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特許7570408光ファイバ分布計測システムおよび光ファイバ分布計測の信号処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】光ファイバ分布計測システムおよび光ファイバ分布計測の信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/353 20060101AFI20241011BHJP
【FI】
G01D5/353 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022516414
(86)(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-16
(86)【国際出願番号】 MY2020050083
(87)【国際公開番号】W WO2021049928
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】PI2019005316
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】MY
(73)【特許権者】
【識別番号】522062092
【氏名又は名称】ペトロリアム・ナショナル・ブルバド・(ペトロナス)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】岸田 欣増
(72)【発明者】
【氏名】アマド・リザ・ガザーリー
(72)【発明者】
【氏名】モハマド・ファイザル・ビン・アブド・ラヒム
【審査官】藤澤 和浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/061718(WO,A1)
【文献】特開2013-79906(JP,A)
【文献】国際公開第2018/093368(WO,A1)
【文献】特開2009-42005(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117044(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/26- 5/38
G01N 29/00-29/52
G01H 1/00-17/00
G01M 11/00-11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レイリー散乱光の周波数シフトを解析して温度-ひずみ分布計測信号を得るための第1のレーザーと、
レイリー散乱光の位相シフトを解析して弾性波計測信号を得るための第2のレーザーと、
レーザー光を分岐、あるいは結合させる第1から第4の光カプラと、
光信号の強度を変調する強度変調器、および光信号の位相を変調する位相変調器が直列的に接続されて内蔵されたパルス圧縮符号化回路と、
パルス光を発生させる音響光学スイッチと、
光信号を分離するためのサーキューレータと、
レーザー光の入射により後方散乱光を発生するキャリブレーション用光ファイバと、
光信号を合成してノイズを除去するダイバーシティ装置と、
入力信号を離散的な信号に変換するデジタイザと、
プロセッサ、記憶装置を有して信号を演算し記憶するCPUと、
を備え、
前記第1のレーザーの出射光は、第1の光カプラにより、前記パルス圧縮符号化回路と第3の光カプラに分岐されて入力され、
前記第2のレーザーの出射光は、第2の光カプラにより、前記音響光学スイッチと前記第3の光カプラに分岐されて入力され、
前記第3の光カプラに入力された、前記第1のレーザーの出射光と、前記第2のレーザーの出射光とが、前記ダイバーシティ装置に入力されるとともに、
前記パルス圧縮符号化回路の出力信号と前記音響光学スイッチの出力信号とは、前記第4の光カプラで結合され、この結合された出力信号が前記キャリブレーション用光ファイバに入力されることにより発生する、第1の後方散乱光と、第2の後方散乱光とが、前記サーキューレータを介して前記ダイバーシティ装置に入力され、
当該ダイバーシティ装置で信号処理された前記第1の後方散乱光、前記第2の後方散乱光、前記第1のレーザーの出射光、および前記第2のレーザーの出射光は、前記デジタイザを介して前記CPUに伝送され、演算処理されることを特徴とする光ファイバ分布計測システム。
【請求項2】
前記第1のレーザーは分布帰還型レーザーであり、前記第2のレーザーは外部共振型レーザーであって、前記CPUは、前記デジタイザから伝送された離散的な信号を演算することにより、前記温度-ひずみ分布計測信号として得た、解析されたレイリー周波数シフト信号を、位相誤差に換算するとともに、前記位相誤差によって、前記弾性波計測信号として得た、解析された位相信号を補正することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ分布計測システム。
【請求項3】
