向と逆方向に退避する、
ことを特徴とする請求項3記載の横編機。
【請求項5】
前記カムシステムの前記出側部分で選択可能な編成動作は、前記編針を前記歯口から退出させるために前記カムシステムに設ける度山カムによる引込み量を異ならせる、度違い編成動作を含む
ことを特徴とする請求項3記載の横編機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針床の長手方向に往復動するキャリッジに搭載されて、編針に編成動作を行わせる編針を選択するための選針機構を備える横編機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、針床の長手方向に往復動するキャリッジは、編針を駆動して編成動作を行わせるカムシステムとともに、駆動の対象となる編針を選択するための選針機構を搭載している。針床は、歯口を挟んで対向するように少なくとも前後一対設けられる。編針は、針床の長手方向に沿って一定のピッチで並設される複数の針溝にそれぞれ収容され、針溝内を摺動して、歯口に対して進退する方向に駆動される。編針の選択は、編針に設けるバットの針溝からの突出状態に反映される。編針の基本的な編成動作は、ニット、タック、およびミスの三種であり、選針機構はこの三種を区別して対象となる編針をカムシステムの入側で選択することを基本としている(たとえば、特許文献1、2参照)。
【0003】
編針は、歯口側の先端に編目形成のためのフックを有するとともに、歯口から離れる尾部側に、選針機構での選択を受けるためのセレクターおよびセレクトジャックを有する。セレクターは、二回の選択を受けて、セレクトジャックを三種のポジション、たとえばBポジション、Hポジション,およびAポジションに案内するように駆動する。セレクトジャックの複数のポジションには、必要に応じて、押圧して針溝に沈めるためのプレッサー群が配置される。特許文献1は、セレクターの選択を、セレクターに設ける選択バットへの押圧の有無で行う。特許文献2は、セレクターの一回目と二回目との選択後でセレクトジャックを駆動するための係合部を掛け替える技術を開示している。この技術は、二回の選択でセレクトジャックをAポジションに案内する際に、一回目にセレクトジャックをHポジションまで案内した後、セレクターがセレクトジャックを駆動するための係合部を掛け替える。係合部の掛け替えは、セレクターが二回目でセレクトジャックをHポジションからAポジションに案内する際に、空走する距離を小さくして、編成効率の向上に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2007/074944号
【文献】特開2020-169431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の選針機構で編針を三ポジションに選択するだけでは、混在させ得る編成動作に数的限界が生じる。たとえば、カムシステムで編針を歯口から退出させるように引込む度山カムの引込みカム面に後半で低くなる高低差を設けておき、編針に設けるバットの突出量を高低差に応じて切替えれば、歯口でフックに給糸を受けた編針への引込み量を切替えて形成する編目の大きさを切替える度違いの動作が可能である。ニットとタックとで度違いが可能であれば、それぞれ粗目と並目とに切替えることができる。また、編目形成の際に、旧ループをノックオーバーさせる代わりに対向する針床の編針のフックに移して増し目を形成する割増やしの動作も、カムシステムやプレッサー群の部分的な変更で可能となる。しかしながら、これらの動作のいずれかを、三種の基本動作と混在させることは、選択可能なポジションの不足で、不可能となる。
【0006】
選針機構で四ポジション以上の選択を可能にすれば、三種の基本動作に他の動作を混在させることができる。しかしながら、そのような選針機構は、キャリッジが往復走行する針床の長手方向や、編針の進退方向に、大型化してしまう。選針機構が大型化すると、搭載するキャリッジも大型化し、針床の長手方向の走行ストロークも大きくなってしまう。キャリッジの走行ストロークが大きくなると、走行速度が同じであれば、走行に時間がかかるようになり、編成効率が低下してしまう。選針機構での選択数を増やさずに、カムシステムやプレッサー群の切替えで多くの種類の動作を選択可能にしても、切替え前後で、キャリッジの走行を一旦停止し、逆方向に何もしない空の走行を行ってから反転する蹴り返しが必要となる。キャリッジの蹴り返しも、編成効率を低下させてしまう。
