(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】ヒト化抗体、キメラ抗原受容体、核酸、ベクター、細胞及び応用
(51)【国際特許分類】
C07K 16/30 20060101AFI20241015BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20241015BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20241015BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20241015BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241015BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241015BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20241015BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20241015BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241015BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241015BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241015BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241015BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241015BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
C07K16/30
A61K35/17
A61K38/17
A61K39/395 N
A61P35/00
C07K19/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2023509649
(86)(22)【出願日】2021-07-13
(86)【国際出願番号】 CN2021106097
(87)【国際公開番号】W WO2022037323
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-02-09
(31)【優先権主張番号】202010836034.X
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】523045825
【氏名又は名称】▲蘇▼州易慕峰生物科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沈 青山
(72)【発明者】
【氏名】▲刑▼ ▲凱▼旋
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110526981(CN,A)
【文献】特表2015-517982(JP,A)
【文献】特表2010-523096(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107602703(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、
前記重鎖可変領域配列は、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11のいずれか1つ
に示される配列から選択され、
前記軽鎖可変領域配列は、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15のいずれか1つ
に示される配列から選択され
、
配列番号7の配列は、配列番号12、配列番号14及び配列番号15のいずれか1つに示される配列から選択される前記軽鎖可変領域配列とペアリングし、
配列番号8は、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15のいずれか1つに示される配列から選択される前記軽鎖可変領域配列とペアリングし、
配列番号9は、配列番号12、配列番号13及び配列番号14のいずれか1つに示される配列から選択される前記軽鎖可変領域配列とペアリングし、
配列番号10に示される配列は、配列番号12に示される配列とペアリングし、
配列番号11に示される配列は、配列番号12に示される配列とペアリングすることを特徴とする
EpCAMに結合するヒト化抗体。
【請求項2】
細胞外抗原結合領域、ヒンジ領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域を含み、
前記細胞外抗原結合領域は、請求項1に記載のヒト化抗体或いは前記ヒト化抗体のscFvを含む、
ことを特徴とする
EpCAMに結合するキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記ヒンジ領域の配列は、CD8α、CD28、4-1BB、ICOS、OX40、CD40、CD80及びIgGの少なくとも1つに由来し、
前記膜貫通領域の配列は、CD2、CD27、LFA-1、CD8α、CD28、4-1BB、ICOS、OX40、CD40、CD80、CD3ζ及びCD3εの少なくとも1つに由来し、
前記細胞内シグナル領域の配列は、Toll様受容体、及びCD2、CD27、LFA-1、CD8a、CD28、4-1BB、ICOS、OX40、CD40、CD80、DAP10、DAP12、CD3ζ、CD3εの少なくとも1つに由来する、
請求項2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記キメラ抗原受容体の配列は、配列番号18~29に示されるいずれかの配列から選択される、
