(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】モノフィラメントの未延伸糸、およびモノフィラメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/60 20060101AFI20241011BHJP
【FI】
D01F6/60 341B
D01F6/60 301A
D01F6/60 311K
(21)【出願番号】P 2023527595
(86)(22)【出願日】2022-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2022020957
(87)【国際公開番号】W WO2022259844
(87)【国際公開日】2022-12-15
【審査請求日】2023-06-28
(31)【優先権主張番号】P 2021096149
(32)【優先日】2021-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ムーンショット型研究開発事業/地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現/非可食性バイオマスを原料とした海洋分解可能なマルチロック型バイオポリマーの研究開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】目代 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】古川 渉
(72)【発明者】
【氏名】正木 崇士
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-137934(JP,A)
【文献】特開2021-031790(JP,A)
【文献】特公昭55-006726(JP,B2)
【文献】特開平04-136215(JP,A)
【文献】国際公開第2021/255957(WO,A1)
【文献】特公昭47-026678(JP,B1)
【文献】特開昭61-047813(JP,A)
【文献】特開平03-008804(JP,A)
【文献】特開2001-226824(JP,A)
【文献】特開昭60-134015(JP,A)
【文献】特開昭59-157315(JP,A)
【文献】国際公開第2015/186364(WO,A1)
【文献】米国特許第4130521(US,A)
【文献】中国特許第101974151(CN,B)
【文献】特開平03-027116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/00 - 69/50
D01F 6/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が1.230g/cm
3以下である、ポリアミド4のモノフィラメント
の未延伸糸。
【請求項2】
前記モノフィラメントの直径が1mm以下である、請求項1に記載のモノフィラメント
の未延伸糸。
【請求項3】
ポリアミド4を溶融押出する溶融押出工程と、
前記溶融押出工程によるポリアミド4の繊維状の溶融押出物を無極性溶媒により-10℃以下で冷却する冷却工程と、を含むモノフィラメントの製造方法。
【請求項4】
前記無極性溶媒には、シリコーンオイル、ヘキサン、ノナン、デカン、エチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、トルエンおよびp-シメンからなる群から選ばれる一種以上の溶媒を用いる、請求項3に記載のモノフィラメントの製造方法。
【請求項5】
前記冷却工程で冷却された前記
繊維状の溶融押出物を延伸する工程をさらに含む、請求項3または4に記載のモノフィラメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド4のモノフィラメントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミド4(以下、「PA4」とも言う)は、バイオプラスチックとして、例えば釣り糸および漁網などに用いられるフィラメントへの実用化が期待されている。このようなフィラメントにおいては、直線強度および結節強度ならびに透明性が重要な要求特性となっている。
【0003】
PA4のモノフィラメントの製造方法としては、例えば、溶融紡糸による方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の要求を満たすモノフィラメントを得るには、溶融紡糸における押出工程で形成される未延伸糸が非晶状態であること、すなわち密度が低いことが求められる。ここで、PA4は溶融紡糸時に熱分解が生じ得るため、紡糸温度を溶融温度付近にする必要がある。溶融温度付近で紡糸を行うと、残留結晶核が多くなり、押出工程後の冷却過程において結晶化速度が速くなる。そのため、非晶状態のモノフィラメントを作製することが困難である。
【0006】
