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  • 特許-加温方法及び加温システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】加温方法及び加温システム
(51)【国際特許分類】
   A01K 63/06 20060101AFI20241015BHJP
   A01K 61/10 20170101ALI20241015BHJP
【FI】
A01K63/06 Z
A01K61/10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023018254
(22)【出願日】2023-02-09
(62)【分割の表示】P 2019078023の分割
【原出願日】2019-04-16
(65)【公開番号】P2023053100
(43)【公開日】2023-04-12
【審査請求日】2023-03-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(73)【特許権者】
【識別番号】523265870
【氏名又は名称】志田内海株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】桐原 慎二
(72)【発明者】
【氏名】小畠 秀和
(72)【発明者】
【氏名】志田 崇
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-106631(JP,U)
【文献】特許第6535864(JP,B1)
【文献】特開2018-059299(JP,A)
【文献】特開2006-167541(JP,A)
【文献】特開昭57-063035(JP,A)
【文献】実開平02-023468(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0057579(US,A1)
【文献】国際公開第2015/159757(WO,A1)
【文献】小畠秀和、桐原慎二,近赤外線を利用した水中の魚体の直接加温技術の開発,平成31年度日本水産学会大会講演要旨集,日本,2019年03月26日,pp. 129
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 63/06
A01K 61/10
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中にいる生物を包囲し、水中において移動可能な包囲部によって水中にいる生物を包囲し、
水中にいる生物に前記包囲部に取り付けられた光源から近赤外線を照射し、
前記包囲部の内側面には近赤外線を反射する反射部材が取り付けられ、
近赤外線は、水中にいる生物に直接または前記反射部材への反射を経て照射される加温方法。
【請求項2】
水上に遮光性を備えた網状部材を設置する請求項1に記載の加温方法。
【請求項3】
前記光源は、LEDを含む請求項1に記載の加温方法。
【請求項4】
水中にいる生物を包囲し、水中において移動可能な包囲部と、
前記包囲部の内側面に設けられ、近赤外線を反射する反射部材と、
前記包囲部に取り付けられ、水中にいる生物に近赤外線を照射する照射部と、を備え、
前記照射部は、水中にいる生物に対して直接又は前記反射部材への反射を経て近赤外線を照射する加温システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加温方法及び加温システムに関する。
【背景技術】
【0002】
魚等の水中にいる生物を飼育する方法が知られている。従来の飼育方法では、魚等が生息する水槽等を所定の温度に加温する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平02-20230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献1のような魚等のいる水を加温することによって魚等の水中にいる生物を加温する方法に代わる技術について鋭意研究している。
【0005】
そこで本発明は、水中にいる生物の加温方法及び加温システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明に係る加温方法は、水中にいる生物を側方から包囲する包囲部によって水中にいる生物を包囲する。そして、水中にいる生物に光源から近赤外線を照射する。包囲部の内側面には近赤外線を反射する反射部材が取り付けられ、近赤外線は、水中にいる生物に直接又は反射部材への反射を経て照射され、かつ水面に対して90度未満の角度で照射される。