【0007】
本発明の目的は、選択可能な編成動作の数を増やし、編成動作の混在時の編成効率を改善することが可能な、横編機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、歯口を挟んで対向するように少なくとも前後一対設けられる針床、
針床の長手方向に沿って一定のピッチで並設される複数の針溝にそれぞれ収容される複 数の編針、
針床の長手方向に往復動するキャリッジ、および
キャリッジに搭載されるカムシステムと選針機構とプレッサー群とを備え、
カムシステムは、キャリッジの走行方向に応じて切り替わる入側部分と出側部分とで編針を歯口に進退する方向に駆動して編成動作を行わせ、
選針機構は、カムシステムで編成動作を行わせる編針を選択し、
プレッサー群は、選択された編針を編成動作に応じて押圧し、
編針は、
プレッサー群からの押圧を受ける選択用バットを有し、基底位置のBポジション、Bポジションよりも歯口に進出する方向に設定される中間位置のHポジション、およびHポジションよりも歯口に進出する進出位置のAポジションを含む異なる位置に案内され、各位置で選択用バットが受けるプレッサー群からの押圧の違いで、カムシステムが編針に行わせる編成動作を異ならせることが可能なセレクトジャックと、
選針機構での編針の選択状態に対応して、編針が非選択の場合の基底経路、編針が選択される場合に、基底経路よりも歯口に進出する方向の中間経路、または中間経路よりも歯口に進出する方向の進出経路のいずれかを通るように三段階で選択され、中間経路または進出経路のいずれかを通ると、セレクトジャックと係合して、セレクトジャックを歯口に進出する方向のポジションにそれぞれ案内することが可能なセレクターとを含み、
選針機構は、セレクターを予め設定される経路に沿って移動させ、係合部を介してセレクトジャックを駆動するように案内するセレクター駆動カムを含む、
横編機において、
カムシステムの入側部分で駆動される編針を三段階で選択する入側選針機構と、
入側選針機構での選択でAポジションに案内されたセレクトジャックをHポジションに下げるセレクトジャック下げカムと、
カムシステムの入側部分と出側部分との中間で、セレクトジャック下げカムでセレクトジャックがAポジションに下げられた編針または入側選針機構でHポジションまたはBポジションが選択された編針を、カムシステムの出側部分で駆動されるように三段階で選択する中間選針機構と、
セレクターとセレクトジャックとの係合部を、Bポジションのセレクトジャックとセレクターとが係合する第一段階で入側選針機構での選針を受け、Hポジションのセレクトジャックとセレクターとの係合を可能にする第二段階を設けて、中間選針機構での選針を受けるように、セレクトジャックまたはセレクターを針溝に沈める押圧が可能な押圧カムと
を含み、
中間選針機構に、第二段階の係合でセレクトジャックが案内される位置として、Aポジションよりも歯口に進出する方向の前進位置が設けられる
ことを特徴とする横編機である。
【0009】
また本発明で、前記押圧カムは、前記入側選針機構に設けられて前記セレクトジャックの前記選択用バットを押圧し、
セレクトジャックは、選択用バットで前記歯口から退出する方向となる後端の根元部分に、後端側に張出す張出部を有し、
前記セレクターは、歯口に進出する方向の先端部が、前記第一段階で押圧カムによる押圧によって針溝に沈むセレクトジャックの選択用バットの後端と係合し、前記第二段階で張出部の後端と係合する、
ことを特徴とする。
【0010】
また本発明で、前記入側選針機構および前記中間選針機構は、前記セレクターを磁力で吸引する状態を、前記選択を受けて複数の位置で解除可能な吸引アクチュエーターを含み、
前記セレクター駆動カムは、吸引アクチュエーターによる吸引が解除された位置に応じて異なる経路に案内するように、セレクターを駆動する、
ことを特徴とする。
【0011】
また本発明で、前記プレッサー群は、前記入側選針機構で前記Hポジションが選択された前記編針が所定の編成動作を行うように、前記セレクトジャックの前記選択用バットを前記針溝に沈める入側Hプレッサーと、編成動作に影響しない位置で退避する出側Hプレッサーを有し、少なくとも出側Hプレッサーは、走行方向と逆方向に退避する、
ことを特徴とする。
【0012】
