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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】ADA応答特定アッセイ
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20241011BHJP
   C07K 16/42 20060101ALN20241011BHJP
【FI】
G01N33/53 N
C07K16/42
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022540826
(86)(22)【出願日】2020-12-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-08
(86)【国際出願番号】 EP2020087968
(87)【国際公開番号】W WO2021136773
(87)【国際公開日】2021-07-08
【審査請求日】2023-12-27
(31)【優先権主張番号】20150136.8
(32)【優先日】2020-01-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ベックマン ローランド
(72)【発明者】
【氏名】メスナー エッケハルト
(72)【発明者】
【氏名】ストゥベンラウフ カイ-グンナー
【審査官】中村 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-502091(JP,A)
【文献】国際公開第2018/178307(WO,A1)
【文献】Kay STUBENRAUCH et al.,Evaluation of a biosensor immunoassay for simultaneous characterization of isotype and binding region of human anti-tocilizumab antibodies with control by surrogate standards,Analytical Biochemistry,2009年07月,Vol. 390,No. 2,p.189-196,DOI: 10.1016/j.ab.2009.04.021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
C07K 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療標的に特異的に結合する治療抗体に特異的に結合する抗薬物抗体のエピトープを決定するための方法であって、以下:
a)前記抗薬物抗体を含むサンプルのアリコートを、
i)前記治療抗体の少なくともFab断片、及び
ii)前記治療標的に対するパラトープのすべてのHVRが生殖系列HVR又は非結合性HVRで置換されている前記治療抗体の少なくともFab断片
と、別個にインキュベートする工程、及び
i)~ii)のいずれかにおいて、前記少なくともFab断片に対する、前記抗薬物抗体の結合又は非結合を検出する工程、
並びに、
b)前記抗薬物抗体の前記エピトープが、
- i)において結合が検出され、
かつ
ii)において非結合が検出される場合に、前記治療標的に対する前記パラトープ内にあると決定する工程
を含む、方法。
【請求項2】
前記非結合性HVR又は前記生殖系列HVRが、前記治療抗体のフレームワーク領域と同じ生殖系列から得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記治療抗体が単一特異性Fab又は二重特異性Fabである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記パラトープがVH/VL対によって形成される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
- 前記治療抗体が二重特異性Fabであり、第1のパラトープがHVR H-1、H-3及びL-2によって形成され、第2のパラトープがHVR H-2、L-1及びL-3によって形成され、
- 工程a)において、工程ii)が、
HVR H-1、H-3及びL-2が非結合性HVRで置換されている前記治療抗体
であり、
- 工程a)が、
vi)HVR H-2、L-1及びL-3が非結合性HVRで置換されている前記治療抗体
をさらに含み、
- 工程b)が、
前記抗薬物抗体の前記エピトープが、
- i)及びvi)において結合が検出され、
かつ
ii)において非結合が検出される場合に、前記二重特異性Fabの前記第1のパラトープ内にあると決定する工程であり、
- i)及びii)において結合が検出され、
かつ
vi)において非結合が検出される場合に、前記二重特異性Fabの前記第2のパラトープ内にあると決定する工程であり、
- i)及びvi)において結合が検出され、
かつ
ii)において非結合が検出される場合に、前記第1のパラトープのHVRフレームワーク領域ジャンクション内にあると決定する工程であり、
- i)及びii)において結合が検出され、
かつ
vi)において非結合が検出される場合に、前記第2のパラトープのHVRフレームワーク領域ジャンクション内にあると決定する工程である
請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療抗体(薬物)に対する抗薬物応答の決定及び定量化のためのアッセイの分野にある。本明細書において報告されるアッセイでは、サンプル、特に血漿サンプル中の、抗薬物抗体(ADA)の空間結合領域を決定することが可能である。
【背景技術】
【0002】
背景
今日開発中の多くの生物治療薬は、いくつかの機能的で複雑な作用機構を可能にするように設計されている。これは、複数の機能的ドメインの組込み及び/又は特定のアミノ酸配列の操作によって達成することができる。
【0003】
それにもかかわらず、すべての治療用タンパク質は、レシピエント動物(前臨床)又はヒト(臨床)生物において抗薬物抗体(ADA)を誘導する可能性を有する。臨床的に関連するADAは、生物学的治療薬の有効性及び/又は安全性に影響を及ぼし得る。免疫原性評価戦略は、ADAの結合及び中和を評価し、リスクに基づく手法を用いてさらなる特徴付け(例えば、エピトープ、力価など)の必要性を決定する。
【0004】
ADAの特徴付けは、所与の治療薬のリスク・プロファイルの解釈に影響を及ぼす可能性があり、リスク軽減及び管理の機会への洞察を提供する。
【0005】
これは、処置が数ヶ月又はさらには数年にわたって適用されることが意図されているので、例えばAMD及びDMEなどの慢性疾患の処置に特に関連する。免疫応答が起こる場合、応答が分子のどの領域又はドメインに対して向けられるかを理解することが重要である。このようにして、例えば再操作され得る分子の操作された部分(例えば、潜在的なT細胞エピトープを除去する)が免疫原性であるかどうか、又は免疫原性応答が生物治療薬の抗原結合部分(HVR)に対して向けられる場合、分子の本質的な固有の特性であるかどうかにかかわらず、情報が収集される。次いで、適切なリスク軽減戦略を開発することができる。
【0006】
免疫原性応答又は抗薬物抗体(ADA)特性評価のための確立された方法は、古典的なドメイン競合及びドメイン検出アッセイである(DCA、DDA;例えば、Hoofring,S.A.,et al.,Bioanal.5(2013)1041-1055(非特許文献1);Gorovits,B.,et al.,J.Immunol.Meth.408(2014)1-12(非特許文献2);Stubenrauch,K.,et al.,J.Pharm.Biomed.Anal.114(2015)296-304(非特許文献3)を参照)。ここで、薬物候補は、ドメイン特異的ADAアッセイの開発を可能にするために、単一ドメインに切断されるか、又は特異的なサブ断片が組換え発現される。これらの広く使用されている手法は、IgG又はIgG様モダリティ及び融合タンパク質などの大きなタンパク質分子にとって特に価値がある。より小さな生物治療薬、例えば一本鎖Fv断片(scFv)、Fab断片又は二重特異性Fabなどの場合、上記の手法には限界がある。なぜならば、これらの分子はサブドメインに容易に切断することができないことが多く、又はこれらのサブドメインは安定性に不利があるからである。したがって、代替的な、より一般的に適用可能な手法が必要である。
【0007】
競合/阻害に基づくADA検出方法の欠点は、特に混合親和性及び混合パラトープADA応答の観点からHoofringら(Bioanal.5(2013)1041-1055)(非特許文献1)によって報告されている及びStubenrauchら(J.Pharm.Biomed.Anal.10(2015)296-304)(非特許文献3)によって報告されている。
【0008】
国際公開第2018/178307号(特許文献1)は、中和抗薬物抗体を非中和抗薬物抗体と区別することができる改善された免疫原性アッセイを報告した。より詳細には、免疫グロブリン一本鎖可変ドメイン(ISV)に基づく薬物のヌル・バリアントの十分な量、好ましくは過剰量の存在下で行われるアッセイ/方法が報告されており、その結果、非中和ADAのほとんど及び好ましくはすべて、特に、ISVに基づく薬物中に存在するISV(複数可)のフレームワーク配列に結合するADAが、ISVに基づく薬物ではなくアッセイ反応混合物中のヌル・バリアントに結合し、その結果、本質的に、ISVに基づく薬物に対する中和ADAのみが検出又は測定される(サンプルが、ISVに基づく薬物に対する非中和ADAも含有する場合であっても)。ヌル・バリアントでは、個々の残基のみが変更されているが、完全なCDR配列は変更されていない。
【0009】
Stubenrauchらは、標的化免疫サイトカインに対するADA応答のエピトープ特性評価について報告した(J.Pharmaceut.Biochem.Anal.114(2015)296-304(非特許文献3)。
【0010】
Stubenrauchらは、代用標準による対照とのヒト抗トシリズマブ抗体のアイソタイプ及び結合領域の同時特性評価のためのバイオセンサーイムノアッセイの評価について報告した(Anal.Biochem.390(2009)189-196(非特許文献4))。
【0011】
Zhuらは、ワンステップクローニングによる大きなナイーブヒトファージディスプレイFabライブラリーの構築について報告した(Methods.Mol.Biol.1045(2009)129-142(非特許文献5))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】国際公開第2018/178307号
【非特許文献】
【0013】
【文献】Hoofring,S.A.,et al.,Bioanal.5(2013)1041-1055
【文献】Gorovits,B.,et al.,J.Immunol.Meth.408(2014)1-12
【文献】Stubenrauch,K.,et al.,J.Pharm.Biomed.Anal.114(2015)296-304
【文献】Anal.Biochem.390(2009)189-196
【文献】Methods.Mol.Biol.1045(2009)129-142
【発明の概要】
【0014】
広範囲の適応症に合わせた特性及び機能性を提供する多くの生物製剤が現在開発中である。治療用抗体の前臨床開発中、薬物動態プロファイル、標的結合特性、安全性及び有効性に対する潜在的な影響に関して、とりわけ化合物に対する免疫学的応答を評価することが特に重要である。
【0015】
