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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】アルツハイマー病の予防又は改善剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/164 20060101AFI20241011BHJP
   A61K 36/888 20060101ALI20241011BHJP
   A61K 31/7028 20060101ALI20241011BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20241011BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20241011BHJP
【FI】
A61K31/164
A61K36/888
A61K31/7028
A61P25/28
A23L33/105
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023090001
(22)【出願日】2023-05-31
(62)【分割の表示】P 2019549194の分割
【原出願日】2018-10-03
(65)【公開番号】P2023110004
(43)【公開日】2023-08-08
【審査請求日】2023-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2017201880
(32)【優先日】2017-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 香織
(72)【発明者】
【氏名】向井 克之
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 靖之
(72)【発明者】
【氏名】湯山 耕平
【審査官】池田 百合香
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-113535(JP,A)
【文献】向井 克之 ,こんにゃく芋由来セラミドの食品素材としての機能性 ,BIO INDUSTRY 8月号 ,第19巻,2002年,p.16-p.26
【文献】YUYAMA, K., et al.,Sphingolipid-modulated exosome secretion promotes clearance of amyloid-β by microglia,J. Biol. Chem.,2012年,vol.287, no.14,p.10977-10989
【文献】GOODMAN, Y., et al.,Ceramide protects hippocampal neurons against excitotoxic and oxidative insults, and amyloid beta-pe, J. Neurochem.,1996年,vol.66, issue 2,p.869-872
【文献】五十嵐靖之,農林産物由来のセラミド含有機能性素材の創出,グリーンテクノ情報,2016年,vol.12, no.1,p.21-24
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00 ~ 33/44
A23L 2/00 ~ 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
こんにゃく芋由来のセラミドを有効成分とする、アルツハイマー病の予防又は改善剤。
【請求項2】
前記セラミドがグルコシルセラミドである、請求項1に記載のアルツハイマー病の予防又は改善剤。
【請求項3】
アルツハイマー病の予防用の飲食品である、請求項1又は2に記載のアルツハイマー病の予防又は改善剤。
【請求項4】
アルツハイマー病の予防用の医薬品である、請求項1又は2に記載のアルツハイマー病の予防又は改善剤。
【請求項5】
こんにゃく芋由来のセラミドを有効成分とする、記憶力の維持又は改善剤。
【請求項6】
こんにゃく芋由来のセラミドを有効成分とする、判断力の維持又は改善剤。
【請求項7】
こんにゃく芋由来のセラミドを有効成分とする、認知機能の維持又は改善剤。
【請求項8】
こんにゃく芋由来のセラミドの、アルツハイマー病の予防又は改善剤の製造のための使用。
【請求項9】
アルツハイマー病の予防又は改善が求められる対象(ヒトを除く)に、有効量のこんにゃく芋由来のセラミドを投与する工程を含む、アルツハイマー病の予防又は改善方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳内でアミロイドβタンパク質(Aβ)の蓄積を効果的に抑制できるアルツハイマー病の予防剤又は改善剤に関する。また、本発明は、Aβの蓄積に起因する記憶力の低下を抑制又は低下した記憶力を改善できる記憶力の維持又は改善剤、判断力の低下を抑制又は低下した判断力を改善できる判断力の維持又は改善剤、及び認知機能の低下を抑制又は低下した認知機能を改善できる認知機能の維持又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病は神経細胞死やシナプスの機能障害の結果生じる進行性の神経変性疾患である。アルツハイマー病の病理学的特徴として、老人斑や神経原繊維変化といった異常構造物の脳内への蓄積が挙げられる。現在、認知症を引き起こす原因の過半数がアルツハイマー病だと言われており、その予防又は治療方策の早期確立が望まれている。
【0003】
アルツハイマー病は家族性アルツハイマー病と孤発性アルツハイマー病に分類することができる。家族性アルツハイマー病は、APP遺伝子、プレセニン1遺伝子、プレセニン2遺伝子といった遺伝子への変異が原因であるとされており、比較的若いうちに発症する。しかしながら、家族性アルツハイマー病は全アルツハイマー病患者の1%程度にしかすぎず、そのほとんどが、孤発性アルツハイマー病である。孤発性アルツハイマー病では危険因子としてApoEアイソフォーム4が知られているが、加齢が最大の危険因子であり、誰しもがアルツハイマー病を発症する可能性を有する。
【0004】