また本発明で、前記カムシステムの前記出側部分で選択可能な編成動作は、前記編針を前記歯口から退出させるために前記カムシステムに設ける度山カムによる引込み量を異ならせる、度違い編成動作を含む
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、選針は、セレクターとセレクトジャックとを使用して行うので、使用実績がある基本的な組合せを利用することができる。入側選針機構によって選択されてカムシステムの入側部分による駆動を受ける編針に対し、中間選針機構は、カムシステムの出側部分による駆動を受ける編針をさらに選択することができるので、選択可能な編成動作を増やすことができる。中間選針機構は、セレクターとセレクトジャックとの係合部が入側選針機構での第一段階から第二段階に掛け替えられ、編成動作の選択を追加可能にする。入側選針機構でAポジションが選択された編針もセレクトジャック下げカムでHポジションに下げてから中間選針機構による選択を受けるので、カムシステムの入側部分ではAポジションで出側部分ではHポジションとなるような組合せも可能になる。入側選針機構と中間選針機構とは、一回のキャリッジ走行で選択可能な編成動作の数を増やし、基本的な編成動作と他の編成動作の混在時などの、編成効率を改善することができる。
【0014】
また本発明によれば、押圧カムによるセレクトジャックへの押圧で、セレクターとセレクトジャックとの係合に対し、二段階の切替えを行うことができる。セレクターの先端部は、第一段階でセレクトジャックの選択用バット後端と係合し、第二段階で張出部の後端とに係合するので、セレクターの係合部を共通にすることができる。
【0015】
また本発明によれば、入側選針出側機構と中間選針機構とは、針床の長手方向への大型化を避けることができる。
【0016】
また本発明によれば、少なくとも出側Hプレッサーは、走行方向と逆方向に退避するので、入側選針機構でBポジションやHポジションに選択され、中間選針機構でHポジションやAポジションに選択されるセレクトジャックの選択用バットが通過する際に干渉しない。入側Hプレッサーと出側Hプレッサーの間隔を広げることによる、針床の長手方向へのカムシステムの大型化を避けることができる。
【0017】
また本発明によれば、中間選針機構で、度山カムによる編針の引込みに、度違い編成動作を混在させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例として、カムシステム2および選針機構10を備える横編機1の概略的な構成を示す簡略化したカム配置図および制御対象となる編針3の部分的な側面図である。
【
図2】
図2は、
図1の入側選針機構11および中間選針機構12の構成を含むカムシステム2の部分的なカム配置図である。
【
図3】
図3は、
図1の押圧カム15で切替えられる、セレクトジャック6をセレクター7で移動させるための係合箇所を示す部分的な側面図である。
【
図4】
図4は、入側選針機構11でのセレクター7とセレクトジャック6との位置関係を示す部分的な側面図である。
【
図5】
図5は、中間選針機構12でのセレクター7とセレクトジャック6との位置関係を示す部分的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1から
図5は、本発明の一実施例である横編機1の選針機構10の構成に関する。
図1および
図2で、対角線を交差させて示す面は、傾斜面であることを示す。各図で対応する部分は,同一の参照符を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。また説明の便宜上、説明対象の図には記載されていない部分について、他の図に記載される参照符を付して言及する場合がある。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明の一実施例として、カムシステム2および選針機構10を備える横編機1の概略的な構成を示す。以下の説明は、簡略化のために図示を省略しているものにも言及する。カムシステム2は、横編機の針床の長手方向に沿って往復走行するキャリッジに搭載される。針床は、図の上方に存在する歯口を挟んで対向するように、少なくとも一対設けられる。各針床は、歯口に進退する前後方向に延びる針溝を有する。針溝は、針床の長手方向である左右方向に並設される。編針3は、各針溝に、前後方向への摺動が可能な状態で収容され、ニードルジャック4、スライダー5、セレクトジャック6およびセレクター7を含む。