本発明は、例えばカニクイザルなどの実験動物における、例えば二重特異性Fabなどの治療抗体の異なるドメインの免疫原性を分類することを可能にする分析方法に関する。本発明による方法では、分子工学的アプローチをドメイン検出アッセイと組み合わせる。本発明は、少なくとも部分的には、Fab中の個々の抗原結合領域、すなわちパラトープをヒト生殖系列配列で置換することによって、2つの標的結合パラトープのいずれか一方並びに二重特異性Fabの定常部分に対する抗薬物抗体(ADA)を識別することが可能であったという知見に基づく。本発明による方法は、特にFab又はscFv断片などのより小さな生物治療薬に有利な特性を有する。この方法は、簡単に作製できるツールであるバリアント抗体を用いて、ADA応答の信頼できる特徴付け及び前臨床免疫原性のより良好な理解を可能にする。
【0016】
この理論に束縛されるものではないが、本発明による方法は、従来から公知の方法、特により単純な実現可能性並びに偽陰性結果に関するより高い信頼性を考慮して、改善を提供する。第2の利点は、少なくとも部分的には、少なくとも1つの完全なHVRが完全な非結合性HVRで置換されており、それによってそれぞれの抗HVR抗薬物抗体の結合、すなわち誤った場所での結合が防止される治療抗体のバリアントの直接捕捉に基づく。HVR中の一部の残基のみ又は個々の残基のみが置換されて非標的結合治療抗体が生成され、したがって、標的結合が無効にされてもパラトープの一部が維持されるバリアントを使用する方法は、偽陰性の結果がより起こりやすい。これは、治療抗体のパラトープの残りの残基に特異的に結合する中和抗体が依然として干渉し得るからである。
【0017】
本発明の一態様は、カニクイザルなどの実験動物への治療抗体の適用後の免疫原性応答特性評価のための生物分析方法である。
【0018】
本発明は、少なくとも部分的には、分子工学的手法と設定が効率的かつ容易なドメイン検出アッセイとの組み合わせによって、治療抗体上の抗薬物応答の空間的位置を容易かつ信頼性の高い方法で決定及び定量することが可能であるという知見に基づく。個々の抗原結合領域をヒト生殖系列配列で置換されることによって、このアッセイが、標的結合パラトープ及び治療抗体の定常部分に対する抗薬物抗体(ADA)を識別することができることが見出された。適時かつ徹底的な試薬開発と組み合わせて、本発明によるアッセイは、scFv及びFabなどのより小さな治療抗体に特に有利であることがさらに見出された。本発明によるアッセイにより、ADA応答の信頼できる特徴付け及び前臨床免疫原性のより良い理解を達成することができる。本発明による方法は、パラトープがVH/VL対によって形成される限り、任意の治療抗体又は抗体フォーマットに適用してADAエピトープ情報を得ることができ、それにより、パラトープが除去されている必要な参照抗体を作製するための努力が、当該分野で公知の方法と比較して低減される。
【0019】
より詳細には、治療抗体、特に二重特異性抗体Fab断片に対する免疫原性応答を、それぞれの抗原結合部位/パラトープのヒト生殖系列配列への復帰突然変異によって特徴づけ、それにより、結合特異性、すなわち、例えば、抗原-1、抗原-2又は両方の抗原のいずれかに対する結合特異性を消失させるための新規な生物学的分析方法を本明細書中に報告する。本発明によるドメイン検出アッセイは、治療抗体のこれらのバリアントに基づく。これらのバリアントを使用することにより、第1及び第2の特異性、両方の特異性、並びに分子の定常部分に対する抗薬物抗体(ADA)を区別することが可能である。改善は、とりわけ、治療抗体のパラトープ・バリアントを作製するのに必要な労力の低減にある。
【0020】
本発明の一態様は、治療抗体に特異的に結合する抗体(抗薬物抗体)のエピトープを決定するための方法であって、以下:
a)血清と、治療抗体に特異的に結合する抗体と、を含むサンプルを、
i)治療抗体の少なくともFab断片、及び
ii)少なくとも1つの(完全な)HVRが(完全な)非結合性HVRで置換されている治療抗体の少なくともFab断片と、別個にインキュベートする工程、及び、
i)~ii)のいずれかにおいて、少なくともFab断片に対する、治療抗体に特異的に結合する抗体の結合又は非結合を検出する工程、
並びに
b)治療抗体に特異的に結合する抗体のエピトープが、
- i)において結合が検出され、
かつ
ii)において非結合が検出される場合に、ii)において置換されている少なくとも1つの(完全な)HVR内にあると決定する工程、
- i)及びii)において結合が検出される場合に、ii)において置換されている少なくとも1つの(完全な)HVRのHVRフレームワーク・ジャンクション内、又はフレームワーク領域若しくは定常ドメイン内にあると決定する工程
を含む、方法である。
【0021】
本発明による方法の一実施形態では、工程a)は、
iii)すべてのHVRが非結合性HVRで(完全に)置換されている治療抗体の少なくともFab断片をさらに含み、
少なくともFab断片に対する、治療抗体に特異的に結合する抗体の結合又は非結合を検出することは、i)~iii)のいずれかにおいてであり、
工程b)は、
治療抗体に特異的に結合する抗体のエピトープが、
- i)において結合が検出され、
かつ
ii)及びiii)において非結合が検出される場合に、ii)において置換されている少なくとも1つの(完全な)HVR内にあると決定すること、
- i)及びii)において結合が検出され、
かつ
iii)において非結合が検出される場合に、ii)において置換されている少なくとも1つの(完全な)HVRのHVRフレームワーク領域ジャンクション内にあると決定すること、
- i)~iii)において結合が検出される場合に、フレームワーク領域及び/又は定常ドメイン内にあると決定すること
である。
【0022】
本発明による方法の一実施形態では、工程a)は、
iv)ii)のものとは異なる少なくとも一つの(完全な)HVRが(完全な)非結合性HVRで置換されている、治療抗体の一つ又は複数のさらなる少なくともFab断片をさらに含み、
少なくともFab断片に対する、治療抗体に特異的に結合する抗体の結合又は非結合を検出することは、i)、ii)及びiv)並びに存在する場合はiii)のいずれかにおいてであり、
工程b)は、
治療抗体に特異的に結合する抗体のエピトープが、
- i)において結合が検出され、
かつ
ii)又はiv)の1つ及び存在する場合はiii)において非結合が検出される場合に、ii)又はiv)及び存在する場合はiii)において置換されている少なくとも1つの(完全な)HVR内にあると決定すること、
- i)、及びii)又はiv)の1つにおいて結合が検出され、
かつ
存在する場合はiii)において非結合が検出される場合に、ii)又はiv)において置換されている少なくとも1つのHVRのHVRフレームワーク領域ジャンクション内にあると決定すること、
- 任意に、i)、ii)、iv)及び存在する場合はiii)において結合が検出される場合に、フレームワーク領域及び/又は定常ドメイン内にあると決定すること
である。
【0023】
本発明による方法の一実施形態では、工程a)は、
v)治療抗体のフレームワーク領域のものとは異なる生殖系列由来の非結合性抗体の少なくともFab断片をさらに含み、
工程b)は、
治療抗体に特異的に結合する抗体のエピトープが、
- i)において結合が検出され、
かつ
ii)及びv)、存在する場合はiii)、及び存在する場合はiv)において、非結合が検出される場合に、ii)又は存在する場合はiv)において置換されている少なくとも1つの(完全な)HVR内にあると決定すること、
- i)、及びii)又は存在する場合はiv)の1つにおいて結合が検出され、
かつ
v)及び存在する場合はiii)において非結合が検出される場合に、ii)又は存在する場合はiv)において置換されている少なくとも1つの(完全な)HVRのHVRフレームワーク領域ジャンクション内にあると決定すること、
- i)及びii)及び存在する場合はiii)、及び存在する場合はiv)において、結合が検出され、
かつ、
v)において非結合が検出される場合に、フレームワーク領域及び/又は定常ドメイン内にあると決定すること
である。
【0024】
本発明による方法の一実施形態では、(完全な)非結合HVRは、治療抗体のフレームワーク領域と同じ生殖系列から得られる(完全な)生殖系列HVRである。
【0025】
本発明による方法の一実施形態では、治療抗体は、単一特異性Fab又は二重特異性Fabである。
【0026】
本発明による方法の一実施形態では、
- 治療抗体は、二重特異性Fabであり、第1のパラトープは、HVR H-1、H-3及びL-2によって形成され、第2のパラトープは、HVR H-2、L-1及びL-3によって形成され、
- 工程a)において、工程ii)は、
(完全な)HVR H-1、H-3及びL-2は、(完全な)非結合性HVRで置換された治療抗体であり、
- 工程a)は、
vi)(完全な)HVR H-2、L-1及びL-3は、(完全な)非結合性HVRで置換された治療抗体をさらに含み、
- 工程b)は、
治療抗体に特異的に結合する抗体のエピトープが、
- i)及びvi)において結合が検出され、
かつ
ii)、存在する場合はiii)、及び存在する場合はv)において、非結合が検出される場合に、二重特異性Fabの第1のパラトープ内にあると決定すること、
- i)及びii)において結合が検出され、
かつ
vi)、存在する場合はiii)、及び存在する場合はv)において、非結合が検出される場合に、二重特異性Fabの第2のパラトープ内にあると決定すること、
- i)及びvi)において結合が検出され、
かつ
ii)、存在する場合はiii)、及び存在する場合はv)において、非結合が検出される場合に、第1のパラトープのHVRフレームワーク領域ジャンクション内にあると決定すること、
- i)及びii)において結合が検出され、
かつ
vi)、存在する場合はiii)、及び存在する場合はv)において、非結合が検出される場合に、第2のパラトープのHVRフレームワーク領域ジャンクション内にあると決定すること、
- i)及びii)及びvi)及び存在する場合はiii)において、結合が検出され、
かつ
存在する場合はv)において非結合が検出される場合に、フレームワーク領域及び/又は定常ドメイン内にあると決定すること
である。
【0027】
本発明の全ての態様及び実施形態では、工程a)の前、すなわち治療抗体又はそのパラトープ改変バリアントの固定化された少なくともFabとのインキュベーションの前に、治療抗体又はその断片の可溶性バリアントはサンプル又はサンプルのアリコートに添加されない。
【0028】
すべての態様及び実施形態において、治療抗体は、治療標的結合パラトープを形成するVH/VL対を含む。
【0029】
すべての態様及び実施形態において、治療標的に結合する治療抗体のパラトープは単一ドメイン抗体ではない。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の態様の詳細な説明
定義
本明細書で特に定義されていない限り、本発明に関連して使用される科学的及び技術的な用語は、当技術分野の当業者に一般的に理解される意味を有するものとする。さらに、文脈上特に必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。本開示の方法及び技術は、一般的に、当技術分野で周知の従来の方法に従って行われる。一般的に、本明細書中に記載されている生化学、酵素学、分子生物学、及び細胞生物学、微生物学、遺伝学、及びタンパク質及び核酸の化学、並びにハイブリダイゼーションに関連して使用される命名法並びに技術は、当技術分野でよく知られ、一般的に使用されているものである。
【0031】
本明細書で特に定義されていない限り、「含む」という用語は、「からなる」という用語を含むものとする。
【0032】
