(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】粒体選別方法、品質評価方法、焼成プロセス制御方法
(51)【国際特許分類】
C04B 7/36 20060101AFI20241011BHJP
C04B 7/44 20060101ALI20241011BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20241011BHJP
G01N 15/10 20240101ALI20241011BHJP
【FI】
C04B7/36
C04B7/44
G01N33/38
G01N15/10 A
(21)【出願番号】P 2024535484
(86)(22)【出願日】2024-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2024011238
【審査請求日】2024-06-19
(31)【優先権主張番号】P 2023050917
(32)【優先日】2023-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫨 達斗
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 友美
(72)【発明者】
【氏名】山口 麻衣子
(72)【発明者】
【氏名】黒川 大亮
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-214071(JP,A)
【文献】特開2021-050130(JP,A)
【文献】特開平09-052741(JP,A)
【文献】特開2021-171842(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110050100(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
G01N 15/00-15/1492
G01N 33/38
G06N 20/00-20/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕したクリンカ、又はセメント粒子群に含まれる粒体の一部を粒体試料として採取し、所定の溶媒と混合して懸濁液を作製する工程(a)と、
前記懸濁液を所定の流路内に流し込み、前記流路内を通流している前記懸濁液を撮影して選別用画像データを取得する工程(b)と、
粉砕されたクリンカ、又はセメント粒子群より選別基準用に抽出した第一基準粒体を撮影して取得した第一学習用画像データと、前記第一基準粒体の選別の基準となる特徴パラメータとが関連付けられた第一学習用入力データに基づく機械学習により生成した第一学習済みモデルに、前記選別用画像データを適用して、撮影された粒体の種別に応じて前記選別用画像データを選別する工程(c)とを含むことを特徴とする粒体選別方法。
【請求項2】
前記工程(a)は、前記粒体試料と、屈折率が1.65以上1.75以下である溶媒とを混合し、前記懸濁液を作製することを特徴とする請求項1に記載の粒体選別方法。
【請求項3】
前記第一基準粒体の特徴パラメータがエーライト結晶及びビーライト結晶を選別するための特徴パラメータを含んでおり、
前記工程(c)は、少なくとも前記選別用画像データが、エーライト結晶又はビーライト結晶が撮影された画像データであるか否かを選別することを特徴とする請求項2に記載の粒体選別方法。
【請求項4】
前記工程(b)は、偏光顕微鏡を用いて前記選別用画像データを取得することを特徴とする請求項1に記載の粒体選別方法。
【請求項5】
クリンカ、又はセメントの品質を評価する方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の粒体選別方法と、
前記工程(c)において選別された前記選別用画像データに基づいて、クリンカ、又はセメントの品質を評価する工程(d)とを含むことを特徴とする品質評価方法。
【請求項6】
前記工程(d)は、前記粒体試料の特徴パラメータに基づいて、前記粒体試料が採取されたクリンカ、又はセメントにより生成されるセメントの強度を推定評価することを特徴とする請求項5に記載の品質評価方法。
【請求項7】
