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特許7570583レーダ画像処理装置、レーダ画像処理方法、およびレーダ画像処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-10
(45)【発行日】2024-10-21
(54)【発明の名称】レーダ画像処理装置、レーダ画像処理方法、およびレーダ画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/90 20060101AFI20241011BHJP
【FI】
G01S13/90 191
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024550129
(86)(22)【出願日】2022-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2022043434
【審査請求日】2024-08-23
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅原 麻由
(72)【発明者】
【氏名】土田 正芳
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/176016(WO,A1)
【文献】特開2011-208974(JP,A)
【文献】国際公開第2015/008554(WO,A1)
【文献】特開2011-112630(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0033549(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0179790(US,A1)
【文献】YANG, Huizhang et. al,BSF: Block Subspace Filter for Removing Narrowband and Wideband Radio Interference Artifacts in Single-Look Complex SAR Images,IEEE Transactions on Geoscience and Remote Sensing,米国,IEEE,2021年07月29日,Volume: 60,インターネット: <URL: https://ieeexplore.ieee.org/stamp/stamp.jsp?tp=&arnumber=9501944><DOI: 10.1109/TGRS.2021.3096538>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
13/00 - 17/95
G06T 1/00 - 1/40
3/00 - 5/50
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーダ画像を取得し、取得されたレーダ画像から、アーチファクト源をマスクする第1のマスクフィルタと、前記アーチファクト源の信号を保持する復元フィルタとを作成するマスク作成部と、
前記取得されたレーダ画像に、前記第1のマスクフィルタを適用して、マスクレーダ画像を生成するマスク適用部と、
その作成されたマスクレーダ画像に対して虚像を抑圧する処理を行って、虚像抑圧レーダ画像を生成する虚像抑圧処理部と、
その作成された復元フィルタと、その生成された虚像抑圧レーダ画像とを合成して、再構成レーダ画像を生成するマスク復元部と、
を備えるレーダ画像処理装置。
【請求項2】
前記アーチファクト源は前記レーダ画像において予め定められたしきい値以上の振幅または電力を有する領域である、
請求項1に記載されたレーダ画像処理装置。
【請求項3】
前記アーチファクト源は、前記レーダ画像に虚像抑圧処理を行った場合にアーチファクトが発生するアーチファクト発生領域である、
請求項1に記載されたレーダ画像処理装置。
【請求項4】
前記マスクフィルタは複数の領域を備え、各領域はフィルタ係数が0から1の範囲の値を有する多値フィルタである、
請求項1に記載されたレーダ画像処理装置。
【請求項5】
前記マスクフィルタは複数の領域を備え、各領域はフィルタ係数が0または1の値を有する2値フィルタである、
請求項1に記載されたレーダ画像処理装置。
【請求項6】
前記レーダ画像において虚像が存在する虚像領域を探索する虚像探索部と、
前記アーチファクト源がその探索された虚像領域内に位置する場合に、前記探索された虚像領域内に位置するアーチファクト源をマスクしないように、前記作成されたマスクフィルタによりマスクされる領域を変更して第2のマスクフィルタを作成するマスク再作成部と、
