(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20241015BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241015BHJP
C08L 53/02 20060101ALI20241015BHJP
H05K 9/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K3/04
C08L53/02
H05K9/00 M
(21)【出願番号】P 2023116232
(22)【出願日】2023-07-14
【審査請求日】2024-04-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】506083903
【氏名又は名称】株式会社新日本電波吸収体
(73)【特許権者】
【識別番号】000108720
【氏名又は名称】株式会社タケチ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】小林 悠太
(72)【発明者】
【氏名】荻野 哲
(72)【発明者】
【氏名】西内 正樹
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-190331(JP,A)
【文献】特開2005-187811(JP,A)
【文献】特開2019-190758(JP,A)
【文献】特開2016-108524(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2022/0408618(US,A1)
【文献】韓国公開特許第2023-0093628(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第112538219(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107936343(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K
C08L
H05K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ISO 37:2017
に準じ測定した引張破断伸び率が400~700%であるオレフィン系エラストマー(A)50~80質量%、スチレン系エラストマー(B1)及びISO 37:2017に準じ測定した引張破断伸び率が800%以上であるオレフィン系エラストマー(B2)からなる群から選択される少なくとも1種を含むエラストマー(B)15~35質量%、カーボンナノチューブ(C)0.5~5質量%、並びにカーボンブラック(D)3~15質量%を含有
し、
前記スチレン系エラストマー(B1)が、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体、及びスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記スチレン系エラストマー(B1)におけるスチレン構造の含有率が、15~35質量%である、電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記エラストマー(B)が、前記スチレン系エラストマー(B1)を含
む、請求項1に記載の電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記エラストマー(B)が、前記
オレフィン系エラストマー(B2)を含
む、請求項1に記載の電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記エラストマー(B)が、前記オレフィン系エラストマー(B2)を含み、
前記オレフィン系エラストマー(B2)が、エチレン-αオレフィン共重合体を含む、請求項1に記載の電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは成形加工が容易であることから電気機器部品、電子機器部品、自動車部品、医療用部品、食品容器などの幅広い分野で使用されており、装飾性を高めるためや機能性を付与させるためにプラスチック成形体の着色が盛んに行われている。特に自動車分野では、機能性を付与したものとして、電磁波吸収用途を目的とする着色された成形体が流通している。
【0003】
ラジオ、テレビ、無線通信などの通信機器からは電磁波が放射されているが、これに加え、最近の情報技術の進展により急増した携帯電話、パソコンなどの電子機器からも電磁波は放射されている。従来、電子機器、通信機器などの電磁波による誤作動を回避するための一手法として、効率よく電磁波を吸収し、吸収した電磁波を熱エネルギーに変換するという電磁波吸収体を電磁波発生部位近傍又は遠方に設置することが行われている。
【0004】
電磁波発生部位より遠方に電磁波吸収体を設置して用いられる例としては、例えば高速道路の自動料金収受システム(ETC)用途がある。ETCは、高速道路の料金所出口を自動車が通過する際に、料金所に備えられた路側機アンテナと車載器側アンテナとの間で周波数5.8GHzのマイクロ波を使用して課金情報等を交換するシステムである。このETCシステムが導入された料金所では、アンテナから放射されたマイクロ波が料金所屋根等にあたって反射され、隣接するETCレーンから不要な電磁波が漏洩する等の理由により、通信に異常を引き起こすことがある。そこで料金所屋根やETCレーンの間に電磁波吸収体を設置することによって、通信異常を抑制することが行われている。
【0005】
また、近年では自動車分野において、車両の自動運転や衝突防止を目的としてミリ波レーダーが利用されており、多くの場合はミリ波レーダー装置が自動車の内部に取り付けられている。ミリ波とは電磁波のうち、波長が1~10mm、周波数30~300GHzの電磁波であり、現在では車載レーダーや空港等で防犯チェックとして衣服の下を透視する全身スキャナー、列車のワンマン運転時において、プラットホーム上の監視カメラの映像伝送等にも使用されている。ミリ波レーダー装置は、ミリ波を飛ばして跳ね返ってくる波を受信し、障害物を認識できる装置であり、検出可能距離が大きいことや、太陽光、雨、霧による阻害を受けにくいことなどから、今日では自動車等の自動運転技術などに利用されている。自動車のセンサーの場合、ミリ波レーダー装置は、アンテナからミリ波を送受信して、障害物との相対距離や相対速度等を検出することができる。
