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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/08 20190101AFI20241015BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20241015BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20241015BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20241015BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20241015BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20241015BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20241015BHJP
【FI】
A61K38/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P9/00
A61P9/10
A61P43/00 111
C07K14/47 ZNA
C07K7/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021114809
(22)【出願日】2021-07-12
(65)【公開番号】P2023011148
(43)【公開日】2023-01-24
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】野出 孝一
(72)【発明者】
【氏名】白木 綾
(72)【発明者】
【氏名】木塚 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】中神 啓徳
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0008342(US,A1)
【文献】特表2005-508619(JP,A)
【文献】Cui Y. et al.,Heavy chin single domain antibodies to detect native human soluble epoxide hydrolase.,Analytical and Bioanalytical Chemistry,2015年09月,407, 24,7275-7283
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 7/06
C07K 14/47
A61P 9/00-9/14
A61K 38/00-38/38
A61K 39/00-39/44
A61P 43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性エポキシドヒドロラーゼを阻害する抗体産生能を有し、ヒトsEHのN末端アミノ酸を1位として、127位ないし135位のアミノ酸配列LDDRAERDG又は298位ないし307位のアミノ酸配列ESSAPPEIEEからなるペプチドを含むことを特徴とする循環器病の予防及び/又は治療用医薬組成物
【請求項2】
溶性エポキシドヒドロラーゼを阻害する抗体産生能を有し、マウスsEHのN末端アミノ酸を1位として、127位ないし135位のアミノ酸配列LDDGDKRDS又は298位ないし307位のアミノ酸配列DSSSPPEIEEからなるペプチドを含むことを特徴とする循環器病の予防及び/又は治療用医薬組成物
【請求項3】
請求項1又は2に記載の医薬組成物において、
前記循環器病が、心筋梗塞であることを特徴とする医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、sEHを阻害し、EETs/DHETs比を増加させて循環器病を予防及び/又は治療するためのペプチド及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
循環器疾患、例えば、心血管疾患は、経皮的冠動脈形成術、予防医学、及び慢性的な心筋梗塞後における最良の医学的治療を含む様々な治療法が開発されているにもかかわらず、依然として世界的に主要な死亡原因となっている。このうち、経皮的冠動脈形成術は心筋梗塞による死亡率を劇的に改善したが、心筋梗塞に関連する心不全患者数は、心筋梗塞の生存者が上昇するにつれて増加している。
すなわち、心不全を発症しない慢性期の心室リモデリングを抑制するためには、心筋梗塞による心筋障害の程度を最小限にすることが重要である。
【0003】
このような状況下において、近年、心臓保護剤としてエポキシエイコサトリエン酸(EETs)が注目されている。EETsは、アラキドン酸のシトクロムP450エポキシゲナーゼ代謝物であり、強力な抗炎症、血管拡張、線維素溶解、抗アポトーシス、血管新生を促進することが知られている。
例えば、非特許文献1において、EETsは、心筋虚血モデルにおける虚血サイズ/リスク領域の減少効果を示すことが報告されている。
【0004】
ところが、EETsは、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)によって非常に速くジヒドロキシエイコサトリエン酸(DHETs)へと代謝されてしまう。そこで、sEHを阻害することによって、EETs活性を高めようとする試みがなされている。
