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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】歯科用充填修復材料キット
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/887 20200101AFI20241015BHJP
   A61K 6/16 20200101ALI20241015BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021567094
(86)(22)【出願日】2020-11-27
(86)【国際出願番号】 JP2020044221
(87)【国際公開番号】W WO2021131490
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2019231724
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391003576
【氏名又は名称】株式会社トクヤマデンタル
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100136939
【弁理士】
【氏名又は名称】岸武 弘樹
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(72)【発明者】
【氏名】秋積 宏伸
(72)【発明者】
【氏名】森▲崎▼ 宏
(72)【発明者】
【氏名】松尾 拓馬
【審査官】池田 百合香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/069274(WO,A1)
【文献】特開2012-153640(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125470(WO,A1)
【文献】特開2008-260720(JP,A)
【文献】特開平9-255516(JP,A)
【文献】国際公開第2014/050634(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/101236(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00 ~ 6/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯牙の窩洞を修復するための歯科用充填修復材料キットであって、
修復後に表面に露出する表面露出層を形成するための第一の重合硬化性組成物(A)と、前記表面露出層の下地となる下地層を形成するための第二の重合硬化性組成物(B)と、を含んでなり、
前記第一の重合硬化性組成物(A)は、
(a1)第一の重合性単量体成分、無機粒子、及び第一の重合開始剤成分を含有し、
(a2)前記無機粒子は、下記(i)~(iii)の条件:
(i)100nm~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する同一粒径球状粒子群(G-PID)を含み、前記無機粒子に含まれる前記同一粒径球状粒子群の数が1又は複数である;
(ii)前記無機粒子に含まれる前記同一粒径球状粒子群の数をaとし、各同一粒径球状粒子群を、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aの自然数である。)で表したときに、各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっている;
(iii)前記第一の重合性単量体成分の硬化体の25℃における波長589nmの光に対する屈折率をn(MX)とし、各G-PIDを構成する無機球状粒子の25℃における波長589nmの光に対する屈折率をn(G-PIDm)としたときに、いずれのn(G-PIDm)に対しても、
(MX)<n(G-PIDm)
の関係が成り立つ;
を全て満足するものであり、
(a3)前記第一の重合硬化性組成物(A)を硬化させた硬化体(A’)において、任意の前記無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す関数であって、前記硬化体(A’)の内部の面を観察平面とする走査型電子顕微鏡画像に基づいて決定される、当該観察平面内の前記無機球状粒子の平均粒子密度<ρ>、当該観察平面内の任意の無機球状粒子からの距離rの円と距離r+drの円との間の領域中に存在する無機球状粒子の数dn、及び前記領域の面積da(但し、da=2πr・drである。)に基づいて、下記式(1):
g(r)={1/<ρ>}×{dn/da}・・・(1)
で定義される関数を動径分布関数g(r)とし、
前記硬化体(A’)中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離rを、前記硬化体(A’)中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径rで除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、前記動径分布関数g(r)をy軸として、r/rとそのときのrに対応するg(r)との関係を表したグラフを動径分布関数グラフとしたときに、
前記無機球状粒子は、前記硬化体(A’)が下記(I)及び(II)の条件:
(I)前記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離rが、前記硬化体中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径rの1倍~2倍の値である;
(II)前記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離rとしたときに、前記最近接粒子間距離rと前記次近接粒子間距離rとの間における前記動径分布関数g(r)の極小値が0.56~1.10の値である;
を満足するような短距離秩序を有するように、前記第一の重合硬化性組成物(A)中に分散しており、
前記第二の重合硬化性組成物(B)は、
(b1)第二の重合性単量体成分、色素成分、及び第二の重合開始剤成分を含有し、
(b2)前記色素成分は、前記第二の重合硬化性組成物(B)の硬化体(B’)からなる厚さ1mmの試料について色差計を用いて黒背景下で測定したときの着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が5以上となるように配合されている、歯科用充填修復材料キット。
【請求項2】
前記第一の重合硬化性組成物(A)が、無機粒子として、平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子からなり、且つ、平均一次粒子径がG-PIDの平均一次粒子径よりも25nm以上小さい超微細粒子群(G-SFP)をさらに含む、請求項1に記載の歯科用充填修復材料キット。
【請求項3】
前記第一の重合硬化性組成物(A)が、前記第一の重合性単量体成分、前記第一の重合開始剤成分、前記同一粒径球状粒子群、及び前記超微細粒子群以外の成分として、色素成分を実質的に含有しない、請求項2に記載の歯科用充填修復材料キット。
【請求項4】
前記第一の重合硬化性組成物(A)が、前記同一粒径球状粒子群G-PIDとして、前記無機球状粒子の平均一次粒子径が230nm~350nmの範囲内にある1種類の同一粒径球状粒子のみを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の歯科用充填修復材料キット。
【請求項5】
III級窩洞及び/又はIV級窩洞の修復用である、請求項1~4のいずれか1項に記載の歯科用充填修復材料キット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用充填修復材料キットに関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用コンポジットレジン(以下、「CR」ともいう。)とは、齲蝕、破折等により損傷をうけた歯牙の修復をするための材料の一種であり、重合性単量体と、無機フィラー及び/又は有機フィラーとを含有する硬化性組成物からなる。CRを用いた修復(CR修復)は、歯質の切削量を少なくでき、天然歯牙色と同等の色調を付与できること、操作が容易なこと等から、急速に普及している。また、近年においては、機械的強度の向上、歯牙との接着力の向上等に伴い、前歯部の修復のみならず、高い咬合圧が加わる臼歯部に対しても使用されている。
【0003】
上述したように、審美性の高い修復が可能であることがCR修復の優れた特徴の1つであるが、天然歯は、象牙質及びエナメル質からなり、各部位で色調(色相、彩度、及び明度)が異なるため、審美性の高い修復を行うためには、修復する歯牙(被修復歯牙)の状態に応じたきめ細かい対応が必要となる。例えば、修復歯牙の損傷が軽く、窩洞が浅い場合であっても、色調が異なるCRを複数種用意し、この中から、実際の修復歯牙及びその隣接歯牙(以下、「修復歯牙の周辺」ともいう。)と色調が最も良く適合したものを選定して使うことが一般に行われている(例えば、非特許文献1参照)。また、窩洞が深いと、歯牙の色調は、単に歯面部(エナメル質部分)の色調だけでなく、透けて見える深層部(象牙質部分)までの色調も融合してグラデーションに富む状態で観取されるため、一定の深さごとに充填する硬化性ペーストの色調を変えて積層充填し、この微妙な色調を再現している(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【0004】
このような要求に応えるため、顔料物質、染料物質等の着色材の種類及び配合量を変えて色調を調整した修復材キット(例えば、特許文献1参照)や、エナメル質用修復材及び象牙質用修復材に配合している重合性単量体のポリマーの屈折率をコントロールすることによって色調を再現する修復材キット(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【0005】
しかし、このような顔料物質、染料物質等の着色材を用いて調製された歯科用硬化性組成物は、着色材が経年劣化することにより、修復後から時間が経過するに従って退色又は変色し、修復部位の外観が天然歯と適合しなくなってしまうことがある。
【0006】
一方、顔料物質、染料物質等の着色材を用いずに着色する技術として、構造色を利用した技術、すなわち媒質中の微粒子による光の反射、干渉、散乱、透過等利用して発色を生じさせる技術があり、この技術を応用して樹脂等の媒体中に無機粒子が分散した複合材料を所期の色に発色させる技術も知られている(例えば、特許文献3及び4参照)。
【0007】
例えば、特許文献3には、「平均粒子径が50nm~1μmの範囲にあり且つ粒子径のCv値が10%以下である第一微粒子が媒質中に分散してなる微粒子分散体であって、分散体中における第一微粒子の配列構造が、アモルファス構造であり、且つ、平面内の動径分布関数g(r)で規定される特定の条件を満足するような短距離秩序構造を有する微粒子分散体」は、微粒子の配列構造が安定的に維持され、特定の波長の光を反射することができ、光の入射角の変化によって反射光のピーク波長が変化する反射光の角度依存性を十分に低減することが可能な微粒子分散体であることが開示されている。
【0008】
また、特許文献4には、例えば、「重合性単量体成分(A)、平均粒子径が230nm~1000nmの範囲内にある球状フィラー(B)、及び重合開始剤(C)を含有し、球状フィラー(B)を構成する個々の粒子のうち90%以上が平均粒子径の前後の5%の範囲内に存在し、球状フィラー(B)の25℃における屈折率nが重合性単量体成分(A)を重合して得られる重合体の25℃における屈折率nよりも大きいという条件を満足する硬化性組成物」からなり、さらに「厚さ1mmの硬化体を形成した状態で、各々色差計を用いて測定した、黒背景下での着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が5未満であり、彩度(C)が0.05以上であり、且つ、白背景下での着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が6以上であり、彩度(C)が2未満となる硬化性組成物」が開示されている。そして、特許文献4には、上記硬化性組成物からなるCRは、(1)染料物質や顔料物質を用いていないので経時変色の問題が起こり難く、(2)その硬化体は(使用する球状フィラーの平均粒子径に応じて)象牙色質と同様の色である黄色~赤色に着色することができ、しかも(3)該硬化体が適度な透明性を有するため、被修復歯牙の色と調和し易く、煩雑なシェードテイキングやコンポジットレジンのシェード選択を行うことなく、1種類のコンポジットレジンで広範な色の被修復歯牙に対して天然歯に近い外観の修復を行うことができる、という優れた特徴を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5436723号公報
【文献】特許第6258919号公報
【文献】特許第5274164号公報
【文献】特許第6250245号公報
【文献】特許第6732257号公報
【文献】特許第6732259号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】松村英雄、田上順次監修,「接着YEARBOOK 2006」,第1版,クインテッセンス出版株式会社,2006年8月,p.129-137
