(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】6-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)ニコチンアミドを含有する非晶質固体分散体
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4545 20060101AFI20241015BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20241015BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20241015BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20241015BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241015BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20241015BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241015BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241015BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20241015BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241015BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/14
A61K47/38
A61K47/32
A61P29/00
A61P35/00
A61P37/02
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2021524074
(86)(22)【出願日】2019-10-28
(86)【国際出願番号】 CN2019113636
(87)【国際公開番号】W WO2020093896
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-04
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516095419
【氏名又は名称】ベイジン・イノケア・ファーマ・テク・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Beijing InnoCare Pharma Tech Co.,Ltd.
【住所又は居所原語表記】Bldg.8,No.8 Life Park Rd.,ZGC Life Science Park,Changping Dist.,Beijing,PRC,102206
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】チェン、シャンヤン
(72)【発明者】
【氏名】ワン、ズオペン
(72)【発明者】
【氏名】イー、リーチン
【審査官】金子 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-531893(JP,A)
【文献】薬剤学,2013年,73(4):214-222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質固体分散体であって、前記非晶質固体分散体は化合物I又はその薬学的に許容可能な塩、及び薬学的に許容可能なポリマーを含み、
【化1】
前記ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMC-AS)又はポリビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体(PVP-VA)、ポリビニルピロリドン(PVP)である、非晶質固体分散体。
【請求項2】
前記ポリマーはHPMC-ASである、請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項3】
前記化合物Iを前記分散体中に10~50w/w%含む、請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項4】
前記化合物Iを前記分散体中に15~40w/w%含む、請求項3に記載の非晶質固体分散体。
【請求項5】
前記化合物Iと前記ポリマーの重量比は、1:1~1:10である、請求項1に記載の非晶質固体分散体。
【請求項6】
20~40w/w%の化合物I又はその薬学的に許容可能な塩、及び60~80w/w%のHPMC-ASを含有する、請求項2に記載の非晶質固体分散体。