を更に備え、
前記マスク適用部は、前記第1のマスクフィルタに代えて、前記第2のマスクフィルタを適用する、
請求項1から5のいずれか1項に記載されたレーダ画像処理装置。
【請求項7】
前記虚像探索部は、前記レーダ画像と、前記レーダ画像が分解能セル以上ずれたレーダ画像とのコヒーレンスの値に基づいて前記虚像領域を探索する、
請求項6に記載されたレーダ画像処理装置。
【請求項8】
前記虚像探索部は、前記レーダ画像に虚像抑圧処理を行った場合に信号が抑圧される領域を前記虚像領域として探索する、
請求項6に記載されたレーダ画像処理装置。
【請求項9】
マスク作成部と、マスク適用部と、虚像抑圧処理部と、マスク復元部とを備えるレーダ画像処理装置が行うレーダ画像処理方法であって、
前記マスク作成部が、レーダ画像を取得し、取得されたレーダ画像から、アーチファクト源をマスクする第1のマスクフィルタと、前記アーチファクト源の信号を保持する復元フィルタとを作成するステップと、
前記マスク適用部が、前記取得されたレーダ画像に、前記第1のマスクフィルタを適用して、マスクレーダ画像を生成するステップと、
前記虚像抑圧処理部が、その作成されたマスクレーダ画像に対して虚像を抑圧する処理を行って、虚像抑圧レーダ画像を生成するステップと、
前記マスク復元部が、その作成された復元フィルタと、その生成された虚像抑圧レーダ画像とを合成して、再構成レーダ画像を生成するステップと、
を備えるレーダ画像処理方法。
【請求項10】
レーダ画像を取得し、取得されたレーダ画像から、アーチファクト源をマスクする第1のマスクフィルタと、前記アーチファクト源の信号を保持する復元フィルタとを作成するマスク作成機能と、
前記取得されたレーダ画像に、前記第1のマスクフィルタを適用して、マスクレーダ画像を生成するマスク適用機能と、
その作成されたマスクレーダ画像に対して虚像を抑圧する処理を行って、虚像抑圧レーダ画像を生成する虚像抑圧処理機能と、
その作成された復元フィルタと、その生成された虚像抑圧レーダ画像とを合成して、再構成レーダ画像を生成するマスク復元機能と、
をコンピュータに実行させるレーダ画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーダ画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)画像には虚像が生じる場合がある。虚像は、ある観測タイミングにおける観測領域の外にある散乱体からの受信信号により生じる像である。虚像の例には、アジマスアンビギュイティおよびレンジアンビギュイティがある。アジマスアンビギュイティは、観測パルス繰り返し周波数(Pulse Repetition Frequency,PRF)を超えたドップラー周波数を有する信号により生じる。レンジアンビギュイティは、パルス繰返し周期(PRI:Pulse Repetition Interval)内に、観測領域外の散乱体からの反射波を受信することにより生じる。
【0003】
従来、虚像を検出して、検出した虚像を抑圧する技術が存する。例えば、特許文献1には、ある観測タイミングにおける本来の画像化の領域外(観測領域外)に焦点を合わせて結像することで虚像を検出し、検出した虚像の存在する画素の値を0に置き換えることで虚像を抑圧する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/176016号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術によれば、虚像を抑圧する処理により虚像だけでなく真の像の信号成分も抑圧し、真の像の分解能が劣化するとともに、アーチファクトが発生する場合があるという課題がある。
【0006】
本開示はこのような課題を解決するためになされたものであり、SAR画像に対して行われる虚像抑圧処理に伴って生じる分解能劣化およびアーチファクトを抑制できるレーダ画像処理技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の実施形態によるレーダ画像処理装置の一側面は、レーダ画像を取得し、取得されたレーダ画像から、アーチファクト源をマスクする第1のマスクフィルタと、前記アーチファクト源の信号を保持する復元フィルタとを作成するマスク作成部と、前記取得されたレーダ画像に、前記第1のマスクフィルタを適用して、マスクレーダ画像を生成するマスク適用部と、その作成されたマスクレーダ画像に対して虚像を抑圧する処理を行って、虚像抑圧レーダ画像を生成する虚像抑圧処理部と、その作成された復元フィルタと、その生成された虚像抑圧レーダ画像とを合成して、再構成レーダ画像を生成するマスク復元部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本開示の実施形態によるレーダ画像処理装置によれば、SAR画像に対して行われる虚像抑圧処理に伴って生じる分解能劣化およびアーチファクトを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態1および実施の形態2によるレーダ画像処理装置を含むレーダ画像処理システムの構成例を示す図である。