【文献】宮崎真至著,「コンポジットレジン修復のサイエンス&テクニック」,第1版,クインテッセンス出版株式会社,2010年1月,p.48-49
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献3によれば、均質な粒径を有する微粒子が、特定の短距離秩序構造を有しつつ全体的にはアモルファス構造となるように分散することによって、光の入射角の変化に左右されない一定の色調の構造色を発色することができることが分かる。また、特許文献4では、硬化性組成物(或いは当該硬化性組成物からなるCR)の硬化体における干渉による着色光は、構成する粒子が比較的規則的に集積された部分で生じ、散乱による着色光は、構成する粒子が無秩序に分散された部分で生じると説明されており、当該系においても球状フィラーの分散状態における、長距離的な不規則性と短距離的な規則性とのバランスが、上記効果を得る上で重要であることが推察できる。
【0012】
しかしながら、特許文献4に開示されるCRでは、球状フィラー(B)として、「230~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する集合体」を1種類しか用いておらず、平均一次粒子径の異なるこのような集合体を複数用いた場合に、上記効果がどのような影響を受けるのかは不明であった。さらに、頻度は極めて少ないものの、各成分を混錬してCRを調製する際の条件によっては、所期の効果を奏するものが得られないことがあることが判明した。
【0013】
本発明者らは、特許文献4に開示された硬化性組成物の硬化体のような複合材料であって、複数の球状フィラー集合体を用いた場合にも上記効果を発現し得る複合材料を確実に与える硬化性組成物として、無機球状粒子が特定の分散状態で分散した硬化性組成物を提案している(特許文献5及び6参照)。すなわち、特許文献5及び6では、重合性単量体と無機球状粒子とを含有する硬化性組成物であって、無機球状粒子が特定の平均粒子径及び特定の粒度分布を有するとともに、その屈折率と重合性単量体の屈折率とが特定の大小関係を満足するという「構成成分上の条件」と、硬化性組成物中における無機球状粒子が特定の条件を満足するように分散するという「組成物の状態に関する条件」とを同時に満足する場合には、光の入射角の変化に左右されない所定の色調の構造色を発色する硬化体を確実に与えることができるという本発明者らによって見出された知見に基づき、硬化性組成物中における無機球状粒子の分散状態を、その硬化体における動径分布関数g(r)で規定した硬化性組成物(以下、「構造色発現硬化性組成物」ともいう。)を提案している。なお、硬化性組成物の無機球状粒子の分散状態を硬化体の動径分布関数g(r)で規定したのは、硬化体における無機球状粒子の分散状態は、硬化前の組成物の分散状態を直接的に反映しているからである。
【0014】
上記の構造色発現硬化性組成物によれば、硬化前のCR等の硬化性組成物の粘度や硬化体のコントラスト比を調整する目的等で微細フィラーを添加した場合であっても、特許文献2に開示された硬化性組成物の硬化体と同様の効果を得ることができる。すなわち、(1)染料物質や顔料物質を用いていないので経時変色の問題が起こり難く、(2)その硬化体は(使用する球状フィラーの平均粒子径に応じて)青色系の透明感のある色調から象牙色質と同様の色である黄色~赤色の色調といった幅広い色調範囲内で所望する色調に着色することができ、しかも(3)該硬化体が適度な透明性を有するようにすることもできるため、歯科用修復材として用いたときに、被修復歯牙の色と調和し易く、煩雑なシェードテイキングやコンポジットレジンのシェード選択を行うことなく、1種類のコンポジットレジンで広範な色の被修復歯牙に対して天然歯に近い外観の修復を行うことができる、という優れた効果を得ることが可能である。そして、この構造色発現硬化性組成物をCRとして用い、深層部に象牙質が位置する窩洞の修復を行った場合には、期待通りの効果を得ることができる。
【0015】
しかし、上記の構造色発現硬化性組成物からなるCRを、深層部に象牙質が存在しないようなIII級窩洞(前歯の隣接面窩洞で切縁隅角を含まない窩洞)やIV級窩洞(前歯の隣接面窩洞で切縁隅角を含む窩洞)の修復に用いた場合には、修復部が黒っぽく見えてしまう(発現した構造色が目視で認識できない)ことがあること明らかとなった。これは、硬化体の透明性が高過ぎて、反射光や散乱光が観察者に到達し難くなることが原因と推測される。
【0016】
本発明は、構造色発現硬化性組成物からなるCRに特有の課題であって、これまで認識されていなかった上記課題を解決するため、III級窩洞やIV級窩洞の修復に用いた場合であっても高い色調適合性の得られる歯科用充填修復材料キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、下地層(修復歯牙の裏側近傍に相当する部分)に透明性の低い重合硬化性組成物の硬化体を配置し、表面露出層(修復歯牙の前面側)に構造色発色性の重合硬化性組成物の硬化体を配置すれば上記課題を解決できると考え、鋭意検討を行った。その結果、下地層用の重合硬化性組成物の明度を特定の値にすることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明に係る歯科用充填修復材料キットは、歯牙の窩洞を修復するための歯科用充填修復材料キットであって、
修復後に表面に露出する表面露出層を形成するための第一の重合硬化性組成物(A)と、前記表面露出層の下地となる下地層を形成するための第二の重合硬化性組成物(B)と、を含んでなり、
前記第一の重合硬化性組成物(A)は、
(a1)第一の重合性単量体成分、無機粒子、及び第一の重合開始剤成分を含有し、
(a2)前記無機粒子は、下記(i)~(iii)の条件:
(i)100nm~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する同一粒径球状粒子群(G-PID)を含み、前記無機粒子に含まれる前記同一粒径球状粒子群の数が1又は複数である;
(ii)前記無機粒子に含まれる前記同一粒径球状粒子群の数をaとし、各同一粒径球状粒子群を、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aの自然数である。)で表したときに、各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっている;
(iii)前記第一の重合性単量体成分の硬化体の25℃における波長589nmの光に対する屈折率をn(MX)とし、各G-PIDを構成する無機球状粒子の25℃における波長589nmの光に対する屈折率をn(G-PIDm)としたときに、いずれのn(G-PIDm)に対しても、
(MX)<n(G-PIDm)
の関係が成り立つ;
を全て満足するものであり、
(a3)前記第一の重合硬化性組成物(A)を硬化させた硬化体(A’)において、任意の前記無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す関数であって、前記硬化体(A’)の内部の面を観察平面とする走査型電子顕微鏡画像に基づいて決定される、当該観察平面内の前記無機球状粒子の平均粒子密度<ρ>、当該観察平面内の任意の無機球状粒子からの距離rの円と距離r+drの円との間の領域中に存在する無機球状粒子の数dn、及び前記領域の面積da(但し、da=2πr・drである。)に基づいて、下記式(1):
g(r)={1/<ρ>}×{dn/da}・・・(1)
で定義される関数を動径分布関数g(r)とし、
前記硬化体(A’)中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離rを、前記硬化体(A’)中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径rで除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、前記動径分布関数g(r)をy軸として、r/rとそのときのrに対応するg(r)との関係を表したグラフを動径分布関数グラフとしたときに、
前記無機球状粒子は、前記硬化体(A’)が下記(I)及び(II)の条件:
(I)前記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離rが、前記硬化体中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径rの1倍~2倍の値である;
(II)前記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離rとしたときに、前記最近接粒子間距離rと前記次近接粒子間距離rとの間における前記動径分布関数g(r)の極小値が0.56~1.10の値である;
を満足するような短距離秩序を有するように、前記第一の重合硬化性組成物(A)中に分散しており、
前記第二の重合硬化性組成物(B)は、
(b1)第二の重合性単量体成分、色素成分、及び第二の重合開始剤成分を含有し、
(b2)前記色素成分は、前記第二の重合硬化性組成物(B)の硬化体(B’)からなる厚さ1mmの試料について色差計を用いて黒背景下で測定したときの着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が5以上となるように配合されているものである。
【0019】
前記第一の重合硬化性組成物(A)は、無機粒子として、平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子からなり、且つ、平均一次粒子径がG-PIDの平均一次粒子径よりも25nm以上小さい超微細粒子群(G-SFP)をさらに含むことが好ましい。前記第一の重合硬化性組成物(A)中に分散する前記同一粒径球状粒子群の総量及び前記超微細粒子群の量は、第一の重合性単量体成分100質量部に対して、それぞれ10質量部~1500質量部、0.1質量部~50質量部であることが好ましい。
【0020】
また、前記第一の重合硬化性組成物(A)は、色素成分を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、色素成分とは、顔料及び/又は染料を意味し、前記同一粒径球状粒子群(及び前記超微細粒子群を含む場合における当該超微細粒子群)は含まないものである。
【0021】
また、前記第一の重合硬化性組成物(A)に含まれる全ての同一粒径球状粒子群の平均一次粒子径が230nm~1000nmの範囲内にあることが好ましく、前記無機球状粒子の平均一次粒子径が230nm~350nmの範囲内にある1種類の同一粒径球状粒子群のみを含むことがより好ましい。さらに、n(MX)とn(G-PIDm)との差(n(G-PIDm)-n(MX))で定義されるΔnが、いずれのn(G-PIDm)に対しても0.001~0.1であることが好ましい。
ことが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る歯科用充填修復材料キットは、III級窩洞及び/又はIV級窩洞の修復用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る歯科用充填修復材料キットによれば、染料物質、顔料物質等の着色材を用いない表面露出層用の重合性単量体組成物(第一の重合硬化性組成物)を表層に配置できることから、退色の問題がなく、構造色により周囲に調和した色調とすることができるという効果を奏するばかりでなく、適度な明度を有する下地層用の重合硬化性組成物(第二の重合硬化性組成物)を用いるため、簡易な操作で、前歯欠損部の修復、特にIII級窩洞やIV級窩洞の修復においても、天然歯牙との色調適合性の高い修復を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1A】参考実施例1の硬化体における観察平面の走査型電子顕微鏡画像の一例を示す図である。
図1B図1Aの走査型電子顕微鏡画像から得られた座標データの一例を示す図である。
図2図1Bの座標データから決定されるパラメータに基づいて計算されたg(r)に関する動径分布関数グラフを示す図である。
図3】参考実施例2の硬化体における動径分布関数グラフを示す図である。
図4】参考実施例3の硬化体における動径分布関数グラフを示す図である。
図5】参考実施例4の硬化体における動径分布関数グラフを示す図である。
図6】参考比較例2の硬化体における動径分布関数グラフを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施形態に係る歯科用充填修復材料キットは、歯牙の窩洞を修復するための歯科用充填修復材料キットであって、
修復後に表面に露出する表面露出層を形成するための第一の重合硬化性組成物(A)と、前記表面露出層の下地となる下地層を形成するための第二の重合硬化性組成物(B)と、を含んでなり、
上記第一の重合硬化性組成物(A)は、
(a1)第一の重合性単量体成分、無機粒子、及び第一の重合開始剤成分を含有し、
(a2)上記無機粒子は、下記(i)~(iii)の条件:
(i)100nm~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が上記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する同一粒径球状粒子群(G-PID)を含み、上記無機粒子に含まれる上記同一粒径球状粒子群の数が1又は複数である;
