(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】距離測定方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 13/75 20060101AFI20241015BHJP
H02J 50/20 20160101ALI20241015BHJP
H02J 50/27 20160101ALI20241015BHJP
【FI】
G01S13/75
H02J50/20
H02J50/27
(21)【出願番号】P 2020091903
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-04-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 公開の事実1:2020年1月5日に2020 IEEE International Conference on Consumer Electronics(ICCE)予稿集のウェブサイト(https://bit.ly/36ecCuc)に掲載 公開の事実2:2020年1月6日の「2020 IEEE International Conference on Consumer Electronics(ICCE)」にて発表 公開の事実3:2020年3月23日に IEEE Xplore デジタルライブラリ(https://ieeexplore.ieee.org/document/9043047)に掲載
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】道関 隆国
(72)【発明者】
【氏名】田中 亜実
(72)【発明者】
【氏名】西川 久
(72)【発明者】
【氏名】樫山 法史
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-197036(JP,A)
【文献】特開平07-198836(JP,A)
【文献】特表2007-536523(JP,A)
【文献】特開2018-182913(JP,A)
【文献】特開昭53-142890(JP,A)
【文献】特開2008-094303(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0108585(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 - 5/14
7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
19/00 - 19/55
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信器が送信波を放射し、
前記送信波を受信した受信器が、受信した前記送信波から生じる高調波を放射し、
前記送信器が前記高調波を受信し、
処理部が、前記送信波に対する、受信された前記高調波の遅延量から、前記送信器と前記受信器との間の距離を求める、ことを備え、
前記受信器は、前記送信波を受信するとともに直流電流に整流するレクテナを備え、
前記高調波は、前記レクテナによる整流によって生じる
距離測定方法。
【請求項2】
前記高調波は、前記レクテナから放射される
請求項1に記載の距離測定方法。
【請求項3】
前記レクテナは、前記送信波の周波数である第1周波数、及び、前記高調波のうちの前記送信波の第2高調波の周波数である、前記第1周波数の2倍の第2周波数に対応した、デュアルバンドレクテナである
請求項
2に記載の距離測定方法。
【請求項4】
前記送信波は、前記受信器への無線給電用である
請求項1~
3のいずれか一項に記載の距離測定方法。
【請求項5】
前記送信波は、繰り返し波形である
請求項1~
4のいずれか一項に記載の距離測定方法。
【請求項6】
前記送信波は、間欠波である
請求項1~
5のいずれか一項に記載の距離測定方法。
【請求項7】
前記送信器は、前記送信波を放射する送信アンテナと、前記送信アンテナより小型であり、前記高調波を受信する受信アンテナと、を備える
請求項1~
6のいずれか一項に記載の距離測定方法。
【請求項8】
送信波を放射する送信部を備える送信器と、
前記送信波を受信し、受信した前記送信波を整流器によって整流することで生じる高調波を放射する受信器と、
を備え、
前記受信器は、前記送信波を受信するとともに直流電流に整流するレクテナを備え、
前記高調波は、前記レクテナによる整流によって生じ、
前記送信器は、
前記高調波を受信する受信部と、