【0006】
これらミリ波レーダー装置の送受信アンテナは、目的とする障害物以外の路面などに反射したものも受信することがあり、装置の検出精度が低下してしまう場合がある。このような問題を解決するため、ミリ波レーダー装置では、アンテナと制御回路との間に電磁波を遮蔽する遮蔽部材として、電磁波吸収体を設けている。
【0007】
このような電磁波吸収体を構成するミリ波帯域の電磁波吸収材料としては、炭素系、金属炭素系、及び磁性体系が知られており、例えば、その高い導電性や比較的軽量である点から、炭素系としてカーボンナノチューブ(CNT)を含む電磁波吸収体が使用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、電磁波吸収体に関し、導電性充填材の添加量を減らしつつも、伝導性を向上させるために、導電性カーボンブラックの代わりにカーボンナノチューブを添加する方法が開示され、特許文献1によれば、カーボンナノチューブを含有する複合材により、優れた伝導性を有しつつも、機械的物性が改善されたとされている。しかしながら、近年の自動車分野等への用途においては、電磁波吸収体には一層の改善が望まれている。
【0010】
そこで、本発明のいくつかの実施形態は、良好な電磁波吸収性と柔軟性とを有し、更に耐熱性にも優れた電波吸収体を得ることができる電波吸収体用熱可塑性樹脂組成物を提供することを課題とする。また、本発明のいくつかの実施形態は、良好な電磁波吸収性と柔軟性とを有し、更に耐熱性にも優れた成形体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明は、以下の実施形態を含む。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
(1)ISO 37:2017に準じ測定した引張破断伸び率が400~700%であるオレフィン系エラストマー(A)50~80質量%、スチレン系エラストマー(B1)及びISO 37:2017に準じ測定した引張破断伸び率が800%以上であるオレフィン系エラストマー(B2)からなる群から選択される少なくとも1種を含むエラストマー(B)15~35質量%、カーボンナノチューブ(C)0.5~5質量%、並びにカーボンブラック(D)3~15質量%を含有する、電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物。
(2)前記エラストマー(B)が、前記スチレン系エラストマー(B1)を含み、前記スチレン系エラストマー(B1)が、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、及びスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、上記(1)に記載の電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物。
(3)前記エラストマー(B)が、前記スチレン系エラストマー(B1)を含み、前記スチレン系エラストマー(B1)におけるスチレン構造の含有率が、15~35質量%である、上記(1)又は(2)に記載の電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物。
(4)前記エラストマー(B)が、前記オレフィン系エラストマー(B2)を含み、前記オレフィン系エラストマー(B2)が、エチレン-αオレフィン共重合体を含む、(上記(1)~(3)のいずれかに記載の電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物。
(5)上記(1)~(4)のいずれかに記載の電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した、成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明のいくつかの実施形態によれば、電波吸収体用熱可塑性樹脂組成物は、良好な電磁波吸収性と柔軟性とを有し、更に耐熱性にも優れた電波吸収体を製造できる。本発明のいくつかの実施形態によれば、成形体は、良好な電磁波吸収性と柔軟性とを有し、更に耐熱性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、ミリ波送信装置による透過減衰量及び反射減衰量の測定概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値の範囲として含むものとする。
また、「ISO 37:2017に準じ測定した引張破断伸び率が400~700%であるオレフィン系エラストマー(A)」を「オレフィン系エラストマー(A)」と、ISO 37:2017に準じ測定した引張破断伸び率が800%以上であるオレフィン系エラストマー(B2)を「オレフィン系エラストマー(B2)」と、「スチレン系エラストマー(B1)及びオレフィン系エラストマー(B2)からなる群から選択される少なくとも1種を含むエラストマー(B)」を「エラストマー(B)」と、電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物を「熱可塑性樹脂組成物」と、「カーボンナノチューブ」を「CNT」と称することがある。
また、本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において特定する数値は、実施形態又は実施例に開示した方法により求められる値である。
【0016】
<電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物>
