(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】衛星を用いた測位方法及び測位装置
(51)【国際特許分類】
G01S 19/08 20100101AFI20241015BHJP
G01S 19/28 20100101ALI20241015BHJP
G01S 19/43 20100101ALI20241015BHJP
【FI】
G01S19/08
G01S19/28
G01S19/43
(21)【出願番号】P 2020068055
(22)【出願日】2020-04-06
【審査請求日】2022-12-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592061599
【氏名又は名称】株式会社近計システム
(73)【特許権者】
【識別番号】591260672
【氏名又は名称】中電技術コンサルタント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095267
【氏名又は名称】小島 高城郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124176
【氏名又は名称】河合 典子
(74)【代理人】
【識別番号】100224269
【氏名又は名称】小島 佑太
(72)【発明者】
【氏名】高池 康智
(72)【発明者】
【氏名】森安 貞夫
(72)【発明者】
【氏名】荒木 義則
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/208592(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0302148(US,A1)
【文献】特開2014-215167(JP,A)
【文献】特開2012-058185(JP,A)
【文献】国際公開第2012/176723(WO,A1)
【文献】特開2017-182692(JP,A)
【文献】国際公開第2006/132003(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/171633(WO,A1)
【文献】特開2018-179734(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S19/00-19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定点及び基準点において複数の衛星からそれぞれ受信する電波を用いて初期化演算ステップと測位演算ステップとを有するRTK法により測定点の測位を行う測位方法において、
前記初期化演算ステップの前に、又は、前記初期化演算ステップと前記測位演算ステップとの間に、その後の演算に利用する衛星を選択するために実行される衛星選択ステップを有し、前記衛星選択ステップが、
恒星日毎に周期性のある周期性衛星以外の衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除するステップと、
各前記周期性衛星について、
測定点における電波の搬送波電力対雑音電力密度比であるCN
0を検出し記憶するステップと、
各前記周期性衛星について、検出されたCN
0を、1又は複数の恒星日前の記憶されたCN
0と比較し、所定値以上の差があるか否かを判定するステップと、
CN
0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除するステップと、を有することを特徴とする衛星を用いた測位方法。
【請求項2】
測定点及び基準点において複数の衛星からそれぞれ受信する電波を用いて初期化演算ステップと測位演算ステップとを有するRTK法により測定点の測位を行う測位方法において、
前記初期化演算ステップの前に、又は、前記初期化演算ステップと前記測位演算ステップとの間に、その後の演算に利用する衛星を選択するために実行される衛星選択ステップを有し、前記衛星選択ステップが、
恒星日毎に周期性のある周期性衛星以外の衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除するステップと、
各前記周期性衛星について、
測定点における電波の搬送波電力対雑音電力密度比であるCN
0を検出し記憶するステップと、
各前記周期性衛星について、検出されたCN
0を、1又は複数の恒星日前の記憶されたCN
0と比較し、所定値以上の差があるか否かを判定するステップと、
CN
0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星について、基準点における同一タイミングのCN
0と、測定点と同じ1又は複数の恒星日前の基準点におけるCN
0との差を取得するステップと、
CN
0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星について、当該CN
0の差が基準点におけるCN
0の差と同じであるか否かを判定するステップと、
CN
0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星のうち、当該CN
0の差が基準点におけるCN
0の差と同じではないと判定された周期性衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除するステップと、を有することを特徴とする衛星を用いた測位方法。
【請求項3】
前記衛星選択ステップが、
測定点の周囲環境情報に基づいて、測定点における排除対象の方位範囲を決定するステップと、
決定された前記方位範囲に該当する衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除するステップと、をさらに有することを特徴とする請求項1又は2に記載の衛星を用いた測位方法。
【請求項4】
前記初期化演算ステップと前記測位演算ステップとを、一定時間の間隔で行うことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の衛星を用いた測位方法。
【請求項5】
前記測位演算ステップが、
利用する周期性衛星のうち5個以上の周期性衛星を含む全ての組合せについて、所定の時間範囲内に所定の時間間隔毎の電波を用いて測位演算を行うステップと、
各前記組合せにおける前記時間間隔毎の測位演算結果について1恒星日前との差分である変位量を計算し、前記時間範囲内の変位量の平均を計算するステップと、
