(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】圧縮機の製造方法、および圧縮機の寿命予測方法
(51)【国際特許分類】
F04C 29/00 20060101AFI20241011BHJP
F04C 29/02 20060101ALI20241011BHJP
【FI】
F04C29/00 B
F04C29/02 Z
(21)【出願番号】P 2023555791
(86)(22)【出願日】2023-04-28
(86)【国際出願番号】 JP2023016925
【審査請求日】2023-09-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 健嗣
(72)【発明者】
【氏名】外山 悟
(72)【発明者】
【氏名】平塚 研吾
【審査官】森 秀太
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-261995(JP,A)
【文献】特開2006-046798(JP,A)
【文献】特開2016-130589(JP,A)
【文献】特開2020-003166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
市場から回収された使用済み圧縮機を準備することと、
前記使用済み圧縮機の摺動部の劣化状態を推定することと、
前記劣化状態が所定の基準を満たす前記使用済み圧縮機は新たな圧縮機として再利用されると判断されることと、
前記劣化状態が前記所定の基準を満たさない前記使用済み圧縮機は前記新たな圧縮機として再利用されないと判断されることとを備え、
前記劣化状態が前記所定の基準を満たす前記使用済み圧縮機に収容されている第1冷凍機油を新たな第2冷凍機油にすることにより、当該使用済み圧縮機は前記新たな圧縮機として再利用され
、
前記劣化状態を推定することは、
前記第1冷凍機油に関する冷凍機油データに基づいてパラメータを算出することと、
前記パラメータに基づいて、前記劣化状態を推定することとを含む、圧縮機の製造方法。
【請求項2】
前記冷凍機油データは、
前記摺動部の良好性に関する第1データと、
前記第1冷凍機油の劣化に関する第2データと、のうち少なくとも1つのデータに基づいて、前記劣化状態を推定することを含む、
請求項1に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項3】
前記第1データは、
前記第1冷凍機油の量と、
前記第1冷凍機油の添加剤の量と、のうち少なくとも1つを含む、
請求項2に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項4】
前記第2データは、
前記第1冷凍機油の全酸価と、
前記第1冷凍機油の色相値と、のうち少なくとも1つを含む、
請求項2または
請求項3に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項5】
前記劣化状態を推定することは、前記冷凍機油データと、前記使用済み圧縮機の劣化に関する圧縮機データに基づいて、前記劣化状態を推定することを含む、
請求項1~
請求項3のいずれか1項に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項6】
前記圧縮機データは、
駆動した前記使用済み圧縮機の騒音と、
駆動した前記使用済み圧縮機の振動量と、
前記第1冷凍機油に混在する異物の量と、のうち少なくとも1つを含む、
請求項5に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項7】
前記冷凍機油データは、
前記第1冷凍機油の量と、
前記第1冷凍機油に混在されているリン系摩耗防止剤の量と、
前記第1冷凍機油の全酸価と、
前記第1冷凍機油の青色吸光度と、であり、
前記パラメータは、前記第1冷凍機油の量と前記リン系摩耗防止剤の量との乗算値が、前記全酸価と前記青色吸光度との乗算値で除算されることにより算出される、
請求項1に記載の圧縮機の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
請求項3のいずれか1項に記載の圧縮機の製造方法で製造された前記新たな圧縮機の寿命を、前記パラメータに基づいて、予測することとを備える、圧縮機の寿命予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧縮機の製造方法、および圧縮機の寿命予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特開2009-156504号公報(特許文献1)には、冷媒を用いる冷凍サイクル装置が開示されている。この冷凍サイクル装置は、室内機と、室外機と、該室内機および該室外機を繋ぐ冷媒配管とを備える。特開2009-156504号公報には、冷凍サイクル装置において、従来の冷媒から異なる冷媒に変更する場合に、既存の冷媒配管が再利用される方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、冷凍サイクル装置の使用に応じて圧縮機は劣化するが、環境保護などの観点において、劣化された圧縮機は再利用されることが好ましい。
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであって、その目的は、使用済みの圧縮機を再利用して新たな圧縮機を製造すること、および製造された新たな圧縮機の寿命を予測することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の圧縮機の製造方法は、使用済み圧縮機を準備することを備える。また、この製造方法は、使用済み圧縮機の摺動部の劣化状態を推定することを備える。さらに、この製造方法は、劣化状態が所定の基準を満たす使用済み圧縮機に収容されている第1冷凍機油を新たな第2冷凍機油にすることにより新たな圧縮機を製造することを備える。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、使用済みの圧縮機を再利用して新たな圧縮機を製造すること、および製造された新たな圧縮機の寿命を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図4】
図3のステップS4の処理を示すフローチャートである。
【
図6】良好パラメータと添加材料との関係の一例を示す図である。
【
図7】良好パラメータと添加材料との関係の一例を示す図である。
【
図8】新たな圧縮機の寿命予測方法を示すフローチャートである。
【
図10】別の実施の形態の良好パラメータと添加材料との関係の一例を示す図である。
【
図11】別の実施の形態の良好パラメータと添加材料との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。また、各実施形態における構成の少なくとも一部を適宜組み合わせて用いることは当初から予定されていることである。
【0010】
実施の形態1.
