(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】コーティングAL含有コーティングの剥離
(51)【国際特許分類】
C23C 14/58 20060101AFI20241015BHJP
B24C 1/00 20060101ALI20241015BHJP
B24C 11/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C23C14/58 Z
B24C1/00 Z
B24C11/00 D
(21)【出願番号】P 2021509802
(86)(22)【出願日】2019-08-21
(86)【国際出願番号】 EP2019072411
(87)【国際公開番号】W WO2020039011
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-07-14
(32)【優先日】2018-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【氏名又は名称】安達 友和
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン,アンダーズ オロフ
(72)【発明者】
【氏名】ベネディクト,セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】スコット,ヴァディム
【審査官】森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-064180(JP,A)
【文献】特開2015-010279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00 - 14/58
B24C 1/00
B24C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材のコーティングされた表面からコーティングを剥離する方法であって、前記コーティングは、アルカリ水溶液で剥離され、前記方法は、
1または複数の層を含むコーティングを堆積させることにより、剥離可能なコーティングを前記基材に提供することにより、脱コーティング(decoated)される前記コーティングされた基材を調製する工程であって、アルミニウムを含む1つの層は、脱コーティングされる基材表面に直接堆積される工程と、
前記アルカリ水溶液中に脱コーティングされる前記基材を導入し、それにより前記基材から前記コーティングを化学剥離する工程であって、前記アルカリ水溶液は、30wt.%~50wt.%の重量パーセント濃度のNaOHを含む工程と、を含み、
脱コーティングされる前記基材表面に直接堆積された前記層は、
金属中間層、または
ウルツ鉱窒化アルミニウム層、または
ウルツ鉱窒化アルミニウムを含む層、または
酸化アルミニウム層、であり、
前記基材は、前記化学剥離プロセスを実施するための犠牲アノードに接続され、前記犠牲アノードの材料は、脱コーティングされる前記基材の材料よりも低い電気化学的電位を有する、または化学剥離の間に溶解され得る脱コーティングされる前記基材に含まれる材料成分よりも低い電気化学的電位を有することから選択さ
れ、
脱コーティングされる前記基材表面に直接堆積された前記層は、物理蒸着プロセスを使用して堆積され、前記蒸着プロセスを実施する前に、前記基材上に直接堆積された前記層を堆積させるためのコーティング材料源として使用される1または複数のカソードをブラストするために、アルミナを含むブラスト媒体が使用され、
脱コーティングされる前記基材表面に直接堆積された前記層は、少なくとも10nmの厚さを有し、30at.%以上のAl含有量を有することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記化学剥離は、80℃~160℃の範囲の値に対応する温度に前記アルカリ水溶液を維持することにより行われ、前記温度はそれぞれ80℃および160℃の境界値を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ水溶液中のNaOHの濃度は、40wt.%~50wt.%の濃度範囲であり、前記濃度範囲はそれぞれ40wt%および50wt%の境界値を含むことを特徴とする請求項1