図2A】実施の形態1および実施の形態2によるレーダ画像処理装置のハードウェアの構成例を示す図である。
図2B】実施の形態1および実施の形態2によるレーダ画像処理装置のハードウェアの構成例を示す図である。
図3A】実施の形態1によるマスクフィルタおよび復元フィルタの作成方法を示す図である。
図3B】実施の形態1および実施の形態2によるマスクフィルタおよび復元フィルタを用いたレーダ画像処理方法の概略を示す図である。
図4】実施の形態1によるレーダ画像処理方法のフローチャートである。
図5】従来技術によるレーダ画像処理装置の動作を説明するための図である。
図6】実施の形態1および実施の形態2によるレーダ画像処理装置の動作を説明するための図である。
図7】実施の形態2によるレーダ画像処理装置のマスク処理部の構成例を示す図である。
図8】実施の形態2によるマスクフィルタおよび復元フィルタの作成方法を示す図である。
図9】実施の形態2によるマスク処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照して、本開示における種々の実施形態について詳細に説明する。なお、図面において同一または類似の符号を付された構成要素は、同一または類似の構成または機能を有するものであり、そのような構成要素についての重複する説明は省略する。
【0011】
実施の形態1.
<構成>
図1から図3を参照して、本開示の実施の形態1によるレーダ画像処理装置2の構成について説明する。図1は、実施の形態1によるレーダ画像処理装置2を含むレーダ画像処理システムの構成例を示す図である。図1に示されているように、レーダ画像処理システムは、記憶装置1とレーダ画像処理装置2を備える。記憶装置1は、レーダ画像処理装置2により画像処理されるSAR画像(以下、単に「レーダ画像」と称する場合がある。)を記憶する記憶部11と、レーダ画像処理装置2により画像処理されたレーダ画像を記憶する記憶部12とを備える。
【0012】
(レーダ画像処理装置)
図1に示されているように、レーダ画像処理装置2は、マスク処理部21、虚像抑圧処理部22、およびマスク復元部23を備える。マスク処理部21はマスク処理を行う機能部であり、マスク作成部211およびマスク適用部212を備える。マスク処理には、マスクフィルタおよび復元フィルタの作成、並びにマスクフィルタの適用が含まれる。虚像抑圧処理部22は、リフォーカス部221、虚像判定部222、および虚像抑圧部223を備える。
【0013】
(マスク作成部)
マスク作成部211は、記憶装置1の記憶部11からレーダ画像を取得し、取得したレーダ画像からマスクフィルタおよび復元フィルタを作成する。図3Aは、マスク作成部211が、取得したレーダ画像からマスクフィルタおよび復元フィルタを作成する様子を示している。
【0014】
マスクフィルタは、レーダ画像内のアーチファクト源を含む領域(以下、「マスク領域」と称する。)の信号をマスクするためのフィルタである。一例として、マスク領域は、レーダ画像のうち、信号の振幅または電力が予め定められたしきい値以上の領域である。しきい値は、マニュアルで定められてもよいし、レーダ画像における最大の振幅または電力の定数倍としてマスク作成部211が設定してもよいし、パラメータスタディに基づいてマスク作成部211が自動で設定してもよい。
【0015】
他の例として、マスク領域は、レーダ画像に対して虚像抑圧処理を行った場合にアーチファクトが発生するアーチファクト発生領域であってもよい。このようなアーチファクト発生領域は、レーダ画像と、レーダ画像に対して虚像抑圧処理を実施したレーダ画像とを比較して、虚像抑圧処理を実施したレーダ画像において振幅または電力が増加した領域として画定することができる。アーチファクトは真の像の信号が欠損することにより生じるので、アーチファクト発生領域は虚像抑圧処理を実施する前のレーダ画像における真の像の位置と重なるように発生することがある。そこで、虚像抑圧処理を実施したレーダ画像におけるアーチファクト発生領域に対応する元のレーダ画像における領域をマスクしてもよい。
