(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-10-11
(45)【発行日】2024-10-22
(54)【発明の名称】ピッチコントロール剤
(51)【国際特許分類】
D21H 21/02 20060101AFI20241015BHJP
【FI】
D21H21/02
(21)【出願番号】P 2022054497
(22)【出願日】2022-03-29
【審査請求日】2024-08-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】川頭 勇太
(72)【発明者】
【氏名】榎本 幸典
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-126996(JP,A)
【文献】特開平7-166487(JP,A)
【文献】特開2021-095467(JP,A)
【文献】特開平7-279081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21C 9/08
D21H 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物を含むピッチコントロール剤。
【化1】
Rは、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基であり、AOはオキシエチレン基及びオキシプロピレン基の少なくとも一方であり、n1、n2、m1、m2、l1及びl2は、平均付加モル数であり、n1+n2が2~4であり、m1+m2+l1+l2が12~25である。
【請求項2】
前記プロピレンオキシドエチレンオキシド付加物が、下記式(2)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物である、請求項1記載のピッチコントロール剤。
【化2】
Rは、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基であり、n1、n2、s1及びs2は、平均付加モル数であり、n1+n2が2~4であり、s1+s2が12~20である。
【請求項3】
POとEOとは上記式(2)で表される順番でブロック結合している、請求項2記載のピッチコントロール剤。
【請求項4】
紙の製造工程において、請求項1から3のいずれかに記載のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含む、ピッチコントロール方法。
【請求項5】
紙の製造工程において、請求項1から3のいずれかに記載のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含む、紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ピッチコントロール剤、ピッチコントロール方法及びそれらを用いた紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、製紙工程(なかでも特に抄紙工程)においてはピッチによる障害が発生することが問題となっている。これを抑制及び/又は防止するために、様々な薬剤の開発が行われている。ピッチとは、木材、パルプ及び紙等から遊離した天然樹脂やガム物質、さらには紙及びパルプの製造工程で使用される添加剤等に由来する有機物を主体とする非水溶性の粘着物質のことをいう。
【0003】
一般に、ピッチは、紙及びパルプの製造における工程水、すなわち、パルプスラリーや白水等の中においてコロイド状態で分散している。しかし、何らかの外的作用がピッチに作用することによってそのコロイド状態が破壊され、その結果、ピッチが凝集して巨大化すると考えられている。外的作用としては、例えば、大きな剪断力、pHの急激な変化、及び硫酸バンド(硫酸アルミニウム)の過剰添加等がある。
凝集して巨大化したピッチは、その粘着性により、ファンポンプ、配管内、チェスト、ワイヤー、フェルト及びロール等の製造装置類に付着するだけでなく、この付着物が剥離して紙やパルプに再付着する。ピッチが再付着することにより形成された紙の汚点及び/又は欠点が紙製品の品質を低下させ、さらには発生する断紙が生産性・作業性を低下させる等の障害を引き起こす。
【0004】
ピッチ障害を抑制するために、様々な方法が提案されている。特許文献1は、ポリオキシエチレンアルキルアミン化合物である非イオン界面活性剤を用いたピッチ障害の抑制方法を開示する。特許文献2は、ポリオキシアルキレンアルキルアミンブロック共重合体、有機ホスホン酸及び非イオン界面活性剤(ポリオキシアルキレンアルキルアミンを除く)を有効成分とするストーンロール汚れ防止剤を用いた、ストーンロールからの湿紙の剥離性の改善方法に関する。同文献は、該ストーンロール汚れ防止剤によってピッチの堆積を防ぐことを開示する。特許文献3は、ポリオキシアルキレンアルキルアミン及びポリオキシアルキレンアルキルアミドからなる群から選択される一つと、金属イオン封鎖剤とを含むピッチコントロール剤を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特公昭63-23320号公報
