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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】多孔性芯材層を備えたバイオセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/414 20060101AFI20241015BHJP
【FI】
G01N27/414 301V
G01N27/414 301L
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2020564669
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-02
(86)【国際出願番号】 AU2019050458
(87)【国際公開番号】W WO2019218011
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-05-11
(31)【優先権主張番号】2018901675
(32)【優先日】2018-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(73)【特許権者】
【識別番号】520443918
【氏名又は名称】ライフ・サイエンス・バイオセンサー・ダイアグノスティクス・プロプライエタリー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】LIFE SCIENCE BIOSENSOR DIAGNOSTICS PTY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(74)【代理人】
【識別番号】100100479
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 三喜夫
(72)【発明者】
【氏名】ポール・ダストゥア
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/000012(WO,A1)
【文献】特開2006-242900(JP,A)
【文献】特開2004-105065(JP,A)
【文献】特開2013-075264(JP,A)
【文献】特開昭61-155850(JP,A)
【文献】特開昭55-048392(JP,A)
【文献】特開昭57-127841(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0343508(US,A1)
【文献】国際公開第2017/026439(WO,A1)
【文献】特開2005-328030(JP,A)
【文献】BASHIR, Z.,Polyacrylonitrile, an unusual linear homopolymer with two glass transitions,Indian Journal of Fibre & Textile Research,1999年,Vol.24, No.1,p.1-9,http://nopr.niscpr.res.in/handle/123456789/23488
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/414
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水性液体サンプル中の検体の存在を検出するための有機薄膜トランジスタ方式のセンサであって、
第1表面および第2表面を有する多孔性芯材層であって、第1表面は水性液体サンプルを受け入れるように構成される、多孔性芯材層と、
該多孔性芯材層の上または内部に配置され、検体からの電荷キャリアの発生を促進するための酵素と、
該多孔性芯材層の第2表面と接触するポリマーゲート層であって、ゲート電圧をポリマーゲート層に印加するためのオーミック導体に接続されるように構成され、電荷キャリアにとって伝導性であるポリマーゲート層と、
ソース電極およびドレイン電極に且つ両電極間に接続された有機半導体層と、を備え、
該多孔性芯材層は、多孔性ポリマー芯材層であってポリマーゲート層とは異なる材料であり、
該多孔性芯材層の第1表面における水性液体サンプルの接触角が60°以下である、センサ。
【請求項2】
多孔性芯材層は、50nmから500μmまでの厚さを有する請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
接触角は、50°以下である請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項4】
接触角は、40°以下である請求項1または2に記載のセンサ。
【請求項5】
多孔性芯材層は、50nmから2000nmまでの細孔サイズを有する請求項1~のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項6】
細孔サイズは、100nmから1000nmまでである請求項に記載のセンサ。
【請求項7】
多孔性芯材層は、30%から95%までの空隙率を有する請求項1~のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項8】
多孔性芯材層は、少なくとも80℃のガラス転移温度を有するポリマーから形成される請求項1~のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項9】