前記弾性波計測信号は、温度-ひずみ分布計測の計測レートよりも長い一定の時間間隔ごとに、前記位相誤差により補正されることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ分布計測システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の光ファイバ分布計測システムを用いて、
前記第1のレーザーからの出射光と、前記第2のレーザーからの出射光とを、直接、前記ダイバーシティ装置に入力するとともに、
前記第1のレーザーから出射され、前記パルス圧縮符号化回路で強度変調、位相変調して符号化処理された信号と、前記第2のレーザーから出射され、前記音響光学スイッチを通過させた信号とを、前記キャリブレーション用光ファイバに入射させ、この入射させた 信号の後方散乱光の信号を前記ダイバーシティ装置に入力して、
前記ダイバーシティ装置で偏波処理及び位相処理し、
偏波処理及び位相処理した後の複数の信号を、前記デジタイザで信号ごとに離散化処理して、前記CPUに伝送し、
前記CPUにより、離散化処理された各信号を演算し、
前記CPUで信号ごとに演算して得た演算結果から、レイリー散乱光の位相シフトを位相解析して弾性波計測信号を得るとともに、レイリー散乱光の周波数シフトを相関解析して温度-ひずみ分布計測信号を得て、当該温度-ひずみ分布計測信号を基に、前記弾性波計測信号を補正することを特徴とする光ファイバ分布計測の信号処理方法。
【請求項5】
請求項2または請求項3に記載の光ファイバ分布計測システムを用いて、
1ミリ秒以下の測定時間で計測されたレイリー散乱光の位相シフトを解析して得られた弾性波計測信号と、波長可変コヒーレント時間領域光反射計測方式により30秒以上の測定時間で計測されたレイリー散乱光の周波数シフトを解析して得られた温度-ひずみ分布計測信号の2種類の信号を用い、前記温度-ひずみ分布計測信号から前記位相誤差を演算して求め、当該位相誤差により前記弾性波計測信号を補正することを特徴とする光ファイバ分布計測の信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、光ファイバ分布計測システムおよび光ファイバ分布計測の信号処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
分布型光ファイバセンシング(DFOS:Distributed Fiber Optic Sensing)は、様々な応用、特に、油井中での応用が注目されている。この応用例のうち、瞬間的な変化は、音波(Acoustic Vibration)としてDAS(Distributed Acoustic Sensing。以降、弾性波計測とも呼ぶ)で計測することは有効である。また、緩やかに変化する温度、あるいは歪は、TW-COTDR(Tunable Wavelength Coherent Optical Time Domain Reflectometry。以降、波長可変COTDR、あるいは波長可変コヒーレント時間領域光反射計測とも呼ぶ)方式のDTSS(Distributed Temperature and Strain Sensing。以降、温度-ひずみ分布計測とも呼ぶ)により、実用化されている。
【0003】
一方、ユーザ側からは、数日間から数年間にわたる長期のものの計測での使用と、瞬間的な操業変化における計測での使用の両方からの求めがあるという情況にある。
また、計測器の仕様を決める立場からは、特に、DASの計測対象であるレイリー散乱光についての位相変化の誤差を補正する情報が必要とされている。
【0004】
DAS技術においては、シングルパルス、多波長、あるいはチャープ光源によるTGD(Time Gate Digital)方式が提案され、実績が積まれている。
一方、DTSS技術については、ブリルアン散乱光を利用するタイプとレイリー散乱光を利用するタイプが、それぞれ、商用化されている(例えば、非特許文献1参照)。また、TW-COTDR方式では、光ファイバの広域周波数スペクトラムが利用され、数年間の安定性がある(例えば、非特許文献2参照)。そして、10kmの距離においては、1秒間に2万回の計測が実現されている。
ただし、上記のそれぞれの技術は、単独の計測器として商用化されており、それぞれの応用に展開されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Luca Palmieri, ”Distributed polarimetric measurements for optical fiber sensing”, Optical Fiber Technology 19, December 2013,pp.720-728.
【文献】Andrea Galtarossa et al., “Distributed polarization sensing”, Proc. SPIE 10323, 25th International Conference on Optical Fiber Sensors, 1032318, 23 April 2017.