(ii)上記無機粒子に含まれる上記同一粒径球状粒子群の数をaとし、各同一粒径球状粒子群を、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aの自然数である。)で表したときに、各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっている;
(iii)上記第一の重合性単量体成分の硬化体の25℃における波長589nmの光に対する屈折率をn(MX)とし、各G-PIDを構成する無機球状粒子の25℃における波長589nmの光に対する屈折率をn(G-PIDm)としたときに、いずれのn(G-PIDm)に対しても、
(MX)<n(G-PIDm)
の関係が成り立つ;
を全て満足するものであり、
(a3)上記第一の重合硬化性組成物(A)を硬化させた硬化体(A’)において、任意の上記無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す関数であって、上記硬化体(A’)の内部の面を観察平面とする走査型電子顕微鏡画像に基づいて決定される、当該観察平面内の上記無機球状粒子の平均粒子密度<ρ>、当該観察平面内の任意の無機球状粒子からの距離rの円と距離r+drの円との間の領域中に存在する無機球状粒子の数dn、及び上記領域の面積da(但し、da=2πr・drである。)に基づいて、下記式(1):
g(r)={1/<ρ>}×{dn/da}・・・(1)
で定義される関数を動径分布関数g(r)とし、
上記硬化体(A’)中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離rを、上記硬化体(A’)中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径rで除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、上記動径分布関数g(r)をy軸として、r/rとそのときのrに対応するg(r)との関係を表したグラフを動径分布関数グラフとしたときに、
上記無機球状粒子は、上記硬化体(A’)が下記(I)及び(II)の条件:
(I)上記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離rが、上記硬化体中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径rの1倍~2倍の値である;
(II)上記動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離rとしたときに、上記最近接粒子間距離rと次近接粒子間距離rとの間における上記動径分布関数g(r)の極小値が0.56~1.10の値である;
を満足するような短距離秩序を有するように、上記第一の重合硬化性組成物(A)中に分散しており、
上記第二の重合硬化性組成物(B)は、
(b1)第二の重合性単量体成分、色素成分、及び第二の重合開始剤成分を含有し、
(b2)上記色素成分は、上記第二の重合硬化性組成物(B)の硬化体(B’)からなる厚さ1mmの試料について色差計を用いて黒背景下で測定したときの着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が5以上となるように配合されているものである。
【0026】
ここで、第一の重合硬化性組成物(A)は、上述した構造色発現硬化性組成物に該当するものであり、第二の重合硬化性組成物(B)は、その硬化体が第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体の下地として存在することにより、窩洞深部に存在する象牙質と同様に、第一の重合硬化性組成物(A)(構造色発現硬化性組成物)の硬化体(A’)を透過する光の量を適度に減じる。その結果、本実施形態に係る歯科用充填修復材料キットによれば、III級窩洞(前歯の隣接面窩洞で切縁隅角を含まない窩洞)やIV級窩洞(前歯の隣接面窩洞で切縁隅角を含む窩洞)の修復に用いた場合でも、良好な色調適合性を発揮することが可能となる。
【0027】
以下に、本実施形態に係る歯科用充填修復材料キットを構成する第一の重合硬化性組成物(A)及び第二の重合硬化性組成物(B)について詳しく説明する。
【0028】
〔1.第一の重合硬化性組成物(A)〕
第一の重合硬化性組成物(A)は、修復後に表面に露出する表面露出層を形成するための重合硬化性組成物である。そして、この第一の重合硬化性組成物(A)は、上述したように、第一の重合性単量体成分と無機球状粒子とを含有し、且つ、無機球状粒子が特定の平均粒子径及び特定の粒度分布を有するとともに、その屈折率と第一の重合性単量体成分の硬化体の屈折率とが特定の大小関係を満足するという「成分上の条件」である(a1)及び(a2)と;重合硬化性組成物中における無機球状粒子が特定の条件を満足するように分散するという「組成物の状態に関する条件」である(a3)と;を同時に満足することにより、光の入射角の変化に左右されない所定の色調の構造色を発色する硬化体を確実に与えることができる重合硬化性組成物である。したがって、第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体(A’)で表面露出層を形成することにより、煩雑なシェードテイキングやコンポジットレジンのシェード選択を行うことなく、1種類のコンポジットレジンで広範な色の被修復歯牙に対して天然歯に近い外観の修復を行うことが可能となる。
【0029】
なお、第一の重合硬化性組成物(A)は、基本的には特許文献4に開示されている硬化性組成物の範疇に入るものであり、同一粒径球状粒子群(G-PID)を複数種含み得る点、及び特許文献4の硬化性組成物では任意成分とされていた「その他添加剤」の1つである無機フィラーについても、これを含む場合において上記効果に悪影響を与えない粒径が特定される点を除けば、特許文献4に開示されている硬化性組成物と特に変わる点は無い。但し、「組成物の状態に関する条件」については特許文献4では特に認識されていない。以下、特許文献4に開示されている内容を含めてこれら条件について説明する。
【0030】
[1-1.条件(a1)]
第一の重合硬化性組成物(A)は、第一の重合性単量体成分、無機粒子、及び第一の重合開始剤成分を含有する。
【0031】
≪第一の重合性単量体成分≫
第一の重合性単量体成分としては、特許文献4に開示されている硬化性組成物において重合性単量体として使用できるとされているものと同様のものが使用できる。好適に使用できる重合性単量体としては、1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9-ノナンジオールジメタクリレート、2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-(メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート等が挙げられる。
【0032】
第一の重合性単量体成分としては、第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体(A’)における樹脂マトリックスの物性(機械的特性、及び歯科用途では歯質に対する接着性)を調整するため、一般に、複数種の重合性単量体が使用される。その際、重合性単量体成分(混合物)の屈折率が1.38~1.55の範囲となるように、重合性単量体の種類及び量を設定することが、上記屈折率に関する条件を満足し易いという観点から望ましい。すなわち、無機球状粒子として屈折率の調整が容易なシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物を用いる場合、その屈折率はシリカ分の含有量に応じて1.45~1.58程度の範囲となるが、重合性単量体成分の屈折率を1.38~1.55の範囲に設定することにより、得られる硬化体の屈折率を、おおよそ1.40~1.57の範囲に調整でき、上記条件を満足するようにすることが容易となる。なお、重合性単量体成分や重合性単量体成分の硬化体の屈折率は、25℃にてアッベ屈折率計を用いてナトリウムD線(波長589nm)に対する屈折率を測定することにより求めることができる。以下、本明細書において「屈折率」と記載する場合は、25℃における波長589nmの光に対する屈折率を意味するものとする。
【0033】
≪無機粒子≫
無機粒子に関しては、上述したように、同一粒径球状粒子群(G-PID)を複数種含み得る点、及び特許文献4の硬化性組成物では任意成分とされていた「その他添加剤」の1つである無機フィラーについても、これを含む場合において上記効果に悪影響を与えない粒径が特定される点を除けば、特許文献4に開示されている無機粒子と特に変わる点は無い。すなわち、第一の重合硬化性組成物(A)に含まれる無機粒子は、100nm~1000nmの範囲の所定の長さの平均一次粒子径を有する球状粒子群からなり、当該球状粒子群を構成する個々の粒子は、実質的に同一物質で構成されるとともに、当該個々の粒子の90%(個数)以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、1又は複数の同一粒径球状粒子群(G-PID)を含む必要がある{条件(i)}。また、必要に応じて、100nm未満で且つ同一粒径球状粒子群(G-PID)の平均一次粒子径の中で最も小さい平均一次粒子径よりも25nm以上小さい平均一次粒子径を有する無機粒子からなる超微細粒子群(G-SFP)を含んでいてもよい。
【0034】
上記1又は複数のG-PIDが満たすべき条件については、条件(a2)の説明として後述するため、ここでは、G-PIDを構成する無機球状粒子の材質及びG-SFPについて説明する。
【0035】
<G-PIDを構成する無機球状粒子の材質>
当該材質は、後述の条件(iii)を満足するものであれば特に限定されない。好適に使用できる材質を例示すれば、非晶質シリカ、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物(シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア等)、石英、アルミナ、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ランタンガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、フッ化イッテルビウム、ジルコニア、チタニア、コロイダルシリカ等からなるものを挙げることができる。これらの中でも、屈折率の調整が容易であることから、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子を使用することが好ましい。
【0036】
ここで、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物とは、シリカとチタン族元素(周期律表第4族元素)酸化物との複合酸化物を主成分とする粒子を意味し、シリカ分の含有量に応じてその屈折率を1.45~1.58程度の範囲で変化させることができる。シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物の具体例としては、シリカ・チタニア、シリカ・ジルコニア、シリカ・チタニア・ジルコニア等が挙げられる。これらの中でも、高いX線不透過性も付与できるという理由から、シリカ・ジルコニアが好ましい。シリカ・ジルコニアにおける複合比は特に制限されないが、十分なX線不透過性を付与することと、及び屈折率を後述する好適な範囲にする観点から、シリカの含有量が70モル%~95モル%であり、チタン族元素酸化物の含有量が5モル%~30モル%であるものが好ましい。
【0037】
なお、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子には、少量であれば、シリカ及びチタン族元素酸化物以外の金属酸化物の複合も許容される。具体的には、酸化ナトリウム、酸化リチウム等のアルカリ金属酸化物を10モル%以内で含有させてもよい。
【0038】
シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物粒子の製造方法は特に限定されないが、球状フィラーを得るためには、例えば、加水分解可能な有機ケイ素化合物と加水分解可能な有機チタン族金属化合物とを含んだ混合溶液を、アルカリ性溶媒中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させる、いわゆるゾルゲル法が好適に採用される。
【0039】
これらのシリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物からなる無機球状粒子は、シランカップリング剤により表面処理されていてもよい。シランカップリング剤による表面処理により、後述するような有機-無機複合フィラーとしたときに、当該有機-無機複合フィラーの有機樹脂マトリックスとの界面強度に優れたものになる。代表的なシランカップリング剤としては、例えば、γ-メタクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等の有機ケイ素化合物が挙げられる。これらシランカップリング剤の表面処理量に特に制限はなく、得られる硬化体の機械的物性等を予め実験で確認した上で最適値を決定すればよいが、好適な範囲を例示すれば、無機球状粒子100質量部に対して0.1質量部~15質量部の範囲である。
【0040】
