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特許7570428組み換えインスリン様成長因子Iの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】組み換えインスリン様成長因子Iの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20241011BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20241011BHJP
   C07K 14/65 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
C07K1/22
C12P21/00 H
C07K14/65
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022560551
(86)(22)【出願日】2020-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2020041283
(87)【国際公開番号】W WO2022097216
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】500470264
【氏名又は名称】シミックホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】512267449
【氏名又は名称】株式会社オーファンパシフィック
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【弁護士】
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 裕幸
(72)【発明者】
【氏名】高栖 政博
(72)【発明者】
【氏名】薛 光▲隆▼
【審査官】松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-109794(JP,A)
【文献】J.Chem.Pharm.Res.,2014年,Vol.6, No.4,p.1059-1066
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/00
C12P 21/00
C07K 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組み換えインスリン様成長因子I(rIGF-1)の製造方法であって、
(1)rIGF-1をユビキチン様タンパク質SUMO(small ubiquitin-related modifier)との融合タンパク質(SUMO-IGF-1)として得る工程と、
(2)SUMO-IGF-1をSUMOプロテアーゼにより処理する工程と、
(3)工程(2)の処理液を陽イオン交換クロマトグラフィーに適用し、グラジエント溶出によりrIGF-1を含む溶出液を得る工程と、
を含み、
工程(1)は、SUMO-IGF-1を発現する宿主細胞を溶解して第1の試料溶液を得る工程(1-1)と、第1の試料溶液をアフィニティークロマトグラフィーに適用して、SUMO-IGF-1を含む第1の溶出液を得る工程(1-2)を含み、
工程(2)は、前記第1の溶出液をSUMOプロテアーゼにより処理して、SUMO-IGF-1、SUMOプロテアーゼ、SUMO及びrIGF-1を含む第2の試料溶液を得る工程であり、
工程(3)は、第2の試料溶液を陽イオン交換クロマトグラフィーに適用してグラジエント溶出によりSUMO-IGF-1、SUMOプロテアーゼ、SUMO及びミスフォールディングのrIGF-1から正しくフォールディングされたrIGF-1を分離してrIGF-1を含む第3の試料溶液を得る工程である、製造方法。
【請求項2】
前記グラジエント溶出が、
(i)塩濃度200 mM以上300 mM以下の溶出液での1カラム容積以上の溶出工程、
(ii)塩濃度300 mM以上500 mM未満の溶出液での1カラム容積以上の溶出工程、
(iii)塩濃度500 mM以上の溶出液での溶出工程、
を含み、
rIGF-1を前記溶出工程(ii)の溶出液中に回収する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
アフィニティークロマトグラフィーが、Ni-NTA(nickel-nitrilotriacetic acid)アフィニティークロマトグラフィーである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(2)よりも後段に、Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィーによる分離工程を含まない、請求項1-3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