[冷凍サイクル装置の構成例]
本開示においては、圧縮機の製造方法が開示される。この圧縮機は、一例として、冷凍サイクル装置に使用される。
図1は、本実施の形態の冷凍サイクル装置100の構成例を示す図である。冷凍サイクル装置100は、圧縮機200と、凝縮器2と、膨張弁3と、蒸発器4とを備える。圧縮機200は、典型的には、密閉型冷媒用圧縮機である。
【0011】
圧縮機200と、凝縮器2とが配管5aにより接続される。凝縮器2と、膨張弁3とが配管5bにより接続される。膨張弁3と蒸発器4とが配管5cにより接続される。蒸発器4と圧縮機200とが配管5dにより接続される。配管5a、配管5b、配管5c、および配管5dにより冷媒回路5が形成される。冷媒は、冷凍サイクル装置100内(冷媒回路5)において循環するように封入される。
【0012】
冷媒が圧縮機200に吸入されると、圧縮機200は、この冷媒を圧縮する。凝縮器2は、圧縮機200で圧縮したガス状の冷媒を冷却することにより、この冷媒は、高圧液状の冷媒または気液2相の冷媒となる。膨張弁3は、高圧液状の冷媒または気液2相の冷媒を減圧する。蒸発器4は、減圧された冷媒を加熱することにより、該冷媒は低圧ガス状の冷媒となる。圧縮機200は、該低圧ガス状となった冷媒を吸引して、再度圧縮する。このようにして、冷媒は、冷凍サイクル装置100内を循環する。
【0013】
送風機6は、凝縮器2に送風する。送風機6の送風により、凝縮器2に流れる冷媒が空気と熱交換して熱を吸収または放出することが促進される。また、送風機7は、蒸発器4に送風する。送風機7の送風により、蒸発器4に流れる冷媒が空気と熱交換して熱を吸収または放出することが促進される。
【0014】
なお、冷凍サイクル装置100は、たとえば、冷房および暖房の双方を実行可能な装置、暖房を行わず冷房を実行可能な装置、および、冷房を行わず暖房を実行可能な装置のいずれであってもよい。
【0015】
[圧縮機の構成例]
図2は、圧縮機200の構成例を示す図である。
図2は、ロータリ圧縮機の一例である。
図2に示されるように、圧縮機200は、シェル8と、圧縮機構9と、吸入管10と、吐出管11と、シャフト12と、油溜部13と、給油孔14と、軸受け16と、回転子17と、固定子18とを備える。
【0016】
圧縮機構9は、シェル8の内部に配置される。圧縮機構9には、吸入管10と吐出管11とが接続されている。吸入管10は、冷媒を圧縮機200の内部に流入させるための管である。吐出管11は、冷媒を圧縮機200の外部に吐出するための管である。圧縮機構9は吸入管10からシェル8に入った冷媒を圧縮して、吐出管11から吐出する。
【0017】
圧縮機200は、モータ部を備える。モータ部は、シャフト12と回転子17と固定子18とを含む。圧縮機200は、このモータ部によって駆動する。
【0018】
圧縮機200は、少なくとも1つの摺動部を有する。摺動部は、圧縮機200の一の部分と、他の部分との接触する箇所である。典型的は、一の部分は、金属であり、他の部分は金属または有機材料である。摺動部は、たとえば、シャフトと軸受けとの接触部(シャフト12と軸受け16との接触部)、ベーンとピストンとの接触部、揺動スクロールの歯先の部分などである。圧縮機200は、多数の摺動部を含み得る。
図2では、摺動部30の一例として、シャフト12と軸受け16との接触部が示されている。
【0019】
油溜部13は、冷凍機油を貯留する。冷凍機油は、給油孔14を通じてポンプ(図示せず)の作用により圧縮機構9の内部の摺動部に供給される。冷凍機油は、圧縮機200内で冷媒と接触するため、冷媒の一部は冷凍機油中に溶解する。冷凍機油は、たとえば、ポリビニルエーテル系冷凍機油である。
【0020】
[圧縮機の再利用]
一般的に、冷凍サイクル装置100(たとえば、空調機)の高信頼性化により、圧縮機200の耐用年数(たとえば、法定耐用年数)が経過しても、この圧縮機200は再使用可能な状態である場合が多い。また、冷凍サイクル装置100の耐用年数が経過したとしてもスラッジが発生している場合は稀である。一方、ユーザなどの冷凍サイクル装置100の使用状態により摺動部などの摩耗が大きく、圧縮機が故障しているまたは故障寸前である場合がある。
【0021】
このような冷凍サイクル装置100の回収時に、圧縮機200が正常に稼働していても、該圧縮機200は、更なる使用により、法定寿命に到達するまでに故障する場合がある。このように法定寿命に到達するまでに故障する圧縮機は、「不具合機」とも称される。このような不具合機は、環境保護の観点などにより、金属部分などが抽出され、該金属部分が再利用され得る。
【0022】
一方、再使用することにより法定寿命に到達するまでに使用できる圧縮機がある。従来では、このような圧縮機は、不具合機同様に金属部分などが抽出され、該金属部分が再利用されていた。しかしながら、このような圧縮機は、再利用されて、新たな圧縮機として再び使用可能な状態とすることが好ましい。
【0023】
発明者は、圧縮機の再利用の可否を判断する場合、摺動部の状態を特定することが好ましいことを発見した。さらに、発明者は、市場から回収された圧縮機などを解体し摺動部を観察した。この観察により、発明者は、無傷である摺動部、焼付き寸前の摺動部など様々な摺動部が圧縮機に含まれていることを発見した。
【0024】