同一粒径球状粒子群G-PIDの配合量は、通常、含まれる全G-PIDの総量(すなわち無機球状粒子の総量)で、第一の重合性単量体成分100質量部に対して、10質量部~1500質量部である。第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体(A’)が適度な透明性を有し、構造色の発現効果も高いという理由から、G-PIDの配合量は、第一の重合性単量体成分100質量部に対して50質量部~1500質量部であることが好ましく、100質量部~1500質量部であることがより好ましい。なお、複数種のG-PIDを含む場合の各G-PIDの配合量は、各G-PIDによる構造色の色調と、硬化体(A’)において所望する色調とを勘案して、総量が上記範囲内となる量で適宜配分すればよい。
【0041】
<超微細粒子群G-SFP>
超微細粒子群(G-SFP)は、平均一次粒子径が100nm未満の無機粒子からなる粒子集合体であり、第一の重合硬化性組成物(A)の粘度を調整する目的、或いは第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体(A’)のコントラスト比を調整する目的等で配合される。但し、G-SFPの平均一次粒子径は、無機粒子に配合されるG-PIDの中で最も平均一次粒子径が小さいG-PIDの平均一次粒子径(d)よりも25nm以上小さい必要がある。このような条件を満足しない場合には、無機球状粒子の分散状態に悪影響を与え、構造色が発現し難くなる。なお、G-SFPを構成する無機粒子の形状は特に限定されず、不定形であっても球状であってもよい。また、平均一次粒子径の下限は、通常2nmである。
【0042】
構造色発現に対する影響が少ないという理由から、G-SFPの平均一次粒子径は、3nm~75nmであることが好ましく、5nm~50nmであることがより好ましい。また、同様の理由から、G-SFPの平均一次粒子径は、G-PIDの平均一次粒子径(d)よりも30nm以上小さいことが好ましく、40nm以上小さいことがより好ましい。
【0043】
G-SFPを構成する無機粒子の材質としては、無機球状粒子と同様のものが特に制限なく使用できる。また、無機球状粒子と同様にシランカップリング剤による表面処理を行うこともできる。好適な態様も、平均一次粒子径及び形状を除いて、基本的には、無機球状粒子と同様である。
【0044】
超微細粒子群G-SFPの配合量は、第一の重合硬化性組成物(A)の粘度及び第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体(A’)のコントラスト比等を勘案して適宜決定すればよいが、通常は、第一の重合性単量体成分100質量部に対して、0.1質量部~50質量部であり、好適には、0.2質量部~30質量部である。
【0045】
≪第一の重合開始剤成分≫
第一の重合開始剤成分についても、特許文献4に開示されている硬化性組成物において重合開始剤として使用できるとされているものと同様のものが使用できる。口腔内で硬化させる場合が多い歯科の直接充填修復用途を想定した場合には、第一の重合開始剤成分としては、化学重合開始剤及び/又は光重合開始剤を使用することが好ましく、混合操作の必要が無いという理由から、光重合開始剤を使用することが好ましい。
【0046】
化学重合開始剤としては、2成分以上からなり、これらの成分が接触した場合に重合開始種(ラジカル)を生じるものを特に制限なく使用することができる。化学重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物/アミン類、有機過酸化物/アミン類/有機スルフィン酸類、有機過酸化物/アミン類/アリールボレート類、アリールボレート類/酸性化合物、バルビツール酸誘導体/銅化合物/ハロゲン化合物等の各種組み合わせからなるものが挙げられる。これらの中でも、取扱いが容易な点から、有機過酸化物/アミン類からなるものが好ましい。
【0047】
有機過酸化物としては、公知のハイドロパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、アルキルシリルパーオキサイド類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類等が挙げられる。
【0048】
有機過酸化物/アミン類からなる化学重合開始剤には、さらに、ベンゼンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸及びその塩等のスルフィン酸類;5-ブチルバルビツール酸等のバルビツール酸類;などを配合してもよい。
【0049】
光重合開始剤としては、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルケタール類、ベンゾフェノン類、α-ジケトン類、チオキサンソン化合物、ビスアシルホスフィンオキサイド類等が挙げられる。これら光重合開始剤には、第3級アミン類、アルデヒド類、含イオウ化合物等の還元剤を配合してもよい。さらに、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、ハロメチル置換-S-トリアジン誘導体、ピリジニウム塩系化合物等の光酸発生剤を配合してもよい。
【0050】
これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の配合量は目的に応じて有効量を選択すればよいが、重合性単量体成分100質量部に対して、通常0.01質量部~10質量部の割合であり、より好ましくは0.1質量部~5質量部の割合で使用される。
【0051】
[1-2.条件(a2)について]
無機粒子は、下記(i)~(iii)の条件:
(i)100nm~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が前記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する同一粒径球状粒子群(G-PID)を含み、無機粒子に含まれる同一粒径球状粒子群の数が1又は複数である;
(ii)無機粒子に含まれる同一粒径球状粒子群の数をaとし、各同一粒径球状粒子群を、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aの自然数である。)で表したときに、各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっている;
(iii)第一の重合性単量体成分の硬化体の屈折率をn(MX)とし、各G-PIDを構成する無機球状粒子の屈折率をn(G-PIDm)としたときに、いずれのn(G-PIDm)に対しても、
(MX)<n(G-PIDm)
の関係が成り立つ;
を全て満足する。以下、これら条件について詳述する。
【0052】
≪条件(i)について≫
同一粒径球状粒子群G-PIDは、100nm~1000nmの範囲内にある所定の平均一次粒子径を有する無機球状粒子の集合体からなり、当該集合体の個数基準粒度分布において全粒子数の90%以上が上記所定の平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する、上記集合体を意味する。当該集合体を構成する個々の無機球状粒子は、実質的に同一の物質からなる。
【0053】
ここで、無機球状粒子の平均一次粒子径とは、走査型電子顕微鏡によりG-PIDの写真を撮影し、その写真の単位視野内に観察される粒子の30個以上を選択し、それぞれの一次粒子径(最大径)を求めた平均値を意味する。また、球状とは、略球状であればよく、必ずしも完全な真球である必要はない。走査型電子顕微鏡でG-PIDの写真を撮り、その単位視野内にあるそれぞれの粒子(30個以上)について最大径を測定し、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した平均均斉度が0.6以上、より好ましくは0.8以上のものであればよい。
【0054】
第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体(A’)では、球状であり且つ粒子径分布(個数基準粒度分布)が狭い無機粒子の集合体であるG-PIDの各構成粒子が特定の短距離秩序構造を有して樹脂マトリックス中に分散することにより、ブラッグ条件に則って回折干渉が起こり、特定波長の光が強調されて、平均一次粒子径に応じた色調の着色光が生じる(構造色が発現する)。すなわち、構造色が発現するためには、G-PIDを構成する無機球状粒子の90%(個数)以上が平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する必要がある。また、青色~黄色~赤色系の広い範囲内の特定の色調を有する構造色を発現するために、G-PIDを構成する無機球状粒子の平均一次粒子径は、100nm~1000nmの範囲内にある必要がある。平均一次粒子径が100nmよりも小さい球状粒子を用いた場合には、可視光の干渉現象が生じ難く、構造色も発現し難い。一方、平均一次粒子径が1000nmよりも大きい球状粒子を用いた場合は、光の干渉現象の発現は期待できるが、歯科充填用修復材料として用いる場合には、球状粒子の沈降や研磨性の低下が生じるため好ましくない。
【0055】
平均一次粒子径が230nm~800nmである場合には、黄色~赤色系の構造色(着色光)が発現し易く、平均一次粒子径が150nm以上230nm未満である場合には、青色系の構造色(着色光)が発現し易い。
【0056】
歯科用充填修復材料として好ましい黄色~赤色系の構造色(着色光)を発現するという理由から、G-PIDの平均一次粒子径は、230nm~800nmであることが好ましく、240nm~500nmであることがより好ましく、260nm~350nmであることがさらに好ましい。平均一次粒子径が230nm以上260nm未満の範囲のG-PIDを用いた場合、得られる着色光は黄色系であり、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるB系(赤黄色)の範疇にある歯牙の修復に有用で、特にエナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞の修復に有用である。また、平均一次粒子径が260nm~350nmの範囲のG-PIDを用いた場合、得られる着色光は赤色系であり、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるA系(赤茶色)の範疇にある歯牙の修復に有用で、特にエナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞の修復に有用である。象牙質の色相はこうした赤色系のものが多いため、平均一次粒子径260nm~350nmの範囲のG-PIDのみを用いる態様において、多様な色調の修復歯牙に対して、幅広く適合性が良くなり最も好ましい。一方、平均一次粒子径が150nm以上230nm未満の範囲のG-PIDのみを用いた場合、得られる着色光は青色系であり、エナメル質から象牙質に亘って形成された窩洞に対しては歯質との色調適合性が不良となりやすいが、エナメル質の修復に有用で、特に切端部の修復に有用である。
【0057】
第一の重合硬化性組成物(A)において無機粒子に含まれるG-PIDは1種であっても複数種であってもよい。含まれるG-PIDの数aは、1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1又は2であることがさらに好ましい。
【0058】
≪条件(ii)について≫
無機粒子に複数種のG-PIDが含まれる場合には、各G-PIDの平均一次粒子径は、それぞれ互いに25nm以上異なっている必要がある。すなわち、無機粒子に含まれるG-PIDの数をa(例えば、a=3)としたときの各G-PIDを、その平均一次粒子径の小さい順にそれぞれG-PID(但し、mは、aが1のときは1であり、aが2以上のときは1~aの自然数である。)で表したときに、各G-PIDの平均一次粒子径をそれぞれdとすると、各dは、それぞれ互いに25nm以上異なっている必要がある。例えば、a=3のとき、|d-d|≧25nm、|d-d|≧25nmである必要がある(当然のことながら、|d-d|≧25nmを満たす。)。この条件を満足することにより、例えば、各G-PIDごとに(平均一次粒子径に応じた)特有の構造色を発現することが可能となる。これは、各G-PIDが、20個程度を超えないような少数の無機球状粒子が非常にゆるい結合力で凝集した凝集体のような形で分散すること等によって、G-PIDごとに構造色を発現できる短距離秩序構造をもって分散できるようになったことによるものと推察される。これに対し、この条件を満足しない場合には、構造色を発現し難くなってしまう。これは、無機球状粒子全体の粒子径分布がブロードとなり、各G-PIDを構成する無機球状粒子が相互置換して分散してしまい、個数基準粒度分布の条件を満足しない単一の無機球状粒子の集合体を用いた場合と同様の現象が起こることによるものと思われる。
【0059】
第一の重合硬化性組成物(A)において複数種のG-PIDを用いる場合、各G-PIDの平均一次粒子径dは、それぞれ互いに30nm以上異なっていることが好ましく、40nm以上異なっていることがより好ましい。すなわち、dとdm-1との差は、30nm以上であることが好ましく、40nm以上であることがより好ましい。
【0060】
