(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】モリブデンをエッチングする方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/308 20060101AFI20241011BHJP
【FI】
H01L21/308 F
(21)【出願番号】P 2023550227
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(86)【国際出願番号】 EP2021054490
(87)【国際公開番号】W WO2022179680
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】110002310
【氏名又は名称】弁理士法人あい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パッコ,アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】中野 哲平
【審査官】小▲高▼ 孔頌
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/112237(WO,A1)
【文献】特開昭59-200417(JP,A)
【文献】特開2013-120825(JP,A)
【文献】特開2020-155615(JP,A)
【文献】特開平07-302798(JP,A)
【文献】特開昭56-079433(JP,A)
【文献】米国特許第05350484(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/308
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンフィーチャをエッチングする方法であって、
a)熱酸化プロセスを用いて前記モリブデンフィーチャの厚さ部分を酸化して熱酸化モリブデン層を形成するステップと、
b)湿式化学物質を用いて前記熱酸化モリブデン層を溶解するステップと、
を含
み、
ステップa)およびb)を実行する前に前記モリブデンフィーチャから潜在的な汚染および自然酸化物を除去するための前洗浄のステップをさらに含む、方法。
【請求項2】
ステップa)が、前記熱酸化プロセスを用いて、前記熱酸化モリブデン層が自己制限厚さに到達するまで前記モリブデンフィーチャの前記厚さ部分を酸化することを含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
モリブデンフィーチャをエッチングする方法であって、
a)熱酸化プロセスを用いて前記モリブデンフィーチャの厚さ部分を酸化して熱酸化モリブデン層を形成するステップと、
b)湿式化学物質を用いて前記熱酸化モリブデン層を溶解するステップと、
を含み、
ステップa)が、前記熱酸化プロセスを用いて、前記熱酸化モリブデン層が自己制限厚さに到達するまで前記モリブデンフィーチャの前記厚さ部分を酸化することを含む、方法。
【請求項4】
前記自己制限厚さが6nm以下である、請求項
2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記熱酸化プロセスにおける酸化性環境がO
3を含む、請求項1
~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記熱酸化プロセスが、前記モリブデンフィーチャを少なくとも150℃の温度に加熱することを含む、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記熱酸化プロセスが、前記モリブデンフィーチャを180~300℃の範囲の温度に加熱することを含む、請求項
5~
6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
O
3濃度が少なくとも50g/m
3である、請求項
5~
7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
O
3濃度が100~200g/m
3の範囲である、請求項
5~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
O
3流量が少なくとも5SLMである、請求項
5~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
O
3流量が18~20SLMの範囲である、請求項
5~