アルツハイマー病は、長年にわたって脳内にAβが蓄積することにより発症するとされている。アルツハイマー病を予防するためには、認知症等の症状が現れるよりも前から、継続的にAβ抑制することが重要になる。そのため、アルツハイマー病の予防剤には、Aβの蓄積を抑制する効果だけでなく、長年にわたって継続的に摂取しても安全であることが要求される。長年の食経験がある食品素材に含まれる成分であれば、長期にわたって継続的に摂取しても安全であると考えられる。しかしながら、長年の食経験があり、かつ、Aβの蓄積を効果的に抑制できるものについては、未だ十分な検討がされていないのが現状である。
【0005】
Aβの蓄積を抑制する薬剤については、これまでにも広く研究がされている。例えば、特許文献1には、水溶性ペプチド金属錯体アレイを含むアミロイド線維の形成を抑制する抑制剤が開示されている。また、例えば、特許文献2には、N-アセチルノイラミン酸、N-アセチルマンノサミン、及びシアリルラクトースの少なくとも何れか一つを含有する、GNE遺伝子変異に起因するAβ凝集抑制剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-145175号公報
【文献】特開2014-224132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、食経験等がある安全な素材を用いてAβの蓄積を効果的に抑制できるアルツハイマー病の予防又は改善剤を提供することである。また、本発明の他の目的は、食経験等がある安全な素材を用いて、記憶力の低下を抑制又は低下した記憶力を改善できる記憶力の維持又は改善剤、判断力の低下を抑制できる判断力の維持又は改善剤、及び認知機能の低下を抑制又は低下した認知機能を改善できる認知機能の維持又は改善剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等が前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、セラミド(特に、こんにゃく芋由来のグルコシルセラミド)には、Aβの蓄積を効果的に抑制し、認知機能の低下を抑制する効果、記憶力を維持させる効果、判断力を維持させる効果等があることを発見した。つまり、継続的なセラミドの摂取によりアルツハイマー病を予防又は改善できる可能性を見出した。本発明は、かかる知見に基づきさらに検討を重ねた結果完成したものである。
【0009】
本発明は、アルツハイマー病の予防および改善用途に関し、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1-1. セラミドを有効成分とする、アルツハイマー病の予防又は改善剤。
項1-2. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項1-1に記載のアルツハイマー病の予防又は改善剤。
項1-3. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項1-1又は1-2に記載のアルツハイマー病の予防又は改善剤。
項1-4. アルツハイマー病の予防用の飲食品である、項1-1~1-3のいずれかに記載のアルツハイマー病の予防又は改善剤。
項1-5. アルツハイマー病の予防用の医薬品である、1-1~1-3のいずれかに記載のアルツハイマー病の予防又は改善剤。
項1-6. セラミドの、アルツハイマー病の予防又改善剤の製造のための使用。
項1-7. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項1-6に記載の使用。
項1-8. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項1-6又は1-7に記載の使用。
項1-9. 前記アルツハイマー病の予防又は改善剤が飲食品である、項1-6~1-8のいずれかに記載の使用。
項1-10. 前記アルツハイマー病の予防又は改善剤が医薬品である、項1-6~1-8のいずれかに記載の使用。
項1-11. アルツハイマー病の予防又は改善の処置に使用される、セラミド。
項1-12. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項1-11に記載のセラミド。
項1-13. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項1-11又は1-12に記載のセラミド。
項1-14. アルツハイマー病の予防又は改善が求められる者に、有効量のセラミドを投与する工程を含む、アルツハイマー病の予防又は改善方法。
項1-15. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項1-14に記載のアルツハイマー病の予防又は改善方法。
項1-16. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項1-14又は1-15に記載のアルツハイマー病の予防又は改善方法。
【0010】
また、本発明は、記憶力の維持又は改善用途に関し、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項2-1. セラミドを有効成分とする、記憶力の維持又は改善剤。
項2-2. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項2-1に記載の記憶力の維持又は改善剤。
項2-3. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項2-1又は2-2に記載の記憶力の維持又は改善剤。
項2-4. 記憶力の維持又は改善用の飲食品である、項2-1~2-3のいずれかに記載の記憶力の維持又は改善剤。
項2-5. 記憶力の維持又は改善用の医薬品である、2-1~2-3のいずれかに記載の記憶力の維持又は改善。
項2-6. セラミドの、記憶力の維持又は改善剤の製造のための使用。
項2-7. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項2-6に記載の使用。
項2-8. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項2-6又は2-7に記載の使用。
項2-9. 前記記憶力の維持又は改善剤が飲食品である、項2-6~2-8のいずれかに記載の使用。
項2-10. 前記記憶力の維持又は改善剤が医薬品である、項2-6~2-8のいずれかに記載の使用。
項2-11. 記憶力の維持又は改善のための処置に使用される、セラミド。
項2-12. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項2-11に記載のセラミド。