例えば、マウスを用いたex-vivo試験では、PI3K経路が関与する虚血再潅流障害に対するEETs及び/又はsEH阻害の有意な心筋保護作用が実証されている(非特許文献2及び3)。
また、sEH阻害は、心筋梗塞後の心機能や心室リモデリングに有益な効果を発揮し、心細胞の線維化や肥大にも直接的な効果を発揮した。
【0005】
さらに、sEH阻害剤は、マウスのTAC(大動脈縮窄)モデルにおいて、NF-κB活性化を阻止し、心肥大を減少させるといった報告もなされている(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】Gross GJ、Gauthier KM、Moore J、Falck JR、Hammock BD、Campbell WB、et al.、Effects of the selective EET antagonist,14,15-EEZE,on cardioprotection produced by exogenous or endogenous EETs in the canine heart、Am J Physiol Heart Circ Physiol、2008、294(6)、H2838-44
【文献】Kompa AR、Wang BH、Xu G、Zhang Y、Ho PY、Eisennagel S、et al.、Soluble epoxide hydrolase inhibition exerts beneficial anti-remodeling actions post-myocardial infarction、International journal of cardiology、2013、167(1)、210-9
【文献】Seubert JM、Sinal CJ、Graves J、DeGraff LM、Bradbury JA、Lee CR、et al.、Role of soluble epoxide hydrolase in postischemic recovery of heart contractile function、Circulation research、2006、99(4)、442-50
【文献】Xu D、Li N、He Y、Timofeyev V、Lu L、Tsai HJ、et al.、Prevention and reversal of cardiac hypertrophy by soluble epoxide hydrolase inhibitors、Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America、2006、103(49)、18733-8
【文献】Yang L、Cheriyan J、Gutterman DD、Mayer RJ、Ament Z、Griffin JL、et al.、Mechanisms of Vascular Dysfunction in COPD and Effects of a Novel Soluble Epoxide Hydrolase Inhibitor in Smokers、Chest、2017、151(3)、555-63
【文献】Morgan LA、Olzinski AR、Upson JJ、Zhao S、Wang T、Eisennagel SH、et al.Soluble Epoxide Hydrolase Inhibition Does Not Prevent Cardiac Remodeling and Dysfunction After Aortic Constriction in Rats and Mice、Journal of cardiovascular pharmacology、2013、61(4)、291-301
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、現状として、ヒトに対して臨床的に承認されたsEH阻害薬はない。低代謝安定性、高融点、限定的な水や有機溶媒に対する溶解度などの理由から、薬理的に使用することが困難であった。
【0008】
最近では、新規sEH阻害薬として、GSK22562940が病理学的に有効であることが証明され、内皮血管拡張機能の増大が示された(非特許文献5)が、その心保護効果は比較的低く、TACモデルにおいて心肥大を軽減する選択性が低いことが示されている(非特許文献6)。
【0009】
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、sEHを阻害し、EETs/DHETs比を増加させて循環器病を予防及び/又は治療するためのペプチド及び医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るペプチドは、可溶性エポキシドヒドロラーゼを阻害する抗体産生能を有する。
【0011】
また、本発明に係る医薬組成物は、上記ペプチドを含む循環器病の予防及び/又は治療用医薬組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1におけるsEHペプチドワクチン接種後のマウスの抗体価を示すグラフである。
図2】実施例1におけるsEHペプチドワクチン接種後のラットの抗体価を示すグラフである。
図3】実施例2における生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群の14,15-EET-d11/14,15-DHET-d11比を示すグラフである。
図4】実施例2における生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群の14,15-EET-d11/14,15-DHET-d11比を示すグラフである。
