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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】窒化物半導体紫外線発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/18 20100101AFI20241011BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20241011BHJP
   H01L 33/20 20100101ALI20241011BHJP
【FI】
H01L33/18
H01L33/32
H01L33/20
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022550255
(86)(22)【出願日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2020035236
(87)【国際公開番号】W WO2022059125
(87)【国際公開日】2022-03-24
【審査請求日】2023-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114476
【弁理士】
【氏名又は名称】政木 良文
(72)【発明者】
【氏名】平野 光
(72)【発明者】
【氏名】長澤 陽祐
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/013729(WO,A1)
【文献】特開2009-123969(JP,A)
【文献】特開2020-068283(JP,A)
【文献】国際公開第2019/159265(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/102557(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0103289(US,A1)
【文献】国際公開第2013/021464(WO,A1)
【文献】特開2013-046062(JP,A)
【文献】特開2015-216352(JP,A)
【文献】特開2015-035536(JP,A)
【文献】Nagasawa, Y., et. al.,,Two-dimensional analysis of the nonuniform quantum yields of multiple quantum wells for AlGaN-based deep-ultraviolet LEDs grown on AlN templates with dense macrosteps usingn cathodoluminescence spectroscopy,J. of Applied Physics,126,米国,2019年
【文献】Nagamatsu K., et. al.,,Effect of c-plane sapphire misorientation on the growth of AlN by high-temperature MOVPE,Physica Status Solidi C,5, No. 9,米国,2008年
【文献】Kojima, K. et. al.,,Carrier localizzation structure combined with current micropaths in AlGaN quantum wells grown on an AIN template with macrosteps,Appl. Phys. Lett.,114,米国,2019年01月07日
【文献】Nagasawa, Y., et. al.,,Comparison of AlxGa1-xN multiple quantum wells designed for 265 and 285nm deep-ultraviolet LEDs grown on AlN templates having macrosteps,Applied Physics Express,12,日本,2019年
【文献】Moustakas T. D.,Ultraviolet optoelectronic devices based on AlGaN alloys grown by molecular beam epitaxy,MRS communications,6,米国,2016年,247-269
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00 - 33/64
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなるピーク発光波長が250nm~310nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子であって、
前記n型層がn型AlGaN系半導体で構成され、
前記n型層と前記p型層の間に配置された前記活性層が、AlGaN系半導体で構成された1層以上の井戸層を含む量子井戸構造を有し、
前記p型層がp型AlGaN系半導体で構成され、
前記n型層と前記活性層と前記p型層内の各半導体層が、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層であり、
前記n型層が、前記n型層内で一様に分散して存在する局所的にAlNモル分率の低い層状領域を有し、
前記n型層の上面と直交する第1平面上での前記層状領域の各延伸方向が、前記n型層の前記上面と前記第1平面との交線に対して傾斜している部分を有し、
前記p型層が、前記p型層内の最下層として、前記1層以上の井戸層の最上層の上面側に形成された電子ブロック層を有し、更に、前記p型層内の最上層として、p型GaN系半導体で構成されたコンタクト層を有し、
前記活性層内の各半導体層と前記電子ブロック層が、前記多段状のテラスの隣接するテラス間を連結する(0001)面に対して傾斜した傾斜領域と、前記傾斜領域以外のテラス領域をそれぞれ有し、
前記電子ブロック層の前記テラス領域のAlNモル分率が85%以上90%以下であり、前記電子ブロック層の前記傾斜領域内に、AlNモル分率が局所的に前記電子ブロック層の前記テラス領域のAlNモル分率より低い第1Ga富化領域が存在し、
前記井戸層の前記傾斜領域内に、AlNモル分率が局所的に前記井戸層の前記テラス領域のAlNモル分率より低い第2Ga富化領域が存在することを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項2】
前記第1Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa なっている第1準安定p型領域が存在することを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項3】
前記p型層が、前記電子ブロック層と前記コンタクト層の間に、1層以上のp型AlGaN系半導体で構成されたp型クラッド層を有し、
前記p型クラッド層が、前記多段状のテラスの隣接するテラス間を連結する(0001)面に対して傾斜した傾斜領域と、前記傾斜領域以外のテラス領域とをそれぞれ有し、
前記p型クラッド層の前記テラス領域のAlNモル分率が52%以上、前記電子ブロック層の前記テラス領域のAlNモル分率未満であり、
前記p型クラッド層の前記傾斜領域内に、AlNモル分率が局所的に前記p型クラッド層の前記テラス領域のAlNモル分率より低い第3Ga富化領域が存在することを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項4】
前記第1Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa あるp型の準安定AlGaNで構成された第1準安定p型領域が存在し、
前記第3Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa12、または、AlGaであって、且つ、AlNモル分率が前記第1準安定p型領域のAlNモル分率未満であるp型の準安定AlGaNで構成された第2準安定p型領域が存在することを特徴とする請求項3に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項5】
記井戸層の前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa12、AlGa、または、AlGaである準安定AlGaNで構成された準安定井戸領域が存在することを特徴とする請求項2または4に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項6】
前記活性層が、2層以上の前記井戸層を含む多重量子井戸構造を有し、
2層の前記井戸層間にAlGaN系半導体で構成されたバリア層が存在することを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項7】
前記バリア層が、AlGaN系半導体で構成され、前記多段状のテラスの隣接するテラス間を連結する(0001)面に対して傾斜した傾斜領域と、前記傾斜領域以外のテラス領域とをそれぞれ有し、
前記バリア層の前記傾斜領域内に、AlNモル分率が局所的に前記バリア層の前記テラス領域のAlNモル分率より低い第4Ga富化領域が存在することを特徴とする請求項6に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項8】
サファイア基板を含む下地部を、さらに備え、
前記サファイア基板は、(0001)面に対して所定の角度だけ傾斜した主面を有し、当該主面の上方に前記発光素子構造部が形成されており、
前記サファイア基板の前記主面から前記p型層の前記コンタクト層までの各半導体層が、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層であることを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなるピーク発光波長が250nm~310nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、窒化物半導体発光素子は、サファイア等の基板上にエピタキシャル成長により複数の窒化物半導体層からなる発光素子構造を形成したものが多数存在する。窒化物半導体層は、一般式Al1-x-yGaInN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される。
【0003】
発光ダイオードの発光素子構造は、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層の2つのクラッド層の間に、窒化物半導体層よりなる活性層が挟まれたダブルへテロ構造を有している。活性層がAlGaN系半導体の場合、AlNモル分率(Al組成比とも言う)を調整することにより、バンドギャップエネルギを、GaNとAlNが取り得るバンドギャップエネルギ(約3.4eVと約6.2eV)を夫々下限及び上限とする範囲内で調整でき、発光波長が約200nmから約365nmまでの紫外線発光素子が得られる。具体的には、p型窒化物半導体層からn型窒化物半導体層に向けて順方向電流を流すことで、活性層においてキャリア(電子及び正孔)の再結合による上記バンドギャップエネルギに応じた発光が生じる。当該順方向電流を外部から供給するために、p型窒化物半導体層上にp電極が、n型窒化物半導体層上にn電極が、夫々設けられている。
【0004】
活性層がAlGaN系半導体の場合、活性層を挟むn型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層は、活性層より高AlNモル分率のAlGaN系半導体で構成される。しかし、高AlNモル分率のp型窒化物半導体層は、p電極と良好なオーミック接触を形成することが困難なため、p型窒化物半導体層の最上層に低AlNモル分率のp型AlGaN系半導体(具体的にはp-GaN)からなるp電極と良好なオーミック接触可能なp型コンタクト層を形成することが一般的に行われている。このp型コンタクト層は、AlNモル分率が活性層を構成するAlGaN系半導体より小さいため、活性層からp型窒化物半導体層側に向けて出射された紫外線は該p型コンタクト層で吸収され、素子外部に有効に取り出すことができない。このため、活性層がAlGaN系半導体の一般的な紫外線発光ダイオードは、図15に模式的に示すような素子構造を採用し、活性層からn型窒化物半導体層側に向けて出射された紫外線を素子外部に有効に取り出している(例えば、下記の特許文献1及び2等参照)。
【0005】
図15に示すように、一般的な紫外線発光ダイオードは、サファイア基板等の基板100上にAlGaN系半導体層101(例えば、AlN層)を堆積して形成されたテンプレート102上に、n型AlGaN系半導体層103、活性層104、p型AlGaN系半導体層105、及び、p型コンタクト層106を順番に堆積し、活性層104とp型AlGaN系半導体層105とp型コンタクト層106の一部を、n型AlGaN系半導体層103が露出するまでエッチング除去し、n型AlGaN系半導体層103の露出面にn電極107を、p型コンタクト層106の表面にp電極108を夫々形成して構成される。
【0006】
また、活性層内でのキャリア再結合による発光効率(内部量子効率)を高めるために、活性層を多重量子井戸構造とすること、活性層上に電子ブロック層を設けること等が実施されている。
【0007】
ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなる窒化物半導体紫外線発光素子においては、上記n型層、活性層、及びp型層内の各半導体層は、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層となっている。尚、下記の非特許文献1,2では、上記多段状のテラスが半導体層の表面に表出した構造は、マクロステップ(macrosteps)と表現されている。
【0008】