前記送信波に対する、受信された前記高調波の遅延量から、前記受信器までの距離を求める処理部と、
を備える、システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、距離測定方法、送信器、受電器、及び、レクテナに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特開2019-37355号公報に示されているように、人に装着されたウェアラブル機器への1つの給電方法として無線給電がある。人体への電磁波防護指針では基準値61.4[V/m]が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
人体近傍での電界が基準値を超えないように、無線給電を行う際に、ウェアラブル機器までの距離に応じて送電側の電力を制御することが考えられる。しかしながら、一般的なレーダを用いてウェアラブル機器までの距離を測定すると、誤って近傍にいるウェアラブル機器を携帯していない人への距離が測定されてしまい、正しい距離が得られないおそれがある。このような問題は、ウェアラブル機器に無線給電する場合に限られず、他の物体が近傍に存在することがありえる状況において、特定の対象物までの距離を測定しようとする場合にも同様に発生する。
【0005】
したがって、他の物体が近傍に存在することがありえる状況であっても、特定の対象物までの距離を正しく測定できることが望まれる。
【0006】
ある実施の形態に従うと、距離測定方法は、送信器が送信波を放射し、送信波を受信した受信器が、受信した送信波から生じる高調波を放射し、送信器が高調波を受信し、送信波に対する、受信された高調波の遅延量から、送信器と受信器との間の距離を求める、ことを備える。
【0007】
他の実施の形態に従うと、送信器は、送信波を放射する送信部と、記送信波を受信した受信器が放射する、受信した送信波から生じる高調波を受信する受信部と、送信波に対する、受信された高調波の遅延量から、受信器までの距離を求める処理部と、を備える。
【0008】
他の実施の形態に従うと、受電器は、送信波によって無線給電を受ける受電器であって、送信波を受信するアンテナと、アンテナによって受信した送信波を整流する整流器と、を備え、アンテナは、送信波の第1周波数及び高調波の第2周波数に対応したデュアルバンドアンテナである。
【0009】
他の実施の形態に従うと、レクテナは、送信波を受信するアンテナと、アンテナによって受信した送信波を整流する整流器と、を備え、アンテナは、整流器に接続されており高調波の周波数に対応した長さを有する第1エレメントと、インダクタを介して第1エレメントに接続された第2エレメントと、を有し、第1エレメント及び第2エレメントによって送信波を受信し、第1エレメントによって高調波を送信するよう構成されている。
【0010】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施の形態に係る無線給電システムの構成の概略図である。
【
図2】
図2は、無線給電システムに含まれる送信器の構成の概略図である。
【
図3】
図3は、無線給電システムに含まれる受信器の構成の概略図である。
【
図4】
図4は、無線給電システムでの送信器と受信器との間の距離の測定方法の流れを表したフローチャートである。
【
図5】
図5は、送信波と受信波との関係を表した概略図である。
【
図6】
図6は、送信器の構成の他の例を表した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1.距離測定方法、送信器、受電器、及び、レクテナの概要>
【0013】
(1)本実施の形態に係る距離測定方法は、送信器が送信波を放射し、送信波を受信した受信器が、受信した送信波から生じる高調波を放射し、送信器が高調波を受信し、送信波に対する、受信された高調波の遅延量から、送信器と受信器との間の距離を求める、ことを備える。
【0014】
送信波は、例えば、電磁波信号であって、送信器が受信器に無線給電する電磁波信号などである。受信器は、例えば、ウェアラブル機器に備えられる受信器であって、送信器から無線給電された電力をウェアラブル機器に供給するものである。送信波に対する、受信された高調波の遅延量から、送信器と受信器との間の距離が求められることによって、他の物体が近傍に存在することがありえる状況であっても、送信器と受信器との間の距離が正確に求められる。
【0015】
(2)好ましくは、高調波は、受信器が受信した送信波が、受信器において歪むことによって生じる。これにより、受信器の特性を利用して送信器と受信器との間の距離を求めることができる。