図5】実施例3における生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群の心エコー検査結果の一例を示す心エコー画像である。
図6】実施例3における生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群の心エコー検査結果を示すグラフである。
図7】実施例4における心筋梗塞後の生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群の短軸断面についての一例を示すアザン染色図である。
図8】実施例4における心筋梗塞後の生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群の損傷組織の割合を示すグラフである。
図9】実施例5における心筋梗塞後の生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群のLECTINによる免疫蛍光染色図及び血管密度を示すグラフである。
図10】実施例5における心筋梗塞後の生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群のCD31による免疫蛍光染色図及び血管数を示すグラフである。
図11】実施例5における心筋梗塞後の生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群のαSMAによる免疫蛍光染色図及び血管数を示すグラフである。
図12】実施例6における心筋梗塞後の生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群のウエスタンブロット解析結果の一例を示す写真である。
図13】実施例6における心筋梗塞後の生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群のウエスタンブロット解析結果を示すグラフである。
図14】実施例7における生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群のHE染色の一例を示す顕微鏡写真である。
図15】実施例7における生理食塩水群及びsEHペプチドワクチン群の血圧及び心拍数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
本発明に係るペプチドは、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(sEH)を阻害する抗体産生能を有することを特徴とする。すなわち、自身が体内に保有するタンパクに対する抗体をワクチンにより誘導し、薬効を得るものである。
sEHは、アラキドン酸のシトクロムP450エポキシゲナーゼ代謝物であるエポキシエイコサトリエン酸(EETs)をジヒドロキシエイコサトリエン酸(DHETs)へと代謝させる酵素であり、sEHを阻害することができれば、EETs/DHETs比を増大させることとなり、強力な抗炎症、血管拡張、線維素溶解、抗アポトーシス、血管新生を促進して、循環器病の予防及び/又は治療効果を得ることができる。
【0015】
本発明に係るペプチドのアミノ酸配列は、高抗原性分析(エピトープマッピング)に基づいて予測されるエピトープ情報から適宜選択することが好ましく、より好ましくはsEHのアミノ酸配列のうち、9又は10連続するアミノ酸配列であり、更に好ましくはヒトsEHのN末端アミノ酸を1位として、127位ないし135位、298位ないし307位、又は462位ないし471位のアミノ酸配列、又はマウスsEHのN末端アミノ酸を1位として、127位ないし135位、296位ないし305位、又は461位ないし470位のアミノ酸配列であることが好ましい。
【0016】
ヒトsEHにおける127位ないし135位、298位ないし307位、又は462位ないし471位のアミノ酸配列を以下に示す。
【0017】
LDDRAERDG(配列番号1)
ESSAPPEIEE(配列番号2)
PLNWYRNMER(配列番号3)
【0018】
また、マウスsEHにおける127位ないし135位、296位ないし305位、又は461位ないし470位のアミノ酸配列を以下に示す。
【0019】
LDDGDKRDS(配列番号4)
DSSSPPEIEE(配列番号5)
PLNWYRNTER(配列番号6)
【0020】
本発明に係るペプチドは、免疫原性を増強するために担体タンパク質と複合化又は連結させてもよい。
このような担体としては、例えば、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、卵白アルブミン(OVA)、ウサギ血清アルブミン(RSA)、牛血清アルブミン(BSA)、サイログロブリン(TG)、免疫グロブリン、破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイド、ジフテリア毒素変異体CRM197、肺炎球菌表面抗原A(PspA)、肺炎球菌表面抗原C(PspC)、肺炎球菌ヒスチジン蛋白A(PhpA)、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBs)、B型肝炎ウイルスコア抗原(HBc)、E型肝炎ウイルスカプシド蛋白、HIV-1エンベロープ糖蛋白、C型肝炎ウイルスエンベロープ糖蛋白、インフルエンザM2蛋白、インフルエンザヘマグルチニン蛋白(HA)、マラリア原虫スポロゾイト表面蛋白質、結核菌Ag85複合蛋白、結核菌熱ショック蛋白、結核菌低分子量分泌蛋白、ヒトパピローマウイルスL1カプシド蛋白、ヒトパピローマウイルス16腫瘍性抗原、ナイセリア属ヘパリン結合性抗原(NHBA)、髄膜炎菌H因子結合蛋白(fHbp)、髄膜炎菌表面アドヘシンA(NadA)、コレラトキシンBサブユニット(CTB)、無毒変異型易熱性大腸菌毒素(LTB)、ボツリヌス毒素重鎖C末ドメイン(BoHc)、ノロウイルスカプシド蛋白、ロタウイルス抗原などが挙げられ、中でもキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)が好ましい。