【請求項7】
治療有効量の請求項1~
6のいずれか一項に記載の非晶質固体分散体及び薬学的に許容可能な担体を含有する医薬組成物。
【請求項8】
錠剤又はカプセル剤である、請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の非晶質固体分散体の製造方法であって、
(a) 前記化合物I又はその薬学的に許容可能な塩及び前記ポリマーを有機溶媒に溶解して溶液を形成し;
(b) 前記溶液を噴霧乾燥して、前記非晶質固体分散体を形成する
の工程を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、6-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)ニコチンアミドの非晶質固体分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
6-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)ニコチンアミド(化合物I)は、ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)の阻害剤である。化合物Iの製造並びに癌、炎症及び自己免疫疾患の治療における使用は、国際公開第2015/028662号に記載されており、その全体が本明細書に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0003】
【
図1】
図1は、A形結晶、F形結晶及びHPMCAS-20-SDD(薬物を20%含有する噴霧乾燥分散液で製造したASD)の溶解特性を示す。
【
図2】
図2は、HPMCAS-20-SDDのXRPDを示す。
【
図3】
図3は、HPMCAS-20-SDD、HPMCAS-40-SDD、HPMCAS-60-SDD及びPVPVA-20-HMEの溶解特性を示す。
【
図4】
図4は、0.5%メチルセルロース中のSDD懸濁液10mLを、3匹の雌のSprague Dawleyラットに用量30mg/kgで経口投与した後の、HPMCAS-20-SDD及びHPMCAS-40-SDDの薬物動態を示す。
【
図5A-D】
図5は、さまざまな条件で1週間保存されたASDのXRDのチャートを示す:A、PVPVA-20-HME;B、HMPCAS-20-SDD;C、HMPCAS-40-SDD;D、HMPCAS-60-SDD。
【
図6A】
図6Aは、開放状態のHPMCAS-20-SDDを、25℃、60%RHで0~58日間保存した後の、FaSSIFに対する試料の溶解プロファイルを示す。
【
図6B】
図6Bは、密封状態のHPMCAS-20-SDDを、25℃、60%RHで0~58日間保存した後の、FaSSIFに対する試料の溶解プロファイルを示す。
【
図6C】
図6Cは、密封状態のHPMCAS-20-SDDを、40℃、75%RHで0~58日間保存した後の、FaSSIFに対する試料の溶解プロファイルを示す。
【
図7】
図7は、25℃及び60%RHで1か月保存前後の、錠剤中のHPMCAS-20-SDDの溶解特性を示す。
【発明を実施するため最良の形態】
【0004】
本発明は、6-(1-アクリロイルピペリジン-4-イル)-2-(4-フェノキシフェニル)ニコチンアミド(化合物I)又はその薬学的に許容可能な塩、及び薬学的に許容可能なポリマーを含有する非晶質固体分散体(ASD)に関する。
【0005】
【0006】
化合物IのASDは、製剤化においてその結晶形よりも有利であることを本発明者らは見いだした。化合物IのASDは、良好な生物学的利用能、良好な溶解度、良好な溶解性を有し、化学的及び物理的に安定である。
【0007】
A形結晶形
A形結晶形は、国際公開第2015/048662号に記載されているように、出発物質である化合物Iから製造される。A形結晶形は、化合物Iをジクロロメタンに溶解し、次いで、酢酸エチルで沈殿させることにより得ることができる。
【0008】
A形の粉末X線回折(XRPD)のデータを表1に示す。
【0009】
【0010】
室温で24時間平衡化した後の、本発明のA形の水に対する溶解度は0.013mg/mLである。
【0011】
F形結晶形
F形は、A形から、溶媒又は溶媒混合物(例.メタノール、エタノール、アセトニトリル、メタノール/水又はエタノール/水)中のスラリーを介して得ることができる。
【0012】
F形のXRPDのデータを表2に示す。
【0013】
【0014】
F形は無水物である。
【0015】
室温で24時間平衡化した後の、本発明のF形の水に対する溶解度は0.004mg/mLである。
【0016】
F形は安定な結晶形で、医薬組成物中の原薬(API)として有用である。しかし、その溶解は遅く、生物学的利用能は低い(20%)。