【0016】
(3)好ましくは、受信器は、送信波を受信するとともに直流電流に整流するレクテナを備え、高調波は、レクテナによる整流によって生じる。これにより、受信器の特性を利用して送信器と受信器との間の距離を求めることができる。
【0017】
(4)好ましくは、高調波は、レクテナから放射される。これにより、受信器の特性を利用して送信器と受信器との間の距離を求めることができる。
【0018】
(5)好ましくは、レクテナは、送信波の周波数である第1周波数、及び、高調波のうちの送信波の第2高調波の周波数である、第1周波数の2倍の第2周波数に対応した、デュアルバンドレクテナである。これにより、送信波を受信できるとともに高調波を送信できる。
【0019】
(6)好ましくは、送信波は、受信器への無線給電用である。これにより、無線給電システムにおいて無線給電用の送信波を利用して送信器と受信器との間の距離を求めることができる。
【0020】
(7)好ましくは、送信波は、繰り返し波形である。これにより、送信波と受信波との遅延量から送信器と受信器との間の距離を求めることができる。
【0021】
(8)好ましくは、送信波は、間欠波である。これにより、送信波は、間欠波でない場合よりも効率的に遠方まで伝達される。
【0022】
(9)好ましくは、送信器は、送信波を放射する送信アンテナと、送信アンテナより小型であり、高調波を受信する受信アンテナと、を備える。これにより、送信器のサイズアップを抑えつつ受信器からの高調波を受信することができる。
【0023】
(10)本実施の形態に係る送信器は、送信波を放射する送信部と、記送信波を受信した受信器が放射する、受信した送信波から生じる高調波を受信する受信部と、送信波に対する、受信された高調波の遅延量から、受信器までの距離を求める処理部と、を備える。これにより、処理部によって、他の物体が近傍に存在することがありえる状況であっても、受信器までの距離が正確に求められる。
【0024】
(11)本実施の形態に係る受電器は、送信波によって無線給電を受ける受電器であって、送信波を受信するアンテナと、アンテナによって受信した送信波を整流する整流器と、を備え、アンテナは、送信波の第1周波数及び高調波の第2周波数に対応したデュアルバンドアンテナである。これにより、送信波を受信できるとともに高調波を送信できる。
【0025】
(12)本実施の形態に係るレクテナは、送信波を受信するアンテナと、アンテナによって受信した送信波を整流する整流器と、を備え、アンテナは、整流器に接続されており高調波の周波数に対応した長さを有する第1エレメントと、インダクタを介して第1エレメントに接続された第2エレメントと、を有し、第1エレメント及び第2エレメントによって送信波を受信し、第1エレメントによって高調波を送信するよう構成されている。これにより、レクテナにおいて、送信波を受信して整流することで整流波を得るとともに、高調波を送信できる。
【0026】
(13)好ましくは、高調波は、送信波の第2高調波である。高調波は周波数が大きくなるほどエネルギーが弱まる。そのため、高調波の中のエネルギーが最大の第2高調波を送信することで、受信側では高いエネルギーの高調波を演算に用いることができる。
【0027】
<2.例距離測定方法、送信器、受電器、及び、レクテナの例>
【0028】
図1を参照して、本実施の形態に係る無線給電システム100は、送信器1と受信器5とを含む。受信器5は、人が装着するウェアラブル機器などであって、無線による給電を必要とする。送信器1は、受信器5に対して無線給電を行う。そのため、送信器1は、受信器5に対して電磁波信号SG1をする。
【0029】
送信器1から輻射された電磁波信号SG1が受信器5に到達すると、受信器5において整流動作が行われ、直流の電気エネルギーに変換され負荷に供給される。負荷は、例えばLED(Light Emitting Diode)などであって、電磁波信号SG1によって受電することによって点灯する。
【0030】
受信器5において整流動作が行われることによって発生した高調波は、受信器5から電磁波信号SG2として空間中に輻射される。電磁波信号SG2が送信器1で受信され、処理されることによって、受信器5までの距離Dが算出される。
【0031】
図2を用いて、送信器1の構成について説明する。
図2を参照して、送信器1は、間欠信号制御部10を含む。間欠信号制御部10は、PLL(Phase Locked Loop)11と、PLL11に接続された高周波スイッチ12とを含む。高周波スイッチ12は、後述する等価サンプリング部20からの間欠送電制御信号に従ってON/OFFを定期的に切り替える。
