(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】肺炎を予防・治療する薬物におけるポリペプチドの応用
(51)【国際特許分類】
A61K 38/10 20060101AFI20241011BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20241011BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241011BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20241011BHJP
C07K 7/08 20060101ALN20241011BHJP
【FI】
A61K38/10 ZNA
A61P11/00
A61P31/04
A61K45/00
C07K7/08
(21)【出願番号】P 2023514973
(86)(22)【出願日】2021-05-12
(86)【国際出願番号】 CN2021093228
(87)【国際公開番号】W WO2022048180
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】202010925707.9
(32)【優先日】2020-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523075338
【氏名又は名称】浙江瀛康生物医薬有限公司
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG ECHON BIOMEDICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 302, Building 4, Heda Medicine Valley Center, No. 291, Fucheng Road, Xiasha Street, Economic and Technological Development Zone Hangzhou, Zhejiang 310018, China
(73)【特許権者】
【識別番号】523075349
【氏名又は名称】南寧吉鋭生物医薬有限公司
【氏名又は名称原語表記】NANNING GENLOCI BIOMEDICAL CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 1003, 10th Floor, China-ASEAN Technology Transfer Center Building, No. 3 Kede Road, High-tech Zone Nanning, Guangxi 535000, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002262
【氏名又は名称】TRY国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】凌 建群
(72)【発明者】
【氏名】林 青萍
【審査官】池上 文緒
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第111375051(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111214644(CN,A)
【文献】Small Wonders: Peptides for Disease Control,vol.1095,2012年,p.445-458
【文献】Degasperi, M.,Optimization of BMAP-18 an anti-infective peptide for the treatment of pulmonary infection,University of Trieste,2019年03月29日,https://arts.units.it/retrieve/e2913fde-74fb-f688-e053-3705fe0a67e0/Tesi%20completa.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/10
A61P 11/00
A61P 31/04
C07K 7/08
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺炎を予防・治療する薬物
の調製におけるポリペプチドの使用方法であって、
前記ポリペプチドのアミノ酸配列はSEQ ID NO.1であり、
前記肺炎は、肺炎連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及び大腸菌によるものであり、
または肺炎連鎖球菌及び大腸菌によるものであり、
または肺炎連鎖球菌及び黄色ブドウ球菌によるものであり、
または黄色ブドウ球菌及び大腸菌によるものであり、
または肺炎連鎖球菌によるものであり、
または黄色ブドウ球菌によるものであり、
または大腸菌によるものであることを特徴とする、ポリペプチドの使用方法。
【請求項2】
肺炎を予防・治療する薬物であって、
前記薬物は、アミノ酸配列がSEQ ID NO.1
であるポリペプチドを含むものであり、
前記肺炎は、肺炎連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及び大腸菌によるものであり、
または肺炎連鎖球菌及び大腸菌によるものであり、
または肺炎連鎖球菌及び黄色ブドウ球菌によるものであり、
または黄色ブドウ球菌及び大腸菌によるものであり、
または肺炎連鎖球菌によるものであり、
または黄色ブドウ球菌によるものであり、
または大腸菌によるものであるポリペプチドを含むことを特徴とする、薬物。
【請求項3】
前記薬物は、薬学的に許容可能な他の賦形剤、担体または補助成分をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載の薬物。
【請求項4】
前記薬物は、1種以上の治療剤をさらに含んでもよいことを特徴とする、請求項2または3に記載の薬物。
【請求項5】
前記薬物は、経口投与、非胃腸投与、局所投与、注射投与、吸入投与及び粘膜投与のいずれか1つ以上の組み合わせ形態で投与できることを特徴とする、請求項2または3に記載の薬物。
【請求項6】