または2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルカリ水溶液の温度は、100℃~140℃の範囲の値であり、前記範囲はそれぞれ100℃および140℃の境界値を含むことを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティングされた基材を前記水溶液中に導入する前に、前記コーティングされた基材は、酸および/または酸化剤を用いて動力学的に制御された反応で、前記コーティングを弱めるための酸性溶液中に導入されることを特徴とする、請求項1~
4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸性溶液は、HNO
3からなるまたはHNO
3を含む混合物であることを特徴とする、請求項
5に記載の方法。
【請求項7】
前記酸性溶液は、H
2SO
4からなるまたはH
2SO
4を含む混合物であることを特徴とする、請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
前記酸性溶液は、HClからなるまたはHClを含む混合物であることを特徴とする、請求項
6に記載の方法。
【請求項9】
前記酸性溶液中の反応時間は、1分~10分までの範囲の値に対応し、前記反応時間の範囲はそれぞれ1分および10分の境界値を含むことを特徴とする、請求項5~
8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記犠牲アノードは、鉄から作られる、または大部分が鉄を含む材料から作られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
脱コーティングされる前記基材は超硬合金から作られる、または前記基材は超硬合金を含む材料から作られることを特徴とする、請求項1~
9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記基材は、コバルトバインダー相を有する超硬合金から作られる、または脱コーティングされる前記基材は、コバルトバインダー相を有する超硬合金を含む材料から作られることを特徴とする、請求項
10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングがアルミニウム(Al)を含む、基材表面からコーティングを剥離するための方法に関する。特に、本発明の方法は、AlCrN(窒化アルミニウムクロム)を含むコーティングの剥離に有用であり、より詳細には、AlCrN(窒化アルミニウムクロム)を含む、またはAlCrNからなる少なくとも1つの層を含むコーティングの剥離に有用である。
【背景技術】
【0002】
(従来技術)
Andreoliらは、米国特許出願第12/989,727号において、コーティングされた基材の湿式化学的剥離(wet-chemical stripping)(以下、湿式化学的剥離(wet-chemical delaminating)ともいう)のためのプロセスを記載している。彼らは、コーティングされた基材をアルカリ水溶液中に導入することにより基材からコーティングを溶解するために、アルカリ水溶液を使用することを推奨している。彼らは、KMnO4を3~8重量%含有し、同時に6~15重量%のアルカリ性画分を有する薬液を使用することを推奨しており、このアルカリ性画分は、好ましくはKOHまたはNaOHによって形成され、溶液のpHは13超である。金属AlCr、TiAlCr、他のAlCr合金;窒化物、炭化物、ホウ化物、またはそれらの酸化物;およびそれらの組み合わせのタイプのいずれか1つのコーティングの湿式化学的剥離にこの溶液を使用することをさらに提案している。
【0003】
しかし、KMnO4などの酸化剤を使用すると、薬液によってコーティングだけでなく基材も攻撃されてしまうという欠点がある。そのため、脱コーティングされた基材表面(剥離後)は、コーティングの再適用(以下、再コーティングともいう)にうまく利用され得る剥離プロセス後の適切な基材表面を得るために、マイクロブラストまたは研磨などの機械処理を必要とすることが多い。
【0004】
コーティングされた基材が剥離液中に長時間放置されると、基材は表面基材領域に部分的に溶解されるだろう。これは、再利用が意図される異なるツールまたは部品にとって致命的となり得る形状変化をもたらし得る。例えば、切削ツールは、ツールの表面の一部が溶解するために、精密さが無くなり得る。
【0005】
そのため、このような酸化剤を使用する場合には、剥離時間を十分に長くしてコーティングを完全に溶解させ、同時に、剥離時間を短くして基材表面に大きなダメージを与えないように、剥離時間を慎重に制御する必要がある。基材が薬液中に長く留まるほど、基材へのダメージは大きくなる。