n型AlGaN系半導体層で構成されるn型クラッド層内及びAlGaN系半導体層で構成される多重量子井戸構造の各井戸層内では、Gaの偏析(Gaの質量移動に伴う偏析)による組成変調が生じる。この結果、当該マクロステップ構造では、n型クラッド層内において、局所的にAlNモル分率の低いn型クラッド層表面に対して斜め方向に延伸する層状領域が形成され、各井戸層内において、(0001)面に平行な多段状の隣接するテラス間を連結する(0001)面に対して傾斜した局所的にAlNモル分率の低い傾斜領域が形成される(下記の非特許文献1,2、特に、非特許文献1の図1及び非特許文献2の図5参照)。尚、当該傾斜領域は多数のステップ(1ユニットセルの段差)及びマクロステップ(複数ユニットセルの段差)が集合している構造であり、傾斜領域に階段状に表出する(0001)面は、多段状のテラスのテラス面とは区別される。
【0009】
更に、局所的にAlNモル分率の低いAlGaN系半導体層はバンドギャップエネルギが局所的に小さくなるため、n型クラッド層内のキャリアは層状領域に、各井戸層内のキャリアは傾斜領域に、それぞれ局在化し易くなる。下記の非特許文献1,2では、n型クラッド層内の層状領域の延長上に、各井戸層内の傾斜領域が位置しているため、層状領域が低抵抗の電流経路として機能し、n型クラッド層内のキャリアを各井戸層内の傾斜領域に効率的に供給することができ、各井戸層内の傾斜領域が発光再結合の局在中心となって、窒化物半導体紫外線発光素子の内部量子効率の向上が図れることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2014/178288号公報
【文献】国際公開第2016/157518号公報
【文献】国際公開第2019/159265号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Y. Nagasawa, et al., "Comparison of AlxGa1-xNmultiple quantum wells designed for 265 and 285nm deep-ultraviolet LEDs grown on AlN templates having macrosteps", Applied Physics Express 12, 064009 (2019)
【文献】K. Kojima, et al., "Carrier localization structure combined with current micropaths in AlGaN quantum wells grown on an AlN template with macrosteps", Applied Physics letter 114, 011102 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
井戸層内におけるキャリア(電子及び正孔)の再結合による発光効率の向上を図るためには、井戸層内へのn型層側からのキャリア(電子)の注入と、p型層側からのキャリア(正孔)の注入の両方が効率的に行われる必要がある。一般的に、n型層側からの井戸層内へのキャリア(電子)の注入効率を高めるため、n型クラッド層や量子バリア層のAlNモル分率より高い通常80%以上のAlNモル分率の電子ブロック層が、活性層の最もp型層寄りの井戸層のp型層側に設けられている。
【0013】
電子ブロック層内においても、井戸層と同様に、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成されるため、隣接するテラス間を連結する(0001)面に対して傾斜した傾斜領域が形成される。しかしながら、従来の窒化物半導体紫外線発光素子では、電子ブロック層のAlNモル分率が極めて高いため、n型クラッド層及び井戸層内で生じているGaの偏析による組成変調が電子ブロック層内では生じ難くなっており、電子ブロック層内のAlNモル分率は傾斜領域とテラス領域の間で差が生じ難い。
【0014】
井戸層及び電子ブロック層の当該傾斜領域の膜厚は、ステップフロー成長におけるテラスエッジの側面の横方向への成長に伴い、井戸層及び電子ブロック層の各上面のテラスが、各下面のテラスに対して横方向に移動するため、傾斜領域以外のテラス領域の膜厚より厚くなる。
【0015】
図16は、一例として、従来の窒化物半導体紫外線発光素子のn型クラッド層(n-clad)、3層の量子井戸層(QW)を有する活性層、及び、電子ブロック層(EB)の断面構造を示す高角散乱環状暗視野(HAADF)-STEM像である。HAADF-STEM像は、原子量に比例したコントラストが得られ、重い元素は明るく表示される。よって、AlNモル分率の低い領域は、相対的に明るく表示される。HAADF-STEM像は、通常のSTEM像(明視野像)よりAlNモル分率の差の観察には適している。
【0016】
図16より、n型クラッド層内に、局所的にAlNモル分率の低い層状領域が上下方向に分散して存在し、層状領域のそれぞれが、HAADF-STEM像の画面上において、n型クラッド層の上面に対して傾斜した方向に延伸していることが分かる。更に、図16より、活性層及び電子ブロック層内の層状領域の延伸方向と交差する箇所に、各井戸層及び電子ブロック層の傾斜領域が存在し、膜厚がテラス領域より厚くなっていることが確認できる。図16では、n型クラッド層及び井戸層内でGaの偏析による組成変調が生じて、n型クラッド層の層状領域及び井戸層の傾斜領域においてAlNモル分率の低下が生じていることが確認できるが、電子ブロック層内でGaの偏析による組成変調が生じて、電子ブロック層の傾斜領域においてAlNモル分率の低下が生じていることは確認できない。
【0017】
従来の窒化物半導体紫外線発光素子において、電子ブロック層内に形成される傾斜領域において、Gaの偏析による組成変調が生じず、井戸層のような局所的なAlNモル分率の低下が生じないこと、及び、膜厚がテラス領域より厚くなっていることが、p型層側から井戸層内へのキャリア(正孔)の効率的な注入の阻害要因となり得る。この点を、図17において模式的に説明する。
【0018】
p電極とn電極間にフォーワードバイアスが印加されると、図17に模式的に示すように、p型コンタクト層(p-GaN)から電子ブロック層(EB)内に、正孔(h+)が注入されるが、上述のように、電子ブロック層内では、傾斜領域のAlNモル分率は局所的に低下しておらず、キャリア(正孔)の局在化は誘発されず、逆に、傾斜領域の膜厚が厚いため、電気抵抗が高く正孔の通過が阻害されるため、電子ブロック層内に注入された正孔は、テラス領域から井戸層内のテラス領域に到達する。一方、電子(e-)は、n型クラッド層側から層状領域を経由して、井戸層(QW)内の傾斜領域に到達する。電子と正孔が、井戸層の傾斜領域内の局在中心(図中、☆(星印)で図示)で発光再結合するには、井戸層内のテラス領域に到達した正孔が、傾斜領域まで拡散して到達する必要がある。しかし、正孔の拡散長は電子より短く、傾斜領域まで拡散して到達する正孔の量は限られており、井戸層内のテラス領域に到達した正孔は、一部がテラス領域内を拡散中に、点欠陥であるAl空孔等の非発光再結合中心(図中、●(黒丸)で図示)に捕獲され非発光再結合するため、内部量子効率が低下するという問題がある。
【0019】
更に、ピーク発光波長が約285nm以上の窒化物半導体紫外線発光素子では、約285nm未満の場合と比較して、井戸層を構成するAlGaN系半導体のAlNモル分率が低いため、相対的に点欠陥となるAl空孔が少なくなっており、井戸層内のテラス領域に到達した正孔は、傾斜領域よりAlNモル分率の高いテラス領域内で発光再結合して、傾斜領域より短波長での発光が生じるという問題が生じる。具体的には、発光スペクトルにおいて波長の異なる2つの発光ピークが1つのピークに合成されず分離して現れるというダブルピーク発光が生じ、歩留まり低下の要因となる。
【0020】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及び、電子ブロック層を含むp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなるピーク発光波長が250nm~310nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子において、内部量子効率の低下、或いは、ダブルピーク発光の発生を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、上記目的を達成するために、ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなるピーク発光波長が250nm~310nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子であって、
前記n型層がn型AlGaN系半導体で構成され、
前記n型層と前記p型層の間に配置された前記活性層が、AlGaN系半導体で構成された1層以上の井戸層を含む量子井戸構造を有し、
前記p型層がp型AlGaN系半導体で構成され、
前記n型層と前記活性層と前記p型層内の各半導体層が、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層であり、
前記n型層が、前記n型層内で一様に分散して存在する局所的にAlNモル分率の低い層状領域を有し、
前記n型層の上面と直交する第1平面上での前記層状領域の各延伸方向が、前記n型層の前記上面と前記第1平面との交線に対して傾斜している部分を有し、
前記p型層が、前記p型層内の最下層として、前記1層以上の井戸層の最上層の上面側に形成された電子ブロック層を有し、更に、前記p型層内の最上層として、p型GaN系半導体で構成されたコンタクト層を有し、
前記活性層内の各半導体層と前記電子ブロック層が、前記多段状のテラスの隣接するテラス間を連結する(0001)面に対して傾斜した傾斜領域と、前記傾斜領域以外のテラス領域をそれぞれ有し、
前記電子ブロック層の前記テラス領域のAlNモル分率が69%以上89%以下であり、前記電子ブロック層の前記傾斜領域内に、AlNモル分率が局所的に前記電子ブロック層の前記テラス領域のAlNモル分率より低い第1Ga富化領域が存在し、
前記井戸層の前記傾斜領域内に、AlNモル分率が局所的に前記井戸層の前記テラス領域のAlNモル分率より低い第2Ga富化領域が存在することを第1の特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子を提供する。
【0022】
尚、AlGaN系半導体とは、一般式Al1-xGaN(0≦x≦1)で表されるが、バンドギャップエネルギがGaNとAlNが取り得るバンドギャップエネルギを夫々下限及び上限とする範囲内であれば、BまたはIn等の3族元素またはP等の5族元素等の不純物を微量に含んでいてもよい。また、GaN系半導体とは、基本的にGaとNで構成される窒化物半導体であるが、Al、BまたはIn等の3族元素またはP等の5族元素等の不純物を微量に含んでいてもよい。また、AlN系半導体とは、基本的にAlとNで構成される窒化物半導体であるが、Ga、BまたはIn等の3族元素またはP等の5族元素等の不純物を微量に含んでいてもよい。従って、本願では、GaN系半導体及びAlN系半導体は、それぞれAlGaN系半導体の一部である。
【0023】
更に、n型またはp型AlGaN系半導体は、ドナーまたはアクセプタ不純物としてSiまたはMg等がドーピングされたAlGaN系半導体である。本願では、p型及びn型と明記されていないAlGaN系半導体は、アンドープのAlGaN系半導体を意味するが、アンドープであっても、不可避的に混入する程度の微量のドナーまたはアクセプタ不純物は含まれ得る。また、第1平面は、前記n型層の製造過程で具体的に形成された露出面や他の半導体層との境界面ではなく、前記n型層内を上下方向に平行に延伸する仮想的な平面である。更に、本明細書において、AlGaN系半導体層、GaN系半導体層、及びAlN系半導体層は、それぞれ、AlGaN系半導体、GaN系半導体、及びAlN系半導体で構成された半導体層である。
【0024】
更に、電子ブロック層及び井戸層等の活性層及びp型層内各半導体層におけるテラス領域のAlNモル分率とは、各テラス面で生じるGaの質量移動に起因するテラス面内でのAlNモル分率の変動を均した平均的なAlNモル分率を意味する。
【0025】
上記第1の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、従来の窒化物半導体紫外線発光素子と異なり、電子ブロック層の傾斜領域内に、AlNモル分率が局所的にテラス領域のAlNモル分率より低い第1Ga富化領域が存在し、第1Ga富化領域内でキャリア(正孔)の局在化が生じ得るため、電子ブロック層内に注入される正孔は、傾斜領域内にも直接注入され得る。この結果、電子ブロック層の傾斜領域内に直接注入され、テラス領域内を拡散せずに発光再結合の局在中心である井戸層の傾斜領域内に到達する正孔の量が大幅に増加し、従来の窒化物半導体紫外線発光素子において課題となっていた内部量子効率の低下、及び、ダブル発光ピークの発生を抑制することができる。
【0026】
更に、本発明は、上記第1の特徴に加えて、前記第1Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa、または、AlGaとなっている第1準安定p型領域が存在することを第2の特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子を提供する。
【0027】
ところで、AlGaN系半導体で構成される紫外線発光素子は、サファイア基板等の基板上に、例えば、有機金属化合物気相成長(MOVPE)法等の周知のエピタキシャル成長法によって作製される。しかしながら、紫外線発光素子を生産する場合、紫外線発光素子の特性(発光波長、ウォールプラグ効率、順方向バイアス等の特性)は、結晶成長装置のドリフトの影響を受けて変動するため、安定した歩留まりでの生産は必ずしも容易ではない。
【0028】