前記薬物は、経口投与、非胃腸投与、局所投与、注射投与、吸入投与及び粘膜投与のいずれか1つ以上の組み合わせ形態で投与できることを特徴とする、請求項4に記載の薬物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬技術分野に関し、特に、肺炎を予防・治療する薬物におけるポリペプチドの応用に関する。
【背景技術】
【0002】
肺炎は、呼吸器系のよく見られる病気で、その発症する環境に応じて市中肺炎(CAP)と院内肺炎(HAP)に分けることができる。
【0003】
市中肺炎(CAP)とは、病院外で罹患する感染性肺実質炎症で、細菌、ウイルス、真菌及び非定型病原体によって引き起こされる異質の疾患で、院外獲得肺炎とも呼ばれる。うち、細菌性肺炎の患者が最も多く見られ、臨床でよく見られる下気道感染であり、人の健康を深刻に脅かす一般的な疾患の1つでもある。
【0004】
院内肺炎(HAP)とは、入院前に感染の兆候がなかった患者が、入院して48時間以降に肺炎が発症(Tang L.M.,Lou J.H.,Hu J.Z. ICU病院獲得性肺炎感染病原細菌の薬剤耐性と危険因子の分析[J].実用薬物と臨床、2016,19(03):367-370.)したもので、多くは細菌感染によって引き起こされる。その伝播性が強く、患者の病状や病気の負担が重くなり易いなどの特徴があるため、近年、臨床と予防界の学者の注目を集めている(Huang F., Chen X.F., Wang Y.P. 病院獲得性肺炎の疫学的特徴と予防措置研究[J].中華病院感染学雑誌,2018,28(13):2053-2055)。
【0005】
応暁波(Ying X.B.)などは、単純肺炎病原体の感染は、細菌によるものが31.81%で、混合感染によるものが10.23%であると報告している。混合感染と単純感染を合わせると、細菌によるものが40.91%を占めている。肺炎では、細菌感染によるものが首位であることがわかる。(Ying X.B., Wang D.M., Song B., Lan D.B.)成人の市中肺炎の季節別病因調査[J].(中国公衆衛生管理,2014,30(06):843-844+849.)。
【0006】
検出方法の進歩に伴い、同一患者に合併された多種の病原体が同時に検出できるようになり、ますます多くの混合感染が識別及び発見され、そして細菌感染を合併しているCAP患者の死亡率は、単一病原体感染者よりも有意に増加している(Burk M, El-Kersh K, Saad M, et al. Viral infection in community-acquired pneumonia: a systematic review and meta-analysis. EurRespir Rev, 2016, 25(140) ): 178-188.)。
【0007】
肺炎を治療する既存の薬物としては、エリスロマイシンとブデソニドなどがあるが、治療中に既存のエリスロマイシンとブデソニドは、いずれも多かれ少なかれ副作用が現れている。エリスロマイシンは刺激が強く、経口または静脈内に投与することでいずれも胃腸管の反応を引き起こすことができ、また、肝障害をもたらすこともできる。大量を投与したり長期間投与したりすると、胆汁うっ滞やトランスアミナーゼの上昇などを招くことができ、妊婦や肝機能不全の人には応用すべきではなく、乳幼児には慎重に使用すべきである。ブデソニドは、皮疹、接触性皮膚炎、蕁麻疹、血管神経性水腫及び気管支痙攣などを含む、口咽頭部カンジダ感染または速発性または遅発性のアレルギー反応を引き起こす可能性がある。また、肺炎の治療における薬剤耐性も世界的に懸念されている問題となっている。
【0008】
そのため、肺炎の初期治療に重要な治療効果を発揮する、肺炎の主要な病原体に対して作用範囲が広く、薬剤耐性がなくかつ副作用のない薬物製剤を開発することが急務となっている。
【0009】
抗菌ペプチドは、一般的に約12~50個のアミノ酸から構成された塩基性ポリペプチドの1種であり、細菌、真菌、ウイルス、寄生虫と腫瘍細胞に対して抑制または死滅作用があり、創傷の治癒過程を促進する幅広い抗菌性を有する。また、抗菌ペプチドは、免疫効果を活性化する分子として、生体の免疫機能を調節し、病原体を除去する生体の能力を高め、細菌内の毒素LPSを中和し、炎症性サイトカインの放出を抑え、炎症反応による組織損傷を緩和することができる。従来の抗生物質は抗菌効果が明らかであるが、抗菌メカニズムが主に細菌細胞壁の合成を阻害し、タンパク質の合成を抑制し、核酸や葉酸の代謝に影響を与えるなどして抗微生物を行うもので、微生物は遺伝子突然変異によって代謝経路を変更しやすく、さらに抗生物質に薬剤耐性を生じる可能性がある。抗菌ペプチドは、抗生物質とは比較にならないほど薬剤耐性に優れており、微生物の細胞膜と相互作用することで孔を形成し、細胞内外の浸透圧に影響を与え、さらに細胞を死亡させることができる。微生物の細胞膜の構造は億万年にわたって進化して来たもので、その構造は短期間で大きく変化することがないため、抗菌ペプチドのこのような抗菌メカニズムは、細菌に耐性を生じさせることが容易ではない。したがって、抗菌ペプチドは抗微生物成分としてますます注目されている。
【0010】
現在、抗菌ペプチドデータベース(APD、http://aps.unmc.edu/AP/)には3241種の抗菌ペプチドが収録されており、抗菌ペプチドの体外抗菌活性に対してよく報告されているが、抗菌ペプチドが疾患治療に応用される報告は少ない。これは抗菌ペプチド自体の特性、抗菌ペプチドが生物活性を発揮する条件及び生体の複雑な生理環境と大きな関係がある。
【0011】
抗菌ペプチド自体の三次元空間構造は主に水素結合、疎水結合、塩結合及びファンデルワールス力などの二次結合によって維持され(T.C. Jyothi,Sharmistha Sinha,Sridevi A. Singh,A. Surolia,A.G. Appu Rao. Napin from Brassica juncea : Thermodynamic and structural analysis of stability[J]. BBA - Proteins and Proteomics,2007,1774(7).)、二次結合はすべて非共有結合であり、環境中のpH及び温度などの影響を受けやすいため、蛋白ポリペプチドの構造域は変化しやすく、三次元構造のコンフォメーションが変化し、変性をもたらし、安定性が比較的に悪くなったり機能が喪失したりする(Dipesh Shah,Thomas P. Johnston,Ashim K. Mitra. Thermodynamic parameters associated with guanidine HCl- and temperature-induced unfolding of bFGF[J]. International Journal of Pharmaceutics,1998,169(1).)。血管活性腸ペプチド(vasoactive intestinal peptide, VIP)のように、28個のアミノ酸からなる直鎖のカチオン性神経ペプチドであり、その安定性はpH依存性と温度依存性を有する(Cui X., Han X., Wang Z.M., Cao D.Y., Zheng A.P. 血管作動性腸管ペプチド化学的及び生物学的安定性研究[J].(中国新薬雑誌,2011,20(19):1922-1925)。