このように、たとえば、作業者が、圧縮機を解体して摺動部の状態を目視などで確認すれば、圧縮機の再利用の可否を判断することができる。しかしながら、圧縮機の再利用の可否判断のために圧縮機を解体する場合には、当該解体および圧縮機の点検などの工程が増える。したがって、圧縮機を解体して新たな圧縮機を製造する場合には、新品の部品から圧縮機を製造する場合よりもコストが大きくなり得る。このため、圧縮機の再利用の可否を判断するためには、圧縮機を解体することなく摺動部の状態を明確に評価できることが好ましい。本実施形態の圧縮機の製造方法は、使用済みの圧縮機を解体することなく、該使用済みの圧縮機を再利用して、新たな圧縮機を製造可能とする方法である。
【0025】
[圧縮機の製造方法]
図3は、本実施の形態の新たな圧縮機を製造する製造方法のフローチャートの一例である。
図3、および後述の
図4と、
図8と、
図12のフローチャートの全ての工程のうち少なくとも一部の工程は、作業者により実行され得る。つまり、このフローチャートの全ての工程は、作業者により実行されてもよい。また、このフローチャートの一部の工程は、作業者により実行され、残りの工程は製造装置(ロボットなど)により実行されてもよい。また、このフローチャートの全ての工程は、該製造装置により実行されてもよい。以下では、主に作業者が、全ての工程を実行する例が説明される。
【0026】
まず、ステップS2において、使用済み圧縮機200が準備される。次に、ステップS4において、この圧縮機200の摺動部の劣化状態が推定される。摺動部の劣化状態は、典型的には、摺動部の「摩耗状態」である。
【0027】
次に、ステップS6において、推定された劣化状態が所定基準を満たすか否かが判断される。ステップS6において、劣化状態が所定基準を満たすと判断された場合には(ステップS6でYES)、ステップS8において、使用済み圧縮機200は、再利用可能と判断される。
【0028】
以下では、使用済み圧縮機200に収容されていた冷凍機油は、「第1冷凍機油」とも称される。ステップS8において、使用済み圧縮機200に収容されていた第1冷凍機油が廃棄される。使用済み圧縮機200の第1冷凍機油が廃棄された後に、新たな冷凍機油が、油溜部13(
図2参照)に収容される。これにより、新たな圧縮機200が製造される。新たな冷凍機油は、「第2冷凍機油」とも称される。第2冷凍機油には、予め所定の添加剤(酸化防止剤など)が混入されている。
【0029】
一方、ステップS6において、劣化状態が所定基準を満たさないと判断された場合には(ステップS6でNO)、使用済み圧縮機200は、再利用不可と判断される。なお、再利用不可と判断された使用済み圧縮機200の金属部分は再利用され得る。
【0030】
図4は、
図3のステップS4(劣化状態の推定)の処理の詳細を示すフローチャートである。ステップS22においては、良好パラメータが算出される。良好パラメータは、圧縮機200の摺動部の良好性を示すパラメータである。本実施の形態においては、良好パラメータが大きいほど、圧縮機200の摺動部は良好であることが示される。良好パラメータの算出手法は後述する。
【0031】
次に、ステップS24で算出された良好パラメータが、正常範囲(所定範囲)に属するか否かが判断される。正常範囲は、予め決定される範囲であり、正常範囲の決定手法は後述する。良好パラメータが、正常範囲に属する場合には(ステップS24でYES)、ステップS26において、摺動部の劣化状態は所定基準を満たすと判断される。そして、
図3のフローチャートに戻って、
図3のステップS6でYESと判断される。また、良好パラメータが、正常範囲に属さない場合には(ステップS24でNO)、ステップS26において、摺動部の劣化状態は所定基準を満たないと判断される。そして、
図3のフローチャートに戻って、
図3のステップS6でNOと判断される。
【0032】
[良好パラメータ]
次に、後述の良好パラメータの算出に使用される使用データを説明する。
図5は、この使用データを説明するための図である。
図5の例に示すように、使用データは、第1データ群と、第2データ群と、第3データ群と、第4データ群とを含み得る。第1データ群および第2データ群は総括して、本開示の「冷凍機油データ」に対応する。「冷凍機油データ」は、第1冷凍機油に関するデータである。第1データ群は、本開示の「第1データ」に対応する。第2データ群は、本開示の「第2データ」に対応する。第3データ群は、本開示の「圧縮機データ」に対応する。
【0033】
第1データ群は、摺動部の良好性に関するデータである。換言すると、第1データ群は、摺動部の良好性を示すデータである。
図5に示すように、第1データ群は、第1冷凍機油の量と、第1冷凍機油の添加剤の量とのうち少なくとも1つを含む。添加剤は、第1冷凍機油に添加されている物質である。添加剤は、たとえば、摩耗防止剤である。摩耗防止剤は、たとえば、リン酸トリクレジルである。また、第1冷凍機油として、リン酸トリクレジルが摩耗防止剤として添加されたポリビニルエーテル系冷凍機油が用いられる。
【0034】
発明者は、第1冷凍機油の量および添加剤の量が多いほど、摺動部が良好である傾向にあることを発見した。したがって、第1データ群として、第1冷凍機油の量と、第1冷凍機油の添加剤の量とが採用された。
【0035】
第1冷凍機油の量の取得の方法として、たとえば、作業者は、配管(
図2の吸入管10および吐出管11など)を切断し、該切断部から第1冷凍機油を回収する。そして、作業者は、回収された第1冷凍機油の量を計測する。
【0036】