【0017】
非晶質固体分散体(ASD)
化合物IのASDは、化合物I又はその薬学的に許容可能な塩、及び薬学的に許容可能なポリマーを含む。化合物IのASDは、製剤中で非晶質として長期間存在し、安定である。化合物IのASDは、望ましい薬学的特徴を有しており、製造が容易である。
【0018】
本発明のASDでの使用に適した化合物Iの薬学的に許容可能な塩は、従来の非毒性の塩であり、無機酸付加塩(例.塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩など);有機カルボン酸若しくはスルホン酸付加塩(例.ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩など)、又はアスパラギン酸、グルタミン酸などの酸性アミノ酸の塩が含まれる。
【0019】
ASDには化合物及び分散液を安定化させるために薬学的に許容可能なポリマーが含まれ、それは親水性担体ポリマーであってもよく、セルロース系ポリマー(例.ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、ヒプロメロース)、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、フタル酸ヒプロメロース(HPMCP)、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、セルロース、カルボキシメチルセルロース、結晶セルロース、ケイ素化結晶セルロース等)、デンプン系ポリマー(例.ヒドロキシプロピルスターチ、デンプン類(トウモロコシ、バレイショ、コメ、小麦など、完全にアルファ化し部分的にゲル化することが可能な供給源のデンプンを含む))、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリグリコール化グリセリド、ポリメタクリレート、ハイドロコロイド(例.カラギーナン、キトサン、アルギン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸など)であってもよい。
【0020】
本発明の好ましいポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(HPMC-AS)、ポリビニルピロリドン-酢酸ビニル共重合体(PVP-VA)、ポリビニルピロリドン(PVP)及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)である。HPMC-AS及びPVP-VAがさらに好ましい。
【0021】
ASD中の化合物Iの量は、一般に10~60重量%、10~50重量%、10~40重量%、15~50重量%又は15~45重量%である。例えば、ASD(薬物含有)中の化合物Iの量は20重量%又は40重量%である。
【0022】
化合物Iと薬学的に許容可能なポリマー(例.HPMC-AS又はPVP-VA)の重量比は、一般に、1:1~1:10又は1:1~1:4である。
【0023】
例えば、化合物IのASDは、20~40w/w%の化合物I及び60~80w/w%のHPMC-ASを含有する。
【0024】
例えば、化合物IのASDは、20~40w/w%の化合物I及び60~80w/w%のPVP-VAを含有する。
【0025】
好ましい態様では、本発明のASDは界面活性剤を含まない。
【0026】
別の態様では、本発明のASDは、溶解度を上げ、及び/又は物理的な安定性を改善するために、界面活性剤を含有してもよい。界面活性剤の量は、一般に、ASDの5~40w/w%、好ましくは10~30w/w%である。固体分散体中の添加剤として有用な薬学的に許容可能な界面活性剤には、ポリソルベート(例.ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート80、ポリソルベート85、ポリソルベート60など)、シクロデキストリン、ポリオキシル20ステアレート、ポリオキシル35ヒマシ油、ポロキサマー、モノイソステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ジイソステアリン酸ポリエチレングリコール40ソルビタン、ポリオキシル40硬化ヒマシ油、ポロキサマー331、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシル40ヒマシ油、ポロキサマー188、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン1800、オレイン酸、デオキシコール酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、モノラウリン酸ソルビタン、モノオレイン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、N-カルバモイルメトキシポリエチレングリコール2000-1,2-ジステアロール(N-carbamoyl