【0012】
同時に、抗菌ペプチドの体内での半減期が短すぎること、高塩イオンによって不活性化しやすいこと、プロテアーゼによって加水分解されやすいことなども、抗菌ペプチドの製薬分野での応用を制約している。GOLDMANらは、一部の抗菌ペプチドの抗菌作用は溶液中のNa+濃度と負の相関があり、NaCl濃度が150mmol/L(生理塩濃度)の場合に不活性化になると報告している(GOLDMAN M J, et a.l Human beta-defensin-1 is a salt-sensitive antibiotic in lung that is inactivated in cystic fibrosis[J]. Cel,l 1997, 88(4): 553 -560.)。HANCOCKらは、高濃度の1価及び2価の陽イオン、ポリアニオン(polyanion)、血清、アポリポ蛋白A-I(apolipoprotein A-I)、プロテアーゼなど、多くの要因が抗菌ペプチドの活性を低下させることを報告している(HANCOCK R EW, DIAMOND G. The role of cationic antimicrobial peptides in innate host defences[J]. Trends in Microbiology, 2000, 8 (9): 402-410.)。
【0013】
BMAP-27、BMAP-28及びそれらの短い合成断片は、Cathelicidinファミリー抗菌ペプチドに属し、Mardirossianらは、嚢胞性線維症に関連する肺感染に対するBMAP由来ペプチドの治療効果を、体内及び体外で評価し、その結果、体外で高い抗菌活性を示すポリペプチドは、急性肺感染モデルマウスでは治療効果を示さなかったことが明らかになった(Mardirossian M , Pompilio A , Crocetta V , et al. In vitro and in vivo evaluation of BMAP-derived peptides for the treatment of cystic fibrosis-related pulmonary infections[J]. Amino Acids, 2016, 48(9):1-8.)。研究者は、ポリペプチドが肺部のプロテアーゼによって急速に分解されることが原因であると考えた。ポリペプチドの安定性を高めるために、研究者は、プロテアーゼ耐性のあるD型のBMAP-18ポリペプチドを合成して更なる研究を行った。同様に、D-BMAP-18は体外で強い抗菌作用を示したが、急性肺炎に感染したマウスに使用すると、治療効果はなかった(Mardirossian M, Pompilio A, Degasperi M, Runti G, Pacor S, Di Bonaventura G and Scocchi M (2017) D-BMAP18 Antimicrobial Peptide Is Active In vitro, Resists to Pulmonary Proteases but Loses Its Activity in a Murine Model of Pseudomonas aeruginosa Lung Infection. Front. Chem. 5:40.)。
【0014】
本発明の前記ポリペプチドは抗菌ポリペプチドであり、出願人は研究中に、本発明の前記ポリペプチドが動物の体内で比較的に良好な抗菌効果を有するため、それを、肺炎を予防・治療する薬物の製造に用いることができ、極めて大きな応用と研究の将来性を有することを発見した。従来技術において、ポリペプチドが肺炎の予防・治療に使用できる報道は、開示されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来技術の欠点に対して、肺炎を予防・治療する薬物におけるポリペプチドの応用を提供すると共に、肺炎を予防・治療するための薬物をさらに提供する。
【0016】
本発明の前記ポリペプチドのアミノ酸配列は、SEQ ID NO.1である。
【0017】
本発明の一態様では、ポリペプチドを含む活性成分を有する、肺炎を予防・治療するための薬物を提供する。
【0018】
本発明に記載の薬物は、ポリペプチドを唯一の治療剤として含むか、他の賦形剤、担体または補助成分と組み合わせて含んでよい。
【0019】
本発明に記載の薬物は、1種以上の治療剤をさらに含むか、他の賦形剤、担体または補助成分と組み合わせて含んでもよい。
【0020】
本発明の別の態様は、肺炎を予防・治療する薬物におけるポリペプチドの応用を提供し、本発明の前記薬物は、他の薬学的に許容可能な賦形剤、担体または補助成分を添加して、本発明のポリペプチドを主要活性成分として調製された薬物を含み、肺炎の予防・治療に用いることができる。
【0021】
本発明のもう1つの態様は、肺炎を予防・治療する薬物におけるポリペプチドの応用を提供し、本発明の前記薬物は、他の薬学的に許容可能な賦形剤、担体または補助成分を添加して、本発明の前記ポリペプチドと他の治療剤の組み合わせで調製された薬物を含み、肺炎の予防・治療に用いることができる。
【0022】
好ましくは、前記肺炎は、市中肺炎を含む。
【0023】
好ましくは、本発明に記載の製剤は、他の賦形剤、担体または補助成分をさらに含む。
【0024】
本発明の前記製剤は、注射剤、(注射用)凍結乾燥粉末、固形製剤、噴霧剤、溶液、懸濁液、乳液、半固形製剤、液体製剤、錠剤、カプセル、腸溶錠、丸剤、粉剤、顆粒剤、持続放出剤(sustained release formulation)または遅延放出剤(extended release formulation)などのいずれか1つ以上の組み合わせ形態の製剤であってもよい。