結晶成長装置のドリフトは、トレーやチャンバの壁等の付着物が原因で、結晶成長部位の実効温度が変化すること等に起因して生じる。このため、ドリフトを抑制するために、従来は、成長履歴を検討して、経験者が設定温度や原料ガスの組成を微妙に変化させる、或いは、一定期間の成長スケジュールを固定して、清掃等のメンテナンスも一定期間で同じように実施する等の工夫をしているが、ドリフトを完全に排除をすることは難しい。
【0029】
上記第2の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、以下に説明するように、電子ブロック層内の第1Ga富化領域に形成される後述する準安定AlGaNで構成される第1準安定p型領域を利用することで、結晶成長装置のドリフト等に起因する特性変動が抑制され、所期の発光特性を有する窒化物半導体紫外線発光素子を安定的に生産できることが期待される。
【0030】
更に、上記第2の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、電子ブロック層のテラス領域のAlNモル分率が69%~89%の範囲内にあるので、第1Ga富化領域内の第1準安定p型領域のAlGaN組成比が整数比のAlGa(AlNモル分率:6分の5=83.3%)、AlGa(AlNモル分率:4分の3=75%)、または、AlGa(AlNモル分率:3分の2=66.7%)の何れであっても、第1準安定p型領域のAlGaN組成比に応じて、電子ブロック層内において、テラス領域と第1準安定p型領域間のAlNモル分率差を約2%以上確保して、テラス領域のAlNモル分率の設定範囲を調整することができる。従って、p型層内のキャリア(正孔)は、電子ブロック層内においてテラス領域よりバンドギャップエネルギの小さい第1Ga富化領域を含む傾斜領域内に、より安定的に局在化し、電子ブロック層内において電流は優先的に第1Ga富化領域を安定的に流れることができ、窒化物半導体紫外線発光素子の特性変動の抑制が図れる。
【0031】
本明細書では、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa、AlGa 12、AlGa12、AlGa、AlGaのAlNモル分率をそれぞれ百分率で表記する場合、近似的に、83.3%、66.7%、58.3%、41.7%、33.3%、16.7%と示す。
【0032】
更に、本発明は、上記第1の特徴に加えて、前記p型層が、前記電子ブロック層と前記コンタクト層の間に、1層以上のp型AlGaN系半導体で構成されたp型クラッド層を有し、
前記p型クラッド層が、前記多段状のテラスの隣接するテラス間を連結する(0001)面に対して傾斜した傾斜領域と、前記傾斜領域以外のテラス領域とをそれぞれ有し、
前記p型クラッド層の前記テラス領域のAlNモル分率が52%以上、前記電子ブロック層の前記テラス領域のAlNモル分率未満であり、
前記p型クラッド層の前記傾斜領域内に、AlNモル分率が局所的に前記p型クラッド層の前記テラス領域のAlNモル分率より低い第3Ga富化領域が存在することを第3の特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子を提供する。
【0033】
上記第3の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、p型クラッド層の傾斜領域内に、AlNモル分率が局所的にテラス領域のAlNモル分率より低い第3Ga富化領域が存在し、第3Ga富化領域内でキャリア(正孔)の局在化が生じ得るため、p型クラッド層内に注入される正孔は、傾斜領域内にも直接注入されるか、或いは、テラス領域内を拡散して傾斜領域内に到達し得る。このため、p型クラッド層が設けられていない場合に、低抵抗のp-GaNからなるp型コンタクト層から薄膜の電子ブロック層のテラス領域に注入され、そのまま井戸層のテラス領域に到達する正孔の一部を、p型クラッド層のテラス領域から傾斜領域内に誘導し、井戸層の傾斜領域内に到達させることができ、内部量子効率の低下、及び、ダブル発光ピークの発生を更に抑制することができる。
【0034】
更に、本発明は、上記第3の特徴に加えて、前記第1Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa、または、AlGaであるp型の準安定AlGaNで構成された第1準安定p型領域が存在し、
前記第3Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa12、または、AlGaであって、且つ、AlNモル分率が前記第1準安定p型領域のAlNモル分率未満であるp型の準安定AlGaNで構成された第2準安定p型領域が存在することを第4の特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子を提供する。
【0035】
上記第4の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、以下に説明するように、電子ブロック層内の第1Ga富化領域に形成される後述する準安定AlGaNで構成される第1準安定p型領域と、p型クラッド層内の第3Ga富化領域に形成される後述する準安定AlGaNで構成される第2準安定p型領域を利用することで、結晶成長装置のドリフト等に起因する特性変動が抑制され、所期の発光特性を有する窒化物半導体紫外線発光素子を安定的に生産できることが期待される。
【0036】
更に、上記第4の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、電子ブロック層のテラス領域のAlNモル分率が69%~89%の範囲内にあるので、第1Ga富化領域内の第1準安定p型領域のAlGaN組成比が整数比のAlGa(AlNモル分率:6分の5=83.3%)、AlGa(AlNモル分率:4分の3=75%)、または、AlGa(AlNモル分率:3分の2=66.7%)の何れであっても、電子ブロック層内において、第1準安定p型領域のAlGaN組成比に応じて、テラス領域と第1準安定p型領域間のAlNモル分率差を約2%以上確保して、テラス領域のAlNモル分率の設定範囲を調整することができる。更に、p型クラッド層のテラス領域のAlNモル分率が52%以上、電子ブロック層のテラス領域のAlNモル分率未満の範囲内にあるので、第3Ga富化領域内の第2準安定p型領域のAlGaN組成比が整数比のAlGa(AlNモル分率:3分の2=66.7%)、AlGa12(AlNモル分率:12分の7=58.3%)、または、AlGa(AlNモル分率:2分の1=50%)の何れであっても、p型クラッド層内において、第2準安定p型領域のAlGaN組成比に応じて、テラス領域と第2準安定p型領域間のAlNモル分率差を約2%以上確保して、テラス領域のAlNモル分率の設定範囲を調整することができる。従って、p型層内のキャリア(正孔)は、p型クラッド層内においてテラス領域よりバンドギャップエネルギの小さい第3Ga富化領域を含む傾斜領域内に、より安定的に局在化し、電子ブロック層内においてテラス領域よりバンドギャップエネルギの小さい第1Ga富化領域を含む傾斜領域内に、より安定的に局在化し、p型クラッド層内及び電子ブロック層内において電流は優先的に第3Ga富化領域及び第1Ga富化領域を安定的に流れることができ、窒化物半導体紫外線発光素子の特性変動の抑制が図れる。
【0037】
ここで、AlGaN組成比が所定の整数比で表される「準安定AlGaN」について説明する。
【0038】
通常、AlGaN等の三元混晶は、ランダムに3族元素(AlとGa)が混合している結晶状態であり、「ランダム・ノンユニフォーミティ(random nonuniformity)」で近似的に説明される。しかし、Alの共有結合半径とGaの共有結合半径が異なるため、結晶構造中においてAlとGaの原子配列の対称性が高いほうが、一般的に安定な構造となる。
【0039】
ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体は、対称性のないランダム配列と安定な対称配列の2種類の配列が存在し得る。ここで、一定の比率で、対称配列が支配的となる状態が現れる。後述するAlGaN組成比(AlとGaとNの組成比)が所定の整数比で表される「準安定AlGaN」において、AlとGaの周期的な対称配列構造が発現する。
【0040】
当該周期的な対称配列構造では、結晶成長面へのGa供給量が僅かに増減しても、対称性が高いためにエネルギ的に若干安定な混晶モル分率となり、質量移動(mass transfer)し易いGaが極端に増える場所の増殖を防ぐことができる。つまり、p型層内の第1及び第2Ga富化領域に形成される「準安定AlGaN」である第1及び第2準安定p型領域の性質を利用することで、AlGaN系半導体として、結晶成長装置のドリフト等に起因する混晶モル分率の変動が生じても、後述するように活性層に対して低抵抗の電流経路を提供する電子ブロック層及びp型クラッド層の傾斜領域における混晶モル分率の変動が局所的に抑制される。この結果、p型層から活性層内への安定したキャリア供給が実現でき、デバイス特性の変動が抑制される結果、所期の特性を奏する窒化物半導体紫外線発光素子を安定的に生産できることが期待される。
【0041】
次に、AlとGaが(0001)面内で周期的な対称配列となり得るAlGaN組成比について説明する。
【0042】
図1に、AlGaNのc軸方向に1ユニットセル(2単原子層)の模式図を示す。図1において、白丸は3族元素の原子(Al,Ga)が位置するサイトを示し、黒丸は5族元素の原子(N)が位置するサイトを示している。
【0043】
図1において六角形で示される3族元素のサイト面(A3面、B3面)、及び、5族元素のサイト面(A5面、B5面)は、何れも(0001)面に平行である。A3面とA5面(総称してA面)の各サイトには、六角形の各頂点に6つ、六角形の中心に1つのサイトが存在する。B3面とB5面(総称してB面)についても同様であるが、図1では、B面の六角形内に存在する3つのサイトだけを図示している。A面の各サイトはc軸方向に重なっており、B面の各サイトはc軸方向に重なっている。しかし、B5面の1つのサイトの原子(N)は、B5面の上側に位置するA3面の3つのサイトの原子(Al,Ga)と、B5面の下側に位置するB3面の1つのサイトの原子(Al,Ga)と4配位結合を形成し、B3面の1つのサイトの原子(Al,Ga)は、B3面の上側に位置するB5面の1つのサイトの原子(N)と、B3面の下側に位置するA5面の3つのサイトの原子(N)と4配位結合を形成しているため、図1に示すように、A面の各サイトは、B面の各サイトとはc軸方向に重なっていない。
【0044】
図2は、A面の各サイトとB面の各サイトとの間の位置関係を、c軸方向から見た平面図として図示したものである。A面及びB面ともに、六角形の6つの各頂点は、隣接する他の2つの六角形により共有され、中心のサイトは他の六角形とは共有されないため、1つの六角形内には、実質的に3原子分のサイトが存在する。従って、1ユニットセル当たり、3族元素の原子(Al,Ga)のサイトが6つ、5族元素の原子(N)のサイトが6つ存在する。従って、GaNとAlNを除く整数比で表されるAlGaN組成比としては、以下の5つのケースが存在する。
1)AlGa
2)AlGa(=AlGa)、
3)AlGa(=AlGa)、
4)AlGa(=AlGa)、
5)AlGa
【0045】
図3に、上記5つの組み合わせの3族元素のA3面とB3面を模式的に示す。Gaが黒丸、Alが白丸で示されている。
【0046】
図3(A)に示すAlGaの場合、A3面の6つの頂点サイトとB3面の6つの頂点サイトと1つの中心サイトにGaが位置し、A3面の1つの中心サイトにAlが位置している。
【0047】
図3(B)に示すAlGaの場合、A3面及びB3面の3つの頂点サイトと1つの中心サイトにGaが位置し、A3面及びB3面の3つの頂点サイトにAlが位置している。
【0048】
図3(C)に示すAlGaの場合、A3面の3つの頂点サイトと1つの中心サイトとB3面の3つの頂点サイトにGaが位置し、A3面の3つの頂点サイトとB3面の3つの頂点サイトと1つの中心サイトにAlが位置している。
【0049】
図3(D)に示すAlGaの場合、A3面及びB3面の3つの頂点サイトにGaが位置し、A3面及びB3面の3つの頂点サイトと1つの中心サイトにAlが位置している。これは、図3(B)に示すAlGaの場合のAlとGaの位置を入れ替えたものに等しい。
【0050】
図3(E)に示すAlGaの場合、A3面の1つの中心サイトにGaが位置し、A3面の6つの頂点サイトとB3面の6つの頂点サイトと1つの中心サイトにAlが位置している。これは、図3(A)に示すAlGaの場合のAlとGaの位置を入れ替えたものに等しい。
【0051】
図3(A)~(E)の各図において、六角形の6つの頂点の何れか1つに中心が移動した別の六角形を想定すると、A3面の6つの頂点サイトにAlまたはGaが位置していることと、A3面の3つの頂点サイトと1つの中心サイトにAlまたはGaが位置していることと等価であり、A3面の1つの中心サイトにAlまたはGaが位置していることは、A3面の3つの頂点サイトにAlまたはGaが位置していることと等価であることが分かる。B3面についても同様である。また、図3(A),(C)及び(E)の各図において、A3面とB3面は入れ替わってもよい。
【0052】
図3(A)~(E)の各図において、A3面とB3面の何れにおいても、AlとGaの原子配列は対称性が維持されている。また、六角形の中心を移動させても、AlとGaの原子配列は対称性が維持されている。
【0053】
更に、図3(A)~(E)のA3面とB3面において、六角形のサイト面をハニカム状に繰り返して配置すると、(0001)面に平行な方向、例えば、[11-20]方向、[10-10]方向に各サイトを見ると、AlとGaが周期的に繰り返されて位置しているか、AlとGaの何れか一方が連続して位置している状態が出現する。従って、何れも、周期的で対称的な原子配列となることが分かる。
【0054】
ここで、上記1)~5)のAlGaN組成比に対応するAlNモル分率x1(x1=1/6,1/3,1/2,2/3,5/6)のAlx1Ga1-x1Nを、説明の便宜上、「第1の準安定AlGaN」と称する。第1の準安定AlGaNは、AlとGaの原子配列が周期的な対称配列となり、エネルギ的に安定なAlGaNとなる。