【0021】
担体タンパク質は、適当なアシル化剤を用いてペプチドに結合させることができる。アシル化剤としては、N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS)などのN-ヒドロキシスクシンイミドエステルを用いることができる。
ペプチドと担体タンパク質とを結合させる際には、担体タンパク質1モルに対して、ペプチドを5モル以上用いることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る医薬組成物(以下、sEHワクチンともいう)は、上記ペプチドを含み、循環器病を予防及び/又は治療する。すなわち、上記ペプチドを使用した医薬組成物により生体内に抗体を産生し、当該抗体によってsEHを阻害することによって、抗炎症、血管拡張、線維素溶解、抗アポトーシス、血管新生を促進して、循環器病の予防及び/又は治療効果を得るものである。
医薬組成物は、複数種の上記ペプチドを含んでいてもよい。
【0023】
循環器病としては、特に制限されず、例えば、慢性又は急性心不全、心筋梗塞及び狭心症を含む虚血性心疾患、心臓弁膜症、不整脈、動脈硬化症等が挙げられるが、好ましくは心筋梗塞である。
【0024】
医薬組成物は、細胞性免疫を効率的に確立するためのアジュバントを含んでいてもよい。アジュバントは、免疫学的活性を有する抗原(ペプチド)とともに(又は連続して)投与した場合に、当該抗原に対する免疫応答を増強する化合物である。
このようなアジュバントとしては、例えば、アルミニウム塩(リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、オキシ水酸化アルミニウム等)、ミョウバン、コレラ毒素、サルモネラ毒素、不完全フロイントアジュバント(IFA)、完全フロイントアジュバント(CFA)、ISCOMatrix、GM-CSFその他の免疫刺激性サイトカイン、CpGモチーフを含むオリゴデオキシヌクレオチド、水中油型エマルション、サポニン又はその誘導体、リピドA又はその誘導体等のリポ多糖、リポペプチド、ラクトフェリン、フラジェリン、二本鎖RNA又はその誘導体、バクテリアDNA、イミダゾキノリン、C型レクチンリガンド、CD1dリガンド、スクアレンエマルション、PLGAなどが挙げられる。アジュバントは、単独で、又は2種以上を混合して用いることもできる。
アジュバントの添加量は、抗原に対する免疫応答を誘導し得る量であれば特に制限されず、アジュバントの種類等に応じて適宜選択される。
【0025】
医薬組成物は、薬理学的に許容され、本発明の効果を阻害しない範囲において、公知のその他成分を含有させることもでき、その他成分としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、着色剤、矯味矯臭剤、安定化剤、乳化剤、吸収促進剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤などが挙げられる。
例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、デンプン、コーンスターチ、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。
【0026】
医薬組成物の剤形としては、例えば、液剤(例えば、注射剤)、分散剤、懸濁剤、錠剤、丸剤、粉末剤、坐剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、トローチ剤、吸入剤、軟膏剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、パップ剤(剤形)などが挙げられる。
医薬組成物は、上記各種成分を用いて、公知の方法により剤形化することができる。
【0027】
医薬組成物中におけるペプチドの含有量は、特に制限されないが、各種剤形化が可能な範囲内において、投与量との関係で適宜選択される。
【0028】
医薬組成物の対象としては、ヒト及びヒト以外の動物(例えば、イヌやネコ等の愛玩動物、ウシやブタ等の家畜動物、マウスやラット等の実験動物など)である。
【0029】
医薬組成物を、例えば、ヒトに投与する場合の投与量は、症状、患者の年齢、性別、体重、感受性差、投与方法、投与間隔、有効成分の種類、製剤の種類に応じて、適宜選択される。
【0030】
医薬組成物の投与方法としては、経口投与、又は非経口投与(例えば、腹腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、静脈内投与、眼球注射を含む眼内投与、鼻腔内投与等)が挙げられ、好ましくは非経口投与、より好ましくは皮下投与又は筋肉内投与により投与することができる。
【実施例
【0031】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、これに限定されるものではない。
下記各種実験は、ARRIVEガイドラインに沿って、「研究動物使用に関する米国心臓協会の立場」に準拠し、佐賀大学動物実験委員会の承認を得て行った。