本発明の実施形態によれば、電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物は、ISO 37:2017(以下、「ISO37」と称する。)に準じ測定した引張破断伸び率が400~700%であるオレフィン系エラストマー(A)50~80質量%、スチレン系エラストマー(B1)及びISO37に準じ測定した引張破断伸び率が800%以上であるオレフィン系エラストマー(B2)からなる群から選択される少なくとも1種を含むエラストマー(B)15~35質量%、カーボンナノチューブ(C)0.5~5質量%、並びにカーボンブラック(D)3~15質量%を含有する。
【0017】
[オレフィン系エラストマー(A)]
オレフィン系エラストマー(A)は、ISO37に準じ測定した引張破断伸び率が400~700%である。引張破断伸び率が400%以上であると、カーボンナノチューブ、カーボンブラック等の導電性フィラー間の電波伝達効率が向上するため、電磁波吸収性及び柔軟性の点で好ましい。引張破断伸び率は、好ましくは500%以上であり、より好ましくは550%以上であり、更に好ましくは600%以上である。引張破断伸び率が700%以下であると、耐熱性の点で好ましい。引張破断伸び率は、好ましくは680%以下であり、より好ましくは650%以下である。
【0018】
本発明の実施形態において、引張破断伸び率は、ISO37に準じ測定して得た値である。具体的には、試験片(JIS K 6251:2017に従って作製したダンベル状3号形試験片)に対し、材料試験機(例えば、インストロン社製「3367」)を用いて、温度23℃の雰囲気下で、引張速度500mm/minの条件で測定を行う。
【0019】
オレフィン系エラストマー(A)のメルトマスフローレイト(MFR)は、例えば0.1~50g/10minである。MFRは、好ましくは5g/10min以上であり、より好ましくは15g/10min以上であり、更に好ましくは20g/10min以上である。特にMFRが5g/10min以上であると、成形体中に均一に導電性フィラーを分散させることができるため、電磁波吸収性及び成形性の点で好ましい。MFRは、好ましくは45g/10min以下であり、より好ましくは40g/10min以下であり、更に好ましくは30g/10min以下である。MFRが50g/10min以下であると、耐熱性の点で好ましい。
【0020】
本発明の実施形態において、MFRは、JIS K 7210:1999に準じて測定したメルトマスフローレイトの値である。具体的には、メルトフローレイト測定機(例えば、東洋精機社製「メルトインデクサー」)を用いて、温度230℃、荷重2.16kgfの条件で測定を行う。
【0021】
オレフィン系エラストマー(A)は、塑性変形を防止する分子拘束成分であるポリオレフィン中に、弾性を有するゴム成分が分散した混合材料であることが好ましい。ゴム成分は、未架橋のゴム成分、部分架橋のゴム成分、又は完全架橋のゴム成分であり得る。架橋は、例えば、ポリオレフィンとゴム成分の混合及び混練時に行われる動的架橋であってよい。混合材料において、ポリオレフィンとゴム成分の一部が、グラフト重合していてもよい。
【0022】
分子拘束成分であるポリオレフィンとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の結晶性ポリオレフィンが挙げられる。ゴム成分としては、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-ブチレン共重合体(EBM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)等のエチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などが挙げられる。
【0023】
オレフィン系エラストマー(A)は、耐熱性の点で、動的架橋型オレフィン系熱可塑性エラストマーであることが好ましく、分子拘束成分として結晶性ポリプロピレンと、ゴム成分としてエチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)とを使用し、動的架橋したエラストマーが好ましい。
【0024】
オレフィン系エラストマー(A)の市販品として、例えば、三井化学株式会社製のミラストマー9070NS、ミラストマーL900NS、ミラストマーA970B;リケンテクノス社製のアクティマ-GA-1075N、アクティマ-LVG9541S;エクソンモービル社製のサントプレーン201-87、サントプレーン203-40;東洋紡社製のSarlink4190、Sarlink3190、Sarlink4155;JSR社製のEXCELINK1300B、EXCELINK1404B、EXCELINK1309B等が挙げられる。
【0025】
オレフィン系エラストマー(A)の含有率は、熱可塑性樹脂組成物の質量を基準として、50~80質量%である。含有率が50質量%以上であると、熱可塑性樹脂組成物及び成形体の製造適性の点で好ましい。含有率は、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは65質量%以上である。含有率が80質量%以下であると、電磁波吸収性の点で好ましい。含有率は、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは70質量%以下である。
【0026】
[エラストマー(B)]
熱可塑性樹脂組成物は、スチレン系エラストマー(B1)及びオレフィン系エラストマー(B2)からなる群から選択される少なくとも1種を含むエラストマー(B)を含有する。エラストマー(B)は、スチレン系エラストマー(B1)、オレフィン系エラストマー(B2)、又はスチレン系エラストマー(B1)とオレフィン系エラストマー(B2)の両方であり得る。
【0027】
(スチレン系エラストマー(B1))