変位量が閾値以上の組合せが過半数以上であるか否かを判定するステップと、
変位量が閾値以上の組合せが過半数以上でない場合、変位なしと判定するステップと、を有することを特徴とする
請求項1~4のいずれかに記載の衛星を用いた測位方法。
【請求項6】
変位量が閾値以上の組合せが過半数以上である場合、特定の周期性衛星を含む組合せのみが閾値を超えているか否かをさらに判定するステップと、
特定の周期性衛星を含む組合せのみが閾値を超えているのではない場合、変位ありと判定するステップと、を有することを特徴とする
請求項5に記載の衛星を用いた測位方法。
【請求項7】
測定点及び基準点において複数の衛星からそれぞれ受信する電波を用いて、RTK法により測定点の測位を行うべく初期化演算を行う初期化演算部と測位演算を行う測位演算部とを有する測位装置において、
初期化演算の前に、又は、初期化演算と測位演算との間に、その後の演算に利用する衛星の選択を行う衛星選択部を有し、前記衛星選択部が、
恒星日毎に周期性のある周期性衛星以外の衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する手段と、
各前記周期性衛星について、
測定点における電波の搬送波電力対雑音電力密度比であるCN
0を検出して記憶する手段と、
各前記周期性衛星について、検出されたCN
0を、1又は複数の恒星日前の記憶されたCN
0と比較し、所定値以上の差があるか否かを判定する手段と、
CN
0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する手段と、を有することを特徴とする衛星を用いた測位装置。
【請求項8】
測定点及び基準点において複数の衛星からそれぞれ受信する電波を用いて、RTK法により測定点の測位を行うべく初期化演算を行う初期化演算部と測位演算を行う測位演算部とを有する測位装置において、
前記初期化演算の前に、又は、前記初期化演算と前記測位演算との間に、その後の演算に利用する衛星を選択するために実行される衛星選択部を有し、前記衛星選択部が、
恒星日毎に周期性のある周期性衛星以外の衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する手段と、
各前記周期性衛星について、
測定点における電波の搬送波電力対雑音電力密度比であるCN
0を検出して記憶する手段と、
各前記周期性衛星について、検出されたCN
0を、1又は複数の恒星日前の記憶されたCN
0と比較し、所定値以上の差があるか否かを判定する手段と、
CN
0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星について、基準点における同一タイミングのCN
0と、測定点と同じ1又は複数の恒星日前の基準点におけるCN
0との差を取得する手段と、
CN
0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星について、当該CN
0の差が基準点におけるCN
0の差と同じであるか否かを判定する手段と、
CN
0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星のうち、当該CN
0の差が基準点におけるCN
0の差と同じではないと判定された周期性衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する手段と、を有することを特徴とする衛星を用いた測位装置。
【請求項9】
前記衛星選択部が、
測定点の周囲環境情報に基づいて、測定点における排除対象の方位範囲を決定する手段と、
決定された前記方位範囲に含まれる衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する手段と、をさらに有することを特徴とする請求項7又は8に記載の衛星を用いた測位装置。
【請求項10】
前記初期化演算及び前記測位演算を行うために、一定時間の間隔でウェークアップする手段と、
ウェークアップ後に前記初期化演算及び前記測位演算を含む一連の処理を実行し、完了後にスリープ状態とする手段と、をさらに有することを特徴とする請求項7~9のいずれかに記載の衛星を用いた測位装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星を用いた測位方法及び測位装置に関する。
【背景技術】
【0002】
斜面崩壊の監視においては、前兆となる地表面の動きが小さいため数mmの変位を捉える必要がある。地表面の変位を捉えるために、GNSS(Global Navigation Satellite System)を用いた測位技術を利用することが知られている。測位技術の中で、キネマティック法の一種であるRTK(Real Time Kinematic)法は、リアルタイムに高精度測位が可能である。特許文献1には、RTK法を用いてmmレベルの測定精度を実現する測位方法が開示されている。特許文献1の方法では、測定時と、測定時から恒星日の整数倍異なる時点である基準時において、双方の時点に共通する衛星の組合せを用いてそれぞれ算出された位置情報の差から変位を測定する。
【0003】
RTK法は、測定点と基準点でそれぞれ受信する電波の行路差に対応する整数値バイアスを確定する(Fix解を得る)初期化演算ステップと、その後に測定点の位置を計測する測位演算ステップの2段階の演算工程から構成される。初期化時間は、空が開けている場所では10~30秒であるが、周囲に構造部等の障害物が存在すると、反射波に起因するマルチパスの影響によってミスFixや初期化に数分を要する等の問題を生じる。非特許文献1では、信号の質の悪い衛星を排除することで測位結果を改善している。具体的には、マルチパスノイズが大きい低い仰角の衛星を排除する仰角マスク、受信感度の低い衛星を排除するCN0(搬送波電力対雑音電力密度比)マスク、衛星システムの選択、測位開始タイミングの選択等である。測位開始タイミングの選択は、特定の衛星で起きるサイクルスリップの見逃しを改善する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「測位計算ソフトウェアの設定変更による測位性改善」土木学会論文集F3(土木情報学),Vol. 72, No. 2, II_47-II_54,2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
