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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】設計支援装置、設計支援方法
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/12 20200101AFI20241015BHJP
   G06F 30/27 20200101ALI20241015BHJP
   G06Q 10/06 20230101ALI20241015BHJP
   G06Q 50/04 20120101ALI20241015BHJP
【FI】
G06F30/12
G06F30/27
G06Q10/06
G06Q50/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021053590
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150813
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】前田 太一
(72)【発明者】
【氏名】綿貫 啓一
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-004094(JP,A)
【文献】特開2009-199004(JP,A)
【文献】特開2016-162410(JP,A)
【文献】特開2017-191351(JP,A)
【文献】特開2019-133533(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0371665(US,A1)
【文献】国際公開第2014/088637(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 - 30/398
G06Q 10/06
G06Q 50/04
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熟練者の知識を提示することによって設計作業を支援する設計支援装置であって、
前記設計作業に関する前記熟練者の知識を記述した知識データを格納するデータベース、
前記設計作業を実施する作業者の業務内容に対応する前記知識データを前記データベースから検索する検索部、
前記作業者の視線を分析する視線分析部、
前記作業者が前記設計作業を実施する際に用いる画面上において前記検索した前記知識データを提示する知識提示部、
を備え、
前記知識提示部は、前記画面上において前記検索した前記知識データと対応する部分を検索し、
前記知識提示部は、前記検索した部分のうち前記作業者が未だ注視していない未注視部分を特定し、
前記知識提示部は、前記特定した未注視部分を注視するように促す注視促進画像を前記画面上で提示する
ことを特徴とする設計支援装置。
【請求項2】
前記知識提示部は、前記特定した未注視部分を全て前記作業者が注視し終えるまで、前記注視促進画像を前記画面上で提示し続け、
前記知識提示部は、前記作業者が注視し終えた前記未注視部分を注視するように促す前記注視促進画像を、前記画面上から削除する
ことを特徴とする請求項1記載の設計支援装置。
【請求項3】
前記知識提示部は、前記画面上において前記検索した前記知識データと対応する部分を強調する画像を提示することにより、前記注視促進画像を前記画面上で提示する
ことを特徴とする請求項1記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記データベースは、前記知識データとして、前記作業者が前記設計作業を実施する際に注視すべき画像を前記業務内容ごとに格納しており、
前記知識提示部は、前記画面上において前記注視すべき画像と合致する画像領域を検索することにより、前記画面上において前記知識データと対応する部分を検索する
ことを特徴とする請求項1記載の設計支援装置。
【請求項5】
前記データベースは、前記作業者が注視すべき程度を表す優先度を、前記注視すべき画像ごとに記録しており、
前記知識提示部は、前記未注視部分を前記優先度が高い順に注視するように促す前記注視促進画像を、前記画面上で提示する
ことを特徴とする請求項4記載の設計支援装置。
【請求項6】
前記視線分析部は、前記作業者が前記画面上で注視した部分を常時記録しており、
前記知識提示部は、前記画面上において前記知識データを提示する前に前記作業者が前記画面上で注視した部分を取得し、