短時間で冷却を済ませるために、ナイロン6およびナイロン66などの他のポリアミド樹脂では、5℃程度の冷水を使用した急冷が行われている。しかしながら、冷水による冷却方法では、PA4における親水性が大きいため、PA4表面での溶解および加水分解が生じてしまう。この結果、表面荒れおよび白紛が発生し、所望の物性が低下するという問題がある。
【0007】
本発明の一態様は、密度の低いPA4のモノフィラメントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るモノフィラメントは、ポリアミド4のモノフィラメントであって、その密度が1.230g/cm3以下である。
【0009】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るモノフィラメントの製造方法は、ポリアミド4を溶融押出する溶融押出工程と、前記溶融押出工程によるポリアミド4の繊維状の溶融押出物を無極性溶媒により-10℃以下で冷却する冷却工程と、を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、密度の低いPA4モノフィラメントを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔モノフィラメント〕
[ポリアミド4]
本発明の実施形態のモノフィラメントは、ポリアミド4(PA4)で実質的に構成されている。PA4は、下記式(1)で表される構造単位を有する高分子化合物である。下記式中のxは4である。
【0012】
【0013】
本発明の実施形態において、モノフィラメントの繊維の構造を構築している高分子化合物は、PA4のみであり得る。本発明の実施形態では、本実施形態における効果が得られる範囲において、PA4以外の他の成分をさらに含有してもよい。当該他の成分は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、強化材、可塑剤、滑剤および安定剤が含まれる。当該他の成分には、PA4以外の高分子化合物が含まれてもよい。当該他の成分は、当該他の成分による効果がさらに発現される量で適宜に用いられる。このように、本発明の実施形態のモノフィラメントは、PA4のモノフィラメントである。
【0014】
[密度]
本発明の実施形態のモノフィラメントの密度は、1.230g/cm3以下である。モノフィラメントの密度は、モノフィラメントの結晶化度と相関しており、密度が低いほど結晶化度が低い傾向がある。たとえば、当該モノフィラメントの密度1.230g/cm3は、当該モノフィラメントの結晶化度10%程度に相当する。モノフィラメントの密度が高いと、モノフィラメントの結節時における引張強度および伸度が不十分となることがある。結節時の引張特性をより高める観点から、モノフィラメントの密度は、1.225g/cm3以下であることが好ましく、1.223g/cm3以下であることがより好ましい。モノフィラメントの密度は、PA4のモノフィラメントとして実現可能な範囲であればよく、例えば1.215g/cm3以上であってよい。
【0015】
モノフィラメントの密度は、「密度勾配法」とも言われる方法によって求めることが可能である。また、モノフィラメントの密度は、未延伸糸の製造における冷却条件によって調整することが可能であり、例えば後述する製造方法の冷却工程における冷却により低減させることができる。
【0016】
[その他の物性]
本発明の実施形態のモノフィラメントは、前述した物性を有していればよく、前述した本実施形態の効果を奏する範囲において、前述した以外の他の物性をさらに有していてもよい。
【0017】
[糸径]
本発明の実施形態のモノフィラメントの糸径は、モノフィラメントの用途に応じて適宜決めてよいが、モノフィラメントの密度を十分に低減させる観点から、1mm以下であることが好ましい。なお、ここで言うモノフィラメントの糸径は、未延伸糸の糸径である。
【0018】
当該糸径が1mmを超えると、後述する製造方法の冷却工程における冷却が不十分となり、モノフィラメントの密度が高くなることがある。モノフィラメントの密度を十分に低くする観点から、モノフィラメントの糸径は、0.8mm以下であることが好ましく、0.5mm以下であることがより好ましい。一方で、モノフィラメントの糸径は、モノフィラメントの用途に応じてPA4のモノフィラメントで実現可能な範囲であればよいが、上記の冷却を十分に実施する観点であれば、0.1mm以上であってよい。モノフィラメントの糸径は、ダイの孔径によって調整することが可能である。
【0019】
モノフィラメントの糸径は、繊維径を測定する公知の技術によって測定することが可能であり、例えば、繊維を挟んで繊維の糸径を測定する公知の方法によって測定することが可能である。モノフィラメントの糸径は、後述する製造方法における延伸倍率を高くすることにより小さくなる傾向がある。
【0020】