逆相高速液体クロマトグラフィーによるミスフォールディングタンパクの分離工程を含まない、請求項1-4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記第3の試料溶液中において、タンパク質全量に占める正しくフォールディングされたrIGF-1量の比率が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である、請求項1-5のいずれか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み換えインスリン様成長因子I(rIGF-1)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大腸菌を用いた組み換えタンパク質の生産には、発現させたタンパク質の不溶化とミスフォールディングの問題がある。組み換えインスリン様成長因子I(rIGF-1)に関しては、不溶化の問題に対処するため、rIGF-1をユビキチン様タンパク質SUMO(small ubiquitin-related modifier)との融合タンパク質(SUMO-rIGF-1)として発現させる技術が報告されている(非特許文献1参照)。また、正しくフォールディングされたrIGF-1をミスフォールディングのrIGF-1と分離するために、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が用いられている(特許文献1参照)。
【0003】
非特許文献1に記載されるSUMO-rIGF-1の発現によるrIGF-1の生産では、ニッケルカラム(Ni-NTA樹脂カラム)によるrIGF-1の精製が行われている。具体的には、発現させたSUMO-rIGF-1をSUMOプロテアーゼにより処理した溶液(SUMO-rIGF-1、SUMOプロテアーゼ、SUMO及びrIGF-1を含む)をNi-NTA(nickel-nitrilotriacetic acid)アフィニティークロマトグラフィーに適用し、ヒスチジンタグを有するSUMO-rIGF-1、SUMOプロテアーゼ及びSUMOをカラムに吸着させrIGF-1のみを溶出させることによりrIGF-1を精製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表平07-501704号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】”Soluble expression of human insulin-like growth factor-1 with theassistance of SUMO fusion partner”, Journal of Chemical and Pharmaceutical Research, 2014, 6(4):1059-1066
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ミスフォールディングのrIGF-1に対して正しくフォールディングされたrIGF-1を高純度に得るための改善された手法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]-[11]を提供する。
[1] 組み換えインスリン様成長因子I(rIGF-1)の製造方法であって、
(1)rIGF-1をユビキチン様タンパク質SUMO(small ubiquitin-related modifier)との融合タンパク質(SUMO-IGF-1)として得る工程と、
(2)SUMO-IGF-1をSUMOプロテアーゼにより処理する工程と、
(3)工程(2)の処理液を陽イオン交換クロマトグラフィーに適用し、グラジエント溶出によりrIGF-1を含む溶出液を得る工程と、
を含む製造方法。
[2] 前記グラジエント溶出が、
(i)塩濃度200 mM以上300 mM未満の溶出液での1カラム容積以上の溶出工程、
(ii)塩濃度300 mM以上500 mM未満の溶出液での1カラム容積以上の溶出工程、
(iii)塩濃度500 mM以上の溶出液での溶出工程、
を含み、
rIGF-1を前記溶出工程(ii)の溶出液中に回収する、[1]の製造方法。
[3] 溶出工程(i)の溶出条件が次のとおりである、[2]の製造方法。
塩濃度200mMで1.5-6カラム容積(CV)の溶出、次いで塩濃度250mMで3-12CVの溶出、さらに塩濃度250mMから300mMまでの直線濃度勾配による1.5-3CVの溶出。
[4] 溶出工程(ii)
塩濃度300mMで1.5-6CVの溶出、次いで塩濃度300mMから400mMまでの直線濃度勾配による1.5-3CVの溶出。