また、第1冷凍機油の量の取得の方法として、センサが用いられてもよい。センサとして、たとえば、超音波センサが用いられる。超音波センサが用いられる第1の方法として、超音波センサが、使用済み圧縮機200の底面から超音波を入射し、液面で反射して超音波センサに受信されるまでの時間を計測する。そして、超音波センサは該時間に基づいて距離が算出される。この距離は、収容されている第1冷凍機油の液面高さに対応する値である。この距離に基づいて、第1冷凍機油の量が取得される。第1の方法は、特許第4123764号公報に開示される。
【0037】
また、超音波センサが用いられる第2の方法として、圧縮機側面を超音波センサで触診し、信号形状から第1冷凍機油の高さが取得される。具体的には、第2の方法においては、超音波センサから使用済み圧縮機200の側面の水平方向に超音波を入射する。そして、ガス冷媒、および第1冷凍機油が溶解している液冷媒との伝播特性の違いなどに基づいて、第1冷凍機油の液面高さが取得される。第2の方法は、たとえば、特許6808039号公報に開示される。
【0038】
静電容量センサが用いられる方法としては、静電容量センサが、使用済み圧縮機200の側面に設置される。一般的に、ガス冷媒ガスの誘電率と、冷凍機油(冷媒が溶解した状態も含む)の誘電率とは異なる。この誘電率の相違に基づいて、第1冷凍機油の液面高さが取得される。静電容量センサが用いられる方法は、たとえば、特開2021-56134号公報に開示される。
【0039】
分光計測器が用いられる方法としては、使用済み圧縮機200から吐出される第1冷凍機油と、使用済み圧縮機200に吸入される第1冷凍機油のうち少なくとも一方の吸光度が分光計測器により測定される。そして、予め定められた吸光度と第1冷凍機油の量との関係が示される吸光特性と、測定された吸光度とに基づいて、第1冷凍機油の量が測定される。分光計測器が用いられる方法は、たとえば、特開昭62-043523号公報に開示される。
【0040】
第1データ群に含まれる添加剤の量(
図5参照)の取得については、たとえば、分析装置が用いられる。分析装置は、ガスクロマトグラフまたは液体クロマトグラフを含む。
【0041】
第2データ群は、摺動部の劣化に関するデータである。換言すると、第2データ群は、摺動部の劣化性を示すデータである。なお、第2データ群は、冷凍機油の劣化に関するデータ群と称されてもよい。
図5に示すように、第2データ群は、第1冷凍機油の全酸価と、第1冷凍機油の色相値と、のうち少なくとも1つを含む。
【0042】
第1冷凍機油の全酸価は、たとえば、“JIS K2501”に準拠して測定される。全酸価は、たとえば、指示薬滴定法または電位差滴定法などにより測定される。
【0043】
第1冷凍機油の色相値は、たとえば、色相センサ(吸光度計など)により測定される。より具体的には、第1冷凍機油の三原色(RGB)のうちの少なくとも1つの色の吸光度が色相値として測定される。なお、第2データ群には、第1冷凍機油の粘度および水分濃度のうち少なくとも1つを含むようにしてもよい。
【0044】
第3データ群は、使用済み圧縮機200の劣化に関するデータである。換言すると、第3データ群は、使用済み圧縮機200の劣化性を示すデータである。
図5に示すように、第3データ群は、駆動した使用済み圧縮機200の騒音と、駆動した使用済み圧縮機200の振動量と、第1冷凍機油に混在する異物の量と、のうち少なくとも1つを含む。
【0045】
使用済み圧縮機200の騒音の取得については、たとえば、配管が切断される前に使用済み圧縮機200を駆動し、該駆動中に、騒音計の測定により取得される。使用済み圧縮機200の振動量の取得については、たとえば、使用済み圧縮機200を駆動し、該駆動中に、振動センサの測定により取得される。また、第3データ群には、使用済み圧縮機200の入力電流が含まれていてもよい。使用済み圧縮機200の振動または入力電流の測定方法は、たとえば、WO2019/239549号公報に開示されている。
【0046】
第4データ群は、摺動部の劣化度に関連するか否かが不明であるデータである。第4データ群は、酸化防止剤の残存量と、水分量との少なくとも1つを含む。酸化防止剤は、冷凍機油に添加されている。水分量は、冷凍機油の水分量である。また、第4データ群は、第1冷凍機油の粘度などを含んでいてもよい。
【0047】
[良好パラメータの決定手法]
次に、良好パラメータの算出手法の決定方法を段階に分けて説明する。まず、第1段階において、たとえば、作業者は、取得可能なデータを分類する。分類例は、たとえば、
図5に示す通りである。
【0048】
次に、第2段階として、作業者は、第1~第4データ群から少なくとも1つデータを選別する。たとえば、作業者は、第1データ群および第2データ群の少なくとも一方のデータ群からデータを選別する。また、データが選別されないデータ群については、該データ群から選ばれたデータは任意の固定値とされてもよい。
【0049】
次に、第3段階として、作業者は、第1データ群から選別されたデータにより示される量の積または和を第1値として計算する。同様に、作業者は、第2データ群、第3データ群、および第4データ群から選別されたデータにより示される量の積または和を第2値として計算する。
【0050】
次に、第4段階として、作業者は、第1値を第2値で除算することによりパラメータを算出する。次に、第5段階として、作業者は、算出されたパラメータと摺動部の状態とを比較して、パラメータと摺動部の摩耗量(摩耗状態)の間に相関性が得られるか否かを考慮する。その結果、所望の相関性がない場合はそのパラメータを破棄し、所望の相関性が得られた場合はそのパラメータの算出方法(算出式)を良好パラメータの算出方法として決定する。