【0006】
特に、例えば、PVDコーティングプロセスでの幾何学的なシェーディングにより、コーティングされた表面に沿ったコーティング厚さの違いがあるコーティングされた基材(ツールまたは部品)には大きな課題となる。
【0007】
剥離時間は、最も厚くコーティングされた領域が剥離されるように十分な長さが必要であるが、コーティングが薄くなった領域での基材への攻撃が大きくなるため、より短い時間で剥離される。
【0008】
酸化剤を使用する方法のさらなる欠点は、これらの方法が非選択的な剥離方法であることであり、それは、脱コーティングされる基材のコーティングされていない表面を、基材のこれらのコーティングされていない表面への化学的攻撃を阻害する任意の材料で遮蔽しなければならないことを意味する。
【0009】
例えば、化学剥離溶液に曝露する前に、コーティングされていない領域をマスキングするために、高分子材料のカバーを使用しなければならない。これは、銘刻またはマーキングのような、攻撃されるべきではない基材の部分にも適用される。マスキングまたは遮蔽の適用および除去のプロセスは、追加の作業工程を追加し、時間がかかり、コストを増加させ得る。
【0010】
(本発明の目的)
本発明の目的は、非選択的剥離方法、特にKMnO4などの酸化剤を含む水溶液を用いた湿式化学的剥離を伴うそのような方法において、上述した非選択的剥離方法の欠点の少なくとも一部を克服することが可能な脱コーティング溶液を提供することにある。
【発明の概要】
【0011】
(本発明の説明)
本発明の目的は、主請求項による基材のコーティングされた表面からコーティングを剥離する方法を実行することによって達成される。
【0012】
本発明は、以下の工程を含む:
【0013】
第2工程よりもずっと前に行われ得る第1工程として、剥離される基材表面にアルミニウムを含むコーティングを直接堆積させることにより、剥離可能な基材が製造される。剥離される基材の表面とは、剥離によって「脱コーティング」または「裸」となり、剥離によって攻撃されるべきではない基材の表面である。このコーティングの上に、追加のコーティングを堆積させてもよいし、堆積させなくてもよい。
【0014】
その後、剥離の時期が来るとすぐに、剥離される基材が導入される、すなわち、アルカリ水溶液によりまたは好ましくはアルカリ水溶液に浸漬されて洗浄することを意味する。水溶液は、基材からコーティングを化学剥離する効果がある。
【0015】
本発明によれば、アルカリ水溶液は、30wt.%~50wt.%までの重量%の濃度のNaOHを含む。好ましくは、濃度範囲はそれぞれ、30wt.%のNaOHと50wt.%のNaOHの境界値を含む。
【0016】
本発明者らは、剥離される表面に直接堆積された層によって構成されるアルミニウムが、一種の「所定の破断点」を形成する効果を発見し、初めて体系的に利用した。この破断点は、NaOHの攻撃を受けて破断する。このようにして、前記表面に直接堆積された層を迅速に剥離し得る。
【0017】
好ましくは、剥離される基材表面に直接堆積されるアルミニウムを含む層は以下である:
金属中間層、または
ウルツ鉱窒化アルミニウム層(中間層としても堆積され得る)、または
ウルツ鉱窒化アルミニウムを含む層(中間層としても堆積され得る)、または
酸化アルミニウム層(中間層としても堆積され得る)。
【0018】
好ましくは、化学剥離は、80℃~160℃の範囲の値に対応する温度に前記アルカリ水溶液を維持することにより行われ、温度はそれぞれ80℃および160℃の境界値を含む。
【0019】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、脱コーティングされる基材表面に直接堆積された層は、物理蒸着プロセス(PVD)を使用して堆積され、堆積プロセスを実施する前に、基材上に直接堆積された層を堆積させるためのコーティング材料源として使用される1または複数のカソードをブラスト(本発明の文脈ではサンドブラストとも呼ばれる)するために、アルミナを含むブラスト媒体が使用される。これらの1または複数のブラストされたカソードは、PVD堆積プロセスの第1段階の間に異なる堆積条件を作り出し、その結果、薄い第1コーティング層(または一種の中間層)が形成され、これは、アルカリNaOH水溶液によるコーティングの化学剥離を容易にする(一般に、このようにして前述の一種の中間層が形成されても、コーティング性能の劣化は生じない)。本発明者らは、この場合、この効果の1つの可能な説明として、まず、ブラスト媒体がカソードの表面を清浄化する(例えば、窒素または酸素などの反応性ガスと反応したカソード材料を除去する)、その後、おそらく、使用されたブラストされたカソードによって生成された第1層または中間層の形成物が、カソード表面の浸漬されたブラスト媒体によって影響を受けるような方法でターゲット表面に浸漬し、この正の効果(アルカリNaOH水溶液での化学剥離を容易にする第1層または中間層の形成をもたらす)をもたらす。
