(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】無線給電装置
(51)【国際特許分類】
H02J 50/05 20160101AFI20241015BHJP
B60L 5/00 20060101ALN20241015BHJP
B60L 53/12 20190101ALN20241015BHJP
B60M 7/00 20060101ALN20241015BHJP
【FI】
H02J50/05
B60L5/00 B
B60L53/12
B60M7/00 X
(21)【出願番号】P 2020216852
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晋士
(72)【発明者】
【氏名】馬場 涼一
(72)【発明者】
【氏名】唐川 祐一郎
【審査官】杉田 恵一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-170146(JP,A)
【文献】特開2020-048339(JP,A)
【文献】特表2014-524726(JP,A)
【文献】特表2014-524727(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0087143(US,A1)
【文献】宮本康平,服部励治,電界結合型無線電力伝送における電極形状と回路考察,2014年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会通信講演論文集1,日本,電子情報通信学会,2014年09月23日,p.448,B-21-13
【文献】水谷陽太,笹谷拓也,成末義哲,川原圭博,浅見徹,受電器アレイとシート型送電器を用いた電界結合無線電力伝送における極板形状に関する一検討,電子情報通信学会 信学技報,日本,電子情報通信学会,2016年11月,WPT2016-38,pages.7-11
【文献】熊谷耕輔,中原海司,坂井尚貴,大平孝,矢田祐之,早川浩二朗,相京秀幸,電界結合型2次元WPTに向けた受電電極の最適構造,電子情報通信学会 信学技報,日本,電子情報通信学会,2018年10月,vol.118, no.227,pages.79-83,WPT2018-43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 5/00
B60L 53/12
B60M 7/00
H02J 7/00
H02J 50/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の第一電極および第二電極を有する櫛形の送電電極部と、
前記送電電極部に対して移動可能であり、前記送電電極部と対向し、前記送電電極部との間の電界結合を用いて非接触で電力を受け取る受電電極部と、を備える無線給電装置であって、
前記送電電極部は、隣り合う前記第一電極と前記第二電極との間の距離が距離bに設定され、
前記受電電極部は、直径を直径2rとする仮想的な円内に内接するとしたとき、前記距離bと前記直径2rとの間に、
2r<b
が成立する
とともに、
前記受電電極部は、前記送電電極部との最小重なり面積Sminが最大となるように配置されている無線給電装置。
【請求項2】
前記受電電極部は、2つ以上設けられ、
前記第一電極および前記第二電極の幅をaとし、
任意の中心点Cから前記受電電極部の中心までの距離を距離Rとし、
前記中心点Cにおいて、前記中心点Cと複数の前記受電電極部の中心とを結ぶ仮想的な直線が形成する角度を角度θとしたとき、
前記距離Rは、
R=(a+b)/sinθ
である請求項1記載の無線給電装置。
【請求項3】
前記距離Rと、前記直径2rとしたとき、
2<R/r
である請求項2記載の無線給電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、無線給電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電動化された車両などの移動体へ電力を供給する方法として、非接触で電力を供給する無線給電装置が知られている。車両用の無線給電装置は、主として地上に設けられている送電電極部と、車両に設けられこの送電電極部から電力の供給を受ける受電電極部とから構成されている。そして、この無線給電の方式として、電界結合を用いることが提案されている(特許文献1など参照)。
【0003】
