(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】マイクロ流路チップ生産方法
(51)【国際特許分類】
B01J 19/00 20060101AFI20241015BHJP
B29C 65/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
B01J19/00 321
B29C65/00
(21)【出願番号】P 2020127951
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】392022570
【氏名又は名称】サムコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三宅 史夏
(72)【発明者】
【氏名】寺井 弘和
(72)【発明者】
【氏名】塚本 匡秋
(72)【発明者】
【氏名】大槻 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】辻 理
【審査官】隅川 佳星
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-286222(JP,A)
【文献】特開2013-132822(JP,A)
【文献】特開2020-11403(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159257(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 19/00
B29C 65/00
B32B 37/00
B81C 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流路チップを構成する第1板と第2板を接合してマイクロ流路チップを生産する方法であって、
前記第1板の接合面及び前記第2板の接合面をH
2Oプラズマに曝すステップと、
前記第1板の接合面と前記第2板の接合面を、間に水を介在させた状態で接近させるステップと、
前記状態で5~60℃の環境下で1分~200時間維持することにより両接合面間の水を排除するステップ
を含むことを特徴とするマイクロ流路チップ生産方法。
【請求項2】
前記第1板及び第2板が、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコンウエハ及びガラスのいずれかの同種素材又はいずれか2種の素材の組み合わせから成る請求項1に記載のマイクロ流路チップ生産方法。
【請求項3】
前記第1板の接合面及び前記第2板の接合面が曝されるH
2Oプラズマのパワーが10~400 W/1200 cm
2である請求項1又は請求項2に記載のマイクロ流路チップ生産方法。
【請求項4】
前記H
2Oプラズマの圧力が1~200 Paである請求項1~請求項3のいずれかに記載のマイクロ流路チップ生産方法。
【請求項5】
前記第1板の接合面及び前記第2板の接合面をプラズマに曝す時間が2~600秒である請求項1~請求項4のいずれかに記載のマイクロ流路チップ生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流路チップを生産する方法、特に、マイクロ流路チップを構成する板を接合する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ流路チップは、微小な空間で水溶液などの流体を送る、混ぜる、計測することができる。このため、ウイルス、タンパク質やDNAなどの光学又は電位的分析、更に細胞の培養や捕捉などに応用範囲が広がっている。
【0003】
マイクロ流路チップは基本的に、流路やウェル(溜まり)等を形成した板(流路板)と、その流路の端部や所定の箇所に試料を注入し或いは取り出すための注入口/注出口を形成した板(蓋板)で構成され、それらの素材としては主にシクロオレフィンポリマー(COP)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)などが用いられている。流路板と蓋板を隙間なく合わせ、接合することにより、両板の間に流路等が完成する。
【0004】
このような接合の方法として従来、熱融着や超音波融着、両面テープやシランカップリング剤による接着、熱プレス接合、さらに溶媒接合等が用いられている。熱プレス接合の場合は通常、両接合面に予め紫外線やプラズマ処理を施しておく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2011-010738号
【文献】特開2013-132822号公報