スチレン系エラストマー(B1)は、スチレンとα-オレフィン及びジオレフィンからなる群から選択される少なくとも1種とのブロック共重合体であってよい。スチレンは置換又は非置換であってよく、好ましくは非置換である。α-オレフィンの例は後述のとおりである。ジオレフィン(ジエン)としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。スチレン系エラストマー(B1)は、スチレン系熱可塑性エラストマーであってよく、水添スチレン系熱可塑性エラストマーであってよい。
【0028】
スチレン系エラストマー(B1)において、スチレン構造の含有率は、スチレン系エラストマー(B1)の質量を基準として、例えば15~35質量%である。スチレン構造の含有率が15質量%以上であると、ハードセグメントであるスチレン構造の比率が高くなるため耐熱性の点で好ましい。スチレン構造の含有率は、好ましくは18質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上である。スチレン構造の含有率が35質量%以下であると、ソフトセグメントであるα-オレフィン構造の比率が高くなるため、柔軟性の点で好ましい。また、オレフィン系エラストマー(A)との相溶性が向上するため、電磁波吸収性の点で好ましい。スチレン構造の含有率は、好ましくは34質量%以下、より好ましくは32質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0029】
スチレン系エラストマー(B1)の溶液粘度は、例えば30mPa・s以上、好ましくは50mPa・s以上、より好ましくは100mPa・s以上、更に好ましくは200mPa・s以上である。溶液粘度が30mPa・s以上であると、耐熱性の点で好ましい。溶液粘度は、特に上限はないが、オレフィン系エラストマー(A)との相溶性の点から、1,000mPa・s以下又は500mPa・s以下であってよい。
【0030】
本発明の実施形態において、スチレン系エラストマー(B1)の溶液粘度は、スチレン系エラストマー(B1)を5質量%の濃度となるようにトルエン溶媒に溶解して得たトルエン溶液を使用し、温度30℃の雰囲気下でB型粘度計を用いて測定した値である。B型粘度計として、例えば、東機産業製「VISCOMETER TVB-10」を使用できる。
【0031】
スチレン系エラストマー(B1)は、耐熱性の点で、ハードセグメントであるスチレン構造と、ソフトセグメントである水添ポリジエン構造とのブロック共重合体であることが好ましい。
【0032】
スチレン系エラストマー(B1)として、例えば、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)、スチレンーブタジエンースチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン-ブタジエンブロック共重合体(SBSB)、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)等が挙げられる。スチレン系エラストマー(B1)は、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレンプロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、及びスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。耐熱性、電磁波吸収性、及び成形性の観点から、熱可塑性樹脂組成物は、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、及びスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましく、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)及びスチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが更に好ましい。
【0033】
スチレン系エラストマー(B1)の市販品として、例えば、株式会社クラレ製のセプトン4077、セプトン4055、セプトン8006、セプトン4044、セプトン2005;旭化成ケミカルズ製のタフテックH1221、タフテックH1041、タフテックH1051;クレイトンポリマー社製のKraton G1643M、Kraton G1645M、Kraton G1652H等が挙げられる。
【0034】
スチレン系エラストマー(B1)の含有率は、熱可塑性樹脂組成物の質量を基準として、15~35質量%である。含有率が15質量%以上であると、柔軟性の点で好ましい。含有率は、好ましくは16質量%以上、より好ましくは18質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。含有率が35質量%以下であると、耐熱性及び電磁波吸収性の点で好ましい。含有率は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは23質量%以下である。熱可塑性樹脂組成物がスチレン系エラストマー(B1)を含有すると、耐熱性が向上する。
【0035】
(オレフィン系エラストマー(B2))
オレフィン系エラストマー(B2)は、ISO37に準じ測定した引張破断伸び率が800%以上である。引張破断伸び率が800%以上であると、柔軟性及び電磁波吸収性の点で好ましい。引張破断伸び率は、1,000%以上であることが好ましい。引張破断伸び率は、特に上限はないが、1,500%以下であってよい。
【0036】
オレフィン系エラストマー(B2)は、未架橋又は部分架橋のエラストマーであることが好ましく、未架橋のエラストマーであることがより好ましく、例えば、オレフィンの単独重合体又はオレフィンの共重合体であってよい。オレフィンの共重合体は、例えば、少なくとも2種のα-オレフィンの共重合体であり、エチレンとα-オレフィンとの共重合体であってよく、更には、エチレンと少なくとも1種の炭素数3以上のα-オレフィンとの共重合体であってよい。オレフィン系エラストマー(B2)は、オレフィンとマレイン酸との共重合体や、オレフィンと(メタ)アクリル酸エステルの共重合体などであってもよい。