[5] 溶出工程(iii)の溶出条件が次のとおりである、[2]-[4]のいずれかの製造方法。
塩濃度1Mでの1.5-6CVの溶出。
[6] 工程(1)は、SUMO-IGF-1を発現する宿主細胞を溶解して第1の試料溶液を得る工程(1-1)と、第1の試料溶液をNi-NTA(nickel-nitrilotriacetic acid)アフィニティークロマトグラフィーに適用して、SUMO-IGF-1を含む第1の溶出液を得る工程(1-2)を含み、
工程(2)は、前記第1の溶出液をSUMOプロテアーゼにより処理して、SUMO-IGF-1、SUMOプロテアーゼ、SUMO及びrIGF-1を含む第2の試料溶液を得る工程であり、
工程(3)は、第2の試料溶液を陽イオン交換クロマトグラフィーに適用してグラジエント溶出によりSUMO-IGF-1、SUMOプロテアーゼ及びSUMOからrIGF-1を分離してrIGF-1を含む第3の試料溶液を得る工程である、
[1][5]のいずれかの製造方法。
[7] 工程(2)よりも後段に、Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィーによる分離工程を含まない、[1]-[6]のいずれかの製造方法。
[8] 逆相高速液体クロマトグラフィーによるミスフォールディングタンパクの分離工程を含まない、[1]-[7]のいずれかの製造方法。
[9] 前記第3の試料溶液中において、タンパク質全量に占める正しくフォールディングされたrIGF-1量の比率が60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である、[1]-[8]のいずれかの製造方法。
[10] 前記宿主細胞が、大腸菌である、[1]-[9]のいずれかの製造方法。
【0008】
[11] 組み換えインスリン様成長因子I(rIGF-1)の精製方法であって、
(1)rIGF-1をユビキチン様タンパク質SUMO(small ubiquitin-related modifier)との融合タンパク質(SUMO-IGF-1)として得る工程と、
(2)SUMO-IGF-1をSUMOプロテアーゼにより処理する工程と、
(3)工程(2)の処理液を陽イオン交換クロマトグラフィーに適用し、グラジエント溶出によりrIGF-1を含む溶出液を得る工程と、
を含む精製方法。
【0009】
本発明において「グラジエント溶出」とは、塩濃度勾配溶出のことを意味する。グラジエント溶出は、塩濃度が直線的(ライナー)にあるいは段階的(ステップワイズ)に変化させて溶出を行う工程が一部に含まれていればよく、その全工程で塩濃度を変化させた溶出が行われることを必要としない。すなわち、グラジエント溶出は、塩濃度を一定として溶出を行う工程を一部に含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ミスフォールディングのrIGF-1に対して正しくフォールディングされたrIGF-1を高純度に得るための改善された手法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られた第3の試料溶液のクロマトグラムを示す。図中、横軸は溶出時間、縦軸は吸光度(OD 220nm)を示す。黒塗りの矢印がrIGF-1(正しくフォールディングされたrIGF-1)のピークを、白抜きの矢印がミスフォールディングのrIGF-1(mis-folded isomer)を示す。
図2】実施例2の溶出工程(i)で得られた溶出液のクロマトグラムを示す。図中、横軸は溶出時間、縦軸は吸光度(OD 220nm)を示す。黒塗りの矢印がrIGF-1のピークを、白抜きの矢印がmis-folded isomerを示す。
図3】実施例2の溶出工程(ii)で得られた溶出液(第3の試料溶液)のクロマトグラムを示す。図中、横軸は溶出時間、縦軸は吸光度(OD 220nm)を示す。黒塗りの矢印がrIGF-1のピークを示す。
図4】比較例1の溶出・洗浄工程で得られた試料溶液のクロマトグラムを示す。図中、横軸は溶出時間、縦軸は吸光度(OD 220nm)を示す。黒塗りの矢印がrIGF-1のピークを、白抜きの矢印がmis-folded isomerを、斜線の矢印がSUMOを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0013】
本発明に係る組み換えインスリン様成長因子I(rIGF-1)の製造方法及び精製方法は、以下の工程(1)-(3)を含む。
工程(1):rIGF-1をユビキチン様タンパク質SUMO(small ubiquitin-related modifier)との融合タンパク質(SUMO-IGF-1)として得る工程。
工程(2):SUMO-IGF-1をSUMOプロテアーゼにより処理する工程。
工程(3):工程(2)の処理液を陽イオン交換クロマトグラフィーに適用し、グラジエント溶出によりrIGF-1を含む溶出液を得る工程。