ガラス転移温度は、少なくとも90℃である請求項に記載のセンサ。
【請求項10】
多孔性芯材層は、ジメチルスルホキシドに溶解可能なポリマーから形成される請求項1~のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項11】
多孔性芯材層は、1つ以上の繰り返しモノマーユニットから形成されるポリマーから形成され、該1つ以上の繰り返しモノマーユニットは、ハロゲン化物原子を含まない請求項1~10のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項12】
1つ以上の繰り返しモノマーユニットは、C原子、N原子およびH原子からなる請求項11に記載のセンサ。
【請求項13】
多孔性芯材層は、多孔性ポリアクリロニトリル(PAN)層である請求項1~12のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項14】
酵素は、多孔性芯材層の内部にある請求項1~13のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項15】
検体はグルコースであり、酵素はグルコースオキシダーゼである請求項1~14のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項16】
ポリマーゲート層は、スルホン化テトラフルオロエチレン系のフルオロポリマー-コポリマーである請求項1~15のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項17】
ポリマーゲート層は、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテン-スルホン酸とのコポリマーを含む請求項16に記載のセンサ。
【請求項18】
有機半導体層は、ポリアセチレン、ポルフィリン、フタロシアニン、フラーレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリピリジン、ポリカルバゾール、ポリピリジンビニレン、ポリアリールビニレン、ポリ(p-フェニルメチルビニレン)からなるグループから選択される1つ以上の有機ポリマーを含む請求項1~17のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項19】
有機半導体層は、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)を含む請求項1~18のいずれか1つに記載のセンサ。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1つに記載の有機薄膜トランジスタ方式のセンサを形成する方法であって、
相転換法により多孔性芯材層を形成することを含む、方法。
【請求項21】
水性液体サンプル中の検体の存在を検出するための有機薄膜トランジスタ方式センサを形成する方法であって、
ソース電極およびドレイン電極に接続されるように構成された有機半導体層、およびポリマーゲート層を少なくとも含む層状構造を用意するステップと、
ポリマーゲート層の表面に多孔性芯材層を配置するステップであって、該多孔性芯材層は、多孔性ポリマー芯材層であって、ポリマーゲート層とは異なる材料である、ステップと、を含み、
多孔性芯材層は、検体からの電荷キャリアの発生を促進するための酵素を含むか、または含むように処理さ
該多孔性芯材層の第1表面における水性液体サンプルの接触角が60°以下である、方法。
【請求項22】
ポリマーゲート層の表面上に多孔性芯材層を配置するステップは、相転換法によりポリマーゲート層の表面上に多孔性芯材層を形成することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
相転換法は、
基板の表面上にポリマー溶液の湿潤フィルムを形成するステップであって、該ポリマー溶液は、溶媒に溶解したポリマーを少なくとも含む、ステップと、
・非溶媒を湿潤フィルムに塗布するステップであって、該非溶媒は、溶媒と混和性であり、多孔性ポリマー膜を形成し、多孔性ポリマー膜の細孔から溶媒を溶解するステップと、を含む請求項20または22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1~19のいずれか1つに記載のセンサを用いて、水性液体サンプル中のグルコースの濃度を検出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜センサ、ならびにセンシング用途、特にグルコース(ブドウ糖)センシング用途におけるその調製および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
有機薄膜トランジスタ(OTFT)センサの開発は、ポリマーデバイスのユニークな物理的特性、例えば、その柔軟性および、低コストの溶液方式の技術を用いて製造できる能力などに主に動機付けられて、近年急速に成長している。新規および既存の用途のためのOTFTの開発作業は、2つの主要なエリアに注目している。第1には、材料および製造プロセスでの体系的な改善があり、有機デバイスの従来の性能パラメータの改善をもたらし、無機デバイスに匹敵するようになった。第2には、有機半導体層の膜形態(morphology)での改善は、電子及び/又は正孔トラップを排除し、ポリマー半導体材料における自由キャリア輸送を強化するという目的で行われている。高キャパシタンス有機誘電体層の開発も進んでおり、OTFT性能の大幅な改善が報告されている。有機材料と生体分子との固有の適合性により、OTFTは、バイオセンシング用途での使用に適切なものになる。