【0025】
好ましくは、本発明の前記製剤は、経口投与、非胃腸投与、局所投与、注射投与、吸入投与、粘膜投与のいずれか1つ以上の組み合わせ形態で投与することができる。
【0026】
好ましくは、本発明によって提供される薬物製剤には、1種以上の治療剤がさらに含まれる。
【0027】
好ましくは、本発明に記載の薬物において、前記治療剤には、β-ラクタム系/β-ラクタマーゼ阻害剤(ペニシリン系、セファロスポリン系)、フルオロキノロン系(モキシフロキサシン、ゲミフロキサシン及びレボフロキサシン)、カルバペネム系、エリスロマイシン、ブデソニド、オセルタミビル、アジスロマイシン、オセルタミビル、炎琥寧(Potassium Sodium Dehydroandroan)、穿琥寧(Potassium dehydroandrograpolide succinate)またはこれらの組み合わせが含まれる。
【発明の効果】
【0028】
上記をまとめると、本発明は、肺炎を予防・治療する薬物におけるポリペプチドの応用を提供すると共に、前記ポリペプチドまたは他の治療剤との組み合わせを有効成分とし、薬学的に許容可能な賦形剤、担体または補助成分を添加して調製された薬物を提供する。従来技術と比較して、本発明に記載のポリペプチドの細菌性肺炎に対する作用効果は、従来市場で使用されている薬物の治療効果より優れている。また、本発明に記載のポリペプチドは薬性耐性を発生せず、肺炎を幅広く予防・治療することができ、広い応用の将来性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】モデリング動物の肺部の病理学変化を示す図である。
【
図2】D4日目の時、各試験群の肺臓を検査した結果を示す図である。
【
図3】D8日目の時、各試験群の肺臓を検査した結果を示す図である。
【
図4】試験過程において、各試験群におけるラットの体重変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明では、肺炎を予防・治療する薬物におけるポリペプチドの応用を提供する。
【0031】
また、本発明では、アミノ酸配列がSEQ ID NO.1であるポリペプチドを含む、肺炎を予防・治療するための薬物を提供する。
【0032】
本発明の一態様では、ポリペプチドを含む活性成分を有する肺炎を予防・治療するための薬物を提供する。
【0033】
本発明に記載の薬物は、ポリペプチドを唯一の治療剤として含むか、他の賦形剤、担体または補助成分と組み合わせて含んでもよい。
【0034】
本発明に記載の薬物は、1種以上の治療剤をさらに含むか、他の賦形剤、担体または補助成分と組み合わせて含んでもよい。
【0035】
本発明の別の態様では、肺炎を予防・治療する薬物におけるポリペプチドの応用を提供する。本発明の前記薬物は、他の薬学的に許容可能な賦形剤、担体または補助成分を添加して、本発明の前記ポリペプチドを主な活性成分として調製される薬物を含み、肺炎の予防・治療に用いることができる。
【0036】
本発明のもう1つの態様では、肺炎を予防・治療する薬物におけるポリペプチドの応用を提供する。本発明の前記薬物は、他の薬学的に許容可能な賦形剤、担体または補助成分を添加して、本発明の前記ポリペプチドと他の治療剤を組み合わせて調製された薬物を含み、肺炎の予防・治療に用いることができる。
【0037】
好ましくは、前記肺炎は、市中肺炎を含む。
【0038】
好ましくは、本発明に記載の製剤は、他の賦形剤、担体または補助成分をさらに含む。
【0039】
本発明の前記製剤は、注射剤、(注射用)凍結乾燥粉末、固形製剤、噴霧剤、溶液、懸濁液、乳液、半固形製剤、液体製剤、錠剤、カプセル、腸溶錠、丸剤、粉剤、顆粒剤、持続放出剤または遅延放出剤などのいずれか1つ以上の組み合わせ形態の製剤であってもよい。
【0040】
本発明の前記薬物は、薬学的に許容可能な他の賦形剤、担体または補助成分をさらに含み、必要に応じて薬学的に許容可能な剤型に調製することができる。前記薬学的に許容可能な賦形剤、担体または補助成分は、薬学分野で慣用されている希釈剤、賦形剤、充填剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、吸収促進剤、界面活性剤、吸着担体及び潤滑剤などが挙げられ、必要に応じて、芳香剤及び甘味剤などをさらに添加してもよい。
【0041】
具体的に、薬学的に一般的な希釈剤及び吸収剤は、例えばデンプン、デキストリン、硫酸カルシウム、乳糖、マンニトール、ショ糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、ケイ酸アルミニウムなどである。 薬学的に一般的な湿潤剤及び結合剤は、例えば水、グリセロール、ポリエチレングリコール、エタノール、プロパノール、デンプンスラリー、デキストリン、シロップ、蜂蜜、ブドウ糖溶液、アラビアゴムスラリー、ゼラチンスラリー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ラック、メチルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルピロリドンなどである。
【0042】
薬学的に一般的な崩壊剤は、例えば乾燥デンプン、アルギン酸塩、寒天粉末、フコイダンデンプン、炭酸水素ナトリウムとクエン酸、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレン、ソルビトール脂肪酸エステル、ドデシル硫酸ナトリウム、メチルセルロース及びエチルセルロースなどである。崩壊抑製剤は、例えばショ糖、トリステアリン酸グリセリン、ココアバター及び水素化油などである。
【0043】
薬学的に一般的な潤滑剤は、例えばタルク粉末、シリカ、コーンスターチ、ステアリン酸塩、ホウ酸、液体パラフィン及びポリエチレングリコールなどである。
【0044】
薬学的に一般的な塩(水溶性または油溶性または分散可能な生物の形態)としては、例えば酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスパラギン酸塩、安息香酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、亜硫酸塩、酪酸塩、クエン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、エタンスルホン酸塩、グルコヘプタン酸塩、グリセロリン酸塩、半硫酸塩(hemisulphate)、乳酸塩、シュウ酸塩、パルミチン酸塩、ペクチン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩などの酸付加塩を含む、無機または有機酸または塩基から形成された従来の無毒性塩または第4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0045】