なお、複数のG-PIDが含まれる場合、各G-PIDは、極めてシャープな粒度度分布を有し、且つ、平均一次粒子径には上述したような差があるため、各G-PIDの粒度分布は重なり難く、一部重なった場合でも各G-PIDの粒度分布を確認することが可能である。すなわち、第一の重合硬化性組成物(A)に含まれる無機粒子の粒度分布は、100nm~1000nmの範囲では、含まれるG-PIDの数と同数の独立したピークを有するものとなり、各ピークの一部が重なった場合でも、波形処理を行うことにより、各G-PIDの平均一次粒子径及び個数基準粒度分布を確認することができる。また、第一の重合硬化性組成物(A)に含まれる無機粒子の粒度分布は、例えば、第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体(A’)の内部表面の電子顕微鏡写真を画像処理すること等によっても確認することができる。
【0061】
≪条件(iii)について≫
第一の重合硬化性組成物(A)においては、硬化時において樹脂マトリックスとなる第一の重合性単量体成分の硬化体の屈折率をn(MX)とし、各G-PIDを構成する無機球状粒子の屈折率をn(G-PIDm)としたときに、いずれのn(G-PIDm)に対しても下記式:
(MX)<n(G-PIDm)
の関係が成り立つ必要がある。上記関係を満足しない場合には、構造色が発現しても、樹脂マトリックス中で短波長の光が散乱され易くなり、発現した構造色が確認し難くなる。発現した構造色の視認性及び鮮明さ、並びに歯科用充填修復材料として使用したときの色調適合性の観点から、n(G-PIDm)とn(MX)との差であるΔn(=n(G-PIDm)-n(MX))は、いずれのn(G-PIDm)に対しても、0.001~0.1であることが好ましく、0.002~0.1であることがより好ましく、0.005~0.05であることがさらに好ましい。
【0062】
上述したように、第一の重合性単量体成分の屈折率を1.38~1.55の範囲に設定することにより、樹脂マトリックスとなる硬化体の屈折率(n(MX))を1.40~1.57の範囲とすることができる。また、上述したように、シリカ・チタン族元素酸化物系複合酸化物は、シリカの含有量を変化させることにより、その屈折率(n(G-PIDm))を1.45~1.58程度の範囲で変化させることができる。したがって、これらの関係を利用することにより、容易にΔnを好適な範囲とすることができる。
【0063】
[1-3.条件(a3)について]
条件(a3)は、第一の重合硬化性組成物(A)中の無機球状粒子が特定の条件を満足するように分散するという「組成物の状態に関する条件」である。条件(a3)では、第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体(A’)における無機球状粒子の分散状態は硬化前の重合硬化性組成物中における無機球状粒子の分散状態を直接的に反映する、及び硬化体(A’)における無機球状粒子の分散状態は電子顕微鏡等の分析手段により定量的に把握することができる、という理由から、第一の重合硬化性組成物(A)中の無機球状粒子の分散状態を、硬化体(A’)における動径分布関数g(r)(より具体的には、動径分布関数グラフ)を用いて規定している。
【0064】
ここで、動径分布関数g(r)は、第一の重合性単量体組成(A)を硬化させた硬化体(A’)において、任意の無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す関数であって、硬化体(A’)の内部の面を観察平面とする走査型電子顕微鏡画像に基づいて決定される、当該観察平面内の無機球状粒子の平均粒子密度<ρ>、当該観察平面内の任意の無機球状粒子からの距離rの円と距離r+drの円との間の領域中に存在する無機球状粒子の数dn、及び上記領域の面積da(但し、da=2πr・drである。)に基づいて、下記式(1):
g(r)={1/<ρ>}×{dn/da}・・・(1)
で定義される関数である。
【0065】
また、動径分布関数グラフは、硬化体(A’)中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離rを、硬化体(A’)中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径rで除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、上記動径分布関数g(r)をy軸として、r/rとそのときのrに対応するg(r)との関係を表したものである。
【0066】
そして、条件(a3)によれば、上記動径分布関数グラフが下記(I)及び(II)の条件:
(I)動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離rが、硬化体中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径rの1倍~2倍の値である;
(II)動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離rとしたときに、最近接粒子間距離rと次近接粒子間距離rとの間における動径分布関数g(r)の極小値が0.56~1.10の値である;
を満足するような短距離秩序を有するように、第一の重合硬化性組成物(A)中に無機球状粒子が分散している必要がある。
【0067】
無機球状粒子が上記条件(I)及び(II)を満足するように第一の重合硬化性組成物(A)中に分散することにより、第一の重合硬化性組成物(A)を硬化させた硬化体(A’)において、入射した光がブラッグ条件に則って回折干渉し、光の入射角による影響を受けることなく特定波長の光が強調されて、平均一次粒子径に応じた構造色を発現し、その結果、特定の色調に発色することができるようになる。
【0068】
第一の重合硬化性組成物(A)では、無機球状粒子の分散状態の定量化の手法として、特許文献3に開示されている「平面内の動径分布関数g(r)」を用いて短距離秩序構造を規定している。ここで、動径分布関数g(r)とは、特許文献3において使用されていることからも分かるように、任意のある粒子から距離rだけ離れた地点における他の粒子の存在確率を求めるための関数としてよく知られたものであり、上記式(1)で定義されるものである。なお、上記式(1)において、<ρ>は、平面内の粒子の平均粒子密度を表し、dnは、平面内の任意の粒子を中心とし、半径がそれぞれr及びr+drである2つの円の間の領域の中に存在する粒子の数を表し、daは、上記領域の面積である2πr・drを表す。
【0069】
動径分布関数g(r)は、一般的には、x軸(距離軸)に距離rをとり、y軸(縦軸)にそのrにおけるg(r)の値{上記式(1)による計算結果}をとった動径分布関数グラフ、或いは距離軸にrを粒子の平均粒子径で除して規格化した無次元数をとり、y軸(縦軸)にx軸の値に対応するrにおけるg(r)の値(上記式の計算結果)をとった動径分布関数グラフ(図2図6参照)によって表されるものである。
【0070】
本実施形態においては、<ρ>及びdnの確認が容易で、確実であるという理由から、第一の重合硬化性組成物(A)を硬化させた硬化体(A’)の内部の面を観察平面とする走査型電子顕微鏡画像に基づいて決定した<ρ>、dn、及び上記dnを決定する際に採用したdrの値に応じたda(=2πr・dr)に基づいて、上記式(1)により計算したg(r)を採用する。
【0071】
<ρ>、dn、及びdaの決定は、次のようにして行うことができる。まず、第一の重合硬化性組成物(A)を硬化させて得られた硬化体(A’)の表面を研磨する等の手段により、硬化体(A’)の内部における無機球状粒子の分散状態が観察可能な平面(観察平面)を表面に露出させる。次いで、当該観察平面を走査型電子顕微鏡により観測し、少なくとも平面内に500個以上の無機球状粒子を含有している領域の顕微鏡画像を取得する。その後、得られた走査型電子顕微鏡画像を画像解析ソフト(例えば、「Simple Digitizer ver3.2」フリーソフト)を用いて、領域内の無機球状粒子の座標を求める。得られた座標データから任意の無機球状粒子の座標を1つ選択し、選択した無機球状粒子を中心に少なくとも200個以上の無機球状粒子が含まれる距離rを半径とする円を描き、当該円内に含まれる無機球状粒子の個数をカウントすることにより、平均粒子密度<ρ>(単位:個/cm)を決定することができる。
【0072】
また、dnについては、無機球状粒子の平均粒子径をrで表したときに、その長さがr/100~r/10程度の値となるdrを設定し、任意に選択した1つの無機球状粒子を中心粒子とし、その中心からの距離rを半径とする円と、当該円と同一の中心を有する、半径r+drの円との間の領域内に含まれる無機球状粒子数をカウントすることにより、dnを決定することができる。さらに、2つの円の間の領域の面積であるdaは、実際に設定したdrの長さに基づき、2πr・drとして決定される。
【0073】
第一の重合硬化性組成物(A)では、硬化体(A’)中に分散する任意の無機球状粒子の中心からの距離rを、硬化体(A’)中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径rで除して規格化した無次元数(r/r)をx軸とし、上記任意の無機球状粒子の中心から距離r離れた地点において他の無機球状粒子が存在する確率を表す動径分布関数g(r)をy軸として、r/rとそのときのrに対応するg(r)との関係を表した動径分布関数グラフにおいて、当該動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から最も近いピークのピークトップに対応するrとして定義される最近接粒子間距離rが、硬化体(A’)中に分散する無機球状粒子全体の平均粒子径rの1倍~2倍の値である必要がある(条件I)。rがrの1倍未満(r/r<1)である場合には、平面内の粒子同士の重なりが多くなり、また、rがrの2倍を超える(r/r>2)場合には、選択した中心の無機粒子近傍に粒子が存在しなくなることによって、短距離の秩序性がなくなり、構造色を発現しなくなる。すなわち、短距離の秩序性を維持し、構造色を発現し易くなるという観点から、r/rは、1.0~2.0であり、1.0~1.5であることが好ましい。
【0074】
また、第一の重合硬化性組成物(A)では、動径分布関数グラフに現れるピークのうち、原点から2番目に近いピークのピークトップに対応するrを次近接粒子間距離rとしたときに、最近接粒子間距離rと次近接粒子間距離rとの間における動径分布関数g(r)の極小値が0.56~1.10の値である必要もある(条件II)。上記極小値が0.56未満となる場合には、無機球状粒子の配列構造の長距離秩序性が高くなり、発現する構造色の光の入射角度依存性が高まるばかりでなく、硬化体の彩度が高くなってしまい、歯科充填材料として用いた場合における、色調適合性が得られ難くなる。他方、上記極小値が1.10を超える場合には、無機球状粒子の配列構造がランダム構造となってしまい、目的とする反射性能が得られ難くなり、所期の構造色が発現し難くなる。すなわち、構造色を発現させ、歯科充填材料としての色調適合性を得易くするという観点から、上記極小値は、0.56~1.10の値であり、0.56~1.00の値であることが好ましい。
【0075】
条件(I)を満足することは、無機球状粒子が一定の短距離秩序を保持して分散していることを意味し、条件(II)を満足することは、無機球状粒子が、短距離秩序を維持しつつ長距離秩序がランダムな状態(短距離秩序を崩壊されるような完全なランダム状態ではなく、短距離秩序を有する微細ドメインがランダムに分散しているような状態)で分散していること意味する。
【0076】
これら条件を満足し易くするために、第一の重合硬化性組成物(A)を調製する際には、無機球状粒子を後述するような有機-無機複合フィラーとし、さらにその粒子径を5μ~50μm、特には5μm~30μmの範囲となるように制御して混合するか、又は一次粒子が凝集した凝集粒子を、その粒子径が5μm~200μm、特には10μm~100μmの範囲となるように制御して混合することが好ましい。また、混合中に気泡が混入すると上記条件を満足することが困難となるばかりでなく、硬化体の欠陥ともなるため、脱泡処理を行うなどして、少なくとも混合後には気泡が残存しないようにすることが好ましい。このような点に注意し、混錬不足を招かないように、例えば機械式混錬機を用いて十分に混錬を行えば、確実に上記条件を満足するようになる。なお、本発明者らの検討では、特許文献4の開示に従い手動による混錬操作により硬化性組成物(CR)を調製した場合には、頻度は極めて少ないものの所期の効果を奏するものが得られないことがあること、及びこのような(効果が得られない)系について動径分布関数g(r)の評価を行うと、上記条件II(参考比較例2参照)を満足しないことを確認している。
【0077】
[1-4.第一の重合硬化性組成物(A)における好ましい態様]
第一の重合硬化性組成物(A)においては、上述した短距離秩序構造を確実に得ることができるという理由から、1又は複数の同一粒径球状粒子群の少なくとも一部は、1種の同一粒径球状粒子群と、屈折率が当該1種の同一粒径球状粒子群を構成する無機球状粒子の屈折率よりも小さい樹脂とを含んでなり、上記1種の同一粒径球状粒子群以外の同一粒径球状粒子群を含まない有機-無機複合フィラー(すなわち、単一のG-PIDしか含まない有機-無機複合フィラー)として配合されることが好ましい。
【0078】
ここで、有機-無機複合フィラーとは、(有機)樹脂マトリックス中に無機フィラーが分散した複合体からなる粉体、又は無機フィラーの一次粒子同士が(有機)樹脂で結着された凝集体からなるフィラーを意味する。
【0079】