前記知識提示部は、前記未注視部分のうち前記作業者が既に注視した部分を除く部分を注視するように促す前記注視促進画像を、前記画面上で提示する
ことを特徴とする請求項1記載の設計支援装置。
【請求項7】
前記データベースは、前記業務内容の特性を表すパラメータを格納しており、
前記知識提示部は、前記注視促進画像とともに、前記パラメータを提示する
ことを特徴とする請求項4記載の設計支援装置。
【請求項8】
前記設計支援装置はさらに、前記知識データを前記データベースに格納するデータベース生成部を備え、
前記データベース生成部は、前記熟練者と非熟練者が同じ前記設計作業を実施する際における視線の差分を取得し、
前記データベース生成部は、前記取得した差分にしたがって、前記画面上において前記熟練者が注視したが前記非熟練者が注視しなかった部分または前記熟練者のほうが前記非熟練者よりも注視した部分を特定し、
前記データベース生成部は、前記特定した部分の画像を、前記知識データとして前記データベースに格納する
ことを特徴とする請求項1記載の設計支援装置。
【請求項9】
前記データベース生成部は、前記作業者が注視すべき程度を表す優先度を、前記特定した部分の画像ごとに前記データベースへ格納し、
前記データベース生成部は、前記画面上において前記熟練者が注視したが前記非熟練者が注視しなかった部分の優先度または前記熟練者のほうが前記非熟練者よりも注視した部分の優先度を、その他の部分の優先度よりも高くセットする
ことを特徴とする請求項8記載の設計支援装置。
【請求項10】
熟練者の知識を提示することによって設計作業を支援する設計支援方法であって、
前記設計作業に関する前記熟練者の知識を記述した知識データを格納するデータベースから、前記設計作業を実施する作業者の業務内容に対応する前記知識データを検索するステップ、
前記作業者の視線を分析するステップ、
前記作業者が前記設計作業を実施する際に用いる画面上において前記検索した前記知識データを提示するステップ、
を有し、
前記知識データを提示するステップはさらに、
前記画面上において前記検索した前記知識データと対応する部分を検索ステップ、
前記検索した部分のうち前記作業者が未だ注視していない未注視部分を特定するステップ、
前記特定した未注視部分を注視するように促す注視促進画像を前記画面上で提示するステップ、
を有する
ことを特徴とする設計支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熟練者の知識を提示することによって設計作業を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製造業における業務を実施する際には、熟練者の持つ知識が有効である。例えば、設計作業において、顧客要求への対応や、製造保守現場からの要求により、過去製品の設計を一部変更することがある。この際、設計変更の内容や、その設計変更の影響範囲を正確に判断することが、製品の品質を維持するうえで重要となる。設計変更は、対象の製品の設計業務に長年携わってきた熟練者にとっては、設計の意味や根拠を把握しているので比較的容易である。しかしながら、そのような経験が少ない設計者にとっては、設計の根拠などを知見のある人に確認し、過去のドキュメントを調べるなどの作業時間がかかるので、短期間で設計変更をすることは非常に困難である。
【0003】
設計作業において、検図作業や、有限要素法などの解析結果の分析をすることがある。検図作業は、図面を目視検査する作業をともなう。有限要素法の解析結果を分析する作業は、例えば流体の流れを可視化した画像を目視確認する作業をともなう。設計や解析業務の経験が豊富な熟練者は、図面や解析結果のうち注目すべき場所を見逃すことなく短時間で作業を実行することが可能である。しかし経験が少ない設計者にとっては、検図するべき場所を見落とし、あるいは解析結果から現象を解釈するために必要な特徴箇所を見逃す可能性がある。
【0004】
このように熟練者は、長年の業務を通じて得た知識を意識的もしくは無意識的に活用している。意識的に活用している知識は、形式知として文書化され共有されているものもあるが、無意識的に活用している知識は、暗黙知となって共有されていないものもある。形式知とは言語化されている知識であり、暗黙知とは言語化されていない知識である。形式知については、ドキュメント化しておくことによって他の設計者が参照できるが、参照するには時間を要する。また知識量が膨大だと、目的の知識にたどり着くまでに工数を要する。一方、暗黙知については熟練設計者のみが保有しており、共有は困難である。