項2-13. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項2-11又は2-12に記載のセラミド。
項2-14. 記憶力の低下抑制又は記憶力の改善が求められる者に、有効量のセラミドを投与する工程を含む、記憶力の維持又は改善方法。
項2-15. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項2-14に記載の記憶力の維持又は改善方法。
項2-16. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項2-14又は2-15に記載の記憶力の維持又は改善方法。
【0011】
また、本発明は、判断力の維持又は改善用途に関し、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項3-1. セラミドを有効成分とする、判断力の維持又は改善剤。
項3-2. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項3-1に記載の判断力の維持又は改善剤。
項3-3. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項3-1又は3-2に記載の判断力の維持又は改善剤。
項3-4. 判断力の維持又は改善用の飲食品である、項3-1~3-3のいずれかに記載の判断力の維持又は改善剤。
項3-5. 判断力の維持又は改善用の医薬品である、3-1~3-3のいずれかに記載の判断力の維持又は改善剤。
項3-6. セラミドの、判断力の維持又は改善剤の製造のための使用。
項3-7. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項3-6に記載の使用。
項3-8. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項3-6又は3-7に記載の使用。
項3-9. 前記判断力の維持又は改善剤が飲食品である、項3-6~3-8のいずれかに記載の使用。
項3-10. 前記判断力の維持又は改善剤が医薬品である、項3-6~3-8のいずれかに記載の使用。
項3-11. 判断力の維持又は改善のための処置に使用される、セラミド。
項3-12. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項3-11に記載のセラミド。
項3-13. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項3-11又は3-12に記載のセラミド。
項3-14. 判断力の低下抑制が求められる者又は判断力の改善が求められる者に、有効量のセラミドを投与する工程を含む、判断力の維持又は改善方法。
項3-15. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項3-14に記載の判断力の維持又は改善方法。
項3-16. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項3-14又は3-15に記載の判断力の維持又は改善方法。
【0012】
また、本発明は、認知機能の維持又は改善用途に関し、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項4-1. セラミドを有効成分とする、認知機能の維持又は改善剤。
項4-2. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項4-1に記載の認知機能の維持又は改善剤。
項4-3. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項4-1又は4-2に記載の認知機能の維持又は改善剤。
項4-4. 認知機能の維持又は改善用の飲食品である、項4-1~4-3のいずれかに記載の認知機能の維持又は改善剤。
項4-5. 認知機能の維持又は改善用の医薬品である、4-1~4-3のいずれかに記載の認知機能の維持又は改善剤。
項4-6. セラミドの、認知機能の維持又は改善剤の製造のための使用。
項4-7. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項4-6に記載の使用。
項4-8. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項4-6又は4-7に記載の使用。
項4-9. 前記認知機能の維持又は改善剤が飲食品である、項4-6~4-8のいずれかに記載の使用。
項4-10. 前記認知機能の維持又は改善剤が医薬品である、項4-6~4-8のいずれかに記載の使用。
項4-11. 認知機能の維持又は改善のための処置に使用される、セラミド。
項4-12. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項4-11に記載のセラミド。
項4-13. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項4-11又は4-12に記載のセラミド。
項4-14. 認知機能の低下抑制が求められる者又は認知機能の改善が求められる者に、有効量のセラミドを投与する工程を含む、認知機能の維持又は改善方法。
項4-15. 前記セラミドがこんにゃく芋由来である、項4-14に記載の認知機能の維持又は改善方法。
項4-16. 前記セラミドがグルコシルセラミドである、項4-14又は4-15に記載の認知機能の維持又は改善方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤は、脳内でのAβの蓄積を効果的に抑制できるので、アルツハイマー病の発症を予防したり、アルツハイマー病の症状を改善したりすることができる。更に、本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤によれば、行動異常を改善することも出来る。また、アルツハイマー病の予防には、Aβの蓄積を抑制する有効成分を継続的に摂取する必要がある。その点、本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤は、長い食経験のあるセラミドを使用しており、安全性が高く、副作用の懸念がないため、アルツハイマー病の予防に求められる長年の継続的な摂取が可能になっている。
【0014】