【0020】
本発明の上記の態様を考慮すると、本発明の1つの好ましい実施形態は、基材の表面からコーティングを剥離するための方法であって、以下の工程を含む:
a)物理蒸着(PVD)プロセスを使用することによって基材表面に堆積されるコーティングの少なくとも第1コーティング層を堆積するためのコーティング材料源として使用されるだろうカソードをブラストするためのアルミナを含むブラスト媒体を使用する工程、
b)工程a)で示すように、カソードをブラストした後、第1コーティング層を堆積させるためのカソードを活性化する工程、
c)第1コーティング層を堆積させる工程であって、第1コーティング層の堆積中に、基材表面に直接中間層が形成され、中間層は、工程a)で使用されたブラスト媒体からくるアルミナを含み得る工程、
d)基材からコーティングを化学剥離する工程であって、コーティングを有する基材がNaOHを含む水溶液(以下に説明するような化学剥離中の水溶液特性を伴う)に導入される工程。
【0021】
本発明の好ましい実施形態によれば、アルカリ水溶液中のNaOHの濃度は、40wt.%~50wt.%の濃度範囲の値であり、濃度範囲はそれぞれ40wt%および50wt%の境界値を含む。溶液中のNaOHの含有量が50wt.%を超えると、溶液が飽和し、その結果、プロセスにとって好ましくない固体NaOHが析出し得る。溶液中のNaOHの含有量が30wt.%未満では、非効率的な剥離プロセスになり得る。
【0022】
好ましくは、アルカリ水溶液の温度は、100℃~140℃の範囲にあるように選択され、その範囲はそれぞれ100℃および140℃の境界値を含む。
【0023】
本発明の文脈でコーティングされ、その後(例えば使用後に)脱コーティングされる基材表面に直接堆積された中間層の第1層は、好ましくは少なくとも5nm、より好ましくは少なくとも8nmまたは10nmの層厚を有するように堆積されるべきである。この第1層または中間層におけるAl含有量は、30at.%以上、より好ましくは35at.%以上であるべきである。
【0024】
本発明の任意の好ましい実施形態によれば、方法は、コーティングされた基材を水溶液中に導入する前に、この追加の工程において、コーティングされた基材は、酸および/または酸化剤を用いて動力学的に制御された反応で、コーティングを弱めるための酸性溶液中に導入される。この実施形態では、基材のこれらのコーティングされていない表面への化学攻撃を妨げるために、酸性溶液と接触しようとしているすべてのコーティングされていない基材表面を遮蔽する必要があるだろう。
【0025】
好ましくは酸性溶液は、以下の通りである:
HNO3を含むもしくはHNO3からなる混合物、または
H2SO4を含むもしくはH2SO4からなる混合物、または
HClを含むもしくはHClからなる混合物。
【0026】
本発明者らは、曝露の好適な時間、つまり酸性溶液中の反応時間は、1分~10分までの範囲の値に対応し、反応時間の範囲はそれぞれ2分および10分の境界値を含むことを見出した。
【0027】
上述のようなカソードのサンドブラストは、基材とコーティングとの間に金属/部分的に金属の中間層(多くの場合、約10nmの厚さを有する)を形成する結果となり、これは、コーティングが基材表面にダメージを与えることなく溶解されることを有利にし、特に非常に良好な結果は、140℃でNaOH-水50-50wt.%溶液を使用して観察された。
【0028】
カソードのサンドブラストに代えて、同様の効果を有する他の方法を用いることも可能である。本発明者らは、従来サンドブラスト処理を施したカソードを用いて製造されたコーティングの溶解性が良好になった原因は、界面の金属Alの含有量であり得ると考える。
【0029】
おそらく、金属中間層を製造するまたは第1層(例えば中間層)を製造するためのより高いAl含有量(例えば70at%超Al)を有するカソードを使用することもまた、溶解性を改善する結果となり得る。
【0030】
本発明は、酸化剤を使用しない脱コーティングプロセス(剥離プロセスとも呼ばれる)に関する。これにより、本発明のプロセスは、基材ではなくコーティングのみを攻撃するため、選択的である。
【0031】
そのため、KMnO