【0007】
本発明に係る加温システムは、水中にいる生物を側方から包囲する包囲部と、前記包囲部の内側面に設けられ、近赤外線を反射する反射部材と、水中にいる生物に光源から近赤外線を照射する照射部と、を備える。照射部は、水中にいる生物に対して直接又は反射部材への反射を経て近赤外線を照射するとともに水面に対して90度未満の角度で近赤外線を照射する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る加温方法及び加温システムによれば、近赤外線の照射によって水中にいる生物を加温することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る生物の加温システムを示す斜視図である。
図2】海等の水域に図1の加温システムを設置した際において、加温システムを構成する包囲部の内部において水中にいる生物を加温する様子を示す図である。
図3】加温システムの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付した図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。なお、以下の記載は特許請求の範囲に記載される技術的範囲や用語の意義を限定するものではない。また、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。なお、以下では海等の水面に沿う面をXY平面と記載する。また、XY平面に直交する高さ方向を高さ方向Zと記載する。
【0011】
図1図2は、本発明の実施形態に係る生物の加温システムの説明に供する図である。
【0012】
本実施形態に係る生物の加温システム100は、海、養殖池等の水産生物を養殖できる海域において水中にいる生物を加温することで活力増進、成長促進等をさせることに用いられる。本実施形態に係る加温方法は魚介類の種苗生産や養殖技術の開発に利用することが期待できる。なお、本明細書において「水中にいる生物」とは、ヒラメ等の魚類、アワビ等の貝類、昆布等の海藻類、又はダイバー等の人間を挙げることができる。
【0013】
加温システム100は、図1に示すように、照射部10と、包囲部20と、反射部材30と、を有する。照射部10は本明細書において光源に相当する。以下、詳述する。
【0014】
(照射部)
照射部10は、水中にいる生物に近赤外線Nを照射する。近赤外線Nは水に吸収されない、又は水に吸収されにくい性質を有する。この性質を利用することによって、水等にはエネルギーを与えにくくしつつ、魚等の水中にいる生物を数度(例えば最高5度)程度加温することができる。照射部10は、図1に示すようにLEDを備える。
【0015】
LEDは、図2に示すように包囲部20を構成する第1網状部材21又は反射部材30に取り付けられる。LEDは、水中にいる生物に対して直接又は反射部材30への反射を経て近赤外線Nを照射する。また、LEDは、水面Wに対して90度未満の角度にて近赤外線を照射するように構成している。
【0016】
LEDは、本実施形態において図1図2に示すように包囲部20を構成する第1網状部材21の4つの側面のうちの2面において高さ方向Zに複数並べて配置している。ただし、近赤外線Nを水面に対して90度未満の角度で照射できれば、第1網状部材21におけるLEDの配置位置は特に限定されない。本明細書における「近赤外線」とは、800nm-1500nmの波長の光を指す。
【0017】
近赤外線Nは、本実施形態においてLEDを取り付けた第1網状部材21又は反射部材30から水中にいる生物又は反射部材30、及び水面Wに向かって照射するように構成している。LEDは、不図示の電源部に有線で接続されて近赤外線Nを照射するための電力が供給されてもよいし、第1網状部材21又は反射部材30に二次電池等を取り付け、二次電池から電力が供給されてもよい。
【0018】
(包囲部)
包囲部20は、水中にいる生物を少なくとも側方から包囲する。包囲部20は、図1及び図2に示すように第1網状部材21と、第2網状部材22と、を備える。
【0019】
第1網状部材21は、水中にいる生物の行動範囲を規制するために設けられる。第1網状部材21は、XY平面のように水平方向及び高さ方向Zの少なくともいずれかに移動可能に構成している。第1網状部材21は、図1に示すようにいわゆる生簀等として構成することができる。
【0020】