また、本発明によれば、Aβの蓄積に起因する記憶力の低下を抑制又は低下した記憶力を改善できる記憶力の維持又は改善剤、断力の低下を抑制又は低下した判断力を改善できる判断力の維持又は改善剤、及び認知機能の低下を抑制又は低下した認知機能を改善できる認知機能の維持又は改善剤を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】アルツハイマー病モデルマウスにこんにゃくグルコシルセラミド含有エキスを継続的に経口投与した後、脳内Aβ濃度を解析した結果を示す図である。
図2】アルツハイマー病モデルマウスにこんにゃくグルコシルセラミド含有エキスを継続的に経口投与した後、海馬部位を抗Aβ抗体で免疫組織染色した結果(左図)、及び海馬部位におけるAβ沈着斑(抗Aβ抗体免疫陽性スポット数)を求めた結果(右図)を示す図である。
図3】アルツハイマー病モデルマウスに精製グルコシルセラミドを継続的に経口投与した後、Y字迷路試験により認知機能の検証を行った結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.アルツハイマー病の予防又は改善剤
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤は、セラミドを有効成分とすることを特徴とする。以下、本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤について詳述する。
【0017】
[有効成分]
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤は、有効成分としてセラミドを使用する。
【0018】
セラミドとは、スフィンゴイドに脂肪酸がアミド結合した構造を有する化合物である。スフィンゴイドとは、少なくとも1位と3位の炭素原子に水酸基が結合し、2位の炭素原子にアミノ基が結合した長鎖アミノアルコールである。本発明において、「セラミド」には、スフィンゴイド塩基と脂肪酸がアミド結合したセラミド骨格に、1分子のグルコースが結合したグルコシルセラミドも包含される。本発明のアルツハイマー病の予防剤では、セラミドを使用することによって、Aβの蓄積を抑制し、アルツハイマー病を効果的に予防することが可能になる。
【0019】
本発明において使用されるセラミドは、植物由来であることが好ましい。セラミドの由来植物としては、特に制限されないが、例えば、アーモンド、アオサ、アオノリ、アカザ、アカシア、アカネ、アカブドウ、アカマツ(松ヤニ、琥珀、コーパルを含む。以下マツ類については同じ)、アガリクス、アキノノゲシ、アケビ、アサガオ、アザレア、アジサイ、アシタバ、アズキ、アスパラガス、アセロラ、アセンヤク、アニス、アボガド、アマクサ、アマチャ、アマチャヅル、アマナツ、アマリリス、アルテア、アルニカ、アロエ、アンジェリカ、アンズ、アンコール、アンソッコウ、イグサ、イザヨイバラ、イチイ、イチジク、イチョウ、イヨカン、イランイラン、ウイキョウ、ウーロン茶、ウコン、ウスベニアオイ、ウツボグサ、ウド、ウメ、ウラジロガシ、温州ミカン、エイジツ、エシャロット、エゾウコギ、エニシダ、エノキタケ、エルダーフラワー、エンドウ、オーキッド、オウゴンカン、オオバコ、オオヒレアザミ、オオムギ、オケラ、オスマンサス、オトギリソウ、オドリコソウ、オニドコロ、オリーブ、オレガノ、オレンジ(オレンジピールを含む)、カーネーション、カカオ、カキ、カキドオシ、カクテルフルーツ、カッコン、カシワ、カタクリ、カボチャ、カミツレ、カムカム、カモミール、カラスウリ、カラマツ、カラマンダリン、カリン、ガルシニア、カルダモン、カワチバンカン、カンペイ、キイチゴ、キウイ、キキョウ、キャベツ(ケールを含む)、キャラウェイ、キュウリ、キヨミ、キンカン、ギンナン、グァバ、クコ、クズ、クチナシ、クミン、クランベリー、クルミ、グレープフルーツ、クレメンタイン、クローブ、クロマツ、クロマメ、クロレラ、ケツメイシ、ゲンノショウコ、コケモモ、コショウ、コスモス、ゴボウ、コムギ(小麦胚芽を含む)、ゴマ、コマツナ、コメ(米糠を含む)、コリアンダー、こんにゃく(こんにゃく芋)(こんにゃくトビ粉を含む)、コンブ、サーモンベリー、サイプレス、ザクロ、サツマ芋、サト芋、サトウキビ、サトウダイコン、サフラン、ザボン、サンザシ、サンショウ、シイタケ、シクラメン、シソ、シメジ、ジャガ芋、シャクヤク、ジャスミン、ジュズダマ、シュンギク、ショウガ、ショウブ、シラカシ、ジンチョウゲ、シンナモン、スイカ、スイトピー、スイートスプリング、スギナ、スターアニス、スターアップル、スダチ、ステビア、スモモ、セージ(サルビア)、セトカ、ゼニアオイ、セミノール、セロリ、センキュウ、センブリ、ソバ、ソラマメ、ダイコン、ダイズ(おからを含む)、ダイダイ、タイム、タケノコ、タマネギ、タラゴン、タロイモ、タンカン、タンゴール、タンジン、タンゼロ、タンポポ、チコリ、ツキミソウ、ツクシ、ツバキ、ツボクサ、ツメクサ、ツルクサ、ツルナ、ツワブキ、ディル、デコポン、テンジクアオイ(ゼラニウム)、トウガ、トウガラシ、トウキ、トウチュウカソウ、トウモロコシ、ドクダミ、トコン、トチュウ、トネリコ、ナガイモ、ナズナ、ナツミ、ナツミカン、ナツメグ、ナンテン、ニガウリ、ニガヨモギ、ニラ、ニンジン、ニンニク、ネギ、ノコギリソウ、ノコギリヤシ、ノビル、バーベナ、パーム、パイナップル、ハイビスカス、ハコベ、バジル、パセリ、ハダカムギ、ハッサク、ハッカ、ハトムギ、バナナ、バナバ、バニラ、パプリカ、ハマメリス、ハルカ、ハルミ、ハレヒメ、バンペイユ、ビート、ピーマン、ヒガンバナ、ヒシ、ヒジキ、ピスタチオ、ヒソップ(ヤナギハッカ)、ヒナギク、ヒナゲシ、ヒノキ、ヒバ、ヒマシ、ヒマワリ、ヒメノツキ、ヒュウガナツ、ビワ、ファレノプシス、フェネグリーク、フキノトウ、ブラックベリー、プラム、ブルーベリー(ビルベリーを含む)、プルーン、ブンタン、ヘチマ、ベニバナ、ベニマドンナ、ベラドンナ、ベルガモット、ホウセンカ、ホウレンソウ、ホオズキ、ボダイジュ、ボタン、ホップ、ホホバ、ポンカン、マイタケ、マオウ、マカ、マカデミアンナッツ、マーコット、マタタビ、マリーゴールド、マリヒメ、マンゴー、ミツバ、ミネオラ、ミモザ、ミョウガ、ミルラ、ムラサキ、メース、メリッサ、メリロート、メロン、メン(綿実油粕を含む)、モヤシ、ヤグルマソウ、ヤマ芋、ヤマユリ、ヤマヨモギ、ユーカリ、ユキノシタ、ユズ、ユリ、ヨクイニン、ヨメナ(アスター)、ヨモギ、ライム、ライムギ、ライラック、ラズベリー、ラッカセイ、ラッキョウ、リンゴ(アップルファイバーを含む)、リンドウ、レイコウ、レイシ、レタス、レモン、レンゲソウ、レンコン、ローズヒップ、ローズマリー、ローリエ、ワケギ、ワサビ(セイヨウワサビを含む)等が挙げられる。これらの中でも、好ましくはこんにゃく芋、サツマ芋、ジャガ芋、サト芋、ヤマ芋、ナガ芋等の芋類、コメ、コムギ、より好ましくは芋類、更に好ましくはこんにゃく芋が挙げられる。