前記工程(d)は、粉砕したクリンカ、又はセメント粒子群より評価基準用に抽出した第二基準粒体を撮影して取得した第二学習用画像データと、前記第二基準粒体が取得されたクリンカ、又はセメント粒子群の品質関連情報とが関連付けられた第二学習用入力データに基づく機械学習により生成された第二学習済みモデルに、前記工程(c)において選別された前記選別用画像データを適用して、クリンカ、又はセメントの品質を評価することを特徴とする請求項5に記載の品質評価方法。
【請求項8】
クリンカの焼成プロセスを制御する方法であって、
請求項1~4のいずれか一項に記載の粒体選別方法と、
前記工程(c)において選別された前記選別用画像データに基づいて、クリンカの焼成プロセスの条件を調整する工程(e)とを含むことを特徴とする焼成プロセス制御方法。
【請求項9】
前記工程(e)は、前記粒体試料の特徴パラメータに基づいて、前記粒体試料が採取されたクリンカ、又はセメントにより生成されるセメントの強度を推定評価し、更に当該推定の結果に基づいて、クリンカの焼成プロセスの条件を調整することを特徴とする請求項8に記載の焼成プロセス制御方法。
【請求項10】
前記工程(e)は、粉砕したクリンカ、又はセメント粒子群より評価基準用に抽出した第二基準粒体を撮影して取得した第二学習用画像データと、前記第二基準粒体が取得されたクリンカ、又はセメントの品質関連情報とが関連付けられた第二学習用入力データに基づく機械学習により生成された第二学習済みモデルに、前記工程(c)において選別された前記選別用画像データを適用することで、クリンカ、又はセメントの品質評価結果を取得し、当該品質評価結果に基づいて、クリンカの焼成プロセスの条件を調整することを特徴とする請求項8に記載の焼成プロセス制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒体選別方法、品質評価方法、焼成プロセス制御方法に関し、特に、粉砕したクリンカ、又はセメント粒子群に含まれる粒体選別方法、クリンカ、又はセメントの品質評価方法、クリンカの焼成プロセス制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントは、石灰石、粘土、珪石、酸化鉄原料を混合した混合物が、ロータリキルンにより所定の焼成条件で焼成されることで生成されるクリンカを、石膏及び所定の少量混合材と共に混合粉砕することで生成される。ここで、セメントの品質は、ロータリキルンによる焼成プロセスにおける焼成条件によって左右されることが知られている。例えば、焼成工程における焼成条件が不適切であった場合、当該焼成条件で生成したセメントを用いて生成したコンクリートにおいて、期待する強度が得られないといった事態が生じ得る。
【0003】
上記のような事情から、所望の品質レベルのセメントを作製すべく、従来、クリンカの焼成プロセスにおいては、生成したクリンカの一部をサンプルとして採取し、構造観察や成分分析等に基づいて、焼成条件を調整することが実施されている。クリンカの焼成条件の調整方法としては、例えば、評価担当者が生成されたクリンカに含まれる特定の結晶を観察し、当該結晶の特徴に基づいて、焼成プロセスにおける昇温速度や、高温を維持する時間を調整する方法が提案されている(下記特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の方法は、評価担当者がクリンカを粉砕して得られた粒体を観察し、特定の結晶の形状やサイズに基づいて、クリンカの焼成条件を調整する方法である。しかしながら、このように評価担当者が評価対象物を観察し、個々の判断基準で評価するような方法では、観測対象とする結晶の選別から品質評価に至るまで、高度な知識と十分な経験が求められる。
【0006】
また、上記特許文献1に記載の方法では、評価対象として適切な粒体サンプルの取得に膨大な時間を要してしまう場合が多い。評価に用いられる粒体サンプルは、ディスクミル等を用いて粉砕されたクリンカから採取されるが、取得した量が数mg程度であったとしても、膨大な量の粒体が含まれる。このため、従来の方法には、サンプルから評価に適した状態の所望の結晶を見つけ出すことに、多大な労力と時間がかかるといった事情も存在する。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、より早く、かつ、より確実に評価に適した粒体が撮影された画像データを取得できる粒体選別方法を提供することを目的とする。また、担当者ごとにバラつくことがない、品質評価方法、焼成プロセス制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の粒体選別方法は、