ことを特徴とする請求項2または3に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
請求項1に記載のヒト化抗体または前記ヒト化抗体のscFvをコードするヌクレオチド配列を含む、
ことを特徴とする核酸。
【請求項6】
請求項2~4のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む、
ことを特徴とする核酸。
【請求項7】
請求項5または6に記載の核酸を含む、
ことを特徴とするベクター。
【請求項8】
請求項5または6に記載の核酸または請求項7に記載のベクターを含む、
ことを特徴とする細胞。
【請求項9】
生物学的産物は、ヒト腫瘍を検出するための試薬の調製、またはヒト腫瘍を治療するための薬剤の調製に応用され、
前記生物学的産物は、請求項1に記載のヒト化抗体、請求項2~4のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体、請求項5または6に記載の核酸、請求項7に記載のベクター、または請求項8に記載の細胞である、
ことを特徴とする生物学的産物の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体の技術分野に関し、特にヒト化抗体、キメラ抗原受容体、核酸、ベクター、細胞及び応用に関する。
【背景技術】
【0002】
抗腫瘍免疫療法のポイントは、選択された抗体が腫瘍部位に高発現する抗原を選択的に認識できることにある。上皮細胞接着分子(Epithelial Cell Adhesion Molecule、EpCAM)は、ヒト食道癌、胃癌、結腸直腸癌、前立腺癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、腎癌、肝細胞癌、膵臓癌などの上皮性腫瘍に関連する主な表面抗原であり、さまざまなヒト上皮腫瘍細胞及びその前駆細胞及び幹細胞に高度に発現する可能性があるため、抗腫瘍免疫療法の重要な標的となる可能性がある。
【0003】
今のところ、マウス源抗体は依然として免疫治療薬の重要な供給源であるが、マウス源抗体はヒトに免疫原性を有し、人体で異種タンパク質として除去されやすく、治療の有効性を弱めるため、マウス源抗体に対してヒト化改造を行うことにより、ヒト免疫系の識別を回避し、ヒト抗マウス抗体(human anti-mouse antibody、HAMA)応答の誘導を回避する必要がある。
【0004】
従って、従来技術に存在する上記問題を回避するために、EpCAMに特異的に結合するヒト化抗体及びその応用を設計する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の目的は、ヒト化抗体、前記ヒト化抗体を含むキメラ抗原受容体、前記ヒト化抗体及びキメラ抗原受容体をコードする核酸、前記核酸を含むベクター及び細胞を提供することにある。該抗体、キメラ抗原受容体、核酸、ベクター及び細胞は、ヒトEpCAM陽性腫瘍を治療するための薬剤、及びヒトEpCAM陽性腫瘍を検出するための試薬の調製に適用することができる。
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の前記ヒト化抗体は、重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含み、前記重鎖可変領域配列は、それぞれ第1重鎖相補性決定領域の配列、第2重鎖相補性決定領域の配列及び第3重鎖相補性決定領域の配列とする配列番号1に示される配列、配列番号2に示される配列、配列番号3に示される配列を含み、前記軽鎖可変領域配列は、それぞれ第1軽鎖相補性決定領域の配列、第2軽鎖相補性決定領域の配列及び第3軽鎖相補性決定領域の配列とする配列番号4に示される配列、配列番号5に示される配列、配列番号6に示される配列を含む。
【0007】
いくつかの好ましい例では、前記重鎖可変領域の配列は、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10及び配列番号11のいずれかと少なくとも90%同一であり、前記軽鎖可変領域の配列は、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15のいずれかと少なくとも90%同一である。
【0008】
いくつかの好ましい例では、前述したEpCAMを特異的に認識する抗体は、単鎖抗体(scFV)、モノクローナル抗体、ドメイン抗体、Fabフラグメント、Fdフラグメント、Fvフラグメント、F(ab’)2フラグメント及びその誘導体、又は他の形態の抗体であってもよい。
【0009】
いくつかの好ましい例では、前述したEpCAMを特異的に認識する抗体はヒト化抗体であってもよい。
【0010】
いくつかの好ましい例において、前記ヒト化抗体は全長抗体であり、サブタイプはhIgG1、hIgG2、hIgG3及びhIgG4のいずれかの一つである。
【0011】
いくつかの実施例では、前記第1重鎖相補性決定領域と第2重鎖相補性決定領域との間、前記第2重鎖相補性決定領域と第3重鎖相補性決定領域との間、及び前記第3重鎖相補性決定領域は、それぞれ第1重鎖フレームワーク領域、第2重鎖フレームワーク領域及び第3重鎖フレームワーク領域に結合される。
【0012】
いくつかの実施例では、前記第1軽鎖相補性決定領域と第2軽鎖相補性決定領域との間、前記第2軽鎖相補性決定領域と第3軽鎖相補性決定領域との間、及び前記第3軽鎖相補性決定領域は、それぞれ第1軽鎖フレームワーク領域、第2軽鎖フレームワーク領域、及び第3軽鎖フレームワーク領域に結合される。
【0013】
本発明の核酸は、ヒト化抗体をコードする抗体配列又は配列フラグメント、及び前記キメラ抗原受容体のヌクレオチド配列又は配列フラグメントを含む。
【0014】
本発明のベクターは、核酸を含む。
【0015】
本発明の細胞は、前記核酸又は前記ベクターを含む。
【0016】