【0014】
[工程(1)]
本工程では、rIGF-1をユビキチン様タンパク質SUMO(small ubiquitin-related modifier)との融合タンパク質(SUMO-IGF-1)として得る。本工程は、SUMO-IGF-1を発現する宿主細胞を溶解して第1の試料溶液を得る工程(1-1)と、第1の試料溶液をNi-NTA(nickel-nitrilotriacetic acid)アフィニティークロマトグラフィーに適用して、SUMO-IGF-1を含む第1の溶出液を得る工程(1-2)とを含む。
【0015】
[工程(1-1)]
本工程では、SUMO-IGF-1を発現する宿主細胞を溶解して第1の試料溶液を得る。
SUMO-IGF-1発現のための遺伝子コンストラクトは従来公知の手法(例えば非特許文献1に記載の方法)により作製すればよい。遺伝子コンストラクト作製のためのSUMO-IGF-1遺伝子及び発現プラスミドには市販のDNA合成遺伝子及び汎用ベクターを利用できる。
宿主細胞は、特に限定されないが、大腸菌が好適に用いられ、市販の大腸菌細胞株を利用できる。遺伝子コンストラクトによる宿主細胞の形質転換及び形質転換体の培養も従来公知の手法により行うことができる。
培養後、培養液から遠心分離等によって細胞を回収し、高圧破砕機等を用いて細胞を破砕し、遠心分離等により不溶物を取り除くことで、第1の試料溶液を得る。
【0016】
[工程(1-2)]
本工程では、第1の試料溶液をNi-NTA(nickel-nitrilotriacetic acid)アフィニティークロマトグラフィーに適用して、SUMO-IGF-1を含む第1の溶出液を得る。
平衡化したNi-NTAアフィニティクロマトグラフィーカラムに第1の試料溶液をロードする。SUMO-IGF-1は、SUMOに付加されたヒスチジンタグ(His-tag)を介してカラム担体に保持される。適当な緩衝液でカラムを洗浄した後、イミダゾールの濃度勾配による溶出を行ってカラム担体に保持されたSUMO-IGF-1を溶出させて第1の溶出液を得る。イミダゾール濃度勾配溶出は、例えば、開始バッファー(50mM Tris, 300mM NaCl, 8M Urea, 20mM Imidazole, pH 7.8)と、溶出バッファー(50mM Tris, 300mM NaCl, 600mM Imidazole, pH 7.8)を用いた直線濃度勾配溶出により行うことができる。
【0017】
[工程(2)]
本工程は、SUMO-IGF-1をSUMOプロテアーゼにより処理する工程である。第1の溶出液をSUMOプロテアーゼにより処理することにより、SUMO-IGF-1、SUMOプロテアーゼ、SUMO及びrIGF-1を含む第2の試料溶液を得る。
SUMOプロテアーゼ処理は、従来公知の手法(例えば非特許文献1に記載の方法)により行えばよい。SUMOプロテアーゼ処理後に、SUMO-IGF-1、SUMOプロテアーゼ、SUMO及びrIGF-1を含む処理液を適宜濃縮や緩衝液置換して第2の試料溶液としてもよい。
【0018】
[工程(3)]
本工程は、第2の試料溶液を陽イオン交換クロマトグラフィーに適用し、グラジエント溶出によりrIGF-1を含む溶出液を得る工程である。
従来手法(例えば非特許文献1に記載の方法)では、SUMO-IGF-1、SUMOプロテアーゼ、SUMO及びrIGF-1を含むSUMOプロテアーゼ処理液を再度Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィーに適用し、His-tagを有するSUMO-rIGF-1、SUMOプロテアーゼ及びSUMOをカラムに吸着させrIGF-1のみを溶出させることによりrIGF-1を精製している(比較例1参照)。
本発明に係る方法は、Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィーに替えて陽イオン交換クロマトグラフィーを用いてrIGF-1の精製を行うものであり、本工程では、第2の試料溶液を陽イオン交換クロマトグラフィーに適用し、グラジエント溶出によりSUMO-IGF-1、SUMOプロテアーゼ及びSUMOからrIGF-1を分離してrIGF-1を含む第3の試料溶液を得る。本発明に係る方法では、工程(2)よりも後段にNi-NTAアフィニティークロマトグラフィーによる分離工程が含まれない。
【0019】
第2の試料溶液を、適当な緩衝液(例えば、20mM Ammonium acetate, 200mM Imidazole, pH 4.0)で平衡化した陽イオン交換クロマトグラフィーカラム(SPセルロース)にロードする。塩濃度勾配溶出を行ってカラム担体に保持されたrIGF-1を溶出させて第3の試料溶液を得る。
【0020】