本発明の実施形態におけるモノフィラメントが延伸糸である場合では、モノフィラメントの糸径は、未延伸糸におけるモノフィラメントの密度を十分に低減させる観点から、0.4mm以下であることがより好ましく、0.25mm以下であることがさらに好ましい。延伸糸であるモノフィラメントの糸径は、用途に応じてモノフィラメントとして実用可能な観点から、例えば0.05mm以上であってよい。延伸糸であるモノフィラメントの糸径は、延伸倍率によって調整することが可能である。
【0021】
[結節時の引張特性]
本発明の実施形態の延伸後のモノフィラメントにおける結節時の引張強度は、460MPa以上であることが、結び合わせられる状態で使用され得る用途において十分な引張強度を実現する観点から好ましい。結び合わせられる状態で使用され得る用途とは、例えば釣り糸である。当該結節時の引張強度は、モノフィラメントの用途に応じて適宜に決めることが可能である。当該結節時の引張強度は、引っ張られたときに結節箇所でモノフィラメントが切れることを防止する観点から高いことが好ましく、例えば470MPa以上であることがより好ましく、480MPa以上であることがさらに好ましい。一方で、結節時の引張強度は、PA4のモノフィラメントで実現可能な範囲であればよく、このような観点から、結節時の引張強度は、800MPa以下であってよい。
【0022】
モノフィラメントにおける結節時の引張強度は、繊維の引張試験を実施可能な公知の装置を用いて測定することが可能である。モノフィラメントの結節時の引張強度は、モノフィラメントの密度を前述した範囲にすることで十分に高くすることが可能である。また、モノフィラメントの結節時の引張強度は、モノフィラメントの製造における延伸によって高めることが可能である。
【0023】
本発明の実施形態の延伸後のモノフィラメントにおける結節時の引張伸度が10%以上であることは、結び合わせられる状態で使用された場合の破断を抑止する観点から好ましい。当該結節時の引張伸度は、モノフィラメントの用途に応じて適宜に決めることが可能であり、上記の観点から、12%以上であることがより好ましく、14%以上であることがさらに好ましい。一方で、結節時の引張伸度は、PA4のモノフィラメントで実現可能な範囲であればよく、このような観点から、結節時の引張伸度は、30%以下であってよい。
【0024】
モノフィラメントにおける結節時の引張伸度は、繊維の引張試験を実施可能な公知の装置を用いて測定することが可能である。モノフィラメントの結節時の引張伸度は、モノフィラメントの密度を前述した範囲にすることで十分に高くすることが可能である。また、モノフィラメントの結節時の引張伸度は、モノフィラメントの製造における延伸によって高めることが可能である。
【0025】
[複屈折]
本発明の実施形態の延伸後のモノフィラメントにおいて、PA4は特定の配向性を有することは、モノフィラメントの引張特性を高める観点から好ましい。このような観点から、モノフィラメントの複屈折は、50×10-3以上であることが好ましい。繊維材料における複屈折は、繊維を構成する高分子化合物における高分子鎖の、繊維軸方向に対する配向度の尺度である。複屈折の絶対値が大きいほど、当該高分子化合物の繊維における当該配向度が大きくなる。モノフィラメントの複屈折は、上記の観点から、55×10-3以上であることがより好ましく、60×10-3以上であることがさらに好ましい。本発明の実施形態におけるモノフィラメントの複屈折は、PA4のモノフィラメントで実現可能な範囲であればよく、このような観点から、90×10-3以下であってよい。
【0026】
モノフィラメントの複屈折は、例えば、べレック・コンペンセータを装着した偏光顕微鏡を用い、光源をナトリウムランプとするレタデーション測定によって求めることが可能である。また、モノフィラメントの複屈折は、モノフィラメント中におけるPA4の配向度によって調整することが可能であり、後述する製造方法における延伸倍率を高めることによって、より高くすることが可能である。
【0027】
〔モノフィラメントの製造方法〕
本発明の実施形態におけるモノフィラメントの製造方法は、ポリアミド4を溶融押出する溶融押出工程と、前記溶融押出工程よるポリアミド4の繊維状の溶融押出物を無極性溶媒により-10℃以下で冷却する冷却工程と、を含む。これらの工程は、後述する条件を満たす範囲において、液冷で未延伸糸を生成する公知の溶融紡糸技術によって実施することが可能である。
【0028】
[溶融押出工程]
溶融押出工程では、PA4の溶融混練物を押出成形によって押し出してPA4の繊維状の溶融押出物を生成する。上記の溶融押出工程おける紡糸温度は、溶融押出物中のPA4の結晶核を低減させる観点から高いことが好ましい。このような観点から、当該紡糸温度は、樹脂温度で、255℃以上であることが好ましく、260℃以上であることがより好ましく、262℃以上であることがさらに好ましい。一方で、紡糸温度は、PA4の熱分解を抑制する観点から低いことが好ましい。このような観点から、当該紡糸温度は、樹脂温度で、275℃以下であることが好ましく、270℃以下であることがより好ましく、267℃以下であることがさらに好ましい。
【0029】
[冷却工程]