特定の値(例えば、温度、濃度、時間など)に関連して本明細書で使用される「約」という用語は、「約」という用語が指す特定の値の+/-1%の変動を指すものとする。
【0033】
本明細書において「抗体」という用語は、最も広い意味で使用されており、所望の抗原結合活性を示す限り、モノクローナル抗体、多重特異的抗体(例えば二重特異的抗体)、及び抗体断片を含む多様な抗体構造を包含するが、これらに限られない。
【0034】
「抗体断片」は、インタクト抗体が結合する抗原を結合するインタクト抗体の一部を含むインタクト抗体以外の分子を指す。抗体断片の例としては、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2;ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子(例えばscFv及びscFab);単一ドメイン抗体(dAb);並びに、抗体断片から形成した多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0035】
抗体の「クラス」とは、その重鎖によって保有される定常ドメイン又は定常領域の型を指す。抗体には、次の5種類の主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMがあり、これらのうちのいくつかは、下位クラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgAに更に分けることができる。特定の態様では、抗体はIgGアイソタイプである。特定の態様では、抗体は、Fc領域エフェクター機能を低下させるためのP329G、L234A及びL235A変異を有するIgGアイソタイプのものである。他の態様では、抗体はIgGアイソタイプのものである。特定の態様では、抗体は、IgG抗体の安定性を改善するためにヒンジ領域にS228P変異を有するIgGアイソタイプのものである。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類の1つに割り当てられてもよい。
【0036】
「フレームワーク」又は「FR」は、相補性決定領域(CDR)以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3及びFR4からなる。したがって、CDR及びFR配列は、一般に、VH(又はVL)において次の配列において出現する:FR1-CDR-H1(CDR-L1)-FR2-CDR-H2(CDR-L2)-FR3-CDR-H3(CDR-L3)-FR4。
【0037】
「完全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、本明細書で、天然抗体構造と実質的に同様の構造を有するか、又は本明細書に定義されるFc領域を含有する重鎖を有する抗体を指すように同義に使用される。
【0038】
「可変領域」又は「可変ドメイン」とは、抗体と抗原との結合に関与する、抗体の重鎖又は軽鎖のドメインである。ネイティブ抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれVH及びVL)は、一般的に、類似の構造を有し、それぞれのドメインは、4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と、3つの相補性決定領域(CDR)とを含む単一のVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するために充分であり得る。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、抗原に結合する抗体のVH又はVLドメインを使用し、それぞれ、相補的VL又はVHドメインのライブラリーをスクリーニングして、単離してもよい。
【0039】
本明細書で使用する場合、用語「超可変領域」又は「HVR」とは、配列内で超可変可能であり、抗原結合特異性を決定する、抗体可変ドメインの領域、例えば「相補性決定領域」(CDR)のそれぞれを意味する。これらの領域は、パラトープ又は結合部位を形成する。
【0040】
一般的に、抗体は、6個の抗原結合特異性決定領域:VHに3個(H1、H2、H3)、VLに3個(L1、L2、L3)を含む。本明細書における例示的な抗原結合特異性決定領域には、以下のものが含まれる:
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)に存在する超可変ループ(HVR)(Chothia及びLesk、J.Mol.Biol.196:901~917(1987));
(b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、31-35b(H1)、50-65(H2)及び95-102(H3)に存在する相補性決定領域(CDR)(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th Ed.、Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991));
(a+b)アミノ酸残基24-34(L1)、50-56(L2)、89-97(L3)、26-35(H1)、50-65(H2)及び95-102(H3)に存在するCDRと組み合わせたHVR(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987)+Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991));
及び
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、及び93~101(H3)に存在する抗原接触(MacCallumら、J.Mol.Biol.262:732~745(1996))。
【0041】
特に指示がない限り、HVRは、上記のKabatらに従い決定される。当業者は、抗原結合特異性決定領域の表記がまた、上記のChothia、上記のMcCallum、又は任意の他の科学的に許容される命名システムに従って決定され得ることを理解するであろう。
【0042】
「パラトープ」又は「抗原結合部位」とは、抗原を認識して抗原に結合する抗体の一部分を指し、本明細書では互換可能に使用される。パラトープは、Fv領域の三次構造において空間的に近接して配置された、抗体の重鎖及び軽鎖可変ドメインからの複数の個別のアミノ酸残基によって形成される。内因性ヒト抗体のパラトープは、その抗原の表面上の相補的エピトープを認識する6つのCDR(相補性決定領域)ループによって形成される。小抗原(小分子など)に特異的な抗体の場合、いくつかのCDRからのわずかなアミノ酸のみが抗原認識に関与するが、すべてが関与するわけではない。直接抗原接触に関与するCDRアミノ酸残基は、特異性決定領域(SDR)と呼ばれる。抗原-抗体複合体アミノ酸残基の3次元構造の分析により、抗原と直接接触していることを、それらの距離に基づいて同定することができる。CDR間に離間したFR(フレームワーク)残基も抗原認識に関与することができるが、程度は低い(そのような領域の表面は、抗原及び抗体接触表面の最大15%を占め得る)(例えば、Altshuler,E.P.,Chemie 50(2010)203-258;Bujotzek,A.,et al.,mAbs 8(2016)288-305を参照)。
【0043】
一実施形態において、本発明による方法における治療抗体は二重特異性Fabである。一実施形態において、二重特異性Fabは、1つの同族VH/VL対に2つの「重複しない」パラトープを含む。「重複しない」とは、2つのパラトープの一方に含まれるアミノ酸のいずれも他方のパラトープに含まれないことを意味する。
【0044】
「二重特異性Fab」は、国際公開第2012/163520号に開示されている二重特異性抗体である。二重特異性Fabでは、VHドメインとVLドメインの単一の対が2つの異なるエピトープに特異的に結合し、一方のパラトープはCDR-H2、CDR-L1及びCDR-L3由来のアミノ酸残基を含み、他方のパラトープはCDR-H1、CDR-H3及びCDR-L2由来のアミノ残基を含む。二重特異性Fabは、同族VH/VL対内に2つの重複しないパラトープを含み、2つの異なるエピトープに同時に結合し得る。二重特異性Fab及び単一特異性Fab断片を含むライブラリーのスクリーニングによるそれらの作製方法は、国際公開第2012/163520号に開示されている。
【0045】
一実施形態において、本発明による方法における治療抗体は二重特異性Fabである。一実施形態において、二重特異性Fabは、第1の抗原(抗原-1)及び第2の抗原(抗原-2)に特異的に結合する。一実施形態において、二重特異性Fabは、その第1のパラトープを介して第1の抗原(抗原-1)に特異的に結合し、その第2のパラトープを介して第2の抗原(抗原-2)に特異的に結合する。一実施形態において、二重特異性Fabは、可変軽鎖ドメイン(VLドメイン)及び可変重鎖ドメイン(VHドメイン)の1つの同族対内に第1のパラトープ及び第2のパラトープを含み、第1のパラトープは抗体のCDR-H2、CDR-L1及びCDR-L3由来のアミノ酸残基を含み、第2のパラトープは抗体のCDR-H1、CDR-H3及びCDR-L2由来のアミノ酸残基を含む。
【0046】
一実施形態において、二重特異性Fabは第1抗原及び第2抗原に結合し、VLドメイン及びVHドメインの1つの同族対内に第1パラトープ及び第2パラトープを含み、可変軽鎖ドメインと可変重鎖ドメインとの対は第1抗原及び第2抗原に同時に結合することができる。
【0047】
一実施形態において、二重特異性Fabは第1抗原及び第2抗原に結合し、VLドメイン及びVHドメインの1つの同族対内に第1パラトープ及び第2パラトープを含み、第1パラトープに含まれるアミノ酸はいずれも第2パラトープに含まれない。
【0048】
本明細書で使用される「サンプル」という用語は、ADA応答の決定を行うことができる任意の生物学的マトリックスを表す。限定するものではないが、例示的なサンプルは、血清、血漿、房水、硝子体液、網膜組織溶解物、及び腫瘍組織である。好ましい一実施形態では、サンプルは血漿である。
【0049】
「エピトープ」との用語は、抗体が結合する相手である、タンパク質性又は非タンパク質性のいずれかの、抗原上の部位を示す。エピトープは、連続したアミノ酸ストレッチ部位から形成される場合(線状エピトープ)、又は非連続のアミノ酸を含む場合(構造的エピトープ)の両方があり、例えば、抗原の折り畳みに起因して(すなわち、タンパク質性抗原の三次折り畳みによって)空間的に近接して形成される。線状エピトープは、典型的には、タンパク質性抗原を変性剤に曝露した後も依然として抗体によって結合されているが、コンフォメーションエピトープは、典型的には、変性剤での処理により破壊される。エピトープは、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、又は8~10個のアミノ酸を、独特な空間的構造で含む。
【0050】
本明細書で使用される「抗薬物抗体」という用語は、治療抗体に対する治療抗体のレシピエントの自然免疫系によって、投与後に産生される抗体を表す。
【0051】
本明細書で使用される「免疫原性」という用語は、ヒト又は動物において免疫応答を誘導する治療抗体の可能性を表す。薬物開発中、免疫原性は、主に結合及び中和抗薬物抗体の測定によって評価される。
【0052】
非結合(生殖系列)CDRは、治療抗体のフレームワーク領域が最も高い相同性を有し、単独又は治療抗体の他のCDRと組み合わせて、治療抗体の標的に特異的に結合しないヒト生殖系列アミノ酸配列から得られるCDRを表す。
【0053】
本発明による方法
1.