【文献】WO2018-159257号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
流路板と蓋板を接合してマイクロ流路チップを生産する場合、両板の接合には次のような品質が求められる。
(1) 接合時に流路の変形や光学特性の変化を生じないこと
(2) 接合後は十分な接合強度(両板の剥離に対する耐水性、耐圧性)があること
(3) 接合部から細胞などに影響を及ぼす物質の溶出がないこと
【0007】
特許文献1には、液晶ディスプレイパネル作製過程に関するものであるが、材質や特性の異なる異種フィルム同士の貼り合わせやガラスとフィルムとの貼り合わせを行う場合の接合技術が開示されている。この技術では、接合面に、水素ガス、水蒸気ガス、アルコールガス、過酸化水素ガス、有機金属化合物、シランカップリング剤からなる群から選択される1種以上からなる接合媒体層を形成し、該接合媒体層を介して接合材料(板材)を重ねた状態で加熱および/または電磁波照射を行うことにより接合する。この技術は、光学特性の劣化の抑制及び十分な接合強度の確保を目的とするものであるが、上記(3)の考慮が十分にはなされていない。
【0008】
特許文献2には樹脂材料である第1の基材および第2の基材の少なくとも一方の基材にプラズマを接触させ、表面に水が存在する状態で70℃以上に加熱し、両基材を重ね合わせた状態でガラス転移点(Tg)付近で熱プレスすることで接合を行う技術が開示されている。この文献によると、2つの基材同士を、基材に変質・劣化を生じさせることなく、高い寸法精度で強固に接合することができるとしているが、Tg付近での熱プレス工程を含んでいることから、基材(板材)の種類によっては変質・劣化が避けられない。
【0009】
特許文献3には、シクロオレフィンポリマー(COP)板同士、あるいは、COP板とガラス板の接合面をH2Oプラズマに曝した後、両接合面を合わせることにより、大きな圧力や温度を付加することなく、また、光学特性を変化させることなく、接合できることが開示されている。
【0010】
ただ、マイクロ流路チップを生産する場合、単にそれを構成する板を接合することができるというばかりではなく、両板の間に形成される流路が試料を流すに適したものでなければならない。すなわち、多くの場合水溶液である試料を断面積の小さい流路に流す際、流路の内部の表面が疎水性であると、水の表面張力により試料が流路内を流れにくいという問題がある。
【0011】
本発明は従来技術のこれらの課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、大きな圧力や温度を付加することがなく、また、被測定物に影響を及ぼすことがないとともに、流路の親水性を確保することのできるマイクロ流路チップの生産方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために成された本発明は、マイクロ流路チップを構成する第1板と第2板を接合してマイクロ流路チップを生産する方法であって、
前記第1板の接合面及び前記第2板の接合面をH2Oプラズマに曝すステップと、
前記第1板の接合面と前記第2板の接合面を、間に水を介在させた状態で接近させるステップと、
前記状態で5~60℃の環境下で1分~200時間維持することにより両接合面間の水を排除するステップ
を含むことを特徴とする。
【0013】
ここで「第1板の接合面と前記第2板の接合面を、間に水を介在させた状態で接近させる」とは、第1板と第2板を垂直に保持しても、水が表面張力により両接合面間から排出されず、両接合面間に保持されるような状態にすることをいう。
【0014】
第1板の接合面と第2板の接合面の間に水を介在させる方法には、両面またはいずれか一方の面に水の膜を形成し(接合面を水平に置き、その表面に水の膜を形成し)、両接合面を合わせる方法のほか、水中に第1板と第2板を浸漬させ、両接合面を接近させる方法等を用いることができる。いずれの場合にせよ、両面を接近させた状態では両面の間に水の表面張力により水の膜が形成される。
【0015】
このようにした状態で上記条件で両接合面間の水を排除するステップを実行すると、第1板の接合面と第2板の接合面が接合される。
【0016】
上記の方法において対象となるマイクロ流路チップを構成する第1板と第2板は、シクロオレフィンポリマー(COP)、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、シリコンウエハ、ガラスなどである。
【0017】
上記の方法において、両板のそれぞれの接合面は、その表面粗さがRa10nm以下となっていることが好ましい。
【0018】