【0003】
本発明者は、広範囲の濃度に渡って検体レベルを検出でき、製造するのが簡単で比較的安価であるOTFTデバイスを製造するのに成功している。このデバイスは、血液とは対照的に唾液中のグルコースのレベルを検出することによって、血糖濃度を推定できるような商業的に実行可能なグルコースセンサへの道を開く可能性がある。こうしたデバイスは、糖尿病患者が自分の血糖値を決定する際に血液サンプルを入手する必要性を取り除く可能性がある。デバイスはまた、同様の方法で他の検体のセンシングのための道を開く可能性がある。
【0004】
明細書における先行技術への参照は、この先行技術が任意の管轄における一般知識の一部を形成すること、またはこの先行技術が理解され、関連すると見なされ、及び/又は当業者によって先行技術の他の部分と組み合わされることが合理的に期待できることの知識または示唆ではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様では、液体サンプル中の検体の存在を検出するための有機薄膜トランジスタ方式のセンサが提供され、該センサは、下記の構成を含む。
・第1表面および第2表面を有する多孔性芯材(wicking)層。第1表面は、液体サンプルを受け入れるように構成される。
・該多孔性層の上または内部に配置された酵素。酵素は、検体からの電荷キャリアの発生を促進するためである。
・該多孔性層の第2表面と接触しているポリマーゲート層であって、ゲート電圧をポリマーゲート層に印加するためのオーミック導体に接続されるように構成されたポリマーゲート層。ポリマーゲート層は、電荷キャリアにとって伝導性である。
・ソース電極およびドレイン電極に接続されるように構成された有機半導体層。
【0006】
一実施形態において、センサはさらに、ゲート電圧をポリマーゲート層に印加するように構成されたポリマー層と接触しているオーミック導体を含む。
【0007】
一実施形態において、有機半導体層は、ソース電極とドレイン電極との間に接続される。
【0008】
一実施形態では、多孔性層は、約50nmから約500μmまでの厚さを有する。好ましくは、厚さは最大200μmである。より好ましくは、厚さは最大100μmである。さらにより好ましくは、厚さは最大80μmである。最も好ましくは、厚さは最大60μmである。代替または追加として、厚さは500nmからである。より好ましくは、厚さは1μmからである。さらにより好ましくは、厚さは20μmからである。最も好ましくは、厚さは40μmからである。好ましい形態では、厚さは約50μmである。
【0009】
一実施形態では、多孔性層は、多孔性層の第1表面における液体、好ましくは生物流体、より好ましくは希釈唾液、または未希釈唾液または未処理唾液(「ニート(混ぜ物無し)唾液」)の接触角が60°以下となるような材料で形成される。好ましくは、接触角は50°以下である。より好ましくは、接触角は45°以下である。さらにより好ましくは、接触角は40°以下である。最も好ましくは、接触角は38°以下である。
【0010】
一実施形態において、多孔性層は、50nmから2000nmまでの細孔サイズを有する複数の細孔(pore)を含む。好ましくは、細孔サイズは最大1600nmである。より好ましくは、細孔サイズは最大1200nmである。最も好ましくは、細孔サイズは最大1000nmである。代替または追加として、細孔サイズは80nmからである。より好ましくは、細孔サイズは100nmからである。最も好ましくは、細孔サイズは150nmからである。
【0011】
一実施形態において、多孔性層は、約30%から約95%までの空隙率(void ratio)を有する。好ましくは、空隙率は最大約90%である。代替または追加として、空隙率は約35%からである。好ましくは、空隙率は約40%からである。より好ましくは、空隙率は約45%からである。最も好ましくは、空隙率は約50%からである。
【0012】
例えば、多孔性セラミック材料、多孔性金属、タンパク質繊維から形成された多孔性層、または多孔性ポリマー層など、ある範囲の異なる多孔性材料を使用して、多孔性層を形成できることは理解されよう。本発明の好ましい形態では、多孔性層は多孔性ポリマー層である。多孔性ポリマー層は、ホモポリマー、コポリマーまたはポリマーブレンドの層でもよい。
【0013】
特定の形態において、多孔性ポリマー層は、多孔性ポリマー、酵素、および、必要に応じてエラストマー、安定剤または界面活性剤からなるグループから選択される1つ以上の添加剤を含み、またはこれらからなり、または本質的にこれらからなる。
【0014】
多孔性層が多孔性ポリマー層である本発明の形態では、ポリマー層は、少なくとも50℃のガラス転移温度を有するポリマーから形成されることが好ましい。より好ましくは、ガラス転移温度は少なくとも70℃である。さらにより好ましくは、ガラス転移温度は少なくとも80℃である。さらにより好ましくは、ガラス転移温度は少なくとも90℃である。最も好ましくは、ガラス転移温度は約95℃である。
【0015】
多孔性層が多孔性ポリマー層である本発明の形態では、多孔性ポリマー層は、有機溶媒に溶解可能なポリマーから形成されることが好ましい。好ましくは、ポリマーは、例えば、ジメチルスルホキシドなどの極性非プロトン性溶媒に溶解可能である。
【0016】