この編針3は複合針であり、ニードルジャック4で図示を省略している前端側で、先端にフックを設ける針本体に接続されている。スライダー5も、図示を省略している前端側に、フックを開閉するとともに、二枚に分かれてフックを越えて歯口に進出可能なブレードを有する。ニードルジャック4、スライダー5およびセレクトジャック6は、機械的な作用による制御を受けるためのバット4b,5bおよび選択用バット6bをそれぞれ有する。セレクター7は、磁気的な作用による制御を受けるための接極子7aを有し、先端部7bでセレクトジャック6と係合する。セレクター7は、後述するような駆動バット7cおよび下げバット7dも有する。
【0021】
選針機構10およびカムシステム2は、キャリッジが左右に往復走行する場合も同様な動作が対称的に可能なように、双方向性を有している。以下の説明は、キャリッジが針床に対して図の左方に同一編成コースとして移動する場合を想定して行う。カムシステム2は、入側部分2aと出側部分2bとに分けられる。選針機構10は、カムシステム2に対し、入側部分2aに対する選針を行う入側選針機構11、出側部分2bに対する選針を行う中間選針機構12、および出側選針機構13を有する。キャリッジの走行方向が右方になれば、入側と出側とは入替わる。入側選針機構11は、編針3のセレクター7に作用して、経路7A,7H,7Bのいずれかを選択させる。経路7A,7Hが選択されると、セレクター7には、歯口側への移動ストロークが発生する。セレクトジャック6は、選択用バット6bの後端とセレクター7の先端部7bとの係合部でセレクター7から移動ストロークを受けて歯口側のポジションに移る。カムシステム2の作用を入側から受ける対象となる編針3は、経路7Aまたは経路7Hに選択されたセレクター7で、セレクトジャック6の選択用バット6bがAポジション6bAまたはHポジション6bHとなるようにそれぞれ案内される。選択用バット6bが案内されるポジションには、プレッサー群30が配置される。プレッサー群30は、入り側Aプレッサー31a、出側Aプレッサー31b、入り側Hプレッサー32a、出側Hプレッサー32b、およびBプレッサー33を含む。入側Aプレッサー31aは不作用で出側Aプレッサー31bは作用に設定されている。入側Hプレッサー32aおよび出側Hプレッサー32bは、作用と不作用との切替えが無く固定のため共に作用となる。Bプレッサー33は、入側と出側とに連続して作用となるように固定されている。
図2に関連して説明するように、入側Aプレッサー31aおよび出側Aプレッサー31bはAプレッサー31として、入側Hプレッサー32aおよび出側Hプレッサー32bはHプレッサー32として、それぞれ連携動作する。
【0022】
入側選針機構11および中間選針機構12に関して符号a,b,c、およびd,e,fを付した縦線は、
図4および
図5で説明する位置関係に対応する位相を、それぞれ示す。入側選針機構11は押圧カム15を有する。押圧カム15は、位相a付近で選択用バット6bを押圧してセレクトジャック6を半分ほど針溝に沈めるので、セレクター7の先端部7bは、半分程度沈んだ状態のセレクトジャック6の選択用バット6bの後端に係合する。中間選針機構12は、編針3のセレクター7に作用して、経路7A,7H,7Bのいずれかを選択させることは入側選針機構11と同様である。ただし、押圧カム15は設けられておらず、位相d付近ではBポジションにBプレッサー33が配置されていることを 除いて選択用バット6bを針溝に沈めるプレッサーは配置されていない。入側選針機構11でBポジションが選択されたセレクトジャック6は沈んだ状態を続け、セレクター7の先端部7bとの係合部は、選択用バット6bの後端で変わらない。入側選針機構11でHポジションまたはAポジションが選択されたセレクトジャック6は、選択用バット6bが押圧されないので浮上し、セレクター7の先端部7bとの係合部が張出部6cの後端に掛け替えられる。係合部の掛け替えで、カムシステム2の作用を受けている編針3のセレクトジャック6を、入側選針機構11での案内よりも歯口側のポジションに移るように案内することができ、特にAポジションよりも歯口側に前進位置として設ける新たなFポジション6bFに案内することもできる。出側選針機構13は、カムシステム2の作用を受けるための選針動作を行わない。選針機構10は、セレクトジャック6をBポジションに戻す戻し部16、およびセレクター7を経路7Bに戻す戻しカム17も有している。