【文献】佐藤 亨、「レーダーにおける距離計測とパルス圧縮技術」、 京都大学大学院 情報学研究科 通信情報システム専攻、集積システム工学講座 超高速信号処理分野、ディジタル信号処理講義資料。
【0006】
ここで、上記のDASとDTSSのそれぞれの技術の特徴を、図1に詳しく示す。この図からわかるように、DTSSでは、レイリー散乱周波数シフトが計測される光学物理量であるのに対して、DASでは、レイリー散乱位相シフトが計測される光学物理量である。この方式の違いにより、前者の測定方法は後者の測定方法に比較して、空間分解能が低く、長時間の測定時間を要するといった性能上の違いがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、上記のDASとDTSSのそれぞれの技術の課題について、以下、具体的に説明する。DTSSにおいては、10km距離範囲の計測には、数秒間を要する。従って、振動、あるいは地震波の探知には対応できない。
また、DASにおいては、上記のように、計測する物理量はレイリー散乱位相シフトであることから、位相を計測する必要があるが、線幅に起因するレーザーダイオード(Laser Diode、以下LDと略記する)自身のもつ位相ノイズ、光ファイバが現場に設置された際に影響を受ける温度変化、あるいは歪変化により、レイリー散乱光の位相シフトが発生するという問題がある。
【0008】
上記の課題について、図2図3を用いてさらに詳しく説明する。図2はDAS計測の位相変化を説明するための図である。また、図3はDASを用いた場合の課題を、この位相変化の成分分析により3つの場合に場合分けして示した図である。
【0009】
図2は、DAS計測により計測された信号の位相変化を説明するためのモデル図である。この図に上側に示したグラフ(縦軸には信号出力を、横軸には経過時間を示す)には、計測された位相変化の曲線A、この曲線Aのうち、長周期の変化部分だけを抽出した曲線Bが示されている。
また、下側に示したグラフ(縦軸、横軸は上側に示したグラフの縦軸、横軸のスケールをそれぞれ拡大して示した)には、上記曲線Aの短周期の変化部分だけに注目するため、上側に示したグラフのうち、点線の丸印部分であるP部分(の左端時間)からQ部分(の右端時間)の時間帯だけに限定して、上記の曲線Aの各時間に対応した値から上記曲線Bの各時間に対応した値を差し引いた場合の特性を示す曲線C、すなわち、位相変化の高速変化部が、特に明示的に示されている。
この下側に示したグラフにおいて、時間帯Sは、上側に示したグラフのP部分の左端時間から右端時間の時間帯を拡大したものであり、下側に示したグラフの時間帯Tは、上側に示したグラフのQ部分の左端時間から右端時間の間の時間帯を拡大したものである。
【0010】
ここで、上記曲線Bは、DAS計測信号のうち、数10秒から数年間の間などにおける、緩やかな変化を示している部分であり、温度変化の影響などによるものと考えられる。
一方、曲線Cは、DAS計測信号のうち、10-5から1秒の間の高速変化を示している部分であり、音波信号にLD位相ノイズが加算されたものと考えられる。
【0011】
次に、上記図2をもとに、図3を用いて、DAS計測での課題を具体的に説明する。第1の課題は、LDの位相ノイズであり、この課題はDASの計測器の内部処理で解決すべき問題である。第2の課題は、振動などにより発生する光ファイバ各点での歪などによる短周期の位相変化の問題である。この問題への対応については、この問題が、元々DAS計測が優先的に使われる理由でもあり、DAS計測により解決可能なものである。第3の課題は、温度等の、緩やかな変化により発生する長周期の位相変化の問題であり、計測の長期化によりDAS計測性能が仕様を満たさなくなるため、除去する必要があるものである。
【0012】