【0005】
従来は熟練者と非熟練者が一緒に時間をかけて同じ製品のプロジェクトに取り組むことにより、業務を通じて熟練者の知識は伝承されていた。暗黙知は一般的に伝承が困難とされるが、同一のプロジェクトに取り組むことにより時間をかけながら伝承されていた。しかしながら、近年は製品サイクルの短期化や人手不足により、このような機会は減少している。熟練者の知識が伝承されず、経験の少ない設計者が設計を誤った場合は設計の手戻りにより納期が遅れ、製品出荷後に設計誤りが判明した場合は製品のリコールにつながるという課題がある。そこで、これまでに熟練者の知識を熟練者の動きや視線から抽出する技術や、非熟練者に提示する技術が開発されている。視線や動きは特に暗黙知の抽出に有効であると言われている。
【0006】
特許文献1と2は、点検作業などの現場作業において、熟練者のノウハウを伝達するための技術を記載している。特許文献1は、作業者の動作や視線を測定し、熟練者と非熟練者を比較することにより、熟練者のノウハウを特定する技術を開示している。ノウハウは熟練者の形式知と暗黙知の両方を含む。特許文献2は、設備の点検作業において、点検作業のノウハウを作業者に提示する際、作業者の視線から熟練度を定量化し、作業者の熟練度に対応したノウハウを提示する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-067206号公報
【文献】特許第6366862号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1は、工場での部品検査を想定しており、作業者の個別の動作に要する時間や動きを計測し、非熟練者と比較することにより、ノウハウの候補となっている動きを抽出する。例えば、ある部品の外観検査やラベル貼り付けの作業時間を分析することにより、ノウハウを特定している。しかしながら、非熟練者に対してどのようにノウハウを提示するかについては検討がなされておらず、熟練者知識を効率的に伝達するための手法をさらに検討する必要がある。
【0009】
特許文献2は、設備の点検作業において、熟練者のノウハウを、作業員が着用しているメガネ型ウェアラブルデバイスの画面に表示する。作業員の点検作業の進捗に合わせてノウハウを提示する必要があり、作業員が音声で作業が完了したことを入力することにより点検作業の進捗を確認している。しかしながら、作業員が点検項目を見落とした場合であっても、作業員が作業完了と判断し音声を入力すれば次の作業が提示される。これにより作業の漏れが生じる恐れがある。同文献記載の技術は、このようにノウハウが伝わらない可能性があるので、熟練者の知識の提示方法としては十分ではない。
【0010】
本発明は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、ユーザが作業で見落としている重要な設計のポイントを確実にユーザに提示することにより、熟練者の設計知識を伝承することができる、設計支援技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る設計支援装置は、熟練者知識データベースが格納している知識データと合致する部分を業務実行画面上で検索し、検索した部分のうちユーザが未だ注視していないものを注視するように促す。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る設計支援装置によれば、ユーザが設計作業において見落としている重要な設計のポイントを確実にユーザに提示することにより、熟練者の設計知識を伝承することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1に係る設計支援装置100のブロック図である。
図2】設計支援装置100が提供するユーザインターフェース201の画面構成例である。
図3】ユーザインターフェース201の別画面例である。
図4】熟練者知識DB103に保存されている熟練者知識の構造例である。
図5】流体解析の龍泉から損失となる渦を見つける作業を対象とした熟練者知識の例である。
図6】業務実行画面106上に表示された熟練者知識の1例である。
図7】ユーザが作業開始時から設計支援装置100による知識提示機能を使い、全ての見るべき場所を同時に表示するときの処理手順を説明するフローチャートである。
図8】ユーザが作業開始時から設計支援装置100による知識提示機能を使い、注視すべき場所を優先度の順に表示するときの処理手順を説明するフローチャートである。