【0055】
次に、図1に示す六角形で示されるサイト面を2ユニットセル(4単原子層)に拡張すると、3族元素のサイト面(A3面、B3面)と5族元素のサイト面(A5面、B5面)がそれぞれ2面ずつ存在することになり、2ユニットセル当たり、3族元素の原子(Al,Ga)のサイトが12個、5族元素の原子(N)のサイトが12個存在することになる。従って、GaNとAlNを除く整数比で表されるAlGaN組成比としては、上記1)~5)のAlGaN組成比以外に、以下の6つの組み合わせが存在する。
6) AlGa1112(=GaN+AlGa)、
7) AlGa12(=AlGa=AlGa+AlGa)、
8) AlGa12(=AlGa+AlGa)、
9) AlGa12(=AlGa+AlGa)、
10)AlGa12(=AlGa=AlGa+AlGa)、
11)Al11Ga12(=AlGa+AlN)。
【0056】
しかし、これら6)~11)の6つのAlGaN組成比は、その前後に位置する第1の準安定AlGaN、GaN及びAlNの内の2つのAlGaN組成比を組み合わせたものとなるため、c軸方向の対称性が乱れる可能性が高いため、第1の準安定AlGaNより安定度は低下するが、A3面及びB3面内でのAlとGaの原子配列の対称性は、第1の準安定AlGaNと同じであるので、ランダムな非対称配列状態のAlGaNよりは安定度は高い。ここで、上記6)~11)のAlGaN組成比に対応するAlNモル分率x2(x2=1/12,1/4,5/12,7/12,3/4,11/12)のAlx2Ga1-x2Nを、説明の便宜上、「第2の準安定AlGaN」と称する。以上より、第1及び第2の準安定AlGaNは、結晶構造中におけるAlとGaの原子配列の対称性により安定な構造となる。以下、第1及び第2の準安定AlGaNを「準安定AlGaN」と総称する。
【0057】
AlGaNを一定の結晶品質を維持して成長させるには、1000℃以上の高温で結晶成長を行う必要がある。しかしながら、Gaは、結晶表面のサイトに原子が到達した後も、1000℃以上では動き回ることが想定される。一方、Alは、Gaと異なり、表面に吸着し易く、サイトに入った後の移動も、多少は動くと考えられるが制限が強い。
【0058】
従って、準安定AlGaNであっても、上記1)のAlGa、上記6)のAlGa1112、及び、上記7)のAlGaは、何れもAlNモル分率が25%以下で、Gaの組成比が高いため、1000℃付近の成長温度では、Gaの移動が激しく、原子配列の対称性が乱れ、AlとGaの原子配列はランダムな状態に近くなり、上述の安定度が、他の準安定AlGaNと比べて低下すると考えられる。
【0059】
更に、本発明は、上記第2または第4の特徴に加えて、前記第1Ga富化領域内の前記第1準安定p型領域が、AlGaN組成比が整数比のAlGa、または、AlGaであるp型の準安定AlGaNで構成されている場合、前記井戸層の前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa12、AlGa、または、AlGaである準安定AlGaNで構成された準安定井戸領域が存在し、
前記第1Ga富化領域内の前記第1準安定p型領域が、AlGaN組成比が整数比のAlGaであるp型の準安定AlGaNで構成されている場合、前記井戸層の前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa12、AlGa、または、AlGaである準安定AlGaNで構成された準安定井戸領域が存在することを第5の特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子を提供する。
【0060】
上記第5の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、井戸層内の第2Ga富化領域に形成される上述した準安定AlGaNで構成される準安定井戸領域を利用することで、結晶成長装置のドリフト等に起因する特性変動が抑制され、所期の発光特性を有する窒化物半導体紫外線発光素子を安定的に生産できることが期待される。
【0061】
更に、上記第5の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、第1Ga富化領域内に安定的に形成されるAlNモル分率が83.3%、75%、または、66.7%の準安定AlGaNに応じて、ピーク発光波長が250nm~310nmの範囲内となる第2Ga富化領域内に形成される準安定AlGaNの好適な組み合わせとして、AlGaN組成比がAlGa、AlGa12、AlGa、AlGa、または、AlGaの5つの準安定AlGaNの何れか1つが存在する。つまり、ピーク発光波長の目標値に応じて、上記5つの準安定AlGaNの何れかを選択し得る。5つの準安定AlGaNの内、AlGa、AlGa12、及び、AlGaがそれぞれ取り得るピーク発光波長の詳細については後述する。
【0062】
第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比がAlGa、AlGa12、AlGa、AlGa、または、AlGaである準安定AlGaNが存在することで、第2Ga富化領域内へのGa供給量の変動が、当該準安定AlGaNにおいて吸収される。つまり、第2Ga富化領域内において、Ga供給量が増加すると準安定AlGaNが増加し、Ga供給量が減少すると準安定AlGaNが減少し、結果として、第2Ga富化領域内のAlNモル分率の変動が抑制される。従って、第2Ga富化領域内において、結晶成長装置のドリフト等に起因するGa供給量の変動を吸収して、AlGaN組成比がAlGa(AlNモル分率が50%(2分の1))、AlGa12(AlNモル分率が41.7%(12分の5))、AlGa(AlNモル分率が33.3%(3分の1))、AlGa(AlNモル分率が25%(4分の1))、または、AlGa(AlNモル分率が16.7%(6分の1))の準安定AlGaNが安定的に形成される。つまり、当該Ga供給量の変動に対して、第2Ga富化領域内のAlNモル分率の変動が抑制される。
【0063】
更に、本発明は、上記第1乃至第5の何れかの特徴に加えて、前記活性層が、2層以上の前記井戸層を含む多重量子井戸構造を有し、2層の前記井戸層間にAlGaN系半導体で構成されたバリア層が存在することを第6の特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子を提供する。
【0064】
上記第6の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、活性層が多重量子井戸構造となり、井戸層が1層だけの場合に比べて発光効率の向上が期待できる。
【0065】
更に、上記第6の特徴の窒化物半導体紫外線発光素子において、前記バリア層が、AlGaN系半導体で構成され、前記多段状のテラスの隣接するテラス間を連結する(0001)面に対して傾斜した傾斜領域と、前記傾斜領域以外のテラス領域とをそれぞれ有し、
前記バリア層の前記傾斜領域内に、AlNモル分率が局所的に前記バリア層の前記テラス領域のAlNモル分率より低い第4Ga富化領域が存在することが好ましい。
【0066】
上記好適な実施態様により、バリア層においても、電子ブロック層の第1Ga富化領域、井戸層の第2Ga富化領域、及び、p型クラッド層の第3Ga富化領域と同様に、第4Ga富化領域においてキャリアの局在化が生じ得る。従って、井戸層において発光の集中している傾斜領域の第Ga富化領域に向けて、p型層及びn型層からキャリア(正孔及び電子)をそれぞれ供給する際に、バリア層の第4Ga富化領域を経由して、効率的に行うことができる。
【0067】
ここで、井戸層が2層以上の多重量子井戸構造では、最もp型層側の井戸層において発強度が大きいため、当該井戸層のn型層側のバリア層において、第4Ga富化領域が形成されていることで、上述のキャリアの井戸層への供給をより効率的に行うことができる。
【0068】
更に、上記第1乃至第6の何れかの特徴の窒化物半導体紫外線発光素子は、サファイア基板を含む下地部を、さらに備え、前記サファイア基板は、(0001)面に対して所定の角度だけ傾斜した主面を有し、当該主面の上方に前記発光素子構造部が形成されており、
前記サファイア基板の前記主面から前記p型層の前記コンタクト層までの各半導体層が、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層であることが好ましい。
【0069】
上記好適な実施態様により、オフ角を有するサファイア基板を用いて、サファイア基板の主面からp型層のコンタクト層までの各層の表面に多段状のテラスが表出するようにエピタキシャル成長を行うことができ、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子を実現できる。
【発明の効果】
【0070】
上記何れかの特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、p型層側から井戸層内への正孔の供給が、電子ブロック層の傾斜領域を経由して効率的に行うことができ、発光再結合の局在中心である井戸層の傾斜領域内に到達する正孔の量が大幅に増加し、従来の窒化物半導体紫外線発光素子において課題となっていた内部量子効率の低下、及び、ダブル発光ピークの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】AlGaNのウルツ鉱結晶構造を模式的に示す図。
図2図1に示すウルツ鉱結晶構造のc軸方向から見たA面の各サイトとB面の各サイトとの間の位置関係を示す平面図。
図3】整数比で表されるAlGaN組成比の5つの組み合わせのそれぞれにおけるA3面とB3面でのAlとGaの配置を模式的に示す図。
図4】第1実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子の構造の一例を模式的に示した要部断面図。
図5図4に示す窒化物半導体紫外線発光素子の活性層を含む要部の積層構造の一例を模式的に示した要部断面図。
図6】第2Ga富化領域220aのAlNモル分率が50%の場合における、AlGaN井戸層とAlGaNバリア層からなる量子井戸構造の発光波長と、井戸層の膜厚及びバリア層のAlNモル分率との関係を示すグラフ。
図7】第2Ga富化領域220aのAlNモル分率が41.7%の場合における、AlGaN井戸層とAlGaNバリア層からなる量子井戸構造の発光波長と、井戸層の膜厚及びバリア層のAlNモル分率との関係を示すグラフ。
図8】第2Ga富化領域220aのAlNモル分率が33.3%の場合における、AlGaN井戸層とAlGaNバリア層からなる量子井戸構造の発光波長と、井戸層の膜厚及びバリア層のAlNモル分率との関係を示すグラフ。
図9】GaN井戸層とAlGaNバリア層からなる量子井戸構造の発光波長と、井戸層の膜厚及びバリア層のAlNモル分率との関係を示すグラフ。
図10図4に示す窒化物半導体紫外線発光素子を図4の上側から見た場合の構造の一例を模式的に示した平面図。
図11】第1実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子の井戸層及び電子ブロック層内でのキャリアの挙動を模式的に説明する図。
図12】第2実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子の構造の一例を模式的に示した要部断面図。
図13図12に示す窒化物半導体紫外線発光素子の活性層を含む要部の積層構造の一例を模式的に示した要部断面図。
図14】第2実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子の井戸層、電子ブロック層、及び、p型クラッド層内でのキャリアの挙動を模式的に説明する図。
図15】一般的な紫外線発光ダイオードの素子構造の一例を模式的に示した要部断面図。
図16】従来の窒化物半導体紫外線発光素子のn型クラッド層、活性層、及び、電子ブロック層内の断面構造を示すHAADF-STEM像。
図17】従来の窒化物半導体紫外線発光素子の井戸層及び電子ブロック層内でのキャリアの挙動を模式的に説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本発明の実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子(以下、単に「発光素子」と略称する。)につき、図面に基づいて説明する。尚、以下の説明で使用する図面の模式図では、説明の理解の容易のために、要部を強調して発明内容を模式的に示しているため、各部の寸法比は必ずしも実際の素子と同じ寸法比とはなっていない。以下、本実施形態では、発光素子が発光ダイオードの場合を想定して説明する。
【0073】
[第1実施形態]
<発光素子の素子構造>
図4に示すように、第1実施形態の発光素子1は、サファイア基板11を含む下地部10と、複数のAlGaN系半導体層21~24、p電極26、及び、n電極27を含む発光素子構造部20とを備える。発光素子1は、実装用の基台(サブマウント等)に発光素子構造部20側(図4における図中上側)を向けて実装される(フリップチップ実装される)ものであり、光の取出方向は下地部10側(図4における図中下側)である。尚、本明細書では、説明の便宜上、サファイア基板11の主面11a(または、下地部10及び各AlGaN系半導体層21~24の上面)に垂直な方向を「上下方向」(または、「縦方向」)と称し、下地部10から発光素子構造部20に向かう方向を上方向、その逆を下方向とする。また、上下方向に平行な平面を「第1平面」と称す。更に、サファイア基板11の主面11a(または、下地部10及び各AlGaN系半導体層21~24の上面)に平行な平面を「第2平面」と称し、該第2平面に平行な方向を「横方向」と称す。
【0074】
下地部10は、サファイア基板11と、サファイア基板11の主面11a上に直接形成されたAlN層12を備えて構成される。サファイア基板11は、主面11aが(0001)面に対して一定の範囲内(例えば、0度から6度程度まで)の角度(オフ角)で傾斜し、主面11a上に多段状のテラスが表出している微傾斜基板である。
【0075】