第1網状部材21は、図1において平面視した際に略矩形状に形成するように構成している。寸法についても特に限定されないが、一例として上方から平面視した際の縦横の長さが約5m、深さを1.5mとすることができる。
【0021】
第1網状部材21は、水中にいる生物の行動範囲を規制できれば、具体的な形状は矩形に限定されず、他の多角形、又は円形等であってもよい。また、網の目の大きさは、一例として数cm程度とすることができるが、水中にいる生物の行動範囲を規制できれば、具体的な数値は上記に限定されない。
【0022】
第2網状部材22は、海上(水上)において水中にいる生物を包囲するために設けられる。第2網状部材22は、図2に示すようにローブなどの吊下部材23によって水上に垂下されるように構成している。第2網状部材22は、水中にいる生物が鳥等によって捕食されないように遮光部材を設けるように構成している。遮光部材は、第2網状部材22に貼付して取り付けられる。遮光部材は、PET等の遮光性を備えた材料を含み、不透明に構成している。
【0023】
なお、第2網状部材22は、本実施形態においてほぼ全面が遮光部材によって覆うように構成している。ただし、鳥類によって加温する対象となる生物が見え難くなる程度に包囲できれば、必ずしも第2網状部材22の全面を覆わなくてもよく、少なくとも一部が包囲されていればよい。
【0024】
(反射部材)
反射部材30は、包囲部20を構成する第1網状部材21の内側面に取り付けられる。反射部材30は、近赤外線Nを反射する部材を含むように構成され、これにより水上又は水中の比較的上方から照射された近赤外線Nを水中にいる生物に効率よく照射させる。反射部材30は、特に限定されないが、銀鏡やアルミ等によって構成することができる。
【0025】
(加温方法)
次に本実施形態に係る加温システム100を用いた加温方法について説明する。まず、目的とする海や池に餌を撒いたり、所定の水域に可視光を照射したりする等して目的とする魚をおびき寄せる。
【0026】
魚が集まったことが確認できたら、包囲部20を構成する第1網状部材21と反射部材30を水上から水中に投下して水中に設置する。照射部10は、包囲部20を構成する第1網状部材21に取り付ける。第1網状部材21は、縄等に取り付け、当該縄を陸上にある設置物等に杭等に括りつける等して位置調整ができる程度に包囲部20を所定の水域に固定することができる。これにより、水中にいる生物を少なくとも側方から包囲する包囲部20によって水中にいる生物が移動可能に包囲される。
【0027】
次に、クレーン等(図示省略)を利用して、吊下部材23に垂下した第2網状部材22を水面に向けて降下させ、意図した高さ(水上)にて停止させる。第2網状部材12に遮光部材を設けることによって、鳥類等による魚等の捕食を防止することができる。
【0028】
次に、第1網状部材21又は反射部材30に取り付けたLEDから近赤外線Nを照射する。近赤外線Nは、LEDから水中にいる生物に直接照射されたり、反射部材30に反射して当該生物に照射されたり、LEDが水面に対して90度未満の角度で近赤外線Nを照射することによって水面に反射したうえで当該生物に照射されたりする。近赤外線Nは水に吸収されにくい性質があるため、この性質を利用することで水温をほとんど上昇させることなく、水中にいる生物の体温を効率よく上昇させることができる。
【0029】
なお、上述した加温方法は、反射部材30に近赤外線Nを反射させ、近赤外線Nを水面に対して90度未満の角度にて照射して近赤外線Nを水面で反射させれば、その他の工程は適宜変更してもよい。
【0030】
以上説明したように、本実施形態に係る水中にいる生物の加温方法は、水中にいる生物を少なくとも側方から包囲する包囲部20によって水中にいる生物を包囲する。そして、水中にいる生物に光源から近赤外線Nを照射する。包囲部20には近赤外線Nを反射する反射部材30が取り付けられる。近赤外線Nは水中にいる生物に直接又は反射部材30への反射を経て照射されるとともに、かつ水面Wに対して90度未満の角度で照射される。
【0031】
また、加温システム100は、水中にいる生物を側方から包囲する包囲部20と、包囲部20の内側面に設けられ、近赤外線Nを反射する反射部材30と、水中にいる生物に光源から近赤外線Nを照射する照射部10と、を備える。照射部10は、水中にいる生物に直接又は反射部材30を経て近赤外線を照射するとともに、及び水面Wに対して90度未満の角度で近赤外線Nを照射する。
【0032】
近赤外線Nは水に吸収されにくい性質を有するため、この性質を利用して水中にいる生物にエネルギーを吸収させて当該生物を効率よく加温することで、呼吸や摂餌等の活力を高め、成長の促進を図ることができる。また、近赤外線Nによって水中にいる生物を効率よく加温することから省エネルギーや光熱費の低減を図ることができる。