図9】ユーザが設計支援装置100による知識提示機能を作業の途中から使う場合と作業終了後に使う場合において、全ての見るべき場所を同時に表示する処理手順を説明するフローチャートである。
図10】ユーザが設計支援装置100による知識提示機能を作業の途中から使う場合と終了後に使う場合において、注視すべき場所を優先度が高い順に表示するときの処理手順を説明するフローチャートである。
図11】実施形態2における業務実行画面106の表示例である。
図12】熟練者知識DB103を生成する手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施の形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係る設計支援装置100のブロック図である。設計支援装置100は、業務内容入力部101、業務知識検索部102、熟練者知識DB(データベース)103、優先度算出部104、知識提示制御部105、業務実行画面106、入力画像取得部107、視線計測装置108、視線データ分析部109、知識出力部110、出力更新部111、データベース生成部112を備える。
【0015】
業務内容入力部101は、ユーザが実施する業務内容をユーザから受け取る。例えば文字入力や選択入力により、業務内容を入力する。業務知識検索部102は、業務内容入力部101に対して入力された業務内容に対応する知識を、熟練者知識DB103から検索する。検索された知識には、後述する優先度が設定されている。優先度は業務内容によって変わることがあるので、優先度算出部104は業務に合わせて優先度を算出する。優先度が設定された知識は知識提示制御部105に格納される。業務実行画面106は設計者が作業を実施する端末の画面である。入力画像取得部107は、業務実行画面106に表示される画面の画像(例えばスクリーンショット)を取得する。取得した画像は知識提示制御部105に送信される。知識提示制御部105は、優先度算出部104から入力された熟練者知識と、入力画像取得部107から入力された業務実行画面106の画像から、熟練者知識に含まれるユーザが実施すべき作業を特定する。知識出力部110は、出力更新部111を介して、その作業内容を業務実行画面106に出力する。
【0016】
視線計測装置108は、業務中のユーザが業務実行画面106中の注視している位置を計測する。視線計測装置108は、例えば近赤外のLED(Light Emitting Diode)によって眼球の角膜上に生成された反射パターンをカメラで撮影し、光の反射点などから眼球の方向を算出する角膜反射法などを用いることができる。得られた結果は、視線データ分析部109に送信される。視線計測装置108はユーザの視線を常時計測する。
【0017】
視線データ分析部109は、ユーザが注視している位置を算出し、知識提示制御部105に送信する。知識提示制御部105は、業務実行画面106に知識を出力するときに、既にユーザが見た場所は表示しないなどの制御を実施する。ユーザの業務が進むに従い、出力更新部111は、ユーザが見た場所はスキップし、まだ見ていない場所を表示するなどの出力更新を実施する。出力更新部111は、ユーザの視線に基づき業務が開始されたタイミングを判定し、そのタイミングに合わせて知識を提示してもよい。
【0018】
データベース生成部112は、熟練者知識DB103が格納するレコードを生成することにより、熟練者知識DB103を生成する。熟練者知識DB103は、レコードを記述したデータを記憶装置に格納することによって構成することができる。熟練者知識DB103の具体例については後述する。なお、業務内容入力部101、業務実行画面106、視線計測装置108以外は、ユーザから離れた場所にあり、通信回線を介して動作してもよい。
【0019】
以降、流体解析結果の流線から渦を見つける作業において、熟練者が注視する場所を熟練者の知識としてユーザへ提示することを例とし、本発明の詳細を説明する。
【0020】
図2は、設計支援装置100が提供するユーザインターフェース201の画面構成例である。ユーザインターフェース201は、業務内容入力部202と業務内容選択部203を有する。図2はユーザが業務内容入力部202を選択した状態を示す。ユーザは「流体解析結果から渦を探す。」のように業務内容入力欄204に実施する業務を文字列によって入力する。検索ボタン205を押下すると、業務知識検索部102は熟練者知識DB103から対応する知識(同一または類似する業務に関する知識)を検索する。業務の検索手法としては、TF-IDF(Term Frequency-Inverse Document Frequency)やWord2Vecなどのように、文書の類似度を評価する手法を用いることができる。業務内容検索結果表示欄206は、検索結果を表示する。例えば、「流体解析結果から損失となる渦を探す」といったように類似の業務が表示される。知識提示ボタン207を押下すると、知識提示制御部105は、検索した熟練者の知識を業務実行画面106に提示する。