【0016】
マスクフィルタは、一例として、マスク領域のフィルタ係数が0であり、マスク領域以外の非マスク領域のフィルタ係数が1である2値フィルタである。図3Aに図示されたマスクフィルタにおいて、黒丸で示された領域はフィルタ係数の値が0のマスク領域であり、白色で示された広い領域はフィルタ係数の値が1の非マスク領域を示す。他の例として、マスクフィルタは、マスク領域の中心のフィルタ係数の値が0であり、非マスク領域のフィルタ係数の値が1であり、マスク領域の中心と非マスク領域の間にある領域のフィルタ係数の値が0より大きく1未満の範囲の値である多値フィルタであってもよい。このような多値フィルタは、例えばモルフォロジ膨張処理により作成することができる。
【0017】
復元フィルタは、アーチファクト源の信号を保持するフィルタである。図3Aに図示された復元フィルタにおいて、白丸で示された領域は、マスク領域に相当する領域であり、レーダ画像におけるアーチファクト源の信号のデータを保持する。図3Aに図示された復元フィルタにおいて、黒色で示された広い領域は値が0の領域である。
【0018】
マスク作成部211は、一例として、作成したマスクフィルタをマスク適用部212へ出力する。マスク作成部211は、一例として、作成したマスクフィルタとともに、取得したレーダ画像もマスク適用部212へ出力してもよい。また、マスク作成部211は、作成した復元フィルタをマスク復元部23へ出力する。
【0019】
なお、レーダ画像処理装置2の機能部間でのデータの授受は、図示した機能部間で直接行うのでなく、不図示の制御部を介して行ってもよい。以下、同様である。
【0020】
(マスク適用部)
マスク適用部212は、一例として、マスク作成部211からレーダ画像を取得する。また、マスク適用部212は、マスク作成部211により作成されたマスクフィルタを取得する。マスク適用部212は、取得したレーダ画像に対して取得したマスクフィルタを適用して、マスクフィルタが適用されたレーダ画像であるマスクレーダ画像を生成する。
【0021】
図3Bの上半分は、マスク適用部212が、マスクレーダ画像を生成する様子を示している。マスク適用部212は、取得したレーダ画像に、取得したマスクフィルタを乗算することでマスクレーダ画像を生成する。
【0022】
マスク適用部212は、マスクレーダ画像を虚像抑圧処理部22へ出力する。
【0023】
(虚像抑圧処理部)
虚像抑圧処理部22は、マスクレーダ画像を取得し、取得したマスクレーダ画像に対して虚像抑圧処理を行って、虚像が抑圧されたマスクレーダ画像である虚像抑圧レーダ画像を生成する。虚像抑圧処理部22は、一例として、特許文献1に従って虚像抑圧処理を行う。虚像抑圧処理部22は、虚像抑圧処理を行うために、リフォーカス部221、虚像判定部222、および虚像抑圧部223を備える。
【0024】
(リフォーカス部)
リフォーカス部221は、マスクレーダ画像について、焦点をリフォーカスしてリフォーカスレーダ画像を生成する。より具体的には、リフォーカス部221は、本来の画像化の領域外に焦点を合わせることで、リフォーカスレーダ画像を生成する。本来の画像化の領域に焦点が合ったマスクレーダ画像においては、その領域が結像するが、虚像はぼけている。一方、本来の画像化の領域外に焦点が合ったレーダ画像では、虚像に焦点が合っている場合は虚像が明確となり、本来の画像化の領域で結像していた真の像はぼけることとなる。
【0025】
(虚像判定部)
虚像判定部222は、リフォーカスレーダ画像に虚像が含まれているかを判定する。例えば、虚像判定部222は、予め定められたしきい値以上の電力を有する像が検出された場合に虚像ありと判定する。虚像ありと判定した場合、虚像判定部222は、虚像が存在すると判定した画素の位置情報およびリフォーカスレーダ画像を出力する。
【0026】
(虚像抑圧部)
虚像抑圧部223は、リフォーカスレーダ画像に含まれる虚像を抑圧する。例えば、虚像抑圧部223は、リフォーカスレーダ画像において、虚像判定部222により虚像ありと判定された画素の値を0にする。虚像抑圧部223は、虚像を抑圧した虚像抑圧レーダ画像をリフォーカス部221へ出力する。
【0027】
虚像抑圧レーダ画像について、リフォーカス部221は更にリフォーカスし、虚像判定部222は既に抑圧された虚像とは異なる虚像の有無を判定し、虚像抑圧部223は新たに検出された虚像を抑圧する。このようにして、マスクレーダ画像に含まれる1または2以上の虚像が抑圧される。リフォーカス部221によるリフォーカスが終了した場合、リフォーカス部221は、焦点を本来の画像化の領域に戻して、最終的に得られた虚像抑圧レーダ画像(以下、単に「虚像抑圧レーダ画像」と称する。)をマスク復元部23へ出力する。