methoxypolyethylene glycol 2000-1,2-distearol)、ミリスチン酸、ステアレス、ステアリン酸、ステアリン酸ポリオキシル40、ステアリン酸ポリオキシル60、ショ糖ステアリン酸エステル、トコフェロール、ポリオキシルヒマシ油、合成トリグリセリド、トリミリスチン、トリステアリン、ステアリン酸マグネシウム、レシチン、ラウリル硫酸塩、ビタミンE、卵黄ホスファチド、ドクサートナトリウム、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルレシチン、Capryol 90(モノカプリン酸プロピレングリコール)、Capryol PGMC(モノカプリン酸プロピレングリコール)、デオキシコール酸塩、コレステロール、Cremophor EL、アルギン酸プロピレングリコール、Croval A-10(PEG60アーモンド油グリセリド)、Labrafil 1944(オレオイルマクロゴール-6グリセリド)、Labrafil 2125(リノレオイルマクロゴール-6グリセリド)、Labrasol(カプリロイルカプロイルマクロゴール-8グリセリド)、Lauroglycol 90(モノラウリン酸プロピレングリコール)、Lauroglycol FCC(ラウリン酸プロピレングリコール)、ステアリン酸カルシウム、Lecithin Centromix E、Lecithin Centrophase 152、Lecithin Centrol 3F21B、POE26グリセリン、Olepal isosteariques(イソステアリン酸PEG-6)、Plurol diisostearique(3-ジイソステアリン酸ポリグリセロール)、Plurol Oleique CC、トリオレイン酸POE20ソルビタン、Tagat TO(トリオレイン酸ポリオキシエチレングリセロール)若しくはSolutol(ヒドロキシステアリン酸マクロゴール-15)、又はそれらの混合物が含まれる。好ましい界面活性剤は、ポリソルベート及びβ-シクロデキストリンである。
【0027】
ASDの熱化学的特性は、示差走査型熱量計(DSC)で分析する。化合物IのASDは、ガラス転移温度がわずか1つで、かつ吸熱ピーク(融解ピーク)がなく、このことは、ASD中で化合物Iが非晶質であることを裏付ける。得られたASDは、高い生物学的利用能を示す医薬組成物に製剤化することができる。
【0028】
絶食状態の模擬腸液に溶解した場合、本発明のASDはA形結晶よりも良好な溶解速度を示し、F形結晶よりも優れている。
【0029】
本発明のASDは安定で、25~40℃、相対湿度60~75%で少なくとも1週間非晶質の状態である。
【0030】
ある態様では、本発明のASDは化学的に安定で、25℃、60%で少なくとも1年間保存した場合の分解は約5%未満である。
【0031】
ASDの製造方法
本発明のASDは、噴霧乾燥、ホットメルト押出し又は凍結乾燥によって製造することができる。
【0032】
固体状のマトリックスには、その溶解が最大になるように化合物Iが細かく分散(分子分散)しており、その結果、化合物の生物学的利用能が改善される。
【0033】
ある態様では、本発明のASDは、化合物Iを十分な量の有機溶媒に溶解し、薬学的に許容可能なポリマー及び任意に界面活性剤のような溶解度向上剤を含む溶液と混合して噴霧用の溶液を得ることにより製造する。次いで、溶媒を蒸発し、薬物をマトリックス中に分散/溶解させる。
【0034】
ある態様では、前記方法は、(a) 化合物I又はその薬学的に許容可能な塩、及び薬学的に許容可能なポリマーを溶媒に溶解し;(b) 工程(a)で得た溶液を乾燥する工程を含む。
【0035】
ある態様では、化合物Iを十分な量の有機溶媒に溶解し;薬学的に許容可能なポリマーを溶媒に溶解し;これらの溶液を混合する工程を含む。
【0036】
ある態様では、有機溶媒を化合物I及びポリマーの溶解に使用する。有機溶媒には、アルコール、ハロアルカン、アセトン、酢酸、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミド、DMSO、テトラヒドロフラン又はそれらの混合物が含まれる。例えば、アルコールはメタノール、エタノール、プロパノール又はイソプロパノールである。例えば、ハロアルカンは、ジクロロメタン、クロロホルム又は四塩化炭素である。
【0037】
ある態様では、化合物I及びポリマーの溶解に水又は水と有機溶媒の混合物を使用する。
【0038】
ある態様では、工程(b)は噴霧乾燥を含む。別の態様では、工程(b)は流動床と組み合わせた噴霧乾燥を含む。さらに別の態様では、工程(b)はロータリーエバポレーターを用いる溶媒の蒸発を含む。
【0039】