また、両接合面が曝されるH2Oプラズマのパワー(すなわち、H2Oプラズマを発生させる高周波電力のパワー)は、10~400 W/1200 cm2であることが好ましい。H2Oプラズマのパワーをこのようにすることにより、接合が確実となると共に、第1板と第2板の光学特性等の特性を変化させることがない。
【0019】
また、このときのプラズマの圧力は、1~200 Pa程度とするのが好ましい。
【0020】
また、接合面をプラズマに曝す時間は、2~600秒であることが好ましい。
【0021】
なお、ここにおける「H2Oプラズマ」とは、H2Oの分圧が20%以上のプラズマのことをいい、プラズマガス中にH2O以外に酸素(O2)、窒素(N2)、アンモニア(NH3)、水素(H2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、等のその他のガスが少量含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る方法では、大きな圧力や温度を付加することなく、マイクロ流路チップを構成する第1板と第2板を接合することができる。また、接合の際には水しか用いないため、マイクロ流路チップを構成する第1板と第2板からは被測定物に影響を及ぼす物質が流路等に流出、浸出することがなく、このマイクロ流路チップを用いた生物試料の測定等に影響を与えない。さらには、流路の内部表面の親水性を確保することができるため、流路抵抗の少ないマイクロ流路チップを生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】接合試験に用いた試験片の流路板の平面図(a)、蓋板の平面図(b)及び両板を合わせた状態の中央断面図(c)。
【
図2】接合面のH
2Oプラズマ処理に用いたプラズマ処理装置の概略構成図。
【
図6】試験前の試験片(a)、耐水・耐圧試験に合格した試験片(b)及び不合格となった試験片(c)の平面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0025】
<1.試験片>
本実施形態では、第1板及び第2板共にCOP板を用いた。使用したCOP板は、日本ゼオン株式会社製ZEONEX690R(ガラス転移温度136℃)の厚さ1mmのものであり、それを25mm×60mmに切り出して試験片とした。この試験片の3枚を1組として、各種試験を行った。3枚のうち1枚の試験片には幅300μm、深さ50μm、全長16mmの蛇行流路12を熱インプリント法で形成した(これを流路板11とする。
図1(a))。他の1枚の試験片には、前記流路板11の流路の両端に対応する位置に直径1.8mmの送液孔14をピンバイスで形成した(これを蓋板13とする。
図1(b))。残りの1枚の試験片には何らの加工も施さず、これで純水の接触角を測定することとした(これを接触角測定板とする)。各試験片の一方の面(流路板では流路を形成した面)を主面とし、その面に後述のプラズマ処理等を施し、流路板11と蓋板13は主面同士を接合した。また、接触角測定板では主面において水接触角を測定した。主面の表面粗さは、概ねRa10nm以下となっている。
【0026】
<2.プラズマ処理装置>
後述のプラズマ処理において用いたプラズマ処理装置について、図2を参照しながら説明する。図2には、プラズマ処理装置20の概略構成が示されている。この図から明らかなように、プラズマ処理装置20は、平行平板型(容量結合型)プラズマ処理装置である。
【0027】
プラズマ処理装置20は、処理対象板(前記試験片)Sが配置される処理空間を内部に形成するプラズマ処理室21、処理空間にプラズマ原料ガスである水(水蒸気)H2O又は酸素O2を導入するガス導入部30、処理空間を排気する排気部40、プラズマ処理室21内に対向配置された一対の電極24、25、及び、これら各部を制御する制御部60、を主として備える。
【0028】
ガス導入部30には水供給源(H2O)32及び酸素供給源(O2)36が用意され、水供給源32からはヴェーパライザ(気化装置)33、マスフローコントローラ34及びバルブ35を介してプラズマ処理室21のガス導入口31に接続される流路が形成されている。また、酸素供給源36からはマスフローコントローラ37及びバルブ38を介して前記ガス導入口31に接続される流路が形成されている。排気部40には真空ポンプ42と開閉バルブ43が設けられ、プラズマ処理室21に設けられた排気口41から処理空間内を排気する。
【0029】
プラズマ処理室21内に上下に対向配置された一対の平板電極のうち上部電極24にはコンデンサ52を介してRF電源51から電力が供給され、下部電極25は接地される。上部電極24にRF電力が供給されることによって、処理空間内に導入されているガスがプラズマ化される。制御部60は上記の各要素を制御して、後述のプラズマ処理を行う。