【0028】
(マスク復元部)
マスク復元部23は、復元フィルタおよび虚像抑圧レーダ画像を取得し、取得した虚像抑圧レーダ画像に復元フィルタを適用して、再構成レーダ画像を生成する。マスク復元部23は、生成した再構成レーダ画像を記憶装置1の記憶部12へ出力する。
【0029】
図3Bの下半分は、マスク復元部23が、再構成レーダ画像を生成する様子を示している。マスク復元部23は、取得した虚像抑圧レーダ画像に、復元フィルタを加算して、再構成レーダ画像を生成する。
【0030】
次に、図2Aおよび図2Bを参照して、レーダ画像処理装置2のハードウェアの構成例について説明する。レーダ画像処理装置2は、処理回路(processing circuitry)により実現される。処理回路(processing circuitry)は、図2Aに示されているような専用の処理回路(processing circuit)100aであっても、図2Bに示されているようなメモリ100cに格納されるプログラムを実行するプロセッサ100bを備えたコンピュータであってもよい。
【0031】
処理回路(processing circuitry)が専用の処理回路100aである場合、専用の処理回路100aは、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(application specific integrated circuit)、FPGA(field-programmable gate array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。レーダ画像処理装置2の各機能部を別個の複数の処理回路(processing circuits)で実現してもよいし、複数の機能部をまとめて単一の処理回路(processing circuit)で実現してもよい。
【0032】
処理回路(processing circuitry)がプロセッサ100bの場合、レーダ画像処理装置2は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ100cに格納される。プロセッサ100bは、メモリ100cに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、レーダ画像処理装置2の各機能部を実現する。すなわち、メモリ100cに記憶されたプログラムは、マスク作成部211が行うマスク作成機能、マスク適用部212が行うマスク適用機能、虚像抑圧処理部22が行う虚像抑圧処理機能、およびマスク復元部23が行うマスク復元機能を記述するプログラムである。なお、メモリ100cに記憶されたプログラムは、後述の虚像探索部21M1が行う虚像探索機能、および後述のマスク再作成部21M2が行うマスク再作成機能を記述していてもよい。メモリ100cの例には、RAM(random access memory)、ROM(read-only memory)、フラッシュメモリ、EPROM(erasable programmable read only memory)、EEPROM(electrically erasable programmable read-only memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリや、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVDが含まれる。
【0033】
なお、レーダ画像処理装置2の一部の機能部を専用のハードウェアで実現し、その他の機能部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
【0034】
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0035】
<動作>
次に、以上の構成を備えるレーダ画像処理装置2の動作について、図4から図6を参照して説明する。
【0036】
図4のステップST101において、マスク作成部211は、記憶装置1の記憶部11からレーダ画像を取得し、取得したレーダ画像からマスクフィルタおよび復元フィルタを作成する。
【0037】
ステップST102において、マスク適用部212は、マスク作成部211からレーダ画像および作成されたマスクフィルタを取得し、取得したレーダ画像に対して取得したマスクフィルタを適用してマスクレーダ画像を生成する。
【0038】