10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記モリブデンフィーチャが、少なくとも30秒間前記酸化性環境に曝される、請求項
5~
11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記熱酸化プロセスの酸化性環境がO
2を含む、請求項1
~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記熱酸化プロセスが、前記モリブデンフィーチャを少なくとも200℃の温度に加熱することを含む、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記湿式化学物質が、モリブデンに対して前記熱酸化モリブデンを選択的に除去する、水を含む液体である、請求項1~
14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記湿式化学物質が、DIW、アルカリ溶液、アンモニア溶液またはCO
2
水、HFもしくはHClの水溶液から選択される、請求項
15に記載の方法。
【請求項17】
ステップa)およびb)のシーケンスを複数回繰り返すことをさらに含む、請求項1~
16のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モリブデンをエッチングする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
集積回路の製造プロセスは、一般に、エッチングすることによって金属を凹ませて、相互接続(interconnects)および接点(contacts)などのフィーチャ(features)を形成することを含む。一部の高度な相互接続の実現には、ビアまたはトレンチ内の金属を凹ませて、完全自己整合ビア(FSAV: fully self-aligned vias)または埋め込み電源レール(BPR: buried power rails)などのフィーチャを形成することを含んでもよい。高度なメモリアーキテクチャの実現には、ワードラインまたはゲート金属を凹ませることを含んでもよい。タングステン(W)は、現在の技術で一般に使用されている金属である。タングステンは、化学気相成長法(CVD)または原子層堆積法(ALD)を使用して堆積され、プラズマまたは湿式エッチング薬液で凹まされてもよい。
【0003】
モリブデン(Mo)は、前述のような用途においてタングステンに続く有望な候補である。モリブデンは、タングステンおよび銅のような金属と比較して、小さい限界寸法(critical dimension)において、より低い抵抗率を有する。より低い抵抗率により、スケーリングの際にもデバイス全体の性能を維持することができる。モリブデンは、さらに、バリアレス集積(barrier-less integration)を可能にするエレクトロマイグレーション特性を有する。
【0004】
しかしながら、様々な湿式エッチング液(定常状態、すなわち連続)でのモリブデンエッチングは表面を粗化させ、たとえばそれに続くプロセスステップに望ましくない表面状態をもたらす。このことは
図1に示されており、(左)Moフィルム(PVD堆積し、N
2中で420℃でアニーリングしたもの)に対して、従来からの連続湿式化学エッチングを、(中央)オゾン水中(約10ppmのO
3を含む脱イオン水(DIW)中で60秒)、および(右)過酸化水素水中(10%H
2O
2を含むDIW中で90秒)で行った結果が示されている。エッチング深さ(「RS深さ」)の不十分な制御に加えて、どちらの溶液も、示されているように、モリブデン表面のかなりの表面粗化および残渣をもたらす可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上のことから、従来の湿式エッチング液よりも表面粗化が少ない、モリブデンをエッチングするための改良された方法を提供することを一つの目的とする。さらなるまたは別の目的は、エッチング深さの制御性を高めたモリブデンのエッチング(すなわちモリブデンの制御された後退)を可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの態様によれば、モリブデンフィーチャをエッチングする方法が提供される。この方法は、
a)熱酸化プロセスを用いてモリブデンフィーチャの厚さ部分を酸化して熱酸化モリブデン層を形成するステップと、
b)湿式化学物質を用いて熱酸化モリブデン層を溶解するステップと、
を含む。
【0007】