薬学的に許容可能な担体または賦形剤については、もはや一々例に挙げず、当業者は、把握している公知の常識に基づいて具体的に選択することができる。
【0046】
好ましくは、本発明の前記製剤は、経口投与、非胃腸投与、局所投与、注射投与、吸入投与及び粘膜投与のいずれか1つ以上の組み合わせ形態で投与することができる。最適な投与経路は、活性分子の物理化学的特性、臨床症状の緊急性、及び活性分子の血漿濃度と所望の治療効果との関係を含む様々な要因に影響される。
【0047】
好ましくは、本発明によって提供される薬物は、1種以上の治療剤をさらに含む。
【0048】
好ましくは、本発明に記載の薬物において、前記治療剤には、β-ラクタム系/β-ラクタマーゼ阻害剤(ペニシリン系、セファロスポリン系)、フルオロキノロン系(モキシフロキサシン、ゲミフロキサシン及びレボフロキサシン)、カルバペネム系、エリスロマイシン、オセルタミビル、アジスロマイシン、オセルタミビル、炎琥寧、穿琥寧またはこれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。
【0049】
また、これらの薬物製剤の1日の投与量は、投与対象の症状、年齢、体重、性別、治療時間、治療効果及び投与方法などに応じて、適宜変更することができ、インフルエンザ感染を抑制し、かつ生じる副作用が許容範囲内であれば特に制限されない。この製剤は1日1回の投与に限らず、複数回に分けて投与することができる。
【0050】
本発明の製剤は、当技術分野で知られている任意の適切な方法によって調製することができ、剤型の要求に応じて削減または調整することができる。
【0051】
当業者は、調製する必要のある剤型に応じて、当技術分野のこの剤型の一般的な技術常識と要求に従って、適切な賦形剤を選択して、ポリペプチドのベースの上で、適切な賦形剤及び添加剤を加え、従来の製剤技術に従って、錠剤、粉剤及び液体などの剤型を調製することができる。
【0052】
当業者は、従来の方法に従って、所定の状況に適した好ましい投与量を決定することができる。
【0053】
本発明における前記ポリペプチドは、化学合成によって得ることができ、遺伝子工学技術による発現及び分離精製によって得ることもできる(具体的な方法は、Sambrook et al., Molecular Cloning : A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 2001を参照されたい)。
【0054】
特に示されていない場合、実施形態で用いられる技術的手段は当業者に周知の従来手段であり、実施形態において、添加される各試薬などは、特に説明されていない限り、いずれも市販のものである。
【0055】
本部分の実施形態は、本発明の内容をさらに説明するが、本発明を限定するものとして理解されるべきではない。本発明の精神及び実体から逸脱することなく、本発明の方法、ステップまたは条件に対する修正または置換は、いずれも本発明の範囲に属する。
【0056】
実施例1 感染性肺炎に対するポリペプチドの体内治療効果
細菌性肺炎は、最も一般的な肺炎であり、最も一般的な感染性疾患の1つであり、細菌感染によるものである。その主な病原菌には肺炎連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及び大腸菌などが含まれ、児童や高齢者の健康に大きな脅威を与えている。本実験では、気管を用いて黄色ブドウ球菌、肺炎連鎖球菌、大腸菌の混合菌液を点滴することによって、ラットの肺炎モデルを誘導し、ポリペプチドの経口及び経鼻吸入投与が混合菌感染による肺炎モデルに与える影響を観察することにより、ポリペプチドの肺炎に対する薬理効果を評価した。
【0057】
エリスロマイシン及びブデソニドは、現在、肺炎の治療に使われている抗細菌の薬物であるため、この2種類の薬物を陽性対照品として選択した。エリスロマイシンは、東易和天生物科学技術有限公司で製造し、ブデソニドは、オーストラリアのアスリーカン有限公司(AstraZeneca Ltd, Australia)で製造したものである。
【0058】
SDラットをSPF級で、雌と雄とを半分ずつにして80匹選択し、性別と体重に従ってランダムに8群に分け、ブランク対照群及びモデル評価群にはいずれも6匹、ブランク投与群には8匹、モデル対照群、エリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群の各群には12匹ずつあり、雌と雄とが各半分である。
【0059】
ブランク投与群の動物に対してはモデリング処理を行わず、高濃度のポリペプチドエアロゾル(0.48mg/L)のみを、毎日経口及び経鼻吸入投与する。ブランク対照群の動物に対しては、0.9%の塩化ナトリウム注射液を気管から0.5mL点滴し、残りの各群に対しては、エーテルで軽く麻酔した後、モデル対照群、エリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群には、それぞれ気管を通じて、1×108CFU/mLの黄色ブドウ球菌、肺炎連鎖球菌及び大腸菌の混合菌液を0.5mL/匹に点滴し、ブラン対照群には、等量の0.9%塩化ナトリウム注射液を点滴した。
【0060】
具体的なモデリング方法は以下のとおりである。ラットは、エーテルを吸入させて麻酔し、30~45°の角度で解剖板の上に仰臥させ、耳鏡でラットの気管を露出させ、長い穿刺針をつけた1mLの注射器を気管内に挿入し、混合細菌を0.5mL/匹に注入し、注入が完了した後、穿刺針を抜き、ラットはそのまま約10分間傾けた状態で維持させ、重力の作用により菌液が気管支と肺胞内に流入して感染を引き起こし、ラットの肺炎モデルを誘導する。
【0061】
実験を開始する前に、それぞれ7.16mg/mL及び71.6mg/mLのポリペプチド低用量治療群、ポリペプチド高用量治療群溶液を霧化して、薬物濃度がそれぞれ0.07mg/L及び0.48mg/Lのエアロゾル粒子を生成する。
【0062】
1.霧化されたエアロゾル粒子濃度を検証