なお、各実施例の数値データは、サンプルサイズ(サンプル数)nにおける平均値±SEMで示している。統計分析は、一元配置分散分析に続くテューキー検定、又はスチューデントの両側t検定によって実施した。すべての統計分析は、Excel及びJMPソフトウェアプログラム(SAS Institute社製)を使用して実行した。
【0032】
[実施例1]
(抗体価)
高抗原性分析に基づき、エピトープ情報から適格なペプチド構造を予測して、マウスsEHのアミノ酸配列から以下に示す配列番号4及び配列番号5で表される抗原ペプチドを選択した。
【0033】
LDDGDKRDS(配列番号4)
DSSSPPEIEE(配列番号5)
【0034】
これらの抗原ペプチドをもとにsEHペプチドワクチンA(配列番号4のsEHペプチド)及びB(配列番号5のsEHペプチド)を合成し、合成したsEHペプチドワクチンA及びB6.25μgを2週間ごとに8週齢のC57BL/6NCrSlcマウス(オス)に4回(8週齢/day0、10週齢/day14、12週齢/day28、14週齢/day42)投与した。
なお、1回目(8週齢)のワクチン接種では、ペプチドのN末端にCysを加えた後、免疫応答を誘発するためのキーホールリンペットヘモシアニン(KLH、株式会社ペプチド研究所製))をN-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS、株式会社ペプチド研究所製)を用いて結合させて、等量の完全フロイントアジュバントを含むワクチンを皮下注射した。
2回目(10週齢)ないし4回目(14週齢)のワクチン接種では、ペプチドのN末端にCysを加えた後、KLHを結合させて、等量の不完全フロイントアジュバントを含むワクチンを皮下注射した。
sEHペプチドワクチンは、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、sEHペプチド0.13mg/ml及びKLH0.87mg/mlを含んでいる。
【0035】
sEHペプチドワクチン接種後の抗体産生を確認するために、sEHペプチドに対する抗体価を8、10、12、14及び16週齢でELISAにより測定した。
具体的には、96ウェルELISAプレート(MaxiSorp Nunc、Thermo Fisher Scientific社製)上に、抗原ペプチド-BSAコンジュゲート(株式会社ペプチド研究所製)を10μg/mlの濃度でコーティングし、50mM炭酸緩衝液を用いて4℃で一晩希釈した。
次いで、ウェルを5%スキムミルクを含むPBSでブロッキングした後、血清をブロッキングバッファーで段階希釈して各ウェルに加え、4℃で一晩インキュベートした。
各ウェルを0.05%Tween-20を含むPBS(PBS-T)で洗浄した後、マウス血清用のマウスIgG(1000倍に希釈、GE Healthcare社製)に特異的な西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗体を用いて、室温で3時間インキュベートした。
PBS-Tでウェルを洗浄した後、ペルオキシダーゼ発色基質3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)(Sigma Aldrich社製)で発色させ、0.5N硫酸で反応を停止させた。
全自動比色計イムノミニNJ-2300(バイオテック株式会社製)を用いて、450nmにおける吸光度を測定した。最大抗体価の半量(OD50%)は、各サンプルの希釈範囲の最高値に従って決定した。
その結果を図1に示す。
【0036】
図1に示されるように、血清中sEH抗体価は、sEHペプチドワクチンAでは、測定を開始してから42日目(14週齢)及び56日目(16週齢)に、sEHペプチドワクチンBでは56日目(16週齢)に有効な抗体価の上昇が確認された。
以上の結果を踏まえ、sEHペプチドワクチンAを用いて、ラットにおける抗体価の測定を行った。
【0037】
具体的には、合成したsEHペプチドワクチンA6.25μgを2週間ごとに5週齢ラット(n=4)に4回(5週齢、7週齢、9週齢、11週齢)投与した。
なお、1回目(5週齢)のワクチン接種では、ペプチドのN末端にCysを加えた後、免疫応答を誘発するためのキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)をN-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS、株式会社ペプチド研究所製)を用いて結合させて、等量の完全フロイントアジュバントを含むワクチンを皮下注射した。
2回目(7週齢)ないし4回目(11週齢)のワクチン接種では、ペプチドのN末端にCysを加えた後、KLHを結合させて、等量の不完全フロイントアジュバントを含むワクチンを皮下注射した。
sEHペプチドワクチンは、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、sEHペプチド0.13mg/ml及びKLH0.87mg/mlを含んでいる。
【0038】
sEHペプチドワクチン接種後の抗体産生を確認するために、西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート抗体をラットIgGに特異的な抗体(1000倍に希釈、GE Healthcare社製)に変更した以外は同様にして、sEHペプチドに対するラットの抗体価を5、7、9、11及び13週齢で上記と同様の手法にてELISAにより測定した。
その結果を図2に示す。
【0039】