治療抗体に特異的に結合する抗体(抗薬物抗体)のエピトープ(の空間的位置)を決定するための方法であって、以下:
a)血清と、治療抗体に特異的に結合する抗体と、を含む、(治療抗体が投与された(実験的)動物から得られた)サンプルを、
i)治療抗体の少なくともFab断片、及び
ii)少なくとも1つのCDRが非結合性(生殖系列)CDRで置換されている、治療抗体の少なくともFab断片
と、別個にインキュベートする工程、及び
i)~ii)のいずれかにおいて、少なくともFab断片に対する、治療抗体に特異的に結合する抗体の結合又は非結合を検出する工程、
並びに
b)治療抗体に特異的に結合する抗体のエピトープ(の空間的位置)が、
- i)において結合が検出され、
かつ
ii)において非結合が検出される場合に、ii)において置換されている少なくとも1つのCDR内にあると決定する工程、
- i)及びii)において結合が検出される場合に、ii)において置換されている少なくとも1つのCDRのCDRフレームワーク・ジャンクション内、又はフレームワーク領域若しくは定常ドメイン内にあると決定する工程
を含む、方法。
【0054】
2.
工程a)は、
iii)すべてのCDRが非結合性(生殖系列)CDRで置換されている治療抗体の少なくともFab断片をさらに含み、
工程b)は、
治療抗体に特異的に結合する抗体のエピトープ(の空間的位置)を、
- i)において結合が検出され、
かつ
ii)及びiii)において非結合が検出される場合に、ii)において置換されている少なくとも1つのCDR内にあると決定すること、
- i)及びii)において結合が検出され、
かつ
iii)において非結合が検出される場合に、ii)において置換されている少なくとも1つのCDRのCDRフレームワーク領域ジャンクション内にあると決定すること、
- i)~iii)において結合が検出される場合に、フレームワーク領域及び/又は定常ドメイン内にあると決定すること
である、項目1に記載の方法。
【0055】
3.
工程a)は、
iv)ii)のものとは異なる少なくとも一つのCDRが非結合性(生殖系列)CDRで置換されている、治療抗体の一つ又は複数のさらなる少なくともFab断片をさらに含み、
工程b)は、
治療抗体に特異的に結合する抗体のエピトープ(の空間的位置)が、
- i)において結合が検出され、
かつ
ii)又はiv)の1つ及び存在する場合はiii)において非結合が検出される場合に、ii)又はiv)において置換されている少なくとも1つのCDR内にあると決定すること、
- i)、及びii)又はiv)の1つにおいて結合が検出され、
かつ
任意にiii)において非結合が検出される場合に、ii)又はiv)において置換されている少なくとも1つのCDRのCDRフレームワーク領域ジャンクション内にあると決定すること、
-任意に、i)~iv)において結合が検出される場合に、フレームワーク領域及び/又は定常ドメイン内にあると決定すること
である、項目1~2のいずれか一項に記載の方法。
【0056】
4.
工程a)は、
v)治療抗体のフレームワーク領域のものとは異なる生殖系列由来の非結合性(生殖系列)抗体の少なくともFab断片をさらに含み、
工程b)は、
治療抗体に特異的に結合する抗体のエピトープ(の空間的位置)が、
- i)において結合が検出され、
かつ
ii)及びv)、任意にiii)、任意にiv)において、非結合が検出される場合に、ii)又は任意にiv)において置換されている少なくとも1つのCDR内にあると決定すること、
- i)及びii)又は任意にiv)において結合が検出され、
かつ
v)及び任意にiii)において非結合が検出される場合に、ii)又は任意にiv)において置換されている少なくとも1つのCDRのCDRフレームワーク領域ジャンクション内にあると決定すること、
- i)及びii)及び任意にiii)及び任意にiv)において、結合が検出され、
かつ
v)において非結合が検出される場合に、任意に、フレームワーク領域及び/又は定常ドメイン内にあると決定すること
である、項目1~3のいずれか一項に記載の方法。
【0057】
5.
各HVRが、組み合わせたKabat-Chothia定義に従って決定される完全なHVRである、項目1~4のいずれか一項に記載の方法。
【0058】
6.
HVRが、組み合わせたKabat-Chothia定義に従って決定され、HVR-L1が残基24~34を包含し、HVR-L2が残基50~59を包含し、HVR-L3が残基89~97を包含し、HVR-H1が残基26~35を包含し、HVR-H2が残基50~65を包含し、HVR-H3が残基95~102を包含する、項目1~5のいずれか一項に記載の方法。
【0059】
例示の実施形態及び実験結果
以下は、本発明による方法の単なる例示として提示されることが明確に指摘される。これは限定として解釈されるべきではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲に記載されている。
【0060】
本発明による方法を、治療抗体の例として、2つの個々の標的を同時に認識するように設計及び最適化された二重特異性Fabを使用して以下に例示する。これらの分子の主な意図された用途は、加齢性黄斑変性症(AMD)又は糖尿病性黄斑浮腫(DME)のような眼科の適応症であり、2つの可溶性因子(例えば、新生血管形成促進因子及び炎症媒介因子)の同時抑制は、標準的な単独療法のみと比較して、有益な/相加的な/相乗的な/優れた効果を有すると考えられている。二重特異性Fabは、比較的小さな分子サイズ(約50kDa)内で2つの標的化部位を組み合わせ、好ましい薬物:標的比をもたらすので、眼科用途に特に大きな利点を示す。さらに、それらは、高度に濃縮可能であり、所望の特異性、親和性、安定性及びPK特性に向けて完全に操作可能である。
【0061】
本発明による方法を、治療用二重特異性Fab断片を投与した8匹のカニクイザルを含む前臨床非ヒト霊長類試験における免疫原性応答の分析に適用した(詳細については実施例の項を参照)。ADA応答は、分子の硝子体内適用後に観察された。本発明による方法では、免疫原性応答の詳細な特徴付けが可能であり、それによって治療抗体の主要な免疫原性部分が同定された。
【0062】
配列バリアントの設計
一般に、天然に存在しないCDR及び抗原-1又は抗原-2のいずれかへの結合に関与すると予想されるフレームワーク領域配列を個別に分析し、最も近い配列一致を提供するヒト生殖系列配列によって別個に置換している。置換のために、パラトープの不連続な各部分は、必ずしも同じ、すなわち単一のヒト生殖系列遺伝子からのストレッチで置換されるわけではないことを指摘しなければならない。より一般的には、異なる不連続なストレッチの置換は、異なるヒト生殖系列配列に由来する配列によるものである。任意に、VH-VL対の安定なコアパッキングを維持し、結合表面を交換しながらFab断片の形状を最適に保存するために、可変ドメイン内の中心に位置し、一般に埋もれている残基を保持することができる。
【0063】
一般に、問題の薬物抗体の生殖系列に戻る改変(生殖系列化)を達成するために、フレームワーク領域並びに可変領域が生殖系列化されなければならないので、可変ドメインは異なる部分に分割される。
【0064】
フレームワークの生殖系列化のために、例えばBlastなどの標準的なツールを使用して、生殖系列化される薬物抗体のFR1のN末端半分又はFR3のC末端半分のいずれかをヒト生殖系列レパートリーに対してアライメントする。FR1及びFR3のそれぞれの他の部分並びにFR2は、それぞれのCDRの生殖系列化によって得られる。同一位置に最大数の同一残基を有する配列を置換配列として選択する。2つ以上の同様の同一の生殖系列配列が同定された場合、天然のヒト抗体レパートリーにおけるより高い使用頻度を有する配列が選択される。使用頻度の基準として、B.Shiらに提供されているようなリストを使用することができる(Ther.Biol.Med.Model.11(2014)30、補足図1A図1として再現)。
【0065】
HVRの生殖系列化のために、薬物抗体のそれぞれN末端に隣接(先行)しC末端に隣接(後続)するフレームワークの配列の半分に相当する配列を、例えばBlastなどの標準的なツールを使用して、ヒト生殖系列レパートリーに対するHVRのギャップと共に並べる。HVRは、組み合わせたKabat-Chothia定義に従って決定され、すなわち、HVR-L1は残基24~34であり、HVR-L2は残基50~59であり、HVR-L3は残基89~97であり、HVR-H1は残基26~35であり、HVR-H2は残基50~65であり、HVR-H3は残基95~102である。同一位置にあるHVRの外側の同一残基の数が最も多く、同一のHVR長を有する配列が選択される。2つ以上の生殖系列配列が同定された場合、天然のヒト抗体レパートリーにおけるより高い使用頻度を有する配列が選択される。使用頻度の基準として、B.Shiらに提供されているようなリストを使用する(Ther.Biol.Med.Model.11(2014)30、補足図1A図1として再現)。それぞれのHVRの配列は、それぞれの最も同一の生殖系列フレームワーク配列を同定するためのアラインメントには使用されないが、同定された生殖系列配列中のそれぞれのHVR配列は、生殖系列化される抗体のHVRを置換するために使用される。
【0066】