【0030】
<2.処理の流れ>
本発明の一実施形態として、前記流路板11及び蓋板13の接合試験、及び前記接触角測定板による水接触角測定試験の結果を説明する。はじめに、流路板11と蓋板13の接合試験の方法を図3を参照しながら説明する。
【0031】
まず、流路板11と蓋板13を前記(
図1(a)、(b))のように加工し、準備した(ステップS1)。次に、流路板11の流路12が形成された方の面(接合面)及び蓋板13の一方の面(接合面)をH
2Oプラズマ又はO
2プラズマで処理した(ステップS2)。これらのプラズマ処理は、前記プラズマ処理装置20を用いて行った。
【0032】
H2Oプラズマ処理について具体的に説明する。まず、プラズマ処理室21の搬入口22を介して流路板11及び蓋板13そして接触角測定板をプラズマ処理室21に搬入し、主面が上部電極24側を向くようにして各試験片を下部電極25上に載置する。続いて、搬入口22を閉鎖してプラズマ処理室21を密閉した後、排気部40により排気を行って処理空間を減圧する。そして、ガス導入部30により処理空間への水蒸気の導入を行い、上部電極24に高周波電力を投入する。これにより、処理空間内に導入されている水蒸気がプラズマ化されてH2Oプラズマが形成され、該H2Oプラズマに曝されている各試験片の接合面のプラズマ処理が進行する。H2Oプラズマによる処理が開始されてから所定時間が経過した後、バルブ34を閉鎖して水蒸気の供給を停止するとともに高周波電力の供給を停止して、処理を終了する。
【0033】
ここで用いたH2Oプラズマ処理の条件は、水蒸気の導入流量を12 sccm、投入高周波電力を50 W、処理空間内圧力を約7 Pa、処理対象板Sが載置されている下部電極25の処理中の温度を25 ℃、処理時間を80秒とした。
【0034】
O2プラズマ処理は、プラズマ処理室21内の処理空間に導入されるガスがH2OではなくO2であるという点が違うだけであり、他の条件は同じとした。
【0035】
プラズマ処理を終了した後、処理空間を大気圧に戻し、各試験片をプラズマ処理室21から搬出して、直ちに以下の各実施例の試験を行った(ステップS3、S4)。以下、各実施例の具体的な試験方法及び結果を述べる。また、試験方法を
図5に、試験結果を
図7にまとめた。
【0036】
<3.各実施例の試験>
(実施例1)
各試験片の接合面(主面)はH2Oプラズマ処理を行った。プラズマ処理室21から搬出した流路板11の上にスポイトで、板表面全体が完全に覆われるように25℃の純水を滴下した(水膜形成)。滴下した純水の量は、1平方センチメートル当たり0.15 mL(0.15 g)とした。なお、この流路板11の表面に水膜を形成する方法としては、このような純水の滴下以外にも、霧吹きやチャンバ内で水蒸気を噴霧する方法によってもよい。
【0037】
流路板11の表面に形成した水膜の上に蓋板13を、プラズマ処理面(主面)が水膜側となるように重ね(ステップS3)、その状態で25℃の環境下で、圧力を加えることなく(
図5の「相対圧力 0」)、放置した(ステップS4)。
【0038】
その結果、48時間後には両板11、13間の水膜が無くなり、その時点で両板11、13は接合された状態となっていた。この接合されたものをマイクロ流路チップと呼ぶ
(図6(a))。マイクロ流路チップ及びそれを構成する流路板11及び蓋板13に変形や変質は見られなかった(
図7)。
【0039】
この両板11、13の接合状態を試験するため、2つの試験を行った。1つは、マイクロ流路チップが流路12以外の部分において完全に接合しているか否かを調べる試験である。この試験のために、蓋板13の送液孔14からマイクロピペッタで純水を3 μL滴下した。この場合、圧力を付与することなく、毛細管現象により流路12内に水が満たされる。この実施例1の試験では、流路12外の両板11、13間に水が漏れることなく、水は流路12内だけで留まった(
図6(b))。これにより、本実施例1では流路板11及び蓋板13が流路12以外の部分において完全に接合していることが確認された。
【0040】
次に、その接合の強度を調べる試験を行った。マイクロ流路チップの両送液孔14にコネクタ15及びチューブ16を固定し(
図4)、一方のチューブ16からコンプレッサーで圧縮空気を流路12内に導入した。圧縮空気は徐々に圧力を上げることにより、最高200 kPaG(大気圧に対する相対圧)となるまで導入した。その後、流路12から両板11、13間への水の漏れが生じるか否かを観察した。その結果、実施例1の試験片では200 kPaGの与圧によっても水漏れが生じなかった(