多孔性層が多孔性ポリマー層である本発明の形態では、多孔性ポリマー層は、1つ以上の繰り返しモノマーユニットから形成されるポリマーから形成されることが好ましく、1つ以上の繰り返しモノマーユニットは、ハロゲン化物原子を含まない。好ましくは、1つ以上の繰り返しモノマーユニットは、C原子、N原子、O原子およびH原子からなる。より好ましくは、1つまたは複数の繰り返しモノマーユニットは、C原子、N原子およびH原子からなる。
【0017】
一実施形態において、多孔性芯材層は、多孔性ポリアクリロニトリル(PAN)層である。
【0018】
1つ以上の実施形態において、多孔性芯材層は、ポリマーゲート層の表面上に直接に層状化されている。
【0019】
1つ以上の実施形態において、ポリマーゲート層は、有機半導体層の表面上に直接に層状化されている。
【0020】
1つ以上の実施形態において、センサはまた、基板層を含む。好ましくは、少なくともソース電極およびドレイン電極は、基板上に配置される。少なくとも1つの形態では、ソース電極、ドレイン電極、および有機半導体がそれぞれ基板と接触している。基板は、ガラス、または当業者に知られている他の任意の適切な基板、例えば、紙または低コストのプラスチック、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などでもよい。
【0021】
本発明の好ましい形態では、検体はグルコースであり、酵素はグルコースオキシダーゼである。
【0022】
本発明の第2態様において、本発明の第1態様に従って定義されるような有機薄膜トランジスタ方式のセンサを形成する方法が提供され、該方法は、相転換法(phase inversion)により多孔性芯材層を形成することを含む。
【0023】
一実施形態において、多孔性層は、ポリマーゲート層の表面上にその場(in situ)で形成される。代替の実施形態において、多孔性層は、最初に有機薄膜トランジスタ方式のセンサとは別個の基板上に形成され、続いて基板から除去され、ポリマーゲート層の表面に付与される。
【0024】
本発明の第3態様において、液体サンプル中の検体の存在を検出するための有機薄膜トランジスタ方式のセンサを形成する方法が提供され、該方法は下記ステップを含む。
・ソース電極およびドレイン電極に接続されるように構成された有機半導体層、およびポリマーゲート層を少なくとも含む層状構造を用意する。
・ポリマーゲート層の表面に多孔性芯材層を配置する。
ここで、多孔性芯材層は、検体からの電荷キャリアの発生を促進するための酵素を含むか、または含むように処理される。
【0025】
一実施形態において、ポリマーゲート層の表面上に多孔性芯材層を配置するステップは、相転換法によりポリマーゲート層の表面上に多孔性芯材層を形成することを含む。
【0026】
1つまたは複数の実施形態では、相転換法は下記ステップを含む。
・基板の表面上にポリマー溶液の湿潤フィルムを形成する。ポリマー溶液は、溶媒に溶解したポリマーを少なくとも含む。
・非溶媒(non-solvent)を湿潤フィルムに塗布する。非溶媒は、溶媒と混和性であり、多孔性ポリマー膜(membrane)を形成し、多孔性ポリマー膜の細孔から溶媒を溶解する。
【0027】
一形態では、基板は、ポリマーゲート層の表面である。代替の形態では、基板は、有機薄膜トランジスタ方式センサとは別個の不活性層であり、該方法は、ポリマーゲート層の表面に多孔性芯材層を配置する前に、基板から多孔性芯材層を除去することをさらに含む。
【0028】
本発明の更なる態様および前述の段落に記載された態様の更なる実施形態は、例として与えられた、添付図面を参照して、下記の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態に係るデバイスの構造を示す概略図。
図2】本発明の一実施形態に係るデバイスの構造を示す概略図。
図3】ポリ(アクリロニトリル)(PAN)多孔性膜の走査型電子顕微鏡写真(SEM)。図3(a)のスケールバーは100μm、図3(b)のスケールバーは1μm。
図4】グルコースセンサ上の水の接触角を示す写真。図4(a)ポリ(アクリロニトリル)(PAN)、図4(b)はPANなし。
図5図5(a)は初期のナフィオン(Nafion)フィルムのXPSサーベイスキャン。図5(b)は、初期のPAN膜(実線)、ナフィオン/PAN二重層(破線)および、検体溶液に露出されたナフィオン/PAN二重層(点線)のXPS領域スキャン。
図6】多孔性ポリ(アクリロニトリル)膜を組み込んだセンサデバイスアーキテクチャを示す概略図。図6(a)はレイヤー1、電極、ITO。図6(b)はレイヤー2、ポリマー半導体、P3HT。図6(c)はレイヤー3、ゲート電極、ナフィオン。図6(d)はレイヤー4、多孔性膜、PAN。図6(e)はレイヤー5、酵素、GOX。撮影した各基板は2つのセンサを含む。
図7図7(a)は、GOX層の印刷後にインクジェットプリンタのプラテンに配置されたセンサの写真。左側のセンサはPAN多孔性膜を含み、右側のセンサはPAN多孔性膜を含まない。図7(b)は、PAN膜を含むデバイス(実線)およびPAN膜を含まないデバイス(破線)に、t=180秒で追加された10mMグルコース溶液に対するセンサ応答。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の第1の態様では、液体サンプル中の検体の存在を検出するための有機薄膜トランジスタ方式のセンサが提供され、該センサは、下記の構成を含む。
・第1表面および第2表面を有する多孔性芯材(wicking)層。第1表面は、液体サンプルを受け入れるように構成される。