図2に示されるように、血清中sEH抗体価は、初回ワクチン接種した5週齢ではすべてのラットにおいて検出されなかったが、9週齢でsEH抗体価が上昇し、少なくとも13週齢まで維持された。
以上にように、sEHペプチドワクチンが投与されたラットの抗体価は、実験期間中に良好に維持されていることが確認された。
【0040】
[実施例2]
(sEHに対する阻害能)
14,15-EET-d11の14,15-DHET-d11への分解を測定し、抗体によるsEH活性の阻害能力を測定した。
14,15-EET-d11をラットの全血に添加し、抗体の上昇がsEH活性を阻害できることを明らかにするために試験した。14,15-EET-d11及び14,15-DHET-d11の量は、LC-MS/MSシステムによって検出及び計算した。
【0041】
具体的には、まず、実施例1で使用したsEHペプチドワクチンAを注射した14週齢のラットの尾から血液サンプルを採取した。dHO50μlを等容量の血液に加えて溶血させた。さらに、最終濃度として0.001μg/μlとなるように14,15-EET-d11(No.10006410、ケイマン社製)を添加し、ボルテックスした。これを37℃で15分間インキュベートした後、3mMの硫酸亜鉛を加えて反応を止め、-20℃でサンプルを保存した。このサンプルを等量の酢酸エチルで3回抽出した後、有機相を回収し、卓上遠心エバポレータ(miVac Duo、Genevac社製)で蒸発させた。
回収した有機相中の14,15-EET-d11及び14,15-DHET-d11の量をLC-MS/MSシステムによって検出及び計算した。
【0042】
また、比較として、sEHペプチドワクチンに代えて、100μlの生理食塩水を皮下注射した非免疫ラットを準備し、これを生理食塩水群として、14,15-EET-d11の14,15-DHET-d11への分解をLC-MS/MSシステムによって測定した。
その結果を図3に示す。
【0043】
また、同様の操作をsEHペプチドワクチンBを注射した14週齢のラット及び生理食塩水を注射したラットについても行い、14,15-EET-d11の14,15-DHET-d11への分解をLC-MS/MSシステムによって測定した。
その結果を図4に示す。
【0044】
〈クロマトグラフィー条件〉
クロマトグラフィー測定には、トリプル四重極型質量分析計LCMS-8030(株式会社島津製作所製)を用いた。HPLC分離には、KinetexC18(粒子径1.7μm、細孔径100Å、長さ100mm×内径2.1mm)HPLCカラム(Phenomenex社製)を用いた。カラム温度は、40℃に維持した。移動相の送液は、移動相Aについては0.1%ギ酸水溶液、移動相Bについてはアセトニトリルとした。流速は、0.2mL/分とした。部分ループ注入モードを使用した場合の標準的な注入量は10μLであった。
【0045】
〈質量分析条件〉
質量分析には、マイナスモードで動作するエレクトロスプレーインターフェース(ESI)を搭載したLCMS-8030(株式会社島津製作所製)を用いた。本装置は、LC装置から質量分析計に流速0.2ml/minで0.1%ギ酸水溶液/アセトニトリル(25/75、v/v)で流し、14,15-EET-d11及び14,15-DHET-d11(No.10008040、ケイマンケミカル社製)の0.1μg/mlアセトニトリル溶液を注入することにより最適化した。14,15-EET-d11及び14,15-DHET-d11の多重反応モニタリング(MRM)トランジション(プリカーサイオン及びプロダクトイオン)として、それぞれm/z330→219、m/z348→207を選択した。MRMトランジションは、信号対雑音比(S/N)及び選択性から選択した。
【0046】
14,15-DHET-d11のMRMトランジションは1.7分で取得され、14,15-EET-d11のMRMトランジションは2.5分で取得された。DL温度は、300℃とした。データは、Labsolutionソフトウェア(株式会社島津製作所製)を用いて処理した。14,15-DHET-d11と14,15-EET-d11のキャリブレーションプロットを作成し、各サンプルにおける14,15-EET-d11/14,15-DHET-d11の比率を計算した。
【0047】
図3及び図4に示されるように、血液中の抗体により不活性化したsEHは、14,15-EET-d11を14,15-DHET-d11に加水分解できず、14,15-EET-d11/14,15-DHET-d11比はsEHペプチドワクチン群で有意に高く、sEH酵素に対する抗体の阻害効果が確認された。
【0048】
[実施例3]
(心エコー検査)
日本エスエルシー株式会社から購入したWistarラットに対し、5、7、9及び11週齢(計4回)でsEHペプチドワクチンAを皮下注射した(30症例のsEHペプチドワクチン接種群)。これとは別に、非免疫ラットを並行して使用し、非免疫ラットに生理食塩水(100μl)を皮下注射した(40症例の生理食塩水群)。
これら70症例のラットを8週目にネンブタール(100ml/kg)で麻酔し、人工呼吸器下に手術を行った。
左開胸術を行って心臓を露出させ、6-0プロリンで左前下行枝を結紮することにより心筋梗塞(MI)を作製した。
【0049】
24時間以内に死亡した症例を手術関連死とみなし、また、手術直後に左室駆出率(EF)が15%以上低減しなかったラットは除外した。24時間後に生理食塩水群で2匹、sEHペプチドワクチン群で1匹の計3匹が死亡し、最終的には、生理食塩水群として31症例、sEHペプチドワクチン群として20症例の計51症例について、手術前日及び手術後7日目に麻酔した後、経胸壁心エコー検査を実施した。15MHzトランスデューサを備えた心エコー検査装置(株式会社東芝製)を用い、Mモードの左室心エコー図を記録した。Mモードによる2D短軸像を用いて、前壁の厚さ、左室収縮末期径(LVDs)及び左室拡張末期径(LVDd)を測定した。