このエッチング方法は、表面粗さの顕著な増加を引き起こすことなく、モリブデンフィーチャの表面のエッチバックを可能にする。そのため、最初に滑らかなモリブデン表面を本方法に従ってエッチングすることにより、滑らかさが維持された状態で後退した/エッチバックされた表面を形成することが可能である。実際、このエッチング方法は、モリブデン表面の粗さを低減するのに役立つ可能性さえある。このエッチング方法は、さらに、たとえばナノメートルオーダーで、エッチング深さの制御の改善を可能にする。したがって、このエッチング方法は、有利には、モリブデン表面の部分的なエッチバック、すなわち、たとえばモリブデンフィーチャの制御された後退におけるように、エッチングが停止されたときモリブデンフィーチャの厚さ部分が維持されるようなエッチバックに用いてもよい。
【0008】
熱酸化プロセスは、モリブデンフィーチャの表面を酸化性環境に曝してコンフォーマルに酸化させることができる。そのため、熱酸化モリブデン層は、均一な厚さで形成され得る。逆に、このことは、モリブデンフィーチャの均一な厚さの厚さ部分が酸化され得ること、すなわち酸化がモリブデンフィーチャ内の均一な深さまでおよび得ることを意味する。
【0009】
モリブデンの熱酸化は、拡散が制限されており、(少なくとも)主として酸化物-金属界面で起こると考えられる。これによって熱酸化プロセスに自己制限性が付与され、それによってエッチング深さの制御がさらに容易になる可能性がある。すなわち、自己制限性により、熱で駆動される酸化モリブデンの成長は、一定時間後に最大厚さでプラトー(plateau)に達する傾向があり、この最大厚さおよびその時間は、ともに、酸化性環境の温度、濃度および流量などの容易に制御されるプロセスパラメータの関数である。
【0010】
したがって、この方法のステップa)は、熱酸化プロセスを用いてモリブデンフィーチャの厚さ部分を酸化して、自己制限厚さの熱酸化モリブデン層を形成することを含んでもよい。したがって、このエッチング方法は、所望の深さが実現されるまで1つまたは複数のステップでモリブデンフィーチャを凹ませる原子層エッチング(ALE)のような段階的エッチングを容易にする。
【0011】
熱酸化によって、MoO3(三酸化モリブデン)の生成が促進され、熱酸化モリブデン層の少なくとも大部分がMoO3によって形成され得る。しかしながら、プロセス条件によっては、熱酸化モリブデン層は、MoOx(x≦2)などの追加の亜酸化物を含む。酸化性環境に曝されるモリブデンフィーチャの(金属)表面に自然酸化物(一般にMoO2を含む)が存在する場合、その自然酸化物はMoO3に変換され得る。
【0012】
エッチング方法のステップb)によって、熱酸化モリブデンは溶解され、それによってモリブデンフィーチャの後退した/エッチバックされた表面から除去されてもよい。熱酸化モリブデンは、湿式化学物質、すなわち液相酸化モリブデン溶解化学物質を用いて迅速に溶解してもよい。湿式化学物質は、熱酸化モリブデン層がモリブデンフィーチャから選択的に除去されるように熱酸化モリブデン層を溶解させてもよい。「選択的に除去される」とは、熱酸化モリブデン層を、モリブデンフィーチャの感知可能な酸化またはエッチングを引き起こすことなく除去することを意味する。様々な実施形態に関して以下に述べるように、いくつかの適切な湿式化学物質が存在する。たとえば、MoO3は高度に水溶性であり、それによって本方法は、一般に半導体処理に用いられる様々な水を含む安価な湿式化学物質に適合する。したがって、いくつかの実施形態によれば、湿式化学物質は水を含む液体であってもよい。
【0013】
本方法は、様々なアスペクト比および方向(垂直エッチングおよび側面エッチング)でモリブデンフィーチャをエッチングするために適用することができる。したがって、本明細書では、用語「厚さ部分」は、金属酸化物界面からモリブデンフィーチャ内へ該界面を横切る方向に延びているモリブデンフィーチャの部分を指すために使用される。
【0014】
いくつかの実施形態によれば、熱酸化プロセスの酸化性環境はO3(オゾンガス)であってもよい。酸化剤としてのオゾンガスは、従来の湿式エッチング液およびO2のような気体酸化剤と比較してMoO3の形成を促進し得る。さらに、O3は、比較的低い活性化温度で熱酸化の発生を起こすことが可能である。
【0015】
オゾンガスを使用する場合、熱酸化プロセスは、少なくとも150℃の温度にモリブデンフィーチャを加熱することを含んでもよい。150℃以上の温度で、時間効率よく凹ませることを可能にする速度および厚さでMoO3の成長を促進してもよい。180~300℃の範囲の温度で、MoO3の割合の高い熱酸化物の成長をさらに促進してもよい。この温度範囲では、熱酸化モリブデン層の自己制限厚さは6nm以下であってもよい。