上記の好ましい態様は、例えば、平均一次粒子径が異なる3種類のG-IDP、すなわちG-PID、G-PID、及びG-PIDを含む場合、そのうちの少なくとも1種の全部又は一部は、「単一のG-PIDしか含まない有機-無機複合フィラー」として配合するというものである。仮にG-PIDの全部をG-PIDのみを含む有機-無機複合フィラー(複合フィラー1)として第一の重合硬化性組成物(A)中に配合した場合には、複合フィラー1内においては、G-PIDしか含まれておらず、G-PIDの構造色を発現するような短距離秩序構造が実現されているため、第一の重合硬化性組成物(A)を硬化させた硬化体(A’)においても、確実にG-PIDの構造色が発現する。G-PIDを複合フィラー化せずに配合した場合には、同時に(複合化されずに)配合されたG-PID及びG-PIDと混錬されるため、ある程度の割合でG-PIDの構成粒子とG-PIDの構成粒子とが相互置換して、G-PIDを構成する無機球状粒子の最近接粒子がG-PIDを構成する無機球状粒子となり、当該無機球状粒子を中心とする領域においては、短距離秩序構造が破壊されることになるものと思われる。これに対し、G-PIDを全て複合フィラー1として配合した場合には、上記のような粒子の相互置換は起こらず、短距離秩序構造が破壊されることはないため、構造色発現に関与しない無機球状粒子の割合を極力小さくすることができ、硬化体(A’)においても確実にG-PIDの構造色を発現させることができる。同様に、G-PID及び/又はG-PIDをG-PIDのみを含む有機-無機複合フィラー(複合フィラー2)及び/又はG-PIDのみを含む有機-無機複合フィラー(複合フィラー3)として配合することにより、これらの構造色も確実に発現させることが可能となる。
【0080】
このような効果が期待でき、さらに第一の重合硬化性組成物(A)の粘度を調整し易いという観点から、各G-PIDの10%~90%、好ましくは20%~80%、より好ましくは30%~70%は、「単一のG-PIDしか含まない有機-無機複合フィラー」として配合することが好ましい。
【0081】
なお、G-PIDを「単一のG-PIDしか含まない有機-無機複合フィラー」以外の形態で配合する場合には、粉体(無機球状粒子集合体としてのG-PIDそのもの)の形態で配合するのが一般的であるが、複数種のG-PIDを含む有機-無機複合フィラーとして配合することも可能である。以下にこの場合も含めて有機―無機複合フィラーについてさらに詳しく説明する。
【0082】
<有機-無機複合フィラー>
上述したように、有機-無機複合フィラーとは、(有機)樹脂マトリックス中に無機フィラーが分散した複合体からなる粉体、又は無機フィラーの一次粒子同士が(有機)樹脂で結着された凝集体からなるフィラーを意味する。
【0083】
第一の重合硬化性組成物(A)で使用する有機-無機複合フィラーでは、無機フィラーとして無機球状粒子を使用し、(有機)樹脂マトリックスを構成する樹脂として、屈折率が無機球状粒子の屈折率よりも小さい樹脂が使用される。当該樹脂は、このような条件を満足するものであれば特に限定されないが、硬化体(A’)の樹脂マトリックスを製造する際に用いられる第一の重合性単量体成分の硬化体であることが好ましい。このとき、第一の重合性単量体成分と全く同じ組成のものである必要はないが、屈折率が当該重合性単量体成分の屈折率と同等となるものを使用することが好ましい。また、上記樹脂(Resin)の屈折率をn(R)とし、上記無機球状粒子の屈折率をn(F)としたときに、いずれの有機-無機複合フィラーにおいても、下記式:
(R)<n(F)
の関係が成り立つ必要がある。そして、この関係は、有機-無機複合フィラーが、屈折率が異なる無機球状粒子を含む場合には、全ての無機球状粒子に対して成り立つ必要がある。n(F)とn(R)との差であるΔn(=n(F)-n(R))は、0.001~0.01であることが好ましく、0.001~0.005であることがより好ましい。
【0084】
無機球状粒子の有機-無機複合フィラーへの含有量は、30質量%~95質量%が好ましい。有機-無機複合フィラーへの含有量が30質量%以上であると、第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体(A’)の着色光が良好に発現するようになり、機械的強度も十分に高めることができる。また、95質量%を超えて有機-無機複合フィラー中に無機球状粒子を含有させることは操作上困難であり、均質なものが得難くなる。無機球状粒子の有機-無機複合フィラーへのより好適な配合量は、40質量%~90質量%である。
【0085】
有機-無機複合フィラーは、無機球状粒子、重合性単量体、及び重合開始剤の各成分の所定量を混合し、加熱、光照射等の方法で重合させた後、粉砕するという、一般的な製造方法に従って製造することができる。このような製法によれば、樹脂マトリックスに無機球状粒子が分散した複合体からなる不定形の有機-無機複合フィラーを得ることができる。
【0086】
また、国際公開第2011/115007号や国際公開第2013/039169号に記載されている方法、すなわち、無機球状粒子の凝集体からなる凝集粒子を、重合性単量体、重合開始剤、及び有機溶媒を含む液状組成物に浸漬した後、有機溶媒を除去し、重合性単量体を加熱、光照射等の方法で重合硬化させる方法によって製造することもできる。このような方法により、無機球状粒子の一次粒子が凝集した状態を実質的に保ったまま、樹脂が各一次粒子の表面の少なくとも一部を覆うとともに、各一次粒子を相互に結合させ、外部に連通する微細な孔を多数有する多孔質性の有機-無機複合フィラーを得ることができる。
【0087】
有機-無機複合フィラーの平均粒子径は、条件(I)及び(II)を満足し易く、さらに硬化体の機械的強度や硬化性ペーストの操作性を良好にする観点から、2μm~100μmであることが好ましく、5μm~50μmであることがより好ましく、5μm~30μmであることがさらに好ましい。
【0088】
有機-無機複合フィラーには、その効果を阻害しない範囲(通常、有機-無機複合フィラー100質量部に対して0.0001質量部~5質量部となる量)で、顔料、重合禁止剤、蛍光増白剤等を添加することができる。また、有機-無機複合フィラーは、シランカップリング剤等による表面処理がなされていてもよい。
【0089】
第一の重合硬化性組成物(A)における有機-無機複合フィラーの配合量は、有機-無機複合フィラー化されていない同一粒径球状粒子群の配合量を勘案し、G-PIDの総量(すなわち、無機球状粒子の総量)が上述した範囲となるように、有機-無機複合フィラー中に含まれる無機球状粒子の量から換算して決定すればよい。
【0090】
[1-5.第一の重合硬化性組成物(A)におけるその他の添加剤]
第一の重合硬化性組成物(A)には、その効果を阻害しない範囲で、重合禁止剤、紫外線吸収剤等の他の添加剤を配合することができる。
【0091】
第一の重合硬化性組成物(A)から得られる硬化体(A’)は、上述したとおり、顔料、染料等の色素成分(着色材)を用いなくても構造色を発現する。したがって、第一の硬化性組成物(A)に、時間経過により変色する虞のある色素成分を配合する必要はない。但し、色素成分の配合自体を完全に否定するものではなく、球状フィラーの干渉による着色光の妨げにならない程度の色素成分は配合しても構わない。具体的には、第一の重合性単量体成分100質量部に対して0.0005質量部~0.5質量部程度、好ましくは0.001質量部~0.3質量部程度の色素成分であれば配合しても構わない。
【0092】
〔2.第二の重合硬化性組成物(B)〕
第二の重合硬化性組成物(B)は、第一の重合硬化性組成物(A)の硬化体(A’)からなる表面露出層の下地となる下地層を形成するための重合硬化性組成物である。第二の重合硬化性組成物(B)は、その硬化体(B’)が所定の明度を有するため、当該硬化体(B’)が表面露出層の下地として存在することにより、窩洞深部に存在する象牙質と同様に、表面露出層を透過する光の量を適度に減じて、III級窩洞やIV級窩洞の修復に用いた場合でも良好な色調適合性を発揮することが可能となる。
【0093】
[2-1.条件(b1)及び(b2)について]
第二の重合硬化性組成物(B)は、第二の重合性単量体成分、色素成分、及び第二の重合開始剤成分を含有する(条件(b1))。そして、色素成分は、第二の重合硬化性組成物(B)の硬化体(B’)からなる厚さ1mmの試料について色差計を用いて黒背景下で測定したときの着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が5以上となるように配合されている(条件(b2))。
【0094】
第二の重合性単量体成分及び第二の重合開始剤成分としては、従来の歯科用充填修復材料として使用されているものを特に制限なく使用でき、例えば、第一の重合性単量体成分及び第一の重合開始剤成分として例示されているものを好適に使用することができる。また、第二の重合硬化性組成物(B)は、充填材を含有していてもよい。但し、充填材と第二の重合性単量体成分(より詳しくは、その硬化体)との間で、屈折率に関する制限はない。第二の重合硬化性組成物(B)においては、第二の重合性単量体成分として(メタ)アクリル系重合性単量体を使用し、当該(メタ)アクリル系重合性単量体100質量部に対して、充填材50質量部~1500質量部及び有効量の重合開始剤を含むことが好ましい。
【0095】
また、色素成分(着色物質又は着色材とも称される。)としては、顔料及び/又は染料が使用される。色素成分が顔料である場合には、無機顔料を好適に使用できる。好適に使用できる無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、硫化亜鉛、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、カーボンブラック、酸化鉄、銅クロマイトブラック、酸化クロムグリーン、クロムグリーン、バイオレット、クロムイエロー、クロム酸鉛、モリブデン酸鉛、チタン酸カドミウム、ニッケルチタンイエロー、ウルトラマリーンブルー、コバルトブルー、ビスマスバナデート、カドミウムイエロー、カドミウムレッド等が挙げられる。なお、本明細書において無機顔料は、無機充填材にも該当する。また、モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、ジアゾ縮合顔料、ペリレン顔料、アントラキノン顔料等の有機顔料も使用することができる。また、色素成分が染料である場合、当該染料としては、KAYASET RED G、KAYASET RED B(いずれも日本化薬(株)製)等の赤色染料;KAYASET Yellow 2G、KAYASET Yellow GN(いずれも日本化薬(株)製)等の黄色染料;KAYASET Blue N、KAYASET Blue G、KAYASET Blue B(いずれも日本化薬(株)製)等の青色染料;などが好適に使用できる。口腔内での色調安定性を考慮すると、水溶性の染料よりも不水溶性の顔料を使用することが好ましい。
【0096】
従来の一般的な歯科用充填修復材料でも、歯牙、歯肉、歯冠材料の色調に合わせるため、色素成分を配合することは一般的に行われているが、第二の重合硬化性組成物(B)は、上記効果を発現する下地層を形成するために、硬化体(B’)が所期の明度を有する必要がある。
【0097】
ここで、所期の明度とは、第二の重合硬化性組成物(B)の硬化体(B’)からなる厚さ1mmの試料について色差計を用いて黒背景下で測定したときの着色光のマンセル表色系による測色値の明度(V)が5以上であることを意味する。上記明度(V)は、色差計(例えば、(有)東京電色製、「TC-1800MKII」等)を用い、黒背景(マンセル表色系による明度が1の下地)下において分光反射率を測定することにより、求めることができる。
【0098】
明度(V)が5未満の場合には、暗い修復物となる傾向にあり審美性に劣ってしまう。明度(V)は、好ましくは5.5以上、より好ましくは6以上である。また、明度が大きすぎると光の反射が大きくなり、表層修復物の発現する構造色の視認性が低下し、修復部と修復歯牙周辺との調和がとれなくなることがある。したがって、明度は9以下が好ましく、8.5以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、7.5以下が特に好ましい。
【0099】
使用する色素成分の種類に応じて、その配合量を適宜調整することにより、明度を制御することができる。具体的には、明度(V)を高くするためには白顔料の配合量を増やし、赤色、黄色、青色等の配合量、特に青色の配合量を減らせばよい。
【0100】
〔3.歯科用充填修復材料キットの構成〕
本実施形態に係る歯科用充填修復材料キットは、第一の重合硬化性組成物(A)及び第二の重合硬化性組成物(B)のみからなっていてもよいが、修復対象となる人歯と修復材との色調をより良く適合させるために、中間層を形成するための特殊な色調の重合硬化性組成物をさらに含んでいてもよい。具体的には、ブリーチング処理した後の不透明で白い歯牙に適した、明度が高く(明度が7より大きく)白い色の重合硬化性組成物や、透明性の高い歯牙に適した、明度が4未満の透明な色の重合硬化性組成物等をさらに含んでいてもよい。
【0101】
このような色調を有する重合硬化性組成物は、一般的な歯科用充填修復材料から採択され、重合性単量体、重合開始剤、充填材、及び着色材を含有するコンポジットレジンが使用される。
【0102】
〔4.歯科用充填修復材料キットの使用方法〕
本実施形態に係る歯科充填修復材料キットは、深層部に象牙質が存在しないような窩洞、すなわち前歯の隣接面窩洞で切縁隅角を含まない窩洞であるIII級窩洞や、前歯の隣接面窩洞で切縁隅角を含む窩洞であるIV級窩洞の修復用として好適に使用することができる。
【0103】