【文献】特開平11-217787号公報
【文献】特開平04-352893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、紙の多様化により添加剤の種類やその使用量が増加している。また、古紙配合率の増加に加えて、中性抄造化や抄紙系用水のクローズド化により、ピッチ障害の発生が増加すると共に、その発生形態が複雑化している。このため、より効果的にピッチをコントロール可能な薬剤及び方法が求められている。
【0007】
本開示は紙の製造工程において、ピッチの分散性を向上可能なピッチコントロール剤、ピッチコントロール方法、及びそれらを用いた紙の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様として、下記式(1)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物を含むピッチコントロール剤に関する。
【化1】
Rは、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基であり、AOはオキシエチレン基及びオキシプロピレン基の少なくとも一方であり、n1、n2、m1、m2、l1及びl2は、平均付加モル数であり、n1+n2が2~4であり、m1+m2+l1+l2が12~25である。
【0009】
本開示は、その他の態様として、紙の製造工程において、本開示のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含むピッチコントロール方法に関する。
【0010】
本開示は、その他の態様として、紙の製造工程において、本開示のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含む紙の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示は、一又は複数の実施形態において、ピッチの分散性を向上可能なピッチコントロール剤、ピッチコントロール方法、及びそれらを用いた紙の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、ピッチ分散試験の結果の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、下記式(1)で表されるアルキルアミン又はアルケニルアミンの窒素原子にPOを付加した後EOを付加したプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物を含有するピッチコントロール剤を用いることにより、製紙工程において発生し得るピッチの分散性を向上でき、製紙工程におけるピッチトラブルを抑制できうる、という知見に基づく。
【化2】
【0014】
本開示によれば、製紙工程におけるピッチトラブルを抑制でき、さらには安定な操業や高品質な紙製品の製造が可能になるという効果を奏し得る。
【0015】
本開示における「ピッチ」とは、製紙工程におけるパルプが含有する、機械パルプやクラフトパルプに由来する樹脂状物質の他、古紙パルプに由来する合成樹脂を総称するものをいう。本開示におけるパルプとしては、一又は複数の実施形態において、晒化学パルプ、未晒化学パルプ、晒機械パルプ、未晒機械パルプ、古紙パルプ(DIP)及びブロークパルプ等が挙げられる。晒化学パルプ及び未晒化学パルプとしては、クラフトパルプ(KP)及びサルファイトパルプ(SP)等が挙げられる。晒機械パルプ及び未晒機械パルプとしては、砕木パルプ(GP)及びサーモメカニカルパルプ(TMP)等が挙げられる。
【0016】
[ピッチコントロール剤]
本開示のピッチコントロール剤は、下記式(1)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物(以下、「式(1)の化合物」という)を含有する。
【化3】
式(1)において、Rは、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基であり、AOはオキシエチレン基及びオキシプロピレン基の少なくとも一方であり、n1、n2、m1、m2、l1及びl2は、平均付加モル数であり、n1+n2が2~4であり、m1+m2+l1+l2が12~25である。
【0017】
本開示のピッチコントロール剤は、一又は複数の実施形態において、製紙工程水系に添加することにより、ピッチの分散性を向上させることができる。このため、例えば、製紙工程において発生しうるピッチトラブルを抑制することができる。
【0018】