【0016】
オゾンガスの濃度は少なくとも50g/m3であってもよい。O3濃度は、100~200g/m3の範囲であってもよい。
【0017】
O3流量は少なくとも5SLMであってもよい。O3流量は18~20SLMの範囲である。
【0018】
これらの範囲のO3濃度および/または流量は、迅速かつ確実なMoO3の成長を促進する量でモリブデン表面に向けて反応物を供給することを可能にする。熱酸化は、これらのパラメータの範囲外でも観察される可能性はあるが、これらのプロセス条件の1つまたは複数によって、熱酸化プロセスの速度および信頼性を向上させ得る。
【0019】
熱酸化プロセスは、少なくとも30秒間酸化性環境(オゾンガス)にモリブデンフィーチャを曝すことを含んでもよい。この時間によって、上記のように、自己制限厚さの熱酸化モリブデン層を得ることができることが観察されている。
【0020】
いくつかの実施形態によれば、熱酸化プロセスは、100~200g/m3の範囲のO3濃度および18~20SLMの範囲のO3流量で、30~300秒間、酸化性環境中で180~300℃の範囲の温度にモリブデンフィーチャを加熱することを含んでもよい。
【0021】
いくつかの実施形態によれば、熱酸化プロセスの酸化性環境は、代わりにO2(酸素、すなわち気相)であってもよい。酸化剤として酸素を使用することによって、プロセス装置に対する要件を低減し、費用対効果の高いモリブデンエッチングの実現を可能にしてもよい。
【0022】
酸素を用いる場合、熱酸化プロセスは少なくとも200℃の温度にモリブデンフィーチャを加熱することを含んでもよい。200℃で、モリブデンの酸化を開始させてもよい。
【0023】
いくつかの実施形態によれば、湿式化学物質は、モリブデンに対して熱酸化モリブデンを選択的に除去する、水を含む液体であってもよい。
【0024】
湿式化学物質は、アルカリ溶液、DIW、またはアンモニア(すなわちアンモニア溶液)、CO2
水、HFもしくはHClの水溶液から選択してもよい。
【0025】
DIWおよびアンモニア溶液(たとえばNH4OH)は、モリブデン表面に無害で、MoO3を迅速に溶解することができる安価な湿式化学物質である。NH4OHは、汚染粒子を反発することによって清浄なモリブデン表面にさらに寄与する可能性がある。
【0026】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、ステップa)およびb)のシーケンスを複数回繰り返すことを含んでもよい。したがって、段階的エッチングを使用して、段階的に所望のエッチング深さに近づけてもよい。
【0027】
いくつかの実施形態によれば、本方法は、ステップa)およびb)を実行する前に、モリブデンフィーチャから自然酸化物を除去するための前洗浄のステップをさらに含んでもよい。
【0028】
前洗浄ステップによって自然酸化モリブデンを除去して、モリブデンフィーチャの金属表面が、熱酸化プロセスの酸化性環境に曝されて直接接触するようにしてもよい。ステップa)の最初の適用時に得られる熱酸化モリブデン層の最大厚さをそれによって増加させ、ステップa)およびb)の1回のシーケンスでより多いエッチング量を可能にしてもよい。そうでない場合、自然酸化物は熱酸化を抑制する可能性がある。前洗浄ステップは、熱酸化モリブデン層の厚さの均一性のさらなる向上にさらに寄与する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0029】
上記ならびに別の目的、特徴および利点は、添付の図面を参照した以下の例示的かつ非限定的な詳細な説明を通じてよりよく理解されるであろう。図面では、別途に記載のない限り、同様な参照番号は同様な要素に使用される。
【
図1】
図1は、比較例として、従来の連続湿式エッチングを用いたモリブデンエッチングを示す。
【
図2】
図2は、一実施形態による、モリブデンフィーチャのエッチング方法を模式的に示す。
【
図3】
図3は、堆積後(上段左)、熱酸化後(上段右および下段左)および酸化物溶解ステップ後(下段右)のモリブデン膜のXTEM画像を示す。
【
図4】
図4は、熱酸化および湿式化学物質による酸化物溶解の反復サイクルの例を示す。
【
図5a】
図5aは、前洗浄ステップを行わなかった場合のPVDモリブデン膜の厚さを比較した例である。
【
図5b】
図5bは、前洗浄ステップを行った場合のPVDモリブデン膜の厚さを比較した例である。
【
図6】