【0021】
図3は、ユーザインターフェース201の別画面例である。図3はユーザが業務内容選択部203を選択した状態を示す。ユーザは、業務カテゴリー、業務名称、タスク1、タスク2をそれぞれプルダウン選択肢から選択する。これらの選択肢は、熟練者知識DB103が格納している業務のリストである。知識提示ボタン301を押下すると、知識提示制御部105は対応する熟練者の知識を提示する。この場合、提示される知識はユーザの入力内容と一致する。
【0022】
図4は、熟練者知識DB103に保存されている熟練者知識の構造例である。この例において熟練者知識は、業務カテゴリー、業務名称、タスク1、タスク2の順に階層化されている。このように熟練者知識を階層化しておくことにより、熟練者知識の選択が容易となる。例えば流体解析の流線から損失となる渦を見つける業務を実施するユーザは、業務カテゴリーとしては詳細解析、業務名称としては流体解析、タスク1としては結果確認、タスク2としては損失となる渦を選択することにより、必要な熟練者の知識を利用することができる。
【0023】
図5は、流体解析の龍泉から損失となる渦を見つける作業を対象とした熟練者知識の例である。熟練者知識DB103は、熟練者の知識として、流線における見るべき場所を画像として格納している。その画像を見るべき優先度をとともに格納してもよい。見るべき場所は画像ではなく、例えば画像に相当する数値の配列などのように、見るべき場所を特定することができるその他のパラメータでもよい。
【0024】
優先度は、熟練者知識DB103を構築する際に設定した順位が標準値として入れられているが、優先度算出部104は業務内容によって順位を見直すことがありうる。例えば図4のタスク2は全て渦を探す業務であるので、熟練者知識として同一のものを用いる。しかしながら、業務によって優先度が異なる場合がある。例えば、損失となる渦を探す場合は、大きな渦ができそうな場所を見る優先度が高いが、流体振動を引き起こす渦を探す場合は、物体近傍の渦ができそうな場所の優先度を高くするなどである。このような場合は、優先度算出部104によって優先度を見直してもよい。業務と優先度との間の関係は例えば熟練者知識DB103と同じ記憶装置にあらかじめ格納しておけばよい。あるいは、業務内容の特性をパラメータによって数値化し、そのパラメータを用いて優先度を補正または算出することもできる。なお、業務内容の特性については,業務に関する知識を含むものとする。
【0025】
図6は、業務実行画面106上に表示された熟練者知識の1例である。ここでは流体解析の結果として得られる流線画像内に、渦を見つけるために見るべき場所602が複数表示されている例を示した。見るべき場所は、入力画像取得部107から得られた画像を読み込み、その中で熟練者知識DB103に登録された見るべき場所の画像と類似の場所を検索し、該当する場所を円で囲むことによって、ユーザに表示する。類似場所を検索する手法としては、機械学習を用いた物体検出技術が有効である。この手法により熟練者知識DB103にある画像の特徴を含んだ場所を検索することができ、流体解析の対象が異なる場合であっても適用することが可能となる。このとき、円の近傍に優先度を同時に表示してもよい。優先度により、どこを初めに見るべきかといった熟練者の知識が作業者に提示されるので、知識伝承の観点から有効である。
【0026】
ユーザが設計支援装置100を使うタイミングは、作業の開始時と途中と終了後の3つの段階がある。さらに、全ての見るべき場所を同時に示す場合と、優先度が高い場所を優先度の順に示す場合の2通りの表示方法がある。以下、これらの処理フローについて説明する。
【0027】
図7は、ユーザが作業開始時から設計支援装置100による知識提示機能を使い、全ての見るべき場所を同時に表示するときの処理手順を説明するフローチャートである。以下図7の各ステップについて説明する。
【0028】
図7:ステップS701)
ユーザは、ユーザインターフェース201上で業務内容を入力し、知識提示ボタン(207または301)を押下する。知識提示制御部105は、図6に例示するように、見るべき場所を業務実行画面106上で提示する。
【0029】