【0051】
[良好パラメータの算出式]
次に、
図4のステップS22の良好パラメータの算出式の具体例を説明する。ここでは、良好パラメータの算出に用いられるデータとして、第1データ群の第1冷凍機油量Vと、第1データ群の冷凍機油の添加剤の添加剤量Aと、第2データ群の第1冷凍機油の全酸価Cと、第2データ群の第1冷凍機油の色相値Dとが使用される(選定された)。なお、第1データ群の冷凍機油の添加剤は、リン系摩耗防止剤であり、より特定的にはリン酸トリクレジルである。また、第1冷凍機油の色相値Dは、青色吸光度である。
【0052】
そして、良好パラメータWについては、以下の式(1)により算出される。
W=(V×A)/(C×D) (1)
式(1)の右辺の分子は、「第1冷凍機油量Vとリン系摩耗防止剤の量Aとの乗算値(第1乗算値)」である。また、式(1)の右辺の分母は、「第1冷凍機油の全酸価Cと、第1冷凍機油の青色吸光度Dとの乗算値(第2乗算値)」である。そして、式(1)の例では、第1乗算値が、第2乗算値に除算されることにより、良好パラメータWが算出される。
【0053】
式(1)の分子の値は、摺動部の良好性に関する第1データ群に属するデータ値同士の乗算値である。したがって、この分子の値は、摺動部に対して良い影響を及ぼす値である。式(1)の分母の値は、摺動部の劣化性に関する第2データ群に属するデータ値同士の乗算値である。したがって、この分母の値は、摺動部に対して悪い影響を及ぼす値である。よって、良好パラメータWが大きいほど、摺動部が良好であることは明らかである。
【0054】
なお、式(1)を用いた良好パラメータWの算出は、たとえば、作業者が暗算により行ってもよく、情報処理装置(PC:Personal Computer)を用いて行ってもよい。
【0055】
次に、寿命パラメータの算出式の変形例を説明する。たとえば、良好パラメータW=Aとしてもよい。また、良好パラメータW=V×Aとしてもよい。また、良好パラメータW=A/Cとしてもよい。
【0056】
また、式(1)の例では、摺動部の良好性に関する値が分子となり、第1冷凍機油の劣化に関する値が分母となる。しかしながら、式(1)の分子と分母とが逆であってもよい。このような式で算出されるパラメータは、小さいほど、摺動部の良好性を示すパラメータとなる。以上、パラメータの算出式、および正常範囲については、回収された圧縮機の分析結果に基づいて適宜、設計される。
【0057】
[正常範囲の設定]
次に正常範囲の設定の手法を説明する。まず、複数の使用済み圧縮機200が準備される。この使用済み圧縮機200は、市場から回収されてもよい。また、この使用済み圧縮機200は、新しい圧縮機について一定の市場を模擬した加速条件で製造されてもよい。
【0058】
作業者は、準備された複数の使用済み圧縮機200のそれぞれについて、使用データの値(ここでは、添加剤量A)と、上記の良好パラメータWを算出する。そして、作業者は、使用済み圧縮機200を解体して、摺動部の状況を観察する。摺動部の観察は、作業者の目視のみとしてもよい。摺動部の観察が作業者の目視のみである場合には、観察された複数の使用済み圧縮機の各々について、たとえば、複数段階(たとえば、3段階)評価などの経験的な相対評価が付加される。また、摺動部の観察により、摺動部の摩耗量および摺動部の表面粗さのうちの少なくとも1つが求められてもよい。作業者の観察により得られた摺動部の状態と、良好パラメータWとの相関を得ることで、この相関に基づいて、作業者は、良好パラメータWから摺動部の状況を予測できる。
【0059】
図6は、この相関を説明するための図である。また、
図6は、正常範囲を設定するための図でもある。
図6の例では、リン系摩耗防止剤の量A(添加剤量A)と、良好パラメータWとの関係の一例が示されている。
図6の例では、縦軸がAを示し横軸がWを示す。なお、リン系摩耗防止剤の量Aは、新しい冷凍機油に混在されているリン系摩耗防止剤の量が“1”とされた相対値である。つまり、リン系摩耗防止剤の量Aは、0以上1以下の値となる。
【0060】
図6の白丸は、摺動部の正常摩耗を示す。正常摩耗は、圧縮機に第2冷凍機油(新たな冷凍機油)が封入されると使用可能と判断される程度の摩耗である。使用可能とは、たとえば、市場が許容しうる製品寿命に到達できる程度に圧縮機が使用され得ることをいう。
【0061】
図6の黒丸は、摺動部の異常摩耗を示す。異常摩耗は、圧縮機に第2冷凍機油が封入されても使用不可能と判断される程度の摩耗である。使用不可能とは、たとえば、市場が許容しうる製品寿命に到達できる程度に圧縮機が使用され得ないことをいう。
【0062】
また、正常摩耗および異常摩耗の判断は、上述の摺動部の観察により行われた。また、正常摩耗の摺動部を含む圧縮機は、「正常圧縮機」とも称され、異常摩耗の摺動部を含む圧縮機は、「異常圧縮機」とも称される。なお、白丸と黒丸との定義は、後述の
図10および
図11も同様である。
【0063】
図6において、良好パラメータWが大きいにもかかわらず、黒丸が示されている圧縮機がある(
図6の点S1参照)。この圧縮機は、異物の混入(異物の噛みこみ)が原因となる故障モードとなっている可能性が高い。異物は、たとえば、冷凍サイクル装置100が設置される場合における配管切断時に発生した切り屑などである。
【0064】