図6は、様々なプロセス条件に曝した後のモリブデン表面の粗さの比較である。
【
図7】
図7は、熱酸化および酸化物溶解のサイクル数に対するALDモリブデン膜およびPVDモリブデン膜の凹み量の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、一つの態様において、a)熱酸化プロセスを用いてモリブデンフィーチャの厚さ部分を酸化して熱酸化モリブデン層を形成するステップと、湿式化学物質を用いて熱酸化モリブデン層を溶解するステップと、を含む、モリブデンフィーチャをエッチングする方法に関する。このステップa)およびb)のシーケンスを任意選択で繰り返して(ALE方式)所望のエッチング量を得ることができる。
【0031】
モリブデンフィーチャは、(薄)膜、層、水平または垂直相互接続(たとえば導電線またはビアなどの配線工程構造(back-end-of-line structure)の、埋め込み電源レール、コンタクト(たとえばソース/ドレインコンタクトまたはゲートなどの半導体デバイスの)などの、集積回路製造において典型的に使用される、モリブデンの任意のフィーチャ/構造体であってもよい。
【0032】
モリブデンフィーチャは、たとえば、PVD、CVDもしくはALDを用いて、または高い材料品質のモリブデンの堆積を可能にする任意の他の従来の堆積プロセスを用いて堆積されたモリブデンで形成されてもよい。堆積されたモリブデンは、(たとえばN2などの不活性環境下で)アニーリングされてもよい。アニーリングによって、堆積されたモリブデンの抵抗率などの特性を向上させてもよい。モリブデン堆積に続いて、エッチングされるモリブデンフィーチャの初期形状を定めるためのプロセスステップ(たとえば従来のリソグラフィーおよびエッチング・パターニング技術)を行ってもよい。
【0033】
モリブデンフィーチャは基板上に配置されてもよい。基板は、従来のタイプの半導体基板(たとえば、Si基板、Ge基板、SiGe基板、シリコンオンインシュレータ基板など)、またはモリブデンフィーチャが一部を形成する集積回路デバイスのタイプに適した他の公知の基板のタイプであってもよい。
【0034】
図2は、モリブデンフィーチャ10をエッチングする方法100を模式的に示す。参照符号10aは、エッチバックされる、すなわち凹まされるモリブデンフィーチャ10の金属表面を示す。方向Rは、それに沿って表面10aが凹まされる(後退させられる)方向を示し、したがって後退方向Rと呼んでもよい。方向Rは、表面10aに垂直かつモリブデンフィーチャ10内方を向いている。破線の水平な線は、エッチング前の表面10aによって画定される幾何学的平面を示し、したがって、後退させられる表面10aの基準面を表す。
【0035】
図2の第1列は、熱酸化プロセスを用いてモリブデンフィーチャ10の厚さ部分を酸化することにより熱モリブデン酸化物層14を形成するステップa)の進行を示す。そのため、熱酸化モリブデン層14はモリブデンフィーチャ10上に表層を形成してもよい。矢印Hは、加熱によってモリブデンフィーチャ10に熱エネルギーを供給することを表す。熱は基板ホルダーを介して供給され、たとえば基板ホルダーの設定温度によって制御される。しかしながら、熱エネルギーは、代わりに環境(ambient)を介して供給されてもよい。示されているように、モリブデンフィーチャ10の厚さ部分は徐々に酸化され、したがって金属表面10a(すなわち金属酸化物の界面を画定する)が基準面に対して後退するように消費される。酸化時に、モリブデンの1つまたは複数の原子層が酸化されてもよい。
【0036】
模式的に示すように、熱酸化モリブデン層14の厚さは、典型的には、酸化時に消費されるモリブデンの厚さよりも大きくてもよい。熱酸化プロセスは、熱酸化モリブデン層14が自己制限厚さ(熱酸化プロセスのプロセス条件に依存する)に達するまで実施されてもよい。しかしながら、より少ない凹み量が所望される場合、熱酸化プロセスは自己制限厚さに達する前に停止されてもよい。
【0037】
示されているように、エッチング方法を開始する前に、自然酸化モリブデン12が表面10aに存在してもよい。均一な厚さの層として描かれているが、自然酸化物22は、たとえば、自然酸化物の厚さが表面10aに沿って変化するように、かつ/または表面10aの一部が酸化物を有しないように不均一に形成されてもよいことにも留意すべきである。自然酸化物12は、主にx=2のMoOxを含んでもよいが、さらにx=1およびx=3の亜酸化物を含んでもよい。しかしながら、熱酸化プロセスは、列a)に示すように、自然酸化物12のMoOx(x≦2)のMoO3への変換をもたらしてもよく、その場合、自然酸化物層12は熱酸化モリブデン層14によって置換される。