【0020】
本発明で使用されるセラミドにおいて、スフィンゴイド部分の構造については、特に制限されないが、好ましくは8-9位炭素間結合が二重結合であるものが挙げられる。本発明で使用されるセラミドを構成しているスフィンゴイド部分の構造として、具体的には、4-ヒドロキシ-トランス-8-スフィンゲニン、4-ヒドロキシ-シス-8-スフィンゲニン、トランス-8-スフィンゲニン、シス-8-スフィンゲニン、トランス-4,トランス-8-スフィンガジエニン、トランス-4,シス-8-スフィンガジエニン等が挙げられる。これらの中でも、より好ましくはトランス-4,シス-8-スフィンガジエニン、トランス4-トランス8-スフィンガジエニン、4-ヒドロキシ-シス-8-スフィンゲニン、4-ヒドロシキ-トランス8-スフィンゲニン等が挙げられ、さらに好ましくは、トランス-4,シス-8-スフィンガジエニン、トランス4-トランス8-スフィンガジエニンが挙げられる。
【0021】
本発明で使用されるセラミドにおいて、スフィンゴイド部分に結合している脂肪酸の炭素数については、特に制限されないが、2~30、好ましくは6~30、更に好ましくは6~24、特に好ましくは16~18が挙げられる。また、当該脂肪酸は、飽和脂肪酸、炭素-炭素二重結合及び/又は炭素-炭素三重結合を含む不飽和脂肪酸、並びにα-ヒドロキシ脂肪酸のいずれであってもよい。
【0022】
本発明で使用されるセラミドにおいて、スフィンゴイド部分に結合している脂肪酸として、具体的には、ヘキサン酸(C6:0)、オクタン酸(C8:0)、デカン酸(C10:0)、ドデカン酸(C12:0)、テトラデカン酸(C14:0)、ヘキサデカン酸(C16:0)、オクタデカン酸(C18:0)、イコサン酸(C20:0)、ヘネイコサン酸(C21:0)、ドコサン酸(C22:0)、トリコサン酸(C23:0)、テトラドコサン酸(C24:0)、ペンタコサン酸(C25:0)、ヘキサドコサン酸(C26:0)、ヘプタコサン酸(C27:0)、オクタドコサン酸(28:0)、シス-9-オクタデセン酸(C18:1)等が挙げられる。なお、前記脂肪酸の括弧内に示す表記「CX:Y」において、CXは1分子当たりの炭素数を示し、Yは1分子当たりの不飽和結合の数を示し、例えば「C16:0」とは炭素数16且つ不飽和結合数が0の脂肪酸を表す。これらの脂肪酸の中でも、好ましくは、ヘキサン酸、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、テトラコサン酸が挙げられる。
【0023】
本発明で使用されるセラミドとして、好ましくはこんにゃく芋由来のセラミド、更に好ましくはこんにゃく芋由来のグルコシルセラミドが挙げられる。
【0024】
本発明で使用されるこんにゃく芋由来のセラミドは、こんにゃく芋自体から得られたものであってもよく、またこんにゃくの原料となる精粉又は副産物となるとび粉から得られたものであってもよい。本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤の有効成分としてこんにゃく芋由来のセラミドを使用する場合には、資源の有効活用という観点から、とび粉から得られたセラミドが好適に使用される。
【0025】
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤においてセラミドは、精製品又は粗精製品を使用してもよく、また、セラミドが含まれる植物原料から抽出された抽出物を使用してもよい。
【0026】
以下、こんにゃく芋由来のグルコシルセラミド(以下、「こんにゃくグルコシルセラミド」と表記することもある)を例として、その製造方法について説明する。
【0027】
こんにゃくグルコシルセラミドは、こんにゃく芋、こんにゃく精粉、又はこんにゃくとび粉(以下、これらを「こんにゃく芋原料」と表記することもある)を抽出原料として、抽出溶媒を用いて抽出処理することにより得ることができる。
【0028】
こんにゃくグルコシルセラミドの抽出処理に使用される抽出溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の1価の低級アルコール;2-ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール;アセトン、ジメチルスルホキシド、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の含酸素系極性有機溶剤;ジメチルホルムアミド、ピリジンなどの含窒素系極性有機溶剤;ジクロルメタン、クロロホルム、トリクロルエチレンなどの含ハロゲン系極性有機溶剤;ヘキサン、イソオクタン等の無極性又は低極性の有機溶剤等が挙げられる。これらの抽出溶媒は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもうよい。これらの抽出溶媒の中でも、こんにゃくグルコシルセラミドを効率的に抽出するという観点から、好ましくは1価の低級アルコール、更に好ましくはエタノールが挙げられる。
【0029】
なお、抽出溶媒には水が含まれていてもよい。但し、抽出溶媒中に含まれる水の含有量が多くなる程、こんにゃくグルコシルセラミドの抽出効率が低下し、抽出溶媒中に含まれる水が10重量%を超えると、こんにゃくグルコシルセラミドの抽出効率が著しく低下し、特に、抽出溶媒中に含まれる水が15重量%を超えると、こんにゃくグルコシルセラミドが殆ど抽出されなくなる。従って、抽出溶媒に水を含ませる場合には、こんにゃくグルコシルセラミドの抽出に影響を与えない量に設定することが必要となる。
【0030】
抽出処理に使用する抽出溶媒の量は、原料となるこんにゃく芋原料に対する重量比で、例えば1~30倍量程度、好ましくは1~10倍量程度に設定すればよい。
【0031】
抽出処理時の温度は、使用する抽出溶媒の種類に応じて適宜設定すればよいが、例えば、0~80℃、好ましくは20~60℃程度が挙げられる。
【0032】
抽出処理時間は、使用する抽出溶媒の種類や量に応じて適宜設定すればよいが、例えば」1~48時間、好ましくは2~20時間が挙げられる。
【0033】
抽出処理は、回分操作、半連続操作、向流多段接触操作等のいずれの方式で行ってもよく、また1回抽出操作を行った後の残渣に対して、新たな抽出溶媒を用いて抽出操作を繰り返し行ってもよい。
【0034】