これら窩洞を修復する場合には、先ず、窩洞(欠損部)の深部又は窩洞の裏側に第二の重合硬化性組成物(B)を配置して、厚さ(通常、0.1mm~2mm)や形状を整えて下地層を形成し、必要に応じて硬化させた後に、未硬化状態の下地層又は硬化状態の下地層の上に第一の重合硬化性組成物(A)を配置して形状を整えてから(下地層が未硬化の場合には下地層とともに)これを硬化させ、硬化後に研磨処理を行えばよい。
【実施例
【0104】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0105】
まず、第一の重合硬化性組成物(A)(構造色発現硬化性組成物)が所期の構造色を発現する硬化体を与えること、別言すれば条件(a1)、(a2)、及び(a3)を満たすことにより、その硬化体(A’)が所期の構造色を発現することを、以下に示す参考実施例及び参考比較例(特許文献5の実施例及び比較例に相当する。)により確認した。
【0106】
[参考実施例及び参考比較例]
1.重合性単量体成分
表1に示す組成の重合性単量体混合物であるM1及びM2を使用した。なお、表の重合性単量体欄の略号はそれぞれ以下の化合物を表し、略号後の括弧内の数字は使用した質量部を表す。
【0107】
・UDMA:1,6-ビス(メタクリルエチルオキシカルボニルアミノ)トリメチルヘキサン
・3G:トリエチレングリコールジメタクリレート
・bis-GMA:2,2-ビス[(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン
【0108】
M1及びM2の粘度は、E型粘度計(東京計器(株)製:VISCONIC ELD)を用いて25℃の恒温室にて測定した。
【0109】
硬化前(M1又はM2)の屈折率及び硬化後(硬化体)の屈折率は、アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて25℃の恒温室にて測定した。このとき、硬化体試料は、それぞれ100質量部のM1又はM2に対して、(光重合開始剤としての)カンファーキノン(CQ)0.2質量%、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMBE)0.3質量%、及びヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)0.15質量%を添加して均一に混合したものを、7mmφ×0.5mmの貫通した孔を有する型に入れ、両面にポリエステルフィルムを圧接した後に、光量500mW/cmのハロゲン型歯科用光照射器(Demetron LC、サイブロン社製)を用いて30秒間光照射し硬化させてから型から取り出すことにより作製した。なお、硬化体試料をアッベ屈折率計にセットする際に、硬化体試料と測定面とを密着させる目的で、試料を溶解せず、且つ、試料よりも屈折率の高い溶媒(ブロモナフタレン)を試料に滴下した。
【0110】
【表1】
【0111】
2.無機粒子
2-1.同一粒径球状粒子群(G-PID)
G-PIDとしては、表2に示すG-PID1~G-PID11を使用した。なお、これらの同一粒径球状粒子群は、特開昭58-110414号公報、特開昭58-156524号公報等に記載された方法(いわゆるゾルゲル法)に従って調製した。具体的には、まず、加水分解可能な有機ケイ素化合物(テトラエチルシリケート等)と加水分解可能な有機チタン族金属化合物(テトラブチルジルコネート、テトラブチルチタネート等)とを、表2の組成欄に示すような組成となるように含んだ混合溶液を、アンモニア水を導入したアンモニア性アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール等)溶液中に添加し、加水分解を行って反応生成物を析出させた。次いで、析出物を分離した後、乾燥し、必要に応じて粉砕してから焼成し、該焼成物を得た。
【0112】
次いで、得られた焼成物100質量部に対し、γ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン4質量部及びn-プロピルアミン3質量部を、塩化メチレン500質量部中で撹拌混合し、エバポレーターで塩化メチレンを除去した後、90℃で加熱乾燥を行い、同一粒径球状粒子群の表面処理物とした。
【0113】
なお、表2における平均粒子径(無機球状粒子については平均一次粒子径を意味する。)、±5%内粒子割合〔個数基準粒度分布において平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する粒子数の全粒子数に占める割合(%)を意味する。〕、平均均斉度、及び屈折率は、次のようにして測定した。
【0114】
(1)平均一次粒子径
走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)で粉体の写真を5000倍~100000倍の倍率で撮り、画像解析ソフト(「IP-1000PC」、商品名;旭化成エンジニアリング(株)製)を用いて、撮影した画像の処理を行い、その写真の単位視野内に観察される粒子の数(30個以上)及び一次粒子径(最大径)を測定し、測定値に基づき下記式により数平均一次粒子径を算出した。
【0115】
【数1】
【0116】
(2)±5%内粒子割合〔個数基準粒度分布において平均一次粒子径の前後の5%の範囲に存在する粒子数の全粒子数に占める割合(%)〕
上記写真の単位視野内における全粒子(30個以上)のうち、上記で求めた平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲外の一次粒子径(最大径)を有する粒子の数を計測し、その値を上記全粒子の数から減じて、上記写真の単位視野内における平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲内の粒子数を求め、下記式:
±5%内粒子割合(%)=[(走査型電子顕微鏡写真の単位視野内における平均一次粒子径の前後5%の粒子径範囲内の粒子数)/(走査型電子顕微鏡写真の単位視野内における全粒子数)]×100
に従って算出した。
【0117】
(3)平均均斉度
走査型電子顕微鏡で粉体の写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される同一粒径球状粒子群(G-PID)の粒子について、その数(n:30以上)、粒子の最大径である長径(Li)、該長径に直交する方向の径である短径(Bi)を求め、下記式により算出した。
【0118】
【数2】
【0119】
(4)屈折率
アッベ屈折率計((株)アタゴ製)を用いて液浸法によって測定した。すなわち、25℃の恒温室において、100mLのサンプル瓶中、同一粒径球状粒子群(G-PID)を無水トルエン50mL中に分散させた。この分散液をスターラーで撹拌しながら1-ブロモトルエンを少しずつ滴下し、分散液が最も透明になった時点の分散液の屈折率を測定し、得られた値を同一粒径球状粒子群(G-PID)の屈折率とした。
【0120】
【表2】
【0121】
2-2.有機-無機複合フィラー(CF1)
表2に示す同一粒径球状粒子群(G-PID5)100gを200gの水に加え、循環型粉砕機SCミル(日本コークス工業(株)製)を用いてこれらの水分散液を得た。
【0122】
一方、4g(0.016mol)のγ―メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランと0.003gの酢酸とを80gの水に加え、1時間30分撹拌し、pH4の均一な溶液を得た。この溶液を上記の水分散液に添加し、均一になるまで混合した。その後、分散液を軽く混合しながら、高速で回転するディスク上に供給して噴霧乾燥法により造粒した。噴霧乾燥は、回転するディスクを備え、遠心力で噴霧化する噴霧乾燥機TSR-2W((株)坂本技研製)を用いて行った。ディスクの回転速度は10000rpm、乾燥雰囲気空気の温度は200℃であった。その後、噴霧乾燥により造粒されて得られた粉体を60℃で18時間真空乾燥し、略球形状の凝集体を73g得た。
【0123】
次いで、重合性単量体成分M1を10g、熱重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.025g、さらに有機溶媒としてメタノールを5.0g混合した重合性単量体溶液(有機溶媒100質量部に対して重合性単量体成分36質量部を含有)に、上記凝集体50gを浸漬させた。十分撹拌し、この混合物がスラリー状になったことを確認した後、1時間静置した。
【0124】
上記の混合物をロータリーエバポレーターに移した。撹拌状態で、減圧度10hPa、加熱条件40℃(温水バスを使用)の条件下で、混合物を1時間乾燥し、有機溶媒を除去した。有機溶媒を除去すると、流動性の高い粉体が得られた。得られた粉体を、ロータリーエバポレーターで撹拌しながら、減圧度10hPa、加熱条件100℃(オイルバスを使用)の条件下で1時間加熱することにより、粉体中の重合性単量体を重合硬化させた。この操作により、球形状の凝集体の表面が有機重合体で被覆された、略球形状の有機-無機複合フィラー(CF1)を45g得た。この有機-無機複合フィラーの平均粒子径は33μmであった。
【0125】
2-3.超微細粒子(G-SFP)
G-SFPとしては、レオロシールQS-102(平均一次粒子径30nm、(株)トクヤマ製)を使用した。
【0126】
2-4.不定形無機粒子
表2に示す不定形無機粒子F1を使用した。不定形無機粒子F1は、特開平2-132102号公報、特開平3-197311号公報等に記載の方法に従い、アルコキシシラン化合物を有機溶剤に溶解し、これに水を添加して部分加水分解した後、さらに複合化する他の金属のアルコキサイド及びアルカリ金属化合物を添加して加水分解してゲル状物を生成させ、次いで該ゲル状物を乾燥後、必要に応じて粉砕し、焼成することにより調製した。なお、平均一次粒子径(不定形粒子については破砕粒子の平均粒子径を意味する。)、±5%内粒子割合、及び屈折率はG-PIDと同様にして測定した。
【0127】
3.重合開始剤
重合開始剤としては、カンファーキノン(CQ)、p-N,N-ジメチルアミノ安息香酸エチル(DMBE)、及びヒドロキノンモノメチルエーテル(HQME)の組み合わせからなる光重合開始剤を使用した。
【0128】
<参考実施例1>
重合性単量体成分M1:100質量部に対して、CQ:0.3質量部、DMBE:1.0質量部、及びHQME:0.15質量部を加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、G-PID4:400質量部及び超微細粒子群(G-SFP):0.5質量部を計りとり、上記重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、混練機プラネタリーミキサー((株)井上製作所製)を用いて十分に混練し、均一な硬化性ペーストとした。さらに、このペーストを減圧下脱泡して気泡を除去し、重合硬化性組成物{第一の重合硬化性組成物(A)}を調製した。得られた重合硬化性組成物の硬化体(A’)について、(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価、及び(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価を行った。重合硬化性組成物の組成(マトリックス欄についてはマトリックスとなる樹脂を与える重合性単量体成分を記載している。)及び評価結果を表3~表5に示す。また、参考実施例1の硬化体における観察平面の走査型電子顕微鏡画像の一例を図1Aに示し、その走査型電子顕微鏡画像から得られた座標データの一例を図1Bに示し、その座標データから決定されるパラメータに基づいて計算されたg(r)に関する動径分布関数グラフを図2に示す。参考実施例1では、10回中10回の割合で再現性よく、動径分布関数の条件I及び条件IIを満足する硬化体を与える均一な組成物を得ることができた。
【0129】
なお、上記各評価及び測定は、以下に示す方法で行った。
【0130】
(1)目視による着色光の評価
重合硬化性組成物(ペースト)を7mmφ×1mmの貫通した孔を有する型にいれ、両面をポリエステルフィルムで圧接した。可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で両面を30秒ずつ光照射し硬化させた後、型から取り出して評価試料を作製した。得られた評価試料を10mm角程度の黒いテープ(カーボンテープ)の粘着面に載せ、目視にて着色光の色調を確認した。
【0131】
(2)着色光の波長
(1)と同様にして作成した評価試料について、色差計((有)東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて、背景色黒、背景色白で分光反射率を測定し、背景色黒における反射率の極大点を着色光の波長とした。
【0132】
(3)色彩計による色調適合性の評価
右下6番の咬合面中央部にI級窩洞(直径4mm、深さ2mm)を再現した硬質レジン歯を用いて、欠損部に重合硬化性組成物(ペースト)を充填して硬化させ、研磨することによって模擬修復を行った。模擬修復後の色調適合性を二次元色彩計((株)パパラボ製、「RC-500」)にて評価した。なお、硬質レジン歯としては、シェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるA系(赤茶色)の範疇にある高彩度の硬質レジン歯(A4相当)及び低彩度の硬質レジン歯(A1相当)、並びにシェードガイド(「VITAClassical」、VITA社製)におけるB系(赤黄色)の範疇にある高彩度の硬質レジン歯(B4相当)及び低彩度の硬質レジン歯(B1相当)を用いた。