【0023】
本実施例では、カムシステム2の入側部分2aと出側部分2bとの中間に、入側選針機構11での選択でAポジションに案内されたセレクトジャック6をHポジションに下げるセレクトジャック下げカム18を設けている。中間選針機構12は、入側部分2aと出側部分2bとの中出川間で、セレクトジャック下げカム18でセレクトジャック6がAポジションからHポジションに下げられた編針3、または入側選針機構11でHポジションまたはBポジションが選択された編針3を、出側部分2bで駆動されるように三段階で選択する。入側選針機構11によって選択されて入側部分2aによる駆動を受けた編針3に対し、中間選針機構12は、出側部分2bによる駆動を受ける編針3をさらに選択することができるので、入側と出側で選択されたポジションの組合せでのルートが増加する。中間選針機構12は、セレクター7とセレクトジャック6との係合部が入側選針機構11での係合部と掛け替えられ、編成動作の選択を追加可能にする。入側選針機構11でAポジションが選択された編針もセレクトジャック下げカム18でHポジションに下げてから中間選針機構12による選択を受けるので、入側部分2aではAポジションで、出側部分2bではHポジションとなるような組合せも可能になる。すなわち、セレクトジャック6のポジションに関し、入側選針機構11でA,H,Bが選択されると、セレクトジャック下げカム18でAはHに下げられても、H,Bはセレクトジャック下げカム18の影響を受けずにそのままH,Bを継続する。中間選針機構12では、Hに対して、H,A,Fが選択可能であり、Bに対して、B,H,Aが選択可能となる。セレクトジャック下げカム18でAからHに下げなければ、入側選針機構11でAを選択すると、中間選針機構12での選択はA、Fに限られてしまうのに対し、本実施例では、入力選針機構11でAを選択した後、セレクトジャック下げカム18でHに一旦下げられても、H,A,Fが選択可能になる。入側選針機構11と中間選針機構12とは、一回のキャリッジ走行で選択可能な編成動作の数を増やし、基本的な編成動作と他の編成動作の混在時などの、編成効率を改善することができる。
【0024】
カムシステム2は、ニードルレイジングカム20、度山カム21および天山カム22を含む。ニードルレイジングカム20と天山カム22との間には、ニードルジャック4のバット4bをニットの編成動作に対応する経路4bAが設けられる。カムシステム2は、天山カム22よりも歯口側に、スライダー5のバット5bに作用するスライダーカムも有するけれども、図示を省略する。ニードルレイジングカム20の頂部よりも低い位置を横切る経路4bH,4bBはタックまたはミスの編成動作にそれぞれ対応する。度山カム21は、傾斜した引込みカム面の後半に、カム高さが高い状態で引込み量が小さい度決めカム面21bと、カム高さが低くなって引込み量が大きい度決めカム面21aとを有し、バット4bの突出量を異ならせれば、度違い編成の動作が可能である。
【0025】
中間選針機構12は、セレクトジャック6がBポジションまたはHポジションを続けるか、BポジションからH,Aポジション、またはHポジションからA,Fポジションへ移行させるかを選択することができる。本実施例では、ニードルジャック4のバット4bに対し、入側ではニットの経路4bAとタックの経路4bH、出側では相対的に編目が細かい並目編成の経路4baと粗い粗目編成の経路4bAとを切替える。このような編成の経路の切替えは、セレクトジャック6の選択用バット6bに作用する入側Hプレッサー32aと出側Aプレッサー31bでの押圧で行われる。出側Hプレッサー32bも選択用バット6bを押圧するけれども、カムシステム2の出側部分2bとの位相関係で、動作に影響しない。したがって、入側選針機構11でHならタック、Aならニットを選択し、中間選針機構12でAなら並目、Hなら粗目となるように、編目の粗さを選択することができる。中間選針機構12は、Fポジションを選択することもできるので、Fポジションはたとえば割増やしの編成動作用に設定しておくことができる。編針3としてスライダー5の先端側のブレードでフックを開閉する複合針を用いるので、本件出願人が特許第5330249号公報で開示しているような、割増やしの編成動作を、タックの度違いおよびニットと混在させることも可能となる。