斜面崩壊の監視は、24時間連続監視が必要である上、推定される斜面領域に十分な数の測定点を設置する必要があり、また、斜面崩壊の監視場所は、通常、電源確保が困難である。したがって、バッテリや太陽電池等を用いた長期計測を行うことになり、電力消費を抑制できるシステムが好ましい。さらに、斜面崩壊の監視場所は、空が開けていない山間部が多いため、RTK法の初期化に時間を要することになるが、電力消費の観点から初期化を早く終えることが望ましい。
【0007】
上述した衛星の仰角マスク、CN0マスク、衛星システムの選択等は、いずれもノイズの大きい特定の衛星を排除することによって初期化時間を短縮している。しかしながら、いずれの衛星排除方法も、初期化演算又は測位演算を実行する前に、当該方法を適用すべきかが否かを判定できないという問題がある。従来は、初期化演算又は測位演算の時間短縮のため、1又は複数の衛星排除方法が適用される。
【0008】
上記の問題点に鑑み、本発明は、周期性衛星からの電波を用いてRTK法による演算により測定点の測位を行う測位方法及び測位装置において、演算に利用する衛星の中から排除すべき衛星を効率的に選択でき、演算時間を短縮しかつ精度のよい測位を行えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の問題を解消するべく、本発明は、以下の構成を提供する。
・ 本発明による衛星を用いた測位方法の態様は、測定点及び基準点において複数の衛星からそれぞれ受信する電波を用いて初期化演算ステップと測位演算ステップとを有するRTK法により測定点の測位を行う測位方法において、
前記初期化演算ステップの前に、又は、前記初期化演算ステップと前記測位演算ステップとの間に、その後の演算に利用する衛星を選択するために実行される衛星選択ステップを有し、前記衛星選択ステップが、
恒星日毎に周期性のある周期性衛星以外の衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除するステップと、
各前記周期性衛星について、測定点における電波の搬送波電力対雑音電力密度比であるCN0を検出し記憶するステップと、
各前記周期性衛星について、検出されたCN0を、1又は複数の恒星日前の記憶されたCN0と比較し、所定値以上の差があるか否かを判定するステップと、
CN0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除するステップと、を有することを特徴とする。
・ 本発明による衛星を用いた測位方法の別の態様は、測定点及び基準点において複数の衛星からそれぞれ受信する電波を用いて初期化演算ステップと測位演算ステップとを有するRTK法により測定点の測位を行う測位方法において、
前記初期化演算ステップの前に、又は、前記初期化演算ステップと前記測位演算ステップとの間に、その後の演算に利用する衛星を選択するために実行される衛星選択ステップを有し、前記衛星選択ステップが、
恒星日毎に周期性のある周期性衛星以外の衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除するステップと、
各前記周期性衛星について、測定点における電波の搬送波電力対雑音電力密度比であるCN0を検出し記憶するステップと、
各前記周期性衛星について、検出されたCN0を、1又は複数の恒星日前の記憶されたCN0と比較し、所定値以上の差があるか否かを判定するステップと、
CN0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星について、基準点における同一タイミングのCN0と、測定点と同じ1又は複数の恒星日前の基準点におけるCN0との差を取得するステップと、
CN0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星について、当該CN0の差が基準点におけるCN0の差と同じであるか否かを判定するステップと、
CN0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星のうち、当該CN0の差が基準点におけるCN0の差と同じではないと判定された周期性衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除するステップと、を有することを特徴とする。
・ 上記いずれかの方法の態様において、前記衛星選択ステップが、
測定点の周囲環境情報に基づいて、測定点における排除対象の方位範囲を決定するステップと、
決定された前記方位範囲に該当する衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除するステップと、をさらに有することが、好適である。
・ 上記いずれかの方法の態様において、前記初期化演算ステップと前記測位演算ステップとを、一定時間の間隔で行うことが、好適である。
・ 上記いずれかの方法の態様において、前記測位演算ステップが、
利用する周期性衛星のうち5個以上の周期性衛星を含む全ての組合せについて、所定の時間範囲内に所定の時間間隔毎の電波を用いて測位演算を行うステップと、
各前記組合せにおける前記時間間隔毎の測位演算結果について1恒星日前との差分である変位量を計算し、前記時間範囲内の変位量の平均を計算するステップと、
変位量が閾値以上の組合せが過半数以上であるか否かを判定するステップと、
変位量が閾値以上の組合せが過半数以上でない場合、変位なしと判定するステップと、を有することが、好適である。
・ 上記いずれかの方法の態様において、変位量が閾値以上の組合せが過半数以上である場合、特定の周期性衛星を含む組合せのみが閾値を超えているか否かをさらに判定するステップと、
特定の周期性衛星を含む組合せのみが閾値を超えているのではない場合、変位ありと判定するステップと、を有することが、好適である。
・ 本発明による衛星を用いた測位装置の態様は、測定点及び基準点において複数の衛星からそれぞれ受信する電波を用いて、RTK法により測定点の測位を行うべく初期化演算を行う初期化演算部と測位演算を行う測位演算部とを有する測位装置において、
初期化演算の前に、又は、初期化演算と測位演算との間に、その後の演算に利用する衛星の選択を行う衛星選択部を有し、前記衛星選択部が、
恒星日毎に周期性のある周期性衛星以外の衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する手段と、