本願は、上記のような課題を解決するための技術を開示するものであり、DASとTW-COTDR方式のDTSSとを組み合わせて構成し、DTSSで測定したレイリー周波数シフトを用いて、TW-COTDR方式の計測レートより長い一定の間隔でDASの位相値を補正することにより、DAS測定レートより長周期で変化するレイリー散乱光シフトによる誤差を補正して、長期的なDASの計測安定性を実現した光ファイバ分布計測システム、および光ファイバ分布計測の信号処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願に開示される光ファイバ分布計測システムは、
レイリー散乱光の周波数シフトを解析して温度-ひずみ分布計測信号を得るための第1のレーザーと、
レイリー散乱光の位相シフトを解析して弾性波計測信号を得るための第2のレーザーと、
レーザー光を分岐、あるいは結合させる第1から第4の光カプラと、
光信号の強度を変調する強度変調器、および光信号の位相を変調する位相変調器が直列的に接続されて内蔵されたパルス圧縮符号化回路と、
パルス光を発生させる音響光学スイッチと、
光信号を分離するためのサーキューレータと、
レーザー光の入射により後方散乱光を発生するキャリブレーション用光ファイバと、
光信号を合成してノイズを除去するダイバーシティ装置と、
入力信号を離散的な信号に変換するデジタイザと、
プロセッサ、記憶装置を有して信号を演算し記憶するCPUと、
を備え、
前記第1のレーザーの出射光は、第1の光カプラにより、前記パルス圧縮符号化回路と第3の光カプラに分岐されて入力され、
前記第2のレーザーの出射光は、第2の光カプラにより、前記音響光学スイッチと前記第3の光カプラに分岐されて入力され、
前記第3の光カプラに入力された、前記第1のレーザーの出射光と、前記第2のレーザーの出射光とが、前記ダイバーシティ装置に入力されるとともに、
前記パルス圧縮符号化回路の出力信号と前記音響光学スイッチの出力信号とは、前記第4の光カプラで結合され、この結合された出力信号が前記キャリブレーション用光ファイバに入力されることにより発生する、第1の後方散乱光と、第2の後方散乱光とが、前記サーキューレータを介して前記ダイバーシティ装置に入力され、
当該ダイバーシティ装置で信号処理された前記第1の後方散乱光、前記第2の後方散乱光、前記第1のレーザーの出射光、および前記第2のレーザーの出射光は、前記デジタイザを介して前記CPUに伝送され、演算処理されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本願に開示される光ファイバ分布計測システムによれば、
DASとTW-COTDR方式のDTSSとを組み合わせて構成し、DTSSで測定したレイリー周波数シフトを用いて、TW-COTDR方式の計測レートより長い一定の間隔でDASの位相値を補正することにより、DAS測定レートより長周期で変化するレイリー散乱光シフトによる誤差を補正して、長期的なDASの計測安定性を実現した光ファイバ分布計測システムおよび光ファイバ分布計測の信号処理方法を提供できるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】一般的なDTSSおよびDASの特徴を比較して示した表図である。
図2】DASの位相変化の一例を示す図である。
図3】DAS技術の課題を位相変化の成分分析により区分して示した説明図である。
図4】実施の形態1による光ファイバ分布計測システムのシステム構成の一例を示す図である。
図5】実施の形態1による光ファイバ分布計測システムのDAS信号の補正方法を説明するための図である。
図6】実施の形態1による光ファイバ分布計測システムのシステム上のLD波長設定を説明するための図である。
図7】DTSSの位相補正の原理を説明するための図である。
図8】実施の形態1による光ファイバ分布計測システムにおける信号処理方法の一例を示す図である。
図9】実施の形態1による光ファイバ分布計測システムの出力された信号の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1.