粉砕したクリンカ、又はセメント粒子群に含まれる粒体の一部を粒体試料として採取し、所定の溶媒と混合して懸濁液を作製する工程(a)と、
前記懸濁液を所定の流路内に流し込み、前記流路内を通流している前記懸濁液を撮影して選別用画像データを取得する工程(b)と、
粉砕されたクリンカ、又はセメント粒子群より選別基準用に抽出した第一基準粒体を撮影して取得した第一学習用画像データと、前記第一基準粒体の選別の基準となる特徴パラメータとが関連付けられた第一学習用入力データに基づく機械学習により生成した第一学習済みモデルに、前記選別用画像データを適用して、撮影された粒体の種別に応じて前記選別用画像データを選別する工程(c)とを含むことを特徴とする。
【0009】
本明細書において、「画像データ」とは、静止画像データ、及び動画像データを含む意図で用いられる。また、動画像データは、所定のフレームレートで取得された画像データの集合であり、動画像データの一コマを切り出せば静止画像データが取得できることから、静止画像データと動画像データとをまとめて「画像データ」という。
【0010】
選別用画像データは、カメラや、ビデオカメラ等によって流路内を通流する懸濁液を撮影することで取得されるが、取得された画像データそのままであってもよく、取得した画像データから一部の領域を切り出した画像データであっても構わない。
【0011】
また、本明細書において、「特徴パラメータ」とは、粒体の形状や大きさ、透光率や屈折率等の、粒体の外観上の特徴に関するパラメータである。
【0012】
流路を通流する懸濁液を撮影することで、懸濁液に含まれる粒体、すなわち、粉砕したクリンカ、又はセメント粒子群に含まれる個々の粒体が写り込んだ画像データを、従来よりも短時間で大量に取得することができる。そして、取得した大量の画像データは、第一学習済みモデルに適用されて、自動的に選別される。
【0013】
したがって、上記選別方法によれば、粒子群に含まれる粒体を個々に撮影した画像データを、迅速かつ大量に取得することができる。さらに、上記選別方法は、取得した大量のデータを所定の条件に基づいて自動的に選別することができ、大量の画像データの中から所望の画像データを従来よりも迅速に抽出することができる。
【0014】
上記粒体選別方法において、
前記工程(a)は、前記粒体試料と、屈折率が1.65以上1.75以下である溶媒とを混合し、前記懸濁液を作製する工程であっても構わない。なお、溶媒の屈折率は、公知の屈折計(例えばアッベ屈折計等)を用いて測定された値を採用することが可能である。
【0015】
さらに、上記粒体選別方法は、
前記第一基準粒体の特徴パラメータがエーライト結晶及びビーライト結晶を選別するための特徴パラメータを含んでおり、
前記工程(c)は、少なくとも前記選別用画像データが、エーライト結晶又はビーライト結晶が撮影された画像データであるか否かを選別する工程であっても構わない。
【0016】
また、上記粒体選別方法において、
前記工程(b)は、偏光顕微鏡を用いて前記選別用画像データを取得する工程であっても構わない。
【0017】
クリンカには、エーライトとも称されるけい酸三カルシウム(3CaO・SiO2)や、ビーライトとも称されるけい酸二カルシウム(2CaO・SiO2)といった化合物が含まれる。これらの化合物は、粉砕された後の粒体の状態や含有率が、セメントの水和反応の速度や強度発現時期等に影響することが知られている。このため、粉砕したクリンカに含まれる上記化合物の結晶を撮影し、当該結晶の形状やサイズを観察することで、セメントの品質を評価することができる。
【0018】
このうち、ビーライトは、エーライトに比べて高い硬度を示す化合物であるため、粉砕したクリンカからある程度の大きさを維持した状態で、かつ、他の化合物がほとんど結合していない単一相の結晶として残存しやすい。つまり、ビーライトは、理想的な結晶状態の試料粒体として抽出されやすいため、安定した品質予測に好適な化合物といえる。
【0019】
また、ビーライトは、特にセメントの長期強度に寄与することが知られており、粉砕したクリンカに含まれるビーライト結晶を観察することで、セメントの長期強度を推定することができる。
【0020】
また、上述したようなエーライトやビーライトといった化合物は、液体である溶媒と混合して懸濁液を作製すると、溶媒によって混濁液中における結晶の見え方が変化する複屈折性を有する。このような見え方の変化は、溶媒の屈折率と結晶の屈折率との関係に影響される。