ある態様では、溶媒は、噴霧乾燥による蒸発で除去することができる。用語「噴霧乾燥」は、従来から広く使用されてきた用語で、液体混合物を小さな液滴とし(霧化)、液滴から溶媒を蒸発させる強い力を有する噴霧乾燥機構(例.ノズル)で混合物から溶媒を急速に除去することを含む方法を指す。代表的な噴霧乾燥処理では、供給された液体は、ポンプ輸送可能で霧化可能な、溶液、スラリー、エマルション、ゲル又はペーストであってもよい。
【0040】
噴霧乾燥方法及び噴霧乾燥装置は、一般に、Perry's Chemical Engineers' Handbook (Sixth Edition 1984)の20-54~20-57ページに記載されている。溶媒を除去又は蒸発させる力は、通常、乾燥させる液滴の温度での噴霧乾燥機構内の溶媒の分圧を、溶媒の蒸気圧よりも実質的に低く保つことで生じる。
【0041】
噴霧の終了後、供給と霧化を停止し、固体分散体を回収し、必要に応じて約40~60℃のオーブンでさらに乾燥させる。
【0042】
ある態様では、ASDはホットメルト押出しで製造する。この方法では、最初に化合物Iとポリマーを均一に混合する。混合物を押出機に入れ、100℃を超える高温で押し出す。固形物を集めて粉砕し、メッシュフィルターを通過させて粉末のADSを得る。
【0043】
医薬組成物
本発明は、また、治療有効量のASDの形態の化合物I及び固体の薬学的に許容可能な担体を含有する医薬組成物に関する。
【0044】
不活性成分である薬学的に許容可能な担体は、従来の基準により当業者が選択することができる。薬学的に許容可能な担体には、非水系の溶液、懸濁液、エマルション、マイクロエマルション、ミセル溶液、ゲル及び軟膏が含まれるが、これらに限定されるものではない。薬学的に許容可能な担体には、生理食塩水及び電解質水溶液;塩化ナトリウム、塩化カリウム、グリセリン及びデキストロースなどのイオン性及び非イオン性の等張化剤;水酸化物、リン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、ホウ酸塩及びトロラミン塩などのpH調整剤及び緩衝液;亜硫酸水素、亜硫酸、メタ重亜硫酸、チオ亜硫酸の塩、酸及び/又は塩基、アスコルビン酸、アセチルシステイン、システイン、グルタチオン、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、トコフェロール類並びにパルミチン酸アスコルビルなどの抗酸化剤;ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルイノシトールを含むがこれらには限定されないリン脂質、レシチンなどの界面活性剤;ポロキサマー類、ポロキサミン類、ポリソルベート80、ポリソルベート60及びポリソルベート20などのポリソルベート類、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコールなどのポリエーテル類;ポリビニルアルコール及びポビドンなどのポリビニル類;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース並びにそれらの塩などのセルロース誘導体;鉱油及び白色ワセリンなどの石油誘導体;ラノリン、ピーナッツ油、パーム油、大豆油などの油脂;モノ、ジ及びトリグリセリド類;カルボキシポリメチレンゲル及び疎水的に修飾された架橋アクリレートコポリマーなどのアクリル酸の重合体;デキストランなどの多糖類;並びに、ヒアルロン酸ナトリウムなどのグリコサミノグリカン類を含む成分も含まれるが、これらに限定されるものではない。そのような薬学的に許容可能な担体は、塩化ベンザルコニウム、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン、クロロブタノール、メチルパラベン、チメロサール並びにフェニルエチルアルコールを含むがこれらには限定されない周知の防腐剤で、細菌による汚染から保護することができるか、単回又は複数回使用のための非保存製剤として製剤化することができる。
【0045】
例えば、化合物Iを含む錠剤又はカプセル剤は、活性化合物との反応性及び生物活性を有さない他の賦形剤を含んでいてもよい。錠剤の賦形剤には、充填剤、結合剤、潤滑剤及び流動促進剤、崩壊剤、湿潤剤並びに放出速度調整剤が含まれる。結合剤は製剤中の粒子の接着を促進し、錠剤の製造にとって重要である。結合剤としては、カルボキシメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、カラヤゴム、デンプン、トラガカントガム、ポリ(アクリル酸)及びポリビニルピロリドンが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
さらに別の態様では、組成物は錠剤とされる。
【0047】