しかしながら、無線給電装置を車両に適用する場合、車両は送電電極部が設けられている地面を移動したり、任意の位置で回転したりする。このように、車両に移動や回転が生じると、地上側の送電電極部と車両側の受電電極部とが重なり合う面積、つまり送電電極部と受電電極部との間に形成されるコンデンサの結合面積は変化する。結合面積に変化が生じると、送電電極部に電力を供給する電源を基準とするインピーダンスも変化する。このインピーダンスの変化は、電力の反射を招き、送電効率の低下だけでなく、電源に悪影響を及ぼすという問題がある。また、車両の移動や回転によって結合面積が「0」になると、電力の供給自体が不可能になるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】宮本康平、他1名、「電界結合型無線電力伝送における電極形状と回路考察」、2014年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会通信講演論文集1、p.448、2014年3月
【文献】水谷陽太、他4名、「受電器アレイとシート型送電器を用いた電界結合無線電力伝送における極板形状に関する一検討」、電子情報通信学会 信学技報 WPT2016-38、pp.7-11、2016年11月
【文献】熊谷耕輔、他6名、「電界結合型2次元WPTに向けた受電電極の最適構造」、電子情報通信学会 信学技報 WPT2018-43、vol.118、no.227、pp.79-83、2018年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、送電電極部と受電電極部との間の結合面積の変化にともなうインピーダンスの変化を低減し、送電効率を向上する無線給電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態の無線給電装置では、受電電極部は、送電電極部における第一電極と第二電極との間の距離、つまりこれらの間隔を距離bとしたとき、2r<bとなる直径2rの仮想的な円に内接している。受電電極部をこのような条件に設定することにより、受電電極部が設けられた移動体が移動や回転しても、受電電極部は、送電電極部の第一電極または第二電極のいずれか一方とのみ重なる。そのため、送電電極部と受電電極部との間には、不要な電気的な容量つまり静電容量の生成が回避される。
【0008】
仮に、1つの受電電極部が2つの送電電極部と重なると、1つの受電電極部あたり2つの静電容量が発生する。受電電極部が設けられた移動体が移動や回転すると、発生した2つの静電容量はそれぞれ変動する。この場合、例えば整合回路などを用いることにより一方の静電容量の変化による影響を低減することができても、他方の静電容量の変化による影響の低減は困難である。つまり、2つの静電容量が発生するとき、これら2つの静電容量の変化に対して同時に影響を低減することは困難である。
【0009】
本実施形態では、受電電極部の直径2rと距離bとの間に、2r<bの関係が成立することにより、1つの受電電極部は常に1つの送電電極部との間に静電容量を発生する。そのため、例えば整合回路などの追加の構成を必要とすることなく、インピーダンスの変化にともなう反射電力の低減が図られる。したがって、送電電極部と受電電極部との間の結合面積の変化にともなうインピーダンスの変化を低減することができ、送電効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態による無線給電装置を適用した電力供給システムを示す模式的な斜視図
【
図2】一実施形態による無線給電装置を適用した電力供給システムの地上部および移動体を示す模式的な側面図
【
図4】一実施形態による無線給電装置の送電電極部を示す模式的な平面図
【
図5】一実施形態による無線給電装置の送電電極部と受電電極部との位置的な関係を示す模式図
【
図6】一実施形態による無線給電装置の受電電極部を設定するための仮想的な円を示す概略図
【
図7】一実施形態による無線給電装置において仮想的な円内に内接する受電電極部の例を示す概略図
【
図8】無線給電装置において、1つの受電電極部が2つの送電電極部と重なるとき、形成される静電容量を示す模式図
【
図9】一実施形態による無線給電装置において、1つの受電電極部が1つの送電電極部と重なるとき、形成される静電容量を示す模式図
【
図10】一実施形態による無線給電装置において、五角形の頂点に受電電極部を配置する例を示す模式図
【
図11】一実施形態による無線給電装置において、正三角形の頂点および中心に受電電極部を配置する例を示す模式図
【
図12】
図11に示す例において、距離Rと最小重なり面積Sminと受電電極部の半径rとの関係を示す概略図
【
図13】一実施形態による無線給電装置において、正方形の頂点および中心に受電電極部を配置する例を示す模式図
【
図14】
図13に示す例において、距離Rと最小重なり面積Sminと受電電極部の半径rとの関係を示す概略図
【
図15】一実施形態による無線給電装置において、正五角形の頂点に受電電極部を配置するとき、距離Rと最小重なり面積Sminと受電電極部の半径rとの関係を示す概略図
【