斯くして抽出処理を行った後に、吸引ろ過、フィルタープレス、シリンダープレス、デカンター、遠心分離器、ろ過遠心機等を用いて固液分離し、抽出液を回収する。得られた抽出液は、そのまま、又は必要に応じて濃縮、乾燥等に供した後に、こんにゃくグルコシルセラミドを含む抽出物として使用できる。
【0035】
また、抽出処理後に回収された抽出液は、そのまま、又は必要に応じて濃縮、乾燥等に供した後に、水と混合して加熱することにより油相と水相に相分離させ、当該油相を回収し、こんにゃくグルコシルセラミドを含む抽出物として使用してもよい。このような処理を行うことにより、アルデヒドを除去でき、こんにゃく芋特有の臭気が低減された抽出物を得ることができる。
【0036】
こんにゃくグルコシルセラミドの精製品又は粗精製品は、こんにゃくグルコシルセラミドを含む抽出物を、精製処理に供することによって得ることができる。精製処理としては、例えば、ゲル濾過、イオン交換処理、活性炭処理等が挙げられる。
【0037】
[その他の添加成分]
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤は、前述したセラミド以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、剤型に応じて、他の添加成分を含有していてもよい。本発明のアルツハイマー病の予防剤に含有され得る添加成分としては、例えば、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、植物抽出エキス類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、アルコール、多価アルコール、pH調整剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防腐剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤などが挙げられる。これらの添加成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加成分の含有量については、使用する添加成分の種類やアルツハイマー病の予防又は改善剤の剤型等に応じて適宜設定される。
【0038】
[剤型・製剤形態・用途]
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤の剤型については、特に限定されず、固体状、半固体状、又は液体状のいずれであってもよく、アルツハイマー病の予防又は改善剤の種類、用途、投与方法等に応じて適宜設定すればよい。
【0039】
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤の投与方法としては、特に限定されず、適用する疾患の種類に応じて適宜選択すればよく、全身投与であっても、局所投与であってもよい。具体的には、経口、経血管内(動脈内又は静脈内)、経皮、経腸、経肺、鼻腔内投与等が挙げられる。経血管内投与には、血管内注射、持続点滴も含まれる。なかでも、投与が容易であり、且つアルツハイマー病の予防効果・改善効果をより有効に奏させるという観点から、経口投与(経口摂取)、経血管内投与、鼻腔内投与が好ましい。
【0040】
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤の製剤形態については、特に限定されず、投与方法に適した製剤形態に適宜設定することができ、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、注射剤、点滴剤、坐剤等の任意の製剤形態を挙げることができる。例えば、本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤の投与形態が経口投与(経口摂取)である場合は、経口投与が可能であることを限度として特に限定されないが、具体的には、飲食品及び内服用医薬品が挙げられる。
【0041】
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤を飲食品の製剤形態にする場合(即ち、アルツハイマー病の予防用・改善用の飲食品として提供する場合)、本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤を、そのまま又は他の食品素材や添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような飲食品としては、一般の飲食品の他、特定保健用食品、栄養補助食品、機能性食品、病者用食品等が挙げられる。これらの飲食品の形態として、特に限定されないが、具体的にはカプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、リポソーム製剤等のサプリメント;栄養ドリンク、果汁飲料、炭酸飲料、乳酸飲料等の飲料;団子、アイス、シャーベット、グミ、キャンディー等の嗜好品;等が例示される。これらの飲食品の中でも、好ましくは飲料、サプリメント、より好ましくは飲料、カプセル剤が挙げられる。
【0042】
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤を内服用医薬品の製剤形態にする場合、本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤を、そのまま又は他の添加成分と組み合わせて所望の形態に調製すればよい。このような内服用医薬品としては、具体的には、ドリンク剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤)、錠剤、顆粒剤、粉剤、ゼリー剤、シロップ剤、リポソーム製剤等が挙げられる。これらの内服用の医薬品の中でも、好ましくはカプセル剤、ドリンク剤が挙げられる。
【0043】
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤が飲食品又は内服用医薬品の製剤形態である場合、有効成分であるセラミドの含有量としては、脳内でのAβの蓄積を抑制できる有効量である限り特に限定されず、製剤形態に応じて適宜設定すればよいが、例えば、1~20質量%等が挙げられ、好ましくは3~10質量%、より好ましくは6~8質量%が挙げられる。
【0044】