カムシステム2でスライダー5のバット5bに作用する不図示のスライダーカムに、編目形成の際に、ブレードが歯口に進出している状態を保つ案内経路を設けておく。スライダーカムには、スライダー5のバット5bの前方に設ける補助バットを押圧するニットプレッサーを設けておく。このような割増やしの動作は、本実施例では入側選針機構11でAポジションを選択し、中間選針機構12でFポジションを選択することで可能となる。入側選針機構11および中間選針機構12で共にBを選択すれば、ミスとなる。また、BポジションからAポジションに上げる組合せも可能になるので、その組合せは、すでに編成されて編針に係っている編目を、出側の度山カム21で再度引き込むニット補助引きの動作が可能である。ニット補助引きによって、新たな編成動作で編糸が引かれて編目が過度に縮小することを防ぐ。
【0026】
図2は、
図1の入側選針機構11および中間選針機構12の構成を含むカムシステム2の部分的な構成を示す。
図1の入側選針機構11および中間選針機構12は、吸引アクチュエーター11a,12aおよびセレクター駆動カム11b,12bをそれぞれ含む。吸引アクチュエーター11a,12aは、位相aに対応する釈放位置α,βで、セレクター7の接極子7aを磁力で吸引する状態と、選択を受けて吸引を解除する状態とを切替え可能である。入側選針機構11のセレクター駆動カム11bは、吸引アクチュエーター11aによる吸引が解除された状態のセレクター7の駆動バット7cを、予め設定される経路7A,7H,7Bに沿って移動させ、係合部を介してセレクトジャック6を三つのポジションに移動させる。経路7Bは基底位置に対応し、経路7H,7Aは選択位置に対応する。中間選針機構12のセレクター駆動カム12bも、吸引アクチュエーター12aによる吸引が解除された状態の駆動バット7cを、経路7A,7H,7Bに沿って移動させるけれども、セレクトジャック6の移動は、係合部の掛け替えで、入側選針機構11での移動に追加するように行うことが可能である。このため、セレクトジャック6には、前述のFポジションを設けることができる。戻しカム17は、各セレクター駆動カム11b,12bの出側で、セレクター7の下げバット7dに作用して経路7Bに戻すカム面17aを有する。
【0027】
入側Aプレッサー31aと出側Aプレッサー31bとは、それぞれ不作用と作用となるように、上方向に退避して不作用となるようにスイング式で連動するAプレッサー31となる。入側Hプレッサー32aと出側Hプレッサー32bとは、共に作用で、間隔が一定の状態で走行方向と逆方項にスライドする。このようなスライドは、たとえば特開2015-206143号公報で開示されているような機構を使用する。スライドによって、BポジションやHポジションのセレクトジャック6の選択用バット6bがHポジションやAポジションに上がる通り道が確保される。通り道の確保は、入側Hプレッサー32aと出側Hプレッサー32bとの間隔を大きくすれば、スライドさせなくても可能となるけれども、大型化してしまう。なお、本実施例のタックなどの所定の編成動作で、入側Hプレッサー32aの作用が必要となる。出側Hプレッサー32bの作用は不必要となるので、選択用バット6bが通過する際に、編成動作に影響しない位置に退避させて選択用バット6bとの干渉を回避する。
【0028】
図3は、
図1の入側選針機構11に設けられ、押圧カム15による押圧の有無で二段階に切替えられる、セレクトジャック6をセレクター7で移動させるための係合部を示す。押圧カム15は、セレクトジャック6の選択用バット6bを押圧して、
図3(a)に示すように、セレクトジャック6を針溝に約半分ほど沈めるように作用する。入側選針機構11でセレクター7が経路7A,7Hに選択されると、セレクター7の先端部7bが選択用バット6bの後端を前方へ第一段階の押上げを行い、セレクトジャック6をAポジションまたはHポジションに移動させることができる。A、Hポジションのセレクトジャック6は、中間選針機構12で、
図3(b)に示すように、選択用バット6bへの押圧が無い状態でセレクター7による第二段階の押上げを受ける。セレクトジャック6は針溝内で浮上するので、セレクターの先端部7bで押上げるための係合部を、選択用バット6bの後端から張出部6cの後端に掛け替えることができる。このような切替えは、第一段階の係合では先端部7bよりも張出部6cの後端が後方になり、中間選針機構12のセレクター駆動カム12bの入側で基底状態の経路7Bにセレクター7が戻されると、先端部7bが張出部6cの後端よりも後方になるようにしておけば良い。