図16】一実施形態による無線給電装置において、正六角形の頂点に受電電極部を配置するとき、距離Rと最小重なり面積Sminと受電電極部の半径rとの関係を示す概略図
【
図17】一実施形態による無線給電装置において、正N角形の各頂点および中心に受電電極部を配置するとき、径比率R/rと最小重なり面積率Rminと頂点の数Nとの関係を示す概略図
【
図18】一実施形態による無線給電装置において、正N角形の各頂点に受電電極部を配置するとき、径比率R/rと最小重なり面積率Rminと頂点の数Nとの関係を示す概略図
【
図19】一実施形態による無線給電装置において、受電電極部と送電電極部との位置的な関係を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、一実施形態による無線給電装置を適用した電力供給システムについて説明する。
図1から
図3に示すように、電力供給システム10は、移動体11および地上部12を備えている。地上部12は、例えば道路、駐車場、工場など、移動体11を用いる電力供給システム10を提供する設備に設けられている。移動体11は、例えば電動の車両などである。移動体11は、例えば人や貨物を搭載可能であり、地上部12から供給された電力を利用して走行する。移動体11は、無人での走行または有人での走行のいずれであってもよい。
【0012】
無線給電装置20は、高周波生成部21、送電電極部22および受電電極部23を備えている。高周波生成部21は、図示しないインバータなどの高周波を生成する回路を有している。高周波生成部21は、電源24から供給された電力を用いて高周波を生成し、送電電極部22へ供給する。高周波生成部21で生成した高周波は、送電電極部22から出力される。受電電極部23は、送電電極部22との間の電界結合を用いて、送電電極部22から出力された電力を非接触、つまり無線で受け取る。
【0013】
送電電極部22は、例えば地上部12の床面や壁面などの設置面25に設けられている。設置面25は、平面や曲面など設備に応じた任意の面である。送電電極部22は、一対の第一電極31および第二電極32を有している。第一電極31および第二電極32は、櫛形に形成されている。具体的には、
図4に示すように第一電極31は、幹部311と、この幹部311から分岐する平行な複数の枝部312とを有している。同様に、第二電極32は、幹部321と、この幹部321から分岐する平行な複数の枝部322とを有している。第一電極31は、
図1に示すように高周波生成部21の一方の端子に接続され、第二電極32は、高周波生成部21の他方の端子に接続されている。第一電極31の枝部312は、第二電極32の枝部322の間に設けられている。これにより、櫛形の第一電極31と第二電極32とは、
図4に示すように幹部311および幹部321が伸びる方向において、互いに離間しつつ、枝部312と枝部322とが櫛歯状に噛み合った形で交互に配置される。
【0014】
送電電極部22を構成する第一電極31および第二電極32は、
図5に示すようにいずれもその幅が幅aに設定されている。つまり、第一電極31において幹部311から分岐する枝部312は、その短手方向の幅が幅aである。同様に、第二電極32において、幹部321から分岐する枝部322は、その短手方向の幅が幅aである。そして、第一電極31と第二電極32との間の間隔は、距離bに設定されている。つまり、隣り合って配置されている第一電極31の枝部312と第二電極32の枝部322との間の距離は、距離bである。したがって、第一電極31の枝部312と第二電極32の枝部322とは、距離bの空間を形成して隣り合っている。
【0015】
受電電極部23は、
図2に示すように送電電極部22との間に空間を形成して対向している。送電電極部22と受電電極部23との間には、誘電体である空気が存在する。受電電極部23は、上述のように送電電極部22との間の電界結合を用いて、送電電極部22から出力された電力を非接触で受け取る。本実施形態の場合、受電電極部23は、移動体11の底面に設けられている。例えば送電電極部22を設備の壁面に設ける場合、受電電極部23は移動体11の側面に設けてもよい。
【0016】
移動体11は、
図1から
図3に示すように受電電極部23に加え、本体41、制御部42、バッテリ43および駆動部44を有している。本体41は、移動体11を構成する制御部42、バッテリ43および駆動部44に加え、運搬する人や物などを搭載可能である。制御部42は、受電電極部23で送電電極部22から電界結合で受け取った高周波を直流に整流する図示しない整流回路を有している。バッテリ43は、例えばリチウムイオン電池などの二次電池やキャパシタなどで構成され、整流された電力を蓄える。駆動部44は、モータ441および車輪442などを有しており、モータ441によって車輪442を駆動する。制御部42は、バッテリ43への充電および駆動部44の駆動を含め、移動体11の全体を制御する。受電側の移動体11に設けられているバッテリ43およびモータ441は、電力を消費する負荷に相当する。負荷は、バッテリ43およびモータ441に限らず、例えば移動体11の照明や空調機器など電力を消費するものが含まれる。