塩濃度勾配溶出は、例えば、上記緩衝液を開始バッファーとし、溶出バッファー(20mM Ammonium acetate, 200mM Imidazole, 1M NaCl, pH 4.0)を併せて用いた直線濃度勾配溶出により行うことができる。溶出容積・溶出速度は、適宜調整され得る。溶出溶液は、例えば4カラム容積(CV)、1-16CV、好ましくは2-8CV、より好ましくは3-6CVである。
陽イオン交換クロマトグラフィーカラムを用いた塩濃度勾配溶出により、従来方法(比較例1参照)に比して、SUMOの混入のないrIGF-1を高純度かつ高収量で得ることができる(実施例1参照)。
【0021】
塩濃度勾配溶出は、好ましくは以下の溶出工程(i)-(iii)からなるものとされる。
(i)塩濃度200 mM以上300 mM以下(あるいは200 mM以上300 mM未満)の溶出液での1カラム容積以上の溶出工程。
(ii)塩濃度300 mM以上500 mM未満の溶出液での1カラム容積以上の溶出工程。
(iii)塩濃度500 mM以上の溶出液での溶出工程。
【0022】
溶出工程(i)では、ミスフォールディングのrIGF-1が主として溶出される。
溶出液には、例えば、酢酸アンモニウムをバッファーとし、上記濃度で塩(NaClなど)を含む溶出液が用いられる。溶出液中の塩濃度は、上記濃度範囲で一定であっても、直線的(ライナー)に又は段階的(ステップワイズ)に変化してもよい。溶出液はイミダゾールを適当な濃度(例えば200mM)で含んでいてもよい。溶出容積・溶出速度は、適宜調整され得る。溶出溶液は、例えば12CVであり、3-48CV、好ましくは6-24CV、より好ましくは9-15CVの範囲とされる。
溶出工程(i)は、特に具体的には、塩濃度200mMで1.5-6カラム容積(CV)の溶出、次いで塩濃度250mMで3-12CVの溶出、さらに塩濃度250mMから300mMまでの直線濃度勾配による1.5-3CVの溶出とされる。
【0023】
溶出工程(ii)では、正しくフォールディングされたrIGF-1が主として溶出される。この溶出分画を回収することで高純度に精製されたrIGF-1が得られる。
溶出液には、例えば、酢酸アンモニウムをバッファーとし、上記濃度で塩(NaClなど)を含む溶出液が用いられる。溶出液中の塩濃度は、上記濃度範囲で一定であっても、直線的(ライナー)に又は段階的(ステップワイズ)に変化してもよい。溶出液はイミダゾールを適当な濃度(例えば200mM)で含んでいてもよい。溶出容積・溶出速度は、適宜調整され得る。溶出溶液は、例えば6CVであり、1.5-24CV、好ましくは3-12CV、より好ましくは4.5-8CVの範囲とされる。
溶出工程(ii)は、特に具体的は、塩濃度300mMで1.5-6CVの溶出、次いで塩濃度300mMから400mMまでの直線濃度勾配による1.5-3CVの溶出とされる。
【0024】
溶出工程(iii)では、SUMO-IGF1、SUMOプロテアーゼ及びSUMOが主として溶出される。
溶出液には、例えば、酢酸アンモニウムをバッファーとし、上記濃度で塩(NaClなど)を含む溶出液が用いられる。溶出液中の塩濃度は、上記濃度範囲で一定であっても、直線的(ライナー)に又は段階的(ステップワイズ)に変化してもよい。溶出液はイミダゾールを適当な濃度(例えば200mM)で含んでいてもよい。溶出容積・溶出速度は、適宜調整され得る。溶出溶液は、例えば3CVであり、0.75-12V、好ましくは1.5-6CV、より好ましくは2-4CVの範囲とされる。
溶出工程(iii)は、特に具体的には、塩濃度1Mでの1.5-6CVの溶出とされる。
【0025】
従来、正しくフォールディングされたrIGF-1をミスフォールディングのrIGF-1と分離するために、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が用いられている。
本発明に係るrIGF-1の製造方法及び精製方法によれば、高価なHPLCカラムを用いることなく、安価な陽イオン交換クロマトグラフィーカラム(工程(3))を用いて、ミスフォールディングのrIGF-1に対して正しくフォールディングされたrIGF-1を高純度でかつ高い回収率で取得することができる。なお、正しくフォールディングされたrIGF-1のうち特にMetO59-IGF-1を除去することを目的として本発明の工程に続けてさらにHPLC分離を行うことは排除されない。
本発明に係るrIGF-1の製造方法及び精製方法によれば、工程(3)の溶出液(第3の試料溶液)において、タンパク質全量に占める正しくフォールディングされたrIGF-1量の比率を60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上とできる。
【実施例
【0026】
[実施例1]
(1)材料
(1-1)SUMO-IGF-1 DNA合成遺伝子
SUMO-IGF-1遺伝子には、市販のDNA合成遺伝子(MISSION BIOTECH、GS3075)を用いた。