AlN層12は、サファイア基板11の主面からエピタキシャル成長したAlN結晶で構成され、このAlN結晶はサファイア基板11の主面11aに対してエピタキシャルな結晶方位関係を有している。具体的には、例えば、サファイア基板11のC軸方向(<0001>方向)とAlN結晶のC軸方向が揃うように、AlN結晶が成長する。尚、AlN層12を構成するAlN結晶は、微量のGaやその他の不純物を含んでいてもよいAlN系半導体層であってもよい。本実施形態では、AlN層12の膜厚として、2μm~3μm程度を想定している。尚、下地部10の構造及び使用する基板等は、上述した構成に限定されるものではない。例えば、AlN層12とAlGaN系半導体層21の間に、AlNモル分率が当該AlGaN系半導体層21のAlNモル分率以上のAlGaN系半導体層を備えていてもよい。
【0076】
発光素子構造部20のAlGaN系半導体層21~24は、下地部10側から順に、n型クラッド層21(n型層)、活性層22、電子ブロック層23(p型層)、及び、p型コンタクト層24(p型層)を順にエピタキシャル成長させて積層した構造を備えている。
【0077】
本実施形態では、サファイア基板11の主面11aから順番にエピタキシャル成長した下地部10のAlN層12、及び、発光素子構造部20のn型クラッド層21と活性層22内の各半導体層と電子ブロック層23は、サファイア基板11の主面11aに由来する(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有する。尚、p型層のp型コンタクト層24については、電子ブロック層23上にエピタキシャル成長により形成されるため、同様の多段状のテラスが形成され得るが、必ずしも同様の多段状のテラスが形成された表面を有していなくてもよい。
【0078】
尚、図4に示すように、発光素子構造部20の内、活性層22、電子ブロック層23、及び、p型コンタクト層24は、n型クラッド層21の上面の第2領域R2上に積層された部分が、エッチング等によって除去され、n型クラッド層21の上面の第1領域R1上に形成されている。そして、n型クラッド層21の上面は、第1領域R1を除く第2領域R2において露出している。n型クラッド層21の上面は、図4に模式的に示すように、第1領域R1と第2領域R2間で高さが異なっている場合があり、その場合は、n型クラッド層21の上面は、第1領域R1と第2領域R2において個別に規定される。
【0079】
n型クラッド層21は、n型AlGaN系半導体で構成され、n型クラッド層21内に、n型クラッド層21内で局所的にAlNモル分率の低い層状領域21aが一様に分散して存在する。層状領域21aは、背景技術の欄で上述したように、バンドギャップエネルギが局所的に小さくなるため、キャリアが局在化し易くなり、低抵抗の電流経路として機能する。n型クラッド層21内の層状領域21a以外の領域を、n型本体領域21bと称す。層状領域21a内のAlNモル分率は、n型本体領域21bからのGaの質量移動によって、n型本体領域21bのAlNモル分率より低くなっている。
【0080】
本実施形態では、n型クラッド層21の膜厚として、一般的な窒化物半導体紫外線発光素子で採用されている膜厚と同様に、1μm~2μm程度を想定しているが、当該膜厚は、2μm~4μm程度であってもよい。
【0081】
n型クラッド層21の層状領域21aは、図4中において、1つの層が2重線で模式的に示されているように、複数層が上下方向に離間して存在する。また、上下方向に平行な1つの第1平面(例えば、図4に示されている断面)で、層状領域21aの少なくとも一部の延伸方向が横方向(第1平面と第2平面との交線の延伸方向)に対して傾斜している。層状領域21aの上記特徴は、図16に示す従来の窒化物半導体紫外線発光素子のn型クラッド層のHAADF-STEM像においても確認される。
【0082】
尚、図4に示す第1平面上では、層状領域21aの各層は、模式的に平行な線(2重線)で図示されているが、該延伸方向と横方向の成す傾斜角は、各層状領域21a間で、必ずしも同じではなく、同じ層状領域21a内でも位置によって変化し得るため、第1平面上の層状領域21aは必ずしも直線状に延伸しているとは限らない。また、該傾斜角は、第1平面の向きによっても変化する。従って、層状領域21aの一部が、第1平面上において、他の層状領域21aと交差、または、他の層状領域21aから分岐することもあり得る。
【0083】
また、層状領域21aは、図4中の第1平面上では、夫々、1本の線(2重線)で示されているが、該第1平面に垂直な方向にも、第2平面に平行または傾斜して延伸しており、2次元的な広がりを有している。従って、複数の層状領域21aは、n型クラッド層21内の複数の第2平面上では、縞状に存在する。
【0084】
層状領域21aは、上述のように、n型クラッド層21内において局所的にAlNモル分率の低い層状領域である。つまり、層状領域21aのAlNモル分率が、n型本体領域21bのAlNモル分率に対して相対的に低くなっている。また、層状領域21aとn型本体領域21bの境界近傍において、両領域のAlNモル分率が漸近的に連続している場合、両領域間の境界は明確に規定できない。
【0085】
n型クラッド層21内の層状領域21aのAlNモル分率は、後述するように、井戸層220内のAlNモル分率に応じて設定され、井戸層220内のAlNモル分率は、ピーク発光波長の目標値に応じて設定される。
【0086】
n型本体領域21bのAlNモル分率は、層状領域21aのAlNモル分率より、1.5%以上、好ましくは2%以上、より好ましくは4%以上、高くなるように設定される。層状領域21aにおけるキャリアの局在化の効果を十分に確保するために、n型クラッド層21内の層状領域21aとn型本体領域21bのAlNモル分率差を4~5%以上とするのが好ましいが、当該キャリアの局在化は、1.5%~2%以上のAlNモル分率差があれば安定的に実現できる。
【0087】
更に、好ましい一実施態様として、層状領域21a内に、井戸層220内のAlNモル分率に応じて、AlGaN組成比が整数比のAlGa(AlNモル分率:4分の3=75%)、AlGa(AlNモル分率:3分の2=66.7%)、AlGa12(AlNモル分率:12分の7=58.3%)、または、AlGa(AlNモル分率:2分の1=50%)となっている準安定AlGaNのn型AlGaN領域が支配的に存在している。以下、層状領域21a内に存在するAlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa、AlGa12、または、AlGaとなっている準安定AlGaNのn型AlGaN領域を「準安定n型領域」と称する。尚、一実施態様として、層状領域21a内に準安定n型領域が支配的に存在していることが好ましいが、層状領域21a内には、AlNモル分率が、準安定n型領域とn型本体領域の各AlNモル分率の中間的なAlNモル分率となっている領域が含まれていても良く、層状領域21aの一部において、当該中間的なAlNモル分率の領域が多く含まれていても良い。
【0088】
層状領域21a内に上記AlGaN組成比の準安定n型領域が支配的に存在する場合において、n型本体領域のAlNモル分率(n型本体領域内で生じるGaの質量移動に起因するAlNモル分率の変動を均した平均的なAlNモル分率)は、準安定n型領域のAlNモル分率が75%の場合、77%~82%の範囲内、準安定n型領域のAlNモル分率が66.7%の場合、69%~74%の範囲内、準安定n型領域のAlNモル分率が58.3%の場合、60%~66%の範囲内、準安定n型領域のAlNモル分率が50%の場合、52%~57%の範囲内に調整されるのが好ましい。斯かる好ましい実施態様により、n型クラッド層21の層状領域21aとテラス領域TAのAlNモル分率差として約2%以上が確保される。尚、n型本体領域のAlNモル分率は、上記4通りの好ましい範囲内から外れていても、n型クラッド層21内にキャリアの局在化が可能な層状領域21aが形成される限りにおいて、概ね51%~83%の範囲内において、井戸層220内のAlNモル分率に応じた任意の値を取り得る。
【0089】
活性層22は、AlGaN系半導体で構成される2層以上の井戸層220と、AlGaN系半導体またはAlN系半導体で構成される1層以上のバリア層221を交互に積層した多重量子井戸構造を備える。最下層の井戸層220とn型クラッド層21の間には、バリア層221を必ずしも設ける必要はない。また、本実施形態では、好ましい実施態様として、最上層の井戸層220と電子ブロック層23の間には、バリア層221を設けていないが、バリア層221より薄膜でAlNモル分率の高いAlGaN層またはAlN層を設けても構わない。
【0090】
電子ブロック層23は、p型AlGaN系半導体で構成される。p型コンタクト層24は、p型AlGaN系半導体またはp型GaN系半導体で構成される。p型コンタクト層24は、典型的にはp-GaNで構成される。
【0091】
図5に、活性層22における井戸層220及びバリア層221の積層構造(多重量子井戸構造)の一例を模式的に示す。図5では、井戸層220が3層でバリア層221が2層の場合を例示する。最上層の井戸層220は電子ブロック層23と上側のバリア層221の間に、中間の井戸層220は上側と下側のバリア層221の間に、最下層の井戸層220は下側のバリア層221とn型クラッド層21の間に、それぞれ位置している。
【0092】
図5に示される井戸層220、バリア層221、及び、電子ブロック層23におけるテラスTが多段状に成長する構造は、上記非特許文献1及び2に開示されているように、公知の構造である。各層において横方向に隣接するテラスT間には、上述したように、(0001)面に対して傾斜した傾斜領域IAが形成されている。傾斜領域IA以外の上下がテラスTで挟まれた領域を、テラス領域TAと称す。本実施形態では、1つのテラスTの奥行(隣接する傾斜領域IA間の距離)は数10nm~数100nmが想定される。従って、傾斜領域IA内に階段状に表出する(0001)面は、多段状のテラスTのテラス面とは区別される。
【0093】
図5に模式的に示すように、電子ブロック層23において、傾斜領域IA内にテラス領域TAよりAlNモル分率の低い第1Ga富化領域23aが形成され、井戸層220の各層において、傾斜領域IA内にテラス領域TAよりAlNモル分率の低い第2Ga富化領域220aが形成されている。バリア層221がAlGaN系半導体で構成され、AlNモル分率が100%でない場合は、バリア層221の各層においても、電子ブロック層23及び井戸層220と同様に、傾斜領域IA内にテラス領域TAよりAlNモル分率の低い第4Ga富化領域221aが形成されている。電子ブロック層23、井戸層220、及び、バリア層221の各層において、テラス領域TAから傾斜領域IAへのGaの質量移動により、それぞれの傾斜領域IA内に、局所的にAlNモル分率の低い、第1Ga富化領域23a、第2Ga富化領域220a、及び、第4Ga富化領域221aが形成されている。
【0094】
本実施形態では、電子ブロック層23の膜厚は、テラス領域TA及び傾斜領域IAを含めて、例えば、15nm~30nmの範囲内(最適値は約20nm)で設定されている。井戸層220の膜厚は、テラス領域TA及び傾斜領域IAを含めて、例えば、1.5ユニットセル~7ユニットセルの範囲内で発光素子1のピーク発光波長の目標値に応じて設定されている。また、バリア層221の膜厚は、テラス領域TA及び傾斜領域IAを含めて、例えば、6nm~8nmの範囲内で発光素子1のピーク発光波長の目標値に応じて設定されている。
【0095】
井戸層220の第2Ga富化領域220aのAlNモル分率は、発光素子1のピーク発光波長の目標値に応じて設定されている。好ましい実施態様として、井戸層220の第2Ga富化領域220aには、ピーク発光波長の目標値に応じて、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa12、AlGa、または、AlGaである準安定AlGaN、つまり、AlNモル分率が50%(2分の1)、41.7%(12分の5)、33.3%(3分の1)、または、25%(4分の1)の準安定AlGaNからなる準安定井戸領域が形成されている。尚、一実施態様として、第2Ga富化領域220a内に準安定井戸領域が支配的に存在していることが好ましいが、第2Ga富化領域220a内には、AlNモル分率が、準安定井戸領域と井戸層220のテラス領域TAの各AlNモル分率の中間的なAlNモル分率となっている領域が含まれていても良く、斯かる場合においても、井戸層220の傾斜領域IA内においてキャリアの局在化は生じ得る。
【0096】
図6図7及び図8は、井戸層220及びバリア層221がAlGaNで構成された量子井戸構造モデルに対して、井戸層の膜厚を3ML(単原子層)~14ML(1.5ユニットセル~7ユニットセル)または4ML~14ML(2ユニットセル~7ユニットセル)の範囲内で変化させて得られる発光波長のシミュレーション結果(ピーク発光波長に相当)をグラフ化したものである。上記シミュレーションの条件として、図6では、井戸層220の第2Ga富化領域220aのAlNモル分率を、準安定井戸領域のAlNモル分率である50%(2分の1)とし、図7では、井戸層220の第2Ga富化領域220aのAlNモル分率を、準安定井戸領域のAlNモル分率である41.7%(12分の5)とし、図8では、井戸層220の第2Ga富化領域220aのAlNモル分率を、準安定井戸領域のAlNモル分率である33.3%(3分の1)とし、図6図8のそれぞれにおいて、バリア層221の第4Ga富化領域221aのAlNモル分率を、66.7%(3分の2)、75%(4分の3)、及び、83.3%(6分の5)の3通りとした。図6図8に示すシミュレーション結果では、井戸層220における紫外線発光が、傾斜領域IAで顕著に発生することを想定している。このため、井戸層220の膜厚条件は、当該傾斜領域IAにおいて満足することが重要である。
【0097】