【0017】
次に、本実施形態による無線給電装置20における送電電極部22と受電電極部23との関係について詳細に説明する。
受電電極部23は、
図6に示すように直径を直径2rとする仮想的な円Aに内接するように設定されている。つまり、受電電極部23は、直径2rの円Aを設定したとき、この円Aと同一形状の円Aであることが好ましい。この仮想的な円Aは、半径rである。また、受電電極部23は、円Aと同一形状でなくても、例えば
図7に示すようにこの円Aに内接する多角形に設定してもよい。さらに、受電電極部23は、例えば
図7に示すように円Aに内包されつつ、一部が欠けた形状や楕円形状などであってもよい。このように、受電電極部23は、直径2rの円Aに少なくとも一部が内接する形状に設定されている。より詳細には、受電電極部23は、最長となる対角線に相当する長さ、または最長となる長軸の長さが、直径2rの円Aの内側に収まっていればよい。
【0018】
また、この直径2rの円Aは、上述の第一電極31と第二電極32との間の距離bとの間に、2r<bが成立する。つまり、受電電極部23の直径2rは、第一電極31と第二電極32との間の距離bよりも小さい。直径2rと距離bとの間に2r<bが成立することにより、1つの受電電極部23は、同時に2つ以上の第一電極31または第二電極32と重なることがない。すなわち、受電電極部23が設けられた移動体11が回転や移動しても、1つの受電電極部23が対向するのは、第一電極31または第二電極32の少なくともいずれか一方である。
【0019】
図8に示すように受電電極部23の直径2rと距離bとの間の関係が2r>bであるとき、受電電極部231は、第一電極31との間に静電容量C1+を形成するとともに、第二電極32との間に静電容量C1-を形成する。同様に、受電電極部232は、第一電極31との間に静電容量C2+を形成し、第二電極32との間に静電容量C2-を形成する。この場合、受電電極部231と第二電極32との間に形成される静電容量C1-、および受電電極部232と第一電極31との間に形成される静電容量C2+は、寄生的な静電容量である。そのため、送電電極部22から受電電極部23へ高効率で安定した電力の供給を行なうためには、これら寄生的な静電容量である静電容量C1-および静電容量C2+は、できるだけ小さくすること、さらには「0」にすることが好ましい。
【0020】
これに対し、
図9に示すように本実施形態の受電電極部23の直径2rと距離bとの間の関係が2r<bであるとき、受電電極部231は第一電極31との間に静電容量C1+を形成するだけであり、受電電極部232は第二電極32との間に静電容量C2-を形成するだけである。これにより、受電電極部23を搭載する移動体11が回転や移動しても、移動体11に搭載されている受電電極部23は、1つにつき常に1つの第一電極31または第二電極32と対向する。この場合、受電電極部23は、第一電極31との間に静電容量C1+、第二電極32との間に静電容量C2-を形成することとなる。そのため、負荷である移動体11側から見たインピーダンスを大きく設定するだけで、受電電極部23を搭載する移動体11の回転や移動にともなって送電電極部22と受電電極部23との間の重なりが変化しても、電源24側から見たインピーダンスの変動が低減される。その結果、インピーダンスの変動に起因する送電電極部22から高周波生成部21側への電力の反射が低減され、送電効率の低下や電源24の損傷の低減が図られる。
【0021】
次に、移動体11に受電電極部23を2つ以上設ける場合の条件について説明する。移動体11に2つ以上の受電電極部23を設ける場合、各受電電極部23は、次のような関係を満たすことが好ましい。
R=(a+b)/sinθ 式(1)
【0022】
式(1)において、aは、
図5に示すように上述の第一電極31の枝部312および第二電極32の枝部322の幅である。また、距離bは、第一電極31の枝部312と第二電極32の枝部322との間の距離である。移動体11に2つ以上の受電電極部23が配置されているとき、各受電電極部23の中心は、
図5に示すように任意の中心点Oから同一の距離にある。この中心点Oから各受電電極部23までの距離は、式(1)におけるRである。そして、この中心点Oにおいて、中心点Oと各受電電極部23の中心とを結ぶ仮想的な直線Lが形成する角度はθである。角度θは、受電電極部23の数によって算出される。具体的には、θ=360°/Nで算出される。Nは、受電電極部23の数である。