このような故障モードでは冷凍機油の劣化は伴わない。このために良好パラメータWが大きいにも関わらず異常摩耗となる。該異常摩耗となる理由としては、ほとんど使用していない圧縮機は、摺動部が殆ど劣化せずに良好パラメータWが大きいにも関わらず該圧縮機に異物が混入している場合があるからである。なお、圧縮機の使用により該異物は外部に排出され得る。
【0065】
図6に示すように、良好パラメータWが極端に小さい圧縮機および良好パラメータWが極端に大きい圧縮機に、異常摩耗の摺動部が含まれている場合には、正常圧縮機の良好パラメータWの平均値および標準偏差に基づいて摺動部の状態は判断されるようにしてもよい。
【0066】
図6の実線L1は、正常圧縮機の良好パラメータWの平均値Waを示す。破線L2は、平均値Waから標準偏差を加算した値Wbを示す。破線L2は、平均値Waから標準偏差を差し引いた値Wcを示す。換言すれば、破線L2、L3は、それぞれ、「平均値Wa±nσ」でn=1とした場合における上下の境界線である。なお、σは標準偏差を示す。また、Wbを下限値として、Wcを上限値とする範囲が、
図4のステップS24の「正常範囲」に対応する。
【0067】
また、nの値については、たとえば、作業者が
図6を作成して、異常圧縮機が正常範囲に含まれないようにnは設定されてもよい。なお、
図6の例ではn=1が好適である。nが1よりも大きいと異常圧縮機が正常圧縮機と判断されてしまう場合がある。また、nが1よりも小さいと正常圧縮機が異常圧縮機とは判断されてしまう場合がある。
【0068】
このように、作業者は、良好パラメータWの正常範囲が規定されることで、正常圧縮機と異常圧縮機とを明確に分けることができる。換言すれば、作業者は、第1冷凍機油を分析して、良好パラメータWを算出すれば、
図6に基づいて、摺動状態が正常であるか異常であるかを判断できる。さらに、作業者は、使用済み圧縮機200に第2冷凍機油を封入すれば市場が許容しうる寿命に到達できるかも判断できる。また、使用済み圧縮機200において異物の噛みこみが生じている場合には、該使用済み圧縮機200は、良好パラメータWが大きいにも関わらず、摺動部が異常となる場合がある。このような摺動部を備える使用済み圧縮機200が異常圧縮機であると判断されるために、良好パラメータWに上限値Wbが設定されることが好ましい。このように上限値が設けられることにより、作業者は、たとえば、異物が混入している圧縮機を、異常圧縮機と判断することができる。なお、正常範囲については、平均および標準偏差を用いずに作業者の目視などにより決定されてもよい。このように
図6の例では、白丸の正常圧縮機が含まれるが、黒丸の異常圧縮機が踏まれない範囲(破線L3と破線L2との間の範囲)が、正常範囲として設定される。
【0069】
上述したように、良好パラメータWの算出式については、良好パラメータW=Aとしてもよいが、以下では、良好パラメータW=Aとすることが不適である例を説明する。
図7は、このような例を説明するための図である。
図7の例においては、縦軸がリン系摩耗防止剤量Aを示し、横軸が良好パラメータWを示す。なおこの良好パラメータWは、式(1)により算出される。
【0070】
図7の例では、白丸に示すように、正常圧縮機のリン系摩耗防止剤量Aは、約0.4~1.0の範囲に分布している。また、異常圧縮機のリン系摩耗防止剤量Aは、0~1.0まで広く分布している。
【0071】
図7の例においては、リン系摩耗防止剤量Aが、0.4以下であれば、使用済み圧縮機200は、異常圧縮機と判断可能である。しかしながら、リン系摩耗防止剤量Aが、0.4~1.0であったとしても、0.4~1.0の範囲には、異常圧縮機が含まれていることから、使用済み圧縮機200は、正常圧縮機と判断できない。
【0072】
つまり、この
図7の例では、作業者は、良好パラメータW=Aとされる良好パラメータにより使用済み圧縮機200が正常圧縮機および異常圧縮機のいずれであるかを判断できない。よって、作業者は、使用済み圧縮機200が再利用可能であるか否かを判断できない。したがって、
図7の場合には、良好パラメータW=Aとされることは不適である。なお、後述の
図11では、良好パラメータW=Aとされる場合が好適であることが説明される。
【0073】
どのようなデータ値が、良好パラメータの算出に使用されるデータ値として適切であるかは、使用済み圧縮機200の区分に起因する。使用済み圧縮機200の区分は、使用済み圧縮機200の種別、使用済み圧縮機200に含まれる第1冷凍機油の種別、使用済み圧縮機200を有するデバイスの使用用途などにより規定される。
【0074】
使用済み圧縮機200の種別は、たとえば、スクロール式圧縮機、ロータリ式圧縮機、およびスクリュー式圧縮機などを含む。第1冷凍機油の種別は、ポリオールエステル油、ポリビニルエーテル油、ポリアルキレングリコール油、および鉱油などを含む。使用済み圧縮機200を有するデバイスの使用用途は、業務用、家庭用、空調用、および冷凍用などを含む。
【0075】
たとえば、作業者は、上記の区分ごとに
図6および
図7の相関図を作成するなどして、良好パラメータWの算出に用いるデータ値および正常範囲を事前に決定することが好ましい。
【0076】
[新たな圧縮機の寿命予測]
次に、
図3の手法により製造された新たな圧縮機の寿命予測の手法を説明する。
図8は、新たな圧縮機の寿命予測の手法を示すフローチャートである。まず、ステップS32において、良好パラメータが準備される。この良好パラメータは、寿命予測対象の新たな圧縮機の前の状態である使用済み圧縮機200の状態であるときに式(1)などにより算出されたパラメータである。