【0037】
α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-メチル-1-プロペン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、メチルエチル-1-ブテン、1-オクテン、メチル-1-ペンテン、エチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ヘキセン、プロピル-1-ヘプテン、メチルエチル-1-ヘプテン、トリメチル-1-ペンテン、プロピル-1-ペンテン、ジエチル-1-ブテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等が挙げられる。
【0038】
α-オレフィンとしては、市販での入手が容易であり、柔軟性に優れる1-ブテンを含むことが好ましい。
【0039】
オレフィン系エラストマー(B2)のメルトマスフローレイト(MFR)は、例えば0.1~50g/10minである。MFRは、好ましくは3g/10min以上であり、より好ましくは5g/10min以上であり、更に20g/10min以上であってもよい。特に、MFRが3g/10min以上であると、電磁波吸収性の点で好ましい。また、MFRは、好ましくは20g/10min以下であり、より好ましくは10g/10min以下である。特に、MFRが20g/10min以下であると、成形性及び耐熱性の点で好ましい。
【0040】
オレフィン系エラストマー(B2)として、例えば、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ヘキセン-1共重合体、エチレン-オクテン-1共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メタクリレート共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、ポリブテン、ポリイソブチレン、又はこれらのマレイン酸変性体等が挙げられる。容易に入手可能であることから、オレフィン系エラストマー(B2)としては、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体が好ましい。
【0041】
オレフィン系エラストマー(B2)の市販品として、例えば、三井化学製のタフマーPN-3560、MH-5010、PN-20300、MA9015、XM-7090;ダウ・ケミカル製のENGAGE8130、ENGAGE8200、ENGAGE8400等が挙げられる。
【0042】
オレフィン系エラストマー(B2)の含有率は、熱可塑性樹脂組成物の質量を基準として、15~35質量%である。含有率が15質量%以上であると、柔軟性の点で好ましい。含有率は、好ましくは16質量%以上、より好ましくは18質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。含有率が35質量%以下であると、耐熱性及び電磁波吸収性の点で好ましい。含有率は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは23質量%以下である。
【0043】
スチレン系エラストマー(B1)とオレフィン系エラストマー(B2)は併用することができるが、併用する場合は、柔軟性、耐熱性の点で、スチレン系エラストマー(B1)100質量%に対し、オレフィン系エラストマー(B2)100質量%未満であることが好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。
【0044】
エラストマー(B)の含有率は、熱可塑性樹脂組成物の質量を基準として、15~35質量%である。含有率が15質量%以上であると、柔軟性の点で好ましい。含有率は、好ましくは16質量%以上、より好ましくは18質量%以上、更に好ましくは20質量%以上である。含有率が35質量%以下であると、耐熱性及び電磁波吸収性の点で好ましい。含有率は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは23質量%以下である。「エラストマー(B)の含有率」は、エラストマー(B)がスチレン系エラストマー(B1)とオレフィン系エラストマー(B2)とを含有する場合は、両者の合計の含有率であり、いずれか一方のみを含有する場合は、当該一方の含有率である。
【0045】
[カーボンナノチューブ(C)]
カーボンナノチューブ(C)は、単層カーボンナノチューブ、2層又はそれ以上で巻いた多層カーボンナノチューブでも、これらが混在するものであってもよいが、コスト面及び強度面から多層カーボンナノチューブであることが好ましい。また、カーボンナノチューブの側壁がグラファイト構造ではなく、アモルファス構造をもったカーボンナノチューブを用いても構わない。
【0046】
カーボンナノチューブ(C)は、一般にレーザーアブレーション法、アーク放電法、化学気相成長法(CVD)、燃焼法などで製造できるが、どのような方法で製造したカーボンナノチューブでも構わない。特にCVD法は、通常、400~1000℃の高温下において、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、酸化チタン、珪酸塩、珪藻土、アルミナシリカ、シリカチタニア、及びゼオライトなどの担体に鉄やニッケルなどの金属触媒を担持した触媒微粒子と、原料の炭素含有ガスとを接触させることにより、カーボンナノチューブを安価に、かつ大量に生産することができる方法であり、本発明の実施形態に使用するカーボンナノチューブとしても好ましい。
【0047】
カーボンナノチューブ(C)は、走査型電子顕微鏡により求められる平均直径が1~30nmであることが好ましく、2~25nmであることがより好ましく、5~20nmであることが更に好ましい。この範囲であることで、熱可塑性樹脂組成物中のカーボンナノチューブの分散性が高く、成形体の電磁波吸収性能に優れる。
【0048】