初回投与する前に、エアロゾル粒子の霧化を検証する。ろ過膜を用いて、任意の暴露口のエアロゾル粒子を採集し、サンプリング流量が1L/分、サンプリング時間は5分で、霧化後のエアロゾルにおける供試品の含有量を測定する。アンダーソンサンプラ(Anderson sampler)を用いて、2つの濃度のエアロゾル粒子を採集し、サンプリング流量が1L/分、サンプリング時間は3~5分(低用量5分、高用量3分)で、各濃度のエアロゾル粒子におけるポリペプチドの中央値粒子径(MMAD)と標準偏差(GSD)を測定して計算する。エアロゾル質量濃度測定器を用いて、各投与群の投与過程におけるエアロゾル粒子濃度を毎日検査する。エアロゾルにおける被験体の含有量と粒子径の分布結果は表1に示す。
【0063】
【0064】
表1から分かるように、初回投与する前に、各濃度のエアロゾル粒子における本発明の前記ポリペプチドのMMADは1~4μmで、GSDはいずれも1~3範囲内で、試験要求に合致する。
【0065】
2.投与試験を実施
各群では、モデリングした後2h初回投与を行う。実験を開始した後、7.16mg/mL及び71.6mg/mLのポリペプチド溶液を、目標濃度がそれぞれ0.07mg/L及び0.48mg/Lのエアロゾル粒子に毎日霧化し、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群(0.54mg/kg、3.7mg/kg、対応する薬物濃度はそれぞれ0.07mg/L及び0.48mg/L)の動物に、対応する濃度のエアロゾル粒子をそれぞれ経口及び経鼻吸入投与し、10分/回、1日3回、連続して7日間投与する。ブランク投与群(累積投与量は22.2mg/kgで、対応する薬物濃度は0.48mg/L)には、毎日0.48mg/Lのポリペプチドエアロゾル粒子を経口及び経鼻吸入投与し、20分/回、1日3回、連続して7日間投与する。ブランク対照群及びモデル対照群には、同じ時間、同じ方法で0.9%の塩化ナトリウム溶液を吸入させる。エリスロマイシン群及びブデソニド群には、同じ時間、同じ方法で5mg/mLのエリスロマイシン溶液と0.05mg/mLのブデソニド懸濁液をそれぞれ投与し、各群のラットの体重を毎日測定する。
【0066】
2.1 モデリング動物に対する検証
気管を通じて、肺炎連鎖球菌、黄色ブドウ球菌及び大腸菌の混合菌液を24h点滴した後、モデリングに成功したか否かを検証するために、6匹のモデル評価群の動物を解剖し、肺臓を摘出して、ホルマリンで固定、包埋、切片、HE染色を行い、光学鏡下で肺臓の病理学変化を観察したところ、6匹のラットのうち少なくとも5匹の肺臓に明らかな病理学変化が生じ、モデリングに成功したと見なす。結果により、6匹の動物では、いずれも肺胞構造が破壊され、肺胞壁が明らかに厚くなり、肺胞壁の血管に充血しており、炎症性細胞が大量に浸潤しているなどの病理学変化が見られた。これは、気管を通じて混合細菌を点滴することによって、ラット肺炎のモデリングに成功し、このロットのモデリング動物は、後続試験に用いることができ、具体的な肺部の病理学変化は、
図1を参照する。
【0067】
図1から肺胞壁の血管に充血しており、肺胞壁が厚くなり、肺胞構造が破壊されており、炎症性の大量細胞が浸潤しているなど病理学変化していることが見られ、この病理学スコアは3.0±0.6である。
【0068】
2.2 肺機能の検査、肉眼解剖学的検査及び病理学的検査
2.2.1 試験設計
ブランク投与群を除く、残りの各群ではD4日目に、半分の動物をランダムに選び出し、肺機能の検査及び肉眼解剖学的検査と病理学的検査を行い、各群から3匹動物の肺臓を選んで細菌培養計数を行う。D8日目に、残りの動物に対して肺機能の検査及び肉眼解剖学的検査と病理学的検査を行い、各群から3匹動物の肺臓を選んで細菌培養計数を行う(ブランク対照群とブランク投与群は検査を行わない)。
【0069】
2.2.2 試験ステップ
2.2.2.1 肉眼解剖学検査と病理学的検査
肉眼解剖学的検査と病理学的検査の実験ステップ:検査待ちのラットの腹腔に20%のウレタン(1000mg/kgの用量)を注射して麻酔し、各群のラットは、まず肺機能検査機でラットの肺機能を検査する。その後、腹部大動脈から血液を採取し、血液ガス分析器を用いて、ラットの血液中の酸素分圧(PaO2)と二酸化炭素分圧(PaCO2)を測定した後、左側の下葉肺組織を取出し、ホルマリンで固定、包埋、切片及びHE染色を行い、光学鏡で病理学変化を観察する。
【0070】
2.2.2.2 細菌計数
細菌培養の実験ステップ:ブランク投与群を除き、残りの各群からランダムに6匹の動物(初回と最終の解剖で、ランダムに各3匹を選択)を抽出し、左側の中葉肺組織を取出し、0.9%の塩化ナトリウム注射液で洗浄し、重量に応じて1倍の0.9%の塩化ナトリウム注射液を加えてホモジネートになるように研磨し、肉膏スープ寒天(Meat paste soup agar)培地に接種して、37℃で16~18h培養し、細菌分離を行う。分離培養した各菌懸濁液を10倍の勾配で10-1、10-2、10-3、10-4、10-5、10-6、10-7、10-8に希釈する。すなわち、9mlの生理食塩水に1mlの菌懸濁液を加えて10-1とし、このように類推する。適切な濃度の菌液0.1mlを選んで、選択的培地の上に置き、菌液を軽く押し出しながら24h-48h培養した後、細菌計数器を用いて細菌数を数え、その希釈濃度に基づいて、菌液1ml当たりの菌数を算出する。モデル対照群との比較により、各群の抑制率を算出する。
【0071】
2.2.3 試験結果及び分析
各実験データ及び結果は以下のとおりである。
(1) 各実験群においてラットの肺機能に対する段階別の影響を調べた結果を表2に示す。
【0072】
【0073】
表2に示すように、ブランク対照群と比較して、モデル対照群では、D4日目の強制肺活量(FVC)、D8日目の一回換気量、FEV200/FVCが有意に減少し、D4日目の呼吸数(f)が37%増加したことから、肺炎の初期に肺の換気機能が制限されるため、生体は呼吸数を増えることにより、一定の換気量を維持することを説明する。
【0074】
モデル対照群と比較して、D4日目のエリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、一回換気量(VT)が増える傾向を呈し、呼吸数(f)が低下する傾向(正常傾向)を呈したが、顕著な差異はなく、分間換気量(MV)に顕著な変化はなかった。モデル対照群と比較して、ポリペプチド高用量治療群では、FVC、FEV200、FEV200/FVCが顕著に増加しており、エリスロマイシン群及びポリペプチド低用量治療群では、FEV200/FVCが顕著に増加した。