図6図8より、井戸層220の膜厚が3ML~14MLの範囲内では、井戸層220の膜厚が小さくなるほど、井戸層220への量子閉じ込め効果が大きくなり、発光波長が短波長化していること、更に、バリア層221のAlNモル分率が大きくなるほど、井戸層220の膜厚の変化に対する発光波長の変化の程度が大きくなることが分かる。また、図6より、第2Ga富化領域220aのAlNモル分率が50%の場合、井戸層220の膜厚及びバリア層221のAlNモル分率の上記範囲内において、発光波長が、概ね246nm~295nmの範囲で変化することが分かる。図7より、第2Ga富化領域220aのAlNモル分率が41.7%の場合、井戸層220の膜厚及びバリア層221のAlNモル分率の上記範囲内において、発光波長が、概ね249nm~311nmの範囲で変化することが分かる。図8より、第2Ga富化領域220aのAlNモル分率が33.3%の場合、井戸層220の膜厚及びバリア層221のAlNモル分率の上記範囲内において、発光波長が、概ね261nm~328nmの範囲で変化することが分かる。更に、バリア層221をAlN(AlNモル分率=100%)で構成すると、発光波長を更に拡張することができる。
【0098】
図6図8より、井戸層220の第2Ga富化領域220aにAlGaN組成比がAlGaまたはAlGa12またはAlGaとなっている準安定井戸領域が形成され、当該準安定井戸領域のAlNモル分率に応じて、井戸層220の膜厚を3ML~14MLの範囲内において、及び、バリア層221の第4Ga富化領域221aのAlNモル分率を66.7%~100%の範囲内において、それぞれ調整することで、ピーク発光波長を、250nm~310nmの範囲内に設定可能であることが分かる。
【0099】
図9は、井戸層がGaNで、バリア層がAlGaNまたはAlNで構成された量子井戸構造モデルに対して、バリア層のAlNモル分率が66.7%(AlGaN)と、100%(AlN)の2通りについて、井戸層の膜厚を4ML~10MLの範囲内で変化させて得られる発光波長のシミュレーション結果(ピーク発光波長に相当)をグラフ化したものである。図9より、当該範囲内において、発光波長が、概ね270nm~325nmの範囲で変化することが分かる。従って、井戸層がGaN(AlNモル分率=0%)で構成された場合でも、井戸層220の膜厚を4ML~10MLの範囲内において、及び、バリア層221の第4Ga富化領域221aのAlNモル分率を66.7%~100%の範囲内において、それぞれ調整することで、ピーク発光波長を、270nm~310nmの範囲内に設定可能であることが分かる。
【0100】
図9より、ピーク発光波長の目標値が、270nm~310nmの範囲内であれば、井戸層220の第2Ga富化領域220aに形成される準安定井戸領域のAlGaN組成比として、図6図8で示したAlGa、AlGa12、及び、AlGa以外に、AlGa(AlNモル分率が25%(4分の1))、または、AlGa(AlNモル分率が16.7%(6分の1))も選択可能であることが分かる。この場合、準安定井戸領域のAlNモル分率を、33.3%から、8.33%(12分の1)ずつ低下させるので、バリア層221のAlNモル分率も、ピーク発光波長の目標値に適合する範囲内で、66.7%より低く、例えば、58.3%に設定することが可能である。
【0101】
また、井戸層220のテラス領域TAのAlNモル分率は、一例として、第2Ga富化領域220aにAlNモル分率が50%の準安定井戸領域を形成する場合は、50.1%~54%の範囲内に調整され、第2Ga富化領域220aAlNモル分率が41.7%の準安定井戸領域を形成する場合は、41.8%~45%の範囲内に調整され、第2Ga富化領域220aにAlNモル分率が33.3%の準安定井戸領域を形成する場合は、33.4%~37%の範囲内に調整され、第2Ga富化領域220aにAlNモル分率が25%の準安定井戸領域を形成する場合は、25.1%~29%の範囲内に調整されているのが好ましい。井戸層220における準安定井戸領域とテラス領域TAのAlNモル分率差は、傾斜領域IAとテラス領域TAのAlNモル分率差に起因するダブル発光ピークの発生を抑制するため、4%以下に設定されている。尚、井戸層220のテラス領域のAlNモル分率は、上記4通りの好ましい範囲内から外れていても、井戸層220の傾斜領域IA内に、局所的にAlNモル分率の低い第2Ga富化領域220aが形成される限りにおいて、概ね25%~54%の範囲内において、ピーク発光長の目標値に応じた任意の値を取り得る。
【0102】
バリア層221の第4Ga富化領域221aのAlNモル分率は、上述したように、発光素子1のピーク発光波長の目標値に応じて、井戸層220の第2Ga富化領域220aのAlNモル分率、及び、井戸層220の膜厚とともに、例えば、58.3%~100%の範囲内で調整される。更に、好ましい実施態様として、バリア層221がAlGaN系半導体(AlN系半導体を除く)で構成されている場合において、バリア層221の第4Ga富化領域221aには、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa、AlGa、または、AlGa12である準安定AlGaN、つまり、AlNモル分率が83.3%(6分の5)、75%(4分の3)、66.7%(3分の2)、または、58.3%(12分の7)の準安定AlGaNからなる準安定バリア領域が形成されている。
【0103】
また、バリア層221がAlGaN系半導体(AlN系半導体を除く)で構成されている場合において、バリア層221のテラス領域TAのAlNモル分率は、概ね60%~90%の範囲内において、第4Ga富化領域221aのAlNモル分率より、1%以上、好ましくは2%以上、より好ましくは4%以上、高くなるように設定される。第4Ga富化領域221aにおけるキャリアの局在化の効果を十分に確保するために、バリア層221内の第4Ga富化領域221aとテラス領域TAのAlNモル分率差を4~5%以上とするのが好ましいが、1~2%程度でも、キャリアの局在化の効果は期待し得る。
【0104】
バリア層221の第4Ga富化領域221a内に上記AlGaN組成比の準安定バリア領域が形成されている場合において、バリア層221のテラス領域TAのAlNモル分率は、準安定バリア領域のAlNモル分率が83.3%の場合、85%~90%の範囲内、準安定バリア領域のAlNモル分率が75%の場合、77%~82%の範囲内、準安定バリア領域のAlNモル分率が66.7%の場合、69%~74%の範囲内、準安定バリア領域のAlNモル分率が58.3%の場合、60%~66%の範囲内に調整されるのが好ましい。これにより、バリア層221の第4Ga富化領域221aとテラス領域TAのAlNモル分率差として約2%以上が確保される。尚、バリア層221のテラス領域TAのAlNモル分率は、上記4通りの好ましい範囲内から外れていても、バリア層221の傾斜領域IA内にキャリアの局在化が可能な第4Ga富化領域221aが形成される限りにおいて、概ね59%~90%の範囲内において、井戸層220の第2Ga富化領域220a内のAlNモル分率に応じた任意の値を取り得る。
【0105】
電子ブロック層23のテラス領域TAのAlNモル分率は、概ね69%~90%の範囲内で、井戸層220のテラス領域のAlNモル分率より20%以上、好ましくは25%以上、更に好ましくは30%以上高くなるように設定されている。更に、電子ブロック層23の第1Ga富化領域23aのAlNモル分率は、井戸層220の第2Ga富化領域220aのAlNモル分率より20%以上、好ましくは25%以上、更に好ましくは30%以上高くなるように設定されている。
【0106】
好ましい一実施態様として、井戸層220の第2Ga富化領域220a内に、ピーク発光波長の目標値に応じて、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa12、AlGa、または、AlGaの準安定井戸領域が支配的に存在しているのと同様に、電子ブロック層23の第1Ga富化領域23a内に、AlNモル分率が準安定井戸領域のAlNモル分率より20%以上高い、AlGaN組成比が整数比のAlGa(AlNモル分率:6分の5=83.3%)、AlGa(AlNモル分率:4分の3=75%)、または、AlGa(AlNモル分率:3分の2=66.7%)となっているp型の準安定AlGaNで構成された第1準安定p型領域が支配的に存在している。
【0107】
準安定井戸領域のAlGaN組成比と第1準安定p型領域のAlGaN組成比の間の組み合わせは、準安定井戸領域のAlGaN組成比がAlGaと第1準安定p型領域のAlGaN組成比がAlGaの1つの組み合わせを除き、全て上記条件(第1Ga富化領域23aと第2Ga富化領域220aのAlNモル分率差が20%以上)を満足する可能な組み合わせとなっている。
【0108】
電子ブロック層23のテラス領域TAのAlNモル分率は、概ね69%~90%の範囲内で、第1Ga富化領域23aのAlNモル分率より、1%以上、好ましくは2%以上、より好ましくは4%以上、高くなるように設定される。第1Ga富化領域23aにおけるキャリアの局在化の効果を十分に確保するために、電子ブロック層23の第1Ga富化領域23aとテラス領域TAのAlNモル分率差を4~5%以上とするのが好ましいが、1~2%程度でも、キャリアの局在化の効果は期待し得る。
【0109】
好ましい一実施態様として、電子ブロック層23のテラス領域TAのAlNモル分率は、第1準安定p型領域のAlNモル分率が83.3%の場合、例えば、85%~90%の範囲内、第1準安定p型領域のAlNモル分率が75%の場合、例えば、77%~82%の範囲内、第1準安定p型領域のAlNモル分率66.7%の場合、例えば、69%~74%の範囲内に調整されるのが好ましい。これにより、電子ブロック層23の第1Ga富化領域23aとテラス領域TAのAlNモル分率差として約2%以上が確保される。尚、電子ブロック層23のテラス領域TAのAlNモル分率は、上記3通りの好ましい範囲内から外れていても、電子ブロック層23の傾斜領域IA内にキャリアの局在化が可能な第1Ga富化領域23aが形成される限りにおいて、概ね68%~90%の範囲内において、井戸層220の第2Ga富化領域220a内のAlNモル分率に応じた任意の値を取り得る。
【0110】
n型クラッド層21内の層状領域21aのAlNモル分率は、井戸層220の第2Ga富化領域220a内のAlNモル分率より、8.3%以上、好ましくは、16%以上高くなるように設定されている。
【0111】
好ましい一実施態様として、井戸層220の第2Ga富化領域220a内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa12、AlGa、または、AlGaの準安定井戸領域が支配的に存在し、n型クラッド層21内の層状領域21a内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa、AlGa12、または、AlGaの準安定n型領域が支配的に存在している場合、準安定井戸領域のAlGaN組成比と準安定n型領域のAlGaN組成比の間の組み合わせは、準安定井戸領域のAlGaN組成比と準安定n型領域のAlGaN組成比が何れもAlGaである1つの組み合わせを除き、全て上記条件(層状領域21aと第2Ga富化領域220aのAlNモル分率差が8.3%以上)を満足する可能な組み合わせとなっている。
【0112】
p電極26は、例えばNi/Au等の多層金属膜で構成され、p型コンタクト層24の上面に形成される。n電極27は、例えばTi/Al/Ti/Au等の多層金属膜で構成され、n型クラッド層21の第2領域R2内の露出面上の一部の領域に形成される。尚、p電極26及びn電極27は、上述の多層金属膜に限定されるものではなく、各電極を構成する金属、積層数、積層順などの電極構造は適宜変更してもよい。図10に、p電極26とn電極27の発光素子1の上側から見た形状の一例を示す。図10において、p
電極26とn電極27の間に存在する線BLは、第1領域R1と第2領域R2の境界線を示しており、活性層22、電子ブロック層23、及び、p型コンタクト層24の外周側壁面と一致する。
【0113】
本実施形態では、図10に示すように、第1領域R1及びp電極26の平面視形状は、一例として、櫛形形状のものを採用しているが、第1領域R1及びp電極26の平面視形状及び配置等は、図10の例示に限定されるものではない。
【0114】
p電極26とn電極27間に順方向バイアスを印加すると、p電極26から活性層22に向けて正孔が供給され、n電極27から活性層22に向けて電子が供給され、供給された正孔及び電子の夫々が活性層22に到達して再結合することで発光する。また、これにより、p電極26とn電極27間に順方向電流が流れる。
【0115】
以上詳細に説明した本実施形態の発光素子1は、電子ブロック層23が、サファイア基板11の主面11aに由来する(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有し、横方向に隣接するテラスT間に、(0001)面に対して傾斜した傾斜領域IAが形成され、当該傾斜領域IA内にテラス領域TAよりAlNモル分率の低い第1Ga富化領域23aが形成されていることを特徴とする。
【0116】
当該特徴により、本実施形態の発光素子1は、第1Ga富化領域23a内でキャリア(正孔)の局在化が生じ得るため、図11に模式的に示すように、電子ブロック層23(EB)内に注入される正孔(h+)は、傾斜領域IA内にも直接注入され得る。そして、電子ブロック層23の傾斜領域IA内に直接注入され、テラス領域TA内を拡散せずに井戸層220(QW)の傾斜領域IA内の発光再結合の局在中心(図中、☆(星印)で図示)に到達する正孔の量が大幅に増加する。この結果、従来の窒化物半導体紫外線発光素子において課題となっていた内部量子効率の低下、及び、ダブル発光ピークの発生を抑制することができる。尚、図11中の●(黒丸)は、図17と同様、非発光再結合中心を示している。
【0117】
<発光素子の製造方法>
次に、図4に例示した発光素子1の製造方法の一例について説明する。
【0118】
先ず、有機金属化合物気相成長(MOVPE)法により、下地部10に含まれるAlN層12及び発光素子構造部20に含まれる窒化物半導体層21~24を、サファイア基板11上に順番にエピタキシャル成長させて積層する。このとき、n型クラッド層21にはドナー不純物として例えばSiをドーピングし、電子ブロック層23、及び、p型コンタクト層24にはアクセプタ不純物として例えばMgをドーピングする。