冷却工程における無極性溶媒による溶融押出物の冷却温度は、-10℃以下である。冷却温度が高すぎると、未延伸糸の密度が高くなりすぎることがある。冷却温度は、未延伸糸の密度を十分に低くする観点から、-15℃以下であることが好ましく、-20℃以下であることがより好ましい。冷却温度は、本実施形態の効果が得られる範囲において冷媒液の種類および製造コストに応じて適宜に決めることができ、無極性溶剤を冷媒液とする本実施形態では、例えばコストの観点から-60℃以上であってよい。
【0030】
上記の冷却工程において、冷却時間は、未延伸糸の密度を低くする観点から、長いことが好ましく、より具体的には0.1秒間以上であることが好ましく、0.2秒間以上であることがより好ましく、0.3秒間以上であることがさらに好ましい。冷却時間は、生産性の観点からは短いことが好ましく、このような観点では、5秒間以下であることが好ましく、3秒間以下であることがより好ましく、2秒間以下であることがさらに好ましい。
【0031】
<無極性溶媒>
無極性溶媒は、未延伸糸の表面荒れあるいは白化の発生を防止する観点から、PA4の溶融押出物に対して実質的に不活性である。「実質的に不活性」とは、溶融押出物に実質的に作用しないことを意味し、より具体的には、PA4に対して難溶または不溶であること、および、PA4の溶融押出物への浸透性を有さないこと、が挙げられる。
【0032】
また、冷却工程における冷液媒の安定性の観点から、無極性溶媒の融点(Tm)は-20℃以下であることが好ましく、無極性溶媒の沸点(Tb)は100℃以上であることが好ましい。無極性溶媒は、一種でもそれ以上でもよい。無極性溶媒の例には、シリコーンオイル、ヘキサン、ノナン、デカン、エチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、トルエンおよびp-シメンが含まれる。無極性溶媒の例とその融点および沸点を表1に示す。
【0033】
【0034】
[その他の工程]
本発明の実施形態におけるモノフィラメントの製造方法は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において、前述した溶融押出工程および冷却工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。たとえば、当該製造方法は、冷却工程で冷却されたモノフィラメントを延伸する工程(延伸工程)をさらに含んでもよい。延伸工程は、モノフィラメントの引張特性を高める観点からより効果的である。
【0035】
延伸工程は、乾熱延伸でもよいし、湿熱延伸でもよい。また、延伸工程は、一回のみ実施してもよいし、複数回実施してもよい。延伸工程における延伸温度は、延伸工程の態様に応じて、40~240℃の範囲から適宜に設定することが可能である。また延伸工程における最終延伸倍率は、延伸工程の態様に応じて、3.5~6倍の範囲から適宜に設定することが可能である。なお、本明細書において、「~」は、その両端の数値を含む以上以下の範囲を示す。
【0036】
たとえば、延伸工程の態様が一回の乾熱延伸であれば、延伸温度は150~240℃(例えば200℃)であってよく、延伸倍率は3.5~5倍(例えば4倍)であってよい。また、例えば、延伸工程の態様が二回の乾熱延伸であれば、一回目の乾熱延伸における延伸温度は40~80℃(例えば60℃)であってよく、延伸倍率は2.5~3.5倍(例えば3倍)であってよい。そして、二回目の乾熱延伸における延伸温度は150~240℃(例えば200℃)であってよく、延伸倍率は1.05~2.0倍(例えば1.33倍)であってよい。
【0037】
なお、紡糸工程では、通常、溶融押出物の吐出速度よりも速い速度で繊維状の溶融押出物を引っ張りながら冷却し、その後の延伸装置へ供給する。本発明の実施形態では、溶融押出工程から冷却工程およびその後の延伸工程に供給するための上記溶融押出物の引っ張りは、延伸工程には含まれず、また本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に設定してよい。
【0038】
〔作用効果〕
本発明の実施形態におけるモノフィラメントは、前述したPA4で実質的に構成され、密度1.230g/cm3以下のモノフィラメントである。密度が低いモノフィラメントは、密度が高いモノフィラメントに比べて、より高い結節時の引張特性を有する。よって、本発明の実施形態によれば、結節時の改善された引張特性を有するモノフィラメントを実現することができ、より具体的には、結節時の引張強度および引張伸度が高いモノフィラメントを実現することができる。
【0039】
本発明の実施形態におけるモノフィラメントの製造方法は、モノフィラメントを溶融押出する溶融押出工程と、溶融押出されたモノフィラメントを無極性溶媒により-10℃以下で冷却する冷却工程とを含む。この構成によれば、密度が1.230g/cm3以下のモノフィラメントを製造することができる。
【0040】
モノフィラメントの未延伸糸の直径を十分に小さくすることにより、冷却工程における冷却の効果を十分に発現させることが可能となり、このような観点から、例えばモノフィラメントの直径が1mm以下であることが有利である。