本発明は、ヒト腫瘍検出用の試薬の調製における、前記ヒト化抗体、キメラ抗原受容体、核酸、ベクター及び細胞のいずれか1つの応用を提供する。
【0017】
本発明は、ヒト腫瘍治療用の医薬の調製における、前記ヒト化抗体、キメラ抗原受容体、核酸、ベクター及び細胞のいずれか1つの応用を提供する。例えば、抗ヒトEpCAMモノクローナル抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、抗体結合薬物(ADC)等の薬物の調製における応用である。
【0018】
本発明の前記キメラ抗原受容体の細胞外抗原結合領域は、前記ヒト化抗体又は抗体フラグメントを含む。
【0019】
好ましくは、前記キメラ抗原受容体は、さらにシグナルペプチドを含み、前記シグナルペプチドの配列は、GM-CSF、CD8α及びCD28の少なくとも1つに由来する。
【0020】
好ましくは、前記キメラ抗原受容体は、さらにヒンジ領域を含み、前記ヒンジ領域の配列はCD8α、CD28、4-1BB、ICOS、OX40、CD40、CD80及びIgGの少なくとも1つに由来する。
【0021】
好ましくは、前記キメラ抗原受容体は、さらに膜貫通領域を含み、前記膜貫通領域の配列はCD8α、CD28、4-1BB、ICOS、OX40、CD40、CD80及びCD3の少なくとも1つに由来する。
【0022】
好ましくは、前記キメラ抗原受容体は、さらに細胞内シグナル領域を含み、前記細胞内シグナル領域の配列はToll様受容体と、CD2、CD27、LFA-1、CD8a、CD28、4-1BB、ICOS、OX40、CD40、CD80、DAP10、DAP12、CD3ζ及びCD3εなどの少なくとも一つに由来する。
【0023】
いくつかの実施例では、前記細胞内シグナル領域の配列はCD11aに由来する。
【0024】
いくつかの実施例では、前記細胞内シグナル領域の配列はCD18に由来する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、mHmL、H1L1、H2L1、H3L1、H3L2、H4L1、H5L1、H2L2、H2L3、H2L4、H3L3とSW480との結合性能曲線である。
【
図2】
図2は、H1L4及びH1L3とSW480との結合性能曲線である。
【
図3】
図3は、mHmL、H1L1、H2L1、H3L1、H3L2、H4L1、H5L1、H2L2、H2L3、H2L4、H3L3とHCT116との結合性能曲線である。
【
図4】
図4は、H1L4及びH1L3とHCT116との結合性能曲線である。
【
図5】
図5は、EpCAMを標的とするキメラ抗原受容体の概略構造図である。
【
図6】
図6は、参照サンプル及びCAR-Tのフロー解析結果の比較図である。
【
図7】
図7は、HCT116-Luc、SW480、KATO-III、A549及びMIAPaCA-2のEpCAM発現レベルの比較図である。
【
図8】
図8は、異なるエフェクター細胞対標的細胞比(ET比)の下での異なる腫瘍細胞に対するCAR-T及び参照T細胞unTの殺傷効率の比較図である。
【
図9】
図9は、CAR-T及び参照T細胞unTと異なる腫瘍細胞との相互作用後のIFN-γ放出量との比較図である。
【
図10】
図10は、実験時間内における各群のマウスの平均腫瘍体積変化の比較図である。
【
図11】
図11は、実験時間内における各群のマウスの平均体重変化の比較図である。
【
図12】
図12は、G1、G2及びG3群におけるマウスの組織解剖の検出結果である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施例の目的、技術的解決方法、及び利点をより明確にするために、以下で、本発明の実施例における技術的解決方法を明確かつ完全に説明する。説明される実施例は、本発明の一部の実施形態であり、全ての実施形態ではないことは明らかである。本発明の実施例に基づいて、当業者が創造的な労働を行うことなく得られる他の全ての実施形態は、全て本発明の保護範囲に属する。特に定義されない限り、本明細書に記載される技術的用語または科学的用語は、当業者によって理解される通常の意味を有するものとする。本明細書に記載される「含む」等の類義語は、該単語の前に現れる要素または項目が、該単語の後にリストされる要素または項目、及びそれらの等価物をカバーすることを意味するものであり、他の要素または項目を排除するものではない。
【0027】
本発明に記載される科学的及び技術的用語は、当業者によって一般的に理解されるものと同じまたは類似の意味を有する。本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下のように定義する:
【0028】
本発明における「抗体」とは、免疫系の抗原結合タンパク質を意味し、抗原結合領域を有する完全な全長抗体、及びそのうち「抗原結合部分」又は「抗原結合領域」に保持されるその任意のフラグメント、又は単鎖可変フラグメント(scFv)等のその単鎖を含む。天然抗体とは、ジスルフィド結合によって相互接続された少なくとも2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖又はその抗原結合フラグメントを含む糖タンパク質を意味する。「抗体」は、さらに原核細胞で発現される抗体、非グリコシル化抗体、及び抗原に結合される抗体フラグメント及び誘導体等の抗体(特に本明細書で説明する抗体)の全ての組換え形態を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VHと略記)及び重鎖定常領域(CHと略記)により構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VLと略記)及び軽鎖定常領域(CLと略記)により構成される。VH及びVLは、さらに相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に細分化することが可能であり、それらはフレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保守的な領域に散在する。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRにより構成され、アミノ末端からカルボキシル末端の方向で、次の順位で配置される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖及び軽鎖の可変領域には、抗原と相互作用する結合ドメインが含まれている。抗体の定常領域は、該免疫グロブリンと宿主組織又は因子との結合を媒介することが可能であり、前記宿主組織又は因子は、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)及び古典的補体系の第1成分(C1q)を含む。