・該多孔性層の上または内部に配置された酵素。酵素は、検体からの電荷キャリアの発生を促進するためである。
・該多孔性層の第2表面と接触するポリマーゲート層。該ポリマーゲート層は、ゲート電圧をポリマーゲート層に印加するためにオーミック導体がポリマーゲート層に接続できるように構成される。ポリマーゲート層は、電荷キャリアにとって伝導性である。
・ソース電極およびドレイン電極に接続されるように構成された有機半導体層。
【0031】
本発明の一実施形態に係る例示的な有機薄膜トランジスタ方式センサ100を図1に示しており、センサ100の構造の概念的表現を提供する。センサ100は、基板106の表面上に配置されたドレイン電極102およびソース電極104を含む。センサは、多孔性芯材層108、ポリマーゲート層120および有機半導体層122を含む3層フィルム構造を含む。有機半導体層122は、ドレイン電極およびソース電極の一部を覆い、有機半導体層108は、ドレイン電極102およびソース電極104と接触し、両者の間に延びている。ポリマーゲート層120は、有機半導体層122の表面上に配置される。オーミック導体132が、ゲート電圧をポリマーゲート層120に印加できるようにポリマーゲート層120と接触している。多孔性芯材層108は、ポリマーゲート層120の表面上に配置される。多孔性芯材層108の表面は、流体サンプルを受け入れるように露出している。酵素が、多孔性芯材層108の内部及び/又は表面上に配置される。多孔性芯材層100は、ゲート電極とドレイン電極との間に設けられていいない。多孔性芯材層100は、オーミック導体が多孔性芯材層に接続できるように構成されていない。
【0032】
本発明者は、酵素を含む多孔性芯材層を有機薄膜トランジスタに組み込むことが好都合であることを見出した。これには2つの主な理由がある。第1に、多孔性芯材層の表面に液体サンプルを堆積すると、多孔性芯材層は、デバイス中への液体サンプルの取り込みを改善するウィッキング(毛管作用)効果を示し、このウィッキング効果は、デバイス内部への標準量の液体サンプルの配送を確実にする可能性がある。第2に、ウィッキング効果は、多孔性芯材層の内部多孔性構造の優れた濡れ性をもたらし、多孔性芯材層内に保持された酵素に対して液体サンプル内の検体の高い露出度をもたらす。これは、デバイス内で電荷キャリアを効率的な発生をもたらし、その結果、検体が液体サンプル内に存在する場合、検体の迅速な検出をもたらすため、有益である。
【0033】
当業者は、多孔性芯材層108が、多孔性セラミック、多孔性金属、多孔性タンパク質繊維、または多孔性ポリマーを含む様々な異なる材料から形成できることは理解するであろう。しかしながら、一般に多孔性ポリマーは、センサ製造の容易さのために好ましい。適切なポリマーは、これらに限定されないが、ポリアクリロニトリル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイミド、ポリアミド、およびフルオロポリマーを含む。典型的には、多孔性芯材層は、ポリマーゲート層が形成される材料と同じではない材料から形成される。ポリマーゲート層がナフィオンから形成される場合、多孔性芯材層はナフィオンから形成されない。好ましくは、多孔性芯材層はナフィオンから形成されない。
【0034】
理想的には、多孔性芯材層108は、液体サンプルが多孔性芯材層108の中に迅速に取り込まれ、多孔性芯材層108の細孔表面の良好な濡れが確保されるように、液体サンプルの液体との低い接触角を有する材料から形成される。
【0035】
好ましくは、多孔性芯材層は、液滴、好ましくは水性液滴、より好ましくは生体流体液滴、より好ましくは、唾液液滴、例えば、ニート唾液液滴や処理または希釈された唾液液滴(これらは多孔性芯材層上で多孔性芯材層と低い接触角を有する)の迅速な形成を可能にする層の形態をとる。
【0036】
好ましくは、多孔性芯材層は、水滴、より好ましくは生体流体液滴、より好ましくは唾液液滴、より好ましくはニート唾液液滴や処理または希釈された唾液液滴による高い濡れ性を有する層から形成される。
【0037】
上記にもかかわらず、多孔性芯材層108は、多孔性ポリ(アクリロニトリル)(PAN)層であることが好ましい。PANは、多孔性芯材層108として特に有用となる物理的特性を有する。PANは、約95℃のガラス転移温度(T)および溶融温度(Tm)(>300℃)を有し、熱的に安定している。この点から、PANは良好な熱安定性を示し、このことは典型的な使用中にTgを超える可能性が低いことを意味するため、センサでは望ましい。もしTgを超えると、多孔性構造が崩壊する場合がある。PANはまた、高い強度、高い弾性係数および低い密度を有する。さらに、製造の観点から、PANは、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解可能であり、相転換法-浸漬析出を介して多孔性ポリマー膜を調製するために使用できる。
【0038】
好ましい実施形態において、多孔性芯材層は、体液、好ましくは唾液、好ましくは未希釈または他の方法で未処理の唾液、または処理済み唾液が、多孔性芯材層を迅速に濡らして浸透することを可能にするのに充分に低い表面エネルギーを有する。
【0039】
上記のように、多孔性芯材層108は酵素を含む。酵素は、多孔性芯材層108の表面上に配置してもよく、及び/又は、酵素が多孔性芯材層108の内部の細孔表面上に露出されるように、多孔性芯材層108全体に渡って配置してもよい。
【0040】