カーボンナノチューブの平均直径は、走査型電子顕微鏡(例えば、日本電子(JEOL)社製、JSM-6700M))を用いて求められる。条件は、加速電圧5kVにてカーボンナノチューブを観察し、5万倍の画像(画素数1024×1280)を撮影し、次いで、撮影された画像にて任意のカーボンナノチューブ20個について、各々の短軸長を測定し、それら短軸長の数平均値をカーボンナノチューブの平均直径として算出する。
【0049】
市販のカーボンナノチューブとしては、例えば、Hanhwa Chemical hanos社製のCM-130、CM-250;SouthWest NanoTechnologies社製のSNW210;CNano社製のFlotube7000、Flotube3100;アルケマ社製のGraphistrengthC100等が挙げられる。
【0050】
カーボンナノチューブ(C)の含有率は、熱可塑性樹脂組成物の質量を基準として、0.5~5質量%である。含有率が0.5質量%以上であると、成形体内での電波伝達がスムーズになるため電磁波吸収性(特に透過損失)の点で好ましく、また、耐熱性の点で好ましい。含有率が5質量%以下であると、成形体表面で電波を取り込みやすくなり電磁波吸収性(特に反射損失)の点で好ましく、また、柔軟性の点で好ましい。含有率は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上である。含有率は、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下ある。
【0051】
[カーボンブラック(D)]
カーボンブラック(D)としては、気体もしくは液体の原料を反応炉中で連続的に熱分解し製造したファーネスブラック、特にエチレン重油を原料としたケッチェンブラック、原料ガスを燃焼させて、その炎をチャンネル鋼底面にあて急冷し析出させたチャンネルブラック、ガスを原料とし燃焼と熱分解を周期的に繰り返すことにより得られるサーマルブラック、及び、特にアセチレンガスを原料とするアセチレンブラック等の各種のものを単独で、若しくは2種類以上併せて使用することができる。通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、中空カーボン等も使用できる。
【0052】
カーボンブラック(D)は、走査型電子顕微鏡により求められる平均一次粒子径が20~60nmであることが好ましく、30~50nmであることがより好ましく、35~45nmであることが更に好ましい。この範囲であることで、射出成形や押出成形後、成形体内部に取り込まれたカーボンナノチューブ(C)同士が有効に導電パスを形成することができ、安定して高い導電性と電磁波吸収性を発現することが可能となる。
【0053】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、具体的には例えば、走査型電子顕微鏡(日本電子(JEOL)社製、JSM-6700M))を用いて求められる。条件は、加速電圧5kVにてカーボンブラックを観察し、5万倍の画像(画素数1024×1280)を撮影し、次いで、撮影された画像にて任意のカーボンブラック20個について、各々の粒子径を測定し、それらの数平均値をカーボンブラックの平均一次粒子径として算出する。
【0054】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、ニテロン#10、#200及び#300等の新日化カーボン社製ファーネスブラック;トーカブラック#4300、#4400、#4500、及び#5500等の東海カーボン社製ファーネスブラック;プリンテックスL等のデグサ社製ファーネスブラック;Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA、Conductex SC ULTRA、975ULTRA、PUER BLACK100、115、及び205等のコロンビヤン社製ファーネスブラック;#30B、#45、#2350、#2400B、#2600B、#30050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、及び#5400B等の三菱ケミカル社製ファーネスブラック;MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、及びBlackPearls2000等のキャボット社製ファーネスブラック;Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、及びSuperP-Li等のイメリス社製ファーネスブラック;ケッチェンブラックEC-300J、及びEC-600JD等のアクゾ社製ケッチェンブラック;デンカブラックHS-100、FX-35等の電気化学工業社製アセチレンブラック;カーボンECP、カーボンECP600JD等のライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製のケッチェンブラック等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0055】
カーボンブラック(D)の含有率は、熱可塑性樹脂組成物の質量を基準として、3~15質量%である。含有率が3質量%以上であると、成形体内での電波伝達がスムーズになるため電磁波吸収性(特に透過損失)の点で好ましく、また、耐熱性の点で好ましい。含有率が15質量%以下であると、成形体表面で電波を取り込みやすくなり電磁波吸収性(特に反射損失)の点で好ましく、また、柔軟性の点で好ましい。含有率は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上である。含有率は、好ましくは12質量%以下、より好ましくは10質量%以下ある。
【0056】
また、カーボンナノチューブ(C)とカーボンブラック(D)の含有比率は、カーボンナノチューブ(C)/カーボンブラック(D)=1/2~1/7であることが好ましく、1/3~1/5であることがより好ましい。上記範囲内にあることで、電磁波吸収性における反射損失、透過損失を両立することが可能となる。