重鎖HVR-H3は、1)V要素の一部、2)D要素、及び3)J要素の一部によって形成される抗体成熟中に起こるVDJ再編成に起因する。より詳細には、重鎖HVR-H3は、可変(VH)遺伝子セグメント、多様性(D)遺伝子セグメント、及び連結(J)遺伝子セグメントからの残基を組み合わせることによって生成される。異なるビルディングブロックを使用することによるこの既に生成された多様性にもかかわらず、コード配列の末端への短い回文ヌクレオチドの付加により、又は、コードセグメントの末端からの可変数のヌクレオチドの欠失により、又は、末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ又は点突然変異を導入してアミノ酸コドンを変化させる超突然変異機構によるVH-D及びD-Jジャンクションでの可変数の非鋳型ヌクレオチドのその後の挿入によって、連結プロセス中に追加の多様性を生成することができる(Rosner,K.,et al.,Immunol.103(2001)179-187)。
【0067】
生殖系列化の一般的なスキームを図2A及び図3Aに概説する。
【0068】
したがって、本明細書では、本方法の1つの利点として、パラトープ生殖系列化のための使いやすい方法を提供する。
【0069】
この実施例で使用される例示的な二重特異性Fabは、2つの異なるエピトープに特異的に結合するVHドメイン及びVLドメインの単一の対を含む。一方のパラトープはHVR-H2、HVR-L1及びHVR-L3由来のアミノ酸残基を含み、他方のパラトープはHVR-H1、HVR-H3及びHVR-L2由来のアミノ残基を含む。
【0070】
したがって、この例示的な場合、第1のパラトープについて図2C及び図3Eに示され、第2のパラトープについて図2E及び図3Cに示されるように、HVR及びFRの一部のみが生殖系列化される。
【0071】
したがって、抗原-1結合パラトープのみが維持され、抗原-2結合パラトープが除去された(すなわち生殖系列化された)Germ1-対照構築物を作製するために、以下の改変が行われた:
- HC-FR1のN末端部分が、生殖系列配列VH3-21(IMGT)で置換されており、
- HC-FR1のC末端部分、HVR1及びHC-FR2のN末端部分が、生殖系列配列VH3-23(IMGT)によって置換されており、
- HC-FR3が、生殖系列配列VH3-23(IMGT)で置換されており、
- 潜在的免疫原性残基96Dが、アラニンスキャンなどの使用される慣行に従って非免疫原性Aによって置換されており、
- HC-HVR3残基98~102及びFR4が、IGHJ4(IMGT)によって置換されており、
- LC-HVR2が、IGKV1-33(IMGT)によって置換されている。
【0072】
したがって、抗原-2結合パラトープのみが維持され、抗原-1結合パラトープが除去された(すなわち生殖系列化された)Germ2-対照構築物を作製するために、以下の改変が行われた:
- HC-FR2のC末端部分、HVR2及びHC-FR3のN末端部分が、生殖系列配列VH3-23(IMGT)によって置換されており、
- LC-FR1のN末端部分が、生殖系列配列IGKV1-6(IMGT)で置換されており、
- LC-FR1のC末端部分、HVR1及びLC-FR2のN末端部分が、生殖系列配列VGKV1-27(IMGT)によって置換されており、
- LC-FR3が、生殖系列配列IGKV1d-43(IMGT)で置換されており、
- LC-HVR3残基97及びFR4が、IGKJ2(IMGT)によって置換されている。
【0073】
GermGerm-対照構築物を作製するために、Germ1-対照構築物及びGerm2-対照構築物について上に概説した置換のすべてを組み合わせ、したがって抗原-1結合パラトープ及び抗原-2結合パラトープの両方を二重特異性Fabから除去した。
【0074】
この試験で作製され、免疫原性応答特性評価に適用された全ての構築物を図4に概略的に示す。
【0075】
本発明によるドメイン検出アッセイ(DDA)は、従来の架橋ADAアッセイと同じ原理を用いる。本発明の違いは、捕捉試薬としての定義された薬物ドメインの使用にある。これにより、ドメイン特異的ADA画分を選択的に決定することが可能である。
【0076】
本発明による方法の好ましい一実施形態では、特異的ドメインは固体表面に直接固定化される(図5参照)。したがって、例示的な材料は、Nunc MaxiSorp(商標)MTPである。好ましい一実施形態では、ドメイン特異的ADA応答の検出のために、ジゴキシゲニン標識抗カニクイザルIgGが使用される。
【0077】
本発明によるADAドメイン検出アッセイに加えて、いくつかの他のアッセイ設定をサンプル分析及びデータ信頼性の評価に適用した。
【0078】
ドメイン競合アッセイ(DCA)設定では、図4及び図5に示す異なるドメインのビオチン及びジゴキシゲニン標識バリアントを使用して、薬物/薬物バリアント:ADA複合体を形成し、これをストレプトアビジン被覆MTPに固定化し、抗Dig-HRP抗体によって検出することができる。それぞれの構築物の非標識バージョンを特異的競合試薬として使用した。このアッセイは、本発明によるドメイン検出アッセイと比較して同等の結果をもたらしたが、しかし、試薬の生成及び実行に関してははるかに手間がかかる。その間接的な動作モード(シグナル低減はドメイン固有ADAの検出に対応する)のために、感度も低い。作業負荷及び結果の質に関して、DCAは、ADA特性評価について、本発明によるDDAよりも劣ることが判明した。
【0079】
ADA特性評価に適用したさらなるアッセイは、ADAブリッジアッセイであった。このアッセイでは、抗薬物抗体がサンプル中に存在する場合には、異なる対照構築物にそれぞれ対応する薬物候補のビオチン及びジゴキシゲニン標識バージョンを使用してシグナルを生成した。ADAの特異性を確認するために、標識されていない薬物それぞれの対照構築物の大過剰がスパイクされる。非標識分子の有意なシグナル消光能力は、特定のADAの存在について陽性と考えられる。本実施例では、この原理は、元の二重特異性Fab並びに部分的に生殖系列バリアントの両方(一方の結合特異性は活性であり、他方の結合は非機能的である)で機能したが、GermGermバリアント及び他の対照構築物では機能せず、定常部分に特異的なADAが存在しないことを示唆している。この知見は、ADA架橋アッセイ設計の不利/弱点と考えられ、これは、定常抗体部分に対して向けられた、より少なくてより低いアフィンADAに完全に対処することができない可能性がある(図4を参照)。
【0080】
カニクイザル試験サンプルのADA特性評価に適用された第3のアッセイは、捕捉として抗ヒトFab抗体と、生物学的サンプル中のADA:薬物複合体を検出するための検出試薬として抗カニクイザルIgG抗体との組み合わせを使用した免疫複合体アッセイ(例えば、Wessels,U.,et al.,Bioanal.10(2018)803-814)であった。このアッセイはあまり薬物耐性ではないので、サンプル中に微量の残留薬物(元のFab)が依然として存在していても陽性シグナルが生成され、したがって異なる構築物を区別することが不可能になった。
【0081】
本発明によるドメイン検出アッセイ、すなわち、アッセイと対応する分子工学的手法(元の薬物化合物の生殖系列化バリアントの生成)との組み合わせは、異なるドメインが固体表面(例えば、MTP)に直接固定化され、それぞれのADAによって認識されるので、先に概説した制限のすべてを欠いている。これにより、アッセイが非常に特異的かつ高感度になる。捕捉抗体の濃度は、投与後35日目にサンプル中に存在する残留薬物レベルと比較して少なくとも200倍高いので、このアッセイは高度に薬物耐性であることも示されている。これは滴定実験によっても確認され、薬物をサンプルから希釈した場合、特異的ADA認識シグナルが依然として非常に陽性であることを示した。
【0082】
生物学的な関連性及びさらなる開発という点では、二重特異性Fab分子の(主に)抗原結合部分及び(頻度は低いが)定常部分に対する区別された免疫反応が見つかったことは、非ヒト霊長類バックグラウンドで完全ヒト薬物候補に対する複雑なポリクローン抗薬物抗体反応を仮定することを裏付ける。二重特異性Fab分子の定常部分に対するADAもまた、非結合性ヒトFab及びラニビズマブに対して交差反応性であるという知見は、ラニビズマブが硝子体内適用される薬物であり、これはヒトによって十分に忍容されるので、意図されるヒト適用に関して特に注目に値する。したがって、得られた結果は、二重特異性Fab様式における分子固有の免疫原性特性についてのヒントを提供しない。
【0083】
結論及び概要
本明細書では、前臨床状況における生物治療薬候補に対する免疫学的応答の特性評価を容易にするための新規かつ発明的な概念を報告する。これは、分子工学的手法を効率的かつ容易なドメイン検出アッセイ設定と組み合わせることによって達成される。
【0084】
生物治療薬候補の個々のHVR及びフレームワーク領域配列をヒト生殖系列配列で置換されることによって、本発明による高度に特異的かつ高感度のADAドメイン特性評価アッセイの開発を可能にする新規かつ発明的なアッセイツールが生成された。本発明によるこの方法は、例えば霊長類試験などの前臨床非ヒト動物のサンプルからの免疫原性応答の評価に使用することができる。
【0085】
このアッセイは、生物学的治療のすべての主要ドメイン、すなわち、異なる定常部分又はパラトープに対する抗薬物抗体の区別を可能にし、また、ヒト処置のために承認された市販のFab分子を含む異なる対照分子を使用することによる抗薬物抗体の交差反応性挙動に対する洞察も提供した。
【0086】