【0133】
硬質レジン歯を二次元色彩計にセットし、硬質レジン歯を撮影した後、画像解析ソフト((株)パパラボ製、「RC Series Image Viewer」)を用いて撮影した画像の処理を行い、硬質レジン歯の修復部及び非修復部の測色値の色差(CIELabにおけるΔE)を求め、色調適合性の評価を行った。
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2
ΔL=L1-L2
Δa=a1-a2
Δb=b1-b2
なお、L1:硬質レジン歯の修復部の明度指数、a1,b1:硬質レジン歯の修復部の色質指数、L2:硬質レジン歯の非修復部の明度指数、a2,b2:硬質レジン歯の非修復部の色質指数、ΔE:色調変化量である。
【0134】
(4)目視による色調適合性の評価
(3)と同様にして模擬修復を行い、修復後の色調適合性を目視にて確認した。評価基準を以下に示す。
-評価基準-
5:修復物の色調が硬質レジン歯と見分けがつかない。
4:修復物の色調が硬質レジン歯と良く適合している。
3:修復物の色調が硬質レジン歯と類似している。
2:修復物の色調が硬質レジン歯と類似しているが適合性は良好でない。
1:修復物の色調が硬質レジン歯と適合していない。
【0135】
(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価
重合硬化性組成物(ペースト)を5mmφ×10mmの貫通した孔を有する型にいれ、両面をポリエステルフィルムで圧接した。可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で両面を30秒ずつ光照射して硬化させた後、型から取り出して、重合硬化性組成物(ペースト)の硬化体を得た後、当該硬化体中の球状粒子の分散状態を走査型電子顕微鏡(フィリップス社製、「XL-30S」)にて観察することにより動径分布関数を求め、評価を行った。具体的には、イオンミリング装置((株)日立製作所製、「IM4000」)を用いて硬化体の断面ミリングを2kV、20分間の条件にて行い、観察平面とした。当該観察面について走査型電子顕微鏡により平面内に1000個の球状粒子を含有している領域の顕微鏡画像を取得し、得られた走査型電子顕微鏡画像を画像解析ソフト(「Simple Digitizer ver3.2」フリーソフト)により解析し、上記領域内の球状粒子の座標を求めた。得られた座標データから任意の球状粒子の座標を1つ選択し、選択した球状粒子を中心に少なくとも200個以上の球状粒子が含まれる距離rを半径とする円を描き、円内に含まれる球状粒子の個数を求め、平均粒子密度<ρ>(単位:個/cm)を算出した。drは、r/100~r/10(rは球状粒子の平均粒子径を示す。)程度の値であり、中心の球状粒子から距離rの円と距離r+drの円との間の領域内に含まれる粒子の数dn、及び上記領域の面積daを求めた。このようにして求めた<ρ>、dn、daの値を用いて、下記式(1):
g(r)={1/<ρ>}×{dn/da}・・・(1)
を計算し、動径分布関数g(r)を求めた。そして、動径分布関数とr/r(rは円の中心からの任意の距離を示し、rは球状粒子の平均粒子径を示す。)との関係を示すグラフを作成し、動径分布関数の条件I及び条件IIについて、条件を満足するものを「S」、満足しないものを「N」として評価した。
【0136】
【表3】
【0137】
【表4】
【0138】
【表5】
【0139】
<参考実施例2~4>
重合硬化性組成物の組成を表3に示すように変更するほかは参考実施例1と同様にして硬化体を得た。得られた硬化体について、参考実施例1と同様にして、(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価、及び(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価を行った。評価結果を表3~表5に示す。また、参考実施例2~4の硬化体における動径分布関数グラフを図3図5に示す。参考実施例2~4においても、10回中10回の割合で再現性よく、動径分布関数の条件I及び条件IIを満足する硬化体を与える均一な組成物を得ることができた。
【0140】
<参考比較例1、3~5>
重合硬化性組成物の組成を表3に示すように変更するほかは参考実施例1と同様にして硬化体を得た。得られた硬化体について、参考実施例1と同様にして、(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、及び(4)目視による色調適合性の評価を行った。評価結果を表3~表5に示す。
【0141】
<参考比較例2>
重合性単量体成分M1:100質量部に対して、CQ:0.3質量部、DMBE:1.0質量部、及びHQME:0.15質量部を加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、G-PID2:400質量部及び超微細粒子群(G-SFP):0.5質量部を計りとり、上記重合性単量体組成物を赤色光下にて徐々に加えていき、乳鉢を用いて混練し、硬化性ペーストとした。さらに、このペーストを減圧下で脱泡して気泡を除去し、重合硬化性組成物を調製した。得られた重合硬化性組成物の硬化体について、(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、(3)色彩計による色調適合性の評価、(4)目視による色調適合性の評価、及び(5)無機球状粒子の動径分布関数の評価を行った。重合硬化性組成物の組成(マトリックス欄についてはマトリックスとなる樹脂を与える重合性単量体成分を記載している。)及び評価結果を表3~表5に示す。また、参考比較例2の硬化体における動径分布関数グラフを図6に示す。参考比較例2では、5回中1回の割合で良好な評価を得ることができなかった。表に示す評価結果は、この系についてのものである。
【0142】
参考実施例1~4の結果から理解されるように、これら重合硬化性組成物の硬化体は、黒背景化で着色光を示し、色調適合性が良好であることが分かる。
【0143】
図1A図1B、及び図2に示す結果から理解されるように、参考実施例1で得られた重合硬化性組成物の硬化体は、最近接粒子間距離rが粒子径rの1.03倍となる位置(r/rが1.03)において動径分布関数g(r)の第1の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の動径分布関数g(r)の極小値が0.60となっており、条件I及び条件IIを満足していることが確認された。
【0144】
図3に示す結果から理解されるように、参考実施例2で得られた重合硬化性組成物の硬化体は、最近接粒子間距離rが粒子径rの1.24倍となる位置(r/rが1.24)において動径分布関数g(r)の第1の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の動径分布関数g(r)の極小値が0.62となっており、条件I及び条件IIを満足していることが確認された。
【0145】
図4に示す結果から理解されるように、参考実施例3で得られた重合硬化性組成物の硬化体は、最近接粒子間距離rが粒子径rの1.41倍となる位置(r/rが1.41)において動径分布関数g(r)の第1の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の動径分布関数g(r)の極小値が0.88となっており、条件I及び条件IIを満足していることが確認された。
【0146】
図5に示す結果から理解されるように、参考実施例4で得られた重合硬化性組成物の硬化体は、最近接粒子間距離rが粒子径rの1.04倍となる位置(r/rが1.04)において動径分布関数g(r)の第1の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の動径分布関数g(r)の極小値が0.80となっており、条件I及び条件IIを満足していることが確認された。
【0147】
参考比較例1、3~5の結果から理解されるように、これら重合硬化性組成物の硬化体は、所望の色調が得られず(参考比較例1:n(MX)<n(G-PIDm)を満たしていない。)、黒背景化で着色光を示さず(参考比較例3:G-PIDの平均一次粒子径が80nm、参考比較例4:フィラーの形状が不定形、参考比較例5:G-PIDの個々の粒子の平均一次粒子径の差が25nm未満である。)、色調適合性に劣っていることが分かる。
【0148】
参考比較例2の結果から理解されるように、組成物の混練状態が不均一となった場合、歯質との色調適合性に劣っていることが分かる。
【0149】
図6に示す結果から理解されるように、参考比較例2で得られた重合硬化性組成物の硬化体は、最近接粒子間距離rが粒子径rの1.58倍となる位置(r/rが1.58)において動径分布関数g(r)の第1の極大ピークが観測され、次近接粒子間距離rとの間の動径分布関数g(r)の極小値が0.18となっており、条件IIを満足していないことが確認された。
【0150】
[実施例及び比較例]
(表面露出層形成用重合硬化性組成物の調製)
表1に示した重合性単量体混合物M1又はM2、表2に示したG-PID、G-SFP、及び重合開始剤成分(CQ、DMBE、及びHQME)を用い、参考実施例1に準じて表6に示す配合組成の均一な表面露出層形成用重合硬化性組成物を調製した。A―1~A-5は第一の重合硬化性組成物(A)に該当し、A-6~A-10は第一の重合硬化性組成物(A)に該当しない。得られた各重合硬化性組成物の硬化体について、参考実施例1と同様にして、(1)目視による着色光の評価、(2)着色光の波長測定、及び(3)無機球状粒子の動径分布関数の評価を行った。結果を表6に示す。
【0151】
【表6】
【0152】
(下地層形成用重合硬化性組成物の調製)
重合性単量体成分M2:100質量部に対して、CQ:0.3質量部、DMBE:1.0質量部、及びHQME:0.15質量部を加えて混合し、均一な重合性単量体組成物を調製した。次に、乳鉢にPF-1:75質量部を計りとり、上記重合性単量体組成物をM2の配合量が25質量部となるように赤色光下にて徐々に加えていき、暗所にて十分に混練し、さらに白顔料、黄顔料、赤顔料、及び青顔料を表7に示す量だけ加えて混練し、均一な硬化性ペーストとした。さらに、このペーストを減圧下で脱泡して気泡を除去し、下地層形成用重合硬化性組成物:B-1~B-6を製造した。得られた重合硬化性組成物の硬化体の黒背景での明度を次のようにして評価した。すなわち、調製された重合硬化性組成物のペーストを7mmφ×1mmの貫通した孔を有する型にいれ、両面にポリエステルフィルムを圧接した。可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で両面を30秒ずつ光照射し硬化させた後、型から取り出して、色差計((有)東京電色製、「TC-1800MKII」)を用いて黒背景での明度(V)を測定した。結果を表7に示す。表7に示すとおり、B―2~B-6は第二の重合硬化性組成物(B)に該当し、B-1は第二の重合硬化性組成物(B)に該当しない。
【0153】
【表7】
【0154】
<実施例1~10、比較例1~6>
表8に示す下地層形成用重合硬化性組成物及び表面露出層形成用重合硬化性組成物を用いて模擬窩洞の修復を行い、色調適合性の評価を行った。結果を表8に示す。
【0155】
(1)色調適合性の評価
右上1番のIV級窩洞(深さ5mm、高さ7mm、幅4mm)を再現した歯牙修復用模型歯を用いて次のような模擬修復を行った。すなわち、まず、欠損部に下地層形成用重合硬化性組成物を0.5mmの厚みで舌側に充填し、可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で30秒間光照射して硬化させ、下地層を形成した。次いで、形成された下地層上に表面露出層形成用重合硬化性組成物を積層充填し、欠損部を歯牙形態に形成した後に、可視光線照射器((株)トクヤマ製、パワーライト)で30秒間光照射して硬化させ、表面露出層を形成した。その後、充填部を研磨して欠損部の模擬修復を終え、色調適合性を目視にて確認し、下記評価基準に従って評価した。なお、歯牙修復用模型歯としては、シェードガイド「VITAPAN Classical」におけるA2(赤茶色)の範疇にある高明度模型歯及び低明度模型歯を用いた。
-評価基準-
A:修復物の色調が歯牙修復用模型歯と良く適合している。
B:修復物の色調が歯牙修復用模型歯と類似している。
C:修復物の色調が歯牙修復用模型歯と類似しているが適合性は良好でない。
D:修復物の色調が歯牙修復用模型歯と適合していない。
【0156】
【表8】
【0157】
表8に示されるように、表面露出層形成用重合硬化性組成物として第一の重合硬化性組成物(A):A-1~A-6を用い、下地層形成用重合硬化性組成物として第二の重合硬化性組成物(B):B-2~B-6を用いた実施例1~10では、表面露出層が黒背景下で光の干渉により黄~赤色の着色光を示し、色調適合性が良好であった。これに対し、硬化体の明度が4.2である下地層形成用重合硬化性組成物:B-1を用いた比較例1では、表面露出層形成用重合硬化性組成物として第一の重合硬化性組成物(A)を用いているにも関わらず、色調適合性は低かった。また、第一の重合硬化性組成物(A)に該当しない表面露出層形成用重合硬化性組成物:A-6~A-10を用いた比較例2~6では、下地層形成用重合硬化性組成物として硬化体の明度が7.3である第二の重合硬化性組成物(B):B-5を用いているにも関わらず、色調適合性は低かった。

図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6