酵素は、検体がデバイスに接触した場合に電荷キャリアの発生を促進するように選択される。電荷キャリアは、典型的には電子、アニオン、またはカチオン(例えば、水素イオン/陽子)である。電荷キャリアの発生は、電界の存在によってさらに促進できる。
後述するように、これらの発生した電荷キャリアは、デバイスを流れる電流に関与できる。ある特定の検体に対して、ある範囲の酵素が使用できることは認識されよう。
さらに、利用可能な酵素の多様性を考えると、デバイスは、ここの開示に従うことによって、ある範囲の検体の検出のために適合または開発できる。
【0041】
特に好ましいクラスの酵素は、オキシドレダクターゼである。デバイスで使用するオキシドレダクターゼは、次のドナー官能基、即ち、CH-OHドナー基(アルコールオキシドレダクターゼ)、アルデヒドドナー基またはオキソドナー基、CH-CHドナー基基(CH-CHオキシドレダクターゼ)、CH-NHドナー基(アミノ酸オキシドレダクターゼ、モノアミンオキシダーゼ)、CH-NHドナー基、NADHまたはNADPH、ドナーとしての他の窒素化合物、硫黄ドナー基、ヘムドナー基、ドナーとしてのジフェノールおよび関連物質、アクセプターとしての過酸化物(ペルオキシダーゼ)、ドナーとしての水素、分子酸素を組み込んだ単一ドナー(オキシゲナーゼ)、分子酸素を組み込んだペアドナー、アクセプターとしてのスーパーオキシドラジカル、CH基またはCH基、ドナーとしての鉄硫黄タンパク質、ドナーとしての還元フラボドキシン、ドナー中のリンまたはヒ素、XY結合を形成するためのXHおよびYH、または金属イオンを酸化するオキシドレダクターゼ、のいずれか1つに作用することができる。
【0042】
ポリマーゲート層120は、多孔性芯材層108と有機半導体層122との間に配置される。ポリマーゲート層120の機能は、ゲート電圧の印加時に、検体から多孔性芯材層108で発生した電荷キャリアの輸送を促進にすることである。検体、酵素及び/又は電荷キャリアの性質に応じて、ある範囲の種々のポリマーを使用して、ポリマーゲート層120を形成できる。好ましい形態では、電荷キャリアはプロトン(例えば、水素イオン)であり、ポリマーゲート層120はプロトン伝導性である。好ましくは、ポリマー層は、有機半導体層122のプロトンに対する伝導率よりも大きいプロトンに対する伝導率を有する。伝導率は、電荷キャリアに対するポリマーゲート層120の透過率に起因することがあり、例えば、電荷キャリアの泳動(マイグレーション)によって伝導が起こったり、あるいは、他の機構、例えば、Grotthuss機構などによって起こることがある。電荷キャリアがプロトンまたは電子である場合、ポリマーゲート層は、プロトン伝導性または電子伝導性でもよい。
【0043】
本発明の好ましい形態では、ポリマーゲート層120は、スルホン化テトラフルオロエチレン系のフルオロポリマー-コポリマー、例えば、テトラフルオロエチレン骨格およびスルホン酸基で終端したパーフルオロアルキルエーテル基を含むコポリマー、を含み、またはそれからなり、または本質的にそれからなる。より好ましくは、スルホン化テトラフルオロエチレン系のフルオロポリマー-コポリマーは、テトラフルオロエチレンとパーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテン-スルホン酸とのコポリマーである。適切なポリマーの例は、テトラフルオロエチレン-パーフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマー(一般にナフィオン(Nafion)と称される)である。
【0044】
本発明の好ましい形態では、ポリマーゲート層は、約50nmから約5μmの範囲の厚さを有する。その厚さは、約200~約800nmであることが好ましい。
【0045】
有機半導体層122は、これらの電荷キャリアの発生の結果として、ソース電極とドレイン電極との間の電流の流れを可能にするように構成される。
【0046】
有機半導体層122は、1つ以上の有機化合物を含む。半導体特性を有する任意の有機化合物が使用に適している。しかしながら、1つ以上の有機化合物は、ポリアセチレン、ポルフィリン、フタロシアニン、フラーレン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリピリジン、ポリカルバゾール、ポリピリジンビニレン、ポリアリールビニレン、ポリ(p-フェニルメチルビニレン)からなるグループであって、その誘導体およびコポリマーを含み、さらにそれらの組合せを含むグループから選択されることが好ましい。より好ましくは、1つ以上の有機化合物は、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル-コ-ビス-N、N-(4-ブチルフェニル)-ビス-N、N-フェニル-1,4-フェニレンジアミン)、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-2,7-ジイル-コ-ベンゾチアジアゾール)、ポリ(3-ヘキシルチオフェン)、(6,6)-フェニル-C61-酪酸メチルエステル、ポリ(2-メトキシ-5-(2’-エチル-ヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン)、およびそれらの組合せからなるグループから選択される。最も好ましくは、半導体層は、P3HTを含み、またはそれからなり、または本質的にそれからなる。
【0047】