記載される手法は、ADA特性評価の前に分子を酵素的に切断してサブ断片にする必要がないので、すべての種類の治療用抗体、特にscFv又はFabなどのより小さいサイズのタンパク質生物治療薬に適用可能である。データの質、堅牢性及び使いやすさに関して、このアッセイは他の生物分析方法と比較して優れていることが証明された。
【0087】
プロジェクトの観点から、開発可能性活動の一部としての臨床リード候補の生殖系列バリアントの早期の組み込みは、内因性の免疫学的リスクを有する分子を早期に同定し、より有望な候補のためにさらなる開発から除外することができるので、免疫原性の理解及びリスク軽減に関して大きな価値を追加することができる。
【0088】
以下の実施例、配列及び図面は、本発明の理解を助けるために提供されており、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲に記載されている。本発明の思想から逸脱することなく、定められた手順に変更を加えることができると理解される。
【図面の簡単な説明】
【0089】
図1】IMGT/LIGM-DBデータベースで公開されたヒト(n=9340)Ig配列のVHドメインについて観察された遺伝子使用頻度。マッピングされたIGHV遺伝子の使用の各々を、IMGT/HighV-QUEST統計分析報告に従って、生産配列及びインフレーム配列の固有の全集団のパーセンテージとして計算した(B.Shi,et al.,Ther.Biol.Med.Model.11(2014)30、補足図1Aから再現)。
図2】生殖系列化スキーム重鎖可変ドメイン。「F」、「C」及び「-」並びに「J」で示される重鎖可変ドメインのそれぞれのストレッチは、最も同一の生殖系列配列を同定するためのヒトIMGT生殖系列レパートリーとのアラインメントにおけるクエリ配列として使用される。「-」は、アラインメントに使用されるギャップを表すが、同定された生殖系列の対応する配列は、抗体のそれぞれのHVR配列を置換するために使用される。
図3】生殖系列化スキーム軽鎖可変ドメイン。「F」、「C」及び「-」並びに「J」で示される軽鎖可変ドメインのそれぞれのストレッチは、最も同一の生殖系列配列を同定するためのヒトIMGT生殖系列レパートリーとのアラインメントにおけるクエリ配列として使用される。「-」は、アラインメントに使用されるギャップを表すが、同定された生殖系列の対応する配列は、抗体のそれぞれのHVR配列を置換するために使用される。
図4】ドメイン特異的抗薬物抗体(ADA)の検出のために作製された二重特異性Fab生物治療薬、操作されたFabバリアント及び対照分子の概略図。構築物2~4は、元のDuta-オリジナル薬物分子の改変バージョンである。
図5】ドメイン検出アッセイ原理:別個のドメイン(図4に記載)をNunc MaxiSorp(商標)プレートに直接コーティングし、ドメイン特異的ADAを捕捉するために使用する。結合したADAは、Dig標識抗カニクイザルIgGによって検出される。シグナルは、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)に結合した抗Dig抗体を使用して生成され、基質/ABTS色変換をもたらす。
図6】実施例5で使用される本発明による例示的なドメイン検出アッセイの概略図である。異なるドメインを表す5つの異なるFabバリアントが表面に固定化されている。異なる特異性を有するADAは、異なるドメインに結合することができる。ADAのさらなる認識は、抗カニクイザル抗体によって行われる。
図7】実施例5で使用される本発明による方法の例示的なアッセイ設定の予想される陽性パターン。
図8】本発明によるアッセイで決定されたADA応答「タイプ8」。
図9】本発明によるアッセイで決定されたADA応答「タイプ9」。
図10】本発明によるアッセイで決定されたADA応答「タイプ10」。
図11】本発明によるアッセイで決定されたADA応答「タイプ11」。
【実施例
【0090】
化学物質、試薬及び機器
治療用抗体及び特異的アッセイ試薬はすべて、Roche Diagnostics GmbH,Penzberg,Germanyによって提供され、使用するまで-80℃でアリコートで保存した。二重特異性治療用Fab(「Fab-オリジナル」、薬物)は、2つの異なる抗原に対するモノクローナルFabからなり、これは組換え発現から入手可能であった。これを精製及び分析的な特性評価後に使用した。二重特異性構築物「Fab-オリジナル」のビオチン化(Fab-オリジナル-Bi)及びジゴキシル化(Fab-オリジナル-Dig)バージョンを、架橋ADAアッセイにおいて捕捉試薬及び検出試薬としてそれぞれ使用した。
【0091】
ドメイン検出アッセイ(DDA)及びドメイン競合アッセイ(DCA)のために、以下の非標識試薬を捕捉のために使用した:「Fab-オリジナル」(二重特異性治療用Fab)、「Germ1-対照」(第1のパラトープがインタクトであり、第2のパラトープが生殖系列配列に復帰突然変異されている二重特異性治療用Fab)及び「Germ2-対照」(第2のパラトープがインタクトであり、第1のパラトープが生殖系列配列に復帰突然変異した二重特異性治療用Fab)、「GermGerm-対照」(両方のパラトープがそれぞれの生殖系列配列に復帰突然変異した二重特異性治療用Fab)、ラニビズマブ(眼内適用が承認された市販のヒトFab生物治療薬)、非結合性ヒトFab(DP47)。検出試薬として、ジゴキシル化モノクローナル抗カニクイザルIgG抗体を用いた。ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲートしたジゴキシゲニンに対するポリクローナルヒツジ抗体Fab(pAb-Dig-S-Fab-HRP)を、すべてのADAアッセイにおいて第2の検出試薬として使用した。
【0092】
陽性対照、PC=インビボ又はファージディスプレイを介して生成
捕捉対照、CC=PCが利用できない場合のPCの代用
【0093】
以下の化合物は、陽性対照(PC)、例えば(機能的(クローニング、生成、固定化)捕捉対照(CC)として機能した:全ADAスクリーニングアッセイ:ヒトIgGカッパに対するモノクローナルマウス抗体(mAb-anti-hu-kappa,Roche Diagnostics GmbH,Mannheim,Germany);DDA:ジゴキシル化組換え抗原-1及びジゴキシル化組換え抗原-2を捕捉対照として使用し(抗Ckappaによる検出)、各動物からの投与前のカニクイザルCTAD(CTAD=クエン酸-テオフィリン-アデニン-ジピリダモール;凝結防止剤)血漿サンプルを陰性対照として使用した。
【0094】
プールしたカニクイザルCTAD血漿を、40匹の個々の薬物未投与雌及び雄動物から調製した。血漿サンプルは、Sera Laboratory International,Ltd.(Haywords Heath,UK)から入手した。洗浄緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水(PBS)/0.05% Tween 20/0.002% Bronidox)及び2,2’-アジノ-ビス-3-エチルベンズチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)基質は、Roche Diagnostics GmbH(Mannheim,Germany.)によって提供された。すぐに使用できるLowCross緩衝液は、Candor Bioscience GmbH(Wangen,Germany)から入手し、架橋ADAアッセイ(ELISA)の希釈及びアッセイ緩衝液として使用した。全ての化学物質は分析グレードであった。
【0095】
4匹の動物(成体のサル;カニクイザル)の3つの用量群をそれぞれ0(プラセボ)、5及び10mg/眼で最大43日間処置した。第二の処置を29日目に投与した。この試験から、二重特異性Fab-オリジナル構築物を投与した動物の39個の血漿サンプルをADA試験に使用した。これらのうち、31個のサンプルが全ADAスクリーニングアッセイで陽性であることが分かった(希釈係数1:20で試験したサンプル)。最後に、高いADA濃度を反映する有意なシグナル強度(>1.0AU)のために、ドメイン特異的手法によるさらなる評価のために、8匹の異なる動物からの16個のサンプル(各動物から、特異的陰性対照としての投与前サンプル及び処置後35日目のサンプル)を選択した。
【0096】
架橋ADAアッセイのためのストレプトアビジン被覆マイクロタイタープレート(SA-MTP)を、Microcoat Biotechnologie GmbH,Bernried,Germanyから入手した。DDA用の非被覆Nunc MaxiSorp(商標)マイクロタイタープレートは、Thermo Fisher Scientific(ドイツ)から入手した。
【0097】
実施例1
全ADA応答の検出のための架橋ADAアッセイ(ADAスクリーニングアッセイ)
二重特異性<AG1/AG2>Fab(抗抗原-1/抗原-2二重特異性Fab)に対するADA応答の検出のために、架橋ADAアッセイを適用して、カニクイザル試験(上記参照)から得られた血漿サンプルを分析した。サンプルを1:20の希釈係数で試験した。架橋ADAアッセイは、ドメイン特異的手法の基準として役立った。
【0098】