4を酸化剤として用いた湿式化学剥離プロセスと比較して、剥離時間は重要ではない。なぜなら、本発明の方法を用いることにより、脱コーティング(コーティングの溶解または除去)が完了した後も剥離液中に放置しておけば、基材にダメージを与えることはないからである。
図1~3の実施例を参照。コーティングされる領域の延長線上に沿って異なる可変的なコーティングの厚さを有する異なるツールおよび部品などの複雑な形状の基材でも、容易に取り扱われ得、脱コーティングプロセス前のマスキング、または再コーティング前の脱コーティングされた基材表面の機械処理が不要である。
【0032】
本発明のさらなる態様は、コバルト溶出(以下、Co-溶出とも呼ばれる)の回避に関する。
【0033】
超硬合金材料、ひいては超硬合金で作られた、または超硬合金を含む基材を水溶液に長時間浸漬すると、コバルトバインダー相の溶解が起こることはよく知られている。この現象はCo-溶出として知られている。本発明によれば、超硬合金基材が化学剥離を受けている間のCo-溶出を防止するために、コーティングされた超硬合金基材は、コバルトよりも低い電気化学電位を有する犠牲アノードを備えた基材ホルダを使用して保持され得る。
【0034】
例えば、Feを含む犠牲アノード(Fe
2+への酸化はE
0-0.447V)は、Coの溶解(Co
2+への酸化はE
0-0.28V)を防止するのに有効であろう。
図4の図を参照。
【0035】
したがって、本発明の好ましい実施形態によれば、本発明の方法は、基材が超硬合金材料で作られている、または超硬合金材料を含む場合に、コバルトバインダーの任意の溶解を生じることなく、化学剥離プロセスを実施するために、脱コーティングされる基材に接続された犠牲アノードを使用することを含み、ここで、犠牲アノードの材料は、脱コーティングされる基材の材料よりも低い電気化学電位を有する、または化学剥離の間に溶解され得る脱コーティングされる基材に含まれる材料成分よりも低い電気化学電位を有することから選択される。例えば、コバルトバインダー相を有する超硬合金などの基材材料を脱コーティングするための犠牲アノードの材料は、コバルトよりも低い電気化学電位を有するものが選択され得る。そして、コバルトバインダー相を有する超硬合金基材を使用する場合には、犠牲アノードは、鉄または大部分が鉄を含む材料から作られ得る。
【0036】
本発明のさらなる態様は、本発明の理解を向上させるために、より詳細に図示され、説明される。以下の図は、本発明を図示し、理解するのに役立つはずである。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図のキャプション:
【
図1】コーティング適用前の超硬合金研磨基材、WC(6wt.%のCoを有する)の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM)。
【
図2】4wt.%のKMnO4、8wt.%のNaOHの従来技術による剥離媒体に10分浸漬した後の超硬合金研磨基材の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM)。表面が強く攻撃され、WC粒が溶解し、Co-マトリクスが残っている。
【
図3】本発明:140℃の50wt.%のNaOHによる剥離媒体に5時間浸漬した後の超硬合金研磨基材の表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM)。基材表面は無傷である。
【
図4】犠牲アノードを含む剥離プロセスの構造の概略図。1:AlCrNコーティング、2:中間層、3:WC/Co基材(超硬合金基材)、4:本発明による脱コーティングされる基材との電気接続を有する鉄から作られた犠牲アノード、5:本発明によるNaOHを含む剥離溶液、6:犠牲アノードの酸化により生成された酸化鉄で形成された酸化層。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明をより詳細に説明するために、いくつかの実施例を記載する。記載された本発明の実施例は、本発明の限定として理解されるべきではなく、本発明の可能な、そしてほとんどの場合において好ましい実施形態のショーケースとしてのみ理解されるべきである。
【0039】
実施例1(比較例)-従来技術による剥離プロセス
従来のPVDコーティング、特に原子パーセントでAl70Cr30の組成を有するターゲットから堆積されたAlCrNは、4wt.%のKMnO4および8wt.%のNaOHの溶液を使用して剥離される。コーティングされた基材は、コーティングが完全に溶解するまで剥離液中に20分間放置される。基材表面は攻撃され、結果的に脱コーティングプロセスの後では強いダメージを受け、荒れた状態に見える。