図5に示すように受電電極部23が3つの場合、角度θはθ=120°である。このように、仮想的な任意の中心点Oと各受電電極部23の中心までの距離Rは、上記の式(1)に示す関係を満たしている。このように、距離Rを設定することにより、複数の受電電極部23のうちの少なくとも1つが第一電極31に重なり、他の少なくとも1つが第二電極32に重なることになる。そして、上記のように直径2rと距離bとの関係を規定することにより、複数の受電電極部23の任意の1つは、第一電極31および第二電極32と同時に重なることがない。
【0023】
上記のように受電電極部23の直径2rと距離bとの関係を設定することにより、移動体11に複数の受電電極部23を設ける場合でも、1つの受電電極部23と第一電極31または第二電極32との間の形成される静電容量は1つに限定される。そのため、上記の条件を満たすことにより、受電側となる移動体11にはより多くの受電電極部23を設けることができる。その結果、送電電極部22と受電電極部23との間で重なる重なり面積So、つまり電力を伝達する面積を拡大することができる。
【0024】
図10に示すように、例えば移動体11に5つの送電電極部22を設ける例について説明する。
図10において、第一電極31と重なる受電電極部23の面積をS1とし、第二電極32と重なる受電電極部23の面積をS2とする。このとき、下記の式(2)に示す重なり面積Soが大きくなるほど、
図9で示した静電容量C1+および静電容量C2-は増大する。
So=(S1×S2)/(S1+S2) 式(2)
【0025】
ここで、重なり面積Soは、第一電極31および第二電極32と重なる受電電極部23のうち、重なり合う面積が大きな2つを抽出し、式(2)を用いて算出される。
図10に示す例の場合、受電電極部23aおよび受電電極部23bは、重なり合う面積が大きな2つの受電電極部23として抽出される。最小重なり面積Sminは、受電側である移動体11の回転や移動を考慮したとき、上記の式(2)で算出される重なり面積Soの最小値である。上述のように、最小値である最小重なり面積Sminが大きくなるほど、送電電極部22と受電電極部23との間に形成される静電容量が大きくなり、送電効率が向上する。
【0026】
次に、受電電極部23の半径rと、上述の距離Rとの間の関係について説明する。最小重なり面積Sminを最大限に確保するためには、受電電極部23の半径rと距離Rとの間には、次の式(3)のような関係があることが好ましい。以下、R/rは、径比率ともいう。
2<R/r 式(3)
【0027】
図11に示すように正三角形の中心と各頂点に受電電極部23を配置する例について説明する。このような配置の場合、受電電極部23の半径rを変化させると、最小重なり面積Sminは、距離Rに対して、
図12に示すような関係となる。この
図12からもわかるように、最小重なり面積Sminは、受電電極部23の半径rごとに距離Rに依存する極大値が存在する。この
図12から、
図11に示す受電電極部23の配置の場合、R=3.2×rの関係があるとき、最小重なり面積Sminは最大となる。
【0028】
同様に、
図13に示すように正方形の中心と各頂点に受電電極部23を配置する例の場合、半径rと距離Rとの間には、
図14に示す関係から、R=3.32×rの関係があるとき、最小重なり面積Sminは最大となる。また、図示しないが正五角形の各頂点に受電電極部23を配置した場合、半径rと距離Rとの間には、
図15に示す関係からR=2.73×rの関係があるとき、最小重なり面積Sminは最大となる。さらに、図示しないが正六角形の各頂点に受電電極部23を配置した場合、半径rと距離Rとの間には、
図16に示す関係から、R=2.93×rの関係があるとき、最小重なり面積Sminは最大となる。これらのような傾向から、式(3)に示すように2<R/rであるとき、最小重なり面積Sminは十分に確保されることが分かる。
【0029】
上記した傾向をより詳細に考察するために、受電電極部23を、正N角形の各頂点および中心に配置した実施例1と、正N角形の各頂点のみに配置した実施例2とを比較する。
図17および
図18は、径比率R/rと、最小重なり面積率Rmin(%)との関係を示している。最小重なり面積率Rminは、下記の式(4)によって算出される。
図17および
図18では、受電電極部23を配置する正N角形の頂点の数が径比率R/rおよび最小重なり面積率(%)に与える影響を示している。
図17は実施例1の結果を示し、
図18は実施例2の結果を示している。
Rmin=Smin/Smax×100 式(4)
【0030】