図7:ステップS702~S703)
視線計測装置108は、ユーザが業務実行画面106上のどこを見ているか計測する(S702)。視線データ分析部109(または知識提示制御部105)は、ユーザの視線位置と見るべき場所の座標を照合することにより、ユーザが見るべき場所を見たか否かを確認する(S703)。
【0030】
図7:ステップS703:補足)
ユーザは業務実行画面106を動かす可能性があるので、基準となる点を設けて、画面が動いた分を補正することが有効である。また、ユーザの視線が通過しただけでなく、確実に注視したかを確認するために、視線の停留時間や瞳孔径を用いて、注視しているかを評価し判断してもよい。この際、瞳孔径は周囲の明るさの影響を受けるので、その影響の補正をすることが重要となる。
【0031】
図7:ステップS704)
見るべき場所の数が多いと、見るべき場所の表示が多くなり流線が見づらくある恐れがある。そこで知識提示制御部105は、ユーザが既に確認した見るべき場所を注視するように促す表示を削除してもよい。
【0032】
図7:ステップS705)
知識提示制御部105は、全ての見るべき場所をユーザが見たかを判定する。まだ見ていない場所があれば、S702に戻りユーザの視線を計測する。ユーザが見るべき場所を全て見ていれば本フローチャートを終了する。
【0033】
図7:ステップS702~S705:補足)
S702からS705は視線が移動するたびに実行し、リアルタイムにユーザが見るべき場所を更新する。
【0034】
図8は、ユーザが作業開始時から設計支援装置100による知識提示機能を使い、注視すべき場所を優先度の順に表示するときの処理手順を説明するフローチャートである。以下図8の各ステップについて説明する。
【0035】
図8:ステップS801)
ユーザは、ユーザインターフェース201上で業務内容を入力し、知識提示ボタン(207または301)を押下する。知識提示制御部105は、見るべき場所のうち優先度が最も高い場所1つを、業務実行画面106上で提示する。
【0036】
図8:ステップS802~S804)
視線計測装置108は、ユーザが業務実行画面106上のどこを見ているか計測する(S802)。視線データ分析部109は、ユーザの視線位置と最優先の見るべき場所の座標を照合することにより、ユーザが最優先の見るべき場所を見たか否かを確認する(S803)。知識提示制御部105は、ユーザが既に確認した最優先の見るべき場所の表示を削除する(S804)。
【0037】
図8:ステップS805)
知識提示制御部805は、見るべき場所を全て表示したかを判定する。まだ見るべき場所があれば、S801に戻って残りの中で最も優先度が高い見るべき場所を表示する。全て表示したら本フローチャートを終了する。
【0038】
本フローチャートのように、見るべき場所を優先度の順番で表示することにより、熟練者が注意を払う順番についても知識として伝承することが可能となる。見るべき場所として表示する個数は、最優先の場所1つでもよいし、ユーザのスキルなどに合わせて数か所に調整できるようにしておいてもよい。
【0039】
図9は、ユーザが設計支援装置100による知識提示機能を作業の途中から使う場合と作業終了後に使う場合において、全ての見るべき場所を同時に表示する処理手順を説明するフローチャートである。以下図9の各ステップを説明する。
【0040】
図9:ステップS901)
視線計測装置108と視線データ分析部109は、ユーザが業務実行画面106上で注視した部分を常に計測しておく。知識提示制御部105が熟練者知識を提示する処理を開始する前(すなわちユーザインターフェース201を起動する前)の時点において、ユーザが業務実行画面106上で設計業務を実施する可能性があるからである。注視した部分は、例えば視線データとして記憶装置に格納しておく。記憶装置は例えば熟練者知識DB103を格納しているものと同じでよい。
【0041】
図9:ステップS902~S904)
ユーザは設計業務中において、ユーザインターフェース201を起動する(S902)。知識提示制御部105は、ユーザが業務実行画面106上で設計作業を実施しているときの視線データを抽出する(S902)。知識提示制御部105は、ユーザが業務実行画面106上で注視した部分を、視線データから抽出する(S903)。知識提示制御部105は、ユーザが業務実行画面106上で注視した部分の座標と、知識データが指定する画面上の見るべき場所の座標とを照合する(S904)。
【0042】
図9:ステップS905~S906)