【0021】
上述した溶媒の屈折率の範囲は、懸濁液に含まれるエーライト結晶及びビーライト結晶が特に確認しやすくなる溶媒の屈折率の範囲である。
【0022】
また、粒体の形状をより鮮明に撮影するために顕微鏡を用いることができるが、懸濁液の複屈折性を考慮するには、偏光顕微鏡を用いることが好ましい。
【0023】
本発明の品質評価方法は、
クリンカ、又はセメントの品質を評価する方法であって
上記粒体選別方法と、
前記工程(c)において選別された前記選別用画像データに基づいて、クリンカ、又はセメントの品質を評価する工程(d)とを含むことを特徴とする品質評価方法。
【0024】
上記品質評価方法において、
前記工程(d)は、前記粒体試料の特徴パラメータに基づいて、前記粒体試料が採取されたクリンカ、又はセメントにより生成されるセメントの強度を推定評価する工程であっても構わない。
【0025】
上記品質評価方法において、
前記工程(d)は、粉砕したクリンカ、又はセメント粒子群より評価基準用に抽出した第二基準粒体を撮影して取得した第二学習用画像データと、前記第二基準粒体が取得されたクリンカ、又はセメント粒子群の品質関連情報とが関連付けられた第二学習用入力データに基づく機械学習により生成された第二学習済みモデルに、前記工程(c)において選別された前記選別用画像データを適用して、クリンカ、又はセメントの品質を評価する工程であっても構わない。
【0026】
本明細書において、「品質関連情報」とは、クリンカ、又はセメントの品質に関する情報である。具体例としては、流動性、水和反応時の発熱量、凝結性、強度発現性である。
【0027】
必ず熟練者が評価を行う場合であっても、製造拠点ごとでそれぞれ異なる評価担当者が評価を行う場合は、評価担当者ごとに判断基準が異なり、評価結果がバラつく懸念が生じる。そこで、上記評価方法によれば、画像データの選別、及び画像データに基づく評価が自動化されるため、従来よりも迅速かつ、バラつきの少ないクリンカ、又はセメントの評価が可能となる。
【0028】
本発明の焼成プロセス制御方法は、
クリンカの焼成プロセスを制御する方法であって、
上記粒体選別方法と、
前記工程(c)において選別された前記選別用画像データに基づいて、クリンカの焼成プロセスの条件を調整する工程(e)とを含むことを特徴とする。
【0029】
上記焼成プロセス制御方法において、
前記工程(e)は、前記粒体試料の特徴パラメータに基づいて、前記粒体試料が採取されたクリンカ、又はセメントにより生成されるセメントの強度を推定評価し、更に当該推定の結果に基づいて、クリンカの焼成プロセスの条件を調整する工程であっても構わない。
【0030】
上記焼成プロセス制御方法において、
前記工程(e)は、粉砕したクリンカ、又はセメント粒子群より評価基準用に抽出した第二基準粒体を撮影して取得した第二学習用画像データと、前記第二基準粒体が取得されたクリンカ、又はセメントの品質関連情報とが関連付けられた第二学習用入力データに基づく機械学習により生成された第二学習済みモデルに、前記工程(c)において選別された前記選別用画像データを適用することで、クリンカ、又はセメントの品質評価結果を取得し、当該品質評価結果に基づいて、クリンカの焼成プロセスの条件を調整する工程であっても構わない。
【0031】
上記制御方法によれば、クリンカの焼成が実施されるたびに、焼成プロセスの条件がフィードバック制御されるため、適宜クリンカの焼成プロセスが自動的に最適な条件へと収束するように調整される。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、より早く、かつ、より確実に評価に適した粒体が撮影された画像データを取得できる粒体選別方法が実現される。また、担当者ごとにバラつくことがない品質評価方法、焼成プロセス制御方法が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】クリンカの焼成プロセス制御システムの全体構成を模式的に示す図面である。
【
図2】粒体試料装置の構成を模式的に示す図面である。
【
図3】制御用端末の構成を模式的に示す図面である。
【