【0029】
抗体フラグメントは以下を含むが、これらに限定されない:
(i)VL、VH、CL及びCH1ドメインにより構成されるFabフラグメント(Fab’及びFab’-SHを含む)、(ii)VH及びCH1ドメインにより構成されるFdフラグメント、(iii)モノクローナル抗体のVL及びVHドメインにより構成されるFvフラグメント、(iv)単一の可変領域により構成されるdAbフラグメント、(v)F(ab’)2フラグメント(2つの連結されたFabフラグメントを含む二価フラグメント)、(vi)単鎖Fv分子抗原結合部位、(vii)二重特異性単鎖Fv二量体、(viii)「二量体」又は「三量体」(遺伝子融合によって構築された多価又は多重特異性フラグメント)、及び(ix)同一又は異なる抗体に遺伝的に融合されるscFv。
【0030】
本発明における用語「Fc」又は「Fc領域」には、第1定常領域免疫グロブリンドメイン以外の抗体定常領域を含むポリペプチドが含まれる。従って、Fcは、IgA、IgD、及びIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、及びIgE及びIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、及びこれらのドメインN末端のフレキシブルヒンジを意味する。IgA及びIgMの場合、FcはJ鎖を含むことが可能である。IgGの場合、Fcは免疫グロブリンドメインCγ2及びCγ3、及びCγ1とCγ2との間のヒンジを含む。Fc領域の境界は変動し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、一般的に、そのカルボキシ末端に残基C226又はP230が含まれると定義され、そのうち、番号付けはKabatのEUインデックスに基づく。ヒトIgG1の場合、本明細書ではFcは、残基P232からそのカルボキシル末端までを含むと定義され、そのうち、番号付けはKabatのEUインデックスに基づく。Fcは、分離された該領域意味する場合もあれば、抗体等のFcポリペプチド、環境中の領域を意味する場合もある。上記「ヒンジ」は、抗体の第1定常ドメインと第2定常ドメインとの間に含まれるアミノ酸の柔軟なポリペプチドを含む。構造的には、IgG CH1ドメインはEU220で終わり、IgG CH2ドメインは残基EU237で始まる。
【0031】
本発明における「置換により得られる変異配列」とは、親ポリペプチド配列中の特定の位置のアミノ酸を別のアミノ酸に置換することを意味する。本発明における「置換または欠失により得られる変異配列」中の「欠失」とは、親ポリペプチド配列中の特定の位置のアミノ酸が欠失することを意味する。
【0032】
本発明における「キメラ抗原受容体」又は「CAR」とは、抗原に結合することができる細胞外抗原結合領域、ヒンジ領域、膜貫通領域及び細胞内シグナル領域を含み、細胞内シグナル領域とは、決定されたシグナル伝達経路を介して、第2メッセンジャーを生成することにより情報を細胞に伝達して細胞活性を調節するタンパク質、又はそのようなメッセンジャーに対応することによりエフェクターとして機能するタンパク質を意味し、一次シグナル伝達ドメインを含み、さらに以下に定義される刺激分子に由来する機能シグナル伝達ドメイン(即ち、共刺激シグナル伝達ドメイン)を含むことができる。細胞内シグナル伝達ドメインは、CARの細胞(例えば、CAR-T細胞)の免疫エフェクター機能を促進できるシグナルを生成し、免疫エフェクター機能の例として挙げられるのは、例えば、CAR-T細胞には、サイトカイン分泌を含む細胞溶解活性及び補助活性が含まれる。
【0033】
「共刺激シグナル伝達ドメイン」という用語は、「共刺激分子」、即ちT細胞上の関連結合性リガンドを意味し、共刺激リガンドに特異的結合することにより、増殖であるが、これに限定されないT細胞の共刺激応答を媒介する。共刺激分子は、有効な免疫応答に必要な非抗原受容体の細胞表面分子又はそのリガンドである。共刺激分子には、Toll様受容体、及びCD2、CD27、LFA-1(CD11a/CD18)、CD8α、CD28、4-1BB、ICOS、OX40、CD40、CD80、DAP10、DAP12、CD3ζ及びCD3ε等が含まれるが、これらに限定されない。
【0034】
本発明において:
「CD3ζ」は、GenBanアクセッション番号BAG36664.1によって提供されるタンパク質、又はマウス、げっ歯類動物、サル、類人猿等の非ヒト種由来の同等の残基として定義される。「CD3ζドメイン」は、ζ鎖の細胞質ドメインからのアミノ酸残基として定義され、T細胞活性化に必要な初期シグナルを機能的に伝達するのに十分である。一態様では、ζの細胞質ドメインは、GenBankアクセッション番号BAG36664.1の残基52~163、その機能的ポインティングホモログ(マウス、げっ歯類動物、サル、類人猿等の非ヒト種由来の同等の残基)を含む。
【0035】