ステップST103において、リフォーカス部221は、マスク適用部212により生成されたマスクレーダ画像について、焦点を変更する。より具体的には、リフォーカス部221は、焦点を本来の画像化の領域外に合わせてリフォーカスレーダ画像を生成する。
【0039】
ステップST104において、虚像判定部222はリフォーカスレーダ画像に含まれる虚像を検出し、虚像抑圧部223はリフォーカスレーダ画像に含まれる虚像を抑圧する。
【0040】
ステップST103およびステップST104の処理は、複数回繰り返して、複数の虚像が抑圧されてよい。
【0041】
ステップST105において、リフォーカス部221は、虚像が抑圧された後のレーダ画像について、焦点を本来の画像化の領域に戻し、虚像抑圧レーダ画像を生成する。
【0042】
ステップST106において、マスク復元部23は、マスク作成部211により作成された復元フィルタと、虚像抑圧処理部22により生成された虚像抑圧レーダ画像とを合成して、再構成レーダ画像を生成する。
【0043】
以上のようにして再構成レーダ画像を生成することで、従来技術に伴う課題が解決される。このことを、図5および図6を参照して説明する。図5は、従来技術によるレーダ画像処理装置の動作を示す図である。図6は、本開示のレーダ画像処理装置2の動作を示す図である。図5の(a)~(d)および図6の(a)~(e)の各図において、横軸はアジマス軸またはレンジ軸の距離若しくは時間を表し、縦軸は振幅または電力を表す。
【0044】
図5の(a)は、虚像抑圧処理を行う前の、本来の画像化の領域内に焦点が合ったレーダ画像の例である。図5の(a)には、結像された真の像I1および真の像I2の他、観測領域外の物体による反射波により生じた虚像が示されている。
【0045】
従来技術によれば、図5の(a)のレーダ画像に対して虚像抑圧処理(図5の(b)および(c))を行い、虚像が抑圧されたレーダ画像(図5の(d))を生成する。まず、図5の(b)に示されているように、焦点が本来の画像化の領域から、その領域外へリフォーカスされる。これにより、虚像が結像し、真の像I1およびI2は拡散する。真の像が拡散することで、図5の(b)に示されているように、虚像と拡散された真の像とが重なる場合がある。
【0046】
次に、図5の(c)に示されているように、しきい値処理により虚像が検出され、検出された虚像が抑圧される。虚像を抑圧する際、虚像と拡散された真の像とが重なっているので、真の像の信号も抑圧されることとなる。
【0047】
次に、図5の(d)に示されているように、焦点が本来の画像化の領域に復帰されて、虚像が抑圧されたレーダ画像が得られる。
【0048】
図5の(a)と図5の(d)を対比すると明らかなように、真の像の分解能(3dB分解能)は劣化し、アーチファクトが発生している。これらは何れも、虚像とともに真の像の一部も抑圧したために生じる現象であり、アーチファクトの発生は元の真の像の電力が高い場合に顕著となる。したがって、図5の(d)に示されたアーチファクトは主に真の像I1が抑圧されたことにより生じる。このように、従来技術によれば、虚像抑圧処理を行うと、真の像の分解能が劣化するとともに、アーチファクトが発生する場合があるという課題がある。
【0049】
これに対し、本開示のレーダ画像処理装置2によれば、そのような課題を解決できる。まず、図6の(a)および(b)に示されているように、マスク適用部212が、マスク作成部211により作成されたマスクフィルタをレーダ画像に対して適用する。マスクフィルタは、アーチファクト源をマスクするためのフィルタであり、振幅または電力が大きく、振幅または電力の大きなアーチファクト源となる真の像I1はマスクされ、振幅または電力が小さく、振幅または電力の小さなアーチファクト源である真の像I2はマスクされていない。なお、振幅または電力の大きなアーチファクト源となる真の像が複数存在する場合は、複数の真の像がマスクされる。
【0050】
次に、図6の(c)および(d)に示されているように、アーチファクト源(真の像I1)がマスクされた後のマスクレーダ画像に対して、レーダ画像処理装置2は、虚像抑圧処理を行う。
【0051】
その後、図6の(e)に示されているように、マスク復元部23が、虚像抑圧処理が行われた虚像抑圧レーダ画像に対してアーチファクト源(真の像I1)の信号を保持する復元フィルタを適用して、再構成レーダ画像を生成する。
【0052】
このように、レーダ画像処理装置2によれば、アーチファクト源(真の像I1)がマスクされた状態で虚像抑圧処理が行われるので、アーチファクト源(真の像I1)の分解能が劣化することはなく、アーチファクトの発生を抑制できる。
【0053】
実施の形態2.