図4】クリンカの焼成プロセス制御システムが実行する各工程の順序の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の粒体選別方法、品質評価方法、焼成プロセス制御方法について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、本発明の粒体選別方法、品質評価方法、焼成プロセス制御方法を説明するための単なる一例を示した図面である。
【0035】
本発明の粒体選別方法は、粉砕されたクリンカ、又はセメントの粒子群から採取したサンプルを撮影し、個々の粒子の選別用画像データを取得して、当該選別用画像データを学習済みモデルによって自動的に選別する方法である。
【0036】
そして、本発明の品質評価方法は、上記粒体選別方法を用いて選別された選別用画像データに基づいて、クリンカ、又はセメントの品質を評価する方法であり、本発明の焼成プロセス制御方法は、上記粒体選別方法を用いて選別された選別用画像データに基づいて、クリンカの焼成プロセスを制御する方法である。
【0037】
なお、選別用画像データが適用される学習済みモデルは、粉砕されたクリンカ、又はセメント粒子群より選別基準用に抽出した第一基準粒体を撮影して取得した第一学習用画像データと、前記第一基準粒体の選別の基準となる特徴パラメータとが関連付けられた第一学習用入力データに基づく機械学習により生成した学習済みモデルであって、第一学習済みモデルに相当する。
【0038】
また、本発明の焼成プロセス制御方法は、本発明の品質評価方法によって得られた品質評価結果に基づいて、クリンカの焼成プロセスを制御する方法であってもよい。
【0039】
まず、本発明において用いられる学習済みモデルを生成するための機械学習について説明する。本発明で用いられる学習済みモデルを生成するための機械学習の方法としては、例えば、ニューラルネットワーク、線形回帰、決定木、サポートベクター回帰、アンサンブル法、サポートベクターマシン、判別分析、単純ベイズ法、最近傍法等が挙げられる。これらの方法は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
これらの方法の中でも、より高い精度で品質を予測することができる観点から、ニューラルネットワークによる機械学習が選択されることが好ましい。ニューラルネットワークは、より高い精度で品質を予測することができる観点から、入力層と出力層の間に一つ以上の中間層を有する階層型のニューラルネットワークが好適である。
【0041】
ニューラルネットワークの例としては、三次元畳み込みニューラルネットワーク(3DCNN:3D Convolutional Neural Network)等の畳み込みニューラルネットワーク(CNN:Convolutional Neural Network)や、深層ニューラルネットワーク(DNN:Deep Neural Network)や、再帰型ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)や、長期・短期記憶(LSTM:Long Short-Term memory)ニューラルネットワーク(LSTMを用いて再帰型ニューラルネットワークを改良したもの)等が挙げられる。
【0042】
これらの中でも、画像認識の分野に優れた性能を有し、時間軸に関する、三次元畳み込みニューラルネットワーク(中間層として、畳み込み層やプーリング層等を有するニューラルネットワーク)がより好適である。三次元畳み込みニューラルネットワークは、異なる時刻に取得された複数の画像データから特徴量(時間変化に伴って変化する特徴量を含む)を検出し、当該特徴量を用いて、分類又は回帰を行うことが可能な第二学習済みモデルを生成することができる。畳み込みニューラルネットワークにおける、畳み込み層とプーリング層の組み合わせからなる層の数は、より高い精度で予測をすることができる観点から、好ましくは二つ以上、より好ましくは三つ以上である。
【0043】
また、機械学習を行うためのツールとしては、例えば、Google社が開発したソフトウェアライブラリである「TensorFlow(登録商標)」や、IBM社が開発したシステムである「IBM Watson(登録商標)」等を用いることができる。
【0044】
次に、本発明の焼成プロセス制御方法の一実施形態につき、当該方法を実施するための一実施態様例としての焼成プロセス制御システム1によって説明する。
【0045】
[焼成プロセス制御システム]
図1は、クリンカの焼成プロセス制御システム1の全体構成を模式的に示す図面である。また、