【0041】
本発明の実施形態における無極性溶媒は、シリコーンオイル、ヘキサン、ノナン、デカン、エチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、トルエンおよびp-からなる群から選ばれ得る。これらの無極性溶媒は、上記の冷却工程における冷媒液としての安定性の観点から好適である。
【0042】
また、本発明の実施形態におけるモノフィラメントの製造方法は、冷却工程で冷却されたモノフィラメントを延伸する工程をさらに含むと、釣り糸または漁網などの用途に適用可能な十分な引張特性を発現させ得る。
【0043】
なお、ポリアミド6のモノフィラメントの製造において、-10℃~+20℃のヘキサンを冷却液として用いる方法が報告されている(特開平03-27118号公報)。冷却液の温度が-10℃未満の場合、冷却速度が急激になりすぎて、次工程における延伸が円滑に行われなくなる、ということである。ポリアミド4においては、ポリアミド6に比べてモノフィラメントの製造工程における結晶化速度が高く、冷却工程において十分に低い温度にしないとモノフィラメントの結晶化が進み強度が強くならないという問題がある。そのため、本発明の実施形態では結晶化を防ぐことに重点が置かれている。
【0044】
また、国際公開第2018/150835号では、ポリアミド粒子の製造工程において風冷および氷冷が用いられている。これらの方法では、モノフィラメントの製造においては十分および均一な冷却を行うことができず、結晶化の防止や十分な延伸につなげることができない傾向にある。従って、本発明の実施形態では液冷が採用される。
【0045】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態のモノフィラメントは、ポリアミド4のモノフィラメントであって、その密度は1.230g/cm3以下である。
【0046】
また、本発明の実施形態におけるモノフィラメントの製造方法は、ポリアミド4を溶融押出する溶融押出工程と、溶融押出工程によるポリアミド4の繊維状の溶融押出物を無極性溶媒により-10℃以下で冷却する冷却工程と、を含む。
【0047】
本発明の実施形態において、モノフィラメントの直径は1mm以下であってもよい。この構成は、モノフィラメントの引張特性を高める観点からより一層効果的である。
【0048】
本発明の実施形態において、無極性溶媒は、シリコーンオイル、ヘキサン、ノナン、デカン、エチルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、トルエンおよびp-シメンからなる群から選ばれる一種以上の溶媒であってよい。
【0049】
本発明の実施形態におけるモノフィラメントの製造方法はさらに、前記冷却工程で冷却されたモノフィラメントを延伸する工程をさらに含んでもよい。この構成は、引張特性に優れたモノフィラメントを得る観点からより一層効果的である。
【0050】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0051】
〔実施例1〕
室温下で、重合容器に、α‐ピロリドンに2mol%のカリウムtert-ブトキシドを加え、攪拌した。カリウムtert-ブトキシド溶解後、重合助剤として2mol%のテトラメチルアンモニウムクロライドを、開始剤として0.1mol%のN,N’-アジピルジピロリドンを加えた。添加後、系は白濁し、まもなく撹拌困難となった。撹拌停止してから72時間後、フラスコ中に生成した塊状物を取り出して塊状物を粉砕した。アセトンで未反応物および低分子物を洗浄した。洗浄後の粉砕物を乾燥させることによって、粉末状のPA4を得た。得られたPA4の重量平均分子量(Mw)は140,000であった。
【0052】
なお、PA4のMwは、以下の手順、分析装置および条件によって測定した。
[測定手順]
トリフルオロ酢酸ナトリウムを5mMの濃度で溶解したヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に、上記のようにして得られたPA4試料10mgを溶解させて10cm3とした後、メンブレンフィルターでろ過して試料溶液を得た。この試料溶液10μLを以下に示す分析装置に注入し、後述する測定条件でPA4の重量平均分子量を測定した。
[分析装置]
GPC装置:東ソー製HLC-8420GPC
[測定条件]
A)カラム:昭光サイエンス製 GPC HFIP806M x 2 (直列接続)
B)溶離液:5mM CF3COONa / HFIP
C)MALS:Wyatt製DAWN HELEOS 2
D)サンプル10~11mg/5mM CF3COONa/HFIP 10mL
E)流量:1.0 mL/min
F)dn/dc:0.240
【0053】
PA4を265℃の温度で溶融押出にて繊維状に成形し、得られた繊維状の溶融押出物を成形直後に-20℃の揮発性シリコーンオイル(「KF-995」、信越シリコーン社製)浴へ0.3秒間通過させて冷却、固化した。こうして糸径340μmのPA4のモノフィラメントの未延伸糸を製造した。未延伸糸の密度を下記の測定方法によって測定した。未延伸糸の密度は1.220g/cm3であった。