(1-2)発現調節用プラスミド(pET22b)
SUMO-IGF-1の発現プラスミドには、pET22b(EMD Millipore、69744-3CN)を用いた。
(1-3)遺伝子発現構成体(pET22b SUMO-IGF-1)
SUMO-IGF-1遺伝子発現構成体(pET22b SUMO-IGF-1)は、SUMO-IGF-1 DNA合成遺伝子をpET22bに組み込むことにより構築した。
(1-4)宿主細胞
宿主細胞には、大腸菌(Escherichia coli)B株由来の細胞株BL21(DE3)を用いた。
(1-5)マスター・ワーキング・セル・バンク作製のための種細胞株の調製
宿主細胞BL21(BD3)株に大腸菌形質転換法でメカセルミン(遺伝子組換え)遺伝子発現構成体を導入した。アンピシリンを含むLB平板培地で、37℃で培養し、8つのシングルコロニーを選択した。これらのシングルコロニーを、アンピシリンを含むLB培地で、37℃で培養液の濁度(OD 600 nm)が0.6~0.8まで培養し、1 mMのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシドで2.5時間、28℃で誘導させ、高発現の細胞株を選択した。
(1-6)マスター・ワーキング・セル・バンクの調製
選択したひとつのコロニーを、アンピシリンを含むLB培地に接種し37℃で、濁度(OD 600nm)が0.6~0.8まで培養した。培養後、遠心分離し、培地を廃棄し、アンピシリンを含むLB培地の濁度(OD 600nm)が2になるように添加し、最終濃度が20%となるよう滅菌済みグリセロールを添加し、懸濁し、最終濁度(OD 600 nm)が1.2になるように調整した。この細胞懸濁液をクライオチューブに1 mLずつ分注した。
【0027】
(2)SUMO-IGF-1の発現
(2-1)前培養1
融解したワーキング・セル・バンク0.5mLを前培養培地5mLに加え、37℃、2~8時間、120rpmで培養した。その後、195mLの前培養培地に移し、濁度が5以上になるまで37℃、120rpmで培養した。
(2-2)前培養2
前培養1で得られた培養液を、前培養培地3.1L、グルコース溶液400 mL、微量金属溶液1025μL及びアンピシリン溶液3.5mLに加え、濁度が10以上となるまで37°Cで培養した。
(2-3)本培養
前培養2で得られた培養液を、本培養培地、グルコース溶液、微量金属溶液及びアンピリシン溶液に加え、濁度が50になるまで37℃で培養した。IPTG溶液を添加して培養を継続し、菌体内にSUMO-IGF-1を発現させた。
【0028】
(3)菌体回収・溶解
本培養終了後、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。菌体1gに対して菌体溶解緩衝液(50mM Tris, 300mM NaCl, 8M Urea, pH 7.8)10 mLを加えて、菌体を懸濁した。高圧破砕機(850 bar)により菌体を破砕した後、遠心分離を行って不溶物を取り除き、第1の試料溶液を得た。
【0029】
(4)Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィー精製
菌体溶解緩衝液で平衡化したNi-NTAアフィニティクロマトグラフィーカラム(高さ25cm)に第1の試料溶液を全量負荷した。菌体溶解緩衝液でカラムを洗浄した後、ニッケル緩衝液B(50mM Tris, 300mM NaCl, 8M Urea, 20mM Imidazole, pH 7.8)を開始バッファーとし、ニッケル緩衝液C(50mM Tris, 300mM NaCl, 600 mM Imidazole, pH 7.8)を溶出バッファーとする直線濃度勾配溶出(線速度60cm/h)により、SUMO-IGF-1を含む第1の溶出液を得た。
【0030】
(5)SUMOプロテアーゼ処理
第1の溶出液に1/2000倍容量のSUMOプロテアーゼ溶液を添加し、15℃以上で1時間反応させた。反応液を限外ろ過膜(分画分子量2kDa)で濃縮した。濃縮液の7倍量以上のTFF緩衝液B(20mM Ammonium acetate, 200mM Imidazole, pH 4.0)で緩衝液置換した。その後、再度濃縮した。濃縮物をTFF緩衝液Bにより回収し、SUMO-IGF-1、SUMOプロテアーゼ、SUMO及びrIGF-1を含む第2の試料溶液を得た。
【0031】
(6)陽イオン交換クロマトグラフィー精製
第2の試料溶液を、SP緩衝液A(20mM Ammonium acetate, 200mM Imidazole, pH 4.0)で平衡化した陽イオン交換クロマトグラフィーカラム(SPセルロース、高さ20 cm)に全量負荷した。