次に、図1および図7図9を参照して、実施の形態2によるレーダ画像処理装置2Mについて説明をする。実施の形態2では、アーチファクト源の存在する画素に虚像が重畳する場合はアーチファクト源をマスクしないように構成されたレーダ画像処理装置2Mを提供することを目的とする。
【0054】
<構成>
このような目的を実現するため、レーダ画像処理装置2Mは、レーダ画像処理装置2のマスク処理部21が図7のマスク処理部21Mに置換された構成を備える。マスク処理部21Mは、マスク作成部211、虚像探索部21M1、マスク再作成部21M2、およびマスク適用部212を備える。図7において、図1と同様の機能部については同様の参照番号が付されている。
【0055】
虚像探索部21M1は、記憶装置1の記憶部11からまたはマスク作成部211からレーダ画像を取得し、取得したレーダ画像(入力レーダ画像)に含まれる虚像を探索する。虚像の探索、即ち虚像の有無の判定は、例えば、入力レーダ画像と入力レーダ画像を分解能セル以上ずらしたレーダ画像とのコヒーレンスを取り、コヒーレンスの値をもとに行うことができる。すなわち、虚像は拡がりがあり、レーダ画像間での類似度は高いので、コヒーレンスは大きい値となる。これに対し、真の像は狭い領域に結像しており、レーダ画像間での類似度は小さいので、コヒーレンスは小さい値となる。そこで、虚像探索部21M1は、入力レーダ画像と入力レーダ画像を分解能セル以上ずらしたレーダ画像とのコヒーレンスの値が予め定められた値以上の場合、虚像ありと判定する。なお、コヒーレンスは、画素ごとに算出してもよいし、複数の画素を含む領域ごとに算出してもよい。
【0056】
他の例として、虚像探索部21M1は、入力レーダ画像に対して虚像抑圧処理を行ってレーダ画像を生成し、入力レーダ画像と、虚像抑圧処理を実施して生成したレーダ画像とを比較して振幅または電力の差を取り、振幅または電力が減少している部分を虚像であると判定してもよい。
【0057】
虚像探索部21M1は、探索により虚像を発見した場合、虚像が存すると判定した画素の領域を示す虚像領域と入力レーダ画像を出力する。
【0058】
マスク再作成部21M2は、マスクフィルタおよび虚像領域を取得し、マスクフィルタ(第1のマスクフィルタ)によりマスクされるマスク領域が虚像領域内に位置するかを判定し、マスク領域が虚像の領域内に位置する場合、そのマスク領域をマスクしないようにマスクフィルタ(第2のマスクフィルタ)を再作成する。すなわち、マスク再作成部21M2は、第1のマスクフィルタのマスク領域を非マスク領域に変更して、第2のマスクフィルタを再作成する。第2のマスクフィルタの再作成は、例えば、第1のマスクフィルタにおける対象領域のフィルタ係数の値を0から1に置換することにより行う。
【0059】
図8は、マスク再作成部21M2によりマスクフィルタが再作成される様子を示している。図8に示されているように、入力レーダ画像上に虚像が存在する場合において、アーチファクト源(すなわち、マスクフィルタのマスク領域)が虚像の領域内に位置するときは、マスク再作成部21M2は、虚像の領域内に位置するアーチファクト源(マスク領域)をマスクしないようにマスクフィルタを再作成する。マスク再作成部21M2は、再作成したマスクフィルタをマスク適用部212へ出力する。
【0060】