本開示における「製紙工程」とは、原質系、原料調成系、白水循環系及び白水回収系(以下、これらを併せて「循環水系」とも云う。)を包含するパルプ/紙を製造する工程を意味し、さらには、抄紙マシンにおいてワイヤーパートやプレスパートから排出される水溶液(いわゆる「白水」)の回収系及び再利用系までを含めた水循環工程全体を含みうる。本開示における「製紙工程水系」としては、一又は複数の実施形態において、パルプスラリー及び白水をはじめ、原質系、原料調成系、白水循環系及び白水回収系といった循環水系の工程水、及び水循環工程水系に供給される工業用水や再利用水を含みうる。
【0019】
上記式(1)の化合物は、アルキルアミン又はアルケニルアミンの窒素原子の2つの結合手それぞれにオキシプロピレン基(PO)が少なくとも1つ結合している。すなわち、式(1)の化合物は、アミンの窒素原子にオキシプロピレン基が直接付加している。
式(1)において、AOにおけるEO及びPOの付加形態は、一又は複数の実施形態において、ブロックであってもよいし、ランダムであってもよい。
式(1)の化合物において、オキシプロピレン基が付加していることは、一又は複数の実施形態において、赤外線分光法(IR)によって確認できる。また、式(1)の化合物において、アミンの窒素原子にオキシプロピレン基が直接付加していることは、合成時の付加順によって決まる。
【0020】
式(1)において、Rは、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数としては、ピッチの分散性をさらに向上させる点から、一又は複数の実施形態において、10以上であり、好ましくは12以上である。同様の観点から、炭素数は、一又は複数の実施形態において、20以下であり、好ましくは18以下である。
【0021】
式(1)において、R-Nで表されるアルキルアミン又はアルケニルアミンとしては、一又は複数の実施形態において、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルンアミン、及びオレイルアミン等が挙げられ、ピッチの分散性をさらに向上させる点から、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、及びステアリルアミン等が好ましい。
【0022】
式(1)の化合物としては、一又は複数の実施形態において、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンステアリルアミン、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンラウリルアミン、ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンミリスチルアミン、及びポリオキシプロピレンポリオキシエチレンパルミチルアミン等が挙げられる。
【0023】
式(1)において、n1及びn2はオキシプロピレン基の平均付加モル数であり、m1及びm2はオキシエチレン基の平均付加モル数であり、l1及びl2はオキシアルキレン基の平均付加モル数である。
n1+n2は、一又は複数の実施形態において、2、3又は4であり、ピッチの分散性をさらに向上させる点から、2又は4が好ましい。n1は、一又は複数の実施形態において、1、2又は3である。n2は、一又は複数の実施形態において、1、2又は3である。
m1+m2+l1+l2は、一又は複数の実施形態において、12~25の整数であり、好ましくは12~20又は14~20である。m1+m2は、一又は複数の実施形態において、2~20であり、好ましくは12~20である。
【0024】
本開示において、式(1)の化合物は、ピッチの分散性をさらに向上させる点から、下記式(2)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物(以下、「式(2)の化合物」ともいう)が好ましい。式(2)において、Rは、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基である。式(2)におけるRは、式(1)と同じである。
【化4】
【0025】
式(2)において、n1及びn2はオキシプロピレン基の平均付加モル数であり、s1及びs2はオキシエチレン基の平均付加モル数である。
n1+n2は、一又は複数の実施形態において、2、3又は4であり、ピッチの分散性をさらに向上させる点から、2又は4が好ましい。n1は、一又は複数の実施形態において、1、2又は3である。n2は、一又は複数の実施形態において、1、2又は3である。
s1+s2は、一又は複数の実施形態において、12~25の整数であり、好ましくは12~20又は14~20であり、より好ましくは12~20である。
【0026】
式(2)において、アミンの窒素原子にオキシプロピレン基が直接付加している以外は、その他の付加形態は特に限定されず、ブロックであってもよいし、ランダムであってもよい。ピッチの分散性をさらに向上させる点から、POとEOとは上記式(2)で表される順番でブロック結合していることが好ましい。