図2は、試料撮影装置4の構成を模式的に示す図面であり、
図3は、制御用端末5の構成を模式的に示す図面である。
図1に示すように、本実施形態におけるクリンカの焼成プロセス制御システム1は、ロータリキルン2と、ディスクミル3と、試料撮影装置4と、制御用端末5により構成されている。
【0046】
ロータリキルン2は、制御用端末5によって設定された焼成条件に基づいて、投入された原材料を焼成し、クリンカ10を生成する。
【0047】
ディスクミル3は、ロータリキルン2で生成されたクリンカ10が投入され、クリンカ10を粉砕する。
【0048】
ディスクミル3によって粒体状に粉砕されたクリンカ10の一部は、粒体試料20として溶媒31と混合される。粒体試料20と溶媒31との混合溶液である懸濁液30は、試料撮影装置4に適用される。なお、懸濁液30は、例えば、1mgの粒体試料20と、1mlの溶媒31とを混合して作製される。
【0049】
ここで、本実施形態における溶媒31は、屈折率が1.65以上1.75以下の液体である。所望の屈折率の溶媒は、ブロモホルム、ジョードメタン等の溶媒を混合して得ることが出来る。
【0050】
試料撮影装置4は、
図2に示すように、内側を懸濁液30が通流する流路40と、流路40を通流する懸濁液30を撮影するカメラ41と、撮影視野の輝度を確保するための光源42aと、複屈折性を観察可能にするための、光源42aと流路40の間にある第一偏光板42b及びカメラ41と対物レンズ42dの間にある第二偏光板42cと、流路40の内部の粒体試料20を拡大表示するための対物レンズ42dと、カメラ41が撮影して取得した選別用画像データd1を格納するメモリ43とを備える。ここで、撮影には試料撮影装置4から偏光板(42b,42c)を取り除いたような構造の任意の光学顕微鏡を用いても構わないが、懸濁液30の複屈折性の影響に鑑みると、試料撮影装置4のような構造の偏光顕微鏡を用いることが好ましい。
【0051】
試料撮影装置4は、カメラ41が流路40内を通流する懸濁液30を撮影し、個々の粒体試料20が写り込んだ選別用画像データd1を取得する。そして、カメラ41が取得した選別用画像データd1は、メモリ43に格納される。
【0052】
試料撮影装置4は、例えば、フローイメージング顕微鏡 FlowCam 8100(横河電機株式会社製)を採用し得る。
【0053】
なお、本実施形態における試料撮影装置4では、懸濁液30を0.03ml/分の流速で流路40内を通流させ、20分~30分の間に懸濁液30の一サンプルから約100,000枚程度の選別用画像データd1を取得する。
【0054】
別の方法として、試料撮影装置4に粒子フィルタ機能が搭載されている場合には、同機能を利用して、懸濁液30の一サンプルから約2,000枚程度にまで選別した、選別用画像データd1を取得してもよい。ここでいう「粒子フィルタ機能」とは、Circularity(円形度)、Diameter(直径)等の、粒子としてパラメータを設定することにより、多数の画像から目的と合致しない画像を保存対象から外す機能をいう。
【0055】
制御用端末5は、
図3に示すように、表示部50と、演算処理部51と、記憶部52とを備える。制御用端末5の記憶部52には、第一学習済みモデルM1と第二学習済みモデルM2が格納されている。制御用端末5は、試料撮影装置4から選別用画像データd1の入力を受け付けると、演算処理部51が選別用画像データd1を第一学習済みモデルM1に適用する。
【0056】
そして、演算処理部51は、第一学習済みモデルM1から出力された、選別された画像データを第二学習済みモデルM2に適用する。その後、演算処理部51は、第二学習済みモデルM2から出力されたクリンカの焼成プロセスの設定データに基づいて、ロータリキルン2の設定を調整する。
【0057】
本実施形態における第一学習済みモデルM1は、粉砕されたクリンカより選別基準用に抽出した第一基準粒体を撮影して取得した第一学習用画像データと、第一基準粒体の選別の基準となる特徴パラメータとが関連付けられた第一学習用入力データに基づく機械学習により生成された学習済みモデルである。
【0058】
つまり、第一学習済みモデルM1は、選別用画像データd1が適用されると、写り込んだ粒体の種別を判定し、当該選別用画像データを自動的に選別する学習済みモデルである。
【0059】