各前記周期性衛星について、測定点における電波の搬送波電力対雑音電力密度比であるCN0を検出して記憶する手段と、
各前記周期性衛星について、検出されたCN0を、1又は複数の恒星日前の記憶されたCN0と比較し、所定値以上の差があるか否かを判定する手段と、
CN0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する手段と、を有することを特徴とする。
・ 本発明による衛星を用いた測位装置の別の態様は、測定点及び基準点において複数の衛星からそれぞれ受信する電波を用いて、RTK法により測定点の測位を行うべく初期化演算を行う初期化演算部と測位演算を行う測位演算部とを有する測位装置において、
前記初期化演算の前に、又は、前記初期化演算と前記測位演算との間に、その後の演算に利用する衛星を選択するために実行される衛星選択部を有し、前記衛星選択部が、
恒星日毎に周期性のある周期性衛星以外の衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する手段と、
各前記周期性衛星について、測定点における電波の搬送波電力対雑音電力密度比であるCN0を検出して記憶する手段と、
各前記周期性衛星について、検出されたCN0を、1又は複数の恒星日前の記憶されたCN0と比較し、所定値以上の差があるか否かを判定する手段と、
CN0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星について、基準点における同一タイミングのCN0と、測定点と同じ1又は複数の恒星日前の基準点におけるCN0との差を取得する手段と、
CN0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星について、当該CN0の差が基準点におけるCN0の差と同じであるか否かを判定する手段と、
CN0に所定値以上の差があると判定された周期性衛星のうち、当該CN0の差が基準点におけるCN0の差と同じではないと判定された周期性衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する手段と、を有することを特徴とする。
・ 上記いずれかの装置の態様において、前記衛星選択部が、
測定点の周囲環境情報に基づいて、測定点における排除対象の方位範囲を決定する手段と、
決定された前記方位範囲に含まれる衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する手段と、をさらに有することが、好適である。
・ 上記いずれかの装置の態様において、前記初期化演算及び前記測位演算を行うために、一定時間の間隔でウェークアップする手段と、
ウェークアップ後に前記初期化演算及び前記測位演算を含む一連の処理を実行し、完了後にスリープ状態とする手段と、をさらに有することが、好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、GNSSを用いた測位方法及び測位装置において、RTK法による演算に利用する衛星の中から排除すべき衛星を効率的に判別できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態の測位装置を含む測位システム全体の一例を概略的に示す構成図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態の測位方法の一例を概略的に示したフロー図である。
【
図4】
図4は、
図2及び
図3に示した測位方法の変形例を概略的に示すフロー図である。
【
図5】
図5は、本発明の第2の実施形態の測位装置を含む測位システム全体の一例を概略的に示す構成図である。
【
図6】
図6は、第2の実施形態における測位方法の一例を概略的に示したフロー図である。
【
図7】
図7は、本発明の第3の実施形態の測位装置を含む測位システム全体の一例を概略的に示す構成図である。
【
図8】
図8は、第3の実施形態の測位方法の一例を概略的に示したフロー図である。
【
図9】
図9は、本発明の第4の実施形態の測位装置を含む測位システム全体の一例を概略的に示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施例を示した図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。図面においては、各実施形態における同じ又は類似の構成要素に同じ符号を付している。
【0013】
測位法の一つであるRTK法では、測定点で受信される電波と基準点(既知点)で受信される電波の行路差に対応する整数値バイアスを確定する初期化演算ステップと、その後、測定点の位置を計測する測位演算ステップの2段階の演算工程から構成される。
【0014】
(1)第1の実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態の測位装置を含む測位システム全体の一例を概略的に示す構成図である。測定点に設けられる移動局システム1は、アンテナ10、受信装置20及び移動局端末30を有する。ここでは、移動局端末30が本発明の測位装置に相当する。
【0015】
移動局システム1におけるアンテナ10は、測定点に設置される。アンテナ10は、例えば、高周波増幅器を内蔵し、測定点において複数の衛星S1、S2..から電波(搬送波)を受信し、増幅した後、アンテナ10に接続された受信装置20に送信する。受信装置20は、例えば、高周波増幅回路、コード復調回路、デジタル信号処理回路等から構成されており、受信した電波に所定の付加データを追加して、移動局端末30に送信する。一例として、受信装置20を移動体端末30に組み込み、一体の装置とすることもできる。
【0016】
移動局端末30は、中央処理装置31を備える。中央処理装置31は、図示しないが、CPUとRAM等のメモリを有し、CPUが所定のアプリケーションをメモリに読み込み実行することによって、本発明の測位装置の各機能を実現する演算処理を行う。中央処理装置31は、主な機能処理部として、衛星選択部1A、初期化演算部1B、測位演算部1C及び変位判定部1Dを有する。
【0017】
衛星選択部1Aは、その後の初期化演算部1B及び測位演算部1Cにおける演算に利用する衛星を適切に選択する機能を有する。初期化演算部1Bは、利用する衛星の電波を用いて初期化演算を行ってFix解を得る機能を有する。測位演算部1Cは、利用する衛星の電波を用いて測定点の位置座標を演算する機能を有する。変位判定部1Dは、測定点の位置の変位の有無を判定する機能を有する。各機能処理部の詳細は、後述する