本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤は、脳内でのAβの蓄積を抑制でき、かつAβの蓄積に起因する認知機能の低下を抑制することができるので、アルツハイマー病の発症を抑制又は遅延、アルツハイマー病の症状の進行抑制、アルツハイマー病の症状の改善等の目的で使用される。即ち、本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤の適用対象者は、アルツハイマー病の予防又は改善が求められる者である。アルツハイマー病の予防が求められる者としては、例えば、アルツハイマー病の発症を抑制又は遅延することが求められる者、認知機能が低下傾向にある者又は認知症の者、高齢者、記憶力が低下傾向にある者又は記憶力が低下している者等が挙げられる。また、アルツハイマー病の改善が求められる者としては、具体的には、アルツハイマー病の症状が発症している者が挙げられる。また、本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤の一実施形態として、アルツハイマー病の予防又は改善が求められる者を同定し、当該者に本発明のアルツハイマー病の予防又は改善剤を投与する方法が挙げられる。
【0045】
本発明のアルツハイマー病の予防剤又は改善剤の適用量としては、特に限定されず、製剤形態、用途、投与対象、期待される効果等に応じて適宜設定するとよい。例えば、本発明のアルツハイマー病の予防剤又は改善剤を経口摂取する場合、摂取量としては、セラミド換算量で成人一日当たり0.6~10mg、好ましくは0.6~5mgが挙げられる。本発明のアルツハイマー病の予防剤又は改善剤は、一日当たりの量が前述の範囲となるように、1回又は数回に分けて投与してもよい。
【0046】
2.記憶力の維持又は改善剤、判断力の維持又は改善剤、及び認知機能の維持又は改善剤
更に、本発明は、セラミドを有効成分とする記憶力の維持又は改善剤を提供する。即ち、セラミドは、Aβの蓄積によって生じる記憶力の低下を効果的に抑制したり、Aβの蓄積によって低下した記憶力を改善できるので、記憶力を維持又は改善させる用途に使用される。具体的には、本発明の記憶力維持又は改善剤は、記憶力の低下を抑制又は記憶力を改善する用途で、記憶力の低下の抑制が求められる者又は記憶力の改善が求められる者に対して適用される。記憶力の低下の抑制が求められる者又は記憶力の改善が求められる者としては、若齢者や中高年の健常者、高齢者、記憶力が低下傾向にある者、記憶力が低下している者、認知症の者等が挙げられる。また、本発明の記憶力維持剤の一実施形態として、記憶力の低下の抑制が求められる者又は記憶力の改善が求められる者を同定し、当該者に本発明の記憶力維持又は改善剤を投与する方法が挙げられる。
【0047】
また、本発明は、セラミドを有効成分とする判断力の維持又は改善剤を提供する。即ち、セラミドは、Aβの蓄積によって生じる判断力の低下を効果的に抑制したり、Aβの蓄積によって低下した判断力を改善できるので、判断力を維持又は改善させる用途に使用される。具体的には、本発明の判断力の維持又は改善剤は、判断力の低下を抑制又は判断力を改善する用途で、判断力の低下の抑制が求められる者又は判断力の改善が求められる者に対して適用される。判断力の低下の抑制が求められる者としては、若齢者や中高年の健常者、高齢者、判断力が低下傾向にある者、判断力が低下している者、認知症の者等が挙げられる。また、本発明の判断力の維持又は改善の一実施形態として、判断力の低下の抑制が求められる者又は判断力の改善が求められる者を同定し、当該者に本発明の判断力の維持又は改善剤を投与する方法が挙げられる。
【0048】
また、本発明は、セラミドを有効成分とする認知機能の維持又は改善剤を提供する。即ち、セラミドは、Aβの蓄積によって生じる認知機能の低下を効果的に抑制できるので、認知機能を維持又は改善させる用途に使用される。具体的には、本発明の認知機能の維持又は改善剤は、認知機能の低下を抑制又は低下した認知機能を改善する用途で、認知機能の低下の抑制が求められる者又は認知機能の改善が求められる者に対して適用される。認知機能の低下の抑制が求められる者又は認知機能の改善が求められる者としては、認知症の者の他、若齢者や中高年の健常者、高齢者、認知機能が低下傾向にある者等が挙げられる。また、本発明の認知機能の維持又は改善剤の一実施形態として、認知機能の低下の抑制が求められる者又は認知機能の改善が求められる者を同定し、当該者に本発明の認知機能の維持又は改善剤を投与する方法が挙げられる。
【0049】
本発明の記憶力の維持又は改善剤、判断力の維持又は改善剤、及び認知機能の維持又は改善剤において、使用されるセラミドの種類、その他の添加成分、剤型、製剤形態、用量等については、前記「1.アルツハイマー病の予防又は治療剤」の欄に記載の通りである。
【実施例
【0050】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
本実験では、アルツハイマー病モデルマウスを用いて、グルコシルセラミド含有エキスによる脳内でのAβの蓄積抑制効果の検証を行った。
【0052】
1.こんにゃくグルコシルセラミド含有エキスの調製
こんにゃくトビ粉を用いて、以下に示す抽出処理、第1脱臭処理、及び第2脱臭処理を行うことにより、こんにゃくグルコシルセラミド含有エキスを調製した。
【0053】
(抽出処理)
こんにゃくトビ粉1kgを攪拌槽に仕込み、そこにエタノール2Lを加え、常温で2時間攪拌した。その後、ろ過により抽出液と残渣を分離した。抽出液をエバポレーターにより濃縮し、茶褐色の蝋状濃縮物10.7gを得た。
【0054】
(第1脱臭処理)
次いで、得られた蝋状濃縮物10.0gを40.0mLのエタノールに溶解させた後に、内容積300mLのガラス製容器に準備した90mLの水中に攪拌しながら添加し、そのまま分散状態で攪拌した。30分経過後、容器に塩化ナトリウム20.0gを添加し、更に10分間攪拌した。その後撹拌を止め、容器をホットプレート上に移し、沸騰するまで加熱し、更に沸騰状態を保ったままホットプレート上に1時間静置した。その後容器Aの内容物を全て分液漏斗に移し、下部に黄色透明な水相が、上部に黒褐色の油相が出現していることを確認の後、下部水相を流し出した。上部油相に再度エタノール40.0mLを加え、不溶分をブフナー漏斗で濾別除去し、濾液をエバポレーターにて濃縮乾固し、第1抽出物7.7gを得た。
【0055】
(第2脱臭処理)
次いで、得られた第1抽出物を再度エタノールに溶解し、前記第1脱臭処理と同条件で脱臭処理を繰り返し行い、第2抽出物6.3gを得た。当該第2抽出物をHPLCで分析したところ、グルコシルセラミドが11重量%含まれていた。当該第2抽出物をこんにゃくグルコシルセラミド含有エキスとして、後述する試験に使用した。