【0040】
実施例2(本発明の実施例)
本発明のプロセスは、以下の工程を含んで実施される:
I)コーティング調製工程-PVDコーティング手順の前に、PVDプロセス工程で使用された原子パーセントでAl70Cr30の組成を有するAlCrターゲットの表面を前もってサンドブラスト処理した。サンドブラスト媒体は、グリットサイズ0.25~0.5mmのAl2O3からなる。1~5バール、通常は4バールのブラスト圧力が使用され、ベイスティング(basting)時間は、1つのターゲットの表面をカバーするために約30秒までであった。
【0041】
II)工程Iで調製した堆積ターゲットを用いて、AlCrNのPVDコーティングを行う。プロセスガスとしてN2が使用される。
【0042】
III)コーティングされた基材を130℃の50wt%NaOH水溶液中に導入してコーティングの化学剥離を行った。4時間後、コーティング(3μm)を基材から完全に除去した。基材は、基材表面のダメージまたは劣化を全く見せなかった。
【0043】
実施例3(本発明の実施例):
さらなる本発明のプロセスは、以下の工程を含んで実施される:
【0044】
I)コーティングプロセスの最初に、PVD技術を用いて金属中間層を堆積させ、金属中間層は、Al70Cr30ターゲットをコーティング材料源として、コーティングチャンバー内のプロセスガスとしてArガスを使用して、通常300sccm、20秒最大5分で基材上に直接堆積された。金属中間層の厚さは20nm~460nmの範囲であった。
【0045】
II)コーティングされる基材上に堆積された中間層上にAlCrNコーティング層を形成するためのプロセスガス(この場合、組成Al70Cr30のターゲットからのAlCr材料と反応するため、反応性ガスとも呼ばれる)としてN2ガス流を用いて、金属中間層上にAlCrNのコーティング層を堆積した。
【0046】
III)コーティングされた基材を130℃の50wt%NaOH水溶液中に導入してコーティングの化学剥離を行った。1.5時間後、コーティングを基材から完全に除去した。基材は、基材表面のダメージまたは劣化を全く見せなかった。
【0047】
実施例4(本発明の実施例):
さらなる本発明のプロセスは、以下の工程を含んで実施される:
【0048】
I)ウルツ鉱-AlNを含むAlCrNコーティング層を形成するために、コーティングプロセスの最初に、プロセスガス(この場合、ターゲットからのAlCr材料と反応するため、反応性ガスとも呼ばれる)としてN2ガス流を含むコーティングチャンバー内でコーティング材料源として使用された、元素組成Al90Cr10を原子パーセントで有するAlCrターゲットから、PVD技術を用いてウルツ鉱-AlNを含む中間層を堆積させた。
【0049】
II)コーティングされる基材上に堆積された中間層上にAlCrNコーティング層を形成するために、プロセスガスとしてN2ガス流を含むコーティングチャンバー内で、コーティング材料源として使用された、元素組成Al70Cr30を原子パーセントで有するAlCrターゲットからPVD技術を用いて、ウルツ鉱-AlNを含む中間層上にAlCrNのコーティング層を堆積させた。
【0050】
III)コーティングされた基材を130℃の50wt%NaOH水溶液中に導入してコーティングの化学剥離を行った。1.5時間後、コーティングを基材から完全に除去した。基材は、基材表面のダメージまたは劣化を全く見せなかった。
【0051】
実施例5(本発明の実施例):
さらなる本発明のプロセスは、以下の工程を含んで実施される:
【0052】
I)実施例3に示すように、コーティングプロセスの最初に、PVD技術を用いて金属中間層を堆積させ、金属中間層は、原子パーセントでAl70Cr30の組成のAlCr-ターゲットをコーティング材料源として、コーティングチャンバー内のプロセスガスとしてArガスを使用して、通常300sccm、20秒最大5分で基材上に直接堆積された。
【0053】
II)コーティングされる基材上に堆積された中間層上にAlCrNコーティング層を形成するためのプロセスガス(この場合、工程Iで使用されたターゲットと同じターゲットからのAlCr材料と反応するため、反応性ガスとも呼ばれる)としてN2ガス流を用いて、金属中間層上にAlCrNのコーティング層を堆積した。
【0054】