図2及び
図3を参照して測位方法と共に説明する。
【0018】
移動局端末30はさらに、好ましくは無線通信機能を備えた通信装置32、処理状況及び処理結果等を表示する表示装置33、受信した電波及び演算結果データ等の種々のデータを保存するための記憶装置34を有する。これらの各装置32、33、34も中央処理装置31によって制御される。
【0019】
移動局端末30は、本発明の機能のみを組み込んだ専用装置として実施できる。しかしながら、例えばパーソナルコンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン等に所定のアプリケーションを導入することによっても実施することができる。移動局端末30は、ユーザによって容易に携帯可能であることが好ましい。
【0020】
一方、基準点に設けられる基準局システム5は、アンテナ51と、受信装置52と、通信装置53とを有する。
【0021】
基準点におけるアンテナ51は、位置座標が既に判明している基準点に設置される。アンテナ51も、例えば高周波増幅器を内蔵し、基準点において複数の衛星S1、S2..から電波(搬送波)を受信し、増幅した後、アンテナ51に接続された受信装置52に送信する。受信装置52は、受信装置20と同様の構成を有しており、受信した電波に所定のデータを付加して通信装置53に送信する。基準点の通信装置53と、測定点の移動局端末30の通信装置32は、例えば無線通信ネットワークによってデータ伝送可能に接続されており、基準点の電波はリアルタイムで移動局端末30に送信することができる。
【0022】
図2及び
図3は、第1の実施形態の測位方法の一例を概略的に示したフロー図である。
ステップ101において、移動局端末30がウェークアップされる。斜面崩壊の監視等のために使用される場合は電源確保が困難であることが多いため、移動局端末30は、バッテリを電源とすることが好ましい。したがって、電力消費を抑制するために、移動局端末30が、連続的ではなく断続的に測位を行うことが好ましい。移動局端末30は、例えば30分毎にウェークアップされ、測位の一連の手順を完了したならばスリープ状態とされる。スリープ状態では、ウェークアップ用の制御機能のみを稼動させ、それ以外の機能を停止させる。斜面崩壊の監視の場合、ウェークアップの間隔は60分毎が好ましい。RTK法による測位の一連の手順は、初期化を1分以内、その後の測位計測を3分以内で完了することが好ましい。なお、ウェークアップの間隔は60分毎に限られず、必要に応じて、例えば30分毎など、一定時間の間隔とすることができる。電力供給に支障がない場合は、連続的に測位することもできる。図示しないが、移動局端末30と通信ネットワークを介して通信可能な遠隔端末から移動局端末30をウェークアップさせることも可能である。そのような遠隔端末から移動局端末30に制御信号を送信することにより、ウェークアップ間隔を設定及び変更することも可能である。
【0023】
ウェークアップ後、移動局端末30は、そのタイミングにアンテナ10が受信する全ての衛星からの電波の受信を開始すると共に、基準局システム5から送信される電波の受信を開始する。基準局システム5からの電波は、同一タイミングに同じ全ての衛星からアンテナ51が受信したものである。なお、本明細書における「タイミング」の用語は、衛星の周期中の一つの時点を意味する。
【0024】
ステップ102~105の処理は、衛星選択部1Aによって行われる。衛星選択部1Aは、その後の初期化演算及び測位演算においてその電波を利用すべきでない衛星を排除するために行われる。これは、ステップ106、107の初期化演算ステップの前に行われる。利用すべきでない電波とは、ノイズが多く質の悪い電波である。そのような電波は、初期化完了の遅延又は不能、ミスFix、位置精度の低下などの要因となる。
【0025】
ステップ102において、恒星日毎に周期性のある複数の衛星(以下「周期性衛星」と称する)以外の衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する。周期性衛星は、毎恒星日の周期中の同一タイミングに同じ位置となる衛星である。本発明の測位方法では、周期性衛星のみを利用してRTK法を適用する。
【0026】
GPS、QZSSなどのGNSSの衛星は、1恒星日毎に同じ位置に配置される。また、静止衛星(SBASや準天頂衛星3号機、BeiDouのGEO等)も、常に同じ位置に配置されるので周期性衛星に含まれるものとする。アンテナが1恒星日前の周期中の同一タイミングに同じ位置にあれば、これらの衛星からの電波に対するマルチパスや障害物による影響に関して同じ状況が再現されるはずである。したがって、電波を取得する毎に、その電波を、受信したタイミングの、例えば1恒星日前の電波と比較することによって、条件の変化した衛星を判別することができる。別の例として、1恒星日前に替えて、複数恒星日前とすることもできる。例えば、2恒星日前、7恒星日前などである。あるいは、測定点に移動局を設置した当初に、連続した1恒星日に亘って電波を受信し記憶しておき、その記憶された電波の連続データのうちの同じタイミングの電波を比較基準として用いることもできる。以下、本例では、1恒星日前の電波と比較する場合について説明する。ここで、搬送波電力対雑音電力密度比CN0は、衛星からの電波の強度を表しており、障害物の変動によるマルチパスの変化や電波の遮断があると変化する。本発明では、CN0を電波に対する影響の評価パラメータとして利用する。
【0027】
ステップ103において、各周期性衛星の電波に基づいてCN0を検出する。そして検出されたCN0を、電波を受信したタイミングと対応付けて記憶装置34に記憶する。CN0は、以下のように定義される。
CN0=C/N0
C:搬送波電力
N0:雑音電力密度
単位:dBHz
【0028】
ステップ104において、ステップ103で検出された各周期性衛星のCN0を、1恒星日前の当該周期性衛星のCN0と比較する。1恒星日前のCN0は、記憶装置34に記憶されている。比較によって、双方の間に所定値以上の差があるか否かを、例えば1dBHz以上の差があるか否かを判定する。所定値以上の差が無い場合は、そのまま初期化演算に進む。
【0029】