【0038】
図2の第2列は、ステップa)に続いて実施される、湿式化学物質を用いて熱酸化モリブデン層14を溶解するステップb)の進行を示す。見られるように、熱酸化モリブデン層14は徐々に溶解され、それによってモリブデンフィーチャ10aから除去される。矢印Wは、熱酸化モリブデン層14を湿式化学物質と接触させることを表す。熱酸化モリブデン層14は、モリブデンフィーチャ10の凹まされた(金属)表面10aが現れるように完全に除去されてもよい。しかしながら、当業者には理解されるであろうが、湿式化学物質(たとえば溶質またはその溶媒)は、モリブデンに対して比較的無害であっても、
図2において層16で示されているように、溶解ステップb)の後にもモリブデン表面に(薄い)湿式自然酸化モリブデンが形成されるように表面10aの若干の酸化を引き起こす場合がある。
【0039】
ステップa)およびb)の1回のシーケンスをモリブデンフィーチャ10に適用することによって得られる凹み量を目標凹み量/深さが超える場合、目標凹み量に達するまでシーケンスを複数回繰り返してもよい。
【0040】
熱酸化プロセスは、当該技術分野で公知の従来の装置、たとえば熱酸化用加熱炉を用いて行ってもよい。
【0041】
ステップa)の熱酸化プロセスは、O3(オゾンガス)環境/雰囲気中で実施されてもよい。この熱酸化プロセスは、少なくとも150℃の温度で実施されてもよい。O3中の熱酸化物の成長はより低い温度でも観察される可能性はあるが(たとえば開始は約60℃で観察される可能性がある)、少なくとも150℃の温度でMoO3(これは湿式化学物質で迅速に溶解され得る)の収率を増加させ、より短時間で(たとえば30~300秒で)自己制限厚さの熱酸化モリブデン層14の形成を可能にしてもよい。180~300℃の範囲の温度は、MoO3の成長速度および収率にさらに寄与する。たとえば、熱酸化モリブデン層14の自己制限厚さは、180℃の温度で1.8nm、290℃の温度で6nmであり得る。O3の濃度は、少なくとも50g/m3であってもよい。O3流量は少なくとも5SLMであってもよい。たとえば、O3濃度は100~200g/m3の範囲であってもよく、O3流量は18~20SLMの範囲であってもよい。これらの範囲の濃度および/または流量によって熱酸化のための適切なプロセス条件を提供し得るが、温度は、熱酸化プロセスに対してより大きな影響を与えることが観察されている。したがって、より低い濃度および/または流量のO3を使用してもよいと考えられる。
【0042】
あるいは、熱酸化プロセスは、O2(気相酸素)環境/雰囲気中で実施されてもよい。この熱酸化プロセスは、少なくとも200℃の温度で実施されてもよい。O2中の熱酸化物の成長はより低い温度でも観察される可能性はあるが(たとえば開始は約60℃で観察される可能性がある)、少なくとも200℃以上の温度でMoO3の収率を増加させ、より短時間で(たとえば20分以下で)自己制限厚さの熱酸化モリブデン層14の形成を可能にしてもよい。酸化は、たとえば大気圧のO2環境で観察され得る。O2流量は、たとえば10SLM以上であってもよい。これらの範囲の濃度および/または流量で熱酸化のための適切なプロセス条件を提供し得るが、温度は、熱酸化プロセスに対してより大きな影響を与えることが観察されている。
【0043】
酸化ステップの後、基板(モリブデンフィーチャ100を有する)は、たとえばタンク内で湿式化学物質で浸漬および/またはリンスしてもよい。
【0044】
ステップb)の湿式化学物質は、金属表面10aを形成するモリブデンに対して熱酸化モリブデンを選択的に除去するような組成物の水を含む液体であってもよい。このような液体の例は、アンモニア溶液(dNH4OH)またはCO2
水、HFもしくはHClの他の水溶液を含む。溶液の希釈率は、非限定的な例として1:100であってもよいが、湿式化学物質がモリブデンの感知可能なエッチングまたは酸化を引き起こさないことが保証されている限り、より低い希釈率だけでなくより高い希釈率も可能である。しかしながら、(希釈)アルカリ溶液などの他の水溶液も可能である。他の例は、DIWおよびUPWを含む。また、無機溶媒などの非水溶液を使用してもよいと考えられる。
【0045】
任意選択で、ステップa)およびb)のシーケンスに先行して、
図2の第1列の矢印Pで表されるように、モリブデンフィーチャ10から自然酸化物12を除去するための前洗浄ステップが行われてもよい。自然酸化物12は、存在する場合、熱酸化プロセスを阻害する可能性がある。前洗浄は、たとえば前記の(希釈)水溶液のいずれかと自然酸化物12とを接触させることによって実施してもよい。