実施の形態1の場合と同様に、マスク適用部212は、取得したレーダ画像に対して再作成されたマスクフィルタを適用する。レーダ画像は、記憶装置1の記憶部11から取得されてもよいし、マスク作成部211、虚像探索部21M1およびマスク再作成部21M2を介して取得されてもよいし、不図示の制御部を介して取得されてもよい。
【0061】
<動作>
次に、図4および図9を参照して、レーダ画像処理装置2Mの動作について説明をする。レーダ画像処理装置2Mは、図4のステップST101およびST102に係るマスク処理が、図9のステップST201からST204に係るマスク処理に全体的に置換された動作を行う。
【0062】
図9のステップST201は図4のステップST101に相当するステップであり、マスク作成部211は、取得したレーダ画像からマスクフィルタおよび復元フィルタを作成する。
【0063】
ステップST202において、虚像探索部21M1は、入力レーダ画像に含まれる虚像を探索する。
【0064】
ステップST203において、マスク再作成部21M2は、入力レーダ画像上に虚像が存在する場合において、アーチファクト源が虚像の領域内に位置するときは、虚像の領域内に位置するアーチファクト源をマスクしないようにマスクフィルタを再作成する。
【0065】
図9のステップST204は図4のステップST102に相当するステップであり、マスク適用部212は、取得したレーダ画像に対して再作成されたマスクフィルタを適用してマスクレーダ画像を生成する。なお、図9のステップST204では、再作成されたマスクフィルタを再作成マスクフィルタと表記している。
【0066】
レーダ画像処理装置2Mは、このマスクレーダ画像を用いてレーダ画像処理装置2と同様に動作する。
【0067】
レーダ画像処理装置2Mによれば、実施の形態1によるレーダ画像処理装置2と同様に動作する。したがって、虚像と重なるアーチファクト源については虚像抑圧処理を分解能劣化およびアーチファクトの抑制に優先させて行うことが可能となる。
【0068】
なお、実施形態を組み合わせたり、各実施形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示のレーダ画像処理装置は、合成開口レーダにより再生されたレーダ画像を処理するための装置として用いることができる。
【符号の説明】
【0070】
1 記憶装置、2(2M) レーダ画像処理装置、11 記憶部、12 記憶部、21(21M) マスク処理部、21M1 虚像探索部、21M2 マスク再作成部、22 虚像抑圧処理部、23 マスク復元部、100a 処理回路、100b プロセッサ、100c メモリ、211 マスク作成部、212 マスク適用部、221 リフォーカス部、222 虚像判定部、223 虚像抑圧部。
【要約】
レーダ画像処理装置(2;2M)は、レーダ画像を取得し、取得されたレーダ画像から、アーチファクト源をマスクする第1のマスクフィルタと、前記アーチファクト源の信号を保持する復元フィルタとを作成するマスク作成部(211)と、前記取得されたレーダ画像に、前記第1のマスクフィルタを適用して、マスクレーダ画像を生成するマスク適用部(212)と、その作成されたマスクレーダ画像に対して虚像を抑圧する処理を行って、虚像抑圧レーダ画像を生成する虚像抑圧処理部(22)と、その作成された復元フィルタと、その生成された虚像抑圧レーダ画像とを合成して、再構成レーダ画像を生成するマスク復元部(23)と、を備える。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9