ステップ104でCN0に所定値以上の差がある場合は、その周期性衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する。そして、残りの周期性衛星の電波を用いた初期化演算に進む。
【0030】
1恒星日の前後におけるCN0の差を評価パラメータとして衛星選択を行うことによって、利用可能な周期性衛星を初期化演算の前に選択することができる。これによって、初期化演算におけるミスFixの回避及び初期化時間の短縮が可能となる。さらに、精度悪化の要因となる衛星を排除することによって、その後の測位演算結果のばらつきを予め抑制することができる。1恒星日前からCN0に変化のない衛星を利用して測位することによって、アンテナ10の位置及び変位した距離を高精度に計測することができる。
【0031】
ステップ106、107の処理は、初期化演算部1Bによって行われる。ステップ106において、衛星選択部1Aによって選択された、利用する全ての周期性衛星の電波を用いて初期化演算を行う。ステップ107においてRTK法におけるFix解を得る。移動局端末30が30分毎にウェークアップする場合、初期化演算において1分以内にFix解を得ることが好ましい。初期化後に数cmの精度となったところで次のステップの測位計測を行う。
【0032】
ステップ108、109は、測位演算部1Cによって行われる。ステップ108、109において測定点における測位計測を行う。ステップ108では、衛星選択部1Aによって選択された(すなわち初期化演算に用いた)、利用する全ての周期性衛星の電波(ここでは「計測データ」と称する)を取得する。例えば、1秒毎に計測データを取得し、3分間の計測を行う。n個の周期性衛星を利用する場合、1秒毎にn個の計測データが得られ、3分間にn×180個の計測データが得られる。計測データは、電波を受信したタイミングと対応付けられて記憶装置34に記憶される。
【0033】
ステップ109では、ステップ108で得られた計測データを用いた測位演算を行って位置座標を算出する。好ましくは、n個の周期性衛星を利用する場合、5個以上の全ての組合せについて測位演算を行う。5個以上の全ての組合せの数は、nCk(kは5以上n以下の自然数)個である。この結果、各組合せについて、3分間の1秒毎の位置座標が得られる。この段階で得られた位置座標は、測定点の仮の位置座標として記憶装置34に保存しておく。
【0034】
図3のステップ110~117は、変位判定部1Dによって行われる。ステップ110~117において、測定点における1恒星日前からの変位を判定する。ステップ110では、衛星の各組合せについて、1秒毎の位置座標の、1恒星日前の周期中の同一タイミングの位置座標との差分すなわち変位量を計算する。すなわち、同じ衛星の組合せにおける1恒星日前の位置座標との差分を導出する。同じ衛星の組合せとすることによってマルチパスの影響を除去して変位のみを抽出することができる。ステップ111では、各組合せについて、3分間における1秒毎の変位量の平均を計算する。
【0035】
ステップ112において、全ての組合せの各々の変位量を閾値(例えば3mm)と比較し、変位量が閾値を超えている組合せが過半数以上であるか否かを判定する。閾値を超えている組合せが過半数以上でない場合は、ステップ113において「変位なし」と判定すると共に、上記ステップ109で得た各組合せの仮の位置座標から、3分間の時間的な平均及び全ての組合せの平均を計算するなどによって、測定点の位置座標を確定する。
【0036】
一方、ステップ112において、変位量が閾値を超えている組合せが過半数以上である場合、さらにステップ114において、特定の衛星を含む組合せのみが閾値を超えているか否かを判定する。特定の衛星を含む組合せのみが閾値を超えている場合は、当該特定の衛星は測位に利用するには不適切な衛星であると判定し、ステップ115において当該特定の衛星を含む組合せを排除する。そして、ステップ116において、再度、変位量が閾値を超えている組合せが過半数以上であるか否かを判定する。
【0037】
ステップ116において、変位量が閾値を超えている組合せが過半数以上である場合、ステップ117において「変位あり」と判定する。そして、上記ステップ109で得た各組合せの仮の位置座標から、この段階で残っている組合せのみを用いて測定点の位置座標を確定すると共に、測定点の変位量も確定する。
【0038】
ステップ114おいて、特定の衛星を含む組合せのみが閾値を超えているのではない場合、ステップ117において「変位あり」と判定し、測定点の位置座標及び変位量を確定する。
【0039】
ステップ116において、変位量が閾値を超えている組合せが過半数以上でない場合は、ステップ113において「変位なし」と判定すると共に測定点の位置座標を確定する。
【0040】
測定点の位置座標の確定、又は、測定点の位置座標及び変位量の確定後、移動局端末30をスリープ状態とする。
【0041】
図4は、
図2及び
図3に示した測位方法の変形例を概略的に示すフロー図である。
図2及び
図3のフロー図とは異なる点のみを説明する。
図4の測位方法では、
図1の衛星選択部1Aと初期化演算部1Bの各々による処理を、
図2の測位方法とは逆の順序で行う。すなわち、ステップ401、402において、先ず、受信した全ての衛星の電波を用いて初期化演算を行ってRTKのFix解を得る。その後、ステップ403~406において、
図2のステップ102~105と同様にCN
0を評価パラメータとして衛星選択を行う。それ以降の測位演算部1C及び変位判定部1Dによる処理は、
図2及び
図3と同様である。
【0042】
図4の変形例の測位方法では、初期化演算ステップと測位演算ステップの間に衛星選択を行うことによって、その後の測位演算に利用可能な周期性衛星を、測位演算ステップの前に選択することができる。これによって、その後の測位演算結果のばらつきを予め抑制することができる。
【0043】
図示しないが、本発明の測位方法は、さらに従来技術である仰角マスク、CN0マスク、衛星システムの選択、測位開始タイミングの選択等を用いて不適切な衛星の排除を行うことを組み合わせることができる(以下の実施形態においても同様)。これらの従来技術は、初期化演算ステップ又は測位演算ステップの開始後又は完了後に、演算状況及び演算結果に基づいて実行される。
【0044】
(2)第2の実施形態