その結果を図5及び図6に示す。
【0050】
図5及び図6に示されるように、心筋梗塞誘発前の生理食塩水群とワクチン群との間で左室収縮末期径(LVDs)のベースラインに有意差は見られなかった(生理食塩水群のLVDs:2.8±3.0mm、sEHペプチドワクチン群のLVDs:3.0±0.1mm、p=0.19)。同様に、心筋梗塞誘発前の左室内径短縮率(FS)(生理食塩水群のFS:50.7±1.9%、sEHペプチドワクチン群のFS:49.9±1.6%、p=0.75)及び左室駆出率(EF)(生理食塩水群のEF:85.4±1.6%、sEHペプチドワクチン群のEF:85.1±1.3%、p<0.89)にも差は見られなかった。これらの結果は、ワクチン接種自体がラットの心機能に影響を及ぼさなかったことを示している。
【0051】
また、手術後7日では、sEHペプチドワクチン群のLVDsは生理食塩水群のLVDsと比較してより小さな値を示した(生理食塩水群のLVDs:5.8±0.1mm、sEHペプチドワクチン群のLVDs5.1±0.2mm、p<0.001)。sEHペプチドワクチン群の左室前壁(LVAW)の厚さ(1.26±0.05mm)は、生理食塩水群の左室前壁(LVAW)の厚さ(0.98±0.06mm)よりも厚く、sEHペプチドワクチンが心筋梗塞後の左室前壁(LVAW)の厚さを有意に保持したことが示された。sEHペプチドワクチン群の左室内径短縮率(FS)及び左室駆出率(EF)は、生理食塩水群と比較して高く保たれた。
【0052】
なお、左室内径短縮率(FS)及び左室駆出率(EF)は、それぞれ下記式(1)及び(2)を用いて算出した。
FS(%)=(LVDd-LVDs)/LVDd×100
EF(%)=(LVDd-LVDs)/LVDd×100
ここで、LVDdは左室拡張末期容積(LVEDV)、LVDsは左室収縮末期容積(LVESV)に相当する。
測定は、心臓の類似した部位で2回、異なる部位で2回行い、データとしてこれらを平均化したものを使用した。
【0053】
生理食塩水群とsEHペプチドワクチン群におけるラットの体重に大きな変化は見られなかった。
【0054】
以上から、sEHペプチドワクチンが、心筋梗塞による左心室の拡張を抑制し、収縮機能の悪化を抑制したことがわかる。
【0055】
[実施例4]
(線維化率)
実施例3におけるラットについて、心エコー検査後、ラットから心臓を採取し、心尖部、心室中部(結紮点の下)及び心基部の切片に分割した。このうち、心室中部の切片をホルマリンで固定した。
【0056】
この生理食塩水群(n=4)とsEHペプチドワクチン群(n=6)における心臓の短軸断面の切片についてアザン染色を行った。その代表的な病理組織画像を図7に示す。病理組織画像では、心筋梗塞による線維化領域が青色部分、非梗塞領域が赤色部分として示された。
【0057】
これをもとに、線維化面積/全左室面積を計算し、損傷組織の割合を評価した。損傷組織の割合は、線維化面積、全左室面積を画像処理ソフトウェアImage Jを用いて定量化して算出した。
その結果を図8に示す。
【0058】
図8に示されるように、sEHペプチドワクチン群の梗塞誘発性線維質は、生理食塩水群と比較して、有意に減少することが示された(ワクチン群の損傷組織割合:16.6%、生理食塩水群の損傷組織割合:28.8%、p=0.029)。
以上から、sEHペプチドワクチンが、心筋梗塞に伴う心筋損傷を抑制することがわかる。
【0059】
[実施例5]
(血管密度及び血管数)
実施例4における賦活化処理を施した生理食塩水群(n=7)とsEHペプチドワクチン群(n=5)における心臓切片を、血管内皮細胞のオリゴ糖側鎖に特異的に結合するGriffonia Simplicifolia Lectin I isolectin B4(LECTIN)(FL-1201、3000倍に希釈、Vector Laboratories社製)、内皮細胞を標識するための抗CD31(ab28364、100倍に希釈、abcam社製)、平滑筋細胞を標識するための抗α平滑筋アクチン(αSMA)(A2547、1000倍に希釈、Sigma Chemical社製)で免疫染色し、Hoechst33342(Sigma社製)で核を染色した。その結果を図9ないし図11に示す。
【0060】
これらのデータを画像解析ソフトウェアHALO AI(indica labs社製)で解析し、内皮細胞マーカーであるLECTIN及びCD31についての血管密度(平均値)を算出し、また、CD31及びαSMAについて血管数をそれぞれ算出した。血管密度は、梗塞領域と非梗塞領域との境界領域の五つの領域(それぞれ1mm)をランダムに選択して算出した。
【0061】
図9ないし図11に示されるように、sEHペプチドワクチン群の毛細血管及び動脈を含む心筋血管密度及び心筋血管数は、生理食塩水群の心筋血管密度及び心筋血管数に比べ有意に多く、sEHの阻害により虚血領域と非虚血領域との境界領域における血管新生が促進されることが示唆された。
【0062】
[実施例6]
(血管内皮細胞増殖因子発現作用)
EETsは血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を介して血管新生を促進することが知られていることから、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)を血管新生の主な原因であると仮定して、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)のタンパク質レベルをウェスタンブロッティングにより評価した。