図7「耐水・耐圧」)。一般に使用されるマイクロ流路チップにおいて、ポンプなどで試験液を流路内に加圧送液する場合に求められる耐水圧は、通常の光学検出系流路では50 kPaG程度であるが、フローサイトメトリーなどの大流量を流すマイクロ流路チップでは200 kPaG程度の耐圧が求められる。実施例1のマイクロ流路チップはこの値を超えているので、判定は合格(○)とした。
【0041】
また、プラズマ処理室21から搬出した接触角測定板のプラズマ処理面(主面)の純水接触角を接触角計(共和界面化学株式会社製CA-D)で測定した。水接触角が90°未満であれば一般に親水性と呼ばれるが、マイクロ流路チップにおいて毛管送液を用いる場合は50°未満の値を求められることが多い。このため、判定基準は50°未満を合格とした。実施例1の接触角測定板の水接触角は37°と、基準の50°未満であり、合格であった。
【0042】
(実施例2)
H2Oプラズマ処理を行い、プラズマ処理室21から搬出した流路板11の表面(主面)への水膜形成を、スポイトによる水の滴下に代え、水中で行った。先ず流路板11、蓋板13及び接触角測定板を25℃の純水に浸け、水中で流路板11と蓋板13を重ねてからこれらを取り出して25℃、1気圧の大気中に静置した。水中で重ねた以外は、実施例1と同様に行った。水膜がなくなり、流路板11と蓋板13の接合が完了する(マイクロ流路チップが形成される)のには120時間要した。
【0043】
接合完了後、流路板11と蓋板13のいずれにも変形や変質は無かった。流路板11と蓋板13で構成されるマイクロ流路チップには毛管送液での液漏れがなく、耐水性があった。また、200 kPaG以上の耐水圧があった。接触角測定板の水接触角は34°と基準の50°未満であった。
【0044】
(実施例3)
H2Oプラズマ処理を行い、プラズマ処理室21から搬出した流路板11の表面(主面)への水膜形成は、実施例1と同様、スポイトによる水の滴下により行った。流路板11表面への水膜形成後、その上に蓋板13を、プラズマ処理面が水膜側となるように重ね、-20 kPaの減圧チャンバ内で25℃の環境下で静置した。環境圧力以外は実施例1と同様に行った。水膜がなくなり、流路板11と蓋板13の接合が完了するまでに68時間要した。
【0045】
接合後の流路板11と蓋板13に変形や変質はなかった。流路板11と蓋板13で構成されるマイクロ流路チップには毛管送液での液漏れがなく、耐水性があった。また、200 kPaG以上の耐水圧があった。
【0046】
同様の環境下で静置した接触角測定板の水接触角は14°と基準の50°未満であった。
【0047】
(実施例4)
H2Oプラズマ処理を行い、プラズマ処理室21から搬出した流路板11の表面(主面)への水膜形成は、実施例1と同様、スポイトによる水の滴下により行った。水膜を形成した流路板11に蓋板13を重ね、それらを10℃の冷蔵庫内(大気圧)に静置した。静置温度以外は実施例1と同様に行った。水膜がなくなり、流路板11と蓋板13の接合が完了するのには168時間要した。
【0048】
接合後の流路板11と蓋板13に変形や変質はなかった。流路板11と蓋板13で構成されるマイクロ流路チップには毛管送液での液漏れがなく、耐水性があった。また、200 kPaG以上の耐水圧があった。
【0049】
同様の環境下に静置した接触角測定板の水接触角は43°と基準の50°未満であった。
【0050】
(実施例5)
H2Oプラズマ処理を行い、プラズマ処理室21から搬出した流路板11の表面(主面)への水膜形成は、実施例1と同様、スポイトによる水の滴下により行った。水膜を形成した流路板11に蓋板13を重ね、それらを40℃の恒温槽内(大気圧)に静置した。静置温度以外は実施例1と同様に行った。水膜がなくなり、流路板11と蓋板13の接合が完了するのには48時間要した。
【0051】
接合後の流路板11と蓋板13に変形や変質はなかった。流路板11と蓋板13で構成されるマイクロ流路チップには毛管送液での液漏れがなく、耐水性があった。また、200 kPaG以上の耐水圧があった。
【0052】
同様の環境下に静置した接触角測定板の水接触角は40°と基準の50°未満であった。
【0053】
(実施例6)
H2Oプラズマ処理を行い、プラズマ処理室21から搬出した流路板11の表面(主面)への水膜形成は、実施例1と同様、スポイトによる水の滴下により行った。水膜を形成した流路板11に蓋板13を重ね、それらを55℃の恒温槽内(大気圧)に静置した。静置温度以外は実施例1と同様に行った。水膜がなくなり、流路板11と蓋板13の接合が完了するのには48時間要した。
【0054】
接合後の流路板11と蓋板13に変形や変質はなかった。流路板11と蓋板13で構成されるマイクロ流路チップには毛管送液での液漏れがなく、耐水性があった。また、200 kPaG以上の耐水圧があった。