【0032】
送信器1は、等価サンプリング部20を含む。等価サンプリング部20は、制御用のMPU(Micro-processing unit)21を含む。MPU21には、プログラマブルディレイ23を介して、インパルス発生器24が接続されている。また、MPU21は、増幅器25及びサンプリングスイッチ27を介して中間周波数ダウンコンバージョン部30に接続されている。増幅器25とサンプリングスイッチ27との接続路には、他方端が設置されたサンプルホールド用コンデンサ26が接続されている。
【0033】
好ましくは、送信器1は、中間周波数ダウンコンバージョン部30を含む。中間周波数ダウンコンバージョン部30は、それぞれ増幅器31,33を介して等価サンプリング部20及びアンテナ部40に接続されたミキサ32を有する。ミキサ32には、さらに、PLL34も接続されている。
【0034】
なお、中間周波数ダウンコンバージョン部30に替えて、
図6に示されたように、RF(Radio Frequency)検出器35を有する検出部30Aを含んでもよい。
【0035】
送信器1は、アンテナ部40を含む。アンテナ部40は、電磁波信号SG1を送信する送電アンテナ41と、電磁波信号SG2を受信する受信アンテナ42と、を含む。送電アンテナ41は、パワーアンプ43及びバンドパスフィルタ(BPF:Band-pass filter)44を介して間欠信号制御部10に接続されている。
【0036】
送電アンテナ41は、送信する電磁波信号SG1の周波数に応じた長さを有する。受信アンテナ42は、受信する電磁波信号SG2の周波数に応じた長さを有する。具体的には、電磁波信号SG2の周波数に共振する長さを有する。
【0037】
電磁波信号SG2は、電磁波信号SG1を基本波とし、その周波数の倍数の周波数を有する高調波である。そのため、受信アンテナ42は送電アンテナ41よりも小型である。これにより、送信器1のサイズアップを抑えつつ受信器5からの電磁波信号SG2を受信することができる。
【0038】
好ましくは、高調波は、電磁波信号SG1の2倍の周波数を有する第2高調波である。高調波は周波数が大きくなるほどエネルギーが弱まる。そのため、高調波の中のエネルギーが最大の第2高調波を受信することで、距離Dを求める演算に高いエネルギーの高調波を用いることができる。
【0039】
電磁波信号SG1の周波数が2.45GHzである場合、送電アンテナ41は2.45GHzに応じた長さを有する。電磁波信号SG2が第2高調波である場合、周波数が4.9GHzとなり、受信アンテナ42は、送電アンテナ41より短い、4.9GHzの電磁波に応じた長さとする。
【0040】
次に、
図3を用いて、受信器5の構成について説明する。一例として、受信器5は、
図3に示されたような、第1アンテナ素子50A及び第2アンテナ素子50Bを有するダイポールアンテナと、ダイポールアンテナによって受信した送信波を整流する整流器54と、を有するレクテナ5Aを含む。なお、受信器5の有するアンテナはダイポールアンテナであるものとするが、いずれか一方のアンテナ素子のみ有するモノポールアンテナであってもよい。
【0041】
図3を参照して、第1アンテナ素子50Aは、第1エレメント51Aと第2エレメント52Aとを有する。第1エレメント51Aは、点PAでインダクタ53Aを介して第2エレメント52Aに接続されている。また、第2アンテナ素子50Bは、第1エレメント51Bと第2エレメント52Bとを有する。第1エレメント51Bは、点PBでインダクタ53Bを介して第2エレメント52Bに接続されている。
【0042】
第1アンテナ素子50Aと第2アンテナ素子50Bとは、整流器54を介して接続されている。第1アンテナ素子50A及び第2アンテナ素子50Bで受信された電磁波信号は、整流器54によって直流電流に整流変換される。
【0043】
受信器5は、レクテナ5Aに接続された、例えばLEDなどの図示されていない負荷をさらに含んでもよい。整流器54によって整流変換されることによって得られた直流電流は、負荷に供給される。これにより、受信器5は、電磁波信号を受信することによって電力供給を受けることができる。
【0044】
インダクタ53A及びインダクタ53B(これらを代表させてインダクタ53とも称する)は、周波数が高いほどインピーダンスも大きくなる性質を有するインダクタである。この性質を有することから、インダクタ53は、第1の周波数f1の電磁波を通過させ、それよりも高い第2の周波数f2(f2>f1)の電磁波を遮断する。従って、インダクタ53は分離用のインダクタとして機能する。これにより、受信器5は、2つの共振周波数を持つアンテナとなる。