本発明の好ましい形態では、有機半導体層は、20nmから500nmまでの層厚を有する。好ましくは、層厚は最大350nmである。より好ましくは、層厚は最大200nmである。最も好ましくは、層厚は最大150nmである。代替または追加として、層厚は40nmからである。より好ましくは、層厚は60nmからである。最も好ましくは、層厚は70nmからである。
【0048】
センサ100の使用は、ある好ましい実施形態に関連して以下に説明しており、センサ100が唾液サンプル中のグルコースの存在を検出するためのものである
【0049】
使用の際、ゲート電圧Vおよびドレイン電圧Vが、センサ100に印加され(図1に示すように、電圧はソース電極104を基準とする)、そしてグルコースを含む液体サンプル、例えば、唾液などの体液が、多孔性芯材層108と接触する。液体サンプルは、多孔性芯材層の内部多孔性構造の中に毛管作用で運ばれ、そこで、液体サンプル中のグルコースが、多孔性芯材層の内部に存在するグルコースオキシダーゼ酵素(GOX)と接触する。グルコースは、GOXとの酵素反応によって分解され、Hを生成する。ゲート電圧Vおよびドレイン電圧Vは、HからHを解放するのに充分に強い電界を提供するが、水の電気分解はセンサの信号対ノイズ比の低下をもたらすことがあるため、水の電気分解を引き起こすほどは強くない。典型的には、印加されるゲート電圧およびドレイン電圧は、約0V~-2Vの間であり、例えば、約-1Vである。
【0050】
イオンは、多孔性芯材層108からポリマーゲート層120(例えば、ナフィオン)を通って有機半導体層に伝導される。これにより半導体のドーピングが生じ、その結果、ドレイン電極とソース電極の間に電流が生ずる。理論によって束縛されることを望まないが、本発明者の見解は、ゲート電位が、イオン発生箇所から有機半導体内のアクティブチャネルへのイオン泳動により、半導体化合物のドーピングおよび脱ドーピングを制御するものである。こうしてHイオンの増加は、ドレイン電流の増加をもたらし、そのためサンプル中に存在するグルコースの量とドレイン電流の大きさとの間にある関係が確立される。そして、ドレイン電流が測定され、唾液サンプル内のグルコースの存在および濃度の指標を提供する。
【0051】
ゲート電圧Vおよびドレイン電圧Vは、HをHから解放するのに充分に強い電界を提供するが、水の電気分解は、センサの信号対ノイズ比の低下をもたらすことがあるため、水の電気分解を引き起こすほどではない。少なくとも1つの実施形態では、印加されるゲート電圧およびドレイン電圧は、約0V~-2Vの間であり、例えば、約-1Vである。
【0052】
本発明の代替形態では、図2に示すように、センサ200は、図1のセンサ100と類似しているが、ポリマーゲート層220と有機半導体層222との間にこれらと接触する誘電体層234をさらに含む。
【0053】
誘電体層234は、有機誘電体材料を含み、またはこれからなり、または本質的にこれからなる。好ましくは、有機誘電体材料は、有機半導体層222の伝導率よりも大きいプロトンに対する伝導率を有する。好ましくは、有機誘電体材料は、吸湿性絶縁体、例えば、ポリビニルフェノールなどである。詳細には、誘電体層は、ポリ(4-ビニルフェノール)を含んでもよく、またはこれからなり、または本質的にこれからなるものでもよい。
【0054】
デバイスで使用可能な代替の誘電体材料は、当業者には容易に明らかであろう。非限定的な例は、ポリイミドおよびポリ(メチルメタクリレート(PMMA)を含む。代替の実施形態において、誘電体層は、ドープされた誘電体材料、例えば、過塩素酸リチウムをドープしたポリ(4-ビニルピリジン)を含んでもよい。
【0055】
(例:デバイスの製造)
プレパターン化ITO-オン-ガラス基板(15Ω□-1ITO、XinYan Technology社)を、デバイスの基板および電極として使用した。ポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)(MW~20000)を種々の濃度でCHCl(シグマアルドリッチ社)に溶解し、約1時間、または材料が完全に溶解するまで超音波処理を行った。ポリ-4-ビニルフェノール(PVP)(シグマアルドリッチ社)をエタノール(シグマアルドリッチ社)に80mg mL-1の濃度で溶解し、約1時間、または材料が完全に溶解するまで超音波処理を行った。ナフィオン溶液(低級脂肪族アルコールおよび水の中で5重量%、シグマアルドリッチ社)を受け取ったままで使用した。
【0056】
プレパターン化ITO-オン-ガラス基板をメタノールおよび精製水で洗浄した。CHCl中のP3HT溶液を、2000rpmで60秒間基板上にスピンコートを行った。5mg mL-1、10mg mL-1、15mg mL-1、20mg mL-1、および40mg mL-1のP3HT溶液を調製し、これらのP3HT濃度からスピンしたフィルムの平均厚さはそれぞれ22nm、36nm、74nm、108nm、および390nmであった。P3HT層をパターン化し、そして放置して40℃で15分間乾燥させた。ナフィオン溶液は、最初に500rpmで120秒間スピンコートした。
【0057】
ここで例示したデバイスは誘電体層を含まないが、誘電体層を含んでもよい。好ましい誘電体層は、PVP層である。PVP層を含むデバイスでは、PVP溶液をP3HT層の上で2000rpmで60秒間スピンし、厚さ約400nmのフィルムを形成し、それはパターン化して乾燥が可能である。PVPを含むデバイスでは、ナフィオンをソース-ドレインチャネル領域の上にドロップキャストし、基板のITOゲートパッドに接続し、そして約30分間乾燥させることが可能である。
【0058】