上記の式(4)において、Smaxは、最大重なり面積である。最大重なり面積Smaxとは、2つの受電電極部23の面積に相当する。つまり、最大重なり面積Smaxは、受電電極部23の1つが第一電極31と完全に重なり、受電電極部23の他の1つが第二電極32と完全に重なったときの面積に相当する。したがって、最小重なり面積率Rminは、100%となるとき、複数の受電電極部23を搭載する移動体11がいかなる位置およびいかなる回転角度であっても、受電電極部23の少なくとも1枚が送電電極部22の第一電極31と重なり、他の少なくとも1枚が第二電極32と重なっていることを示す。つまり、最小重なり面積率Rminは、受電電極部23と送電電極部22との重なりが最大となる面積に対する、最小重なり面積Sminの比である。
【0031】
図17に示す実施例1では、最小重なり面積Sminを確保するためには、受電電極部23は3つの頂点つまり三角形の各頂点および中心への配置が必要である。すなわち、実施例1の場合、受電電極部23は、頂点の数であるN=3に、中心の1つを加えた、N=3+1が最小値となる。また、
図18に示す実施例2では、最小重なり面積Sminを確保するためには、受電電極部23は5つの頂点つまり五角形の各頂点に配置が必要である。すなわち、実施例2の場合、受電電極部23は、頂点の数であるN=5が最小値となる。
【0032】
これら
図17および
図18から、径比率が2より大きい、つまり2<R/rであれば、最小重なり面積率Rminは0以上になることがわかる。また、Nが概ね10以下であるとき、径比率R/rと最小重なり面積率Rminとの間には、周期性を含む増減が生じることが分かる。一方、Nが50を超えると、径比率R/rと最小重なり面積率Rminとの間には、安定した関係が生じることが分かる。
【0033】
図19は、R/r=2となるN=4の受電電極部23と送電電極部22との関係を示す模式
図M1、およびR/r<2となるN=3の受電電極部23と送電電極部22との位置的な関係を示す模式
図M2である。非接触の無線給電を実現するには、2つの受電電極部23が少なくとも1つの第一電極31と少なくとも1つの第二電極32に重なる必要がある。しかし、R/r=2、またはR/r<2のとき、受電電極部23を搭載した移動体11の状態によって、
図19に示すように受電電極部23と第一電極31および第二電極32との重なりが生じない状態が発生する。そのため、最小重なり面積Sminが0となる状態が生じ、無線給電は実現できない。したがって、式(3)に示すように径比率R/rは、2<R/rであることが求められる。
【0034】
以上説明した一実施形態では、受電電極部23は、送電電極部22における第一電極31と第二電極32との間の距離bとしたとき、2r<bとなる直径2rの仮想的な円Aに内接する。受電電極部23をこのような条件に設定することにより、受電電極部23が設けられた移動体11が移動や回転しても、受電電極部23は、送電電極部22の第一電極31または第二電極32のいずれか一方とのみ重なる。そのため、送電電極部22と受電電極部23との間には、不要な電気的な容量つまり不要な静電容量の生成が回避される。
【0035】
本実施形態では、受電電極部23の直径2rと距離bとの間に、2r<bの関係が成立することにより、1つの受電電極部23は常に1つの送電電極部22との間に静電容量が発生する。そのため、例えば整合回路などの追加の構成を必要とすることなく、インピーダンスの変化にともなう反射電力の低減が図られる。したがって、送電電極部22と受電電極部23との間の結合面積の変化にともなうインピーダンスの変化を低減することができ、送電効率を向上することができる。
【0036】
また、本実施形態では、2つ以上の受電電極部23を備える場合、これら受電電極部23の間には、式(1)が成立する。式(1)のように受電電極部23の直径2rと距離bとの関係を設定することにより、受電電極部23と第一電極31または第二電極32との間の形成される静電容量は1つに限定される。そのため、受電側となる移動体11にはより多くの受電電極部23を設けることができ、送電電極部22と受電電極部23との間で重なる重なり面積So、つまり電力を伝達する面積を拡大することができる。
【0037】
さらに、本実施形態では、径比率R/rを、2<R/rに設定している。これにより、2つ以上の受電電極部23を搭載した移動体11がいかなる位置へ移動したり、いかなる角度回転したりしても、そのうちの少なくとも1つの受電電極部23は第一電極31と重なり、他の少なくとも1つの受電電極部23は第二電極32と重なる。そのため、最小重なり面積Sminは、「0」となることなく、確実に確保される。したがって、受電側の移動体11の姿勢にかかわらず、送電電極部22から受電電極部23へ無線給電を達成することができる。
【0038】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0039】
図面中、20は無線給電装置、22は送電電極部、23は受電電極部、31は第一電極、32は第二電極を示す。