【0063】
具体的には、実施例4における生理食塩水群(n=4)とsEHペプチドワクチン群(n=4)における心臓切片を、プロテアーゼ阻害剤を含有するRIPAバッファー中で均質化した。
次いで、心臓溶解物のサンプルを標準プロトコルに従って電気泳動(SDS-PAGE)により分離した。
【0064】
トランスブロットTurbo転写システム(Bio Rad社製)を用いて、タンパク質をポリフッ化ビニリデン(PVDF)メンブレンに転写した後、PVDFメンブレンを一次抗体でプローブし、更に西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)に結合した二次抗体でプローブし、ECL Plus Western Blotting Regents(GE Healthcare社製)を基質として免疫反応バンドを発現(化学発光)させた(図12参照)。増強された化学発光をFUSION FX(Vilber-Lourmat)で検出し、バンド密度を画像処理ソフトウェアImage Jで定量化した。その結果を図13(p<0.05)に示す。
【0065】
一次抗体としては、ローディングコントロールとしてのβ-アクチンI‐19(sc-1616、1000倍に希釈、Santa Cruz Biotechnology社製)、VEGF(A-20)(sc-152、200倍に希釈、Santa Cruz Biotechnology社製)、Phospho-p44/42 MAPK(Erk1/2)(#9101、1000倍に希釈、Cell Signaling Technology社製)、及びp44/42 MAPK(Erk1/2)(#9102、1000倍に希釈、Cell Signaling Technology社製)を使用した。
【0066】
図13に示されるように、sEHペプチドワクチン群のVEGF発現は、生理食塩水群のVEGF発現と比較して増加した(p=0.040)。
【0067】
加えて、sEHペプチドワクチン群において、VEGF活性化の下流の一つであるPhospho-p44/42 MAPK(Erk1/2)は有意に上方制御された(p=0.047)。
これは、sEHの阻害が、EETs-VEGFを介して血管新生を引き起こす可能性を示唆している。
【0068】
本発明に係るsEHペプチドワクチンは、EETsを誘導し、VEGFを上方制御したが、これは先に報告されている他の研究のものと矛盾しない。
また、実施例5で示されたように、sEHペプチドワクチンが境界領域の毛細血管及び動脈を増加させることを証明した。これらの証拠に基づき、sEH阻害により誘導されたVGEFが虚血領域の境界で心筋細胞を救済することが示唆される。
【0069】
[実施例7]
(安全性)
sEHペプチドワクチンの安全性を評価した。
【0070】
具体的には、実施例1におけるsEHペプチドワクチンAを注射した13週齢のラット(心筋梗塞の施術せず)について、sEHペプチドワクチン群(n=13)及び生理食塩水群(n=11)の心臓、肺、腎臓、肝臓を取り出し、ホルマリンに固定後、ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)を行い、病理学的変化の有無を確認した。その結果を図14に示す。
【0071】
また、テールカフシステムBP-98A(株式会社ソフトロン製)を用いて、11週齢目のラットの血圧及び心拍数を計測した。その結果を図15に示す。なお、ラットは、血圧及び心拍数の測定前に1週間以上装置に適応させた。
【0072】
図14に示されるように、心臓、肺、腎臓及び肝臓において、sEHペプチドワクチン処理によって、目に見える病理学的変化は観察されなかった。これは、sEHペプチドワクチンが、臓器毒性作用がないことを示唆している。
【0073】
また、図15に示されるように、生理食塩水群とsEHペプチドワクチン群とにおける血圧測定において、両者の間に有意差は検出されなかった(生理食塩水群の血圧:102.8±3.2mmHg、sEHペプチドワクチン群の血圧99.5±3.6mmHg、p=0.51)。また、心拍数についても両群間に有意差はなかった(生理食塩水群の心拍数413.2±12.8bpm、sEHペプチドワクチン群の心拍数403.0±13.6bpm、p=0.59)。
以上の結果から、sEHペプチドワクチン自体は、ラットに安全に投与され、血行動態に影響を及ぼさないことが確認された。
【0074】
sEHを阻害することは、病的高血圧モデルの降圧に有効であることが報告されている。しかし、上記血圧測定では、sEHペプチドワクチン群の血圧に有意な低下は認められなかった。この不一致の原因として、本実施例で用いたモデルが病理学的高血圧モデルではなく、健常なラットであることが考えられる。
【0075】
上記各実施例において示されているように、本発明に係るsEHペプチドワクチンは、急性心筋梗塞において保護的役割を有し、虚血領域及び線維質の減少を示すことを明らかにした。また、心筋梗塞後のVEGFを上方制御し、心筋における血管密度を増加させた。
ヒトでの臨床応用のためには、ヒト又はマウスsEHペプチドワクチンによって、sEHを阻害できる抗体がヒト血液中で上昇するか否かを確認する必要があるものの、心筋梗塞のリスクが高い患者、又は心筋梗塞の既往のある患者の二次予防に適応される可能性を示している。
図1
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【配列表】
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