【0075】
モデル対照群と比較して、D8日目のエリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、モデル対照群に比べてf、mv、FVC、FEV200が上昇する傾向を呈したが、統計的差異はなかった。モデル対照群と比較して、エリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、一回換気量がいずれも顕著に増加しており、エリスロマイシン群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、FEV200/FVCがいずれも顕著に増加した。ブランク投与群では、ブランク対照群と比較してVT、f、mv、FVC、FEV200、FEV200/FVCにいずれも顕著な差異がなかった。エリスロマイシン群と比較して、D4日目のポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、VT、f、MV、FVC、FEV200、FEV200/FVCに統計学的差異はなかったが、ポリペプチド高用量治療群では、エリスロマイシン群とブデソニド群と比較してVT、FVC、FEV200が増加する傾向を呈し、エリスロマイシン群とブデソニド群と比較して呼吸数が減少する傾向を呈した。D8日目のポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、エリスロマイシン群とブデソニド群と比較してVT、f、MV、FVC、FEV200、FEV200/FVCに差異がなく、増加する傾向または減少する傾向はなかった。
【0076】
このことから、ポリペプチド高用量治療群では、D4日目にエリスロマイシンとブデソニドよりも優れた薬効作用を表しており、D8日目には薬効作用に差がなかったことから、3.7mg/kgのポリペプチドの効果開始時間が18mg/kgのエリスロマイシンと0.18mg/kgのブデソニドより早いことを示している。
【0077】
2)異なる各実験群においてラットの動脈血ガスに対する影響を調べた結果を表3に示す。
【0078】
【0079】
表3に示すように、ブランク対照群と比較して、D4日目のモデル対照群では、動脈血中のpHが顕著に低下し、PCO2が顕著に上昇し、PaO2は30.16%低下しているが、統計学的差異はなかった。モデル対照群と比較して、D4日目のエリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、PO2がある程度上昇したが、統計学的差異はなかった。ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、動脈血中のpHが顕著に上昇し、PaCO2が顕著に低下しており、ブデソニド群では動脈血中のpHが上昇する傾向を呈し、PaCO2が低下する傾向を呈したが、統計学的差異はなかった。
【0080】
ブランク対照群と比較して、D8日目のモデル対照群では動物の動脈血中のpH、PaCO2に統計学的差異はなく、PaO2が顕著に低下していた。ブランク投与群では、ブランク対照群と比較してpH、PaCO2、PaO2に明らかな差異がなかったことから、7日間連続して累計用量22.2mg/kgのポリペプチドを、経口及び経鼻吸入投与しても、ラットの血液中のpH、PaCO2、PaO2に明らかな影響がないことが示された。モデル対照群と比較して、D8日目のエリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、pHが上昇する傾向を呈したが、統計学的差異はなかった。エリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、動脈血中のPaCO2が顕著に低下しており、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群ではPaO2が顕著に上昇しており、エリスロマイシン群ではPaO2が37.17%(vsモデル対照群)上昇したが、統計学的差異はなかった。
【0081】
エリスロマイシン群と比較して、D4、D8日目のポリペプチド低用量群及びポリペプチド高用量群では、ラットの血液中のpH、PaCO2、PaO2に明らかな差異はなかった。ブデソニド群と比較して、D4、D8日目のポリペプチド低用量群及びポリペプチド高用量群では、ラットの血液中のpH、PaCO2、PaO2に明らかな差異はなかった。
【0082】
以上のデータから、ポリペプチド、エリスロマイシン及びブデソニドのいずれも細菌感染性肺炎ラットの動脈血中のpH、PaCO2及びPaO2を顕著に調節でき、かつ低用量のポリペプチド(0.54mg/kg)の薬効作用は、エリスロマイシン溶液(18mg/kg)及びブデソニド懸濁液(0.18mg/kg)の薬効作用と同等であることが示された。
【0083】
(3)D4、D8日目のラット肺臓に対する病理学研究
図2及び
図3から分かるように、ブランク対照群では、肺臓に明らかな異常は現れなかった。D4日目のモデル対照群では、肺胞構造が破壊され、肺胞壁が明らかに厚くなり、肺胞壁の血管に充血されており、炎症性細胞が大量に浸潤していることが見られた。D4日目のエリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、いずれも肺胞壁が厚くなり、肺胞壁の血管に少量充血しており、炎症性細胞が浸潤し、肺胞構造に異常が見られ、上記の病理学変化はモデル対照群に比較して、明らかに改善された。
【0084】
D8日目のモデル対照群では、肺胞壁が明らかに厚くなり、肺胞壁の血管に少量充血しており、炎症性細胞が大量浸潤していることが見られた。D8日目のエリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、肺組織の病変が明らかに改善されており、ここで、エリスロマイシン群及びポリペプチド高用量治療群では、肺組織が正常になる傾向があった。ブランク投与群の肺組織を鏡検査した結果、明らかな異常は見られず、これは、ラットに累計用量22.2mg/kgのポリペプチドエアロゾルを経口及び経鼻吸入投与しても、被験体に関連肺組織の病理学変化は見られなかったことを表す。
【0085】
(4)肺炎モデルの各実験群におけるラットの肺組織中の細菌数を表4に示す。
【0086】
【0087】