ある態様では、錠剤は、10~75重量%、好ましくは20~60重量%又は45~55重量%の本発明のASDを含む。
【0048】
ある態様では、錠剤は、総重量の10~80%、好ましくは20~70%又は30~60%の1つ以上の充填剤、例えばラクトース及び/又は結晶セルロースを含む。
【0049】
ある態様では、錠剤は、4~10重量%、好ましくは4~9重量%、より好ましくは5~7重量%の崩壊剤を含む。
【0050】
ある態様では、錠剤は、0.25~2.0重量%、好ましくは0.25~1.0重量%、より好ましくは0.25~0.75重量%の潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムを含む。
【0051】
以下の実施例により、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明を単に例示することを意図しており、本発明を限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0052】
実施例1 A形の製造
国際公開第2015/048662号の実施例3に記載された方法で、出発物質である化合物Iを製造した。化合物Iをジクロロメタンに溶解し、次いで、固体が沈殿するまで、かく拌しながら酢酸エチルを滴下した。固体をろ別し、酢酸エチルで洗浄しA形の結晶形を得た。
【0053】
実施例2 F形の製造
A形100.1mgをアセトニトリル2.5mLに加え、得られた混合物を室温で20日間かく拌した。遠心分離及び乾燥後、F形を得た。
【0054】
実施例3 噴霧乾燥分散液(薬物20%含有)によるASDの製造
2.02gの化合物Iを室温で270mLのメタノールに溶解した。100rpmでかく拌しながら、8.00gのHPMC-AS(等級AS-MF)をゆっくりと加えた。添加後、溶液が透明になるまで3~4時間かく拌を続けた。次いで、ASD製造のために、入口温度80℃、出口温度50~54℃、流速7~8mL/分、噴霧空気圧0.1Mpaに設定したYamato ADL 311SA噴霧乾燥機に溶液を供給した。得られた噴霧乾燥物をガラス皿に移し、蓋をして一晩真空乾燥し、5.64gのASD粉末を得た。
【0055】
実施例4 ホットメルト押出し(薬物20%含有)によるASDの製造
2.40gの化合物Iと9.60gのPVP-VAを均一に混合した。40メッシュのフィルターを通過させた後、ASD製造のために、150~160℃、30rpmに設定したThermo MiniCTW押出機に混合物を供給した。得られた黄色の固体を粉砕し、40メッシュのフィルターを通過させて5.50gのASD粉末を得た。
【0056】
実施例5 A形、F形及びASDの溶解特性
正確に計量したA形及びF形の試料10mg、及びHPMCAS-20-SDD(薬物を20%含有する噴霧乾燥分散液で製造したASD、実施例3参照)50mgを、絶食状態の模擬腸液(FaSSIF、pH6.5)20mLが入った50mL遠心分離チューブ内に加えた。チューブをシェーカーにセットし、37℃、100rpmで振とうを続けた。さまざまな時点(10、30、60、120、240分)で350μLの懸濁液を取り出し、13,000rpmで3分間遠心分離して透明な溶液を得、HPLCで分析した。結果(3回の平均)を
図1に示す。FaSSIFに対するASDの溶解は、F形より優れるA形の溶解よりもはるかに優れていたことが示された。
【0057】
実施例6 ガラス転移温度
ポリマー及び薬物の量が変化することを除き、正確に計量された試料(5mgの化合物I、表3参照)を実施例3及び4の方法で製造した。各試料をDSC測定用の皿(TA Instruments)に置き、次いで、密封してTA Instruments Q2000にセットした。皿を105℃で3分間加熱し、次いで、1分間0℃に急冷した。10℃/分の昇温速度により0~180℃の間でDSC分析を行った。ガラス転移温度(Tg)を表3にまとめる。
【0058】
【0059】
DSC曲線は、ガラス転移温度がわずか1つで、融解ピークがなく、このことは、両者の技術によって製造されたポリマー中の化合物Iが非晶質の状態で存在したことを示す。薬物含有量を20%から60%に増やすとTgが減少し、相分離の危険性が増加した。物理的な安定性を確保するために、薬物含有量を低くすることが望ましい。
【0060】
HPMCAS-20-SDDのXRPDを
図2に示す。
【0061】
実施例7 異なるポリマー及び異なる薬物含有量におけるASDの溶解
HPMCAS-20-SDD、HPMCAS-40-SDD、HPMCAS-60-SDD、PVPVA-20-HMEの溶解を、実施例5の方法で試験した。結果を
図3に示す。
【0062】
20%及び40%の薬物を含有するSDDは、60%の薬物を含有するSDDよりも溶解性に優れることが示された。3つのSDDは全て、20%の薬物を含有するHMEよりも優れた溶解性を示した。