架橋ADAアッセイは、サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)である。一般に、抗体調製物を希釈緩衝液(LowCross Buffer,Candor Bioscience GmbH,Wangen,Germany)中で作製した。試薬及びサンプルを、500rpmで振盪しながら室温でインキュベートした。洗浄工程は、300μLの洗浄緩衝液を適用する3サイクルと、それに続く最終吸引工程からなった。一般に、15μLのサンプルを、ポリプロピレンのプレインキュベーションプレート中のDuta-オリジナル-Bi及びDuta-オリジナル-Digをそれぞれ0.5μg/mL含む285μLのインキュベーション混合物に添加した。PC(mAb-anti-hu-kappa M-1.7.10)を並行して処理した。1時間のインキュベーション後、100μLの各サンプル混合物を、1時間のさらなるインキュベーションのためにSA-MTPに二連で移した。PBS/Tweenで洗浄して未結合物質を除去し、最後に吸引した後、100μLのポリクローナル抗Dig-S-Fab-HRPコンジュゲート(12.5mU/mL)を添加した。1時間のインキュベーション後、SA-MTPを3回洗浄し、続いて最後に吸引した。次いで、基質溶液ABTSを添加し、HRPは405nm波長(基準波長:490nm)での読み出しで呈色反応を触媒した。架橋複合体を含むサンプル、すなわちDuta-オリジナル-Bi及びDuta-オリジナル-Digの両方に結合した抗体のみがシグナルを生成することができた。シグナル強度は、存在するADAの量に比例していた。吸光度値を各サンプルについて二連のウェルで決定した。吸光度値を平均し、平均値の精度が≦20% CVである場合に許容した。スクリーニングカットポイント(CP)は、40個の薬物未投与ドナーサンプルに適用された95%パーセンタイルを使用して、Shankarらに従って評価した。プレート特異的CP(プール血漿のブランクに正規化係数を乗算)を計算することによって、陰性サンプル(<プレート特異的CP)及び陽性サンプル(>プレート特異的CP)を同定した。これに関連して、薬物耐性は重要なパラメータとは考えられなかったことに言及すべきである。薬物を硝子体内に投与し、この式の試験サンプルを、薬物レベルが低い時点、すなわちその後の投与の前に採取する。サンプル中のFab-オリジナルのレベルはB.L.Q.であったため、薬物耐性の評価は不要であると考えられた。
【0099】
実施例2
二重特異性及びバリアントFab断片の作製
二重特異性構築物Duta-オリジナル及び単一特異性の部分的に生殖系列化された構築物Germ1-対照及びGerm2-対照並びに完全に生殖系列化された非結合構築物GermGerm-対照をコードする合成遺伝子は、Geneartから購入した。
【0100】
合成抗体遺伝子を、大腸菌におけるFab断片のペリプラズム発現のためのバイシストロン性ベクターであって、LacZプロモーター、LCリボソーム結合部位、LCシグナルペプチド、Vk可変ドメイン、Ck定常ドメイン、HCリボソーム結合部位、HCシグナルペプチド、VH可変ドメイン、IgG1 CH1定常ドメイン及びIgG1上部ヒンジを含む発現カセットを有するベクターにクローニングした。
【0101】
Fab断片をコードするプラスミドをTG1大腸菌細胞(Zymo Research)に形質転換し、単一コロニーを、抗体発現を阻害するために2%グルコースを補充したTB培地中37℃で前培養した。遅滞期に達したら、前培養物を三角振盪フラスコ中で最終濃度0.05%グルコースを補充したTB発現培地に希釈し、対数期に達したら、IPTGを1mMの最終濃度まで補充することによって発現培養物を誘導した。Fab断片を30℃で16時間発現させ、培養上清を遠心分離により清澄化した。
【0102】
インタクトな重鎖定常ドメイン及び軽鎖定常ドメインを有する完全長Fab断片のみをADA分析に使用することを確実にするために、Fab断片を、最初にCaptureSelect IgG-CH1樹脂を使用し、次にCaptureSelect Kappa XL樹脂を使用して(両方ともGE Healthcareから購入)、2段階で二重親和性精製した。精製Fab断片のタンパク質濃度を、280nmでの吸光度を使用して分光光度法によって決定した。
【0103】
実施例3
ドメイン特異的ADA応答を検出するためのドメイン検出アッセイ(DDA)
ドメイン検出アッセイ(DDA)は、4段階サンドイッチ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を表した。
【0104】
Nunc MaxiSorp(商標)MTP上で、捕捉試薬として、Fab-オリジナル、Germ1-対照、Germ2-対照、GermGerm-対照、ラニビズマブ及び非結合ヒトFabの各3.33μg/mL及び150μL/ウェルを1時間インキュベートした。未結合物質を除去するためにPBS/Tweenでプレートを3回洗浄した後、150μLのアッセイ緩衝液を使用して、次のステップにおけるサンプルによる非特異的結合を回避するために30分間プレートをブロッキングした。プレートを洗浄した後、3μLの各サンプルを297μLのアッセイ緩衝液で希釈し、100μL/サンプルを二連で1時間インキュベートした。捕捉対照(組換え抗原-1-Dig及び組換え抗原-2-Dig)を並行して処理した。各動物の投与前サンプルは陰性対照を表した。ジゴキシル化モノクローナル抗カニクイザルIgGを検出試薬として使用した(100μL/ウェル)。捕捉対照を含むウェルを100μLのアッセイ緩衝液で満たした。ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲートしたDigに対するポリクローナルヒツジ抗体Fab断片(pAb-Dig-S-Fab-HRP)を、すべてのADAアッセイにおいて第2の検出試薬として適用した(100μL/ウェル)。ABTSを各ウェルに添加し、続く呈色反応を405nm(基準波長490nm)での測光的読出によって監視した。
【0105】
陽性試料と陰性試料とを区別するために、5つのDDAのそれぞれについてカニクイザル試験の8つの投与前サンプルのセットでカットポイント(CP)決定を行った。
【0106】
(表)5つの異なるDDAに関して用いられた捕捉対照アッセイと予想される陽性/陰性。
【0107】
全てのサンプルを3つの希釈(1~100/1~1000/1~10000)で測定する。サンプルをLow Cross Buffer(商標)で希釈し、5つすべてのアッセイで並行して測定した。
【0108】
実施例4
捕獲対照アッセイ(CCA)
5つの異なるDDAのコーティング手順の再現性を試験するために、3つの異なる結合対照アッセイを確立した。最初に、Nunc MaxiSorp(商標)プレートを、DDAに記載されているようにコーティングした。続いて、ジゴキシゲニン標識抗ヒトκ軽鎖抗体又はジゴキシゲニン標識抗原-1若しくは抗原-2を50ng/mLの濃度でインキュベートした。第2検出試薬として、HRPにコンジュゲートしたジゴキシゲニンに対するポリクローナルヒツジ抗体Fab断片(pAb<Dig>S-Fab-HRP)を適用した。ABTSを各ウェルに添加し、続く呈色反応を405nm(基準波長490nm)での測光的読出によって監視した。これらのアッセイを使用して、コーティングの再現性及びコーティングされたタンパク質の機能性を確認した。さらに、サンプル測定中、捕捉対照1アッセイを準陽性対照(「代用PC」)として測定プレートで実施して、異なるプレートでの個々の測定の比較可能性を確実にした。このCCAのシグナルを監視し、1.8~2.2 OD405nmのシグナル強度でアッセイを停止した。
【0109】
実施例5
本発明によるドメイン検出アッセイ(DDA)の特性評価
使用したサンプルは、薬物として二重特異性抗抗原-1/抗原-2 Fabを用いたカニクイザルにおける前臨床耐容性試験から採取した。ADAスクリーニングのための初期架橋アッセイ(Wessels,U.,et al.,Bioanal.10(2018)803-814)におけるADA陽性に基づいて、二重特異性抗原-1/抗原-2 Fabで処置した8匹の異なる動物由来の16個の血漿サンプルを、本発明による方法を用いたADA特性評価のために選択した。各動物から、特異的陰性対照としての投与前サンプル及び投与後35日目サンプルを試験した。各動物由来の投与前のカニクイザルのクエン酸-テオフィリン-アデニン-ジピリダモール(CTAD)血漿サンプルをDDAの陰性対照として使用した。
【0110】
アッセイの適格性
この実施例に記載されている本発明による方法の実施例は、ADA応答の特性評価のためのものであり、5つの個々のDDAが互いに関連して分析された結果に基づく(この例で使用されている設定及び予想される陽性パターンを示す図6及び図7を参照)。これは、5つの異なる陽性対照の生成を必要とする。これは、DDAの一般的な課題であり、この刊行物に記載されているアッセイ(Gorovits,B.,et al.,J.Immunol.Meth.408(2014)1-12;Hock,M.B.,et al.,AAPS J.17(2015)35-43)に限定されない。これらのアッセイの最適な適格性のために、特異的陽性対照を作製しなければならず、これは、完全な化合物及び良好なスクリーニング概念を用いたマウスの免疫化によって達成することができる。別の可能性は、個々のドメインに対する既に利用可能な抗体の使用であろう(Stubenrauch,K.,et al.,J.Pharm.Biomed.Anal.114(2015)296-304)。この実施例で使用されるFab治療薬の特徴のために、第2の手法は不可能であり、残念ながら、特異的免疫化は非常に時間がかかり、面倒である。陽性対照がなければ、これらのアッセイの適格性のための標準的な手法は不可能であった。したがって、捕捉対照アッセイとアッセイ特異的カットポイント決定との組み合わせを、信頼できるデータをもたらす実際的な手法として使用した。