【0055】
同様の環境下に静置した接触角測定板の水接触角は43°と基準の50°未満であった。
【0056】
(比較例1)
この例では、プラズマ処理において、H2Oプラズマ処理ではなく、O2プラズマ処理を行った。それ以外は実施例1と同様にして行った。すなわち、プラズマ処理室21から搬出した流路板11の上にスポイトで、板表面全体が完全に覆われるように25℃の水を滴下して水膜を形成した。その上に蓋板13を、プラズマ処理面(主面)が水膜側となるように重ね、その状態で25℃の環境下で、圧力を加えることなく、静置した。水膜がなくなり、流路板11と蓋板13の接合が完了するのには48時間要した。
【0057】
接合後の流路板11と蓋板13に変形や変質はなかった。流路板11と蓋板13で構成されるマイクロ流路チップには毛管送液での液漏れがなく、耐水性があった。また、200 kPaG以上の耐水圧があった。
【0058】
しかし、同様に処理した接触角測定板の水接触角は60°と、基準の50°未満を満たさなかった。
【0059】
(比較例2)
実施例1と同様、プラズマ処理はH2Oプラズマ処理とした。また、プラズマ処理室21から搬出した流路板11の表面(主面)への水膜形成は、スポイトによる水の滴下により行った。水膜形成した流路板11に蓋板13を重ね、それらを70℃の恒温槽内(大気圧)に静置した。水膜がなくなり接合が完了するのには48時間要した。
【0060】
接合後の流路板11と蓋板13に変形や変質はなかった。流路板11と蓋板13で構成されるマイクロ流路チップには毛管送液での液漏れがなく、耐水性があった。また、200 kPaG以上の耐水圧があった。
【0061】
しかし、同様に処理し、同様の環境下に静置した接触角測定板の水接触角は68°と、基準の50°未満を満たさなかった。
【0062】
(比較例3)
プラズマ処理はH2Oプラズマ処理とした。しかし、プラズマ処理室21から搬出した流路板11及び蓋板13の表面(主面)への水膜形成を行わず、そのまま両板11、13を重ねた。その状態で、25℃、大気圧の環境下で48時間静置した。
【0063】
静置後の流路板11と蓋板13に変形や変質はなかった。しかし、蓋板13の送液孔14から純水を毛管送液すると、流路12から両板11、13の間に液漏れが生じた。すなわち、この方法により接合されたマイクロ流路チップには耐水性がなかった。そして、耐水圧は1 kPaG未満であった。
【0064】
同様に処理し、同様の環境下に静置した接触角測定板の水接触角は48°と、基準の50°未満を満たした。
【0065】
(比較例4)
比較例4の試験片は、特許文献1に記載の方法を用いて処理した。すなわち、プラズマ処理において、H2Oプラズマ処理ではなく、O2プラズマ処理を行った。プラズマ処理室21から搬出した流路板11の表面(主面)にスポイトで0.14 g/cm2の膜を形成し、その水膜上に蓋板13を重ねた。そして、それら板の素材であるCOP(ZEONEX690R)のガラス転移温度136℃よりも10℃低い126℃のホットプレート上に静置した。両板11、13間の水膜は10分で消失し、流路板11と蓋板13は接合した。
【0066】
処理後の流路板11と蓋板13に変形や変質はみられなかった。しかし、毛管送液試験の結果、マイクロ流路チップの中央に大きな空隙が生じていることが判明し、完全な流路12は構成されていないことがわかった(
図6(c))。耐水圧は1 kPaG未満であった。
【0067】
同様に処理した接触角測定板の水接触角は69°と基準の50°未満を満たさなかった。
【0068】
(比較例5)
比較例5の試験片は、特許文献2に記載の方法を用いて処理した。すなわち、プラズマ処理において、試験片にO2プラズマ処理を行った。プラズマ処理室21から搬出した流路板11及び蓋板13を70℃のホットプレート上に載置し、1分ごとに各板11、13に霧吹きで水蒸気を吹き付け、表面(主面)を濡らすことを3分間継続した。その後、流路板11に水膜を形成せず、蓋板13を重ね、熱プレス機で0.2 MPaGの荷重を加えて126℃で5分間加熱した。接触角測定板も126℃で5分間加熱した。これら以外は実施例1と同様に行った。
【0069】
処理後の流路板11と蓋板13に変形や変質はみられなかった。毛管送液試験での液漏れは見られず、耐水性があった。また、200 kPaG以上の耐水圧があった。しかし、水接触角は62°と基準の50°未満を満たさなかった。
【符号の説明】
【0070】
11…流路板
12…流路
13…蓋板
14…送液孔
15…コネクタ
16…チューブ
20…プラズマ処理装置
21…プラズマ処理室
22…搬入口
24…上部電極
25…下部電極
30…ガス導入部
40…排気部
60…制御部