【0119】
本実施形態では、少なくともAlN層12、n型クラッド層21、活性層22(井戸層220、バリア層221)、及び、電子ブロック層23の各表面に(0001)面に平行な多段状のテラスを表出させるために、サファイア基板11は、主面11aが(0001)面に対して一定の範囲内(例えば、0度から6度程度まで)の角度(オフ角)で傾斜し、主面11a上に多段状のテラスが表出している微傾斜基板を使用する。
【0120】
斯かるエピタキシャル成長の条件として、上述の微傾斜基板の(0001)サファイア基板11の使用に加えて、例えば、多段状のテラスが表出し易い成長速度(具体的に例えば、成長温度、原料ガスやキャリアガスの供給量や流速等の諸条件を適宜設定することで、当該成長速度を達成する)等が挙げられる。尚、これらの諸条件は、成膜装置の種類や構造によって異なり得るため、成膜装置において実際に幾つかの試料を作製して、これらの条件を特定すればよい。
【0121】
n型クラッド層21の成長条件として、成長開始直後に、AlN層12の上面に形成された多段状のテラス間の段差部(傾斜領域)にGaの質量移動によって層状領域21aの成長開始点が形成され、引き続き、n型クラッド層21のエピタキシャル成長に伴い、層状領域21aが、Gaの質量移動に伴う偏析によって斜め上方に向かって成長できるように、成長温度、成長圧力、及び、ドナー不純物濃度が選択される。
【0122】
具体的には、成長温度としては、Gaの質量移動の生じ易い1050℃以上で、良好なn型AlGaNが調製可能な1150℃以下が好ましい。また、成長温度が1170℃を超える成長温度は、Gaの質量移動が過剰となり、第1の準安定AlGaNといえども、AlNモル分率がランダムに変動し易くなるため、AlNモル分率が50%~75%のn型の準安定AlGaNである準安定n型領域は安定的に形成し辛くなり、好ましくない。成長圧力としては、75Torr以下が良好なAlGaNの成長条件として好ましく、成膜装置の制御限界として10Torr以上が現実的であり好ましい。ドナー不純物濃度は、1×1018~5×1018cm-3程度が好ましい。尚、上記成長温度及び成長圧力等は、一例であって、使用する成膜装置に応じて適宜最適な条件を特定すればよい。
【0123】
有機金属化合物気相成長法で使用する原料ガス(トリメチルアルミニウム(TMA)ガス、トリメチルガリウム(TMG)ガス、アンモニアガス)やキャリアガスの供給量及び流速は、n型クラッド層21全体の平均的なAlNモル分率Xnaを目標値として設定される。ここで、n型本体領域21bの平均的なAlNモル分率をXn1、準安定n型領域のAlNモル分率をXn2(Xn1>Xn2)とし、準安定n型領域、及び準安定n型領域とn型本体領域の各AlNモル分率の中間的なAlNモル分率となっている領域の存在する層状領域21aの平均的なAlNモル分率をXn3(Xn1>Xn3>Xn2)とし、n型本体領域21bから層状領域21aへのGaの質量移動を考慮すると、Xn1>Xna>Xn3となるが、n型クラッド層21全体に占める層状領域21aの体積比率が小さいため、近似的にXna=Xn1として設定することができる。
【0124】
n型本体領域21bのAlNモル分率Xn1(=Xna)と準安定n型領域のAlNモル分率Xn2の関係を以下に整理する。
Xn2=75%: 77%≦Xn1≦82%
Xn2=66.7%: 69%≦Xn1≦74%
Xn2=58.3%: 60%≦Xn1≦66%
Xn2=50%: 52%≦Xn1≦57%
【0125】
層状領域21a内には、AlNモル分率がXn2の準安定n型領域が安定的に存在し、準安定n型領域のAlNモル分率Xn2とn型本体領域21bの平均的なAlNモル分率Xn1との差(Xn1-Xn2)は、上述したように安定的に約2%以上が確保されるため、n型層内のキャリアは、n型本体領域21bよりバンドギャップエネルギの小さい層状領域21a内に局在化する。尚、目標値Xna(=Xn1)を上述した好ましい範囲の下限値より例えば1%高くすると上記差は3%以上となり、n型層内のキャリアの層状領域21a内への局在化はより顕著となる。更に、準安定n型領域の所望のAlNモル分率Xn2に対応する目標値Xnaの上記好ましい範囲の上限値が、上記所望のAlNモル分率Xn2よりAlNモル分率が1段高い準安定n型領域の所望のAlNモル分率より1%以上低く設定されているため、n型クラッド層21内において、AlGaN組成比が1段階上の準安定n型領域が支配的に形成されることが回避される。
【0126】
尚、ドナー不純物濃度は、n型クラッド層21の膜厚に対して、必ずしも上下方向に均一に制御する必要はない。例えば、n型クラッド層21内の所定の薄い膜厚部分の不純物濃度が、上記設定濃度より低く、例えば、1×1018cm-3未満、更に好ましくは、1×1017cm-3以下に制御された低不純物濃度層であってもよい。当該低不純物濃度層の膜厚としては、0nmより大きく200nm以下程度が好ましく、10nm以上100nm以下程度がより好ましく、更に、20nm以上50nm以下程度がより好ましい。また、当該低不純物濃度層のドナー不純物濃度は、上記設定濃度より低ければよく、アンドープ層(0cm-3)が一部に含まれていてもよい。更に、該低不純物濃度層の一部または全部は、n型クラッド層21の上面から下方側に100nm以内の深さの上層域に存在することが好ましい。
【0127】
上記要領で、層状領域21aとn型本体領域21bを有するn型クラッド層21が形成されると、n型クラッド層21の上面の全面に、引き続き、有機金属化合物気相成長(MOVPE)法等の周知のエピタキシャル成長法により、活性層22(井戸層220、バリア層221)、電子ブロック層23、及び、p型コンタクト層24等を形成する。
【0128】
電子ブロック層23のアクセプタ不純物濃度は、一例として、1.0×1016~1.0×1018cm-3程度が好ましく、p型コンタクト層24のアクセプタ不純物濃度は、一例として、1.0×1018~1.0×1020cm-3程度が好ましい。尚、アクセプタ不純物濃度は、電子ブロック層23及びp型コンタクト層24の各膜厚に対して、必ずしも上下方向に均一に制御する必要はない。
【0129】
活性層22の形成において、n型クラッド層21と同様の要領で、上述した多段状のテラスが表出し易い成長条件で、井戸層220のテラス領域TAに対して設定されたAlNモル分率Xw1を近似的に井戸層220全体の平均的なAlNモル分率Xwaとして設定し、当該AlNモル分率Xwaを目標値として井戸層220を成長させ、更に、バリア層221のテラス領域TAに対して設定されたAlNモル分率Xb1を近似的にバリア層221全体の平均的なAlNモル分率Xbaとして設定し、当該AlNモル分率Xbaを目標値として、バリア層221を成長させる。
【0130】
井戸層220のテラス領域TAのAlNモル分率Xw1(=Xwa)と準安定井戸領域のAlNモル分率Xw2の関係を以下に整理する。
Xw2=50%: 50.1%≦Xw1≦54%
Xw2=41.7%: 41.8%≦Xw1≦45%
Xw2=33.3%: 33.4%≦Xw1≦37%
Xw2=25%: 25.1%≦Xw1≦29%
【0131】
更に、バリア層221のテラス領域TAのAlNモル分率Xb1(=Xba)と準安定バリア領域のAlNモル分率Xb2の関係を以下に整理する。
Xb2=83.3%: 85%≦Xb1≦90%
Xb2=75%: 77%≦Xb1≦82%
Xb2=66.7%: 69%≦Xb1≦74%
Xb2=58.3%: 60%≦Xb1≦66%
【0132】
電子ブロック層23の形成において、n型クラッド層21と同様の要領で、上述した多段状のテラスが表出し易い成長条件で、電子ブロック層23のテラス領域TAに対して設定されたAlNモル分率Xe1を近似的に電子ブロック層23全体の平均的なAlNモル分率Xeaとして設定し、当該AlNモル分率Xeaを目標値として電子ブロック層23を成長させる。
【0133】
電子ブロック層23のテラス領域TAのAlNモル分率Xe1(=Xea)と第1準安定p型領域のAlNモル分率Xe2の関係を以下に整理する。
Xe2=83.3%: 85%≦Xe1≦90%
Xe2=75%: 77%≦Xe1≦82%
Xe2=66.7%: 69%≦Xe1≦74%
【0134】
本実施形態では、活性層22(井戸層220、バリア層221)、電子ブロック層23、及び、p型コンタクト層の成長温度は、n型クラッド層21の成長温度をT1、活性層22の成長温度をT2、電子ブロック層23の成長温度をT3、p型コンタクト層の成長温度をT4とした場合、上述の好ましい温度範囲内(1050℃~1170℃)において、以下の式(1)及び(2)に示す関係を満足していることが好ましい。
T3≧T2 (1)
T3>T1>T4 (2)
【0135】
更に、上記式(1)の関係は、電子ブロック層23の第1Ga富化領域23a内の第1準安定p型領域のAlNモル分率が83.3%または75%の場合は、下記の式(1A)とするのが好ましく、第1準安定p型領域のAlNモル分率が66.7%の場合は、下記の式(1B)とするのが好ましい。これは、第1準安定p型領域のAlNモル分率が高くなると、Gaの質量移動を促進させるのに、より高温の成長温度が必要となるためである。
T3≧T2+50℃ (1A)
T2+50℃>T3≧T2 (1B)
【0136】
更に、電子ブロック層23の成長温度T3は、第1準安定p型領域のAlNモル分率が83.3%の場合は、1150℃以上が好ましく、第1準安定p型領域のAlNモル分率が75%または66.7%の場合は、1100℃以上が好ましく、更に、1100℃より高温がより好ましい。尚、上記各温度は一例であり、例えば、窒素原料ガスの流量を増加し、成長速度を低下させることで、上記1150℃及び1100℃を、それぞれ、1100℃及び1050℃にまで低減することが可能である。
【0137】
尚、電子ブロック層23の成長温度T3を活性層22の成長温度T2から上げる場合、当該成長温度の遷移過程において、その下方に位置する井戸層220内でGaNの分解が生じて、当該GaNの分解に起因して発光素子1の特性が悪化する可能性がある。従って、当該GaNの分解を抑制するために、最上層の井戸層220と電子ブロック層23の間に、バリア層221より薄膜(例えば、3nm以下、好ましくは、2nm以下)でバリア層221及び電子ブロック層23よりAlNモル分率の高いAlGaN層またはAlN層を形成するのが好ましい。
【0138】
電子ブロック層23のGaの質量移動を促進させるための成長温度以外の成長条件の一例として、成長温度T3が1150℃の場合、原料ガスの流量比(V/III)を5000~6000、成長速度を約150nm/hとするのが好ましい。
【0139】
n型クラッド層21、活性層22(井戸層220、バリア層221)、電子ブロック層23、及び、p型コンタクト層24の成長温度T1~T4の上記式(1A)及び(2)を満足する一例を以下に示す。
T1=T2=1080℃、T3=1150℃、T4=980℃
【0140】
上記成長温度T1~T4の一例は、以下に示すn型クラッド層21の層状領域21a内の準安定n型領域のAlNモル分率Xn2、井戸層220の第2Ga富化領域220a内の準安定井戸領域のAlNモル分率Xw2、バリア層221の第4Ga富化領域221a内の準安定バリア領域のAlNモル分率Xb2、及び、電子ブロック層23の第1Ga富化領域23a内の第1準安定p型領域のAlNモル分率Xe2に対して、適用され得る。
Xn2=50%、58.3%、66.7%、75%
Xw2=25%、33.3%、41.7%、50%
Xb2=58.3%、66.7%、75%、83.3%
Xe2=66.7%、75%、83.3%
【0141】
上記要領で、n型クラッド層21の上面の全面に、活性層22(井戸層220、バリア層221)、電子ブロック層23、及び、p型コンタクト層24等が形成されると、次に、反応性イオンエッチング等の周知のエッチング法により、窒化物半導体層21~24の第2領域R2を、n型クラッド層21の上面が露出するまで選択的にエッチングして、n型クラッド層21の上面の第2領域R2部分を露出させる。そして、電子ビーム蒸着法などの周知の成膜法により、エッチングされていない第1領域R1内のp型コンタクト層24上にp電極26を形成するとともに、エッチングされた第領域R2内のn型クラッド層21上にn電極27を形成する。尚、p電極26及びn電極27の一方または両方の形成後に、RTA(瞬間熱アニール)等の周知の熱処理方法により熱処理を行ってもよい。
【0142】
尚、発光素子1は、一例として、サブマウント等の基台にフリップチップ実装された後、シリコーン樹脂や非晶質フッ素樹脂等の所定の樹脂(例えば、レンズ形状の樹脂)によって封止された状態で使用され得る。
【0143】
上記要領で作製された発光素子1のAlGaN系半導体層21~24の断面構造は、第2領域R2のエッチング及び電極26とn電極27の形成前の試料を作製し、該資料の上面に垂直(または略垂直)な断面を有する試料片を収束イオンビーム(FIB)で加工し、該試料片のHAADF-STEM像により観察することができる。
【0144】
更に、AlGaN系半導体層21~24中の特定の半導体層内の組成分析は、上記試料片を用いて、エネルギ分散型X線分光法(断面TEM-EDX)、または、CL(カソードルミネッセンス)法で行うことができる。断面TEM-EDX及びCL法による組成分析については、説明を省略するが、本願発明者の先行する別出願(PCT/JP2020/023050、PCT/JP2020/024828、PCT/JP2020/026558、PCT/JP2020/031620)の明細書中に詳細な説明がなされている。
【0145】
[第2実施形態]
第1実施形態の発光素子1では、発光素子構造部20を構成するp型層は、電子ブロック層23とp型コンタクト層24の2層であったが、第2実施形態の発光素子2では、p型層が、電子ブロック層23とp型コンタクト層24の間に1層以上のp型AlGaN系半導体で構成されたp型クラッド層25を有する。
【0146】
従って、第2実施形態では、図12に示すように、発光素子構造部20のAlGaN系半導体層21~25は、下地部10側から順に、n型クラッド層21(n型層)、活性層22、電子ブロック層23(p型層)、p型クラッド層25(p型層)、及び、p型コンタクト層24(p型層)を順にエピタキシャル成長させて積層した構造を備える。