【0111】
捕捉の一貫性
捕捉対照アッセイからのデータは、精度値の決定を可能にする。この精度値は、コーティングの再現性を反映している。抗カッパIgG抗体に基づくCCAは、Fab表面コーティングの効率を示す測定値である。この値は、5つすべての個々のDDAについて決定された。AG1及びAG2に基づくCCAはまた、結合したFab断片のCDRが、抗原又は潜在的なADAのいずれかにアクセス可能であるかどうかを示す。正確なデータは、3つの異なるイントラ・アッセイの実行において、3つすべてのCCAについて、1~3%という非常に小さな変動を示す。
【0112】
(表)5つのドメイン検出アッセイにおける、3つすべての捕捉対照アッセイの正確なデータ。
*それぞれの標的に対する結合適格性のない構築物
【0113】
コーティングされた抗体の量並びに抗原に結合するそれらの能力は一定であることが分かる。コーティングにおけるこの堅牢性は、データの比較可能性のための前提条件である。このデータはまた、使用された構築物がすべて、所望の機能性を有するか、又はもはや有さないことを示す。
【0114】
DDAカットポイントの決定
対応する投与前サンプルを測定することによって、ADA陽性を評価するために、5つすべてのDDAについて試験特異的カットポイントを計算した(n=8動物)。カットポイントの計算には、99%パーセンタイルを使用した。
【0115】
全てのアッセイについての多重正規化係数並びに対応するカットポイントを以下の表に列挙する。
【0116】
アッセイ範囲は、ジゴキシゲニン標識抗原(抗原-1及び抗原-2)の使用によって決定した。50ng/mlの抗原-1-Dig又は抗原-2-Digの濃度で、1.8~2.2 OD405nmのシグナルに達するまでアッセイを展開した。このシグナル範囲を実際のサンプル測定における反応停止の基準として用いた。実際のサンプルをアッセイ緩衝液で1:100に希釈した。2.2 OD405nmを超えるシグナルに達した場合、サンプルを1:10段階でさらに希釈した。
【0117】
各個々の構築物について、それぞれの投与前サンプルを用いてカットポイント決定を行った。
【0118】
(表)カットポイント決定:DDAアッセイにおける投与前サンプルのシグナルを得た。99%パーセンタイルを使用して、以下に示すアッセイ特異的カットポイントを計算した。
【0119】
DDAの薬物耐性
使用したサンプルは、遅い時点(薬物投与後35日目)からのものである。したがって、残留薬物の測定レベルは非常に低く、これらのアッセイに対する残留薬物の影響は予想されない。これを理論的に考察するために、このアッセイでは、標識薬物は非常に高い濃度でコーティングされており、これはサンプル中の残留薬物と直接競合していると言わなければならない。したがって、理論上の薬物耐性は、少なくとも標準的な架橋アッセイと同程度に良好でなければならない。必要に応じて、これは、架橋ADAアッセイと同様の方法で改善することができる。例えば、サンプルを酸で前処理して、既存の薬物-ADA複合体を溶解することができる(例えば、Kavita,U.,et al.,J.Immunol.Meth.448(2017)91-104を参照)。
【0120】
捕捉抗体/ドメインの質量濃度は、投与後35日目にサンプル中に存在する残留薬物レベルと比較して桁違いに高かったので、このアッセイは高度に薬物耐性であることが示されている。これは滴定実験によっても確認され、薬物をサンプルから希釈した場合、特異的ADA認識シグナルが依然として非常に陽性であることを示した。
【0121】
ドメイン検出アッセイを用いたサンプル分析
使用した3つの希釈物すべてを含むすべてのサンプルの数値データを、以下の表に見ることができる。
【0122】
(表)数値ADAドメイン検出アッセイの結果。図8図11のグラフ図に使用される値は太字で示されている。
【0123】
図8図11に示すように、データを互いに比較するために異なる希釈を選択した。発色性ABTS基質の線形範囲は制限され、シグナルの高さを明確に区別できるようにするために、サンプルを異なる程度に希釈しなければならない。8匹の動物のうち6匹について、1~1000希釈を使用した。動物3では、免疫応答が弱く、1~100の希釈を選択し、動物1では、免疫応答が非常に強いため、1~10000の希釈を選択した。
【0124】
4つのADA応答パターン(以下では、図8図11の対応する結果と一致して、8、9、10及び11と呼ばれる)を識別することができ、これらは試験の8匹すべてのADA陽性動物について代表的である。
【0125】
パターン8:動物1及び2は、分子の異なる部分(CDR及びバックボーン)に対する混合ADA応答を明らかにする。完全に結合するコンピテント<AG1/AG2>二重特異性F(ab)、Germ<AG1>対照及びGerm<AG2>対照に対する強い応答が見られ得る。完全に生殖系列化した対照構築物(GermGerm-対照)及びラニビズマブに対して中程度の応答が検出され、分子の定常領域に対するADAの存在が示された。ADAの大部分は、同様の割合で両方のCDRに対して向けられるようである。
【0126】
パターン9:動物3及び4は、定常領域に対するADAなしのCDR領域の認識のみを示す。動物3では、両方のCDRに対するシグナルは、ここではパターンAよりも低く、より中程度のADA応答を示唆するが、動物4はパターンAと同様のシグナル強度を示す。これらの2つの動物においても、両方のCDRに対して同様の数のADAが存在するようである。
【0127】
パターン10:動物5及び6はパターン8と同様であり、CDRと定常領域の両方に対する混合応答を示す。しかしながら、パターン8と比較して、分子の定常領域に対するはるかに低い割合のADAが検出された。
【0128】
パターン11:動物7及び8は、定常領域に対してはADAを示さず、CDRに対してのみADAを示す。パターン9及び他のすべての動物とは異なり、本発明者らは、抗原1及び2に対する2つのCDRの間に異なるADA分布を認める。AG1結合部位に対して、より多くのADAが存在するようである。
【0129】
概して、すべての投与前サンプルが、5つすべてのDDAにおいてADA陰性であった。したがって、本発明者らは、投与後35日目のカニクイザル試験サンプルから観察されたすべての免疫原性応答が処置関連ADA応答であると結論付ける。
【0130】
投与前サンプルのシグナルも、5つすべてのDDAの小さな変動と非常によく匹敵した。したがって、これらの値を使用して、試験カットポイント(上記参照:DDAカットポイント決定)において特異的なDDAを計算した。この進行のために、使用されるベースラインサンプルの数が関係しており、推奨事項(Shankar,G.,et al.,J.Pharm.Biomed.Anal.48(2008)1267-1281;Amaravadi,L.,et al.,Bioanal.7(2015)3107-3124)は、少なくとも50個の投与前サンプルを使用することである。これは、このような多くの前臨床試験において有意により低い動物数では不可能である。それにもかかわらず、この測定の調査的性質を考慮すると、この手法が選択されている。
【0131】
上記を要約すると、本発明による方法では、8匹すべての動物がCDRSに対してADAを示すことが判明し、8匹の動物のうち2匹でのみ、これらの応答はわずかに異なっていた。この混合免疫応答のために、二重特異性分子の2つのCDR領域のうちの1つが、観察された免疫応答の主な原因であった可能性は低い。個々のドメインが強く異なる免疫原性を示すことは観察されなかった。
【0132】
対処しなければならなかったもう1つの点は、野生型Fab断片とはわずかに異なる構造を有する、ここで使用される操作された二重特異性F(ab)断片がより高い免疫原性リスクを有するかどうかという問題であった。8匹の動物のうち4匹が、定常領域に対する抗体を示した。どのサンプルにおいても、ラニビズマブを含むDDAと比較して、Germ-Germバリアントを含むDDAにおけるより高いシグナルが見出されなかった。これは、いくつかの臨床試験(Figurska,M.,et al.,Klin.Oczna.112(2010)147-150)で示されるように、ラニビズマブ(その低い免疫原性のために知られている眼治療薬)に存在せずGerm-Germバリアントにのみ存在するネオエピトープに対する免疫応答の証拠であろう。
【0133】
上記の知見に基づいて、上記のカニクイザル試験からのすべての免疫原性応答は、処置関連ADA応答である。処置誘導性ADAのデュアル/二重特異性Fab特異性を確認した。概して、免疫原性応答は、HVR及び定常Fab部分に対するものである。動物の50%では、HVRに対する純粋な「単一特異性」応答が観察されるが、他の半分では、HVRとバックボーンの両方に対する混合応答が見られる。
【0134】
HVRの寄与を伴わない定常バックボーンに対するADA応答は観察されない。特に、二重特異性Fabの定常部分に対する抗薬物抗体は、非結合(DP47)対照分子及びラニビズマブのような古典的ヒトFab分子に対して交差反応性である。これは、二重特異性Fabにおける分子固有の免疫原性特性についてのヒントがないので、潜在的なヒト用途に対する重要な結果である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11