図5は、本発明の第2の実施形態の測位装置を含む測位システム全体の一例を概略的に示す構成図である。測定点に設けられる移動局システム1は、アンテナ10、受信装置20及び移動局端末30を有する。ここでも、移動局端末30が本発明の測位装置に相当する。移動局システム1の構成は、上述した第1の実施形態とほぼ同じであるので説明を省略する。第2の実施形態では、第1の実施形態とは中央処理装置31の衛星選択部1Aにおける処理が異なるが、これについては、
図6を参照して測位方法と共に説明する。
【0045】
一方、基準点に設けられる基準局システム5は、アンテナ51と、受信装置52と、基準局端末60とを有する。
【0046】
基準点におけるアンテナ51及び受信装置52は、第1の実施形態と同じであるので説明を省略する。但し、受信装置52は、受信した電波を基準局端末60に送信する。
【0047】
基準局端末60は、中央処理装置61と、記憶装置62と、通信装置63とを備える。中央処理装置61は、図示しないが、CPUとRAM等のメモリを有し、CPUが所定のアプリケーションをメモリに読み込み実行することによって、CN0検出部6A、CN0記録部6Bの各機能処理部を実現する。CN0検出部6Aは、受信装置52から受信した基準点における各衛星の電波のCN0を検出する。CN0記録部6Bは、各衛星について検出されたCN0を、電波を受信したタイミングと対応付けて記憶装置62に記憶する。
【0048】
基準局端末60の通信装置63は、中央処理装置61の制御にしたがって、基準点における電波を移動局端末30の通信装置32に送信する。その際、通信装置63は、電波と共に、当該電波のCN0と当該電波の例えば1恒星日前のCN0とを送信する。なお、第1の実施形態で説明したように、1恒星日前のCN0とすることは一例であり、複数恒星日前のCN0でもよい。
【0049】
別の例として、中央処理装置61が、電波のCN0を検出してその電波の1恒星日前の同一タイミングのCN0との差を計算し、計算されたCN0の差を、通信装置63から移動局端末30の通信装置32に送信するように構成してもよい。
【0050】
基準局端末60は、上記の機能のみを組み込んだ専用装置として実施できる。しかしながら、例えばパーソナルコンピュータ、タブレットコンピュータ、スマートフォン等に所定のアプリケーションを導入することによっても実施することができる。
【0051】
図6は、第2の実施形態における測位方法の一例を概略的に示したフロー図である。
図6では、主として第1の実施形態とは異なる部分を示している。ウェークアップは、
図2のステップ101と同様である。
【0052】
ステップ601~606の処理は、衛星選択部1Aによって行われ、その後の初期化演算及び測位演算においてその電波を利用すべきでない衛星を排除する。
【0053】
ステップ601において、周期性衛星以外の衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する。このステップは、
図2のステップ102と同様である。ステップ602において、周期性衛星の各々の電波に基づいてCN
0を検出し、電波を受信したタイミングと対応付けて記憶装置34に記憶する。このステップは、
図2のステップ103と同様である。
【0054】
ステップ603において、ステップ602で検出された各周期性衛星のCN0を、1恒星日前の当該周期性衛星のCN0と比較する。1恒星日前のCN0は、記憶装置34に記憶されている。比較によって、双方の間に所定値以上の差があるか否かを、例えば1dBHz以上の差があるか否かを判定する。所定値以上の差が無い場合は、そのまま初期化演算に進む。
【0055】
ステップ603でCN0に所定値以上の差がある場合、ステップ604において基準点における当該周期性衛星のCN0を取得する。ここで取得される基準点におけるCN0は、測定点と同一タイミングのCN0と、その1恒星日前のCN0である。これらのCN0のデータは、基準局端末60の通信装置63から移動局端末30の通信装置32に送信される。衛星選択部1Aは、受信した基準点における同一タイミングのCN0と1恒星日前のCN0の差を算出する。別の例として、基準点における同一タイミングのCN0とその1恒星日前のCN0との差を、基準局端末60において算出し、CN0の差のデータを移動局端末30に送信してもよい。
【0056】
ステップ605において、測定点におけるCN0の差と、基準点におけるCN0の差とを比較し、同じか否かを判定する。「同じ」とは、完全に一致する場合に加え、許容可能な差はあっても実質的に同じである場合を含む。CN0は、障害物等の周囲環境の変化だけでなく、雨や雪などの気象条件の変化によっても影響を受ける。この気象条件の変化は、多数の衛星のCN0が影響を受けるため、測定点の周囲環境の変化による影響との区別がつきにくい。この場合、気象条件の変化によるCN0の影響は、基準点においても同様に現れる(測定点と基準点は気象条件が共通することが前提)。したがって、ステップ605において、測定点におけるCN0の差が基準点におけるCN0の差と同じであれば、測定点におけるCN0の差は気象条件に起因するもの(正常である)と判定し、初期化演算に進む。
【0057】
ステップ605において、測定点におけるCN0の差が基準点におけるCN0の差と同じではない場合、気象条件以外の要因(障害物等による測定点の周囲環境の変化)によると判定し、その周期性衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する。そして、残りの周期性衛星の電波を用いた初期化演算に進む。
【0058】
上述した第1の実施形態では、測定点におけるCN0の、1又は複数の恒星日の前後における差のみを評価基準としているので、排除する必要のない衛星までも排除してしまう場合がある。第2の実施形態では、測定点と基準点の双方におけるCN0の、1又は複数の恒星日の前後における差を比較することによって、気象条件によるCN0への影響を、測定点における周囲環境の変化による影響から区別することができる。この結果、排除する必要のない衛星までも排除することを回避できる。
【0059】
その後の初期化演算部1Bによる初期化演算は、第1の実施形態における
図2のステップ106、107と同様である。さらにその後の測位演算部1C及び変位判定部1Dよる処理は、第1の実施形態における
図2のステップ108以降と同様である。
【0060】
第2の実施形態の変形例として、上述した第1の実施形態の変形例として示した
図4と同様に、衛星選択部1Aによる処理と、初期化演算部1Bによる処理の順序を逆にしてもよい。
【0061】
(3)第3の実施形態