本実施形態における第二学習済みモデルM2は、粉砕したクリンカより評価基準用に抽出した第二基準粒体を撮影して取得した第二学習用画像データと、第二基準粒体が取得されたクリンカの品質関連情報とが関連付けられた第二学習用入力データに基づく機械学習により生成された学習済みモデルである。
【0060】
つまり、第二学習済みモデルM2は、第一学習済みモデルM1によって選別された画像データが適用されると、写り込んだ粒体の形状やサイズ等の特徴パラメータを分析し、クリンカの焼成プロセスの設定データを出力する学習済みモデルである。
【0061】
なお、第一基準粒体及び第二基準粒体は、任意の粒体を選択することができ、一種又は複数種の粒体を選択することもできるが、本実施形態における第一基準粒体及び第二基準粒体は、いずれも、エーライト結晶とビーライト結晶とした。ここで、第一基準粒体及び第二基準粒体は、傷や変形が生じていない状態、かつ、できる限り他の化合物が結合していない状態の結晶が抽出されることが好ましい。
【0062】
ここで、エーライト結晶及びビーライト結晶を主な撮影対象とする場合、結晶をより鮮明に撮影できるように、溶媒31の屈折率は、1.65以上1.75以下の範囲内であることが好ましく、1.69以上1.71以下の範囲内であることがより好ましい。ただし、溶媒31の屈折率は、撮影対象となる結晶に好適な範囲とすればよく、上記の範囲外であってもよい。
【0063】
[焼成プロセス制御方法]
次に、本発明の焼成プロセス制御方法につき、
図4に示すフローチャートに沿って説明する。
【0064】
最初に、ロータリキルン2で生成されて取り出されたクリンカ10の一部が、サンプルとして分取される(ステップS1)。
【0065】
サンプルとして分取されたクリンカ10は、ディスクミル3にて粉砕される(ステップS2)。
【0066】
粉砕されたクリンカ10の一部が、粒体試料20として取得される(ステップS3)。
【0067】
粒体試料20と溶媒31とが混合されて、懸濁液30が作製される(ステップS4)。このステップS4が、工程(a)に相当する。
【0068】
懸濁液30が試料撮影装置4に適用されて、選別用画像データd1が取得される(ステップS5)。このステップS5が、工程(b)に相当する。
【0069】
試料撮影装置4が取得した選別用画像データd1が、制御用端末5に入力されて、第一学習済みモデルM1に適用されて選別される(ステップS6)。なお、本実施形態では、選別用画像データd1は、エーライト結晶が写り込んでいる画像データの抽出(ステップS7)と、ビーライト結晶が写り込んでいる画像データの抽出(ステップS8)が、第一学習済みモデルM1によって実行される。このステップS6からステップS8までが、工程(c)に相当する。
【0070】
エーライト結晶が写り込んでいる画像データと、ビーライト結晶が写り込んでいる画像データとに選別された画像データは、第二学習済みモデルM2に適用されて、粒体試料20を取得したサンプルから生成されるセメントの品質を評価する(ステップS9)。
【0071】
なお、本実施形態においては、第二学習済みモデルM2が、当該セメントにより作製されるコンクリートの発現強度を推定評価し、当該推定評価結果に基づいて、焼成プロセスの焼成条件を導出するが、評価する特性、及び焼成条件を導出する特性は、発現強度以外の特性であっても構わない。
【0072】
第二学習済みモデルM2は、更に当該推定評価結果に基づいて、焼成プロセスの焼成条件に関するデータを出力する。そして、制御用端末5は、当該データに基づいて、ロータリキルン2での焼成条件を調整する(ステップS10)。ステップS9及びステップS10の一連の工程は、工程(e)に相当する。
【0073】
ステップS10が実行された後は、次のクリンカの生成工程が行われる度に、ステップS1からステップS10までの工程が繰り返される。
【0074】
上述の各工程が繰り返されることで、生成されるクリンカの特性が所望の特性へと近づくように、クリンカの焼成プロセスにおける焼成条件が自動的に調整される。つまり、より早く、かつ、より確実に評価に適した粒体が撮影された画像データを取得でき、かつ、担当者ごとにバラつくことがない焼成プロセス制御が実現される。
【0075】
上述した焼成プロセス制御システム1は、クリンカを生成するごとにステップS1からステップS10までの工程を実行して、焼成プロセスの制御を行うシステムとして説明されているが、生成したクリンカの品質評価のために使用することができる。
【0076】