SP緩衝液Aを開始バッファーとし、SP緩衝液B(20mM Ammonium acetate, 200mM Imidazole, 1M NaCl, pH 4.0)を溶出バッファーとする直線濃度勾配溶出(4カラム容積(CV)、線速度60 cm/h)により、IGF-1を含む第3の試料溶液を得た。
【0032】
得られた第3の試料溶液のクロマトグラムを図1に示す。図中、横軸は溶出時間、縦軸は吸光度(OD 220nm)を示す。黒塗りの矢印がrIGF-1(正しくフォールディングされたrIGF-1)のピークであり、白抜きの矢印がミスフォールディングのrIGF-1(mis-folded isomer)である。ピーク強度から算出したタンパク質全量に占めるrIGF-1及びmis-folded isomerの比率は、それぞれ64.2%及び28.9%であった(表1参照)。また、第2の試料溶液中のrIGF-1量に対する第3の試料溶液のrIGF-1量(回収率)は80%であった。第3の試料溶液においてSUMOの混入のないrIGF-1を高純度(64.2%)でかつ高い回収率(80%)で取得できた。
【0033】
【表1】
【0034】
[実施例2]
(1)陽イオン交換クロマトグラフィー精製
実施例1と同様にして得た第2の試料溶液を、SP緩衝液Aで平衡化した陽イオン交換クロマトグラフィーカラム(SPセルロース、高さ20 cm)に全量負荷した。その後、以下の溶出工程(i)-(iii)からなるグラジエント溶出を行った。
【0035】
溶出工程(i)
SP緩衝液A 33%/SP緩衝液B1(20mM ammonium acetate, 200mM imidazole, 300mM NaCl, pH 4.0)67%の溶出液(塩濃度200mM)3CVで溶出を行った(線速度60 cm/h)。
次いで、SP緩衝液A 17%/SP緩衝液B1 83%の溶出液(塩濃度250mM)6CVで溶出を行った(線速度60 cm/h)。
さらに、SP緩衝液A 17%/SP緩衝液A 83%の条件(塩濃度250mM)から、SP緩衝液A 0%/SP緩衝液B1 100%の条件(塩濃度300mM)まで、直線濃度勾配溶出(3CV、線速度60 cm/h)を行った。
得られた溶出液のクロマトグラムを図2に示す。図中、横軸は溶出時間、縦軸は吸光度(OD 220nm)を示す。黒塗りの矢印がrIGF-1のピークであり、白抜きの矢印がmis-folded isomerである。ピーク強度から算出したタンパク質全量に占めるrIGF-1の比率は、27.6%であった。
【0036】
溶出工程(ii)
続いて、SP緩衝液B1 100%の溶出液(塩濃度300mM)3CVで溶出を行い(線速度60 cm/h)、IGF-1を含む第3の試料溶液を得た。
さらに、SP緩衝液A 70%/SP緩衝液B2(20mM ammonium acetate, 200mM imidazole, 1M NaCl, pH 4.0)30%の条件(塩濃度300mM)から、SP緩衝液60%/SP緩衝液B2 40%の条件(塩濃度400mM)まで、直線濃度勾配溶出(3CV、線速度60 cm/h)を行った。
得られた第3の試料溶液のクロマトグラムを図3に示す。図中、横軸は溶出時間、縦軸は吸光度(OD 220nm)を示す。黒塗りの矢印がrIGF-1である。ピーク強度から算出したタンパク質全量に占めるrIGF-1及びmis-folded isomerの比率は、それぞれ95.7%及び0.4%であった(表1参照)。また、rIGF-1回収率は70%であった。
【0037】
溶出工程(iii)
最後に、SP緩衝液B2 100%の溶出液(塩濃度1M)3CVで溶出を行った(線速度60 cm/h)。
【0038】
溶出工程(ii)の溶出液(第3の試料溶液)において、mis-folded isomer(0.4%)に対してrIGF-1を高純度(95.7%)でかつ高い回収率(70%)で取得できた。
【0039】
[比較例1]
(1)Ni-NTAアフィニティークロマトグラフィー精製2
実施例1と同様にして得た第2の試料溶液を、Ni-NTAアフィニティクロマトグラフィーカラムに全量負荷した(線速度60cm/h)。全量負荷中に溶出する溶出液及びその後の洗浄(20mM Tris buffer, 300mM NaCl, pH 7.8)による溶出液を、IGF-1を含む試料溶液として取得した。
【0040】
得られた試料溶液のクロマトグラムを図4に示す。図中、横軸は溶出時間、縦軸は吸光度(OD 220nm)を示す。黒塗りの矢印がrIGF-1(正しくフォールディングされたrIGF-1)のピークであり、白抜きの矢印がミスフォールディングのrIGF-1(mis-folded isomer)であり、斜線の矢印がSUMOである。ピーク強度から算出したタンパク質全量に占めるrIGF-1及びmis-folded isomerの比率はそれぞれ49.6%及び21.5%であり、SUMOが21.7%と高い比率で含まれた(表1参照)。また、rIGF-1回収率も31%と低かった。


図1
図2
図3
図4