【0029】
なお、入側選針機構11でセレクトジャック6がBポジションに選択されていると,基底状態の経路7Bにセレクター7が戻されても、先端部7bが張出部6cよりも前方に留まり、先端部7bは選択用バット6bの後端に係合する状態を続ける。このような係合状態は、入側選針機構11と同様であり、中間選針機構12でも第一段階の係合状態で、A,H,Bの三ポジション選択することができる。セレクターとセレクトジャックとの係合部についての二段階の掛け替えは、特許文献2で実施形態1で開示されている。特許文献2では、係合部の掛け替えについて、他の例も開示されており、そのような例を本件出願の発明に適用することもできる。
【0030】
図4は、入側選針機構11に関し、
図1に示す位相a,b,cでのセレクター7の選択とセレクトジャック6との位置関係を、
図4(a,b-B)、
図4(c-H)、
図4(c-A)でそれぞれ示す。位相a、bでは、押圧カム15による選択用バット6bへの押圧の前後の違いがあるけれども、セレクトジャック6は、針床8の針溝8aに約半分程度沈められる
図3(a)の状態に違いはない。セレクター7は三段階のうちの経路7A,7Hの選択で、セレクトジャック6を
図3(a)に示すような係合部で第一段階の押上げが可能な状態となる。経路7Bが選択されていれば押上げは行われない。
図4(c-A)に示すセレクター7は、
図2に示す釈放位置αでセレクトジャック6をAポジションに設定する選択を受けている。
図4(c-H)に示すセレクター7は、セレクトジャック6をHポジションに設定する選択に対応している。
【0031】
図5は、中間選針機構12に関し、
図1に示す位相d,e,fでのセレクター7とセレクトジャック6との位置関係の一部を、
図5(d,e-H)、
図5(f-F)、
図5(f-A)でそれぞれ示す。位相d,eでは、押圧カム15による選択用バット6bへの押圧が無く、入側選針機構11でHポジションまたはAポジションが選択されたセレクトジャック6は針床8の針溝8aに沈められず、セレクター7は三段階のうちの経路7A,7Hの選択で、セレクトジャック6を
図3(b)に示すような第二段階の係合部で押上げることが可能となる。経路7Bが選択されていれば押上げは行われない。
図5(d.e-H)に示すセレクター7は基底状態であり、セレクトジャック6はHポジションである。セレクター7の接極子7aが釈放位置αで吸引アクチュエーター12aから釈放されるように選択すると、位相fでFポジションまで案内することができる。なお、釈放位置βでのセレクター7の選択は、セレクトジャック6をAポジションまで案内する。セレクター7は三段階のうちの経路7A,7Hの選択で、入側選針機構11でBポジションが選択されたセレクトジャック6を、HポジションまたはAポジションに案内することもできる。この際の選択用バット6bの通り道は、出側Hプレッサー32bの退避で確保されるので、針床の長手方向へのカムシステム2の大型化を避けることができる。
【0032】
本実施例では、入側選針機構11および中間選針機構12に磁力を利用する吸引アクチュエーター11a,12aを用いているけれども、特許文献1のような選針機構を用いることができる。吸引アクチュエーター11a,12aを用いれば、左右方向の大型化を避けるとができ、中間選針機構12を既存のカムシステム2の中間に設けることもできる。また編針3として複合針を用いているけれども、べら針を用いることもできる。本件出願人は、べら針を用いる割増やしを、たとえば特許第5913427号公報で開示しているので、そのような動作を、中間選針機構12で選択可能なように追加すれば良い。さらに本発明は、選針の対象として、セレクター7とセレクトジャック6の組合せ以外のものも適用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 横編機
2 カムシステム
3 編針
4 ニードルジャック
4b,5b バット
5 スライダー
6 セレクトジャック
6b 選択用バット
6c 張出部
7 セレクター
7a 接極子
7b 先端部
8 針床
8a 針溝
10 選針機構
11 入側選針機構
11a,12a 吸引アクチュエーター
11b,12b セレクター駆動カム
15 押圧カム
18 セレクトジャック下げカム
21 度山カム
30 プレッサー群
31 Aプレッサ-
32 Hプレッサー
33 Bプレッサー