「CD28」は、GenBanアクセッション番号NP_006130.1によって提供されるタンパク質、又はマウス、げっ歯類動物、サル、類人猿等の非ヒト種由来の同等の残基として定義される。「CD28シグナル領域」は、CD28の細胞質ドメインからのアミノ酸残基として定義され、T細胞の活性化に必要な共刺激シグナルを伝達することができる。その配列は、GenBankアクセッション番号NP_006130.1の残基180~220、その機能的ポインティングホモログ(マウス、げっ歯類動物、サル、類人猿等の非ヒト種由来の同等の残基)を含む。「CD28ヒンジ領域」は、GenBankアクセッション番号NP_006130.1の残基114~152、その機能的ポインティングホモログ(マウス、げっ歯類動物、サル、類人猿等の非ヒト種由来の同等の残基)を含む。「CD28ヒンジ膜貫通領域」は、GenBankアクセッション番号NP_006130.1の残基153~179、その機能的ポインティングホモログ(マウス、げっ歯類動物、サル、類人猿等の非ヒト種由来の同等の残基)を含む。
【0036】
「4-1BB」は、GenBankアクセッション番号NP_001552.2のアミノ酸配列、又はマウス、げっ歯類動物、サル、類人猿等の非ヒト種由来の同等の残基を有するTNFRスーパーファミリーのメンバーを意味する。「4-1BBシグナル領域」は、4-1BBの細胞質ドメインからのアミノ酸残基として定義され、T細胞の活性化に必要な共刺激シグナルを伝達することができる。その配列はGenBankアクセッション番号NP_006130.1の残基214~255、その機能的ポインティングホモログ(マウス、げっ歯類動物、サル、類人猿等の非ヒト種由来の同等の残基)を含む。
【0037】
本発明の実施例に記載のEpCAMは、上皮細胞接着分子である。前記ヒト化抗体は、関連する腫瘍で発現するEpCAMに特異的に結合する。前記関連する腫瘍には、上皮性腫瘍が含まれ、具体的には食道癌、胃癌、結腸直腸癌、前立腺癌、肺癌、肺癌、卵巣癌、乳癌、腎癌、肝細胞癌及び膵臓癌が含まれる。
【0038】
本発明の実施例において、前記ヒト化抗体はヒト化全長抗体であり、サブタイプはhIgG1である。
【0039】
いくつかの実施例において、前記ヒト化抗体は単鎖抗体であり、サブタイプはhIgG1、hIgG2、hIgG3及びhIgG4のいずれか1つである。
【0040】
いくつかの実施例において、前記重鎖可変領域配列は、配列番号1に示される配列、配列番号2に示される配列、及び配列番号3に示される配列を含み、それぞれCDR-H1の配列、CDR-H2の配列及びCDR-H3の配列として示され、CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3はそれぞれ第1重鎖相補性決定領域、第2重鎖相補性決定領域及び第3重鎖相補性決定領域である。
【0041】
いくつかの実施例において、CDR-H1とCDR-H2との間の第1重鎖フレームワーク領域の配列は、QVQLVQSGAEVKKPGX6SVKVSCKASGX7TFX8であり、そのうち、X6はA及びSのいずれか1つであり、X7はY及びGのいずれか1つであり、X8はT及びSのいずれか1つである。
【0042】
いくつかの実施例において、CDR-H2とCDR-H3との間の第2重鎖フレームワーク領域の配列は、WVRQAPGQGLEWMG及びWVRQAPGQGLEWIGのいずれか1つである。
【0043】
いくつかの実施例において、CDR-H3に連結された第3重鎖フレームワーク領域の配列は、X9VTX10TX11DX12STSTX13YMELSSLRSEDTAVYYCARであり、X9はR及びKのいずれか1つであり、X10はM、L及びIのいずれか1つであり、X11はR、T、A及びVのいずれか1つであり、X12はT及びEのいずれか1つであり、X13はV及びAのいずれか1つである。
【0044】
いくつかの実施例において、前記軽鎖可変領域配列は、配列番号4に示される配列、配列番号5に示される配列、及び配列番号6に示される配列を含み、それぞれCDR-L1の配列、CDR-L2の配列及びCDR-L3の配列として示され、CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3は、順に第1軽鎖相補性決定領域、第2軽鎖相補性決定領域、及び第3軽鎖相補性決定領域である。
【0045】
本発明の実施例は、さらにEpCAMを特異的に標的とするキメラ抗原受容体を提供し、前記キメラ抗原受容体の抗原結合領域は、前記ヒト化抗体又はヒト化抗体のフラグメントを含む。
【0046】
好ましくは、いくつかの実施例において、前記EpCAMを標的とする抗体フラグメントは単鎖可変領域(scFv)であり、前記単鎖可変領域の構造はVH-Linker-VL又はVL-Linker-VHであり、前記Linkerアミノ酸配列は配列番号30に示されたように、GGGGSGGGGSGGGGSである。
【0047】
いくつかの実施例において、前記キメラ抗原受容体は、さらにヒンジ領域を含み、前記ヒンジ領域の配列は、CD8α、CD28、4-1BB、ICOS、OX40、CD40、CD80及びIgGの少なくとも1つに由来する。
【0048】
いくつかの実施例において、前記キメラ抗原受容体は、さらに膜貫通領域を含み、前記膜貫通領域の配列は、CD8α、CD28、4-1BB、ICOS、OX40、CD40、CD80及びCD3の少なくとも1つに由来する。
【0049】
いくつかの実施例において、前記キメラ抗原受容体は、さらに細胞内シグナル領域を含み、前記細胞内シグナル領域の配列は、CD8α、CD28、4-1BB、ICOS、OX40、CD40、CD80、DAP10、DAP12、CD3ζ及びCD3εの少なくとも1つに由来する。
【0050】
好ましくは、前記CAR分子配列は以下の表に示されるとおりである:
【0051】
【0052】
本発明の実施例は、関連する腫瘍に高度に発現されるEpCAM抗原を特異的に標的とすることを含む、前記キメラ抗原受容体の応用をさらに提供する。
【0053】
本発明の実施例は、前記キメラ抗原受容体をコードするヌクレオチド配列を含む、核酸をさらに提供する。
【0054】
本発明の実施例は、前記核酸を含むベクターをさらに提供する。
【0055】
本発明の実施例は、前記ベクターを含む細胞をさらに提供する。
【0056】
〈実施例1.ヒト化抗体の設計〉
本実施例は、以下のステップを含む前記ヒト化抗体の設計方法を提供する:
S1:配列番号16に示されるマウス抗体VH配列、配列番号17に示されるマウス抗体VL配列を得る。
S2:マウス抗体配列とヒト抗体データベースとを照合して、相同性の最も高いヒト抗体生殖系列を見つける。
S3:コンピューターモデリングを行い、抗原との結合に影響を与える可能性のある抗体構造内の部位、復帰突然変異キー部位及び組み合わせをシミュレートし、最適な構造解を選別する。
【0057】
そのうち、VH設計は、相同性の最も高いIGHV1をヒト化設計テンプレートとして選択し、VL設計は、優先的にIGKV1、IGKV3、及びIGKV4をヒト化設計テンプレートとして選択する。一般的なペアリング方法はIGHV1-KV1、IGHV1-KV3である。
【0058】
そのうち、それぞれDiscovery Studio及びSchroedinger Antibody Modelingを使用して、相同性モデリング手法によって5~10個の最適な構造ソリューションを選択する。
【0059】
具体的には、Loop領域は、一般的に相同性モデリング法を用いてモデリングされる。例えば、CDRアミノ酸配列の比較結果、相同性が50%未満を示す場合、DE NOVOモデリング法を用いてCDR3構造モデルを構築する。PDB BLASTを用いて、配列の最も近い10個の構造解像度が2.5オングストローム以上の抗体結晶構造モデルを取得し、自動モデリングモデルと比較して、最適な構造モデルを選択する。
【0060】
上記ヒト化抗体のいくつかのペアをヒト生殖系列配列と比較して、得られたヒト化率及び復帰突然変異部位の数については表2を参照されたい。
【0061】
【0062】
〈実施例2.ヒト化抗体の発現、精製及びEpCAMの特異的結合力の検出〉
本実施例において、前記ヒト化抗体の応用は、pCDNA3.4ベクター及びExpiCHO-s発現系を用いて前記ヒト化抗体を発現させることを含む。
【0063】
さらに、配列番号7~11の各配列をそれぞれpCDNA3.4ベクターにクローニングしていくつかの重鎖遺伝子発現ベクターを取得し、配列番号12~15の各配列をそれぞれpCDNA3.4ベクターにクローニングしていくつかの軽鎖遺伝子発現ベクターを取得し、次いで前記いくつかの重鎖遺伝子発現ベクター及び前記いくつかの軽鎖遺伝子発現ベクターをペアリングした後、それぞれExpiCHO-s発現系によってトランスフェクトして、それぞれH1L1、H2L1、H3L1、H3L2、H4L1、H5L1、H2L2、H2L3、H2L4、H3L3、H1L4、及びH1L3として示されるいくつかの組換え抗体を得る。mHmLはEpCAM抗体の配列である。具体的なクローニング及びトランスフェクションプロセスは、当業者の通常の技術的手段であり、ここでは詳述しない。
【0064】
さらに、本発明は、空のプローブ、mHmL、H1L1、H2L1、H3L1、H3L2、H4L1、H5L1、H2L2、H2L3、H2L4、H3L3、H1L4、及びH1L3とHuman-EpCAM-Protetin-Hisとの結合解離曲線をそれぞれ測定した。具体的な測定方法は以下のとおりである:Tween 20をPBS緩衝液に溶解して得られた0.025%濃度のPBST緩衝液を用いて、各組換え抗体を50nMの濃度に希釈し、Human-EpCAM-Protetin-Hisを500nM~31.3nMの濃度勾配で希釈し、プロテインAをバイオセンサーに結合させ、上記PBST緩衝液で10分間活性化し、ローディング時間は120秒、結合時間は300秒、解離時間は300秒とする。結果は親和定数KD値として表3に示す。表3に示すように、組換え抗体とEpCAM抗原との親和定数は、1.0×10-8mol~10-10molである。
【0065】
【0066】
本実施例は、さらにフローサイトメトリー蛍光ソーティング法によって、ヒト結腸癌細胞SW480、ヒト結腸直腸癌細胞HCT116及び結腸癌RKO細胞に対する組換え抗体の結合活性を調べてみた。その結果、各組換え抗体は、RKO細胞への結合は弱いが、ヒト結腸癌細胞SW460及びヒト結腸直腸癌細胞HCT116への結合活性は良好であることが示された。
【0067】
具体的には、各フローチューブ内の細胞数は1×10
5であり、FACS緩衝液を用いて細胞を遠心分離洗浄する;再懸濁後、各フローチューブに100μlのFACS希釈液を加え、4℃で60分間インキュベートする;FACS緩衝液を用いて5回の遠心分離洗浄を行った後、各フローチューブに100μlのフルオレセインFITC及びFcγ受容体を添加した後、4℃で30分間インキュベートする;最後に、FACS希釈液を用いて遠心分離洗浄を行った後、FACS希釈液を用いて細胞を再懸濁し、テストに使用して、
図1に示すmHmL、H1L1、H2L1、H3L1、H3L2、H4L1、H5L1、H2L2、H2L3、H2L4、H3L3とSW480との結合性能曲線、及び
図2に示すH1L4、H1L3とSW480との結合性能曲線、
図3に示すmHmL、H1L1、H2L1、H3L1、H3L2、H4L1、H5L1、H2L2、H2L3、H2L4、H3L3とHCT116との結合性能曲線、及び
図4に示すH1L4、H1L3とHCT116との結合性能曲線を得た。
図1~4の統計によって、表3に示すSW480及びHCT116における各組換え抗体のEC50値を得た。その結果、表4に示すように、EpCAMに結合する各ヒト化抗体のEC50は、元の抗体mHmLと類似し、ヒト化形質転換が抗体親和性に有意な影響を与えていないことを示している。
【0068】
【0069】
〈実施例3.EpCAMを標的とするCAR分子設計、レンチウイルスパッケージング〉
本実施例は、さらにEpCAMを標的とするキメラ抗原受容体(EpCAM-CARと略す)を提供し、その構造は
図5に示すとおりであり、シグナルペプチド、抗原結合領域、ヒンジ領域、膜貫通領域及び細胞内共刺激シグナル伝達ドメインを含む。
【0070】
具体的には、EpCAM-CARの配列は、配列番号19に示すとおりであり、配列番号19を参照されたい。
【0071】