以下、図を用いて、本願の実施の形態1の光ファイバ分布計測システムの一例について説明する。
【0017】
図4は、実施の形態1による光ファイバ分布計測システム100のシステム構成の一例を示す図である。TW-COTDR方式の波長可変分布帰還型LD1(以降、第1のレーザーとも呼ぶ)から出射されたレーザー光は、光の分岐あるいは合流用の光学機器である第1のカプラ3aを経由して、強度変調器4a、および位相変調器4bを含むパルス圧縮符号化回路4で符号化処理された後、第3のカプラ3cに入力される。この場合、パルス圧縮符号化回路4では、レーザー光は、まず、強度変調器4aに入力され、この強度変調器4aにおいて、その強度が変調された後、この強度変調器4aから出力される。その後、この強度変調器4aから出力された信号は、位相変調器4bに入力され、この入力された信号は、この位相変調器4bで位相変調された後、出力される。すなわち、パルス圧縮符号化回路4で符号化処理されて出力される。この出力信号は、その後、第4のカプラ3dに入力される。
【0018】
ここで、波長可変分布帰還型LD1は全帯域で波長可変(1553.5~1561.5nm)の光源で、その波長範囲は数十nm、線幅は1MHzである。
また、パルス圧縮符号化回路4での符号化処理においては、距離分解能とS/N比を両立できるBarker Codeを用いている。すなわち、パルス幅Pwのパルスをn分割されたサブパルス(サブパルス幅:SPw=Pw/n)とし、各サブパルスの位相をランダムバイナリ符号列で変調して送信する。
【0019】
一方、DASの光源である外部共振器型レーザー2(以降、第2のレーザーとも呼ぶ)は、波長(1550.2nm)固定で、その線幅は2KHz未満である。そして、この外部共振器型レーザー2から出射されたレーザー光は、第2のカプラ3bを経て、高強度のパルス光を発生させる音響光学スイッチ5に入力され、その後、第3のカプラ3cに入力された後、優れた信号を優先的に用いたり、受信した信号を合成してノイズを除去したりすることによって信号の質、あるいは信頼性の向上を図る機器である、ダイバーシティ装置8に入力される。このダイバーシティ装置8では、偏波と位相の信号の質の向上、あるいは信頼性の向上が図られる。
なお、上記TW-COTDR方式の光源である波長可変分布帰還型LD1、およびDASの光源である外部共振器型レーザー2のいずれも4チャンネル分の信号が必要となる。
【0020】
上記パルス圧縮符号化回路4からの出力であるパルス圧縮符号化された信号は、上記音響光学スイッチ5から出力された信号とともに、第4のカプラ3dを経て、光ファイバ増幅器の1種であるEDFA(Erbium Doped Fiber Amplifier。エルビウム添加光ファイバ増幅器)6に入力され、このEDFA6から出力された後、反対方向に進む2つ以上の信号を分離するためのサーキューレータ7を経て、上述のダイバーシティ装置8に入力される。なお、このサーキューレータ7の一出力端にはキャリブレーション用光ファイバ14が接続されている。
【0021】
ダイバーシティ装置8で質の向上がなされた、ダイバーシティ装置からの4チャンネル(以降4CHと略記)分の出力信号(2種類の偏波信号×2種類の位相信号)は、それぞれ、別々に、4個のバランス型フォトダイオード9(バランス型フォトダイオード(Balanced Photo Diode)は以下BPDと略記する)に入力された後、受信帯域が500MHzより大きな4個のアンプ10(ここで、「アンプ」は「Amp.」に同じ意味)に別々に入力されて増幅された後、4CHのデジタイザ11に入力される(なお、原理的には、この4個のアンプは無くても良い)。なお、この4CHのデジタイザ11は、コントローラであるCPU12と共通のインターフェイスであるI/Oシリアルインターフェイス、拡張バスの1種であるPCI-Express13に接続されている。
【0022】
図5は、実施の形態1による光ファイバ分布計測システムの信号処理の流れを説明するための図である。
この図において、点線から左側の領域は、図4に示した光ファイバ分布計測システム構成要素の信号出力の最終段に配置された4CHのデジタイザ11の信号出力である4CH(CH1~CH4)分のデジタイザ信号の、ハードウェアによる取得を示している。
【0023】
一方、図5において、点線から右側の領域は、図4でCPU12として示したパソコン(PC)によるデータ処理の詳細内容を示したものである。また、この点線から右側の領域のうち、上側のラインは長時間の変化、すなわち、物理現象の緩やかな変化を解析するためのラインを示しており、下側のラインは短時間での物理現象を解析するためのラインを示している。