知識提示制御部105は、業務実行画面106上で見るべき場所のうち、ユーザがまだ見ていない場所があるか否かを判定する。その結果、まだ見ていない場所があればその場所を提示し(S906)、なければ本フローチャートを終了する。以後の処理はS702~S705と同様である。
【0043】
図10は、ユーザが設計支援装置100による知識提示機能を作業の途中から使う場合と終了後に使う場合において、注視すべき場所を優先度が高い順に表示するときの処理手順を説明するフローチャートである。S901~S905は、図9と同様である。S801~S805は、図8と同様である。
【0044】
図7図10で説明したフローチャートの他に、以下のような使い方も考えられる。例えばユーザが設計作業を終了した後、全ての見るべき場所を業務実行画面106上で再度表示し、見るべき場所を全て見終えたか否かをユーザが確認してもよい。このように再度確認することにより、熟練者の知識を確実に伝承できる。
【0045】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る設計支援装置100は、熟練者知識DB103が格納している知識データと合致する部分を業務実行画面106上で検索し、検索した部分のうちユーザが未だ注視していないものを注視するように促す(例えば図6の円などのように、注視を促進する画像を提示する)。これにより、熟練者と非熟練者との間で、業務実行画面106上で注視する場所が異なる場合において、熟練者が注視する場所を業務知識として非熟練者へ効果的に伝承することができる。
【0046】
本実施形態1に係る設計支援装置100において、熟練者知識DB103は、知識データとその優先度を業務内容ごとに格納しており、知識提示制御部105は、優先度が高い順に知識データを提示することができる。これにより、熟練者が優先的に注視する場所を業務知識として効果的に伝承することができる。
【0047】
本実施形態1に係る設計支援装置100は、業務実行画面106上でユーザが注視すべき場所を全て注視し終えるまで、注視を促し続ける(例えばS705)。これにより、熟練者知識を網羅的かつ確実に伝承することができる。知識提示制御部105が起動していない(すなわち知識データを業務実行画面106上で未だ提示していない)時点においてユーザが設計業務を開始した場合であっても、ユーザの視線を常時記録しておくことにより、ユーザが既に注視した場所を除いて注視を促すことができる(図9図10のフローチャート)。したがって、ユーザインターフェース201をいつ起動するかによらず、熟練者知識を確実に伝承することができる。
【0048】
<実施の形態2>
図11は、本発明の実施形態2における業務実行画面106の表示例である。ここでは図6と同様に流体解析を実施する場面を想定する。設計支援装置100の構成は実施形態1と同様である。
【0049】
熟練者は流線から現象を推定するにあたり、流体特性や境界条件といった、流線には直接表れない情報を考慮することがある。業務実行画面106上でこのような情報を熟練者知識と併せて提示することにより、注視すべき場所に加えて熟練者が考慮する情報を、業務知識として伝承することができる。例えば図11に示す関連情報1101のように、流体のレイノルズ数、流体の種類、流体の粘度を、提示することが考えられる。このように関連情報についても同時に作業者に提示することにより、渦を探すときに注意するべき因子としてレイノルズ数や粘度が重要であるという熟練者の知識を伝承できる。
【0050】
関連情報は、業務内容ごとにあらかじめ熟練者知識DB103へ格納しておく。ユーザは熟練者知識を検索する際に、関連情報を併せて指定する。例えばユーザインターフェース201上において、関連情報を併せて入力する。業務知識検索部102は、業務内容と関連情報に合致する知識を、熟練者知識DB103から検索する。知識提示制御部105は、検索した知識と併せて、関連情報1101を提示する。
【0051】
関連情報としては、業務内容の特性を表すパラメータであれば、任意の情報を用いることができる。図11においては流体解析業務におけるパラメータを例示したが、その他の設計業務においても、その業務の特性を表すパラメータを、関連情報として用いることができる。業務の特性には知識を含むこととする。関連情報の提示は、例えば設計変更を行う際に影響する事柄を提示するために活用してもよい。
【0052】
<実施の形態3>
図12は、熟練者知識DB103を生成する手順を説明するフローチャートである。熟練者の知識はヒアリングにより文書化することも可能であるが、暗黙知となっており熟練者が無意識に実施している知識については、言語化や文書化が困難である。図12に示すフローチャートは、暗黙知を抽出することに有効である。以下図12の各ステップについて説明する。