【0077】
次に、ステップS34において、予め作成された相関情報と、算出された良好パラメータとに基づいて、新たな圧縮機の寿命が予測される。
【0078】
図9は、相関情報の一例を示す図である。
図9の例では、横軸が良好パラメータWを示し、縦軸が寿命と相関を持つ量を示す。なお、変形例として、縦軸は、寿命と相関を持つ量でなく、寿命そのものの値としてもよい。
図9の例では、正の相関が示されている。
【0079】
作業者は、ステップS34において、良好パラメータWを算出すると、
図9の相関情報を参照して、良好パラメータWに対応する寿命と相関を持つ量を特定する。そして、作業者は、該寿命と相関を持つ量から、寿命を特定する。
【0080】
なお、ステップS34の処理は、作業者が手作業により実行されてもよい。また、ステップS34の処理は、たとえば、作業者が情報処理装置に良好パラメータWを入力して、情報処理装置が所定の演算を実行することにより寿命を出力する(予測する)ようにしてもよい。所定の演算は、たとえば、AI(Artificial Intelligence)を用いた演算である。
【0081】
次に、
図9の相関情報の作成手法の一例を説明する。作業者は、良好パラメータWが算出された圧縮機を組立てる。そして、作業者は、摺動部の状態が各々異なる複数の圧縮機のそれぞれの寿命を加速試験などにより確認する。加速試験の時間は市場の使用時間に換算されることが好ましい。なお、新たな圧縮機が再使用されることが想定されるので、圧縮機を組立ての際には、新たな冷凍機油が封入される。
【0082】
そして、作業者は、算出された良好パラメータWと、該良好パラメータWに対応する圧縮機の寿命とを対応付けてプロットする。このプロットに基づいて、
図9の相関情報は作成される。
【0083】
また、新たな圧縮機の必要な寿命を寿命閾値とする。そして、該寿命閾値に対応する良好パラメータよりも大きな良好パラメータを得られた使用済み圧縮機200からは、作業者は、該寿命閾値よりも寿命が長い新たな圧縮機を製造できる。
【0084】
[本実施の形態の総括]
本実施の形態においては、
図3に示すように、作業者は、摺動部の劣化状態を推定する(ステップS4)。次に、作業者は、劣化状態が所定の基準を満たすか否かを判断する(ステップS6)。そして、劣化状態が所定の基準を満たす使用済み圧縮機200については、該使用済み圧縮機200に収容されている第1冷凍機油を新たな第2冷凍機油にすることにより新たな圧縮機を製造する。したがって、本実施の形態の製造方法により、作業者は、使用済みの圧縮機を再利用して安価に新たな圧縮機を製造することができる。
【0085】
また、劣化状態を推定すること(ステップS4)は、第1冷凍機油に関する冷凍機油データ(
図5の第1データ群および第2データ群)に基づいて良好パラメータを算出すること(
図4のステップS22)を含む。また、劣化状態を推定すること(ステップS4)は、良好パラメータに基づいて、劣化状態を推定すること(ステップS24)を含む。したがって、作業者は、第1冷凍機油の観点から、摺動部の劣化状態を推定できる。また、たとえば、使用済み圧縮機200が、密閉型冷媒用圧縮機であったとしても、密閉容器を開閉することなく、作業者は、摺動部の劣化状態を推定できる。
【0086】
また、冷凍機油データは、摺動部の良好性に関する第1データ群と、第1冷凍機油の劣化に関する第2データ群とを含む。したがって、作業者は、摺動部の良好性、および第1冷凍機油の劣化の観点から摺動部の劣化状態を推定できる。
【0087】
また、第1データは、第1冷凍機油の量と、第1冷凍機油の添加剤の量と、のうち少なくとも1つを含む。したがって、作業者は、第1冷凍機油の量と、第1冷凍機油の添加剤の量と、のうち少なくとも1つの観点から摺動部の劣化状態を推定できる。
【0088】
また、第2データは、第1冷凍機油の全酸価と、第1冷凍機油の色相値と、のうち少なくとも1つを含む。したがって、作業者は、第1冷凍機油の全酸価と、第1冷凍機油の色相値と、のうち少なくとも1つの観点から摺動部の劣化状態を推定できる。
【0089】
また、劣化状態を推定することは、冷凍機油データと、使用済み圧縮機の劣化に関する圧縮機データに基づいて、劣化状態を推定することを含むようにしてもよい。したがって、作業者は、使用済み圧縮機200の劣化の観点から摺動部の劣化状態を推定できる。
【0090】
また、
図5に示すように、圧縮機データは、駆動した使用済み圧縮機の騒音と、駆動した使用済み圧縮機の振動量と、第1冷凍機油に混在する異物の量と、のうち少なくとも1つを含む。したがって、作業者は、駆動した使用済み圧縮機の騒音と、駆動した使用済み圧縮機の振動量と、第1冷凍機油に混在する異物の量と、のうち少なくとも1つの観点から摺動部の劣化状態を推定できる。
【0091】
また、良好パラメータは、たとえば、上記式(1)により算出される。したがって、作業者は、比較的、簡易な演算により摺動部の劣化状態を推定できる。
【0092】
また、本実施の形態の寿命推定方法によれば、
図8に示すように、ステップS22で算出された良好パラメータに基づいて、新たな圧縮機の寿命を予測できる。換言すれば、作業者は、ステップS22で算出された良好パラメータを流用して、新たな圧縮機の寿命を予測できる。したがって、作業者は、新たな圧縮機を分解などすることなく、該新たな圧縮機の寿命を予測できる。
【0093】
実施の形態2.