【0046】
図2は、水平な表面10aを示しているが、これは、エッチング方法の際に表面10aが絶対的な意味で水平であることを必要とすることを意味しているわけではない。実際、エッチング方法は、基板に対して平行または角度のある表面10a(たとえば、基板上にたとえば接点(contact)または線(line)を形成するモリブデンフィーチャ10の「水平な」上面または「垂直な」側壁面)に適用されてもよい。モリブデンフィーチャ10の2つ以上の向きの異なる表面が、たとえばそれぞれこれらの表面をエッチング方法に曝すことによって同時に凹ませられてもよいことにさらに留意する必要がある。一般的なウェハスケールアプリケーションでは、複数の同様なモリブデンフィーチャに、それらをエッチング方法にさらすことによって同時に凹ませてもよいことにさらに留意する必要がある。
【0047】
図3はPVDを用いてウェハ上に堆積されたモリブデン膜の断面透過型電子顕微鏡(XTEM)画像である。モリブデン膜は、熱酸化(100g/m
3のO
3環境中18SLM、180℃で90秒ベーク)および湿式化学物質酸化物溶解(1:100希釈のdNH
4OH中30秒)の単一サイクルに曝される。
【0048】
この例で得られた表面粗さに関する結果は
図1に示した連続湿式エッチング結果に対して改善されており、その理由は、部分的には、気体中の熱酸化プロセスが、溶液中の湿式化学物質酸化プロセスよりも粒界依存性が低く、かつ拡散制限も少ないことによる、プロセスの均一性の向上にあると考えられる。また、過酸化水素のような強力な酸化剤を用いた溶液中でのモリブデンの連続湿式エッチングは、金属表面を不動態化する可能性のある、わずかに可溶性のモリブデン水和物の望ましくない形成を伴う電気化学的メカニズムを有する。従来の(強)酸性O
3溶液を含む湿式エッチングは、MoO
3が減り、金属酸化物界面でMoOx(x≦2)の富化をもたらす可能性がある。
【0049】
図4は初期厚さが50nmのモリブデンフィーチャ(PVD堆積された膜、N
2中で2回アニーリング)に適用された熱酸化および湿式化学物質酸化物溶解の反復サイクルの例である。
図4は、熱酸化(100g/m
3のO
3環境中290℃で30秒ベーク)およびそれに続く酸化物溶解(1:100希釈のdNH
4OH中30秒)の3回の反復サイクルのシーケンスを示す。1サイクルあたりの凹み量は約4.7nmであった。
【0050】
図5aは、前洗浄ステップを実行しない場合の、熱酸化および湿式化学物質酸化物溶解の1サイクルの前(塗りつぶしのないドット)および後(塗りつぶしドット)のウェハ半径に沿ってPVDモリブデン膜の厚さを示す。
図5bは、前洗浄ステップを先行して実行した場合の、熱酸化および湿式化学物質酸化物溶解の1サイクルの前(塗りつぶしのないドット)および後(塗りつぶしドット)の同様のPVDモリブデン膜の厚さを示す。前洗浄によって可能にされたモリブデン膜のより大きなモリブデン損失は、
図5bで容易に観察されるであろう。両方の例において、熱酸化は、100g/m
3のO
3環境中、18SLM、180℃で30秒行った。前洗浄および溶解ステップは、dNH
4OH(1:100希釈)中で30秒行った。
【0051】
図6は、酸性化オゾン水での湿式酸化、O
3での熱酸化および熱酸化後に酸化物溶解を行う完全凹みシーケンス後のモリブデン表面の粗さと初期粗さ(基準)とをそれぞれ比較している。見られるように、基準と比較して、熱酸化後の粗さは減少している。180℃の温度では、表面粗さは、時間およびO
3濃度および流量に比較的影響を受けない。酸化のみと比較して、完全凹み形成シーケンス後の粗さはさらに低下する。サイクル数を3から6に増やすことによってさらに粗さが低下する。酸性化オゾン水中の湿式酸化は、顕著な粗さの増加をもたらす。
【0052】
図7は、熱酸化(100g/m
3のO
3環境中180℃で30秒ベーク)およびそれに続く酸化物溶解(1:100希釈のdNH
4OH中30秒)のサイクル数と、ALDおよびPVDモリブデン膜の凹み量との関係を示す。見られるように、凹み量とサイクル数との間は、ほぼ直線関係にある。異なる堆積法に関して凹み量に有意差はない。
【0053】
上記において、本発明の概念は、主に限られた数の例を参照して説明されてきた。しかしながら、当業者によって容易に理解されるように、上記で開示された例以外の他の例も、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の概念の範囲内で同様に可能である。