【0033】
本実施形態に係る水中にいる生物の加温方法は、飼育魚の育成に利用することで飼育魚の肥育や成長を容易に促進させることができる。具体的には、投餌前後の時間に近赤外線Nを照射することにより、活発な摂餌行動を誘引するとともに消化を促進させ、飼育魚の肥育や成長を促進させることができる。また、消化が終わったと推定される時間に近赤外線Nの照射を止めるようにすることで、基礎代謝を低減させて消費電力を削減することができる。
【0034】
本実施形態のように水中にいる魚に近赤外線を照射せずに魚体の温度を管理しようとする方法には、加温水と冷却水を用意して飼育魚を加温水の水域と冷却水の水域に移動させたり、加温水と冷却水を入れ替えたりする方法がある。しかし、この方法では魚体の温度管理に光熱水費や労力を多く必要としてしまう。これに対して、本実施形態のように水中にいる生物に近赤外線を照射することによって、上記のような光熱水費や労力を低減することができる。
【0035】
また、本実施形態に係る加温方法は、魚等の水生生物に限定されず、水中で活動するダイバー等に対して近赤外線Nを照射することでダイバーの体温を数度程度上昇させ、ダイバーの作業性を向上させることも期待できる。
【0036】
また、包囲部20を構成する第1網状部材21の内側面には近赤外線Nを反射する反射部材30を取り付けるように構成している。そのため、生物に直接照射されない近赤外線Nをも反射によって当該生物に照射でき、より効率的に当該生物を加温することができる。
【0037】
また、近赤外線Nは水中にいる生物への直接照射又は反射部材30への反射を介しての照射以外にも水面に対して90度未満の角度で照射することによって水面Wに反射させたうえで水中にいる生物に近赤外線Nを照射することができる。これにより、水中にいる生物をより効率的に加温することができる。
【0038】
また、近赤外線Nの照射では、水上に遮光性を備えた遮光部材を第2網状部材22に設けるように構成している。そのため、水中にいる生物として魚類等が近赤外線Nの照射範囲にいる際に鳥等によって捕食されることを防止することができる。
【0039】
また、照射部10は包囲部20に取り付けられ、包囲部20は水中において移動可能に構成している。そのため、包囲部20を移動させることによって照射部10と水中にいる生物との位置関係を調節し、近赤外線Nの照射を調節して水中にいる生物を効率よく加温することができる。
【0040】
また、近赤外線Nを照射する光源にはLEDを使用することができる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲において種々の変更が可能である。
【0042】
図3は、本発明の変形例に係る加温システム100aを示す図である。上記では、海、養殖池等の天然の水域に包囲部20を設置して近赤外線Nを照射すると説明したが、これに限定されない。上記以外にも図3の加温システム100aのように、包囲部20aが水槽21aによって水中にいる生物を包囲した状態で照射部10から水中にいる生物に近赤外線Nを照射してもよい。照射部10は、加温システム100の照射部10と同一であるため、説明を省略する。図3の場合、反射部材30は水槽21aの側面に設けられる。また、水槽21aの側面にはLED等の照射部10を設置して魚等の水中にいる生物に近赤外線Nを照射することができる。なお、水槽21aには図3に示すように人工魚礁40を適宜設置してもよい。また、人工魚礁は図2のように海等の天然の水域に加温システムを適用する際に加温システムに含めるように構成してもよい。すなわち、海等に加温システムを適用する際には包囲部で包囲された空間内の海底等に人工魚礁を設置してもよい。
【0043】
また、照射部10は、水中にいる生物に対して当該生物の側方から近赤外線Nを照射する実施形態について説明したが、これに限定されない。上記以外にも水中において海底又は水槽の底面等の下方から水中にいる生物に近赤外線Nを照射してもよい。
【0044】
また、図3では包囲部20aが加温システム100の包囲部20と異なり、第2網状部材22を備えていない。このように、第2網状部材22を用いない加温システム及び加温方法も本発明の一実施形態に含まれる。
【符号の説明】
【0045】
100、100a 加温システム、
10 照射部(光源)、
20、20a 包囲部、
21 第1網状部材、
22 第2網状部材(遮光部材)、
30 反射部材、
N 近赤外線、
W 水面。
図1
図2
図3