III)動力学的に制御された反応のために、サンプルを酸(HNO3、H2SO4、HCl)にさらした。特に、1つのサンプル(前の工程IおよびIIで示されるコーティングされた基材)をHClに2分間さらした。別のサンプル(前の工程IおよびIIで示されるコーティングされた基材も)をH2SO4に2分間さらした。
【0055】
IV)コーティングされた基材を50wt%NaOH水溶液中に90℃(実施例3と比較して40℃低い)の温度で導入してコーティングの化学剥離を行った。3時間後、コーティングを両基材から完全に除去した。
【0056】
実施例6、7、8、9および10:
これらの実施例は、以下に説明するように、すべて同じ工程IおよびIIを有するが、化学剥離プロセスの実施、すなわち次の工程IIIにおいて、それぞれを互いに区別している。
【0057】
I)コーティング工程を開始する前に、後に堆積に使用するAlCrターゲットの表面をサンドブラスト処理した。サンドブラスト媒体は、グリットサイズ0.25~0.5mmのAl2O3からなる。1~5バール、通常は3バールのブラスト圧力が使用され、ブラスト時間は、1つのターゲットの表面をカバーするために約30秒までであった。
【0058】
II)コーティングプロセスを実施する、ここで、コーティングされる基材上に堆積された中間層上にAlCrNコーティング層を形成するために、プロセスガスとしてN2ガス流を含むコーティングチャンバー内で、コーティング材料源として使用された、元素組成Al70Cr30を原子パーセントで有するAlCrターゲットからPVD技術を用いて、AlCrNのコーティング層がコーティングされる基材表面に堆積された。
【0059】
III)6つの異なるサンプル(直接上記の工程IおよびIIに従うことによってコーティングされた基材)は、以下のようにコーティングの化学剥離を受ける:
【0060】
実施例6の工程III:
IIIa.13wt.%のLiOH濃度を有する飽和水溶液中で、塩基としてLiOHを使用した。1時間後に部分的な剥離が観察され、NaOH 50 wt.%濃度を用いた化学剥離プロセスと比較して剥離速度が遅くなった。
【0061】
実施例7の工程III:
IIIb.50wt.%のKOH濃度を有する飽和水溶液中で、塩基としてKOHを使用した。1.5時間後に部分的な剥離が観察され、NaOH 50 wt.%濃度を用いた化学剥離プロセスと比較して剥離速度が遅くなった。
【0062】
実施例8の工程III:
IIIc.75wt.%のCsOH濃度を有する水溶液中で、CsOHを使用した。3時間後に部分的な剥離が観察され、NaOH 50 wt.%濃度を用いた化学剥離プロセスと比較して剥離速度が遅くなった。
【0063】
実施例9の工程III:
IIId.モル比1:1のNaOH:KOHの塩基/塩の混合物を、50wt.%のNaOH濃度と50wt.%のKOH濃度を有する飽和水溶液中で使用した。1時間後に部分的な剥離が観察され、NaOH 50 wt.%濃度を用いた化学剥離プロセスと比較して剥離速度が遅くなった。
【0064】
実施例10の工程III:
IIIe.モル比1:1のNaOH:NaClの塩基/塩の混合物を、50wt.%のNaOH濃度と25wt.%のNaCl濃度を有する飽和水溶液中で使用した。20分後に部分的な剥離が観察され、NaOH 50wt.%濃度を用いた化学剥離プロセスと比較して剥離速度が遅くなった。
【0065】
IIIc.モル比1:1のKOH:NaClの塩基/塩の混合物を、50wt.%のKOH濃度と25wt.%のNaCl濃度を有する飽和水溶液中で使用した。部分的な剥離が観察され、NaOH 50wt.%濃度を用いた化学剥離プロセスと比較して剥離速度が遅くなった。
【0066】
本発明による方法はまた、多くの異なる種類のコーティング、例えばTiAlN-、TiAlSiN-、TiAlNベースのコーティングおよびTiAlSiNベースのコーティングなどでコーティングされた基材の脱コーティングのために成功裏に使用されてきた。
【0067】
水溶液を撹拌することができ、または化学剥離プロセスの間に脱コーティングされる基材を移動させることができる。本発明による方法はまた、前処理または後処理工程、例えば、リンス、洗浄、超音波バッド処理、乾燥および熱処理などの工程を含み得る。
【0068】
独立した保護もまた、システムが、アルミニウムを含むコーティングを運ぶ-再コーティングのために剥離されるその表面に直接-コーティングされたツールによって構成され、かつ30wt.%~50wt.%の重量パーセントの濃度でNaOHを含むアルカリ水溶液の形態の剥離剤によって構成されていることを特徴とする再生可能なコーティングを有するツールのシステムのために主張される。