多孔性ポリマー膜は、相転換法(浸漬析出)を用いて製造できる。最初に、DMSO溶媒中のポリアクリロニトリル(PAN)ポリマーの粘性溶液を、平坦で剛性の基板、例えば、ガラスなどの上にコートして、均一な「湿潤(ウェット)」フィルムを形成する。「湿潤」フィルムは、スピンコート、ドロップキャスト、または印刷技術、例えば、スロットダイコートなどによってコーティング可能である。「湿潤」フィルムは、固体のドライフィルムではなく、複合フィルムであり、ポリマー鎖間の空隙に存在する液体溶媒分子を備えたポリマーネットワーク(網状組織)を含む。そして、剛性基板上の「湿潤」フィルムを水(非溶媒)に沈め、DMSO溶媒がポリマーネットワークから周囲の水浴に拡散し、水がポリマーネットワークに拡散すると、多孔性ポリマー膜が形成される。ポリマーの析出を誘起するのは、非溶媒とのこの溶媒交換である。溶媒および非溶媒の選択は、選択したポリマーに大きく依存し、溶媒はポリマーを溶解させることが可能である必要があり、一方、非溶媒は、ポリマーが不溶性であるものである。溶媒と非溶媒の組合せは混和性である必要があり、そうでないと溶媒が非溶媒の中に拡散せず、多孔性ポリマー膜が形成されず、代わりに「湿潤」溶媒含有フィルムとして残留する。製造は2つのステップのプロセスであり、「湿潤」フィルムが固体フィルムに転換するのは第2ステップである。いったん固体フィルムが形成されると、それは所望のサイズおよび厚さの個別の層に処理され、多孔性芯材層としてデバイスに付与される。
【0059】
GOXを芯材層に組み込むために、GOXは芯材層の上にキャストされる。芯材層の多孔性は、芯材層全体へのGOXの分散を促進する。
【0060】
(デバイスのテスト)
相転換法技術によって調製されたPAN膜の多孔性は、2kVの加速電圧で動作するZeiss社ZP FESEMで走査型電子顕微鏡(SEM)(図3を参照)を用いて調査した。膜調製プロセスでは、DMSOを溶媒として使用し、水を非溶媒として使用した。SEMにより、PAN膜の細孔サイズが200~800nmのサイズ範囲にあることが明らかになった。
【0061】
PAN膜の芯材の可能性を調査するために、PAN上の水の接触角をナフィオン上の水と比較して測定した。図4は、接触角が抽出された、図4(a)PANおよび図4(b)ナフィオンの上の水滴の写真を示す。PAN上の水の接触角は約35°と測定され、これはナフィオン上で約70°に増加した。PAN上の水の減少した接触角は、PANがナフィオンより親水性の表面であることを示す。PAN上のこの減少した接触角は、ウィッキング(毛管作用)効果にとって有益であり、この材料の最初の試験で優れた結果である。
【0062】
検体添加後のPAN多孔性膜全体に渡ってナフィオンの潜在的な再分布を探査するために、X線光電子分光法(XPS)を実施した。XPSスペクトルは、Al Kα(1486.6eV)放射線を用いて非単色性X線源(Omnivac社)でサンプルを照射することによって収集し、光電子放出はSES2002アナライザ(Scienta社)によって収集した。F1sピークをナフィオン用のマーカーとして利用した。ナフィオンは、ポリマー骨格の炭素原子に結合したフッ素原子を含み、一方、PANは、炭素、窒素、水素の元素のみが含むためである。(a)PANおよび(b)Nafionの構造を以下に示す。
【0063】
【化1】
【0064】
初期のナフィオンフィルムのXPSサーベイスキャン(図5(a))は、691eVの結合エネルギーにおいてF1sピークを同定した。次に、初期のPAN膜、ナフィオン/PAN二重層および、検体溶液へ露出した後のナフィオン/PAN二重層のXPS領域スキャンを実施した。初期のPAN膜は、F1sピークを有していない(図5(b))。ナフィオン/PAN二重層XPSスペクトルは、F1sのピークを含み、検体溶液へ露出した後のナフィオン/PAN二重層もF1sのピークを含み、そしてこのピークは、ナフィオン/PAN二重層と比較してかなり不変であり、検体溶液は、下地のナフィオンフィルムの溶媒和(solvation)および再分配(redistribution)を引き起こさない。これは、バイオセンサにとって肯定的な結果であり、ナフィオンフィルムが非常に頑丈であることを示す。
【0065】
グルコースセンサは、図6に示すアーキテクチャーで製造した。PAN有りセンサおよびPAN無しセンサを製造し、GOX層は、10pLノズル印刷ヘッドを備えたDimatix社DMP2831インクジェットプリンタでインクジェット印刷した(図7)。
【0066】
センサをグルコース検体溶液に露出し、PAN多孔性膜の有りと無しのセンサの応答の相違を分析した。図7(b)は、10mMグルコース溶液への露出した後の、PAN有りセンサとPAN無しセンサの代表的なプロットを示す。ここでは、多孔性PAN膜を使用した場合の、ドレイン電流(ID)応答時間と最大電流の改善を観察する。IDの増加率は、PAN無しの0.04μA/sからPAN有りの0.93μA/sに変化しており、PAN有りセンサでは総IDで3倍以上の改善を観察できる。より優れた応答時間は、グルコースがより速いレートで酸化され、及び/又は、過酸化水素はより素早くナフィオン層に移動できることを示唆している。
【0067】
本明細書で開示され定義される本発明は、本文または図面から言及され、または明らかである個別の特徴の2つ以上の代替の組合せ全てに拡張することは理解されよう。これらの種々の組合せの全ては、本発明の様々な代替的態様を構成する。
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6
図7