【0027】
本開示における上記式(1)又は(2)の化合物は、一又は複数の実施形態において、アルキルアミン又はアルケニルアミンの窒素原子にオキシプロピレン基を付加させた後、オキシエチレン基を付加させることにより製造することができる。必要に応じて、オキシエチレン基を付加させた後、オキシプロピレン基及び/又はオキシエチレン基をさらに付加させてもよい。さらなるオキシプロピレン基及び/又はオキシエチレン基は、一又は複数の実施形態において、ブロックであってもよいし、ランダムであってもよい。
【0028】
本開示のピッチコントロール剤における式(1)又は(2)の化合物の配合量は、一又は複数の実施形態において、ピッチコントロール剤である水性懸濁液の質量に対して、1~30質量%であり、好ましくは3~30質量%であり、より好ましくは10~25質量%である。
【0029】
本開示のピッチコントロール剤は、一又は複数の実施形態において、必要に応じて、重合体、キレート剤、ビルダー、有機酸、pH調整剤、溶剤、消泡剤、殺菌剤、防腐剤、着色料及び香料等をさらに含有してもよい。
【0030】
本開示のピッチコントロール剤は、一又は複数の実施形態において、濾水性向上剤、歩留り向上剤、凝結剤、サイズ剤、他のピッチ抑制剤、潤滑剤、剥離性向上剤、洗浄剤、酸及びアルカリ等の添加剤と併用してもよい。
【0031】
本開示のピッチコントロール剤は、一又は複数の実施形態において、上記式(1)又は(2)の化合物と分散媒(例えば、水等)と混合して製剤化することにより製造することができる。必要に応じて、上記のその他の薬剤を混合してもよい。
【0032】
[ピッチコントロール方法]
本開示は、その他の態様として、紙の製造工程において、本開示のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含むピッチコントロール方法に関する。本開示のピッチコントロール方法によれば、一又は複数の実施形態において、ピッチの分散性を向上させることができ、製紙工程におけるピッチトラブル(ピッチ障害)を抑制することができる。
【0033】
ピッチコントロール剤の添加量は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーのパルプ固形分及びピッチの発生状態等に応じて決定することができる。式(1)又は(2)の化合物の添加量は、一又は複数の実施形態において、パルプスラリーの固形分(絶乾パルプ濃度)に対して5ppm~2000ppmであり、好ましくは25ppm~1000ppm、さらに好ましくは100ppm~500ppmである。
【0034】
ピッチコントロール剤の製紙工程水系への添加は、一又は複数の実施形態において、連続的に行ってもよいし、間欠的に行ってもよい。
【0035】
ピッチコントロール剤の添加箇所としては、一又は複数の実施形態において、マシンチェスト、ミキシングチェスト、原料パルプチェスト及び種箱、並びにそれらの配管等が挙げられる。ピッチコントロール剤の添加箇所としては、一又は複数の実施形態において、パルパー、リファイナー、スクリュープレス、ダブルセパレーター、精選スクリーン、ロータリースクリーン、ウォッシャー、シックナー、及びファンポンプ等が挙げられる。
【0036】
本開示のピッチコントロール方法は、一又は複数の実施形態において、ピッチが付着する製造装置に、本開示のピッチコントロール剤を直接噴霧することを含んでいてもよい。本開示のピッチコントロール剤の噴霧は、一又は複数の実施形態において、本開示のピッチコントロール剤を洗浄シャワー水に添加して行ってもよい。また、ピッチコントロール剤を紙・パルプ製造工程水で希釈してから、製造装置に散布、噴霧又は浸漬してもよい。
本開示のピッチコントロール剤の噴霧は、一又は複数の実施形態において、製造設備の稼動前又は稼動中に、連続的又は間欠的に行うことができる。
【0037】
対象となる製造装置としては、特に制限されるものではなく、一又は複数の実施形態において、ワイヤー、フェルト及びロール等が挙げられる。ロールとしては、一又は複数の実施形態において、センターロール、テーブルロール、ブレストロール、ダンディロール、ワイヤーリターンロール、クーチロール、プレスロール、サクションロール、ペーパーロール、及びバッキングロール等が挙げられる。その他の設備としては、一又は複数の実施形態において、スライスリップ、フォーミングボード、フォイル、ドクター、サクションボックス、ユールボックス、及びカンバス等が挙げられる。
【0038】
[紙の製造方法]
本開示は、その他の態様として、紙の製造工程において、本開示のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含む紙の製造方法に関する。本開示の紙の製造方法における製紙工程水系への本開示のピッチコントロール剤の添加は、本開示のピッチコントロール方法と同様に行うことができる。