【0054】
[密度の測定方法]
未延伸糸の密度は、密度勾配法により求めた。溶媒には、ヘプタンと四塩化炭素の混合比を変えることにより、密度を1.20~1.30g/cm3の間で0.02刻みで調整した6種の混合溶媒を用いた。
【0055】
次いで、製造した未延伸糸を、延伸温度60℃、延伸倍率3.0倍の乾熱延伸で延伸した。二段目の延伸として、延伸温度200℃、延伸倍率1.33倍(合計延伸倍率で4.0倍)の乾熱延伸で延伸した。乾熱延伸の雰囲気の湿度は10%RH以下であった。こうして、PA4のモノフィラメントの延伸糸を製造した。
【0056】
〔実施例2〕
未延伸糸の糸径を480μmに変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。未延伸糸の密度は1.220g/cm3であった。
【0057】
〔実施例3〕
冷媒をヘキサンに変更し、冷媒の温度を-55℃に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。未延伸糸の密度は1.219g/cm3であった。
【0058】
〔実施例4〕
冷媒をトルエンに変更し、冷媒の温度を-50℃に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。未延伸糸の密度は1.219g/cm3であった。
【0059】
〔比較例1〕
冷媒を水に変更し、冷媒の温度を4℃に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。未延伸糸の表面荒れのため、未延伸糸の密度は測定不可であった。また、未延伸糸の表面荒れのため、その後の延伸において延伸切れが生じ、延伸糸が得られなかった。
【0060】
〔比較例2〕
冷媒をテトラデカンに変更し、冷媒の温度を40℃に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。未延伸糸の密度は1.240g/cm3であった。
【0061】
〔比較例3〕
冷媒の温度を40℃に変更した以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを製造した。未延伸糸の密度は1.240g/cm3であった。
【0062】
実施例1~4および比較例1~3の延伸糸の糸径を、未延伸糸の糸径と同様にして求めたところ、170~240μmであった。また、実施例1~4および比較例1~3の延伸糸の密度を未延伸糸の密度と同様にして求めたところ、1.246~1.250g/cm3であった。さらに、実施例1~4および比較例1~3の延伸糸の複屈折を求めたところ、58×10-3~67×10-3であった。
【0063】
[複屈折の測定方法]
延伸糸におけるPA4の複屈折は、べレック・コンペンセータを装着した偏光顕微鏡を用いて、光源をナトリウムランプとし、レタデーション測定を行うことによって求めた。
【0064】
〔評価〕
[モノフィラメントにおける結節時の引張特性]
上記の実施例および比較例におけるモノフィラメントのそれぞれについて、下記の測定方法によってモノフィラメントにおける結節時の引張強度および引張伸度を測定した。
<引張強度および引張伸度の測定方法>
試験機としてテンシロンRTF-1210を用い、23℃湿度50%RHでチャック間距離を150mm、引張速度を150mm/minに設定し、引張測定を行った。結節時は、結節部がチャック間の中心になるようにした。
【0065】
上記の実施例および比較例における未延伸糸の製造条件および密度、ならびに延伸糸の結節時における引張強度および引張伸度、を表2に示す。
【0066】
【0067】
〔実施例1~4および比較例1~3の考察〕
表1から明らかなように、実施例のモノフィラメントの密度は、いずれも1.230g/cm3以下である。その結果、当該未延伸糸を延伸してなる延伸糸の結節時の引張強度および結節伸度は、いずれも、比較例の延伸糸のそれらに比べて結節強度や結節伸度が高い。
【0068】
これに対して、比較例1では、未延伸糸の表面荒れが生じた。これは、冷媒に水を用いたことから、未延伸糸のPA4が冷却時に水に溶解し、あるいは湿潤したため、と考えられる。また、比較例1では、未延伸糸の延伸を実施することができなかった。これは、上記の表面荒れおよび未延伸糸の溶解、吸湿により、未延伸糸の強度が低下したため、と考えられる。
【0069】
比較例2、3では、未延伸糸の密度が低い。また、比較例2、3では、延伸糸の結節時の引張強度および引張伸度が、実施例1のそれらに比べていずれも低い。これは、未延伸糸の製造における冷却温度が高すぎ、未延伸糸内においてPA4の結晶化が促進されたため、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のPA4のモノフィラメントは、引張特性に優れる合成繊維として利用することができ、本発明によれば、当該合成繊維の利用における環境への負荷のさらなる軽減が期待される。