例えば、第二学習済みモデルM2は、生成したクリンカの品質評価に関するデータを出力する学習済みモデルであって、制御用端末5は、品質評価結果を表示部50に表示することで一連の工程が完了するように構成されていても構わない。このような場合は、上述したステップS9が、工程(d)に相当する。
【0077】
なお、上述したステップS9及びステップS10は、第二学習済みモデルM2を用いることなく、予め制御用端末5の記憶部52に格納されている、粒体の特徴パラメータと、クリンカの品質情報とが関連付けられたテーブルに基づいて、品質評価結果、又は焼成プロセスの制御条件を出力するように行われても構わない。
【0078】
また、上述したステップS4からステップS6までの工程、すなわち、粒体選別方法は、クリンカ、又はセメントの品質評価や、クリンカの焼成プロセス制御の他に、例えば、クリンカを、石膏及び所定の少量混合材と共に混合粉砕する工程(セメントの仕上げプロセス)の制御等に適用することができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例として、上述した方法を用いて、セメント試料からビーライト粒子を選別した結果について、説明する。ただし、本発明はこの実施例に制限されるものではない。
【0080】
粉体試料20として、異なる3種類のセメント試料を準備し、それぞれを水準1~水準3とした。詳細には、普通セメント(太平洋セメント社製)を粉体試料20としたものを水準1、中庸熱セメント(太平洋セメント社製)を粉体試料20としたものを水準2、低熱セメント(太平洋セメント社製)を粉体試料20としたものを水準3とした。
【0081】
溶媒31として、ブロモホルム(富士フィルム和光純薬社製)とジヨードメタン(関東化学社製)とを比率1:3で混合して得られた、混合溶液を準備した。得られた混合溶液の屈折率は、アッベ屈折計(アタゴ社製NAR-4T)で計測すると、1.70であった。
【0082】
水準別に、1mgの粉体試料20と5mLの溶媒31とを混合して、懸濁液30を作製した。得られた懸濁液30を、流速0.03mL/分で30分間にわたって通流させながら、フローイメージング顕微鏡(横河電機社製 FlowCam8100)によって撮影することで、選別用画像データd1を多数取得した。
【0083】
得られた選別用画像データd1を、第一学習済みモデルM1が記録された演算処理部51に導入し、目的とするビーライト粒子を選別した。結果を表1に示す。なお、表1における「正解率」とは、演算処理部51によってビーライトとして抽出された画像データの全てを熟練した作業員が確認した上で、抽出された画像データ数に対する、同作業員がビーライトであると判断した割合に対応する。ここでいう、熟練した作業員とは、例えば特許文献1で記載されている「エキスパート」であり、鉱物結晶の知識を備え、顕微鏡観察に関する視覚的感覚に優れ、分析機の経験を積んだ専門家である。
【0084】
【0085】
表1の結果によれば、上述した方法を用いてセメント粒子からビーライト粒子を極めて高い精度で選別することができた。
【符号の説明】
【0086】
1 : 焼成プロセス制御システム
2 : ロータリキルン
3 : ディスクミル
4 : 試料撮影装置
5 : 制御用端末
10 : クリンカ
20 : 粒体試料
30 : 懸濁液
31 : 溶媒
40 : 流路
41 : カメラ
42a : 光源
42b : 第一偏光版
42c : 第二偏光板
42d : 対物レンズ
43 : メモリ
50 : 表示部
51 : 演算処理部
52 : 記憶部
M1 : 第一学習済みモデル
M2 : 第二学習済みモデル
【要約】
より早く、かつ、より確実に評価に適した粒体が撮影された画像データを取得できる粒体選別方法を提供する。
粉砕したクリンカ、又はセメント粒子群に含まれる粒体の一部を粒体試料として採取し、所定の溶媒と混合して懸濁液を作製する工程(a)と、懸濁液を所定の流路内に流し込み、流路内を通流している懸濁液を撮影して選別用画像データを取得する工程(b)と、粉砕されたクリンカ、又はセメント粒子群より選別基準用に抽出した第一基準粒体を撮影して取得した第一学習用画像データと、第一基準粒体の選別の基準となる特徴パラメータとが関連付けられた第一学習用入力データに基づく機械学習により生成した第一学習済みモデルに、選別用画像データを適用して、撮影された粒体の種別に応じて選別用画像データを選別する工程(c)とを含む。