【0039】
製造される紙の種類は、特に限定されず、一又は複数の実施形態において、新聞用紙、印刷用紙、情報用紙、包装用紙、衛生用紙、雑種紙、段ボール原紙、紙器用板紙、及び雑板紙等が挙げられる。印刷用紙としては上質紙やコート紙等が例示でき、情報用紙としてはPPC用紙や感熱紙原紙等が例示でき、包装用紙としては純白ロール紙や晒クラフト紙等が例示でき、衛生用紙としてはティッシュペーパーやトイレットペーパー等が例示でき、雑種紙としては食品容器原紙や塗工印刷用原紙などが例示でき、段ボール原紙としてはライナーや中しん原紙などが例示でき、紙器用板紙としては白板紙や色板紙などが例示でき、雑板紙としては石膏ボードや紙管原紙などが例示できる。
【0040】
本開示はさらに以下の一又は複数の実施形態に関する。
[1] 下記式(1)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物を含むピッチコントロール剤。
【化5】
Rは、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基であり、AOはオキシエチレン基及びオキシプロピレン基の少なくとも一方であり、n1、n2、m1、m2、l1及びl2は、平均付加モル数であり、n1+n2が2~4であり、m1+m2+l1+l2が12~25である。
[2] 前記プロピレンオキシドエチレンオキシド付加物が、下記式(2)で表されるアミンのプロピレンオキシドエチレンオキシド付加物、[1]記載のピッチコントロール剤。
【化6】
Rは、炭素数8~22のアルキル基又はアルケニル基であり、POはオキシプロピレン基であり、EOはオキシエチレン基であり、n1、n2、s1及びs2は、平均付加モル数であり、n1+n2が2~4であり、s1+s2が12~20である。
[3] POとEOとは上記式(2)で表される順番でブロック結合している、[2]記載のピッチコントロール剤。
[4] 紙の製造工程において、[1]から[3]のいずれかに記載のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含む、ピッチコントロール方法。
[5] 紙の製造工程において、[1]から[3]のいずれかに記載のピッチコントロール剤を製紙工程水系に添加することを含む、紙の製造方法。
【0041】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0042】
以下の実施例及び比較例では、下記表1に示す組成を有する非イオン界面活性剤を使用した。下記表1において、括弧内の数字はPO及びEOの付加モル数を示し、EO/PO付加順はアルキルアミンの窒素原子にPOを付加した後EOを付加したものを「PO-EO」、アルキルアミンにEOを付加した後POを付加したものを「EO-PO」と示す。
【表1】
【0043】
[ピッチ分散試験]
(1)ピッチコントロール剤の調製
表1の各非イオン界面活性剤を水で希釈して25%水溶液を調製した。
(2)模擬ピッチ溶液の調製
模擬ピッチ(50%アビエチン酸、10%オレイン酸、10%パルミチン酸、10%コーン油、5%オレイルアルコール、5%ステアリン酸メチル、5%β-シトステロール、及びカプロン酸コレステロールの均質な混合物)を30重量%となるようにエタノールに溶解した後、ズダンIV(富士フィルム和光純薬(株)製)の0.03重量%の添加により赤く
染色して、模擬ピッチ溶液を調製した。
(3)ピッチ分散試験
上記(1)及び(2)のようにそれぞれ調製したピッチコントロール剤と模擬ピッチ溶液とを用いてピッチ分散試験を実施した。試験は下記の手順で行なった。
300mlビーカーに水道水250mlを採取しピッチコントロール剤を50μl添加した後、マグネティックスターラーを用いて3分間攪拌した。模擬ピッチ溶液を300μl添加し1分間攪拌した(スターラーの回転数:400rpm)。攪拌を止めてから5分後にビーカー上部から模擬ピッチを観察・撮影し、画像解析によって模擬ピッチの個数・大きさを計測した。画像解析には画像解析ソフトウェア「AP-NLT」(精密ウェーブ社製)を使用した。模擬ピッチの個数は0.033μm以上のものを計測対象とした。
ピッチ分散試験の結果を下記表2及び
図1に示す。
【表2】
【0044】
表2に示すように、アルキルエーテル型である比較例5及び6よりもアルキルアミン型である比較例2、3及び4の方が模擬ピッチの個数を少なく、大きさ(最大径)を小さくできた。
これに対し、アルキルアミンのPO-EO付加物である実施例1及び2のピッチコントロール剤によれば、模擬ピッチ個数の減少と大きさ(最大径)の縮小とがさらに顕著にみられ、より優れたピッチの分散性能を示した。この優れたピッチの分散性の向上は、アルキルアミンのEO-PO付加物(アミンに直接EOが付加し、EOを介してPOが付加した化合物)である比較例1よりも顕著であった。