【0057】
[その他の任意成分]
熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、オレフィン系ポリマー(A)及びエラストマー(B)以外のポリマー、電磁波吸収材料、耐候安定剤、帯電防止剤、染料、顔料、カップリング剤、結晶造核剤、樹脂充填材等のその他の任意成分を用いることができる。
【0058】
熱可塑性樹脂組成物は、揮発成分を含まないことが好ましい。熱可塑性樹脂組成物100質量%中、溶剤や低分子量成分等の揮発成分は5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0059】
[熱可塑性樹脂組成物の製造方法]
熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではない。例えば、オレフィン系エラストマー(A)と、エラストマー(B)、カーボンナノチューブ(C)と、カーボンブラック(D)と、更に必要に応じて添加剤等を加え、ヘンシェルミキサーやタンブラー、ディスパー等で混合し、ニーダー、ロールミル、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、シュギミキサー、バーティカルグラニュレーター、ハイスピードミキサー、ファーマトリックス、ボールミル、スチールミル、サンドミル、振動ミル、アトライター、バンバリーミキサーのような回分式混練機、二軸押出機、単軸押出機、ローター型二軸混練機等で混合や溶融混練し、ペレット状、粉体状、顆粒状あるいはビーズ状等の形状の樹脂組成物を得ることができる。溶融混練には二軸押出機を用いることが好ましい。
【0060】
<成形体>
本発明の実施形態によれば、成形体は、上記実施形態の熱可塑性樹脂組成物を用いて形成され、電磁波吸収体に用いられる。成形体は、熱可塑性樹脂組成物を成形機にて溶融して成形体の形状を形成し冷却することで得ることができる。成形機の温度は、オレフィン系エラストマー(A)及びエラストマー(B)が軟化する温度であれば問題ないが、好ましくは両者の軟化点より30℃以上高い温度である。成形体の形状として、板状、棒状、繊維、チューブ、パイプ、ボトル、フィルムなどを得ることができることが好ましい。
【0061】
成形方法は、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、トランスファー成形、T-ダイ成形やインフレーション成形のようなフィルム成形、カレンダー成形、紡糸等を用いることができる。
【0062】
電磁波吸収体は、入射した電磁波のエネルギーを吸収体内部で熱エネルギーに変換し、吸収する。電磁波シールド材とは異なり、電磁波吸収体では、成形体表面で電波を反射することなく、成形体内部で電波を吸収することを目的とする。電磁波吸収体は、高速道路の自動料金収受システム(ETC)、車載レーダー等の自動車分野や、空港等で防犯チェックとして衣服の下を透視する全身スキャナー、列車のワンマン運転時において、プラットホーム上の監視カメラの映像伝送等に用いられるミリ波レーダー装置、船舶マストのレーダー偽像防止等に用いられる。なかでも、本発明の実施形態における熱可塑性樹脂組成物により形成される成形体は、周波数60~90GHz帯のミリ波帯域の電磁波吸収性能にも優れるため、ミリ波レーダー装置に好適に用いることができる。
【実施例】
【0063】
以下に、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、以下の実施例は本発明を何ら制限するものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。また、表中の配合量は質量%であり、表中の空欄は配合していないことを表す。
【0064】
なお、オレフィン系エラストマー(A)及びオレフィン系エラストマー(B2)の引張破断伸び率及びMFR、スチレン系エラストマー(B1)の溶液粘度、カーボンナノチューブ(C)の平均直径、並びにカーボンブラック(D)の平均一次粒子径は次の方法で測定した。
【0065】
(オレフィン系ポリマー(A)及びオレフィン系エラストマー(B2)の引張破断伸び率)
引張破断伸び率は、ISO37に準じ測定した。具体的には、エラストマーを用いて作製した試験片(JIS K 6251:2017に従って作製したダンベル状3号形試験片)に対し、インストロン社製の材料試験機「3367」を用いて、温度23℃の雰囲気下で、引張速度500mm/minの条件で測定を行った。
【0066】
(オレフィン系ポリマー(A)及びオレフィン系ポリマー(B2)のMFR(メルトマスフローレイト))
MFRは、JIS K 7210:1999に準じ測定した。具体的には、東洋精機社製「メルトインデクサー」を用いて、温度230℃、荷重2.16kgfの条件で測定を行った。
【0067】
(スチレン系エラストマー(B1)の溶液粘度)
溶液粘度は、スチレン系エラストマー(B1)を5質量%の濃度となるようにトルエン溶媒に溶解して得た溶液を使用し、温度30℃の雰囲気下で東機産業製「B型粘度計VISCOMETER TVB-10」を用いて測定を行った。
【0068】
(カーボンナノチューブ(C)の平均直径)
走査型電子顕微鏡(日本電子(JEOL)社製、JSM-6700M)を用いて加速電圧5kVにてカーボンナノチューブを観察し、5万倍の画像(画素数1024×1280)を撮影した。次いで、撮影された画像にて任意のカーボンナノチューブ20個について、各々の短軸長を測定し、それら短軸長の数平均値をカーボンナノチューブの平均直径とした。
【0069】
(カーボンブラック(D)の平均一次粒子径)
走査型電子顕微鏡(日本電子(JEOL)社製、JSM-6700M)を用いて加速電圧5kVにてカーボンブラックを観察し、5万倍の画像(画素数1024×1280)を撮影した。次いで、撮影された画像にて任意のカーボンブラック20個について、各々の粒径を測定し、それらの数平均値をカーボンブラックの平均一次粒子径とした。
【0070】
実施例及び比較例で使用した材料は以下のとおりである。