【0053】
図12:ステップS1201)
視線計測装置108と視線データ分析部109は、同一業務における熟練者と非熟練者それぞれの視線を計測する。例えば、同一の流線から渦を見つける作業を熟練者と非熟練者それぞれに実施してもらい、その際の視線を計測する。
【0054】
図12:ステップS1202)
視線データ分析部109(またはデータベース生成部112)は、熟練者の視線と非熟練者の視線との間の差分を抽出する。差分としては、注視点の座標、注視点に対する集中度、などについての差分を用いることができる。集中度は例えば、視線の停留時間、瞳孔径、などを用いることができる。
【0055】
図12:ステップS1203)
データベース生成部112は、S1202において抽出した差分から、熟練者のみが実施した作業を抽出する。本ステップにおいて抽出した作業は、熟練者の知識のうち非熟練者に対して伝承することが必要な知識に該当する。
【0056】
図12:ステップS1204)
データベース生成部112は、非熟練者の作業も含めて、作業の優先度を設定する。例えば、渦を見つける際に熟練者のみが見た場所の優先度を高く設定し、熟練者と非熟練者がともに見た場所は優先度を低く設定する。さらに、熟練者のみが見た場所のうち、熟練者が早めに見た場所や時間をかけて見た場所は優先度を高めに設定する。すなわち、熟練者のほうが非熟練者よりも注視した場所は、その他の場所よりも優先度を高く設定する。
【0057】
図12:ステップS1205)
データベース生成部112は、これらの作業に対応する画像を抽出する(S1205)。データベース生成部112は、優先度と画像を熟練者知識DB103に格納する(S1206)。
【0058】
実施形態2で述べた関連情報については、熟練者知識DB103を構築する際に、熟練者にヒアリングするなどによって収集し、画像とともに熟練者知識DB103へ格納すればよい。
【0059】
<実施の形態3:まとめ>
本実施形態3に係る設計支援装置100は、熟練者の視線と被熟練者の視線との間の差分にしたがって、熟練者のほうがより注視した部分を特定し、その部分の画像を知識データとして熟練者知識DB103へ格納する。これにより、文書化することが困難な暗黙知であっても、視線の違いに基づき知識化することができる。
【0060】
本実施形態3に係る設計支援装置100は、熟練者のほうが非熟練者よりも注視した部分に対して、高い優先度をセットする。文書化することが難しい業務知識は、優先度をセットすることも同様に困難であるが、注視度合いに基づき優先度をセットすることにより優先度を数値化することができる。
【0061】
<本発明の変形例について>
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0062】
本発明は、以上の実施形態において例示した流体解析に限らず、例えば設計変更点の確認や検図などの設計業務においても有効である。
【0063】
以上の実施形態において、ユーザが注視すべき場所を促す手段として、業務実行画面106上の部分を丸によって囲む例を説明した。ユーザが注視すべき場所を促す手段はこれに限るものではなく、その場所を画面上において特定することができる任意の情報を用いることができる。例えば画面上の丸以外の画像(例:矢印、点滅表示、など)によって、注視すべき場所を強調表示することが考えられる。
【0064】
以上の実施形態において、設計支援装置100が備える各機能部は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをプロセッサなどの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【符号の説明】
【0065】
100:設計支援装置
101:業務内容入力部
102:業務知識検索部
103:熟練者知識DB
104:優先度算出部
105:知識提示制御部
106:業務実行画面
107:入力画像取得部
108:視線計測装置
109:視線データ分析部
110:知識出力部
111:出力更新部
201:ユーザインターフェース
202:業務内容入力部
203:業務内容選択部
204:業務内容入力欄
205:検索ボタン
206:業務内容検索結果表示欄
207、301:知識提示ボタン
602:見るべき場所
1101:関連情報
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12