GM-CSFシグナルペプチドの配列は、MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIPである。
【0072】
ヒト化抗体のVH配列は以下のとおりである:
QVQLVQSGAEVKKPGASVKVSCKASGYTFTNYWINWVRQAPGQGLEWIGNIYPSYIYTNYNQEFKDKVTLTVDESTSTAYMELSSLRSEDTAVYYCTRSPYGYDEYGLDYWGQGTTVTVSS。
【0073】
G4S x3リンカー領域の配列は、GGGGSGGGGSGGGGSである。
【0074】
ヒト化抗体のVL配列は以下のとおりである:
DIQLTQSPSSLSASVGDRVTMTCKSSQSLLNTRNQKNYLTWYQQKPGKAPKLLIYWASTRESGVPSRFSGSGSGTDFTLTISSLQPEDFATYYCQNDYVYPLTFGQGTKLEIK。
【0075】
CD28のヒンジ領域の配列は以下のとおりである:
IEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKP。
【0076】
CD28膜貫通領域の配列は、FWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWである。
【0077】
CD28共刺激シグナル領域の配列は以下のとおりである:
RSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRS。
【0078】
CD3ζ共刺激シグナル領域の配列は以下のとおりである:
RVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPR。
【0079】
本発明の実施例において、EpCAM-CARをコードするレンチウイルスベクタープラスミドはレンチウイルスにパッケージ化され、EpCAM-CAR及び第3世代レンチウイルスベクターの主鎖により構成されるCARプラスミドは和元生物技術(上海)株式会社から提供される。
【0080】
具体的なパッケージ化方法は以下のとおりである:
T75培養フラスコに293T細胞を接種し、コンフルエンスが約70%~80%になるまで培養した後、等量の液体交換を行い、トランスフェクトするサンプルを取得する。そのうち、培養フラスコ内のコントロール細胞数は5x106であり、培養量は20mlである;
2mlのOpti-MEM及び55μlのLipo3000を用いてチューブA溶液を構成し、2mlのOpti-MEM、46μlのP3000、18μgのヘルパープラスミド及び6μgのEpCAM-CARメインプラスミドを用いてチューブB溶液を構成する;
チューブAとチューブBとを混合し、室温で15分間インキュベートした後、前記トランスフェクトするサンプルを加え、48時間インキュベートする;
トランスフェクションの48時間後、上清液を回収し、500gで10分間遠心分離し、上清液を遠心チューブにろ過して密封し、10000g、4℃で一晩遠心分離して白色ウイルス沈殿物を取得し、白色ウイルス沈殿物を抽出し且つAIM-V培地200μlで溶解した後、2μlを採取し、以下の手順に従って力価を測定し、残りは-80℃で保存する。
【0081】
再懸濁したウイルス上清液2ulを198ulの1640培地に加えてウイルスを希釈した後、24ウェルプレートの合計3ウェルに、1ウェルあたり2x105ずつそれぞれ希釈したウイルス2ul、10ul、50ulを添加し、最終濃度5ul/mlのヘルパーウイルスを加えて48時間感染させてレンチウイルスを得る。ウイルス感染終了後、EpCAM-FITC標識抗原を用いてウイルス力価を検出したところ、力価は2.5E+07~1.2E+08の間であった。
【0082】
〈実施例4.EpCAMを標的とするCAR-T細胞の構築〉
本発明の実施例では、上記レンチウイルスを用いてヒト末梢血単核細胞(PBMC)を感染させ、CAR-T細胞(CAR-Tと略す)を構築した。具体的なプロセスは以下のとおりである:
ヒト末梢血単核細胞(PBMC)は、AIM-V培地、5%のウシ胎児血清、ペニシリン100U/mL、ストレプトマイシン0.1mg/mL、及び300IU/mL IL-2で構成された培地によって培養される;MILTENYI BIOTEC社のCD2/CD3/CD28のT細胞活性化/増殖キットを用いてT細胞を活性化する。即ち、コーティングされた磁気ビーズは細胞と1:2の比率で混合され、最終的な細胞密度は5×106個/mL/cm2になり、混合後、37℃、5%CO2インキュベーターに入れ、48時間培養し、刺激する;Takara社のレトロネクチンを20μg/mlに希釈し、培養プレート(非組織培養処理)にコーティングし、コーティング溶液4μg/cm2を、4℃の冷蔵庫に一晩入れる。T細胞活性化の48時間後、300gで5分間遠心分離し、上清を除去し、T細胞を新鮮な培地で再懸濁し、Takara社のレトロネクチンでコーティングされたプレートに移し、上記レンチウイルスを添加し、且つMOI=5にコントロールし、37℃、5%CO2インキュベーターで培養する;同時に、リファレンスサンプルとして、レンチウイルス無添加のT細胞(unTと略す)を調製する;レンチウイルス添加24時間後、300gで5分間遠心分離し、上清を除去し、培地によりT細胞を懸濁し、CAR-Tを得る。
【0083】
さらに、レンチウイルス添加48時間後、サンプルを採取し、フローサイトメトリーにより形質導入率を検出し、EpCAMタンパク質を一次抗体、Biolegend社の抗EpCAM-FITCを二次抗体として用いて、
図6に示す非形質導入T細胞(unT)とCAR-Tとのフローサイトメトリー解析結果の比較図を取得し、これはCARがCAR-T上で正常に発現されたことを示している。
【0084】
〈実施例5.EpCAMを標的とするCAR-T細胞のインビトロ標的細胞殺傷性能検証〉
本発明の実施例では、異なるEpCAM発現条件を有する腫瘍細胞株を選択して、CAR-Tのインビトロ殺傷性能を調査した。
図7は、HCT116-Luc、SW480、KATO-III、A549、及びMIAPaCA-2のEpCAM発現レベルの比較図である。