表4に示すように、モデル対照群と比較して、D4日目の各投与群では動物肺組織中の大腸菌、黄色ブドウ球菌及び肺炎連鎖球菌の数がいずれも大幅に低下しているが、ポリペプチド高用量治療群では、肺炎連鎖球菌の数だけがモデル対照群より顕著に減少(P<0.05)しており、残りの各群では、肺臓中の上記細菌数に統計学的差異はなかった。また、各投与群では、大腸菌、黄色ブドウ球菌及び肺炎連鎖球菌に対する抑制率が異なり、そのうち、エリスロマイシン群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群での、大腸菌に対する抑制率がそれぞれ85.58%、71.19%、92.16%であり、ブデソニドの大腸菌に対する抑制率が-20.55%であった。エリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、黄色ブドウ球菌に対する抑制率がそれぞれ87.41%、48.74%、80.56%、90.99%であり、肺炎連鎖球菌に対する抑制率がそれぞれ74.14%、61.73%、84.14%、90.49%である。
【0088】
モデル対照群と比較して、D8日目のブデソニド群では、動物肺臓中の大腸菌、黄色ブドウ球菌及び肺炎連鎖球菌の数が低下する傾向を呈しているが、統計学的差異はなかった。エリスロマイシン群、ポリペプチド低用量群及びポリペプチド高用量群では、動物肺臓中の黄色ブドウ球菌数が大幅に低下していたが、統計学的差異はなかった。エリスロマイシン群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、肺臓中の大腸菌及び肺炎連鎖球菌の数が顕著に低下(P<0.05またはP<0.01)していた。D8日目のエリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、大腸菌に対する抑制率がそれぞれ91.69%、7.58%、85.77%、96.57%であり、黄色ブドウ球菌に対する抑制率がそれぞれ96.66%、83.43%、96.75%、97.43%であり、肺炎連鎖球菌に対する抑制率がそれぞれ95.77%、72.65%、94.95%、98.74%であった。
【0089】
エリスロマイシン群と比較して、D4日目及びD8日目のポリペプチド高用量治療群では、動物肺臓中の大腸菌、黄色ブドウ球菌及び肺炎連鎖球菌がいずれも低下する傾向を呈したが、統計学的差異はなかった。ブデソニド群と比較して、D4日目及びD8日目のポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、動物肺臓中の大腸菌、黄色ブドウ球菌及び肺炎連鎖球菌がいずれも低下する傾向を呈したが、統計学的差異はなく、これは、ポリペプチド高用量治療群(3.7mg/kg)では大腸菌、黄色ブドウ球菌及び肺炎連鎖球菌に対する抑制効果が、エリスロマイシン溶液(18mg/kg)及びブデソニド懸濁液(0.18mg/kg)より優れていることを表す。
【0090】
上記の結果から分析すると、経口及び経鼻吸入によるエリスロマイシン、ブデソニド及びポリペプチドの投与は、いずれも肺臓組織内における黄色ブドウ球菌及び肺炎連鎖球菌の複製を顕著に抑制することができるが、ブデソニドは細菌感染ラットの肺臓における大腸菌に対して明らかな抑制効果がなく、これと同時に、ポリペプチド高用量治療群(3.7mg/kg)では、薬効作用がエリスロマイシン溶液(18mg/kg)及びブデソニド懸濁液(0.18mg/kg)より優れている。
【0091】
3.実験中、ラットの体重を毎日記録し、詳細は
図4を参照されたい。
【0092】
図4から分かるように、ブランク対照群と比較して、モデル対照群では体重に顕著な差異がなく、モデル対照群と比較して、エリスロマイシン群、ブデソニド群、ポリペプチド低用量治療群及びポリペプチド高用量治療群では、顕著な差異がなかった。ブランク対照群と比較して、ブランク投与群では体重に顕著な差異がなかった。
【0093】
このことから、ポリペプチド低用量治療とポリペプチド高用量治療を組合わせた群の投与は、いずれもラットの体重に影響を与えなかったことが分かる。
【0094】
上記をまとめると、ポリペプチドを経口及び経鼻吸入投与することは、混合菌によって誘導される細菌性肺炎に対して顕著な治療効果があり、かつポリペプチド高用量治療群での結果は、エリスロマイシン群及びブデソニド群よりも優れていた。
【0095】
また、SDラットに7日間連続して、累計用量22.2mg/kgのポリペプチド溶液を経口及び経鼻吸入投与したが、肺組織に関連する病理学変化は見られず、かつ肺機能の指標、肺胞の洗浄液中のWBC、Neu、TNF-α、IL-6は、ブランク対照群より明らかな差異はなかった。
【0096】
また、本発明の前記ポリペプチドは、19個のアミノ酸から構成され、分解生成物は天然アミノ酸であり、薬物の残留が生じない。同時に、ポリペプチドの殺菌メカニズムは、強い正電荷を持って細菌の表面に吸着し、細胞壁の局所電位を急激に変化させて高電位差を形成し、最終的に細胞壁を破壊して穿孔を形成し、ポリペプチド分子が一定数に蓄積されると、既に形成された孔をさらに拡大し、細胞膜の完全性を破壊することによって、細胞内物質を流出させ、菌体を死亡させる。その独特な殺菌メカニズムは、ポリペプチドが薬剤耐性を生みにくく、比較的良い優位性を持っていることを決定し、広い応用の将来性がある。
【0097】
本明細書において、「薬物」、「薬物製剤」、「製剤」という用語は特に説明しておらず、交換して使用することができ、薬物の有効成分を含む製品を指し、場合によっては薬学的に許容可能な担体も含む。ここで、「薬学的に許容可能な」とは、物質または組成物が、製剤を含む他の成分及び/またはそれで治療される哺乳動物と化学的及び/または毒性的に適合していなければならないことを意味する。「薬学的に許容可能な担体」とは、無毒の固体、半固体または液体の充填剤、希釈剤、アジュバント、被覆材料または他の製剤用賦形剤を意味する。使用される担体は、対応する投与形態に適合することができ、当業者に公知の担体を用いて、注射剤、(注射用)凍結乾燥粉末、固形製剤、噴霧剤、溶液、懸濁液、半固形製剤、液体製剤、錠剤、カプセル、腸溶錠、丸剤、粉剤、顆粒剤、持続放出剤または遅延放出剤などのいずれか1つ以上の組み合わせ形態の製剤を配合することができる。
【0098】
上記は、本発明の実施形態にすぎず、本発明の特許範囲を限定するものではない。本発明の明細書の内容を用いて行われた等価構造または等価プローセス変換、または他の関連技術分野に直接または間接的に適用される場合、すべて同様に本発明の特許保護範囲に含まれる。
【配列表】