図7は、本発明の第3の実施形態の測位装置を含む測位システム全体の一例を概略的に示す構成図である。測定点に設けられる移動局システム1は、アンテナ10、受信装置20、移動局端末30及び周囲環境監視装置40を有する。ここでも、移動局端末30が本発明の測位装置に相当する。基準局システム5は、第1の実施形態と同様である。
【0062】
第3の実施形態では、移動局システム1が周囲環境監視装置40を有する点で第1の実施形態と異なる。この点に関連して第3の実施形態は、第1の実施形態とは中央処理装置31の衛星選択部1Aにおける処理が異なるが、これについては、
図8を参照して測位方法と共に説明する。
【0063】
周囲環境監視装置40は、例えば、ビデオカメラ、物体を検出するセンサ等である。周囲環境監視装置40は、例えば、測定点の周囲の人や車などの障害物の有無を監視する。そして、周囲環境に変化があったとき、例えば新たな障害物の出現及び既存の障害物の消失を検出したとき、当該障害物の位置情報(アンテナ10から視た方位範囲、高さ等)とタイミングを含む周囲環境情報を生成する。
【0064】
周囲環境監視装置40は、移動局端末30と有線又は無線で通信可能に接続されている。周囲環境監視装置40は、周囲環境に変化があったとき周囲環境情報を移動局端末30に通信する。移動局端末30は、受信した周囲環境情報を記憶装置34に記憶する。一例として、移動局端末30が30分毎にウェークアップする場合、移動局端末30はウェークアップしたときに周囲環境監視装置40と通信を行って新たな周囲環境情報を取得し、記憶するようにしてもよい。
【0065】
図8は、第3の実施形態の測位方法の一例を概略的に示したフロー図である。
図8では、主として第1の実施形態とは異なる部分を示している。ウェークアップは、
図2のステップ101と同様である。
【0066】
ステップ801~807の処理は、衛星選択部1Aによって行われ、その後の初期化演算及び測位演算においてその電波を利用すべきでない衛星を排除する。
【0067】
ステップ801において、周囲環境情報を受信する。ステップ802において、受信した周囲環境情報から新たな障害物の出願が確認された場合、その障害物によって電波を正常に受信できないと予想される方位範囲を排除対象として決定する。決定された排除対象の方位範囲を記憶装置34に記憶する。そして、ステップ803において、排除対象の方位範囲に該当する衛星を、その後の演算に利用しない衛星として排除する。
【0068】
ステップ804~807は、第1の実施形態における
図2のステップ102~105と同様である。別の例として、ステップ804~807に替えて、第2の実施形態における
図6のステップ601~606を行ってもよい。その後の初期化演算部1Bによる初期化演算も、
図2のステップ106、107と同様である。さらに、その後の測位演算部1C及び変位判定部1Dによる処理も、
図2のステップ108以降と同様である。
【0069】
第3の実施形態の変形例として、上述した第1の実施形態の変形例として示した
図4と同様に、衛星選択部1Aによる処理と、初期化演算部1Bによる処理の順序を逆にしてもよい。
【0070】
(4)第4の実施形態
図9は、本発明の第4の実施形態の測位装置を含む測位システム全体の一例を概略的に示す構成図である。測定点に設けられる移動局システム1は、アンテナ10、受信装置20及び移動局端末30を有する。一方、基準点に設けられる基準局システム5は、アンテナ51、受信装置52及び基準局端末60を有する。第4の実施形態では、移動局端末30及び基準局端末60は少なくとも、通信装置32、63をそれぞれ備え、衛星から受信した電波を適宜の通信ネットワークを介して遠隔演算装置70にそれぞれ送信する。第4の実施形態では、遠隔演算装置70が本発明の測位装置に相当する。遠隔演算装置70は、例えば所定のアプリケーションをインストールされたコンピュータであり、任意の場所に設置することができる。
【0071】
遠隔演算装置70は、中央処理装置71を備える。中央処理装置71は、図示しないが、CPUとRAM等のメモリを有し、CPUが所定のアプリケーションをメモリに読み込み実行することによって、本発明の測位装置の各機能を実現する演算処理を行う。中央処理装置71は、主な機能処理部として、衛星選択部1A、初期化演算部1B、測位演算部1C及び変位判定部1Dを有する。中央処理装置71は、移動局端末30及び基準局端末30から受信した電波に基づいて、上述した第1、第2又は第3の実施形態における移動局端末30の中央処理装置31と同様の処理(
図2~
図4、
図6、
図8参照)を実行することができる。すなわち、第4の実施形態では、衛星選択、初期化演算、測位演算及び変位判定の各処理が遠隔演算装置70で行われる。その場合、通信装置72、表示装置73、記憶装置74は、第1、第2又は第3の実施形態における移動局端末30の通信装置32、表示装置33、記憶装置34と同様に機能することができる。
【0072】
なお、中央処理装置71が、第2の実施形態の中央処理装置31(
図5、
図6参照)と同様の処理を行う場合、基準点における各衛星の電波のCN
0の検出は、中央処理装置71が基準局端末60から受信した電波に基づいて行ってもよく、又は、第2の実施形態と同様に基準局端末60において基準点における電波のCN
0の検出を行ってその結果を遠隔演算装置70に送信してもよい。
【0073】
第4の実施形態の変形例として、遠隔演算装置70が、衛星選択、初期化演算、測位演算及び変位判定の各処理の全てを実行するのではなく、一部のみを実行することも可能である。例えば、衛星選択の処理は移動局端末30で行い、移動局端末30は選択された衛星の電波のみを遠隔演算装置70に送信し、遠隔演算装置70が初期化演算以降の処理を実行するように構成してもよい。
【0074】
以上、本発明の各実施形態を、一つの構成例を参照して説明したが、本発明の実施形態は、上述した例に限られず、本発明の主旨から逸脱しない限り多様な変形形態が可能であり、それらの変形形態も本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1 移動局システム
10 アンテナ
20 受信装置
30 移動局端末
31 中央処理装置
32 通信装置
33 表示装置
34 記憶装置
40 周囲環境監視装置
5 基準局システム
51 アンテナ
52 受信装置
53 通信装置
60 基準局端末
61 中央処理装置
62 記憶装置
63 通信装置