図7に示すように、異なるEpCAM発現レベルを有する腫瘍細胞株はそれぞれ以下のとおりである:EpCAMを陽性に発現する細胞株はHCT116-Luc、SW480、KATO-III及びA549であり、EpCAMを陰性に発現する細胞株はMIAPaCA-2である。
【0085】
本発明の実施例は、CAR-TのHCT116-Luc、SW480、KATO-III、A549及びMIAPaCA-2に対するインビトロ殺傷を調査した。
【0086】
具体的には、96ウェルプレートに、調製したCAR-T及び参照T細胞unTを、異なるエフェクター細胞対標的細胞比に従って、それぞれ1×104個の腫瘍細胞と混合培養し、各群に3つの複製ウェルを設定し、37℃、5%CO2インキュベーターで共培養する;24時間後、HCT116-luc、SW480、KATO-III、A549、MIAPaCA-2について、SIGMA社のLDHキットによって、標的細胞のLDHの放出を検出して、殺傷効率を取得する。同時に、最高のエフェクター細胞対標的細胞比に相対する共培養ウェルの上清を取り、CISBIO社のHTRFキットによって、IFN-γの量を検出する。
【0087】
図8は、異なるエフェクター細胞対標的細胞比(ET比)の下での異なる腫瘍細胞に対するCAR-T及び参照T細胞unTの殺傷効率の比較図である。
図8に示すように、CAR-T細胞は、EpCAM陽性腫瘍細胞HCT116-Luc、SW480、KATO-III、A549を特異的に殺傷するが、EpCAM陰性腫瘍細胞MIAPaCA-2に対しては殺傷しない。
【0088】
図9は、CAR-T及び参照T細胞unTと異なる腫瘍細胞との相互作用後のIFN-γ放出量の比較図である。殺傷実験の結果と一致して、
図9に示すように、EpCAM CAR-T細胞のIFN-γ放出は、EpCAM陽性腫瘍細胞HCT116-Luc、SW480、KATO-III、A549によって特異的に活性化されるが、EpCAM陰性腫瘍細胞MIAPaCA-2と共培養した場合には、明らかなIFN-γ放出の活性化は発生しない。
【0089】
〈実施例6.EpCAMを標的とするCAR-T細胞のマウスの腫瘍細胞に対する除去〉
本発明の実施例は、M-NSGマウスにおけるHCT116皮下腫瘍形成に対するCAR-Tの治療効果及び安全性を調査した。
【0090】
具体的には、HCT116をM-NSGマウスに皮下接種して、HCT116腫瘍モデルを確立する。接種後10日目に、マウスの平均腫瘍体積は約170mm3である。ランダムブロック法により、マウスをG1~G5の5群に分ける。各群にはいずれも尾静脈投与を行い、G1にはPBSを投与し、G2にはunTを投与し、G3群、G4群、及びG5群の各マウスには、それぞれ20E6、2E6、0.2E6細胞数のCAR-Tを投与する。注射後1日目、8日目、15日目、22日目、28日目、36日目、42日目に各群のマウスの目頭から採血し、フローサイトメトリー(FACS)により、マウスの末梢血中のヒトCD45+及びヒトCD3+の持続性及びCAR+細胞の割合を検出する。週2回、腫瘍の直径を測定し、動物の体重を量り、動物の生活状態を観察し、異常状況を記録する。実験全体の間、マウスは実験要件に従って安楽死させ、解剖し、サンプルを採取し、切片分析を行う。統計分析のために用いられた各群のマウスの数は6匹である。
【0091】
図10は、実験時間内における各群のマウスの平均腫瘍体積変化の比較図である。
図10に示すように、21日目に、G1群の平均腫瘍体積は1586.69±439.96mm
3であり、他の群の平均腫瘍体積は順に1770.23±460.15mm
3、272.00±26.42mm
3、272.00±26.42mm
3、498.22±47.85mm
3及び3607.44±510.54mm
3であり、対応する腫瘍抑制率は順に-13.11%、92.97%、76.99%、及び-142.95%である。そのうち、G3群及びG4群の平均腫瘍体積は明らかにG1群より低く、CAR-Tが20E6及び2E6の実験濃度において腫瘍増殖を阻害するある程度の効果を示したことを示す。42日目に、G4群のすべてのマウスの腫瘍組織が完全に消失し、完全寛解を達成した。
【0092】
図11は、実験時間内における各群のマウスの平均体重変化の比較図である。
図11に示すように、21日目に、各群のマウスの体重増加率は、順に-4.42%、-5.21%、6.89%、1.45%及び7.28%である。そのうち、G3群、G4群、及びG5群のマウスは、実験期間中に体重を良好に維持でき、CAR-Tが20E6、2E6、0.2E6の3つの実験濃度において明らかな毒性を示さなかったことを示したが、G1群、G2群のマウスは、実験期間中に体重を良好に維持できなかった。
【0093】
さらに、G1、G2及びG3群のマウスを採取して組織学的解剖を行い、形成された組織切片における代表的なサンプル状況は
図12に示すとおりである。
【0094】
図12に示すように、G1群のマウスの肺は、中等度の腫瘍細胞浸潤または転移を示した;G2群のマウスは、肺血管周囲の炎症性細胞浸潤、脾臓好中球の軽度増加、及び肝門脈領域の炎症性細胞の軽度浸潤を示した;G3群のマウスの肺血管周囲の炎症性細胞は軽度の浸潤を示したが、いずれも腫瘍細胞の浸潤または転移を示さず、いずれも腫瘍増殖を阻害するある程度の効果を示した。G3群の組織切片の病理組織学的変化は、担癌マウス及び被験物質、即ちCAR-Tの薬理作用に関連する可能性があり、CAR-Tに関連する毒性反応は存在しない。
【0095】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらの実施形態に多様な修正及び変更を加えることができることは当業者には明らかであろう。しかしながら、そのような修正及び変更は、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲及び精神内にあることを理解されたい。さらに、本明細書に記載の本発明は、他の実施形態が可能であり、様々な方法で実施または達成することができる。
【配列表】