(オレフィン系エラストマー(A))
【表1】
【0071】
【0072】
(オレフィン系エラストマー(B2))
【表2-2】
【0073】
【0074】
【0075】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
[実施例1]
オレフィン系エラストマー(A-1)、スチレン系エラストマー(B1-1)、カーボンナノチューブ(C-1)、及びカーボンブラック(D-1)を、表5に示す配合量(質量%)となるように混合して溶融混練し、二軸押出機(日本製鋼所社製)にて230℃で押出し、造粒し、熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0076】
[実施例2~22及び比較例1~8]
表5~7に示す材料と配合量(質量%)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法で熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0077】
<熱可塑性樹脂組成物の評価>
得られた熱可塑性樹脂組成物を下記の方法で評価した。結果を表5~7に示す。
【0078】
[成形体の作製]
熱可塑性樹脂組成物を用いて、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃の射出成形機(東芝機械社製)にて射出成形し、縦(射出方向)90mm、横(射出方向と垂直の方向)110mm、厚さ3mmの成形体を作製した。
【0079】
[電磁波吸収性能]
図1は、成形体の厚み方向に対して電磁波を入射させた際、電磁波の照射方向(x)、電界方向(y)、磁界方向(z)であり、
1.は透過減衰量TL(MD)、2.は反射減衰量RL(MD)の測定概念図である。
図1の1、2に示すように、得られた成形体を1日静置後に、電磁波の電界方向(図中y方向)が、射出方向と平行方向(MD方向)となる状態での反射減衰量RL(MD)、及び透過減衰量TL(MD)を測定した。
【0080】
(反射損失RL)
電磁波吸収性能の指標として、ミリ波周波数帯の反射損失(dB)を以下の方法で測定した。測定器としてVNA(Vector Network Analyzer)、測定治具としてAPC-7(関東電子応用開発社製)、アンテナとしてE-bandのアンテナ(WR-12)を使用し、自由空間法で測定を行った。具体的には、温度24.8℃、相対湿度48%の環境下で、実施例及び比較例で得られた成形体について、測定周波数76.5GHzにおける射出方向(MD方向)と電磁波の電界方向(
図1中y方向)が平行方向となる状態での反射損失を測定した。
【0081】
(透過損失TL)
電磁波吸収性能の指標として、ミリ波周波数帯の透過損失(dB)を以下の方法で測定した。測定器としてVNA(Vector Network Analyzer)、測定治具としてAPC-7(関東電子応用開発社製)、アンテナとしてE-bandのアンテナ(WR-12)を使用し、自由空間法で測定を行った。具体的には、温度24.8℃、相対湿度48%の環境下で、実施例及び比較例で得られた成形体について、測定周波数76.5GHzにおける射出方向(MD方向)と電磁波の電界方向(
図1中y方向)が平行方向となる状態での透過損失を測定した。
【0082】
電磁波吸収性能の評価は下記の基準で行った。
〇(良好):反射損失が-5dB以下でかつ透過損失が-15dB以下
△(実用可):反射損失が-4dB以下でかつ透過損失が-10dB以下
×(実用不可):反射損失が-4dBより大きいまたは透過損失が-10dBより大きい
【0083】
[柔軟性]
柔軟性の指標として、ISO 7619-1:2010に準じ、高分子計器製デュロメータ硬度計(D型)を用いてショアD硬度の測定を行った。
上記方法で得られた厚み3mmの成型体を2枚重ねた試験片に押針を接触させ、5秒後の目盛を読み取ることでショアD硬度(5秒後)を測定した。
(評価基準)
〇(良好):ショアD硬度(5秒後)が40未満
△(実用可):ショアD硬度(5秒後)が40以上、50未満
×(実用不可):ショアD硬度(5秒後)が50以上
【0084】
[耐熱性]
耐熱性の指標として、ISO 178:2019に準じ、安田精機製ヒートデステーションテスターを用いて、荷重たわみ温度の測定を行った。
熱可塑性樹脂組成物を用いて、シリンダー設定温度220℃、金型温度40℃の射出成型機(東芝機械社製)にて射出成形し、ISO 10724-1:1998に従って多目的試験片(厚さ4mm)を作製した。多目的試験片を用いて、荷重0.45MPaの条件で荷重たわみ温度を測定した。
(評価基準)
〇(良好):荷重たわみ温度50℃以上
△(実用可):荷重たわみ温度40℃以上、50℃未満
×(実用不可):荷重たわみ温度40℃未満
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
上記の評価結果より、本発明の熱可塑性樹脂組成物ならびにそれを用いた成形体は、良好な電磁波吸収性と柔軟性とを有し、更に耐熱性にも優れている結果が確認できた。なかでも、ミリ波と呼ばれる特定周波数60~90GHz帯の反射損失及び透過損失に優れるため、ミリ波吸収体用成形体としても好適に用いることができるといえる。
【要約】
【課題】良好な電磁波吸収性と柔軟性とを有し、更に耐熱性にも優れた成形体を得ることができる電波吸収体用熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の一実施形態は、ISO37に準じ測定した引張破断伸び率が400~700%であるオレフィン系エラストマー(A)50~80質量%、スチレン系エラストマー(B1)及びISO37に準じ測定した引張破断伸び率が800%以上であるオレフィン系エラストマー(B2)からなる群から選択される少なくとも1種を含むエラストマー(B)15~35質量%、カーボンナノチューブ(C)0.5~5質量%、並びにカーボンブラック(D)3~15質量%を含有する、電磁波吸収体用熱可塑性樹脂組成物に関する。
【選択図】なし