【0147】
第2実施形態の発光素子2における下地部10、及び、発光素子構造部20のAlGaN系半導体層21~24、p電極26、n電極27は、第1実施形態の発光素子1の下地部10及び発光素子構造部20のAlGaN系半導体層21~24、p電極26、n電極27と同じであるので、重複する説明は省略する。
【0148】
p型クラッド層25は、サファイア基板11の主面11aから順番にエピタキシャル成長した下地部10のAlN層12、及び、発光素子構造部20のn型クラッド層21と活性層22内の各半導体層と電子ブロック層23と同様に、サファイア基板11の主面11aに由来する(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有する。
【0149】
図13に、活性層22における井戸層220及びバリア層221の積層構造(多重量子井戸構造)の一例を模式的に示す。図13では、第1実施形態において図5を用いて説明した積層構造の電子ブロック層23の上に、p型クラッド層25が形成されている。
【0150】
p型クラッド層25においても、横方向に隣接するテラスT間には、上述したように、(0001)面に対して傾斜した傾斜領域IAが形成されている。傾斜領域IA以外の上下がテラスTで挟まれた領域を、テラス領域TAと称す。p型クラッド層25の膜厚は、テラス領域TA及び傾斜領域IAを含めて、例えば、20nm~200nmの範囲内に調整されている。
【0151】
図13に模式的に示すように、p型クラッド層25において、テラス領域TAから傾斜領域IAへのGaの質量移動により、傾斜領域IA内にテラス領域TAよりAlNモル分率の低い第3Ga富化領域25aが形成されている。
【0152】
p型クラッド層25のテラス領域TAのAlNモル分率は、52%以上、電子ブロック層23のテラス領域TAのAlNモル分率未満の範囲内に設定されている。更に、p型クラッド層25の第3Ga富化領域25aは、電子ブロック層23の第1Ga富化領域23aのAlNモル分率未満となるように設定されている。
【0153】
更に、p型クラッド層25のテラス領域TAのAlNモル分率は、上記範囲内において、第3Ga富化領域25aのAlNモル分率より、1%以上、好ましくは2%以上、より好ましくは4%以上、高くなるように設定される。第3Ga富化領域25aにおけるキャリアの局在化の効果を十分に確保するために、p型クラッド層25の第Ga富化領域25aとテラス領域TAのAlNモル分率差を4~5%以上とするのが好ましいが、1~2%程度でも、キャリアの局在化の効果は期待し得る。
【0154】
好ましい一実施態様として、電子ブロック層23の第1Ga富化領域23a内に、AlNモル分率が準安定井戸領域のAlNモル分率より20%以上高い、AlGaN組成比が整数比のAlGa(AlNモル分率:6分の5=83.3%)、AlGa(AlNモル分率:4分の3=75%)、または、AlGa(AlNモル分率:3分の2=66.7%)となっているp型の準安定AlGaNで構成された第1準安定p型領域が支配的に存在しているのと同様に、p型クラッド層25の第3Ga富化領域25a内に、AlGaN組成比が整数比のAl2Ga1N3(AlNモル分率:3分の2=66.7%)、AlGa12(AlNモル分率:12分の7=58.3%)、または、AlGa(AlNモル分率:2分の1=50%)であって、且つ、AlNモル分率が電子ブロック層23の第1準安定p型領域のAlNモル分率未満であるp型の準安定AlGaNで構成された第2準安定p型領域が支配的に存在する。
【0155】
更に、好ましい一実施態様として、p型クラッド層25のテラス領域TAのAlNモル分率は、第2準安定p型領域のAlNモル分率が66.7%の場合、例えば、69%~74%の範囲内、第2準安定p型領域のAlNモル分率が58.3%の場合、例えば、60%~66%の範囲内、第2準安定p型領域のAlNモル分率が50%の場合、例えば、52%~57%の範囲内に調整されるのが好ましい。これにより、p型クラッド層25の第3Ga富化領域25aとテラス領域TAのAlNモル分率差として約2%以上が確保される。尚、p型クラッド層25のテラス領域TAのAlNモル分率は、上記3通りの好ましい範囲内から外れていても、p型クラッド層25の傾斜領域IA内にキャリアの局在化が可能な第3Ga富化領域25aが形成される限りにおいて、概ね51%~75%の範囲内において、電子ブロック層23の第1Ga富化領域23a内のAlNモル分率に応じた任意の値を取り得る。
【0156】
次に、p型クラッド層25の成長方法について簡単に説明する。p型クラッド層25の形成において、第1実施形態で説明したn型クラッド層21及び電子ブロック層23と同様の要領で、上述した多段状のテラスが表出し易い成長条件で、p型クラッド層25のテラス領域TAに対して設定されたAlNモル分率Xp1を近似的にp型クラッド層25全体の平均的なAlNモル分率Xpaとして設定し、当該AlNモル分率Xpaを目標値としてp型クラッド層25を成長させる。
【0157】
p型クラッド層25のテラス領域TAのAlNモル分率Xp1(=Xpa)と第2準安定p型領域のAlNモル分率Xp2の関係を以下に整理する。
Xp2=66.7%: 69%≦Xp1≦74%
Xp2=58.3%: 60%≦Xp1≦66%
Xp2=50%: 52%≦Xp1≦57
【0158】
第2実施形態では、p型クラッド層25の成長温度をT5とした場合、電子ブロック層23の成長温度T3とp型コンタクト層の成長温度T4との間の関係は、例えば、1050℃~1170℃の範囲内において、以下の式(3)に示す関係を満足していることが好ましい。
T3>T5>T4 (3)
【0159】
更に、p型クラッド層25の成長温度T5は、第2準安定p型領域のAlNモル分率が66.7%の場合は、1100℃以上が好ましく、第2準安定p型領域のAlNモル分率が58.3%または50%の場合は、1050℃以上が好ましい。
【0160】
p型クラッド層25のGaの質量移動を促進させるための成長温度以外の成長条件の一例として、成長温度T5が1080℃の場合、原料ガスの流量比(V/III)を1000~6000、成長速度を約100nm/hとするのが好ましい。
【0161】
n型クラッド層21、活性層22(井戸層220、バリア層221)、電子ブロック層23、p型コンタクト層24、及び、p型クラッド層25の成長温度T1~T5の上記式(1A)、(2)及び(3)を満足する一例を以下に示す。
T1=T2=1080℃、T3=1150℃、T4=980℃、T5=1080℃
【0162】
上記成長温度T5の一例は、以下に示すp型クラッド層25の第3Ga富化領域25a内の第2準安定p型領域のAlNモル分率Xp2に対して、適用され得る。
Xp2=50%、58.3%、66.7%
【0163】
p型クラッド層25のアクセプタ不純物濃度は、一例として、1.0×1016~1.0×1018cm-3程度が好ましい。尚、アクセプタ不純物濃度は、p型クラッド層25の膜厚に対して、必ずしも上下方向に均一に制御する必要はない。
【0164】
以上詳細に説明した第2実施形態の発光素子1は、電子ブロック層23とp型クラッド層25が、サファイア基板11の主面11aに由来する(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有し、横方向に隣接するテラスT間に、(0001)面に対して傾斜した傾斜領域IAが形成され、電子ブロック層23の傾斜領域IA内にテラス領域TAよりAlNモル分率の低い第1Ga富化領域23aが形成され、更に、p型クラッド層25の傾斜領域IA内にテラス領域TAよりAlNモル分率の低い第3Ga富化領域25aが形成されていることを特徴とする。
【0165】
当該特徴により、第2実施形態の発光素子2は、第3Ga富化領域25a内でキャリア(正孔)の局在化が生じ得るため、図14に模式的に示すように、p型クラッド層25(p-clad)内に注入される正孔(h+)は、傾斜領域IA内に直接注入されるか、或いは、テラス領域TA内を拡散して傾斜領域IA内に到達し得る。更に、第1Ga富化領域23a内でもキャリア(正孔)の局在化が生じ得るため、電子ブロック層23内に注入される正孔は、p型クラッド層25の傾斜領域IAから、電子ブロック層23の傾斜領域IA内にも直接注入され得る。従って、p型クラッド層25が無ければ、p型コンタクト層24から薄膜の電子ブロック層23のテラス領域TAに注入され、そのまま井戸層22のテラス領域TAに到達する正孔の一部を、p型クラッド層25のテラス領域TAから傾斜領域IA内に誘導し、電子ブロック層23の傾斜領域IAを経由して、井戸層22の傾斜領域IA内に到達させることができる。結果として、内部量子効率の低下、及び、ダブル発光ピークの発生を更に抑制することができる。尚、図14中において、図11と同様、☆(星印)は井戸層の傾斜領域IA内の局在中心を、●(黒丸)は非発光再結合中心を、それぞれ示している。
【0166】
[別実施形態]
以下に、上記第1及び第2実施形態の変形例について説明する。
【0167】
(1)上記第1及び第2実施形態では、電子ブロック層23は、所定の膜厚分を同じ成長条件で形成される場合、つまり、電子ブロック層23の上面に平行な第2平面内での平均組成(AlNモル分率)が、上下方向に一様である場合を想定したが、電子ブロック層23は、当該平均組成が上下方向に連続的或いは段階的に変化するように、形成されていても良い。当該平均組成が上下方向に段階的に変化する場合は、電子ブロック層23は多層構造を有する。尚、当該平均組成のAlNモル分率は、下側(活性層22側)ほど高くなるように変化させるのが好ましい。
【0168】
(2)上記第2実施形態では、p型クラッド層25は、所定の膜厚分を同じ成長条件で形成される1層のみのp型クラッド層25、つまり、p型クラッド層25の上面に平行な第2平面内での平均組成(AlNモル分率)が、上下方向に一様である場合を想定したが、p型クラッド層25は、当該平均組成が上下方向に連続的或いは段階的に変化するように、形成されていても良い。当該平均組成が上下方向に段階的に変化する場合は、p型クラッド層25は多層構造を有する。尚、当該平均組成のAlNモル分率は、下側(電子ブロック層23側)ほど高くなるように変化させるのが好ましい。
【0169】
(3)上記第1及び第2実施形態では、活性層22は、AlGaN系半導体で構成される2層以上の井戸層220と、AlGaN系半導体またはAlN系半導体で構成される1層以上のバリア層221を交互に積層した多重量子井戸構造で構成されている場合を想定したが、活性層22は、井戸層220が1層だけの単一量子井戸構造であり、バリア層221(量子バリア層)を備えない構成としても良い。斯かる単一量子井戸構造に対しても、上記第1及び第2実施形態で採用した電子ブロック層23による効果、及び、上記第2実施形態で採用したp型クラッド層25による効果は、同様に奏し得ることは明らかである。
【0170】
(4)上記第1及び第2実施形態では、n型クラッド層21の成長条件の一例として、有機金属化合物気相成長法で使用する原料ガスやキャリアガスの供給量及び流速は、n型クラッド層21を構成するn型AlGaN層全体の平均的なAlNモル分率に応じて設定されると説明した。つまり、n型クラッド層21全体の平均的なAlNモル分率が、上下方向に一様に設定されている場合は、上記原料ガス等の供給量及び流速は一定に制御される場合を想定した。しかし、上記原料ガス等の供給量及び流速は必ずしも一定に制御されなくてもよい。
【0171】
(5)上記第1及び第2実施形態では、第1領域R1及びp電極26の平面視形状は、一例として、櫛形形状のものを採用しが、該平面視形状は、櫛形形状に限定されるものではない。また、第1領域R1が複数存在して、夫々が、1つの第2領域R2に囲まれている平面視形状であってもよい。
【0172】
(6)上記第1及び第2実施形態では、主面が(0001)面に対してオフ角を有するサファイア基板11を用いてAlN層12の表面に多段状のテラスが表出した下地部10を使用する場合を例示したが、当該オフ角の大きさや、オフ角を設ける方向(具体的には、(0001)面を傾ける方向であり、例えばm軸方向やa軸方向等)は、AlN層12の表面に多段状のテラスが表出して、層状領域21aの成長開始点が形成される限りにおいて、任意に決定してもよい。
【0173】
(7)上記第1及び第2実施形態では、発光素子1として、図1に例示するように、サファイア基板11を含む下地部10を備える発光素子1を例示しているが、サファイア基板11(更には、下地部10に含まれる一部または全部の層)をリフトオフ等により除去してもよい。更に、下地部10を構成する基板は、サファイア基板に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0174】
本発明は、ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなる窒化物半導体紫外線発光素子に利用可能である。
【符号の説明】
【0175】
1、2: 窒化物半導体紫外線発光素子
10: 下地部
11: サファイア基板
11a: サファイア基板の主面
12: AlN層
20: 発光素子構造部
21: n型クラッド層(n型層)
21a: 層状領域(n型層)
21b: n型本体領域(n型層)
22: 活性層
220: 井戸層
220a: 第2Ga富化領域
221: バリア層
221a: 第4Ga富化領域
23: 電子ブロック層(p型層)
23a: 第1Ga富化領域
24: p型コンタクト層(p型層)
25: p型クラッド層(p型層)
25a: 第3Ga富化領域
26: p電極
27: n電極
100: 基板
101: AlGaN系半導体層
102: テンプレート
103: n型AlGaN系半導体層
104: 活性層
105: p型AlGaN系半導体層
106: p型コンタクト層
107: n電極
108: p電極
BL: 第1領域と第2領域の境界線
IA: 傾斜領域
R1: 第1領域
R2: 第2領域
T: テラス
TA: テラス領域

図1
図2
図3
図4
図5
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