実施の形態1においては、摩耗防止剤として、主にリン酸トリクレジルが摩耗防止剤として使用された例が説明された。実施の形態2においては、リン酸トリフェニルが摩耗防止剤として使用される例が説明される。なお、実施の形態2においては、使用済み圧縮機は、スクロールタイプの密閉型圧縮機で、様々な条件で加速試験を行った後に回収されたものである。
【0094】
実施の形態2の良好パラメータWの算出式は、以下の式(2)である。
W=(V×A)/C (2)
図10は、実施の形態2の正常範囲の決定手法を説明するための図である。
図10においては、リン酸トリクレジルである摩耗防止剤量(添加剤量A)と、式(2)で算出された良好パラメータWとの関係を示す図である。
図10の縦軸は添加剤量Aを示し、横軸は、良好パラメータWを示す。
図10の点線L4により、値Wdが示されている。値Wdは、異常圧縮機の良好パラメータWの平均値から、該良好パラメータWの標準偏差のn(ここでは、n=3)倍を加えた値である。
図10に示すように、良好パラメータWが小さい範囲に異常圧縮機のプロットが集約する場合には、作業者は、正常範囲として上限値を設定せずに下限値を設定しないようにしてもよい。
【0095】
なお、上記のn=3は異常圧縮機と正常圧縮機とを分離するために設けた値であって、両者の分離の状態によって調整される値である。さらに、正常圧縮機を特定することが目的の場合には正常圧縮機に異常圧縮機が混入しないように正常範囲を設けることが望ましく、異常圧縮機に正常圧縮機が混入したとしても特段問題はない。また、良好パラメータWは、異常圧縮機の判断に用いられてもよい。
【0096】
以上、実施の形態2に示すように、正常範囲は、上限閾値で規定せずに下限閾値のみで規定されてもよい。なお、特に図示しないが、正常範囲は、下限閾値で規定せずに上限閾値のみで規定されてもよい。
【0097】
実施の形態3.
図11は、添加剤量Aと、良好パラメータWとの関係の他の例を示す図である。分析の結果、
図11のようになる場合には、たとえば、良好パラメータW=Aとしてもよい。そして、良好パラメータW(添加剤量A)の正常範囲(下限閾値)が、直線L5で示される値Weとされる。このように、良好パラメータWは、
図5で示された1つのデータ(本実施の形態であれば、第1データの添加剤量A)としてもよい。
【0098】
実施の形態4.
図3および
図4で説明した良好パラメータを用いれば、作業者は、圧縮機を分解することなく圧縮機の摺動部の状態を特定できる。このため、作業者は、
図1の冷凍サイクル装置100に接続されたままの圧縮機200の良好パラメータを用いれば、該圧縮機200の摺動部の状態を特定できる。
【0099】
そこで、本実施の形態においては、冷凍サイクル装置100に接続されている圧縮機200の寿命予測が説明される。
図12は、本実施の形態の寿命予測方法のフローチャートの一例である。
【0100】
ステップS42において、寿命予測対象の圧縮機200が準備される。なお、圧縮機200が冷凍サイクル装置100に接続されている場合には、該冷凍サイクル装置100が準備される。
【0101】
次に、ステップS44において、該圧縮機の良好パラメータが算出される。算出式は、たとえば、式(1)などが用いられる。なお、変形例として、他の式が用いられてもよい。そして、ステップS46において、良好パラメータと、予め作成された相関情報とに基づいて圧縮機200の寿命が予測される。
【0102】
次に、良好パラメータWの算出に使用されるデータの取得方法の一例を説明する。たとえば、作業者は、第1冷凍機油を抜き出すバルブなどから、圧縮機200の第1冷凍機油を少量抜き取る。そして、作業者は、上述した手法により、使用データを取得する。なお、抜き取られる第1冷凍機油の量は、冷凍サイクル装置100の運転に影響しない程度が望ましい。
【0103】
また、ステップS46で使用される相関情報は、たとえば、
図9に示される相関情報が使用される。このように、相関情報は、良好パラメータWと、寿命との対応を示す情報である。
【0104】
つまり、実施の形態4に開示される寿命予測方法は、以下のように表現される。寿命予測方法は、圧縮機(寿命予測対象の圧縮機)を準備することと、上記の圧縮機の第1冷凍機油に関する冷凍機油データに基づいてパラメータ(良好パラメータ)を算出することと、該パラメータに基づいて上記圧縮機の寿命を予測することとを備える。
【0105】
特に良好パラメータの算出については、上述の式(1)などが用いられる。また、良好パラメータの算出については、寿命予測精度を向上させるために、第1データ群の第1冷凍機油量のみならず、他のデータが使用されてもよい。他のデータは、たとえば、第1冷凍機油の添加剤量、第1冷凍機油の全酸価、第1冷凍機油の色相値のうちの少なくとも1つのデータである。本実施の形態の寿命予測方法によれば、たとえば、寿命予測対象の圧縮機200が冷凍サイクル装置100から切り離されなくても、該圧縮機200の寿命を予測することができる。
【0106】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0107】
2 凝縮器、3 膨張弁、4 蒸発器、5 冷媒回路、5a,5b,5c,5d 配管、6,7 送風機、8 シェル、9 圧縮機構、10 吸入管、11 吐出管、12 シャフト、13 油溜部、14 給油孔、16 軸受け、17 回転子、18 固定子、30 摺動部、100 冷凍サイクル装置、200 圧縮機。
【要約】
圧縮機の製造方法は、使用済み圧縮機を準備すること(ステップS2)を備える。また、圧縮機の製造方法は、使用済み圧縮機の摺動部の劣化状態を推定すること(ステップS4)を備える。さらに、圧縮機の製造方法は、劣化状態が所定の基準を満たす使用済み圧縮機に収容されている第1冷凍機油を新たな第2冷凍機油にすることにより新たな圧縮機を製造すること(ステップS8)を備える。