【0024】
具体的には、上側のラインは、上記説明した4CH分のデジタイザ信号20のうち、100MHzデジタイルLPF21(LPFはLow Pass Filterの略)により、レイリー散乱光(周波数)シフト成分のうち、低周波成分だけをTW-COTDRによって処理し、その周波数シフト成分変化Δνrの相関解析23を長期間(30秒~数分間)にわたり行うことで、DTSS出力を得る。なお、この相関解析23の期間は必要な場合には、数年間にわたって行なうことも可能である。
【0025】
ここで、相関解析を行う理由について以下説明する。上記パルス圧縮符号化回路4での符号化処理においては、パルス幅Pwのパルスをn分割されたサブパルス(サブパルス幅:SPw=Pw/n)とし、各サブパルスの位相をランダムバイナリ符号列(厳密には、このようなバイナリ符号列のうち、以下に説明する自己相関関数のサイドローブの大きさが最小となるBarker符号を用いている)で変調して送信する。
この場合において、理論上では、この送信信号と目標で反射された反射信号との相互相関関数を求めることにより、そのピーク時間位置、すなわち、時間遅れを求めることができる。これにより、サブパルスに分割しない場合よりも短い遅延時間を求めることができ、距離分解能が向上する効果がある。
【0026】
実際の装置では、上記相互相関関数を計算するのではなく、送信信号の自己相関関数の計算で同様の結果を求めることができる。つまり、上記相互相関関数では、ランダムなバイナリ符号列で変調した送信信号f(t)(ここでtは時間)と目標で反射された反射信号とを用いた。この反射信号g(t)(ここでtは時間)は、送信信号が目標で反射して戻ってくるまでの減衰係数をAとし、遅延時間をdとして、上記の送信信号f(t)を用いて、g(t)=A×f(t-d)と表される。従って、送信信号f(t)と反射信号g(t)との相互相関関数は、送信信号の自己相関関数(例えば、前回の信号と今回の信号との自己相関)を計算することで求めることができる。
この自己相関関数のピーク値は、元のパルス信号の振幅の約n倍となり、S/N比のSが大きくなるとともに、ピークの幅が元のパルス幅の1/nになる。すなわち、距離分解能とS/N比の両方を向上させることができる効果がある。
【0027】
ただし、上記のようなランダムなバイナリ符号列で変調した送信信号を用いて自己相関関数を求めた場合には、自己相関関数のピーク値が大きくなる反面、ピーク値以外のサイドローブが発生する欠点がある。この欠点を補うため、上記符号化には、自己相関関数のサイドローブが最小になるBarker符号を用いている(以上の説明については、非特許文献3などを参照)。
【0028】
一方、下側のラインは、4CH分のデジタイザ信号20のうち、300MHzデジタイルBPF22(BPFはBand Pass Filterの略。バンド幅は100MHz)により抽出した信号を用いて、レイリー散乱光(位相)シフト成分をDASにより、短期間(0.5msec程度)で処理可能な位相解析24により位相解析してDAS出力信号として求める。
【0029】
そこで、次に、図5の下側のライン中に示したように、上記で求めたDTSS信号を上記のDAS出力信号に加える演算を行う。ここで、このようなDAS信号とDTSS信号とを組み合わせた演算を行える前提として、互いに補完できる信号同士の演算であることが必要である。すなわち、同じ光ファイバからの同じ位相を持つ信号である光信号を同じ受信条件で受信して処理できることが条件であり、図4図5に示した装置、あるいはデータプロセスにおいては、これらの条件が満足されている。
【0030】
具体的には、DTSSで測定したレイリー周波数により、一定の間隔でDAS出力信号の位相値を補正することにより、光ファイバ中の(測定位置の変化による)温度変化によるシフト量を補正する。これにより、DASの高品質の出力を得ることができる。また、DTSSでは、数年間という長期間の処理が可能であることから、長期的なDASの計測安定性も実現できる。
【0031】
なお、図6は、以上で説明したDAS計測とDTSS計測における、システム上で設定した光出力の波長と、受信系の周波数との関係を明示した説明図である。
この図に示すように、DASにおける光出力の波長は1550.2nmに固定されており、一方、DTSSにおける光出力の波長は可変であり、1554.5nmと1561.5nmがその掃引範囲となっている。