【0063】
実施例8 in vivoPK
HPMCAS-20-SDD及びHPMCAS-40-SDDの薬物動態を、0.5%メチルセルロース中のSDD懸濁液10mLを用量30mg/kgで、3匹の雌のSprague Dawleyラットに経口投与(PO)し検討した。投与の0.25、0.5、1、2、4、8及び24時間後に採血した。化合物Iの濃度をAPI-4500質量分析計を用いLC-MS/MSで定量した。血漿分析における定量限界(LOQ)は2ng/mLであった。WinNonlinを使用した非コンパートメント法でPKパラメータを求めた。結果を表4及び
図4にまとめる。薬物含有量が20%及び40%のSDDは、in vivoで類似の曝露であったことを示す。
【0064】
【0065】
実施例9 ASDの安定性の検討
ASDの試料(A、PVPVA-20-HME;B、HMPCAS-20-SDD;C、HMPCAS-40-SDD又はD、HMPCAS-60-SDD)が入った茶色のガラスバイアルを、開放又は密封した状態で、デシケーターの中に置いた。相対湿度(RH)60%を維持するために、一部のデシケーターの底部には飽和臭化カリウム溶液を入れ、別のデシケーターの底部には、相対湿度75%を維持するために飽和塩化ナトリウム溶液を入れた。次いで、25℃又は40℃に制御された乾燥オーブン内にデシケーターを入れた。7~58日後、試料のXRPD、DSC及び溶解性を検討した。
【0066】
XRPDの結果
さまざまな条件で1週間保存されたASDのXRDのチャートを
図5に示す:(A) PVPVA-20-HME;(B) HMPCAS-20-SDD;(C) HMPCAS-40-SDD;(D) HMPCAS-60-SDD。
【0067】
A形結晶のXRPDを
図5に示す。異なる条件で1週間保存した後、ASDの試料に結晶のピークは認められず、このことは、4つのASDの試料全てが、少なくとも1週間は非晶質のままであったことを示す。
【0068】
DSCの結果
(A) 25℃、60%RHで開放、(B) 25℃、60%RHで密封、及び、(C) 40℃、75%RHで密封により0~58日間保存した後のHPMCAS-20-SDDのDSC曲線を検討した。ガラス転移温度がわずか1つで融解ピークがなかったことが示され、このことは、ASDがこれらの3種の保存条件において58日間非晶質のままであったことを示す。
【0069】
(A) 25℃、60%RHで開放、(B) 25℃、60%RHで密封、及び、(C) 40℃、75%RHで密封により0~14日間保存した後のPVPVA-20-HMEのDSC曲線を検討した。異なる条件での2週間の保存後、融解ピークは認められない。したがって、ASDは比較的安定である。
【0070】
溶解の結果
HPMCAS-20-SDDを、(A) 25℃、60%RHで開放、(B) 25℃、60%RHで密封、及び、(C) 40℃、75%RHで密封により0~14日間保存した後の、FaSSIFに対する溶解プロファイルを
図6に示す。
【0071】
HPMCAS-20-SDDを、(A) 25℃、60%RHで開放、(B) 25℃、60%RHで密封、及び、(C) 40℃、75%RHで密封により、さまざまな期間(0、7、14、28及び56日間)保存した後の、FaSSIFに対する試料の溶解プロファイルを検討した。結果を
図6に要約する。25℃、60%RHで8週間保存した後、ASDの溶解特性は変化しなかった。しかし、40℃、75%RHで8週間保存後にHPMCAS-20-SDDの溶解は有意に減少した。
【0072】
さらに、PVPVA-20-HMEを(A) 25℃、60%RHで開放、(B) 25℃、60%RHで密封、及び、(C) 40℃、75%RHで密封により、さまざまな期間(0、7及び14日間)保存した後の、FaSSIFに対する試料の溶解プロファイルを検討した。25℃、60%RHで2週間保存した後、ASDの溶解に変化は認められなかった。
【0073】
実施例10 錠剤の製造
HPMCAS-20-SDD並びに結晶セルロース、クロスカルメロースナトリウム及びステアリン酸ナトリウムなどの一般的な賦形剤からなる錠剤(表5)を試作し、溶解特性及び安定性を検討した。
【0074】
【0075】
溶解の検討
相対湿度(RH)60%を維持するために底部に飽和臭化カリウム溶液が入ったデシケーター内に、表5の錠剤が入った密封された茶色のガラスバイアルを置き、25℃に制御された乾燥オーブンに入れた。1か月後、0.1%Tween80を含むPBS緩衝液(pH6.5)500mLに錠剤を1つ加えた。次いで混合物を75rpm、37℃でかく拌した。さまざまな時点(10、30、60、120、240分)で、2mLの液体を取り出し、0.45μmのフィルターを通過させ、ろ液をHPLCで分析した。結果(3回の平均)を
図7に示す。25℃、60%RHで1か月保存後、錠剤の溶解特性に明らかな変化は認められなかった。