【0045】
すなわち、第1の周波数f1の電磁波に対して、第1アンテナ素子50Aではインダクタ53Aがショートする。第2アンテナ素子50Bではインダクタ53Bがショートする。このため、第1の周波数f1の電磁波に対しては、第1アンテナ素子50A及び第2アンテナ素子50Bでは、それぞれ全体がアンテナとして機能する。
【0046】
また、第2の周波数f2の電磁波に対して、第1アンテナ素子50Aではインダクタ53Aがオープンする。第2アンテナ素子50Bではインダクタ53Bがオープンする。このため、第2の周波数f2の電磁波に対しては、第1アンテナ素子50A及び第2アンテナ素子50Bでは、それぞれ、第1エレメント51A及び第1エレメント51Bがアンテナとして機能する。
【0047】
第1アンテナ素子50A及び第2アンテナ素子50Bは、それぞれ、電磁波信号SG1の周波数に対応した長さとし、第1エレメント51A及び第1エレメント51Bは、それぞれ、電磁波信号SG1の周波数の倍数の周波数である高調波の周波数に対応した長さとする。すなわち、レクテナ5Aは、送信器1から送信された電磁波信号SG1を受信し、高調波を放射する、デュアルバンドレクテナである。
【0048】
好ましくは、高調波は、電磁波信号SG1の2倍の周波数を有する第2高調波である。高調波は周波数が大きくなるほどエネルギーが弱まる。そのため、高調波の中のエネルギーが最大の第2高調波を送信することで、送信器1では高いエネルギーの高調波を、距離Dを求める演算に用いることができる。
【0049】
電磁波信号SG1の周波数が2.45GHzである場合、第1アンテナ素子50A及び第2アンテナ素子50Bは、それぞれ、2.45GHzの電磁波信号に応じた長さである。第1エレメント51A及び第1エレメント51Bは、それぞれ、4.9GHzの電磁波信号に応じた長さである。具体的な長さは、実験的に求められるものであってもよい。
【0050】
インダクタ53は、好ましくは巻線構造物である。巻線構造物は、例えばコイルである。巻線構造物をインダクタ53として利用することで、巻き数で分離能力を容易に調整することができる。また、アンテナの全長を短縮する効果があり、受信器5、及び、受信器5に接続された負荷も含むウェアラブルの装置全体の小型化に貢献する。なお、コイルの巻き数は、実験的に求められるものであってよい。
【0051】
図4を用いて、無線給電システム100での、送信器1と受信器5との間の距離Dの測定方法について説明する。
図4を参照して、測定方法は、送信器1が送信波である電磁波信号SG1を放射し(ステップS1)、電磁波信号SG1を受信した受信器5が、受信した電磁波信号SG1から生じる高調波である電磁波信号SG2を放射し(ステップS2)、送信器1が電磁波信号SG2を受信して(ステップS3)、距離を求める(ステップS4)ことを含む。
【0052】
ステップS1において、送信器1のPLL11は、図示しない電源から所定周波数の電力信号を生成し、出力する。所定周波数は、例えば、2.45GHzである。
【0053】
MPU21は、高周波スイッチ12にパルス波を出力する。高周波スイッチ12は、パルス波に従ってON/OFFを周期的に切り替える。後述するように、高周波スイッチ12のON/OFFに従って、PLL11から出力された所定周波数の電力信号のアンテナ部40への入力/入力の停止が繰り返される。これにより、送電アンテナ41から放射される電磁波信号SG1は繰り返し波形となる。電磁波信号SG1が繰り返し波形であることによって、後述する演算によって、送信波である電磁波信号SG1と受信された高調波である電磁波信号SG2との遅延量から送信器1と受信器5との間の距離Dを求めることができる。
【0054】
MPU21が高周波スイッチ12に出力するパルス波の一例は、間欠送電制御信号である。間欠送電制御信号は、高周波スイッチ12のON/OFFを周期的に切り替えさせる制御信号であって、これにより、電磁波信号SG1は間欠波となる。電磁波信号SG1であることにより、間欠波でない場合よりも効率的に遠方まで電磁波信号が伝達されるようになる。
【0055】
高周波スイッチ12がONのタイミングで、PLL11から出力された所定周波数の電力信号はアンテナ部40に入力される。高周波スイッチ12がOFFのタイミングで入力されない。これにより、PLL11から出力された電力信号は間欠信号となってパワーアンプ43に入力される。
【0056】
パワーアンプ43は、間欠信号制御部10から間欠的に出力される電力信号を電力増幅し、BPF44に入力する。BPF44は、入力された電力信号からパワーアンプ43により発生する高調波をカットし、送電アンテナ41に渡す。