また、受信系の周波数は、DTSSでは、デジタイルLPFを用いており、そのカットオフ周波数が100MHzであり、DASでは、デジタイルBPFを用いており、そのバンド幅の周波数が300MHzを中心周波数として±100MHzである。
【0032】
次に、図7を用いて、分布式位相補正方法について説明する。図7の上側部分には、TW-COTDR方式を用いた計測の概要を示している。この図に示したTW-COTDR方式による計測タイミングであるレートTは約30~60秒である。このTレートでの計測により、温度などの外部環境変化による変化量ΔTを求め、これを位相に換算して、図7の下側部分に示した計測されたDAS計測信号に加えて、元の計測されたDAS信号を補正する。この場合におけるDASの計測タイミングであるDASレートTは、補正のタイミングである時間間隔Tc(>T)内において、およそ0.5msecである。すなわち、DTSS信号により、DAS信号を補正する時間間隔Tcは、TW-COTDR方式によるレートTよりも大きく設定される。なお、補正は光ファイバ全体に対して行われる。
【0033】
図7示した計測方法を、長期間の計測の場合に適用する場合においては、図8に示すような構成とする。図8は、実施の形態1による光ファイバ分布計測システムを、長期間の計測の場合に適用する場合における、信号処理モデルの構成の一例を示す図である。
図において、DAS計測パルスは、図7で示したDASレートTに対応するものであり、2KHz以上の速度で繰り返し実施される。計測された信号は位相信号として出力される。一方、TW-COTDR方式を用いて計測時間A(Aは30~60秒程度)で相関解析されたDTSS信号が出力される。このTW-COTDR方式を用いた計測は、n回目の計測後、計測時間間隔B内に全m回計測され、このm回の計測ごとに、出力されたDTSS信号のレイリー周波数シフト信号Δνが位相量Δφに換算されて、DAS計測信号に加えられ、このDAS計測信号が補正される。この位相補正は、必要な補正期間にわたって、同様に続行され、必要な期間における温度補正等が行われた信号が得られることになる。ここで、上記計測時間間隔Bは、例えば1時間程度である。
【0034】
図9図9(a)、図9(b))は、実施の形態1による光ファイバ分布計測システムの出力された信号の一例を示す図である。図9(a)、図9(b)は、共に、横軸が任意スケールの時間、縦軸が任意スケールのDAS出力を示しており、両者の縦軸と横軸のスケールはいずれも同一である。また、図9(a)はDTSS信号による位相補正をしなかった場合のDAS出力結果であり、図9(b)はDTSS信号による位相補正をした場合のDAS出力結果である。
【0035】
図9(a)に示した出力結果と図9(b)に示した出力結果とを比較すると、位相補正をした場合の方が、明らかに、特定の決められた時間における信号の振幅が小さく、また時間の変化に対する信号の値(所定時間における信号の平均値)の変化も少ないこと、つまり、温度変化などの時間的に緩やかに変動する要因によるシフトが生じている場合でも、DTSS信号による位相補正をすれば、所定の時間における信号の振幅が少なくなるとともに、時間的に緩やかに変動する要因によるDAS出力の変動も抑えることができることが判る。このことから、DTSS信号による位相補正をすれば、DAS出力の緩やかに変化するシフト量が補正され、長期的なDASの計測安定性が実現できることが判った。
【0036】
本願は、例示的な実施の形態が記載されているが、実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。
従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0037】
1 波長可変分布帰還型LD
2 外部共振器型レーザー
3a 第1のカプラ
3b 第2のカプラ
3c 第3のカプラ
3d 第4のカプラ
4 パルス圧縮符号化回路
4a 強度変調器
4b 位相変調器
5 音響光学スイッチ
6 EDFA
7 サーキューレータ
8 ダイバーシティ装置
9 バランス型フォトダイオード
10 アンプ
11 デジタイザ
12 CPU
13 PCI-Express
14 キャリブレーション用光ファイバ
20 デジタイザ信号
21 100MHzデジタイルLPF
22 300MHzデジタイルBPF
23 相関解析
24 位相解析
100 光ファイバ分布計測システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9