【0056】
2.こんにゃくグルコシルセラミド含有エキスが脳内Aβ濃度及びAβ沈着量に及ぼす影響の解析
2-1.実験方法
アルツハイマー病モデルマウスとしてヒトAPPSw,Ind遺伝子導入マウス(J20, 米国 Jackson Laboratoryから購入)を使用した。12ヶ月齢のJ20マウスに、こんにゃくグルコシルセラミド含有エキスを1重量%トラガカントゴム水溶液に分散し、胃内へ強制経口投与した。投与は、一日に1mgグルコシルセラミド相当量を2週間継続して行った。対照群には1重量%トラガカントゴム水溶液のみを投与した。こんにゃくグルコシルセラミド含有エキス2週間継続投与後に以下の方法に従って、脳内Aβ濃度のELISA法による解析、及び脳内Aβ沈着量の免疫組織化学的解析を行った。
【0057】
<脳内Aβ濃度のELISA法による解析>
こんにゃくグルコシルセラミド含有エキス2週間継続投与後に、脳組織を摘出し、左半球海馬及び大脳皮質を分取した。脳組織を5Mグアニジン塩酸で溶解後、Aβ ELISA(和光純薬社製)を用いてAβ1-42濃度を測定した。測定値は、BCA法で算出した脳組織のタンパク質量(g)当たりの濃度として表示した。Aβ1-42濃度は、対照群10個体、こんにゃくグルコシルセラミド投与群11個体の測定を行って得られた各値の平均値である。また、得られた値について、One-way ANOVA法による有意差検定(**P<0.01)を行った。
【0058】
<脳内Aβ沈着量の免疫組織化学による解析>
こんにゃくグルコシルセラミド含有エキス2週間継続投与後に、脳組織を摘出し、右半球を4%パラホルムアルデドで一晩浸漬固定し、矢状断パラフィン切片を作製した。この切片を抗Aβ抗体(6E10, Biolegend社製)を用いて免疫組織染色した。染色後、海馬部位を顕微鏡撮影し、画像解析ソフトウェアImageJを用いて、6E10免疫陽性スポット数をAβ沈着斑の数として測定した。測定値は、同じくImageJ解析によって算出した海馬部位の面積(100mm2)当たりの沈着斑数として表示した。沈着斑数は、対照群5個体、グルコシルセラミド投与群5個体の測定を行って得られた各値の平均値である。また、得られた値について、One-way ANOVA法による有意差検定(*P<0.05)を行った。
【0059】
2-2.実験結果
こんにゃくグルコシルセラミド含有エキスを継続的に経口投与した後に脳内Aβ濃度を測定した結果を図1に示す。また、こんにゃくグルコシルセラミド含有エキスを継続的に経口投与した後に脳内でのAβ沈着量を免疫組織化学により解析した結果を図2に示す。この結果、アルツハイマー病モデルマウスに、こんにゃくグルコシルセラミド含有エキスを継続的に経口投与することによって、脳内Aβ濃度を低減でき、更に脳内のAβ沈着斑の蓄積も抑制できることが確認された。即ち、本結果から、こんにゃくグルコシルセラミド含有エキスは、アルツハイマー病の予防又は改善に有効であることが明らかとなった。
【0060】
[実施例2]
本実験では、アルツハイマー病モデルマウスを用いて、精製こんにゃくグルコシルセラミドが認知機能に及ぼす影響の解析を行った。
【0061】
1.精製グルコシルセラミドの調製
本実験では、長良サイエンス株式会社から購入したGlucosylceramide, from Konjac (製品番号 170303)を精製こんにゃくグルコシルセラミドとして以下に示す実験に用いた。また、精製こんにゃくグルコシルセラミドとしては、前述で得られたこんにゃくグルコシルセラミド含有エキス(前記第2抽出物)から単純脂質、グリセロ脂質を除去し、精製したものを用いてもよい。
【0062】
2.精製こんにゃくグルコシルセラミドが認知機能に及ぼす影響の解析
2-1.実験方法
アルツハイマー病モデルマウスとしてヒトAPPSw,Ind遺伝子導入マウス(J20, 米国 Jackson Laboratoryから購入)を使用した。12ヶ月齢のJ20マウスに、精製こんにゃくグルコシルセラミドを1重量%トラガカントゴム水溶液に分散し、胃内へ強制経口投与した。精製こんにゃくグルコシルセラミドの投与は、1mg/day/headの用量で2週間継続して行った。対照群には1重量%トラガカントゴム水溶液のみを投与した。精製こんにゃくグルコシルセラミド2週間継続投与後に以下の方法に従って、Y字迷路によるワーキングメモリ解析を行った。また、Y字迷路によるワーキングメモリ解析は、正常マウス(C57BL/6系統、日本エスエルシーから購入、12ヶ月齢)についても行った。
【0063】
<Y字迷路による認知機能の解析>
精製こんにゃくグルコシルセラミド2週間継続投与後に、自発的交替行動で短期記憶を評価するY字迷路試験を実施した。Y字迷路試験には、アームの長さが35cm、壁の高さが11cm、床の幅が3cm、上部の幅が10cmで3本のアームがそれぞれ120度の角度で接続されたY字迷路(Panlab社製)を用いた。マウスをY字迷路のいずれかのアームの先端に置き、8分間迷路内を自由に探索させ、マウスが移動したアームを順に記録した。マウスが測定時間内に各アームに移動した回数をカウントし、これを総進入数とした。また、この中で連続して異なる3つのアームを選択した組み合わせを調べ、この数を自発的交替行動数とした。下記算出式に従って、自発的交替行動変化率を求めた。自発的交替行動変化率が高値である程、短期記憶が保持されていたことを示す。
【数1】
【0064】
なお、精製こんにゃくグルコシルセラミド投与群は7匹、対照群は7匹、正常マウス群は5匹で本実験を行った。また、発的交替行動変化率について、対照群と精製こんにゃくグルコシルセラミド投与群との有意差検定をStudent t検定にて行った。
【0065】
2-2.実験結果
精製こんにゃくグルコシルセラミドを継続的に経口投与した後、認知機能解析を行った結果を図3に示す。図3において、「Cntl」は対照群、「GluCer」は精製こんにゃくグルコシルセラミド投与群、「WT」は正常マウス群である。図3には、自発的交替行動変化率(Alternation)について、各個体の値をプロットすると共に、各群の平均値±標準誤差も表示している。この結果、精製こんにゃくグルコシルセラミドを経口投与したマウスでは、Y字迷路試験における自発的交替行動変化率が向上しており、精製こんにゃくグルコシルセラミドには、認知機能の低下を抑制する効果があるのはもちろんのこと、一度低下した自発的交替行動変化率を改善し正常マウスの認知機能レベル近くにまで回復させる効果があることを確認した。
図1
図2
図3