【0057】
送電アンテナ41は入力された電力信号を電波(電磁波信号SG1)として放射する。送電アンテナ41には電力信号が間欠的に入力されるため、送電アンテナ41からの電磁波信号SG1は間欠的な信号である。このように、MPU21は、受信器5に対する電磁波信号SG1による間欠送電を制御している。
【0058】
ステップS2において、受信器5は、送信器1から輻射された電磁波信号SG1を第1アンテナ素子50A及び第2アンテナ素子50Bは、それぞれで受信する。受信された電磁波信号SG1は、整流器54で直流電流に整流変換されて、例えばLEDなどの図示されていない負荷に供給される。
【0059】
受信器5が受信した電磁波信号SG1が、受信器5において歪むことにより高調波が生じる。具体的には、整流器54において電磁波信号SG1を整流変換する際に、高調波が発生する。
【0060】
第1エレメント51A及び第1エレメント51Bが、それぞれ、電磁波信号SG1の2倍の周波数を有する第2高調波に応じた長さであることによって、発生した高調波のうちの第2高調波が、第1エレメント51A及び第1エレメント51Bそれぞれによってレクテナ5Aから放射される。
【0061】
ステップS3において、送信器1の受信アンテナ42は、ステップS2で受信器5から放射された電磁波信号SG2を受信する。受信された電磁波信号SG2は、増幅器33で増幅されてミキサ32に入力される。ミキサ32は、電磁波信号SG2と、PLL34から入力された所定周波数の信号とを混合し、増幅器31を介して等価サンプリング部20に入力する。
【0062】
所定周波数は、電磁波信号SG2の周波数よりも低い周波数であって、MPU21の動作周波数に応じた周波数にダウンコンバージョンするために適した周波数である。これにより、電磁波信号SG2はMPU21の動作周波数に応じた中間周波数にダウンコンバージョンされる。
【0063】
MPU21の動作周波数が315MHz、電磁波信号SG2が4.9GHzの高調波であるとき、所定周波数は、例えば4.585GHzである。この場合、中間周波数は、315MHzとなって、MPU21の動作周波数と一致した周波数にダウンコンバージョンされる。これにより、MPU21において、受信アンテナ42で受信された信号の中から電磁波信号SG2を選択する精度を向上させることができる。
【0064】
なお、中間周波数ダウンコンバージョン部30に替えて検出部30Aを含む
図6の例の場合、RF検出器35は、例えば包絡線検波などで受信エネルギーの立ち上がりを電圧で検知することによって、受信アンテナ42で受信された信号の中から4.9GHzの高調波の電磁波信号SG2を検出する。
【0065】
MPU21は、間欠送電制御信号(パルス波)をプログラマブルディレイ23にも入力する。プログラマブルディレイ23は、入力されたパルス波形に対して、MPU21から指示された時間の遅延を与えてインパルス発生器24に出力する。インパルス発生器24は、プログラマブルディレイ23から遅延信号を受け取ると、サンプリングスイッチ27にインパルス波を出力する。
【0066】
なお、プログラマブルディレイ23は、遅延時間を生成するディレイ生成回路を複数経路有してもよい。これにより、プログラマブルディレイ23は、各経路を独立して使うモード、すなわち、2本の場合にはデュアルモードと、複数経路を直列に接続して長い遅延時間を発生させるエクステンデドモードと、を切替可能となる。
【0067】
サンプリングスイッチ27は、インパルス波の立ち上がりの際にONとなる。また、サンプリングスイッチ27は、インパルス波の立ち下がりの際にOFFとなる。つまり、サンプリングスイッチ27は、インパルス波に応じて周期的にON/OFFを繰り返す。これにより、等価サンプリング部20では、電磁波信号SG1による間欠送電を制御する信号(パルス波)に同期したタイミングで電磁波信号SG2がサンプリングされる。
【0068】
サンプリングスイッチ27のON時には、ミキサ32から増幅器31を経て入力された(中間周波数にダウンコンバージョンされた)電磁波信号SG2は、サンプルホールド用コンデンサ26に入力される。これにより、サンプルホールド用コンデンサ26では、入力された電磁波信号SG2の電圧が保持される。
【0069】
サンプリングスイッチ27のOFF時には、ミキサ32から増幅器31を経て入力された(中間周波数にダウンコンバージョンされた)電磁波信号SG2は、サンプルホールド用コンデンサ26に入力されない。この場合、サンプルホールド用コンデンサ26によって保持されている電圧が、電磁波信号SG2をサンプリングした値(電圧値)となる。
【0070】
MPU21で遅延値を最低に設定する。その後に、サンプリングスイッチ27がインパルス波に応じて周期的にON/OFFを繰り返した後にサンプルホールド用コンデンサ26によって保持されている電圧値、つまり、電磁波信号SG2をサンプリングした値が、増幅器25を経てMPU21に入力される。増幅器25にはMPU21からの制御信号がアナログ変換器22によってアナログ信号に変換されて入力される。増幅器25は、その制御信号に従って入力された値を増幅する。MPU21では、入力された電圧値がデジタル信号に変換される。
【0071】
次に、MPU21は、遅延値をごく小さな所定量、大きく(例えば10ps程度遅く)設定し、同様にサンプリング結果をデジタル変換する。以降、遅延値が最大遅延値に達するまで、上記を繰り返す。
【0072】
ステップS4でMPU21は、得られたデジタル信号を用いて受信器5までの距離Dを算出する処理を行う。ステップS4では、電磁波信号SG1に対する、受信された電磁波信号SG2の遅延量から受信器5までの距離Dが算出される。遅延量は、電磁波信号SG1と電磁波信号SG2との遅延時間Tpに基づく指標値であって、例えば、遅延時間Tpそのものである。具体的には、上記の繰り返しの結果で得られたデジタル信号を時系列に並べることによって、入力信号の極短時間の変化を等価的に長時間に引き伸ばしたものが得られる。これにより超高速AD変換器を用いることなく超高速波形を観測することが可能となる。
【0073】
詳しくは、
図5を参照して、MPU21は、電磁波信号SG1と電磁波信号SG2との遅延時間Tpを測定する。電磁波信号SG1及び電磁波信号SG2は間欠信号などの繰り返し波形であるため、MPU21は、例えば立ち上がり時などの、波形形状の特定位置の時間的なずれを測定することで遅延時間Tpを得る。
【0074】
ここで、遅延時間Tpは、送信器1から受信器5までの電磁波信号SG1の伝達時間、及び、受信器5から送信器1までの電磁波信号SG2の伝達時間の合計時間から得られる値である。そこで、ステップS4でMPU21は、遅延時間Tpと電磁波信号SG1,SG2の進行速度vとを用いて距離Dを算出する。進行速度vは、電磁波信号SG1,SG2の単位時間当たりの伝搬距離である。
【0075】
MPU21は、一例として、下の式(1)に、測定された遅延時間Tpと、予め記憶している進行速度vとを代入することによって距離Dを算出する。
D=(Tp/2)×v …(1)
【0076】
以上の構成によって、無線給電システム100では、他の物体が近傍に存在することがありえる状況であっても、送信器1と受信器5との間の距離Dが正確に測定される。また、専用の測定装置を不要として距離Dが測定可能となる。これにより、無線給電システム100では、正確に受信器5の距離に応じた強度で電磁波信号SG1を放射できる。その結果、受信器5を備えたウェアラブルが装着されている人体近傍での電界が基準値を超えないようにして受信器5に無線給電することが可能になる。
【0077】
<3.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。すなわち、上の例は、無線給電システム100において、ウェアラブルの受信器5に送信器1から無線給電する場合の受信器5までの距離Dを求める場合を挙げているが、他の場合であっても、同様に、正確に特定の対象物までの距離が求められる。
【符号の説明】
【0078】
1 :送信器
5 :受信器
5A :レクテナ
10 :間欠信号制御部
11 :PLL
12 :高周波スイッチ
20 :等価サンプリング部
21 :MPU
22 :アナログ変換器
23 :プログラマブルディレイ
24 :インパルス発生器
25 :増幅器
26 :サンプルホールド用コンデンサ
27 :サンプリングスイッチ
30 :中間周波数ダウンコンバージョン部
30A :検出部
31 :増幅器
32 :ミキサ
33 :増幅器
34 :PLL
35 :RF検出器
40 :アンテナ部
41 :送電アンテナ
42 :受信アンテナ
43 :パワーアンプ
44 :BPF
50A :第1アンテナ素子
50B :第2アンテナ素子
51A :第1エレメント
51B :第1エレメント
52A :第2エレメント
52B :第2エレメント
53 :インダクタ
53A :インダクタ
53B :インダクタ
54 :整流器
100 :無線給電システム
D :距離
SG1 :電磁波信号
SG2 :電磁波信号
Tp :遅延時間
f1 :第1の周波数
f2 :第2の周波数
v :進行速度